(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ステータの製造装置、および、ステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20230912BHJP
H02K 15/06 20060101ALI20230912BHJP
H02K 15/085 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
H02K15/12 Z
H02K15/06
H02K15/085
(21)【出願番号】P 2019189580
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 一央
(72)【発明者】
【氏名】狐塚 勝司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 慎平
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-154348(JP,A)
【文献】特開2018-093598(JP,A)
【文献】特開2015-061491(JP,A)
【文献】特開2019-103304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
H02K 15/06
H02K 15/085
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のステータ(1)の製造装置において、
複数のセグメントコイル(20)および発泡インシュレータ(30)が複数のスロット(11)に挿入されたステータコア(10)が設置される設置台(50)と、
前記ステータコアが有するティース(14)の径方向内側の端部(15)を、前記ステータコアを構成する複数の積層鋼板(12)同士の間に隙間が生じないように前記ステータコアの軸方向から支持する支持部材(60、610、620)と、
複数の前記セグメントコイルに通電することで前記セグメントコイルと共に前記発泡インシュレータを加熱し、前記発泡インシュレータを発泡させる通電加熱装置(80)と、を備え
、
前記支持部材は、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の一方から支持する第1支持部材(610)と、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持する第2支持部材(620)と、を有しており、
複数の前記セグメントコイルが前記ステータコアのうち軸方向の他方側の面から軸方向他方側へ突出した部位であるコイルエンド(24)の径方向内側の部位は、前記ステータコアから軸方向他方側へ向かい径方向内側へ傾斜しており、
前記第2支持部材は、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位(622)の外径を前記コイルエンドよりも径方向内側へ小さくした状態で、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位(622)を軸方向一方側へ移動して前記コイルエンドよりも径方向内側の領域に挿入した後、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位の外径が前記ステータコアの内径よりも大きくなるように前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位を径方向外側に広げて、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持することが可能に構成されたものである、ステータの製造装置。
【請求項2】
回転電機のステータ(1)の製造装置において、
複数のセグメントコイル(20)が複数のスロット(11)に挿入されたステータコア(10)が設置される設置台(50)と、
前記ステータコアが有するティース(14)の径方向内側の端部(15)を、前記ステータコアを構成する複数の積層鋼板同士の間に隙間が生じないように前記ステータコアの軸方向から支持する支持部材(60、610、620)と、
複数の前記スロットに含浸材を含浸させる含浸装置(100)と、
複数の前記セグメントコイルに通電することで前記セグメントコイルと共に前記含浸材を加熱し、前記含浸材を硬化させる通電加熱装置(80)と、を備え
、
前記支持部材は、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の一方から支持する第1支持部材(610)と、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持する第2支持部材(620)と、を有しており、
複数の前記セグメントコイルが前記ステータコアのうち軸方向の他方側の面から軸方向他方側へ突出した部位であるコイルエンド(24)の径方向内側の部位は、前記ステータコアから軸方向他方側へ向かい径方向内側へ傾斜しており、
前記第2支持部材は、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位(622)の外径を前記コイルエンドよりも径方向内側へ小さくした状態で、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位(622)を軸方向一方側へ移動して前記コイルエンドよりも径方向内側の領域に挿入した後、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位の外径が前記ステータコアの内径よりも大きくなるように前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位を径方向外側に広げて、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持することが可能に構成されたものである、ステータの製造装置。
【請求項3】
回転電機のステータ(1)の製造方法において、
複数のティース(14)および複数のスロット(11)を有し、複数の積層鋼板(12)により形成されるステータコア(10)を用意すること(S10)と、
複数の前記スロットに発泡インシュレータ(30)および複数のセグメントコイル(20)を挿入すること(S20、S30)と、
複数の前記セグメントコイルの端部同士を溶接により接合すること(S70)と、
前記ティースの径方向内側の端部(15)を、複数の前記積層鋼板同士の間に隙間が生じないように前記ステータコアの軸方向から支持部材(60、610、620)により支持すること(S81)と、
複数の前記セグメントコイルに通電することで前記セグメントコイルと共に前記発泡インシュレータを加熱し、前記発泡インシュレータを発泡させること(S84)と、を含
み、
前記ティースの径方向内側の端部を前記支持部材により支持することは、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の一方から第1支持部材(610)により支持し、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から第2支持部材(620)により支持することであり、
複数の前記セグメントコイルが前記ステータコアのうち軸方向の他方側の面から軸方向他方側へ突出した部位であるコイルエンド(24)の径方向内側の部位は、前記ステータコアから軸方向他方側へ向かい径方向内側へ傾斜しており、
前記第2支持部材は、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位(622)の外径を前記コイルエンドよりも径方向内側へ小さくした状態で、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位(622)を軸方向一方側へ移動して前記コイルエンドよりも径方向内側の領域に挿入した後、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位の外径が前記ステータコアの内径よりも大きくなるように前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位を径方向外側に広げて、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持する、ステータの製造方法。
【請求項4】
回転電機のステータ(1)の製造方法において、
複数のティース(14)および複数のスロット(11)を有し、複数の積層鋼板(12)により形成されるステータコア(10)を用意すること(S110)と、
複数の前記スロットに複数のセグメントコイル(20)を挿入すること(S130)と、
複数の前記セグメントコイルの端部同士を溶接により接合すること(S170)と、
前記ティースの径方向内側の端部(15)を、複数の前記積層鋼板同士の間に隙間が生じないように前記ステータコアの軸方向から支持部材(60、610、620)により支持すること(S180)と、
複数の前記スロットに含浸材を含浸させ、複数の前記セグメントコイルに通電することで前記セグメントコイルと共に前記含浸材を加熱して前記含浸材を硬化させること(S180)と、を含
み、
前記ティースの径方向内側の端部を前記支持部材により支持することは、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の一方から第1支持部材(610)により支持し、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から第2支持部材(620)により支持することであり、
複数の前記セグメントコイルが前記ステータコアのうち軸方向の他方側の面から軸方向他方側へ突出した部位であるコイルエンド(24)の径方向内側の部位は、前記ステータコアから軸方向他方側へ向かい径方向内側へ傾斜しており、
前記第2支持部材は、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位(622)の外径を前記コイルエンドよりも径方向内側へ小さくした状態で、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位(622)を軸方向一方側へ移動して前記コイルエンドよりも径方向内側の領域に挿入した後、前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位の外径が前記ステータコアの内径よりも大きくなるように前記第2支持部材のうち前記ティース側の部位を径方向外側に広げて、前記ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持する、ステータの製造方法。
【請求項5】
複数の前記セグメントコイルの端部同士が溶接により接合されたコイル接合部(22)が挿入される凹部(91)、および、前記ティースの径方向内側の端部(15)を支持する金型側支持部(93)を有する金型(90)を用意すること(S92)と、
前記金型の前記凹部に前記コイル接合部を挿入し、前記ティースの径方向内側の端部を複数の前記積層鋼板同士の間に隙間が生じないように前記金型側支持部により支持すること(S91)と、
前記金型の前記凹部に液状の熱硬化性樹脂を供給すること(S93)と、
前記金型の前記凹部に挿入された前記コイル接合部が液状の前記熱硬化性樹脂に浸漬した状態で複数の前記セグメントコイルに通電することで前記セグメントコイルと共に前記熱硬化性樹脂を加熱し、前記熱硬化性樹脂を硬化させること(S97)と、をさらに含む、請求項
3または4に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータの製造装置、および、ステータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の備えるステータとして、ステータコアの有する複数のスロットにセグメントコイルを配置したものが知られている。この種のステータとして、特許文献1に記載のものがある。
特許文献1に記載のステータは、ステータコアの軸方向の一方と他方にそれぞれ樹脂などの非磁性材料から形成されたカフサを備えている。カフサは、ステータコアの軸方向の端面とセグメントコイルとの隙間を埋めることで、ステータコアに対するコイルエンドの浮きを抑制するなどの機能を有している。なお、以下の説明では「ステータコアの軸方向」を単に「軸方向」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載のステータは、軸方向の一方と他方にそれぞれカフサを備えていることで、ステータの軸方向の体格が大型化するといった問題がある。そのため、このステータからカフサを廃止すれば、ステータの軸方向の体格を小型化することが可能である。
【0005】
しかし、ステータからカフサを廃止した場合、ステータの製造工程で次のような問題が生じることが発明者らの研究により見出された。すなわち、ステータの製造工程では、複数のセグメントコイルに通電することでセグメントコイルおよびその周囲の部材を加熱する直接通電加熱(以下、単に「通電加熱」という)が行われることがある。その場合、カフサを廃止したステータに対して通電加熱を行うと、ステータコアを構成する複数の積層鋼板同士が同極反発して軸方向に開くといった現象が生じる。この現象により、次のような問題が生じるおそれがある。
【0006】
例えば、複数のスロットに挿入した発泡インシュレータを通電加熱により発泡させる際、複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開くと、複数の積層鋼板同士の間に発泡インシュレータが入り込み、複数の積層鋼板同士に隙間が生じるおそれがある。或いは、複数のスロットにワニスなどの含浸材を含浸し通電加熱により硬化させる際、複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開くと、複数の積層鋼板同士の間に含浸材が入り込み、複数の積層鋼板同士に隙間が生じるおそれがある。そのようなステータを備えた回転電機は、回転駆動時に積層鋼板の振動によるノイズバイブレーション(以下、「NV」という)が発生することが懸念される。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、カフサを廃止したステータにおいて、通電加熱時に複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開くことを防ぐことの可能なステータの製造装置、および、ステータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、回転電機のステータ(1)の製造装置に関する発明である。この製造装置は、設置台(50)、支持部材(60、610、620)および通電加熱装置(80)を備える。設置台は、複数のセグメントコイル(20)および発泡インシュレータ(30)が複数のスロット(11)に挿入されたステータコア(10)が設置される。支持部材は、ステータコアが有するティース(14)の径方向内側の端部(15)を、ステータコアを構成する複数の積層鋼板(12)同士の間に隙間が生じないようにステータコアの軸方向から支持する。通電加熱装置は、複数のセグメントコイルに通電することでセグメントコイルと共に発泡インシュレータを加熱し、発泡インシュレータを発泡させる。
支持部材は、ティースの径方向内側の端部を軸方向の一方から支持する第1支持部材(610)と、ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持する第2支持部材(620)と、を有している。
複数のセグメントコイルがステータコアのうち軸方向の他方側の面から軸方向他方側へ突出した部位であるコイルエンド(24)の径方向内側の部位は、ステータコアから軸方向他方側へ向かい径方向内側へ傾斜している。
第2支持部材は、第2支持部材のうちティース側の部位(622)の外径をコイルエンドよりも径方向内側へ小さくした状態で、第2支持部材のうちティース側の部位(622)を軸方向一方側へ移動してコイルエンドよりも径方向内側の領域に挿入した後、第2支持部材のうちティース側の部位の外径がステータコアの内径よりも大きくなるように第2支持部材のうちティース側の部位を径方向外側に広げて、ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持することが可能に構成されたものである。
【0009】
これにより、ティースの径方向内側の端部を支持部材により支持した状態で通電加熱装置による通電加熱が行われるので、ステータコアを構成する複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板同士が開いた状態でその間に発泡インシュレータが入り込むことが防がれる。したがって、この製造装置により製造されたステータを備えた回転電機は、NVの発生を防ぐことが可能である。
【0010】
また、請求項2に係る発明も回転電機のステータ(1)の製造装置に関する発明である。この製造装置は、設置台(50)、支持部材(60、610、620)、含浸装置(100)、および通電加熱装置(80)を備える。設置台は、複数のセグメントコイル(20)が複数のスロット(11)に挿入されたステータコア(10)が設置される。支持部材は、ステータコアが有するティース(14)の径方向内側の端部(15)を、ステータコアを構成する複数の積層鋼板(12)同士の間に隙間が生じないようにステータコアの軸方向から支持する。含浸装置は、複数のスロットに含浸材を含浸させる。通電加熱装置は、複数のセグメントコイルに通電することでセグメントコイルと共に含浸材を加熱し、含浸材を硬化させる。
支持部材は、ティースの径方向内側の端部を軸方向の一方から支持する第1支持部材(610)と、ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持する第2支持部材(620)と、を有している。
複数のセグメントコイルがステータコアのうち軸方向の他方側の面から軸方向他方側へ突出した部位であるコイルエンド(24)の径方向内側の部位は、ステータコアから軸方向他方側へ向かい径方向内側へ傾斜している。
第2支持部材は、第2支持部材のうちティース側の部位(622)の外径をコイルエンドよりも径方向内側へ小さくした状態で、第2支持部材のうちティース側の部位(622)を軸方向一方側へ移動してコイルエンドよりも径方向内側の領域に挿入した後、第2支持部材のうちティース側の部位の外径がステータコアの内径よりも大きくなるように第2支持部材のうちティース側の部位を径方向外側に広げて、ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持することが可能に構成されたものである。
【0011】
これにより、ティースの径方向内側の端部を支持部材により支持した状態で通電加熱装置による通電加熱が行われるので、ステータコアを構成する複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板同士が開いた状態でその間に含浸材が入り込むことが防がれる。したがって、この製造装置により製造されたステータを備えた回転電機は、NVの発生を防ぐことが可能である。
【0014】
また、請求項3に係る発明は、回転電機のステータ(1)の製造方法に関する発明である。その製造方法は、次の工程を含んでいる。まず、複数のティース(14)および複数のスロット(11)を有し、複数の積層鋼板(12)により形成されるステータコア(10)を用意する(S10)。そして、複数のスロットに発泡インシュレータ(30)および複数のセグメントコイル(20)を挿入する(S20、S30)。その後、複数のセグメントコイルの端部同士を溶接により接合する(S70)。ティースの径方向内側の端部(15)を、複数の積層鋼板同士の間に隙間が生じないようにステータコアの軸方向から支持部材(60、610、620)により支持する(S81)。複数のセグメントコイルに通電することでセグメントコイルと共に発泡インシュレータを加熱し、発泡インシュレータを発泡させる(S84)。
ティースの径方向内側の端部を支持部材により支持することは、ティースの径方向内側の端部を軸方向の一方から第1支持部材(610)により支持し、ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から第2支持部材(620)により支持することである。
複数のセグメントコイルがステータコアのうち軸方向の他方側の面から軸方向他方側へ突出した部位であるコイルエンド(24)の径方向内側の部位は、ステータコアから軸方向他方側へ向かい径方向内側へ傾斜している。
第2支持部材は、第2支持部材のうちティース側の部位(622)の外径をコイルエンドよりも径方向内側へ小さくした状態で、第2支持部材のうちティース側の部位(622)を軸方向一方側へ移動してコイルエンドよりも径方向内側の領域に挿入した後、第2支持部材のうちティース側の部位の外径がステータコアの内径よりも大きくなるように第2支持部材のうちティース側の部位を径方向外側に広げて、ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持する。
【0015】
これにより、ティースの径方向内側の端部を支持部材により支持した状態で通電加熱を行うので、ステータコアを構成する複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板同士が開いた状態でその間に発泡インシュレータが入り込むことが防がれる。したがって、この製造方法により製造されたステータを備えた回転電機は、NVの発生を防ぐことが可能である。
【0016】
また、請求項4に係る発明も回転電機のステータの製造方法に関する発明である。その製造方法は、次の工程を含んでいる。まず、複数のティース(14)および複数のスロット(11)を有し、複数の積層鋼板(12)により形成されるステータコア(10)を用意する(S110)。そして、複数のスロットに複数のセグメントコイル(20)を挿入する(S130)。その後、複数のセグメントコイルの端部同士を溶接により接合する(S170)。そして、ティースの径方向内側の端部(15)を、複数の積層鋼板同士の間に隙間が生じないようにステータコアの軸方向から支持部材(60、610、620)により支持する(S180)。複数のスロットに含浸材を含浸させ、複数のセグメントコイルに通電することでセグメントコイルと共に含浸材を加熱して含浸材を硬化させる(S180)。
ティースの径方向内側の端部を支持部材により支持することは、ティースの径方向内側の端部を軸方向の一方から第1支持部材(610)により支持し、ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から第2支持部材(620)により支持することである。
複数のセグメントコイルがステータコアのうち軸方向の他方側の面から軸方向他方側へ突出した部位であるコイルエンド(24)の径方向内側の部位は、ステータコアから軸方向他方側へ向かい径方向内側へ傾斜している。
第2支持部材は、第2支持部材のうちティース側の部位(622)の外径をコイルエンドよりも径方向内側へ小さくした状態で、第2支持部材のうちティース側の部位(622)を軸方向一方側へ移動してコイルエンドよりも径方向内側の領域に挿入した後、第2支持部材のうちティース側の部位の外径がステータコアの内径よりも大きくなるように第2支持部材のうちティース側の部位を径方向外側に広げて、ティースの径方向内側の端部を軸方向の他方から支持する。
【0017】
これにより、ティースの径方向内側の端部を支持部材により支持した状態で通電加熱を行うので、ステータコアを構成する複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板同士が開いた状態でその間に含浸材が入り込むことが防がれる。したがって、この製造方法により製造されたステータを備えた回転電機は、NVの発生を防ぐことが可能である。
【0018】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係るステータの製造装置および製造方法により製造されたステータの中間製品の側面図である。
【
図2】第1実施形態に係るステータの製造装置および製造方法により製造されたステータの斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係るステータの製造装置および製造方法により製造されたステータの断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るステータの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】第1実施形態に係るステータの製造方法のうちインシュレータの加熱工程を説明するためのフローチャートである。
【
図6】第1実施形態に係るステータの製造方法のうち封止絶縁体の形成工程を説明するためのフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係るステータの製造工程において拡張成形後のセグメントコイルを示す断面図である。
【
図8】第1実施形態に係るステータの製造装置が備える設置台と支持部材を示す斜視図である。
【
図9】第1実施形態に係るステータの製造装置が備える設置台と支持部材を示す側面図である。
【
図14】第1実施形態に係るステータの製造装置が備える設置台と支持部材と加熱装置を示す断面図である。
【
図15】通電加熱により複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開く現象が生じる理由を説明するための説明図である。
【
図16】通電加熱により複数の積層鋼板同士の間が軸方向に開く現象が生じる理由を説明するための説明図である。
【
図18】第1実施形態に係るステータの製造方法のうち封止絶縁体の形成に用いられる金型と樹脂供給装置の斜視図である。
【
図19】第1実施形態に係るステータの製造方法のうち封止絶縁体の形成に用いられる金型と加熱装置を示す断面図である。
【
図21】第1実施形態に係るステータの製造方法で形成された封止絶縁体を示す断面図である。
【
図22】第2実施形態に係るステータの製造装置が備える設置台、第1支持部材および第2支持部材を示す斜視図である。
【
図23】第2実施形態に係るステータの製造装置が備える設置台、第1支持部材および第2支持部材を示す側面図である。
【
図27】第3実施形態に係るステータの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図28】第3実施形態に係るステータの製造装置が備える設置台、支持部材、加熱装置および含浸装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。なお、以下の説明において、上、下の用語は、重力方向と明記しない限り、説明のために便宜上用いるものであり、その部材などが設置される方向を意味するものではない。
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の製造装置は、回転電機のステータ1を製造するものである。この製造装置で製造されたステータ1の内側に、図示しないロータが回転可能に設置されることで回転電機が形成される。回転電機は、例えば、車両の走行駆動源としてのモータ、および、電力を発生させるジェネレータの少なくとも一方の機能を有するものとして用いることが可能である。また、本実施形態の製造方法は、その製造装置を用いてステータ1を製造する方法である。
【0022】
まず、本実施形態の製造装置および製造方法により製造されたステータ1について説明する。
図1および
図2はステータ1の中間製品を示し、
図3はステータ1の完成品を示している。
図1~
図3に示すように、ステータ1は、円環状のステータコア10の有する複数のスロット11の内側に、複数のセグメントコイル20および発泡インシュレータ30が挿入されて構成されている。
図1では、発泡インシュレータ30のうち、ステータコア10のスロット11から突出した部位のみが示されている。
ステータコア10は、環状のバックコア13から径方向内側に延びる複数のティース14と、その複数のティース14同士の間に形成される複数のスロット11を有している。ステータコア10は、磁性体から形成される複数の積層鋼板12が軸方向に積層されて構成されたものである。なお、積層鋼板12の厚みは例えば0.25mm程度と薄いため、ステータコア10の拡大図である
図15および
図17に示されている。
【0023】
複数のセグメントコイル20は、略U字形に形成され、ステータコア10の有するスロット11から突出した部位の端部同士が溶接などにより接合されている。それにより、複数のセグメントコイル20は、Y結線またはΔ結線などの三相交流回路を構成する。なお、以下の説明では、セグメントコイル20のうち、ステータコア10のスロット11から突出した部位を、コイル突出部21と称する。また、コイル突出部21の端部同士が溶接により接合された箇所を、コイル接合部22と称する。
【0024】
図3に示すように、複数のセグメントコイル20のコイル接合部22は、樹脂などにより形成された封止絶縁体40によって封止されている。封止絶縁体40は、熱硬化樹脂により形成されたものである。なお、本実施形態のステータ1は、上記特許文献1のステータが備えていたようなカフサを備えていない構成である。
【0025】
次に、本実施形態のステータ1の製造方法および製造装置について説明する。
図4は、ステータ1の製造方法の概略を説明するためのフローチャートである。
図4に示すように、ステップS10で、ステータコア10を用意する。上述したように、ステータコア10は、複数のティース14と複数のスロット11を有し、複数の積層鋼板12が軸方向に積層されて構成されたものである。
【0026】
次に、ステップS20で、ステータコア10のスロット11に発泡インシュレータ30を挿入する。発泡インシュレータ30は、加熱により発泡および硬化する硬化性発泡樹脂により形成されたものである。発泡インシュレータ30は、スロット11の内壁の内側に設けられる。
【0027】
続いて、ステップS30で、ステータコア10のスロット11に複数のセグメントコイル20を挿入する。このとき、ステータコア10のスロット11の内壁とセグメントコイル20との間に、発泡前の発泡インシュレータ30が介在した状態となる。また、ステータコア10の各スロット11には、ステータコア10の径方向に複数のセグメントコイル20が並ぶように配置される。
【0028】
次に、ステップS40で、複数のセグメントコイル20のコイル突出部21をそれぞれ径方向に拡げるように成形する。これにより、
図7に示すように、複数のセグメントコイル20のコイル突出部21同士の間に、所定の隙間が形成される。
【0029】
続いて、ステップS50で、複数のセグメントコイル20により構成される三相交流回路から引き出される引出線が所定の位置および所定の形状となるように成形する。この引出線は、複数のコイル突出部21のうち予め定められたコイル突出部21により形成される。引出線となるコイル突出部21は、三相交流回路に電力を供給するための図示しない動力線の端部が配置される位置に配置される。
【0030】
次に、ステップS60で、複数のコイル突出部21を周方向に倒すように成形する。これにより、所定のコイル突出部21の先端の導体露出部と、別のコイル突出部21の先端の導体露出部とがステータコア10の径方向に隣接または当接した状態となる。
【0031】
続いて、ステップS70で、所定のコイル突出21の先端の導体露出部と、別のコイル突出21の先端の導体露出部とを溶接により接合する。これにより、複数のセグメントコイル20は、上述した三相交流回路を構成する。
【0032】
次に、ステップS80で、発泡インシュレータ30の加熱工程(以下、単に「加熱工程」という)を行う。この加熱工程は、誘導加熱および通電加熱により行われる。なお、誘導加熱は、IH(induction heatingの略)と呼ばれることがあり、通電加熱はDH(Direct Resistance Heatingの略)と呼ばれることがある。
【0033】
ステップS80の加熱工程について、
図5のフローチャートなどを参照して詳細に説明する。
図5に示すように、加熱工程では、まずステップS81で、上述のステップS10~S70の工程を終えた中間製品を、加熱工程を行うための製造装置に投入する。
図8~
図13に示すように、加熱工程を行うための製造装置は、設置台50および支持部材60などを備えている。
設置台50は、ステータコア10が設置される台である。設置台50は、円環状に形成されている。設置台50には、ステータコア10の径方向外側の部位が設置される。具体的には、
図11および
図12に示すように、設置台50には、ステータコア10の径方向外側の部位のうち軸方向下側の面が載置される。
【0034】
支持部材60は、円環状の台座61と、その台座61の内縁部から軸方向に延びる筒部62とを有している。
図12および
図13に示すように、支持部材60が有する筒部62は、ステータコア10が有するティース14の径方向内側の端部15(以下、「ティース端部15」という)を、ステータコア10の軸方向から支持している。具体的には、支持部材60が有する筒部62の上端面63と、ティース端部15のうち重力方向下側の面151とが当接している。これにより、支持部材60は、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間に隙間が生じないように、ティース端部15をステータコア10の軸方向から支持することが可能である。
【0035】
続いて、
図5に示すステップS82~ステップS87の工程を、
図14を参照しつつ説明する。ステップS82で、IHコイル70を、ステータコア10の径方向外側と径方向内側に配置する。具体的には、IHコイル70を上方からステータ1の位置に下降させる。IHコイル70は、電磁誘導により発泡インシュレータ30を加熱し、発泡インシュレータ30を発泡させるための装置である。
【0036】
次に、ステップS83で、複数のセグメントコイル20により構成される三相交流回路から引き出される引出線23を、通電加熱装置80から延びる端子81によりクランプする。通電加熱装置80は、複数のセグメントコイル20に通電することでセグメントコイル20と共に発泡インシュレータ30を加熱し、スロット11内で発泡インシュレータ30を発泡させるための装置である。
【0037】
続いて、ステップS84で、誘導加熱および通電加熱を実行する。誘導加熱では、IHコイル70に通電する。これにより、電磁誘導により発泡インシュレータ30が加熱され、発泡インシュレータ30が発泡する。また、通電加熱では、通電加熱装置80から複数のセグメントコイル20に通電する。これにより、セグメントコイル20と共に発泡インシュレータ30が加熱され、発泡インシュレータ30が発泡する。そのため、発泡インシュレータ30によってスロット11の内側の空間が埋められることで、スロット11内でセグメントコイル20が固定される。
【0038】
なお、本実施形態では、加熱工程において、誘導加熱および通電加熱を同時に行うことで、発泡インシュレータ30の温度上昇にかかる時間を短くし、作業時間を短くすることが可能である。なお、加熱工程は、誘導加熱または通電加熱の一方のみで行うことも可能である。
【0039】
ここで、上述したように、本実施形態のステータ1は、カフサが設けられていない。そのため、仮に、ティース端部15が支持部材60によって支持されていない場合、通電加熱の際に、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くといった現象が生じることがある。
【0040】
その現象が生じる理由について、
図15~
図17を参照して説明する。
図15および
図16は、通電加熱が行われるステータ1において、ステータコア10の軸に垂直な断面の一部を示している。また、
図17は、
図15のXVII部分の拡大図である。
図15において、所定のスロット11に挿入されたセグメントコイル20の断面に記された×記号は、通電加熱時に電流がセグメントコイル20を紙面上側から下側へ流れることを示している。また、
図16において、×記号は、通電加熱時に電流がセグメントコイル20を紙面手前から奥側へ流れることを示している。これにより、通電加熱時には、
図16の矢印Hの向きに磁界が発生する。そのため、×記号を付したセグメントコイル20に対し周方向一方の側のティース端部15がN極となり、周方向他方の側のティース端部15がS極となる。したがって、
図17に示したように、ティース端部15において、積層鋼板12の1枚1枚が同極となり、同極同士の反発により複数の積層鋼板12同士の間に隙間が生じる現象が生じることとなる。
【0041】
そのような現象が生じることを防ぐため、本実施形態では、通電加熱の際に、ティース端部15をステータコア10の軸方向から支持部材60によって支持している。これにより、通電加熱時に、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板12同士が開いた状態でその間に発泡インシュレータ30が入り込むことを防ぐことが可能である。
【0042】
次に、
図5に示すステップS84の誘導加熱および通電加熱の工程が終了すると、ステップS85で、引出線23から、通電加熱装置80から延びる端子81をアンクランプする。
続いて、ステップS86で、ステータコア10からIHコイル70を取り外す。具体的には、IHコイル70をステータ1の位置から上昇させる。
そして、ステップS87で、加熱工程を行うための製造装置からステータ1の中間製品を排出する。これにより、
図4に示すステップS80の加熱工程が終了し、次のステップS90の工程へ進む。
【0043】
次に、
図4に示すステップS90で、複数のセグメントコイル20のコイル接合部22を封止絶縁体40により封止する工程(以下、単に「封止絶縁体形成工程」という)を行う。この封止絶縁体形成工程も、誘導加熱および通電加熱により行われる。
【0044】
ステップS90の封止絶縁体形成工程について、
図6のフローチャートなどを参照して詳細に説明する。
図6に示すように、封止絶縁体形成工程では、まずステップS91で、上述のステップS10~S80の工程を終えたステータ1の中間製品を、封止絶縁体形成工程を行うための製造装置に投入する。
【0045】
次に、ステップS92で、封止絶縁体形成工程を行うための製造装置に対し、金型90を投入する。
図18に示すように、金型90は、略円盤状に形成され、その一部に円環状の凹部91を有している。金型90の凹部91は、複数のセグメントコイル20のコイル接合部22が挿入可能な形状、大きさとされている。また、金型90の上面は、ステータ1コイルを載置することの可能な形状、大きさとされている。金型90の上面のうち、凹部91より径方向外側の部位を外側上面92と称し、凹部91より径方向内側の部位を内側上面93と称する。
【0046】
続いて、ステップS93で、金型90の凹部91に対し、封止絶縁体40を形成するための材料となる液状の熱硬化樹脂を注入する。
図18の矢印Rに示すように、液状の熱硬化樹脂は、樹脂供給装置95から金型90の凹部91に供給される。
【0047】
次に、ステップS94で、金型90の凹部91に供給された液状の熱硬化樹脂に対し、複数のセグメントコイル20のコイル接合部22を浸漬させる。このとき、
図19および
図20に示すように、ステータコア10は、金型90の上面に載置される。その際、ステータコア10のうち径方向外側の部位は、金型90の外側上面92により支持される。また、ティース端部15は、金型90の内側上面93により支持される。具体的には、ティース端部15のうち重力方向下側の面151と、金型90の内側上面93とが当接する。これにより、金型90の内側上面93は、ティース端部15をステータコア10の軸方向下側から支持することが可能である。すなわち、金型90の内側上面93は、ティース端部15を、複数の積層鋼板12同士の間に隙間が生じないように支持する「金型側支持部」として機能する。
【0048】
続いて、ステップS95で、金型側IHコイル75を金型90に配置する。金型側IHコイル75は、電磁誘導により熱硬化性樹脂を加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させるための装置である。
【0049】
次に、ステップS96で、複数のセグメントコイル20により構成される三相交流回路から引き出される引出線23を、金型側通電加熱装置85から延びる端子86によりクランプする。金型側通電加熱装置85は、複数のセグメントコイル20に通電することでセグメントコイル20と共に熱硬化性樹脂を加熱し、熱硬化性樹脂を硬化させるための装置である。
【0050】
続いて、ステップS97で、誘導加熱および通電加熱を実行する。誘導加熱では、金型側IHコイル75に通電する。これにより、電磁誘導により熱硬化性樹脂が加熱され、熱硬化性樹脂が硬化する。また、通電加熱では、金型側通電加熱装置85から複数のセグメントコイル20に通電する。これにより、セグメントコイル20と共に熱硬化性樹脂が加熱され、熱硬化性樹脂が硬化する。そのため、金型90の凹部91に配置された複数のセグメントコイル20のコイル接合部22とその近傍は、熱硬化性樹脂が硬化した封止絶縁体40によって封止される。
【0051】
なお、本実施形態では、封止絶縁体形成工程において、誘導加熱および通電加熱を同時に行うことで、熱硬化性樹脂の硬化にかかる時間を短くし、作業時間を短くすることが可能である。なお、封止絶縁体形成工程は、誘導加熱または通電加熱の一方のみで行うことも可能である。
【0052】
ここで、仮に、ティース端部15が金型90の内側上面93(すなわち、金型側支持部)によって支持されていない場合、通電加熱の際に、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間が同極反発により軸方向に開くといった現象が生じることがある。
これに対し、本実施形態では、通電加熱の際に、ティース端部15を、金型90の内側上面93(すなわち、金型側支持部)によって支持している。これにより、通電加熱時に、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、前工程で発泡した発泡インシュレータ30の一部が積層鋼板12の変形によって脱落することを防ぐことが可能である。
【0053】
次に、ステップS97の誘導加熱および通電加熱の工程が終了すると、ステップS98で、複数のセグメントコイル20により構成される三相交流回路から引き出される引出線23から、金型側通電加熱装置85から延びる端子86をアンクランプする。
続いて、ステップS99で、金型90から金型側IHコイル75を取り外す。
そして、ステップS100で、金型90からステータ1を取り出す。これにより、
図21に示すように、ステータ1は、複数のセグメントコイル20のコイル接合部22が封止絶縁体40によって封止された状態となる。
次に、ステップS101で、封止絶縁体形成工程を行うための製造装置から金型90を排出する。
続いて、ステップS102で、封止絶縁体形成工程を行うための製造装置から完成したステータ1を排出する。
【0054】
以上説明した本実施形態のステータ1の製造装置および製造方法は、次の作用効果を奏するものである。
(1)本実施形態のステータ1の製造装置は、ティース端部15をステータコア10の軸方向から支持部材60により支持した状態で、発泡インシュレータ30を通電加熱により発泡させる構成である。
これにより、通電加熱を行う際、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板12同士が開いた状態でその間に発泡インシュレータ30が入り込むことが防がれる。したがって、この製造装置により製造されたステータ1を備えた回転電機は、NVの発生を防ぐことが可能である。
【0055】
(2)本実施形態のステータ1の製造装置が備える支持部材60は、ティース端部15を重力方向下側から支持する構成である。
これによれば、ステータ1を構成する複数の積層鋼板12のうち重力方向下側に配置されるものは、通電加熱時の磁場の影響に加えて自重が作用するためより変形しやすい。そのため、ティース端部15を重力方向下側から支持部材60により支持することで、通電加熱時に複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことを防ぐことができる。
【0056】
(3)本実施形態のステータ1の製造装置は、熱硬化性樹脂により封止絶縁体40を形成するための金型90を備えている。この金型90は、ティース端部15を支持する金型側支持部を有している。
これにより、通電加熱により封止絶縁体を形成する工程で、複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、前工程で発泡した発泡インシュレータ30の一部が積層鋼板12の変形によって脱落することが防がれる。したがって、この製造装置により製造されたステータ1を備えた回転電機に対し、発泡インシュレータ30の一部が異物となって混入することを防ぐことができる。
【0057】
(4)本実施形態のステータ1の製造方法は、ティース端部15をステータコア10の軸方向から支持部材60により支持した状態で、発泡インシュレータ30を通電加熱により発泡させる工程を含んでいる。
これにより、通電加熱時に、複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板12同士が開いた状態でその間に発泡インシュレータ30が入り込むことが防がれる。したがって、この製造方法により製造されたステータ1を備えた回転電機は、NVの発生を防ぐことが可能である。
【0058】
(5)本実施形態のステータ1の製造方法は、ティース端部15を金型側支持部により支持した状態で、封止絶縁体40を通電加熱により形成する工程を含んでいる。
これにより、封止絶縁体40を形成するための通電加熱時に、複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、前工程で発泡した発泡インシュレータ30の一部が積層鋼板12の変形によって脱落することが防がれる。したがって、この製造方法により製造されたステータ1を備えた回転電機に対し、発泡インシュレータ30の一部が異物となって混入することを防ぐことができる。
【0059】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して、発泡インシュレータ30の加熱工程を行う製造装置の一部を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0060】
図22~
図26は、ステータ1の製造工程のうち、発泡インシュレータ30の加熱工程を行う製造装置を示したものである。この製造装置が備える支持部材は、第1支持部材610と第2支持部材620を有している。
【0061】
第1支持部材610は、円環状の第1台座611と、その第1台座611の内縁部から軸方向上方に延びる第1筒部612とを有している。第1支持部材610が有する第1筒部612は、ティース端部15を軸方向の一方から支持する構成である。具体的には、第1支持部材610が有する第1筒部612の上端面613と、ティース端部15のうち重力方向下側の面151とが当接している。これにより、第1支持部材610は、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間に隙間が生じないように、ティース端部15をステータコア10の軸方向の一方から支持することが可能である。
【0062】
一方、第2支持部材620は、円環状の第2台座621と、その第2台座621の内縁部から軸方向下方に延びる第2筒部622とを有している。第2支持部材620は、ティース端部15を軸方向の他方から支持する構成である。具体的には、第2支持部材620が有する第2筒部622の下端面623と、ティース端部15のうち重力方向上側の面152とが当接している。これにより、第2支持部材620は、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間に隙間が生じないように、ティース端部15をステータコア10の軸方向の他方から支持することが可能である。
【0063】
なお、
図25および
図26に示すように、本実施形態では、ステータコア10より上側のコイルエンド24のうち内径側の部位は、ステータコア10の内周面よりも径方向内側へ張り出している。そのため、第2支持部材620の有する第2筒部622の径方向外側の外壁面624は、第2台座621側からステータコア10側に向かい径方向外側に傾斜する形状とされている。また、
図25の矢印Mに示すように、第2支持部材620の有する第2筒部622は、その外径が径方向に広げられるように構成されている。そして、この第2支持部材620が有する第2筒部622の下端面623と、ティース端部15のうち重力方向上側の面152とを当接させるときには、次のような工程が行われる。
【0064】
まず、第2支持部材620の有する第2筒部622の外径を、コイルエンド24の径方向内側に挿入可能な大きさとなるように小さくした状態とする。そして、その状態で第2筒部622をコイルエンド24の内側に挿入する。次に、第2筒部622の外径を、ステータコア10の内径より僅かに大きくなるように広げる。そして、第2筒部622の下端面623と、ティース端部15のうち重力方向上側の面152とを当接させる。これにより、第2支持部材620は、ティース端部15を上側から支持することが可能である。
【0065】
図22~
図26に示した状態で、発泡インシュレータ30の加熱工程が実行される。加熱工程では、誘導加熱および通電加熱が同時に行われる。なお、加熱工程は、誘導加熱または通電加熱の一方のみで行うことも可能である。この加熱工程は、第1実施形態で説明したものと同一であるので、説明を省略する。
【0066】
以上説明した第2実施形態のステータ1の製造装置および製造方法は、次の作用効果を奏する。
(1)第2実施形態のステータ1の製造装置は、ティース端部15を軸方向の一方から第1支持部材610によって支持し、ティース端部15を軸方向の他方から第2支持部材620によって支持する構成である。そして、この製造装置は、第1支持部材610と第2支持部材620によってティース端部15を軸方向の両側から支持した状態で、発泡インシュレータ30を通電加熱により発泡させる構成である。
これにより、通電加熱を行う際、ティース端部15の軸方向の一方から他方に亘り、全ての複数の積層鋼板12の変形を防ぐことが可能である。そのため、第2実施形態のステータ1の製造装置は、複数の積層鋼板12同士が開いた状態でその間に発泡インシュレータ30が入り込むことを確実に防ぐことが可能である。
【0067】
(2)第2実施形態のステータ1の製造方法は、第1支持部材610と第2支持部材620によりティース端部15を軸方向の両側から支持した状態で、発泡インシュレータ30を通電加熱により発泡させる工程を含んでいる。
これにより、通電加熱を行う際、ティース端部15の軸方向の一方から他方に亘り、全ての複数の積層鋼板12の変形を防ぐことが可能である。そのため、第2実施形態のステータ1の製造方法は、複数の積層鋼板12同士が開いた状態でその間に発泡インシュレータ30が入り込むことを確実に防ぐことが可能である。
【0068】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。第3実施形態は、第1実施形態に対して、スロット11の内側にセグメントコイル20を固定する方法を変更したものであり、その他については第1実施形態等と同様であるため、第1実施形態等と異なる部分についてのみ説明する。
【0069】
図27は、第3実施形態のステータ1の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図27に示すように、第3実施形態のステータ1の製造方法は、ステップS110でステータコア10を用意した後、ステップS120でステータコア10のスロット11にインシュレータを挿入する。第3実施形態では、インシュレータとして、例えば、絶縁紙などが用いられる。なお、第3実施形態では、ステップS120の工程は省略することも可能である。
【0070】
続くステップS130~ステップS170の工程は、第1実施形態で説明したステップS30~ステップS70の工程と同一であるので、説明を省略する。
【0071】
ステップS170に続くステップS180で、ステータコア10のスロット11に含浸材を含浸させ、誘導加熱および通電加熱により含浸材を硬化させる工程を行う。なお、含浸材として、例えばワニスなどが用いられる。
【0072】
図28に示すように、この工程を行うための製造装置は、設置台50、支持部材60、IHコイル70、通電加熱装置80および含浸装置100などを備えている。設置台50、支持部材60、IHコイル70および通電加熱装置80は、第1実施形態において発泡インシュレータ30の加熱工程を行うための製造装置で説明したものと同様であるので、説明を省略する。これに対し、含浸装置100は、ステータコア10の有する複数のスロット11に対し液状の含浸材を含浸させるための装置である。なお、含浸装置100は、
図28に示したようにステータコア10のスロット11に対し軸方向から含浸材を含侵させる構成に限らない。例えば、含浸装置100は、ステータコア10のスロット11に対し内周側から液状の含浸材を含侵させる構成としてもよく、或いは、液状の含浸材を貯めた容器にステータコア10を浸漬させる構成としてもよい。
【0073】
ステータコア10のスロット11に含浸材を含浸させ、誘導加熱および通電加熱を行うことで、含浸材が加熱され、スロット11内で硬化する。これにより、スロット11の内側でセグメントコイル20が含浸材によって固定される。なお、本実施形態では、加熱工程において、誘導加熱および通電加熱を同時に行うことで、含浸材の硬化にかかる時間を短くし、作業時間を短くすることが可能である。なお、加熱工程は、誘導加熱または通電加熱の一方のみで行うことも可能である。
【0074】
第3実施形態では、含浸材の通電加熱を行う際、ティース14の径方向内側の端部15を支持部材60によって支持している。これにより、通電加熱時に、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板12同士が開いた状態でその間に含浸材が入り込むことを防ぐことが可能である。
【0075】
次に、
図27に示したステップS190で、コイルセグメントのうちコイル接合部22を封止絶縁体40により封止する封止絶縁体形成工程が行われる。この工程は、第1実施形態で説明したステップS90の工程と同一であるので、説明を省略する。
【0076】
以上説明した第3実施形態のステータ1の製造装置および製造方法は、次の作用効果を奏するものである。
(1)第3実施形態のステータ1の製造装置は、ティース端部15をステータコア10の軸方向から支持部材60により支持した状態で、スロット11内の含浸材を通電加熱により硬化させる構成である。
これにより、通電加熱を行う際、ステータコア10を構成する複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板12同士が開いた状態でその間に含浸材が入り込み硬化することが防がれる。したがって、この製造装置により製造されたステータ1を備えた回転電機は、NVの発生を防ぐことが可能である。
【0077】
(2)第3実施形態のステータ1の製造方法は、ティース端部15をステータコア10の軸方向から支持部材60により支持した状態で、スロット11内に含浸した含浸材を通電加熱により硬化させる工程を含んでいる。
これにより、通電加熱時に、複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことが防がれる。そのため、複数の積層鋼板12同士が開いた状態でその間に含浸材が入り込み硬化することが防がれる。したがって、この製造方法により製造されたステータ1を備えた回転電機は、NVの発生を防ぐことが可能である。
【0078】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0079】
(1)上記各実施形態では、ステップS80またはS180の加熱工程に使用される製造装置においてティース端部15を支持部材60で支持する構成としたが、これに限らない。例えば、ステップS20~S70またはS120~S170の各工程で使用される製造装置においても、ティース端部15を支持部材60で支持する構成とすることが可能である。その場合、支持部材60は、ステータコア10のスロット11に発泡インシュレータ30およびセグメントコイル20が挿入される方向の下流側でティース端部15を支持する構成とされる。
これにより、ステータコア10のスロット11に発泡インシュレータ30を挿入する際に、発泡インシュレータ30とスロット11の内壁面との摩擦力により複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことを防ぐことが可能である。また、ステータコア10のスロット11にセグメントコイル20を挿入する際にも、セグメントコイル20と発泡インシュレータ30とスロット11の内壁面との摩擦力により複数の積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことを防ぐことが可能である。また、ステータ1を構成する複数の積層鋼板12が自重によって重力方向下側に変形することを防ぐこともできる。
【0080】
(2)上記第2実施形態では、加熱工程に使用される製造装置においてティース端部15を第1支持部材610と第2支持部材620で支持する構成としたが、これに限らない。
例えば、コイル接合部22を封止絶縁体40により封止する工程で使用される製造装置においても、ティース端部15のうち金型90とは反対側の面152を第2支持部材620で支持する構成としてもよい。これにより、通電加熱により熱硬化性樹脂を硬化させる際に積層鋼板12同士の間が軸方向に開くことを防ぐことができる。
【0081】
(3)上記第3実施形態では、含浸材の加熱硬化で使用される製造装置は、第1実施形態と同様に、ティース端部15を軸方向の一方から支持部材60によって支持する構成としたが、これに限らない。例えば、その製造装置は、第2実施形態と同様に、ティース端部15を軸方向の両側から第1支持部材610と第2支持部材620によって支持する構成としてもよい。
【0082】
(4)上記各実施形態では、ステータ1の製造工程において、ステータ1は、その軸が重力方向と一致するように配置されるものとして説明したが、これに限らない。
例えば、ステータ1の製造工程において、ステータ1は、その軸が重力方向に対して横向きとなるように配置されてもよい。その場合、第1実施形態で説明した支持部材60は、ティース端部15をステータコア10の軸方向の一方から支持する構成とされる。また、第2実施形態で説明した第1支持部材610と第2支持部材620は、ステータコア10の軸方向の一方と他方からステータコア10を支持する構成とされる。
【符号の説明】
【0083】
1 ステータ
10 ステータコア
11 スロット
12 積層鋼板
15 端部
20 セグメントコイル
30 発泡インシュレータ
50 設置台
60、610、620 支持部材
80 通電加熱装置