(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】抗T細胞ナノボディ及びその核酸コード配列、並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20230911BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230911BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230911BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230911BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230911BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230911BHJP
G01N 33/577 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P37/04
G01N33/53 D
G01N33/577 B
(21)【出願番号】P 2022046629
(22)【出願日】2022-03-23
【審査請求日】2022-03-23
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516144245
【氏名又は名称】中國醫藥大學附設醫院
【氏名又は名称原語表記】China Medical University Hospital
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 徳陽
(72)【発明者】
【氏名】邱 紹智
(72)【発明者】
【氏名】黄 士維
(72)【発明者】
【氏名】潘 志明
(72)【発明者】
【氏名】陳 美智
(72)【発明者】
【氏名】林 育全
(72)【発明者】
【氏名】陳 曄
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-515107(JP,A)
【文献】国際公開第2018/048318(WO,A2)
【文献】Molecular Immunology,2020年,118,174-181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD3ε(CD3 epsilon)に特異的に結合する抗T細胞ナノボディであって、
配列番号1、配列番号2、及び配列番号3に示されたアミノ酸配列
を含み、
前記配列番号1に示されたアミノ酸配列は、相補性決定領域1(complementarity determining region 1、CDR1)であり、前記配列番号2に示されたアミノ酸配列は、CDR2であり、前記配列番号3に示されたアミノ酸配列は、CDR3であることを特徴とする、
抗T細胞ナノボディ。
【請求項2】
請求項1に記載の抗T細胞ナノボディのアミノ酸配列をコードすることを特徴とする、
単離された核酸。
【請求項3】
請求項1に記載の抗T細胞ナノボディ、及び医薬上許容可能な担体を含むことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項4】
がんの治療、免疫調節及び免疫細胞の活性化のための医薬品を製造するための請求項1に記載の抗T細胞ナノボディの使用。
【請求項5】
サンプルに請求項1に記載の抗T細胞ナノボディを
添加することを含むCD3εの発現レベルを検出するための方法であって、
前記サンプルは、血液、尿液、痰液、唾液、又は体液であることを特徴とする、
CD3εの発現レベルを検出するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗T細胞ナノボディ及びその核酸コード配列、並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、悪性腫瘍とも呼ばれ、細胞の分裂・増殖の制御機能不全による疾患であり、細胞が異常に増殖し、また、異常増殖した細胞が体の他の部分に侵入可能である。世界中でがん患者がどんどん増加しており、台湾でも死因トップ10の1つであり、かつ、長年に死因トップ10の1位を占めている。
【0003】
従来の腫瘍治療方法は、外科手術、放射線療法、化学療法及び標的療法等が挙げられる。腫瘍免疫治療は、上記の治療法以外の腫瘍を治療する方法であり、患者自身の免疫系を活性化させ、腫瘍細胞又は腫瘍抗原物質を利用して生体の特異的細胞性免疫及び体液性免疫反応を誘導し、生体の抗がん能力を高め、腫瘍の成長、拡散、再発を抑制することで、腫瘍の除去又は制御という目的を達成することができる。しかしながら、現在の腫瘍治療方法は、効果が低く、副作用が強いという問題があり、他の免疫関連疾患を引き起こすことさえ可能性がある。
【0004】
CD3ε(CD3 epsilon)は、T細胞上に発見された膜貫通型タンパク質であり、腫瘍及び免疫機能の調節との関連性があるため、腫瘍の特定及び免疫機能の調節のための標的分子として用いられ、抗がん剤又は免疫調節剤として利用する可能性が検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の問題を解決するために、当業者は、がんの治療、免疫調節、及び免疫細胞の活性化をより効果的にする新規な医薬品を研究開発している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記を鑑み、本発明は、CD3ε(CD3 epsilon)に特異的に結合するT細胞ナノボディを提供することを目的とする。前記抗T細胞ナノボディは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及びそれらの任意の結合からなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む。
【0007】
本発明の1つの実施例において、前記アミノ酸配列は、前記抗T細胞ナノボディの重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)のアミノ酸配列である。
【0008】
本発明の1つの実施例において、前記抗T細胞ナノボディは、フラグメント結晶化可能領域(fragment crystallizable region、Fc region)をさらに含む。
【0009】
本発明の1つの実施例において、前記抗T細胞ナノボディを第2の抗体に結合することで、二重特異性T細胞エンゲージャー(bispecific T-cell engager、BiTE)、三重特異性T細胞エンゲージャー(triple specific T-cell engager、TriTE)、二重特異性キラー細胞エンゲージャー(bispecific killer cell engager、BiKE)、三重特異性キラー細胞エンゲージャー(triple specific killer cell engager、TriKE)、又は任意の二重特異性抗体を形成する。
【0010】
本発明の1つの実施例において、前記抗T細胞ナノボディは、CD3ε陽性細胞を活性化及び/又は凝集させる。
【0011】
また、本発明のもう1つの目的は、前記抗T細胞ナノボディのアミノ酸配列をコードする単離された核酸を提供することである。前記単離された核酸は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、及びそれらの任意の結合からなる群から選ばれるヌクレオチド配列を含む。
【0012】
また、本発明のもう1つの目的は、前記抗T細胞ナノボディ及び医薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供することである。
【0013】
また、本発明のもう1つの目的は、がんの治療、免疫調節及び免疫細胞の活性化のための医薬品を製造するための前記抗T細胞ナノボディの使用を提供することである。
【0014】
また、本発明のもう1つの目的は、サンプルに前記抗T細胞ナノボディを投与することを含む、CD3εの発現レベルを検出するための方法を提供することである。
【0015】
本発明の1つの実施例において、前記サンプルは、血液、尿液、痰液、唾液、体液、腫瘍、臓器、組織又は細胞である。
【発明の効果】
【0016】
上記をまとめると、本発明の抗T細胞ナノボディの効果は、以下の通りである。
【0017】
T細胞(即ち、末梢血単核細胞)の増殖及び活性化アッセイ(T cell(i.e. peripheral blood mononuclear cell、PBMC) proliferation and activation assay)により、抗CD3εナノボディがT細胞のクラスター増殖及び活性化を促進させ、PBMCにおけるCD3陽性T細胞の増殖を向上させ、γδT(GDT)細胞におけるCD3陽性T細胞の増殖を向上させることを証明し、
ウエスタンブロッティング(Western blotting)により、抗CD3εナノボディがヒトT細胞の細胞溶解物中のCD3εタンパク質を特定できることを証明し、
免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)及びフローサイトメトリー(flow cytometric analysis)により、抗CD3εナノボディがフローサイトメトリーによって細胞サンプルにおけるCD3εの発現を検出できることを証明し、
表面プラズモン共鳴結合分析(surface plasmon resonance binding assay、SPR binding assay)により、抗CD3εナノボディが0.5056nM以内のKD値でCD3ε/CD3δヘテロ二量体に有効に結合することを証明し、及び、
免疫細胞化学の分析により、抗CD3εナノボディが細胞サンプルにおけるCD3εの発現を検出するために用いられることを証明する。
【0018】
上記効果によれば、がんの治療、免疫調節及び免疫細胞の活性化の効果を達成することができる。特に、本発明の抗T細胞ナノボディは、免疫功能の調節及び免疫細胞の活性化という役割を果たす。かつ、従来の抗体は、遺伝子をベクターによって細胞にトランスフェクトしてから抗体の機能を発揮することができるため、収率が低くて効果が低いという欠点がある。本発明の抗T細胞ナノボディは、インビトロで大量に製造してそのまま投与すべき個体に投与して治療を行うことができる。なお、本発明によれば、CD3εの発現レベルを検出できる効果も達成することができる。
【0019】
以下、本発明の実施形態についてさらに説明する。下記の実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、改良や変更することができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲を基準とすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1A及び
図1Bは、抗CD3εナノボディのT細胞(即ち、末梢血単核細胞)の増殖及び活性化の分析(T cell(i.e. peripheral blood mononuclear cell、PBMC) proliferation and activation assay)の結果を示す。
【
図2】
図2A~
図2Cは、抗CD3εナノボディによるPBMCにおけるCD3陽性T細胞の増殖効果の評価結果を示す。CD3e nbは、抗CD3εナノボディを示し、Vehicleは、ベクターを示す。
【
図3】
図3A~
図3Dは、抗CD3εナノボディによるgamma delta T(GDT)細胞におけるCD3陽性T細胞の増殖効果の評価結果を示す。CD3e nbは、抗CD3εナノボディを示し、
*は、p<0.05を示し、
**は、p<0.01を示し、
***は、p<0.001を示す。
【
図4】抗CD3εナノボディのウエスタンブロッティング(Western blotting)の結果を示す。上段の数字は、T細胞のタンパク質溶解物(protein lysate)の量(μg)を示す。(a)において、抗CD3抗体である従来の抗体#ab135372を使用し、一次抗体の濃度は、10μg/ml(1:1000)であり、二次抗体は、抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase、HRP)(1:1000)である。(b)において、抗CD3εナノボディ(即ち、重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)ナノボディ)を使用し、一次抗体の濃度は、1μg/ml(1:1000)であり、二次抗体は、抗VHH-HRP(1:1000)である。
【
図5】抗CD3εナノボディの免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)の結果を示す。CD3e nbは、抗CD3εナノボディを示し、SP7は、従来の抗CD3抗体である。
【
図6】抗CD3εナノボディのフローサイトメトリーの分析結果を示す。(a)において、FSC-Aは、前方散乱領域(forward scatter area)を示し、SSC-Aは、側方散乱領域(side scatter area)を示し、fcsは、フローサイトメトリー標準(flow cytometry standard)を示す。(b)において、Alexa Fluor 488-Aは、488nmのレーザー光で励起される明るい緑色の蛍光染料である。
【
図7】CD3ε/CD3δヘテロ二量体に対する抗CD3εナノボディの表面プラズモン共鳴結合分析(SPR binding assay)の結果を示す。分析濃度は、62.5nM、31.25nM、15.625nM、7.8125nM、3.90625nM、1.953nMであり、結合時間(association time)は、120秒であり、解離時間(dissociation time)は、600秒である。Kd:5.056×10
-10=0.5056nMである。CD3ε/CD3δヘテロ二量体組換えタンパク質(ACROBiosystems、Cat:CDD-H52W1)が塗布されたNTAチップを使用する。
【
図8】抗CD3εナノボディの免疫細胞化学(immunocytochemistry)の分析結果を示す。抗CD3εナノボディの濃度は、1ng/mlであり、SP7は、従来の抗CD3抗体(1:500、MA1-90582、Invitrogen)であり、二次抗体は、抗VHH-フルオレセイン(fluorescein、FITC)(1:5000)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本明細書に記載の数値は、概算値である。全ての実験データは、その数値の±20%、好ましいは±10%、より好ましくは±5%を示す。
【0022】
本明細書において、「第2の抗体」という用語は、ナノボディに共役されることにより、二重特異性T細胞エンゲージャー(bispecific T-cell engager、BiTE)、三重特異性T細胞エンゲージャー(triple specific T-cell engager、TriTE)、二重特異性キラー細胞エンゲージャー(bispecific killer cell engager、BiKE)、三重特異性キラー細胞エンゲージャー(triple specific killer cell engager、TriKE)、又は任意の二重特異性抗体を形成できる抗体を意味する。
【0023】
好ましくは、前記第2の抗体は、プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1、PD-L1)、プログラム細胞死リガンド2(programmed cell death ligand 2、PD-L2)、T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3(T-cell immunoglobulin domain and mucin domain 3、Tim3)、表皮成長因子受容体(EPIDERMAL GROWTH FACTOR RECEPTOR、EGFR)、EGFRvIII、ヒト表皮成長因子受容体2(human epidermal growth factor receptor 2、Her2)、B細胞成熟抗原(B-cell maturation antigen、BCMA)、CD19、CD20、CD34、ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)、上皮細胞接着分子(epithelial cell adhesion molecule、EpCAM)、メソテリン(mesothelin)、ニューヨーク食道扁平上皮細胞がん-1(New York esophageal squamous cell carcinoma-1、NY-ESO-1)、糖タンパク質100(glycoprotein 100、gp100)、及びムチン1(Muc1)抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書において、「CD3e」及び「CD3ε」という用語は、相互交換可能に使用される。
【0025】
本明細書において、「CD3eナノボディ」、「CD3e nb」、「CD3e Nb」、「CD3e nanobody」、「抗CD3εナノボディ」及び「抗T細胞ナノボディ」という用語は、相互交換可能に使用される。
【0026】
本明細書において、「治療(treating又はtreatment)」という用語は、疾患(disease)又は障害(disorder)の1つ又は複数の臨床徴候(clinical sign)を緩和(alleviating)、減少(reducing)、改善(ameliorating)、軽減(relieving)、又は制御(controlling)すること、及び、治療中の病態(condition)又は症状(symptom)の重症度(severity)の進展(progression)を低下(lowering)、停止(stopping)又は逆転(reversing)させることを意味する。
【0027】
本発明に係る医薬品は、通常の知識に基づいて、非経口(parenterally)投与の剤形(dosage form)に製造されてもよい。前記非経口投与の剤形は、例えば、注射剤(injection)(例えば、滅菌水溶液(sterile aqueous solution)又は分散液(dispersion))、滅菌粉末(sterile powder)、錠剤(tablet)、トローチ剤(troche)、ロゼンジ剤(lozenge)、丸薬(pill)、カプセル(capsule)、分散性粉末(dispersible powder)又は顆粒(granule)、溶液、懸濁液(suspension)、乳剤(emulsion)、シロップ(syrup)、エリキシル剤(elixir)、スラリー剤(slurry)及び類似のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明に係る医薬品は、非経口経路(parenteral routes)で投与してもよい。前記非経口経路は、腹腔内注射(intraperitoneal injection)、皮下注射(subcutaneous injection)、表皮内注射(intraepidermal injection)、皮内注射(intradermal injection)、筋肉内注射(intramuscular injection)、静脈内注射(intravenous injection)及び病巣内注射(intralesional injection)からなる群から選ばれる。
【0029】
本発明に係る医薬品は、医薬上許容可能な担体を含んでもよい。前記医薬上許容可能な担体は、例えば、溶剤(solvent)、乳化剤(emulsifier)、懸濁化剤(suspending agent)、分解剤(decomposer)、結合剤(binding agent)、賦形剤(excipient)、安定剤(stabilizing agent)、キレート剤(chelating agent)、希釈剤(diluent)、ゲル化剤(gelling agent)、防腐剤(preservative)、滑剤(lubricant)、吸収遅延剤(absorption delaying agent)、リポソーム(liposome)及び類似のものからなる群から選ばれる1つ又は複数の試薬を含んでもよい。前記試薬の選用及び数量は、当業者の専門知識及び技術的範囲に属する。
【0030】
本発明に係る前記医薬上許容可能な担体は、溶剤を含んでもよい。前記溶剤は、水、生理食塩水(normal saline)、リン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)、糖含有溶液、アルコール含有水溶液(aqueous solution containing alcohol)、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0031】
本明細書において、「核酸」、「核酸配列」又は「核酸フラグメント」等の用語は、一本鎖又は二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチド配列又はリボヌクレオチド配列を意味し、かつ、既知の天然に存在するヌクレオチド(naturally occurring nucleotides)又は人工の化学的模倣物を含む。本明細書において、「核酸」という用語は、「遺伝子」、「cDNA」、「mRNA」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」と相互交換可能に使用される。
【実施例】
【0032】
実施例1.抗CD3εナノボディの製造
本実施例において、抗CD3ε(CD3 epsilon)ナノボディ(nanobody、NB)、及び重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)の製造プロセスは、以下の通りである。
【0033】
重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)の生成プロセスは、以下の通りである。VHH遺伝子は、発現ベクターpET22b(Amp耐性)又はpSB-init(CmR耐性)に構築され、プラスミドは、制限エンドヌクレアーゼ消化及び配列決定によって同定される。1μLの同定されたプラスミド(約50ng)をBL21(DE3)に添加し、37℃で一晩作用させる。
【0034】
耐性含有LB培地に単一コロニーを接種し、37℃、220r/minで一晩培養する。一晩培養したものを1:100の比例で新鮮な耐性含有LB培地(10L~20L)に接種し、37℃、220r/minで培養する。OD600が0.8に達すと、室温まで冷却する。最終濃度が0.1mMであるイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside、IPTG)を添加し、20℃、220r/minで一晩誘導する。
【0035】
遠心分離(20mM Tris pH8.0、150mM NaCl)によって細胞を破壊した後、細胞及び上清が得られる。フロースルー(flow-through)によって上清をNi-NTAビーズ(1mL)に結合させる。適切な濃度勾配を有するイミダゾール(imidazole)(10mM、20mM、50mM、100mM、250mM、及び500mM)を含有する緩衝液によって洗浄してNi-NTAビーズを溶出する。溶出部分をSDS-PAGEによって分析する。
【0036】
タンパク質の純度と収量(イオン交換クロマトグラフィー又はゲル濾過クロマトグラフィー)に基づいて後の精製方法を決める。要件を満たすタンパク質をゲル濾過クロマトグラフィーで単離精製し、緩衝液をPBS緩衝液に置換する。SDS-PAGEでタンパク質の成分を分析し、要件を満たす成分を合併濃縮し、0.22μmのフィルターで濾過して容器に詰める。その後、タンパク質を-20℃以下で保存する。
【0037】
ナノボディは、大腸菌(E.coli)から生成及び精製される。ナノボディを生成するための大腸菌の生成方法として、文献Microb Cell Fact. 2019 Mar 11、18(1):47を参照することができる。要するに、大腸菌株HB2151を利用する。アンピシリン(ampicillin)耐性をコードするプラスミドpET(Creative Biolab)は、細胞質タンパク質の生成に用いられる。pET-HLA-G又はPD-L1多重特異性ナノボディのプラスミドで新たに形質転換された大腸菌HB2151を50μg/mLのアンピシリンを含有する培地5mLに接種し、37℃で一晩培養する。
【0038】
その後、1mLの前記培養物を100mLの培地に接種し、37℃で成長させる。一晩培養した後、100mLの培養物ごとにEnPresso Booster錠剤2枚及び追加のグルコース放出酵素(0.6 U/L)を添加すると共に、1mMのIPTGを添加し、組換えナノボディのタンパク質を24時間誘導発現させる。そして、培養物を回収して氷上で5分間冷却した後に、6,000×g、4℃で15分間遠心分離する。上清を除去した後に、大容量Myc-tag結合樹脂を用いて、細胞ペレットを固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(immobilized metal affinity chromatography、IMAC)によって精製する。
【0039】
メーカー(Clontech Laboratories)の操作手順に従って、自然条件下でグラビティフロー式クロマトグラフィー(gravity-flow-based chromatography)を行う。200mgの細菌細胞ペレットごとに1mLのxTractor細胞溶解緩衝液(Clontech Laboratories)を添加し、EDTAを含有しないプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Diagnostics)、及び25Uのエンドヌクレアーゼ(Thermo Scientific Pierce)を追加することで、細胞溶解を有効に行うことができる。
【0040】
氷上で15分間作用させ、10,000×g、4℃で20分間遠心分離して細胞破片を除去した後、上清を1mLの樹脂を充填したグラビティフローカラムに添加し、室温で30分間作用させる。300mMのイミダゾールを含有する溶出緩衝液を添加することによってナノボディを溶出する前に、カラムを20及び40mMのイミダゾールで2回洗浄する。分子量カットオフが3.5~5kDaであるセルロースエステル膜(cellulose ester membrane)(Spectrum(R) Laboratories)を用いて、PBSに対して透析を行うことにより、イミダゾールを除去して緩衝液を置換する。
【0041】
CD3ε VHHは、HuSdL(R)ヒトシングルドメイン抗体ライブラリー(human single domain antibody library)(Creative Biolabs)から生成する。要するに、CD3ε抗原による結合、洗浄、溶出して4回パンニング(panning)を行う。その後、クローン株100個を選択し、ファージ酵素結合免疫吸着測定法(enzyme linked immunosorbent assay、ELISA)によって陽性モノクローナルファージを選択する。陽性クローン株をサンガー法(Sanger method)によって配列決定し、ナノボディの配列が得られる。
【0042】
DNAシーケンシングを行ったクローン株は、表1に示されている。
【0043】
【0044】
クローン株#2ファージミド(phagemid)をサンガー法(Sanger method)によって配列決定し、全てのDNA配列をコンピューターシミュレーションによって対応するコードアミノ酸に翻訳する。その後、クローン株#2のDNA及び対応するCDRアミノ酸がナノボディファージミドクローン株のアミノ酸配列と全て同じであるため、クローン株#2を選択する。抗CD3εナノボディのアミノ酸配列は、それぞれ配列番号1、配列番号2、及び配列番号3である。ヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号4、配列番号5、及び配列番号6である。
【0045】
そして、クローン株#2に対して、競合酵素結合免疫吸着アッセイ(competitive enzyme linked immunosorbent assay、competitive ELISA)を行う。その操作手順は、以下の通りである。大腸菌にてクローン株#2ファージミドを増幅させ、上清を収集する。CD3ε組換えタンパク質(0.2μg)をコーティングして洗浄した後、各ウェルに250μlのクローン株#2ファージ含有TB培地、模擬TB培地、及びPBS対照群を添加する。
【0046】
翌日、上清を除去し、PBSTで洗浄した後に、抗M13ファージ西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase、HRP)共役二次抗体と2時間作用させる。洗浄した後、TMB基質(HRPの活性を検出するため)(50μl)を添加し、ELISAリーダーにより、450nmチャネルを使用してシグナルを測定する。結果を表2に示す。
【0047】
【0048】
実施例2.抗CD3εナノボディによるT細胞の増殖及び活性化の分析結果
本実施例において、抗CD3εナノボディのT細胞(即ち、末梢血単核細胞)の増殖及び活性化の分析(T cell(i.e. peripheral blood mononuclear cell、PBMC) proliferation and activation assay)の操作手順は、以下の通りである。1×106のPBMC細胞を12ウェルプレートに接種する。抗CD3εナノボディ(1μg/ml)又は臨床用CD3εモノクローナル抗体OKT3(10mg/ml、Invitrogen、Cat:MA1-10175)は、存在しても存在しなくてもよい。
【0049】
そして、50IU/mlのIL-2及び2μg/mlのIL-15(Sino Biological、Cat No:10360-H07E)を添加する。5日又は7日後、総細胞数を記録し、FITC共役CD3モノクローナル抗体(OKT3、11-0037-42、eBioscience)によって染色する。そして、フローサイトメトリーによって分析する。写真は、40倍の顕微鏡で撮影した画像である。CD3陽性細胞の数は、CD3細胞パーセンテージ(%)×総細胞数である。
【0050】
図1A及び
図1Bには、抗CD3εナノボディのT細胞(即ち、末梢血単核細胞)の増殖及び活性化の分析結果を示している。
図1A及び
図1Bから分かるように、本発明の抗CD3εナノボディは、T細胞の増殖及び活性化を促進させることができる。
【0051】
実施例3.抗CD3εナノボディによるPBMCにおけるCD3陽性T細胞の増殖の向上効果の評価
本実施例において、抗CD3εナノボディによるPBMCにおけるCD3陽性T細胞の増殖の向上効果の評価の操作手順は、以下の通りである。1×106のPBMC細胞を12ウェルプレートに接種する。抗CD3εナノボディ(10、100、1000、5000ng/ml)は、存在しても存在しなくてもよい。
【0052】
そして、50IU/mlのIL-2(Gibco、PHC0021)及び2μg/mlのIL-15(Sino Biological、Cat No:10360-H07E)を添加する。3日又は7日後、総細胞数を記録し、FITC共役CD3モノクローナル抗体(OKT3、11-0037-42、eBioscience)によって染色する。そして、
フローサイトメトリーによって分析する。写真は、40倍の顕微鏡で撮影した画像である。CD3陽性細胞の数は、CD3細胞パーセンテージ(%)×総細胞数である。
【0053】
図2A~
図2Cには、抗CD3εナノボディによるPBMCにおけるCD3陽性T細胞の増殖の向上効果の評価結果を示している。CD3e nbは、抗CD3εナノボディを示し、Vehicleは、ベクターを示す。
図2A~
図2Cから分かるように、抗CD3εナノボディは、クラスター形成(cluster formation)の方式でPBMCsにおけるCD3陽性T細胞の増殖を顕著に刺激する。
【0054】
実施例4.抗CD3εナノボディによるγδT(GDT)細胞におけるCD3陽性T細胞の増殖の向上効果の評価
本実施例において、抗CD3εナノボディによるγδT(GDT)細胞におけるCD3陽性T細胞の増殖の向上効果の評価の操作手順は、以下の通りである。1×106の一次γδT(GDT)細胞を12ウェルプレートに接種する。CD3εナノボディ(10、100、1000、5000ng/ml)は、存在しても存在しなくてもよい。
【0055】
そして、50IU/mlのIL-2(Gibco、PHC0021)及び2μg/mlのIL-15(Sino Biological、Cat No:10360-H07E)を添加する。3日又は7日後、総細胞数を記録し、FITC共役CD3モノクローナル抗体(OKT3、11-0037-42、eBioscience)によって染色する。そして、フローサイトメトリーによって分析する。写真は、40倍の顕微鏡で撮影した画像である。CD3陽性GDT細胞の数は、CD3 GDT細胞パーセンテージ(%)×総細胞数である。
【0056】
図3A~
図3Dには、抗CD3εナノボディによるgamma delta T(GDT)細胞におけるCD3陽性T細胞の増殖の向上効果の評価結果を示している。CD3e nbは、抗CD3εナノボディを示す。本実施例の結果から分かるように、抗CD3εナノボディは、用量依存的にγδT細胞の増殖を有効に向上させることができる。
【0057】
実施例5.抗CD3εナノボディのウエスタンブロッティング(Western blotting)の結果
本実施例において、抗CD3εナノボディのウエスタンブロッティング(Western blotting)の操作手順は、以下の通りである。プロテアーゼ阻害剤カクテルを含有するPRO-PREPタンパク質抽出溶液(iNtRON、台北、台湾)から細胞を取り、4℃で15分間激しく振とうした後、遠心分離をする。上清を回収し、Bio-Rad BCA試薬(Bio-Rad Hercules、CA、USA)を使用してタンパク質の濃度を測定する。
【0058】
30μgの各サンプルのライセートをSDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、そして、PVDF膜にエレクトロブロッティングする。TBSTブロッキング剤に5%のBSAを添加し、メンブレン及び一次抗体(TBSTに溶解された)を4℃下で一晩作用させる。
【0059】
そして、4回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase、HRP)共役ヤギ抗マウス又はウサギIgG(Upstate、Billerica、MA、USA)で2時間作用させる。TBSTで4回洗浄した後、転写物とSuperSignal West Pico ECL試薬(Pierce Biotechnology、Rockford、IL、USA)とを一緒に1分間作用させ、そして、Kodak-X-Omatフィルムへの曝露によって化学発光を検出する。
【0060】
図4には、抗CD3εナノボディのウエスタンブロッティングの結果を示している。上段の数字は、T細胞のタンパク質溶解物(protein lysate)の量(μg)を示す。
【0061】
(a)において、抗CD3抗体である従来の抗体#ab135372を使用し、一次抗体の濃度は、10μg/ml(1:1000)であり、二次抗体は、抗ウサギHRP(1:1000)である。
【0062】
(b)において、抗CD3εナノボディ(即ち、重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)ナノボディ)を使用し、一次抗体の濃度は、1μg/ml(1:1000)であり、二次抗体は、抗VHH-HRP(1:1000)である。本実施例の結果から分かるように、ウエスタンブロッティングにより、抗CD3εナノボディは、ヒトT細胞の細胞溶解物中のCD3εタンパク質を特定することができる。
【0063】
実施例6.抗CD3εナノボディの免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)の結果
本実施例において、抗CD3εナノボディの免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)の操作手順は、以下の通りである。
【0064】
ヒトPBMCサンプルを10%のホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋する。切片(厚さ=3μm)をヘマトキシリン及びエオジンによって染色する。免疫組織化学分野において、99℃のマイクロ波によって抗原賦活化(antigen retrieval)を行う。切片をH2O2で洗浄して15分間作用させることにより、内因性ペルオキシダーゼを遮断する。そして、5%のBSAに30分間浸漬し、切片及び一次抗体を4℃で一晩作用させる。
【0065】
そして、切片を希釈したビオチン共役二次抗体で、室温で2時間又は4℃で一晩作用させる。最後に、切片と重合物とを一緒に室温で10分間作用させ、ジアミノベンジジン(diaminobenzidine、DAB)(西洋ワサビペルオキシダーゼの最も感度が高く、最も使用される発色反応物)によって染色し、さらに、ヘマトキシリン及びエオジンによって染色し、中性ゴムで固定する。染色の定量化は、光学顕微鏡(Nikon、日本)によって40倍及び400倍の倍率でそれぞれ行う。
【0066】
図5には、抗CD3εナノボディの免疫組織化学的染色の結果を示している。CD3e nbは、抗CD3εナノボディを示し、SP7は、従来の抗CD3抗体である。本実施例の結果から分かるように、抗CD3εナノボディは、免疫組織化学的染色によってCD3εの発現を検出するために用いられる。
【0067】
実施例7.抗CD3εナノボディのフローサイトメトリー(flow cytometric analysis)の結果
本実施例において、抗CD3εナノボディのフローサイトメトリー(flow cytometric analysis)の操作手順は、以下の通りである。ヒトPBMCを氷上でFITC共役CD3εナノボディ(1μg/ml)及びOKT3抗体(抗CD3モノクローナル抗体)(10μg/ml)によって45分間染色する。洗浄した後、FL1チャネルを使用してフローサイトメトリーによって細胞を分析する。
【0068】
図6には、抗CD3εナノボディのフローサイトメトリーの分析結果を示している。(a)において、FSC-Aは、前方散乱領域(forward scatter area)を示し、SSC-Aは、側方散乱領域(side scatter area)を示し、fcsは、フローサイトメトリー標準(flow cytometry standard)を示す。(b)において、Alexa Fluor 488-Aは、488nmのレーザー光で励起される明るい緑色の蛍光染料である。
図6から分かるように、抗CD3εナノボディは、フローサイトメトリーによって細胞サンプルにおけるCD3εの発現を検出することができる。
【0069】
実施例8.CD3ε/CD3δヘテロ二量体に対する抗CD3εナノボディの表面プラズモン共鳴結合分析(surface plasmon resonance binding assay、SPRbinding assay)の結果
本実施例において、CD3ε/CD3δヘテロ二量体に対する抗CD3εナノボディ表面プラズモン共鳴結合分析(surface plasmon resonance binding assay、SPRbinding assay)の操作手順は、以下の通りである。
【0070】
BIAcore T200(Biacore-GE Healthcare、Piscataway、NJ)により、CM5又はNTAチップをSPR分析する。つまり、10mMの緩衝溶液(pHが4.0、5.5又は6.0)中に、20μg/mLの濃度範囲でタンパク質(CD3ε/CD3δ組換えタンパク質)サンプルを希釈することにより、最大の表面が得られ、チップに固定させるために保留される。
【0071】
表面製造プロセスに従ってリガンド(CD3ε又はCD3ε多重特異性ナノボディ、25、12.5、6.25、3.125、1.5625及び0.78125nM)選択してチップに塗布する。そして、再生条件検討実験(regeneration scouting)及び表面性能試験(surface performance test)を行った後、再生方法を選択して実験を実行する。
【0072】
そして、結合分析(BINDINGANALYSIS)及び直接結合(DIRECT BINDING)を選択してタンパク質の結合を解析する。動力学的分析(KINETIC ANALYSIS)及び物質移動(MASS TRANSFER)を選択し、実験と結合した動力学的分析を行う。その後、データの分析及び動力学的定数の確定を行う。
【0073】
図7には、CD3ε/CD3δヘテロ二量体に対する抗CD3εナノボディの表面プラズモン共鳴結合分析(SPR binding assay)の結果を示している。分析濃度は、62.5nM、31.25nM、15.625nM、7.8125nM、3.90625nM、1.953nMであり、結合時間(association time)は、120秒であり、解離時間(dissociation time)は、600秒であり、Kdは、5.056×10
-10=0.5056nMである。CD3ε/CD3δヘテロ二量体重組タンパク質(ACROBiosystems、Cat:CDD-H52W1)が塗布されたNTAチップを使用する。
図7から分かるように、抗CD3εナノボディは、0.5056以内のK
D値でCD3ε/CD3δヘテロ二量体に有効に結合することができる。
【0074】
実施例9.抗CD3εナノボディの免疫細胞化学(immunocytochemistry)の分析結果
本実施例において、抗CD3εナノボディの免疫細胞化学(immunocytochemistry)の分析の操作手順は、以下の通りである。
【0075】
細胞(1×105)を6ウェルプレートのスライドガラスに接種し、一晩培養する。特定の処理を行った後、細胞を1%のパラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)に固定し、PBSで洗浄し、0.5%のBSAを含有するPBSに0.1% Triton X-100を使用して30分間透過化させ、2%のBSAでブロッキングし、特異的抗体(2%のBSA/0.05%のTween-20を含有するPBS(PBST)に混合された)と作用させる。洗浄した後、細胞とフルオレセイン共役二次抗体とを一緒に作用させる。PBSTで洗浄し、退色剤及び4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4’,6-diamidino-2-phenylindole、DAPI)を含有する水溶性の封入剤で封入する。Leica TCS SP8 X共焦点顕微鏡(Leica)によって画像を分析する。
【0076】
図8には、CD3εナノボディの免疫細胞化学(immunocytochemistry)の分析結果を示している。抗CD3εナノボディの濃度は、1ng/mlであり、SP7は、従来の抗CD3抗体(1:500、MA1-90582、Invitrogen)であり、二次抗体は、抗VHH-フルオレセイン(fluorescein、FITC)(1:5000)である。本実施例の結果から分かるように、免疫組織化学の分析により、抗CD3εナノボディは、細胞サンプルにおけるCD3εの発現を検出するために用いられる。
【0077】
上記をまとめると、本発明の抗T細胞ナノボディ(即ち、抗CD3ε抗体)の効果は、以下の通りである。
【0078】
T細胞(即ち、末梢血単核細胞)の増殖及び活性化アッセイ(T cell(i.e. peripheral blood mononuclear cell、PBMC) proliferation and activation assay)により、抗CD3εナノボディがT細胞のクラスター増殖及び活性化を促進させ、PBMCにおけるCD3陽性T細胞の増殖を向上させ、γδT(GDT)細胞におけるCD3陽性T細胞の増殖を向上させることを証明し、
ウエスタンブロッティング(Western blotting)により、抗CD3εナノボディがヒトT細胞の細胞溶解物中のCD3εタンパク質を特定できることを証明し、
免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)及びフローサイトメトリー(flow cytometric analysis)により、抗CD3εナノボディがフローサイトメトリーによって細胞サンプルにおけるCD3εの発現を検出できることを証明し、
表面プラズモン共鳴結合分析(surface plasmon resonance binding assay、SPR binding assay)により、抗CD3εナノボディが0.5056nM以内のKD値でCD3ε/CD3δヘテロ二量体に有効に結合することを証明し、及び、
免疫細胞化学の分析により、抗CD3εナノボディが細胞サンプルにおけるCD3εの発現を検出するために用いられることを証明する。
【0079】
上記効果によれば、がんの治療、免疫調節及び免疫細胞の活性化も効果を達成することができる。特に、本発明の抗T細胞ナノボディは、免疫功能の調節及び免疫細胞の活性化という役割を果たす。かつ、従来の抗体は、遺伝子をベクターによって細胞にトランスフェクトしてから抗体の機能を発揮することができるため、収率が低くて効果が低いという欠点がある。本発明の抗T細胞ナノボディは、インビトロで大量に製造してそのまま投与すべき個体に投与して治療を行うことができる。なお、本発明によれば、CD3εの発現レベルを検出できる効果も達成することができる。
【0080】
上記の内容は、例示的なものであり、本発明を限定するものではない。本発明の精神及び範囲から逸脱しない改良や変更は、いずれも添付の特許請求の範囲に含まれる。
【配列表】