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特許7346800接着式パネル壁構造、及び接着式パネル材設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】接着式パネル壁構造、及び接着式パネル材設置方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/94 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
E04B2/94
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018159447
(22)【出願日】2018-08-28
(65)【公開番号】P2019044578
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2017164813
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】三橋 猛志
(72)【発明者】
【氏名】山口 修
(72)【発明者】
【氏名】小澤 譲一
(72)【発明者】
【氏名】倉内 晴久
(72)【発明者】
【氏名】河野 良行
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-046721(JP,A)
【文献】実開平06-043129(JP,U)
【文献】特開平11-107419(JP,A)
【文献】実開平04-119022(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56-2/70,2/88-2/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付け治具によってパネル材が取付け下地に固定されたパネル壁構造において、
前記取付け治具は、挿通孔が設けられた係止具とボルト材とを有するとともに、該係止具が該ボルト材周りに回転可能となるように前記パネル材に取り付けられ、
前記係止具と前記取付け下地の一部が接着固定され、
前記係止具は、前記取付け下地の前記一部に接着固定された姿勢で左右に延びる左右アームを有し、
また前記係止具は、前記ボルト材によって前記パネル材に取り付けられる第1面と、前記取付け下地の前記一部に接着固定される第2面とを有するとともに、側面断面視で該第1面と該第2面とが段違いとなる形状であり、
前記第2面と前記パネル材との間に、前記取付け下地の前記一部が収容され、
また前記係止具は、平面断面視で前記第1面と前記左右アームとが段違いとなる形状であり、
前記係止具と前記取付け下地の前記一部との接着固定が解除され該係止具が前記ボルト材周りに回転したときに、前記左右アームと前記パネル材との間に前記取付け下地の前記一部が収容されるとともに、該左右アームが該取付け下地の前記一部表面を覆うように当接することによって、前記パネル材の転倒を防止し得る、
ことを特徴とする接着式パネル壁構造。
【請求項2】
前記係止具は、前記取付け下地の前記一部に接着固定された姿勢で下方に延びる下方アームを有し、
また前記係止具は、側面断面視で前記第1面と前記下方アームとが段違いとなる形状であり、
前記係止具と前記取付け下地との前記一部の接着固定が解除され前記係止具が前記ボルト材周りに回転したときに、前記下方アームと前記パネル材との間に前記取付け下地の前記一部が収容されるとともに、前記下方アームが該取付け下地の前記一部の表面を覆うように当接することによって、前記パネル材の転倒を防止し得る、
ことを特徴とする請求項1記載の接着式パネル壁構造。
【請求項3】
取付け治具によってパネル材を取付け下地に設置する方法において、
前記取付け治具は、挿通孔が設けられた係止具とボルト材とを有するとともに、該係止具が該ボルト材周りに回転可能となるように前記パネル材に取り付けられ、
前記係止具は、前記取付け下地の一部に接着固定された姿勢で左右に延びる左右アームを有し、
また前記係止具は、前記ボルト材によって前記パネル材に取り付けられる第1面と、前記取付け下地の前記一部に接着固定される第2面とを有するとともに、側面断面視で該第1面と該第2面とが段違いとなる形状であり、
さらに前記係止具は、平面断面視で前記第1面と前記左右アームとが段違いとなる形状であり、
前記係止具のうち前記取付け下地と接触する範囲内、及び/又は前記取付け下地のうち前記係止具と接触する範囲内に、接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記パネル材を計画された位置に配置するパネル材配置工程と、
前記第2面と前記パネル材との間に前記取付け下地の前記一部を収容したうえで、前記係止具と前記取付け下地の前記一部を接着固定することで、前記取付け下地に前記パネル材を設置するパネル材設置工程と、を備え、
前記係止具と前記取付け下地の前記一部との接着固定が解除され該係止具が前記ボルト材周りに回転したときに、前記左右アームと前記パネル材との間に前記取付け下地の前記一部が収容されるとともに、前記左右アームが該取付け下地の前記一部表面を覆うように当接することによって、前記パネル材の転倒を防止し得る、
ことを特徴とする接着式パネル材設置方法。
【請求項4】
取付け治具によってパネル材を取付け下地に設置する方法において、
前記取付け治具は、挿通孔が設けられた係止具とボルト材とを有するとともに、該係止具が該ボルト材周りに回転可能となるように前記パネル材に取り付けられ、
前記係止具は、前記取付け下地の一部に接着固定された姿勢で左右に延びる左右アームを有し、
また前記係止具は、前記ボルト材によって前記パネル材に取り付けられる第1面と、前記取付け下地の前記一部に接着固定される第2面とを有するとともに、側面断面視で該第1面と該第2面とが段違いとなる形状であり、
さらに前記係止具は、平面断面視で前記第1面と前記左右アームとが段違いとなる形状であり、
前記パネル材を計画された位置に配置するパネル材配置工程と、
前記係止具を前記ボルト材周りに回転させることによって前記取付け下地に該係止具を当接するとともに、該取付け下地に該係止具が接触する範囲をマーキングする墨出し工程と、
前記係止具を前記ボルト材周りに回転させることによって前記取付け下地から該係止具を離したうえで、前記墨出し工程でマーキングした範囲内に接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
再度、前記係止具を前記ボルト材周りに回転させることによって前記取付け下地に該係止具を当接し、前記第2面と前記パネル材との間に前記取付け下地の前記一部を収容したうえで、前記係止具と前記取付け下地の前記一部を接着固定することで、前記取付け下地に前記パネル材を設置するパネル材設置工程と、を備え、
前記係止具と前記取付け下地の前記一部との接着固定が解除され該係止具が前記ボルト材周りに回転したときに、前記左右アームと前記パネル材との間に前記取付け下地の前記一部が収容されるとともに、前記左右アームが該取付け下地の一部表面を覆うように当接することによって、前記パネル材の転倒を防止し得る、
ことを特徴とする接着式パネル材設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、建築壁用のパネル材の設置方法に関する技術であり、より具体的には、溶接を使用することなく接着剤を用いてパネル材や下地材を設置する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の間仕切り壁や外壁に用いられる帳壁(非構造壁)は、工場で生産されたいわゆる2次製品のパネル(板状の壁材)を利用するのが主流となっている。中でもALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)パネルは、耐火性、断熱性、遮音性に優れ、何より軽量であることから最も好んで利用される2次製品パネルの一つである。
【0003】
ALCパネルは、我が国に導入されて以来50年近くが経過しており、この間数多く採用されていることもあって「ALC構造設計基準」が整備され、またALCの取付けに関する標準構法も制定されている。このALC取付けの標準構法にはいくつかの構法が規定されており、例えばそのうちの一つであるロッキング構法は、地震などにより建築物に層間変形が生じた際、その面内方向に追従してALCパネルが微少回転(例えば1/100rad)するように取付ける構法である。
【0004】
通常、ALCパネルをはじめとする2次製品パネル(以下、単に「パネル材」という。)は、「取付け下地」と呼ばれる鋼製の形鋼(一般的には山形鋼)を利用して設置される。より具体的には、構造躯体である鋼製の梁や柱(一般的にはH形鋼やI形鋼)に現場溶接によって取付け下地を固定し、パネル材を所定位置に配置したうえで、パネル材にアンカー固定された取付け金物と、取付け下地を現場溶接によって固定する。
【0005】
先に説明したALC取付けの標準構法でもALCパネルの設置にあたっては、やはり取付け下地を構造躯体(梁や柱)に現場溶接で固定することとしており、そしてALCパネルの取付け金物を、溶接やボルトによって取付け下地に固定するよう定めている。
【0006】
このように、これまでパネル材を設置するには現場溶接が前提となっており、取付け治具など細部に着目した改善技術が提案されることはあっても、溶接に代わる他の接合手法が提案されることはなかった。例えば特許文献1では、従来よりも耐力が大きく、外力が作用してもパネルを破壊することがない取付金具を提案しているが、この取付金具もやはりL字型アングル(取付け下地)に溶接固定することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-324415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶接接合は、接合しようとする2つの鋼材(母材)を溶かして合わせることによって、あるいはさらに同質の鋼材(溶加材)を溶かして添加することで2つの部材を接合する手法であり、ガス溶接や、電子ビーム溶接、レーザー溶接などの種類があるが、最も多用されているのはアーク溶接である。アーク溶接は、わずかに離れた電極間に電位差を与えてアークを発生させ、この空中放電のアークによって生じた熱で母材や溶加材を溶かす方法である。具体的には、電極の一端を接続した母材に、電極他端を接続した溶接棒(溶加材)を接近させて白熱のアーク(アーク光)を発生させ、アークの熱によって母材が溶融するとともに、溶接棒の鋼材が溶けだした溶融鋼が母材に添加される。
【0009】
アーク溶接には、アーク溶接機をはじめ、溶接棒を保持する手溶接トーチや、アーク光から作業者の目を保護する溶接面などが必要である。またアーク溶接機は電源を必要とすることから、キャプタイヤコードやキャプタイヤドラムなども必要となる。このようにアーク溶接を行うためには、様々な道具を用意する必要があり、しかも溶接個所を変えるたびにこれらの道具を移動しなければならない。特にアーク溶接機はその重量が比較的大きい(小型のものでも50kg程度)ことから、これを移動するには相当の労力と時間を必要とし、またこれに伴うキャプタイヤコードの引き回しも相当に手間がかかる作業である。
【0010】
さらにアーク溶接は、極めて繊細な作業であり、特別な教育を受けた者でなければその作業を行うことができず、これに加えて通常は相当の経験を有する者が担当する。すなわちアーク溶接は、多くの道具を移動するなど作業手間が掛かり、また作業者が限定的であるという問題を抱えている。そのうえ、溶接作業中に火気を伴うことから火災のおそれがあり、接合する部材の溶接個所は防錆被膜(例えば電気亜鉛メッキや塗料など)が除去されてしまうといった問題も指摘できる。
【0011】
このような背景のもと、溶接に代わる接合手法が切望されていた。なお、溶接に代わる接合手法として、タッピングネジを使用することも考えられる。電動ドリルによりタッピングネジで、例えば取付け下地にALCパネルの取付け金物を縫い付けるわけである。しかしながら、取付け下地などの鋼材に対してタッピングネジを縫い付けるのは容易ではなく、溶接接合よりも作業性が良いとはいえない。
【0012】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち溶接作業を必要とすることなく容易にパネル材を設置することができる接着式パネル壁構造、及び接着式パネル材設置方法を提供することである。また、火災によって接着剤が燃焼するなど不測の事態によって接着固定が解除されることもあるが、このような状態でもパネル材の転倒を防止することができる技術を提供することも本願発明の課題のひとつである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、溶接に代えて接着剤によって部材同士を接合して固定する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0014】
本願発明の接着式パネル壁構造は、パネル材が具備する取付け治具と取付け下地が接着固定されることによって、パネル材が取付け下地に固定された壁構造である。この取付け治具は、挿通孔が設けられた係止具、及びボルト材を有するものであり、係止具がボルト周りに回転可能となるようにパネル材に取り付けられる。係止具は、取付け治具が取付け下地に接着固定された姿勢で左右に伸びる左右アームを有している。そして、取付け治具と取付け下地との接着固定が解除され、さらに係止具がボルト周りに回転したときに、同様に回転した左右アームが取付け下地に当接することによって、パネル材の転倒(取付け下地側とは反対方向への転倒)を防ぐことができる。
【0015】
本願発明の接着式パネル壁構造は、下方アームが形成された係止具を用いた構造とすることもできる。この下方アームは、取付け治具が取付け下地に接着固定された姿勢で下方に伸びる部材である。この場合、取付け治具と取付け下地との接着固定が解除され、さらに係止具がボルト周りに回転したときに、同様に回転した下方アームが取付け下地に当接することによって、パネル材の転倒(取付け下地側とは反対方向への転倒)を防ぐことができる。
【0016】
本願発明の接着式パネル壁構造は、パネル材が具備する取付け治具と取付け下地が接着固定されることによって、パネル材が取付け下地に固定された壁構造である。この取付け治具は、挿通孔が設けられた係止具、及びボルト材を有するものであり、係止具がボルト周りに回転可能となるようにパネル材に取り付けられる。なお、パネル材や取付け下地のうち、取付け下地に接着固定された取付け治具の両側方には、回転防止突起が設けられる。そして、取付け治具と取付け下地との接着固定が解除されたときに、回転防止突起が係止具の回転を制止することによって、パネル材の転倒(取付け下地側とは反対方向への転倒)を防ぐことができる。
【0017】
本願発明の接着式パネル材設置方法は、取付け治具によってパネル材を取付け下地に設置する方法であり、接着剤塗布工程とパネル材配置工程、パネル材設置工程を備えた方法である。なお取付け治具は、挿通孔が設けられた係止具とボルト材とを有するとともに、係止具がボルト周りに回転可能となるようにパネル材に取り付けられる。また係止具は、取付け治具が取付け下地に接着固定された姿勢で左右に伸びる左右アームを有している。接着剤塗布工程では、取付け治具のうち取付け下地と接触する範囲内(あるいは取付け下地のうち取付け治具と接触する範囲内)に接着剤を塗布し、パネル材配置工程では、パネル材を計画された位置に配置し、パネル材設置工程では、取付け治具と取付け下地を接着固定することによって取付け下地にパネル材を設置する。そして、取付け治具と取付け下地との接着固定が解除されたときに、回転防止突起が係止具の回転を制止することによって、パネル材の転倒(取付け下地側とは反対方向への転倒)を防ぐことができる。
【0018】
本願発明の接着式パネル材設置方法は、さらに回転防止突起形成工程を備えた方法とすることもできる。回転防止突起形成工程では、パネル材や取付け下地のうち、取付け下地に接着固定された取付け治具の両側方に、回転防止突起を形成する。この場合、取付け治具と取付け下地との接着固定が解除されたときに、回転防止突起が係止具の回転を制止することによって、パネル材の転倒(取付け下地側とは反対方向への転倒)を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0019】
本願発明の接着式パネル壁構造、及び接着式パネル材設置方法には、次のような効果がある。
(1)溶接作業を必要としないことから、極めて容易かつ短時間で作業を行うことができる。また、作業者が限定されることがなく、作業中の火災のおそれもない。
(2)事前に設計した仕様で接着剤を塗布すれば、十分な必要耐力(強度)が得られ、その結果十分な強度を有する構造躯体を得ることができる。なお、発明者らが行った種々の試験により、接着固定がパネル材を躯体に設置するうえで必要とされる耐力を有していることを確認している。
(3)接着剤の配合によって硬化時間を調整することができる。これにより全体工程のクリティカルパスを短縮するなど、構造躯体完成までの工期を短縮することもできる。
(4)火災等により接着固定が解除された場合であっても、パネル材の転倒を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】構造躯体に設置されたパネル材を示す正面図。
図2】上側接合部の構造形式の一例を示す部分詳細図。
図3】下側接合部の構造形式の一例を示す部分詳細図。
図4】上側接合部と下側接合部の構造形式の一例を示す部分詳細図。
図5】パネル材の上側接合部の構造形式であり、取付け治具としてイナズマプレートを使用しない例を示す斜視図。
図6】受けプレートを含む取付け治具を示す構造詳細図。
図7】構造躯体の直下に配置されたパネル材の上側接合部の構造形式の一例を示す部分詳細図。
図8】第1の実施形態の主な工程の流れを示すフロー図。
図9】構造躯体の下フランジの上面側に取付け下地のフランジの下面側を接着固定する構造形式を示す部分詳細図。
図10】第2の実施形態の主な工程の流れを示すフロー図。
図11】第2の実施形態の主な工程を説明するステップ図。
図12】(a)は、試験の結果得られた「取り付け強度」を示す図、(b)はALCパネルと山形鋼の固定部における変位と荷重の関係を示す図であり本願発明による接着仕様と従来の溶接仕様を比較したグラフ図、(c)はALCパネル中央部の変位と荷重の関係を示す図であり本願発明による接着仕様と従来の溶接仕様が同等の強度であることを示すグラフ図。
図13】(a)は正常な状態の接着式パネル壁構造を示す正面図と側面図、(b)は接着固定が解除された状態の接着式パネル壁構造を示す正面図と側面図。
図14】(a)は左右アームが形成された取付け治具を示す正面図であり、(b)はその断面図(図14(a)のA-A矢視)、(c)はパネル材に取り付けられ回転した状態の取付け治具を示す正面図。
図15】(a)は平面視で半円形の左右アームが設けられた取付け治具を示す正面図、(b)は平面視でT字形状の左右アームが設けられた取付け治具を示す正面図、(C)は係止具の左右両側に2箇所ずつ左右アームが設けられた取付け治具を示す正面図。
図16】下方アームが形成された取付け治具を示す側面図。
図17】(a)は取付け下地のうち接着固定された取付け治具の両側方に設置された回転防止突起を示す正面図、(b)はパネル材のうち接着固定された取付け治具の両側方に設置された回転防止突起を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の接着式パネル壁構造、及び接着式パネル材設置方法の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0022】
1.全体概要
図1は、構造躯体(梁や柱)に設置されたパネル材100を示す正面図である。このパネル材100は、ALCパネルや、プレキャストコンクリート板、押出成形セメント板 (ECP:Extruded Cement Panel)、スパンクリート製コンクリート板といった建築壁用の2次製品パネルである。この図に示すように、パネル材100の中央部には上下1箇所ずつ取付け金物(以下、金属製以外の材料を用いたものも含める意味で「取付け治具200」ということとする。)が設けられており、構造躯体に固定された取付け下地300とこの取付け治具200を接着剤で固定することによって、パネル材100は構造躯体に設置される。
【0023】
取付け治具200が取付け下地300に固定される部分(以下、「接合部」という。)は、いくつかの構造形式を例示することができる。例えば図2は、パネル材100の上側接合部の構造形式の一例を示しており、構造躯体400であるH形鋼の下面に取付け下地300である山形鋼が固定され、この取付け下地300に取付け治具200を接着固定している。この図に示す取付け治具200は、ボルト材210と板状の係止具220で形成され、係止具220は断面視(図2)で段違いの2面を有するいわゆる「イナズマプレート(例えばイナズマプレートR)」であり、ボルト材210によってパネル材100に取り付けられる。具体的には、パネル材100のアンカー孔に貫入したボルト材210に、係止具220に設けられた挿通孔を通し、つまりボルト材210を介して係止具220をパネル材100に取り付けるわけである。あるいは、係止具220の挿通孔にボルト材210を通した状態で、パネル材100のアンカー孔にボルト材210を貫入してもよい。そして、係止具220の段差を利用して取付け下地300の一部(ウェブ)を収容し、この収容した箇所で係止具220と取付け下地300を接着固定する。係止具220内に取付け下地300を収容することで、部材間に隙間が生じることがなく、係止具220とパネル材100、そして取付け下地300とパネル材100それぞれの接触面が同一面(いわゆる面一)となるわけである。
【0024】
図3は、パネル材100の下側接合部の構造形式の一例を示す部分詳細図である。この場合も、取付け治具200としてイナズマプレート(例えばイナズマプレートR)が用いられており、係止具220内に取付け下地300の一部を収容したうえで、係止具220と取付け下地300が接着固定される。なお、図3ではパネル材100とボルト材210を省略しているが、図2と同様、パネル材100のアンカー孔に貫入したボルト材210に係止具220の挿通孔を通すことで、係止具220はパネル材100に取り付けられる。もちろんこの場合も、係止具220の挿通孔に通した状態でボルト材210をパネル材100のアンカー孔に貫入してもよい。
【0025】
図4は、上側接合部と下側接合部の構造形式の一例を示す部分詳細図である。この構造形式は、上層階と下層階との取り合い部分などで特に採用される。図4に示す上層パネル材100Uの下側接合部は、構造躯体400の上フランジに固定された上層取付け下地300Uを利用して接着固定されており、取付け治具200(上層取付け治具200U)としてイナズマプレート(例えばイナズマプレートR)を用いた図3と同様の構造形式である。一方の下層パネル材100Lの上側接合部も、取付け治具200(下層取付け治具200L)としてイナズマプレート(例えばイナズマプレートR)を用いた図2と同様の構造形式であるが、図2図4ではパネル材100の上面(天端)位置が相違する。図2ではパネル材100の天端が構造躯体400の下フランジ面と略同じ高さに位置しているが、図4では下層パネル材100Lの天端が構造躯体400の上フランジ面と略同じ高さに位置しており、下層パネル材100Lの天端よりやや下がった位置で下層取付け治具200Lと下層取付け下地300Lが接着固定されている。このように上側接合部や下側接合部の位置は、上層階との兼ね合いなどその状況に応じて適宜設計することができる。
【0026】
図5は、パネル材100の上側接合部の構造形式であり、取付け治具200としてイナズマプレートを使用しない例を示す斜視図である。イナズマプレートを使用しない場合の取付け治具200は、挿通孔230を有する平プレート(係止具220)と、ボルト材210、そして受けプレート240によって形成することができる。この受けプレート240は、図6に示すように断面視でL字形を呈しており、略水平姿勢の棚板部240Sと、その両端に略鉛直姿勢で連結された2つの羽根板部240Wによって構成される。そして羽根板部240Wの背面側で取付け下地300と接着固定され、また2つの羽根板部240W間に生じた空隙(溝)の中に平プレート(係止具220)が挿入され、平プレートの背面側でも取付け下地300と接着固定される。この平プレートは、その挿通孔230に通されたボルト材210によってパネル材100にアンカー固定されている。なお、図5に示すパネル材100の上にさらに別のパネル材100を設置するには、受けプレート240及び平プレートの上にイナズマプレートTP(例えばイナズマプレートW)を設置するとよく、この場合も接着によってイナズマプレートTPを固定すると好適である。
【0027】
図7は、構造躯体400の直下に配置されたパネル材100の上側接合部の構造形式の一例を示す部分詳細図である。この構造形式は、パネル材100を間仕切り壁として使用する場合に特に採用される。この構造形式でもやはり取付け治具200としてイナズマプレートが用いられており、基本的には図2図4とほぼ同様の構造であるが、取付け下地300が構造躯体400の下フランジの中央付近に固定され、さらに取付け下地300である山形鋼の内部側(フランジとウェブで形成される空間内)にパネル材100が位置している点が図2図4とは相違する。このような配置にすることで、構造躯体400の直下でコンパクトにパネル材100が収まるわけである。
【0028】
また取付け下地300を構造躯体400に接着固定することもでき、この場合、図2図4に示すように構造躯体400の下フランジの下面側に取付け下地300のフランジの上面側を接着固定することもできるし、図9に示すように構造躯体400の下フランジの上面側に取付け下地300のフランジの下面側を接着固定することもできる。図9に示す構造を溶接によって接合しようとすると、溶接棒を所定位置に当てることが難しいため作業性が著しく劣る(状況によっては施工不能となる)が、接着の場合はむしろ容易に施工することができるわけである。
【0029】
2.接着式パネル壁構造
以下、本願発明の接着式パネル壁構造について詳しく説明する。本願発明の接着式パネル壁構造は、接着剤を利用してパネル材100を取付け下地300に固定したパネル壁構造であり、より詳しくは、パネル材100が具備する取付け治具200と取付け下地300を接着固定することによって、パネル材100が取付け下地300に固定された構造である。ここまで説明したように接合部(取付け治具200が取付け下地300に固定される箇所)はいくつかの構造形式を例示することができ、本願発明の接着式パネル壁構造ではこれら種々の構造形式の接合部(例えば図1図4図7図9)を採用することができる。
【0030】
本願発明の接着式パネル壁構造は、図1に示すパネル材100と取付け治具200、 取付け下地300を含んで構成され、さらに構造躯体400を含んで構成することもできる。なお図1ではパネル材100の中央部にであって上下1箇所ずつに取付け治具200が設けられているが、本願発明の接着式パネル壁構造はこれに限らず上下のうちどちらか一方に取付け治具200が設けられた構造とすることもできる。
【0031】
接着式パネル壁構造を構成する取付け治具200は、ボルト材210と板状の係止具220を具備するものでありパネル材100の一部に取り付けられる。このパネル材100にはアンカー孔が設けられ、また係止具220には挿通孔が設けられており、この挿通孔に貫入したうえでボルト材210をアンカー孔に挿入する。つまり、ボルト材210によって係止具220をパネル材100に縫い付けるわけである。なお、係止具220に設けられる挿通孔230とボルト材210との間には若干の余裕(いわゆるアソビ)があり、これにより係止具220はボルト材210周りに自由に回転することができる。
【0032】
係止具220は、例えば図2に示すように断面視で段違いの2面を有する形状とすることができる。これにより、係止具220の段差を利用して取付け下地300の一部(ウェブ)を収容し、この収容した箇所で係止具220と取付け下地300を接着固定することができ、部材間に隙間が生じることがなく係止具220とパネル材100、そして取付け下地300とパネル材100それぞれの接触面が同一面(いわゆる面一)となるわけである。
【0033】
パネル材100に取り付けられた取付け治具200は、構造躯体400に固定された取付け下地300に接着固定される。これによりパネル材100が取付け下地300(つまり構造躯体400)に設置され、本願発明の接着式パネル壁構造が形成される。なお、ここで使用する接着剤に特に限定はなく、従来公知の接着剤を用いることができ、例えば、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系、変成シリコーン系、酢酸ビニル系、ゴム系等を例示することができる。また、この接着剤は、溶媒揮散型、化学反応型、熱溶融型などそれぞれ現地に適した形態で用いればよい。
【0034】
ところで、接着剤による接合は容易に施工できるうえ十分な接合強度を発揮することから極めて優れた手法であるが、例えば火災によって接着剤が燃焼するなど不測の事態によって接着固定が解除されるという側面も有する。図13(a)は正常な状態の接着式パネル壁構造を示す正面図と側面図であり、図13(b)は接着固定が解除された状態の接着式パネル壁構造を示す正面図と側面図である。接着固定が解除された状態、すなわち係止具220が取付け下地300から外れた(剥がれた)状態になると、図13(b)の正面図に示すように係止具220はボルト材210周りに回転する。そして係止具220が回転した結果、図13(b)の側面図に示すようにパネル材100は取付け下地300側とは反対側(以下、「非構造側」という。)に転倒しようとする。パネル材100が転倒してしまうと、そこにある物が壊れることもあり、あるいはその場にいる者が負傷するおそれもある。
【0035】
そこで、接着固定が解除された状態であってもパネル材100が非構造側に転倒しないように、係止具220に外側に突出するアームを形成するとよい。図14(a)は左右アーム250が形成された取付け治具200を示す正面図であり、(b)はその断面図(図14(a)のA-A矢視)、(c)はパネル材100に取り付けられ回転した状態の取付け治具200を示す正面図である。図14に示す左右アーム250は、係止具220から左右(ただし、取付け治具200が取付け下地300に接着固定された姿勢における左右)に伸びるように形成される。
【0036】
係止具220に左右アーム250を設けることによって、接着固定が解除された状態となりさらに取付け治具200が回転したとしても、左右アーム250のうち一方が取付け下地300に当接することからパネル材100の非構造側への転倒を防止することができるわけである。図14(c)では、取付け治具200が反時計回りに約45度回転しているが、左右アーム250(右側)と係止具220の一部が取付け下地300に当接しているため、パネル材100は非構造側へ転倒することができない。また、取付け治具200が反時計回りにさらに回転(例えば90度回転)しても、左右アーム250(右側)が取付け下地300に当接しているため、パネル材100はやはり非構造側へ転倒することができない。なお、係止具220を段違いの2面形状(図2)とした場合は、図14(b)に示すように左右アーム250と係止具220は断面視で段違いとなるように形成するとよい。これにより、取付け治具200が回転したときに左右アーム250が取付け下地300の一部(ウェブ)を収容することができて好適となる。
【0037】
係止具220に設ける左右アーム250は、図14に示す形状(概ね長方形)に限らず、図15(a)に示すように平面視で半円形(あるいは半楕円形)とすることもできるし、図15(b)に示すように平面視でT字形状とすることもできるし、その他種々の形状として設計することができる。また図15(C)に示すように、係止具220の左右両側に2箇所ずつ左右アーム250を設けてもよいし、それぞれ3箇所以上に左右アーム250を設けてもよい。なお図15はいずれも、取付け下地300に接着固定された姿勢における取付け治具200の正面図である。
【0038】
係止具220には、左右アーム250に加え、下方側に突出するアームを形成することもできる。図16は、下方アーム260が形成された取付け治具200を示す側面図である。この図に示すように下方アーム260は、係止具220から下方(ただし、取付け治具200が取付け下地300に接着固定された姿勢における下方)に伸びるように形成される。
【0039】
係止具220に下方アーム260を設けることによって、接着固定が解除された状態となりさらに取付け治具200が180度回転(つまり天地逆転)したとしても、下方アーム260が取付け下地300に当接することからパネル材100の非構造側への転倒を防止することができる。すなわち、取付け治具200が回転を始めると、まずは左右アーム250と係止具220の一部が取付け下地300に当接し、さらに取付け治具200が回転していくと左右アーム250のみが取付け下地300に当接し、パネル材100が天地逆転した姿勢になると下方アーム260が取付け下地300に当接することによってパネル材100の非構造側への転倒を阻止するわけである。なお、係止具220を段違いの2面形状(図2)とした場合は、図16に示すように下方アーム260と係止具220は断面視で段違いとなるように形成するとよい。これにより、取付け治具200が回転したときに下方アーム260が取付け下地300の一部(ウェブ)を収容することができて好適となる。
【0040】
左右アーム250や下方アーム260を設ける係止具220を用いるほか、回転防止突起を利用してパネル材100の転倒を防止することもできる。図17(a)は取付け下地300のうち接着固定された取付け治具200の両側方に設置された回転防止突起500を示す正面図であり、図17(b)はパネル材100のうち接着固定された取付け治具200の両側方に設置された回転防止突起500を示す正面図である。
【0041】
接着固定された取付け治具200の両側方に回転防止突起500を設置することによって、接着固定が解除された状態となり取付け治具200が回転しようとしても、回転防止突起500が障壁となって取付け治具200は回転することができず、その結果、パネル材100の非構造側への転倒を防止することができるわけである。なお、回転防止突起500は取付け治具200の両側方(ただし取付け下地300に接着固定された状態における両側方)に設けられ、図17(a)に示すように取付け下地300側に設置してもよいし、図17(b)に示すようにパネル材100側に設置してもよいし、取付け下地300とパネル材100の両方に設置してもよい。
【0042】
回転防止突起500は、取付け治具200の回転に対して障壁となるよう、取付け下地300やパネル材100の表面から突出するように形成するとよい。図17では便宜上、回転防止突起500を三角形で示しているが、取付け治具200の回転を阻止できれば、もちろん種々の形状として設計することができる。
【0043】
3.接着式パネル材設置方法
以下、本願発明の接着式パネル材設置方法について詳しく説明する。なお、本願発明の接着式パネル材設置方法は、ここまで説明した接着式パネル壁構造を構築するための方法として利用することもでき、したがって接着式パネル壁構造で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の接着式パネル材設置方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.接着式パネル壁構造」で説明したものと同様である。また本願発明の接着式パネル材設置方法は、取付け治具200と取付け下地300を接着固定するわけであるが、接着剤の塗布形態によって2種類の方法に大別することができる。そこで、それぞれ「第1の実施形態」、「第2の実施形態」として順に説明することとする。
【0044】
(第1の実施形態)
図8は、第1の実施形態の主な工程の流れを示すフロー図である。はじめに、H形鋼やI形鋼などからなる構造躯体400に、山形鋼などからなる取付け下地300を固定する(Step110)。このとき、「接着式取付け下地固定方法」を実施し、構造躯体400と取付け下地300を接着剤によって接着固定することができる。この接着式取付け下地固定方法によれば、溶接作業を必要としないため、取付け下地300の固定作業が容易かつ短時間できるうえ、誰でも(特別な教育を受けない者など)作業することができ、しかも作業中に火災が発生するおそれもない、など様々な効果が期待できて好適である。なお、接着式取付け下地固定方法に限らず、従来どおり構造躯体400と取付け下地300を溶接固定してもよい。また、既に取付け下地300が設置されている場合は、当該工程(Step110)は省略することができる。
【0045】
「接着式取付け下地固定方法」を実施して取付け下地300を構造躯体400に固定する場合、図2図4に示すように構造躯体400の下フランジの下面側に取付け下地300のフランジの上面側を接着固定することもできるし、既述したとおり構造躯体400の下フランジの上面側に取付け下地300のフランジの下面側を接着固定することもできる(図9)。図9に示す構造を溶接によって接合しようとすると、溶接棒を所定位置に当てることが難しいため作業性が著しく劣る(状況によっては施工不能となる)が、接着の場合はむしろ容易に施工することができる。なお、ここで使用する接着剤に特に限定はなく、従来公知の接着剤を用いることができる。例えば、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系、変成シリコーン系、酢酸ビニル系、ゴム系等を例示することができ、特にウレタン系、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系を用いることが好ましい。また、この接着剤は、溶媒揮散型、化学反応型、熱溶融型などそれぞれ現地に適した形態で用いればよい。
【0046】
取付け下地300が固定されると、その取付け下地300の表面に対して油分やほこりなどの不要物を除去するための清掃を行い、取付け治具200のうち取付け下地300と接触する面(以下、「接触面」という。)に計画された仕様(使用接着剤や塗布厚など)で接着剤を塗布する(Step120)。あるいは、取付け下地300のうち取付け治具200と接触する面(接触面)に接着剤を塗布してもよいし、取付け治具200と取付け下地300それぞれの接触面に接着剤を塗布してもよい。なお、ここで使用する接着剤に特に限定はなく、従来公知の接着剤を用いることができる。例えば、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系、変成シリコーン系、酢酸ビニル系、ゴム系等を例示することができる。また、この接着剤は、溶媒揮散型、化学反応型、熱溶融型などそれぞれ現地に適した形態で用いればよい。
【0047】
接触面に接着剤を塗布すると、パネル材100を計画された位置に配置することで取付け治具200と取付け下地300が接触面で当接し(Step130)、この接触面の接着剤が硬化することによって取付け治具200と取付け下地300が固定され、すなわちパネル材100は構造躯体400に設置される(Step140)。なお、取付け治具200(あるいは取付け下地300)の接触面への接着剤塗布に代えて、パネル材配置工程(Step130)の後に、取付け治具200を取付け下地300に当接するとともに、取付け治具200と取付け下地300との隙間から接着剤を充填してもよい。
【0048】
以上説明した一連の工程を、計画された全数のパネル材100が設置されるまで繰り返し行って、作業を終了する。
【0049】
(第2の実施形態)
図10は、第2の実施形態の主な工程の流れを示すフロー図であり、図11は、このフロー図に示す各工程を説明するステップ図である。はじめに第1の実施形態と同様、構造躯体400(例えば、H形鋼やI形鋼など)に取付け下地300(例えば、山形鋼など)を固定する(Step210)。このとき、「接着式取付け下地固定方法」を実施し、第1の実施形態で説明した接着剤によって構造躯体400と取付け下地300を接着固定することもできるし、従来どおり構造躯体400と取付け下地300を溶接固定してもよい。なお、既に取付け下地300が設置されている場合は、当該工程(Step210)は省略することができる。
【0050】
図11(a)に示すように取付け下地300が固定できると、図11(b)に示すようにパネル材100を計画された位置に配置し、さらに取付け治具200を取付け下地300に当接させる(Step220)。このとき、取付け治具200がボルト材210と係止具220からなるもの(例えば、イナズマプレートなど)であれば、係止具220をボルト材210まわりに(図では反時計回りに)回転することで、取付け治具200を取付け下地300に当接させるとよい。係止具220に設けられる挿通孔230とボルト材210との間には、若干の余裕(いわゆるアソビ)があるため係止具220は自由に回転できるわけである。
【0051】
取付け治具200を取付け下地300に当接させると、取付け治具200が取付け下地300に接触する領域を囲むように、取付け下地300表面にマーキング(墨出し)を行う(Step230)。すなわち、取付け下地300表面のうち接着剤を塗布すべき範囲をここで明示しておくわけである。
【0052】
接着剤の塗布範囲をマーキングすると、図11(c)に示すように、パネル材100を計画された位置に配置したままで係止具220をボルト材210まわりに(図では時計回りに)回転することで、取付け治具200を取付け下地300にから一旦外す。そして、先に記したマーキングMKを頼りに計画された仕様で接着剤を塗布する(Step240)。なおここで使用する接着剤は、第1の実施形態で説明したものと同様のものを選択することができる。
【0053】
接着剤を塗布すると、図11(d)に示すように、再度、係止具220をボルト材210まわりに(図では反時計回りに)回転することで、取付け治具200を取付け下地300に当接させる。そして、接着剤が硬化することによって取付け治具200と取付け下地300が固定され、すなわちパネル材100は構造躯体400に設置される(Step250)。図17に示す回転防止突起500を設ける場合は、パネル材を設置(Step250)した後に、取付け治具200の両側方に回転防止突起500を設置するとよい(Step260)。具体的には、突起物(例えばナットや積層板など)を取付け下地300やパネル材100の表面に接着固定することで回転防止突起500を形成することができる。あるいは、取付け下地300にビス等を固定したり、パネル材100に釘を打ち込んだり、その他の突起物を設置することによって回転防止突起500を形成することもできる。
【0054】
ここまで、取付け下地300の接触面に接着剤を塗布する例で説明したが、これに代えて取付け治具200の接触面に接着剤を塗布することもできるし、あるいは取付け治具200と取付け下地300それぞれの接触面に接着剤を塗布することもできる。なお、取付け治具200の接触面に接着剤を塗布する場合は、取付け下地300表面にマーキングを行う必要がなく、すなわちパネル材の仮配置工程と(Step220)と墨出し工程(Step230)を省略することができる。
【0055】
以上説明した一連の工程を、計画された全数のパネル材100が設置されるまで繰り返し行って、作業を終了する。
【0056】
取付け下地300が鋼製材であって、その表面に防錆材が塗布されている場合、接着剤の接着力を十分発揮させるため、取付け下地300のうち接着剤が接触する領域(以下、「接触領域」という。)に対して防錆材を除去するとよい。なお、第2の実施形態のケースでは接着範囲がマーキングされているためこれを接触領域として防錆材を除去することができるが、第1の実施形態のケースでは接着範囲がマーキングされない。したがって第1の実施形態のケースで防錆材除去工程を行うときは、計測等により接触領域を示したうえで防錆材を除去するとよい。防錆材を除去する場合、取付け下地300を接着した後に防錆スプレーを塗布するなど改めて防錆処理を行うことが望ましい。
【0057】
4.確認試験
以下、本願発明の効果を確認するために本願の発明者らが実施した試験結果について説明する。
【0058】
(試験方法)
「JIS A5416 軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)」を参考にしつつ一部改良を加えたうえで、本願発明の接着式パネル材設置方法によって作成した試験モデルに対して載荷試験を行った。具体的には100(厚さ)×600(幅)×2,990(高さ)mmのALCパネル(パネル材100)を、山形鋼(取付け下地300)に接着固定することで試験モデルを作成している。なお、接着剤は反応形アクリル系接着剤を用い、接着剤の養生期間は24時間としている。この試験モデルに対して、上記JISに示されるパネルの曲げ強さ試験を参考にした4等分2線の加力方式で試験を行った。なお、JISの試験方法ではALCパネルのうち一端側を固定し他端側はローラー上に載置しているが、この試験ではALCパネルの両端を山形鋼に接着固定している。ただし、両側の支点を区別するため、JISの試験方法における固定支点に対応する方を「基準側」と、ローラー支点に対応する方を「可変側」ということとする。
【0059】
(試験結果)
試験の結果、基準側の取り付け強度は2,531Nであり、可変側の取り付け強度は3,610Nであった。一般に、厚さ100mmの間仕切りパネルに要求される取り付け耐力は1,050N/箇所(許容荷重700N/m×幅0.6m×長さ5,0m÷2カ所)であり、本願発明による試験モデルと比較すると、基準側で約2.4倍、可変側で約3.4倍となり、十分な取り付け強度であることが確認できた。図12(a)に取り付け強度の結果を示す。
【0060】
図12(b)はALCパネルと山形鋼の固定部における変位と荷重の関係を示す図であり、本願発明による接着仕様と従来の溶接仕様が同等の強度であることを示すグラフ図である。また、図12(c)はALCパネル中央部の変位と荷重の関係を示す図であり、やはり本願発明による接着仕様と従来の溶接仕様を比較したグラフ図である。これらの図から分かるように、本願発明による接着仕様と従来の溶接仕様はほぼ同様の傾向を示しており、すなわち本願発明による接着仕様が従来の溶接仕様と同等の効果を奏することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本願発明の接着式パネル材設置方法は、マンションなどの集合住宅や戸建住宅といった居住用建築物や、オフィスビルあるいは店舗といった商用建築物で利用できるほか、校舎や倉庫など様々な建築物で利用することができる。また、間仕切り壁や外壁など種々の用途で利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
100 パネル材
100U 上層パネル材
100L 下層パネル材
200 取付け治具
200U 上層取付け治具
200L 下層取付け治具
210 (取付け治具の)ボルト材
220 (取付け治具の)係止具
230 (取付け治具の)挿通孔
240 (取付け治具の)受けプレート
240S (受けプレートの)棚板部
240W (受けプレートの)羽根板部
250 左右アーム
260 下方アーム
300 取付け下地
300U 上層取付け下地
300L 下層取付け下地
400 構造躯体
500 回転防止突起
MK (接着剤の塗布範囲を示す)マーキング
TP イナズマプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17