(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-08
(45)【発行日】2023-09-19
(54)【発明の名称】搬送シリンダ、このような搬送シリンダを備えた乾燥ユニット、ならびにこのような乾燥ユニットを備えたシート印刷機
(51)【国際特許分類】
B41F 13/193 20060101AFI20230911BHJP
B41F 21/10 20060101ALI20230911BHJP
B41F 23/04 20060101ALI20230911BHJP
【FI】
B41F13/193
B41F21/10
B41F23/04 Z
(21)【出願番号】P 2023502658
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 EP2022051065
(87)【国際公開番号】W WO2022189048
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】102021105926.7
(32)【優先日】2021-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390014188
【氏名又は名称】ケーニッヒ ウント バウアー アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Koenig & Bauer AG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Koenig-Str. 4, 97080 Wuerzburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ティロ ハーン
(72)【発明者】
【氏名】パトリック クレース
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー シャークス
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト スティーアマン
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0246525(US,A1)
【文献】特表2015-513479(JP,A)
【文献】国際公開第2020/200703(WO,A1)
【文献】特開平08-039778(JP,A)
【文献】特開2012-139875(JP,A)
【文献】特開2020-146941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 11/00-13/32
B41F 21/00-21/14
B41F 23/04
B65H 5/20-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材(11)を搬送するための搬送シリンダ(01)であって、前記搬送シリンダの周面(03)に前記搬送シリンダの軸線方向にそれぞれ延在する少なくとも1つの通路(04)を備え、当該通路(04)内にはそれぞれ、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)上に当該基材(11)を保持する、軸(07)に支持された少なくとも1つのグリッパ(06)が配置されており、当該通路(04)は、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)でカバー(08)によって覆われており、
当該カバー(08)、および/または前記少なくとも1つのグリッパ(06)を支持する前記軸(07)は、冷却装置を有していることを特徴とする搬送シリンダ(01)。
【請求項2】
前記搬送シリンダのベースボディ(02)は、鋳造材料から形成されている、かつ/または前記搬送シリンダの前記周面(03)は、少なくとも90%以上閉じられて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の搬送シリンダ(01)。
【請求項3】
前記搬送シリンダ(01)は2倍胴の大きさで形成されているので、前記搬送シリンダの周囲には、径方向に互いに対向する、前記周面(03)にそれぞれ前記搬送シリンダの軸線方向に延在する2つの通路(04)が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の搬送シリンダ(01)。
【請求項4】
当該カバー(08)は、一体に、中実の鋼板によって、または中実の金属の成形部材によって形成されている、かつ/または当該カバー(08)は、当該グリッパ(06)の個所に、当該グリッパ(06)の輪郭に適合した凹部(14)を有していることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の搬送シリンダ(01)。
【請求項5】
前記少なくとも1つのグリッパ(06)は、当該基材(11)を前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)上に保持する作動状態で、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)によって形成される平面の完全に下方に配置されていることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の搬送シリンダ(01)。
【請求項6】
当該冷却装置は、前記搬送シリンダ(01)の軸線方向に延在する少なくとも1つの管路(09)を有しており、当該管路(09)は、液体のまたは気体の冷却媒体によって貫流されるまたは少なくとも貫流可能である、かつ/または当該冷却装置は、当該カバー(08)および/または当該軸(07)に形成された、前記搬送シリンダ(01)の軸線方向に延在する少なくとも1つの孔(09)を有しており、当該孔(09)は、液体のまたは気体の冷却媒体によって貫流されるまたは少なくとも貫流可能であることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の搬送シリンダ(01)。
【請求項7】
前記冷却媒体の流入部および/または流出部はそれぞれ、前記搬送シリンダ(01)のベースボディ(02)の端面側に、前記搬送シリンダの前記周面(03)から分離された領域に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の搬送シリンダ(01)。
【請求項8】
シート状の基材(11)上の放射線硬化性の印刷流体を乾燥させる乾燥ユニット(16)であって、不活性ガスにより酸素低減された気体の媒体を含むチャンバ(17)を有しており、前記チャンバ(17)内の前記酸素低減された気体の媒体は、最大1%の割合の酸素を有しており、前記放射線硬化性の印刷流体を乾燥させるために、前記チャンバ(17)内で前記基材(11)上に向けられる電子ビームを備えた電子ビーム発生器(18)が設けられており、前記基材(11)は、搬送シリンダ(01)の周面(03)に保持されて前記チャンバ(17)を通るように案内されていてまたは少なくとも案内可能であって、前記搬送シリンダ(01)はその前記周面(03)に、当該基材(11)の搬送方向(T)に対してそれぞれ横方向に延在する少なくとも1つの通路(04)を有しており、当該通路(04)にはそれぞれ、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)上に当該基材(11)を保持する、軸(07)に支持された少なくとも1つのグリッパ(06)が配置されおり、当該グリッパ(06)は、当該基材(11)を前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)上に保持する作動状態で、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)によって形成される平面の完全に下方に配置されており、当該通路(04)は、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)でカバー(08)によって覆われており、当該カバー(08)、および/または前記少なくとも1つのグリッパ(06)を支持する前記軸(07)はそれぞれ1つの冷却装置を有している、乾燥ユニット(16)。
【請求項9】
前記乾燥ユニットはケーシング(22)を有していて、前記ケーシングは、前記電子ビーム発生器(18)に面した前記搬送シリンダ(01)の側を、少なくとも製造プロセス中、少なくとも150°の円弧区分で取り囲むことを特徴とする請求項8に記載の乾燥ユニット(16)。
【請求項10】
前記搬送シリンダ(01)を取り囲む前記ケーシング(22)は、電子ビームの延在により規定される平面に対して対称に配置されている2つの成形部材(23;24)を有しており、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)に面した前記成形部材の外側の境界部はそれぞれ、前記搬送シリンダ(01)の輪郭に適合されていて、間隙(26)を形成するように、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)に対して最大3mmの範囲の間隔を置いて配置されていることを特徴とする請求項9に記載の乾燥ユニット(16)。
【請求項11】
2つの前記成形部材(23;24)はそれぞれ、鉛を含む1つのシールド(27;28)を有していることを特徴とする請求項10に記載の乾燥ユニット(16)。
【請求項12】
2つの前記成形部材(23;24)のうちの1つと前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)との間にそれぞれ形成される前記間隙(26)は、前記搬送シリンダ(01)の周に沿って、少なくとも75°の円弧区分にわたってそれぞれ延在している、かつ/または
2つの前記成形部材(23;24)のうちの1つと前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)との間にそれぞれ形成される前記間隙(26)は、2mm~3mmの範囲の間隙幅をそれぞれ有していることを特徴とする請求項10または11に記載の乾燥ユニット(16)。
【請求項13】
シート状の基材(11)を放射線硬化性の印刷流体によって印刷する少なくとも1つの印刷機構と、当該基材(11)の搬送方向(T)において当該印刷機構の後方に配置された、前記基材(11)上の前記放射線硬化性の印刷流体を乾燥させる乾燥ユニット(16)と、を備えたシート印刷機であって、前記乾燥ユニット(16)は、不活性ガスにより酸素低減された気体の媒体を含むチャンバ(17)を有しており、前記チャンバ(17)内の前記酸素低減された気体の媒体は、最大1%の割合の酸素を有しており、前記放射線硬化性の印刷流体を乾燥させるために、前記チャンバ(17)内で前記各基材(11)上に向けられる電子ビームを備えた電子ビーム発生器(18)が設けられており、前記基材(11)は、前記シート印刷機のフレームに定置に配置され
た搬送シリンダ(01)の周面(03)に保持されて前記チャンバ(17)を通るように案内されていてまたは少なくとも案内可能であって、前記搬送シリンダ(01)はその前記周面(03)に、当該基材(11)の搬送方向(T)に対してそれぞれ横方向に延在する少なくとも1つの通路(04)を有しており、当該通路(04)にはそれぞれ、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)上に当該基材(11)を保持する、軸(07)に支持された少なくとも1つのグリッパ(06)が配置されおり、当該グリッパ(06)は、当該基材(11)を前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)上に保持する作動状態で、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)によって形成される平面の完全に下方に配置されており、当該通路(04)は、前記搬送シリンダ(01)の前記周面(03)でカバー(08)によって覆われており、当該カバー(08)、および/または前記少なくとも1つのグリッパ(06)を支持する前記軸(07)はそれぞれ1つの冷却装置を有している、シート印刷機。
【請求項14】
前記少なくとも1つの印刷機構によって事前に印刷された乾燥させるべき前記基材(11)を前記乾燥ユニット(16)の前記搬送シリンダ(01)に供給する第1のチェーンコンベヤシステムが設けられていて、かつ/または前記乾燥ユニット(16)において乾燥させられた前記基材(11)を前記乾燥ユニット(16)の前記搬送シリンダ(01)から導出する第2のチェーンコンベヤシステムが設けられていることを特徴とする請求項13に記載のシート印刷機。
【請求項15】
前記搬送シリンダ(01)の回転数に伴って生じる、シート印刷機の製造速度は、1時間当たり少なくとも10000枚の基材(11)であり、この場合、前記基材(11)のすべてが、前記乾燥ユニット(16)の前記チャンバ(17)を通るようにガイドされることを特徴とする請求項13または14に記載のシート印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の形式の搬送シリンダ、および請求項8に記載の乾燥ユニット、ならびに請求項13に記載のこのような乾燥ユニットを備えたシート印刷機に関する。
【0002】
独国特許発明第2855605号明細書により、不活性化チャンバを通過する被覆された可撓性の帯材、例えばフィルムを不活性化させ、保護するための装置が公知であり、その際、帯材はイオン化ビームに曝され、帯材は、回転可能に支持されたローラの冷却された外周面上で、湾曲した軌道に沿って、例えば不活性ガスとしての窒素を含む不活性化チャンバを通過させられる。
【0003】
独国特許出願公開第102015013068号明細書により、印刷されたシートを、乾燥装置を通して搬送するためのシリンダを備えた乾燥装置が公知であり、この乾燥装置は、シートの前縁をシリンダの外周面に固定するための少なくとも1つのグリッパ条片と、外周面に面状にシートを押しつけて保持する負圧を外周面に発生させる手段とを備えており、この場合、照射モジュール、特にUV照射モジュールはシリンダに面していて、負圧を発生させる手段は、シリンダ内で周方向に分配されている複数の負圧チャンバを含んでおり、これらの負圧チャンバには、外周面の複数の孔が開口している。
【0004】
独国特許発明第112012006348号明細書により、印刷インキを光硬化させるための少なくとも1つのユニットを有するコンビネーション印刷装置が公知であり、この場合、印刷インキを光硬化させるためのユニットは、UV乾燥装置および/または赤外線乾燥装置、紙搬送シリンダ、および冷却および固定するための乾燥シリンダを含み、このシリンダの壁には、冷却水ラインと接続されている冷却通路と、空気チャンバと接続されている吸込空気開口とが設けられている。
【0005】
特開平08-39778号公報により、ニス光沢機内の搬送シリンダが公知であり、このシリンダは、その壁に冷却装置を有する。
【0006】
後で公開された独国実用新案第202021001239号明細書により、印刷機のシート搬送装置に設けられたグリッパブリッジを冷却する装置が公知であり、この場合、シート搬送装置は、冷却液用の少なくとも1つの管路を有するシリンダとして形成されており、グリッパブリッジと管路の壁とは、互いに接触している。
【0007】
国際公開第2020/108864号により、印刷された基材を乾燥させるための乾燥ユニットが公知であり、この乾燥ユニットは、不活性ガスにより酸素低減された気体の媒体を含むチャンバを備え、この場合、基材はこのチャンバを通るように案内されまたは少なくとも案内可能であって、チャンバは、基材の搬送装置において、このチャンバ内に案内すべき基材のための入口を有しており、チャンバ内に案内すべき基材のための入口は、それぞれ縦に互いに当て付けられる2つのシリンダによって形成されており、チャンバの入口で互いに当て付けられる両シリンダは印刷機構を形成しており、シリンダの一方は圧胴として形成されていて、他方のシリンダは、圧胴と協働して印刷像を当該基材に塗布するシリンダとして形成されており、この場合、チャンバの入口で圧力により互いに当て付けられる両シリンダは、このチャンバからの酸素低減された気体の媒体の逃出を阻止するかつ/またはこのチャンバへの周囲空気からの酸素の侵入を阻止する、このシリンダに対して軸線方向に延びるシールを形成しており、チャンバの入口に配置された印刷機構は、凹版印刷法で印刷する印刷機構として形成されている。
【0008】
印刷物の工業的大量生産において、基材上に塗布された流体の乾燥を加速し、乾燥区間を短縮すべき場合には、乾燥させるべき流体を、例えば熱風によりかつ/または赤外線照射により乾燥させる従来の乾燥装置に比べて極めて短時間で、著しく高いエネルギ密度で負荷する乾燥装置の使用が考慮される。さらに、例えば水性印刷流体の代わりに、例えば放射線硬化性の印刷インキ、インクまたは相応のニスの形態の放射線硬化性の印刷流体が各基材に塗布される場合、この印刷流体の乾燥は、その溶剤の蒸発または浸透によって行われるのではなく、この印刷流体中に含まれる少なくとも1種のポリマー、例えばアクリレートオリゴマーおよびアクリレートモノマーの硬化によって行われ、これにより、この少なくとも1種のポリマーが、放射線誘発により重合される際に、当該基材の表面上にこの印刷流体から生じるフィルムに取り込まれる。放射線硬化性の印刷流体の硬化の実施は、製造プロセスにおいてはそれほど高くない製造速度で、例えばUV放射源を用いて行うことができる。しかし、例えば電子ビーム源のような高エネルギの放射源が使用されるならば、乾燥時間は、乾燥させるべき印刷流体、すなわちこの場合には硬化させるべき印刷流体への、UV放射源の通常必要な作用時間よりも僅か数ミリ秒の範囲まで短縮されるので、極めて高い製造速度での製造プロセスにおいても放射線硬化性の印刷流体の硬化が可能になる。ここでは例えばシート印刷において、1時間当たり10000枚を明らかに超える印刷シートが処理される製造プロセスが、高い製造速度とみなされる。
【0009】
しかしながら電子ビーム源を使用する場合には、基板への電子ビームの入射と、印刷流体へのこのようなビームの侵入とには、通常、全面的に反射されるX線ビームの生成、および熱ビームへの部分的な変換が伴うので、UVビーム源の使用とは異なり、電子ビーム源では、少なくとも適切なビーム保護手段が必要である、ということに留意されたい。また、熱ビームは、このように乾燥させられた基材を工業的に大量生産する場合はまさに、その都度の基材を当該乾燥ユニットの乾燥チャンバを通して搬送する搬送装置の著しい加熱をもたらす。さらに、電子ビーム源によって開始される硬化、すなわち重合によって実施される印刷流体の凝結反応は、高い生成物品質を達成するために、最大でも1%の酸素含有量を許容する酸素低減された不活性雰囲気中で行われなければならず、好ましくは300ppm~500ppmの範囲内、特に150ppm~250ppmの範囲内、場合によってはさらに低い50ppm未満の範囲内で行われなければならないので、乾燥チャンバの密封のために相当の措置が必要である。乾燥チャンバの密封に対する高い要求に基づいて、乾燥チャンバを通して基材を搬送する、例えば搬送シリンダとして形成された搬送装置を、吸着シリンダとして形成することも不利である。というのも、吸着シリンダの周面に形成される吸引空気開口により、乾燥チャンバ内の酸素低減された不活性の雰囲気を維持することは、たとえ事実上不可能ではないとしても、少なくとも著しく困難になるからである。したがって、電子ビーム源を備えた乾燥機は、その使用場所において基本的に、従来の乾燥機またはUV放射源の使用よりも大きな構造上の手間を要とする。
【0010】
まさに密封問題ゆえに、独国特許発明第2855605号明細書によれば、シート状の基材を、電子ビーム源を使用する乾燥機の乾燥チャンバを通して案内することは除外されている。それというのも、シート状の基材は、ウェブ状の材料とは異なり、その動作確実な搬送のために、例えばシリンダとして形成された各搬送装置に保持されなければならないからである。搬送シリンダによって照射モジュールを通して搬送される、放射線硬化性の印刷流体によって印刷されたシート状の基材の乾燥を加速する際には、従来は独国特許出願公開第102015013068号明細書から公知であるように、ビーム保護および密封問題ゆえに必要な措置を回避するために、UV放射線源が使用されていた。また、放射線硬化性の印刷流体によって印刷されたシート状の基材を乾燥するために必要なビーム保護手段および密封問題にもかかわらず電子ビーム源を使用したい場合には、国際公開第2020/108864号によれば、乾燥チャンバを通してこれらの基材を搬送するために、グリッパなしに形成された搬送シリンダまたは搬送ベルトの使用が推奨されている。
国際公開第2020/200703号により、印刷機械であって、シート状の基材の少なくとも片面の少なくとも1つの印刷箇所に印刷を行うことができる、1つまたは複数の印刷機構を含む少なくとも1つの印刷ユニットと、印刷されたシート状の基材を製品または中間製品の束にまとめることができる少なくとも1つの製品収容部とを備え、基材路において、シート状の基材を案内しかつ/または搬送する回転可能な冷却シリンダが、製品収容部の上流側、かつ1つまたは複数の印刷機構を含む少なくとも1つの印刷ユニットの下流側に配置されており、少なくとも1つの第1の電極が、冷却シリンダの周面区分にわたって延在している基材路区分に配置されていて、同じ基材路区分に向けられており、これによって、電圧の印加時に、基材路において電極のそばを通過する基材に静電気帯電可能であるかもしくは静電気帯電させる、印刷機械が公知である。
米国特許出願公開第2015/246525号明細書により、被印刷物シートを処理する機械のための真空胴システムであって、被印刷物シートをニューマチック作用により固持する複数の吸引溝を有しており、吸引溝内に閉鎖スライダが配置されており、真空胴は例えばシリンダ通路と収容溝とを有しており、閉鎖スライダは所定の調整においてシリンダ通路を跨いでいて、収容溝内に差し込まれている、真空胴システムが公知である。
【0011】
本発明の根底を成す課題は、シート状の基材を搬送するための搬送シリンダと、シート状の基材上の放射硬化性の印刷流体を乾燥させるための乾燥ユニットと、このような乾燥ユニットを備えたシート印刷機とを提供することである。
【0012】
この課題は本発明によれば、請求項1、8、および13に記載の特徴により解決される。各従属請求項は、それぞれ、本発明による解決手段の有利な構成および/または発展形態に関する。
【0013】
本発明により得られる利点は特に、提案された搬送シリンダによって、シート状の基材が、特に電子ビームによって乾燥させる乾燥ユニットの乾燥チャンバを通るその搬送中に、作動確実に当該搬送シリンダの周面に保持され、この場合、当該通路のカバーにより、およびアンダーフロアグリッパとして各グリッパを形成することにより、酸素低減された不活性な雰囲気を含む、乾燥ユニットの乾燥チャンバに対するこの搬送シリンダの良好なシールが得られ、さらには、電子ビームにより生じる熱が、少なくとも、この搬送シリンダの、それぞれグリッパとして形成された保持手段から確実に導出されることにある。
【0014】
本発明の実施例を、図面に示し、以下に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】シート状の基材を搬送するための搬送シリンダを示す図である。
【
図3】
図1および
図2の搬送シリンダを備えた乾燥ユニットを示す図である。
【0016】
図1には、例えば、印刷流体によって印刷されたシート状の基材11を搬送するための搬送シリンダ01が例として斜視図で示されている。
図2は、
図1に示された搬送シリンダ01の一部を拡大して示している。この搬送シリンダ01は、好ましくは鋳造材料、例えば鋳鉄から形成されたベースボディ02において、軸線方向、つまり当該基材11の搬送方向Tに対して横方向に延在する少なくとも1つの通路04を、好ましくはその他の部分は少なくとも90%以上閉じられた周面03に有しており、この場合、このような通路04は、シリンダ凹部とも称される。好ましくは、搬送シリンダ01は2倍胴の大きさで形成されているので、搬送シリンダの周囲には、直径方向で互いに反対側に位置する、周面03にそれぞれ搬送シリンダの軸線方向に延在する2つの通路04が形成されていて、例えば2つのシート状の基材11を相前後して周面03に保持することができる。2倍胴の大きさで形成された搬送シリンダ01として、搬送シリンダは、例えば500mm~700mmの、好ましくは例えば550mm~600mmの範囲の直径を有する。この搬送シリンダ01の周面03は、特に、その周面03において径方向にその内部に向かって延在する、例えば吸込空気を案内するための流路が開口していないという点では閉鎖されている。この搬送シリンダ01の周面03は、各通路04と協働して、搬送すべきシート状の基材11の端部がこの周面03で保持されるべきところでのみ、それぞれ軸線方向に延在するスリット状の開口を有している。
【0017】
当該通路04内には、この搬送シリンダ01の周面03上に当該基材11を保持するための少なくとも1つのグリッパ06がそれぞれ配置されている。特に好適な構成では、当該通路04内には、この搬送シリンダ01の軸線方向に互いに隣接して配置された複数の、例えば10以上のグリッパ06を備えたそれぞれ1つのグリッパ条片が設けられている。少なくとも1つのグリッパ06は、この搬送シリンダ01の軸線方向に延在する軸07上に旋回可能に支持されており、この軸07は、当該通路04内に、例えばばねと、特にトーションばねと協働するように配置されている。第1の作動状態では、少なくとも1つのグリッパ06は、作動装置によって発生させられた旋回運動により、特に当該ばねの力に抗して第1の位置へと旋回させられ、この第1の位置では、この搬送シリンダ01の周面03上に保持すべきシート状の基材11の前端部12を、当該通路04内の、当該グリッパ06から解放されたスリット状の開口内へと導入することができる。
図1および
図2にそれぞれ示された第2の作動状態では、少なくとも1つのグリッパ06は、作動装置によってかつ/または当該ばねによって発生させられる旋回運動により、第2の位置へと旋回させられていて、この第2の位置では、この搬送シリンダ01の周面03上に保持すべきシート状の基材11の、搬送シリンダ01の回転方向Dにおいて見て前方の端部12が、当該通路04内で特にクランプによって保持されている。搬送シリンダ01の回転方向Dは、
図1には、回転方向矢印によって示されている。この第2の位置では、少なくとも1つのグリッパ06が、この搬送シリンダ01の周面03によって形成される平面の完全に下方に配置されているので、このように配置されたグリッパ06はアンダーフロアグリッパとも呼ばれる。
【0018】
当該通路04は、この搬送シリンダ01の周面03でカバー08によりカバーされており、この場合、カバー08は、好ましくは、この搬送シリンダ01の周面03によって形成される平面において当該通路04をカバーしており、当該グリッパ06の個所には、この搬送シリンダ01の周面03に形成された、当該グリッパ06の輪郭に適合された凹部14を有しており、この場合、カバー08は、複数のグリッパ06が軸線方向に相並んで配置されている場合、この搬送シリンダ01の周面03で互いに隣り合うグリッパ06の間にそれぞれ、例えば舌片状の領域を形成している(
図2)。当該カバー08は、好ましくは一体に、例えば、中実の鋼板によって、または中実の、好ましくは金属の成形部材によって形成されている。さらに、当該カバー08および/または少なくとも1つのグリッパ06を支持する軸07は、それぞれ1つの冷却装置を有している。当該冷却装置は、例えば、この搬送シリンダ01の軸線方向に延在する少なくとも1つの管路09、および/または当該カバー08および/または当該軸07に形成された、この搬送シリンダ01の軸線方向に延在する少なくとも1つの一貫した孔09を有しており、当該管路09および/または当該孔09をそれぞれ、液体のまたは気体の冷却媒体が貫流するまたは少なくとも貫流可能である。冷却媒体の流入部および/または流出部は、好ましくは、搬送シリンダ01のベースボディ02のそれぞれ端面側に配置されていて、すなわち特に、この搬送シリンダ01の周面03から分離された領域に配置されている。液体のまたは気体の冷却媒体によって貫流されるまたは少なくとも貫流可能な孔09が、軸07内に形成されている場合は、この軸07は特に中空軸として形成されている。
【0019】
冷却媒体としては、例えば、水または工業的に製造された合成冷却剤または寒剤が適している。寒剤は、冷却サイクルにおいて、温度勾配とは逆向きの熱の搬出を実施できるという点において、冷却剤とは異なっており、これにより、冷却すべき対象物-ここでは搬送シリンダ01のベースボディ02および/またはカバー08および/またはグリッパ06-を取り囲む周囲温度が、冷却すべき対象物の温度よりも高くてもよいが、一方で、冷却剤は、冷却サイクルにおいて、エンタルピを温度勾配に沿って、より低い温度の個所に搬送することしかできない。
【0020】
上記説明した搬送シリンダ01は、電子ビーム発生器18を有する乾燥ユニット16内で使用するために最適であり、この場合、この乾燥ユニット16は、放射線硬化性の印刷流体によって印刷された基材11を、電子ビームを用いて、凝結反応の発動によって、すなわちこの印刷流体の硬化によって乾燥させる。
【0021】
図3に例として示したように、乾燥ユニット16は、シート状の基材11(
図1および
図2参照)上の放射線硬化性の印刷流体を乾燥させるために適しており、当該基材11は、不活性ガスにより酸素低減された気体の媒体を含むチャンバ17を通るように案内される。酸素低減された気体の媒体は、チャンバ17内で最大1%の割合の酸素を有している。この酸素の割合は、好ましくは300ppm~500ppmの範囲内、特に150ppm~250ppmの範囲内、場合によってはさらに低い50ppm未満の範囲内にある。放射線硬化性の印刷流体の乾燥のために、チャンバ17内で基材11に向けられる電子ビームを有する電子ビーム発生器18が設けられており、この場合、基材11は、上記説明した搬送シリンダ01の周面03に保持されて、チャンバ17を通るようにガイドされる、または少なくともガイド可能である。この場合、高速運転される工業的製造プロセスにおいて、搬送シリンダ01の回転数に伴って生じる製造速度は、乾燥ユニット16のチャンバ17を通過するように案内される基材11の数が1時間当たり少なくとも10000枚、好ましくは10000枚を著しく超過するものとなっているので、このような製造速度では、例えば2倍胴の大きさに構成された搬送シリンダ01に保持されたすべての個々の基材11は、このチャンバ17を最大で720msで通過することになる。これにより、この製造速度では、ここに例示的に想定される2倍胴の大きさに構成された500mm~700mmの範囲の直径を有する搬送シリンダ01によって、基材11の搬送方向Tに対して横方向に基材の表面上に延在する各1mm幅の各ストリップが、約2ms~3msしか乾燥されないことが明らかである。したがって重合によって実施される、当該基材11上に塗布された放射硬化性の印刷流体の凝結反応は、極めて短い時間で実施しなければならず、このことは、現在の知見によると、電子ビーム発生器18を使用する場合にのみ可能である。好適な構成では、電子ビームは、これらの基材11の、基材11の搬送方向Tに対して横方向に延在する全幅にわたってストリップ状に延在し、好ましくは搬送シリンダ01の周面03に対して径方向に向けられているので、この電子ビームは、実質的にそれぞれ当該基材11の表面に垂直に当たる。電子ビームの衝突領域では、摂氏数百度の熱に達し、例えば300℃より高くなる。
【0022】
乾燥ユニット16には、ここでは詳細には説明しないが少なくとも電子ビーム発生器18を制御する制御ユニット19も含まれる。電子ビーム発生器18およびその制御ユニット19は、例えば1つの構成ユニットを形成しており、この構成ユニットは、可動に、例えばホイール21により走行可能に基礎上に配置されている。これに対して搬送シリンダ01は、通常、機械フレーム内に、特にシート印刷機のフレーム内に定置に配置されている。シート印刷機において少なくとも1つの印刷機構によって事前に印刷された乾燥させるべき基材11は、乾燥ユニット16の搬送シリンダ01に、例えば好ましくはグリッパを有する第1のチェーンコンベヤシステムによって供給されてよく、かつ/または乾燥ユニット16において乾燥させられた基材11は、例えば好ましくは同様にグリッパを有する第2のチェーンコンベヤシステムにより、上記の搬送シリンダ01から受け取ることができ、さらに、例えばシート印刷機に属する排紙装置へ搬送されてよい。電子ビーム発生器18とその制御ユニット19とを有する構成ユニットの可動性は、乾燥ユニット16における保守作業および/または修理作業の実施を容易にする。なぜならば、この構成ユニットの移動により、搬送シリンダ01と上記の構成ユニットとの間を簡単に空間的に互いに分離することができるので、搬送シリンダ01と電子ビーム発生器18との間の領域はオペレータにとってアクセス可能となるからである。
【0023】
上述したように、乾燥ユニット16内に配置された、
図3においてベースボディ02の断面図で示されている搬送シリンダ01は、その周面03に、搬送シリンダ01の回転方向Dに向けられた、当該基材11の搬送方向Tに対してそれぞれ横方向に延在する少なくとも1つの通路04を有し、この場合、当該通路04内には、この搬送シリンダ01の周面03に当該基材11を保持するためのそれぞれ少なくとも1つのグリッパ06が配置されている(
図1および
図2)。当該通路04は、この搬送シリンダ01の周面03においてカバー08によりカバーされており、この場合、カバー08は、当該グリッパ06の個所に凹部を有している。この場合、当該グリッパ06は、アンダーフロアグリッパとして形成されている。少なくとも当該カバー08は、また場合によっては少なくとも1つのグリッパ06を支持する軸07も、
図1および
図2につき事前に説明したようにそれぞれ1つの冷却装置を有している。
【0024】
乾燥ユニット16はケーシング22を有していて、このケーシングは、特にシート印刷機の機械フレームに好ましくは水平に支持されている搬送シリンダ01の、電子ビーム発生器18に面した側を、少なくとも製造プロセス中、ほぼ半分の面にわたって、すなわち少なくとも160°の円弧区分で取り囲む。搬送シリンダ01をこのように取り囲むこのケーシング22は、電子ビームの延在により規定される平面に対して対称に配置されている2つの成形部材23;24を有しており、これら成形部材の、搬送シリンダ01の周面03に面した外側の境界部はそれぞれ、この搬送シリンダ01の輪郭に適合されていて、間隙26を形成するように、この搬送シリンダ01の周面03に対して最大3mmの間隔、特に例えば2mm~3mmの範囲の間隔を置いて配置されている。これらの両成形部材23;24は、乾燥ユニット16のチャンバ17内に、電子ビームの延在により規定される平面に対して直交するように形成される領域において、電子ビームを支障なく伝播させるために互いに間隔を置いて配置されている。両成形部材23;24は、ビーム保護のために、好ましくは、材料として鉛を含むそれぞれ1つのシールド27;28を有しており、これらのシールド27;28はそれぞれ、例えば鉛板の形態で形成されている。両成形部材23;24のそれぞれと搬送シリンダ01の周面03との間にそれぞれ形成される間隙26は、搬送シリンダ01の周に沿って、好ましくは少なくとも75°の、特に少なくとも80°の円弧区分にわたって延在しており、好ましくは最大3mmの、特に2mm~3mmの間隙幅を有している。このような形式の長く細い間隙26は、チャンバ17からから流出するビームに対する良好な保護を提供し、このチャンバ17も十分に封止するので、このチャンバ17から逃げる不活性ガス、またはこのチャンバ17内に侵入する周囲の酸素の量はそれぞれ深刻な範囲ではない。
【0025】
図1~
図3につき上記説明した乾燥ユニット16の使用のもと、放射線硬化性の印刷流体によってシート状の基材11を印刷するための少なくとも1つの印刷機構と、当該基材11の搬送方向Tで当該印刷機構の下流に位置する、この基材11上の放射線硬化性の印刷流体を乾燥させるための乾燥ユニット16とを備えたシート印刷機が得られ、この場合、乾燥ユニット16は、不活性ガスにより酸素低減された気体の媒体を含むチャンバ17を有し、この場合、チャンバ17内の酸素低減された気体の媒体は、最大1%の割合の酸素を有する。放射線硬化性の印刷流体の乾燥のために、チャンバ17内で各基材11に向けられる電子ビームを有する電子ビーム発生器18が設けられている。基材11は、シート印刷機のフレームに定置に配置された搬送シリンダ01の周面03に保持されて、このチャンバ17を通るように案内され、または少なくとも案内可能であって、この場合、搬送シリンダ01はその周面03に、当該基材11の搬送方向Tに対して横方向にそれぞれ延在する少なくとも1つの通路04を有している。この場合、当該通路04には、この搬送シリンダ01の周面03上に当該基材11を保持するための、軸07に支持された少なくとも1つのグリッパ06がそれぞれ配置されおり、当該グリッパ06は、当該基材11をこの搬送シリンダ01の周面03上に保持する作動状態で、この搬送シリンダ01の周面03によって形成される平面の完全に下方に配置されている。当該通路04は、搬送シリンダ01の周面03でカバー08によってカバーされており、当該カバー08および/または少なくとも1つのグリッパ06を支持する軸07は、それぞれ1つの冷却装置を有している。
【0026】
有利には、シート印刷機の少なくとも1つの印刷機構によって事前に印刷された乾燥させるべき基材11を乾燥ユニット16の搬送シリンダ01に供給するための第1のチェーンコンベヤシステムおよび/または乾燥ユニット16において乾燥させられた基材11を乾燥ユニット16の搬送シリンダ01から例えばシート印刷機の排紙装置へと導出するための第2のチェーンコンベヤシステムが設けられている。このシート印刷機によって行われる工業的製造プロセスにおいて、搬送シリンダ01の回転数に伴って生じる製造速度は、1時間当たり少なくとも10000枚の基材11であり、この場合、好ましくはこれらの基材11のすべてが、乾燥ユニット16のチャンバ17を通るようにガイドされる。
【符号の説明】
【0027】
01 搬送シリンダ
02 ベースボディ
03 周面
04 通路
05 -
06 グリッパ
07 軸
08 カバー
09 管路;孔
10 -
11 シート状の基材
12 前端部(11)
13 舌片状の領域(08)
14 凹部(08)
15 -
16 乾燥ユニット
17 チャンバ
18 電子ビーム発生器
19 制御ユニット
20 -
21 ホイール
22 ケーシング
23 成形部材
24 成形部材
25 -
26 間隙
27 シールド
28 シールド
D 回転方向
T 搬送方向