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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】歯車加工装置及び歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/16 20060101AFI20230912BHJP
   G05B 19/416 20060101ALI20230912BHJP
   B23Q 15/12 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B23F5/16
G05B19/416 F
B23Q15/12 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019158998
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021037558
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 友和
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062056(JP,A)
【文献】特開2014-079867(JP,A)
【文献】特開2016-163918(JP,A)
【文献】特開2013-174936(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0088298(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 5/16、22、24
B23Q 15/12
G05B 19/404、416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工装置であって、
前記工作物を回転可能に支持する工作物主軸と、
前記歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸と、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方を移動可能に支持する移動体と、
前記工作物主軸の回転速度を周期的に変動させる工作物主軸回転速度制御部と、
前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる工具主軸回転速度制御部と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御部と、
前記移動体の慣性力に基づいて、前記送り速度の補正量を算出する送り速度補正量算出部と、
を備える、歯車加工装置。
【請求項2】
前記送り速度の前記補正量は、前記送り速度の周期的な変動における振幅補正量を含む、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記送り速度の前記補正量は、前記送り速度の加減速に起因するオフセット時間補正量を含む、請求項1又は2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記送り速度補正量算出部は、前記送り速度の変動周波数に基づいて、前記送り速度の前記補正量を算出する、請求項1-3の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記送り速度の前記補正量は、装置固有の補正量を含む、請求項1-4の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記装置固有の補正量は、前記送り速度の変動周波数に基づいて算出される、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項7】
工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工装置であって、
前記工作物を回転可能に支持する工作物主軸と、
前記歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸と、
前記工作物主軸を直動可能に支持する第一移動体及び前記工具主軸を直動可能に支持する第二移動体と、
前記工作物主軸の回転速度を周期的に変動させる工作物主軸回転速度制御部と、
前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる工具主軸回転速度制御部と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御部と、
前記第一移動体の第一慣性力と前記第二移動体の第二慣性力に基づいて、前記第一移動体の直動の補正量及び前記第二移動体の直動の補正量を算出する送り速度補正量算出部と、
を備える、歯車加工装置。
【請求項8】
前記送り速度補正量算出部は、前記第一慣性力と前記第二慣性力の差に基づいて、前記第一移動体の直動の補正量及び前記第二移動体の直動の補正量を算出する、請求項に記載の歯車加工装置。
【請求項9】
前記歯車加工装置は、前記工作物を含む第一回転体の第一慣性モーメントと前記歯切り工具を含む第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方における回転速度の補正量を算出する回転速度補正量算出部、を備える、請求項1-の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項10】
工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工装置であって、
前記工作物を回転可能に支持する工作物主軸と、
前記歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸と、
前記工作物主軸の回転速度を周期的に変動させる工作物主軸回転速度制御部と、
前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる工具主軸回転速度制御部と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御部と、
前記工作物を含む第一回転体の第一慣性モーメントと前記歯切り工具を含む第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方における回転速度の補正量を算出する回転速度補正量算出部と、
を備える、歯車加工装置。
【請求項11】
前記歯切り工具は、スカイビングカッタであり、
前記歯車加工装置は、前記工作物の回転軸線を前記歯切り工具の回転軸線に対して傾斜させた状態で、前記歯切り工具を前記工作物に対して前記工作物の回転軸線方向に相対移動させることにより、前記工作物に歯車のスカイビング加工を行う、請求項1-10の何れか一項に記載の歯車加工装置。
【請求項12】
工作物を回転可能に支持する工作物主軸と歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる回転速度変動工程と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御工程と、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方を移動可能に支持する移動体の慣性力に基づいて、前記送り速度の補正量を算出する送り速度補正量算出工程と、
を備える、歯車加工方法。
【請求項13】
工作物を回転可能に支持する工作物主軸と歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる回転速度変動工程と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御工程と、
前記工作物主軸を直動可能に支持する第一移動体の第一慣性力及び前記工具主軸を直動可能に支持する第二移動体の第二慣性力に基づいて、前記第一移動体の直動の補正量及び前記第二移動体の直動の補正量を算出する送り速度補正量算出工程と、
を備える、歯車加工方法。
【請求項14】
工作物を回転可能に支持する工作物主軸と歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる回転速度変動工程と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御工程と、
前記工作物を含む第一回転体の第一慣性モーメントと前記歯切り工具を含む第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方における回転速度の補正量を算出する回転速度補正量算出工程と、
を備える、歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置及び歯車加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、切削工具と工作物の相対回転速度を上昇させたり、切込量を大きくすると、工作物にびびり振動が発生し易くなる。そこで、例えば、特許文献1には、工作物の動的ひずみを求め、動的ひずみの大きさに基づいて、工作物のびびり振動の判定を行って工作物の加工を行う技術が記載されている。特許文献2には、工作物の固有振動と切削工具の振動成分とが共振しない回転数で切削工具を回転させることで、工作物のびびり振動の発生を防止して工作物の加工を行う技術が記載されている。
【0003】
特許文献3には、工作物又は切削工具の回転を慣性回転にして切削工具と工作物を相対送りすることで、工作物のびびり振動の発生を防止して工作物の加工を行う技術が記載されている。特許文献4には、工作物に対する切削工具の切込深さを減少させることで、工作物のびびり振動の発生を防止して工作物の加工を行う技術が記載されている。しかし、上述の各技術は、スカイビング加工により工作物に歯車を加工する歯車加工装置(歯車加工方法)に対して適用可能か否かは不明である。
【0004】
本発明者は、スカイビング加工を行う歯車加工装置(歯車加工方法)において、工作物のびびり振動を抑制して工作物に歯車を加工する技術(特許文献5)を見い出した。すなわち、特許文献5には、工作物主軸(工作物)及び工具主軸(歯切り工具)の回転速度を変動させて同期回転させながら、工作物の回転軸線方向に歯切り工具を工作物に対して相対移動させることにより、工作物のびびり振動を抑制して工作物に歯車を加工する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-237932号公報
【文献】特開2009-274179号公報
【文献】特開昭63-127801号公報
【文献】特許第5929065号公報
【文献】特開2018-62056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の歯車加工装置では、工作物主軸及び工具主軸の回転速度のみを変動させるため、歯切り工具の切れ刃の実切込深さ(切削長さ)が変動する。すなわち、図19に示すように、切れ刃の軌跡を円(中心O)に近似した場合の直径(切れ刃軌跡直径)をR、切れ刃の切込量をaとしたとき、次式(1)に示すように、刃当たり送り量Lzは、歯切り工具の工作物に対する工作物の回転軸線方向への送り速度Vt-w(以下単に、送り速度Vt-wという)及び平均工作物主軸回転速度Swaで表される。なお、刃当たり送り量Lzとは、工作物の1回転毎の工作物に対する歯切り工具の接近量である。そして、次式(2)に示すように、実切込深さhtは、刃当たり送り量Lz、切込量a及び切れ刃軌跡直径Rで表される。
【0007】
【数1】
【0008】
【数2】
【0009】
式(2)における√(a/R・(1-a/R))は一定のため(速度変動に影響しないため)、実切込深さhtは、刃当たり送り量Lzに比例する。つまり、送り速度Vt-wを一定のまま、図20に示すように、工作物主軸回転速度Swを変動させると、図21及び図22に示すように、工作物主軸回転速度Swの変動振幅に反比例して、刃当たり送り量Lzは変動することになり、実切込深さhtも変動する。このため、工具寿命は、工作物主軸及び工具主軸の回転速度が一定の場合と比較して短くなる傾向にある。
【0010】
本発明は、工具寿命を向上できる歯車加工装置及び歯車加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様は、工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工装置であって、
前記工作物を回転可能に支持する工作物主軸と、
前記歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸と、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方を移動可能に支持する移動体と、
前記工作物主軸の回転速度を周期的に変動させる工作物主軸回転速度制御部と、
前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる工具主軸回転速度制御部と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御部と、
前記移動体の慣性力に基づいて、前記送り速度の補正量を算出する送り速度補正量算出部と、
を備える、歯車加工装置にある。
本発明の第二の態様は、工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工装置であって、
前記工作物を回転可能に支持する工作物主軸と、
前記歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸と、
前記工作物主軸を直動可能に支持する第一移動体及び前記工具主軸を直動可能に支持する第二移動体と、
前記工作物主軸の回転速度を周期的に変動させる工作物主軸回転速度制御部と、
前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる工具主軸回転速度制御部と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御部と、
前記第一移動体の第一慣性力と前記第二移動体の第二慣性力に基づいて、前記第一移動体の直動の補正量及び前記第二移動体の直動の補正量を算出する送り速度補正量算出部と、
を備える、歯車加工装置にある。
本発明の第三の態様は、工作物と歯切り工具とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工装置であって、
前記工作物を回転可能に支持する工作物主軸と、
前記歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸と、
前記工作物主軸の回転速度を周期的に変動させる工作物主軸回転速度制御部と、
前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる工具主軸回転速度制御部と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御部と、
前記工作物を含む第一回転体の第一慣性モーメントと前記歯切り工具を含む第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方における回転速度の補正量を算出する回転速度補正量算出部と、
を備える、歯車加工装置にある。
【0012】
本発明の第四の態様は、工作物を回転可能に支持する工作物主軸と歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる回転速度変動工程と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御工程と、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方を移動可能に支持する移動体の慣性力に基づいて、前記送り速度の補正量を算出する送り速度補正量算出工程と、
を備える、歯車加工方法にある。
本発明の第五の態様は、工作物を回転可能に支持する工作物主軸と歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる回転速度変動工程と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御工程と、
前記工作物主軸を直動可能に支持する第一移動体の第一慣性力及び前記工具主軸を直動可能に支持する第二移動体の第二慣性力に基づいて、前記第一移動体の直動の補正量及び前記第二移動体の直動の補正量を算出する送り速度補正量算出工程と、
を備える、歯車加工方法にある。
本発明の第六の態様は、工作物を回転可能に支持する工作物主軸と歯切り工具が装着される回転可能な工具主軸とを同期回転させながら、前記工作物の回転軸線方向に前記歯切り工具を前記工作物に対して相対移動させることにより、前記工作物に歯車の歯を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度を周期的に変動させる回転速度変動工程と、
前記歯切り工具を前記工作物の回転軸線方向に相対移動させ、前記工作物主軸及び前記工具主軸の回転速度の周期的な変動と同期した送り速度で制御を行う直動制御工程と、
前記工作物を含む第一回転体の第一慣性モーメントと前記歯切り工具を含む第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、前記工作物主軸及び前記工具主軸の少なくとも一方における回転速度の補正量を算出する回転速度補正量算出工程と、
を備える、歯車加工方法にある。
【0013】
本発明の上記態様によれば、工作物主軸の回転速度を工具主軸の回転速度と同期させて変動させているとともに、送り速度を工具主軸の回転速度と同期させて変動させている。これにより、歯切り工具の切れ刃の実切込深さを一定にすることができ、歯切り工具の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態における歯車加工装置の斜視図である。
図2図1の歯車加工装置においてスカイビング加工を行う際の歯切り工具を拡大した一部断面図である。
図3】歯車加工装置の第一実施形態の制御装置のブロック図である。
図4図3の制御装置により実行される歯車加工処理のフローチャートである。
図5】歯車加工装置の第二実施形態の制御装置のブロック図である。
図6図5の制御装置により実行される歯車加工処理の後半のフローチャートである。
図7】スカイビング加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す図である。
図8A】制御装置で制御される工作物主軸の回転速度を正弦波で変動させるときのグラフである。
図8B】制御装置で制御される工具主軸の回転速度を工作物主軸の回転速度と同期させるときのグラフである。
図9】工具主軸を回転させるときの工具主軸回転速度の安定判別を説明するための図である。
図10】工作物主軸と工具主軸の回転速度同期誤差の変動を示すグラフである。
図11】歯車の歯の歯すじに発生するうねりと歯すじ誤差を示す図である。
図12】工作物主軸の回転速度の第一、第二、第三の補正量を説明するためのグラフである。
図13】第一、第二の補正量で補正後の工作物主軸と工具主軸の回転速度同期誤差の変動を示すグラフである。
図14】第一、第二の補正量で補正後の歯車の歯の歯すじに発生するうねりと歯すじ誤差を示す図である。
図15】第一、第二、第三の補正量で補正後の工作物主軸と工具主軸の回転速度同期誤差の変動を示すグラフである。
図16】第一、第二、第三の補正量で補正後の歯車の歯の歯すじに発生するうねりと歯すじ誤差を示す図である。
図17】第二実施形態においてホブ加工を行う際の歯切り工具と工作物との動作を示す図である。
図18】歯切り工具及び工作物の回転速度の別例の変動を示すグラフである。
図19】歯切り工具で工作物を加工する際の切れ刃の軌跡を示す図である。
図20】工作物主軸の回転速度の変動を示すグラフである。
図21】歯切り工具の工作物に対する工作物の回転軸線方向への送り速度を一定で、工作物主軸の回転速度を変動させたときの刃当たり送り量の変動を示すグラフである。
図22】歯切り工具の工作物に対する工作物の回転軸線方向への送り速度を一定で、工作物主軸の回転速度を変動させたときの実切込深さの変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.第一実施形態>
(1-1.歯車加工装置の概略構成)
本発明に係る第一実施形態の歯車加工装置の概略構成について図1を参照して説明する。図1に示すように、歯車加工装置1は、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)と2つの回転軸(A軸及びC軸)を駆動軸として有するマシニングセンタである。歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、工具主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、工作物主軸70と、制御装置100と、を主に備える。
【0016】
ベッド10は、床上に配置される。このベッド10の上面には、コラム20が設けられる。コラム20は、ベッド10内に収容されるX軸モータ21及びX軸モータ21に連結されるボールねじ22により、X軸線方向(水平方向)へ移動可能に設けられる。さらに、コラム20の側面には、サドル30が設けられる。
【0017】
サドル30は、コラム20内に収容されるY軸モータ11(図3参照)及びY軸モータ11に連結されるボールねじ(図示省略)によりY軸線方向(鉛直方向)に移動可能に設けられる。工具主軸40は、サドル30内に収容されるエンコーダ(図示省略)を有する工具主軸用モータ41(図3参照)によりZ軸線回りに回転可能に設けられる。工具主軸40の先端には、歯切り工具42(スカイビングカッタ)が装着され、歯切り工具42は、工具主軸40の回転に伴って回転する。
【0018】
ここで、図2を参照しながら、歯切り工具42について説明する。図2に示すように、歯切り工具42は、外周面に複数の切れ刃42aを備えるスカイビングカッタであり、各々の切れ刃42aの端面は、すくい角γを有するすくい面を構成する。各々の切れ刃42aのすくい面は、歯切り工具42の中心軸線を中心としたテーパ状としてもよく、切れ刃42aごとに異なる方向を向く面状に形成してもよい。
【0019】
図1に示すように、ベッド10の上面には、テーブル50が設けられる。テーブル50は、ベッド10内に収容されるZ軸モータ12(図3参照)及びZ軸モータ12に連結されるボールねじ(図示省略)によりZ軸線方向(水平方向)に移動可能に設けられる。テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持するチルトテーブル支持部61が設けられる。そして、チルトテーブル支持部61には、チルトテーブル60がA軸線(X軸線と平行)回りに揺動可能に設けられる。
【0020】
チルトテーブル60の底面には、工作物主軸70及びエンコーダ(図示省略)を有する工作物主軸用モータ71が設けられる。工作物主軸70は、工作物主軸用モータ71によりA軸線に直交するC軸線回りに回転可能に設けられる。工作物主軸70の先端には、工作物Wが保持され、工作物Wは、工作物主軸70の回転に伴って回転する。
【0021】
(1-2.制御装置の構成)
制御装置100は、スカイビング加工により工作物Wに歯車を加工する。具体的には、図7に示すように、制御装置100は、チルトテーブル60をA軸線回りに揺動させることにより、工作物Wの回転軸線Cを、歯切り工具42の回転軸線Oに対して傾斜させる。この工作物Wの回転軸線Cに対する歯切り工具42の回転軸線Oの傾斜角度を交差角δと称す。
【0022】
そして、制御装置100は、工具主軸40(歯切り工具42)の回転速度St、工作物主軸70(工作物W)の回転速度Swを制御する。さらに、歯切り工具42の工作物Wに対する工作物Wの回転軸線(中心軸線C)方向への送り速度、すなわち本例ではZ軸線方向のテーブル50(工作物W)の送り速度Vz(以下単に、Z軸送り速度Vzという)及びY軸線方向のサドル30(歯切り工具42)の送り速度Vy(以下単に、Y軸送り速度Vyという)を合成した送り速度Vz+y(以下単に、送り速度Vz+yという)を制御する。
【0023】
また、切削速度St-wは、歯車加工に要する加工時間(サイクルタイム)、歯切り工具42の諸元、工作物Wの材質、及び工作物Wに形成する歯車のねじれ角等に基づいて設定される。すなわち、切削速度St-wは、歯車加工を行う際の加工能率及び歯切り工具42の工具寿命等を勘案し、最適な速度に設定される。スカイビング加工においては、切削速度St-wを速くするほど、加工能率が向上する一方、面性状等の品質が低下する傾向がある。
【0024】
ここで、図8A及び図8Bに示すように、工作物主軸70の回転速度Sw(平均工作物主軸回転速度Swa)及び工具主軸40の回転速度St(平均工作物主軸回転速度Sta)を正弦波で変動させる制御を行うことで、歯切り工具42が工作物Wに接触する周期が不規則となる。このため、工作物主軸70及び工具主軸40の回転速度Sw,Stが変動せずに一定である場合と比べて、工作物Wに発生するびびり振動の増幅が抑制される。その結果、工作物Wに対する歯切り工具42の切込量を大きく設定することができる。よって、工作物Wに形成された加工面の面性状の向上と加工能率の向上との両立を図れる。
【0025】
しかし、解決課題で述べたように、工作物主軸70及び工具主軸40の回転速度Sw,Stのみを変動させた場合、歯切り工具42の切れ刃42aの実切込深さ(切削長さ)が変動し、工具寿命は工作物主軸70及び工具主軸40の回転速度Sw,Stが一定の場合と比較して短くなる傾向にある。そこで、本例の制御装置100は、工具主軸40の回転速度Stを変動させるとともに、工作物主軸70の回転速度Swを工具主軸40の回転速度Stと同期させる。そして、送り速度Vz+yを工具主軸40の回転速度Stと同期させて、歯切り工具42を工作物Wの回転軸線C方向へ送ることで、歯切り工具42の切れ刃42aの実切込深さが一定になるようにしている。
【0026】
工具主軸40の回転速度Stは、次式(3)で表される。なお、式(3)におけるStaは、工具主軸40の平均回転速度(平均工具主軸回転速度)、Atは、工具主軸40の変動振幅、fhは、回転変動の変動周波数、tは、時間である。工作物主軸70の回転速度Swは、次式(4)で表される。なお、式(4)におけるSwaは、工作物主軸70の平均回転速度(平均工作物主軸回転速度)である。
【0027】
【数3】
【0028】
【数4】
【0029】
また、Z軸送り速度Vzは、次式(5)で表される。なお、式(5)におけるVzaは、平均Z軸送り速度である。Y軸送り速度Vyは、次式(6)で表される。なお、式(6)におけるVyaは、平均Y軸送り速度である。
【0030】
【数5】
【0031】
【数6】
【0032】
この制御装置100の具体的構成について説明する。図3に示すように、制御装置100は、工作物主軸回転速度制御部110と、工具主軸回転速度制御部120と、Y軸送り速度制御部140(直動制御部)と、Z軸送り速度制御部150(直動制御部)を備える。
【0033】
工具主軸回転速度制御部120は、工具主軸用モータ41を駆動制御し、工具主軸40の回転速度Stを変動させる。工作物主軸回転速度制御部110は、工作物主軸用モータ71を駆動制御し、工具主軸40の回転速度Stに同期させて工作物主軸70の回転速度Swを変動させる。Y軸送り速度制御部140及びZ軸送り速度制御部150は、Y軸モータ11及びZ軸モータ12をそれぞれ駆動制御し、工具主軸40の回転速度Stに同期させて送り速度Vz+yを変動させつつ、歯切り工具42と工作物Wとの相対距離を調整する。
【0034】
上述の第一の実施形態の制御装置100を備える歯車加工装置1によれば、工作物主軸70の回転速度Swを工具主軸40の回転速度Stと同期させて変動させているとともに、送り速度Vz+yを工具主軸40の回転速度Stと同期させて変動させている。これにより、歯切り工具42の切れ刃42aの実切込深さを一定にすることができ、歯切り工具42の長寿命化を図ることができる。
【0035】
(1-3.制御装置による歯車加工処理)
次に、制御装置100により実行される歯車加工処理(歯車加工方法)について図を参照して説明する。なお、歯車加工処理を実行するにあたり、工作物主軸70には、工作物Wが保持され、工具主軸40には、歯切り工具42が装着されているものとする。また、工作物Wの回転軸線Cに対する歯切り工具42の回転軸線Oの傾斜角度は、交差角δに設定され、歯切り工具42は、工作物Wの加工開始位置に位置決めされているものとする。
【0036】
工具主軸回転速度制御部120は、工具主軸40の回転速度Stを正弦波で変動させて工具主軸40を空転させる(図4のステップS1、回転速度変動工程)。そして、工具主軸40の回転速度Stが、安定しているか否か判別する(図4のステップS2)。この処理は、図9に示すように、工具主軸40の平均工具主軸回転速度Swaが、目標中心速度の±20%内に入っている場合に安定と判別する。
【0037】
工具主軸回転速度制御部120は、工具主軸40の回転速度Stが安定したら、工作物主軸回転速度制御部110に同期回転指令を入力する。工作物主軸回転速度制御部110は、工具主軸回転速度制御部120により設定された工具主軸40の回転速度Stに同期するように、工作物主軸70の回転速度Swを設定して工作物主軸70を回転させる(図4のステップS3、回転速度変動工程)。そして、Y軸送り速度制御部140及びZ軸送り速度制御部150は、送り速度Vz+yが工具主軸40の回転速度Stの変動周波数と同期するように、Z軸送り速度Vz及びY軸送り速度Vyをそれぞれ設定してZ軸及びY軸を送る(図4のステップS4、直動制御工程)。
【0038】
以上の処理により、歯切り工具42は、工作物Wに噛合しながら、工作物Wに連続的な歯車加工を行い、工作物Wに歯面形状を加工する(図4のステップS5)。そして、一の工作物Wの歯車加工が完了したか否かを判断し(図4のステップS6)、一の工作物Wの歯車加工が完了したら、次の工作物Wの歯車加工の有無を確認する(図4のステップS7)。そして、次の工作物Wの歯車加工が有るときは、ステップS5に戻って上述の処理を繰り返し、次の工作物Wの歯車加工が無いときは、全ての処理を終了する。
【0039】
<2.第二実施形態>
(2-1.歯車加工装置の概略構成)
本発明に係る第二実施形態の歯車加工装置の概略構成は、図1に示す第一実施形態の歯車加工装置の概略構成と同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0040】
(2-2.制御装置の構成)
第一の実施形態の制御装置100は、工作物主軸70の回転速度Swを工具主軸40の回転速度Stに同期させて変動させている。さらに、送り速度Vz+yを工具主軸40の回転速度Stに同期させて変動させている。しかし、工作物Wを含む第一回転体(工作物W及び工作物主軸70の回転部分)の質量と歯切り工具42を含む第二回転体(歯切り工具42及び工具主軸40の回転部分)の質量とは、同一ではない。そのため、工作物主軸70の回転速度Sw及び工具主軸40の回転速度Stが変動したとき、第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとが異なる。そして、第一、第二回転体の第一、第二慣性モーメントの相違に起因して、図10に示すように、工作物主軸70と工具主軸40の回転位相の同期誤差Δθが発生する。この回転位相の同期誤差Δθは次式(7)で表される。なお、式中のθwは、工作物主軸回転位相、θtは、工具主軸回転位相、Ztは、歯切り工具42の工具刃数、Zwは、工作物Wに加工する歯車の歯数である。その結果、図11に示すように、加工される歯車の歯Gの歯すじGzに歯すじ誤差εのうねりが発生し、歯車加工精度が悪化するおそれがあった。
【0041】
【数7】
【0042】
また、送り速度Vz+yと工具主軸40の回転速度Stとの間にも同期誤差が発生する場合があり、この点でも歯車加工精度が悪化するおそれがあった。工作物主軸70と工具主軸40の回転位相の同期誤差Δθが発生する理由としては、工作物Wを含む第一回転体(工作物W及び工作物主軸70の回転部分)の質量と歯切り工具42を含む第二回転体(歯切り工具42及び工具主軸40の回転部分)の質量とは、同一ではない。そのため、工作物主軸70の回転速度Sw及び工具主軸40の回転速度Stが変動したとき、第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとが異なるからである。
【0043】
また、送り速度Vz+yと工具主軸40の回転速度Stとの間に同期誤差が発生する理由としては、工作物Wを含む第一移動体(工作物W、工作物主軸70及びテーブル50等)の質量と歯切り工具42を含む第二移動体(歯切り工具42、工具主軸40及びサドル30等)の質量とは、同一ではない。そのため、送り速度Vz+y及び工具主軸40の回転速度Stが変動したとき、第一移動体の第一慣性力と第二移動体の第二慣性力とが異なるからである。
【0044】
そこで、第二の実施形態の制御装置101は、第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、工作物主軸70における回転速度Swの補正量を算出するようにしている。さらに、第一移動体の第一慣性力と第二移動体の第二慣性力に基づいて、送り速度Vz+y、本例では、Y軸送り速度Vyの補正量及びZ軸送り速度Vzの補正量を算出するようにしている。
【0045】
この制御装置101の具体的構成について説明する。図3に示すように、制御装置101は、工作物主軸回転速度制御部110と、工具主軸回転速度制御部120と、回転速度補正量算出部130と、Y軸送り速度制御部140(直動制御部)と、Z軸送り速度制御部150(直動制御部)と、送り速度補正量算出部160を備える。
【0046】
工具主軸回転速度制御部120は、工具主軸用モータ41を駆動制御し、工具主軸40の回転速度St(式(3)参照)を変動させる。工作物主軸回転速度制御部110は、工作物主軸用モータ71を駆動制御し、工作物主軸70の回転速度Sw(式(4)参照)を工具主軸40の回転速度Stに同期させて変動させる。
【0047】
Y軸送り速度制御部140及びZ軸送り速度制御部150は、Y軸モータ11及びZ軸モータ12をそれぞれ駆動制御し、送り速度Vz+y((式(5)、(6)参照))を工具主軸40の回転速度Stに同期させて変動させつつ、歯切り工具42と工作物Wとの相対距離を調整する。
【0048】
回転速度補正量算出部130は、工作物Wを含む第一回転体の第一慣性モーメントと歯切り工具42を含む第二回転体の第二慣性モーメントに基づいて、工作物主軸70の回転速度Swの補正量を算出する。つまり、回転速度補正量算出部130は、工作物主軸70の回転速度Swの補正量に含まれる第一の補正量として、先ず、図12に示すように、工作物主軸70の回転速度Swの図示破線で示す周期的な変動における振幅を微調整するための振幅補正量ΔAw-tを算出する。この補正を行うことで、工作物主軸70の回転速度Swは、図示一点鎖線で示す周期的な変動になる。
【0049】
具体的には、回転速度補正量算出部130は、回転速度補正量算出部130に予め記憶されている第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iw-t、工具主軸40の回転速度Stの変動振幅At及び変動周波数fhに基づいて、次式(8)で表される工作物主軸70の変動振幅の振幅補正量ΔAw-tを求める。なお、式中のCwtは、歯切り工具42基準の工作物Wに関する定数であり、回転速度補正量算出部130に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にて振幅補正量ΔAw-tを求めることもできる。
【0050】
【数8】
【0051】
さらに、回転速度補正量算出部130は、工作物主軸70の回転速度Swの補正量に含まれる第二の補正量として、図12に示すように、第一回転体における加減速タイミングの微小な時間ずれ、つまり、第一回転体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pwを算出する。この補正を行うことで、工作物主軸70の回転速度Swは、図示二点鎖線で示す周期的な変動になる。
【0052】
具体的には、回転速度補正量算出部130は、回転速度補正量算出部130に予め記憶されている第一回転体の第一慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iw-t、工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(9)で表される第一回転体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pwを求める。なお、式中のCwは、第二回転体基準の第一回転体に関する定数であり、回転速度補正量算出部130に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にてオフセット時間補正量Pwを求めることもできる。
【0053】
【数9】
【0054】
ここで、上述の工作物主軸70の変動振幅の振幅補正量ΔAw-t及び第一回転体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pwで工作物主軸70の変動振幅を補正すると、図13に示すように、工作物主軸70と工具主軸40の回転位相の同期誤差Δθは、図10に示す補正前の回転位相の同期誤差Δθよりも改善される。しかし、図14に示すように、歯車の歯Gの歯すじGzに歯すじ誤差εcのうねりは、図11に示す補正前の歯すじ誤差εのうねりより多少改善される程度(εc<ε)で、歯すじ誤差のうねりの許容範囲内に入っていない。
【0055】
そこで、さらに、回転速度補正量算出部130は、工作物主軸70の回転速度Swの補正量に含まれる第三の補正量として、図12に示すように、第一回転体における時間的な極僅かな誤差、つまり、第一回転体における回転速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPwを算出する。
【0056】
この装置固有のオフセット時間補正量は、例えばエンコーダの測定タイミングのずれを補正するものであり、工具主軸回転速度制御部120及び工作物主軸回転制御部110の制御周期によるが、一般的に制御指令は、回転速度制御部同等の時間補正はできない。このため、回転速度指令値の回転位相値に時間補正相当の補正を行うようにする。この補正を行うことで、工作物主軸70の回転速度Swは、図示実線で示す周期的な変動になる。
【0057】
具体的には、回転速度補正量算出部130は、回転速度補正量算出部130に予め記憶されている工作物主軸70の極僅かな時間ずれΔTw及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(10)で表される第一回転体における回転速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPwを求める。
【0058】
【数10】
【0059】
上述の第一回転体における回転速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPwで工作物主軸70の変動振幅を補正すると、図15に示すように、工作物主軸70と工具主軸40の回転位相の同期誤差Δθは、図13に示す振幅補正量ΔAw-t及びオフセット時間補正量Pwで補正したときの回転位相の同期誤差Δθと比較して僅かに大きくなるが、図16に示すように、歯車の歯Gの歯すじGzに歯すじ誤差εccのうねりは、図14に示す振幅補正量ΔAw-t及びオフセット時間補正量Pwで補正したときの歯すじ誤差εcのうねりよりも小さくなって(εcc<εc)、許容範囲内に入るようになる。
【0060】
送り速度補正量算出部160は、上述の回転速度補正量算出部130と同様な処理を行う。つまり、送り速度補正量算出部160は、工作物Wを含む第一移動体の第一慣性力の代替値に当たるZ軸モータ12に連結されたボールネジのZ軸慣性モーメントと歯切り工具42を含む第二移動体の第二慣性力の代替値に当たるY軸モータ11に連結されたボールネジのY軸慣性モーメントに基づいて、Z軸の送り速度Vzの補正量及びY軸の送り速度Vyの補正量を算出する。つまり、送り速度補正量算出部160は、Z軸の送り速度Vzの補正量に含まれるものとして、先ず、Z軸の送り速度Vzの周期的な変動における振幅を微調整する振幅補正量を算出する。
【0061】
具体的には、送り速度補正量算出部160は、送り速度補正量算出部160に予め記憶されているZ軸慣性モーメントとY軸慣性モーメントとの差Iz-y、平均Z軸送り速度Sza、工具主軸40の回転速度Stの変動振幅At(=Ay:Y軸の変動振幅)及び変動周波数fhに基づいて、次式(11)で表されるZ軸の変動振幅の振幅補正量ΔAz-yを求める。なお、式中のCztは、歯切り工具42基準のZ軸に関する定数であり、送り速度補正量算出部160に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にて振幅補正量ΔAz-yを求めることもできる。
【0062】
【数11】
【0063】
さらに、送り速度補正量算出部160は、Z軸の送り速度Vzの補正量に含まれるものとして、第一移動体における加減速タイミングの微小な時間ずれ、つまり、第一移動体における加減速に起因するオフセット時間補正量を算出する。このオフセット時間補正量は、加工前の工具主軸40の空転及びZ軸の空送りの状態のときに、同期変動指令による工具主軸40の回転位相とZ軸の位置をそれぞれ測定し、工具主軸40の回転位相に対するZ軸の時間ずれ(最大工具主軸回転速度、最小工具主軸回転速度、平均工具主軸回転速度に至るタイミング)に相当する。
【0064】
具体的には、送り速度補正量算出部160は、送り速度補正量算出部160に予め記憶されているZ軸慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iz-t、Z軸の平均Z軸送り速度Sza及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(12)で表される第一移動体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pzを求める。なお、式中のCzは、第一移動体に関する定数であり、送り速度補正量算出部160に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にてオフセット時間補正量Pzを求めることもできる。
【0065】
【数12】
【0066】
さらに、送り速度補正量算出部160は、Z軸の送り速度Vzの補正量に含まれるものとして、第一移動体における時間的な極僅かな誤差、つまり、第一移動体における送り速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量を算出する。この装置固有のオフセット時間補正量は、工具主軸回転速度制御部120及び工作物主軸回転制御部110の制御周期によるが、一般的に制御指令は、回転速度制御部同等の時間補正はできない。このため、送り速度指令値に時間補正相当の補正を行うようにする。
【0067】
具体的には、送り速度補正量算出部160は、送り速度補正量算出部160に予め記憶されているZ軸の極僅かな時間ずれΔTz及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(13)で表される第一移動体における送り速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPzを求める。
【0068】
【数13】
【0069】
また、送り速度補正量算出部160は、Y軸の送り速度Vyの補正量に含まれるものとして、第二移動体における加減速タイミングの微小な時間ずれ、つまり、第二移動体における加減速に起因するオフセット時間補正量を算出する。
【0070】
具体的には、送り速度補正量算出部160は、送り速度補正量算出部160に予め記憶されているY軸慣性モーメントと第二回転体の第二慣性モーメントとの差Iy-t、Y軸の平均Y軸送り速度Sya及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(14)で表される第二移動体における加減速に起因するオフセット時間補正量Pyを求める。なお、式中のCyは、第二移動体に関する定数であり、送り速度補正量算出部160に予め記憶されている。また、同様な変数を三角関数に用いた式にてオフセット時間補正量Pyを求めることもできる。
【0071】
【数14】
【0072】
さらに、送り速度補正量算出部160は、Y軸の送り速度Vyの補正量に含まれるものとして、第二移動体における時間的な極僅かな誤差、つまり、第二移動体における送り速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量を算出する。この装置固有のオフセット時間補正量は、具主軸回転速度制御部120及び工作物主軸回転制御部110の制御周期によるが、一般的に制御指令は、回転速度制御部同等の時間補正はできない。このため、送り速度指令値に時間補正相当の補正を行うようにする。
【0073】
具体的には、送り速度補正量算出部160は、送り速度補正量算出部160に予め記憶されているY軸の極僅かな時間ずれΔTy及び工具主軸40の回転速度Stの変動周波数fhに基づいて、次式(15)で表される第一移動体における送り速度制御周期より短い時間の装置固有のオフセット時間補正量ΔPyを求める。
【0074】
【数15】
【0075】
上述の第二の実施形態の制御装置101を備える歯車加工装置1によれば、第一の実施形態の効果に加え、加工される歯車の歯Gの歯すじGzのうねりをさらに抑制できるので、歯車加工において加工する歯車の加工精度を大幅に高めることができる。そして、工作物主軸70の回転速度Swを工具主軸40の回転速度Stと同期させて変動させているとともに、送り速度Vz+yを工具主軸40の回転速度Stと同期させて変動させている。これにより、歯切り工具42の切れ刃42aの実切込深さを一定にすることができ、歯切り工具42の長寿命化を図ることができる。
【0076】
(2-3.制御装置による歯車加工処理)
次に、制御装置101により実行される歯車加工処理(歯車加工方法)について図を参照して説明する。なお、歯車加工処理を実行するにあたり、工作物主軸70には、工作物Wが保持され、工具主軸40には、歯切り工具42が装着されているものとする。また、工作物Wの回転軸線Cに対する歯切り工具42の回転軸線Oの傾斜角度は、交差角δに設定され、歯切り工具42は、工作物Wの加工開始位置に位置決めされているものとする。
【0077】
工具主軸回転速度制御部120は、工具主軸40の回転速度Stを正弦波で変動させて工具主軸40を空転させる(図6のステップS11、回転速度変動工程)。そして、工具主軸40の回転速度Stが、安定しているか否か判別する(図6のステップS12)。この処理は、図9に示すように、工具主軸40の平均工具主軸回転速度Staが、目標中心速度の±20%内に入っている場合に安定と判別する。
【0078】
工具主軸回転速度制御部120は、工具主軸40の回転速度Stが安定したら、工作物主軸回転速度制御部110に同期回転指令を入力する。工作物主軸回転速度制御部110は、工具主軸回転速度制御部120により設定された工具主軸40の回転速度Stに同期するように、工作物主軸70の回転速度Swを設定して工作物主軸70を空転させる(図6のステップS13、回転速度変動工程)。そして、Y軸送り速度制御部140及びZ軸送り速度制御部150は、送り速度Vz+yが工具主軸40の回転速度Stの変動周波数と同期するように、Z軸送り速度Vz及びY軸送り速度Vyをそれぞれ設定してZ軸及びY軸を空送りする(図6のステップS14、直動制御工程)。
【0079】
そして、回転速度補正量算出部130は、工作物主軸70の回転速度補正量を算出する(図6のステップS15)。送り速度補正量算出部160は、Z軸の送り速度補正量及びY軸の送り速度補正量をそれぞれ算出する(図6のステップS16、送り速度補正量算出工程)。そして、工作物主軸回転速度制御部110は、工作物主軸70の回転速度Swを次式(16)に示すように工作物主軸70の回転速度補正量で補正する(図6のステップS17)。Z軸送り速度制御部150及びY軸送り速度制御部140は、Z軸送り速度Vz及びY軸送り速度Vyを次式(17)及び次式(18)に示すようにZ軸の送り速度補正量及びY軸の送り速度補正量でそれぞれ補正する(図6のステップS18)。
【0080】
【数16】
【0081】
【数17】
【0082】
【数18】
【0083】
以上の処理により、歯切り工具42は、工作物Wに噛合しながら、工作物Wに連続的な歯車加工を行い、工作物Wに歯面形状を加工する(図6のステップS19)。そして、一の工作物Wの歯車加工が完了したか否かを判断し(図6のステップS20)、一の工作物Wの歯車加工が完了したら、次の工作物Wの歯車加工の有無を確認する(図6のステップS21)。そして、次の工作物Wの歯車加工が有るときは、ステップS19に戻って上述の処理を繰り返し、次の工作物Wの歯車加工が無いときは、全ての処理を終了する。また、第二実施形態では、AzをAy(=At)基準で補正したが、Az,Ay各々をAt基準で補正することもできる。
【0084】
<3.第三実施形態>
次に、図17を参照して、第三実施形態について説明する。第一、第二実施形態において、歯切り工具42がスカイビングカッタであり、歯車加工装置1は、スカイビング加工による歯車加工を行う場合について説明した。これに対し、第三実施形態では、歯切り工具242がホブカッタであり、歯車加工装置1が、ホブ加工による歯車加工を行う場合を説明する。なお、上記した第一実施形態と同一の部品には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0085】
歯車加工装置1は、歯切り工具242の回転軸線Oと工作物Wの回転軸線であるC軸とが交差するように、歯切り工具242及び工作物Wを配置する。なお、図17には、歯切り工具242の回転軸線Oと工作物Wの回転軸線であるC軸とが直交するように、歯切り工具242及び工作物Wが配置されている。そして、歯車加工装置1は、歯車加工時において、工作物W及び歯切り工具242をそれぞれ回転させながら、歯切り工具242を工作物Wの中心軸線であるZ軸方向へ送る(相対移動させる)ことにより、工作物Wに歯車を加工する。
【0086】
この歯車加工においても、第一の実施形態の効果に加え、加工される歯車の歯Gの歯すじGzのうねりをさらに抑制できるので、歯車加工において加工する歯車の加工精度を大幅に高めることができる。そして、工作物主軸70の回転速度Swを工具主軸40の回転速度Stと同期させて変動させているとともに、送り速度Vz+yを工具主軸40の回転速度Stと同期させて変動させている。これにより、歯切り工具42の切れ刃42aの実切込深さを一定にすることができ、歯切り工具42の長寿命化を図ることができる。
【0087】
<4.その他>
上記各実施形態では、工作物主軸70の回転速度Swを正弦波で変動させる場合について説明したが、図18に示すように、工作物主軸70の回転速度Swを三角波で変動させてもよい。同様に、工作物主軸70の回転速度Swを放物線が波状に変化するように変動させてもよい。
【0088】
また、上記各実施形態では、工作物主軸70の回転速度補正量を算出する構成としたが、工具主軸40の回転速度補正量を算出する構成としてもよい。また、工作物主軸70及び工具主軸40の両方の回転速度補正量を算出する構成としてもよい。この場合、工作物主軸70の回転速度補正量と工具主軸40の回転速度補正量を、50%対50%の比率で求め、あるいは、工作物Wに加工する歯車の歯数と歯切り工具42の刃数の比率で求める。
【0089】
また、上記各実施形態では、歯車加工装置1は、コラム20がX軸線方向へ移動可能な構成を説明したが、コラム20の代わりにテーブル50がX軸線方向へ移動可能に構成されてもよい。また、テーブル50がZ軸線方向へ移動可能な構成を説明したが、テーブル50の代わりにコラム20がZ軸線方向へ移動可能に構成されていてもよい。また、歯車加工装置1として横型のマシニングセンタについて説明したが、縦型のマシニングセンタにも本発明は適用可能である。また、工作機械全般に本発明を適用可能である。
【0090】
また、上記各実施形態では、回転2軸(工具主軸40、工作物主軸70)及び直動2軸(Z軸、Y軸)で加工可能なマシニングセンタにおいて各軸を補正する場合を説明したが、回転2軸(工具主軸40、工作物主軸70)及び直動1軸(例えばZ軸)や、回転2軸(工具主軸40、工作物主軸70)及び直動3軸(Z軸、Y軸、X軸)で加工可能なマシニングセンタにおいて各軸を補正する場合も適用可能である。そして、歯車加工のみならず、バリアブルレシオラックや歯のクラウニングの加工にも適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1:歯車加工装置、 40:工具主軸、 41:工具主軸用モータ、 42:歯切り工具、 70:工作物主軸、 71:工作物主軸用モータ、 100:制御装置、 110:工作物主軸回転速度制御部、 120:工具主軸回転速度制御部、 130:回転速度補正量算出部、 140:Y軸送り速度制御部、 150:Z軸送り速度制御部、 160:送り速度補正量算出部、 W:工作物
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