(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】血圧計、血圧算出方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
A61B5/022 400M
A61B5/022 300F
A61B5/022 ZDM
(21)【出願番号】P 2019201632
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 新吾
(72)【発明者】
【氏名】江副 美佳
【審査官】田辺 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118982(JP,A)
【文献】特開2014-64666(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168797(WO,A1)
【文献】特表2002-541894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血圧測定用カフによって被験者の被測定部位としての手首を一時的に圧迫して、オシロメトリック法によ
るアルゴリズムを使用して血圧算出を行う血圧計であって、
予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードを有し、
上記血圧測定用カフに一体に設けられた加速度センサを含み、上記加速度センサの出力に基づいて、上記血圧測定用カフが装着された上記手首の回転姿勢を検出する回転姿勢検出部と、
上記アルゴリズムとして、上記手首の回転姿勢に応じてそれぞれ血圧測定誤差を抑えるように規定された複数の候補となるアルゴリズムを、予め記憶している候補アルゴリズム記憶部と、
上記夜間血圧測定モードで、上記複数の候補となるアルゴリズムのうち、上記検出された上記手首の回転姿勢に応じた上記血圧測定誤差を抑えるようにアルゴリズムを選択して設定するアルゴリズム切替部と、
上記夜間血圧測定モードで、上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるとき、上記血圧測定用カフの圧力に基づいて、現在設定されているアルゴリズムを使用して血圧値を算出する血圧算出部と
を備えたことを特徴とする血圧計。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧計において、
上記オシロメトリック法によるアルゴリズムは、上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるとき、上記血圧測定用カフの圧力から得られた脈波振幅の列に対して包絡線を設定するとともに、上記包絡線の最大値に対してそれぞれ予め定められた割合の収縮期用のスレッシュレベルと拡張期用のスレッシュレベルとを設定し、上記包絡線が上記収縮期用のスレッシュレベル、上記拡張期用のスレッシュレベルを横切った時点の上記血圧測定用カフの圧力を、それぞれ収縮期血圧、拡張期血圧として算出するアルゴリズムであり、
上記複数の候補となるアルゴリズムでは、上記スレッシュレベルが、上記手首の回転姿勢に応じて互いに異なる値に規定されている
ことを特徴とする血圧計。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の血圧計において、
上記手首の回転姿勢は、上記手首の掌側面が、体幹に面する横向きになった角度範囲と、上向きになった角度範囲と、下向きになった角度範囲との、上記手首の長手方向の周りの3つの角度範囲に区分され、
上記候補アルゴリズム記憶部は、上記3つの角度範囲に応じて、それぞれ候補となるアルゴリズムを記憶している
ことを特徴とする血圧計。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の血圧計において、
上記手首の回転姿勢は、上記手首の長手方向の周りの4つ以上の角度範囲に区分され、
上記候補アルゴリズム記憶部は、上記4つ以上の角度範囲に応じて、それぞれ候補となるアルゴリズムを記憶している
ことを特徴とする血圧計。
【請求項5】
請求項1
から4までのいずれか1つに記載の血圧計において、
上記血圧測定用カフと一体に設けられた本体を、さらに備え、
上記本体は、上記加速度センサを含む上記回転姿勢検出部と、
上記候補アルゴリズム記憶部と、上記血圧測定用カフの圧力を制御する圧力制御部と、上記
アルゴリズム切替部と、上記血圧算出部とを搭載している
ことを特徴とする血圧計。
【請求項6】
血圧測定用カフによって被験者の被測定部位としての手首を一時的に圧迫して、オシロメトリック法によ
るアルゴリズムを使用して血圧算出を行う血圧計のための血圧算出方法であって、
上記血圧計は、
予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードを有し、
上記血圧測定用カフに一体に設けられた加速度センサ
と、
上記アルゴリズムとして、上記手首の回転姿勢に応じてそれぞれ血圧測定誤差を抑えるように規定された複数の候補となるアルゴリズムを、予め記憶している候補アルゴリズム記憶部と
を含み、
上記血圧算出方法は、
上記血圧計が上記夜間血圧測定モードにある場合に、
上記加速度センサの出力に基づいて、上記血圧測定用カフが装着された上記手首の回転姿勢を検出し、
上記複数の候補となるアルゴリズムのうち、上記検出された上記手首の回転姿勢に応じた上記血圧測定誤差を抑えるようにアルゴリズムを選択して設定し、
上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるとき、上記血圧測定用カフの圧力に基づいて、
現在設定されているアルゴリズムを使用して血圧値を算出する
ことを特徴とする血圧算出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の血圧算出方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧計に関し、より詳しくは、夜間(睡眠時)血圧測定モードを有する血圧計に関する。また、この発明は、そのような血圧計によって血圧を算出する血圧算出方法に関する。また、この発明は、そのような血圧算出方法をコンピュータに実行させるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、夜間血圧を測定する血圧計として、例えば特許文献1(特開2018-075447号公報)には、被測定部位としての腕(上腕)に一体に装着される血圧計であって、被験者の姿勢を、床面上に寝ている被験者を身長方向に沿って見た方向視での上記床面に対する体幹の角度と、上記体幹の角度に応じた腕の位置とによって特定し、その特定された姿勢に応じて、算出された上記被験者の血圧値を補正するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、夜間血圧を測定する場合、特許文献1の血圧計のように上腕を圧迫するタイプでは、手首を圧迫するタイプに比して、被験者の睡眠を妨げる程度が大きいことが報告されている(Imai et al., “Development and evaluation of a home nocturnal blood pressure monitoring system using a wrist-cuff device”, Blood Pressure Monitoring 2018, 23,P318-326)。このため、夜間血圧を手首式血圧計(被測定部位としての手首を圧迫して、血圧を測定する血圧計)によって測定したいとのニーズがある。
【0005】
ここで、
図4(B)に示すように被験者80が床面99上で仰臥位にある場合、手首(この例では、左手首)90は、手首90の長手方向の周りに回転の自由度を有し、大別して、
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)に示すように、掌側面(手の平側の面)90aが横向き(体幹に面する向き)、上向き、下向きになった3つの姿勢(以下、「手首の回転姿勢」と呼ぶ。)をとり得る。本発明者が解析したところ、これらの手首90の回転姿勢に応じて、
図14に例示するように、オシロメトリック法によりカフ圧から得られた脈波振幅の列(図示せず)に対する包絡線ENV-h,ENV-u,ENV-dが、互いに横軸(カフ圧)方向にずれたものとなる(
図14の例では、各包絡線ENV-h,ENV-u,ENV-dの最大振幅値は1に正規化されている。)。このため、単に公知のアルゴリズムによって血圧算出を行った場合(すなわち、
図14中に示すように、包絡線ENV-h,ENV-u,ENV-dが或るスレッシュレベルTHSを横切った時点のカフ圧を血圧値SBP-h,SBP-u,SBP-dとして算出した場合)、例えば
図13(A)の箱ひげ図に示すように、手首90の回転姿勢に応じて血圧測定誤差が生ずる。詳しくは、この例では、この血圧測定誤差は、仰臥位にある被験者80の上腕を被測定部位として聴診により測定された血圧値に対する誤差として定義されている。
図13(A)では、手首の回転姿勢が横向き(体幹に面する向き)、上向き、下向きの場合のSBP(Systolic Blood Pressure;収縮期血圧)、DBP(Diastolic Blood Pressure;拡張期血圧)についての血圧測定誤差(40名×3回分のデータ)が、それぞれ斜線が施された箱、白抜きの箱、縦線が施された箱と、各箱から上下に延びる「ひげ」とによって表されている。
図13(A)では、
図13(B)で説明するように、各箱の上辺が測定誤差ゼロのレベルに揃えられており、各箱の下辺が誤差平均(血圧測定誤差の平均値)を表している。各箱から上下に延びる「ひげ」は、誤差平均からの誤差の標準偏差(SD;Standard Deviation)を表している。
図13(A)から分かるように、手首の回転姿勢に応じて、互いに異なる血圧測定誤差が生じている(この事実は、本発明者により発見された。)。特許文献1では、手首の回転姿勢に応じて生ずる血圧測定誤差については、何ら考慮されていない。
【0006】
そこで、この発明の課題は、夜間血圧測定モードで、被測定部位としての手首の回転姿勢に応じて、血圧を精度良く算出できる血圧計を提供することにある。また、この発明の課題は、そのような血圧計によって、被測定部位としての手首の回転姿勢に応じて、血圧を精度良く算出できる血圧算出方法を提供することにある。また、この発明の課題は、そのような血圧算出方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この開示の血圧計は、
血圧測定用カフによって被験者の被測定部位としての手首を一時的に圧迫して、オシロメトリック法によるアルゴリズムを使用して血圧算出を行う血圧計であって、
予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードを有し、
上記血圧測定用カフに一体に設けられた加速度センサを含み、上記加速度センサの出力に基づいて、上記血圧測定用カフが装着された上記手首の回転姿勢を検出する回転姿勢検出部と、
上記アルゴリズムとして、上記手首の回転姿勢に応じてそれぞれ血圧測定誤差を抑えるように規定された複数の候補となるアルゴリズムを、予め記憶している候補アルゴリズム記憶部と、
上記夜間血圧測定モードで、上記複数の候補となるアルゴリズムのうち、上記検出された上記手首の回転姿勢に応じた上記血圧測定誤差を抑えるようにアルゴリズムを選択して設定するアルゴリズム切替部と、
上記夜間血圧測定モードで、上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるとき、上記血圧測定用カフの圧力に基づいて、現在設定されているアルゴリズムを使用して血圧値を算出する血圧算出部と
を備えたことを特徴とする。
【0008】
本明細書で、「血圧測定用カフに一体に設けられた加速度センサ」とは、加速度センサが血圧測定用カフに直接搭載されている場合に限られず、加速度センサが例えば後述の本体に搭載され、本体を介して血圧測定用カフに一体となっている場合を含む。
【0009】
「手首の回転姿勢」とは、例えば、手首の回転によって、手首の掌側面(手の平側の側面)が横向き(体幹に面する向き)、上向き、または下向きになった姿勢を指す。
【0010】
手首の回転姿勢に応じた「血圧測定誤差」は、基準となる血圧値(例えば、仰臥位にあるヒトの上腕を被測定部位として聴診により測定された血圧値)に対する誤差として定義される。
「オシロメトリック法によるアルゴリズム」とは、典型的には、上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるときカフ圧から得られた脈波振幅の列に対して包絡線を設定するとともに、上記包絡線の最大値に対して予め定められた割合のスレッシュレベル(収縮期用のスレッシュレベルと拡張期用のスレッシュレベルを含む。)を設定し、上記包絡線がそれらのスレッシュレベルを横切った時点のカフ圧を、それぞれ最高血圧(収縮期血圧)、最低血圧(拡張期血圧)として算出するアルゴリズムを意味する。
手首の回転姿勢に応じた「複数の候補となるアルゴリズム」とは、典型的には、上記包絡線の最大値に対して予め定められた割合のスレッシュレベルが、手首の回転姿勢に応じて互いに異なる値に規定されたアルゴリズムを指す。
複数の候補となるアルゴリズムを、「予め記憶している」とは、血圧測定に先立って、典型的には、血圧計の販売前の段階で記憶していることを意味する。
【0011】
この開示の血圧計では、候補アルゴリズム記憶部は、オシロメトリック法によるアルゴリズムとして、上記手首の回転姿勢に応じてそれぞれ上記血圧測定誤差を抑えるように規定された複数の候補となるアルゴリズムを、予め記憶している。夜間血圧測定モードで、回転姿勢検出部は、上記加速度センサの出力に基づいて、上記血圧測定用カフが装着された上記手首の回転姿勢を検出する。アルゴリズム切替部は、上記夜間血圧測定モードで、上記複数の候補となるアルゴリズムのうち、上記検出された上記手首の回転姿勢に応じた上記血圧測定誤差を抑えるようにアルゴリズムを選択して設定する。血圧算出部は、上記夜間血圧測定モードで、上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるとき、上記血圧測定用カフの圧力に基づいて、現在設定されているアルゴリズム(すなわち、上記検出された上記手首の回転姿勢に応じたアルゴリズム)を使用して血圧値を算出する。したがって、この血圧計によれば、被測定部位としての手首の回転姿勢に応じて、血圧を精度良く算出できる。
【0012】
また、この血圧計は、被測定部位としての手首を圧迫するタイプであるから、上腕を圧迫するタイプに比して、被験者の睡眠を妨げる程度が少ないことが期待される(Imai et al., “Development and evaluation of a home nocturnal blood pressure monitoring system using a wrist-cuff device”, Blood Pressure Monitoring 2018, 23,P318-326)。したがって、この血圧計は、夜間(睡眠時)血圧測定に適する。
【0013】
一実施形態の血圧計では、
上記オシロメトリック法によるアルゴリズムは、上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるとき、上記血圧測定用カフの圧力から得られた脈波振幅の列に対して包絡線を設定するとともに、上記包絡線の最大値に対してそれぞれ予め定められた割合の収縮期用のスレッシュレベルと拡張期用のスレッシュレベルとを設定し、上記包絡線が上記収縮期用のスレッシュレベル、上記拡張期用のスレッシュレベルを横切った時点の上記血圧測定用カフの圧力を、それぞれ収縮期血圧、拡張期血圧として算出するアルゴリズムであり、
上記複数の候補となるアルゴリズムでは、上記スレッシュレベルが、上記手首の回転姿勢に応じて互いに異なる値に規定されている
ことを特徴とする。
【0014】
一実施形態の血圧計では、
上記手首の回転姿勢は、上記手首の掌側面が、体幹に面する横向きになった角度範囲と、上向きになった角度範囲と、下向きになった角度範囲との、上記手首の長手方向の周りの3つの角度範囲に区分され、
上記候補アルゴリズム記憶部は、上記3つの角度範囲に応じて、それぞれ候補となるアルゴリズムを記憶している
ことを特徴とする。
【0015】
上記手首の回転姿勢は、上記手首の長手方向の周りの4つ以上の角度範囲に区分され、
上記候補アルゴリズム記憶部は、上記4つ以上の角度範囲に応じて、それぞれ候補となるアルゴリズムを記憶している
を含むことを特徴とする。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
一実施形態の血圧計では、
上記血圧測定用カフと一体に設けられた本体を、さらに備え、
上記本体は、上記加速度センサを含む上記回転姿勢検出部と、上記候補アルゴリズム記憶部と、上記血圧測定用カフの圧力を制御する圧力制御部と、上記アルゴリズム切替部と、上記血圧算出部とを搭載している
ことを特徴とする。
【0026】
ここで、「本体」は、典型的には、帯状の血圧測定用カフの長手方向に関して特定の部位、例えば、手首の掌側面(手の平側の面)に対応することが予定された部位に配置される。
【0027】
「圧力制御部」は、例えば、上記血圧測定用カフに加圧用の流体を供給するポンプ、上記血圧測定用カフから流体を排気させる弁、これらのポンプ・弁などを駆動・制御する要素を含む。
【0028】
この一実施形態の血圧計は、手首式血圧計として一体かつコンパクトに構成され得る。したがって、ユーザによる取り扱いが便利になる。また、この一実施形態の血圧計では、上記回転姿勢検出部は、例えば上記本体に対する相対的な上記重力加速度ベクトルの向きに応じて、上記手首の回転姿勢を簡単に検出できる。
【0029】
別の局面では、この開示の血圧算出方法は、
血圧測定用カフによって被験者の被測定部位としての手首を一時的に圧迫して、オシロメトリック法によるアルゴリズムを使用して血圧算出を行う血圧計のための血圧算出方法であって、
上記血圧計は、
予め定められたスケジュールに従って血圧測定を自動的に開始する夜間血圧測定モードを有し、
上記血圧測定用カフに一体に設けられた加速度センサと、
上記アルゴリズムとして、上記手首の回転姿勢に応じてそれぞれ血圧測定誤差を抑えるように規定された複数の候補となるアルゴリズムを、予め記憶している候補アルゴリズム記憶部と
を含み、
上記血圧算出方法は、
上記血圧計が上記夜間血圧測定モードにある場合に、
上記加速度センサの出力に基づいて、上記血圧測定用カフが装着された上記手首の回転姿勢を検出し、
上記複数の候補となるアルゴリズムのうち、上記検出された上記手首の回転姿勢に応じた上記血圧測定誤差を抑えるようにアルゴリズムを選択して設定し、
上記血圧測定用カフが加圧過程または減圧過程にあるとき、上記血圧測定用カフの圧力に基づいて、現在設定されているアルゴリズムを使用して血圧値を算出する
ことを特徴とする血圧算出方法。
【0030】
この開示の血圧算出方法によれば、被測定部位としての手首の回転姿勢に応じて、血圧を精度良く算出できる。
【0031】
さらに別の局面では、この開示のプログラムは、上記血圧算出方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0032】
この開示のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記血圧算出方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上より明らかなように、この開示の血圧計および血圧算出方法によれば、夜間(睡眠時)血圧測定モードで、被測定部位としての手首の回転姿勢に応じて、血圧を精度良く算出できる。また、この開示のプログラムによれば、そのような血圧算出方法をコンピュータに実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】この発明の一実施形態の手首式血圧計の外観を示す図である。
【
図3】上記血圧計が被測定部位としての左手首に装着された態様を示す図である。
【
図5】
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)は、それぞれ、上記血圧計が装着された手首の回転姿勢として、掌側面(手の平側の面)が横向き(体幹に面する向き)、上向き、下向きになった状態を例示する図である。
図5(D)、
図5(E)、
図5(F)は、それぞれ、
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)に示す状態の、手首の長手方向に垂直な断面を示す図である。
【
図6】上記血圧計によって通常の血圧測定モードで血圧測定を行う際の動作フローを示す図である。
【
図7】上記血圧計によって夜間血圧測定モードで血圧測定を行う際の
参考例としての第1の動作フローを示す図である。
【
図8】
図8(A)は,血圧測定に伴うカフ圧PCの時間経過を示す図である。
図8(B)は、血圧測定に伴う脈波信号SMの時間経過を示す図である。
図8(C)は、上記脈波信号SMがなす脈波振幅の列に対して設定された包絡線ENVを示す図である。
【
図9】夜間血圧測定モードでの、上記第1の動作フローによる血圧算出の仕方を説明する図である。
【
図10】ヒトの手首の回転姿勢に応じた血圧測定誤差を記録した誤差テーブルを例示する図である。
【
図11】上記血圧計によって夜間血圧測定モードで血圧測定を行う際の
一実施形態としての第2の動作フローを示す図である。
【
図12】夜間血圧測定モードでの、上記第2の動作フローによる血圧算出の仕方を説明する図である。
【
図13】
図13(A)は、ヒトの手首の回転姿勢に応じた血圧測定誤差を示す箱ひげ図である。
図13(B)は、上記箱ひげ図が表す意味を説明する図である。
【
図14】
図13(A)に示す血圧測定誤差が生じるような、血圧算出の仕方を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
(血圧計の構成)
図1は、この発明の一実施形態の手首式血圧計100の外観を示している。この血圧計100は、大別して、被測定部位としての左手首90(後述の
図3参照)に装着されるべき血圧測定用カフ20と、このカフ20に一体に取り付けられた本体10とを備えている。
【0037】
カフ20は、手首式血圧計用の一般的なものであり、左手首90を周方向に沿って取り巻くように細長い帯状の形状を有している。このカフ20内には、左手首90を圧迫するための流体袋22(
図2参照)が内包されている。なお、カフ20を常時環状に維持するために、カフ20内に、適度な可撓性を有するカーラが設けられてもよい。
【0038】
図3に示すように、本体10は、帯状のカフ20の長手方向に関して略中央の部位に、一体に取り付けられている。この例では、本体10が取り付けられた部位は、装着状態で左手首90の掌側面(手の平側の面)90aに対応することが予定されている。
【0039】
本体10は、カフ20の外周面に沿った偏平な略直方体状の形状を有している。この本体10は、ユーザ(この例では、被験者を指す。以下同様。)の睡眠の邪魔にならないように、小型で、薄厚に形成されている。また、本体10のコーナー部にはアールが施されている(角が丸くされている。)。
【0040】
図1に示すように、本体10の外面のうち左手首90から最も遠い側の面(頂面)には、表示画面をなす表示器50と、ユーザからの指示を入力するための操作部52とが設けられている。
【0041】
表示器50は、この例では、LCD(Liquid Crystal Display;液晶ディスプレイ)からなり、後述のCPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)110からの制御信号に従って所定の情報を表示する。この例では、最高血圧(単位;mmHg)、最低血圧(単位;mmHg)、脈拍数(単位;拍/分)を表示するようになっている。なお、表示器50は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイからなっていてもよいし、LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)を含んでいてもよい。
【0042】
操作部52は、ユーザによる指示に応じた操作信号を後述のCPU110に入力する。この例では、操作部52は、ユーザによる血圧測定指示を受け付けるための測定スイッチ52Aと、通常の血圧測定モードと夜間血圧測定モードとの間でモードを切り替える指示を受け付けるための夜間測定スイッチ52Bと、記憶された測定結果を表示器50に表示させる指示を受け付けるためのチェックスイッチ52Cとを含んでいる。ここで、「通常の血圧測定モード」とは、測定スイッチ52Aによって血圧測定指示が入力されると、その血圧測定指示に応じて血圧測定を行うモードを意味する。「夜間血圧測定モード」とは、ユーザが睡眠中に血圧値を測定することができるように、予め定められたスケジュールに従って血圧測定が自動的に開始されるモードを意味する。予め定められたスケジュールとは、例えば深夜1時、2時、3時などの定刻に測定する計画や、夜間測定スイッチ52Bが押されてから例えば2時間毎に1回測定する計画などを指す。
【0043】
具体的には、この例では、測定スイッチ52A、夜間測定スイッチ52B、チェックスイッチ52Cは、いずれもモーメンタリタイプ(自己復帰タイプ)のスイッチであり、押し下げられている間だけオン状態になり、離されるとオフ状態に戻る。
【0044】
血圧計100が通常の血圧測定モードにある間に測定スイッチ52Aが一旦押し下げられると、それは血圧測定指示を意味し、カフ20によって被測定部位(左手首90)が一時的に圧迫されて、オシロメトリック法により血圧測定が実行される。血圧測定中(例えば、カフ20の加圧中)に測定スイッチ52Aが再び押し下げられると、それは血圧測定停止の指示を意味し、直ちに血圧測定が停止される。
【0045】
血圧計100が通常の血圧測定モードにある間に夜間測定スイッチ52Bが一旦押し下げられると、それは夜間血圧測定モードへの移行の指示を意味し、血圧計100は通常の血圧測定モードから夜間血圧測定モードへ移行する。夜間血圧測定モードでは、上述のように、予め定められたスケジュールに従ってオシロメトリック法による血圧測定が自動的に開始される。血圧計100が夜間血圧測定モードにある間に夜間測定スイッチ52Bが再び押し下げられると、それは夜間血圧測定モード停止の指示を意味し、血圧計100は夜間血圧測定モードから通常の血圧測定モードへ移行する。
【0046】
なお、血圧計100が夜間血圧測定モードにある間であっても、上記予め定められたスケジュールとは別に、ユーザが、測定スイッチ52Aを押すことによって、割り込みで血圧測定を指示することがある。そのときは、その割り込みの血圧測定指示に応じて、カフ20によって被測定部位(左手首90)が一時的に圧迫されて、オシロメトリック法により血圧測定が実行される。
【0047】
【0048】
カフ20は、既述のように被測定部位としての左手首90を圧迫するための流体袋22を含んでいる。この流体袋22と本体10とは、エア配管39によって流体流通可能に接続されている。
【0049】
本体10は、既述の表示器50と操作部52とに加えて、制御部としてのCPU110と、記憶部としてのメモリ51と、電源部53と、加速度センサ34と、圧力センサ31と、ポンプ32と、弁33とを搭載している。さらに、本体10は、圧力センサ31の出力をアナログ信号からデジタル信号へ変換するA/D変換回路310と、ポンプ32を駆動するポンプ駆動回路320と、弁33を駆動する弁駆動回路330と、加速度センサ34の出力をアナログ信号からデジタル信号へ変換するA/D変換回路340とを搭載している。圧力センサ31、ポンプ32、および弁33は、エア配管39を通して共通に、流体袋22に対して流体流通可能に接続されている。
【0050】
メモリ51は、血圧計100を制御するためのプログラム、血圧計100を制御するために用いられるデータ、血圧計100の各種機能を設定するための設定データ、および血圧値の測定結果のデータ、脈拍数のデータなどを記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0051】
特に、この例では、メモリ51は、オシロメトリック法による血圧算出のためのアルゴリズムとして、座位用のアルゴリズムと、仰臥位用のアルゴリズムとを記憶している。ここで、「座位」とは、
図4Aに示すように、左手首90に血圧計100を装着したユーザ80が椅子97などに座り、左肘をテーブル98に着いて左手首90を体幹に対して前方で斜め(手が上、肘が下)に挙げることにより、左手首90(および血圧計100)を心臓81の高さレベルに維持した姿勢を意味する。この姿勢は、ユーザ80の左手首90と心臓81との間の高低差を無くせるので、血圧測定精度を高めるために推奨される。一方、「仰臥位」とは、
図4Bに示すように、左手首90に血圧計100を装着したユーザ80が、左肘を伸ばし体幹に沿わせた状態で、水平な床面99などに仰向けに横たわった姿勢を意味する。この姿勢では、ユーザ80の左手首90(および血圧計100)と心臓81との間の高低差ΔHが生ずる(左手首90の高さよりも心臓81の高さが高い)ため、血圧測定値のずれが生ずる。また、座位(
図4A)では左肘が曲げられているのに対して仰臥位(
図4B)では左肘が伸ばされているため、左肘の屈伸のせいで血圧測定値のずれが生ずる可能性もある。このような座位での血圧測定値に対する仰臥位での血圧測定値のずれを解消するため、座位で血圧測定する場合の血圧算出アルゴリズムに対して、仰臥位で血圧測定する場合の血圧算出アルゴリズムを変更するのが望ましい。この理由から、この例では、メモリ51は、オシロメトリック法による血圧算出のためのアルゴリズムとして、座位用のアルゴリズム(後述の
図8(C)中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS1と拡張期用のスレッシュレベルTHD1とを用いる。)と、仰臥位用のアルゴリズム(後述の
図9中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2と拡張期用のスレッシュレベルTHD2とを用いる。)とを記憶している。それらのアルゴリズムを使用した具体的な血圧算出の仕方については、後述する。
【0052】
また、この例では、メモリ51は誤差記憶部として働いて、
図10の誤差テーブルに示すように、オシロメトリック法により上記仰臥位用のアルゴリズム(後述の
図9中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2と拡張期用のスレッシュレベルTHD2とを用いる。)を使用して血圧算出を行ったときの、仰臥位にあるヒトの手首90の回転姿勢に応じた血圧測定誤差を、予め記憶している。具体的には、
図10の誤差テーブル中段の「誤差平均」欄には、
図13(A)に示した、手首90の回転姿勢が横向き(体幹に面する向き)、上向き、下向きの場合のSBP(Systolic Blood Pressure;収縮期血圧)、DBP(Diastolic Blood Pressure;拡張期血圧)についての血圧測定誤差(40名×3回分のデータ)の平均値が格納されている。例えば、手首90の回転姿勢が「横向き」の場合のSBPについての血圧測定誤差の平均値として-0.75mmHg、DBPについての血圧測定誤差の平均値として-1.19mmHgが、それぞれ格納されている。手首90の回転姿勢が「上向き」の場合のSBPについての血圧測定誤差の平均値として-3.30mmHg、DBPについての血圧測定誤差の平均値として-3.06mmHgが、それぞれ格納されている。また、手首90の回転姿勢が「下向き」の場合のSBPについての血圧測定誤差の平均値として-3.55mmHg、DBPについての血圧測定誤差の平均値として-2.84mmHgが、それぞれ格納されている。また、
図10の誤差テーブル下段の「横向きとの差」欄には、手首90の回転姿勢が「横向き」の場合のSBP、DBPについての血圧測定誤差に対応する、手首90の回転姿勢が「上向き」、「下向き」の場合のSBP、DBPについての血圧測定誤差の差分が、それぞれ格納されている。例えば、手首90の回転姿勢が「横向き」の場合のSBPについての血圧測定誤差(-0.75mmHg)に対応する、手首90の回転姿勢が「上向き」の場合のSBPについての血圧測定誤差(-3.30mmHg)の差分として、-2.55mmHgが格納されている。また、手首90の回転姿勢が「横向き」の場合のSBPについての血圧測定誤差(-0.75mmHg)に対応する、手首90の回転姿勢が「下向き」の場合のSBPについての血圧測定誤差(-3.55mmHg)の差分として、-2.80mmHgが格納されている。DBPについても同様の差分が格納されている。この誤差テーブルの使い方については、後述する。
【0053】
図2中に示すCPU110は、この血圧計100全体の動作を制御する。具体的には、CPU110は、メモリ51に記憶された血圧計100を制御するためのプログラムに従って圧力制御部として働いて、操作部52からの操作信号に応じて、ポンプ32や弁33を駆動する制御を行う。また、CPU110は、血圧算出部として働いて、オシロメトリック法による血圧算出のためのアルゴリズムを使用して血圧値を算出し、表示器50およびメモリ51を制御する。また、CPU110は、後述の回転姿勢検出部としても働く。
【0054】
電源部53は、この例では2次電池からなり、CPU110、圧力センサ31、ポンプ32、弁33、加速度センサ34、表示器50、メモリ51、A/D変換回路310,340、ポンプ駆動回路320、および弁駆動回路330の各部に電力を供給する。
【0055】
加速度センサ34は、この例では、本体10に一体に搭載された3軸加速度センサを含み、本体10に対する重力加速度ベクトルの向き(したがって、本体10を装着した被験者の手首90の回転姿勢)を表すデータを出力する。A/D変換回路340は、加速度センサ34の出力をアナログ信号からデジタル信号へ変換してCPU110に出力する。
【0056】
この例では、CPU110は回転姿勢検出部として働いて、加速度センサ34の出力に基づいて、カフ20が装着された手首90の回転姿勢を検出する。具体的には、
図5(D)中に示すように、この例では、本体10に、XYZ直交座標系が設定されている。Z軸は本体10の厚さ方向、X軸は本体10の短手方向(手首90の幅方向に相当)、図示しないY軸は本体10の長手方向(手首90の長手方向に相当)に、それぞれ設定されている。
図5(D)に示すように、加速度センサ34が出力する重力加速度ベクトルGの向きが、ZX面内でX軸に対して-45°から45°までの範囲内にあれば、CPU110は、手首90の回転姿勢を、
図5(A)に示すように「横向き」であるとして検出する。
図5(E)中に示すように、加速度センサ34が出力する重力加速度ベクトルGの向きが、ZX面内でX軸に対して-135°から-45°までの範囲内にあれば、CPU110は、手首90の回転姿勢を、
図5(B)に示すように「上向き」であるとして検出する。
図5(F)に示すように、加速度センサ34が出力する重力加速度ベクトルGの向きが、ZX面内でX軸に対して45°から135°までの範囲内にあれば、CPU110は、手首90の回転姿勢を、
図5(C)に示すように「下向き」であるとして検出する。この手首90の回転姿勢の検出結果の使い方については、後述する。
【0057】
ポンプ32は、カフ20に内包された流体袋22内の圧力(カフ圧)を加圧するために、エア配管39を通して流体袋22に流体としての空気を供給する。弁33は、エア配管39を通して流体袋22の空気を排出し、または流体袋22に空気を封入してカフ圧を制御するために開閉される。ポンプ駆動回路320は、ポンプ32をCPU110から与えられる制御信号に基づいて駆動する。弁駆動回路330は、弁33をCPU110から与えられる制御信号に基づいて開閉する。
【0058】
圧力センサ31とA/D変換回路310は、カフの圧力を検出する圧力検出部として働く。圧力センサ31は、この例ではピエゾ抵抗式圧力センサであり、エア配管39を通して、カフ20に内包された流体袋22内の圧力(カフ圧)をピエゾ抵抗効果による電気抵抗として出力する。A/D変換回路310は、圧力センサ31の出力(電気抵抗)をアナログ信号からデジタル信号へ変換してCPU110に出力する。この例では、CPU110は、圧力センサ31からの電気抵抗に応じた周波数で発振する発振回路として働いて、その発振周波数に応じて、カフ圧を表す信号を取得する。
【0059】
(血圧算出方法)
[I]通常の血圧測定モードにおける動作フロー
図6は、ユーザが血圧計100によって通常の血圧測定モードで血圧測定を行う際の動作フローを示している。なお、この例では、電源オフ状態で測定スイッチ52Aが例えば3秒間以上連続して押されると、電源がオンして、デフォルトで通常の血圧測定モードになる。
【0060】
図4Aに示したように、左手首90に血圧計100を装着したユーザ80が、座位の姿勢をとっているものとする。
【0061】
この状態で、
図6のステップS1に示すように、ユーザが本体10に設けられた測定スイッチ52Aを押し下げて血圧測定指示を入力すると、CPU110は、圧力センサ31を初期化する(ステップS2)。具体的には、CPU110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ32をオフ(停止)し、弁33を開いた状態で、圧力センサ31の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。
【0062】
次に、CPU110は、弁駆動回路330を介して弁33を閉じ(ステップS3)、続いて、ポンプ駆動回路320を介してポンプ32をオン(起動)して、カフ20(流体袋22)の加圧を開始する(ステップS4)。このとき、CPU110は、ポンプ32からエア配管39を通して流体袋22に空気を供給しながら、圧力センサ31の出力に基づいて、
図8(A)に示すように、流体袋22内の圧力であるカフ圧PCの加圧速度を制御する。
【0063】
次に、
図6のステップS5で、CPU110は血圧算出部として働いて、この時点で取得されている脈波信号SM(圧力センサ31の出力に含まれた脈波による変動成分)(
図8(B)参照)に基づいて、メモリ51に記憶されている座位用のアルゴリズムを使用して血圧値(最高血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧))の算出を試みる。
【0064】
この時点で、データ不足のために未だ血圧値を算出できない場合は(ステップS6でNo)、カフ圧PCが上限圧力(安全のために、例えば300mmHgというように予め定められている。)に達していない限り、ステップS4~S6の処理を繰り返す。
【0065】
ここで、CPU110は、次のようにして血圧値を算出する。すなわち、カフ20が加圧過程にあるときカフ圧PCから得られた、
図8(B)に示す脈波信号SMがなす脈波振幅(ピーク・ツゥ・ピーク)の列に対して、
図8(C)に示すような包絡線ENVを設定する。これとともに、包絡線ENVの最大値AmpMaxに対して、座位用に予め定められた割合α
dia,α
sysの2つのスレッシュレベルTHD1,THS1を設定する。THD1は、拡張期血圧用のスレッシュレベルであり、THD1=α
dia×AmpMaxとして設定される。また、THS1は、収縮期血圧用のスレッシュレベルであり、THS1=α
sys×AmpMaxとして設定される。一例として、α
dia=0.75であり、また、α
sys=0.4である(すなわち、THD1=0.75×AmpMaxとして設定され、また、THS1=0.4×AmpMaxとして設定される。)。そして、包絡線ENVがそれらのスレッシュレベルTHD1,THS1を横切った時点のカフ圧PCを、
図8(A)に示すように、それぞれ最低血圧(拡張期血圧)BPdia1、最高血圧(収縮期血圧)BPsys1として算出する。
【0066】
このようにして血圧値の算出ができたら(ステップS6でYes)、CPU110は、ポンプ32をオフし(ステップS7)、弁33を開いて(ステップS8)、カフ20(流体袋22)内の空気を排気する制御を行う。
【0067】
また、CPU110は、ステップS4~S6の処理を繰り返す間、カフ圧PCから得られた脈波をカウントして、脈拍数(単位;拍/分)を算出する。
【0068】
この後、CPU110は、算出した血圧値、脈拍数を表示器50へ表示し(ステップS9)、血圧値、脈拍数などのデータをメモリ51へ保存する制御を行う。
【0069】
[II]夜間血圧測定モードにおける
参考例としての第1の動作フロー
図7は、ユーザが血圧計100によって夜間血圧測定モードで血圧測定を行う際の
参考例としての第1の動作フローを示している。このフロー開始時に、血圧計100は、通常の血圧測定モードにあるものとする。
【0070】
図4Bに示したように、左手首90に血圧計100を装着したユーザ80が、仰臥位の姿勢をとっているものとする。
【0071】
図7のステップS11に示すように、ユーザが本体10に設けられた夜間測定スイッチ52Bを押し下げると、血圧計100は通常の血圧測定モードから夜間血圧測定モードへ移行する。この例では、夜間血圧測定モードでは、夜間測定スイッチ52Bが押されてから、例えば午前7時まで、例えば1時間毎に1回測定するスケジュールが定められているものとする。なお、このスケジュールに限られるものではなく、夜間測定スイッチ52Bが押されてから、例えば午前7時まで、午前1時、2時、3時のように定刻に測定するスケジュールが定められていてもよい。
【0072】
次に、
図7のステップS12に示すように、CPU110は、(夜間血圧測定モードの)スケジュールで定められた測定時刻であるか否かを判断する。スケジュールで定められた測定時刻でなければ(ステップS12でNo)、スケジュールで定められた測定時刻になるのを待つ。
【0073】
上記スケジュールで定められた測定時刻になると(ステップS12でYes)、ステップS13で、CPU110は回転姿勢検出部として働いて、加速度センサ34の出力に基づいて、カフ20が装着された手首90の回転姿勢を検出する。
【0074】
この例では、既述のように、CPU110は、加速度センサ34が出力する重力加速度ベクトルGの向きに基づいて、カフ20が装着された手首90の回転姿勢が、
図5(A)に示すような「横向き」、
図5(B)に示すような「上向き」、または、
図5(C)に示すような「下向き」のうち、いずれであるかを検出する。
【0075】
次に、
図7のステップS14~S16に示すように、
図6のステップS2~S4におけるのと同様に血圧測定を開始する。すなわち、CPU110は、まず、圧力センサ31を初期化する(ステップS14)。
【0076】
次に、CPU110は、弁駆動回路330を介して弁33を閉じ(ステップS15)、続いて、ポンプ駆動回路320を介してポンプ32をオン(起動)して、カフ20(流体袋22)の加圧を開始する(ステップS16)。このとき、CPU110は、
図8(A)に示したのと同様に、カフ圧PCの加圧速度を制御する。
【0077】
次に、
図7のステップS17で、CPU110は
血圧算出部として働いて、この時点で取得されている脈波信号SM(圧力センサ31の出力に含まれた脈波による変動成分)(
図8(B)に示したのと同様)に基づいて、仰臥位用のアルゴリズムを使用して血圧値(最高血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧))の算出を試みる。
【0078】
この時点で、データ不足のために未だ血圧値を算出できない場合は(ステップS18でNo)、カフ圧PCが上限圧力(安全のために、例えば300mmHgというように予め定められている。)に達していない限り、ステップS16~S18の処理を繰り返す。
【0079】
ここで、CPU110は、次のようにして血圧値を算出する。すなわち、カフ20が加圧過程にあるときカフ圧PCから得られた、脈波信号SMがなす脈波振幅(ピーク・ツゥ・ピーク)の列に対して、
図9に示すような包絡線ENV(
図8(C)に示したのと同様)を設定する。仰臥位用のアルゴリズムでは、
図9中に示すように、拡張期血圧用のスレッシュレベルとして、THD1=0.75×AmpMaxに代えてTHD2=0.6×AmpMaxを用い、また、収縮期血圧用のスレッシュレベルとして、THS1=0.4×AmpMaxに代えてTHS2=0.5×AmpMaxを用いる。これにより、座位(
図4A)での血圧測定値に対する仰臥位(
図4B)での血圧測定値のずれを解消する。そして、包絡線ENVが現在設定されている仰臥位用のスレッシュレベルTHD2(=0.6×AmpMax)、THS2(=0.5×AmpMax)を横切った時点のカフ圧PCを、それぞれ最低血圧(拡張期血圧)BPdia2、最高血圧(収縮期血圧)BPsys2として算出する。
【0080】
夜間血圧測定モードでは、通常、ユーザが仰臥位にあることが期待される。したがって、仰臥位用のアルゴリズムを使用することで、単に座位用のアルゴリズムを使用する場合に比して、血圧値(最高血圧及び最低血圧)を精度良く算出できる。ただし、上記仰臥位用のアルゴリズム、特に、スレッシュレベルTHD2(=0.6×AmpMax)、THS2(=0.5×AmpMax)自体は、手首90の回転姿勢に応じて生ずる血圧測定誤差に対して、特に対策されたものではない。このため、仮に後述の補正(ステップS21)を施さなければ、血圧計100が出力する血圧値に、手首90の回転姿勢に応じて
図10の誤差テーブルに掲げた血圧測定誤差が含まれてしまう。
【0081】
また、CPU110は、ステップS16~S18の処理を繰り返す間、カフ圧PCから得られた脈波をカウントして、脈拍数(単位;拍/分)を算出する。
【0082】
このようにして血圧値、脈拍数の算出ができたら(ステップS18でYes)、CPU110は、ポンプ32をオフし(ステップS19)、弁33を開いて(ステップS20)、カフ20(流体袋22)内の空気を排気する制御を行う。
【0083】
次に、ステップS21で、CPU110は誤差補正部として働いて、算出した血圧値を、ステップS13で検出された手首90の回転姿勢に応じた血圧測定誤差の分だけ補正する。具体的には、CPU110は、メモリ51に格納された誤差テーブル(
図10)の「誤差平均」欄を参照して、手首90の回転姿勢が
図5(A)に示すような「横向き」であるとき、算出した最低血圧(拡張期血圧)BPdia2、最高血圧(収縮期血圧)BPsys2に、それぞれ1.19mmHg、0.75mmHgだけ加算する。また、手首90の回転姿勢が
図5(B)に示すような「上向き」であるとき、算出した最低血圧(拡張期血圧)BPdia2、最高血圧(収縮期血圧)BPsys2に、それぞれ3.06mmHg、3.30mmHgだけ加算する。また、手首90の回転姿勢が
図5(C)に示すような「下向き」であるとき、算出した最低血圧(拡張期血圧)BPdia2、最高血圧(収縮期血圧)BPsys2に、それぞれ2.84mmHg、3.55mmHgだけ加算する。すなわち、一旦算出された血圧値が、検出された手首90の回転姿勢に応じた血圧測定誤差の分だけ補正される。この結果、手首90の回転姿勢に応じた血圧測定誤差を抑えることができる。したがって、血圧値(最高血圧及び最低血圧)を精度良く算出できる。
【0084】
この後、CPU110は、算出した血圧値、脈拍数を表示器50へ表示し(ステップS22)、血圧値、脈拍数、および、手首90の回転姿勢を表すデータを、メモリ51へ保存する制御を行う。
【0085】
このようにして上記スケジュールで定められた1回の血圧測定が完了すると、ステップS23で、CPU110は、上記スケジュールで定められた全ての血圧測定が完了したか否かを判断する。ここで、上記スケジュールによって血圧測定が未だ予定されている限り(ステップS23で「未完」)、ステップS12に戻る。そして、上記スケジュールで定められた次回の測定時刻になるのを待つ(ステップS12でNo)。
【0086】
上記スケジュールで定められた次回の測定時刻になると(ステップS12でYes)、CPU110は、ステップS13~S22の処理を繰り返す。このようにして、CPU110は、上記スケジュールによって血圧測定が未だ予定されている限り(ステップS23で「未完」)、測定を繰り返し、上記スケジュールで定められた全ての血圧測定が完了すると(ステップS23で「終了」)、上記夜間血圧測定モードを終了する。
【0087】
このように、この血圧計100の夜間血圧測定モードにおける第1の動作フローでは、CPU110は、カフ20が加圧過程または減圧過程にあるとき、カフ圧に基づいて、オシロメトリック法による血圧算出のためのアルゴリズムを使用して血圧を算出し、算出された血圧値を、検出された手首90の回転姿勢に応じた血圧測定誤差を抑えるように補正する。したがって、この血圧計100によれば、被測定部位としての手首90の回転姿勢に応じて、血圧を精度良く算出できる。
【0088】
なお、上記第1の動作フローでは、手首90の回転姿勢を、
図5(D)~
図5(F)に示したようにZX面内で3つの角度範囲に区分して検出したが、これに限られるものではない。
図7のステップS13で、CPU110は、手首90の回転姿勢を、4つ以上の角度範囲に区分して検出してもよい。その場合、
図10の誤差テーブルには、それらの4つ以上の角度範囲ごとに、各角度範囲に応じた血圧測定誤差を、予め記憶させておく。そして、ステップS21で、CPU110は、算出した血圧値を、ステップS13で検出された手首90の角度範囲に応じた血圧測定誤差の分だけ補正する。このようにした場合、血圧値(最高血圧及び最低血圧)をさらに精度良く算出できる。
【0089】
[III]夜間血圧測定モードにおける
一実施形態としての第2の動作フロー
図11は、ユーザが血圧計100によって夜間血圧測定モードで血圧測定を行う際の
一実施形態としての第2の動作フローを示している。このフロー開始時に、血圧計100は、通常の血圧測定モードにあるものとする。
【0090】
図4Bに示したように、左手首90に血圧計100を装着したユーザ80が、仰臥位の姿勢をとっているものとする。
【0091】
この例では、メモリ51は候補アルゴリズム記憶部として働いて、上記仰臥位用のアルゴリズム(
図9中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2と拡張期用のスレッシュレベルTHD2とを用いる。)に代えて、
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)に示す手首90の回転姿勢に応じてそれぞれ血圧測定誤差を抑えるように規定された複数の候補となるアルゴリズム(後述の
図12中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2-h,THS2-u,THS2-dと、対応する拡張期用のスレッシュレベルTHD2-h,THD2-u,THD2-dとを、それぞれ組み合わせて用いる。)を、予め記憶している。
【0092】
図11のステップS41に示すように、ユーザが本体10に設けられた夜間測定スイッチ52Bを押し下げると、第1の動作フローにおけるのと同様に、血圧計100は通常の血圧測定モードから夜間血圧測定モードへ移行する。この例では、夜間血圧測定モードでは、夜間測定スイッチ52Bが押されてから、例えば午前7時まで、例えば1時間毎に1回測定するスケジュールが定められているものとする。なお、このスケジュールに限られるものではなく、夜間測定スイッチ52Bが押されてから、例えば午前7時まで、午前1時、2時、3時のように定刻に測定するスケジュールが定められていてもよい。
【0093】
次に、
図11のステップS42に示すように、CPU110は、(夜間血圧測定モードの)スケジュールで定められた測定時刻であるか否かを判断する。スケジュールで定められた測定時刻でなければ(ステップS42でNo)、スケジュールで定められた測定時刻になるのを待つ。
【0094】
上記スケジュールで定められた測定時刻になると(ステップS42でYes)、ステップS43で、第1の動作フローにおけるのと同様に、CPU110は回転姿勢検出部として働いて、加速度センサ34の出力に基づいて、カフ20が装着された手首90の回転姿勢を検出する。
【0095】
この例では、第1の動作フローにおけるのと同様に、CPU110は、加速度センサ34が出力する重力加速度ベクトルGの向きに基づいて、カフ20が装着された手首90の回転姿勢が、
図5(A)に示すような「横向き」、
図5(B)に示すような「上向き」、または、
図5(C)に示すような「下向き」のうち、いずれであるかを検出する。
【0096】
次に、
図11のステップS44に示すように、CPU110はアルゴリズム切替部として働いて、上記複数の候補となるアルゴリズムのうち、ステップS43で検出された手首90の回転姿勢に応じたアルゴリズムを選択して設定する。具体的には、CPU110は、メモリ51を参照して、手首90の回転姿勢が
図5(A)に示すような「横向き」であるとき、
図12中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2-hと、対応する拡張期用のスレッシュレベルTHD2-hとの組み合わせを、選択して設定する。一例として、THS2-h=0.48であり、また、THD2-h=0.62である。また、手首90の回転姿勢が
図5(B)に示すような「上向き」であるとき、
図12中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2-uと、対応する拡張期用のスレッシュレベルTHD2-uとの組み合わせを、選択して設定する。一例として、THS2-u=0.45であり、また、THD2-u=0.69である。また、手首90の回転姿勢が
図5(C)に示すような「下向き」であるとき、
図12中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2-dと、対応する拡張期用のスレッシュレベルTHD2-dとの組み合わせを、選択して設定する。一例として、THS2-d=0.4であり、また、THD2-d=0.7である。
【0097】
次に、
図11のステップS45~S47に示すように、
図6のステップS2~S4におけるのと同様に血圧測定を開始する。すなわち、CPU110は、まず、圧力センサ31を初期化する(ステップS45)。
【0098】
次に、CPU110は、弁駆動回路330を介して弁33を閉じ(ステップS46)、続いて、ポンプ駆動回路320を介してポンプ32をオン(起動)して、カフ20(流体袋22)の加圧を開始する(ステップS47)。このとき、CPU110は、
図8(A)に示したのと同様に、カフ圧PCの加圧速度を制御する。
【0099】
次に、
図11のステップS48で、CPU110は
血圧算出部として働いて、この時点で取得されている脈波信号SM(圧力センサ31の出力に含まれた脈波による変動成分)(
図8(B)に示したのと同様)に基づいて、現在設定されているアルゴリズムを使用して血圧値(最高血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧))の算出を試みる。
【0100】
この時点で、データ不足のために未だ血圧値を算出できない場合は(ステップS49でNo)、カフ圧PCが上限圧力(安全のために、例えば300mmHgというように予め定められている。)に達していない限り、ステップS47~S49の処理を繰り返す。
【0101】
ここで、CPU110は、次のようにして血圧値を算出する。すなわち、カフ20が加圧過程にあるときカフ圧PCから得られた、脈波信号SMがなす脈波振幅(ピーク・ツゥ・ピーク)の列に対して、
図12に示すような包絡線ENV-h,ENV-u,ENV-dを設定する。包絡線ENV-hは、手首90の回転姿勢が
図5(A)に示すような「横向き」であるときの包絡線を例示している。包絡線ENV-uは、手首90の回転姿勢が
図5(B)に示すような「上向き」であるときの包絡線を例示している。また、包絡線ENV-dは、手首90の回転姿勢が
図5(C)に示すような「下向き」であるときの包絡線を例示している。
図12の例では、包絡線ENV-h,ENV-u,ENV-dが、互いに横軸(カフ圧)方向にずれたものとなっている(
図12の例では、各包絡線ENV-h,ENV-u,ENV-dの最大振幅値AmpMaxは1に正規化されている。)。
【0102】
この状況下で、手首90の回転姿勢が
図5(A)に示すような「横向き」であるとき、CPU110は、
図12中に示す包絡線ENV-hがスレッシュレベルTHS2-u、THD2-uを横切った時点のカフ圧PCを、それぞれ最高血圧(収縮期血圧)、最低血圧(拡張期血圧)として算出する。また、手首90の回転姿勢が
図5(B)に示すような「上向き」であるとき、CPU110は、
図12中に示す包絡線ENV-uがスレッシュレベルTHS2-u、THD2-uを横切った時点のカフ圧PCを、それぞれ最高血圧(収縮期血圧)、最低血圧(拡張期血圧)として算出する。また、手首90の回転姿勢が
図5(C)に示すような「下向き」であるとき、CPU110は、
図12中に示す包絡線ENV-dがスレッシュレベルTHS2-d、THD2-dを横切った時点のカフ圧PCを、それぞれ最高血圧(収縮期血圧)、最低血圧(拡張期血圧)として算出する。このようにした場合、手首90の回転姿勢が
図5(A)に示すような「横向き」、
図5(B)に示すような「上向き」、
図5(C)に示すような「下向き」のいずれの場合も、
図12中に示すように、血圧測定誤差の発生を抑えた、実質的に互いに同じ最高血圧(収縮期血圧)BPsys2-s、実質的に互いに同じ最低血圧(拡張期血圧)BPdia2-sを算出することができる。したがって、血圧値(最高血圧及び最低血圧)を精度良く算出できる。この理由は、メモリ51に記憶された複数の候補となるアルゴリズムは、
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)に示す手首90の回転姿勢に応じてそれぞれ血圧測定誤差を抑えるように規定されているからである。
【0103】
また、CPU110は、ステップS47~S49の処理を繰り返す間、カフ圧PCから得られた脈波をカウントして、脈拍数(単位;拍/分)を算出する。
【0104】
このようにして血圧値、脈拍数の算出ができたら(ステップS49でYes)、CPU110は、ポンプ32をオフし(ステップS50)、弁33を開いて(ステップS51)、カフ20(流体袋22)内の空気を排気する制御を行う。
【0105】
この後、CPU110は、算出した血圧値、脈拍数を表示器50へ表示し(ステップS52)、血圧値、脈拍数、および、手首90の回転姿勢を表すデータを、メモリ51へ保存する制御を行う。
【0106】
このようにして上記スケジュールで定められた1回の血圧測定が完了すると、ステップS53で、CPU110は、上記スケジュールで定められた全ての血圧測定が完了したか否かを判断する。ここで、上記スケジュールによって血圧測定が未だ予定されている限り(ステップS53で「未完」)、ステップS42に戻る。そして、上記スケジュールで定められた次回の測定時刻になるのを待つ(ステップS42でNo)。
【0107】
上記スケジュールで定められた次回の測定時刻になると(ステップS42でYes)、CPU110は、ステップS43~S52の処理を繰り返す。このようにして、CPU110は、上記スケジュールによって血圧測定が未だ予定されている限り(ステップS53で「未完」)、測定を繰り返し、上記スケジュールで定められた全ての血圧測定が完了すると(ステップS53で「終了」)、上記夜間血圧測定モードを終了する。
【0108】
このように、この血圧計100の夜間血圧測定モードの第2の動作フローでは、CPU110は、検出された手首90の回転姿勢に応じた血圧測定誤差を抑えるようなアルゴリズムを選択して設定し、カフ20が加圧過程または減圧過程にあるとき、カフ圧に基づいて、オシロメトリック法により上記アルゴリズムを使用して血圧値を算出する。したがって、この血圧計100によれば、被測定部位としての手首90の回転姿勢に応じて、血圧を精度良く算出できる。
【0109】
なお、上記第2の動作フローでは、手首90の回転姿勢を、
図5(D)~
図5(F)に示したようにZX面内で3つの角度範囲に区分して検出したが、これに限られるものではない。
図11のステップS43で、CPU110は、手首90の回転姿勢を、4つ以上の角度範囲に区分して検出してもよい。その場合、メモリ51には、それらの4つ以上の角度範囲ごとに、各角度範囲に応じてそれぞれ血圧測定誤差を抑えるように規定された複数の候補となるアルゴリズムを、予め記憶させておく。そして、ステップS44で、CPU110は、複数の候補となるアルゴリズムのうち、検出された手首90の角度範囲に応じたアルゴリズムを選択して設定する。このようにした場合、血圧値(最高血圧及び最低血圧)をさらに精度良く算出できる。
【0110】
[IV]夜間血圧測定モードにおける第1の動作フローの変形例
上記夜間血圧測定モードにおける第1の動作フローでは、
図7のステップS17で、CPU110は、上記仰臥位用のアルゴリズム(
図9中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2と拡張期用のスレッシュレベルTHD2とを用いる。)を使用して血圧値を算出したが、これに限られるものではない。上記仰臥位用のアルゴリズムのスレッシュレベルTHS2,THD2自体は、手首90の回転姿勢に応じて生ずる血圧測定誤差に対して、特に対策されたものではないからである。
【0111】
そこで、
図7のステップS17で、CPU110は、上記仰臥位用のアルゴリズム(スレッシュレベルTHS2,THD2)に代えて、ステップS13で検出された手首90の回転姿勢にかかわらず、例えば、手首90の特定の回転姿勢(この例では、
図5(A)に示すような「横向き」)に応じて血圧測定誤差を抑えるように規定された特定のアルゴリズム(例えば、
図12中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2-hと、対応する拡張期用のスレッシュレベルTHD2-hとを、組み合わせて用いる。)を使用して血圧値を算出してもよい。
【0112】
その場合、ステップS13で検出された手首90の回転姿勢が
図5(A)に示すような「横向き」であるとき、
図7のステップS21で、CPU110は、ステップS17で算出された血圧値を、補正する必要がない。一方、ステップS13で検出された手首90の回転姿勢が
図5(B)に示すような「上向き」であるとき、
図7のステップS21で、CPU110は、
図10の誤差テーブルの「横向きとの差」欄を参照して、ステップS17で算出された算出した最低血圧(拡張期血圧)BPdia2-s、最高血圧(収縮期血圧)BPsys2-sに、それぞれ1.87mmHg、2.55mmHgだけ加算する。また、ステップS13で検出された手首90の回転姿勢が
図5(C)に示すような「下向き」であるとき、
図7のステップS21で、CPU110は、
図10の誤差テーブルの「横向きとの差」欄を参照して、ステップS17で算出された最低血圧(拡張期血圧)BPdia2-s、最高血圧(収縮期血圧)BPsys2-sに、それぞれ1.65mmHg、2.80mmHgだけ加算する。この理由は、
図10の誤差テーブルの「横向きとの差」欄に記憶されている差分は、オシロメトリック法により上記特定のアルゴリズム(
図12中に示す収縮期用のスレッシュレベルTHS2-hと、対応する拡張期用のスレッシュレベルTHD2-hとを、組み合わせて用いる。)を使用して血圧算出を行ったときの、ヒトの手首の上記特定の回転姿勢(この例では、
図5(A)に示す「横向き」)とは異なる他の回転姿勢(この例では、
図5(B)に示すような「上向き」、
図5(C)に示すような「下向き」)に応じた血圧測定誤差に相当するからである。
【0113】
このようにした場合、血圧値(最高血圧及び最低血圧)を精度良く算出できる。しかも、CPU110は、ユーザの手首90が上記他の回転姿勢をとっているときに限り、算出された血圧値を補正するので、血圧算出の処理が簡単になる。
【0114】
なお、手首90の特定の回転姿勢を
図5(A)に示すような「横向き」とした理由は、仰臥位では手首90の回転姿勢として「横向き」が最も自然な状態であると考えられるからである。ただし、手首90の特定の回転姿勢として、
図5(A)に示すような「横向き」に代えて、
図5(B)に示すような「上向き」、または、
図5(C)に示すような「下向き」を採用してもよい。
【0115】
以上より明らかなように、血圧計100は、検出された手首90の回転姿勢に応じた血圧測定誤差を抑えるように血圧値を算出するので、被測定部位としての手首90の回転姿勢に応じて、血圧を精度良く算出できる。
【0116】
また、血圧計100は、被測定部位としての手首90(上の例では左手首としたが、右手首でもよい。)を圧迫するタイプであるから、上腕を圧迫するタイプに比して、ユーザ(被験者)の睡眠を妨げる程度が少ないことが期待される(Imai et al., “Development and evaluation of a home nocturnal blood pressure monitoring system using a wrist-cuff device”, Blood Pressure Monitoring 2018, 23,P318-326)。したがって、この血圧計100は、夜間血圧測定に適する。
【0117】
また、この血圧計100は、手首式血圧計として一体かつコンパクトに構成されているので、ユーザによる取り扱いが便利になる。また、この血圧計100では、加速度センサ34を含む回転姿勢検出部が本体10(およびカフ20)に一体に搭載されているので、本体10に対する相対的な重力加速度ベクトルGの向きに応じて、手首90の回転姿勢を簡単に検出できる。
【0118】
(他の変形例)
なお、上述の実施形態では、カフ20(流体袋22)の加圧過程で血圧を算出したが、これに限られるものではない。カフ20の減圧過程で血圧を算出してもよい。
【0119】
また、上述の実施形態では、本体10に設けられた操作部としての測定スイッチ52A、夜間測定スイッチ52Bによって、血圧測定指示、夜間血圧測定モードへの移行指示を入力したが、これに限られるものではない。例えば、本体10に無線通信が可能な通信部を搭載して、この通信部を介して、血圧計100の外部に存在するスマートフォン等から血圧測定指示、夜間血圧測定モードへの移行指示を入力してもよい。
【0120】
また、上述の実施形態では、本体10がカフ20と一体に設けられているものとしたが、これに限られるものではない。本体10は、カフ20と別体として構成され、可撓性のエアチューブを介してカフ20(流体袋22)と流体流通可能に接続されているものとしてもよい。
【0121】
上述の血圧算出方法(特に、
図6、
図7、
図11の動作フロー)を、ソフトウェア(コンピュータプログラム)として、CD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル万能ディスク)、フラッシュメモリなどの非一時的(non-transitory)にデータを記憶可能な記録媒体に記録してもよい。このような記録媒体に記録されたソフトウェアを、パーソナルコンピュータ、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタンツ)、スマートフォンなどの実質的なコンピュータ装置にインストールすることによって、それらのコンピュータ装置に、上述の血圧算出方法を実行させることができる。
【0122】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0123】
10 本体
20 血圧測定用カフ
31 圧力センサ
34 加速度センサ
50 表示器
51 メモリ
52 操作部
52A 測定スイッチ
52B 夜間測定スイッチ
52C チェックスイッチ
110 CPU