(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/184 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
B62D1/184
(21)【出願番号】P 2019204848
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三原 伸
(72)【発明者】
【氏名】カーティケヤン ビジャヤクマー
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-029224(JP,A)
【文献】特開2011-116236(JP,A)
【文献】特開2017-154558(JP,A)
【文献】特開2013-256193(JP,A)
【文献】特開2012-011837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00-1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロアコラムと、
前記ロアコラムに対し摺動自在なアッパコラムと、
前記アッパコラムを挟む第1支持板及び第2支持板を有するブラケットと、
前記第1支持板と前記第2支持板と前記アッパコラムとを貫通する締付軸と、
前記第1支持板に対し前記アッパコラムの反対側に配置され、前記締付軸に貫通される多板構造と、
前記第2支持板に対し前記アッパコラムの反対側に配置されたカム装置及び操作レバーと、
前記締付軸に貫通されるワッシャと、
を備え、
前記第1支持板と前記第2支持板とのそれぞれは、前記締付軸が貫通する長穴を有し、
前記カム装置は、前記操作レバーの操作により回転する可動カムと、前記第2支持板の前記長穴の内周面に接して回り止めする突起が設けられた固定カムと、を有し、
前記多板構造は、前記ブラケットに取り付けられる複数の第1摩擦板と、前記アッパコラムに取り付けられる複数の第2摩擦板と、を備え、
前記第1摩擦板と前記第2摩擦板とは、前記締付軸が延びる方向に交互に並べられ、
前記ワッシャは、前記第1支持板と前記多板構造との間に介在し、
前記締付軸は、頭部と軸部を有し、
前記締付軸の前記頭部は、前記第1支持板に対し前記アッパコラムの反対側に配置され、
前記締付軸の軸部に取り付けられるナットは、前記第2支持板に対し前記アッパコラムの反対側に配置され、
前記操作レバーは、前記締付軸及び前記ナットに対して相対回転可能となっている
ステアリング装置。
【請求項2】
前記多板構造は、前記第1支持板に対し前記アッパコラムの反対側にのみ配置されている
請求項1に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、操作者(運転者)のステアリングホイールに対する操作を車輪に伝えるための装置としてステアリング装置が設けられている。ステアリング装置は、ステアリングホイールの位置を調節するための調節機構を備えることがある。例えば、特許文献1には、ステアリングホイールの位置を、ステアリングシャフトの回転軸方向と、上下方向との2方向に調節できるステアリング装置の一例が記載されている。以下、ステアリングシャフトの回転軸方向を単に「回転軸方向」という。
【0003】
特許文献1のステアリング装置は、ロアコラムと、ロアコラムに摺動自在なアッパコラムと、アッパコラムを挟持する一対の支持板を有するブラケットと、アッパコラム及び一対の支持板を貫通する締付軸と、を備える。一対の支持板は、貫通される締付軸を上下方向に移動自在に支持している。また、アッパコラムは、締付軸に対し、回転軸方向に移動自在になっている。よって、締付軸を上下方向に移動させることでアッパコラムが共に移動し、ステアリングホイールの高さを調整できる。また、アッパコラムを回転軸方向に移動させることで、ステアリングホイールを回転軸方向に調整できる。また、特許文献1のステアリング装置は、アッパコラムと締付軸とを固定するため、複数の摩擦板を備える多板構造を採用している。
【0004】
下記特許文献1の多板構造は、ブラケットに取り付けられた複数の第1摩擦板と、アッパコラムと連結するテレスコブラケットに取り付けられた複数の第2摩擦板と、を備える。複数の第1摩擦板と複数の第2摩擦板は、ブラケットの両側に分かれて配置され、それぞれ締付軸に貫通されている。各第1摩擦板の間には、締付軸に貫通されたワッシャが介在している。同様に、各第2摩擦板の間には、締付軸に貫通されたワッシャが介在している。そして、ワッシャと各摩擦板とが締付軸により締め付けられると、ワッシャと各摩擦板との間に作用する摩擦力が増大する。これにより、締付軸とアッパコラムは、ブラケットに対し移動しないように固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多板構造を採用するステアリング装置は、部品点数が多い。よって、部品の削減が望まれている。また、締付軸には、操作レバーと、操作レバーの操作により作動するカム装置と、が設けられている。このカム装置のうち固定カムは、支持板に形成された長穴の内周面に当接する突起を備える。この突起により、固定カムは回転しないように規制されている。特許文献1のステアリング装置は、固定カムと支持板との間に、複数の摩擦板が介在している。このため、固定カムの突起が長尺化している。
【0007】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、多板構造を採用しつつ、部品点数の削減と、固定カムの突起の短縮化とを図ることができるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るステアリング装置は、ロアコラムと、前記ロアコラムに対し摺動自在なアッパコラムと、前記アッパコラムを挟む第1支持板及び第2支持板を有するブラケットと、前記第1支持板と前記第2支持板と前記アッパコラムとを貫通する締付軸と、前記第1支持板に対し前記アッパコラムの反対側に配置され、前記締付軸に貫通される多板構造と、前記第2支持板に対し前記アッパコラムの反対側に配置されたカム装置及び操作レバーと、前記締付軸に貫通されるワッシャと、を備え、前記第1支持板と前記第2支持板とのそれぞれは、前記締付軸が貫通する長穴を有し、前記カム装置は、前記操作レバーの操作により回転する可動カムと、前記第2支持板の前記長穴の内周面に接して回り止めする突起が設けられた固定カムと、を有し、前記多板構造は、前記ブラケットに取り付けられる複数の第1摩擦板と、前記アッパコラムに取り付けられる複数の第2摩擦板と、を備え、前記第1摩擦板と前記第2摩擦板とは、前記締付軸が延びる方向に交互に並べられ、前記ワッシャは、前記第1支持板と前記多板構造との間に介在している。
【0009】
第1摩擦板と第2摩擦板とをブラケットの両側に分けて配置していない。言い換えると第1摩擦板と第2摩擦板とを交互に並べて第1摩擦板と第2摩擦板との間で摩擦力を発揮できるようにしている。このため、従来、第1摩擦板同士の間及びに第2摩擦板同士の間に介在していたワッシャが不要となり、品点数の削減を図れる。そして、締付軸の締め付けによって、第1摩擦板と第2摩擦板との間に作用する摩擦力が増大し、締付軸及びアッパコラムが固定される。よって、ステアリングホイールを確実に固定できる。さらに、固定カムと第2支持板との間には、摩擦板が介在しない。よって、固定カムの突起が、締付軸の軸方向に短くなり、剛性が向上する。このため、操作レバーを操作した時の固定カムの変形が抑制されるので、操作感が向上する。ステアリング装置は、多板構造によってステアリングホイールを確実に固定でき、且つ操作レバーを操作する時の操作感を向上させることができる。また、製造コストの削減を図れる。ここで、仮に、第1支持板と多板構造との間にワッシャが介在していない場合、第1支持板に対し摩擦板が当接してしまう。よって、締付軸の締め付け力が第1支持板の全体に分散し、第1支持板と第2支持板とで確実にアッパコラムを確実に挟持(クランプ)できない可能性がある。しかしながら、本開示のステアリング装置によれば、第2ワッシャが当接する部分に集中して締め付け力が作用する。よって、第1支持板と第2支持板とでアッパコラムを確実に挟持(クランプ)することができる。
【0010】
上記のステアリング装置の望ましい態様として、前記締付軸は、頭部と軸部を有し、前記締付軸の前記頭部は、前記第1支持板に対し前記アッパコラムの反対側に配置され、前記締付軸の軸部に取り付けられるナットは、前記第2支持板に対し前記アッパコラムの反対側に配置される。
【0011】
これにより、第1摩擦板及び第2摩擦板を貫通した状態軸部を第1支持板の長穴に挿入した場合、第1摩擦板及び第2摩擦板が頭部に引っ掛かり、軸部から脱落しない。よって、第1摩擦板及び第2摩擦板の組み付けが容易となる。
【発明の効果】
【0012】
本開示のステアリング装置は、多板構造を採用しつつ、部品点数の削減と、固定カムの突起の短縮化とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態におけるステアリング装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態におけるステアリング装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態におけるステアリング装置の斜視図である。
【
図4】
図4は、本実施形態におけるステアリング装置の平面図である。
【
図8】
図8は、
図7における第1支持板と多板構造の近傍を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
図1は、本実施形態におけるステアリング装置の斜視図である。
図2は、本実施形態におけるステアリング装置の斜視図である。
図3は、本実施形態におけるステアリング装置の斜視図である。
図4は、本実施形態におけるステアリング装置の平面図である。
図5は、
図4におけるA-A断面図である。
図6は、
図4におけるB-B断面図である。
図7は、
図5におけるC-C断面図である。
図8は、
図7における第1支持板と多板構造の近傍を拡大した拡大図である。
【0016】
(実施形態)
図1に示すように、ステアリング装置100は、ステアリングホイール101と、ステアリングシャフト20と、ユニバーサルジョイント103と、中間シャフト105と、ユニバーサルジョイント107と、を備える。
【0017】
ステアリングシャフト20は、入力軸21と、出力軸22と、を備える。入力軸21及び出力軸22は、ステアリングコラム50に支持されている。入力軸21の一端は、ステアリングホイール101に連結される。入力軸21の他端は、出力軸22に連結される(
図5参照)。入力軸21は、出力軸22に対してトルクを伝達でき、且つ出力軸22に対して軸方向に移動できるように連結される。出力軸22は、ユニバーサルジョイント103に連結される。中間シャフト105の一端は、ユニバーサルジョイント103に連結される。中間シャフト105の他端は、ユニバーサルジョイント107に連結される。ユニバーサルジョイント107は、ピニオンシャフト109に連結される。
【0018】
以下の説明において、XYZ直交座標系が用いられる。X軸は、ステアリング装置100が搭載された車両の車幅方向に平行である。Z軸は、ステアリングシャフト20の回転軸方向に平行である。Y軸は、X軸及びZ軸の両方に対して垂直である。X軸に沿う方向はX方向と記載され、Y軸に沿う方向はY方向と記載され、Z軸に沿う方向はZ方向と記載される。Z方向のうち車両の前方に向かう方向を+Z方向とする。操作者が+Z方向を向いた場合の右方向を+X方向とする。Y方向のうち上方に向かう方向を+Y方向とする。
【0019】
図2に示すように、ステアリング装置100は、ステアリングコラム50と、天板10と、第1ブラケット40と、第2ブラケット80と、締付機構30と、を備える。
【0020】
ステアリングコラム50は、ステアリングシャフト20を支持する部材である。ステアリングシャフト20の入力軸21及び出力軸22は、回転軸Zを中心に回転できる。回転軸Zは、入力軸21の長手方向に対して直交する平面で入力軸21を切った場合の各断面の重心を通る直線である。
【0021】
図2から
図5に示すように、ステアリングコラム50は、アッパコラム51と、ロアコラム54と、を備える。アッパコラム51は、略円筒状の部材である。アッパコラム51は、ロアコラム54の後方に配置される。アッパコラム51は、軸受を介して入力軸21を支持する。ロアコラム54は、略円筒状の部材である。
図5に示すように、ロアコラム54の一部は、アッパコラム51の内側に嵌められる。ロアコラム54の一部は、アッパコラム51の内壁に接する。アッパコラム51とロアコラム54との間には摩擦力が作用している。通常の使用状態では、アッパコラム51とロアコラム54との間の摩擦力によって、アッパコラム51とロアコラム54との相対的な移動が規制される。一方、アッパコラム51に大きな荷重が作用した時(2次衝突時など)において、アッパコラム51とロアコラム54は、摩擦力に抗いながら相対的に移動する。
【0022】
図7に示すように、アッパコラム51は、本体部511と、スリット513と、突出部514と、突出部515と、を備える。本体部511は、ステアリングシャフト20を覆う円筒状の部材である。スリット513は、本体部511の一部に設けられる切欠きである。スリット513は、Z方向に沿って延びる。スリット513の-Z方向の端部は、開放している。突出部514及び突出部515は、本体部511から-Y方向に延びる。突出部514は、スリット513に対して+X方向に配置される。突出部514は、長穴5141を備える。突出部515は、スリット513に対して-X方向に配置される。突出部515は、長穴5151を備える。この長穴5141、5151には、締付機構30の締付軸35が挿入している。よって、アッパコラム51と締付軸35は、一体となっている。また、長穴5141、5151は、Z方向に沿って延びている(
図5参照)。このため、アッパコラム51は、締付軸35に対し、Z方向に摺動可能(移動可能)となっている。
【0023】
図2に示すように、アッパコラム51には、本体部511から-Y方向に突出する摩擦板支持部516が設けられている。摩擦板支持部516は、+X方向に突出する突起517を有している。突起517は、第2摩擦板362を支持するための部位である。
【0024】
天板10は、ステアリングコラム50を支持するための部材である。天板10は、ステアリングコラム50の+Y方向に配置される。天板10は、車両に設けられるステアリングサポートメンバーに固定される。
図4に示すように、天板10は、第1固定部11と、第2固定部12と、連結部15と、を備える。第1固定部11、第2固定部12、及び連結部15は、一体に成形される。
【0025】
第1固定部11は、板状の部材である。第1固定部11は、Y方向から見てアッパコラム51に重なるように配置される。第1固定部11は、車両に設けられるステアリングサポートメンバーに、ボルトによって固定される。
【0026】
第2固定部12は、箱状の部材である。第2固定部12は、第1固定部11に対して前方に配置される。第2固定部12は、Y方向から見てロアコラム54に重なるように配置される。第2固定部12のX方向の幅は、第1固定部11のX方向の幅よりも小さい。第2固定部12は、車両に設けられるステアリングサポートメンバーに、ボルトによって固定される。
【0027】
連結部15は、板状の部材である。連結部15は、第1固定部11及び第2固定部12を連結する。連結部15のX方向の幅は、第1固定部11のX方向の幅とほぼ等しく、第2固定部12のX方向の幅よりも大きい。連結部15は、第1穴151と、2つの第2穴153と、を備える。第1穴151は、連結部15の中央に配置される。車両に設けられるステアリングサポートメンバーが天板10の近くまで配置されることがある。第1穴151は、ステアリングサポートメンバーと天板10との干渉を避けるための穴である。例えば、ステアリングサポートメンバーの一部が第1穴151に挿入される。第2穴153は、Z方向に沿う長穴である。すなわち、第2穴153は、第1固定部11から第2固定部12に向かって延びる長穴である。第2穴153は、第1穴151の両側に配置される。
【0028】
第1ブラケット40及び第2ブラケット80は、ステアリングコラム50を支持するための部材である。第1ブラケット40は、チルトブラケットとも呼ばれる。第2ブラケット80は、ピボットブラケットとも呼ばれる。第2ブラケット80は、第1ブラケット40に対して+Z方向に配置される。第1ブラケット40は、ボルトによって第1固定部11に取り付けられる。第1ブラケット40と第1固定部11を連結するボルトは、第1固定部11とステアリングサポートメンバーを連結するボルトである。第2ブラケット80は、ロアコラム54の外周面に固定される。第2ブラケット80は、第2固定部12に対して回転できるように第2固定部12に取り付けられる。
図2に示すように、第2ブラケット80は、軸方向がX方向に沿うピボットシャフト81を備える。ピボットシャフト81が第2固定部12と連結される。ステアリングコラム50は、ピボットシャフト81を中心に回転できる。
【0029】
図6及び
図7に示すように、第1ブラケット40は、取付板41と、離脱カプセル49と、ガイドピン47と、第1支持板44と、第2支持板45と、を備える。取付板41は、ステアリングコラム50の+Y方向に配置される。離脱カプセル49は、ボルトによって第1固定部11に取り付けられる。離脱カプセル49は、例えばダイカスト用アルミニウム合金(ADC材(Aluminum alloy Die Casting))などの軽量合金で形成される。取付板41は、例えば樹脂インジェクションで形成された樹脂部材48によって、離脱カプセル49と連結されている。2次衝突時などにおいて、ステアリングコラム50に+Z方向の荷重が作用することによって、離脱カプセル49に対して取付板41が移動し、樹脂部材48が切断される。これにより、離脱カプセル49を除く第1ブラケット40、及びアッパコラム51がステアリングサポートメンバーから離脱する。このように、第1ブラケット40は、所定荷重が作用した時に第1固定部11に対して離脱できるように第1固定部11に取り付けられる。第1ブラケット40が第1固定部11から離脱した後、アッパコラム51とロアコラム54との間の摩擦により衝撃が吸収される。
【0030】
図6に示すように、ガイドピン47は、取付板41に取り付けられる。ガイドピン47は、連結部15の第2穴153を貫通する。ガイドピン47は、第2穴153の内壁に案内される。これにより、第1ブラケット40が第1固定部11から離脱した後、アッパコラム51がZ方向に沿って真っすぐに移動しやすくなる。
【0031】
図7に示すように、第1支持板44及び第2支持板45は、取付板41から-Y方向に延びる板状の部材である。第1支持板44及び第2支持板45は、X方向に隙間を空けて配置される。第1支持板44及び第2支持板45は、ステアリングコラム50を挟む。すなわち、第1支持板44及び第2支持板45の間に、ステアリングコラム50が配置される。第1支持板44は、長穴441を備える。第2支持板45は、長穴451を備える。長穴441及び長穴451は、ピボットシャフト81(
図2参照)を中心とした円弧に沿って延びている。また、第1支持板44は、穴442を備える(
図6の破線を参照)。穴442は、長穴441よりも+Y方向に位置している。
図2に示すように、穴442には、締結具443のボルトの軸部が挿入されている。
【0032】
締付機構30は、ステアリングコラム50の位置の調節が可能な状態と、ステアリングコラム50の位置が固定された状態と、を切り替えるための装置である。
図7に示すように、締付機構30は、締付軸35と、ナット34と、固定カム31と、可動カム32と、スラストベアリング33と、操作レバー39と、ケース37と、コイルバネ38と、複数の摩擦板36と、第1ワッシャ363と、第2ワッシャ364と、を備える。なお、複数の摩擦板36は、多板構造と呼ばれることがある。また、固定カム31と可動カム32とを併せてカム装置と呼ばれることがある。さらに、第2ワッシャ364は、単にワッシャと呼ばれることがある。
【0033】
図7に示すように、締付軸35は、軸部350と、頭部351と、雄ネジ352と、を備える。軸部350は、X方向に延在する円柱状の部材である。軸部350は、長穴441、長穴5141、長穴5151及び長穴451に挿入されている。頭部351は、第1支持板44の+X方向に配置される。雄ネジ352は、軸部350の-X方向の端部に配置される。よって、雄ネジ352は、第1支持板44の-X方向に配置される。
【0034】
固定カム31は、略円盤状の部材である。固定カム31は、第2支持板45の-X方向に配置される。締付軸35は、固定カム31を貫通する。固定カム31は、+X方向に突出する突起311を備える。突起311は、第2支持板45の長穴451に挿入されている。突起311の外周面は、長穴451の内周面に当接している。突起311の外周面は、非円形状となっており、固定カム31が第2支持板45に対し回転しないようになっている。
【0035】
可動カム32は、略円盤状の部材である。可動カム32は、固定カム31の-X方向に配置される。締付軸35は、可動カム32を貫通する。可動カム32の一部は、操作レバー39に嵌まっている。これにより、可動カム32は、操作レバー39と共に回転する。そして、可動カム32が固定カム31に対して相対的に回転すると、可動カム32は、固定カム31に対する相対角度に応じて、X方向に移動する。例えば、可動カム32は、締付軸35を中心とした周方向に沿う傾斜面を備える。固定カム31は、可動カム32の傾斜面が嵌まる凹部を備える。傾斜面が凹部に嵌まっている状態から可動カム32が回転すると、傾斜面が固定カム31に乗り上げることによって、可動カム32が-X方向に移動する。
【0036】
操作レバー39は、可動カム32を回転させるための部材である。操作レバー39は、可動カム32の-X方向に配置される。締付軸35は、操作レバー39を貫通する。操作レバー39は、車室内まで延びており、操作者によって操作される。
【0037】
ナット34は、操作レバー39の-X方向に配置される。ナット34は、締付軸35の雄ネジ352に取り付けられる。スラストベアリング33は、操作レバー39とナット34との間に配置される。これにより、操作レバー39が回転しても、ナット34は回転しない。操作レバー39が回転させられると、可動カム32が回転する一方で、締付軸35及びナット34は回転しない。なお、本実施形態では、締付軸の頭部が第1支持板の+X方向に配置され、ナットが第2支持板の-X方向に配置されているが、逆に配置してもよい。
【0038】
ケース37は、有底筒状の部材であり、操作レバー39の-X方向に配置される。ケース37は、締付軸35の先端及びナット34を覆う。ケース37は、例えばボルトによって操作レバー39に固定され、操作レバー39と共に回転する。
【0039】
コイルバネ38は、ケース37の内側に配置される。これにより、操作レバー39がナット34側に引き寄せられる。このため、ステアリングコラム50の位置を調節できる状態(アンロック状態)においても、操作レバー39とスラストベアリング33との間に隙間が生じない。したがって、操作レバー39のガタツキが抑制される。
【0040】
図2に示すように、複数の摩擦板36は、複数の第1摩擦板361と、複数の第2摩擦板362と、を備える。第1摩擦板361及び第2摩擦板362は、ともにY方向とZ方向とに延在する金属製の平板である。X方向から視た場合、第1摩擦板361は、Z方向よりもY方向に長く形成されている。一方で、X方向から視た場合、第2摩擦板362は、Y方向よりもZ方向に長く形成されている。
【0041】
第1摩擦板361は、+Y方向の端部に図示しない円形状の穴が形成されている。この穴には、締結具443のボルトの軸部が挿入されている。そして、複数の第1摩擦板361は、締結具443に締め付けられ、第1支持板44に固定されている。第2摩擦板362は、Z方向の端部にY方向に長穴3621が形成されている。この長穴3621には、アッパコラム51の突起517が嵌合している。よって、第2摩擦板362は、アッパコラム51に固定されている。なお、突起517と長穴3621は、Y方向に長く形成されている。このため、第2摩擦板362が突起517を中心に回転しない。
【0042】
図8に示すように、第1摩擦板361と第2摩擦板362は、3枚ずつ設けられている。第1摩擦板361と第2摩擦板362とは、X方向に交互に配置されている。また、-X方向から+X方向に向かって第1摩擦板361、第2摩擦板362の順で配列している。よって、複数の摩擦板36のうち、最も-X方向に配置されるのが第1摩擦板361であり、最も+X方向に配置されるのが第2摩擦板362となっている。なお、本実施形態においては、第1摩擦板361と第2摩擦板362とのそれぞれは、3枚ずつ設けられているが、本開示のステアリング装置100においてはこの枚数に限定されない。また、第1摩擦板361と第2摩擦板362との配列を変更してもよい。
【0043】
第1摩擦板361の-Y方向の端部には、長穴3611が形成されている。第1摩擦板361の長穴3611には、締付軸35が挿入されている。第1摩擦板361の長穴3611は、ピボットシャフト81(
図2参照)を中心とした円弧状となっており、Y方向に延在している。つまり、第1摩擦板361の長穴3611は、第1支持板44の長穴441(
図6参照)及び第2支持板45の長穴451と、同じ形状となっている。このため、締付軸35が第1支持板44の長穴441や第2支持板45の長穴451に沿って移動することを妨げないようになっている。
【0044】
第2摩擦板362の-Z方向の端部には、長穴3622が形成されている。第2摩擦板362の長穴3622には、締付軸35が挿入されている。第2摩擦板362の長穴3622は、Z方向に延在している。つまり、第2摩擦板362の長穴3622は、アッパコラム51の長穴5141(
図5参照)、5151と同形状となっている。このため、アッパコラム51がY方向に移動することを妨げないようになっている。
【0045】
第1ワッシャ363及び第2ワッシャ364は、外形及び内形が円形状の部材である。第1ワッシャ363は、複数の摩擦板36と締付軸35の頭部351との間に介在している。これにより、締付軸35の頭部351が当接する面(座面)を確保することができる。第2ワッシャ364は、複数の摩擦板36と第1支持板44との間に介在している。よって、複数の摩擦板36のうち最も-X方向に配置される第1摩擦板361は、第1支持板44と離隔している。また、第2ワッシャ364は、X軸方向から視た場合の面積は、第1摩擦板361より小さい。ここで、第1支持板44に対して第1摩擦板361が当接していると、締付軸35の頭部351による押圧力が第1摩擦板361を介して第1支持板44の全体に分散してしまう。一方、本実施形態によれば、第1支持板44のうち第2ワッシャ364に当接する部分に締付軸35の頭部351の押圧力が集中する。
【0046】
次に、締付機構30の動作例について説明する。
図7に示すように、操作レバー39の回転により可動カム32が固定カム31から離れると、ナット34は、可動カム32に押圧されて-X方向に移動する。また、ナット34と一体な締付軸35も併せて-X方向に移動する。そして、締付軸35の頭部351は、第1ワッシャ363を介して、複数の摩擦板36を-X方向に押圧する。複数の摩擦板36は、第1支持板44と締付軸35の頭部351とに挟まれ、X方向に圧縮するような荷重を受ける。よって、第1摩擦板361と第2摩擦板362との間に作用する摩擦力が増大した状態となる。この結果、締付軸35に対しY方向への荷重が作用しても、締付軸35の外周面が第2摩擦板362の長穴3622の内周面に当接し、締付軸35はY方向に移動しない。また、アッパコラム51に対しZ方向に荷重が作用しても、アッパコラム51と一体な第2摩擦板362が移動しないように規制されているため、アッパコラム51はY方向に移動しない。
【0047】
また、上記した操作レバー39の操作によれば、固定カム31は、可動カム32が離れる際に反力を受け、+X方向に押圧される。このため、第2支持板45は、固定カム31により+X方向に押圧される。一方で、第2ワッシャ364は、複数の摩擦板36を介して締付軸35の頭部351から-X方向へ押圧される。このため、第1支持板44は、第2ワッシャ364により-X方向に押圧される。さらに、固定カム31と第2ワッシャ364とは、締付軸35とに貫通されている。以上から、第1支持板44と第2支持板45とに作用する締め付け力(押圧力)は、X軸方向(締付軸35上)で互いに対向している。このため、第1支持板44と第2支持板45とでアッパコラム51を確実に挟持(クランプ)することができる。
【0048】
また、本実施形態では、第1支持板44と第2支持板45との間であって締付軸35上には、アッパコラム51の突出部514、515が配置されている。よって、アッパコラム51の突出部514、515は、互いに近づくように押圧され、アッパコラム51のスリット513の幅が小さくなる。そして、アッパコラム51の内周面がロアコラム54の外周面に押し付けられる。アッパコラム51とロアコラム54との間の摩擦が大きくなる。このため、締付軸35が長穴5141及び長穴5151の中で移動できなくなり、アッパコラム51のZ方向(前後方向)の位置が固定される。
【0049】
一方で、操作レバー39の回転により可動カム32が固定カム31に近づくと、ナット34と一体な締付軸35も併せて+X方向に移動する。これにより、締付軸35の頭部351の押圧力が低減し、第1摩擦板361と第2摩擦板362との間に作用する摩擦力も低減する。また、アッパコラム51の突出部514、515に作用する締め付け力も低減し、アッパコラム51とロアコラム54との間の摩擦力も低減する。以上から、締付軸35に対しY方向の荷重が作用すると、締付軸35の軸部350が第2摩擦板362をY方向に押圧しながら移動する。よって、ステアリングホイール101をY方向に調整することが可能となる。また、アッパコラム51に対しZ方向の荷重が作用すると、第1摩擦板361に対し第2摩擦板362を引きずりながら移動する。よって、ステアリングホイール101をZ方向に調整することができる。
【0050】
以上で説明したように、ステアリング装置100は、ロアコラム54と、ロアコラム54に対し摺動自在なアッパコラム51と、アッパコラム51を挟む第1支持板44及び第2支持板45を有するブラケット(第1ブラケット40)と、第1支持板44と第2支持板45とアッパコラム51とを貫通する締付軸35と、第1支持板44に対しアッパコラム51の反対側に配置され、締付軸35に貫通される多板構造(複数の摩擦板36)と、第2支持板45に対しアッパコラム51の反対側に配置されたカム装置及び操作レバー39と、締付軸35に貫通されるワッシャ(第2ワッシャ364)と、を備える。第1支持板44と第2支持板45とのそれぞれは、締付軸35に貫通される長穴441、451を有する。カム装置は、操作レバー39の操作により回転する可動カム32と、第2支持板45の長穴451の内周面に接して回り止めする突起311が設けられた固定カム31と、を有する。多板構造(複数の摩擦板36)は、ブラケット(第1ブラケット40)に取り付けられる複数の第1摩擦板361と、アッパコラム51に取り付けられる複数の第2摩擦板362と、を備える。第1摩擦板361と第2摩擦板362とは、締付軸35が延びる方向に交互に並べられる。ワッシャ(第2ワッシャ364)は、第1支持板44と多板構造(複数の摩擦板36)との間に介在している。
【0051】
第1摩擦板361と第2摩擦板362とをブラケット(第1ブラケット40)の両側に分けて配置していない。つまり、第1摩擦板361と第2摩擦板362とを交互に並べ、第1摩擦板361と第2摩擦板362との間で摩擦力を発揮できるようにしている。このため、従来、第1摩擦板361同士の間及びに第2摩擦板362同士の間に介在していたワッシャが不要となり、品点数の削減を図れる。そして、締付軸35の締め付けによって、第1摩擦板361と第2摩擦板362との間に作用する摩擦力が増大し、締付軸35及びアッパコラム51が固定される。よって、ステアリングホイール101を確実に固定できる。さらに、固定カム31と第2支持板45との間には、摩擦板が介在しない。よって、固定カム31の突起311が、締付軸35の軸方向に短くなり、剛性が向上する。このため、操作レバー39を操作した時の固定カム31の変形が抑制されるので、操作感が向上する。ステアリング装置100は、多板構造によってステアリングホイール101を確実に固定でき、且つ操作レバー39を操作する時の操作感を向上させることができる。また、製造コストの削減を図れる。
【0052】
仮に、第1支持板44と摩擦板36との間にワッシャ(第2ワッシャ364)が介在していない場合、第1支持板44に対して第1摩擦板361が当接してしまう。よって、締付軸35の頭部351による押圧力が第1支持板44の全体に分散し、第1支持板44と第2支持板45とで確実にアッパコラム51を確実に挟持(クランプ)できない可能性がある。一方で、本開示のステアリング装置100によれば、第2ワッシャ364が当接する部分に頭部351による押圧力が集中して作用する。よって、第1支持板44と第2支持板45とでアッパコラム51を確実に挟持(クランプ)することができる。
【0053】
また、実施形態の締付軸35は、頭部351と軸部350を有し、締付軸35の頭部351は、第1支持板44に対しアッパコラム51の反対側に配置され、締付軸35の軸部350に取り付けられるナット34は、第2支持板45に対しアッパコラム51の反対側に配置される。
【0054】
このため、第1摩擦板361及び第2摩擦板362の組み付けに関し、締付軸35の軸部350で第1摩擦板361及び第2摩擦板362を貫通した状態とし、その軸部350を第1支持板44の長穴441に挿入した場合、第1摩擦板361及び第2摩擦板362が頭部351に引っ掛かる。よって、第1摩擦板361及び第2摩擦板362が軸部350から脱落しない。このため、第1摩擦板361及び第2摩擦板362の組み付けが容易となる。
【符号の説明】
【0055】
10 天板
11 第1固定部
12 第2固定部
15 連結部
20 ステアリングシャフト
21 入力軸
22 出力軸
30 締付機構
31 固定カム
32 可動カム
33 スラストベアリング
34 ナット
35 締付軸
36 摩擦板(多板構造)
37 ケース
38 コイルバネ
39 操作レバー
40 第1ブラケット(ブラケット)
41 取付板
44 第1支持板
45 第2支持板
47 ガイドピン
48 樹脂部材
49 離脱カプセル
50 ステアリングコラム
51 アッパコラム
54 ロアコラム
80 第2ブラケット
81 ピボットシャフト
100 ステアリング装置
311 突起
361 第1摩擦板
362 第2摩擦板
363 第1ワッシャ
364 第2ワッシャ(ワッシャ)