IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の制御装置 図1
  • 特許-車両の制御装置 図2
  • 特許-車両の制御装置 図3
  • 特許-車両の制御装置 図4
  • 特許-車両の制御装置 図5
  • 特許-車両の制御装置 図6
  • 特許-車両の制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20230912BHJP
   B60K 1/02 20060101ALI20230912BHJP
   B60K 17/356 20060101ALI20230912BHJP
   B60K 17/354 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L15/20 S
B60K1/02
B60K17/356 B
B60K17/354
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019056642
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020162219
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-131512(JP,A)
【文献】特開2018-152949(JP,A)
【文献】特開2007-245873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60K 1/02
B60K 17/356
B60K 17/354
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動する油冷式のモータと、前記モータの駆動トルクを左右輪に伝達するトランスアクスルと、前記モータ及び前記トランスアクスルにオイルを供給する油路に介装されたオイルポンプと、を備えた車両の制御装置であって、
前記オイルの温度に相関する相関温度及び前記オイルポンプの回転数の少なくとも一方が所定の閾値未満である場合に、前記オイルの潤滑性能の低下を判定する判定手段と、
前記判定手段により前記潤滑性能が低下していると判定された場合に、前記駆動トルクを制限する制限手段と、を備え、
前記制限手段は、前記車両の車速が高いほど前記駆動トルクの制限量を増大させ、前記車速が所定の上限速度以上である高車速時には前記駆動トルクを0に制限するとともに、前記相関温度が低いほど前記上限速度を低い値に設定する
ことを特徴とする、車両の制御装置
【請求項2】
前記車両は、前記モータとは異なる第二のモータを備え、二つの前記モータのそれぞれによって前後輪を駆動する四輪駆動車であり、
前記制御装置は、前記判定手段により前記潤滑性能が低下していると判定された場合に、各々の前記モータに発生させる前記駆動トルクを、予め設定された初期配分とは異なる配分で分配する分配手段を備える
ことを特徴とする、請求項に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記分配手段は、前記制限手段により制限される前記駆動トルクが増加するように補正するとともに、前記相関温度が低いほど、前記制限手段により制限される前記駆動トルクの増加側への補正量を大きくする
ことを特徴とする、請求項記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油冷式の駆動モータを備えた車両の制御装置に関し、特にオイルの潤滑性能を維持するための制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両を駆動するモータや、モータの回転速度を減速して車輪に伝達する歯車機構に対して、オイルポンプにより冷却及び潤滑用のオイルを供給することが知られる。冷却及び潤滑用のオイルは、その温度が低下するほど粘度が高くなり、流動性が低下する。このため、例えば極寒冷地等の低温環境下では、オイルを循環させるポンプの出力(駆動状態)が一定であっても、オイルの温度低下に伴う流動性の低下により、オイルの供給量が不足しうる。オイル不足が生じた場合には、モータシャフトの軸受や歯車機構に含まれる軸受に摩耗や焼き付きといった不具合を招くおそれがある。
【0003】
このようなオイル不足による不具合に対処するために、オイルの温度又はモータの温度を検出し、検出した温度が定められた閾値以下のときに、モータの出力を制限する技術が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1のインホイールモータ駆動装置では、低温時に減速機等への負荷を軽減することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-93845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、単に、オイルの温度又はモータの温度が低いときにモータの出力を制限するだけの従来の技術では、オイル不足による不具合に適切に対処できない場合がある。例えば、車両が高車速で走行しているときは、モータの回転速度も同様に高い状態なっている。このため、高車速に至った後にモータの出力を制限したとしても、軸受に焼き付きが生じてしまう場合がある。
【0006】
本件の車両の制御装置は、このような課題に鑑み案出されたもので、潤滑性能の低下(オイル不足)による軸受の焼き付きを抑制することを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示する制御装置は、車両を駆動する油冷式のモータと、前記モータの駆動トルクを左右輪に伝達するトランスアクスルと、前記モータ及び前記トランスアクスルにオイルを供給する油路に介装されたオイルポンプと、を備えた車両に設けられる制御装置である。前記制御装置は、前記オイルの温度に相関する相関温度及び前記オイルポンプの回転数の少なくとも一方が所定の閾値未満である場合に、前記オイルの潤滑性能の低下を判定する判定手段と、前記判定手段により前記潤滑性能が低下していると判定された場合に、前記駆動トルクを制限する制限手段と、を備える。前記制限手段は、前記車両の車速が高いほど前記駆動トルクの制限量を増大させ、前記車速が所定の上限速度以上である高車速時には前記駆動トルクを0に制限するとともに、前記相関温度が低いほど前記上限速度を低い値に設定する
【0009】
)前記車両は、前記モータとは異なる第二のモータを備え、二つの前記モータのそれぞれによって前後輪を駆動する四輪駆動車であることが好ましい。この場合、前記制御装置は、前記判定手段により前記潤滑性能が低下していると判定された場合に、各々の前記モータに発生させる前記駆動トルクを、予め設定された初期配分とは異なる配分で分配する分配手段を備えることが好ましい。
)前記分配手段は、前記制限手段により制限される前記駆動トルクが増加するように補正するともに、前記相関温度が低いほど、前記制限手段により制限される前記駆動トルクの増加側への補正量を大きくすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
開示の車両の制御装置によれば、潤滑性能の低下が判定された場合に、車速が高いほど駆動トルクの制限量を増やすことで、モータの回転速度を低下させることができる。これにより、潤滑性能の低下(オイル不足)による軸受の焼き付きを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一実施形態に係る制御装置が設けられた車両の全体構成を示す模式図である。
図2】車速に応じて駆動トルクの制限量を設定するトルク制限制御の内容を説明するためのグラフである。
図3】第一実施形態に係るトルク制限制御の手順を説明するためのフローチャート例である。
図4】制限要求トルクを算出する手順を説明するためのフローチャート例である。
図5】第二実施形態に係る制御装置が設けられた車両の全体構成を示す模式図である。
図6】前側駆動トルク及び後側駆動トルクの分配制御の内容を説明するためのグラフである。
図7】第二実施形態に係るトルク制限制御及び分配制御の手順を説明するためのフローチャート例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、実施形態としての車両の制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
〔1.第一実施形態〕
[1-1.装置構成]
図1に示すように、車両10は、油冷式のリヤモータ3r(単に「モータ3r」ともいう)を駆動源に持つ車両であり、モータ3rの駆動トルクを左右の後輪2rに伝達するトランスアクスル5と、モータ3r及びトランスアクスル5にオイルを供給するためのオイルポンプ6とを備える。本実施形態の車両10には、左右の後輪2rを独立して駆動する二つのモータ3r(左モータ及び右モータ)が搭載される。左モータ3r及び右モータ3rは、各々の回転軸がトランスアクスル5に接続されており、トランスアクスル5を介して後輪2rの車軸4rに接続される。
【0014】
トランスアクスル5は、例えば、左右のモータ3rの回転速度をそれぞれ減速しながら伝達する減速ギヤ列と、左右のモータ3rのトルク差を増幅して左右の後輪2rの各々に伝達する歯車機構とを有する。左モータ3rはトランスアクスル5に対して車両10の左側に配置され、また、右モータ3rは右側に配置される。これら左右のモータ3rは、図示しないバッテリの電力で駆動される交流モータであり、好ましくは出力特性がほぼ同一とされる。左右駆動輪のトルクは可変であり、左右のモータ3rのトルク差が、歯車機構において増幅されて左右の後輪2rの各々に伝達される。
【0015】
モータ3rにおいて、図示しないロータ及びステータは作動に伴い発熱するため、冷却が必要である。また、モータ3rの回転軸を支持する軸受や、トランスアクスル5の減速ギヤ列や歯車機構内の軸受は、滑らかに動作するために潤滑が必要である。このため、車両10は、モータ3r及びトランスアクスル5に冷却及び潤滑用のオイルを供給するための油路(図示せず)と、この油路に介装されたオイルポンプ6とを備える。
【0016】
油路は、例えば、トランスアクスル5のケーシングの上部に設けた注入口(図示略)と、ケーシングの下部のオイル貯留部に設けた吸引口(図示略)とを繋ぐオイルの流通路である。オイルポンプ6は、オイルを吐出するための圧送装置である。オイルポンプ6は、オイル貯留部内のオイルを吸引口から吸引し、そのオイルを注入口へ吐出する。吐出されたオイルは注入口からモータ3rのハウジング内部及びトランスアクスル5のケーシングの内部に供給される。
【0017】
モータ3r及びオイルポンプ6の作動状態は、ECU(制御装置)1によって制御される。ECU1は、車両10に搭載される各種装置を統合制御する電子制御装置(コンピュータ)である。ECU1には、プロセッサ(中央処理装置),メモリ(メインメモリ),記憶装置(ストレージ),インタフェース装置などが内蔵され、これらが内部バスを介して接続される。
【0018】
図1に示すように、本実施形態のECU1の入力側には、アクセル開度センサ11,車速センサ12,外気温センサ13,油温センサ14,ポンプ回転数センサ15が接続される。また、ECU1の出力側には、二つのモータ3rが接続される。
【0019】
アクセル開度センサ11は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するセンサである。また、車速センサ12は車両10の走行速度(車速)を検出するセンサである。外気温センサ13は車両10の外部の気温(外気温)を検出するセンサである。油温センサ14は、冷却及び潤滑のためのオイルの温度(以下「油温」ともいう)を検出するセンサであり、例えばオイル貯留部に配設される。また、ポンプ回転数センサ15はオイルポンプ6の回転数(以下「ポンプ回転数」ともいう)を検出するセンサである。これらのセンサ11~15で検出された情報はECU1に入力され、後述する要求トルクの算出やトルク制限制御に用いられる。
【0020】
[1-2.制御構成]
ECU1の内部には、制御手段1Aと判定手段1Bと制限手段1Cとが設けられる。これらの要素1A~1Cは、ECU1の機能を便宜的に分類して示したものであり、ECU1のハードウェア資源を用いて実行されるソフトウェアとして設けられる。これらの要素1A~1Cは、個々の要素を独立したプログラムとして記述されてもよいし、複数の機能を兼ね備えた複合プログラムとして記述されてもよい。
【0021】
制御手段1Aは、ドライバの要求する要求トルクTRを算出するとともに、算出したその要求トルクTRを指示トルクTDに設定する。要求トルクTRは、例えばアクセル開度センサ11により検出されたアクセル開度と車速センサ12により検出された車速とに基づき算出される。指示トルクTDは、モータ3rに与えられる指示値であり、後輪2rに伝達される駆動トルクの目標値に相当する。制御手段1Aは、指示トルクTDに応じた電流値をモータ3rに与える。これによりモータ3rが駆動され、指示トルクTDに応じた駆動トルクが得られる。つまり、通常状態では、要求トルクTRと同等の駆動トルクが得られる。
【0022】
判定手段1Bは、オイルの温度に相関する相関温度及びポンプ回転数の少なくとも一方が所定の閾値未満である場合に、オイルの潤滑性能の低下を判定する。本実施形態の判定手段1Bは、相関温度が所定の閾値(所定温度)未満であり、且つ、ポンプ回転数が所定の閾値(所定回転数)未満である場合に、オイルの潤滑性能の低下を判定する。ただし、潤滑性能の低下は、相関温度及びポンプ回転数のいずれか一方だけでも判定可能である。
【0023】
本実施形態において「オイルの潤滑性能の低下」とは、オイルの供給量が不足して、所望の潤滑性能を得ることができなくなっている状態である。
【0024】
ここで、相関温度とは、油温に正の相関関係を持つ温度である。相関温度としては、例えば、油温センサ14により検出されたオイルの温度(油温そのもの)や、外気温センサ13により検出された外気温や、モータ3rの温度が挙げられる。油温以外の温度を相関温度として用いる場合には、油温との相関関係を用いて油温を推定してもよい。
【0025】
周知のように、油温が低下するほどオイルの粘度は高くなり、流動性が低下するため、オイルポンプ6の出力(駆動状態)が一定であってもオイルの供給量が不足しうる。このため、相関温度によって潤滑性能が低下しているか否かを判定できる。相関温度と比較する所定温度(閾値)は、オイルの温度と粘度と潤滑性能との関係から、潤滑性能が低下し始める温度値(あるいは潤滑性能が低下したと判断できる温度値)に設定される。なお、所定温度は、実験やシミュレーション等により予め定めればよい。
【0026】
また、オイルポンプ6の出力が一定であっても、油温の低下に伴って流動性が低下すると、ポンプ回転数が低下して、オイルポンプ6の吐出流量が低下する。このため、ポンプ回転数によっても、潤滑性能が低下しているか否かを判定できる。ポンプ回転数と比較する所定回転数(閾値)は、オイルポンプ6の出力とポンプ回転数と潤滑性能との関係から、潤滑性能が低下し始める回転数値(あるいは潤滑性能が低下した判断できる回転数値)に設定される。なお、所定回転数は、実験やシミュレーション等により予め定めればよい。
【0027】
本実施形態のように、油温に相関する相関温度及びポンプ回転数の両方がそれぞれ所定の閾値未満である場合に、潤滑性能が低下しているものと判定する構成では、潤滑性能の判定精度がより向上する。
【0028】
制限手段1Cは、判定手段1Bにより潤滑性能の低下が判定された場合に、後輪2rに伝達される駆動トルクを制限するトルク制限制御を行うものである。このトルク制限制御では、車両10の車速が高いほど、駆動トルクの制限量Lを増大させる制御(以下「制御I」と表記する)が実施される。
【0029】
駆動トルクの制限量Lとは、例えば、要求トルクTRに対する駆動トルクの抑制割合(制限割合)や、要求トルクTRと駆動トルクとの差(制限トルク値)であり、車速に応じてその値が決まる。制限量Lが大きいほど、駆動トルクは大きく抑制又は制限され、要求トルクTRとの乖離が大きくなる。なお、本実施形態のECU1では、潤滑性能の低下が判定された場合には、制限手段1Cが制御手段1Aに代わって、指示トルクTDを設定するものとする。
【0030】
車両10が高車速で走行しているときは、モータ3rの回転速度も同様に高い状態となっている。このため、この状態のときにモータ3rやトランスアクスル5内を循環するオイルの流量(供給量)が不足すると、モータ3rやトランスアクスル5の軸受に焼き付きが生じる可能性がある。したがって、上記の制御Iでは、車速が高いほど制限量Lを増大させることで、ドライバの要求トルクTRに対してモータ3rの駆動トルクを抑制し、モータ3rの回転速度を低下させて焼き付きを防止する。
【0031】
本実施形態では、車速が所定速度V1以上であるとき制御Iが実施され、更に、車速が所定の上限速度V2(ただしV2>V1)以上である高車速時に駆動トルクを0に制限する制御(以下「制御II」と表記する)が実施される。ここで、「駆動トルクを0に制限する」とは、制限量Lを最大値にまで増大させることを意味する。例えば、制限量Lが制限割合である場合には、その割合を100%にすることを意味し、制限量Lが制限トルク値である場合には、制限トルク値を要求トルクTRと同一にすることを意味する。
【0032】
図2は、制限手段1Cによるトルク制限制御の内容を説明するためのグラフであり、車速に応じたモータ3rのトルク特性に、制限量を重ねて示す。横軸は車速を示し、左側の縦軸はモータ3rの駆動トルク(実線)を示し、右側の縦軸は駆動トルクの制限量L(破線)を示す。なお、制限量Lは駆動トルクの制限割合として表されている。
【0033】
所定速度V1は、潤滑性能が低下した状況において制御Iを実施するかどうかを判定する基準となる速度であり、上限速度V2よりも低い速度値である。所定速度V1は、潤滑性能とモータ3rの回転速度と車速との関係から、制御Iを実施しなくてもモータ3rの回転速度が十分に低い状態であると判断できる速度に設定される。この所定速度V1は、実験やシミュレーション等により予め定めてよい。
【0034】
制限手段1Cは、車速が所定速度V1以上且つ上限速度V2未満の時に、制御Iを実施し、車速が所定速度V1未満の低車速時には、制御Iを実施しない(図2において「制御なし」と表記されている)ように構成される。これにより車速を考慮したより適切なトルク制限制御が実施される。
【0035】
また、上限速度V2は、潤滑性能の低下が判定されている状況において軸受に焼き付きが生じないモータ3rの回転速度に対応する車速の上限値である。上限速度V2は、実験やシミュレーション等により予め設定されていてもよいし、後述するように、相関温度に応じて設定される可変値であってもよい。
【0036】
制限手段1Cは、車速が上限速度V2以上のときに制御IIを実施する。潤滑性能が低下している状況で、車速が上限速度V2以上であるときには、上記の制御IIにより駆動トルクが0に制限されることで車速が低下するため、モータ3rの回転速度が高くなり過ぎる前に、モータ3rの回転速度が確実に低下し、オイルの供給量不足による軸受の焼き付きが抑制される。
【0037】
本実施形態の制限手段1Cは、制御I,IIにおいて、相関温度が低いほど上限速度V2を低い値に設定する。すなわち、本実施形態の上限速度V2は可変値として用いられる。制限手段1Cは、例えばECU1の記憶装置に、相関温度と上限速度V2との関係を規定したマップを予め記憶しておき、このマップに相関温度を適用することで、相関温度に応じた上限速度V2を設定する。
【0038】
このマップは、例えば、相関温度が低いほど上限速度V2が低くなるように設定される。油温が低いほど潤滑性能が低く、軸受に焼き付きが生じやすい状況と考えられる。このため、相関温度が低いときほど上限速度V2を下げることで、駆動トルクが0に制限される制御IIが実施されやすくなる。反対に、相関温度が高くなれば上限速度V2が高くなるので、駆動トルクが0に制限される制御(制御II)が実施されにくくなり、要求トルクTRに近い駆動トルクが実現されやすくなる。
【0039】
本実施形態の制限手段1Cは、上述した通り、潤滑性能が低下していると判定された場合に、車速に応じた制限量Lを取得する。そして、制限手段1Cは、制御手段1Aで算出された要求トルクTRを、取得した制限量Lで抑制することで、制限された要求トルクTL(以下「制限要求トルクTL」という)を算出し、この制限要求トルクTLを指示トルクTDに設定する。このように設定された指示トルクTDは、ドライバの要求トルクTRを抑制又は制限するように作用する。
【0040】
なお、制限手段1Cは、制限量Lが制限割合である場合には、要求トルクTRにその制限割合を乗じることで制限要求トルクTLを算出する。また、制限量Lが制限トルク値である場合には、要求トルクTRから制限トルク値を減じることで制限要求トルクTLを算出する。
【0041】
[1-3.フローチャート]
図3は、上述したトルク制限制御の内容を説明するためのフローチャート例である。このフローは、例えば車両10のメイン電源がオンのときに、ECU1において所定の演算周期で繰り返し実施される。
【0042】
ステップS1では、各種センサ11~15で検出された情報が取得される。ステップS2では、制御手段1Aにより、例えばアクセル開度と車速とに基づいて車両10に対する要求トルクTRが算出される。
【0043】
ステップS3では、判定手段1Bによりオイルの潤滑性能が低下しているか否かが判定される。本実施形態では、油温に相関する相関温度及びポンプ回転数のそれぞれが所定の閾値未満である場合に、潤滑性能の低下が判定される。例えば、極寒冷地等の走行時など、オイルの潤滑性能を維持できない低温環境下では、潤滑性能の低下が判定され得る。
【0044】
潤滑性能の低下が判定された場合(ステップS3のYes)、ステップS4では、相関温度に応じた上限速度V2が設定される。具体的には、相関温度が低いほど上限速度V2が低い値に設定される。ステップS5では、制限手段1Cにより車速が所定速度V1以上であるか否かが判定される。
【0045】
車速が所定速度V1以上である場合(ステップS5のYes)、ステップS6では、制限手段1Cにより制限要求トルクTLを算出する処理を実施される。
【0046】
図4は、制限要求トルクTLを算出する処理を説明するためのフローチャート例である。ステップS10では、車速がステップS4で設定された上限速度V2以上であるか否かが判定される。車速が所定速度V1以上であり且つ上限速度V2未満である場合(ステップS10のNo)、上述した制御Iが行われる。すなわち、ステップS11では、制限量Lが取得され、続くステップS12では、制御手段1Aで算出された要求トルクTRが、ステップS11で取得された制限量Lで抑制された制限要求トルクTLが算出される(制御I)。
【0047】
一方、車速が上限速度V2以上である場合は(ステップS10のYes)、ステップS13において、駆動トルクを0にする制限量Lが取得される。ここで取得される制限量Lは、制限量Lが制限割合である場合には、100%であり、制限量Lが制限トルク値である場合には、要求トルクTRと同一の値である。ステップS13からステップS12に進んだ場合には、ステップS12で算出される制限要求トルクTLは0となる(制御II)。
【0048】
図3に戻ると、ステップS7では、制限手段1Cにより制限要求トルクTLが指示トルクTDに設定される。ステップS8では、指示トルクTDに応じた電流値がモータ3rに与えられる。したがって、車速が所定速度V1以上且つ上限速度V2未満である場合は、ドライバの要求トルクTRに対して制限量Lで抑制された駆動トルクが後輪2rに伝達される。また、車速が上限速度V2以上である場合には、指示トルクTDが0であるから、ステップS8ではモータ3rに電流値が与えられない。これにより、後輪2rに伝達される駆動トルクが0に制限される。
【0049】
一方、潤滑性能の低下が判定された場合(ステップS3のYes)であっても、車速が所定速度V1未満である場合は(ステップS5のNo)、ステップS9に進み、制御手段1Aにより要求トルクTRがそのまま指示トルクTDに設定され、その指示トルクTDに応じた電流値がモータ3rに与えられる(ステップS8)。したがって、この場合は、潤滑性能の低下が判定された状況であっても、ドライバの要求トルクTRと同等の駆動トルクが後輪2rに伝達される。
【0050】
また、潤滑性能の低下が判定されていない通常状態では(ステップS3のNo)、ステップS9に進み、制御手段1Aにより要求トルクTRがそのまま指示トルクTDに設定され、指示トルクTDに応じた電流値がモータ3rに与えられる(ステップS8)。したがって、ドライバの要求トルクTRと同等の駆動トルクが後輪2rに伝達される。
【0051】
[1-4.作用]
本実施形態によれば、オイルの潤滑性能が低下していると判定された状況において、車速が所定速度V1以上且つ上限速度V2未満の場合、制御Iにより、制限量Lでモータ3rの駆動トルクが抑制される。この場合、車速が高い(モータ3rの回転速度が高い)ほど、制限量Lが増大する。このことは、モータ3rの回転速度が高くなり過ぎる前にモータ3rの回転速度を低下させるように作用する。
【0052】
また、車速が上限速度V2以上の高速時には、ドライバの要求に関わらず駆動トルクが0に制限される(制御II)。これにより、車速が上限速度V2以上になっているときは駆動トルクが0に制限されるので、モータ3rの回転速度を確実に低下させることができる。
【0053】
この制御IIが行われると、モータ3rの回転速度の低下に伴い、車速が低下する。そして、車速が上限速度V2未満に低下すれば、潤滑性能の低下が判定されていても、制御IIによる駆動トルクの制限は実施されなくなる。
【0054】
また、本実施形態の制限手段1Cは、相関温度が低いほど上限速度V2を低い値に設定し、逆に、相関温度が高いほど上限速度V2を高い値に設定している。このため、潤滑性能の低下状況に応じたより適切なトルク制限制御が実施される。
【0055】
[1-5.効果]
(1)上述したECU1では、潤滑性能の低下が判定された場合に、制限手段1Cが、車速が高いほどモータ3rの駆動トルクの制限量Lを増やすため、モータ3rの回転速度を低下させることができる。これにより、潤滑性能の低下(オイル不足)による軸受の焼き付きを抑制することができる。
【0056】
(2)また、上述したECU1では、車速が上限速度V2以上である高車速時には、制限手段1Cがモータ3rの駆動トルクを0に制限する。これにより、モータ3rの回転速度を確実に低下させることができるため、潤滑性能の低下(オイル不足)による軸受の焼き付きを抑制することができる。
【0057】
(3)また、上述したECU1では、制限手段1Cが、オイルの温度に相関する相関温度が低いほど上限速度V2を低い値に設定する。相関温度が低いほどオイルの潤滑性能が低い状況と考えられる。したがって、相関温度が低いほど上限速度V2を低い値に設定すれば、オイルの潤滑性能が低い状況ほど、駆動トルクの制限がされやすい状態となる。このため、潤滑性能の低下状況に応じたより適切なトルク制限制御を実施できる。
【0058】
〔2.第二実施形態〕
[2-1.装置構成]
図5は、第二実施形態のECU(制御装置)1′が設けられた車両20の全体構成を示す模式図を示す。なお、図5図1に対応する図である。本実施形態の車両20は、上記の車両10に対し、前輪2fを駆動するフロントモータ3fを有する点を除いて同様に構成されている。以下、図1図4を参照して説明した第一実施形態と共通の構成要素については、第一実施形態と共通の符号を付与して、その説明を適宜省略する。なお、本実施形態では、第一実施形態のモータ3rを、フロントモータ3fと区別して「リヤモータ3r」と呼ぶ。
【0059】
図5に示す車両20は、リヤモータ3rとは異なるフロントモータ3fを備えており、フロントモータ3fとリヤモータ3rとを駆動源とした前後輪駆動式の電動自動動車である。リヤモータ3rがトランスアクスル5付きの油冷式モータであるのに対して、フロントモータ3fは、その回転軸がトランスアクスルを介さず直接的に(あるいは図示しない減速機を介して間接的に)前輪2fの車軸4fに接続される。なお、本実施形態のフロントモータ3fには、上述したリヤモータ3rに設けられているような、オイルによる冷却及び潤滑のための構造が付随されていない。
【0060】
[2-2.制御構成]
本実施形態のECU1′は、第一実施形態のECU1に対し、要求トルクTRを前後に分配する機能を持つ。図5に示すECU1′の制御手段1A′は、要求トルクTRを算出して、要求トルクTRを指示トルクTDに設定することに加えて、指示トルクTDを予め設定された初期配分に従う比率で前後輪2f,2rに分配して、フロントモータ3fの指示トルクTDf及びリヤモータ3rの指示トルクTDrに設定する。潤滑性能が低下していない通常状態では、要求トルクTRが指示トルクTDに設定されるので、要求トルクTRが初期配分に従う比率で前後輪2f,2rに分配される。
【0061】
また、ECU1′の判定手段1Bは、第一実施形態の判定手段1Bと同様、リヤモータ3rでの潤滑性能の低下を判定する。ECU1′の制限手段1Cは、第一実施形態の制限手段1Cと同様、判定手段1Bによりリヤモータ3rでの潤滑性能の低下が判定された場合に、トルク制限制御を行う。
【0062】
ECU1′は、上記の各要素1A′,1B,1Cに加えて分配手段1Dを備えている。分配手段1Dは、トランスアクスル5付きリヤモータ3rで潤滑性能の低下が判定された場合に、フロントモータ3f及びリヤモータ3rの各々に発生させる駆動トルクを、初期配分とは異なる配分(比率)で分配する分配制御を行う。潤滑性能の低下が判定されている状態では、車速が所定車速V1未満であれば要求トルクTRが指示トルクTDに設定され、車速が所定車速V1以上であれば制限手段1Cにより制限要求トルクTLが指示トルクTDに設定される。このため、分配手段1Dは、要求トルクTR又は制限要求トルクTLを、初期配分とは異なる配分(比率)で前後輪2f,2rに分配する。
【0063】
本実施形態の分配制御では、リヤモータ3rの駆動トルクが増加側に補正されるとともに、フロントモータ3fの指示トルクTDfが減少側に補正される。潤滑性能が低下した状況では、油温が低下している。したがって、上記の分配制御において、リヤモータ3rの駆動トルクを増加側に補正することで、リヤモータ3rの発熱量を増大させて、油温の上昇を促すことができる。これにより、潤滑性能を積極的に向上させ得る。
【0064】
図6は、分配手段1Dによる分配制御を説明するグラフであり、フロントモータ3fの指示トルクTDf(以下「前側駆動トルク」ともいう)とリヤモータ3rの指示トルクTDr(以下「後側駆動トルク」ともいう)との配分(比率)を示している。縦軸は駆動トルクを示し、横軸は時間を示す。図中の実線で示すグラフは、分配前の指示トルクTDであり、図中の破線で示すグラフが後側駆動トルクを示す。つまり、実線のグラフから破線のグラフを引いた値が前側駆動トルクの大きさに相当する。
【0065】
通常状態では、前側駆動トルクと後側駆動トルクとは、初期配分に従う比率で分配されている。潤滑性能の低下が判定された時点で分配制御が開始されると、後側駆動トルクが漸次増加される一方、後側駆動トルクの増加分に対して相対的に前側駆動トルクが漸次減少される。これにより、前側駆動トルクと後側駆動トルクとの配分(比率)が初期配分とは異なる比率に変更される。変更後の前側駆動トルクと後側駆動トルクとの配分(比率)は、モータの回転速度と発熱量との関係から適宜に設定される。なお、変更後の配分(比率)は、実験やシミュレーション等により予め定めればよい。
【0066】
本実施形態の分配手段1Dは、相関温度が低いほど、リヤモータ3rの駆動トルクの増加側への補正量を大きくする。つまり、油温が低いほど、リヤモータ3rの発熱量をより増大させる。この補正量は、例えば、後側駆動トルクの増加割合や、配分(比率)の変更前後における駆動トルクの差(増加トルク値)に設定される。
【0067】
[2-3.フローチャート]
図7は、第二実施形態に係るトルク制限制御及び分配制御の内容を説明するためのフローチャート例である。なお、図7のフローチャートは図3のフローチャートと対応している。図7のステップS21~S28は、図3のステップS1~S7,S9と同様に構成されており、図3を参照して既に説明した第一実施形態と共通のステップについては、その説明を適宜省略する。
【0068】
潤滑性能の低下が判定された場合(ステップS23のYes)、車速が所定速度V1以上ならば(ステップS25のYes)、制限手段1Cにより制限要求トルクTLが算出された後(ステップS26)、制限要求トルクTLが指示トルクTDに設定される(ステップS27)。また、車速が所定速度V1未満ならば(ステップS25のNo)、要求トルクTRがそのまま指示トルクTDに設定される(ステップS28)。
【0069】
ステップS29では、ステップS27又はS28で設定された指示トルクTDを、初期配分の比率で、フロントモータ3fの指示トルクTDfとリヤモータ3rの指示トルクTDrとに分配する。
ステップS30では、分配手段1Dにより分配制御が行われる。つまり、前記ステップS29で設定されたリヤモータ3rの指示トルクTDrが増加側に補正されるとともに、前記ステップS29で設定されたフロントモータ3fの指示トルクTDfが減少側に補正される。これにより、結果的に、指示トルクTDは、初期配分とは異なる配分(比率)で、フロントモータ3fの指示トルクTDfとリヤモータ3rの指示トルクTDrとに分配される。
【0070】
ステップS31では、フロントモータ3f及びリヤモータ3r(図7では「Fr,Rrモータ」と表記する)の各々に、設定された指示トルクTDf,TDrに応じた電流値が与えられる。
【0071】
なお、車速が上限速度V2以上の高速時には、制限手段1Cの制御IIにより制限要求トルクTL=0が指示トルクTDに設定されるため、フロントモータ3fの指示トルクTDf及びリヤモータ3rの指示トルクTDrは0に制限される。
【0072】
また、潤滑性能の低下が判定されていない場合(ステップS23のNo)、ステップS32では、要求トルクTRが指示トルクTDに設定される。ステップS33では、ステップS32で設定された指示トルクTDが、初期配分の比率でフロントモータ3fの指示トルクTDfとリヤモータ3rの指示トルクTDrとに分配される。そして、指示トルクTDf,TDrに応じた電流値がフロントモータ3fとリヤモータ3rの各々に与えられる(ステップS31)。
【0073】
[2-4.作用]
本実施形態によれば、潤滑性能の低下が判定されたとき、制限手段1Cによるトルク制限制御に加えて、分配手段1Dが指示トルクTDを初期配分とは異なる配分でフロントモータ3fの指示トルクTDfとリヤモータ3rの指示トルクTDrとに分配することで、前後輪2f,2rの駆動トルクの配分を変更する。例えば、リヤモータ3r側の駆動トルクが増加側に変更された場合、リヤモータ3rの発熱量が増大するので、油温の上昇が促される。これにより、リヤモータ3rの回転速度を低下させることと、油温の上昇により潤滑性能を積極的に向上させることとの両立を図る。
【0074】
分配手段1Dによる分配制御が実施された場合、油温が上昇するので、これに伴い上限速度V2が高い値に設定される。この結果、車速が上限速度V2以上の高速に至りにくくなり、駆動トルクを0に制限する制御IIが実施されにくくなる。これにより、潤滑性能の低下状況に応じたより適切なトルク制限制御が実施される。
【0075】
[2-5.効果]
(4)上述した車両20では、トランスアクスル5付きのリヤモータ3rの潤滑性能が低下している場合には、制限手段1Cによりリヤモータ3r側の駆動トルクが制限される。このとき、分配手段1Dにより前後輪2f,2rのトルクが初期配分とは異なる配分で分配される。例えば、前後輪のトルクのうち、制限手段1Cにより制限されるリヤモータ3r側の駆動トルクが増加するように配分が変更される場合には、軸受の焼き付きを抑制しつつリヤモータ3rの発熱量を増大させることができる。これにより、オイル温度の上昇を促すことができ、潤滑性能を積極的に向上させることができる。また、前後輪のトルクのうち、制限手段1Cにより制限されるリヤモータ3r側の駆動トルクが減少するように配分が変更される場合には、制限駆動トルクTLが更に制限されることになるので、より一層、軸受の焼き付きを抑制できる。
【0076】
(5)本実施形態の分配手段1Dは、制限手段1Cにより制限されるリヤモータ3rの駆動トルクが増加するように補正するとともに、相関温度が低いほど、つまり潤滑性能が低いほど、リヤモータ3rの駆動トルクを増加側へ大きく補正する。これにより、リヤモータ3rの発熱量を増やすことができ、オイル温度の上昇をさらに促すことができる。したがって、潤滑性能をより積極的に向上させることができる。
【0077】
〔3.その他〕
上述したトルク制限制御の内容は一例であって、上述したものに限られない。
例えば、上述した制限手段1Cは、車速が所定速度V1以上且つ上限速度V2未満のときに制御Iを行い、上限速度V2以上の高速時に制御IIを行うように構成されていたが、所定速度V1を省略してもよい。例えば、制限手段1Cは、車速が上限速度V2以上の高速時に制御IIを行い、上限速度V2未満のときには制御Iを行わないように構成されてもよい。あるいは、制限手段1Cは、所定速度V1を省略し、車速が上限速度V2未満のときには制御Iを行い、上限速度V2以上の高速時には制御IIを行うように構成されてもよい。
【0078】
また、上述した制限手段1Cは、制御I,IIにおいて、相関温度が低いほど上限速度V2を低い値に設定する構成であったが、制御Iにおいて相関温度が低いほど所定速度V1を低い値に設定してもよい。なお、相関温度にかかわらず、上限速度V2を一定値としてもよい。
【0079】
また、図7では、ステップS29で指示トルクTDを初期配分の比率でTDf,TDrに分配してから、ステップS30でTDrを増加側に補正し、TDfを減少側に補正する処理構成であったが、これに限らず、初期配分とは異なる配分(比率)を用いて指示トルクTDをTDf,TDrに分配する処理構成であってもよい。この場合、配分の比率(TDf:TDr)は、例えば初期配分を「50:50」と仮定すると、初期配分とは異なる配分(比率)、例えば「40:60」,「30:70」など、リヤモータ3rの駆動トルクを増加側に補正する比率であることが好ましい。この初期配分とは異なる配分(比率)は、相関温度が低くなるほど、リヤモータ3rの駆動トルクの増加側への補正量を大きくする値に変更されることが好ましい。
【0080】
また、上述した分配手段1Dの分配制御は、リヤモータ3rの駆動トルクを増加側に補正する構成であったが、反対に、リヤモータ3rの駆動トルクを減少側に補正し、フロントモータ3fの駆動トルクを増加側に補正する構成であってもよい。この場合、制限手段1Cにより制限されるリヤモータ3rの駆動トルクが更に制限されることになるので、より一層、軸受の焼き付きを抑制できる。
【0081】
車両10,20の構成は図示の例に限定されない。
また、上記の車両10,20には二つのリヤモータ3rが搭載され、各モータ3rが左右輪を独立して駆動しているが、1つのモータで左右輪を駆動するものであってもよい。
【符号の説明】
【0082】
1,1′ ECU(制御装置)
1A,1A′ 制御手段
1B 判定手段
1C 制限手段
1D 分配手段
3f モータ,フロントモータ
3r モータ,リヤモータ
5 トランスアクスル
6 オイルポンプ
10,20 車両
12 車速センサ
13 外気温センサ
14 油温センサ
15 ポンプ回転数センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7