(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】リン酸ホウ素リチウム化合物、リチウム二次電池用添加剤、リチウム二次電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池の製造方法、及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 35/10 20060101AFI20230912BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20230912BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230912BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230912BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230912BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230912BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230912BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230912BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230912BHJP
C08G 79/04 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C01B35/10 Z
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/058
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/13
H01M10/0568
C01G53/00 A
C08G79/04
(21)【出願番号】P 2020007454
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019043927
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】清水 雄介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 謙一
(72)【発明者】
【氏名】三尾 茂
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/108795(WO,A1)
【文献】特開2010-257616(JP,A)
【文献】特開2003-272703(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013140(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20ー39/54
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
C07F 9/02
C07F 19/00
C01G 53/00
C08G 79/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物。
【化1】
〔式(I)中、nは1以上の整数を示す。〕
【請求項2】
数平均分子量が150~100000である請求項1に記載のリン酸ホウ素リチウム化合物。
【請求項3】
数平均分子量に対する重量平均分子量の比が1.0以上3.0以下である請求項1又は請求項2に記載のリン酸ホウ素リチウム化合物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリン酸ホウ素リチウム化合物を含むリチウム二次電池用添加剤。
【請求項5】
フッ素を含むリチウム塩である電解質と、
非水溶媒と、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリン酸ホウ素リチウム化合物と、
を含有するリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項6】
前記リン酸ホウ素リチウム化合物の含有量が、リチウム二次電池用非水電解液の全量に対し、0.1質量%~5.0質量%である請求項5に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項7】
更に、ビニレンカーボネートを含有する請求項5又は請求項6に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項8】
ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液が、請求項5~請求項7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用非水電解液であるリチウム二次電池前駆体。
【請求項9】
前記正極が、正極活物質として、下記一般式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物を含む請求項8に記載のリチウム二次電池前駆体。
LiNi
aCo
bMn
cO
2 … 一般式(C1)
〔一般式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載のリチウム二次電池前駆体を準備する工程と、
前記リチウム二次電池前駆体に対してエージング処理を施すことにより、リチウム二次電池を得る工程と、
を含み、
前記エージング処理は、前記リチウム二次電池前駆体に対し、30℃~70℃の環境下で、充電及び放電を施すことを含むリチウム二次電池の製造方法。
【請求項11】
ケースと、
前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
前記電解液が、フッ素を含むリチウム塩である電解質と非水溶媒とを含有する非水電解液であり、
前記負極の表面の少なくとも一部に、下記式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物及び前記電解質に由来する成分を含有する負極被膜が形成されており、
前記正極の表面の少なくとも一部に、下記式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物及び前記電解質に由来する成分を含有する正極被膜が形成されているリチウム二次電池。
【化2】
〔式(I)中、nは1以上の整数を示す。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、新規なリン酸ホウ素リチウム化合物、リチウム二次電池用添加剤、リチウム二次電池用非水電解液、リチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池の製造方法、及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液を用いた電池(例えばリチウム二次電池)の性能を改善するために、非水電解液に対し、種々の添加剤を含有させることが行われている。
リン酸リチウム化合物、例えば、モノフルオロリン酸リチウム及びジフルオロリン酸リチウムの少なくとも一方を添加剤として含有する電池用非水電解液が知られている(例えば、特許文献1参照)。
ホウ酸リチウム化合物も添加剤として用いられ、例えば、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムを含むリチウムイオン電池用電解液が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、例えば、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウムを含むリチウムイオン電池用電解液も知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、リン酸ホウ素リチウム化合物も添加剤として用いられ、例えば、LiBF3(PO2F2)等の化合物を含むリチウムイオン電池用電解液が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許3439085号公報
【文献】特許3730855号公報
【文献】特許3722685号公報
【文献】特許5544748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様の課題は、新規なリン酸ホウ素リチウム化合物、及び、リン酸ホウ素リチウム化合物を含むリチウム二次電池用添加剤を提供することである。
また、本開示の別の一態様の課題は、高温環境下における、電池抵抗、及びガスの発生による電池膨れ(「ガス膨れ」ともいう。)を低減できるリチウム二次電池用非水電解液、並びに、上記リチウム二次電池用非水電解液を含むリチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池、及び前記リチウム二次電池前駆体を用いるリチウム二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1>
下記式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物。
【0006】
【0007】
〔式(I)中、nは1以上の整数を示す。〕
【0008】
<2>
数平均分子量(Mn)が150~100000である<1>に記載のリン酸ホウ素リチウム化合物。
【0009】
<3>
数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が1.0以上3.0以下である<1>又は<2>に記載のリン酸ホウ素リチウム化合物。
【0010】
<4>
<1>~<3>のいずれか1つに記載のリン酸ホウ素リチウム化合物を含むリチウム二次電池用添加剤。
<5>
フッ素を含むリチウム塩である電解質と、非水溶媒と、<1>~<3>のいずれか1つに記載のリン酸ホウ素リチウム化合物と、を含有するリチウム二次電池用非水電解液。
<6>
前記リン酸ホウ素リチウム化合物の含有量が、リチウム二次電池用非水電解液の全量に対し、0.1質量%~5.0質量%である<5>に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
<7>
更に、ビニレンカーボネートを含有する<5>又は<6>に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
<8>
ケースと、前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、を備え、前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、前記電解液が、<5>~<7>のいずれか1つに記載のリチウム二次電池用非水電解液であるリチウム二次電池前駆体。
<9>
前記正極が、正極活物質として、下記一般式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物を含む請求項8に記載のリチウム二次電池前駆体。
LiNi
aCo
bMn
cO
2 … 一般式(C1)
〔一般式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、かつ、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
<10>
<8>又は<9>に記載のリチウム二次電池前駆体を準備する工程と、前記リチウム二次電池前駆体に対してエージング処理を施すことにより、リチウム二次電池を得る工程と、を含み、前記エージング処理は、前記リチウム二次電池前駆体に対し、30℃~70℃の環境下で、充電及び放電を施すことを含むリチウム二次電池の製造方法。
<11>
ケースと、前記ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、を備え、前記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、前記電解液が、フッ素を含むリチウム塩である電解質と非水溶媒とを含有する非水電解液であり、前記負極の表面の少なくとも一部に、下記式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物及び前記電解質に由来する成分を含有する負極被膜が形成されており、前記正極の表面の少なくとも一部に、下記式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物及び前記電解質に由来する成分を含有する正極被膜が形成されているリチウム二次電池。
【化2】
〔式(I)中、nは1以上の整数を示す。〕
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、新規なリン酸ホウ素リチウム化合物、リン酸ホウ素リチウム化合物を含むリチウム二次電池用添加剤が提供される。
また、本開示の別の一態様によれば、高温環境下における、電池抵抗、及びガスの発生による電池膨れ(「ガス膨れ」ともいう。)を低減できるリチウム二次電池用非水電解液、並びに、上記リチウム二次電池用非水電解液を含むリチウム二次電池前駆体、リチウム二次電池、及び前記リチウム二次電池前駆体を用いるリチウム二次電池の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態のリチウム二次電池前駆体の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0014】
〔リン酸ホウ素リチウム化合物〕
本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物は、下記式(I)で表される繰り返し構造「(以下、「繰り返し構造(I)」ともいう。)」を含む、新規なリン酸ホウ素リチウム化合物である。
【0015】
本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物において、繰り返し構造(I)を主成分として含むことが好ましい。ここで、「主成分」とは、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物の全量に対して、「繰り返し構造(I)」の占める割合が50質量%以上であることをいい、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0016】
【0017】
繰り返し構造(I)は、末端基を有してもよい直鎖状の構造をとることができる。繰り返し構造(I)が末端基を有する場合、末端基は好ましくは水酸基である。また、繰り返し構造(I)は、末端基を有さない環状の構造をとることもできる。
【0018】
式(I)中、nは1以上の整数を示す。また、nの上限値は特に限定されるものではないが、好ましくは1000であり、より好ましくは100である。式(I)におけるnが1の場合、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物は、下記式(II)で表される構造となる。
なお、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物には、n(繰り返し数)が異なる複数種の構造を含んでいてもよい。
【0019】
【0020】
本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物は、分子量を特に制限されるものでは無いが、好ましい分子量としては、GPC測定により求められるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)で、150~100000が好ましく、200~10000がより好ましく、300~5000がさらに好ましい。
【0021】
本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物は、重量平均分子量(Mw)の数平均分子量(Mn)に対する比(Mw/Mn)は、1.0以上3.0以下であることが好ましく、1.1以上2.7以下であることがより好ましい。
【0022】
〔リン酸ホウ素リチウム化合物の製造方法〕
以下、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物の製造方法の一例(「製法X」とも称す。)を示す。但し、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物の製造方法は、製法Xには限定されない。
【0023】
製法Xは、リチウム塩化合物と、リン酸化合物とを、溶媒中で反応させ、生成した水を除去して得られるリン酸リチウム化合物(「中間体A」とも称す。)に、三フッ化ホウ素化合物を溶媒中で反応させることにより、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物(即ち、繰り返し構造(I)を含むリン酸ホウ素リチウム化合物;以下、単に「リン酸ホウ素リチウム化合物(X)」とも称する)を得る反応工程を含む。
【0024】
反応工程におけるリチウム塩化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム-t-ブトキシドなどが挙げられ、炭酸リチウム、又は水酸化リチウムが好ましく、中でも、炭酸リチウムがより好ましい。
【0025】
反応工程におけるリン酸化合物としては、リン酸、ピロリン酸、トリリン酸、ポリリン酸、五酸化二リンなどが挙げられ、リン酸、ピロリン酸、トリリン酸などが好ましく、中でもリン酸、ピロリン酸がより好ましい。
【0026】
反応工程における三フッ化ホウ素化合物としては、気体状態の三フッ化ホウ素、及び、三フッ化ホウ素錯体が挙げられる。三フッ化ホウ素錯体としては、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体などが挙げられ、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が好ましい。
【0027】
反応工程における溶媒としては、例えば、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、トルエン、キシレン(すなわち、オルトキシレン、メタキシレン、又はパラキシレン)、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、ペンチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘプチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン(別名キュメン)、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン、メシチレン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン等の非水溶媒が挙げられる。
【0028】
反応工程における反応は、常圧下、減圧下のいずれでも行える。
反応工程における反応は、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)の生成を阻害する成分(例えば水分)の混入を防ぐ観点から、不活性雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、等)で行うことが好ましい。
【0029】
反応工程における反応温度は、60℃~150℃であることが好ましく、70℃~120℃であることがより好ましく、80℃~110℃であることがさらに好ましい。
反応温度が60℃以上であると、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)の生成が促進されやすい。
反応温度が150℃以下であると、生成したリン酸ホウ素リチウム化合物(X)の分解が抑制され、生成率が向上しやすい。
【0030】
反応工程における反応時間は、ジカルボン酸化合物とリチウム塩化合物とホウ酸化合物との反応を効率よく進行させる観点から、30分~12時間であることが好ましく、1時間~8時間であることがより好ましい。
【0031】
反応工程後、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を取り出す方法については特に制限はない。
例えば、反応工程により、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が、目的とする成分(即ち、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)自体)のみの固体として得られた場合には、その固体を特段の処理なく取り出すことができる。
また、反応工程により、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が溶媒に分散されたスラリーが得られた場合には、スラリーから溶媒を分離し、乾燥させることにより、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を取り出すことができる。
また、反応工程により、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が溶媒に溶解された溶液が得られた場合には、加熱濃縮等によって溶液から溶媒を留去することによってリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を取り出すことができる。
また、反応工程により、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が溶媒に溶解された溶液が得られた場合には、溶液に対し、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が溶解しない溶媒を加えることによってリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を析出させ、次いで溶液から溶媒を分離し、乾燥させることにより、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を取り出すこともできる。
【0032】
取り出されたリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を乾燥する方法としては、棚段式乾燥機での静置乾燥法;コニカル乾燥機での流動乾燥法;ホットプレート、オーブン等の装置を用いて乾燥させる方法;ドライヤーなどの乾燥機で温風又は熱風を供給する方法;等を適用できる。
【0033】
取り出されたリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を乾燥する際の圧力は、常圧、減圧のいずれであってもよい。
取り出されたリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を乾燥する際の温度は、20℃~150℃であることが好ましく、50℃~140℃であることがより好ましく、80℃~130℃であることがさらに好ましい。
温度が20℃以上であると乾燥効率に優れる。温度が150℃以下であると、生成したリン酸ホウ素リチウム化合物(X)の分解が抑制され、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を安定して取り出しやすい。
【0034】
取り出されたリン酸ホウ素リチウム化合物(X)は、そのまま用いてもよいし、例えば、溶媒中に分散又は溶解させて用いてもよいし、他の固体物質と混合して用いてもよい。
【0035】
本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物(X)は、リチウム電池用添加剤(好ましくはリチウム二次電池用添加剤、より好ましはリチウム二次電池の非水電解液用の添加剤)、反応試剤、合成反応触媒、各種電気化学デバイス用電解質、ドーピング剤、潤滑油の添加剤などの用途に有用に使用できる。
【0036】
〔リチウム二次電池用添加剤〕
本開示の二次電池用添加剤は、上述したリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を含む。本開示の二次電池用添加剤は、特にリチウム二次電池の非水電解液用の添加剤として好適である。
【0037】
〔リチウム二次電池用非水電解液〕
本開示の一実施形態に係るリチウム二次電池用非水電解液(以下、単に「本実施形態の非水電解液」ともいう)は、フッ素を含むリチウム塩である電解質と、非水溶媒と、
上述したリン酸ホウ素リチウム化合物(X)と、を含有する。
【0038】
本実施形態の非水電解液によれば、高温環境下における、電池抵抗、及びガスの発生による電池膨れ(「ガス膨れ」ともいう。)を抑制することができる。
【0039】
本実施形態の非水電解液(以下、単に「非水電解液」ともいう)は、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を含む。
本開示の非水電解液は、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を含有することにより、高温環境下における、電池抵抗の増加及びガス膨れを抑制できる。
【0040】
上記効果が奏される理由は、以下のように推測される。ただし、本実施形態の非水電解液は、以下の理由によって限定されることはない。
【0041】
本実施形態の非水電解液を用いてリチウム二次電池を製造する場合、その製造過程(例えば、後述するエージング工程)において、リチウム二次電池の負極の表面近傍において、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)と、電解質から生じたLiFと、の反応生成物が生成され、更に、反応生成物の分解物である成分が生成されると考えられる。この成分は、製造過程において、正極表面近傍及び負極表面近傍に移動し、正極表面及び負極表面に付着して、正極被膜及び負極被膜を形成すると考えられる。これにより、高温環境下での電池の安定性が高められ(例えば、正極活物質中の金属元素の溶出が抑制され)、その結果、高温環境下における、電池抵抗及びガス膨れが抑制されると考えられる。
【0042】
以上の理由により、本実施形態の非水電解液によれば、高温環境下における、電池抵抗及びガス膨れを抑制することができると考えられる。
【0043】
上述した、正極表面及び負極表面に対する成分の付着(即ち、正極被膜及び負極被膜の形成)は、リチウム二次電池を製造した後、リチウム二次電池を保存する場合の保存期間中においてもなお進行すると考えられる。
このため、リチウム二次電池を保存する場合における、リチウム二次電池の保存期間に対するリチウム二次電池の電池抵抗の増加率が低減されると考えられる。
【0044】
本開示の非水電解液は、上記リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
本開示の非水電解液は、上記リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を電池用添加剤として含んでもよいし、電解質の供給源として含んでもよい。
【0045】
本開示の非水電解液におけるリン酸ホウ素リチウム化合物(X)の含有量には特に制限はないが、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~5.0質量%である。
非水電解液の全量に対するリン酸ホウ素リチウム化合物(X)の含有量が0.1質量%以上である場合には、本開示の非水電解液による効果がより効果的に奏される。非水電解液の全量に対するリン酸ホウ素リチウム化合物(X)の含有量は、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上である。
非水電解液の全量に対するリン酸ホウ素リチウム化合物(X)の含有量が5.0質量%以下である場合には、非水電解液の化学的安定性がより向上する。
非水電解液の全量に対するリン酸ホウ素リチウム化合物(X)の含有量は、より好ましくは3.0質量%以下であり、更に好ましくは2.0質量%以下であり、更に好ましくは1.0質量%以下である。
【0046】
本開示の非水電解液が、上記リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を電解質の供給源として含む場合、電解質の濃度は、0.1mol/L~3mol/Lが好ましく、0.5mol/L~2mol/Lがより好ましい。
【0047】
なお、実際に電池を解体して採取した非水電解液を分析しても、上記リン酸ホウ素リチウム化合物(X)の量が、非水電解液への添加量と比較して減少している場合がある。従って、電池から取り出した非水電解液中に少量でも上記リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が検出できる場合には、本開示の非水電解液の範囲に含まれる。
また、非水電解液から上記リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が検出できない場合であっても、非水電解液中や電極の被膜中に、上記リン酸ホウ素リチウム化合物(X)の分解物由来の化合物が検出される場合も、本開示の非水電解液の範囲に含まれるとみなされる。
これらの取り扱いは、非水電解液に含有され得る上記リン酸ホウ素リチウム化合物(X)以外の化合物についても同様である。
【0048】
<電解質>
本実施形態の非水電解液は、フッ素を含むリチウム塩(以下、「含フッ素リチウム塩」ともいう)である電解質を少なくとも1種含有する。
含フッ素リチウム塩としては、例えば;
六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、六フッ化タンタル酸リチウム(LiTaF6)、等の無機酸陰イオン塩;
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CF3SO2)2N)、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(C2F5SO2)2N)等の有機酸陰イオン塩;
等が挙げられる。
含フッ素リチウム塩としては、LiPF6が特に好ましい。
【0049】
本実施形態の非水電解液は、フッ素を含まないリチウム塩である電解質を含有していてもよい。
フッ素を含まないリチウム塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四塩化アルミニウム酸リチウム(LiAlCl4)、リチウムデカクロロデカホウ素酸(Li2B10Cl10)等が挙げられる。
【0050】
本実施形態の非水電解液に含有される電解質全体に占める、含フッ素リチウム塩の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0051】
本実施形態の非水電解液に含有される電解質全体に占める、LiPF6の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0052】
本実施形態の非水電解液における電解質の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3mol/Lであり、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lである。
【0053】
本実施形態の非水電解液におけるLiPF6の濃度は、好ましくは0.1mol/L~3mol/Lであり、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lである。
【0054】
<非水溶媒>
本実施形態の非水電解液は、非水溶媒を少なくとも1種含有する。
非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、含フッ素鎖状カーボネート類、脂肪族カルボン酸エステル類、含フッ素脂肪族カルボン酸エステル類、γ-ラクトン類、含フッ素γ-ラクトン類、環状エーテル類、含フッ素環状エーテル類、鎖状エーテル類、含フッ素鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類、ラクタム類、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド燐酸、等が挙げられる。
【0055】
環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、等が挙げられる。
含フッ素環状カーボネート類としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、等が挙げられる。
鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、等が挙げられる。
脂肪族カルボン酸エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酪酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、トリメチル酪酸エチル、等が挙げられる。
γ-ラクトン類としては、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、等が挙げられる
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、等が挙げられる
鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、等が挙げられる。
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、等が挙げられる。
アミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、等が挙げられる。
ラクタム類としては、例えば、N-メチルピロリジノン、N-メチルオキサゾリジノン、N,N'-ジメチルイミダゾリジノン、等が挙げられる。
【0056】
非水溶媒は、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類、含フッ素環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、及び含フッ素鎖状カーボネート類の合計の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0057】
また、非水溶媒は、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、非水溶媒中に占める、環状カーボネート類及び鎖状カーボネート類の合計の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~100質量%であり、更に好ましくは80質量%~100質量%である。
【0058】
本実施形態の非水電解液中に占める非水溶媒の割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。
本実施形態の非水電解液中に占める非水溶媒の割合の上限は、他の成分(リン酸ホウ素リチウム化合物(X)、電解質、等)の含有量にもよるが、上限は、例えば99質量%であり、好ましくは97質量%であり、更に好ましくは90質量%である。
【0059】
非水溶媒の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において10.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0060】
<不飽和結合を有する環状炭酸エステル>
本実施形態の非水電解液は、非水電解液の化学的安定性をより向上させる観点から、不飽和結合を有する環状炭酸エステルの少なくとも1種を含有していてもよい。
一般的には、非水電解液が不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する場合には、電池の内部抵抗が上昇しやすい傾向がある。
しかし、本実施形態の非水電解液は、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を含有するため、更に、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する場合においても、電池の内部抵抗を低減させることができる。
むしろ、本実施形態の非水電解液が不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する場合には、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)の添加による内部抵抗低減の改善幅が広いという利点がある。
【0061】
不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、例えば、ビニレンカーボネート系化合物、ビニルエチレンカーボネート系化合物、あるいはメチレンエチレンカーボネート系化合物などが挙げられる。
【0062】
ビニレンカーボネート系化合物としては、例えば、ビニレンカーボネート(別名:1,3-ジオキソール-2-オン)、メチルビニレンカーボネート(別名:4-メチル-1,3-ジオキソール-2-オン)、エチルビニレンカーボネート(別名:4-エチル-1,3-ジオキソール-2-オン)、4,5-ジメチル-1,3-ジオキソール-2-オン、4,5-ジエチル-1,3-ジオキソール-2-オン、4-フルオロ-1,3-ジオキソール-2-オン、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソール-2-オン、等が挙げられる。
【0063】
ビニルエチレンカーボネート系化合物としては、例えば、ビニルエチレンカーボネート(別名:4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン)、4-メチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-エチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-n-プロピル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、5-メチル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、等が挙げられる。
【0064】
メチレンエチレンカーボネート系化合物としては、4-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジメチル-5-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,4-ジエチル-5-メチレン-1,3-ジオキソラン-2-オン、等が挙げられる。
【0065】
不飽和結合を有する環状炭酸エステルとしては、ビニレンカーボネートが特に好ましい。
【0066】
本実施形態の非水電解液が、不飽和結合を有する環状炭酸エステルを含有する場合、不飽和結合を有する環状炭酸エステルの含有量は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~10質量%であり、より好ましくは0.2質量%~5.0質量%であり、更に好ましくは0.3質量%~3.0質量%である。
【0067】
本実施形態の非水電解液がビニレンカーボネートを含有する場合、ビニレンカーボネートの含有量は、非水電解液の全量に対し、好ましくは0.1質量%~5.0質量%であり、より好ましくは0.2質量%~4.0質量%であり、更に好ましくは0.3質量%~3.0質量%であり、更に好ましくは0.3質量%~2.0質量%である。
【0068】
本実施形態の非水電解液がビニレンカーボネートを含有する場合、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)の含有質量をビニレンカーボネートの含有質量で除した値(以下、「含有質量比〔リン酸ホウ素リチウム化合物(X)/ビニレンカーボネート〕」ともいう)は、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.5以上であり、更に好ましくは1.0以上である。
含有質量比〔リン酸ホウ素リチウム化合物(X)/ビニレンカーボネート〕が0.1以上である場合には、保存後のリチウム二次電池の内部抵抗の上昇をより抑制できる。
【0069】
含有質量比〔リン酸ホウ素リチウム化合物(X)/ビニレンカーボネート〕の上限には特に制限はないが、ビニレンカーボネートによる効果をより効果的に得る観点から、好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下である。
【0070】
<その他の成分>
本実施形態の非水電解液は、上述した成分以外のその他の成分を少なくとも1種含有していてもよい。
その他の成分としては、スルトン(即ち、環状スルホン酸エステル)、酸無水物、等が挙げられる。
【0071】
本実施形態の非水電解液の固有粘度は、電解質の解離性及びイオンの移動度をより向上させる観点から、25℃において10.0mPa・s以下であることが好ましい。
【0072】
<非水電解液の製造方法>
本実施形態の非水電解液を製造する方法には特に限定はない。本実施形態の非水電解液は、各成分を混合して製造すればよい。
【0073】
本実施形態の非水電解液を製造する方法としては、例えば、
非水溶媒に電解質を溶解させて溶液を得る工程と、
得られた溶液に対し、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)(及び必要に応じ、その他の添加剤)を添加して混合し、非水電解液を得る工程と、
を含む製造方法が挙げられる。
この一例に係る製造方法において、(リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を添加する前の)溶液の電気伝導度に対し、得られた非水電解液の電気伝導度が低減されていることが好ましい。この態様の製造方法によって得られた非水電解液によれば、前述した非水電解液の効果(即ち、電池の内部抵抗を低減させる効果)がより効果的に発揮される。
【0074】
〔リチウム二次電池前駆体〕
本開示の一実施形態に係るリチウム二次電池前駆体(以下、単に「本実施形態の電池前駆体」ともいう)は、
ケースと、
ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
上記正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
上記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
上記電解液が、上述した本実施形態の非水電解液であるリチウム二次電池前駆体である。
【0075】
ここで、リチウム二次電池前駆体とは、充電及び放電が施される前のリチウム二次電池を意味する。
後述する本実施形態のリチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ、及び非水電解液をケースに収容してリチウム二次電池前駆体を製造し、得られたリチウム二次電池前駆体に対し、充電及び放電(好ましくは、充電及び放電を含むエージング処理)を施すことによって製造される。
【0076】
本実施形態の電池前駆体は、本実施形態の非水電解液を備える。
このため、本実施形態の電池前駆体によれば、本実施形態の非水電解液による効果と同様の効果が奏される。
【0077】
<ケース>
本実施形態の電池前駆体におけるケースとしては特に限定はなく、公知のリチウム二次電池用のケースが挙げられる。
ケースとしては、ラミネートフィルムを含むケース、電池缶と電池缶蓋とからなるケース、等が挙げられる。
【0078】
<正極>
本実施形態の電池前駆体における正極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極である。
本実施形態の電池前駆体における正極は、好ましくは、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極活物質を少なくとも1種含む。
本実施形態の電池前駆体における正極は、より好ましくは、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極合材層と、を備える。
正極合材層は、正極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0079】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、リチウム二次電池に通常用いられる正極活物質であり得る。
正極活物質としては、例えば;
リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物;
Liと、Niと、Li及びNi以外の金属元素(例えば、遷移金属元素、典型金属元素等)の少なくとも1種と、を構成金属元素として含む酸化物;
等が挙げられる。
酸化物中において、Li及びNi以外の金属元素は、好ましくは、原子数換算で、Niと同程度、又は、Niよりも少ない割合で含まれる。
Li及びNi以外の金属元素は、例えば、Co、Mn、Al、Cr、Fe、V、Mg、Ca、Na、Ti、Zr、Nb、Mo、W、Cu、Zn、Ga、In、Sn、La及びCeからなる群から選択される少なくとも1種であり得る。これらの正極活物質は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0080】
正極活物質は、好ましくは、下記一般式(C1)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCM」ともいう)を含む。
リチウム含有複合酸化物(C1)は、単位体積当たりのエネルギー密度が高く、熱安定性にも優れるという利点を有する。
【0081】
LiNiaCobMncO2 … 一般式(C1)
〔一般式(C1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0超1未満であり、a、b及びcの合計は、0.99~1.00である。〕
【0082】
NCMの具体例としては、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2等が挙げられる。
【0083】
正極活物質は、下記一般式(C2)で表されるリチウム含有複合酸化物(以下、「NCA」ともいう)を含んでもよい。
【0084】
LitNi1-x-yCoxAlyO2 … 一般式(C2)
(一般式(C2)中、tは、0.95以上1.15以下であり、xは、0以上0.3以下であり、yは、0.1以上0.2以下であり、x及びyの合計は、0.5未満である。)
【0085】
NCAの具体例としては、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2等が挙げられる。
【0086】
本実施形態の電池前駆体における正極が、正極集電体と、正極活物質及びバインダーを含有する正極合材層と、を備える場合、正極合材層中の正極活物質の含有量は、正極合材層の全量に対し、例えば10質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、特に好ましくは70質量%以上である。
また、正極合材層中の正極活物質の含有量は、例えば99.9質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
【0087】
(バインダー)
正極合材層に含有され得るバインダーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、フッ素樹脂、ゴム粒子等が挙げられる。
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。
ゴム粒子としては、スチレン-ブタジエンゴム粒子、アクリロニトリルゴム粒子等が挙げられる。
これらの中でも、正極合材層の耐酸化性を向上させる観点から、フッ素樹脂が好ましい。
バインダーは1種を単独で使用でき、必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0088】
正極合材層中におけるバインダーの含有量は、正極合材層の物性(例えば、電解液浸透性、剥離強度、等)と電池性能との両立の観点から、正極合材層に対し、0.1質量%~4質量%であることが好ましい。
バインダーの含有量が0.1質量%以上である場合には、正極集電体に対する正極合材層の接着性、及び、正極活物質同士の結着性がより向上する。
バインダーの含有量が4質量%以下である場合には、正極合材層中における正極活物質の量をより多くすることができるので、電池容量がより向上する。
【0089】
(導電助材)
本実施形態の電池前駆体における正極が、正極集電体と正極合材層とを備える場合、正極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
【0090】
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
公知の導電助材としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上を併せて使用することができる。
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975ULTRA等、PUER BLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱ケミカル社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000、LITX-50、LITX-200等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、Super-P(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35(デンカ社製、アセチレンブラック)等が挙げられる。
グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛(例えば、燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
(その他の成分)
本実施形態の電池前駆体における正極が、正極集電体と正極合材層とを備える場合、正極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0092】
(正極集電体)
正極集電体としては、各種のものを使用することができるが、例えばは、金属又は合金が用いられる。
正極集電体として、より具体的には、アルミニウム、ニッケル、SUS等が挙げられる。中でも、導電性の高さとコストとのバランスの観点から、アルミニウムが好ましい。ここで、「アルミニウム」は、純アルミニウム又はアルミニウム合金を意味する。
正極集電体として、特に好ましくはアルミニウム箔である。
アルミニウム箔としては特に限定されないが、A1085材、A3003材、等が挙げられる。
【0093】
(正極合材層の形成方法)
正極合材層は、例えば、正極活物質及びバインダーを含む正極合材スラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
正極合材スラリーに含まれる溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶媒が好ましい。
【0094】
正極集電体に対して正極合剤スラリーを塗布し、乾燥させる上で、塗布方法及び乾燥方法は特に限定されない。
塗布方法としては、例えば、スロット・ダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、グラビアコーティング等が挙げられる。
乾燥方法としては、温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;赤外線(例えば遠赤外線)照射による乾燥;が挙げられる。
乾燥時間及び乾燥温度については、特に限定されないが、乾燥時間は例えば1分~30分であり、乾燥温度は例えば40℃~80℃である。
正極合材層の製造方法は、正極集電体上に正極合剤スラリーを塗布し、乾燥させた後、金型プレス、ロールプレス等を用いた加圧処理により、正極活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。
【0095】
<負極>
本実施形態の電池前駆体における負極は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極である。
本実施形態の電池前駆体における負極は、好ましくは、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を少なくとも1種含む。
本実施形態の電池前駆体における負極は、より好ましくは、負極集電体と、負極活物質及びバインダーを含有する負極合材層と、を備える。
負極合材層は、負極集電体の表面の少なくとも一部に設けられる。
【0096】
(負極活物質)
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質であれば特に制限はないが、例えば、金属リチウム、リチウム含有合金、リチウムとの合金化が可能な金属もしくは合金、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な酸化物、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な遷移金属窒素化物、および、リチウムイオンのドープ・脱ドープが可能な炭素材料からなる群から選ばれた少なくとも1種(単独で用いてもよいし、これらの2種以上を含む混合物を用いてもよい)を用いることができる。
これらの中でもリチウムイオンをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料が好ましい。
上記炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛材料(例えば、人造黒鉛、天然黒鉛等)、非晶質炭素材料、等が挙げられる。
上記炭素材料の形態は、繊維状、球状、ポテト状、フレーク状いずれの形態であってもよい。
上記炭素材料の粒径は特に限定されないが、例えば5μm~50μm、好ましくは20μm~30μmである。
【0097】
非晶質炭素材料として、具体的には、ハードカーボン、コークス、1500℃以下に焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチカーボンファイバー(MCF)などが例示される。
【0098】
黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。
人造黒鉛としては、黒鉛化MCMB、黒鉛化MCFなどが用いられる。
また、黒鉛材料としては、ホウ素を含有するものなども用いることができる。
また、黒鉛材料としては、金、白金、銀、銅、スズなどの金属で被覆したもの、非晶質炭素で被覆したもの、非晶質炭素と黒鉛を混合したものも使用することができる。
【0099】
これらの炭素材料は、1種類で使用してもよく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0100】
(導電助材)
本実施形態の電池前駆体における負極が、負極集電体と負極合材層とを備える場合、負極合材層は、導電助材を含むことが好ましい。
導電助材としては、公知の導電助材を使用することができる。
負極合材層に含まれ得る導電助材の具体例は、前述した、正極合材層に含まれ得る導電助材の具体例と同様である。
【0101】
(その他の成分)
本実施形態の電池前駆体における負極が、負極集電体と負極合材層とを備える場合、負極合材層は、上記各成分に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、増粘剤、界面活性剤、分散剤、濡れ剤、消泡剤等が挙げられる。
【0102】
(負極合材層の形成方法)
負極合材層は、例えば、負極活物質及びバインダーを含む負極合材スラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥させることによって形成できる。
負極合材スラリーに含まれる溶媒としては、水を使用することが好ましいが、必要に応じて、例えば、集電体への塗工性向上のために、水と相溶する液状媒体を使用してもよい。
水と相溶する液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等が挙げられ、水と相溶する範囲で使用してもよい。
【0103】
負極合材層の形成方法の好ましい態様は、前述した、正極合材層の形成方法の好ましい態様と同様である。
【0104】
<セパレータ>
本実施形態の電池前駆体におけるセパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂を含む多孔質の平板が挙げられる。また、セパレータとしては、上記樹脂を含む不織布も挙げられる。
好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性樹脂シートが挙げられる。
セパレータの厚みは、例えば5μm~30μmとすることができる。
セパレータは、好ましくは、正極と負極との間に配置される。
【0105】
<電解液>
本実施形態の電池前駆体における電解液は、前述した本実施形態の非水電解液である。
本実施形態の非水電解液の好ましい態様は前述したとおりである。
【0106】
<電池前駆体の製造方法>
本実施形態の電池前駆体を製造する方法には特に限定はない。
本実施形態の電池前駆体を製造する方法の一例は、ケースに、正極、負極、セパレータ、及び電解液を収容する工程を含む。
上記一例は、好ましくは、
ケースに、正極、負極、及びセパレータを収容する工程と、
正極、負極、及びセパレータが収容されたケースに、電解液を注入する工程と、
を含む。
【0107】
<リチウム二次電池前駆体の一例>
以下、本実施形態のリチウム二次電池前駆体の一例について、
図1を参照しながら説明するが、本実施形態のリチウム二次電池前駆体は、以下の一例には限定されない。
【0108】
図1は、本実施形態のリチウム二次電池前駆体の一例である、リチウム二次電池前駆体1を示す概略断面図である。
リチウム二次電池前駆体1は、積層型リチウム二次電池の一例である。
本実施形態のリチウム二次電池前駆体としては、この積層型リチウム二次電池以外にも、例えば、正極、セパレータ、負極、及びセパレータをこの順の配置で重ねて層状に巻いた構造を有する、捲回型のリチウム二次電池も挙げられる。
【0109】
図1に示すように、リチウム二次電池前駆体1は、正極リード21及び負極リード22が取り付けられた電池素子10が、ラミネートフィルムで形成された外装体30の内部に封入された構造を有している。
リチウム二次電池前駆体1では、正極リード21及び負極リード22が、外装体30の内部から外部に向かって、反対方向に導出されている。
正極リード21及び負極リード22は、例えば超音波溶接や抵抗溶接などにより後述する正極集電体及び負極集電体に取り付けることができる。
なお、図示しないが、正極リード及び負極リードが、外装体の内部から外部に向かって、同一方向に導出されていてもよい。
【0110】
図1に示すように、電池素子10は、正極集電体11Aの両方の主面上に正極合材層11Bが形成されてなる正極11と、セパレータ13と、負極集電体12Aの両方の主面上に負極合材層12Bが形成されてなる負極12と、が積層された構造を有している。
この構造において、正極11の正極集電体11Aの片方の主面上に形成された正極合材層11Bと、正極11に隣接する負極12の負極集電体12Aの片方の主面上に形成された負極合材層12Bと、がセパレータ13を介して向き合っている。
【0111】
リチウム二次電池前駆体1の外装体30の内部には、本実施形態の非水電解液(不図示)が注入されている。本実施形態の非水電解液は、正極合材層11B、セパレータ13、及び負極合材層12Bに含浸されている。
リチウム二次電池前駆体1では、隣接する正極合材層11B、セパレータ13及び負極合材層12Bによって、1つの単電池層14が形成されている。
なお、正極及び負極は、各集電体の片面上に各活物質層が形成されているものであってもよい。
【0112】
なお、以下で説明する本開示の実施形態に係るリチウム二次電池の一例としては、リチウム二次電池前駆体1における正極合材層11B及び負極合材層12Bの各々の表面に、リチウム二次電池前駆体1に対する充電及び放電によって被膜が形成されている態様のリチウム二次電池が挙げられる。
【0113】
〔リチウム二次電池の製造方法〕
本開示の実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法(以下、「本実施形態の電池の製造方法」ともいう)は、
本実施形態の電池前駆体を準備する工程(以下、「準備工程」ともいう)と、
電池前駆体に対してエージング処理を施すことにより、リチウム二次電池を得る工程(以下、「エージング工程」ともいう)と、
を含み、
エージング処理は、電池前駆体に対し、30℃~70℃の環境下で、充電及び放電を施すことを含むリチウム二次電池の製造方法である。
【0114】
エージング工程におけるエージング処理は、好ましくは、
電池前駆体を30℃~70℃(好ましくは、30℃~60℃)の環境下で保持する初期保持フェーズと、
初期保持フェーズ後の電池前駆体を、30℃~70℃(好ましくは、30℃~60℃)の環境下で充電する初期充電フェーズと、
初期充電フェーズ後の電池前駆体を、30℃~70℃(好ましくは、30℃~60℃)の環境下で保持する第2保持フェーズと、
第2保持フェーズ後の電池前駆体に対し、30℃~70℃(好ましくは、30℃~60℃)の環境下で、充電及び放電の組み合わせを1回以上施す充放電フェーズと、
を含む。
【0115】
上記好ましい態様によれば、リチウム二次電池の高温環境下における、電池抵抗及びガス膨れを抑制の効果がより効果的に発揮される。
【0116】
〔リチウム二次電池〕
本開示の一実施形態に係るリチウム二次電池(以下、「本実施形態の電池」ともいう)は、
ケースと、
ケースに収容された、正極、負極、セパレータ、及び電解液と、
を備え、
正極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極であり、
負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極であり、
電解液が、フッ素を含むリチウム塩である電解質と非水溶媒とを含有する非水電解液であり、
前記負極の表面の少なくとも一部に、下記式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物及び前記電解質に由来する成分を含有する負極被膜が形成されており、前記正極の表面の少なくとも一部に、下記式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物及び前記電解質に由来する成分を含有する正極被膜が形成されているリチウム二次電池である。
【0117】
【化5】
〔式(I)中、nは1以上の整数を示す。〕
【0118】
ここで、式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物及び前記電解質に由来する成分とは、例えば、式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物の分解物、式(I)で表される繰り返し構造を含むリン酸ホウ素リチウム化合物と電解質との反応物、及び当該反応物の分解物から選択される少なくとも1つを含む成分のことをいう。
【0119】
本実施形態の電池は、上述した本実施形態の電池の製造方法によって好適に製造することができる。
本実施形態の電池は、上記負極被膜及び上記正極被膜を含むので、本実施形態の電池の製造方法によって製造された電池と同様の効果が奏される。
【0120】
本実施形態の電池における、ケース、正極、負極、及びセパレータの好ましい態様は、前述した、本実施形態の電池前駆体における、ケース、正極、負極、及びセパレータの好ましい態様と同様である。
【0121】
本実施形態の電池における非水電解液の好ましい態様は、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が含有されていることには限定されないこと以外は、本実施形態の非水電解液の好ましい態様と同様である。
本実施形態の電池における非水電解液は、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)を含有していても構わない。
例えば、本実施形態の電池の製造方法によって本実施形態の電池を製造した場合、エージング処理により、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)が完全に消費されていてもよいし、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)の一部が残存していてもよい。
【0122】
以上で説明した、本開示のリチウム二次電池用添加剤、本開示のリチウム二次電池用非水電解液、本開示のリチウム二次電池前駆体、本開示のリチウム二次電池の製造方法、及び本開示のリチウム二次電池は、例えば、携帯電話、ノート型パソコンなどの電子機器;電気自動車;ハイブリッド自動車;電力貯蔵用の電源;等の用途に適用可能である。
本開示のリチウム二次電池用添加剤、本開示のリチウム二次電池用非水電解液、本開示のリチウム二次電池前駆体、本開示のリチウム二次電池の製造方法、及び本開示のリチウム二次電池は、特に、ハイブリッド自動車又は電気自動車に対して特に好適に用いられるものである。
【実施例】
【0123】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
【0124】
〔実施例1〕式(I)の化合物の合成例
撹拌装置、温度計、ガス導入ライン、排気ライン、及び、ディーンシュターク管を備えた300mLのフラスコを準備した。ディーンシュターク管には、生成した水の除去用にトルエンを満たした。
上記300mLのフラスコを乾燥窒素ガスでパージした後、ここに、濃度87.5%のリン酸33.6g(0.30mol)と、炭酸リチウム11.08g(0.15mol)と、水60gとを入れ、攪拌混合して均一溶液を得た。攪拌をしながらここにトルエン100gを加え、30分後に加熱を開始し、85~110℃の温度でトルエンが還流する状態とした。加熱、攪拌、及びトルエン還流を継続し、留出する水をディーンシュターク管内でトルエンと分液して除去し続けた。還流するトルエンに水の同伴留出が無くなった段階で加熱を止め、反応液を室温(25℃)まで冷却した。上記によって得られた反応液は、固体が析出したスラリーであった。
【0125】
このスラリーを濾過して固形分を取り、窒素雰囲気下、150℃で6時間加熱し乾燥させた。これにより白色結晶の中間体A25.77g(0.30mol)を得た。次いでこの中間体Aを元の反応フラスコにジメチルカーボネート200gと共に入れ、攪拌混合して均質なスラリーを得た。攪拌をしながらここに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体42.58g(0.30mol)を入れ、その後90℃に加熱し、溶媒還流状態で2時間撹拌した(反応工程)。この2時間の攪拌の過程で、スラリーは均一な溶液へと変化した。この反応溶液を室温まで冷却し、次いで10kPa以下及び30℃の条件で乾燥させることにより、殆ど流動性の無い高粘度液状の生成物46.10gを得た。
【0126】
得られた生成物を重ジメチルスルホキシド溶媒に溶解し、11B-NMR分析、19F-NMR分析、及び31P-NMR分析を行った。各NMR分析によって得られたスペクトルのケミカルシフト〔ppm〕は、それぞれ以下の通りであった。
【0127】
11B-NMR:-2.2ppm。
19F-NMR:-148.3ppm。
31P-NMR:0.2ppm。
【0128】
得られた生成物は、11B-NMRと19F-NMRのスペクトルパターンから、トリフルオロボレート骨格を有することが確認され、尚且つ31P-NMRから、リン酸化合物であることが確認された。
【0129】
また、得られた生成物をジメチルホルムアミド溶媒に溶解し、GPC測定によって重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を求めた。GPC測定は、カラム:TSKgel Super AWM-H 9μm(6.0φ×150mm)2本直列、溶媒:10mM LiBr/ジメチルホルムアミド、カラム温度:40℃、で行った。Mw値、Mn値はポリスチレン換算値である。
【0130】
GPC測定の結果、Mw=1,700、Mn=1,500であり、Mw/Mn≒1.13であった。
Mw及びMnの測定結果から、nは8~11と考えられる。
【0131】
以上のように、本実施例1の合成によって得られた生成物は、一種のリン酸ホウ素リチウム化合物、即ち繰り返し構造(I)を含むリン酸ホウ素リチウム化合物であることが確認された。従って、本実施例1の結果により、下記反応スキームで繰り返し構造(I)を含む化合物(nは1以上)が得られたことが示された。
【0132】
【0133】
〔実施例101~104、比較例101~102〕
<非水電解液(試料0~試料5)の作製>
(試料0)
エチレンカーボネート(以下、EC)とジメチルカーボネート(以下、DMC)とメチルエチルカーボネート(EMC)とを、EC:DMC:EMC=30:35:35(体積比)で混合することにより、非水溶媒としての混合溶媒を作製した。
混合溶媒に対し、電解質としてのLiPF6を、最終的に得られる非水電解液中の濃度が1モル/リットルとなるように溶解させた。
以上により、試料0を得た。
試料0は、比較例101の電池に使用する非水電解液である。
【0134】
(試料1~2)
更に、リン酸ホウ素リチウム化合物(X)の一例として、実施例1で得られた化合物(以下、「化合物(I)」ともいう。)を、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量が、表1に示す含有量(質量%)となるように添加したこと以外は試料0と同様にして、試料1~試料2を得た。
試料1~試料2は、それぞれ、実施例101~実施例102の電池に使用する非水電解液である。
【0135】
(試料3)
更に、ビニレンカーボネート(VC)を、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量が、表2に示す含有量(質量%)となるように添加したこと以外は試料0と同様について、試料3を得た。
試料3は、比較例102の電池に使用する非水電解液である。
【0136】
(試料4~5)
更に、ビニレンカーボネート(VC)を、最終的に得られる非水電解液の全量に対する含有量が、表2に示す含有量(質量%)となるように添加したこと以外は試料1~試料2の各々と同様にして、試料4~5をそれぞれ得た。
試料4~5は、それぞれ、実施例103~実施例104の電池に使用する非水電解液である。
【0137】
<リチウム二次電池の作製>
以下のようにして、リチウム二次電池としての捲回型電池(設計容量1Ah)(以下、単に「電池」ともいう)を作製した。
【0138】
(正極の作製)
1.正極合材スラリー調製
正極合材スラリーの調製には、5Lのプラネタリーディスパを用いた。
正極活物質としてのNCM523(即ち、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)920g、導電助材としてのSuper-P(TIMCAL社製導電性カーボン)20g、及び導電助材としてのKS-6(TIMREX社製鱗片状黒鉛)20gを10分間混合した後、ここにN-メチルピロリドン(NMP)を100g加え、更に20分間混合した。
【0139】
次いで、8%-PVDF溶液(クレハ製PVDFW#7200をNMPに溶解)150gを加えて30分間混練し、次いでここに、上記8%-PVDF溶液200gを加えて30分間混練した。次いでここに、上記8%-PVDF溶液を80g加えて30分間混練した。その後、粘度調整のためNMP27gを加えて30分間混合した後、真空脱泡を30分間行った。
以上により、固形分濃度60%の正極合材スラリーを得た。
【0140】
2.塗工・乾燥・プレス
正極合材スラリーの塗工にはダイコーターを用いた。
上記正極合材スラリーを、乾燥後の塗布質量が19.0mg/cm2になるように、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み20μm、幅200mm)の片面の一部に塗布し乾燥させた。次いで、このアルミニウム箔の反対面(未塗工面)の一部に、同様に塗布質量が19.0mg/cm2になるように、上記正極合材スラリーを塗布し乾燥させた。
こうして得た両面塗工(38.0mg/cm2)されたアルミニウム箔を、真空乾燥オーブンにて、130℃で12時間乾燥させ、次いで、35トンプレス機を用い、プレス密度が2.9g/cm3となるように圧縮することにより、正極原反を得た。
この正極原反は、正極集電体としてのアルミニウム箔と、このアルミニウム箔の両面に設けられた正極合材層と、を含む。アルミニウム箔の両面は、それぞれ、正極合材層が形成された領域と、正極合材層が形成されていない領域(即ち、余白)と、を含む。
【0141】
3.スリット
上記正極原反をスリットすることにより、おもて面側に、56mm×334mmの正極合材層と、タブ溶接用余白と、を含み、裏面側に、56mm×408mmの正極合材層と、タブ溶接用余白と、を含む、正極C-1を得た。
【0142】
(負極の作製)
1.負極合材スラリーの調製
負極合材スラリーの調製には、5Lのプラネタリーディスパを用いた。
負極活物質としての天然黒鉛960g及び導電助材としてのSuper-P(導電性カーボン、BET比表面積62m2/g)10gに対し、1%-CMC水溶液(即ち、カルボキシメチルセルロース(CMC)の1質量%水溶液)を450g加え、30分間混合した。
得られた混合物に対し、1%-CMC水溶液300gを加えて30分間混練した後、更に、1%-CMC水溶液250gを加えて30分間混練した。
得られた混練物に対し、スチレンブタジエンゴム(SBR)(40%乳化液)50gを加えて30分間混合した後、真空脱泡を30分間行った。
以上により、固形分濃度45%の負極合材スラリーを調製した。
【0143】
2.塗工・乾燥・プレス
負極合材スラリーの塗工には、ダイコーターを用いた。
上記負極合材スラリーを、乾燥後の塗布質量が11.0mg/cm2になるように、負極集電体としての銅箔(厚み10μm)の片面の一部に塗布し乾燥させた。次いで、この銅箔の反対面(未塗工面)の一部に、上記負極合材スラリーを、塗布質量が11.0mg/cm2になるように塗布し、乾燥させた。
こうして得た両面塗工(22.0mg/cm2)された銅箔を、真空乾燥オーブンにて、120℃で12時間乾燥させ、次いで、小型プレス機を用い、プレス密度が1.45g/cm3となるように圧縮することにより、負極原反を得た。
この負極原反は、負極集電体としての銅箔と、銅箔の両面に設けられた負極合材層と、を含む。銅箔の両面は、それぞれ、負極合材層が形成された領域と、負極合材層が形成されていない領域(即ち、余白)と、を含む。
【0144】
3.スリット
上記負極原反をスリットすることにより、おもて面側に、58mm×372mmの負極合材層と、タブ溶接用余白と、を含み、裏面側に、58mm×431mmの負極合材層と、タブ溶接用余白と、を含む、負極A-1を得た。
【0145】
(電池前駆体の作製)
セパレータとして、多孔性樹脂シート(空隙率45%、厚み25μmのポリエチレン製多孔質膜)(60.5mm×450mm)を準備した。
負極A-1とセパレータと正極C-1とを、負極A-1の裏面がセパレータに接し、かつ、正極C-1の裏面がセパレータに接する向きで重ねて積層体を得た。得られた積層体を捲回し、捲回体を得た。得られた捲回体をプレス成型し、成型体を得た。
次いで、上記成型体における正極C-1の余白部分にアルミニウム製の正極タブを超音波接合機で接合し、上記成型体における負極A-1の余白部分にニッケル製の負極タブを超音波接合機で接合した。正極タブ及び負極タブが接合された成型体を、一対のラミネートシートで挟み込み、次いで三辺を加熱シールし、ラミネート体を得た。この際、ラミネート体における残りの一辺(加熱シールされていない一辺)から正極タブ及び負極タブがはみ出すようにした。
【0146】
次に、真空乾燥機を用い、真空引きを行いながら、上記ラミネート体を、70℃で12時間減圧乾燥させた。次に、真空引きを継続しながら、上記ラミネート体の内部に、上記残りの一辺から、非水電解液(試料0~試料5のいずれか1つ)を注入し、次いで上記残りの一辺を加熱シールした。電解液の注入量は、4.7gとした。
以上により、各実施例及び各比較例の電池前駆体(即ち、リチウム二次電池前駆体)をそれぞれ得た。
【0147】
(電池の作製(エージング処理))
各実施例及び各比較例の電池前駆体に対し、それぞれ、以下に示すエージング処理を施すことにより、各実施例及び各比較例の電池(即ち、リチウム二次電池)を得た。以下、詳細を示す。
【0148】
電池前駆体を、40℃の雰囲気温度下で12時間保持した。
次に、40℃の雰囲気温度下で、電池前駆体を、充電レート0.05Cにて3.0Vまで定電流充電し、次いで充電レート0.1Cにて3.4Vまで定電流充電し、次いで充電レート0.2Cにて3.7Vまで定電流充電した。
次に、40℃の雰囲気温度下で、電池前駆体を24時間休止させた。
次に、40℃の雰囲気温度下で、電池前駆体を、充電レート0.5Cにて4.2V(SOC(State Of Charge)100%)まで定電流定電圧充電(0.5C-CCCV)し、次いで30分間休止させ、次いで放電レート0.5Cにて2.5Vまで定電流放電(0.5C-CC)させた。次に、電池前駆体を、0.5C-CCCVにて4.2Vまで充電し、次いで0.5C-CCにて2.5Vまで放電させた。
以上により、試験用電池を得た。
【0149】
<高温保存後の電池抵抗、及び抵抗増加率の評価>
高温4週間後電池の電池抵抗、及び抵抗増加率の評価は、電池を保存する前(0週間後)、及び電池を0.2C-CCCVにて4.2Vまで充電し、60℃の環境下で、4週間保存した後(4週間保存後)の試験用電池を用いて、下記に示す操作を、25℃の条件下で行い、評価した。
【0150】
既述の電池を保存する前(0週間保存後)の試験用電池について、以下の方法により、各電池の初期(即ち、保存前)のDCIR(Direct current internal resistance;直流抵抗)を測定した。
【0151】
充電レート0.5Cにて3.7VまでCCCV充電した。
次に、電池に対し、放電レート1CにてCC10s放電を施し、次いで充電レート1CにてCC10s充電を施した。
次に、電池に対し、放電レート2CにてCC10s放電を施し、次いで充電レート1CにてCC20s充電を施した。
次に、電池に対し、放電レート3CにてCC10s放電を施し、次いで充電レート1CにてCC30s充電を施した。
次に、電池に対し、放電レート4CにてCC10s放電を行い、次いで充電レート1CにてCC40s充電を施した。
次に、電池に対し、放電レート5CにてCC10s放電を施し、次いで充電レート1CにてCC50s充電を施した。
【0152】
なお、CCCV充電とは、定電流定電圧(Constant Current Constant Voltage)で充電することを意味し、CC10s放電とは、定電流(Constant Current)にて10秒間放電することを意味し、CC10s充電とは、定電流(Constant Current)にて10秒間充電することを意味する。
【0153】
上記放電レート1C~5Cにおける「CC10s放電」による各電圧低下量(=放電開始前の電圧-放電開始後10秒目の電圧)と、各電流値(即ち、放電レート1C~5Cに相当する各電流値)と、に基づき直流抵抗(Ω)を求めた。
次に、各例における、高温4週間後電池の抵抗増加率を求めた。高温4週間後電池の抵抗増加率を算出するにあたり、増加の比較対象とする電池は、既述の電池を保存する前(保存0週間)の試験用電池である。つまり、高温4週間後電池の抵抗増加率は、既述の方法で測定した高温4週間後電池の直流抵抗値の値を、電池を保存する前(保存0週間)の試験用電池の直流抵抗値の値で除したものである。
結果を表1及び表2に示す。
なお、表1で示した高温環境下における、4週間保存後の電池抵抗、及び4週間保存後の抵抗増加率の値はそれぞれ、比較例101での4週間保存後の電池抵抗、及び4週間保存後の抵抗増加率の値を100%としたときの各例での相対値[%]である。また、表2で示した高温環境下における4週間保存後の電池抵抗、及び4週間保存後の抵抗増加率の値はそれぞれ、比較例102での4週間保存後の電池抵抗、及び4週間保存後の抵抗増加率の値を100%としたときの各例での相対値[%]である。
【0154】
<高温保存後のガス膨れ量>
上記試験用電池におけるガス膨れの抑制効果を、高温保存前後の試験用電池の厚みを比較することで評価した。評価手順を以下に示す。
作製した試験用電池を、アルキメデス法に基づく比重測定装置(SGM-300P、島津製作所製)により測定し、初期電池体積[cm3]とした。その後、電池の高温保存試験を終えた電池の体積を同様に測定し、これを高温保存後電池体積[cm3]として、高温保存後電池体積の差[cm3](体積増分)を求めた。この時、浸漬溶媒には純水を使用し、電池体積の算出時に用いる水の密度は、25℃での値(0.99704g cm-3)を用いた。
【0155】
後述の比較例101の試験用電池についても実施例と同様にして、初期電池体積[cm3]及び高温保存後電池体積[cm3]を測定し、比較例101の高温保存後電池体積の差[cm3]を求めた。
【0156】
以上の結果から、下記式により、比較例101での高温保存後ガス膨れ量を100%としたときの各例での高温保存後電池体積の差の相対値[%]を、「高温保存後ガス膨れ量[相対値;%]」として求めた。
結果を表1及に示す。
【0157】
高温保存後ガス膨れ量[相対値;%]
=(表1に記載の各例での高温保存後の電池体積の差/比較例101での高温保存後体積の差)×100
【0158】
実施例103~104についても同様にして、比較例102での高温保存後ガス膨れ量を100%としたときの各例での高温保存後ガス膨れ量の相対値[%]を、「高温保存後ガス膨れ量[相対値;%]」として求めた。
結果を表2に示す。
【0159】
【0160】
表1に示すように、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を添加剤として用いている実施例では、比較例に比べて、高温環境下における、電池抵抗、電池抵抗増加率及びガス膨れが低減されていることがわかる。
【0161】
【0162】
表2に示すように、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を添加剤として、VCと併用して用いている実施例では、比較例に比べて、高温環境下における、電池抵抗、電池抵抗増加率及びガス膨れが低減されていることがわかる。
【0163】
<高温サイクル後の電池抵抗の評価>
各例で得られた電池(すなわち、試験用電池)について、それぞれ、高温サイクル後(すなわち、高温環境下における充放電サイクル後)の電池抵抗の評価を行った。以下、詳細を示す。
【0164】
以下の操作を、45℃の温度条件にて行った。
試験用電池を、充電レート0.5CにてSOC100%まで充電させた後、放電レート1Cにて放電させるサイクルを、0サイクル、及び700サイクルそれぞれ行った。
各サイクル後に得られた試験用電池について、既述の方法により電池抵抗(Ω)を測定した。
結果を表3に示す。
なお、表3で示した700サイクル後の電池抵抗の値は、比較例101での700サイクル後の電池抵抗の値を100%としたときの各例での700サイクル後の電池抵抗の値の相対値[%]である。
【0165】
<高温サイクル後の電池抵抗増加率の評価>
高温環境下における700サイクル後の抵抗増加率の評価は、700サイクル後の電池に加え、既述の0サイクル後の試験用電池を用いて、下記に示す操作を、25℃の条件下で行い、評価した。
【0166】
既述の0サイクル後の試験用電池について、以下の方法により、各電池の初期(即ち、保存前)のDCIR(Direct current internal resistance;直流抵抗)を測定した。
【0167】
充電レート0.5Cにて3.7VまでCCCV充電した。
次に、電池に対し、放電レート1CにてCC10s放電を施し、次いで充電レート1CにてCC10s充電を施した。
次に、電池に対し、放電レート2CにてCC10s放電を施し、次いで充電レート1CにてCC20s充電を施した。
次に、電池に対し、放電レート3CにてCC10s放電を施し、次いで充電レート1CにてCC30s充電を施した。
次に、電池に対し、放電レート4CにてCC10s放電を行い、次いで充電レート1CにてCC40s充電を施した。
次に、電池に対し、放電レート5CにてCC10s放電を施し、次いで充電レート1CにてCC50s充電を施した。
【0168】
なお、CCCV充電とは、定電流定電圧(Constant Current Constant Voltage)で充電することを意味し、CC10s放電とは、定電流(Constant Current)にて10秒間放電することを意味し、CC10s充電とは、定電流(Constant Current)にて10秒間充電することを意味する。
【0169】
上記放電レート1C~5Cにおける「CC10s放電」による各電圧低下量(=放電開始前の電圧-放電開始後10秒目の電圧)と、各電流値(即ち、放電レート1C~5Cに相当する各電流値)と、に基づき直流抵抗(Ω)を求めた。
次に、各例における、高温700サイクル後の電池の抵抗増加率を求めた。高温700サイクル後の電池の抵抗増加率を算出するにあたり、増加の比較対象とする電池は、既述の0サイクル後の試験用電池である。つまり、高温700サイクル後の抵抗増加率は、既述の方法で測定した高温700サイクル後の電池の直流抵抗値の値を、0サイクル後の試験用電池の直流抵抗値の値で除したものである。
結果を表3に示す。
なお、表3で示した700サイクル後の抵抗増加率の値は、比較例101での700サイクル後の電池抵抗増加率の値を100%としたときの各例での700サイクル後の電池抵抗増加率の値の相対値[%]である。
【0170】
【0171】
表3に示すように、本開示のリン酸ホウ素リチウム化合物(X)を添加剤として、VCと併用して用いている実施例では、比較例に比べて、高温環境下における、電池抵抗、及び電池抵抗増加率が低減されていることがわかる。
【符号の説明】
【0172】
1 リチウム二次電池前駆体
10 電池素子
11 正極
11A 正極集電体
11B 正極合材層
12 負極
12A 負極集電体
12B 負極合材層
13 セパレータ
14 単電池層
21 正極リード
22 負極リード
30 外装体