(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ウェブの製造方法、帯電制御方法及び帯電制御装置
(51)【国際特許分類】
H05F 1/00 20060101AFI20230912BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230912BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230912BHJP
B65H 20/00 20060101ALI20230912BHJP
B65H 20/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
H05F1/00 B
B05D7/00 A
B05D3/00 D
B05D3/00 C
B65H20/00 Z
B65H20/02 Z
(21)【出願番号】P 2019550385
(86)(22)【出願日】2018-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2018040198
(87)【国際公開番号】W WO2019088052
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2017209140
(32)【優先日】2017-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 将人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 充
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-314990(JP,A)
【文献】中国特許第105239288(CN,B)
【文献】特開平09-315411(JP,A)
【文献】特開2006-178185(JP,A)
【文献】特開平02-203976(JP,A)
【文献】特開平02-107371(JP,A)
【文献】特開平08-100359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 1/00 - 7/00
B65H 20/00
B05D 3/00
B05D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーフィルムであるウェブを搬送する搬送工程を含む前記ウェブの製造方法であって、
前記搬送工程は、搬送ロールを介して前記ウェブを上流側から下流側に搬送する工程であり、
前記ウェブを搬送する
前記搬送ロール
の上流側における、前記搬送ロールと前記ウェブとの界面に液体を供給して、前記搬送ロールと前記ウェブとの摩擦帯電によって前記ウェブの表面に生じる帯電量を制御する工程を有する製造方法。
【請求項2】
前記液体は、前記搬送ロールと前記ウェブとの摩擦帯電によって前記ウェブの表面に生じる帯電極性とは逆極性の摩擦帯電を前記ウェブとの間に生じさせる液体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記界面に供給される前記液体の量を制御することによって前記ウェブの表面に生じる帯電量を制御する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記搬送ロールの長手方向に沿って前記搬送ロールを複数の領域に分割し、分割された領域ごとに前記液体の量を制御する、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
搬送ロール
を介して上流側から下流側に搬送されるポリマーフィルムであるウェブの帯電量を制御する帯電制御方法であって、
前記ウェブを搬送する搬送ロール
の上流側における、前記搬送ロールと前記ウェブとの界面に液体を供給
する供給手段を有し、
前記搬送ロールと前記ウェブとの摩擦帯電によって前記ウェブの表面に生じる帯電量を制御する帯電制御方法。
【請求項6】
前記液体は、前記搬送ロールと前記ウェブとの摩擦帯電によって前記ウェブの表面に生じる帯電極性とは逆極性の摩擦帯電を前記ウェブとの間に生じさせる液体である、請求項5に記載の帯電制御方法。
【請求項7】
前記界面に供給される前記液体の量を制御することによって前記ウェブの表面に生じる帯電量を制御する、請求項5または6に記載の帯電制御方法。
【請求項8】
前記搬送ロールの長手方向に沿って前記搬送ロールを複数の領域に分割し、分割された領域ごとに前記液体の量を制御する、請求項7に記載の帯電制御方法。
【請求項9】
搬送されるポリマーフィルムであるウェブの帯電量を制御する帯電制御装置であって、
前記ウェブを
上流側から下流側に搬送する搬送ロールと、
前記
上流側における、前記搬送ロールと前記ウェブとの界面に液体を供給する供給手段と、
を有し、
前記搬送ロールと前記ウェブとの摩擦帯電によって前記ウェブの表面に生じる帯電量を前記液体によって制御する帯電制御装置。
【請求項10】
前記液体は、前記搬送ロールと前記ウェブとの摩擦帯電によって前記ウェブの表面に生じる帯電極性とは逆極性の摩擦帯電を前記ウェブとの間に生じさせる液体である、請求項9に記載の帯電制御装置。
【請求項11】
前記供給手段によって界面に供給される前記液体の量を制御することによって前記ウェブの表面に生じる帯電量を制御する、請求項9または10に記載の帯電制御装置。
【請求項12】
前記搬送ロールの長手方向に沿って前記搬送ロールを複数の領域に分割し、分割された領域ごとに前記供給手段を備える、請求項11に記載の帯電制御装置。
【請求項13】
前記供給手段は、回転する前記搬送ロールに対して前記液体を噴霧する噴霧器である、請求項9乃至12のいずれか一項に記載の帯電制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電量が制御されたウェブの製造方法と、ウェブの帯電量を制御する帯電制御方法及び帯電制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、2つの物質が擦れ合うときに静電気が発生し、2つの物質の一方が相対的に正に帯電し、他方が負に帯電する。物質が他の物質と擦れ合ったときに正に帯電するか負に帯電するかの傾向は、一般に、物質ごとに帯電列として知られており、帯電列を参照することにより、任意の2つの物質の間で摩擦帯電が生じたときにどちらが正に帯電するかを推定することができる。帯電列の一例は、非特許文献1に示されている。
例えば、長尺のポリマーフィルムなどのウェブを搬送する際には、搬送ロールによってウェブを支持しつつ搬送ロールを回転させることによりウェブを移動させるが、このときもウェブと搬送ロールとの間で静電気が生じ、搬送されるウェブの表面が帯電する。ウェブの表面の帯電量が大きくなると、搬送ロールによって搬送されているウェブが搬送ロールから分離する位置(ロール剥離点と呼ぶ)において、ウェブと搬送ロールの間で剥離放電が生じることがある。その結果、ウェブの表面に放電痕が形成され、ウェブにおける欠陥となる。例えば、ウェブに対して塗工処理を行う場合には、放電痕は塗布ムラの原因となる。また、剥離放電が生じないとしても、帯電した表面には各種の塵埃が付着しやすくなるという問題も発生する。
【0003】
摩擦帯電によりウェブの表面に生じる帯電を解消する技術として、表面の電荷を中和させるイオンを空気中に発生する除電器を用いる技術がある。しかしながら、除電器を用いる場合には、除電器を設けるスペースが必要となり、搬送ロール周りの構造によっては除電器を設置できないことがある。除電器では放電によりイオンを発生させるから、防爆を必要とする環境でも除電器を配置できない。また、ウェブの搬送速度が大きかったり、ロール剥離点から除電器までの距離が大きい場合には、除電能力が不足し、十分に除電を行えないことがある。さらに、搬送ロールは、一般に、金属が使用されて導電性を有するので、除電用のイオンが搬送ロールに除電用のイオンが吸収されてしまい、除電能力が低下する。ウェブの表面が一様に帯電するのではなく、まだら状に帯電する場合には、見かけ上の帯電電位が低くなるので、十分に除電できないことがある。
【0004】
特許文献1は、ウェブとの摩擦帯電により正に帯電する物質と負に帯電する物質とをウェブの搬送方向に対して交互に配置して搬送ロールを構成し、これにより、大局的には見かけ上、ウェブが帯電しないようにすることを開示している。
特許文献2は、ウェブにおいて摩擦により帯電する面とは反対側の表面に、摩擦帯電とは逆極性となる電荷を付与し、この逆極性の電荷によって摩擦帯電の電荷を中和することを開示している。
特許文献3は、摩擦帯電による帯電の極性とは逆極性となる電荷を、ロールと接触する前に、ウェブにおけるロールと接触する方の面に予め付与することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開昭62-131500号公報
【文献】日本国特許第5885869号公報
【文献】日本国特開平10-15812号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】葛西 昭成,“帯電測定値に及ぼす諸因子”,高分子,社団法人高分子学会,1967年,第16巻,第179号,p.323-329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1の技術では、ミクロに見た場合にはウェブは帯電しているので、依然として、剥離放電の発生のおそれがあり、また、ウェブの表面の帯電量を積極的に制御することは困難である。
特許文献2の方法では、表裏両面での帯電量の和はゼロであって帯電していないように見えるものの、実際には各面ごとに電荷が存在し、これが、例えば後工程である塗工工程での塗布ムラの原因となる。表裏両面に電荷が存在する状態で一方の面が金属ロールに接触して接地されると、他方の面の電荷による電位が発現し、空気中の塵埃を引き寄せるおそれがある。
特許文献3の方法では、ロールと接触する前のウェブは高電位であるため、塵埃を吸着したり、ロールと接触するときに放電を起こすおそれがある。
【0008】
上述したように、搬送ロールによって搬送されるウェブにおける帯電を防止する技術のうち除電器を用いる技術は、適用できない場合が存在し、また、除電能力に不足することも起こり得る。特許文献1に記載された技術は、剥離放電を十分に防止できないことがある。特許文献2,3に記載された技術は、摩擦帯電による電荷とは逆極性の電荷を予め付与するものであるが、電荷を付与することによる塵埃の吸着や放電の発生などの問題を有する。ウェブの帯電を防止することは、ウェブの帯電量を制御することの一形態であるといえるが、電荷を付加する以外の方法によりウェブの帯電量を制御する一般的な技術は知られていない。
【0009】
本発明の目的は、ウェブに予め電荷を付与することなく帯電量が制御されたウェブを製造する製造方法と、ウェブの帯電量を制御する帯電制御方法及び帯電制御装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のウェブの製造方法は、ウェブを搬送する搬送工程を含むウェブの製造方法であって、ウェブを搬送する搬送ロールとウェブとの界面に液体を供給して、搬送ロールとウェブとの摩擦帯電によってウェブの表面に生じる帯電量を制御する工程を有する。
本発明の帯電制御方法は、搬送ロールによって搬送されるウェブの帯電量を制御する帯電制御方法であって、ウェブを搬送する搬送ロールとウェブとの界面に液体を供給して、搬送ロールとウェブとの摩擦帯電によってウェブの表面に生じる帯電量を制御する。
本発明の帯電制御装置は、搬送されるウェブの帯電量を制御する帯電制御装置であって、ウェブを搬送する搬送ロールと、搬送ロールとウェブとの界面に液体を供給する供給手段と、を有し、搬送ロールとウェブとの摩擦帯電によってウェブの表面に生じる帯電量を液体によって制御する。
【0011】
摩擦帯電は、固体と固体の間だけではなく、固体と液体の間においても生じ得るものである。本発明では、搬送ロールによって搬送された後のウェブの表面の帯電量を制御するために、ウェブを搬送する搬送ロールとウェブとの界面に、帯電量を制御するための液体を供給する。界面に供給される液体の量を制御することによってウェブの表面に生じる帯電量を制御することができる。ウェブと液体との間でも摩擦帯電が生じるから、ウェブと搬送ロールとの間の摩擦帯電に対してウェブと液体との間での摩擦帯電を組み合わせることにより、ウェブの表面の帯電量を制御できることになる。特に、液体として、搬送ロールとウェブとの摩擦帯電によってウェブの表面に生じる帯電極性とは逆極性の摩擦帯電をウェブとの間に生じさせる液体を使用することにより、ウェブの表面の帯電を低減し、あるいは帯電を防止することができる。どのような液体を使用すべきかは、ウェブの材質及び搬送ロールの表面の材質に応じて、上述した帯電列に基づいて定めればよい。また、搬送ロールとウェブとの界面に供給される液体の量を変化させればウェブと液体との間で生じる摩擦帯電の大きさも変化するから、界面に供給される液体の量を制御することにより、ウェブの帯電量のより細かな制御を行うことができる。
【0012】
本発明においてウェブは、一例として長尺のポリマーフィルムあるいは電気絶縁性のフィルムである。搬送ロールとウェブとの界面に液体を供給する方法としては、界面に対するウェブの進入方向から界面に液体を直接供給するようにしてもよいし、あるいは、回転する搬送ロールの表面に向けて液体を噴霧するようにしてもよい。搬送ロールの表面に噴霧された液体は、搬送ロールの回転に伴って、搬送ロールとウェブとの界面に供給されることになる。液体の供給方法としては、噴霧による方が、界面に直接供給するものよりも、液体の消費量を軽減でき、供給量の細かな制御が可能になる。さらに、ウェブの幅方向(搬送方向とは直交する方向)での帯電量を制御するために、搬送ロールの長手方向に沿って搬送ロールを複数の領域に分割し、供給される液体の量を分割された領域ごとに制御するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ウェブに予め電荷を付与することなく帯電量が制御されたウェブを製造でき、またウェブの帯電量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施の一形態の帯電制御装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、幅が広いウェブの帯電量を制御するための構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の一形態の帯電制御装置を示している。この帯電制御装置は、本発明に基づく製造方法によってウェブの製造を行う際に用いられるものである。
図1に示される帯電制御装置は、ウェブ10を搬送する工程において使用できるように構成されたものであり、ウェブ10を搬送する搬送ロール20と、搬送ロール20においてウェブ10と接触する位置とは反対側の位置で搬送ロール20の表面に対向して配置されたスプレーノズル30とを備えている。
ウェブ10としては、例えば、磁気材料用フィルム、離型用フィルム、コンデンサ用フィルム、電池セパレータ用フィルム等が挙げられ、これらに限れられない。特に、磁気材料用フィルム、離型用フィルム、電池セパレータ用フィルムの場合には、塗布工程を経て最終製品を得るときには塗布ムラ防止の観点から有効である。また、異物管理が厳しい電池セパレータ用フィルムの場合には静電気による粉塵等の付着を防止する観点で有効である。
本発明の実施の形態において、搬送工程は、少なくとも1本の回転する搬送ロールを有し、前記搬送ロールとウェブが接触した状態で、前記搬送ロールと前記ウェブの間に生じる摩擦力を利用してウェブを搬送する工程である。前記搬送ロールの前後は別の回転するロールを設けて搬送してもよいし、走行するクリップ等でウェブの端部を把持して搬送してもよい。
【0016】
スプレーノズル30は、回転する搬送ロール20に対して帯電制御用の液体bを噴霧する噴霧器であって、搬送ロール20とウェブ10との界面に帯電制御用の液体bを供給する供給手段として機能する。すなわち、供給手段は、回転する搬送ロールに対して液体を噴霧する噴霧器であってもよい。スプレーノズル30には、帯電制御用の液体bが供給されるとともに、この帯電制御用の液体bを噴霧するために、圧縮した空気aも供給されている。スプレーノズル30は、意図しない位置に帯電制御用の液体bが飛散することを防止するために、ノズルカバー40に覆われている。ノズルカバー40には、搬送ロール20に対向する位置において、搬送ロール20の長手方向に延びるスリット41が形成されており、このスプレーノズル30から噴霧された帯電制御用の液体bはこのスリット41を通過して搬送ロール20に到達する。スリット41の幅(搬送ロール20の回転方向に沿った長さ)は例えば10mm~30mmの範囲内で調整可能となっており、スリット41の位置と搬送ロール20の表面との間のギャップ(間隙)は例えば2mm程度とされる。1つのスプレーノズル30により、搬送ロール20の長手方向の例えば30cm程度の領域に対して噴霧を行うことができる。
【0017】
さらに
図1に示す帯電制御装置では、ウェブ10の搬送方向において搬送ロール20の下流側となる位置に、ウェブ10において搬送ロール20に接した方の表面の表面電位を計測する電位計50が配置されている。電位計50は必須のものではないが、後述の実施例からも明らかになるように、帯電制御用の液体bの供給量によってウェブ10の表面電位が変化し帯電量が変化するから、電位計50を設けてその測定値により帯電制御用の液体bの供給量を制御することによって、ウェブ10の帯電量をより正確に制御することが可能になる。搬送ロール20から下流側に搬送されるウェブ10の表面は、帯電制御用の液体bで濡れていることがあるが、この帯電制御用の液体bは、例えば、空気吹き付け、加熱乾燥、ニップロールでの掻き落としなどにより除去することができる。
【0018】
次に、この帯電制御装置を用いた帯電量の制御について説明する。スプレーノズル30から帯電制御用の液体bを搬送ロール20に向けて噴霧させつつ搬送ロール20を回転させてウェブ10を搬送すると、噴霧された帯電制御用の液体bはウェブ10と搬送ロール20との界面に連続的に供給されることになる。その結果、搬送ロール20とウェブ10との間で摩擦帯電が生じるとともに、供給された液体とウェブ10との間でも摩擦帯電が生じることとなる。これら2つの摩擦帯電がウェブ10に関して同極性であれば、ウェブ10の表面電位の絶対値が大きくなってウェブ10の帯電量が大きくなる。逆極性であれば、搬送ロール20とウェブ10との間で摩擦帯電による電荷が、帯電制御用の液体bとウェブ10との間での摩擦帯電によって中和されることとなり、帯電制御用の液体bとウェブ10との間での摩擦帯電が適切な大きさであれば、相互に打ち消しあってウェブ10の帯電量が極めて小さくなる。したがって本実施形態の帯電制御装置によれば、ウェブ10の帯電量を制御することができ、特に、搬送ロールとウェブとの摩擦帯電によってウェブの表面に生じる帯電極性とは逆極性の摩擦帯電をウェブとの間に生じさせる液体を帯電制御用の液体bとして使用してその供給量を制御すれば、ウェブ10の帯電量をほぼゼロとすることができる。
【0019】
帯電制御用の液体bとして何を用いるかは、目標とする帯電量とウェブ10の材質とに応じ、搬送ロール20の表面の材質も考慮して、帯電列に基づいて定めることができるが、ウェブ10の性質を変化させない範囲で選定することが好ましい。例えばウェブ10をポリエチレンフィルムとした場合に、正の摩擦帯電を生じさせやすい搬送ロール20の表面材質としては、例えばシリコンゴム、硬質クロムめっきなどが挙げられ、負の摩擦帯電を生じさせやすい液体としては、例えば水などが挙げられる。一方、ポリエチレンフィルムに対して負の摩擦帯電を生じさせやすい搬送ロール20の表面材質としては、例えばガラスなどが挙げられ、正の摩擦帯電を生じさせやすい液体としては、例えばトリクロロベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン系溶剤が挙げられる。
【0020】
供給手段としての1つの噴霧器から帯電制御用の液体bを噴霧できる広さに比べ、ウェブ10の幅(すなわち搬送方向とは直交する方向)が広い場合がある。そのような場合には1つの噴霧器のみを用いたのではウェブ10の一部のみしか帯電量制御を行えないことになる。
図2は、幅が広いウェブ10に対応した帯電制御装置における噴霧器(スプレーノズル30)の配置を示している。説明を分かりやすくするため、
図2ではウェブ10は示していない。
【0021】
図2に示す帯電制御装置は、
図1に示すものと同様に、スプレーノズル30から帯電制御用の液体bを噴霧することによりウェブ10と搬送ロール20との界面にこの帯電制御用の液体bを供給し、ウェブ10の帯電量を制御するものである。ここでは、帯電制御用の液体bとして水を用いるものとする。搬送ロール20の長さはウェブ10の幅よりも長いものとして、
図2に示した帯電制御装置では、噴霧器であるスプレーノズル30を複数個(ここでは3個)用意し、単一のノズルカバー40内にこれらのスプレーノズル30を搬送ロール20の長手方向に配置している。複数個のスプレーノズル30に対し、水を噴霧するために用いる空気aが共通に供給されている。ノズルカバー40のスリット41は、搬送ロール20に対向して搬送ロール20の長手方向のほぼ全長にわたるように設けられている。図示した例では、搬送ロール20は、その長手方向に沿って3つの領域(図示したL、C及びRの各領域)に分割されている。噴霧に用いられる水は、減圧弁31を介して供給され、減圧弁31の出口側で3本の配管32~34に分岐しており、配管32~34の各々の先端にスプレーノズル30が設けられている。配管32~34は、領域L、領域C及び領域Rにそれぞれ対応するものであり、各々がバルブ35と流量計36とを備えている。
【0022】
図2に示したものでは、バルブ35を制御することにより、搬送ロール20をその長手方向に複数の領域に分割したときに、供給される水の量を分割された領域ごとに制御することが可能になる。これにより、ウェブ10の幅方向での帯電量の制御を行うことが可能になる。特に、領域L、領域C及び領域Rの各々に対応して流量計36が設けられているので、流量計36での測定値に基づくバルブ35の開度の制御を行うことにより、領域L、領域C及び領域Rの各々ごとに高精度に帯電量の制御を行うことが可能になる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
〔実施例1〕
図1に示した装置を組み立てた。ここでウェブ10として厚さ30μmの軟質ポリエチレンシート(株式会社コクゴ製)を使用し、搬送ロール20として、直径が150mmであり、表面が硬質クロムめっき処理されている金属製のロールを使用した。噴霧器であるスプレーノズル30としては、株式会社いけうち製の2流体ノズル、型番:SCBIMV80005Sを使用した。帯電制御用の液体bとして水道水を使用し、この水道水と空気aとをスプレーノズル30に供給して搬送ロール20に対して水を噴霧できるようにした。搬送ロール20を回転させてウェブ10を30m/分で搬送した。そして、水の噴霧の有無と水の噴霧流量とを変化させながら、搬送ロール20の下流側に設けた電位計50によってウェブ10の表面電位を計測した。結果を表1に示す。
表1から、水の噴霧を行わない場合にはウェブ10の表面電位は+15kV程度であって正であるが、水の噴霧を行うことにより、表面電位が負の方向に向けて変化することが分かる。水の噴霧流量を7mL/分とすれば表面電位は低下して+8kV程度となり、噴霧流量を11mL/分とすれば表面電位はほぼ0kVとなった。すなわち、水の噴霧流量を10~12mL/分とすることで、ウェブ10の摩擦帯電を防止できることになる。さらに噴霧流量を大きくして16mL/分とすると、表面電位を-17kVまで低下させることができた。噴霧流量すなわち搬送ロール20とウェブ10との界面に供給される水の量を制御することにより、ウェブ10の表面電位すなわち帯電量を制御できることが分かった。
【0024】
【0025】
〔実施例2〕
搬送ロール20としてガラス被覆ロール、帯電制御用の液体bとして1,2,4-トリクロロベンゼンを用い、それら以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。表2から、液体の噴霧を行わない場合はウェブ10の表面電位は-9kV程度であって負であるが、液体の噴霧を行うことにより、表面電位が正の方向に向けて変化することが分かる。液体の噴霧流量を10mL/分とすれば表面電位は正側にシフトして-5kV程度となり、噴霧流量を15mL/分とすれば表面電位はほぼ0kVとなった。すなわち、液体の噴霧流量を14~16mL/分とすることで、ウェブ10の摩擦帯電を防止できることになる。さらに噴霧流量を大きくして20mL/分とすると、表面電位を+8kVまでシフトさせることができた。搬送ロール20との摩擦帯電によりウェブ10が負に帯電した場合においても、逆極性の摩擦帯電を生じる液体の流量を制御することにより、ウェブ10の帯電量を制御できることが分かった。
【0026】
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、ウェブに予め電荷を付与することなく帯電量が制御されたウェブを製造でき、またウェブの帯電量を制御することができるウェブの製造方法、帯電制御方法及び帯電制御装置を提供する。
【0028】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年10月30日出願の日本特許出願(特願2017-209140)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0029】
10 ウェブ
20 搬送ロール
30 スプレーノズル
40 ノズルカバー
50 電位計
a 空気
b 帯電制御用の液体
w 水