(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】回転電機コアの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20230912BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
H02K15/02 F
H02K15/12 A
(21)【出願番号】P 2019229397
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 健人
(72)【発明者】
【氏名】村上 幸範
(72)【発明者】
【氏名】山岸 義忠
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-123301(JP,A)
【文献】特開2016-136828(JP,A)
【文献】特開2004-064041(JP,A)
【文献】特開昭53-092402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/02
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアまたはステータコアである回転電機コアの製造方法であって、
鋼板本体を絶縁被膜で被覆して成る鋼板を、複数積層して積層体を構成する積層工程と、
前記積層体を規定の目標温度に加熱する加熱工程と、
前記積層体を前記目標温度に加熱した状態で、加圧荷重が規定の締結荷重より大きい目標荷重に達するまで、加圧部材で前記積層体を積層方向に加圧した後、前記加圧荷重が一定になるまで前記加圧部材を静止させ、前記加圧荷重が一定になれば、前記加圧部材を前記積層体から離間させて、前記加圧を解除する加圧工程と、
前記加熱および前記加圧が解除された後、前記積層体を構成する複数の前記鋼板を締結部品により、前記締結荷重が発生するまで締め付けて、締結する締結工程と、
を備えることを特徴とする回転電機コアの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機コアの製造方法であって、
前記加圧部材は、前記積層体の前記積層方向の端面の全面に接触して押圧する、ことを特徴とする回転電機コアの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機コアの製造方法であって、
前記目標温度は
、回転電機の運転時における前記回転電機コアの温度以上である、ことを特徴とする回転電機コアの製造方法。
【請求項4】
ロータコアまたはステータコアである回転電機コアの製造装置であって、
鋼板本体を絶縁被膜で被覆して成る鋼板を複数積層して構成される積層体の積層方向両側に配置されるベースおよび加圧部材を含み、少なくとも前記加圧部材を前記積層体の積層方向に進退させることで前記積層体を加圧する加圧機構と、
前記積層体を加熱するヒータと、
前記加圧部材が前記積層体から受ける面圧を検出圧力として検知する圧力センサと、
前記積層体の温度を検出温度として検知する温度センサと、
前記ヒータおよび前記加圧機構の駆動を制御するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、
前記検出温度が規定の目標温度に達するまで前記ヒータを駆動して前記積層体を加熱させる加熱処理と、
前記検出圧力と押圧面積とを乗算した加圧荷重が規定の締結荷重より大きい目標荷重に達するまで加圧部材を前記積層体に近づく方向に移動させた後、前記加圧荷重が一定になるまで前記加圧部材を静止させ、前記加圧荷重が一定になれば、前記加圧部材を前記積層体から離間する方向に移動させる加圧処理と、
を並行して実行するように構成されている、ことを特徴とする回転電機コアの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、ロータコアまたはステータコアである回転電機コアの製造方法および製造装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
回転電機のロータコアまたはステータコア(以下「回転電機コア」という)は、複数の鋼板を軸方向に積層して構成されることが多い。この場合、各鋼鈑は、鋼板本体を絶縁被膜で被覆して構成される。複数の鋼板は、積層された後、ボルトやナット等の締結部品により強固に締結される。
【0003】
こうした回転電機コアは、積層された鋼板が互いに密着して締結されるように、十分な軸力を維持することが望まれる。そこで、従来から、回転電機コアの軸力を確保するための技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鋼板の積層体を締結部品の締結長さより小さくなるように加圧した状態で、当該積層体に締結部品を取り付けた後で、加圧を解除し、積層体を復元させて軸力を発生させる技術が開示されている。かかる技術によれば、締結部品の締結長さを設計通りに確保することができるため、積層体の軸方向寸法を設計通りに確保しやすく、ひいては、軸力をある程度確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、積層体は、加圧により弾性変形しているに過ぎない。その一方で、積層体は、ロータコアまたはステータコアとして利用された場合、回転電機の運転に伴い、高温になる。このような高温状態が継続すると、鋼板本体を被覆する絶縁被膜がクリープ変形し、積層体全体の軸方向寸法が低下する場合があった。そして、この場合には、締結部品による締結荷重が低下し、軸力が低下する。
【0007】
そこで、本明細書では、軸力の低下を効果的に防止できる回転電機コアの製造方法および製造装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する回転電機コアの製造方法は、ロータコアまたはステータコアである回転電機コアの製造方法であって、鋼板本体を絶縁被膜で被覆して成る鋼板を、複数積層して積層体を構成する積層工程と、前記積層体を規定の目標温度に加熱する加熱工程と、前記積層体を前記目標温度に加熱した状態で、加圧荷重が規定の締結荷重より大きい目標荷重に達するまで、加圧部材で前記積層体を積層方向に加圧した後、前記加圧荷重が一定になるまで前記加圧部材を静止させ、前記加圧荷重が一定になれば、前記加圧部材を前記積層体から離間させて、前記加圧を解除する加圧工程と、前記加熱および前記加圧が解除された後、前記積層体を構成する複数の鋼板を締結部品により、前記締結荷重が発生するまで締め付けて、締結する締結工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
締結の前に、積層体を加熱、加圧することで、絶縁被膜のクリープ変形が発生する。そして、これにより、締結後には、絶縁被膜のクリープ変形の発生が抑制される。その結果、回転電機コアの軸力の低下を効果的に防止できる。
【0010】
この場合、前記加圧部材は、前記積層体の前記積層方向の端面の全面に接触して押圧してもよい。
【0011】
積層体の積層方向端面の全面を押圧することで、絶縁被膜の全体にクリープ変形を発生させることができる。換言すれば、回転電機の運転時に、特に高温になりやすい巻線付近や永久磁石付近にもクリープ変形を事前発生させることができる。これにより、運転時のクリープ変形の発生をより確実に防止でき、回転電機コアの軸力の低下をより効果的に防止できる。
【0012】
また、前記目標温度は、回転電機の運転時における前記回転電機コアの温度以上でもよい。
【0013】
これにより、運転時のクリープ変形の発生をより確実に防止でき、回転電機コアの軸力の低下をより効果的に防止できる。なお、回転電機の運転時における前記回転電機コアの温度とは、例えば、回転電機を定格出力で運転させ続けた場合の回転電機コアの飽和温度、あるいは、JIS D1302等で規定されている試験方法に従って測定された回転電機コアの温度のことである。
【0014】
本明細書で開示する回転電機コアの製造装置は、ロータコアまたはステータコアである回転電機コアの製造装置であって、鋼板本体を絶縁被膜で被覆して成る鋼板を複数積層して構成される積層体の積層方向両側に配置されるベースおよび加圧部材を含み、少なくとも前記加圧部材を前記積層体の積層方向に進退させることで前記積層体を加圧する加圧機構と、前記積層体を加熱するヒータと、前記加圧部材が前記積層体から受ける面圧を検出圧力として検知する圧力センサと、前記積層体の温度を検出温度として検知する温度センサと、前記ヒータおよび前記加圧機構の駆動を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記検出温度が規定の目標温度に達するまで前記ヒータを駆動して前記積層体を加熱させる加熱処理と、前記検出圧力と押圧面積とを乗算した加圧荷重が規定の締結荷重より大きい目標荷重に達するまで加圧部材を前記積層体に近づく方向に移動させた後、前記加圧荷重が一定になるまで前記加圧部材を静止させ、前記加圧荷重が一定になれば、前記加圧部材を前記積層体から離間する方向に移動させる加圧処理と、を並行して実行するように構成されている、ことを特徴とする。
【0015】
回転電機コアの製造装置により、積層体を加熱、加圧することで、絶縁被膜のクリープ変形が発生する。そして、これにより、締結後には、絶縁被膜のクリープ変形の発生が抑制される。その結果、回転電機コアの軸力の低下を効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で開示する回転電機コアの製造方法および製造装置によれば、軸力の低下を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図5】クリープ変形発生後の回転電機コアの模式的断面図である。
【
図6】回転電機コアの製造の流れを示すフローチャートである。
【
図7】積層体を加熱、加圧する際の各種パラメータの経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して回転電機コア100の製造装置および製造方法について説明する。
図1は、コア製造装置10の構成を示す模式図である。このコア製造装置10の説明に先立って、
図2、
図3を参照して回転電機コア100について説明する。
【0019】
回転電機コア100は、回転電機に組み込まれるコアであり、ステータコア104またはロータコア106である。
図2は、ステータコア104の概略的な分解斜視図であり、
図3は、ロータコア106の概略的な分解斜視図である。ステータコア104およびロータコア106は、いずれも、複数の鋼板110を軸方向に積層して構成される。以下では、複数の鋼板110を積層したものを「積層体102」と呼ぶ。
【0020】
積層された複数の鋼板110は、締結部品により締結される。例えば、
図2に示すように、ステータコア104を構成する複数の鋼板110を、締結部品である締結ボルト118および締結ナット120で締結してもよい。この場合、ステータコア104には、当該ステータコア104を軸方向に貫通する締結孔116が複数(図示例では三つ)形成されており、各締結孔116に締結ボルト118が挿通される。複数の鋼板110は、この締結ボルト118の頭部と、当該締結ボルト118に螺合する締結ナット120で挟み込まれることになる。そして、複数の鋼板110には、締結ナット120の締め付け力に応じた軸方向圧縮の力、すなわち、軸力がかかる。
【0021】
また、ロータコア106の場合、
図3に示すように、当該ロータコア106に挿通されるロータシャフト108を締結部品として利用してもよい。この場合、ロータシャフト108の途中には、ロータコア106の軸孔より大径のフランジ122が形成されている。また、ロータコア106の外周面には、締結ナット120が螺合される雄ネジ123が形成されている。このロータシャフト108が、ロータコア106の軸孔に挿通されると、ロータコア106の一端面は、フランジ122に当接し、ロータコア106の他端面からは、ロータシャフト108の雄ネジ123が突出する。この雄ネジ123に、締結ナット120を螺合することで、ロータコア106を構成する複数の鋼板110は、フランジ122と、締結ナット120で挟み込まれることになる。そして、複数の鋼板110には、締結ナット120の締め付け力に応じた軸方向圧縮の力、すなわち、軸力がかかる。
【0022】
こうした回転電機コア100は、その性能を維持するために、複数の鋼板110を互いに密着させ続けることが必要である。そして、複数の鋼板110を密着させ続けるために、積層体102には、十分な軸力が作用し続けることが求められる。
【0023】
そこで、従来から、締結部品の締め付け荷重を調整して、積層体102に十分な軸力を作用させることが提案されている。しかしながら、従来の技術は、いずれも、締結部品で積層体102を締め付けた直後は、十分な軸力が得られるが、回転電機コア100を組み込んだ回転電機を運転する過程で、軸力が低下しやすかった。
【0024】
これについて、
図4、
図5を参照して説明する。
図4は、回転電機コア100の模式的断面図である。また、
図5は、クリープ変形発生後の回転電機コア100の模式的断面図である。回転電機コア100を構成する鋼板110は、
図4に示すように、鋼板本体112と、当該鋼板本体112を被覆する絶縁被膜114と、を有する。鋼板本体112は、例えば、軟磁性材料からなる金属薄板である。絶縁被膜114は、絶縁性を有する樹脂からなる被膜である。この絶縁被膜114が厚み方向に弾性圧縮するまで、締結部品(図示例では締結ボルト118と締結ナット120)を締め付けることで、積層体102に軸力が作用する。
【0025】
この
図4の状態が維持されれば、問題は無いが、実際には、熱クリープ現象により、積層体102の軸方向寸法が減少し、軸力が低下していた。すなわち、回転電機コア100であるステータコア104またはロータコア106は、回転電機コア100の駆動に伴い、発熱し、温度上昇する。つまり、回転電機コア100には、締結部品による加圧力と、熱と、が同時に作用する。この場合、樹脂材料である絶縁被膜114が、熱クリープ現象により、変形し、厚みが低下する。その結果、
図5に示すように、締結部品の締め付け寸法が変化しないのに対し、積層体102の軸方向寸法が小さくなることで、積層体102に作用する軸力が低下する。
【0026】
本明細書では、こうしたクリープ変形に起因する軸力低下を抑制するために、積層体102を締結部品で締結する前段階で、積層体102に、積極的に、クリープ変形を発生させる。以下、この回転電機コア100の製造に用いられるコア製造装置10の構成について、
図1を参照して説明する。
【0027】
コア製造装置10は、回転電機コア100を加圧するための加圧機構12を有している。加圧機構12は、ベース14と、加圧ブロック16と、昇降機構18と、を有する。ベース14は、締結前の積層体102が載置される部材である。積層体102は、その積層方向(すなわち軸方向)が、ベース14表面に対して直交する姿勢で、ベース14に載置される。このベース14は、積層体102を安定して支持できるのであれば、その構成は特に限定されない。例えば、
図1では、ベース14の表面を平坦面としているが、例えば、積層体102の端面に凹凸がある場合には、ベース14の表面に当該凹凸を受け入れる凹凸を設けてもよい。また、ベース14は、単一の部材で構成される必要はなく、複数の部材で構成されてもよい。したがって、例えば、ベース14は、本体部と、積層体102の種類や形状に応じて交換可能なアタッチメントと、を組み合わせて構成されてもよい。
【0028】
加圧ブロック16は、積層体102を挟んでベース14の反対側に設けられているブロック部材である。この加圧ブロック16は、昇降機構18により、積層体102の積層方向に進退可能となっている。この加圧ブロック16は、積層体102を押圧できるのであれば、その構成は特に限定されない。例えば、加圧ブロック16は、単一の部材で構成される必要はなく、複数の部材で構成されてもよい。また、
図1では、加圧ブロック16の底面(すなわち積層体102を押圧する押圧面)を平坦面としているが、例えば、積層体102の端面に凹凸がある場合には、加圧ブロック16の表面に当該凹凸を受け入れる凹凸を設けてもよい。また、加圧ブロック16の外形は、積層体102の外形よりも十分に大きくてもよい。かかる構成とすることで、積層体102の端面のほぼ全面を加圧ブロック16で押圧できる。
【0029】
加圧ブロック16には、当該加圧ブロック16が積層体102から受ける面圧を検知する圧力センサ24が設けられている。圧力センサ24での検知結果は、検出圧力としてコントローラ28に入力される。コントローラ28は、この検出圧力に、積層体102の押圧面の面積を乗算する。この乗算値は、加圧ブロック16による積層体102の加圧荷重Fとして、コントローラ28のメモリに一時記憶される。
【0030】
昇降機構18は、加圧ブロック16を昇降させる。かかる昇降機構18の構成は、特に限定されない。例えば、昇降機構18は、駆動源として、モータ、エアシリンダ、油圧シリンダ、電磁シリンダおよびスプリングの少なくとも一つを含んでもよい。さらに、昇降機構18は、加圧ブロック16の移動方向をガイドするガイド部材や、駆動源から出力された動力を加圧ブロック16に伝達する伝達部材等を有してもよい。この昇降機構18の駆動は、コントローラ28により制御される。また、昇降機構18には、当該昇降機構18または加圧ブロック16の位置を検知する位置センサ26(例えばエンコーダ等)が設けられている。この位置センサ26での検知結果は、検出位置Sとしてコントローラ28に入力される。
【0031】
コア製造装置10には、さらに、ベース14に載置された積層体102を加熱するヒータ20が設けられている。ヒータ20は、積層体102を所定の目標温度T*まで加熱できるのであれば、その構成は特に限定されない。したがって、ヒータ20としては、例えば、電磁誘導により積層体102に熱を発生させる電磁誘導式ヒータでもよいし、ベース14等に埋め込まれたセラミックヒータでもよい。
【0032】
コア製造装置10には、さらに、積層体102の温度を検知する温度センサ22も設けられている。温度センサ22は、サーミスタや熱電対等の接触式温度センサでもよい。この場合、温度センサ22は、積層体102に取り付けられ、当該積層体102の温度を直接検知してもよいし、ベース14または加圧ブロック16に取り付けられ、これらの温度から間接的に積層体102の温度を取得してもよい。また、温度センサ22は、赤外線カメラ等を利用した非接触式の温度センサ22でもよい。温度センサ22で検知された温度は、検出温度Tとして、コントローラ28に入力される。
【0033】
コントローラ28は、各種センサ22,24,26での検知結果に基づいて、昇降機構18およびヒータ20の駆動を制御する。このコントローラ28は、例えば、プロセッサとメモリを有するコンピュータである。この「コンピュータ」には、コンピュータシステムを一つの集積回路に組み込んだマイクロコントローラも含まれる。また、プロセッサとは広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit、等)や、専用のプロセッサ(例えばGPU:Graphics Processing Unit、ASIC:Application Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス、等)を含むものである。また、以下に述べるプロセッサの動作は、1つのプロセッサによって成すのみでなく、物理的に離れた位置に存在する複数のプロセッサが協働して成すものであってもよい。また、プロセッサの各動作の順序は上記各実施形態において記載した順序のみに限定されるものではなく、適宜、変更してもよい。同様に、メモリも、物理的に一つの要素である必要はなく、物理的に離れた位置に存在する複数のメモリで構成されてもよい。また、メモリは、半導体メモリ(例えばRAM、ROM、ソリッドステートドライブ等)および磁気ディスク(例えば、ハードディスクドライブ等)の少なくとも一つを含んでもよい。
【0034】
本例では、このコア製造装置10を用いて、締結前の積層体102を加熱しつつ加圧することで、積層体102にクリープ変形を積極的に発生させる。そして、クリープ変形後の積層体102を締結部品で締結する。この回転電機コア100の製造の流れを
図6、
図7を参照して説明する。
図6は、回転電機コア100の製造の流れを示すフローチャートである。また、
図7は、積層体102を加熱、加圧する際の各種パラメータの経時的変化を示すグラフである。
図7において、一段目は、加圧荷重Fを、二段目は、温度センサ22で検出される積層体102の温度を、三段目は、位置センサ26で検出される加圧ブロック16の位置を、4段目は、積層体102の軸方向寸法をそれぞれ示している。
【0035】
回転電機コア100を製造する際には、予め複数の鋼板110を軸方向に積層して積層体102を構成する。この積層体102を構成する複数の鋼板110は、例えば、接着剤やカシメ等により仮接合されていてもよい。いずれにしても、積層体102は、締結部品によって締結される前に、加圧機構12のベース14に載置される(S10)。この状態になれば、コントローラ28は、予めメモリに記録された加熱加圧プログラムに従って、積層体102を加熱加圧する(S12~S24)。
【0036】
具体的に説明すると、コントローラ28は、まず、ヒータ20を駆動して、検出温度Tが目標温度T*に達するまで、積層体102を加熱する(S12,S14)。ここで、目標温度T*は、予め規定されており、その値は、周囲環境の気温よりも高ければ特に限定されない。したがって、目標温度T*は、例えば、回転電機の運転時における回転電機コア100の温度に基づいて決定されてもよい。例えば、回転電機を連続定格で運転し続けた場合、回転電機コア100の温度は、徐々に上昇した後、一定温度で飽和する。目標温度T*は、この飽和温度より高い値としてもよい。また、JIS D1302には、電気自動車に搭載される回転電機の最高出力の試験方法が規定されている。目標温度T*は、この規格に従って回転電機を運転した際に測定される回転電機コア100の温度より高い値としてもよい。
【0037】
積層体102の温度が、目標温度T*に到達すれば、続いて、コントローラ28は、加圧荷重Fが、目標荷重F*に達するまで、加圧ブロック16をベースに近づく方向に移動させ、積層体102を加圧する(S16,S18)。ここで、目標荷重F*は、予め規定されており、その値は、締結部品による締結荷重Ffより大きく、かつ、絶縁被膜114の破断荷重より小さければ、特に限定されない。なお、この加圧ブロック16の移動は、加圧荷重Fが所定のプロファイル通りに変化するように、検出圧力をフィードバックする力制御で行ってもよい。また、別の形態として、加圧ブロック16の移動は、加圧ブロック16の位置が、所定のプロファイル通りに変化するように、検出位置をフィードバックする位置制御で行ってもよい。
【0038】
図7における時刻t0は、加圧ブロック16が積層体102に接触したタイミングを示している。
図7の三段目に示すように、本例では、加圧ブロック16が、積層体102に接触した後も、加圧ブロック16を進出させる。これにより、積層体102が加圧ブロック16から受ける加圧荷重Fは、徐々に増加していく。
【0039】
ここで、
図7の四段目は、積層体102の軸方向寸法を示している。この軸方向寸法としては、積層体102の実際の寸法である「実寸法Lr」と、積層体102の加圧を解除した状態での寸法である「無負荷寸法Lf」と、がある。すなわち、加熱した状態で加圧されることで、鋼板110の絶縁被膜114は、圧縮方向に徐々に変形し、積層体102の軸方向寸法は、徐々に縮小していく。この絶縁被膜114の変形量には、弾性変形分と、クリープ変形分と、が含まれている。弾性変形は、当然のことながら、加圧を解除した無負荷状態では、復元する。一方、クリープ変形は、加圧を解除した後も、復元することなく残存する。
図7の4段目における実線は、実際の積層体102の軸方向寸法、すなわち「実寸法Lr」を示している。
図7の4段目における破線は、積層体102の加圧を解除した状態、すなわち、弾性変形が復元した状態での積層体102の軸方向寸法、すなわち「無負荷寸法Lf」を示している。
図7の4段目に示す通り、加圧荷重Fを徐々に増加することで、実寸法Lr、無負荷寸法Lfは、いずれも、徐々に縮小していく。
【0040】
加圧荷重Fが、目標荷重F*に到達すれば、コントローラ28は、加圧ブロック16をその場で静止させる(S20)。
図7における時刻t1は、加圧ブロック16を静止させたタイミングを示している。
図7の四段目に示すように、加圧ブロック16を静止させることで、実寸法Lrは、一定値で安定する。一方、加圧ブロック16を静止させたとしても、クリープ変形は、徐々に進行するため、無負荷寸法Lfは、加圧ブロック16を静止させた後も、徐々に低下していく。その結果、
図7の一段目に示すように、加圧荷重Fは、加圧ブロック16を静止させた後も徐々に低下することになる。
【0041】
ただし、このクリープ変形は、無限に進行するわけではなく、ある程度で、止まる。クリープ変形の進行が止まり、無負荷寸法Lfが一定値で安定すると、加圧荷重Fも一定値で安定する。
【0042】
コントローラ28は、加圧荷重Fの変化を監視し、加圧荷重Fが一定値で安定するまで、加圧ブロック16を静止させ続ける(S20,S22)。例えば、コントローラ28は、現在の加圧荷重F(t)と、所定サンプリング前の加圧荷重F(t-n)との差分ΔFを随時算出し、この差分ΔFが、規定の許容差分ΔFdef以下となれば、加圧荷重Fが一定になったと判断してもよい。
【0043】
加圧荷重Fが一定になれば、コントローラ28は、積層体102の加熱および加圧を解除する(S24)。
図7における時刻t2は、加熱加圧が解除されたタイミングを示している。加圧が解除されることで、絶縁被膜114の弾性変形が復元し、実寸法Lrと無負荷寸法Lfとが同じになる。また、加熱が解除されることで、積層体102は、熱収縮するため、実寸法Lr・無負荷寸法Lfは、若干、低下する。そして、最終的に、積層体102の軸方向寸法は、一定値L1で安定する。
【0044】
積層体102の加熱加圧が解除されれば、最後に、積層体102を締結部品で締結する(S26)。このときの締結荷重Ffは、目標荷重F*よりも小さい。また、締結時には、絶縁被膜114を弾性変形させるため、締結した際の積層体102の実寸法L0は、加熱加圧を解除した際の軸方向寸法L1よりも小さい。
【0045】
以上の説明で明らかな通り、本例では、締結部品による締結に先立って、積層体102を加熱加圧することで、クリープ変形させている。事前にクリープ変形させることで、締結後でのクリープ変形が抑制され、結果として、軸力の低下が効果的に抑制される。特に、回転電機を運転した場合、ステータコア104のティース近傍、ロータコア106の磁石孔近傍は、高温になりやすく、クリープ変形しやすい。本例では、このティース近傍、磁石孔近傍も含めた回転電機コア100全体を事前に加熱し、加圧している。その結果、ティース近傍または磁石孔近傍を含む回転電機コア100全体で均等にクリープ変形が事前に発生する。その結果、締結後は、この高温になりやすいティース近傍または磁石孔近傍においてもクリープ変形が効果的に抑制される。なお、ここで説明した構成は一例であり、少なくとも、積層体102の締結前に、当該積層体102を加熱加圧して、クリープ変形させるのであれば、その他の構成は、適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 コア製造装置、12 加圧機構、14 ベース、16 加圧ブロック、18 昇降機構、20 ヒータ、22 温度センサ、24 圧力センサ、26 位置センサ、28 コントローラ、100 回転電機コア、102 積層体、104 ステータコア、106 ロータコア、108 ロータシャフト、110 鋼板、112 鋼板本体、114 絶縁被膜、116 締結孔、118 締結ボルト、120 締結ナット、122 フランジ、123 雄ネジ。