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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】主軸装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/00 20060101AFI20230912BHJP
   B23B 31/117 20060101ALI20230912BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B23B31/00 B
B23B31/117 601A
B23Q11/10 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019219881
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021088036
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 則康
(72)【発明者】
【氏名】市川 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】五島 宏明
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】実公昭48-043193(JP,Y1)
【文献】特開平07-214454(JP,A)
【文献】特開平11-138382(JP,A)
【文献】実開平05-026246(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 19/02,31/00-31/39;
B23Q 3/12,3/155,11/00,11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部と、
前記固定部内にて、前記固定部に対して軸線周りに相対回転可能に配置され、軸線方向の一端部に設けられる工具着脱穴に工具ホルダが着脱可能に取り付けられる筒状の回転体と、
前記回転体内にて、前記回転体と一体回転可能、且つ前記回転体に対して前記軸線方向へ相対移動可能に配置され、前記軸線方向の一端部にて前記工具ホルダをクランプ又はアンクランプする軸状のドローバと、
を備え、
前記回転体には、前記工具着脱穴において前記軸線周りに旋回するエアを吐出する旋回流吐出孔が設けられ、
前記ドローバには、前記工具着脱穴において前記軸線方向に直進するエアを吐出する直進流吐出孔が設けられる、主軸装置。
【請求項2】
前記旋回流吐出孔は、前記工具着脱穴の内周面における一円周の接線方向に向けてエアを吐出する、請求項1に記載の主軸装置。
【請求項3】
前記旋回流吐出孔の開口は、前記工具着脱穴の内周面における一円周上の少なくとも2か所に設けられる、請求項2に記載の主軸装置。
【請求項4】
前記旋回流吐出孔の開口は、前記直進流吐出孔から吐出されるエアの吐出方向において前記直進流吐出孔の開口よりも前側の位置に設けられる、請求項1-3の何れか一項に記載の主軸装置。
【請求項5】
前記直進流吐出孔から吐出されるエアの流量は、前記旋回流吐出孔から吐出されるエアの流量よりも大きい、請求項1-4の何れか一項に記載の主軸装置。
【請求項6】
前記主軸装置は、前記直進流吐出孔から吐出するエアをクーラント液に切り替える切替装置を備える、請求項1-5の何れか一項に記載の主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械(マシニングセンタ等)の主軸装置の主軸には、工具ホルダが着脱可能に取り付けられる工具着脱穴が軸線方向の前側の端部に設けられる。この工具着脱穴の内周面には、工具ホルダを取り外した際に切屑等の異物が取り込まれる場合がある。そこで、特許文献1に示す主軸装置では、工具着脱穴(テーパ穴)にエアを供給して異物を排出するクリーニング処理を行うようにしている。
【0003】
すなわち、図11に示すように、この主軸110には、工具着脱穴111のテーパ面112にエア吐出孔113が設けられるとともに、主軸110内に同軸配置されるドローバ(プッシュロッド)120の前側の端面近傍の側部に噴射口115が設けられる。エア吐出孔113は、工具着脱穴111の斜め前側方向に向けてエアa1を吐出する。噴射口115は、工具着脱穴111に対しドローバ120側に設けられる空間部114の径方向に向けてエアa2を噴射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-34354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の主軸装置におけるエア流動をシミュレーション処理して求めたところ、エア吐出孔113から吐出されるエアa1は、工具着脱穴111の前側の開口に向かって工具着脱穴111のテーパ面112に沿って螺旋状に流れる。また、噴射口115から噴射されるエアa2は、空間部114で径方向に広がった後、工具着脱穴111の前側の開口に向かって緩やかに流れる。そして、エア吐出孔113から吐出されるエアa1と合流し、工具着脱穴111の前側の開口に向かって工具着脱穴111のテーパ面112に沿って螺旋状に流れる。
【0006】
このように、エア吐出孔113から吐出されるエアa1及び噴射口115から噴射されるエアa2は、工具着脱穴111の前側の開口に向かって工具着脱穴111のテーパ面112に沿って螺旋状に流れる。よって、工具着脱穴111の軸線CL周辺で低圧領域LP(図示一点鎖線で囲まれる領域)が発生することが判明した。このため、工具着脱穴111の前側の開口から放出されるエアa1,a2の一部は、工具着脱穴111の低圧領域LPに吸い込まれる。そして、吸い込まれるエアに異物が含まれる場合は、当該異物が工具着脱穴111に再び取り込まれることになる。
【0007】
また、エア吐出孔113の近傍の位置では高速のエア吐出流(強いエア吐出流)が発生するが、エア吐出孔113から離間した位置では減速して低速のエア吐出流(弱いエア吐出流)しか得られないことが判明した。このため、工具着脱穴111において、異物の排出能力に偏りが発生し、異物が残留してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、工具着脱穴に取り込まれる異物をエアの供給により確実に排出できるクリーニング処理が可能な主軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る主軸装置は、固定部と、前記固定部内にて、前記固定部に対して軸線周りに相対回転可能に配置され、軸線方向の一端部に設けられる工具着脱穴に工具ホルダが着脱可能に取り付けられる筒状の回転体と、前記回転体内にて、前記回転体と一体回転可能、且つ前記回転体に対して前記軸線方向へ相対移動可能に配置され、前記軸線方向の一端部にて前記工具ホルダをクランプ又はアンクランプする軸状のドローバと、を備え、前記回転体には、前記工具着脱穴において前記軸線周りに旋回するエアを吐出する旋回流吐出孔が設けられ、前記ドローバには、前記工具着脱穴において前記軸線方向に直進するエアを吐出する直進流吐出孔が設けられる。
【0010】
上記の構成を有する主軸装置では、直進流吐出孔から吐出されるエアは、工具着脱穴において軸線方向に直進する。各旋回流吐出孔から吐出されるエアは、工具着脱穴の内周面に沿って旋回する。そして、直進流吐出孔から吐出される直進流は、各旋回流吐出孔から吐出される旋回流で捩じられて、直進流吐出孔を回転中心として工具着脱穴の内周面に沿って周期的に回転する。
【0011】
これにより、工具着脱穴の軸線周辺には低圧領域はほぼ発生せず、工具着脱穴から放出されるエアが工具着脱穴に再び吸い込まれることを抑制できる。よって、異物が工具着脱穴に再び取り込まれることを低減できる。また、工具着脱穴の内周面に沿って回転するエア吐出流が得られるため、異物の排出能力の偏りを防止できる。そして、工具着脱穴の内周面の全域をクリーニング処理できるので、工具着脱穴における異物の残留を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】工作機械の主軸装置の主要部を示す断面図である。
図2A】主軸装置の主軸の主要部を示す断面図である。
図2B図2AのIIB-IIB断面図である。
図3A】主軸の工具着脱穴、直進流吐出孔、旋回流吐出孔の輪郭のみ(裏側の輪郭は便宜上省略)を示す透視図であり、直進流吐出孔からのエアの吐出状態を示す。
図3B】主軸の工具着脱穴、直進流吐出孔、旋回流吐出孔の輪郭のみ(裏側の輪郭は便宜上省略)を示す透視図であり、直進流吐出孔及び旋回流吐出孔からのエアの吐出初期状態を示す。
図3C】主軸の工具着脱穴、直進流吐出孔、旋回流吐出孔の輪郭のみ(裏側の輪郭は便宜上省略)を示す透視図であり、直進流吐出孔及び旋回流吐出孔からのエアの吐出状態の変化を示す。
図4】主軸の工具着脱穴、直進流吐出孔、旋回流吐出孔の輪郭のみ(裏側の輪郭は便宜上省略)を示す透視図であり、直進流吐出孔及び旋回流吐出孔からのエアの吐出状態のシミュレーション処理結果を示す。
図5図4において、主軸の工具着脱穴の前側の開口を前側から後側に軸線方向に見たときの径方向断面における直進流吐出孔からのエアの速度分布の経時変化のシミュレーション処理結果を示す図である。
図6】主軸の工具着脱穴、直進流吐出孔、旋回流吐出孔の輪郭のみ(裏側の輪郭は便宜上省略)を示す透視図であり、旋回流吐出孔の配設数を減少させたきの直進流吐出孔及び旋回流吐出孔からのエアの吐出状態のシミュレーション処理結果を示す。
図7A図6において、主軸の工具着脱穴の前側の開口を前側から後側に軸線方向に見たときの径方向断面における直進流吐出孔からのエアの速度分布の前半の経時変化のシミュレーション処理結果を示す図である。
図7B図6において、主軸の工具着脱穴の前側の開口を前側から後側に軸線方向に見たときの径方向断面における直進流吐出孔からのエアの速度分布の後半の経時変化のシミュレーション処理結果を示す図である。
図8A】別例の主軸装置の主軸の主要部を示す断面図である。
図8B図8AのVIIIB-VIIIB断面図である。
図9A図8Aの主軸装置において、主軸の工具着脱穴の前側の開口を前側から後側に軸線方向に見たときの径方向断面における直進流吐出孔からのエアの速度分布の前半の経時変化のシミュレーション処理結果を示す図である。
図9B図8Aの主軸装置において、主軸の工具着脱穴の前側の開口を前側から後側に軸線方向に見たときの径方向断面における直進流吐出孔からのエアの速度分布の後半の経時変化のシミュレーション処理結果を示す図である。
図10】主軸装置の工具着脱穴におけるエア吐出によるクリーニング処理動作を説明するフローチャートである。
図11】従来の主軸装置の主軸の主要部を示す断面図であり、エアの吐出状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.主軸装置1の構成)
本発明に係る本実施形態の工作機械(マシニングセンタ等)の主軸装置について、図1を参照し説明する。本実施形態の主軸装置1は、主として、ハウジング10(固定部に相当)、主軸20(回転体に相当)、軸受30,40、主軸モータ50、ドローバ60、クランプユニット70、切替装置80及び制御装置90等を備える。
【0014】
主軸装置1の主軸20等は、中心軸線(以下、軸線という)CL周りに回転する。なお、以降の説明においては、軸線CL方向の左側を前側とし、軸線CL方向の右側を後側として説明する場合がある。
【0015】
ハウジング10は、前側ハウジング11、後側ハウジング12及びハウジングキャップ13を備える。各ハウジング11,12及びハウジングキャップ13は略円筒状に形成される。そして、各ハウジング11,12及びハウジングキャップ13が、所定の手段によって一体に連結固定されることで、ハウジング10が略円筒状に形成される。このとき、連結固定するための所定の手段としては、例えばボルト等による締結が挙げられる。
【0016】
前側ハウジング11は、同軸で形成される第一円筒部11a(図1において左側)及び第二円筒部11b(図1において右側)を備える。第一円筒部11aの外径及び内径は、それぞれ第二円筒部11bの外径及び内径よりも小さく形成される。
【0017】
第一円筒部11aの内周面は、軸受30の外輪の外周面を支持する大径内周面11a1(図1において左側)と、小径内周面11a2(図1において右側)と、を備える。大径内周面11a1と小径内周面11a2とは、軸線CLと直交する平面上に形成される接続面11a3によって接続される。接続面11a3は、後述する軸受30の外輪の右端面に当接し右端面を支持する。
【0018】
第二円筒部11bの内周面11b1には、後述する主軸モータ50を構成するステータ52の外周面が固定される。そして、第一円筒部11aの小径内周面11a2と第二円筒部11bの内周面11b1とは、軸線CLと直交する平面上に形成される接続面11b2によって接続される。
【0019】
後側ハウジング12は、円筒状に形成され、後側ハウジング12の内周面は、軸受40の外輪の外周面を支持する大径内周面12a(図1において左側)と、小径内周面12b(図1において右側)と、を備える。大径内周面12aと小径内周面12bとは、軸線CLと直交する平面上に形成される接続面12cによって接続される。
【0020】
また、後側ハウジング12の前側の端面は、軸線CLを中心とした径方向外方側に位置する外周側端面12dと、径方向内方側に位置する内周側端面12eと、を備える。そして、外周側端面12dは、内周側端面12eより後側に後退して形成される。外周側端面12dと内周側端面12eとは、軸線CLを中心とする接続周面12fによって接続される。この接続周面12fには、前側ハウジング11が備える第二円筒部11bの内周面11b1が係合する。
【0021】
ハウジングキャップ13は、前側ハウジング11の前側端(図1において左端)に取り付けられる。すなわち、ハウジングキャップ13は、後側に向って延在する突部13aを備える。突部13aの外周面に前側ハウジング11の第一円筒部11aの大径内周面11a1が係合する。
【0022】
主軸20は、ハウジング10内に配置される。主軸20は、略円筒状に形成され、ハウジング10に対して軸線CL周りに相対回転可能となるよう配置される。主軸20は、軸線CLと同軸の貫通穴21を備える。
【0023】
そして、貫通穴21には、工具ホルダ8、クランプユニット70及びドローバ60がこの記載順で図1において左から順に配置される。なお、図1では、クランプユニット70を構成するコレット71が、主軸20の径方向に閉じて工具ホルダ8のプルスタッド8aをクランプ(保持)しているクランプ状態を示している。
【0024】
貫通穴21は、図1において左から順に工具着脱穴21a及びドローバ収容穴21bを備える。工具着脱穴21aは、前側の開口が大径となるテーパ状のテーパ穴21a1と、テーパ穴21a1に連通し、テーパ穴21a1の後側の開口の径と同径の円柱状のコラム穴21a2と、コラム穴21a2の径より大径の円柱状のアンクランプ穴21a3で成る。
【0025】
工具着脱穴21aのテーパ穴21a1は、工具ホルダ8のテーパシャンク8bを着脱可能に保持する。工具着脱穴21aのコラム穴21a2は、テーパ穴21a1に対するテーパシャンク8bの着脱を容易にするために設けられる。工具着脱穴21aのアンクランプ穴21a3は、主軸20の径方向に開いたコレット71、すなわちアンクランプ状態のコレット71を収容する。
【0026】
ドローバ収容穴21bは、工具着脱穴21aのアンクランプ穴21a3に連通し、工具着脱穴21aのアンクランプ穴21a3の径より小径の円柱状に形成され、クランプ状態のクランプユニット70及びドローバ60を収容する。
【0027】
主軸20は、図1において左から順に第一筒部20a,第二筒部20b及び第三筒部20cを備える。第一筒部20a~第三筒部20cの並びは、外径の大きな順の並びでもある。ただし、この態様に限らず、上記並びにおいて第二筒部20bが一番大きくても良い。
【0028】
第一筒部20aの外周面は、ハウジングキャップ13の内周面と係合する。第二筒部20bの前側の端部の外周側には、軸受30が取り付けられ、第二筒部20bの外周面が軸受30の内輪の内周面を支持する。これにより、主軸20の前側の端部は、軸受30を介してハウジング10(前側ハウジング11の第一円筒部11aの大径内周面11a1)に回転自在に支持される。
【0029】
軸受30は、公知の並列組合わせ型のアンギュラ玉軸受である。ただし、並列組合わせ型のアンギュラ玉軸受はあくまで一例として例示したものであり、軸受30は、使用条件に応じて、他の形式の軸受としてもよい。
【0030】
軸受30の内輪の左端面には、主軸20の第一筒部20aと第二筒部20bとの間の段差によって形成された接続面20dが当接する。また、ハウジングキャップ13の突部13aの後側の端面13a1が軸受30の外輪の左端面に当接するとともに、前側ハウジング11の第一円筒部11aの接続面11a3が軸受30の外輪の右端面に当接し、左右両側から軸受30の外輪を挟みこんでいる。
【0031】
また、第二筒部20bの軸線方向中央部における外周面上には、主軸モータ50を構成するロータ51の内周面が固定される。なお、主軸20への軸受30及びロータ51の組み付けの都合上、第二筒部20bにおいて、ロータ51が固定される部分の外径は、軸受30が支持される部分の外径よりも若干小さい方が好ましい。しかしながら、この態様に限らず、軸受30が支持される部分の外径は、ロータ51が固定される部分の外径と同じであってもよい。
【0032】
主軸モータ50は、ロータ51及びステータ52を備える。ステータ52は、ロータ51の外周面側に配置される。詳細には、ステータ52は、内周面がロータ51の外周面と所定の隙間を有するよう、前側ハウジング11が有する第二円筒部11bの内周面11b1に固定される。主軸20は、制御装置90で制御される主軸モータ50の駆動によりロータ51と一体的に回転駆動される。
【0033】
第三筒部20cの外周面側には、軸受40が取り付けられ、第三筒部20cの外周面が軸受40の内輪の内周面を支持する。これにより、主軸20の後端部は、軸受40を介してハウジング10(後側ハウジング12の大径内周面12a)に回転自在に支持される。
【0034】
軸受40は、一個の公知の円筒ころ軸受で構成される。このように、主軸20はロータ51を挟んで両端で軸受30,40に支持されるので、安定して回転作動できる。ただし、円筒ころ軸受は、あくまで一例として例示したものであり、軸受40は、使用条件に応じて、他の形式の軸受としてもよい。
【0035】
ドローバ60は、軸状部材であり、上述したように主軸20の貫通穴21のドローバ収容穴21b内に挿通される。そして、制御装置90で制御される主軸モータ50の駆動により主軸20と一体回転可能、且つ制御装置90で制御される図略の駆動装置の駆動により主軸20に対して軸線CL方向へ相対移動可能に配置される。
【0036】
ドローバ60は、前側の端部(図1における左端部)にクランプユニット70を構成する爪形状のコレット71が係合される。クランプユニット70のコレット71は、ドローバ60の軸線CL方向の前後動作に伴って、工具ホルダ8が備えるプルスタッド8aを把持し工具ホルダ8をクランプするクランプ状態と、工具ホルダ8が備えるプルスタッド8aを開放し工具ホルダ8をアンクランプするアンクランプ状態とを切替可能な装置である。
【0037】
コレット71は、ドローバ60前側の端部の外周に例えば90度間隔で4つ設けられる。なお、コレット71は、4つの爪形状のものに限定されるものではなく、開閉して工具ホルダ8が備えるプルスタッド8aの把持及び開放が可能な構成であればよい。なお、クランプユニット70は、公知の技術であるので、構成の詳細な説明については省略する。
【0038】
ここで、解決課題で述べたように、従来の主軸装置では、エア吐出孔113から吐出されるエアa1及び噴射口115から噴射されるエアa2は、工具着脱穴111の前側の開口に向かって工具着脱穴111のテーパ面112に沿って螺旋状に流れる。このため、工具着脱穴111の前側の開口から放出されるエアの一部は、工具着脱穴111の軸線CL周辺で発生する低圧領域LPに吸い込まれる。そして、吸い込まれるエアに異物が含まれる場合は、当該異物が工具着脱穴に再び取り込まれることになる。
【0039】
また、エア吐出孔113から離間した位置では低速のエア吐出流(弱いエア吐出流)しか得られないため、工具着脱穴111において、異物の排出能力に偏りが発生し、異物が残留してしまうおそれがある。以上のことに鑑み、本願発明者は、工具着脱穴21aの後側から前側に向かう1本の高速のエア吐出流(強いエア吐出流)を、工具着脱穴21aの内周面に沿って回転させることで、上記課題の解消が可能であることを見い出した。
【0040】
本実施形態の主軸装置1では、上述のエア吐出流を発生させるため、旋回流吐出孔22及び直進流吐出孔61が設けられる。つまり、図1図2A及び図2Bに示すように、工具着脱穴21aのコラム穴21a2には、コラム穴21a2の内周面における一円周の接線方向に向けてエアを吐出する旋回流吐出孔22が設けられる。旋回流吐出孔22の開口は、コラム穴21a2の内周面における一円周上において、等角度間隔、本例では、等角度間隔で4か所(90度間隔)設けられる。
【0041】
そして、図1に示すように、各旋回流吐出孔22は、主軸20の内部において前側から後側に延びるエア供給通路23に連通され、エア配管24及び開閉弁25を介してエア供給源81に接続される。開閉弁25の開閉動作は、制御装置90で制御される。これにより、各旋回流吐出孔22から吐出されるエアは、コラム穴21a2の内周面における一円周に沿って流れるので、コラム穴21a2内やアンクランプ穴21a3内において旋回する。
【0042】
さらに、図1図2A及び図2Bに示すように、ドローバ60には、工具着脱穴21aにおいて軸線CL方向の後側から前側に向けてエアを吐出する直進流吐出孔61が軸線CLと同軸で設けられる。旋回流吐出孔22の開口は、ドローバ60が前側に移動してコレット71がアンクランプ穴21a3内にて開いたとき、直進流吐出孔61から吐出されるエア吐出方向において直進流吐出孔61の開口よりも前側の位置となるように設けられる。
【0043】
そして、図1に示すように、直進流吐出孔61は、ドローバ60の後側において配管62を介してエアとクーラント液の供給の切り替えが可能な切替装置80に接続される。この切替装置80は、エア供給源81とクーラント液供給源82にそれぞれ接続される。切替装置80の切替動作は、制御装置90で制御される。これにより、直進流吐出孔61から吐出されるエアは、工具着脱穴21aにおいて軸線CL方向の後側から前側に向かって直進する。
【0044】
このような構成において、図3Aに示すように、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、アンクランプ穴21a3、コラム穴21a2、テーパ穴21a1の順に軸線CLに沿って直線的に流れる。そして、図3Bに示すように、各旋回流吐出孔22から吐出されるエアAsは、コラム穴21a2の内周面に沿って旋回するように流れる。
【0045】
ここで、前述のように、旋回流吐出孔22の開口は、直進流吐出孔61から吐出されるエア吐出方向において直進流吐出孔61の開口よりも前側の位置となるように設けられている。このため、図3Cに示すように、直進流吐出孔61から吐出される直線状のエアAtは、各旋回流吐出孔22から吐出される旋回するエアAsで捩じられて、直進流吐出孔61を回転中心として工具着脱穴21aの内周面に沿ってR方向に周期的に回転する。
【0046】
以上より、工具着脱穴21aの軸線CL周辺には低圧領域はほぼ発生せず、工具着脱穴21aの前側の開口から放出されるエアが工具着脱穴21aに再び吸い込まれることを抑制できる。よって、異物が工具着脱穴21aに再び取り込まれることを低減できる。また、工具着脱穴21aの内周面に沿って回転する高速のエア吐出流(強いエア吐出流)が得られるため、異物の排出能力の偏りを防止できる。そして、工具着脱穴21aの内周面の全域をクリーニング処理できるので、工具着脱穴21aにおける異物の残留を低減できる。
【0047】
(2.主軸装置1におけるエア流動)
次に、上述の主軸装置1の工具着脱穴21a内におけるエア流動をシミュレーション処理して、図4及び図5に示すシミュレーション処理結果を求めた。ここで、上述したように、旋回流吐出孔22から吐出されるエアAsは、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtを回転させるためにのみ用い、また、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、工具着脱穴21a内の異物を除去するために用いる。
【0048】
よって、このときのエア流動条件は、旋回流吐出孔22から吐出されるエアAsの流量よりも、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtの流量が大きくなるように設定した。図4は、工具着脱穴21aを透視したときのエアAs,Atのエア流動を示す。図5は、工具着脱穴21aの前側の開口を前側から後側に軸線CL方向に見たときの径方向断面におけるエアAtの速度分布を示す。図5では、(a),(b),(c),(d),(e),(f),(a)の順でエアAtが1回転するときの速度分布の等時間間隔の経時変化を示す。
【0049】
図4に示すように、旋回流吐出孔22から吐出されるエアAsは、工具着脱穴21aのコラム穴21a2内及びアンクランプ穴21a3内において、一点鎖線で示す矢印方向に旋回して流れる。そして、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、工具着脱穴21aのコラム穴21a2内及びアンクランプ穴21a3内において、旋回流で捩じられて、テーパ穴21a1の内周面に沿って二点鎖線で示す矢印方向にうねるように流れる。そして、図5(a)-(f)に示すように、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、テーパ穴21a1の内周面に沿って0.05秒の周期で回転している。
【0050】
このように、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、工具着脱穴21aの内周面に沿って回転する高速のエア吐出流(強いエア吐出流)として流れていくため、工具着脱穴21aの内周面の全域をクリーニング処理できる。よって、工具着脱穴21aにおける異物の残留を低減できる。なお、図5(c),(d),(e)においては、吸い込み領域LPが発生しているが、一時的であって低速度であるため異物の取り込みは抑制できる。
【0051】
(3.旋回流吐出孔22の配設数の影響)
次に、旋回流吐出孔22の配設数の影響について検討した。具体的には、旋回流吐出孔22の配設数を4か所から1か所に減少させたときの工具着脱穴21a内におけるエア流動をシミュレーション処理して、図6図7A及び図7Bに示すシミュレーション処理結果を求めた。
【0052】
このときのエア流動条件は、旋回流吐出孔22を4か所設けたときのエア流動条件と比較して、旋回流吐出孔22から吐出されるエアAsの流量は4分の1に設定し、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtの流量は同一に設定した。図6は、工具着脱穴21aを透視したときのエアAs,Atのエア流動を示す。図7A及び図7Bは、工具着脱穴21aの前側の開口を前側から後側に軸線CL方向に見たときの径方向断面におけるエアAtの速度分布を示す。図7A及び図7Bでは、図7A(a),(b),(c),(d),図7B(a),(b),(c),図7A(a)の順でエアAtが1回転するときの速度分布の等時間間隔の経時変化を示す。
【0053】
図6に示すように、旋回流吐出孔22から吐出されるエアAsは、工具着脱穴21aのコラム穴21a2内及びアンクランプ穴21a3内において、一点鎖線で示す矢印方向に旋回して流れる。ただし、旋回流吐出孔22の配設数を4か所から1か所に減少させているため、図4に示す旋回流よりも弱まっている。
【0054】
そして、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、工具着脱穴21aのコラム穴21a2内及びアンクランプ穴21a3内において、旋回流で捩じられて、テーパ穴21a1の内周面に沿って二点鎖線で示す矢印方向にうねるように流れる。ただし、工具着脱穴21aのコラム穴21a2及びアンクランプ穴21a3内における旋回流が図4に示す旋回流よりも弱まっているため、図4に示すうねりよりも小さくなっている。
【0055】
そして、図7A(a)-(d)及び図7B(a)-(c)に示すように、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、テーパ穴21a1の内周面に沿って0.32秒の周期で回転している。旋回流吐出孔22の配設数を4か所から1か所に減少させていることで旋回流の強さが低下するため、図5(a)-(f)に示す周期(0.05秒)よりも遅くなっている。
【0056】
このように、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、工具着脱穴21aの内周面に沿って回転する高速のエア吐出流(強いエア吐出流)で流れていくため、工具着脱穴21aの内周面の全域をクリーニング処理できる。よって、旋回流吐出孔22の配設数を4か所から1か所に減少させても、工具着脱穴21aにおける異物の残留を低減できる。ただし、旋回流吐出孔22の配設数は、回転体としての重量バランスを図るうえでは、少なくとも2か所(180度間隔)設けることが望ましい。
【0057】
(4.旋回流吐出孔22の配設位置の影響)
次に、旋回流吐出孔22の配設位置の影響について検討した。具体的には、図8A及び図8Bに示すように、旋回流吐出孔22の配設位置を工具着脱穴21aのコラム穴21a2からテーパ穴21a1に移動させた。テーパ穴21a1には、テーパ穴21a1の内周面における一円周の接線方向に向けてエアを吐出する旋回流吐出孔22が設けられる。
【0058】
旋回流吐出孔22の開口は、テーパ穴21a1の内周面における一円周上において、等角度間隔、本例では、等角度間隔で4か所(90度間隔)設けられる。このような構成において、工具着脱穴21a内におけるエア流動をシミュレーション処理して、図9A及び図9Bに示すシミュレーション処理結果を求めた。
【0059】
このときのエア流動条件は、旋回流吐出孔22をコラム穴21a2に設けたときのエア流動条件と同一、すなわち旋回流吐出孔22から吐出されるエアの流量を同一に設定するとともに、直進流吐出孔61から吐出されるエアの流量を同一に設定した。図9A及び図9Bでは、図9A(a),(b),(c),(d),(e),図9B(a),(b),(c),(d),(e),図9A(a)の順でエアAtが1回転するときの速度分布の等時間間隔の経時変化を示す。
【0060】
図9A(a)-(e)及び図9B(a)-(e)に示すように、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、テーパ穴21a1の内周面に沿って0.09秒の周期で回転しており、図5(a)-(f)に示す周期(0.05秒)よりも若干遅くなっている。しかし、吸い込み領域の発生は認められず、異物の取り込みは抑制できる。
【0061】
また、直進流吐出孔61から吐出されるエアAtは、工具着脱穴21aの内周面に沿って回転する高速のエア吐出流(強いエア吐出流)で流れていくため、工具着脱穴21aの内周面の全域をクリーニング処理できる。よって、旋回流吐出孔22の配設位置を直進流吐出孔61から離間させても、工具着脱穴21aにおける異物の残留を低減できる。
【0062】
(5.工具着脱穴21aのクリーニング処理動作)
次に、上述の主軸装置1の工具着脱穴21aにおけるエア吐出によるクリーニング処理動作について図10のフローチャートを参照して説明する。なお、このクリーニング処理動作は、工作機械における工作物の加工工程が終了した後に、エア吐出を所定時間行うことで完了するものとする。
【0063】
主軸装置1の制御装置90は、工作機械における加工工程が終了したか否かを判断し(ステップS1)、工作機械における加工工程が終了したら、クーラント液供給源82の動作を停止する(ステップS2)。
【0064】
そして、主軸装置1の制御装置90は、ドローバ60を前側に移動させてクランプユニット70をクランプ状態からアンクランプ状態に移行する(ステップS3)。工作機械の制御装置は、自動工具交換装置を作動させて主軸装置1から工具ホルダを取り外す。
【0065】
主軸装置1の制御装置90は、エア供給源81の動作を開始し(ステップS4)、開閉弁25を開いて各旋回流吐出孔22からエアを吐出させる(ステップS5)。そして、主軸装置1の制御装置90は、切替装置80を動作させてクーラント液の供給をエアの供給に切り替え、直進流吐出孔61からエアを吐出させる(ステップS6)。
【0066】
主軸装置1の制御装置90は、エア供給源81の動作時間が所定時間経過したか否かを判断し(ステップS7)、エア供給源81の動作時間が所定時間経過したら、エア供給源81の動作を停止し(ステップS8)、全ての処理を終了する。
【0067】
(6.その他)
上述の実施形態では、コラム穴21a2又はテーパ穴21a1の内周面における一円周の接線方向に向けてエアを吐出する旋回流吐出孔22を備える構成を説明した。しかし、コラム穴21a2内やアンクランプ穴21a3内において旋回流を形成できれば、一円周の接線方向に向けてエアを吐出する構成に限定されるものではない。
【0068】
また、エアの吐出とクーラント液の吐出を切り替えて使用する直進流吐出孔61を備える構成を説明したが、直進流吐出孔61をエアの吐出専用にし、クーラント液の吐出専用の孔をドローバ60に別途設ける構成としてもよい。この場合、切替装置80は不要となる。
【符号の説明】
【0069】
1;主軸装置、8;工具ホルダ、 10;ハウジング(固定部)、 20;主軸(回転体)、 21a;工具着脱穴、 22;旋回流吐出孔、 30,40;軸受、 60;ドローバ、 61;直進流吐出孔、 70;クランプユニット、 80;切替装置、 81;エア供給源、 82;クーラント液供給源、 90;制御装置
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11