(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】磁気抵抗効果素子及び磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
H10N 50/10 20230101AFI20230912BHJP
H10B 61/00 20230101ALI20230912BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20230912BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20230912BHJP
【FI】
H10N50/10 P
H10B61/00
H01L29/82 Z
H10N50/20
(21)【出願番号】P 2019133796
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】塩川 陽平
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-329157(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0123029(US,A1)
【文献】国際公開第2018/100837(WO,A1)
【文献】特開2019-046976(JP,A)
【文献】特開2004-349671(JP,A)
【文献】特開2002-176211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/10
H10B 61/00
H01L 29/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1強磁性層と、
第2強磁性層と、
前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とで挟持された非磁性層と、が第1方向に積層されており、
前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層はいずれも、前記第1方向において中心部が外周部に対して突き出るように曲がっており、中心部の突き出る向きは互いに逆であって、前記第1方向において互いの中心部間の距離に比べて互いの外周部間の距離が大き
く、
前記第1強磁性層の前記非磁性層と接する第1面と、前記第1強磁性層の前記第1面と反対側の第2面とは、同じ方向に湾曲している、磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第1強磁性層の膜厚が前記第2強磁性層の膜厚よりも薄い、請求項
1に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記非磁性層がNaCl構造を含む、請求項1
又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記非磁性層がスピンネル構造または逆スピネル構造を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記第1方向に対して交差する第2方向に延在し、前記第1強磁性層に接合するスピン軌道トルク配線を備える、請求項1~
4のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の磁気抵抗効果素子を複数備えた、磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
強磁性層と非磁性層の多層膜からなる巨大磁気抵抗(GMR)素子、及び、非磁性層に絶縁層(トンネルバリア層、バリア層)を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子が知られている。一般に、TMR素子は、GMR素子と比較して素子抵抗が高いものの、TMR素子の磁気抵抗(MR)比は、GMR素子のMR比より大きい。そのため、磁気センサ、高周波部品、磁気ヘッド及び不揮発性ランダムアクセスメモリ(MRAM)用の素子として、TMR素子に注目が集まっている。
【0003】
MRAMは、絶縁層を挟む二つの強磁性層の互いの磁化の向きが変化するとTMR素子の素子抵抗が変化するという特性を利用してデータを読み書きする。MRAMの書き込み方式としては、電流が作る磁場を利用して書き込み(磁化反転)を行う方式や磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流して生ずるスピントランスファートルク(STT)を利用して書き込み(磁化反転)を行う方式が知られている。STTを用いたTMR素子の磁化反転はエネルギーの効率の視点から考えると効率的ではあるが、磁化反転をさせるための反転電流密度が高い。TMR素子の長寿命の観点から、この反転電流密度は低いことが望ましい。この点は、GMR素子についても同様である。
【0004】
そこで近年、STTとは異なったメカニズムで、反転電流を低減する手段としてスピンホール効果により生成された純スピン流を利用した磁化反転に注目が集まっている(例えば、非特許文献1)。スピンホール効果によって生じた純スピン流は、スピン軌道トルク(SOT)を誘起し、SOTにより磁化反転を起こす。あるいは、異種材料の界面における界面ラシュバ効果によって生じた純スピン流でも同様のSOTにより磁化反転を起こす。純スピン流は上向きスピンの電子と下向きスピン電子が同数で互いに逆向きに流れることで生み出されるものであり、電荷の流れは相殺されている。そのため磁気抵抗効果素子に流れる電流はゼロであり、反転電流密度の小さな磁気抵抗効果素子の実現が期待されている。
【0005】
スピンホール効果は、スピン軌道相互作用の大きさに依存する。非特許文献1では、スピン軌道トルク配線にスピン軌道相互作用を生じるd電子を有した重金属であるTaを用いている。また、半導体であるGaAsでは、時間的な反転対称性の崩れから生じる結晶内部の電場によってスピン軌道相互作用が生じることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】S. Fukami, T. Anekawa, C. Zhang and H. Ohno, Nature Nano Tech (2016). DOI: 10.1038/NNANO.2016.29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スピン軌道トルク(SOT)型の磁気抵抗効果素子では、磁場によって磁化自由層(フリー層)の磁化反転挙動が変化する。
図7に、典型的な磁気抵抗効果素子100の断面模式図を示す。磁気抵抗効果素子100は、磁化固定層(ピン層)101と磁化自由層102とその間に挟持された非磁性層103を備える。磁化自由層102が受ける磁場には磁化固定層101の端部101aからの漏れ磁場BLもあり、この漏れ磁場BLの影響で、平行から反平行への磁化反転時の反転電流と反平行から平行への磁化反転時の反転電流とで非対称な磁化反転挙動となる。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、磁化固定層からの漏れ磁場に起因した、反転電流の対称性が向上した磁気抵抗効果素子及び磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)本発明の第1の態様に係る磁気抵抗効果素子は、磁化方向が変化する第1強磁性層と、磁化方向が固定されている第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とで挟持された非磁性層と、が第1方向に積層されており、前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層はいずれも、前記第1方向において中心部が外周部に対して突き出るように曲がっており、中心部の突き出る向きは互いに逆であって、前記第1方向において互いの中心部間の距離に比べて互いの外周部間の距離が大きい。
【0011】
(2)本発明の第2の態様に係る磁気抵抗効果素子は、磁化方向が変化する第1強磁性層と、磁化方向が固定されている第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層とで挟持された非磁性層と、が第1方向に積層されており、前記第1強磁性層及び前記第2強磁性層はいずれも、前記第1方向に沿って前記非磁性層から離間するにつれて、前記第1方向に直交する断面の断面積が大きくように形成されてなる。
【0012】
(3)本発明の第3の態様に係る磁気抵抗効果素子は、第1強磁性層と、第2強磁性層と、前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との間に形成された非磁性層と、を備え、前記第1の強磁性層と前記非磁性層と前記第2の強磁性層とが並ぶ第1方向における前記第1強磁性層と前記第2強磁性層との距離として、少なくとも、第1の距離と、前記第1の距離よりも長い第2の距離と、前記第1の距離よりも長い第3の距離と、が存在している。
【0013】
(4)上記(3)納品態様に係る磁気抵抗効果素子は、前記第1の方向と垂直方向の第2の方向から見て、 前記第1の距離を有する位置が、前記第2の距離を有する位置と前記第3の距離を有する位置とに挟まれていてもよい。
【0014】
(5)上記態様において、前記第1強磁性層の膜厚が前記第2強磁性層の膜厚よりも薄くてもよい。
【0015】
(6)上記態様において、前記非磁性層がNaCl構造を含んでもよい。
【0016】
(7)上記態様において、前記非磁性層がスピンネル構造または逆スピネル構造を含んでもよい。
【0017】
(8)上記態様において、前記第1方向に対して交差する第2の方向に延在し、前記第1強磁性層に接合するスピン軌道トルク配線を備えてもよい。
【0018】
(9)本発明の第3の態様に係る磁気メモリは、第1の態様に係る上記磁気抵抗効果素子、又は、第2の態様に係る上記磁気抵抗効果素子のいずれかを複数備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の磁気抵抗効果素子によれば、磁化固定層からの漏れ磁場に起因した、反転電流の対称性が向上した磁気抵抗効果素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】(a)本発明の第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図であり、(b)第1強磁性層、非磁性層及び第2強磁性層の積層体の4つの例の平面模式図である。
【
図2】第1強磁性層あるいは第2強磁性層の平面模式図である。
【
図3】(a)本発明の第2実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図であり、(b)第1強磁性層、非磁性層及び第2強磁性層の積層体の4つの例の平面模式図である。
【
図4】本発明の第3実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図である。
【
図5】本発明の第4実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図である。
【
図6】本発明の磁気抵抗効果素子の適用例1にかかる磁気記録素子の断面模式図である。
【
図7】本発明の磁気抵抗効果素子の適用例2にかかる磁気記録素子の断面模式図である。
【
図8】従来の磁気抵抗効果素子の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0022】
(磁気抵抗効果素子)
「第1実施形態」
図1(a)は、本発明の第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図であり、
図1(b)は、第1強磁性層、非磁性層及び第2強磁性層の積層体の4つの例の平面模式図である。
図1(b)において、矢印は磁化容易軸の方向の一例を示すものである。また、
図2は、第1強磁性層あるいは第2強磁性層の平面模式図であり、便宜上、当該平面模式図において、第1強磁性層及び第2強磁性層の両方の符号を付与した。
磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層1と、第2強磁性層2と、第1強磁性層1と第2強磁性層2とで挟持された非磁性層3と、が積層方向である第1方向(z方向)に積層されており、第1強磁性層1及び第2強磁性層2はいずれも、第1方向(z方向)において中心部1A、2Aが外周部1B、2Bに対して突き出るように曲がっており、中心部1A、2Aの突き出る向きは互いに逆であって、第1方向(z方向)において互いの中心部1A、2A間の距離に比べて互いの外周部1B、2B間の距離が大きい。
磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層1、非磁性層3及び第2強磁性層2の積層構造を基板5上に備えた例である。
磁気抵抗効果素子10は、本発明の効果を奏する範囲でこれらの層以外にキャップ層、下地層等の他の層を有してもよい。
【0023】
以下、第1強磁性層1、第2強磁性層2及び非磁性層3の積層方向をz方向という。
図1に示す例では、z方向は基板5の主面に垂直な方向でもある。また、z方向に垂直な面内方向をxy面内方向といい、基板5の主面はxy面内方向となる。xy面内の一方向をx方向、xy面内でx方向と直交する方向をy方向という。
【0024】
<第1強磁性層、第2強磁性層>
第1強磁性層1及び第2強磁性層2は磁性体である。第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、それぞれ磁化をもつ。磁気抵抗効果素子10は、第1強磁性層1の磁化と第2強磁性層2の磁化の相対角の変化を抵抗値変化として出力する。
図1に示した第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、磁化がxy平面の面内方向に配向した面内磁化膜であるが、磁化がz方向に配向した垂直磁化膜であってもよい。
【0025】
第2強磁性層2の磁化は、例えば、第1強磁性層1の磁化より動きにくい。所定の外力を加えた場合に、第2強磁性層2の磁化の向きは変化せず(固定され)、第1強磁性層1の磁化の向きは変化する。第2強磁性層2の磁化の向きに対して第1強磁性層1の磁化の向きが変化することで、磁気抵抗効果素子10の抵抗値は変化する。この場合、第2強磁性層2は磁化固定層と言われ、第1強磁性層1は磁化自由層と呼ばれる場合がある。以下、第1強磁性層1が磁化自由層、第2強磁性層2が磁化固定層の場合を例に説明する。
【0026】
第1強磁性層1は、中心部1Aが外周部1Aに対してz方向の-z向きに突き出るように曲がっている。また、第2強磁性層2は、中心部2Aが外周部2Bに対してz方向の+z向きに突き出るように曲がっている。
すなわち、第1強磁性層1及び第2強磁性層2について、中心部1A、2Aの突き出る向きは互いに逆である。そのため、第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、z方向において、互いの中心部1A、2A間の距離に比べて互いの外周部1B、2B間の距離が大きくなるように構成されている。
図1及び
図2を参照して、第1強磁性層あるいは第2強磁性層の中心部及び外周部について詳細に説明する。
まず、中心線X
0-X
0は、第1強磁性層及び第2強磁性層の中心を貫くz方向に平行な線である。第1強磁性層の中心あるいは第2強磁性層の中心とは、
図1(b)(i)のような円の場合はその円の中心であり、
図1(b)(ii)のような楕円の場合は短軸と長軸の交点であり、
図1(b)(iii)や(iv)のような正方形、長方形などの四辺形の場合は、対角線の交点を指す。
本明細書において「中心部」とは、+z側から-z側へ平面視して、中心線X
0-X
0を中心とし、第1強磁性層1あるいは第2強磁性層2の外周1a、2aの、面積比で1/10の相似形を、z方向に掃引して得られる部分である。例えば、平面視で半径rの円の場合(
図2参照)、面積比で1/10の相似形の円とは、中心線X
0-X
0を中心とする半径がおおよそ0.316rの円である。
また、本明細書において「外周部」とは、+z側から-z側へ平面視して、中心線X
0-X
0を中心とし、第1強磁性層1あるいは第2強磁性層2の外周1a、2aの、面積比で7/10の相似形を強磁性層の平面形状から除いた残りの領域を、z方向に掃引して得られる部分である。例えば、平面視で半径rの円の場合(
図2参照)、面積比で7/10の相似形の円とは、中心線X
0-X
0を中心とする半径がおおよそ0.837rの円であり、「外周部」は強磁性層の平面形状からこの0.837rの円を除いた残りの領域である。
磁気抵抗効果素子10においては、第1強磁性層1の中心部1Aと第2強磁性層2の中心部2Aとのz方向の距離(矢印A、A’で示した線間の距離)に比べて、第1強磁性層1の外周部1Bと第2強磁性層2の外周部2Bとのz方向の距離(矢印B、B’で示した線間の距離)が大きい。第1強磁性層1と第2強磁性層2の距離とは、z方向における、第1強磁性層1の下面1bと第2強磁性層2の上面2bとの距離を意味する。例えば、第1強磁性層1の中心部1Aと第2強磁性層2の中心部2Aとの距離とは、z方向における、第1強磁性層1の中心部1Aにおける下面1bと第2強磁性層2の中心部2Aにおける上面2bとの距離を意味する。
なお、互いの外周部間のz方向の距離を決定する際、第1強磁性層1の外周部1Bの下面(第2強磁性層2に対向する面)1bの任意の点、第2強磁性層1の外周部2Bの上面(第1強磁性層1に対向する面)2bの任意の点を選択できる。
図1に示す例では、第1強磁性層1の外周部1Bの下面1bと側面1Baとの交点P2と、第2強磁性層1の外周部2Bの上面2bと側面2Baとの交点Q2との距離を、互いの外周部間のz方向の距離とした。同様に、互いの中心部間のz方向の距離を決定する際、第1強磁性層1の中心部1Aの下面1bの任意の点、第2強磁性層1の中心部2Aの上面2bの任意の点を選択できる。
図1に示す例では、第1強磁性層1の中心部1Aの下面1bの中心線X
0-X
0の近傍の点P1と、第2強磁性層1の外周部2Bの上面2bの中心線X
0-X
0の近傍の点Q1との距離を、互いの中心部間のz方向の距離とした。
【0027】
図1に示す磁気抵抗効果素子10では、第1強磁性層1及び第2強磁性層2はいずれも、z方向において中心部1A、2Aが外周部1B、2Bに対して突き出るように曲がっており、中心部1A、2Aの突き出る向きは互いに逆であって、互いの中心部間の距離に比べて互いの外周部間の距離が大きい構成とされている。そのため、第1強磁性層及び第2強磁性層が曲がっておらず平らであって、層間の距離が一様である構成すなわち、互いの外周部間の距離が互いの中心部間の距離と同じである構成に比べて、磁化固定層である第2強磁性層2から磁化自由層である第1強磁性層1に入る漏れ磁場は低減されており、その分、第1強磁性層1の磁化反転の対称性が向上している。
ここで、非磁性層が絶縁層の場合、曲がっておらず平らな第1強磁性層及び第2強磁性層を用いた構成において、層間距離(非磁性層の厚み)を大きくすることにより、第2強磁性層から第1強磁性層に入る漏れ磁場は低減できるが、強磁性層間に流れるトンネル電流が層間距離(非磁性層の厚み)に対して指数関数的に低減し、磁気抵抗効果素子の感度が大きく損なわれる。これに対して、磁気抵抗効果素子10では、第1強磁性層及び第2強磁性層の互いの中心部寄りの距離は小さいままで、外周部側の距離のみを大きくする構成である。そのため、磁気抵抗効果素子の感度をできるだけ維持しつつ、第2強磁性層から第1強磁性層に入る漏れ磁場を低減して、第1強磁性層の磁化反転の対称性の向上を図ることができる。
【0028】
第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子においては、第1強磁性層と第2強磁性層との距離として少なくとも、第1の距離と、第1の距離よりも長い第2の距離と、第1の距離よりも長い第3の距離とが存在する。言い換えると、第1実施形態にかかる磁気抵抗効果素子は、第1の距離と、第1の距離よりも長い第2の距離と、第1の距離よりも長い第3の距離とが存在するような構成を有する。なお、第1強磁性層と第2強磁性層との距離とは上述の通り、z方向における、第1強磁性層1の下面1bと第2強磁性層2の上面2bとの距離を意味する。
【0029】
上記の大小関係を有する、第1の距離、第2の距離及び第3の距離の組み合わせは種々取り得るが、
図1を用いてその一例を説明する。
例えば、第1の距離を矢印A、A’で示した線間の距離とし、第2の距離を矢印B、B’で示した線間の距離とし、第3の距離については、中心線X
0-X
0を挟んで矢印B、B’で示した線とは反対側の位置における、第1強磁性層1の外周部1Bと第2強磁性層1の外周部2Bとの距離とすることによって、第1の距離と、第1の距離よりも長い第2の距離と、第1の距離よりも長い第3の距離とが存在する。あるいは、第3の距離については、中心線X
0-X
0を挟んで矢印B、B’で示した線とは反対側の位置における、第1強磁性層1の中心部1Aと外周部1Bとの間の部分と、第2強磁性層1の中心部2Aと外周部2Bとの間の部分との距離にとることによっても、当該大小関係の距離の組み合わせとなる。
この例の場合、第1の方向と垂直方向の第2の方向(y方向)から見て、第1の距離を有する位置は、第2の距離を有する位置と第3の距離を有する位置とに挟まれている。
【0030】
第1強磁性層の中心及び第2強磁性層の中心を通る断面において、当該大小関係の第1の距離、第2の距離及び第3の距離の組み合わせを選んでもよい。この一例は、
図1に示した断面において、第1の距離、第2の距離及び第3の距離の組み合わせを選ぶことが挙げられる。
【0031】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、強磁性体を含む。第1強磁性層1及び第2強磁性層2を構成する強磁性体は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金である。第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、例えば、Fe元素を含む。Fe元素を含む第1強磁性層1及び第2強磁性層2はスピン分極率が高く、磁気抵抗効果素子10のMR比が大きくなる。第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、例えば、Fe、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Feである。
【0032】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2は、ホイスラー合金でもよい。ホイスラー合金はハーフメタルであり、高いスピン分極率を有する。ホイスラー合金は、XYZ又はX2YZの化学組成をもつ金属間化合物であり、Xは周期表上でCo、Fe、Ni、Cu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、YはMn、V、Cr、Ti族の遷移金属又はXの元素種であり、ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合金は、例えば、Co2FeSi、Co2FeGe、Co2FeGa、Co2MnSi、Co2Mn1-aFeaAlbSi1-b、Co2FeGe1-cGac等である。
【0033】
第1強磁性層1及び第2強磁性層2の膜厚は、例えば、3nm以下である。第1強磁性層1及び第2強磁性層2の膜厚が薄いと、第1強磁性層1及び第2強磁性層2と非磁性層3との界面で、界面磁気異方性が生じ、第1強磁性層1及び第2強磁性層2の磁化の向きが積層面に対して垂直方向に配向しやすくなる。
第1強磁性層1の膜厚が第2強磁性層2の膜厚よりも薄いことが好ましい。第2強磁性層2は磁化固定層であるため、強い磁気異方性が必要になるが強い垂直磁気異方性を出すために厚い膜構成が必要となるからである。
【0034】
第2強磁性層2の非磁性層3と反対側の面に、スペーサ層を介して、反強磁性層を設けてもよい。第2強磁性層2、スペーサ層、反強磁性層は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)となる。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。第2強磁性層2と反強磁性層とが反強磁性カップリングするとことで、反強磁性層を有さない場合より第2強磁性層2の保磁力が大きくなる。反強磁性層は、例えば、IrMn,PtMn等である。スペーサ層は、例えば、Ru、Ir、Rhからなる群から選択される少なくとも一つを含む。
【0035】
<非磁性層>
非磁性層3には、公知の材料を用いることができる。例えば、非磁性層3が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al2O3、SiO2、MgO、及びMgAl2O4などを用いることができる。また、これらのほかにも、Al、Si、Mgの一部が、Zn、Beなどに置換された材料なども用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl2O4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。また、非磁性層3が金属からなる場合、その材料としてはCu、Au、Agなどを用いることができる。さらに、非磁性層3が半導体からなる場合、その材料としては、Si、Ge、CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2等を用いることができる。
【0036】
非磁性層3はNaCl構造を含むものとすることができる。この例としては、上記MgOからなる非磁性層が挙げられる。
【0037】
非磁性層3はスピンネル構造または逆スピネル構造を含むものとすることができる。この例としては、上記MgAl2O4からなる非磁性層が挙げられる。
【0038】
また、
図1に示す磁気抵抗効果素子10では、第1方向(z方向)から平面視して、非磁性層3の側面3aは、第1強磁性層1の側面1a及び第2強磁性層2の側面2aにほぼ一致する。換言すると、第1方向(z方向)から平面視して、非磁性層3は全体が、第1強磁性層1及び第2強磁性層2に重畳する。あるいは、磁気抵抗効果素子10が円柱状である場合には、非磁性層3の直径は第1強磁性層1の直径及び第2強磁性層2の直径にほぼ一致する。
しかし、非磁性層3は、第1強磁性層1及び第2強磁性層2よりもxy面方向のサイズが小さく、第1方向(z方向)から平面視して、第1強磁性層1及び第2強磁性層2の外周内に収まる構成であってもよい。
【0039】
<基板>
基板5は、平坦性に優れることが好ましい。平坦性に優れた表面を得るために、材料として例えば、Si、AlTiC等を用いることができる。
【0040】
「第2実施形態」
図3(a)は、本発明の第2実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図である。
図3(b)は、第1強磁性層、非磁性層及び第2強磁性層の積層体の4つの例の平面模式図である。
図3(b)において、矢印は磁化容易軸の方向の一例を示すものである。
第1実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、第1実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0041】
磁気抵抗効果素子20は、第1強磁性層11と、第2強磁性層12と、第1強磁性層11と第2強磁性層12とで挟持された非磁性層13と、が第1方向(z方向)に積層されており、第1強磁性層11及び第2強磁性層12はいずれも、第1方向(z方向)に沿って非磁性層13から離間するにつれて、第1方向(z方向)に直交する断面(xy面に平行な断面)の断面積が大きくなるように形成されてなる。
【0042】
図3に示した第1強磁性層11及び第2強磁性層12は、磁化がxy平面の面内方向に配向した面内磁化膜であるが、磁化がz方向に配向した垂直磁化膜であってもよい。
第1強磁性層11及び第2強磁性層12がいずれも、第1方向(z方向)に沿って非磁性層13から離間するにつれて、第1方向(z方向)に直交する断面の断面積が大きくなるように形成されてなる。
図3を参照して、第1方向(z方向)に直交する断面(xy面に平行な断面)が円状である構成を例にして説明する。
第1強磁性層11は、z方向に沿って非磁性層13から離間するにつれて(非磁性層13から+z方向へ向かって)、z方向に直交する断面の断面積が大きくなるように(例えば、第1強磁性層11の非磁性層13に接する断面の直径はR2であるのに対して、第1強磁性層11の、非磁性層13から最も離間する断面の直径はR1である)形成されてなる。第1強磁性層11は、非磁性層13と同径の部分(z方向から平面視して重なる部分)である同径部11Aと、同径部11Aの外側に配置して、z方向から平面視して非磁性層13と重ならない部分である周端部11Bとからなる。
同様に、第2強磁性層12は、z方向に沿って非磁性層13から離間するにつれて(非磁性層13から-z方向へ向かって)、z方向に直交する断面の断面積が大きくなるように(例えば、第2強磁性層12の非磁性層13に接する断面の直径はR2であるのに対して、第2強磁性層12の、非磁性層13から最も離間する断面の直径はR1である)形成されてなる。第2強磁性層12は、非磁性層13と同径の部分(z方向から平面視して重なる部分)である同径部12Aと、同径部11Aの外側に配置して、z方向から平面視して非磁性層13と重ならない部分である周端部12Bとからなる。
【0043】
図3に示す磁気抵抗効果素子20では、第1強磁性層11及び第2強磁性層12は円錐台形状であるが、z方向に沿って非磁性層13から離間するにつれて、z方向に直交する断面(xy面に平行な断面)の断面積が大きくなるように形成されてなるものであれば、これに限られない。
例えば、第1強磁性層11はその側面11aが、z方向に沿って非磁性層13から離間するにつれて傾斜が急になるように、又は、傾斜が緩くなるように形成されてなるものでもよい。同様に、第2強磁性層12はその側面12aが、z方向に沿って非磁性層13から離間するにつれて傾斜が急になるように、又は、傾斜が緩くなるように形成されてなるものでもよい。
【0044】
非磁性部13の側面13aが、第1強磁性層11及び第2強磁性層12の側面11a、12aより中心X0-X0側に位置することが好ましい。
非磁性部13が内側に入ることで、第1強磁性層11及び第2強磁性層12の側面11a、12aには、非磁性部13から由来する界面磁気異方性が利用できないため、異方性が変化し、磁化反転が容易になるからである。
【0045】
図3に示す磁気抵抗効果素子20においても、
図1(a)に示した磁気抵抗効果素子10と同様に、第1強磁性層11と第2強磁性層12との距離が大きい部分(周端部11Bと周端部12B)が存在する構成であるために、第2強磁性層から第1強磁性層に入る漏れ磁場が低減して、第1強磁性層の磁化反転の対称性の向上を図ることができる。
【0046】
「第3実施形態」
図4は、本発明の第3実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図である。
第1実施形態又は第2実施形態と同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、第1実施形態又は第2実施形態と符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0047】
図4に示す磁気抵抗効果素子30は、
図1に示した磁気抵抗効果素子10と比べると、スピン軌道トルク配線層7を備える点で異なる。
【0048】
<スピン軌道トルク配線層>
スピン軌道トルク配線層7は、X方向に延在する。スピン軌道トルク配線層7は、第1強磁性層1のZ方向に向いた一面に接続されている。スピン軌道トルク配線層7は、第1強磁性層1に直接接続されていてもよいし、他の層を介して接続されていてもよい。
【0049】
スピン軌道トルク配線層7と第1強磁性層1との間に介在する層は、スピン軌道トルク配線層7から伝搬するスピンを散逸しないことが好ましい。例えば、銀、銅、マグネシウム、及び、アルミニウム等は、スピン拡散長が100nm以上と長く、スピンが散逸しにくいことが知られている。
【0050】
また、この層の膜厚は、層を構成する物質のスピン拡散長以下であることが好ましい。
層の膜厚がスピン拡散長以下であれば、スピン軌道トルク配線層7から伝搬するスピンを第1強磁性層1に十分に伝えることができる。
【0051】
スピン軌道トルク配線層7は、電流が流れるとスピンホール効果によってスピン流が生成される材料からなる。かかる材料としては、スピン軌道トルク配線層7中にスピン流が生成される構成のものであれば足りる。従って、単体の元素からなる材料に限らないし、スピン流が生成される材料で構成される部分とスピン流が生成されない材料で構成される部分とからなるものであってよい。
【0052】
材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きに直交する方向に第1スピンS1と第2スピンS2とが逆方向に曲げられ、スピン流が誘起される現象を、スピンホール効果と呼ぶ。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通するが、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
【0053】
非磁性体(強磁性体ではない材料)では第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しいので、スピン軌道トルク配線層7の第1強磁性層1が配設された面の方向へ向かう第1スピンS1の電子数と、第1スピンS1の電子とは反対の方向へ向かう第2スピンS2の電子数が等しい。そのため、電荷の正味の流れとしての電流はゼロである。この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
【0054】
ここで、第1スピンS1の電子の流れをJ↑、第2スピンS2の電子の流れをJ↓、スピン流をJSと表すと、JS=J↑-J↓で定義される。純スピン流としてJSが一方向に流れる。ここで、JSは分極率が100%の電子の流れである。
【0055】
スピン軌道トルク配線層7は、非磁性の重金属を含んでもよい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属の意味で用いている。スピン軌道トルク配線層7は、非磁性の重金属だけからなってもよい。
【0056】
この場合、非磁性の重金属は最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。かかる非磁性金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きいからである。スピン軌道トルク配線層7は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属だけからなってもよい。
【0057】
通常、金属に電流を流すとすべての電子はそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動くのに対して、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きいためにスピンホール効果によって電子の動く方向が電子のスピンの向きに依存し、純スピン流JSが発生しやすい。
【0058】
また、スピン軌道トルク配線層7は、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピン軌道相互作用が増強され、スピン軌道トルク配線層7に流す電流に対するスピン流生成効率を高くできるからである。スピン軌道トルク配線層7は、反強磁性金属だけからなってもよい。
【0059】
スピン軌道相互作用はスピン軌道トルク配線材料の物質の固有の内場によって生じるため、非磁性材料でも純スピン流が生じる。スピン軌道トルク配線材料に微量の磁性金属を添加すると、磁性金属自体が流れる電子スピンを散乱するためにスピン流生成効率が向上する。ただし、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生したスピン流が添加された磁性金属によって散乱されるため、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる。したがって、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線におけるスピン生成部の主成分のモル比よりも十分小さい方が好ましい。目安で言えば、添加される磁性金属のモル比は3%以下であることが好ましい。
【0060】
また、スピン軌道トルク配線層7は、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。スピン軌道トルク配線層7は、トポロジカル絶縁体だけからなってもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。物質にはスピン軌道相互作用という内部磁場のようなものがある。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率に生成することができる。
【0061】
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe,Bi1.5Sb0.5Te1.7Se1.3,TlBiSe2,Bi2Te3,Bi1-xSbx,(Bi1-xSbx)2Te3などが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率にスピン流を生成することが可能である。
【0062】
「第4実施形態」
図5は、本発明の第4実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の断面模式図である。
第1実施形態~第3実施形態のいずれかと同じ符号を用いた部材は同じ構成を有するものであり、説明を省略する。また、第1実施形態~第3実施形態のいずれかと符号が異なっていても機能が同じ部材については説明を省略する場合がある。
【0063】
図5に示す磁気抵抗効果素子40は、
図3に示した磁気抵抗効果素子20と比べると、スピン軌道トルク配線層7を備える点で異なる。
【0064】
(磁気抵抗効果素子の製造方法)
本発明の磁気抵抗効果素子は、公知の成膜法を用いて製造することができる。
第1強磁性層及び第2強磁性層、非磁性層の加工は公知の方法例えば、イオンミリング、RIEなどを用いたり、デバイス加工後の酸化工程などで作ることができる。
図1に示した磁気抵抗効果素子10は例えば、曲がりの内磁気抵抗効果素子に対して、円柱状に加工した後に、酸素を暴露することにより、側壁から非磁性層に酸素を侵入させて非磁性層を厚み方向に太らせるようにして作製することができる。
また、
図3に示した磁気抵抗効果素子20は例えば、第1方向(面直方向)に対して90度未満の角度でイオンミリングを入射させることで、入射角度に応じたエッジ構造を作ることができる。ただし上層も削られてしまうので、上層にエッチングレートの遅い材料でキャップすることで、単なる円錐形から磁気抵抗効果素子20を作製することができる。
図4に示した磁気抵抗効果素子30は例えば、
図1に示した磁気抵抗効果素子10を形成後、CMPをかけることで作ることができる。同様に、
図5に示した磁気抵抗効果素子40は例えば、
図3に示した磁気抵抗効果素子20を形成後、CMPをかけることで作ることができる。
【0065】
(磁気メモリ)
本発明の一実施形態に係る磁気メモリは、本発明のスピン軌道トルク型磁気抵抗効果素子を複数備える。
【0066】
次いで、本実施形態にかかる磁気抵抗効果素子又はその変形例の適用例について説明する。磁気抵抗効果素子は、例えば、磁気センサ、MRAMなどのメモリ等に利用できる。一つの実施形態にかかる磁気抵抗効果素子の適用例を示すが、他の実施形態にかかる磁気抵抗効果素子又はその変形例も同様に適用することができる。
【0067】
図6は、適用例1にかかる磁気記録素子1000の断面図である。
図6は、磁気抵抗効果素子の各層の積層方向に沿って磁気抵抗効果素子10の変形例を切断した断面図である。
図6に示す磁気記録素子1000は、磁気抵抗効果素子10の適用例の一例である。
【0068】
磁気記録素子1000は、磁気抵抗効果素子10と第1電極111と第2電極112と電源113と測定部114とを有する。第1電極111は、磁気抵抗効果素子10の積層方向の第1面に接続されている。第2電極112は、磁気抵抗効果素子10の積層方向の第2面に接続されている。第1電極111及び第2電極112は導体であり、例えば、Cuである。電源113及び測定部114は、第1電極111と第2電極112とのそれぞれに接続されている。電源113は、磁気抵抗効果素子10の積層方向に電位差を与える。測定部114は、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値を測定する。
【0069】
電源113により第1電極111と第2電極112との間に電位差を生み出すと、磁気抵抗効果素子10の積層方向に電流が流れる。電流は、第2強磁性層2を通過する際にスピン偏極し、スピン偏極電流となる。スピン偏極電流は、トンネルバリア層3を介して、第1強磁性層1に至る。第1強磁性層1の磁化は、スピン偏極電流によるスピントランスファートルク(STT)を受けて磁化反転する。第1強磁性層1の磁化の向きと第2強磁性層2の磁化の向きとが変化することで、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値が変化する。磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値は、測定部114で読み出される。すなわち、
図6に示す磁気記録素子1000は、スピントランスファートルク(STT)型の磁気記録素子である。
【0070】
図7は、適用例2にかかる磁気記録素子2000の断面図である。
図7は、磁気抵抗効果素子の各層の積層方向に沿って磁気抵抗効果素子10を切断した断面図である。
図7に示す磁気記録素子2000は、磁気抵抗効果素子10の適用例の一例である。
【0071】
磁気記録素子2000は、磁気抵抗効果素子10と第1電極121と第1配線122と電源123と測定部124とを有する。第1電極121は、磁気抵抗効果素子10の積層方向の第1面に接続されている。第1配線122は、磁気抵抗効果素子10の積層方向の第2面に接続されている。第1電極121は導体であり、例えば、Cuである。第1配線122は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかを含む。第1配線122は、例えば、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号を有する非磁性金属である。電源123は、第1配線122の第1端と第2端に接続されている。測定部124は、第1電極121と第1配線122とに接続され、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値を測定する。
【0072】
電源123により第1配線122の第1端と第2端との間に電位差を生み出すと、第1配線122に沿って電流が流れる。第1配線122に沿って電流が流れると、スピン軌道相互作用によりスピンホール効果が生じる。スピンホール効果は、移動するスピンが電流の流れ方向と直交する方向に曲げられる現象である。スピンホール効果は、第1配線122内にスピンの偏在を生み出し、第1配線122の厚み方向にスピン流を誘起する。スピンは、スピン流によって第1配線122から第1強磁性層1に注入される。
【0073】
第1強磁性層1に注入されたスピンは、第1強磁性層1の磁化にスピン軌道トルク(SOT)を与える。第1強磁性層1は、スピン軌道トルク(SOT)を受けて、磁化反転する。第1強磁性層1の磁化の向きと第2強磁性層2の磁化の向きとが変化することで、磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値が変化する。磁気抵抗効果素子10の積層方向の抵抗値は、測定部124で読み出される。すなわち、
図7に示す磁気記録素子2000は、スピン軌道トルク(SOT)型の磁気記録素子である。
【符号の説明】
【0074】
1、11 第1強磁性層
2、12 第2強磁性層
3 非磁性層
7 スピン軌道トルク配線層
10、20、30、40 磁気抵抗効果素子