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  • 特許-シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
D21H11/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019065241
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165018
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】三上 英一
(72)【発明者】
【氏名】砂川 寛一
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196918(JP,A)
【文献】特開2018-090659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むシートの製造方法であって、
シート化工程中に前記シートの水分量を、前記繊維状セルロース100質量部に対して10質量部以上1000質量部以下に調湿する工程を含み、
前記調湿する工程は、水分付与工程であり、
前記水分付与工程では、前記シートの水分量を、前記繊維状セルロース100質量部に対して20質量部以上1000質量部以下となるように水分を付与する、シートの製造方法。
【請求項2】
前記水分付与工程は、水分を塗工もしくは噴霧する工程である請求項に記載のシートの製造方法。
【請求項3】
前記水分付与工程は、乾燥工程の後に設けられる請求項1又は2に記載のシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートの製造方法に関する。具体的には、本発明は、微細繊維状セルロースを含むシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース繊維は、衣料や吸収性物品、紙製品等に幅広く利用されている。セルロース繊維としては、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロースに加えて、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースは、新たな素材として注目されており、その用途は多岐にわたる。例えば、微細繊維状セルロースを含むシートや樹脂複合体、増粘剤の開発が進められている。
【0003】
微細繊維状セルロースを含むシートを形成する場合、微細繊維状セルロースを含むスラリーを基材上に塗工した後に乾燥し、フィルム状のシートを形成することが検討されている。例えば、特許文献1には、微細繊維状セルロースを含むセルロースナノファイバーフィルムの製造方法が開示されている。ここでは、セルロースナノファイバーの分散液に、グリセリン、ソルビトール、及びポリビニルアセトアミド系化合物の中から選択した1種以上の添加剤を添加して塗工液を得た後に、塗工液を脱泡し、樹脂基材に塗工し、乾燥させてフィルム状にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-154699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微細繊維状セルロースを含むシートを製造する際には、基材上に微細繊維状セルロース含有分散液を塗工し、乾燥をさせることが行われる。しかし、乾燥後に微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離しにくい場合があった。また、乾燥後に微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離できたとしても、シートに凹凸が生じたりしてシートの外観が損なわれる場合もあった。
【0006】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、外観に優れた微細繊維状セルロース含有シートを得るべく、シートの製造方法について検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、微細繊維状セルロース含有シートのシート化工程において、繊維状セルロース100質量部に対するシートの水分量を所定範囲内とすることにより、外観に優れた微細繊維状セルロース含有シートが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むシートの製造方法であって、
シート化工程中にシートの水分量を、繊維状セルロース100質量部に対して10質量部以上1000質量部以下に調湿する工程を含む、シートの製造方法。
[2] 調湿する工程は、乾燥工程もしくは水分付与工程である[1]に記載のシートの製造方法。
[3] 調湿する工程は、水分付与工程であり、
水分付与工程では、シートの水分量を、繊維状セルロース100質量部に対して10質量部以上1000質量部以下となるように水分を付与する[1]又は[2]に記載のシートの製造方法。
[4] 水分付与工程は、水分を塗工もしくは噴霧する工程である[3]に記載のシートの製造方法。
[5] 水分付与工程は、乾燥工程の後に設けられる[3]又は[4]に記載のシートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、外観に優れた微細繊維状セルロース含有シートの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(繊維状セルロース含有シートの製造方法)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むシートの製造方法に関する。本発明のシートの製造工程は、シート化工程中にシートの水分量を、繊維状セルロース100質量部に対して10質量部以上1000質量部以下に調湿する工程を含む。より具体的には、本発明のシートの製造方法は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液をシート化する工程を含み、該シート化する工程において、シートの水分量上記範囲内に調整する。
なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースもしくはCNFと呼ぶこともある。また、本明細書では、微細繊維状セルロース含有シートを単にシートと呼ぶこともある。
【0013】
本発明のシートの製造方法では、外観に優れたシートを製造することができる。具体的には、シート化工程において、乾燥後のCNFシートを基材から割れることなく剥離でき、さらに、シートに凹凸が形成されていない場合に外観に優れたシートが得られる。また、本発明のシートの製造方法で得られるシートは、高い透明性を有している。このように本発明の製造方法では、高透明であり、かつ凹凸の少ないシートが得られる。
【0014】
本発明のシートの製造方法では、シート化工程後におけるシートの剥離性が高い。具体的には、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液を基材上に塗工し、乾燥させた後に、微細繊維状セルロース含有シートを基材から割れることなく剥離することができる。また、剥離する際には、剥離応力が低いため、スムーズな剥離作業が可能となる。このため、微細繊維状セルロース含有シートの生産効率を高めることができる。さらに、本発明のシートの製造方法においては、剥離後のシートにも割れが生じることが抑制されており、耐久性に優れたシートであると言える。
【0015】
<シート化工程>
本発明のシートの製造工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液をシート化する工程を含む。シート化する工程では、抄紙もしくは塗工により湿潤シートを形成した後に乾燥することによって微細繊維状セルロース含有シートが形成される。なお、本明細書では、シート化する工程を、シート化工程と呼ぶこともある。
【0016】
-抄紙工程-
抄紙工程は、抄紙機により分散液を抄紙することにより行われる。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、とくに限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
【0017】
抄紙工程は、分散液をワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、このシートをプレス、乾燥することにより行われる。分散液を濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、とくに限定されないが、たとえば微細繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、とくに限定されないが、たとえば有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしてはとくに限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
【0018】
シート化工程において、分散液からシートを製造する方法は、たとえば繊維状セルロースを含む分散液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された分散液から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0019】
微細繊維状セルロース含有分散液からシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含む分散液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された分散液から分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0020】
本発明において使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。乾燥工程では、乾燥と並行して加圧してもよい。
【0021】
-塗工工程-
塗工工程では、たとえば微細繊維状セルロースを含む分散液を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
【0022】
塗工工程で用いる基材の材質は、とくに限定されないが、分散液に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、とくに限定されない。たとえばアクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
【0023】
塗工工程において、分散液の粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、とくに限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリプロピレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
【0024】
分散液を基材に塗工する塗工機としては、とくに限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターがとくに好ましい。
【0025】
分散液を基材へ塗工する際の分散液温度および雰囲気温度は、とくに限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることがとくに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、分散液をより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0026】
塗工工程は、上述のとおり、基材上に塗工した分散液を乾燥させる工程を含む。分散液を乾燥させる工程は、とくに限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。
【0027】
非接触の乾燥方法としては、とくに限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、とくに限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
【0028】
<調湿工程>
本発明のシートの製造工程において、上述したようなシート化工程では、調湿工程が設けられる。調湿工程は、シート化工程中においてシートの水分量を、繊維状セルロース100質量部に対して10質量部以上1000質量部以下に調湿する工程である。調湿工程におけるシートの水分量は、繊維状セルロース100質量部に対して、10質量部以上であればよく、15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。また、調湿工程におけるシートの水分量は、繊維状セルロース100質量部に対して、1000質量部以下であればよく、800質量部以下であることが好ましく、500質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましい。調湿工程におけるシートの水分量を上記範囲内とすることにより、得られるシートの外観を良好なものとすることができる。具体的には、透明性が高く、かつ凹凸の少ないシートが得られる。
【0029】
調湿工程におけるシートの水分含有率は、シートの全質量に対して、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、8質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。また、調湿工程におけるシートの水分含有率は、シートの全質量に対して、80質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以下であることが一層好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。調湿工程におけるシートの水分含有率を上記範囲内とすることにより、得られるシートの外観を良好なものとすることができる。具体的には、透明性が高く、かつ凹凸の少ないシートが得られる。
【0030】
調湿工程は、乾燥工程もしくは水分付与工程であることが好ましい。中でも、調湿工程は、シートを乾燥させた後に、さらに水分を付与する水分付与工程であることが好ましい。
【0031】
調湿工程が乾燥工程である場合、乾燥工程では、シートの水分量が上記範囲内となるように乾燥条件を設定する。具体的には、シートが乾燥しすぎないように、乾燥条件をコントロールする。このような乾燥工程における乾燥温度は、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。乾燥工程における乾燥温度は、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましい。また、乾燥工程における乾燥時間は乾燥温度によって適宜選択されるが、1分以上であることが好ましく、2分以上であることがより好ましい。乾燥工程における乾燥時間は、180分以下であることが好ましく、120分以下であることがより好ましい。例えば、乾燥温度が140℃である場合、乾燥時間は、2分以上100分以下であることが特に好ましい。また、乾燥温度が105℃である場合、乾燥時間は、3分以上120分以下であることが特に好ましい。
【0032】
調湿工程が水分付与工程である場合、水分付与工程は、シートを乾燥させた後に、さらに水分を付与する水分付与工程であることが好ましい。すなわち、水分付与工程は、乾燥工程の後に設けられることが好ましい。水分付与工程は、微細繊維状セルロース含有分散液をシート状とし、該シート状物を一旦乾燥させて、過乾燥状態とした後に、設けられることになる。このように、シート状物を一旦乾燥させた後に、再度シート状物に水分を付与して最終形態のシートとなる。水分付与工程では、過乾燥状態のシートに水分を付与することで、シートの水分量を繊維状セルロース100質量部に対して10質量部以上1000質量部以下とする。この際のシートの水分量は、15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。また、シートの水分量は、繊維状セルロース100質量部に対して、800質量部以下であることが好ましく、500質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましい。
【0033】
水分付与工程は、水分を塗工もしくは噴霧する工程であることが好ましい。水分を塗工する工程では、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、エアドクターコーター等を使用して、水分を過乾燥状態のシートに付与することが好ましい。水分を噴霧する工程では、ミスト噴霧、加熱蒸気噴霧等の方法を採用して、水分を過乾燥状態のシートに付与することが好ましい。
【0034】
水分付与工程における水分付与量は、水分付与工程前のシートの乾燥状態によって変動するが、例えば、0.1g/m2以上であることが好ましく、0.5g/m2以上であることがより好ましく、1.0g/m2以上であることがさらに好ましい。また、水分付与工程における水分付与量は、100g/m2以下であることが好ましく、50g/m2以下であることが好ましく、30g/m2以下であることが好ましい。上記のような範囲から水分付与量を選択することで、調湿工程におけるシートの水分量を所望の範囲内とすることが容易となる。
【0035】
調湿工程の前には、シートの水分量を測定する工程が設けられてもよい。そして、シート製造工程においては、水分量の測定結果を調湿工程に伝達するシステムが備えられていることが好ましい。このように、調湿工程の前のシートの水分量から、調湿工程でコントロールが必要な水分量を計算することで、より精密な水分量のコントロールが可能となる。なお、水分計としては、例えば、赤外線水分量計、放射線水分量計、電波式水分量計等が挙げられる。
【0036】
<他の工程>
本発明のシートの製造方法は、シート化工程の前後に他の工程を含んでもよい。ここで、他の工程としては、例えば、ろ過工程、脱泡工程等を挙げることができる。ろ過工程は、シート化工程の前に設けられることが好ましく、ろ過工程としては、例えば、スクリーン、クリーナー及びフィルターから選択される少なくとも1種を用いてろ過する工程等が挙げられる。また、脱泡工程もシート化工程の前に設けられることが好ましく、脱泡工程では、例えば、真空脱泡装置、遠心脱泡装置、減圧脱泡装置、自転公転脱泡装置等を用いることができる。そして、このような脱泡工程の後には、通常、分散液を移送する工程が設けられるが、その移送工程においてもさらなる脱泡が促進されるように、配管角度や配管経路等を調整してもよい。
【0037】
シート化工程の後工程には、シート巻取り工程を設けてもよい。シート巻取り工程では、調湿工程後のシートを巻取った後に、調湿条件が保持されるように、密閉されることが好ましい。
【0038】
(微細繊維状セルロース含有分散液)
本発明のシートの製造方法では、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液(微細繊維状セルロース含有分散液)からシートを形成する。微細繊維状セルロース含有分散液に含まれる繊維状セルロースの繊維幅は1000nm以下であればよく、100nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。これにより、微細繊維状セルロース含有シートを製造した際には、シートの透明性が高まり、加えてシートの強度も高められる。
【0039】
繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。なお、繊維状セルロースの平均繊維幅は上記範囲内であることが好ましいが、微細繊維状セルロース含有分散液には、繊維幅が1000nmを超える粗大繊維が含まれていてもよい。
【0040】
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
【0041】
繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0042】
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0043】
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
【0044】
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
【0045】
繊維状セルロースは、イオン性置換基および非イオン性置換基のうちの少なくとも一種を有していてもよい。分散媒中における繊維状セルロースの分散性を向上させ、解繊処理における解繊効率を高める観点からは、繊維状セルロースがイオン性置換基を有することがより好ましい。イオン性置換基としては、たとえばアニオン性基およびカチオン性基のいずれか一方または双方を含むことができる。また、非イオン性置換基としては、たとえばアルキル基およびアシル基などを含むことができる。本実施形態においては、イオン性置換基としてアニオン性基を有することが特に好ましい。なお、繊維状セルロースには、イオン性置換基を導入する処理が行われていなくてもよい。
【0046】
イオン性置換基としてのアニオン性基としては、たとえばリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)、カルボキシ基またはカルボキシ基に由来する置換基(単にカルボキシ基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、アニオン性基は、リンオキソ酸基およびカルボキシ基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リンオキソ酸基であることが特に好ましい。アニオン性基としてリン酸基や亜リン酸基といったリンオキソ酸基を導入することにより、例えば、アルカリ性条件下や酸性条件下においても、繊維状セルロースの分散性をより高めることができ、微細繊維状セルロース含有スラリーからシートを形成する場合には、微細繊維状セルロース含有シートの強度を高めることができる。また、リン酸基や亜リン酸基といったリンオキソ酸基を導入することにより、得られるシートの透明性をより効果的に高めることもできる。
【0047】
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。リンオキソ酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO32で表される基である。リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として繊維状セルロースに含まれていてもよい。また、リンオキソ酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リンオキソ酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩などであってもよい。
【0048】
【化1】
【0049】
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αnおよびα’のうちa個がO-であり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αnおよびα’の全てがO-であっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
【0050】
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0051】
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
【0052】
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。なお、βb+は有機オニウムイオンであってもよい。
【0053】
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、3.00mmol/g以下であることが特に好ましい。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの増粘剤などの種々用途において良好な特性を発揮することができる。ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。
【0054】
繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
【0055】
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
【0056】
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型の繊維状セルロースの質量を示すことから、酸型の繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときの繊維状セルロースの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンである繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
【0057】
図2は、カルボキシ基を有する繊維状セルロースを含有するスラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図2の上側部に示すような滴定曲線を得る。図2の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図2の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が一つ確認され、この極大点を第1終点と呼ぶ。ここで、図2における滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼ぶ。第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中のカルボキシ基量と等しくなる。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の繊維状セルロースを含有するスラリー中の固形分(g)で除すことで、カルボキシ基の導入量(mmol/g)を算出する。
なお、上述のカルボキシ基導入量(mmol/g)は、カルボキシ基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量(以降、カルボキシ基量(酸型)と呼ぶ)である。
【0058】
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量やカルボキシ基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いリンオキソ酸基量やカルボキシ基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
【0059】
繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有分散液の全質量に対して、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有分散液の全質量に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
【0060】
微細繊維状セルロース含有分散液の全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。なお、微細繊維状セルロース含有分散液の全光線透過率は100%であってもよい。微細繊維状セルロース含有分散液の全光線透過率は、微細繊維状セルロース含有分散液をイオン交換水で繊維状セルロースの含有量が0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いて、JIS K 7361に準拠して測定される値である。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置する。
【0061】
なお、上述した分散液の全光線透過率は、脱泡前の分散液の全光線透過率であるが、脱泡後の分散液であっても上記同様の全光線透過率が得られることが好ましい。すなわち、脱泡後の分散液に含まれる繊維状セルロースの含有量を0.2質量%の分散液とした場合、該分散液の全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0062】
微細繊維状セルロース含有分散液のヘーズは、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロース含有分散液のヘーズは、たとえばJIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いて測定される値である。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置する。
【0063】
微細繊維状セルロース含有分散液は、微細繊維状セルロースの他に任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、親水性高分子、親水性低分子、有機イオン等と挙げることができる。また、微細繊維状セルロース含有分散液は、任意成分として、界面活性剤、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、および架橋剤から選択される一種または二種以上を含んでいてもよい。なお、任意成分は、脱泡する工程の前に添加されることが好ましい。
【0064】
親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましく、含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。
【0065】
親水性低分子は、親水性の含酸素有機化合物であることが好ましく、多価アルコールであることがさらに好ましい。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等が挙げられる。
【0066】
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn-プロピルオニウムイオン、テトラn-ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
【0067】
(微細繊維状セルロースの製造工程)
<繊維原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
【0068】
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
【0069】
<リンオキソ酸基導入工程>
微細繊維状セルロース含有分散液の製造工程は、イオン性置換基導入工程を含むことが好ましく、例えば、リンオキソ酸基導入工程を含むことが好ましい。リンオキソ酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リンオキソ酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リンオキソ酸基導入繊維が得られることとなる。
【0070】
本実施形態に係るリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
【0071】
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
【0072】
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物であればよく、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
【0073】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
【0074】
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
【0075】
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
【0076】
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0077】
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
【0078】
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
【0079】
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
【0080】
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0081】
リンオキソ酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリンオキソ酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリンオキソ酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リンオキソ酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
【0082】
繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維原料に対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0083】
<カルボキシ基導入工程>
微細繊維状セルロース含有分散液の製造工程は、イオン性置換基導入工程としてカルボキシ基導入工程を含んでもよい。カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
【0084】
カルボン酸由来の基を有する化合物としては、特に限定されないが、たとえばマレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばカルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては、とくに限定されないが、たとえばマレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0085】
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、特に限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、特に限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
【0086】
カルボキシ基導入工程において、TEMPO酸化処理を行う場合には、たとえばその処理をpHが6以上8以下の条件で行うことが好ましい。このような処理は、中性TEMPO酸化処理ともいう。中性TEMPO酸化処理は、たとえばリン酸ナトリウム緩衝液(pH=6.8)に、繊維原料としてパルプと、触媒としてTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)等のニトロキシラジカル、犠牲試薬として次亜塩素酸ナトリウムを添加することで行うことができる。さらに亜塩素酸ナトリウムを共存させることによって、酸化の過程で発生するアルデヒドを、効率的にカルボキシ基まで酸化することができる。また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
【0087】
繊維原料に対するカルボキシ基の導入量は、置換基の種類によっても変わるが、たとえばTEMPO酸化によりカルボキシ基を導入する場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.90mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、2.5mmol/g以下であることが好ましく、2.20mmol/g以下であることがより好ましく、2.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。その他、置換基がカルボキシメチル基である場合、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり5.8mmol/g以下であってもよい。
【0088】
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりイオン性置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
【0089】
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、イオン性置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0090】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
【0091】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるリンオキソ酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0092】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、イオン性置換基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、リンオキソ酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったイオン性置換基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0093】
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。例えば、イオン性置換基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0094】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
【0095】
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえば繊維原料の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0096】
<解繊処理>
イオン性置換基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
【0097】
解繊処理工程においては、たとえばイオン性置換基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
【0098】
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、イオン性置換基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのリンオキソ酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
解繊処理工程を経て、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液が得られる。このような分散液の固形分濃度は脱泡する工程に供される前に適宜調整されることが好ましい。
【0099】
(微細繊維状セルロース含有シート)
本発明は、上述した微細繊維状セルロース含有シートの製造方法で製造されたシートに関するものであってもよい。本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むシートであって、高透明であり、かつ凹凸の少ないシートである。
【0100】
シートにおける繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有シートの全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有シートの全質量に対して、100質量%であってもよいが、スラリーに含まれ得る任意成分を適宜含んでいてもよい。
【0101】
上述したような工程で製造される微細繊維状セルロース含有シートの厚みは、5μm以上であることが好ましく8μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロース含有シートの厚みは、1000μm以下であることが好ましく800μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。
【0102】
微細繊維状セルロース含有シートの坪量(絶乾坪量)は、5g/m2以上であることが好ましく、10g/m2以上であることがより好ましく、20g/m2以上であることがさらに好ましく、30g/m2以上であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロース含有シートの坪量(絶乾坪量)は、1000g/m2以下であることが好ましく、800g/m2以下であることがより好ましく、600g/m2以下であることがさらに好ましい。ここで、微細繊維状セルロース含有シートの坪量は、JIS P 8124:2011に準拠して算出される値である。
【0103】
微細繊維状セルロース含有シートのヘーズは、たとえば2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。一方で、微細繊維状セルロース含有シートのヘーズの下限値は、とくに限定されず、たとえば0%であってもよい。ここで、微細繊維状セルロース含有シートのヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0104】
微細繊維状セルロース含有シートの全光線透過率は、たとえば80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。一方で、微細繊維状セルロース含有シートの全光線透過率の上限値は、とくに限定されず、たとえば100%であってもよい。ここで、微細繊維状セルロース含有シートの全光線透過率は、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【実施例
【0105】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0106】
[製造例1]
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リンオキソ酸化パルプAを得た。
【0107】
[洗浄処理]
次いで、得られたリンオキソ酸化パルプAに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リンオキソ酸化パルプA100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0108】
[中和処理]
次いで、洗浄後のリンオキソ酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリンオキソ酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリンオキソ酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リンオキソ酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリンオキソ酸化パルプAを得た。次いで、中和処理後のリンオキソ酸化パルプAに対して、上記洗浄処理を行った。
【0109】
これにより得られたリンオキソ酸化パルプに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリンオキソ酸化パルプAを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0110】
[解繊処理]
得られたリンオキソ酸化パルプAにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液Aを得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。なお、後述する[リンオキソ酸基量の測定]に記載の測定方法で測定されるリンオキソ酸基量(第1解離酸量)は1.45mmol/gだった。なお、総解離酸量は、2.45mmol/gであった。
【0111】
[製造例2]
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液を添加して、亜リン酸(ホスホン酸)33質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で250秒加熱し、パルプ中のセルロースに亜リン酸基を導入し、リンオキソ酸化パルプBを得た。
【0112】
[洗浄処理]
次いで、得られたリンオキソ酸化パルプBに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リンオキソ酸化パルプB100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
【0113】
[中和処理]
次いで、洗浄後のリンオキソ酸化パルプBに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリンオキソ酸化パルプBを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリンオキソ酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リンオキソ酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリンオキソ酸化パルプBを得た。次いで、中和処理後のリンオキソ酸化パルプBに対して、上記洗浄処理を行った。
【0114】
これにより得られたリンオキソ酸化パルプBに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、得られたリンオキソ酸化パルプBを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
【0115】
[解繊処理]
得られたリンオキソ酸化パルプBにイオン交換水を添加後、撹拌し、2質量%のスラリーにした。このスラリーを湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で200MPaの圧力にて3回処理し、微細繊維状セルロース分散液Bを得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースBがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースBの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。また、後述する[リンオキソ酸基量の測定]に記載の測定方法で測定されるリンオキソ酸基量(第1解離酸量)は1.51mmol/gだった。なお、総解離酸量は、1.54mmol/gであった。
【0116】
[ポリビニルアルコール水溶液の調製]
イオン交換水に、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、ポバール105、重合度:500、ケン化度:98~99mol%)を20質量%になるように加え、95℃で1時間撹拌し、溶解した。このようにしてポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0117】
<実施例1>
[微細繊維状セルロース含有シートの作製]
微細繊維状セルロース分散液A中に含まれる固形分質量が100質量部、ポリビニルアルコール水溶液中に含まれる固形分質量が40質量部となるように、微細繊維状セルロース分散液Aとポリビニルアルコール水溶液を混合した。次いで、全固形分濃度が1.8質量%になるようにイオン交換水で希釈し、CNF含有スラリーAを作製した。次に、シートの絶乾坪量が34g/m2になるようにCNF含有スラリーAを計量して、できる限り均一な厚さになるように市販のポリエチレンテレフタレート(PET)板上に展開しウェット膜を作製した。なお、所定の坪量となるようPET板上には堰止用の枠(内寸100mm×100mm、高さ50mm)を配置した。
【0118】
PET板上に形成したウェット膜を140℃に設定した送風乾燥機に15分間入れ水分を蒸発させてCNFシートを得たのち、水分付与量が4g/m2となるよう霧吹きを用いて水分を付与した。このようにして得られたCNFシートの坪量は38g/m2、水分含有率は10.7質量%であった。なお、この水分含有率から、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)を算出したところ、17質量部であった。なお、CNF100質量部当たりの水分含有量は以下の式から算出した。
CNF対比水分量(質量部)=シート中の水分重量(g/m2)/シート中のCNF重量(g/m2)×100
【0119】
<比較例1>
実施例1において、水分を付与しなかった以外は実施例1と同様にして、CNFシートを得た。得られたCNFシートの坪量は35g/m2、水分含有率は4.5質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は7質量部であった。
【0120】
<実施例2>
実施例1で微細繊維状セルロース分散液Aの代わりに微細繊維状セルロース分散液Bを用いた以外は、実施例1と同様の手順でCNFシートを作製した。得られたCNFシートの坪量は38g/m2、水分含有率は10.9質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は17質量部であった。
【0121】
<実施例3>
実施例1において、微細繊維状セルロース分散液A中に含まれる固形分質量が10質量部、ポリビニルアルコール水溶液中に含まれる固形分質量が90質量部となるように、微細繊維状セルロース分散液Aとポリビニルアルコール水溶液を混合した以外は、実施例1と同様の手順でCNFシートを作製した。得られたCNFシートの坪量は38g/m2、水分含有率は2.5質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は26質量部であった。
【0122】
<実施例4~6>
実施例1における水分付与量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例1と同様にしてCNFシートを作製した。得られたCNFシートの坪量、水分含有率及びCNF対比水分量は表1に記載のとおりであった。
【0123】
<実施例7>
実施例1において、水分付与量が6g/m2となるようメイヤーバーを用いてイオン交換水を塗工し、水分を付与した以外は実施例1と同様にしてCNFシートを作製した。得られたCNFシートの坪量は40g/m2、水分含有率は15.1質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は25質量部であった。
【0124】
<実施例8>
送風乾燥機の温度を105℃、乾燥時間を20分とした以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。得られたCNFシートの坪量は38g/m2、水分含有率は10.4質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は16質量部であった。
【0125】
<比較例2>
送風乾燥機の温度を105℃、乾燥時間を20分とした以外は、比較例1と同様の操作を行った。得られたCNFシートの坪量は35g/m2、水分含有率は4.7質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は7質量部であった。
【0126】
<実施例9~11>
実施例8おける水分付与量を表1に記載の量に変更した以外は、実施例8と同様にしてCNFシートを作製した。得られたCNFシートの坪量、水分含有率及びCNF対比水分量は表1に記載のとおりであった。
【0127】
<実施例12>
実施例8において、水分付与量が6g/m2となるようメイヤーバーを用いてイオン交換水を塗工し、水分を付与した以外は実施例6と同様にしてCNFシートを作製した。得られたCNFシートの坪量は40g/m2、水分含有率は14.9質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は25質量部であった。
【0128】
<実施例13>
乾燥時間を8分とした以外は、比較例1と同様の操作を行った。得られたCNFシートの坪量は39g/m2、水分含有率は13.1質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は21質量部であった。
【0129】
<比較例3>
乾燥時間を5分とした以外は、比較例1と同様の操作を行った。得られたCNFシートの坪量は304g/m2、水分含有率は88.9質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は1121質量部であった。
【0130】
<実施例14>
比較例3の操作の後、140℃の送風乾燥機にさらに3分の追加乾燥を行った。得られたCNFシートの坪量は39g/m2、水分含有率は13.0質量%であった。また、CNF100質量部当たりの水分含有量(CNF対比水分量)は21質量部であった。
【0131】
(測定)
〔リンオキソ酸基の測定〕
微細繊維状セルロースのリンオキソ酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を第1解離酸量(mmol/g)とした。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を総解離酸量(mmol/g)とした。
【0132】
〔水分含有率〕
シートの水分含有率は以下のようにして測定した。まず、シートを10cm×10cmのサイズに切りだし、重量(1)を測定した。その後、乾燥機で該シートを十分乾燥し、乾燥後の重量(2)を測定し、以下の式で水分含有率を算出した。
水分含有率(%)=(重量(1)-重量(2))/重量(1)×100
【0133】
(評価)
[外観の評価]
CNFシートの外観を以下の基準で評価した。
○:CNFシート製造後、PET板上からCNFシートを割れることなく剥離でき、更にシートに含まれる余計な水分によって凹んだり跡が付かない。
×:CNFシートの製造過程において、PET板上からCNFシートが剥離した、もしくは、CNFシートの製造後にPET板上からCNFシート剥離した際、シートが割れた、あるいはシートに含まれる余計な水分によって凹む、もしくは跡が付く。
【0134】
[剥離性の評価]
CNFシートの剥離性を以下の基準で評価した。
○:CNFシートの製造過程において、PET板上からCNFシートが剥離せず、かつCNFシートの製造後には、PET板上からCNFシートを割れなく剥離できた。
×:CNFシートの製造過程において、PET板上からCNFシートが剥離した、もしくは、CNFシートの製造後にPET板上からCNFシート剥離した際、シートが割れた。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
実施例では、シート化工程中において、CNF対比水分量を所定範囲内としたため、割れがなく凹みが少ない、外観に優れたシートが得られた。なお、比較例3では、湿紙状態であったため、シート状に剥離すること自体が不可能であった。
図1
図2