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特許7347234液冷ジャケットの製造方法及び摩擦攪拌接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】液冷ジャケットの製造方法及び摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230912BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 344
B23K31/00 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020010353
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021115597
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 伸城
(72)【発明者】
【氏名】山中 宏介
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/082439(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056341(WO,A1)
【文献】特開2003-48084(JP,A)
【文献】国際公開第2019/193778(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を摩擦攪拌接合する液冷ジャケットの製造方法であって、
前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、
摩擦攪拌で用いる回転ツールは、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、
前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きくなっており、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記先端側ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、
前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記回転ツールの前記先端側ピンの先端を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記基端側ピンの外周面を前記封止体の表面に接触させつつ、前記先端側ピンを前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部に沿って回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、
前記本接合工程後、前記粗密部を検出する探傷検査を行うことにより、前記先端側ピンの通過位置を特定する検査工程と、を含むことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項2】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を摩擦攪拌接合する液冷ジャケットの製造方法であって、
前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、
摩擦攪拌で用いる回転ツールは、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、
前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きくなっており、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記先端側ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、
前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成するとともに、板厚が前記周壁段差部の前記段差側面の高さ寸法よりも大きくなるように前記封止体を形成する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記回転ツールの前記先端側ピンの先端を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記基端側ピンの外周面を前記封止体の表面に接触させつつ、前記先端側ピンを前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部に沿って回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、
前記本接合工程後、前記粗密部を検出する探傷検査を行うことにより、前記先端側ピンの通過位置を特定する検査工程と、を含むことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項3】
底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を摩擦攪拌接合する液冷ジャケットの製造方法であって、
前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、
摩擦攪拌で用いる回転ツールは、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、
前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きくなっており、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記先端側ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、
前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって広がるように斜めに立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成するとともに、板厚が前記周壁段差部の前記段差側面の高さ寸法よりも大きくなるように前記封止体を形成する準備工程と、
前記ジャケット本体に前記封止体を載置することにより、前記周壁段差部の前記段差側面と前記封止体の外周側面との間に隙間があるように第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記回転ツールの前記先端側ピンの先端を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記基端側ピンの外周面を前記封止体の表面に接触させつつ、前記先端側ピンを前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部に沿って回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、
前記本接合工程後、前記粗密部を検出する探傷検査を行うことにより、前記先端側ピンの通過位置を特定する検査工程と、を含むことを特徴とする液冷ジャケットの製造方法。
【請求項4】
前記封止体は、アルミニウム合金展伸材で形成し、前記ジャケット本体はアルミニウム合金鋳造材で形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項5】
前記回転ツールの先端側ピンの外周面に基端から先端に向うにつれて左回りの螺旋溝を刻設した場合、前記回転ツールを右回転させ、
前記回転ツールの先端側ピンの外周面に基端から先端に向うにつれて右回りの螺旋溝を刻設した場合、前記回転ツールを左回転させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項6】
前記本接合工程では、前記回転ツールの移動軌跡に形成される塑性化領域のうち、前記ジャケット本体側がシアー側となり、前記封止体側がフロー側となるように前記回転ツールの回転方向及び進行方向を設定することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液冷ジャケットの製造方法。
【請求項7】
回転ツールを用いて第一部材と第二部材とを接合する摩擦攪拌接合方法であって、
前記第一部材は、前記第二部材よりも硬度が高い材種であり、
摩擦攪拌で用いる前記回転ツールは、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、
前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きくなっており、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記先端側ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、
前記第一部材に、段差底面と、当該段差底面から立ち上がる段差側面と、を有する段差部を形成する準備工程と、
前記第一部材に前記第二部材を載置して前記段差部の段差側面と前記第二部材の側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記第二部材の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、
回転する前記回転ツールの前記先端側ピンの先端を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記基端側ピンの外周面を前記第二部材の表面に接触させつつ、前記先端側ピンを前記第一部材の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部に沿って回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、
前記本接合工程後、前記粗密部を検出する探傷検査を行うことにより、前記先端側ピンの通過位置を特定する検査工程と、を含むことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液冷ジャケットの製造方法及び摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合を利用した液冷ジャケットの製造方法が行われている。例えば、特許文献1には、液冷ジャケットの製造方法が開示されている。図16は、従来の液冷ジャケットの製造方法を示す断面図である。従来の液冷ジャケットの製造方法では、アルミニウム合金製のジャケット本体101の段差部に設けられた段差側面101cと、アルミニウム合金製の封止体102の側面102cとを突き合わせて形成された突合せ部J10に対して摩擦攪拌接合を行うというものである。また、従来の液冷ジャケットの製造方法では、回転ツールFDの攪拌ピンFD2のみを突合せ部J10に挿入して摩擦攪拌接合を行っている。また、従来の液冷ジャケットの製造方法では、回転ツールFDの回転中心軸線XAを突合せ部J10に重ねて相対移動させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-131321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ジャケット本体101は複雑な形状となりやすく、例えば、4000系アルミニウム合金の鋳造材で形成し、封止体102のように比較的単純な形状のものは、1000系アルミニウム合金の展伸材で形成するというような場合がある。このように、アルミニウム合金の材種の異なる部材同士を接合して、液冷ジャケットを製造する場合がある。このような場合は、ジャケット本体101の方が封止体102よりも硬度が高くなることが一般的であるため、図16のように摩擦攪拌接合を行うと、攪拌ピンFD2が封止体102側から受ける材料抵抗に比べて、ジャケット本体101側から受ける材料抵抗が大きくなる。そのため、回転ツールFDの攪拌ピンFD2によって異なる材種をバランスよく攪拌することが困難となり、接合後の塑性化領域に空洞欠陥が発生し接合強度が低下するという問題がある。
【0005】
また、液冷ジャケットが完成した後に、例えば、超音波探傷検査を行うことにより液冷ジャケットの品質管理を行う場合ある。このとき、超音波探傷検査による接合不良の有無は把握することができるが、回転ツールがどの位置を通過したか把握することができないという問題がある。
【0006】
このような観点から、本発明は、材種の異なるアルミニウム合金を好適に接合することができるとともに、回転ツールの通過位置を把握することができる液冷ジャケットの製造方法及び摩擦攪拌接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明は、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を摩擦攪拌接合する液冷ジャケットの製造方法であって、前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、摩擦攪拌で用いる回転ツールは、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きくなっており、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記先端側ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記回転ツールの前記先端側ピンの先端を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記基端側ピンの外周面を前記封止体の表面に接触させつつ、前記先端側ピンを前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部に沿って回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、前記本接合工程後、前記粗密部を検出する探傷検査を行うことにより、前記先端側ピンの通過位置を特定する検査工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
かかる製造方法によれば、封止体と先端側ピンとの摩擦熱によって第一突合せ部の主として封止体側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部において段差側面と封止体の外周側面とを接合することができる。また、基端側ピンの外周面を封止体の表面に接触させつつ、先端側ピンをジャケット本体の段差側面の少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部においては主として封止体側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。
また、先端側ピンを段差底面と同一かそれよりもわずかに深く挿入するため、第二突合せ部における接合強度を高めつつ、ジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。また、所定幅の粗密部をあえて形成することで、探傷検査によって先端側ピンの通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。
【0009】
また、本発明は、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を摩擦攪拌接合する液冷ジャケットの製造方法であって、前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、摩擦攪拌で用いる回転ツールは、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きくなっており、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記先端側ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成するとともに、板厚が前記周壁段差部の前記段差側面の高さ寸法よりも大きくなるように前記封止体を形成する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置して前記周壁段差部の段差側面と前記封止体の外周側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記回転ツールの前記先端側ピンの先端を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記基端側ピンの外周面を前記封止体の表面に接触させつつ、前記先端側ピンを前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部に沿って回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、前記本接合工程後、前記粗密部を検出する探傷検査を行うことにより、前記先端側ピンの通過位置を特定する検査工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
かかる製造方法によれば、封止体と先端側ピンとの摩擦熱によって第一突合せ部の主として封止体側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部において段差側面と封止体の外周側面とを接合することができる。また、基端側ピンの外周面を封止体の表面に接触させつつ、先端側ピンをジャケット本体の段差側面の少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部においては主として封止体側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。
また、先端側ピンを段差底面と同一かそれよりもわずかに深く挿入するため、第二突合せ部における接合強度を高めつつ、ジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。また、所定幅の粗密部をあえて形成することで、探傷検査によって先端側ピンの通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。また、封止体の厚さを大きくすることで接合部の金属不足を防ぐことができる。
【0011】
また、本発明は、底部、前記底部の周縁から立ち上がる周壁部を有するジャケット本体と、前記ジャケット本体の開口部を封止する封止体と、を摩擦攪拌接合する液冷ジャケットの製造方法であって、前記ジャケット本体は、前記封止体よりも硬度が高い材種であり、摩擦攪拌で用いる回転ツールは、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きくなっており、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記先端側ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記周壁部の内周縁に、段差底面と、当該段差底面から前記開口部に向かって広がるように斜めに立ち上がる段差側面と、を有する周壁段差部を形成するとともに、板厚が前記周壁段差部の前記段差側面の高さ寸法よりも大きくなるように前記封止体を形成する準備工程と、前記ジャケット本体に前記封止体を載置することにより、前記周壁段差部の前記段差側面と前記封止体の外周側面との間に隙間があるように第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記封止体の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記回転ツールの前記先端側ピンの先端を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記基端側ピンの外周面を前記封止体の表面に接触させつつ、前記先端側ピンを前記ジャケット本体の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部に沿って回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、前記本接合工程後、前記粗密部を検出する探傷検査を行うことにより、前記先端側ピンの通過位置を特定する検査工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
かかる製造方法によれば、封止体と先端側ピンとの摩擦熱によって第一突合せ部の主として封止体側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部において段差側面と封止体の外周側面とを接合することができる。また基端側ピンの外周面を封止体の表面に接触させつつ、先端側ピンをジャケット本体の段差側面の少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部においては主として封止体側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。
また、先端側ピンを段差底面と同一かそれよりもわずかに深く挿入するため、第二突合せ部における接合強度を高めつつ、ジャケット本体から封止体への金属の混入を極力少なくすることができる。また、所定幅の粗密部をあえて形成することで、探傷検査によって先端側ピンの通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。また、先端側ピンの外周面及び段差側面を傾斜するように形成することで、先端側ピンと段差側面とが大きく接触することを回避することができる。また、封止体の厚さを大きくすることで接合部の金属不足を防ぐことができる。
【0013】
また、前記封止体は、アルミニウム合金展伸材で形成し、前記ジャケット本体はアルミニウム合金鋳造材で形成することが好ましい。
【0014】
また、前記回転ツールの先端側ピンの外周面に基端から先端に向うにつれて左回りの螺旋溝を刻設した場合、前記回転ツールを右回転させ、前記回転ツールの先端側ピンの外周面に基端から先端に向うにつれて右回りの螺旋溝を刻設した場合、前記回転ツールを左回転させることが好ましい。これにより、螺旋溝によって塑性流動化した金属が先端側ピンの先端側に導かれるため、バリの発生を少なくすることができる。
【0015】
また、前記本接合工程では、前記回転ツールの移動軌跡に形成される塑性化領域のうち、前記ジャケット本体側がシアー側となり、前記封止体側がフロー側となるように前記回転ツールの回転方向及び進行方向を設定することが好ましい。これにより、前記ジャケット本体側がシアー側となり、第一突合せ部の周囲における先端側ピンによる攪拌作用が高まり、第一突合せ部における温度上昇が期待でき、第一突合せ部において段差側面と封止体の外周側面とをより確実に接合することができる。
【0016】
また、本発明は、回転ツールを用いて第一部材と第二部材とを接合する摩擦攪拌接合方法であって、前記第一部材は、前記第二部材よりも硬度が高い材種であり、摩擦攪拌で用いる前記回転ツールは、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、前記基端側ピンのテーパー角度は、前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きくなっており、前記基端側ピンの外周面には階段状のピン段差部が形成されており、前記先端側ピンの外周面は先細りとなるように傾斜しており、前記第一部材に、段差底面と、当該段差底面から立ち上がる段差側面と、を有する段差部を形成する準備工程と、前記第一部材に前記第二部材を載置して前記段差部の段差側面と前記第二部材の側面とを突き合わせて第一突合せ部を形成するとともに、前記段差底面と前記第二部材の裏面とを重ね合わせて第二突合せ部を形成する載置工程と、回転する前記回転ツールの前記先端側ピンの先端を前記段差底面と同一の深さか、それよりもわずかに深く挿入し、前記基端側ピンの外周面を前記第二部材の表面に接触させつつ、前記先端側ピンを前記第一部材の少なくとも上側にわずかに接触させた状態で前記第一突合せ部に沿って回転ツールを一周させて摩擦攪拌しつつ、塑性化領域内の前記段差側面に近接する部位に所定幅の粗密部を形成する本接合工程と、前記本接合工程後、前記粗密部を検出する探傷検査を行うことにより、前記先端側ピンの通過位置を特定する検査工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る液冷ジャケットの製造方法及び摩擦攪拌接合方法によれば、材種の異なる金属を好適に接合しつつ、回転ツールの通過位置を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る回転ツールを示す側面図である。
図2】回転ツールの拡大断面図である。
図3】回転ツールの第一変形例を示す断面図である。
図4】回転ツールの第二変形例を示す断面図である。
図5】回転ツールの第三変形例を示す断面図である。
図6】本発明の第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の準備工程を示す斜視図である。
図7】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の載置工程を示す断面図である。
図8】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す斜視図である。
図9】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す断面図である。
図10】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程後を示す断面図である。
図11】第一実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の検査工程を示す平面図である。
図12】先端側ピンの外周面を段差側面から離した位置に挿入した例を示す図である。
図13】先端側ピンの外周面を段差側面へ大きくさせた位置に挿入した例を示す図である。
図14】第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の準備工程を示す斜視図である。
図15】第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法の本接合工程を示す断面図である。
図16】従来の液冷ジャケットの製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。まずは、本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法で用いる回転ツールについて説明する。回転ツールは、摩擦攪拌接合に用いられるツールである。図1に示すように、回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されており、基軸部F1と、基端側ピンF2と、先端側ピンF3とで主に構成されている。基軸部F1は、円柱状を呈し、摩擦攪拌装置の主軸に接続される部位である。
【0020】
基端側ピンF2は、基軸部F1に連続し、先端に向けて先細りになっている。基端側ピンF2は、円錐台形状を呈する。基端側ピンF2のテーパー角度Aは適宜設定すればよいが、例えば、135~160°になっている。テーパー角度Aが135°未満であるか、又は、160°を超えると摩擦攪拌後の接合表面粗さが大きくなる。テーパー角度Aは、後記する先端側ピンF3のテーパー角度Bよりも大きくなっている。図2に示すように、基端側ピンF2の外周面には、階段状のピン段差部F21が高さ方向の全体に亘って形成されている。ピン段差部F21は、右回り又は左回りで螺旋状に形成されている。つまり、ピン段差部F21は、平面視して螺旋状であり、側面視すると階段状になっている。本第一実施形態では、回転ツールFを右回転させるため、ピン段差部F21は基端側から先端側に向けて左回りに設定している。
【0021】
なお、回転ツールFを左回転させる場合は、ピン段差部F21を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、ピン段差部F21によって塑性流動材が先端側に導かれるため、被接合金属部材の外部に溢れ出る金属を低減することができる。ピン段差部F21は、段差底面F21aと、段差側面F21bとで構成されている。隣り合うピン段差部F21の各頂点F21c,F21cの距離X1(水平方向距離)は、後記する段差角度C及び段差側面F21bの高さY1に応じて適宜設定される。
【0022】
段差側面F21bの高さY1は適宜設定すればよいが、例えば、0.1~0.4mmで設定されている。高さY1が0.1mm未満であると接合表面粗さが大きくなる。一方、高さY1が0.4mmを超えると接合表面粗さが大きくなる傾向があるとともに、有効段差部数(被接合金属部材と接触しているピン段差部F21の数)も減少する。
【0023】
段差底面F21aと段差側面F21bとでなす段差角度Cは適宜設定すればよいが、例えば、85~120°で設定されている。段差底面F21aは、本実施形態では水平面と平行になっている。段差底面F21aは、ツールの回転軸から外周方向に向かって水平面に対して-5°~15°内の範囲で傾斜していてもよい(マイナスは水平面に対して下方、プラスは水平面に対して上方)。距離X1、段差側面F21bの高さY1、段差角度C及び水平面に対する段差底面F21aの角度は、摩擦攪拌を行う際に、塑性流動材がピン段差部F21の内部に滞留して付着することなく外部に抜けるとともに、段差底面F21aで塑性流動材を押えて接合表面粗さを小さくすることができるように適宜設定する。
【0024】
図1に示すように、先端側ピンF3は、基端側ピンF2に連続して形成されている。先端側ピンF3は円錐台形状を呈する。先端側ピンF3の先端は回転軸に対して垂直な平坦面F4になっている。先端側ピンF3のテーパー角度Bは、基端側ピンF2のテーパー角度Aよりも小さくなっている。図2に示すように、先端側ピンF3の外周面には、螺旋溝F31が刻設されている。螺旋溝F31は、右回り、左回りのどちらでもよいが、本第一実施形態では回転ツールFを右回転させるため、基端側から先端側に向けて左回りに刻設されている。
【0025】
なお、回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝F31を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、螺旋溝F31によって塑性流動材が先端側に導かれるため、被接合金属部材の外部に溢れ出る金属を低減することができる。螺旋溝F31は、螺旋底面F31aと、螺旋側面F31bとで構成されている。隣り合う螺旋溝F31の頂点F31c,F31cの距離(水平方向距離)を長さX2とする。螺旋側面F31bの高さを高さY2とする。螺旋底面F31aと、螺旋側面F31bとで構成される螺旋角度Dは例えば、45~90°で形成されている。螺旋溝F31は、被接合金属部材と接触することにより摩擦熱を上昇させるとともに、塑性流動材を先端側に導く役割を備えている。また、回転ツールFは、先端にスピンドルユニット等の回転駆動手段を備えたロボットアームに取り付けてもよい。
【0026】
回転ツールFは、適宜設計変更が可能である。図3は、本発明の回転ツールの第一変形例を示す側面図である。図3に示すように、第一変形例に係る回転ツールFAでは、ピン段差部F21の段差底面F21aと段差側面F21bとのなす段差角度Cが85°になっている。段差底面F21aは、水平面と平行である。このように、段差底面F21aは水平面と平行であるとともに、段差角度Cは、摩擦攪拌中にピン段差部F21内に塑性流動材が滞留して付着することなく外部に抜ける範囲で鋭角としてもよい。
【0027】
図4は、本発明の回転ツールの第二変形例を示す側面図である。図4に示すように、第二変形例に係る回転ツールFBでは、ピン段差部F21の段差角度Cが115°になっている。段差底面F21aは水平面と平行になっている。このように、段差底面F21aは水平面と平行であるとともに、ピン段差部F21として機能する範囲で段差角度Cが鈍角となってもよい。
【0028】
図5は、本発明の回転ツールの第三変形例を示す側面図である。図5に示すように、第三変形例に係る回転ツールFCでは、段差底面F21aがツールの回転軸から外周方向に向かって水平面に対して10°上方に傾斜している。段差側面F21bは、鉛直面と平行になっている。このように、摩擦攪拌中に塑性流動材を押さえることができる範囲で、段差底面F21aがツールの回転軸から外周方向に向かって水平面よりも上方に傾斜するように形成されていてもよい。上記の回転ツールの第一~第三変形例によっても、下記の実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0029】
回転ツールFは、本実施形態では、水平方向及び上下方向に移動可能な摩擦攪拌装置に取り付けられている。なお、回転ツールFは、先端にスピンドルユニット等の回転駆動手段を備えたロボットアームに取り付けてもよい。
【0030】
[第一実施形態]
本発明の実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。図6に示すように、本発明の実施形態に係る液冷ジャケット1の製造方法は、ジャケット本体2と、封止体3とを摩擦攪拌接合して液冷ジャケット1を製造するものである。液冷ジャケット1は、封止体3の上に発熱体(図示省略)を設置するとともに、内部に流体を流して発熱体と熱交換を行う部材である。なお、以下の説明における「表面」とは、「裏面」の反対側の面という意味である。
【0031】
本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法は、準備工程と、載置工程と、本接合工程と、検査工程と、を行う。準備工程は、ジャケット本体2と封止体3とを準備する工程である。ジャケット本体2は、底部10と、周壁部11とで主に構成されている。ジャケット本体2は、第一アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第一アルミニウム合金は、例えば、JISH5302 ADC12(Al-Si-Cu系)等のアルミニウム合金鋳造材を用いている。ジャケット本体2は、本実施形態ではアルミニウム合金を例示したが、摩擦攪拌可能な他の金属でもよい。
【0032】
図6に示すように、底部10は、平面視矩形を呈する板状部材である。周壁部11は、底部10の周縁部から矩形枠状に立ち上がる壁部である。周壁部11の内周縁には周壁段差部12が形成されている。周壁段差部12は、段差底面12aと、段差底面12aから立ち上がる段差側面12bとで構成されている。図7に示すように、段差側面12bは、段差底面12aから開口部に向かって外側に広がるように傾斜している。段差側面12bの鉛直面に対する傾斜角度βは適宜設定すればよいが、例えば、鉛直面に対して3°~30°になっている。底部10及び周壁部11で凹部13が形成されている。ここで鉛直面とは、回転ツールFの進行方向ベクトルと鉛直方向ベクトルで構成される平面と定義する。
【0033】
封止体3は、ジャケット本体2の開口部を封止する板状部材である。封止体3は、周壁段差部12に載置される大きさになっている。封止体3の板厚は、段差側面12bの高さ寸法よりも大きくなっている。封止体3の板厚寸法は、後記する本接合工程の際に接合部が金属不足にならない程度に適宜設定する。封止体3は、第二アルミニウム合金を主に含んで形成されている。第二アルミニウム合金は、第一アルミニウム合金よりも硬度の低い材料である。第二アルミニウム合金は、例えば、JIS A1050,A1100,A6063等のアルミニウム合金展伸材で形成されている。封止体3は、本実施形態ではアルミニウム合金を例示したが、摩擦攪拌可能な他の金属でもよい。なお、本明細書において硬度はブリネル硬さをいい、JIS Z 2243に準じた方法によって測定することができる。
【0034】
載置工程は、図7に示すように、ジャケット本体2に封止体3を載置する工程である。載置工程では、段差底面12aに封止体3の裏面3bを載置する。段差側面12bと封止体3の外周側面3cとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成される。第一突合せ部J1は本実施形態のように断面略V字状の隙間をあけて突き合わされる場合も含み得る。また、段差底面12aと、封止体3の裏面3bとが重ね合わされて第二突合せ部J2が形成される。
【0035】
本接合工程は、図8及び図9に示すように、回転する回転ツールFを封止体3の周囲で一周させてジャケット本体2と封止体3とを摩擦攪拌接合する工程である。
【0036】
図8に示すように、回転ツールFを用いて摩擦攪拌を行う際には、封止体3に右回転した先端側ピンF3を挿入し、基端側ピンF2の外周面を封止体3の表面3aに接触させつつ、移動させる。回転ツールFの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域W1が形成される。本実施形態では、封止体3に設定した開始位置Spに先端側ピンF3を挿入し、封止体3に対して右廻りに回転ツールFを相対移動させる。
【0037】
図9に示すように、本接合工程では、回転ツールFの回転中心軸線Xを鉛直線(鉛直面)と平行にした状態で摩擦攪拌を行う。段差側面12bの傾斜角度β(図7参照)は、先端側ピンF3の外周面の傾斜角度αよりも小さく設定している。本接合工程では、基端側ピンF2の外周面を封止体3の表面3aに接触させつつ、先端側ピンF3の外周面の上側を周壁段差部12の段差側面12bの上部にわずかに接触させつつ、先端側ピンF3の外周面の下側を周壁段差部12の段差側面12bに接触させないように設定する。先端側ピンF3の平坦面F4は、段周壁差部12の段差底面12aと同一の高さでもよいが、本実施形態では周壁段差部12の段差底面12aよりもわずかに深い位置となるように挿入する。本接合工程では、封止体3の周囲に一周させ、塑性化領域W1の始端と終端とを重複させたら回転ツールFをジャケット本体2及び封止体3から離脱させる。
【0038】
図10に示すように、本接合工程を行うと、回転ツールFの移動軌跡に塑性化領域W1が形成されるとともに、塑性化領域W1の下部のうち段差側面12bの内側近傍に粗密部Zが形成される。粗密部Zは、塑性流動材の攪拌が不十分な領域であって、他の部位よりも塑性流動材が粗密になっている領域である。粗密部Zは、塑性化領域W1の長手方向において連続的又は断続的に形成されている。
【0039】
検査工程は、図11に示すように、液冷ジャケット1の探傷検査を行う工程である。検査工程では、超音波探傷装置(例えば、超音波映像装置(SAT)株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いる。図11中の検査結果画面Rのうち、液冷ジャケット1の中空部Uは色付きで表示されている。また、中空部Uの周囲に粗密部Zが色付きで、枠状かつ線状に表示されている。つまり、検査結果画面Rに粗密部Zが表示されることで、封止体3の全周に亘って回転ツールFが通過していることが特定できる。中空部Uと粗密部Zの間は塑性化領域W1に相当する部位である。
【0040】
ここで、粗密部Zの幅Zwは400μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下に設定することが好ましい。粗密部Zの幅Zwが400μmを超えると第一突合せ部J1の接合強度が不十分になるおそれがある。換言すると、粗密部Zの幅Zwが400μm以下であれば十分な接合強度が得られる。一方、粗密部Zの幅Zwは100μm以上であることが好ましい。粗密部Zの幅Zwが100μm未満であると超音波探傷装置で、粗密部Z部分が検査結果画面Rに表示されないおそれがある。
【0041】
図9に示すように、本接合工程において、先端側ピンF3の外周面と段差側面12bとが接触する領域と、接触しない領域との割合は本実施形態では、2:8くらいになっているが、ジャケット本体2と封止体3とが所望の強度で接合されつつ、前記した所定幅の粗密部Zが形成される範囲で適宜設定すればよい。換言すると、先端側ピンF3の外周面の傾斜角度α、周壁段差部12の段差側面12bの傾斜角度β、先端側ピンF3の回転中心軸線Xの位置(幅方向の位置)は、ジャケット本体2と封止体3とが所望の強度で接合されつつ、前記した所定幅の粗密部Zが形成される範囲で適宜設定すればよい。
【0042】
図12に示すように、先端側ピンF3の外周面と段差側面12bとが離間していると接合できないか、若しくは接合強度が低下するおそれがあるため、少なくとも段差側面12bの上部に先端側ピンF3を接触させることが好ましい。また図13に示すように、先端側ピンF3と段差側面12bとの接触代が大きくなると、硬度が高いジャケット本体2の金属が硬度の低い封止体3側に多く流入するため、ジャケット本体2と封止体3との攪拌のバランスが悪くなり、接合強度が低下するおそれがある。また、段差底面12a付近において、先端側ピンF3の外周面と段差側面12bとが近接しすぎても、又は、離間しすぎても上記した所定幅の粗密部Zを形成することが困難となる。
【0043】
以上説明した本実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法によれば、封止体3と先端側ピンF3との摩擦熱によって第一突合せ部J1の主として封止体3側の金属が攪拌されて塑性流動化され、第一突合せ部J1において段差側面12bと封止体3の外周側面3cとを接合することができる。また、基端側ピンF2の外周面を封止体3の表面3aに接触させつつ先端側ピンF3をジャケット本体2の段差側面12bの少なくとも上側にわずかに接触させて摩擦攪拌を行うため、接合強度を確保しつつジャケット本体2から封止体3への金属の混入を極力少なくすることができる。これにより、第一突合せ部J1においては主として封止体3側の金属が摩擦攪拌されるため、接合強度の低下を抑制することができる。
【0044】
また、先端側ピンF3を段差底面12aと同一かそれよりもわずかに深く挿入するため、第二突合せ部J2における接合強度を高めつつ、ジャケット本体2から封止体3への金属の混入を極力少なくすることができる。また、所定幅の粗密部Zをあえて形成することで、探傷検査によって先端側ピンF3の通過位置を把握することができる。これにより、品質管理作業をより容易に行うことができる。また、封止体3の厚さを段差側面12bよりも大きくすることで接合部の金属不足を防ぐことができる。
【0045】
また、本接合工程では、回転ツールFの回転方向及び進行方向は適宜設定すればよいが、本実施形態では回転ツールFの移動軌跡に形成される塑性化領域W1のうち、ジャケット本体2側がシアー側となり、封止体3側がフロー側となるように回転ツールFの回転方向及び進行方向を設定した。これにより、第一突合せ部J1の周囲における先端側ピンF3による攪拌作用が高まり、第一突合せ部J1における温度上昇が期待でき、第一突合せ部J1において段差側面12bと封止体3の外周側面3cとをより確実に接合することができる。
【0046】
なお、シアー側(Advancing side)とは、被接合部に対する回転ツールの外周の相対速度が、回転ツールの外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側を意味する。一方、フロー側(Retreating side)とは、回転ツールの移動方向の反対方向に回転ツールが回動することで、被接合部に対する回転ツールの相対速度が低速になる側を言う。
【0047】
また、ジャケット本体2の第一アルミニウム合金は、封止体3の第二アルミニウム合金よりも硬度の高い材料になっている。これにより、液冷ジャケット1の耐久性を高めることができる。また、ジャケット本体2の第一アルミニウム合金をアルミニウム合金鋳造材とし、封止体3の第二アルミニウム合金をアルミニウム合金展伸材とすることが好ましい。第一アルミニウム合金を例えば、JISH5302 ADC12等のAl-Si-Cu系アルミニウム合金鋳造材とすることにより、ジャケット本体2の鋳造性、強度、被削性等を高めることができる。また、第二アルミニウム合金を例えば、JIS A1000系又はA6000系とすることにより、加工性、熱伝導性を高めることができる。
【0048】
例えば、本実施形態では、封止体3の板厚を段差側面12bの高さ寸法よりも大きくしているが、両者を同一にしてもよい。また、段差側面12bは傾斜させずに、段差底面12aに対して垂直でもよい。
【0049】
なお、前記した実施形態ではジャケット本体と封止体とを接合して形成される液冷ジャケットの製造方法を例示したが、これに限定されるものではない。図示は省略するが、本発明は、液冷ジャケットの形状に限定されることなく段差部を備えた第一部材と、当該段差部に配置される第二部材とを接合する摩擦攪拌接合としても適用することができる。
【0050】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る液冷ジャケットの製造方法について説明する。図14及び図15に示すように、第二実施形態では、ジャケット本体2Aの支柱15と封止体3Aとを接合する点で第一実施形態と相違する。本実施形態では、準備工程、載置工程、本接合工程、検査工程を行う。本接合工程では、第一本接合工程と、第二本接合工程を行う。本実施形態では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0051】
準備工程では、ジャケット本体2A及び封止体3Aを用意する。ジャケット本体2Aは、底部10、周壁部11、複数の支柱15(本実施形態では4つ)を備えている。支柱15は、底部10から立設し柱状を呈する。支柱15の先端には先細りとなる突出部16が形成されている。突出部16を設けることにより、支柱15の先端側には支柱段差部17が形成されている。支柱段差部17は、段差底面17aと、段差底面17aから軸中心側に傾斜する段差側面17bとで構成されている。封止体3Aには、支柱15の対応する位置に孔部4が形成されている。孔部4は、突出部16が挿入される大きさになっている。
【0052】
載置工程では、ジャケット本体2Aに封止体3Aを載置する工程である。これにより、第一実施形態と同様に第一突合せ部J1が形成される。また、図15に示すように、支柱段差部17の段差側面17bと孔部4の孔壁4aとが突き合わされて第三突合せ部J3が形成される。また、支柱段差部17の段差底面17aと封止体3Aの裏面3bとが重ね合わされて第四突合せ部J4が形成される。
【0053】
本接合工程では、第一突合せ部J1及び第二突合せ部J2を接合する第一本接合工程と、第三突合せ部J3及び第四突合せ部J4を接合する第二本接合工程とを行う。第一本接合工程は、第一実施形態の本接合工程と同一であるため説明を省略する。
【0054】
図15に示すように、第二本接合工程では、先端側ピンF3の外周面の上側を支柱段差部17の段差側面17bの上部にわずかに接触させつつ、先端側ピンF3の外周面の下側を支柱段差部17の段差側面17bに接触させないように設定する。基端側ピンF2の外周面は封止体3Aの表面3aおよび突出部16の表面16aに接触させた状態とする。先端側ピンF3の平坦面F4は、支柱段差部17の段差底面17aよりもわずかに深い位置となるように挿入する。
【0055】
図15に示すように、本接合工程を行うと、回転ツールFの移動軌跡に塑性化領域W2が形成されるとともに、塑性化領域W2の下部のうち段差側面17bの外側近傍に粗密部Zが形成される。粗密部Zは、塑性流動材の攪拌が不十分な領域であって、他の部位よりも塑性流動材が粗密になっている領域である。粗密部Zは、塑性化領域W2において連続的又は断続的に形成されている。粗密部Zの形成方法や条件については第一実施形態と同一である。
【0056】
本実施形態によれば、第一実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本実施形態によれば、支柱15と封止体3Aとを接合するため接合強度を高めることができる。また、塑性化領域W2内において、突出部16の基端側の外側近傍に粗密部Zを形成することにより、検査工程において支柱15周りにおける回転ツールFの移動軌跡を確認することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 液冷ジャケット
2 ジャケット本体(第一部材)
3 封止体(第二部材)
F 回転ツール
F1 基軸部
F2 基端側ピン
F3 先端側ピン
F4 平坦面
J1 第一突合せ部
J2 第二突合せ部
W1 塑性化領域
Z 粗密部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16