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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04228 20160101AFI20230912BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230912BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20230912BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20230912BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20230912BHJP
   H01M 8/04828 20160101ALI20230912BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20230912BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20230912BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20230912BHJP
   B60L 50/75 20190101ALI20230912BHJP
   B60L 58/40 20190101ALI20230912BHJP
   B60L 58/33 20190101ALI20230912BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230912BHJP
【FI】
H01M8/04228
H01M4/86 B
H01M4/92
H01M8/04858
H01M8/04701
H01M8/04828
H01M8/04303
H01M8/04746
B60L50/60
B60L50/75
B60L58/40
B60L58/33
H01M8/10 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019136015
(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公開番号】P2021022420
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹井 力
(72)【発明者】
【氏名】水下 佳紀
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-110019(JP,A)
【文献】特開2017-117599(JP,A)
【文献】特開2005-174829(JP,A)
【文献】特開2010-102846(JP,A)
【文献】特開2011-216498(JP,A)
【文献】特開2008-21448(JP,A)
【文献】特開2018-185907(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0262822(US,A1)
【文献】特開2013-114992(JP,A)
【文献】特開2018-147615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04-8/0668
B60L 50/00-50/90
B60L 58/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される燃料電池システムであって、
前記車両の駆動輪を駆動する回転電機と、
前記回転電機に電力を供給する二次電池と、
燃料ガスと酸化剤ガスが供給されて発電し、前記二次電池に電力を供給する燃料電池と、
前記燃料電池の内部抵抗を調整する内部抵抗調整手段と、
前記燃料電池システムを制御する制御部と、
を備え、
前記燃料電池は、前記燃料ガスをアノードに供給し、前記酸化剤ガスをカソードに供給し、前記カソードは、セラミックス系材料からなる担体に白金系材料からなる触媒を担持させた電極触媒を含み、
前記内部抵抗調整手段は、前記燃料電池を冷却する冷却部であり、
前記制御部は、前記冷却部を停止し前記燃料電池の温度を上昇させて前記燃料電池の内部抵抗を上昇させる第1制御を行い、
前記燃料電池を停止させる前に、前記燃料電池の内部抵抗を上昇させる、
燃料電池システム。
【請求項2】
車両に搭載される燃料電池システムであって、
前記車両の駆動輪を駆動する回転電機と、
前記回転電機に電力を供給する二次電池と、
燃料ガスと酸化剤ガスが供給されて発電し、前記二次電池に電力を供給する燃料電池と、
前記燃料電池の内部抵抗を調整する内部抵抗調整手段と、
前記燃料電池システムを制御する制御部と、
を備え、
前記燃料電池は、前記燃料ガスをアノードに供給し、前記酸化剤ガスをカソードに供給し、前記カソードは、セラミックス系材料からなる担体に白金系材料からなる触媒を担持させた電極触媒を含み、
前記内部抵抗調整手段は、前記酸化剤ガスを加湿する加湿部であり、
前記制御部は、前記加湿部を停止させて前記燃料電池の内部抵抗を上昇させる第2制御を行い、
前記燃料電池を停止させる前に、前記燃料電池の内部抵抗を上昇させる、
燃料電池システム。
【請求項3】
前記内部抵抗調整手段は、前記酸化剤ガスを加湿する加湿部であり、
前記制御部は、前記加湿部を停止させて前記燃料電池の内部抵抗を上昇させる第2制御を行い、
前記燃料電池を停止させる準備を行い、
前記準備を開始する際の充電率に応じて前記第1制御および前記第2制御のいずれか一方、または、両方を行い、
前記燃料電池の内部抵抗値が所定抵抗値になった場合に、前記燃料電池を停止させる、
請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記準備を開始する際の充電率が所定充電率より小さい場合に、前記第1制御および前記第2制御を行う、
請求項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載され、燃料電池で発電した電力を回転電機に供給する燃料電池システムが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1の燃料電池システムでは、燃料電池で発電した電力を回転電機に直接供給することで、車両を走行させる。特許文献2の燃料電池システムでは、燃料電池で発電した電力を一旦二次電池に供給し、二次電池から回転電機に電力を供給することで、車両を走行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-35873号公報
【文献】特開2017-117599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料電池システムでは、燃料電池の停止指示を受けた場合に、燃料電池を乾燥モードにする。乾燥モード中に発電した電力は、空調装置に供給され、空調装置で使用される。すなわち、燃料電池で発電した電力を、車両を走行させるためのエネルギ以外に使用している。このため、例えば、空調が不要な場合には、燃料電池で発電した電力が捨てられる。この結果、車両のエネルギロスが発生する。
【0005】
一方、特許文献2の燃料電池システムは、燃料電池を二次電池の状態に応じて発電させる。このため、燃料電池が長時間にわたって発電を続けることがある。燃料電池が長時間にわたって発電を続けると、燃料電池の劣化が促進される。
【0006】
本発明の課題は、車両のエネルギロスを抑えながら、燃料電池の劣化を抑制できる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る燃料電池システムは、車両に搭載される。燃料電池システムは、回転電機と、二次電池と、燃料電池と、内部抵抗調整手段と、制御部と、を備える。回転電機は、車両の駆動輪を駆動する。二次電池は、回転電機に電力を供給する。燃料電池は、燃料ガスと酸化剤ガスが供給されて発電し、二次電池に電力を供給する。内部抵抗調整手段は、燃料電池の内部抵抗を調整する。制御部は、燃料電池システムを制御する。制御部は、燃料電池を停止させる前に、内部抵抗調整手段によって燃料電池の温度を上昇させて燃料電池の内部抵抗を上昇させる。
【0008】
この構成によれば、燃料電池を停止させる前に燃料電池の内部抵抗を上昇させることができる。燃料電池は、内部抵抗が上昇すると燃料電池に使用される触媒の劣化が抑制される。また、燃料電池を停止させるまでの間に発電した電力は、二次電池に供給される。二次電池に供給された電力は、車両が走行する際に、回転電機に供給され、駆動輪を駆動させるために用いられる。すなわち、車両が走行する際のエネルギとして用いられる。これによって、車両のエネルギロスを抑えながら、燃料電池の劣化を抑制できる燃料電池システムを提供できる。
【0009】
内部抵抗調整手段は、燃料電池を冷却する冷却部であってもよい。制御部は、冷却部を停止し燃料電池の温度を上昇させて燃料電池の内部抵抗を上昇させる第1制御を行ってもよい。
【0010】
この構成によれば、燃料電池を冷却する冷却部が停止するので、燃料電池の内部温度が上昇する。燃料電池の内部温度が上昇すると、燃料電池内部の湿度が低下する。これによって、燃料電池の内部抵抗が上昇する。この結果、燃料電池の劣化を抑制できる。
【0011】
内部抵抗調整手段は、酸化剤ガスを加湿する加湿部であってもよい。制御部は、加湿部を停止させて燃料電池の内部抵抗を上昇させる第2制御を行ってもよい。
【0012】
この構成によれば、酸化剤ガスを加湿する加湿部が停止するので、酸化剤ガスは無加湿状態になる。酸化剤ガスが無加湿状態になると、燃料電池の内部抵抗が上昇する。これによって、燃料電池の劣化を抑制できる。
【0013】
制御部は、燃料電池を停止させる準備を行ってもよい。制御部は、準備を開始する際の充電率に応じて第1制御および第2制御のいずれか一方、または、両方を行ってもよい。制御部は、燃料電池の内部抵抗値が所定抵抗値になった場合に、燃料電池を停止させてもよい。
【0014】
この構成によれば、制御部は、準備を開始する際の充電率に応じて第1制御および第2制御のいずれか一方、または、両方を行って、燃料電池の内部抵抗を上昇させる。これによって、充電率に応じて、内部抵抗を上昇させる時間を短くすることができる。すなわち、第1制御のみを行うよりも、第1制御と、第2制御の両方を行う方が、より短い時間で内部抵抗を上昇させることができる。このため、例えば、充電率に応じて、第1制御と、第2制御と、を選択的に行い、内部抵抗を上昇させる時間を調整できる。
【0015】
制御部は、準備を開始する際の充電率が所定充電率より小さい場合に、第1制御および第2制御を行ってもよい。
【0016】
この構成によれば、制御部は、充電率が所定充電率以下の場合は、素早く内部抵抗を上昇させることができる。すなわち、充電率が所定充電率以下の場合は、二次電池の電力が不足する機会が多くなる。二次電池の電力が不足する機会が多くなると、制御部が燃料電池を停止させてから、次に燃料電池を起動させるまでの時間が短い場合もある。このため、制御部は、第1制御と第2制御の両方を行い、早期に内部抵抗を上昇させる。これによって、充電率が所定充電率以下の場合であっても、燃料電池の劣化を抑制できる。
【0017】
燃料電池は、燃料ガスをアノードに供給し、酸化剤ガスをカソードに供給し、カソードは、セラミックス系材料からなる担体に白金系材料からなる触媒を担持させた電極触媒を含んでもよい。
【0018】
この構成によれば、カソードにセラミックス系担体に白金系材料からなる触媒を担持させているので、燃料電池内部または酸化剤ガスが低加湿状態となると、白金系材料の粗大化/溶出の進行が抑制される。これによって、燃料電池の劣化が抑制される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車両のエネルギロスを抑えながら、燃料電池の劣化を抑制できる燃料電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態による燃料電池システムの概略構成を示すシステム図。
図2】本発明の一実施形態による燃料電池内部の概略構成を示す図。
図3】本発明の一実施形態による制御部の制御フローを示す図。
図4】本発明の一実施形態による燃料電池システムの制御状態を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1に示すように、燃料電池システム1は、モータジェネレータ(回転電機の一例)2と、駆動用電池(二次電池の一例)4と、燃料電池(以下FCと記す)6と、加湿部(内部抵抗調整手段の一例)8と、冷却部(内部抵抗調整手段の一例)10と、制御部12と、水素循環ポンプ14と、水素タンク16と、DC-DCコンバータ18と、を備える。本実施形態では、燃料電池システム1は、例えば、レンジエクステンダー型プラグイン燃料電池自動車(PFCV)等の車両Cに搭載される。燃料電池システム1は、主として駆動用電池4の充電が必要な際に起動され、FC6で発電した電力をDC-DCコンバータ18で電圧を変換したのち駆動用電池4に供給する。また、駆動用電池4からのモータジェネレータ2への出力が不足する場合は、一時的にモータジェネレータ2への電力の供給を行う。
【0023】
モータジェネレータ2は、減速機(図示せず)および駆動軸2aを介して駆動輪2bを駆動する。モータジェネレータ2は、インバータ2cを介して、駆動用電池4と接続される。また、インバータ2cは、制御部12と電気的に接続される。本実施形態では、モータジェネレータ2は、三相交流モータであり、制御部12からの指示に基づき、インバータ2cを介して力行と回生とに制御される。インバータ2cは、制御部12から力行を指示されると、駆動用電池4から電力を受け取り、モータジェネレータ2に電力を供給して力行させる。一方、インバータ2cは、制御部12から回生を指示されると、モータジェネレータ2で発電した電力を受け取り、駆動用電池4に電力を供給する。
【0024】
駆動用電池4は、モータジェネレータ2に電力を供給する。本実施形態では、駆動用電池4は、リチウムイオン電池等の二次電池で構成され、複数の電池セルをまとめて構成された図示しない電池モジュールを有する。駆動用電池4は、モータジェネレータ2の電源として機能する。さらに駆動用電池4は、電池モジュールの電圧などから充電率(State Of Charge、以下、SOC)を算出する電池制御部4aに接続される。駆動用電池4は、電池制御部4aを介して制御部12と電気的に接続される。
【0025】
FC6は、駆動用電池4に電力を供給する。FC6には、燃料ガスと酸化剤ガスとが供給され、供給された燃料ガスと酸化剤ガスとによってFC6は発電する。本実施形態では、燃料ガスは水素(H)であり、酸化剤ガスは、空気である。FC6は、圧縮され高圧となった高圧水素を貯蔵する水素タンク16と、連通路16cを介して接続される。連通路16c上には、連通路16cを開閉する元弁16aと、水素タンク16の高圧水素を減圧する減圧弁16bと、が設けられる。減圧された水素は、後述するアノード32に供給される。アノード32で分解されなかった水素は、アノード側排気通路16dを介して排気される。しかし、排気される水素の一部は、水素循環ポンプ14を経由してアノード32に再び供給される。元弁16a、減圧弁16b、および、水素循環ポンプ14は、制御部12と電気的に接続される。
【0026】
また、FC6は、車両Cの外部の空気を取り込み圧縮する空気圧縮機8bと、圧縮された空気を加湿する加湿部8と、空気連通路8aを介して接続される。空気は、後述するカソード33に供給される。カソード33で反応しなかった空気は、カソード側排気通路8cを介して排気される。
【0027】
FC6は、燃料電池出力センサ(燃料電池出力検知部の一例)20と、内部抵抗計値測センサ(内部抵抗検知部の一例)22と、温度センサ(温度検知部の一例)24と、セルスタック26と、を有する。燃料電池出力センサ20は、FC6の出力を検知する。内部抵抗値計測センサ22は、FC6の内部抵抗値を検知する。温度センサ24は、FC6のセルスタック26の温度を検知する。セルスタック26は、後述する単セル30が複数個並べられて構成される。燃料電池出力センサ20、内部抵抗値計測センサ22、および、温度センサ24は、制御部12と電気的に接続される。
【0028】
図2に示すように、単セル30は、電解質膜31と、アノード(燃料極または負極)32と、カソード(空気極または正極)33と、アノード側セパレータ34と、カソード側セパレータ35と、外部回路36と、を備える。本実施形態では、FC6は、電解質膜31として固体高分子膜を用いる固体高分子型燃料電池である。外部回路36は、各単セル30で発電した電力を取り出し、駆動用電池4、または、モータジェネレータ2に電力を供給するための回路である。外部回路36は、電力を取り出すための負荷部36bを挟んでアノード32と、カソード33を電気的に接続する。
【0029】
アノード32は、アノード側電極触媒層32aと、アノード側拡散層32bと、を含む。アノード側電極触媒層32aは、電解質膜31と接して設けられる。本実施形態では、アノード側電極触媒層32aは、カーボン系材料からなる担体、もしくは、酸化スズ(SnO)などのセラミックス系材料からなる担体に、白金(Pt)系材料からなる触媒を担持した電極触媒で構成される。アノード32には、水素タンク16から元弁16a、減圧弁16b、およびアノード側セパレータ34に設けられた溝(図示せず)を経由した水素が供給される。アノード32に供給された水素は、アノード側拡散層32bによって拡散されたのち、アノード側電極触媒層32aの電極触媒によって水素イオンと電子に分解される。水素イオンは、電解質膜31を通過してカソード側電極触媒層33aに移動する。電子は、電流となって外部回路36を経由して、カソード33へ移動する。
【0030】
カソード33は、アノード32と電解質膜31を挟んで反対側に設けられる。カソード33は、カソード側電極触媒層33aと、カソード側拡散層33bと、を含む。カソード側電極触媒層33aは、電解質膜31と接して設けられる。本実施形態では、カソード側電極触媒層33aは、酸化スズ(SnO)などのセラミックス系材料からなる担体に、白金(Pt)系材料からなる触媒を担持した電極触媒で構成される。カソード33には、空気圧縮機8b、加湿部8、カソード側セパレータ35の溝(図示せず)を経由した空気が供給される。カソード33に供給された空気中の酸素(O)は、カソード側拡散層33bによって拡散されたのち、カソード側電極触媒層33aの電極触媒によって電解質膜31を経由した水素イオン、および、外部回路36を経由した電子と反応し、水(HO)を生成する。
【0031】
このような電極触媒では、長時間発電することで白金系材料が溶出又は粗大化しFC6が劣化する。これを抑制するために、FC6を停止させる際は、FC6の内部抵抗を高めておくことが好ましい。しかし、カソード側電極触媒層33aを、セラミックス系材料からなる担体に、白金(Pt)系材料からなる触媒を担持した電極触媒で構成した場合に、長時間の発電によって多量の生成水が発生するため、FC6の停止時の内部抵抗が上がり難くなる。これは、セラミックス系材料は、担体周囲の雰囲気中の水蒸気を吸着できる特性を有する親水性担体材料であることに起因する。
【0032】
また、カソード側電極触媒層33aを、セラミックス系材料からなる担体とした場合に、FC6の内部の湿度が低いほど、FC6の内部抵抗が上がる傾向がある。これは、FC6の内部の湿度が低いほど、担体周囲の雰囲気中の酸素分圧が増加し、担体表面に酸素が吸着しやすくなることに起因する。セラミックス系材料は、酸素が吸着することで内部抵抗が増加する特性を有する担体材料である。このような傾向は、セラミックス系材料の中でも、酸化スズが顕著である。
【0033】
図1に示すように、冷却部10は、FC6を冷却する。冷却部10は、ラジエータ10aと、冷却通路10bと、冷却ポンプ(図示せず)を有する。ラジエータ10aは、冷却通路10bの通路上に設けられる。冷却通路10bは、FC6の各単セル30に張り巡らされる。冷却通路10bの内部は、冷媒が通過し、FC6の各単セル30で発熱した熱を冷媒が吸収する。熱を吸収した冷媒は、ラジエータ10aで熱交換されて冷却される。冷却ポンプは、制御部12と電気的に接続され、冷却ポンプが停止すると冷却部10が停止する。
【0034】
制御部12は、ECU(Electrоnic Control Unit)13に記憶されるソフトウェアによって実現される機能構成である。ECU13は、実際には、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等とを含むマイクロコンピュータによって構成される。ECU13は、各センサおよび各種装置からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、燃料電池システム1が、所望の運転状態となるように少なくとも元弁16a、減圧弁16b、空気圧縮機8b、加湿部8、負荷部36b、および冷却部10を制御する。また、制御部12は、駆動用電池4の充電率を取得し、車両Cの走行状態などに応じて目標充電率Btを算出する。制御部12は、FC6を起動して発電させ、DC-DCコンバータ18を制御して目標充電率Btまで駆動用電池4を充電する。さらに、制御部12は、車両Cに要求される出力を演算し、インバータ2cを介してモータジェネレータ2を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。また、各種装置は、ECU13と電気的に接続される。
【0035】
次に、図3のフローチャートおよび図4のタイミングチャート用いて、本実施形態の制御部12の制御手順について説明する。なお、図4のタイミングチャートは、冷却部10を停止させる第1制御と、加湿部8を停止させる第2制御を両方行った場合のタイミングチャートである。
【0036】
制御部12は、電池制御部4aからSOCを取得し、SOCがFC6の停止準備を開始する充電率である目標充電率Btとなったか否か判定する(S1)。制御部12は、SOCが目標充電率Btとなった場合に(S1 Yes)、FC6を停止させる準備を開始する(S2 図4の時刻t1参照)。ここで、制御部12は、目標充電率Btが所定充電率Bp以上か否か判定する(S3)。制御部12は、目標充電率Btが所定充電率Bp以上の場合は(S3 Yes)、冷却部10を停止させる第1制御を行う。一方、制御部12は、目標充電率Btが所定充電率Bpより小さい場合は(S3 No)、第1制御に加えて、加湿部8を停止させる第2制御を行う(S8)。すなわち、制御部12は、FC6を停止させる前に、FCの内部抵抗値Rfを上昇させる。制御部12は、SOCが目標充電率Btとなるまでは、FC6に発電を続けさせる(S1 No)。
【0037】
図4のタイミングチャートの時刻t1から時刻t3までの間に示すように、冷却部10を停止させるとFC温度Tfが上昇する。FC温度Tfが上昇すると、FC内部の湿度が低下する。FC6内部の湿度が低下すると、内部抵抗値Rfが上昇し、FC出力Pfが低下する。また、第1制御に加えて、加湿部8を停止させる第2制御を行うと、カソード33に供給される空気の湿度が、加湿部8が稼働している状態よりも低くなる低加湿状態となる。これによって、内部抵抗値Rfが第1制御のみを行うよりも、早期に上昇する。
【0038】
一方、FC温度Tfが上昇しすぎると、FCに異常が発生することもある。そこで、図3のフローチャートに示すように、制御部12は、FC温度TfがFC強制停止温度Tmax以上か否か判定する(S5)。制御部12は、FC温度Tfが、FC強制停止温度Tmax以上となる場合は、強制的にFCを停止させる(S5 Yes)。制御部12は、FC温度TfがFC強制停止温度Tmaxより小さい場合は(S5 No)、SOCに応じて第1制御および第2制御のいずれか一方、または、両方を行う。
【0039】
制御部12は、内部抵抗値Rfが所定抵抗値Rt以上になった場合は(S6 Yes)、空気圧縮機8bを停止させ、元弁16aを閉じて(図4の時刻t3参照)、FCを停止させる(S7)。制御部12は、FC6を停止させたのち処理をスタートに戻す。一方、制御部12は、内部抵抗値Rfが所定抵抗値Rtより小さい場合は(S6 No)、処理をS5の前に戻して、SOCに応じて第1制御および第2制御のいずれか一方、または、両方を行い続けて、内部抵抗値Rfを上昇させる。
【0040】
図4のタイミングチャートの時刻t1からt3以降に示すように、制御部12は、FC6を停止させるまでの間に発電した電力は、駆動用電池4に供給される。駆動用電池4に供給された電力は、車両Cが走行する際に、モータジェネレータ2に供給され、駆動輪2bを駆動させるために用いられる。すなわち、車両Cが走行する際のエネルギとして用いられる。
【0041】
また、時刻t3以降に示すように、制御部12は、このようにSOCに応じて第1制御および第2制御のいずれか一方、または、両方を行うことで、FC6の停止準備中のみならず停止させた後も、内部抵抗値Rfは上昇させることができる。これは、セラミックス系材料は、FC電圧(図示なし)が高くなると内部抵抗が増加する基本特性を持つことに起因する。この特性は、セラミックス系材料の中でも、酸化スズが顕著である。内部抵抗が上昇するとFC6の劣化が抑制される。より具体的には、セラミックス系材料の場合、FC6が停止中に内部抵抗が増加することで、担体表面の電子密度が低下し、劣化に繋がる白金系材料の電子移動を抑制できる。特に担体材料が酸化スズの場合、劣化に繋がる白金系材料の電子移動を抑制しやすい。すなわち、カソード33にセラミックス系担体に白金系材料からなる触媒を担持させた場合、FC6内部またはカソード33に供給する空気が低加湿状態となると、白金系材料の粗大化/溶出の進行が抑制される。特に、カソード33に酸化スズを用いた場合に、白金系材料の粗大化/溶出の進行が顕著に抑制される。これによって、FC6の劣化が抑制される。
【0042】
また、制御部12は、目標充電率Btが所定充電率Bpより小さい場合は、第1制御および第2制御を行うことで、素早く内部抵抗値Rfを上昇させる。すなわち、目標充電率Btが所定充電率Bpより小さい場合は、モータジェネレータ2に供給する駆動用電池4の電力が不足する機会が多くなる。これによって、FC6を停止させたのち短時間で再度起動させる必要が発生する頻度が高くなる。このため、制御部12は、第1制御と第2制御の両方を行い、早期に内部抵抗を上昇させる。
【0043】
以上説明した通り、本発明によれば、車両Cのエネルギロスを抑えながら、FC6の劣化を抑制できる燃料電池システム1を提供できる。
【0044】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0045】
(a)上記実施形態では、カソード33の電極触媒に用いる担体としてセラミックス系材料の酸化スズ用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。セラミックス系材料であれば公知の電極材料を用いることができる。また、担体に用いるセラミックス系材料としては、雰囲気中の水蒸気を吸着できる等の理由から親水性を有するセラミックスを用いるのが好ましい。このようなセラミックスとしては、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ニオブ、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムなどがある。
【0046】
(b)上記実施形態では、アノード32の電極触媒として、カーボン系材料からなる担体、もしくは、酸化スズ(SnO)などのセラミックス系材料からなる担体に、白金(Pt)系材料からなる触媒を担持した電極触媒を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。アノード32の電極触媒は、公知の電極材料を用いることができる。
【0047】
(c)上記実施形態では、目標充電率Btが所定充電率Bpよりも低い場合に第1制御および第2制御を行い、目標充電率Btが所定充電率Bp以上の場合に、第1制御を行う例を用いて説明したが、本発明はこれに限定されない。制御部12は、FC6を停止させる準備を開始する際のSOCに応じて、第1制御と第2制御を選択的に組わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1:燃料電池システム,2:モータジェネレータ(回転電機)
2b:駆動輪,4:駆動用電池(二次電池)
6:FC,8:加湿部,10:冷却部,12:制御部
32:アノード,33:カソード
Bp:所定充電率,Bt:目標充電率
C:車両,Rf:内部抵抗値,Rt:所定抵抗値
Tf:FC温度
図1
図2
図3
図4