(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】通過検出装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/017 20060101AFI20230911BHJP
G01S 7/41 20060101ALI20230911BHJP
G01S 13/91 20060101ALI20230911BHJP
G01P 3/68 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
G08G1/017
G01S7/41
G01S13/91
G01P3/68 A
(21)【出願番号】P 2022045288
(22)【出願日】2022-03-22
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000213286
【氏名又は名称】シーキューブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】神谷 幸宏
【審査官】秋山 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-161893(JP,A)
【文献】特開平06-194443(JP,A)
【文献】特開平05-052950(JP,A)
【文献】特開平11-272988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/017
G01S 7/41
G01S 13/91
G01P 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横切るように通過する対象物に対してその側方から送信波を照射し、前記対象物で反射された反射波を受信してドップラー周波数に比例した検出信号を得るドップラーセンサと、前記検出信号を移動平均フィルタ処理して当該移動平均フィルタ処理後の前記検出信号に対し
、複数個の
サンプル信号値を要素とするベクトルで表現されたテンプレートによるテンプレートマッチング処理を行う検出手段を備え、前記テンプレートマッチング処理は、
前記テンプレートの信号列と、当該信号列と同数の前記検出信号の信号列を要素とするベクトルとの内積をマッチング出力として、当該マッチング出力が所定の大きさ以上の時に前記対象物が通過したことを検出するものである通過検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の前記通過検出装置を前記対象物の通行路に沿って所定距離離して一対設け、前記各通過検出装置における前記対象物の通過検出の時間差と前記所定距離より、前記対象物の速度を検出する速度検出手段を設けた速度検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の前記速度検出装置によって検出された速度に応じて前記テンプレートの時間軸を補正する補正手段をさらに設けた請求項1に記載の通過検出装置。
【請求項4】
同一の前記対象物の速度に応じて補正した前記テンプレートを複数用意して前記テンプレートマッチング処理を行う
請求項1に記載の通過検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通過検出装置に関し、特に通過する車両や人等の対象物を検出する通過検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には車両の走行方向へ所定間隔を隔てて一対の光電スイッチを配置し、車両通過時に上記一対の光電スイッチを遮る時間を測定して走行車両の車速と車長を判定し、これに基づいて車種を判定する走行車両検知装置が示されている。
【0003】
また特許文献2には、車両の走行路近傍にマイクロホンを設けて、走行音を周波数分析することによって車種等を判定する交通情報測定装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-280934
【文献】特開平7-182594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の装置では、光電スイッチの場合は一対設けることが必須である上に煙や雨等の影響を受けやすく、マイクロホンによる場合も背景ノイズの影響を受けやすい等、環境条件によって判定精度が大きく左右されるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、環境条件の影響を受けることが少なく、簡単な演算で、通過する対象物を確実に検出することができる通過検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明の通過検出装置(D)では、横切るように通過する対象物に対してその側方から送信波を照射し、前記対象物で反射された反射波を受信してドップラー周波数に比例した検出信号(1a)を得るドップラーセンサ(1)と、前記検出信号(1a)を移動平均フィルタ処理して当該移動平均フィルタ処理後の前記検出信号(1a)に対し、複数個のサンプル信号値を要素とするベクトルで表現されたテンプレート(u)によるテンプレートマッチング処理を行う検出手段(2)を備え、前記テンプレートマッチング処理は、前記テンプレート(u)の信号列と、当該信号列と同数の前記検出信号(1a)の信号列を要素とするベクトルとの内積をマッチング出力(Q[n])として、当該マッチング出力(Q[n])が所定の大きさ以上の時に前記対象物が通過したことを検出するものである。
【0008】
本第1発明においては、通常は対象物に正対させてその移動速度を測定するドップラーセンサを、通過する対象物に対してその側方から送信波を照射してドップラー周波数に比例した検出信号を得、この検出信号を移動平均フィルタ処理することで、煙や雨、背景ノイズ等の影響を受けることが少なく、簡単な演算で、かつ1台の通過検出装置によって、通過する対象物を確実に検出することができる。そして、検出信号に対してテンプレートマッチング処理を行うことによって対象物の通過に加えて対象物がトラック、自動車、人等のいずれかであるかの識別も可能である。
【0011】
本第2発明の速度検出装置では、前記通過検出装置(D)を前記対象物の通行路に沿って所定距離離して一対設け、前記各通過検出装置(D)における前記対象物の通過検出の時間差と前記所定距離より、前記対象物の速度を検出する速度検出手段を設ける。
【0012】
本第2発明においては、通過する対象物の速度を検出することが可能となる。
【0013】
本第3発明の通過検出装置では、前記速度検出装置によって検出された速度に応じて前記テンプレート(u)の時間軸を補正する補正手段(2)をさらに設ける。
【0014】
本第3発明においては、通過する対象物の速度が変化してもその通過の検出と識別をより確実に行うことができる。
【0015】
本第4発明の通過検出装置では、同一の前記対象物の速度に応じて補正した前記テンプレート(u)を複数用意して前記テンプレートマッチング処理を行う。
【0016】
本第4発明においては、速度検出装置を使用することなく、ドップラーセンサの検出信号を複数の各テンプレートでテンプレートマッチング処理することで対象物の通過速度を推定することが可能である。
【0017】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の通過検出装置によれば、環境条件の影響を受けることが少なく、簡単な演算で、通過する対象物を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態における、通過検出装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】マイクロコンピュータの構成を示す図である。
【
図4】移動平均フィルタ処理を概念的に示す図である。
【
図5】移動平均フィルタ処理されたトラック、乗用車通過時の検出信号の波形図である。
【
図6】移動平均フィルタ処理された人通過時の検出信号の波形図である。
【
図7】本発明の第2実施形態における、トラック、乗用車通過時の検出信号の波形図である。
【
図8】人、トラック、乗用車通過時の正規化された検出信号の波形図である。
【
図9】人のテンプレートを使用した際の、人通過時のテンプレートマッチング出力の波形図である。
【
図10】人のテンプレートを使用した際の、トラック、乗用車通過時のテンプレートマッチング出力の波形図である。
【
図11】本発明の第3実施形態における、速度測定のための通過検出装置の配置と検出信号の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0021】
(第1実施形態)
通過検出装置の構成を
図1に示す。本実施形態においては、通過検出装置Dは路上等に置かれる、拡径した基部B1を有する柱状の、移送可能なボラードB内に収容されている。ボラードB内の最上位置には市販のドップラーセンサ1が設けられて、その送受信部11が、ボラードBの外周に帯状に形成された電波透過可能な窓部B2に位置している。
【0022】
ドップラーセンサ1はボラードB内でその下方に設けられた、検出手段を構成するマイクロコンピュータ(マイコン)2に接続されており、マイコン2には下方に設けられたバッテリー等の電源3から給電されている。ドップラーセンサ1にはマイコン2を介して給電されている。
図2に示すように、マイコン2は増幅回路21、A/D変換回路22、プロセッサ23、メモリ24、通信モジュール25を備えており、プロセッサ23はメモリ24を利用して後述する処理を行うとともに、処理結果を適宜、通信モジュール25を介して中央処理装置等へ発信する。
【0023】
ドップラーセンサ1に内蔵される送信アンテナから出力されたマイクロ波の送信波は、対象物たる人や車両が通過する路面に略平行に、側方から対象物に入射し、対象物からの反射波はドップラーセンサ1内の受信アンテナで受信される。そして公知のヘテロダイン回路で検波されて、対象物の移動速度に応じた周波数(ドップラー周波数)に比例した検出信号1a(
図2)が得られる。検出信号1aはマイコン2の増幅回路21で増幅され、A/D変換回路22でデジタル信号に変換されてプロセッサ23に入力し、プロセッサ23によって以下に説明する処理が行われる。
【0024】
図3には、ドップラーセンサ1の前方を、対象物としてのトラックと続いて乗用車が横切るように通過した場合に得られた検出信号1aの一例を示す。図中1a1がトラック通過時、1a2 が乗用車通過時のものである。このような検出信号1aに対してプロセッサ23で移動平均フィルタ処理がなされる。
【0025】
図4は移動平均フィルタ処理を概念的に示すもので、図中の黒丸はサンプルされた検出信号1aのデジタル信号列を示す。デジタル信号列は
図4の(1)~(4)で示すように、本実施形態では5つのレジスタ231に順次送られて、前後5つのデジタル信号が加算器232で加算され平均化されて出力される。移動平均フィルタ処理された上記検出信号1aを
図5に示す。そこで、
図5に示すように適当な閾値Th1を設定すれば、検出信号1aが閾値Th1を越えた時に車両の通過を検出することができる。
【0026】
なお、車両の通過に限られず、ドップラーセンサ1の前を、間隔をおいて対象物としての人が横切った場合にも
図6に示すような移動平均フィルタ処理後の検出信号1a3が得られるから、これに対して適当な閾値Th2を設定すれば、車両に加えて人の通過を検出することも可能である。
【0027】
以上のように、本実施形態の通過検出装置は、ボラードB内に設けられて路上等に簡易に設置され、対象物の通過を、環境条件の影響を受けることなく、簡単な演算で、確実に検出して、交通状況を手軽に測定することができる。
【0028】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態で説明した通過検出装置Dに、通過する対象物や人を識別する機能を付与した構成について説明する。
【0029】
図6は既に説明したように、人が間隔をおいてドップラーセンサ1の前方を横切った場合のその検出信号1a3の一例を示すものであり、さらに
図7にはトラックや乗用車が間隔をおいてドップラーセンサ1の前方を横切った場合のドップラーセンサ1の検出信号1a1,1a2の一例を示す。人の場合は検出信号1a3が相対的に長時間現れるのに対してトラック等の場合は検出信号1a1,1a2は極めて短時間であり、また、人では反射波が弱いので検出信号1a3の強度が低く、一方、トラック等は金属部で送信波が良好に反射されるために検出信号1a1,1a2の強度は大きい。
【0030】
そこで、
図8に示すように、上記検出信号1a1,1a2, 1a3の時間軸を合わせ、信号強度を正規化する。正規化された、人、トラック、乗用車に対するドップラーセンサ1の検出信号1a1,1a2, 1a3は形状が相違しているから、次にテンプレートマッチングによって、検出信号1aが歩行者、トラック、乗用車のいずれのものかを識別する。
【0031】
テンプレートマッチングは以下のように行う。例えば
図8に示す人の検出信号1a3の信号波形は900個のサンプル信号値で構成されている。そこで、テンプレートuを、下式(1)で示すような900個のサンプル信号値u1~u900を要素とするベクトルで表現する。なおテンプレートuは一個の信号波形から作成しても良いし、複数個の信号波形の平均から作成しても良い。
【0032】
【0033】
このようなテンプレートuを使用すると、 n番目のマッチング出力Q[n]は下式(2)で示すベクトルの内積で得られる。式中のs[n]は検出信号1aの、n番目から(n+899)番目までの信号列を要素とするベクトルである。そして、このようなマッチング出力Q[n]は、テンプレートuの信号列に最も近い信号列が検出信号1aに現れると最大になる。
【0034】
【0035】
人のテンプレートを使用してテンプレートマッチングを行った場合の、人通過時の検出信号1a3に対するマッチング出力Q[n]を
図9に示し、トラック・乗用車通過時の検出信号1a1,1a2に対するマッチング出力Q[n]を
図10に示す。
図9、
図10から明らかなように、人が通過する毎に検出信号1a3に対するマッチング出力Q[n]は大きくなるが、トラック・乗用車が通過しても検出信号1a1,1a2に対するマッチング出力Q[n]は小さいままである。そこで、
図9、
図10に示すようにマッチング出力Q[n]に対して適当な閾値Th3を設定し、これを超えた場合に人が通過したものと識別する。トラックや乗用車のテンプレートについても以上説明したのと同様に行う。
【0036】
このように本実施形態の通過検出装置Dによれば、ボラードB内に設けられて路上等に簡易に設置され、環境条件の影響を受けることなく、簡単な演算で、対象物の通過を確実に検出するとともに併せてその識別を行い、交通状況を手軽かつさらに詳細に測定することができる。
【0037】
(第3実施形態)
第1実施形態で示した通過検出装置Dを
図11(1)に示すように、通行路に沿って距離d離れて一対設置すれば、各通過検出装置Dで得られる検出信号1aの時間差Δt(
図11(2))より、v=d/Δtの演算で、通過する対象物の速度を検出することができる。このような速度検出装置は、各通過検出装置?の通信モジュール25を介して接続される中央処理装置内に、あるいはいずれか一方の通過検出装置?のマイコン2内に構成することができる。この場合、第2実施形態で示した通過検出装置Dを通行路に沿って一対設置すれば、識別された対象物毎にその速度を検出することが可能である。
【0038】
(第4実施形態)
第3実施形態におけるテンプレートの波形(サンプル信号値)は車両や人の速度に応じて時間軸がある程度変化する。そこで、これを補正してさらに正確な識別を行う場合には、第3実施形態で説明したように通過検出装置Dを一対設けて車両や人の通過速度を検出し、これに基づいてテンプレートの時間軸を補正すると良い。
【0039】
(第5実施形態)
第3実施形態で説明したように、テンプレートの波形(サンプル信号値)は車両や人の速度に応じて時間軸が変化するが、各速度に応じた車両や人のテンプレートを予め用意しておいてテンプレートマッチングを行えば、通過検出装置Dを一台設けるだけで、車両や人の識別に加えてその速度を推定することが可能である。
【0040】
(その他の実施形態)
第1実施形態では通過検出装置をボラードに収容するようにしたが、コーン等に収容しても良く、収容形態は特に限定されない。ボラードやコーン等の移送設置可能なものに収容すれば任意の路面上等に設置することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…ドップラーセンサ、2…マイクロコンピュータ(検出手段、補正手段)、1a…検出信号、B…ボラード、D…通過検出装置。
【要約】
【課題】環境条件の影響を受けることが少なく、簡単な演算で、通過する対象物を確実に検出することができる通過検出装置を提供する。
【解決手段】横切るように通過する対象物に対してその側方から送信波を照射し、対象物で反射された反射波を受信してドップラー周波数に比例した検出信号1aを得るドップラーセンサ1と、検出信号1aを移動平均フィルタ処理して当該移動平均フィルタ処理後の検出信号1aが所定の大きさ以上の時に対象物が通過したことを検出するマイクロコンピュータ2とを備える。
【選択図】
図1