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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】道路診断システム
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/01 20060101AFI20230912BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20230912BHJP
   G01M 15/06 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
E01C23/01
G01H17/00 Z
G01M15/06
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020000239
(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公開番号】P2021110092
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高見 光浩
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-075575(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145148(WO,A1)
【文献】特開2019-049952(JP,A)
【文献】特開平10-054295(JP,A)
【文献】特開平09-288043(JP,A)
【文献】特開2013-181518(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0073208(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 23/01
G01H 17/00
G01M 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンのクランク角センサから出力されたクランク角情報を、道路における前記車両の走行場所と紐づけて走行場所クランク角情報として取得するとともに、
走行中の前記走行場所クランク角情報を前記道路に沿って推移するように対応させたクランク角変化推移、及び、正常な前記道路を走行時の前記走行場所クランク角情報を前記道路に沿って推移するように対応させた前記クランク角変化推移の正常波形を取得する道路診断システムであって、
前記クランク角変化推移を複数の前記車両から取得し、所定台数以上の前記車両の前記クランク角変化推移が前記正常波形から外れる走行場所がある場合に、前記外れる走行場所を、前記道路の劣化箇所と判断する道路診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カメラを搭載したパトロールカーを走らせて道路状態を検知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-139672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、道路状態を検知する専用の車両を走らさなければ、道路状態を判断することができない。このため、道路状態を確認する頻度の低下及び定期的にパトロールカーを走らせるためのコストの増加が課題となっている。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、道路状態の確認頻度を上げつつ、コストを低減することができる道路診断システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る道路診断システムは、車両のエンジンのクランク角センサから出力されたクランク角情報を、道路における前記車両の走行場所と紐づけて走行場所クランク角情報として取得するとともに、前記走行場所クランク角情報を前記道路に沿って推移するように対応させたクランク角変化推移を取得する道路診断システムであって、前記クランク角変化推移を複数の前記車両から取得し、所定台数以上の前記車両の前記クランク角変化推移が正常波形から外れる走行場所がある場合に、前記外れる走行場所を、前記道路の劣化箇所と判断する。このような構成とすることにより、道路状態の確認頻度を上げつつ、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、道路状態の確認頻度を上げつつ、コストを低減することができる道路診断システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る道路診断システムを例示した構成図である。
図2】実施形態に係る道路診断システムにおいて、クランク角センサが取得するエンジンの角速度を例示したグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸はエンジンの角速度を示す。
図3】実施形態に係る道路診断システムにおいて、路面悪化部の診断基準を例示した図であり、横軸は、エンジンの回転数を示し、縦軸はエンジンの負荷を示す。
図4】実施形態に係る道路診断システムにおける道路の診断方法を例示したフローチャート図である。
図5】比較例に係る道路診断方法を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。但し、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0010】
(実施形態)
実施形態に係る道路診断システムを説明する。本実施形態の道路診断システムは、車両のエンジンの状態変化を用いて、道路の劣化箇所を診断するシステムである。以下で、本実施形態の道路診断システムを、車両単体で道路を診断する場合と、複数の車両で道路を診断する場合に分けて、説明する。まず、車両単体での場合を説明する。
【0011】
<車両単体で道路を診断>
図1は、実施形態に係る道路診断システムを例示した構成図である。図1に示すように、道路診断システム1は、車両10及び診断部20を備えている。
【0012】
車両10は、道路を移動する車輪の付いた移動体であり、例えば、車である。車両10は、エンジン11を有しており、エンジン11の駆動を車輪に伝達して走行する。車両10は、ECU(Electronic Control Unit)12、クランク角センサ13、位置情報取得部14を有している。
【0013】
ECU12は、車両10のエンジン11の駆動を総合的に制御する。例えば、ECU12は、EFI(Fuel Injection System)制御により、エンジン11の燃料噴射を電子制御する。また、ECU12は、エンジン11及びトランスミッションの暖機フラグ、エンジン11の冷却液の温度、トランスミッションの油温、エンジン11の失火警告灯(MIL、Malfunction Indication Lamp)情報、車両10の速度、エンジン11の回転数等の駆動情報を取得する。ECU12は、これらエンジン11及びトランスミッション等の駆動情報を診断部20に出力する。
【0014】
クランク角センサ13は、エンジン11のクランク角情報を取得する。クランク角情報は、例えば、エンジン11の角速度である。クランク角センサ13は、取得したクランク角情報を診断部20に出力する。
【0015】
図2は、実施形態に係る道路診断システムにおいて、クランク角センサが取得するエンジンの角速度を例示したグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸はエンジンの角速度を示す。図2に示すように、クランク角センサ13は、エンジン11の角速度を取得する。ECU12を有する車両10は、EFI制御により、エンジン11の燃料噴射を電子制御している。このような車両10は、エンジン11の角速度をクランク角センサ13により計測している。
【0016】
例えば、車両10が走行する道路に路面悪化部がない正常な道路の場合には、エンジン11の角速度は、規則正しく増減する波状の周期的な波形を繰り返す。正常な道路の場合には、エンジン11の角速度の波形は、エンジン11の気筒数、回転数によって決定される。路面悪化部は、例えば、路面の悪化箇所であり、穴、段差等である。
【0017】
一方、道路の路面悪化部を通過する場合には、エンジン11の角速度の波形に乱れが生じる。エンジン11の筒内の燃焼の変化により、エンジン11の角速度が変化する。例えば、角速度が速くなる。そして、正常な道路を示す周期的な波形との差分が大きいほど、道路の路面悪化部の悪化度合いは大きい。悪化度合いが大きいとは、例えば、道路の穴が大きいこと、及び、段差が大きいことである。
【0018】
位置情報取得部14は、車両10の走行場所を取得する。位置情報取得部14は、例えば、カーナビゲーションであり、GPSから車両10の位置情報を取得する。なお、位置情報取得部14は、車両10の走行場所を取得できれば、カーナビゲーションに限らず、例えば、車載カメラ等で撮像した映像から走行場所を取得してもよい。位置情報取得部14は、取得した車両10の走行場所を診断部20に出力する。
【0019】
診断部20は、例えば、クラウド21に設けられている。診断部20は、クラウド21と情報の送受信が可能なサーバ22に設けられてもよい。また、診断部20は、コンピュータネットワークにおけるエッジコンピュータに設けられてもよい。さらに、診断部20は、車両10に設けられてもよい。
【0020】
診断部20は、ECU12、クランク角センサ13、位置情報取得部14と、無線または有線の信号伝達手段によって接続され、情報の送受信が可能な状態となっている。診断部20は、車両10のECU12から、エンジン11及びトランスミッション等の駆動情報を取得する。診断部20は、車両10のエンジン11のクランク角センサ13から出力されたクランク角情報を取得する。診断部20は、位置情報取得部14から出力された車両10の走行場所を取得する。そして、診断部20は、クランク角情報を、道路における車両10の各走行場所と紐づけて走行場所クランク角情報として取得する。
【0021】
診断部20は、取得した走行場所クランク角情報を、道路に沿って対応させる。よって、道路に沿った各走行場所に各走行場所クランク角情報が対応する。走行場所クランク角情報は、道路の各走行場所(各走行地点)に紐づけされたクランク角情報である。よって、走行場所クランク角情報は、車両が走行した道路に沿う各走行地点に対応するように並べられる。例えば、図2の横軸の各時間に各走行地点を対応させる。道路に沿って推移するように対応させた走行場所クランク角情報をクランク角変化推移と呼ぶ。例えば、道路上を車両10が一定の速度で走行する場合には、クランク角変化推移は、見た目には、図2に示すような形状で取得される。このようにして、診断部20は、走行場所クランク角情報を道路に沿って推移するように対応させたクランク角変化推移を取得する。
【0022】
図3は、実施形態に係る道路診断システムにおいて、路面悪化部の診断基準を例示した図であり、横軸は、エンジン11の回転数を示し、縦軸はエンジン11の負荷を示す。エンジン11の負荷は、エンジン11の吸入空気量から算出することができる。図3に示すように、診断部20は、エンジン11の回転数及びエンジン11の負荷によって規定される各領域(A、B、C・・・)に対応させて、正常な道路を走行時のエンジン11のクランク角、角速度の絶対値、角速度変化及び波形等のクランク角情報を記憶しておく。そして、走行中のクランク角情報と、記憶された正常な道路を走行時のクランク角情報との間に差分が出た場合に、診断部20は、その走行場所を路面悪化部と判断する。具体的には、例えば、診断部20は、各領域に規定されたクランク角変化推移が正常波形から外れる走行場所がある場合に、外れる走行場所を、路面悪化部と判断する。
【0023】
<複数の車両で道路を診断>
次に、複数の車両で道路を診断する場合を説明する。本実施形態の道路診断システム1は、上記で説明した車両10を複数備えてもよい。診断部20は、同一の走行場所について、複数の車両10から路面悪化部があると判断された場合に、その走行場所を道路の劣化箇所と判断する。
【0024】
複数の車両で道路を診断する場合には、診断部20は、例えば、クラウド21に設けられている。また、診断部20は、クラウド21と情報の送受信が可能なサーバ22に設けられてもよいし、コンピュータネットワークにおけるエッジコンピュータに設けられてもよい。診断部20は、複数の車両10におけるECU12、クランク角センサ13、位置情報取得部14と、無線または有線の信号伝達手段によって接続され、情報の送受信が可能な状態となっている。診断部20は、各車両10について、エンジン11及びトランスミッション等の駆動情報、クランク角情報、走行場所情報を取得する。そして、診断部20は、取得したこれらの情報に基づいて、走行場所クランク情報、及び、クランク角変化推移を取得する。このようにして、診断部20は、クランク角変化推移を複数の車両から取得する。
【0025】
次に、道路診断システムによる道路の診断方法を説明する。図4は、実施形態に係る道路診断システムにおける道路の診断方法を例示したフローチャート図である。図4のステップS11に示すように、まず、検出条件が成立しているか判断する。エンジン11の角速度の乱れから道路の路面悪化部を判断する場合に、路面悪化部による角速度の乱れと、車両10側の駆動条件の不安定性による角速度の乱れと、を切り分ける必要がある。そのため、車両10の角速度が安定する条件時にのみ角速度を検出する。そのような検出条件としては、暖気条件を満たすこと、車両10の走行中であること、エンジンの非故障条件を満たすこと等が挙げられる。
【0026】
暖気条件は、エンジン暖気フラグが上がること、具体的には、エンジンの冷却液が所定の温度範囲になること、エンジンオイルが所定の温度範囲になること、等である。また、暖気条件は、トランスミッション暖気フラグが上がること、エンジンにかかる負荷が所定の範囲になることが挙げられる。エンジンの非故障条件を満たすことは、例えば、エンジンのMIL非点火であること、具体的には、失火、VVT、EGR、燃料系のMIL非点火であることが挙げられる。
【0027】
ステップS11においては、クラウド21またはサーバ22上の診断部20が、各車両10の検出条件を判断してもよいし、各車両10の診断部20が検出条件を判断してもよい。ステップS11において、検出条件が成立していない場合には、ステップS12に示すように、道路の劣化箇所と判断しない。路面悪化部による角速度の乱れと、車両10側の駆動条件の不安定性による角速度の乱れと、を切り分けることができないからである。その場合には、例えば、所定時間経過後に、再び、ステップS11を開始する。
【0028】
ステップS11において、検出条件が成立している場合には、ステップS13に示すように、エンジン11の角速度が異常か判断する。具体的には、例えば、診断部20は、クランク角変化推移が正常波形から外れる走行場所があるか判断する。エンジン11の角速度が異常ではない正常な場合、すなわち、クランク角変化推移が正常波形から外れる走行場所がない場合には、ステップS12に進み、道路の劣化箇所と判断しない。クランク角変化推移が正常波形から外れる走行場所がないので、車両10は正常な道路を走行していると判断されるからである。
【0029】
一方、ステップS13において、エンジン11の角速度が異常の場合には、ステップS14に示すように、車体10単体での道路判断において、道路の路面悪化部があると判断する。その場合には、ステップS15に示すように、所定台数以上の車両10から、その走行場所が路面悪化部であるとの情報があるか判断する。
【0030】
ステップS15において、所定台数以上の車両10から、その走行場所が路面悪化部であると判断されていない場合には、ステップS12に示すように、道路の劣化箇所と判断しない。一方、ステップS15において、所定台数以上の車両10から、その走行場所が路面悪化部であると判断された場合には、ステップS16に示すように、道路の劣化箇所と判断する。具体的には、車両10のクランク角変化推移が正常波形から外れる走行場所がある場合に、外れる走行場所を、道路の劣化箇所と判断する。
【0031】
車両10単体によって、道路に路面悪化部があると判断された場合でも、車両10単体には、ノイズの影響がある可能性がある。したがって、所定台数以上の複数の車両10により、道路に路面悪化部があると判断された場合に、道路の劣化箇所と判断する。これにより、道路の劣化箇所の判断の精度を向上させることができる。
【0032】
次に、本実施形態の効果を説明する前に、比較例を説明する。その後、比較例と対比させて、本実施形態の効果を説明する。図5は、比較例に係る道路診断方法を例示した図である。図5に示すように、比較例は、パトロールカー及び路面測定車による道路診断方法である。パトロールカーによる道路診断方法は、専門員による目視、パトロールカーの振動、専門員の官能評価等の検知方法を用いている。パトロールカーによる道路診断方法の問題点として、専門員によるパトロールが必要なこと、人件費が発生すること、リアルタイム性が低いことが挙げられる。
【0033】
路面測定車による道路診断方法は、センサによるセンシング等の検知方法を用いている。これにより、詳細な確認をすることができる。路面測定車による道路診断方法の問題点として、路面測定車が高額であること、リアルタイム性が低いことが挙げられる。
【0034】
このように、道路のメンテナンスは、従来、定期的なパトロール等で路面の異常を目視もしくは、センサで確認している。したがって、異常が発生しそうな軽微な状態や、急激な異常の発生をリアルタイムで見つけることができない。また、これらの道路診断を行う際の大部分は、道路に変化がないことが多い。よって、道路のメンテナンスのためのパトロールは無駄が多く、人件費及びパトロールカー等のコストがかかる。
【0035】
次に、本実施形態の効果を説明する。本実施形態の道路診断システム1は、通常の車両10が備えるエンジン11のクランク角センサ13を用いて、道路の路面悪化部を把握できる。よって、一般的な車両10でも道路の路面悪化部を検出することができるため、確認頻度を上げつつコストを低減できる。例えば、道路を診断する専門員、道路を診断する専門車両によるパトロールを不要とすることができる。仮に、専門員及び専門車両を用いるとしても、路面悪化部にのみ用いる等の道路の劣化度合いに応じた重みづけを行い、劣化箇所の判断やパトロールの優先度を決めてもよい。これにより、道路の保全効率を向上させ、コストを低減することができる。また、路面悪化具合のリアルタイム性を向上させることができる。
【0036】
診断部20は、所定台数以上の車両10のクランク角変化推移が正常波形から外れる走行場所がある場合に、そのような外れる走行場所を、道路の劣化箇所と判断する。車両10単体では、ノイズの影響により、道路の路面悪化部の判断に誤差が生じる可能性がある。所定台数以上の車両10から路面悪化部と判断された場合に、走行場所を劣化箇所と判断するので、判断の精度を向上させることができる。具体的には、診断部20は、各走行場所での単体の車両10により、クランク角変化推移が正常波形から外れるとの情報を取得した回数若しくは割合が多い走行場所を劣化箇所と判断する。よって、道路の劣化確認頻度を上げつつコストを低減できる。
【0037】
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、上記の構成に限らず、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 道路診断システム
10 車両
11 エンジン
12 ECU
13 クランク角センサ
14 位置情報取得部
20 診断部
21 クラウド
22 サーバ
図1
図2
図3
図4
図5