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特許7347172芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20230912BHJP
   C08G 69/32 20060101ALI20230912BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230912BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20230912BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C08L77/06
C08G69/32
C08J5/18 CFG
C08K5/05
C08L79/08 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019218471
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2020097732
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018234089
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】沢本 敦司
(72)【発明者】
【氏名】佃 明光
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193546(JP,A)
【文献】特開2011-162775(JP,A)
【文献】特開2011-074106(JP,A)
【文献】特開2016-108482(JP,A)
【文献】特開2009-079210(JP,A)
【文献】特開2005-054173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/06
C08G 69/32
C08J 5/18
C08K 5/05
C08L 79/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドと、非プロトン性極性溶媒とを含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液であり、下記化学式(I)または(II)で示されるクロロヒドリン構造を有する化合物を含有し、
前記溶液をガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜のヘイズ値が0.0~2.0%であり、少なくとも一方向のヤング率が7.0~20.0GPaである、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液。
化学式(I):
【化1】
は炭素数2以上の脂環族基、または芳香環を含む基である。
は任意の基である。
化学式(II):
【化2】
は炭素数2以上の脂環族基、または芳香環を含む基である。
は任意の基である。
【請求項2】
芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液をガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜の100~200℃における熱膨張係数が-5.0~10.0ppm/℃である、請求項1に記載の芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液。
【請求項3】
芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液をガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜の鉛筆硬度がH以上である、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液。
【請求項4】
芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドが、下記化学式(III)~(VI)のいずれかで示される構造単位を有する、請求項1~のいずれかに記載の芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液。
化学式(III):
【化3】
、Rは、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF、-CCl、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH、シリル基、または芳香環を含む基である。
化学式(IV):
【化4】
は、Siを含む基、Pを含む基、Sを含む基、ハロゲン化炭化水素基、芳香環を含む基、またはエーテル結合を含む基(ただし、分子内において、これらの基を有する構造単位が混在していてもよい)である。
化学式(V):
【化5】
は任意の基である。
化学式(VI):
【化6】
は任意の芳香族基、任意の脂環族基である。
【請求項5】
芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドが、下記化学式(VII)で示される構造単位を有する、請求項1~4のいずれかに記載の芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液。
化学式(VII):
【化7】
10は任意の基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液に関するものであり、特にフレキシブルディスプレイ材料、フレキシブルセンサ基板、透明フレキシブルプリント回路基板などに用いるワニスとして好適に使用できる、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯性や意匠性の自由度などの点から、従来ガラス基板が用いられてきた部材に透明樹脂フィルムを用いることによる、フレキシブルなディスプレイ、センサ、回路基板の開発が活発に進んでいる。
【0003】
このような透明樹脂として、耐熱性などの観点からポリイミド、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドなどが検討されており、例えば特許文献1や2に、これらの樹脂を無色透明化したものが開示されている。しかしながら、これらの樹脂は無色透明化や加工性(溶媒への溶解性や製膜性)向上のために設計された分子構造ゆえに、ヤング率で表現される剛性が低下することや、熱膨張係数(CTE)で表現される熱寸法安定性が悪化することが課題である。
【0004】
一方、例えば特許文献3や4に、剛性や耐熱性に優れ、かつ透明な芳香族ポリアミドフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-203146号公報
【文献】特開2016-145332号公報
【文献】特開平8-325393号公報
【文献】特開2009-79210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3や4に開示の芳香族ポリアミドは、無機塩なしでは溶媒へ溶解しないか、溶解しても製膜時に透明性が損なわれるため、無機塩などを含む溶液から製膜されている。この場合、製膜工程中に無機塩を除去する、洗浄(通常、水あるいは溶媒洗浄)工程などを必要とするため、デバイスの製造工程においてデバイスや基板上に塗布膜を形成する、いわゆるワニスとしては使用できないことがある。
【0007】
本発明は、ガラス基板などの対象物上に塗布後、乾燥を施すことにより、透明性と剛性に優れる膜が形成可能な、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドと、非プロトン性極性溶媒とを含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、以下を特徴とする。
【0009】
芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドと、非プロトン性極性溶媒とを含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液であり、前記溶液をガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜のヘイズ値が0.0~2.0%であり、少なくとも一方向のヤング率が7.0~20.0GPaである、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス基板などの対象物上に塗布後、乾燥を施すことにより、透明性と剛性に優れる膜が得られる、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドと、非プロトン性極性溶媒とを含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液が提供できる。そのため、本発明の溶液は、特にフレキシブルディスプレイ材料、フレキシブルセンサ基板、透明フレキシブルプリント回路基板などに用いるワニスとして好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の溶液は、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドと、非プロトン性極性溶媒とを含有する。
【0012】
ここで非プロトン性極性溶媒とはプロトン(水素イオン)供与性を持たない極性溶媒であり、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0013】
さらに、本発明の溶液中に下記化学式(I)または(II)で示されるクロロヒドリン構造を有する化合物を含有することが好ましい。
化学式(I):
【0014】
【化1】
【0015】
は炭素数2以上の脂環族基、または芳香環を含む基である。
【0016】
は任意の基である。
化学式(II):
【0017】
【化2】
【0018】
は炭素数2以上の脂環族基、または芳香環を含む基である。
【0019】
は任意の基である。
【0020】
上記クロロヒドリン構造を有する化合物は、エポキシ基を有する化合物と塩化水素との反応により得られる。製膜性および得られる膜の着色を抑える点から、エポキシ基を有する化合物には、単官能エポキシ基を有する化合物を使用することが好ましい。また、クロロヒドリン構造を有する化合物が芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドの分子鎖間に配位することで、分子鎖の凝集による失透を効果的に抑制でき、かつ製膜乾燥時に分子鎖が延伸された状態でパッキングを進行させることから、上記化学式(I)におけるRまたは化学式(II)におけるRは、炭素数2以上の脂環族基、または芳香環を含む基であることが好ましい。塩化水素と反応してこのような化合物を得るためのエポキシ基を有する化合物として、例えばブチレンオキサイド、フェニルプロピレンオキサイド、グリシジルメチルエーテル、エチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルフェニルエーテルなどが挙げられる。なかでも芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドとの親和性が高く、失透を効果的に抑制できることから、RまたはRは芳香環を含む基であることがより好ましい。RまたはRが炭素数2未満の脂肪族基であるクロロヒドリン構造を有する化合物には、例えばプロピレンオキサイドと塩化水素との反応により得られるプロピレンクロロヒドリンなどが挙げられるが、この場合、本発明の剛性、熱寸法安定性に優れる芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを用いる場合、溶媒乾燥に伴い芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドの急激な凝集が起き、ヘイズ値が本発明の範囲より高くなることがある。また、製膜乾燥時に分子鎖のパッキング不良が発生し、ヤング率が本発明の範囲より低くなることがある。
【0021】
また、上記効果を得るために、エポキシ基を有する化合物の含有量は、芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドのアミド基モル数に対して60~300モル%であることがより好ましく、60~120モル%であることが、さらに好ましい。
【0022】
本発明の溶液を構成する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドとしては、下記化学式(III)~(VI)のいずれかで示される構造単位を有することが好ましい。
化学式(III):
【0023】
【化3】
【0024】
、Rは、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF、-CCl、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH、シリル基、または芳香環を含む基である。
化学式(IV):
【0025】
【化4】
【0026】
は、Siを含む基、Pを含む基、Sを含む基、ハロゲン化炭化水素基、芳香環を含む基、またはエーテル結合を含む基(ただし、分子内において、これらの基を有する構造単位が混在していてもよい)である。
化学式(V):
【0027】
【化5】
【0028】
は任意の基である。
化学式(VI):
【0029】
【化6】
【0030】
は任意の芳香族基、任意の脂環族基である。
【0031】
また、上記のなかでも、下記化学式(VII)で示される構造単位を有することが、高い剛性と硬度、優れた熱寸法安定性を実現する点で特に好ましい。
化学式(VII):
【0032】
【化7】
【0033】
10は任意の基である。
【0034】
上記化学式(VII)で示される構造単位が、本発明の溶液を構成する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドの50~100モル%であることがさらに好ましく、最も好ましくは80~100モル%である。
【0035】
本発明の溶液は、上記以外にも膜の剛性、硬度、熱寸法安定性を高める目的で熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、加水分解・縮合樹脂、アルコキシシラン化合物などの有機無機ハイブリット系樹脂などを含有していてもよい。また、粒子が含まれていてもよい。ここで、粒子とは無機粒子、有機粒子のいずれでもよいが、硬度や熱寸法安定性向上の目的の場合、無機粒子を含有することが好ましい。無機粒子は特に限定されないが、金属や半金属の酸化物、珪素化物、窒化物、ホウ素化物、塩化物、炭酸塩などが挙げられ、具体的には、シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化アンチモン(Sb)及びインジウムスズ酸化物(In)などが挙げられる。また、膜の着色を抑制する目的で、有機または無機系の顔料や染料、あるいはジブチルヒドロキシトルエン(BHT)などの酸化防止剤を含有していてもよい。
【0036】
本発明の溶液を構成する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミド、非プロトン性極性溶媒、クロロヒドリン構造を有する化合物、およびその他含有物について化学構造および構成比の同定が必要な場合は、核磁気共鳴法(NMR)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)および質量分析法(MS)などを組み合わせて解析を行うことができる。
【0037】
本発明の溶液は、ガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜のヘイズ値が0.0~2.0%であることを特徴とする。上記乾燥は、溶液を構成する非プロトン性極性溶媒の沸点(混合溶媒の場合、全溶媒量に対して30質量%以上含まれる溶媒のうち、最も沸点が高い溶媒の沸点)をTbとしたとき、Tb-50℃にて30分、次いでTb+100℃にて5分の条件で施す。上記乾燥は熱風オーブンにて行うが、エスペック株式会社製セーフティオーブンSPHシリーズを用い、開閉ダンパー50%にて温度表示が設定温度に到達して1時間後に使用するものとする。ヘイズ値が2.0%より大きい場合は、フィルムの濁りが大きく、ディスプレイ材料や透明基板などに使用した際に視認性や明るさなどが低下することがある。ヘイズ値は0.0~1.5%であることがより好ましく、0.0~1.0%であることがさらに好ましい。ヘイズ値を0.0~2.0%とするには、溶液中の異物を低減することに加え、前述のクロロヒドリン構造を有する化合物を溶液に含有させることが有効である。
【0038】
本発明の溶液は、前述の条件でガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜の少なくとも一方向のヤング率が7.0~20.0GPaであることを特徴とする。より好ましくは8.0~20.0GPaであり、さらに好ましくは9.0~20.0GPaである。ヤング率が7.0GPa未満の場合、膜の剛性、すなわちコシが低く、ハンドリング性が悪化することがある。ヤング率を上記範囲内とするには、前述の化学式(III)~(VI)のいずれかで示される構造単位を含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを使用することが好ましい。特に、前述の化学式(VII)で示される構造単位を有することが、分子鎖の剛直性が高く、高い剛性が得られることから、より好ましい。また、前述のクロロヒドリン構造を有する化合物を溶液に含有させることが、製膜乾燥時、分子鎖が延伸された状態でパッキングを進行させるため高いヤング率を得やすく、さらに好ましい。
【0039】
本発明の溶液は、前述の条件でガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜の100~200℃における熱膨張係数が-5.0~10.0ppm/℃であることが好ましい。100~200℃における熱膨張係数が-5.0ppm/℃未満あるいは10.0ppm/℃を超過する場合、フィルム上にITOなどの導電層、薄膜トランジスタ(TFT)、バリア層、反射防止層などを作成する際やこれらを付与したデバイスを使用する際に変形や割れなどが発生することがある。100~200℃における熱膨張係数のより好ましい範囲は、-5.0~5.0ppm/℃である。
【0040】
100~200℃における熱膨張係数を上記範囲内とするには、前述の化学式(III)~(VI)のいずれかで示される構造単位を含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを使用することが好ましい。特に、前述の化学式(VII)で示される構造単位を有することが、分子鎖の剛直性が高く、高い熱寸法安定性が得られることから、より好ましい。また、前述のクロロヒドリン構造を有する化合物を溶液に含有させることが、製膜乾燥時、分子鎖が延伸された状態でパッキングを進行させるため高い熱寸法安定性を得やすく、さらに好ましい。
【0041】
本発明の溶液は、前述の条件でガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜の鉛筆硬度がH以上であることが好ましい。鉛筆硬度がH未満であると、膜表面に傷や凹みが生じやすくなる。鉛筆硬度は、より好ましくは2H以上、さらに好ましくは3H以上である。鉛筆硬度の上限は特に定めないが、通常は10Hである。
【0042】
鉛筆硬度をH以上とするため、前述の化学式(III)~(VI)のいずれかで示される構造単位を含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを使用することが好ましい。特に、前述の化学式(VII)で示される構造単位を有することが、分子鎖の剛直性が高く、高い剛性が得られることから、より好ましい。さらに、前述のクロロヒドリン構造を有する化合物を溶液に含有させることが、製膜乾燥時、分子鎖が延伸された状態でパッキングを進行させるため高い鉛筆硬度を得やすく、さらに好ましい。
【0043】
本発明の溶液は、前述の条件でガラス基板上に塗布後、乾燥して作製される厚み10μmの膜の波長450nmにおける光線透過率が80~100%であることが好ましい。より好ましくは、85%以上である。波長450nmにおける光線透過率が80%未満である場合、膜の着色や濁りが大きく、ディスプレイ材料や透明基板などに使用した際に視認性などが低下することがある。
【0044】
波長450nmにおける光線透過率を80%以上とするには、膜の着色を抑えるために分子内または分子間の電荷移動が起こりにくいポリマー構造とすることが有効である。これにより、可視光の特に低波長領域の吸収が抑えられる。このようなポリマー構造として、前述の化学式(III)~(VI)のいずれかで示される構造単位を含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを使用することが挙げられる。また、膜の濁りを抑えるために、溶液中の異物を低減することに加え、前述のクロロヒドリン構造を有する化合物を溶液に含有させることが有効である。
【0045】
本発明の溶液を構成する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドは、ガラス転移温度が250~500℃であることが好ましい。より好ましくは300~500℃である。ガラス転移温度は、ASTM E1640-13に準拠し、動的粘弾性測定(DMA)により貯蔵弾性率の変曲点から求められる。ガラス転移温度が250℃未満の場合、フィルム上にITOなどの導電層、薄膜トランジスタ(TFT)、バリア層、反射防止層などを作成する際に変形や割れなどが発生することがある。ガラス転移温度を250℃以上とするためには、前述の化学式(III)~(VI)のいずれかで示される構造単位を含有する芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを使用することが好ましい。
【0046】
以下、本発明の芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液の製造方法について、芳香族ポリアミド溶液を例に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
芳香族ポリアミドを得る方法は公知の種々の方法が利用可能であるが、例えば、酸ジクロライドとジアミンを原料として、前述の非プロトン性有機極性溶媒中で低温溶液重合により合成する方法が挙げられる。酸ジクロライドの失活を抑制するため、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。ここで酸ジクロライドとジアミンとのモル比を等量とすると超高分子量のポリマーが生成する傾向にあるため、モル比を一方が他方の96.0~99.8%、より好ましくは96.0~99.0%になるように調整することが好ましい。また、芳香族ポリアミドの重合反応は発熱を伴うが、重合中の溶液の温度を40℃以下にすることが好ましい。40℃を超えると、副反応が起きて、重合度が十分に上がらなかったり、着色が起きたりすることがある。重合中の溶液の温度は30℃以下にすることがより好ましい。
【0048】
ここで、酸ジクロライドとジアミンを原料とする重縮合の場合、反応の進行に伴って塩化水素が副生するため、得られる芳香族ポリアミドの溶液は強い酸性を示す溶液となる。この溶液は腐食性が高く、そのままではデバイスの製造工程において基板上に塗布膜を形成するためのワニスとしては使用できないことがある。
【0049】
一般に、副生する塩化水素を中和あるいは取り除く方法として、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機中和剤により中和する方法、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機中和剤により中和する方法、芳香族ポリアミドを貧溶媒浴に投入することで一旦単離して溶媒に再溶解する方法のいずれかが用いられる。無機中和剤により中和する場合、溶液中には中和反応により生成した無機塩(例えば、塩化リチウムなど)が含まれる。この無機塩は溶媒中でイオン化し芳香族ポリアミドのアミド基に配位することで溶媒への溶解助剤として働くため、溶液のポットライフ向上や製膜時の失透抑制には有効である。ただし、製膜工程中に無機塩を除去する洗浄工程が必要となるため、ワニスとして使用する場合、デバイスの製造工程によっては使用できないことがある。一方、有機中和剤により中和する場合および一旦単離して再溶解する場合、上記の洗浄工程は不要となることがあるが、一方で、本発明の剛性や熱寸法安定性などに優れる剛直構造を有する芳香族ポリアミドを用いる場合、溶液のポットライフが低下したり、溶媒乾燥に伴い急激に芳香族ポリアミドの凝集が起き、ヘイズ値が2.0%を超えることがある。本発明では、前述するエポキシ基を有する化合物により塩化水素を中和することで、特定のクロロヒドリン構造を有する化合物を含有する溶液を得ることを特徴とする。この特定のクロロヒドリン構造を有する化合物が芳香族ポリアミドの分子鎖間に配位することで、分子鎖の凝集による失透を効果的に抑制でき、かつ製膜乾燥時に分子鎖が延伸された状態でパッキングを進行させることから、剛性や熱寸法安定性などに優れる剛直構造を有する芳香族ポリアミドを用いた場合において、透明性、剛性、熱寸法安定性に優れる芳香族ポリアミド膜が得られやすい。
【0050】
本発明の溶液は、前述のとおり、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、加水分解・縮合樹脂、アルコキシシラン化合物などの有機無機ハイブリット系樹脂、無機または有機粒子、有機または無機顔料や染料、酸化防止剤などが含まれていてもよいが、これらは重合前の溶媒に分散させても、重合後の溶液に分散させてもよい。
【0051】
上記のようにして得られた本発明の溶液は、例えばガラス基板などの対象物上に塗布して製膜することができる。製膜法としては、例えば、予備乾燥工程、湿式浴での洗浄工程を経て熱処理を施す乾湿式法、洗浄工程を経ずに乾燥を施す乾式法、あるいは乾燥工程を経ずに湿式浴に導入後、熱処理を施す湿式法などが挙げられる。これらのうち、いずれの方法で製膜しても差し支えないが、デバイスの製造工程において対象物上に膜を形成する場合、乾式法で製膜することが好ましい。
【0052】
対象物上への塗布方法としては、口金やダイコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法などの公知の方法から選択できる。また、乾燥の方法としては、熱風、赤外線照射、マイクロ波照射などが挙げられ、特に限定されない。乾燥温度は50~400℃であることが好ましい。熱寸法安定性向上などの点で、乾燥工程において150~400℃の温度範囲の工程を含むことが、より好ましい。溶媒の急激な蒸発による面荒れを防ぐ目的で、50~150℃にて予備乾燥後、150~400℃にて段階的に乾燥を施すことが、さらに好ましい。
【0053】
本発明の芳香族ポリアミドまたは芳香族ポリアミドイミドを含む溶液は、ディスプレイ材料、センサ基板、回路基板、光導波路基板、半導体実装用基板、透明導電フィルム、位相差フィルム、タッチパネル基材、太陽電池、包装材料、粘着テープ、接着テープ、加飾材料など様々な用途に用いるワニスとして好適に使用できる。特にフレキシブルディスプレイ材料、フレキシブルセンサ基板、透明フレキシブルプリント回路基板などに用いるワニスとして好適に使用できる。
【実施例
【0054】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0055】
本発明の試料溶液から膜物性の測定に供する膜を作成する方法は、次の方法に従って行った。
【0056】
まず、アプリケーターにて試料溶液をガラス板上に膜状にキャストした。この時、試料溶液、ガラス板およびキャスト雰囲気の温度は室温とした。キャスト厚みは、乾燥後の膜厚みが10μmとなるよう調整した。次に、熱風オーブン内へガラス板ごと投入し、溶液を構成する非プロトン性極性溶媒の沸点(混合溶媒の場合、全溶媒量に対して30質量%以上含まれる溶媒のうち、最も沸点が高い溶媒の沸点)をTbとしたとき、Tb-50℃にて30分、次いでTb+100℃にて5分の条件で乾燥を施した。上記熱風オーブンは、セーフティオーブンSPH100(エスペック株式会社製)を用い、開閉ダンパー50%にて温度表示が設定温度に到達して1時間後に使用した。
【0057】
また、本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0058】
(1)ヘイズ値
試料溶液から作製された膜について、下記装置および条件にて測定した。
【0059】
装置:濁度計NDH5000(日本電色工業社製)
光源:白色LED5V3W(定格)
受光素子:V(λ)フィルタ付Siフォトダイオード
測定光束:φ14mm(入射開口φ25mm)
光学条件:JIS-K7136(2000)に準拠
(2)ヤング率
試料溶液から作製された膜について、幅10mm、長さ150mmに切断した試料を、ロボットテンシロンAMF/RTA-100(オリエンテック社製)を用いてチャック間距離50mm、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重-伸び曲線から求めた。
【0060】
試験は膜のキャスト方向(長手方向)と、それと直交する方向(幅方向)について実施し、両方向とも5回の平均値を求めた。表1には両方向のヤング率のうち、値の高い方を示した。
【0061】
(3)熱膨張係数
試料溶液から作製された膜について、幅4mm、長さ15mmに切断した試料をTMA/SS6100(日立ハイテクサイエンス社製)を用いて以下の条件で測定し、下式を用いて算出した。
【0062】
荷重:1.1N/mm
温度条件:室温→250℃、5分保持、250℃→50℃ 昇温・降温速度:5℃/分
算出:降温時の変位量から下式にて算出
算出式:α=(L-L)/(L×ΔT) (1/℃)
ただし、Lは測定前の試長(15mm)、Lは100℃における試長(mm)、Lは200℃における試長(mm)、ΔTは温度差(100℃)である。
【0063】
(4)硬度
JIS-K5600-5-4(1999)に準拠して、温度23℃、湿度65%RHにおいて、下記装置および条件にて試料膜表面を測定した。
【0064】
装置:表面測定機HEIDON-14DR(新東科学社製)
加重:750gf
角度:45°
移動速度:30mm/min
移動距離:10mm
試料基材:ガラス板
使用鉛筆:ハイユニ(三菱鉛筆社製)、柔らかい(硬度が低い)方から順に、10B、9B、8B、7B、6B、5B、4B、3B、2B、B、HB、F、H、2H、3H、4H、5H、6H、7H、8H、9H、10H
硬度判定:試験を5回実施し、3~5回において傷および凹みが無い場合に、その硬度を有していると判定した。
【0065】
(5)波長450nmにおける光線透過率
試料溶液から作製された膜について、下記装置および条件にて測定し、各波長における光線透過率を下式より求めた。
【0066】
装置:UV測定器U-3410(日立計測社製)
波長範囲:300nm~800nm
測定速度:120nm/分
測定モード:透過
光線透過率(%)=(Tr1/Tr0)×100
ただし、Tr1は試料を通過した光の強度、Tr0は試料を通過しない以外は同一の距離の空気中を通過した光の強度である。
【0067】
(6)ガラス転移温度
試料溶液から作製された膜について、ASTM E1640-13に準拠して、動的粘弾性測定(DMA)により貯蔵弾性率(E’)の変曲点から求めた。DMAは下記装置および条件にて実施した。
【0068】
装置:粘弾性測定装置DMS6100(セイコーインスツルメンツ社製)
測定モード:引張モード
測定周波数:1Hz
昇温速度:5℃/分
温度範囲:25℃~400℃
保持時間:2分
(7)厚み
試料溶液から作製された膜について、定圧厚み測定器FFA-1(尾崎製作所社製)を用いて試料の厚み(μm)を測定した。測定子径は5mm、測定荷重は1.25Nである。
【0069】
(実施例1)
脱水したジメチルアセトアミド(DMAc、東京化成工業社製、沸点165℃)に、ジアミンとしてジアミン全量に対して90モル%に相当する2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB、東レ・ファインケミカル社製)と10モル%に相当する4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DPE、東京化成工業社製)とを窒素気流下で溶解させ、氷水浴で液温を5℃に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、氷水浴中に保った状態で、ジアミン全量に対して70モル%に相当するテレフタロイルクロライド(TPC、東京化成工業社製)と29モル%に相当するイソフタロイルクロライド(IPC、東京化成工業社製)を30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミド(ポリマーA)を重合した。得られた溶液に、中和剤として上記反応で発生する塩化水素量(すなわち芳香族ポリアミドのアミド基量)に対して100モル%に相当するフェニルプロピレンオキサイド(東京化成工業社製、中和剤D)を添加し、約1時間の撹拌を行うことでポリマーAからなる芳香族ポリアミド溶液を得た。
【0070】
得られた芳香族ポリアミド溶液を室温にてアプリケーターを用いてガラス板上に膜状にキャストして、115℃にて30分、265℃にて5分、熱風オーブンで乾燥を施すことで、厚み10μmのポリマーAからなる膜を得た。ここで、熱風オーブンは、セーフティオーブンSPH100(エスペック株式会社製)を用い、開閉ダンパー50%にて温度表示が設定温度に到達して1時間後に使用した。得られた膜の物性を表1に示す。
【0071】
(実施例2)
原料モノマーとして、ジアミンをTFMB100モル%、酸クロライドをジアミン全量に対して99モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライド(CTPC、日本軽金属社製)とすること以外は実施例1と同様にして、ポリマーBからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0072】
(実施例3)
中和剤を、アリルグリシジルエーテル(東京化成工業社製、中和剤E)とすること以外は実施例2と同様にして、ポリマーBからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0073】
(実施例4)
中和剤であるフェニルプロピレンオキサイド(中和剤D)の添加量をアミド基量に対して50モル%とすること以外は実施例2と同様にして、ポリマーBからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0074】
(実施例5)
中和剤を、グリシジルフェニルエーテル(東京化成工業社製、中和剤F)とすること以外は実施例2と同様にして、ポリマーBからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0075】
(実施例6)
中和剤を、アミド基量に対して100モル%のシクロヘキセンオキサイド(東京化成工業社製、中和剤H)および50モル%のグリシジルフェニルエーテル(中和剤F)とすること以外は実施例2と同様にして、ポリマーBからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0076】
(実施例7)
中和剤を、アミド基量に対して100モル%のシクロヘキセンオキサイド(中和剤H)および150モル%のグリシジルフェニルエーテル(中和剤F)とすること以外は実施例2と同様にして、ポリマーBからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
原料モノマーとして、ジアミンをTFMB100モル%、酸クロライドをジアミン全量に対して40モル%に相当するTPCと59モル%に相当するIPCとし、中和剤を、プロピレンオキサイド(東京化成工業社製)とすること以外は実施例1と同様にして、ポリマーCからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0078】
(比較例2)
脱水したN-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)に、ジアミンとしてTFMBを窒素気流下で溶解させ、氷水浴で液温を5℃に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、氷水浴中に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当するCTPCを30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミド(ポリマーB)を重合した。得られた重合溶液に、アミド基量に対して97モル%に相当する炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)を添加し、60℃で2時間撹拌後、さらに6モル%に相当するジエタノールアミン(DEA、東京化成社製)を加えて30分撹拌した。
【0079】
得られた溶液を多量の水に添加、洗浄することで、ポリマーBを固化させた。固化して沈殿したポリマーBを取り出し、水切り後、80℃の熱風オーブンで1時間、120℃の真空オーブンで12時間乾燥させることでポリマーBを単離した。単離したポリマーBをDMAcにて熔解することで、ポリマーBとDMAcのみからなる芳香族ポリアミド溶液を得た。
【0080】
以降は実施例1と同様にして、ポリマーBからなる膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0081】
(比較例3)
中和剤を、プロピレンオキサイドとすること以外は実施例2と同様にして、ポリマーBからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0082】
(比較例4)
原料モノマーとして、ジアミンをTFMB100モル%、酸クロライドをジアミン全量に対して70モル%に相当するTPCと29モル%に相当するIPCとし、中和剤を、プロピレンオキサイドとすること以外は実施例1と同様にして、ポリマーDからなる芳香族ポリアミド溶液および膜を得た。得られた膜の物性を表1に示す。
【0083】
(比較例5)
脱水したNMPに、ジアミンとしてTFMBを窒素気流下で溶解させ、氷水浴で液温を5℃に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、氷水浴中に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当するCTPCを30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミド(ポリマーB)を重合した。得られた重合溶液に、アミド基量に対して97モル%に相当する炭酸リチウムを添加し、60℃で2時間撹拌した。
【0084】
得られた溶液を実施例1と同様にして、室温にてアプリケーターを用いてガラス板上に膜状にキャストして、115℃にて30分、265℃にて5分、熱風オーブンで乾燥を施したところ、中和により生成した塩化リチウムが析出し、膜が得られなかった。
【0085】
【表1】