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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】シートクッションエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/427 20060101AFI20230912BHJP
   B60R 21/207 20060101ALN20230912BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALN20230912BHJP
【FI】
B60N2/427
B60R21/207
B60R21/2338
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020004334
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2020164149
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019065347
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 重美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 滋幸
(72)【発明者】
【氏名】井田 等
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】山田 正
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 友輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 周司
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128271(JP,A)
【文献】特開2007-331445(JP,A)
【文献】特開2006-143002(JP,A)
【文献】特開2011-240733(JP,A)
【文献】特開2009-137441(JP,A)
【文献】特開2019-084894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/427
B60R 21/207
B60R 21/2338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するクッション部を備える乗物用シートに適用されるものであり、
前記クッション部と、前記クッション部の下側に配置された支持部との間であって、前記乗物用シートの幅方向における中央部分にエアバッグを配置し、膨張用ガスにより前記エアバッグを膨張させることで、前記乗員の腰部の前方への移動を規制するようにしたシートクッションエアバッグ装置であって、
前記エアバッグを前記支持部に締結するための締結部が、膨張状態の前記エアバッグの下部のうち、前後方向における中央部よりも後方に設けられていて、
前記エアバッグの周りには帯状のテザーが配置されており、
前記テザーは、前記幅方向における前記エアバッグの両側部に配置された一対の傾斜部を備え、
各傾斜部の後端部は前記支持部に固定され、
前記テザーの前端部は前記エアバッグの前部に固定されており、
各傾斜部は、前記エアバッグの膨張に伴い、前側ほど高くなるように傾斜していて、
膨張状態の前記エアバッグは、前側ほど低くなる傾斜面を有しており、前記テザーの前端部は、前記傾斜面の前後方向における中央部よりも前下側の箇所に配置されているシートクッションエアバッグ装置。
【請求項2】
前記締結部は、膨張状態の前記エアバッグの後端部に設けられている請求項1に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項3】
膨張状態の前記エアバッグは、前記支持部からの高さが後端部で最も高くなる形状を有している請求項1又は2に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項4】
膨張状態の前記エアバッグは、前記後端部から前側へ遠ざかるに従い前記高さが低くなる形状を有している請求項3に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項5】
膨張前の前記エアバッグは、前記支持部上に配置される第1膨張予定部と、前記第1膨張予定部の上側に折り重ねられる第2膨張予定部とからなり、
前記第1膨張予定部及び前記第2膨張予定部は、互いの後端部において連通している請求項1~4のいずれか1項に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項6】
前記支持部は、膨張状態の前記エアバッグに対し前側に隣接する箇所に、上方へ延びる壁板部を備えている請求項1~5のいずれか1項に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項7】
前記締結部を後締結部とした場合において、
前記エアバッグの前記後締結部よりも前方には、前記エアバッグを前記支持部に締結するための前締結部が設けられている請求項1~6のいずれか1項に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項8】
前記テザーは、一対の前記傾斜部の前端部同士を、前記エアバッグよりも前側に配置された連結部で連結してなる単一の帯片により構成されており、
前記テザーは、少なくとも前記連結部において前記エアバッグの前端部に固定されている請求項1~7のいずれか1項に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項9】
前記テザーの長さは、前記エアバッグのうち前記テザーが重ねられた箇所の周長よりも短く設定されている請求項に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項10】
前記テザーの前端部の前記エアバッグの前部に対する固定は、前記テザー及び前記エアバッグを縫合する縫糸によりなされている請求項1~9のいずれか1項に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【請求項11】
各傾斜部の後端部は、前記締結部により、前記エアバッグとともに前記支持部に締結されている請求項1~10のいずれか1項に記載のシートクッションエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物に対し乗物用シートの前方から衝撃が加わった場合、又は加わることが予測される場合に、乗員が着座するクッション部の下方に配置されたエアバッグを膨張させることで、乗員の腰部が前方へ移動するのを規制するようにしたシートクッションエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前突等により車両に前方から衝撃が加わった場合、乗員の着座姿勢によっては、シートベルト装置によって車両用シートに拘束された乗員の腰部が、ラップベルト部から外れて前方へ移動(前滑り)するおそれがある。そこで、この現象を抑制するために種々の対策が講じられたり提案されたりしている。
【0003】
その1つとして、車両用シートの幅方向における中央部であって、シートクッション(座部)におけるクッション部の座面よりも下方にエアバッグを配置したシートクッションエアバッグ装置が、特許文献1に記載されている。このシートクッションエアバッグ装置によると、車両に対し、前突等による前方からの衝撃が加わった場合、又は衝撃が加わることが予測される場合に、ガス発生器からエアバッグに膨張用ガスが供給される。エアバッグは膨張してクッション部を破り、引き続き、乗員の左右の両大腿部の間を上方へ膨張する。
【0004】
従って、例えば、自動運転車両において乗員がシートバックをリクライニングさせて、リラックスした姿勢(安楽姿勢)を採っているときに、車両に前方から衝撃が加わっても、エアバッグにより乗員の骨盤を受け止め、腰部の前方への移動を規制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-161968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献1には、エアバッグを取り付ける構造についての記載がなされていない。エアバッグの取り付け態様によっては、膨張したエアバッグが、前方へ移動しようとする骨盤によって押されて前方へ倒れ込むおそれがある。この場合には、エアバッグによって骨盤を受け止める性能が低下し、腰部の前方への移動を規制する性能が十分発揮されないおそれがある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、乗員の着座姿勢に拘わらず腰部の前方への移動を規制することのできるシートクッションエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するシートクッションエアバッグ装置は、乗員が着座するクッション部を備える乗物用シートに適用されるものであり、前記クッション部と、前記クッション部の下側に配置された支持部との間であって、前記乗物用シートの幅方向における中央部分にエアバッグを配置し、膨張用ガスにより前記エアバッグを膨張させることで、前記乗員の腰部の前方への移動を規制するようにしたシートクッションエアバッグ装置であって、前記エアバッグを前記支持部に締結するための締結部が、膨張状態の前記エアバッグの下部のうち、前後方向における中央部よりも後方に設けられている。
【0009】
乗物に対し乗物用シートの前方から衝撃が加わると、その乗物用シートのクッション部に着座している乗員は慣性によって前方へ移動しようとする。このとき、乗員が、手動運転に適した正規の姿勢で乗物用シートに着座していれば、その乗員は、シートベルト装置の保持作用によってクッション部上に引き留められる。しかし、乗員の着座姿勢によっては、腰部が前方へ移動しようとすることがある。
【0010】
これに対し、上記の構成を有するシートクッションエアバッグ装置によれば、膨張用ガスがエアバッグに供給されると、同エアバッグが膨張し、乗物用シートの幅方向におけるクッション部の中央部分を上方へ押圧する。クッション部の座面のうち、乗員の左右の両大腿部の間であって、腰部(骨盤)の前方となる箇所が隆起させられる。又は、エアバッグがクッション部を押し破って、同クッション部の外部へ出る。エアバッグは、両大腿部の間であって、腰部(骨盤)の前方で上方へ膨張する。前者の場合には、クッション部の隆起した部分によって、また、後者の場合には、エアバッグのうち、クッション部の外部で膨張した部分によって骨盤が受け止められる。いずれの場合にも、膨張状態のエアバッグは骨盤から前方へ向かう力を受ける。
【0011】
ここで、締結部が仮に、膨張状態のエアバッグの下部のうち、前後方向における中央部よりも前方、例えば前部に設けられると、同エアバッグにおいて締結部よりも後方の部分が多くなる。この部分は、骨盤から前方へ向かう上記力を受けると、締結部を支点として前方へ倒れ込む。この倒れ込みにより、エアバッグが骨盤を受け止める性能が低下する。
【0012】
この点、締結部が、膨張状態のエアバッグの下部のうち、前後方向における中央部よりも後方に設けられる上記の構成によれば、同エアバッグにおいて締結部よりも後方の部分が少ない。エアバッグの上記部分が骨盤から前方へ向かう力を受けても、締結部よりも前方へ倒れ込みにくい。エアバッグは、膨張したときの形状を保持し、骨盤を受け止める性能を発揮しやすい。
【0013】
上記シートクッションエアバッグ装置において、前記締結部は、膨張状態の前記エアバッグの後端部に設けられていることが好ましい。
上記の構成によれば、膨張状態のエアバッグにおいて締結部よりも後方の部分が、取り得る最小となる。従って、膨張状態のエアバッグの上記部分が骨盤から前方へ向かう力を受けた場合、締結部よりも前方へ倒れ込む現象が効果的に抑制される。
【0014】
上記シートクッションエアバッグ装置において、膨張状態の前記エアバッグは、前記支持部からの高さが後端部で最も高くなる形状を有していることが好ましい。
上記の構成によれば、膨張したときのエアバッグの高さは、後端部において最も高くなる。そのため、前方へ移動しようとする骨盤がエアバッグの広い面で受け止められ、腰部の前方への移動が効果的に規制される。
【0015】
上記シートクッションエアバッグ装置において、膨張状態の前記エアバッグは、前記後端部から前側へ遠ざかるに従い前記高さが低くなる形状を有していることが好ましい。
上記の構成によれば、膨張状態のエアバッグが上記の形状を有している場合には、膨張状態のエアバッグの高さが前後方向に同一である場合に比べ、エアバッグの容量が少なくなる。乗物用シートにおけるエアバッグの搭載スペースが小さくてすみ、搭載性が向上する。また、エアバッグと、乗物用シート内の周囲の部品との干渉が起こりにくい。
【0016】
上記シートクッションエアバッグ装置において、膨張前の前記エアバッグは、前記支持部上に配置される第1膨張予定部と、前記第1膨張予定部の上側に折り重ねられる第2膨張予定部とからなり、前記第1膨張予定部及び前記第2膨張予定部は、互いの後端部において連通していることが好ましい。
【0017】
上記の構成によるように、エアバッグの膨張前に、第2膨張予定部が第1膨張予定部上に折り重ねられることにより、折り重ねられない場合に比べ、エアバッグが上記前後方向にコンパクトな形態となり、乗物用シートに対する搭載性が向上する。
【0018】
ここで、仮に、第2膨張予定部が第1膨張予定部よりも後側に位置し、同第2膨張予定部がその前端部において第1膨張予定部の後端部に連通していると、同第2膨張予定部が膨張する際に、骨盤の前部を押し上げて、後傾を促す方向へ同骨盤を回動させようとする。この場合には、乗員の腰部が、同腰部を拘束しているラップベルト部の下側を潜って前方へ滑るおそれがある。
【0019】
この点、上記の構成によるように、第2膨張予定部が第1膨張予定部の上側に折り重ねられ、かつ第1膨張予定部と第2膨張予定部とが、互いの後端部において連通していると、第2膨張予定部は、後端部を支点として後方へ向けて膨張する。この膨張の方向は、前方へ移動しようとする骨盤に対向する方向である。従って、第2膨張予定部が骨盤の前部を押し上げて、後傾を促す方向へ同骨盤を回動させることが起こりにくい。乗員の腰部がラップベルト部の下側を潜って前方へ滑る現象が起こりにくい。
【0020】
上記シートクッションエアバッグ装置において、前記支持部は、膨張状態の前記エアバッグに対し前側に隣接する箇所に、上方へ延びる壁板部を備えていることが好ましい。
上記の構成によれば、骨盤から前方へ向かう力を受けた膨張状態のエアバッグは、壁板部に当たることで、それ以上前方へ移動することを規制される。エアバッグは、壁板部が設けられない場合に比べ、膨張したときの形状を保持しやすい。
【0021】
上記シートクッションエアバッグ装置において、前記締結部を後締結部とした場合において、前記エアバッグの前記後締結部よりも前方には、前記エアバッグを前記支持部に締結するための前締結部が設けられていることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、エアバッグが後締結部と、それよりも前方の前締結部とによって支持部に締結される。そのため、後締結部のみによってエアバッグが支持部に締結される場合に比べ、エアバッグが膨張するときに乗員側へ揺動する現象が起こりにくく、骨盤を受け止める性能が向上する。
【0023】
上記シートクッションエアバッグ装置において、前記エアバッグの周りには帯状のテザーが配置されており、前記テザーは、前記幅方向における前記エアバッグの両側部に配置された一対の傾斜部を備え、各傾斜部の後端部は前記支持部に固定され、前記テザーの前端部は前記エアバッグの前部に固定されており、各傾斜部は、前記エアバッグの膨張に伴い、前側ほど高くなるように傾斜することが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、乗物に対し乗物用シートの前方から衝撃が加わると、乗員の腰部(骨盤)が前方へ移動しようとする。一方で、シートクッションエアバッグ装置では、膨張用ガスの供給を受けたエアバッグが膨張する。このエアバッグの膨張に伴いテザーの両傾斜部が引っ張られて緊張状態になる。後端部が支持部に固定された両傾斜部は、エアバッグのうちテザーの前端部が固定された部分を後方へ引っ張る。テザーによる引っ張り荷重とエアバッグの内圧とにより、上記のように前方へ移動しようとする乗員の腰部(骨盤)を受け止める荷重が発生する。そのため、こうした荷重が発生しない場合に比べ、骨盤を受け止める性能が向上する。
【0025】
上記シートクッションエアバッグ装置において、前記テザーは、一対の前記傾斜部の前端部同士を、前記エアバッグよりも前側に配置された連結部で連結してなる単一の帯片により構成されており、前記テザーは、少なくとも前記連結部において前記エアバッグの前端部に固定されていることが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、エアバッグの膨張に伴い、テザーの両傾斜部が引っ張られて緊張状態になる。この際、テザーの連結部は、骨盤の前方へ向かう力に対向する力(反力)を発生する反力面として機能する。テザーには、エアバッグのうち同テザーの前端部が固定された部分を後方へ引っ張る引っ張り荷重が発生する。
【0027】
上記シートクッションエアバッグ装置において、前記テザーの長さは、前記エアバッグのうち前記テザーが重ねられた箇所の周長よりも短く設定されていることが好ましい。
テザーの長さが、エアバッグのうち同テザーが重ねられた箇所の周長に対し、上記の関係を満たすように設定されることにより、エアバッグの膨張に伴いテザーの両傾斜部が引っ張られて緊張状態になる。両傾斜部は、エアバッグのうちテザーの前端部が固定された部分を後方へ引っ張る。
【0028】
上記シートクッションエアバッグ装置において、前記テザーの前端部の前記エアバッグの前部に対する固定は、前記テザー及び前記エアバッグを縫合する縫糸によりなされていることが好ましい。
【0029】
上記の構成によれば、テザーを縫糸でエアバッグに縫合するといった簡単な手段によって、テザーの前端部がエアバッグの前部に固定される。
上記シートクッションエアバッグ装置において、各傾斜部の後端部は、前記締結部により、前記エアバッグとともに前記支持部に締結されていることが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、エアバッグを支持部に締結するための締結部が、各傾斜部の後端部を支持部に固定するために利用される。そのため、各傾斜部の後端部を支持部に固定するための専用の部材を別途設けなくてもすむ。
【0031】
上記シートクッションエアバッグ装置において、膨張状態の前記エアバッグは、前側ほど低くなる傾斜面を有しており、前記テザーの前端部は、前記傾斜面の前後方向における中央部よりも前下側の箇所に配置されていることが好ましい。
【0032】
ここで、膨張状態のエアバッグは、骨盤から前方へ向かう力を受けたときに、前方へ逃げずに(移動せずに)つぶれ変形することで、衝突により前方へ移動しようとする骨盤のエネルギーを吸収する。エアバッグの前方への変形量(つぶれ代)が多いほど、エネルギーの吸収量が多くなる。
【0033】
この点、上記の構成によれば、テザーの前端部が、傾斜面の前後方向における中央部よりも前下側の箇所に配置されてエアバッグに固定される。そのため、膨張状態のエアバッグが骨盤から前方へ向かう力を受けた場合、同エアバッグのうち、テザーが重ねられた領域を含め、それよりも前下側の領域は、前方へ逃げる(移動する)ことを同テザーによって規制される。その規制の分、エアバッグのうち、傾斜状態のテザーよりも後上側の領域は、骨盤から前方へ向かう力を受けた場合に、前方へ逃げる(移動する)ことなくつぶれ変形しやすくなる。
【0034】
従って、テザーの前端部が、傾斜面の前後方向における中央部よりも後上側の箇所に配置された場合に比べ、同エアバッグのうち、前方へ逃げる(移動する)ことなくつぶれ変形し得る領域が多くなる。エアバッグの前方への移動を伴わないつぶれ変形の量(つぶれ代)を多くして、前方へ移動しようとする骨盤のエネルギーを多く吸収することが可能である。
【発明の効果】
【0035】
上記シートクッションエアバッグ装置によれば、乗員の着座姿勢に拘わらず腰部の前方への移動を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】第1実施形態におけるシートクッションエアバッグ装置が組込まれた車両用シートを、乗員及びシートベルト装置とともに示す側面図。
図2】第1実施形態におけるシートクッションエアバッグ装置を乗員の骨盤とともに示す側断面図。
図3図2とは異なる態様でエアバッグが配置されたシートクッションエアバッグ装置を乗員の骨盤とともに示す側断面図。
図4】第2実施形態におけるシートクッションエアバッグ装置の側面図。
図5】第1実施形態のシートクッションエアバッグ装置の変形例を示す側断面図。
図6】第1実施形態のシートクッションエアバッグ装置の別の変形例を示す側面図。
図7】第2実施形態のシートクッションエアバッグ装置の変形例を示す側面図。
図8】第2実施形態のシートクッションエアバッグ装置の別の変形例を示す側面図。
図9】第2実施形態のシートクッションエアバッグ装置の別の変形例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(第1実施形態)
以下、車両用のシートクッションエアバッグ装置に具体化した第1実施形態について、図1図3を参照して説明する。
【0038】
なお、以下の説明では、車両の前進方向を前方と記載し、それを基準に前、後、上、下、左、右を規定している。また、車両用シートには、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が着座しているものとする。
【0039】
図1及び図2に示すように、乗物としての車両には、乗物用シートとして一人掛け用の車両用シート10が設置されている。車両用シート10は、シートクッション(座部)11と、シートクッション11の後部から起立し、かつ傾斜角度を調整可能に構成されたシートバック(背凭れ部)13とを備えている。車両用シート10は、シートバック13が車両前方を向く姿勢で同車両に設置されている。このように設置された車両用シート10の前後方向は、車両の前後方向と合致し、車両用シート10の幅方向は、車幅方向と合致する。
【0040】
シートクッション11は、図2において二点鎖線で示すクッション部12と、そのクッション部12を下側から支えるシートパン(図示略)とを備えている。
図1及び図2に示すように、車両には、クッション部12に着座し、かつシートバック13に凭れた乗員P1を拘束するためのシートベルト装置20が設けられている。
【0041】
図1に示すように、シートベルト装置20は、帯状のウェビング21と、ウェビング21に対しその長さ方向に移動可能に取付けられたタング22と、シートクッション11よりも車内側に配置されてタング22が係脱可能に装着されるバックル23とを備えている。ウェビング21は、その一端部が、シートクッション11の車外側に固定され、他端部が同車外側に配設されたベルト巻取装置(図示略)により巻き取られる構成とされている。シートベルト装置20では、ウェビング21に沿ってタング22を摺動させることで、ラップベルト部24及びショルダベルト部25の各長さを調節可能である。
【0042】
ラップベルト部24は、ウェビング21において、タング22からウェビング21の端部(固定端)までの部分であり、着座した乗員P1の腰部PPの一側方から同腰部PPの前を経由して他側方に架け渡される。ショルダベルト部25は、ウェビング21において、タング22からベルト巻取装置までの部分であり、着座した乗員P1の肩部から斜めに胸部PTの前を経由して腰部PPの側方に架け渡される。
【0043】
図1及び図2に示すように、上記車両には、サブマリン現象を抑制するためのシートクッションエアバッグ装置(以下、単に「エアバッグ装置」という)40が設けられている。サブマリン現象は、前突等により、車両に対し前方から衝撃が加わった場合に、シートベルト装置20によって車両用シート10に拘束されている乗員P1の腰部PPが、ラップベルト部24から外れて前方へ移動(前滑り)する現象である。
【0044】
シートクッション11におけるシートパン(図示略)とクッション部12との間であって、同クッション部12の前部には、後述するエアバッグ50よりも硬質の材料、例えば、金属、樹脂等によって形成された板状の支持部31が固定されている。支持部31は、前側ほど高くなるように一定の角度で傾斜する傾斜板部32と、傾斜板部32の前端部から上方へ延びる壁板部35とを備えている。壁板部35は、傾斜板部32において、後述するエアバッグ50が膨張したとき、同エアバッグ50に対し前側に隣接する箇所に位置している。
【0045】
エアバッグ装置40は、エアバッグモジュールABM、衝撃センサ61及び制御装置62を備えている。エアバッグモジュールABMは、ガス発生器41及びエアバッグ50を備えている。次に、エアバッグ装置40を構成する各部について説明する。
【0046】
<ガス発生器41>
ガス発生器41は、エアバッグ50に膨張用ガスを供給するためのものであり、インフレータ42と、そのインフレータ42を覆うリテーナ43とを備えている。インフレータ42は長尺状(略円柱状)をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ42の一方の端部には、膨張用ガスを噴出するガス噴出部(図示略)が設けられ、他方の端部には、同インフレータ42への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0047】
一方、リテーナ43は、その大部分が金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。また、リテーナ43の外周面において、長さ方向に互いに離間した複数箇所には、同リテーナ43の径方向外方へ延びるボルト44が固定されている。
【0048】
<エアバッグ50>
エアバッグ50は、膨張することでクッション部12の座面を隆起させる機能を担っている。エアバッグ50は、複数枚の布片(基布、パネル布等とも呼ばれる)を、周縁部において縫合することによって形成されている。布片としては、強度が高く、かつ可撓性を有する素材、例えば、ポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。
【0049】
エアバッグ50はガス発生器41と一緒に、クッション部12と支持部31との間であって、次の条件を満たす箇所に配置されている。
・車幅方向については、シートクッション11の中央部分であること。
【0050】
・前後方向については、乗員P1の骨盤PVよりも前方であること。
エアバッグ50は、支持部31の傾斜板部32からの高さH1が後端部において最も高くなり、後端部から前側へ遠ざかるに従い低くなる膨張形状を有している(図2の二点鎖線参照)。
【0051】
<エアバッグ50に対するガス発生器41の係止態様>
ガス発生器41におけるインフレータ42及びリテーナ43は、エアバッグ50内の下部のうち、前後方向における中央部よりも後方において、車幅方向に延びる姿勢で配置されている。第1実施形態では、インフレータ42及びリテーナ43は、エアバッグ50内の下部の後端部に配置されている。
【0052】
ガス発生器41における複数本のボルト44は、エアバッグ50の下部の後端部に挿通されている。この挿通により、ガス発生器41がエアバッグ50に対し、位置決めされた状態で係止されている。ボルト44の大部分はエアバッグ50から下方に露出している。また、ハーネスがエアバッグ50の外部へ引き出されている。
【0053】
<エアバッグモジュールABMの組付け態様>
傾斜板部32において、車幅方向に互いに離間した複数箇所には、取付孔33が形成されている。ガス発生器41におけるボルト44が、上記取付孔33に挿通されている。そして、各ボルト44に対し、傾斜板部32の下方からナット45が螺合されることにより、ガス発生器41がエアバッグ50と一緒に傾斜板部32に締結されている。上記ボルト44を有するガス発生器41とナット45とによって、エアバッグ50の下部を支持部31に締結するための締結部が構成されている。エアバッグ50の傾斜板部32に対する締結は、同エアバッグ50の下部の後端部が、リテーナ43と傾斜板部32とで挟み込まれることによってなされている。
【0054】
膨張前のエアバッグ50は、上下方向に折り重ねられた状態で、支持部31とクッション部12との間に配置されている。この折り重ねられた2つの部分を区別するために、エアバッグ50の下側の部分を構成し、かつ傾斜板部32上に配置された部分を第1膨張予定部51といい、第1膨張予定部51の上側に折り重ねられた部分を第2膨張予定部52というものとする。第1膨張予定部51及び第2膨張予定部52は、互いの後端部において連通している。
【0055】
<エアバッグ装置40のその他の構成部材について>
衝撃センサ61は加速度センサ等からなり、車両に対し前方から加わる衝撃を検出する。制御装置62は、衝撃センサ61からの検出信号に基づきインフレータ42の作動を制御する。
【0056】
次に、上記のように構成された第1実施形態のエアバッグ装置40の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
車両の前突等により、同車両に対し前方から衝撃が加わった場合、クッション部12に着座している乗員P1は、慣性によって前方へ移動しようとする。このとき、乗員P1が、手動運転に適した正規の姿勢で車両用シート10に着座していれば、その乗員P1は、シートベルト装置20の保持作用によってクッション部12上に引き留められる。すなわち、前方へ移動しようとする腰部PPがラップベルト部24に引っ掛かる。ラップベルト部24が腰部PPを拘束し、同腰部PPの前方への移動を規制する。
【0057】
しかし、乗員P1の姿勢によっては、腰部PPが前方へ移動しようとすることがある。例えば、車両に対し前方から衝撃が加わったときに、乗員P1が安楽姿勢を採っている場合、すなわち、車両が自動運転されていて、図1に示すように、乗員P1が手動運転時よりも後方へ倒されたシートバック13に凭れている場合が該当する。この場合、乗員P1の上半身が手動運転時よりも後方へ傾斜していることから、腰部PPがラップベルト部24に適正に引っ掛からないおそれがある。ラップベルト部24の腰部PPを拘束する性能が充分に発揮されず、腰部PPがラップベルト部24をくぐり抜けて前方へ移動するおそれがある。
【0058】
一方、上記前方からの衝撃により、車両に対し所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ61によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置62からインフレータ42に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。この作動信号に応じ、インフレータ42から膨張用ガスが、第1膨張予定部51及び第2膨張予定部52に供給される。この膨張用ガスにより、第1膨張予定部51及び第2膨張予定部52が図2において二点鎖線で示すように膨張する。第1膨張予定部51及び第2膨張予定部52の膨張は、折り状態を解消(展開)しながらなされる。上記のように展開を伴って膨張するエアバッグ50により、クッション部12が上方へ押圧される。
【0059】
クッション部12の座面のうち、乗員P1の左右の両大腿部PFの間であって、腰部PP(骨盤PV)の前方となる箇所が隆起させられる。クッション部12の隆起した部分によって、乗員P1の腰部PP(骨盤PV)が受け止められる。膨張状態のエアバッグ50は骨盤PVから前方へ向かう力を受ける。
【0060】
ここで、ナット45とともに締結部を構成するガス発生器41が仮に、エアバッグ50の下部のうち、前後方向における中央部よりも前方、例えば、前部に設けられると、膨張状態のエアバッグ50においてガス発生器41よりも後方の部分が多くなる。この部分は、骨盤PVから前方に向かう上記力を受けると、ガス発生器41を支点として前方へ倒れ込む。この倒れ込みにより、エアバッグ50の骨盤PVを受け止める性能が低下するおそれがある。
【0061】
この点、ガス発生器41が、エアバッグ50の下部のうち、前後方向における中央部よりも後方に設けられている第1実施形態では、膨張状態のエアバッグ50においてガス発生器41よりも後方の部分が少ない。エアバッグ50の上記部分が骨盤PVから前方に向かう力を受けても、ガス発生器41よりも前方へ倒れ込む現象が起こりにくい。エアバッグ50は、膨張したときの形状を保持し、骨盤PVを受け止める性能を発揮しやすい。
【0062】
特に、第1実施形態では、ガス発生器41が、エアバッグ50の下部の後端部に設けられているため、膨張状態のエアバッグ50においてガス発生器41よりも後方の部分が、取り得る最小となる。従って、エアバッグ50の上記部分が骨盤PVから前方に向かう力を受けた場合に、ガス発生器41よりも前方へ倒れ込む現象が効果的に抑制される。
【0063】
また、第1実施形態では、膨張したときのエアバッグ50の高さH1が、後端部において最も高くなる。そのため、前方へ移動しようとする骨盤PVを、エアバッグ50の広い後端面によって受け止めることができ、腰部PPの前方への移動を効果的に規制することができる。
【0064】
なお、膨張状態のエアバッグ50が骨盤PVを受け止める性能は、特に後端部において発揮される。そのため、第1実施形態のように、エアバッグ50の高さH1が前側ほど低くても、エアバッグ50が骨盤PVを受け止める性能に及ぼす影響は少ない。
【0065】
さらに、第1実施形態では、支持部31が、膨張状態のエアバッグ50の前側に隣接する箇所に、上方へ延びる壁板部35を備えている。そのため、骨盤PVから前方へ向かう力を受けた膨張状態のエアバッグ50は、壁板部35に当たることで、それ以上前方へ移動することを規制される。この点でも、エアバッグ50が腰部PPの前方移動を規制する性能が向上する。
【0066】
ここで、仮に図3に示すように、第2膨張予定部52が第1膨張予定部51よりも後側に位置し、同第2膨張予定部52がその前端部において第1膨張予定部51の後端部に連通していると、次の懸念がある。それは、第2膨張予定部52が膨張用ガスの供給を受けて矢印Aで示す方向へ膨張する際に、骨盤PVの前部を押し上げて、同図3において二点鎖線で示すように、後傾を促す方向、図3では時計回り方向へ同骨盤PVを回動させようとすることである。この場合には、乗員P1の腰部PPが、同腰部PPを拘束しているラップベルト部24の下側を潜って前方へ滑るおそれがある。
【0067】
この点、図2に示すように、第2膨張予定部52が第1膨張予定部51の上側に折り重ねられていて、第1膨張予定部51及び第2膨張予定部52が、互いの後端部において連通している第1実施形態では、第2膨張予定部52は、同図2において矢印Bで示すように、後端部を支点として後方へ向けて膨張する。この膨張の方向は、矢印Cで示すように前方へ移動しようとする骨盤PVに対向する方向である。従って、第2膨張予定部52が骨盤PVの前部を押し上げて、後傾を促す方向へ回動させることが起こりにくい。乗員P1の腰部PPがラップベルト部24の下側を潜って前方へ滑る現象が起こりにくい。
【0068】
第1実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・仮に、大腿部PFの下方にエアバッグ50が配置されると、同エアバッグ50が膨張したときに、大腿部PFが押し上げられて骨盤PVが後傾し、腰部PPがラップベルト部24に適正に引っ掛からないおそれがある。
【0069】
この点、第1実施形態によれば、エアバッグ50が大腿部PFの下方からずれた箇所(左右の両大腿部PF間)で膨張するため、大腿部PFが押し上げられにくく、同大腿部PFの押し上げに起因する骨盤PVの後傾を抑制することができる。
【0070】
・膨張状態のエアバッグ50における支持部31の傾斜板部32からの高さH1が、後端部から前側へ遠ざかるに従い低くなっている。
そのため、上記高さH1が前後方向に同一である場合に比べ、エアバッグ50の容量が少なくなる。車両用シート10におけるエアバッグ50、ひいてはエアバッグモジュールABMの搭載スペースが小さくてすみ、搭載性が向上する。また、エアバッグ50の小容量化により、同エアバッグ50と車両用シート10(シートクッション11)内の周囲の部品との干渉が起こりにくい。
【0071】
・エアバッグ50が膨張する前には、第2膨張予定部52が第1膨張予定部51の上側に位置するように折り重ねられている。そのため、エアバッグ50は膨張前には前後方向にコンパクトな形態となる。車両用シート10内に、前後方向に小さなスペースしかない場合であっても、エアバッグ50を設置することができる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、車両用のシートクッションエアバッグ装置に具体化した第2実施形態について、図4を参照して説明する。
【0073】
第2実施形態におけるエアバッグ50は、第1実施形態と同様、支持部31の傾斜板部32からの高さH1が後端部において最も高くなり、後端部から前側へ遠ざかるに従い低くなる膨張形状を有している。膨張状態のエアバッグ50は、前側ほど低くなる傾斜面55を有している。
【0074】
第2実施形態のエアバッグ装置40は、帯状のテザー56を備えている。テザー56は、伸びにくく、強度の高い布片によって構成されている。テザー56は、単一の帯片により構成されており、エアバッグ50の周りに配置されている。テザー56としては、40mm以上の幅Wを有するものが用いられることが望ましい。テザー56は、エアバッグ50の左右両側部に配置され、かつ同エアバッグ50の膨張に伴い、それぞれ前側ほど高くなるように傾斜する一対の傾斜部57と、同エアバッグ50よりも前側に配置されて、一対の傾斜部57の前端部同士を連結する連結部58とを備えている。連結部58は、テザー56の前端部を構成している。なお、図4では、片側の傾斜部57のみが図示されている。
【0075】
テザー56の長さは、エアバッグ50のうち同テザー56が重ねられた箇所の周長よりも短く設定されている。
こうした構成のテザー56の連結部58は、傾斜面55の前後方向における中央部55cよりも前下側の箇所に配置されている。
【0076】
各傾斜部57の後端部57rは、上記ガス発生器41及びナット45により、エアバッグ50とともに傾斜板部32に固定されている。より詳しくは、ガス発生器41のボルト44が、エアバッグ50と傾斜板部32の取付孔33(図2参照)とに挿通され、同ボルト44にナット45が締付けられていることについては、第1実施形態で説明したが、第2実施形態では、このナット45の締付けが、ボルト44に対し傾斜部57の後端部57rが引っ掛けられた状態で行なわれている。図4では図示されていないが、同図4中の奥側の傾斜部57の後端部57rは、奥側の図示しないボルト44に引っ掛けられている。このボルト44にナット45が締付けられている。これらのナット45の締付けにより、各傾斜部57の後端部57rが、ガス発生器41及びエアバッグ50と一緒に傾斜板部32に締結されている。
【0077】
テザー56の連結部58は、エアバッグ50の前端部に固定されている。この固定は、連結部58及びエアバッグ50を縫合する縫糸59によってなされている。
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0078】
次に、上記のように構成された第2実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
車両の前突等により、同車両に対し前方から衝撃が加わると、乗員P1の腰部PP(骨盤PV)が前方へ移動しようとする。一方で、エアバッグ装置40では、膨張用ガスの供給を受けたエアバッグ50が膨張する。
【0079】
ここで、テザー56の長さが、エアバッグ50のうち同テザー56が重ねられた箇所の周長よりも短い。そのため、エアバッグ50の膨張に伴いテザー56の両傾斜部57が引っ張られて緊張状態になる。
【0080】
また、各傾斜部57の後端部57rは傾斜板部32に固定されている。従って、両傾斜部57は、エアバッグ50のうちテザー56の連結部58が固定された部分を、後方へ引っ張る。
【0081】
この際、40mm以上の幅Wを有する連結部58は、骨盤PVの前方へ向かう力に対向する力(反力)を発生する反力面として機能する。テザー56には、エアバッグ50の前部のうち連結部58が固定された部分を後方へ引っ張る引っ張り荷重が発生する。こうした反力面としての機能は、連結部58として、幅Wが40mmよりも狭い帯片が用いられた場合や、紐体が用いられた場合には得られにくい。
【0082】
そして、テザー56による上記引っ張り荷重とエアバッグ50の内圧とにより、上記のように前方へ移動しようとする乗員P1の腰部PP(骨盤PV)を受け止める荷重が発生する。そのため、こうした荷重が発生しない場合に比べ、骨盤PVを受け止める性能が向上する。
【0083】
ところで、膨張状態のエアバッグ50は、骨盤PVから前方へ向かう力を受けたときに、前方へ逃げずに(移動せずに)つぶれ変形することで、衝突により前方へ移動しようとする骨盤PVのエネルギーを吸収する。エアバッグ50が前方へつぶれ変形する量(つぶれ代)が多いほど、エネルギーの吸収量が多くなる。
【0084】
この点、第2実施形態では、テザー56の連結部58が前後方向における傾斜面55の中央部55cよりも前下側の箇所に配置されている。そのため、膨張状態のエアバッグ50が骨盤PVから前方へ向かう力を受けると、同エアバッグ50のうち、テザー56が重ねられた領域を含め、それよりも前下側の領域は、前方へ逃げる(移動する)ことを同テザー56によって規制される。その規制の分、エアバッグ50のうち、傾斜部57よりも後上側の領域は、骨盤PVから前方へ向かう力を受けた場合に、前方へ逃げる(移動する)ことなく、図4において二点鎖線で示すように、つぶれ変形しやすくなる。
【0085】
従って、第2実施形態によると、連結部58が、傾斜面55の中央部55cよりも後上側の箇所に配置された場合に比べ、エアバッグ50のうち、前方へ逃げる(移動する)ことなくつぶれ変形し得る領域が多くなる。エアバッグ50の前方への移動を伴わないつぶれ代を多くして、前方へ移動しようとする骨盤PVのエネルギーを多く吸収し、衝突の衝撃から腰部PPが受ける衝撃を緩和することができる。
【0086】
第2実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・テザー56の連結部58がエアバッグ50の前部に固定されている。そのため、エアバッグ50の膨張時はもちろんのこと、膨張前にも連結部58がエアバッグ50に連結された状態に保持される。エアバッグ50の膨張前、例えば、車両用シート10に組付けられる前のエアバッグ装置40の運搬時や、同車両用シート10へのエアバッグ装置40の組付け時に、連結部58のエアバッグ50に対する位置がずれるのを抑制することができる。
【0087】
・連結部58のエアバッグ50の前部に対する固定が、同連結部58及びエアバッグ50を縫合する縫糸59によりなされている。そのため、連結部58を縫糸59でエアバッグ50に縫合するといった簡単な手段によって、連結部58をエアバッグ50の前部に固定することができる。
【0088】
・エアバッグ50を傾斜板部32に締結するためのボルト44及びナット45を利用して、傾斜部57毎の後端部57rを傾斜板部32に固定している。そのため、各後端部57rを傾斜板部32に固定するための専用の部材を別途設けなくてもすむ。テザー56による機能追加に伴うエアバッグ装置40の部品点数の増加を抑制することができる。
【0089】
なお、上述した第1及び第2実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組合わせて実施することができる。
【0090】
<第1及び第2実施形態に共通する事項>
・支持部31から壁板部35が省略されてもよい。
・締結部は、エアバッグ50の下部の前後方向における中央部よりも後方の領域であることを条件に、上記各実施形態(後端部)よりも前方の箇所に設けられてもよい。
【0091】
・第1実施形態において、図5に示すように、ガス発生器41及びナット45を後締結部とした場合に、この後締結部に加え、エアバッグ50を支持部31に締結するための前締結部が、同後締結部よりも前方に設けられてもよい。
【0092】
前締結部は、例えば同図5に示す締結具65によって構成されてもよい。この締結具65は、板状をなす押さえ部66と、押さえ部66に対し、これに直交した状態で固定されたボルト67と、ボルト67に螺合されるナット68とからなる。押さえ部66は、膨張状態のエアバッグ50内の下部であって、後締結部(ガス発生器41及びナット45)よりも前方、例えば前端部に配置される。ボルト67がエアバッグ50の下部に挿通されることにより、押さえ部66及びボルト67がエアバッグ50に対し、位置決めされた状態で係止される。
【0093】
一方、支持部31の傾斜板部32であって、上記取付孔33よりも前方には取付孔34が形成される。そして、取付孔34に対しボルト67が挿通され、同ボルト67に対し傾斜板部32の下方からナット68が螺合されることにより、締結具65がエアバッグ50と一緒に傾斜板部32に締結される。エアバッグ50の前部の傾斜板部32に対する締結は、同エアバッグ50の下部の前端部が、押さえ部66と傾斜板部32とで上下から挟み込まれることによってなされる。
【0094】
このようにすると、エアバッグ50は、後締結部(ガス発生器41及びナット45)と、それよりも前方の前締結部(締結具65)とによって支持部31に締結されることになる。そのため、エアバッグ50が、後締結部のみによって支持部31に締結される場合に比べ、同エアバッグ50の膨張時における乗員側への揺動現象が起こりにくく、骨盤PVを受け止める性能が向上する。
【0095】
なお、締結具65は、エアバッグ50の下部であって、前端部よりも後方に設けられてもよく、この場合であっても、同締結具65が設けられない場合よりも、エアバッグ50の膨張時における揺動を抑制することができる。
【0096】
また、図示はしないが、第2実施形態においても、また、後述する図6図9の変形例においても、上記と同様に、前締結部が、エアバッグ50の後締結部よりも前方に設けられてもよい。
【0097】
・第1実施形態において、図5に示すように、リテーナ43が用いられずに、インフレータ42によってガス発生器41が構成され、このガス発生器41とナット45とによってエアバッグ50の下部の後端部が傾斜板部32に締結されてもよい。
【0098】
この場合には、ボルト44はインフレータ42に直接固定される。ボルト44が、エアバッグ50の下部の後端部に挿通されることにより、インフレータ42及びボルト44がエアバッグ50に対し、位置決めされた状態で係止される。ボルト44が傾斜板部32の取付孔33に挿通され、同ボルト44にナット45が螺合されることにより、エアバッグ50の下部の後端部が支持部31の傾斜板部32に締結される。
【0099】
また、図示はしないが、第2実施形態においても、後述する図6図9の変形例においても、上記と同様に、インフレータ42のみからなるガス発生器41とナット45とによってエアバッグ50の下部の後端部が支持部31の傾斜板部32に締結されてもよい。
【0100】
・リテーナ43が用いられない上記変形例において、図5に示すように、インフレータ42の締結に際しブラケット71が用いられてもよい。ブラケット71としては、例えば、取付孔72を有する板状の押さえ部73と、押さえ部73の後端部から上方へ延びる板状の壁部74とからなるものを用いることができる。取付孔72にボルト44が挿通されることで、インフレータ42がブラケット71に係止される。上記挿通により、壁部74はインフレータ42の後方に隣接する箇所に位置する。これらのインフレータ42、ボルト44、ブラケット71等が、エアバッグ50内の下部であって後端部に配置される。さらに、上記ボルト44が、エアバッグ50の下部の後端部に挿通されることにより、ブラケット71がインフレータ42と一緒にエアバッグ50に対し、位置決めされた状態で係止される。ボルト44が傾斜板部32の取付孔33に挿通され、同ボルト44にナット45が螺合されると、エアバッグ50の下部の後端部とブラケット71の押さえ部73とが支持部31の傾斜板部32に締結される。エアバッグ50の支持部31に対する締結は、同エアバッグ50の下部の後端部が、押さえ部73と傾斜板部32とで挟み込まれることによってなされる。
【0101】
この変形例でも、上記第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。また、壁部74は、骨盤PVから受ける、前方へ向かう力の一部を受け止める機能を発揮する。
なお、図示はしないが、第1及び第2実施形態においても、また後述する図6図9の変形例においても、上記と同様に、ガス発生器41の締結に際しブラケット71が用いられてもよい。
【0102】
・上記図5の変形例におけるブラケット71の壁部74は必須ではなく、省略可能である。
・上記図5の変形例におけるブラケット71は省略可能である。
【0103】
・前締結部及び後締結部の少なくとも一方による締結は、ボルト及びナットとは異なる部材によってなされてもよい。
・エアバッグ50は、折り重ねられずに、展開させられた状態で、クッション部12と支持部31との間に配置されてもよい。
【0104】
・エアバッグ50は、その略全体が膨張部によって構成されるものであってもよいし、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0105】
・支持部31の傾斜板部32からの高さH1が、後端部において最も高くなることを条件に、エアバッグ50の膨張形状が、上記各実施形態とは異なる形状に変更されてもよい。この形状の中には、上記高さH1が、エアバッグ50における前後方向のどの箇所でも同一となる形状も含まれる。
【0106】
図6に示すようにエアバッグ50は、ガス発生器41及びナット45によって支持部31の傾斜板部32に締結される下膨張部53と、その下膨張部53の上側に配置される上膨張部54とによって構成されてもよい。
【0107】
下膨張部53及び上膨張部54は、例えば、同下膨張部53の上部の外周縁部と、同上膨張部54の下部の外周縁部とを結合する環状の結合部(図示略)により連結される。下膨張部53及び上膨張部54は、上記結合部によって囲まれた領域に設けられた開口等の連通部において、相互に連通される。
【0108】
上記構成は、支持部31の傾斜板部32からのエアバッグ50の高さH1を高くするうえで有効である。
また、下膨張部53の周縁部と上膨張部54の周縁部との間に環状の空間S1が形成される。図6中の二点鎖線で示すように、1つの膨張部によってエアバッグ50を構成した場合に比べ、上記空間S1の分、エアバッグ50の膨張時の容量を少なくすることが可能である。
【0109】
<第2実施形態に関する事項>
図7に示すように、第2実施形態と同様の帯片からなるテザー56が複数本用いられてもよい。図7では、テザー56が2本用いられているが、3本以上用いられてもよい。ただし、全てのテザー56の連結部58は、傾斜面55の前後方向における中央部55cよりも前下側の箇所に配置されることが、エアバッグ50のつぶれ代を確保するうえで望ましい。
【0110】
このようにすると、第2実施形態と同様の作用及び効果が得られる。そのほかにも、各テザー56の連結部58は、傾斜面55の中央部55cよりも前下側の広い領域に配置されることになる。そのため、膨張状態のエアバッグ50が骨盤PVから前方へ向かう力を受けた場合に、同エアバッグ50のより多くの領域が前方へ逃げる(移動する)のをテザー56によって規制することができる。
【0111】
なお、複数本のテザー56に代えて、それらのテザー56の幅Wの総和と同程度に広い幅を有する単一のテザーが用いられてもよい。
図8に示すように、膨張状態のエアバッグ50よりも後方において、ガス発生器41のボルト44及びナット45とは別に設けられた締結部によって、各傾斜部57の後端部57rが傾斜板部32に締結されてもよい。
【0112】
締結部としては、例えば、上記図5における締結具65と同様の構成を有する締結具75が用いられてもよい。締結具75は、板状をなす押さえ部76と、同押さえ部76に対し、これに直交した状態で固定されたボルト77と、ボルト77に螺合されるナット78とからなる。押さえ部76は、傾斜板部32上であって、エアバッグ50よりも後方に配置される。ボルト77が傾斜板部32に挿通され、そのボルト77に対し後端部57rが引っ掛けられる。この状態で、ボルト77に対し、傾斜板部32の下方からナット78が螺合されることにより、後端部57rが傾斜板部32に締結される。なお、後端部57rが傾斜板部32とナット78との間に代えて、押さえ部76と傾斜板部32との間に配置されてもよい。
【0113】
また、ボルト77は、傾斜板部32に直接固定されてもよい。この場合、ボルト77は、傾斜板部32から下方へ突出する態様で同傾斜板部32に固定されてもよいし、傾斜板部32から上方へ突出する態様で同傾斜板部32に固定されてもよい。いずれの場合にも、後端部57rは、ボルト77に引っ掛けられ、傾斜板部32とナット78とによって上下から挟み込まれて、同傾斜板部32に固定される。
【0114】
・テザー56の構成が、第2実施形態とは異なる構成に変更されてもよい。例えば、一対の傾斜部57及び連結部58からなるテザー56に代えて、図9に示すように、傾斜部57のみからなるテザー81が一対設けられてもよい。図9では、一方のテザー81のみが図示されている。各テザー81の長さは、エアバッグ50のうち、同テザー81が重ねられた箇所の周長よりも短く設定される。この場合、各テザー81は、エアバッグ50の膨張に伴い、前側ほど高くなるように傾斜する。各テザー81の後端部81rは、ボルト44及びナット45によって傾斜板部32に固定される。各テザー81の前端部81fは、エアバッグ50の左右の両側面における前部に対し、縫糸82を用いた縫合等の手段によって結合される。
【0115】
この変形例の場合でも、1本の帯片からなるテザー56を用いた第2実施形態と同様の作用及び効果が期待できる。
・テザー56は、連結部58においてエアバッグ50の傾斜面55に固定されることに加え、傾斜部57の前端部において同エアバッグ50の側面に固定されてもよい。
【0116】
・テザー56,81は、縫糸59,82を用いた縫合とは異なる手段、例えば、接着剤を用いた接着、締結具を用いた締結等によってエアバッグ50に固定されてもよい。
<その他>
・エアバッグ50は、膨張することでクッション部12を押し破って、同クッション部12の外部へ出て、左右の両大腿部PFの間であって、腰部PP(骨盤PV)の前方で上方へ膨張するものであってもよい。この場合、エアバッグ50のうち、クッション部12の外部で膨張した部分が、骨盤PVを受け止める。
【0117】
・制御装置62は、車両に対し、前突等による前方からの衝撃が加わることを予測した場合に、インフレータ42に作動信号を出力し、同インフレータ42から膨張用ガスを噴出させるものであってもよい。
【0118】
・上記エアバッグ装置40は、自動運転車両に適用されると特に大きな効果が得られるが、手動運転される通常の車両に適用されてもよい。この場合にも、乗員P1の腰部PPの前方への移動を規制する効果が得られる。
【0119】
・上記エアバッグ装置40が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・上記エアバッグ装置40は、車両に限らず、航空機、船舶等の他の乗物における乗物用シートに装備されるエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0120】
10…車両用シート(乗物用シート)
12…クッション部
31…支持部
35…壁板部
40…シートクッションエアバッグ装置
41…ガス発生器(締結部及び後締結部のそれぞれの一部を構成)
45…ナット(締結部及び後締結部のそれぞれの一部を構成)
50…エアバッグ
51…第1膨張予定部
52…第2膨張予定部
55…傾斜面
55c…中央部
56,81…テザー
57…傾斜部
57r,81r…後端部
58…連結部
59,82…縫糸
65…締結具(前締結部を構成)
81f…前端部
H1…高さ
P1…乗員
PP…腰部
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
図9