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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】タイヤのコーナリング特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20230912BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20230912BHJP
   G01M 17/04 20060101ALI20230912BHJP
   G01M 17/06 20060101ALI20230912BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
G01M17/04
G01M17/06
G01M17/007 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019225754
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021096090
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】中西 亮太
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-162482(JP,A)
【文献】特開2019-43232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
B60C 19/00
G01M 17/04
G01M 17/06
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのコーナリング特性の評価方法であって、
タイヤのコーナリングパワーとセルフアライニングトルクパワーとを求める第1工程と、
前記コーナリングパワー及び前記セルフアライニングトルクパワーと、タイヤの等価コーナリング係数との関係式を求める第2工程と、
前記コーナリングパワーと前記セルフアライニングトルクパワーと前記等価コーナリング係数とを1つのグラフに表示する第3工程とを含む、
タイヤのコーナリング特性評価方法。
【請求項2】
評価対象のタイヤのコーナリング特性を評価する第4工程をさらに含み、
前記第3工程は、前記等価コーナリング係数の等高線を表示することによって、前記グラフを複数の領域に区画し、
前記第4工程は、タイヤが属する前記領域に基づき、タイヤのコーナリング特性を評価する、請求項1に記載のタイヤのコーナリング特性評価方法。
【請求項3】
前記等高線は、直線状に表示される、請求項2に記載のタイヤのコーナリング特性評価方法。
【請求項4】
前記第2工程は、前記タイヤが装着される車両のサスペンション特性に関する係数に基づき、前記関係式を求める、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のタイヤのコーナリング特性評価方法。
【請求項5】
前記サスペンション特性に関する前記係数は、ロールステアに関する第1係数と、横力コンプライアンスステアに関する第2係数と、ねじり剛性に関する第3係数とを含む、請求項4に記載のタイヤのコーナリング特性評価方法。
【請求項6】
前記サスペンション特性に関する前記係数は、実測又は計算により求められる、請求項4又は5に記載のタイヤのコーナリング特性評価方法。
【請求項7】
前記第1工程は、評価対象の前記タイヤを台上試験することで前記コーナリングパワーと前記セルフアライニングトルクパワーとを求める、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のタイヤのコーナリング特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されるタイヤのコーナリング特性を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に装着されるタイヤのコーナリング特性を、定量的に評価するための種々の試みが行われている。例えば、下記特許文献1には、タイヤの等価コーナリングパワーを、車両の任意の点における車体スリップ角、横加速度及び車体速度に基づき求める方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-084551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法は、車両の運動特性指標であるスタビリティファクタ、定常ヨーゲイン及びヨー共振周波数と関連する等価コーナリング係数に対する評価が明確とはいえず、等価コーナリング係数に基づく評価が望まれていた。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤのコーナリング特性を等価コーナリング係数に基づき容易に評価し得る方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤのコーナリング特性の評価方法であって、タイヤのコーナリングパワーとセルフアライニングトルクパワーとを求める第1工程と、前記コーナリングパワー及び前記セルフアライニングトルクパワーと、タイヤの等価コーナリング係数との関係式を求める第2工程と、前記コーナリングパワーと前記セルフアライニングトルクパワーと前記等価コーナリング係数とを1つのグラフに表示する第3工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法において、評価対象の前記タイヤのコーナリング特性を評価する第4工程をさらに含み、前記第3工程は、タイヤの等価コーナリング係数の等高線を表示することによって、前記グラフを複数の領域に区画し、前記第4工程は、前記タイヤが属する前記領域に基づき、前記タイヤのコーナリング特性を評価するのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法において、前記等高線は、直線状に表示されるのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法において、前記第2工程は、前記タイヤが装着される車両のサスペンション特性に関する係数に基づき、前記関係式を求めるのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法において、前記サスペンション特性に関する前記係数は、ロールステアに関する第1係数と、横力コンプライアンスステアに関する第2係数と、ねじり剛性に関する第3係数とを含むのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法において、前記サスペンション特性に関する前記係数は、実測又は計算により求められるのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法において、前記第1工程は、評価対象の前記タイヤを台上試験することで前記コーナリングパワーと前記セルフアライニングトルクパワーとを求めるのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法は、コーナリングパワーとセルフアライニングトルクと等価コーナリング係数とを1つのグラフに表示する第3工程を含んでいる。このような方法は、車両の運動特性指標であるスタビリティファクタ、定常ヨーゲイン及びヨー共振周波数に関連する等価コーナリング係数に対するタイヤのコーナリング特性を評価することができる。このため、本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法は、タイヤのコーナリング特性を等価コーナリング係数に基づき容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のタイヤのコーナリング特性評価方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図2】第2工程を示すフローチャートである。
図3】第3工程を示すフローチャートである。
図4】タイヤが前輪に用いられる場合の一例を示すグラフである。
図5】タイヤが後輪に用いられる場合の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき詳細に説明される。
図1は、本実施形態のタイヤのコーナリング特性評価方法を示すフローチャートである。図1に示されるように、本実施形態のタイヤのコーナリング特性評価方法は、タイヤのコーナリング特性を定量的に評価するための方法である。
【0016】
本実施形態のタイヤのコーナリング特性評価方法は、まず、タイヤのコーナリングパワーCPとセルフアライニングトルクパワーSATPとを求める第1工程S1が行われる。第1工程S1では、タイヤのコーナリングパワーCPとセルフアライニングトルクパワーSATPとが実測又は計算により求められるのが望ましい。このような第1工程S1は、タイヤのコーナリングパワーCPとセルフアライニングトルクパワーSATPとを正確に求めることができる。
【0017】
本実施形態のタイヤのコーナリング特性評価方法は、第1工程S1の次に、コーナリングパワーCP及びセルフアライニングトルクパワーSATPと、タイヤの等価コーナリング係数Cとの関係式F1を求める第2工程S2が行われる。ここで、等価コーナリング係数Cは、車両の運動特性指標であるスタビリティファクタ、定常ヨーゲイン及びヨー共振周波数に関連する係数である。このような第2工程S2は、車両の運動特性を考慮した上で、タイヤのコーナリング特性を評価することができる。
【0018】
本実施形態のタイヤのコーナリング特性評価方法は、第2工程S2の次に、コーナリングパワーCPとセルフアライニングトルクパワーSATPと等価コーナリング係数Cとを1つのグラフに表示する第3工程S3が行われる。
【0019】
このような方法は、車両の運動特性指標であるスタビリティファクタ、定常ヨーゲイン及びヨー共振周波数に関連する等価コーナリング係数Cに対するタイヤのコーナリング特性を評価することができる。このため、本実施形態のタイヤのコーナリング特性評価方法は、タイヤのコーナリング特性を等価コーナリング係数に基づき容易に評価することができる。
【0020】
より好ましくは、タイヤのコーナリング特性評価方法は、第3工程S3の次に、評価対象のタイヤのコーナリング特性を評価する第4工程S4が行われる。第4工程S4は、例えば、評価対象のタイヤのグラフ上での位置に基づき、タイヤのコーナリング特性が評価されている。このような第4工程S4は、タイヤのコーナリング特性を容易に評価することに役立つ。
【0021】
本実施形態の第1工程S1は、評価対象のタイヤを台上試験することでコーナリングパワーCPとセルフアライニングトルクパワーSATPとを求めている。第1工程S1は、例えば、評価対象のタイヤのコーナリングパワーCPとセルフアライニングトルクパワーSATPとを、フラットベルト試験機を用いて求めている。このような第1工程S1は、タイヤのコーナリングパワーCPとセルフアライニングトルクパワーSATPとを実測により求めることができる。
【0022】
第1工程S1は、例えば、シミュレーションを用いて計算してもよい。このような第1工程S1は、新しいトレッドパターンを採用する場合にも試作する必要がなく、タイヤのコーナリング特性の評価に要する時間を短縮することができる。
【0023】
図2は、本実施形態の第2工程S2を示すフローチャートである。図2に示されるように、本実施形態の第2工程S2は、コーナリングパワーCP及びセルフアライニングトルクパワーSATPと、タイヤの等価コーナリング係数Cとの関係式F1を求める第1式算出工程S21が行われる。第1式算出工程S21は、タイヤが装着される車両のサスペンション特性に関する係数aに基づき、関係式F1を求めるのが望ましい。
【0024】
関係式F1は、例えば、以下の数式1として表される。
【数1】
ここで、係数aは、サスペンション特性に関する係数である。
【0025】
サスペンション特性に関する係数aは、ロールステアに関する第1係数a1と、横力コンプライアンスステアに関する第2係数a2と、ねじり剛性に関する第3係数a3とを含むのが望ましい。この場合の関係式F2は、例えば、以下の数式2として表される。
【数2】
【0026】
サスペンション特性に関する第1係数a1、第2係数a2及び第3係数a3は、それぞれ、実測又は計算により求められるのが望ましい。本実施形態の第1係数a1、第2係数a2及び第3係数a3は、サスペンション特性試験機を用いて、実測により求められている。このような第1式算出工程S21は、サスペンション特性に関する係数aを正確に求めることができる。
【0027】
第2工程S2は、数式2で表される関係式F2をセルフアライニングトルクパワーSATPについて解くことで、以下の数式3で表される関係式F3を求める第2式算出工程S22が行われる。
【数3】
【0028】
数式3は、例えば、タイヤが前輪に用いられる場合には、フロントコーナリングパワーFrCP、フロントセルフアライニングトルクパワーFrSATP及びフロント等価コーナリング係数Cfの関係式として、以下の数式4のように表される。
【数4】
ここで、各係数は、以下のとおりである。
Wf : フロント軸重
g : 重力加速度
a1f : フロントロールステア係数
a2f : フロント横力コンプライアンスステア係数
a3f : フロントねじり剛性係数
CT : キャスタートレール
【0029】
数式3は、例えば、タイヤが後輪に用いられる場合には、リアコーナリングパワーRrCP、リアセルフアライニングトルクパワーRrSATP及びリア等価コーナリング係数Crの関係式として、以下の数式5のように表される。
【数5】
ここで、各係数は、以下のとおりである。
Wr : リア軸重
g : 重力加速度
a1r : リアロールステア係数
a2r : リア横力コンプライアンスステア係数
a3r : リアねじり剛性係数
【0030】
なお、数式3は、数式4又は数式5に限定されるものではなく、ロールステアに関する第1係数a1、横力コンプライアンスステアに関する第2係数a2、ねじり剛性に関する第3係数a3等を用いて表される種々の数式が適宜採用され得る。
【0031】
また、上述の第2式算出工程S22では、数式2をセルフアライニングトルクパワーSATPについて解いていたが、第2式算出工程S22は、例えば、数式2をコーナリングパワーCPについて解いてもよい。この場合の第2式算出工程S22は、以下の数式6で表される関係式F4を求めることになる。
【数6】
【0032】
図3は、第3工程S3を示すフローチャートであり、図4は、タイヤが前輪に用いられる場合の一例を示すグラフである。図3及び図4に示されるように、本実施形態の第3工程S3は、まず、グラフの縦軸と横軸とを表示する縦軸・横軸表示工程S31が行われる。本実施形態の縦軸・横軸表示工程S31は、コーナリングパワーCPを横軸に、セルフアライニングトルクパワーSATPを縦軸に表示している。
【0033】
第3工程S3は、次に、グラフに等価コーナリング係数Cの等高線を表示する等高線表示工程S32が行われるのが望ましい。等高線表示工程S32は、例えば、関係式F3を用いて、等価コーナリング係数Cがある値Caのときの等高線を表示している。このような第3工程S3は、第1係数a1、第2係数a2及び第3係数a3が一定の係数であることから、等価コーナリング係数Cがある値Caのときの等高線を表示することが容易である。
【0034】
ここで、関係式F3は、等価コーナリング係数Cがある値Caのときに、SATPをCPの一次関数として表すことができる。このため、本実施形態の等高線は、直線状に表示されている。図4では、数式4に基づく関係式を用いて、等価コーナリング係数Cが値C1~C5のときの5本の等高線が例示されている。
【0035】
第3工程S3は、次に、等価コーナリング係数Cの等高線を表示することによって、グラフを複数の領域Raに区画する領域区画工程S33が行われるのが望ましい。図4では、5本の等高線により区画された6つの領域R1~R6が例示されている。図4では、理解し易いように、1つの領域R4が着色されている。領域Raのそれぞれは、等価コーナリング係数Cが同一又は類似の範囲である。このような領域区画工程S33は、等価コーナリング係数Cに基づくタイヤのコーナリング特性を容易に評価することに役立つ。
【0036】
第3工程S3は、次に、評価対象のタイヤを表示する対象タイヤ表示工程S34が行われる。対象タイヤ表示工程S34は、評価対象のタイヤ毎に異なるマークで表示するのが望ましい。図4では、タイヤAとタイヤBとが例示されている。このような対象タイヤ表示工程S34は、評価対象のタイヤのコーナリング特性を視覚的に把握することが容易である。
【0037】
図5は、タイヤが後輪に用いられる場合の一例を示すグラフである。図5では、数式5に基づく関係式を用いて、等価コーナリング係数Cが値C6~C11のときの6本の等高線が表示され、これらの等高線により区画された7つの領域R7~R13が例示されている。
【0038】
図1図4及び図5に示されるように、本実施形態の第4工程S4は、タイヤが属する領域Raに基づき、タイヤのコーナリング特性を評価している。図4では、タイヤAが領域R3に属しており、タイヤBが領域R5に属している状態が例示されている。図5では、タイヤAが領域R11に属しており、タイヤBが領域R9に属している状態が例示されている。このような第4工程S4は、タイヤの属する領域Raに基づいて評価しているので、タイヤのコーナリング特性を等価コーナリング係数Cに基づき容易に評価することができる。
【0039】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施し得る。
【実施例
【0040】
図1図3の方法で、数式4及び数式5により求められたグラフを用いて、タイヤA及びタイヤBの評価が行われた。この実施例では、タイヤA及びタイヤBのコーナリングパワーCPとセルフアライニングトルクパワーSATPがフラットベルト試験機を用いて求められた。また、サスペンション特性に関する第1係数a1、第2係数a2及び第3係数a3は、サスペンション特性試験機を用いて求められた。テストの結果が、図4及び図5に示される。
【0041】
テストの結果、タイヤが前輪に用いられる場合であっても、タイヤが後輪に用いられる場合であっても、例示されるタイヤAの等価コーナリング係数Cは、タイヤBの等価コーナリング係数Cよりも高いことが確認された。また、タイヤが後輪に用いられる場合は、タイヤが前輪に用いられる場合に比べて、セルフアライニングトルクパワーSATPが等価コーナリング係数Cに与える影響が小さいことが確認された。このため、実施例の評価方法は、タイヤのコーナリング特性を等価コーナリング係数Cに基づき容易に評価することができることが確認された。
【符号の説明】
【0042】
S1 第1工程
S2 第2工程
S3 第3工程
CP コーナリングパワー
SATP セルフアライニングトルクパワー
C 等価コーナリング係数
図1
図2
図3
図4
図5