(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】ベタメタゾン吉草酸エステル含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/573 20060101AFI20230911BHJP
A61K 31/4166 20060101ALI20230911BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20230911BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20230911BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20230911BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230911BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230911BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230911BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230911BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230911BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
A61K31/573
A61K31/4166
A61K31/19
A61K31/05
A61K31/167
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P29/00
A61P17/00
A61P31/00
A61P23/02
(21)【出願番号】P 2022508438
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011175
(87)【国際公開番号】W WO2021187592
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020047638
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316008352
【氏名又は名称】シオノギヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村里 博志
(72)【発明者】
【氏名】友田 宜孝
(72)【発明者】
【氏名】純浦 文枝
(72)【発明者】
【氏名】岩田 洋一
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-343890(JP,A)
【文献】特開2005-343891(JP,A)
【文献】特開2006-036675(JP,A)
【文献】特開平08-099822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-45/08
A61P 43/00
A61P 29/00
A61P 17/00
A61P 31/00
A61P 23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、
(B)アラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにイソプロピルメチルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種と
を含有する、医薬組成物。
【請求項2】
(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、
(B)アラントインと、(C)リドカインまたはその塩と
を含有する
、医薬組成物。
【請求項3】
さらに(D)外用基剤を含有する、請求項1または2に記載する医薬組成物。
【請求項4】
さらに(E)非ステロイド系抗炎症剤、局所麻酔剤、鎮痒剤、血行促進剤、殺菌剤、皮膚保護剤、抗生物質、保湿剤、及び/又は清涼剤を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載する医薬組成物。
【請求項5】
皮膚外用剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載する医薬組成物。
【請求項6】
(B)アラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにイソプロピルメチルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有する医薬組成物、または
(C)リドカインまたはその塩を含有する医薬組成物
の安定性改善のための製造方法であって、
前記(B)成分を含有する医薬組成物中に、(A)ベタメタゾン吉草酸エステルを共存させる工程を有するか、または
前記(C)成分を含有する医薬組成物中に、(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと
(B)アラントインとを共存させる工程を有することを特徴とする、
前記製造方法。
【請求項7】
前記安定性改善が前記医薬組成物の色調変化の抑制である、請求項6に記載する製造方法。
【請求項8】
(B)アラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにイソプロピルメチルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有する医薬組成物、または
(C)リドカインまたはその塩を含有する医薬組成物
の安定性を改善する方法であって、
前記(B)成分を含有する医薬組成物中に、(A)ベタメタゾン吉草酸エステルを共存させるか、または
前記(C)成分を含有する医薬組成物中に、(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと
(B)アラントインとを共存させることを特徴とする、
前記安定性改善方法。
【請求項9】
前記安定性改善方法が前記医薬組成物の色調変化を抑制する方法である、請求項8に記載する安定性改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベタメタゾン吉草酸エステル含有医薬組成物に関する。より詳細には、抗炎症剤としてベタメタゾン吉草酸エステルを含有する医薬製剤に関する。また、本発明は、抗炎症剤であるベタメタゾン吉草酸エステルの新たな用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ステロイド骨格を有する化合物は、微量で高い生理活性を示すことが知られている。なかでも副腎皮質ホルモンは、炎症を伴う皮膚の痒み、赤み、及び腫れなどの症状の改善に有効であり、湿疹(アトピー性皮膚炎による湿疹を含む。以下、同じ。)、痒疹(汗疹、蕁麻疹、かぶれ、及び虫さされ等による痒疹を含む。以下、同じ。)、皮膚炎、および乾癬等の治療に広く用いられている。通常、副腎皮質ホルモンを含む外用製剤には、その他の有効成分として、非ステロイド系抗炎症剤、局所麻酔剤、血行促進剤、殺菌剤、皮膚保護剤、抗生物質、及び清涼剤などが、適宜に組み合わせて配合されるが、配合成分の組み合わせによっては、製剤的安定性を確保することが難しくなったり、皮膚刺激が惹起されたり、また使用感が悪いものになる等の製剤上の問題が発生する。
【0003】
このため、製剤の設計には、薬理作用(効能・効果)に加えて、製剤の物理的安定性、皮膚等の生体への安全性、及び使用感等を総合的に考慮する必要がある。
【0004】
前述する副腎皮質ホルモンのうち、17位または21位にヒドロキシル基を有するステロイドがアセチル化またはバレリル化してなるエステル化ステロイドは、併用する化合物によって、製剤中で分解されやすくなることが指摘されている(特許文献1及び2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-343890号公報
【文献】特開2005-343891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好な製剤安定性を有するベタメタゾン吉草酸エステル含有医薬組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、製剤安定性の向上に関して、ベタメタゾン吉草酸エステルの新たな用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、外用製剤の設計にあたり、鋭意検討を重ねていたところ、一般に有効成分として使用されるアラントイン、グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、及びリドカインが、長期保存することで色調が大きく変化し、着色が生じることを知見した。一方で、分解されやすいと指摘されている副腎皮質ホルモン(エステル化ステロイド)のうち、ベタメタゾン吉草酸エステルは、固形状態で長期保存しても色調変化が低いことを確認し、前記のアラントイン、グリチルレチン酸、及びイソプロピルメチルフェノールの少なくとも一つを、ベタメタゾン吉草酸エステルと組み合わせることで、アラントイン等の色調変化が有意に抑制されることを見出した。またリドカインは、ベタメタゾン吉草酸エステルとの併用では、色調変化は抑制されないものの、ベタメタゾン吉草酸エステルに加えて、前記のアラントイン等と併用することで、色調変化が有意に抑制されることを見出した。
【0008】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらなる改良を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
【0009】
(I)医薬組成物
(I-1)(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと、
(B)アラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにイソプロピルメチルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種と
を含有する、医薬組成物。
(I-2)さらに(C)リドカインまたはその塩を含有する、(I-1)に記載する医薬組成物。
(I-3)さらに(D)外用基剤を含有する、(I-1)または(I-2)に記載する医薬組成物。
(I-4)皮膚外用剤である、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載する医薬組成物。
【0010】
(II)医薬組成物の安定性改善のための製造方法
(II-1)(B)アラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにイソプロピルメチルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有する医薬組成物、または(C)リドカインまたはその塩を含有する医薬組成物の安定性を改善するための製造方法であって、
前記(B)成分を含有する医薬組成物中に、(A)ベタメタゾン吉草酸エステルを共存させる工程を有するか、または
前記(C)成分を含有する医薬組成物中に、(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと前記(B)成分とを共存させる工程を有することを特徴とする、前記製造方法。
(II-2)前記安定性の改善が前記医薬組成物の色調変化を抑制することである、(II-1)に記載する製造方法。
【0011】
(III)医薬組成物の安定性改善方法
(III-1)(B)アラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにイソプロピルメチルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種を含有する医薬組成物、または(C)リドカインまたはその塩を含有する医薬組成物の安定性を改善する方法であって、前記(B)成分を含有する医薬組成物中に、(A)ベタメタゾン吉草酸エステルを共存させるか、または
前記(C)成分を含有する医薬組成物中に、(A)ベタメタゾン吉草酸エステルと前記(B)成分とを共存させることを特徴とする、
前記安定性改善方法。
(III-2)前記安定性改善方法が前記医薬組成物の色調変化を抑制する方法である、(III-1)に記載する安定性改善方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な製剤安定性を有するベタメタゾン吉草酸エステル含有医薬組成物を提供することができる。より詳細には、本発明によれば、経時的に生じる色調変化が有意に抑制されることを特徴とする耐変色性のベタメタゾン吉草酸エステル含有医薬組成物を提供することができる。
【0013】
また本発明によれば、医薬組成物におけるベタメタゾン吉草酸エステルの新たな用途を提供することができる。より詳細には、本発明によれば、経時的に生じるアラントイン、グリチルレチン酸若しくはその塩、イソプロピルメチルフェノール、又はリドカインの色調変化を、ベタメタゾン吉草酸エステルを併用することで、有意に抑制することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(I)医薬組成物、及びその製造方法
本発明の医薬組成物(以下、単に「本医薬組成物」とも称する)は、下記の(A)及び(B)成分を含有する。
(A)ベタメタゾン吉草酸エステル
(B)アラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにイソプロピルメチルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種。
【0015】
本医薬組成物は、前記(A)及び(B)成分に加えて、下記の(C)成分を含有していてもよい。
(C)リドカインまたはその塩。
【0016】
また本医薬組成物は、前記(A)及び(B)成分、または前記(A)~(C)成分に加えて、下記の(D)成分を含有していてもよい。
(D)外用基剤。
【0017】
以下、これらの成分について説明する。
(A)成分
ベタメタゾン吉草酸エステルは、17位のヒドロキシル基がバレリル化され、21位のヒドロキシル基がアセチル化されてなるエステル化ステロイドである。当該化合物は、抗炎症作用を有するストロングなステロイドであり、下記の効能・効果が知られている:
湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、女子顔面黒皮症、ビダール苔癬、放射線皮膚炎、日光皮膚炎を含む)、皮膚そう痒症、痒疹群(じん麻疹様苔癬、ストロフルス、固定じん麻疹を含む)、虫さされ、乾癬、掌蹠膿疱症、扁平苔癬、光沢苔癬、毛孔性紅色粃糠疹、ジベルバラ色粃糠疹、紅斑症(多形滲出性紅斑、結節性紅斑、ダリエ遠心性環状紅斑)、紅皮症(悪性リンパ腫による紅皮症を含む)、慢性円板状エリテマトーデス、薬疹・中毒疹、円形脱毛症(悪性を含む)、熱傷(瘢痕、ケロイドを含む)、凍瘡、天疱瘡群、ジューリング疱疹状皮膚炎(類天疱瘡を含む)、痔核、鼓室形成手術・内耳開窓術・中耳根治手術の術創。
【0018】
本医薬組成物中に含まれる(A)成分の量は、本発明の効果を妨げることなく、所望の薬効を発揮する量であればよく、その範囲で適宜設定調整することができる。例えば、本医薬組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合、本医薬組成物中の(A)成分の含有量としては、0.0002~10質量%の範囲を例示することができる。好ましくは0.002~2質量%であり、より好ましくは0.01~0.3質量%である。
【0019】
(B)成分
本医薬組成物において、(B)成分は、アラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにイソプロピルメチルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種である。これらの(B)成分は、後述するように、いずれも外用製剤の薬効成分として汎用されている成分である。これらは一種単独で、前記(A)成分と併用されてもよいし、また二種以上を任意に組み合わせて、前記(A)成分と併用されてもよい。好ましい組み合わせは、(B)成分の三種(アラントイン、グリチルレチン酸又はその塩、イソプロピルメチルフェノール)をすべて組み合わせて、前記(A)成分と併用する態様である。
【0020】
本発明が対象とするアラントインには、グリオキシル酸のジウレイド(別名:5-ウレイドヒダントイン、グリオキシジウレイド)のほか、その誘導体であるアラントインアセチル-DL-メチオニン、アラントインジヒドロキシアルミニウム、またはアラントインポリガラクツロン酸が含まれる。好ましくはグリオキシル酸ジウレイドである。アラントインの作用として、角質細胞増殖促進作用、抗刺激剤作用、消炎鎮静作用、および抗アレルギー作用等が知られている。またアラントインは、角質細胞増殖促進作用に基づいて創傷治癒作用や組織修復賦活作用を発揮する。このため、肌荒れ、あかぎれ、ひび割れ、乾燥、皮膚炎、紫外線による炎症などを有する皮膚に対しては、角質細胞の増殖を促進し、上皮細胞を正常化するよう働き、また、健常な皮膚に対しては、皮膚に柔軟性および滑らかさを付与し、健常性を維持することが報告されている。
【0021】
本医薬組成物中に含まれるアラントインの量は、本発明の効果を妨げることなく、所望の薬効を発揮する量であればよく、その範囲で適宜設定調整することができる。例えば、本医薬組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合、本医薬組成物中のアラントインの含有量としては、0.01~20質量%の範囲を例示することができる。好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.15~5質量%である。
【0022】
グリチルレチン酸は、抗炎症作用、鎮痒作用、肥満細胞脱顆粒抑制作用、及びホスホリパーゼA2阻害作用を有することが知られており、湿疹、皮膚そう痒症、神経皮膚炎の治療に使用されている。グリチルレチン酸として、好ましくはβ-グリチルレチン酸を挙げることができる。グリチルレチン酸の塩としては、薬学的に許容される塩であり、例えば、カリウムやナトリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩を例示することができる。
【0023】
本医薬組成物中に含まれるグリチルレチン酸またはその塩の量は、本発明の効果を妨げることなく、所望の薬効を発揮する量であればよく、その範囲で適宜設定調整することができる。例えば、本医薬組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合、本医薬組成物中のグリチルレチン酸またはその塩の含有量としては、0.01~20質量%の範囲を例示することができる。好ましくは0.02~10質量%であり、より好ましくは0.05~5質量%である。
【0024】
イソプロピルメチルフェノール(以下、単に「IPMP」と称する)は、チモールの異性体であり、化学名を3-メチル-4-イソプロピルフェノールという針状結晶形態を有する化合物である。広範囲の抗菌・抗真菌スペクトル(O-157、MRSA、セラチア、白癬菌など)を有し、各種の細菌、酵母、カビ類に対して殺菌効果を発揮するとともに、低臭、低味性、低刺激、及び非感作性という特性を有するため、医薬品及び医薬部外品をはじめ、化粧品や日用品にも、殺菌剤、抗菌剤または防腐剤として広く使用されている。
【0025】
本医薬組成物中に含まれるIPMPの量は、本発明の効果を妨げることなく、所望の薬効を発揮する量であればよく、その範囲で適宜設定調整することができる。例えば、本医薬組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合、本医薬組成物中のIPMPの含有量としては、0.01~20質量%の範囲を例示することができる。好ましくは0.02~10質量%であり、より好ましくは0.05~5質量%である。
【0026】
これらの(B)成分は、後述する実施例に示すように、経時的に色調が変化し、保存安定性が低いという特性を有する。この特性(色調変化、着色性)は、前述する(A)成分と混合し、(A)成分と(B)成分を共存状態におくことで改善することができる。本医薬組成物における(A)成分と(B)成分との配合比(質量比)は、本発明の効果(耐色調変化性、耐着色性)が得られることを限度として、制限されない。
例えば、
(B)成分がアラントインである場合、(A)成分100質量部に対する(B)成分の割合として10~10000質量部、好ましくは30~5000質量部、より好ましくは50~3000質量部;
(B)成分がグリチルレチン酸またはその塩である場合、(A)成分100質量部に対する(B)成分の割合として10~10000質量部、好ましくは30~5000質量部、より好ましくは50~3000質量部;
(B)成分がIPMPである場合、(A)成分100質量部に対する(B)成分の割合として、(B)成分1~10000質量部、好ましくは10~5000質量部、より好ましくは20~2000質量部;
などを例示することができる。
【0027】
(C)成分
リドカイン(2-ジメチルアミノ-N-(2,6-ジメチルフェニル)アセトアミド)は、安全性が高い局所麻酔剤として広く使用されている化合物である。リドカインの塩としては、薬学的に許容される塩であり、例えば、塩酸塩、炭酸塩、及び硫酸塩等を挙げることができる。リドカインの塩として、好ましくは塩酸リドカインを挙げることができる。
【0028】
本医薬組成物中に含まれる(C)成分の量は、本発明の効果を妨げることなく、所望の薬効を発揮する量であればよく、その範囲で適宜設定調整することができる。例えば、本医薬組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合、本医薬組成物中の(C)成分の含有量としては、0.005~30質量%の範囲を例示することができる。好ましくは0.05~10質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%である。
【0029】
(C)成分は、後述する実施例に示すように、経時的に色調が変化し、保存安定性が低いという特性を有する。この特性(色調変化、着色性)は、前述する(A)成分及び(B)成分と混合し、(C)成分を(A)成分と(B)成分との共存状態におくことで改善することができる。使用する(B)成分は、制限されず、前述する3種類をいずれも用いることができる。(B)成分は、一種単独、二種以上、または三種をすべて組み合わせて用いることができる。好ましくはアラントインであり、二種以上組み合わせる場合も、少なくとも一種にはアラントインを含めておくことが好ましい。
【0030】
本医薬組成物における(A)成分と(B)成分と(C)成分との配合比(質量比)は、本発明の効果(耐色調変化性、耐着色性)が得られることを限度として、制限されない。例えば、(A)成分100質量部に対する(C)成分の割合として、10~10000質量部、好ましくは30~8000質量部、より好ましくは50~5000質量部を挙げることができる。(C)成分を組み合わせる場合における(A)成分と(B)成分の配合比(質量比)としては、前述の割合を採用することができる。
【0031】
(D)成分
本医薬組成物は、前述する(A)及び(B)成分、または(A)~(C)成分を、(D)外用基剤とともに混合して外用剤として調製することができる。より好ましくは皮膚外用剤である。外用剤の剤形としては、制限されず、液体状、及び固形状の形状のいずれであってもよい。なお、本発明が対象とする固形状とは、液状でないことを意味し、半固形状態のものも含まれる。外用剤としては、制限されないものの、例えば液剤(ローション状、乳液状、エアゾール状を含む)、スティック剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ゲル剤、パップ剤、パウダー剤などを挙げることができる。好ましくはクリーム剤、軟膏剤、またはゲル剤などの固形状の医薬組成物である。
【0032】
(D)成分としては、本医薬組成物の形状(剤形)に応じて、慣用の外用基剤を用いることができる。医薬品または医薬部外品の製造に通常使用されるものであれば、制限されない。例えば、固形状の医薬組成物の調製に使用される外用基剤としては、白色ワセリン,セタノール,ミツロウ,ラノリン,パラフィン、流動パラフィン等の油類;天然ゴム,イソプレンゴム,ポリイソブチレン,スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体,スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体,スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体,(メタ)アクリル酸アルキルエステル(共)重合体,ポリ(メタ)アクリル酸エステル,(メタ)アクリル酸エステル,ポリイソブチレン,ポリブテン,液状ポリイソプレン等のゴム類;カルボキシビニルポリマー,アクリル酸デンプン,ポリアクリル酸ナトリウム,カルメロースナトリウム等の水溶性高分子;グリセリン;マクロゴール;無水ケイ酸等を例示することができる。また外用基剤の成分として、賦形剤(例えば、白糖などの糖類;デキストリンなどのデンプン誘導体;カルメロースナトリウムなどのセルロース誘導体;キサンタンガムなどの水溶性高分子等)を用いることもできる。これらは1種または2種以上を任意に組み合わせて用いることができる。
本医薬組成物中の(D)成分の含有量としては、0~99.999質量%の範囲を例示することができる。好ましくは5~99.98質量%であり、より好ましくは10~99.9質量%である。
【0033】
(E)任意の薬理活性成分
本医薬組成物には、本発明の効果を妨げないことを限度として、前述する(A)及び(B)成分、または(A)~(C)成分に加えて、さらに他の薬理活性成分が含まれていてもよい。制限されないものの、非ステロイド系抗炎症剤、局所麻酔剤、鎮痒剤、血行促進剤、殺菌剤、皮膚保護剤、抗生物質、保湿剤、及び/又は清涼剤を例示することができる。これらは、外用剤、特に皮膚外用剤に配合できる成分であればよいが、本発明の本医薬組成物を、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として調製する場合は、当該外用製剤に配合することができる成分であることが好ましい。
【0034】
(F)任意の担体・添加剤
本医薬組成物は、前述する成分以外に、本発明の効果を妨げないことを限度として、適宜、従来公知の担体や添加剤を任意に配合することができる。これらの担体や添加剤としては、例えば賦形剤、増粘剤、界面活性剤、抗酸化剤、緩衝剤、乳化剤、pH調整剤、分散剤、溶解補助剤、流動化剤、着色剤、及び/又は香料等を、制限なく、例示することができる。
【0035】
本医薬組成物は、前述する成分のうち、少なくとも(A)成分と(B)成分を、必要に応じて(D)成分と混合して、慣用の製造方法に従って、外用剤、好ましくはクリーム剤または軟膏剤等の固形外用剤の形態に製造することができる。本医薬組成物がさらに(C)成分を含有する組成物である場合は、(A)~(C)成分を、必要に応じて(D)成分と混合して、慣用の製造方法に従って、外用剤、好ましくはクリーム剤または軟膏剤等の固形外用剤の形態に製造する。
【0036】
斯くして外用製剤の形態に調製される本医薬組成物は、炎症を伴う皮膚の痒み、赤みまたは腫れなどの症状を有する皮膚疾患(例えば、湿疹、痒疹、皮膚炎または乾癬等)を改善する外用製剤(医薬製剤)として好適に用いることができる。適用部は、制限されず、手、足、指、顔、頭、及び体など、皮膚全般に対して広く用いることができる。また肛門部や陰部周辺などの皮膚の角質が薄い部位にも適用することができる。これらの皮膚への適用量や用法も特に制限されず、患部の症状や有効成分の含有量に応じて、一日1回~数回、適量を皮膚などの外皮に塗布することなどにより用いることができる。
【0037】
(II)医薬組成物の安定性改善方法
本発明は、前述する(B)成分を含有する医薬組成物、または前述する(C)成分を含有する医薬組成物について、その安定性を改善する方法を提供する。
後述する実験例に示すように、前述する(B)成分及び(C)成分はいずれも色調安定性が低く、これらを一種以上含む医薬組成物は、経時的に変色(色調変化)する傾向が認められる。(B)成分を含有する医薬組成物の色調変化は、当該医薬組成物中に、前述する(A)成分を共存させることで改善することができる。当該医薬組成物中には、(C)成分が含まれていてもよい。また、(C)成分を含有する医薬組成物の色調変化は、当該医薬組成物中に、前述する(A)成分と(B)成分を組み合わせて共存させることで改善することができる。
【0038】
本発明が対象とする「医薬組成物の安定性改善」には、好ましくは医薬組成物の(B)成分又は/及び(C)成分に起因して生じる色調変化が抑制されることが含まれる。(B)成分と(A)成分を含む医薬組成物が、(A)成分を含まない(B)成分含有医薬組成物と比較して、経時的色調変化が少ない場合、前者医薬組成物は、(A)成分の配合により(B)成分に起因する色調変化が抑制されており、安定性が改善されていると判断することができる。また、同様に、(C)成分と(A)成分と(B)成分とを含む医薬組成物が、(A)成分と(B)成分を含まない(C)成分含有医薬組成物と比較して、経時的色調変化が少ない場合、前者医薬組成物は、(A)成分と(B)成分の配合により、(C)成分に起因する色調変化が抑制されており、安定性が改善されていると判断することができる。 経時的色調変化は、測定対象の医薬組成物を40℃、75%の恒温恒湿条件の暗所条件下に4週間保存し、保存前後の色差を色度計で測定し、その色差の程度を比較することで評価することができる。詳細は、後述する実験例の記載を参照することができる。
【0039】
ここで(B)成分を含有する医薬組成物において、(B)成分としては、前述するアラントイン、グリチルレチン酸及びその塩、並びにIPMPからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。これらは一種単独で医薬組成物に配合されていてもよいし、また二種以上を任意に組み合わせて医薬組成物に配合されていてもよい。好ましくは3種のすべてが配合された医薬組成物である。これに(A)成分を共存させる方法としては、本発明の効果が得られる方法であればよく、制限されない。例えば、(B)成分と(A)成分とを混合する方法であってもよいし、また、少なくとも前述する(D)成分とともに、(B)成分と(A)成分とを混合し、(B)成分と(A)成分との共存状態を形成する方法であってもよい。また、他の成分として(C)成分を配合することもできる。これらの各成分を混合し、少なくとも(B)成分と(A)成分との共存状態を形成した後、必要に応じて、慣用の方法により、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、及び硬膏剤等の慣用の固形製剤の形態に調製することもできる。
医薬組成物中の(B)成分と(A)成分の割合、及び配合比などは、前記(I)に記載した通りであり、当該記載はここに援用することができる。
【0040】
前記(C)成分を含有する医薬組成物において、(C)成分は、前述するリドカインまたはその塩である。これに(A)成分と前記(B)成分を共存させる方法としては、本発明の効果が得られる方法であればよく、制限されない。(B)成分として、前述するいずれか一種を用いてもよいし、また二種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。(B)成分として、好ましくはアラントインであり、二種以上を任意に組み合わせる場合も、少なくとも一種はアラントインを用いることが好ましい。(C)成分に、(A)成分と(B)成分を共存させる方法は、制限されないものの、(A)~(C)成分を混合する方法や、また、少なくとも前述する(D)成分とともに、(A)~(C)成分を混合し、(C)成分と(A)成分及び(B)成分との共存状態を形成する方法であってもよい。各成分を混合し、(A)~(C)成分の共存状態を形成した後、慣用の方法により、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、及び硬膏剤等の慣用の固形製剤を調製することもできる。
医薬組成物中の(C)成分と(A)成分と(B)成分の割合、及びこれらの配合比などは、前記(I)に記載した通りであり、当該記載はここに援用することができる。
【0041】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0043】
以下の実験例で使用した化合物は下記の通りである。
ベタメタゾン吉草酸エステル:Sicor社
グリチルレチン酸:アルプス薬品工業(株)
アラントイン:北大貿易(株)
イソプロピルメチルフェノール:大阪化成(株)
リドカイン:日本バルク薬品(株)
白色ワセリン:CALMET社
流動パラフィン:SONNEBORN社
【0044】
[医薬組成物の経時的安定性の評価方法]
(1)医薬組成物の色調の測定方法
測定対象とする医薬組成物(被験組成物)3gを、直径10cmのシャーレ皿の全体に亘って薄くのばしてセットし、蓋をしない状態で、40℃、75%RHの条件下で所定期間(4週間)、保存する。
保存前と保存後の被験組成物を、分光色差計の測定用セル(φ30mmセル)に入れて、下記条件で明度(L)及び色差(a,b)を測定し、下式により、保存前後の色調変化を色差として求めた。
【0045】
[測定装置と測定条件]
測定装置:分光色差計SE-6000(日本電色工業株式会社製)
反射測定径:30mmφ
出力波長:380~780nm
[計算式]
保存前後の被験組成物の色差(NBS単位)
DE = SQRT〔(保存前L-保存後L)2+(保存前a-保存後a)2+(保存前b-保存後b)2〕
【0046】
(2)医薬組成物の色調の評価方法
斯くして得られた保存前後の被験組成物の色差から、下記の基準(NBS基準)に従って、被験組成物の安定性(色調変化抑制性、耐変色性)を評価した。なお、NBS単位及び基準とは、米国の国家標準規格局(National Bureau of Standards)の規定した色差の単位及び基準を意味する。
【0047】
【0048】
実験例1 医薬組成物の調製とその安定性評価(その1)
(1)実験方法
表2に記載する組成に従って、固形状の医薬組成物(サンプル1-1~1-7)を調製した。具体的には、サンプル1-3、1-5及び1-7は、(A)成分と(B)成分の2成分を予め乳鉢で混合しておき、これに(D)成分を配合混合して固形状(クリーム状)に調製した。サンプル1-1、1-2、1-4及び1-6は、(A)成分又は(B)成分に(D)成分を配合混合して固形状(クリーム状)の医薬組成物を調製した。
(B)成分に起因する色調の変化に対する(A)成分の影響をより明確に確認するため、色調の測定は、上記の各医薬組成物(サンプル1-1~1-7)について、各々(D)成分を配合するまえの医薬組成物((A)及び/又は(B)からなる医薬組成物)について実施した。具体的には、調製した各医薬組成物(サンプル1-i~1-vii)の色調を前述する方法で測定した後、これを前述する保存条件下にて、4週間保存した。保存後、再度色調を測定して、保存前の色調との差異(色差)を求め、前記の基準に沿って、医薬組成物の安定性(耐着色性)を評価した。
【0049】
(2)実験結果
結果を表2に合わせて示す。
【表2】
【0050】
表2に示すように、(B)成分はいずれも安定性(耐着色性)が低く、経時的に色調が変化することが確認された(サンプル1-ii、1-iv及び1-vi)。これに対して、(B)成分に(A)成分を組み合わせて配合することで、(B)成分の安定性(耐着色性)の低さが改善され、良好な安定性(耐着色性)を有する医薬組成物が得られることが確認された(サンプル1-iii、1-v及び1-vii)。
【0051】
実験例2 医薬組成物の調製とその安定性評価(その2)
(1)実験方法
表3に記載する組成に従って、医薬組成物(サンプル2-1~2-5)を調製した。具体的には、サンプル2-4及び2-5は、(A)~(C)成分の2成分または3成分を予め乳鉢で混合しておき、これに(D)成分を配合混合して固形状(クリーム状)に調製した。サンプル2-1~2-3は、(A)成分、(B)成分又は(C)成分に(D)成分を配合混合して固形状(クリーム状)の医薬組成物を調製した。
(B)成分又は/及び(C)成分に起因する色調の変化をより明確に確認するため、色調の測定は、上記の各医薬組成物(サンプル2-1~2-5)について、各々(D)成分を配合するまえの医薬組成物について実施した。具体的には、調製した各医薬組成物(サンプル2-i~2-v)の色調を測定した後、これを前述する保存条件下にて、4週間保存した。保存後、再度色調を測定して、保存前の色調との差異(色差)を求め、前記の基準に沿って、医薬組成物の安定性(耐着色性)を評価した。
【0052】
(2)実験結果
結果を表3に合わせて示す。
【表3】
【0053】
表3に示すように、(C)成分は安定性(耐着色性)が低く、経時的に色調が変化することが確認された(サンプル2-ii)。また、当該(C)成分に(A)成分を組み合わせて配合しても、その安定性は改善しなかった(サンプル2-iv)。しかしながら、(C)成分に、(A)成分に加えて、さらに、(B)成分を配合することで、(C)成分の安定性(耐着色性)が改善された(サンプル2-v)。また、(C)成分に、(A)成分に加えて、さらに、(B)成分を配合することで、同時に(B)成分の安定性(耐着色性)の低さ(サンプル2-iii参照)までが改善され、良好な安定性(耐着色性)を有する医薬組成物が得られることが確認された。
【0054】
実験例3
(B)成分の色調変化が抑制された安定性良好なクリーム状の医薬組成物の処方の一例を表4に示す。
【表4】