(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】弾性クローラ
(51)【国際特許分類】
B62D 55/253 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
B62D55/253 C
B62D55/253 B
(21)【出願番号】P 2019028112
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古澤 稔規
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-170086(JP,U)
【文献】特開2018-020602(JP,A)
【文献】特開2015-131536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 55/00-55/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレスベルト状の本体、この本体に埋設されこのクローラの回転方向に並べられた複数の芯金、及びこの本体に埋設されこのクローラの回転方向に延びる補強層を備えており、
上記補強層が、架橋ゴムからなるマトリクスと、このマトリクス中に分散された複数の有機繊維とを備えており、
このクローラの外面が、このクローラの回転方向に延び、このクローラが走行装置に装着され回転されたときこの走行装置の転輪が接触しうる接触面を備えており、
上記芯金が埋設された位置においてこのクローラを回転方向と垂直に切った断面において、上記補強層が、上記接触面から上記芯金までの間に位置しており、
このクローラの幅方向において、上記補強層の外側の端が、上記芯金の端よりも内側に位置
しており、
上記接触面から上記補強層までの距離Drの、上記接触面から上記芯金までの距離Dに対する比(Dr/D)が40%以下であり、
上記補強層が上記接触面に露出していない、弾性クローラ。
【請求項2】
上記補強層の厚みTrの、上記接触面から上記芯金までの距離Dに対する比(Tr/D)が20%以上である、請求項
1に記載の弾性クローラ。
【請求項3】
上記補強層の幅Wrの、上記接触面の幅Wに対する比(Wr/W)が60%以上である、請求項1
又は2に記載の弾性クローラ。
【請求項4】
上記補強層に含まれる上記有機繊維の配合量が、上記マトリクスの基材ゴム100質量部に対して5質量部以上30質量部以下である、請求項1から
3のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項5】
上記補強層に含まれる上記有機繊維の平均長さが、4mm以上60mm以下である、請求項1から
4のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項6】
上記補強層に含まれる上記有機繊維のうち、長さが4mm以上60mm以下である有機繊維の割合が60%以上である、請求項1から
5のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項7】
上記有機繊維が、クローラの回転方向に配向されている、請求項1から
6のいずれかに記載の弾性クローラ。
【請求項8】
上記有機繊維の直径が0.1mm以上1.3mm以下である、請求項1から
7のいずれかに記載の弾性クローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性クローラに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインのような農業機械、及びバックホーのような建設機械に、クローラ式の走行装置が用いられている。この走行装置は、弾性クローラを有している。
【0003】
弾性クローラは、エンドレスベルト状である。クローラは、円板状のスプロケットとアイドラとの間に架け渡されている。典型的には、クローラは、架橋ゴムからなる本体と、本体に埋設された多数の芯金と、本体に埋設されたスチールコードからなる抗張体とを備えている。芯金は、クローラの回転方向に並べられている。芯金はクローラの厚み方向の内側(接地する面と反対側)に突出した突起を備えている。スプロケットが回転することで、クローラが駆動される。このとき、この突起は、走行装置が有する一対の転輪の間を通過する。クローラは、これらの転輪によって案内されている。
【0004】
走行装置の使用時には、クローラには、高い荷重が負荷される。クローラは、石や段差等の大きな凹凸を有する路面上を走行することがある。クローラには、このような状況下での使用にも耐えうる、高い耐久性が求められる。クローラについての検討が、特開2015-131536公報で報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
弾性クローラはエンドレスベルト状であるため、クローラが保管のため静置されたとき、クローラは細長い長円状となる。クローラは、この長円の中央部分では直線状であり、この長円の両端部分では半径の小さな半円状に湾曲している。このクローラの湾曲の内側部分(湾曲内側部)は、このクローラの回転方向に圧縮された状態となる。この状態が長時間継続されると、湾曲内側部において、ゴム組成物に再架橋が起こることがある。湾曲内側部で再架橋が起こると、この部分では、湾曲した状態が通常の状態となる。この湾曲内側部は、保管が開始されたときには圧縮された状態であったのが、通常の状態に変化している。
【0007】
クローラが走行装置に装着され、この装置が走行すると、クローラは回転する。この回転で上記の湾曲していた部分が直線状となったとき、湾曲内側部は、回転方向に伸ばされた状態となる。悪路等の走行でこの部分が内側に向けて湾曲したとき、湾曲内側部はさらに大きく回転方向に伸ばされた状態となる。これにより、湾曲内側部が転輪と接触する面(接触面)において、クラックが発生することがある。このクローラが使用され続けると、クラックは成長する。これは、クローラの耐久性に影響を及ぼす。
【0008】
本発明の目的は、耐久性に優れた弾性クローラの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る弾性クローラは、エンドレスベルト状の本体、この本体に埋設されこのクローラの回転方向に並べられた複数の芯金、及びこの本体に埋設されこのクローラの回転方向に延びる補強層を備えている。上記補強層は、架橋ゴムからなるマトリクスと、このマトリクス中に分散された複数の有機繊維とを備えている。このクローラの外面は、このクローラの回転方向に延び、このクローラが走行装置に装着され回転されたときこの走行装置の転輪が接触しうる接触面を備えている。上記芯金が埋設された位置においてこのクローラを回転方向と垂直に切った断面において、上記補強層は、上記接触面から上記芯金までの間に位置している。
【0010】
好ましくは、上記接触面から上記補強層までの距離Drの、上記接触面から上記芯金までの距離Dに対する比(Dr/D)は、0%以上50%以下である。
【0011】
好ましくは、上記補強層の厚みTrの、上記接触面から上記芯金までの距離Dに対する比(Tr/D)は、20%以上である。
【0012】
好ましくは、上記補強層の幅Wrの、上記接触面の幅Wに対する比(Wr/W)は、60%以上である。
【0013】
好ましくは、上記補強層に含まれる上記有機繊維の配合量は、上記マトリクスの基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下である。
【0014】
好ましくは、上記補強層に含まれる上記有機繊維の平均長さは、4mm以上60mm以下である。
【0015】
好ましくは、上記補強層に含まれる上記有機繊維のうち、長さが4mm以上60mm以下である有機繊維の割合は60%以上である。
【0016】
好ましくは、上記有機繊維は、クローラの回転方向に配向されている。
【0017】
好ましくは、上記有機繊維の直径は、0.1mm以上1.3mm以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る弾性クローラは、回転方向に延び、架橋ゴムからなるマトリクスと多数の有機繊維とを備える補強層を備えている。芯金が埋設された位置においてクローラを回転方向と垂直に切った断面において、上記補強層は、上記接触面から上記芯金までの間に位置している。再架橋が発生し、接触面においてクラックが発生しても、補強層の有機繊維がこのクラックの成長を効果的に抑制する。このクローラでは、このクラックの成長が抑制されている。このクローラは、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性クローラを有する走行装置が示された正面図である。
【
図2】
図2は、厚さ方向の外側から見た、
図1の弾性クローラの一部が示された展開図である。
【
図3】
図3は、厚さ方向の内側から見た、
図2の弾性クローラが示された展開図である。
【
図6】
図6は、
図4補強層の、厚み方向に垂直な断面の一部が拡大された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0021】
図1に、本発明の一実施形態に係る弾性クローラ2を有する走行装置4が示されている。
図1において、矢印Xで示されるのがこのクローラ2の回転方向である。
図1の二点鎖線の円の中に、クローラ2の一部が拡大されて示されている。この円内において、矢印Zで示されるのが、このクローラ2の厚み方向外側(クローラ2の接地する側)である。この反対が、厚み方向内側である。紙面と垂直の方向が、このクローラ2の幅方向である。この走行装置4は、弾性クローラ2、スプロケット6、アイドラ8及び複数の転輪10を備えている。
【0022】
図1で示されるように、弾性クローラ2は、エンドレスベルト状である。このクローラ2は、スプロケット6とアイドラ8との間に架け渡されている。スプロケット6及びアイドラ8は円板状である。このため、
図1に示されるように、クローラ2の、スプロケット6と接触している部分及びアイドラ8と接触している部分は、半円状に湾曲している。スプロケット6とアイドラ8との間では、クローラ2はその大部分が直線状である。スプロケット6が回転することで、クローラ2が駆動される。この駆動により、走行装置4が前進する。転輪10は、クローラ2の外面と接触する。転輪10は、クローラ2の外面のうち、厚み方向の内側面12と接触する。転輪10は、クローラ2を案内する。
【0023】
図2及び
図3は、このクローラ2の一部が示された展開図である。
図2は、クローラ2を厚み方向外側から見た図である。
図3は、クローラ2を厚み方向内側から見た図である。
図2及び
図3において、両矢印Xで示されるのが回転方向であり、両矢印Yで示されるのが幅方向である。
図4は、
図2及び
図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図4において、両矢印Yで示されるのが幅方向である。矢印Zで示されるのが厚み方向外側である。この逆が厚み方向内側である。紙面に垂直な方向が回転方向である。クローラ2は、本体14、複数の芯金16、抗張体18、及び補強層20を備えている。
【0024】
本体14は、エンドレスベルト状である。本体14は、弾性材料からなる。典型的な弾性材料は、架橋ゴムである。本体14の基材ゴムとして、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン及びスチレン-ブタジエン共重合が例示される。
図1-4に示されるように、本体14は、基部22、ラグ24及びガイド26を備えている。
【0025】
図1及び
図4で示されるように、ラグ24は、基部22から厚み方向外側に突出している。
図2に示されるように、多数のラグ24が、回転方向に並んでいる。
図1では、これらのうち、3つのラグ24が図示されている。他のラグ24の図示は、省略されている。それぞれのラグ24は、幅方向に延在している。
図2で示されるように、幅方向において基部22の一方の端から中央に向けて延びるラグ24と、もう一方の端から中央に向けて延びるラグ24とが交互に並んでいる。ラグ24は、隣接するラグ24と離間している。ラグ24は、地面に接する。ラグ24は、架橋ゴムからなる。
図4に示されるように、この実施形態では、ラグ24は基部22と一体である。ラグ24の材質は、基部22の材質と同じである。ラグ24の材質が、基部22と異なっていてもよい。
【0026】
ラグのパターンは、
図2に限られない。例えば、それぞれのラグが、基部22の幅方向の一方の端から他方の端まで延びていてもよい。クローラが、形状の異なる複数種のラグを備えてもよい。
【0027】
図1及び
図4で示されるように、ガイド26は、基部22から厚み方向内側に突出している。
図4で示されるように、幅方向に離間した一対のガイド26が、基部22から突出している。
図3に示されるように、この一対のガイド26が、回転方向に多数並べられている。
図1では、これらのうち、3つのガイド26が図示されている。他のガイド26の図示は、省略されている。ガイド26は、回転方向に隣接するガイド26と離間している。
図4で示されるように、ガイド26の内部には、芯金16が位置している。ガイド26は、架橋ゴムからなる。
図4に示されるように、この実施形態では、ガイド26は基部22と一体である。ガイド26の材質は、基部22の材質と同じである。ガイド26の材質が、基部22と異なっていてもよい。
【0028】
図3及び4に示されるように、芯金16は、本体14に埋設されている。芯金16は、本体14の基部22及びガイド26に埋設されている。
図3に示されるように、複数の芯金16が、回転方向に並んでいる。それぞれの芯金16は、幅方向に延在している。芯金16は、隣接する芯金16と離間している。芯金16は、金属材料からなる。芯金16の材質として、スチールが例示される。
【0029】
図4に示されるように、芯金16は主部28と一対の突起30とを備えている。主部28は板状である。主部28は、幅方向に延在している。一対の突起30は、幅方向に離間している。それぞれの突起30は、主部28から厚み方向内側に突出している。
図4に示されるように、突起30は、ガイド26の内部に位置している。この実施形態では、突起30は、主部28と一体である。突起30が主部28と一体でなくてもよい。これらが異なる金属材料からなっていてもよい。
【0030】
図4に示されるとおり、一対の抗張体18が、本体14に埋設されている。それぞれの抗張体18は、基部22の内部において、芯金16の厚み方向外側に位置している。
図1に示されるとおり、抗張体18は、回転方向に延びている。この抗張体18は、コードからなる。このコードは、螺旋状に巻かれている。コードは、実質的に回転方向に沿って延在している。典型的なコードの材質は、スチールである。
【0031】
図4には、このクローラ2が走行装置4に装着されたときの、走行装置4の転輪10が二点鎖線で示されている。図で示されるように、一対の転輪10が、ガイド26を挟んで、その幅方向外側を通過する。一対の転輪10のそれぞれが、対応する芯金16の突起30の幅方向外側を通過する。転輪10は、クローラ2の外面と接触する。転輪10は、クローラ2の厚み方向内側面12と接触する。クローラ2の外面のうち、転輪10と接触しうる面は、接触面32と称される。換言すれば、クローラ2の外面は、接触面32を備えている。この実施形態では、一対の転輪10のそれぞれに対応する、接触面32が存在する。すなわち、クローラ2の外面は、一対の接触面32を備える。それぞれの接触面32は、回転方向に延びている。
【0032】
図5は、
図4の一部が拡大されて示されている。
図5おいて、符号E1は、接触面32の幅方向の内側の端を表す。これは、接触面32のガイド26側の端である。端E1よりガイド26側では、クローラ2の外面は厚み方向内側に向けて傾斜している。符号E2は、接触面32の幅方向の外側の端を表す。幅方向において、端E2は、芯金16の端より内側に位置する。
図5において、両矢印Lは、端E2と芯金16の端との幅方向距離である。この実施形態では、距離Lは10mmである。
【0033】
図4及び5で示されるように、補強層20は、接触面32から芯金16までの間に位置している。一対の接触面32のそれぞれに対応して、補強層20が存在する。すなわち、クローラ2は、一対の補強層20を備える。それぞれの補強層20は、回転方向に延びている。芯金16とこれと隣接する芯金16との間においても、補強層20は回転方向に延びている。補強層20は、外面に露出していてもよい。このとき補強層20の厚み方向内側の面は、接触面32の一部又は全部を構成する。
【0034】
図6は、補強層20の断面が拡大された図である。この図には、補強層20を厚み方向と垂直に切った断面が示されている。従って、この断面は、
図5の補強層20の断面とは見る方向が異なる。
図6において、両矢印Xで示されるのが回転方向であり、矢印Yで示されるのが幅方向である。
【0035】
図6で示されるように、補強層20は、マトリクス34と複数の有機繊維36とを備えている。それぞれの有機繊維36の長さは、クローラ2の回転方向の周長に比べて、十分に短い。多数の有機繊維36が、マトリクス34に分散している。マトリクス34は、架橋ゴムからなる。マトリクス34の基材ゴムとして、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン及びスチレン-ブタジエン共重合が例示される。この実施形態では、マトリクス34の材質は、本体14の材質と同じである。マトリクス34の材質が、本体14の材質と異なっていてもよい。好ましい有機繊維36の材質は、ポリエステル及びナイロンである。
【0036】
図6で示されるように、この実施形態では、有機繊維36は回転方向に配向されている。ここで「有機繊維36が回転方向に配向されているか否か」は、補強層20の、無作為に選んだ回転方向長さが100mmである部分において調べられる。この部分に存在する有機繊維36のうち、80%以上の有機繊維36について、その有機繊維36の向きと回転方向とのなす角度の絶対値が30°以下であるとき、有機繊維36は回転方向に配向されていると称される。ここで有機繊維36の向きとは、有機繊維36の両端を結んだ直線が延びる方向である。
【0037】
以下では、本発明の作用効果が説明される。
【0038】
弾性クローラが保管のため静置されたとき、クローラは細長い長円状となる。クローラは、この長円の両端部分では半径の小さな半円状に湾曲している。このクローラの湾曲の内側部分(湾曲内側部)は、このクローラの回転方向に圧縮された状態となる。この状態が長時間継続され、この湾曲内側部で再架橋が起こると、湾曲内側部では、圧縮された状態が通常の状態に変化する。このため、クローラの走行でこの湾曲内側部が直線状となったとき、この湾曲内側部は回転方向に伸ばされた状態となる。これにより、この部分の接触面において、クラックが発生することがある。このクローラが使用され続けると、クラックは成長する。これは、クローラの耐久性に影響を及ぼす。
【0039】
本発明に係る弾性クローラ2では、回転方向に延び、架橋ゴムからなるマトリクス34と多数の有機繊維36とを備える補強層20を備えている。芯金16が埋設された位置において本体14を回転方向と垂直に切った断面において、補強層20は、接触面32から芯金16までの間に位置している。再架橋が発生し、接触面32においてクラックが発生しても、補強層20の有機繊維36が、このクラックの成長を効果的に抑制する。このクローラ2では、このクラックの成長が抑制されている。このクローラ2は、耐久性に優れる。
【0040】
クローラの芯金と芯金との間の部分は芯金が存在しないため、クローラが静値されたとき、この部分で特に湾曲が大きくなる。この部分では、強く回転方向に圧縮される。この部分で再架橋が起きると、この部分が直線状となったとき、この部分はより大きく伸ばされた状態となる。隣接する芯金間の部分では、特にクラックが発生し易くなっている。さらに芯金間の部分では、芯金が存在しないため、クラックが成長すると、クラックは容易に抗張体に達する。クラックが抗張体にまで達すると、外部からの水分が抗張体に到達する。これは、抗張体の錆の要因となる。これは、クローラの耐久性に、さらに影響を及ぼす。
【0041】
このクローラ2では、補強層20は、クラックが発生し易い芯金16間の部分にも延びている。芯金16間において、クラックの成長が効果的に抑制されている。さらに、芯金16間でのクラックの成長が抑制されているため、クラックが抗張体18に到達することが防止されている。このクローラ2では、水分は抗張体18まで到達しにくい。このクローラ2では、抗張体18の錆が防止されている。これは、クローラ2の耐久性に効果的に寄与する。このクローラ2は、耐久性に優れる。
【0042】
このクローラ2では、補強層20は、クローラ2の周長に比べて短い有機繊維36を含む。有機繊維36は柔らかいことに加え、この有機繊維36は短いため、この有機繊維36が、クローラ2の屈曲性能及び圧縮性能に与える影響は小さい。このクローラ2では、良好な屈曲性能及び圧縮性能が維持されている。
【0043】
クラックを防止するために、本体14の材質を、再架橋を起こしにくい架橋ゴムに変更することが考えられる。しかし、架橋ゴムの材質の変更は、耐カット性等の他の性能に影響を及ぼすおそれがある。
【0044】
このクローラ2では、クラックを防止するのに、本体14の材質を変更する必要はない。このクローラ2では、良好な耐カット性が維持されている。
【0045】
前述のとおり、有機繊維36は回転方向に配向されているのが好ましい。湾曲内側部が直線状となったとき、この部分は、回転方向に伸ばされる。このため、幅方向に延びる形状のクラックが発生し易い。有機繊維36を回転方向に配向させることで、クラックが有機繊維36の間をすり抜けて成長することが効果的に防止される。このクローラ2では、このクラックの成長が抑制されている。
【0046】
補強層20に含まれる有機繊維36の配合量は、マトリクス34の基材ゴム100質量部に対して5質量部以上が好ましい。有機繊維36の配合量を5質量部以上とすることにより、この有機繊維36がクラックの成長を効果的に抑制する。このクローラ2は、耐久性に優れる。この観点から、有機繊維36の配合量は9質量部以上がより好ましい。有機繊維36の配合量は、30質量部以下が好ましい。有機繊維36の配合量を30質量部以下とすることで、有機繊維36をマトリクス34内で均一に分散させることができる。この補強層20は、クラックの成長を効果的に抑制する。この観点から、有機繊維36の配合量は26質量部以下がより好ましい。
【0047】
有機繊維36の平均長さLMは、4mm以上が好ましい。平均長さLMを4mm以上とすることで、この有機繊維36は、クラックの成長を効果的に抑制する。このクローラ2は、耐久性に優れる。この観点から平均長さLMは、10mm以上がより好ましい。平均長さLMは、60mm以下が好ましい。平均長さLMを60mm以下とすることで、この有機繊維36がクローラ2の屈曲性能及び圧縮性能に与える影響が抑えられている。このクローラ2では、良好な屈曲性能及び圧縮性能が維持されている。この観点から平均長さLMは、50mm以下がより好ましい。
【0048】
補強層20に含まれる有機繊維36のうち、長さが4mm以上60mm以下である有機繊維36の割合RLは、60%以上が好ましい。このようにすることで、この有機繊維36は、クラックの成長を効果的に抑制する。このクローラ2は、耐久性に優れる。このようにすることで、この有機繊維36がクローラ2の屈曲性能及び圧縮性能に与える影響が抑えられている。このクローラ2では、良好な屈曲性能及び圧縮性能が維持されている。これらの観点から、長さが4mm以上60mm以下である有機繊維36の割合RLは80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、100%が最も好ましい。すなわち、有機繊維36の最小長さが4mm以上であり、最大長さが60mm以下であるのが、最も好ましい。
【0049】
ここで、有機繊維36の平均長さLM、長さが4mm以上60mm以下である有機繊維36の割合RLは、この補強層20を厚み方向と垂直に切った断面において計測される。この断面の、無作為に決めた回転方向長さ300mmの領域内に存在する有機繊維36のそれぞれについて、その両端間の直線距離が計測される。これが、この有機繊維36の長さとされる。これらの計測結果の平均が、有機繊維36の平均長さLMである。これらの計測結果から計算した、長さが4mm以上60mm以下の有機繊維36の割合が、割合RLである。
【0050】
有機繊維36の直径は、0.1mm以上が好ましい。この直径を0.1mm以上とすることで、この有機繊維36は、クラックの成長を効果的に抑制する。このクローラ2は、耐久性に優れる。この観点から有機繊維36の直径は、0.3mm以上がより好ましい。有機繊維36の直径は、1.3mm以下が好ましい。この直径を1.3mm以下とすることで、この有機繊維36がクローラ2の屈曲性能及び圧縮性能に与える影響が抑えられている。このクローラ2では、良好な屈曲性能及び圧縮性能が維持されている。この観点から有機繊維36の直径は、1.0mm以下がより好ましい。
【0051】
図5において、符号Pは補強層20の幅方向の中点を表す。両矢印Dは、接触面32から芯金16までの距離を表す。距離Dは、中点Pの位置において厚み方向に計測した、接触面32と芯金16の接触面32側の面との距離である。両矢印Drは、接触面32から補強層20までの距離を表す。距離Drは、厚み方向に計測した、接触面32と、補強層20の接触面32側の面との距離である。距離Drの距離Dに対する比(Dr/D)は、50%以下が好ましい。比(Dr/D)を50%以下とすることで、この補強層20はクラックの成長を効果的に抑制する。このクローラ2は、耐久性に優れる。この観点から、比(Dr/D)は40%以下がより好ましい。比(Dr/D)は、0%でもよい。すなわち、前述のとおり、補強層20が外面に露出し、補強層20の厚み方向内側の面が、接触面32の一部又は全部を構成していてもよい。
【0052】
図5において、両矢印Trは、補強層20の厚みを表す。厚みTrの距離Dに対する比(Tr/D)は、20%以上が好ましい。比(Tr/D)を20%以上とすることで、この補強層20はクラックの成長を効果的に抑制する。このクローラ2は、耐久性に優れる。この観点から、比(Tr/D)は30%以上がより好ましい。比(Tr/D)は、80%以下が好ましい。比(Tr/D)を80%以下とすることで、この補強層20が、クローラ2の屈曲性能及び圧縮性能に与える影響が抑えられている。このクローラ2では、良好な屈曲性能及び圧縮性能が維持されている。
【0053】
図5において、両矢印Wrは、補強層20の幅を表す。両矢印Wは、接触面32の幅を表す。幅Wは、端E1と端E2との幅方向距離である。幅Wrの幅Wに対する比(Wr/W)は、60%以上が好ましい。比(Wr/W)を60%以上とすることで、この補強層20はクラックの成長を効果的に抑制する。このクローラ2は、耐久性に優れる。この観点から、比(Wr/W)は70%以上がより好ましい。比(Wr/W)は、100%以下が好ましい。比(Wr/W)を100%以下とすることで、この補強層20が、クローラ2の屈曲性能及び圧縮性能に与える影響が抑えられている。このクローラ2では、良好な屈曲性能及び圧縮性能が維持されている。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0055】
[実施例1]
図2-5で示された弾性クローラを作製した。このクローラの補強層の仕様が、表1に示されている。この補強層では、有機繊維の含有率は13質量部であった。有機繊維の直径は、0.8mmであった。この補強層では、有機繊維は回転方向に配向されている。
【0056】
[比較例1]
補強層を備えないことの他は実施例1と同様にして、比較例1のクローラを得た。
【0057】
[実施例2-4]
比(Wr/W)を表1の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2-4のクローラを得た。
【0058】
[実施例5-8]
比(Dr/D)を表2の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例5-8のクローラを得た。
【0059】
[実施例9-11]
比(Tr/D)を表3の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例9-11のクローラを得た。
【0060】
[実施例12-15]
平均長さLMを表4の通りとした他は実施例1と同様にして、実施例12-15のクローラを得た。
【0061】
[クラック成長防止]
得られた弾性クローラを保管庫で静置し、細長い長円状とした。この長円の両端の湾曲部のそれぞれに、250kgfの荷重を負荷した。この状態で、このクローラを21日間保管した。この後、このクローラを屋内試験機に装着した。このクローラに1500kgfの荷重を負荷し、これを時速2.5kmの速度で750時間走行させた。走行後のクローラについて、クラックの成長の程度を確認した。この結果が、A、B、C、Dの4段階で、表1-4に示されている。A、B、C、Dの順にクラックの成長が少ない。A、B、C、Dの順に好ましい。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
表1-4に示されるように、実施例のクローラは、比較例のクローラに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明された弾性クローラは、種々の走行装置に適用されうる。
【符号の説明】
【0068】
2・・・弾性クローラ
4・・・走行装置
6・・・スプロケット
8・・・アイドラ
10・・・転輪
12・・・クローラの内側面
14・・・本体
16・・・芯金
18・・・抗張体
20・・・補強層
22・・・基部
24・・・ラグ
26・・・ガイド
28・・・主部
30・・・突起
32・・・接触面
34・・・マトリクス
36・・・有機繊維