(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】写像の学習方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20230912BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20230912BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D45/00 362
F02D45/00 372
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2020023511
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】橋本 洋介
(72)【発明者】
【氏名】片山 章弘
(72)【発明者】
【氏名】岡 尚哉
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6624325(JP,B1)
【文献】特開2007-278106(JP,A)
【文献】特開2019-100282(JP,A)
【文献】特開2011-065545(JP,A)
【文献】特許第6593560(JP,B1)
【文献】特開2018-92613(JP,A)
【文献】特開2004-341959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の状態を示すパラメータである内燃機関状態変数を入力として内燃機関
に失火が生じた確率を算出する写像と、算出した確率に基づいて内燃機関の
失火の有無を分類する演算部とを含むコンピュータの前記写像を学習させる方法であって、
前記内燃機関状態変数と、前記内燃機関状態変数に対応付けられた
真の前記
確率とからなる複数の訓練データを、訓練用コンピュータに入力する入力工程と、
前記訓練用コンピュータが、入力された前記訓練データに基づいて前記写像を更新する更新工程と、
前記入力工程の前に、複数の前記訓練データを前記訓練用コンピュータに入力する予備入力工程と、
前記予備入力工程で入力された前記訓練データに基づいて前記訓練用コンピュータが前記写像を更新する予備更新工程と、を有し、
前記予備入力工程で入力された前記各訓練データを前記確率と少なくとも1つの前記内燃機関状態変数との多次元マップ上で表したときに、失火が生じていると分類される場合の前記確率の最小値と失火が生じていないと分類される場合の前記確率の最大値との間を通る多次元の関数を、失火の有無の分類境界として定め、
前記入力工程で入力される複数の前記訓練データの分布密度は
、前記確率が
前記分類境界に近いほど大きい
写像の学習方法。
【請求項2】
前記入力工程で入力される複数の前記訓練データは、前記関数に含まれる前記内燃機関状態変数の一定の範囲以上に分布している
請求項1に記載の写像の学習方法。
【請求項3】
前記入力工程で入力される複数の前記訓練データの分布密度は、前記予備入力工程で入力される複数の前記訓練データの分布密度よりも
、前記確率が
前記分類境界に近いほど大きい
請求項1または請求項2に記載の写像の学習方法。
【請求項4】
前記入力工程で入力された前記訓練データから前記写像を用いて算出された確率と前記
分類境界上での確率との差が所定値以上である場合には、当該訓練データは、前記更新工程における訓練データからは除外する
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の写像の学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、写像の学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の内燃機関の失火検出装置は、ニューラルネットワークと、ニューラルネットワークの出力を規格化するソフトマックス関数とによって構成される写像を、予め記憶している。失火検出装置は、内燃機関の状態を示すパラメータを写像に入力し、その写像の出力に基づいて、失火の有無を判定している。写像データによって規定される写像は、予め訓練データを入力することにより機械学習によって学習されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術のように機械学習された写像によって内燃機関の状態を判定するものでは、学習用の訓練データの量が多ければ多いほど、学習後の写像から出力されるデータの精度が良くなる可能性が高い。しかしながら、訓練データを無制限に大量に収集することは現実的でなく、できるだけ少量の訓練データで、写像から出力されるデータの精度を高める技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.上記課題を解決するため、本発明は、内燃機関の状態を示すパラメータである内燃機関状態変数を入力として内燃機関に失火が生じた確率を算出する写像と、算出した確率に基づいて内燃機関の失火の有無を分類する演算部とを含むコンピュータの前記写像を学習させる方法であって、前記内燃機関状態変数と、前記内燃機関状態変数に対応付けられた真の前記確率とからなる複数の訓練データを、訓練用コンピュータに入力する入力工程と、前記訓練用コンピュータが、入力された前記訓練データに基づいて前記写像を更新する更新工程と、前記入力工程の前に、複数の前記訓練データを前記訓練用コンピュータに入力する予備入力工程と、前記予備入力工程で入力された前記訓練データに基づいて前記訓練用コンピュータが前記写像を更新する予備更新工程と、を有し、前記予備入力工程で入力された前記各訓練データを前記確率と少なくとも1つの前記内燃機関状態変数との多次元マップ上で表したときに、失火が生じていると分類される場合の前記確率の最小値と失火が生じていないと分類される場合の前記確率の最大値との間を通る多次元の関数を、失火の有無の分類境界として定め、前記入力工程で入力される複数の前記訓練データの分布密度は、前記確率が前記分類境界に近いほど大きい写像の学習方法である。
【0006】
上記構成によれば、確率の大小の全領域を網羅するような大量の訓練データを用意しなくても、失火の有無の分類に対する影響の大きい訓練データを入力するので、写像から出力される分類結果が高精度になり得る。
【0007】
2.上記写像の学習方法において、前記入力工程で入力される複数の前記訓練データは、前記関数に含まれる前記内燃機関状態変数の一定の範囲以上に分布していてもよい。
【0008】
上記構成の場合、確率が同じであっても、内燃機関状態変数が変化すると、写像が出力する分類結果に誤りが生じる可能性が捨てきれない。上記構成によれば、各訓練データの内燃機関状態変数が一定の範囲以上に分布している。そのため、広い内燃機関状態変数の範囲に亘って、写像の正確性を担保できる。
【0009】
3.上記写像の学習方法において、前記入力工程で入力される複数の前記訓練データの分布密度は、前記予備入力工程で入力される複数の前記訓練データの分布密度よりも、前記分類境界に前記確率が近いほど大きくてもよい。
【0010】
上記構成によれば、入力工程の際に入力される訓練データは、予備入力工程の際に入力された訓練データに比べて、確率が分類境界に近いほど、分布密度が大きい。このように、分類結果に対する影響のより大きい訓練データを入力するので、写像から出力される分類結果を、より高精度にできる。
【0011】
4.上記写像の学習方法において、前記入力工程で入力された前記訓練データから前記写像を用いて算出された確率と前記分類境界上での確率との差が所定値以上である場合には、当該訓練データは、前記更新工程における訓練データからは除外してもよい。
【0012】
上記構成によれば、入力工程の際に入力される訓練データは、確率と分類境界との差が所定値未満のものに限られる。このように、分類結果に対する影響の大きい訓練データのみが入力されるため、写像の更新に関する処理の負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】制御装置および車両の駆動系の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、写像の学習方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
先ず、
図1に基づいて、写像が搭載される車両の駆動系および制御装置の構成を説明する。
【0017】
図1に示す車両VCに搭載された内燃機関10において、吸気通路12には、スロットルバルブ14が設けられている。吸気通路12から吸入された空気は、吸気バルブ16が開弁することによって各気筒#1~#4の燃焼室18に流入する。内燃機関10においては燃焼室18に露出するようにして、燃料を噴射する燃料噴射弁20と、火花放電を生じさせる点火装置22とが設けられている。燃焼室18において、空気と燃料との混合気は、燃焼に供され、燃焼によって生じたエネルギは、クランク軸24の回転エネルギとして取り出される。燃焼に供された混合気は、排気バルブ26の開弁に伴って、排気として、排気通路28に排出される。排気通路28には、酸素吸蔵能力を有した三元触媒30が設けられている。排気通路28は、EGR通路32を介して吸気通路12に連通されている。EGR通路32には、その流路断面積を調整するEGRバルブ34が設けられている。
【0018】
クランク軸24の回転動力は、吸気側バルブタイミング可変装置40を介して吸気側カム軸42に伝達される一方、排気側バルブタイミング可変装置44を介して排気側カム軸46に伝達される。吸気側バルブタイミング可変装置40は、吸気側カム軸42とクランク軸24との相対的な回転位相差を変更する。排気側バルブタイミング可変装置44は、排気側カム軸46とクランク軸24との相対的な回転位相差を変更する。
【0019】
内燃機関10のクランク軸24には、トルクコンバータ60を介して変速装置64の入力軸66が連結可能となっている。トルクコンバータ60は、ロックアップクラッチ62を備えており、ロックアップクラッチ62が締結状態となることにより、クランク軸24と入力軸66とが連結される。変速装置64の出力軸68には、駆動輪69が機械的に連結されている。なお、本実施形態では、変速装置64は、1速から5速までの変速比を変更可能な有段変速装置である。
【0020】
クランク軸24には、クランク軸24の複数個(ここでは、34個)の回転角度のそれぞれを示す歯部52が設けられたクランクロータ50が結合されている。クランクロータ50には、基本的には、10°CA間隔で歯部52が設けられているものの、隣接する歯部52間の間隔が30°CAとなる箇所である欠け歯部54が1箇所設けられている。これは、クランク軸24の基準となる回転角度を示すためのものである。
【0021】
コンピュータである制御装置70は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量であるトルクや排気成分比率等を制御するために、スロットルバルブ14や、燃料噴射弁20、点火装置22、EGRバルブ34、吸気側バルブタイミング可変装置40、排気側バルブタイミング可変装置44を操作する。なお、
図1には、スロットルバルブ14、燃料噴射弁20、点火装置22、EGRバルブ34、吸気側バルブタイミング可変装置40、排気側バルブタイミング可変装置44のそれぞれの操作信号MS1~MS6を記載している。
【0022】
制御装置70は、制御量の制御に際し、上記歯部52間の角度間隔(欠け歯部54を除き10°CA)毎のパルスを出力するクランク角センサ80の出力信号Scrや、エアフローメータ82によって検出される吸入空気量Gaを参照する。また制御装置70は、水温センサ84によって検出される内燃機関10の冷却水の温度(水温THW)や、シフト位置センサ86によって検出される変速装置64のシフト位置Sft、加速度センサ88によって検出される車両VCの上下方向の加速度Daccを参照する。
【0023】
制御装置70は、CPU72、ROM74、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ(記憶装置76)、および周辺回路77を備え、それらがローカルネットワーク78によって通信可能とされたものである。なお、周辺回路77は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。
【0024】
制御装置70は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72が実行することによって、上記制御量の制御を実行する。また、制御装置70は、内燃機関10の状態を示す各種パラメータを入力として、内燃機関に失火が生じた確率を、写像を用いて算出する。そして、制御装置70のCPU72は、算出した確率に基づいて内燃機関10の失火の有無を分類する。
【0025】
図2に、失火検出処理の手順を示す。
図2に示す処理は、
図1に示すROM74に記憶された失火検出プログラム74aをCPU72がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0026】
図2に示す一連の処理において、CPU72は、まず、微小回転時間T30(1),T30(2),…T30(24)を取得する(S10)。微小回転時間T30は、CPU72により、クランク角センサ80の出力信号Scrに基づき、クランク軸24が30°CA回転するのに要する時間を計時することによって算出される。ここで、微小回転時間T30(1),T30(2)等、カッコの中の数字が異なる場合、1燃焼サイクルである720°CA内の異なる回転角度間隔であることを示す。すなわち、微小回転時間T30(1)~T30(24)は、720°CAの回転角度領域を30°CAで等分割した各角度間隔における回転時間を示す。
【0027】
詳しくは、CPU72は、出力信号Scrに基づき30°CAだけ回転した時間を計時し、これをフィルタ処理前時間NF30とする。次にCPU72は、フィルタ処理前時間NF30を入力とするデジタルフィルタ処理を施すことによって、フィルタ処理後時間AF30を算出する。そしてCPU72は、所定期間(たとえば720°CA)におけるフィルタ処理後時間AF30の極大値と極小値との差が「1」となるようフィルタ処理後時間AF30を正規化することによって、微小回転時間T30を算出する。
【0028】
次にCPU72は、回転速度NEおよび充填効率ηを取得する(S12)。回転速度NEは、CPU72によりクランク角センサ80の出力信号Scrに基づき算出され、充填効率ηは、CPU72により回転速度NEおよび吸入空気量Gaに基づき算出される。なお、回転速度NEは、圧縮上死点の出現間隔(本実施形態では180°CA)よりも大きい角度間隔だけクランク軸24が回転する際の回転速度の平均値である。なお、回転速度NEは、クランク軸24の1回転以上の回転角度だけクランク軸24が回転する際の回転速度の平均値とすることが望ましい。なお、ここでの平均値は、単純平均に限らず、たとえば、指数移動平均処理でもよく、1回転以上の回転角度だけクランク軸24が回転する際のたとえば微小回転時間T30等の複数のサンプリング値によって算出されるものとする。また、充填効率ηは、燃焼室18内に充填される空気量を定めるパラメータである。
【0029】
次にCPU72は、失火が生じた確率を算出するための写像の入力変数x(1)~x(26)に、S10,S12の処理によって取得した値を代入する(S14)。詳しくは、CPU72は、「s=1~24」として、入力変数x(s)に微小回転時間T30(s)を代入する。すなわち、入力変数x(1)~x(24)は、微小回転時間T30の時系列データとなる。また、CPU72は、入力変数x(25)に回転速度NEを代入し、入力変数x(26)に充填効率ηを代入する。
【0030】
次にCPU72は、
図1に示す記憶装置76に記憶された写像データ76aによって規定される写像に入力変数x(1)~x(26)を入力することによって、気筒#i(i=1~4)において失火が生じた確率P(i)を算出する(S16)。写像データ76aは、S10の処理によって取得された微小回転時間T30(1)~T30(24)に対応する期間において気筒#iで失火が生じた確率P(i)を出力可能な写像を規定するデータである。ここで、確率P(i)は、入力変数x(1)~x(26)に基づき、実際に失火が生じたことのもっともらしさの大小を定量化したものである。ただし、本実施形態においては、気筒#iにおいて失火が生じた確率P(i)の最大値は、「1」よりも小さく、最小値は「0」よりも大きい値となる。すなわち、本実施形態において、確率P(i)は、実際に失火が生じたことのもっともらしさの大小を「0」よりも大きく「1」よりも小さい所定領域内で連続的な値として定量化したものである。
【0031】
本実施形態において、この写像は、中間層が1層のニューラルネットワークと、ニューラルネットワークの出力を規格化することによって、失火が生じた確率P(1)~P(4)の和を「1」とするためのソフトマックス関数とによって構成されている。上記ニューラルネットワークは、入力側係数wFjk(j=0~n,k=0~26)と、入力側係数wFjkによって規定される線形写像である入力側線形写像の出力のそれぞれを非線形変換する入力側非線形写像としての活性化関数h(x)を含む。本実施形態では、活性化関数h(x)として、ハイパボリックタンジェント「tanh(x)」を例示する。また、上記ニューラルネットワークは、出力側係数wSij(i=1~4,j=0~n)と、出力側係数wSijによって規定される線形写像である出力側線形写像の出力のそれぞれを非線形変換する出力側非線形写像としての活性化関数f(x)を含む。本実施形態では、活性化関数f(x)として、ハイパボリックタンジェント「tanh(x)」を例示する。なお、値nは、中間層の次元を示すものである。本実施形態において、値nは、入力変数xの次元(ここでは、26次元)よりも小さい。また、入力側係数wFj0は、バイアスパラメータであり、入力変数x(0)を「1」と定義することによって、入力変数x(0)の係数となっている。また、出力側係数wSi0は、バイアスパラメータであり、これには「1」が乗算されるものとする。これはたとえば、「wF00・x(0)+wF01・x(1)+…」を恒等的に無限大と定義することによって実現できる。
【0032】
詳しくは、CPU72は、入力側係数wFjk、出力側係数wSijおよび活性化関数h(x),f(x)によって規定されるニューラルネットワークの出力である確率原型y(i)を算出する。確率原型y(i)は、気筒#iにおいて失火が生じた確率と正の相関を有するパラメータである。そして、CPU72は、確率原型y(1)~y(4)を入力とするソフトマックス関数の出力によって、気筒#iにおいて失火が生じた確率P(i)を算出する。
【0033】
次にCPU72は、失火が生じた確率P(1)~P(4)のうちの最大値P(m)が閾値Pth以上であるか否かを判定する(S18)。ここで、変数mは、1~4のいずれかの値をとり、また、閾値Pthは、「1/2」以上の値に設定されている。そして、CPU72は、閾値Pth以上であると判定する場合(S18:YES)、確率が最大となった気筒#mの失火の回数N(m)をインクリメントする(S20)。そしてCPU72は、回数N(1)~N(4)の中に、所定回数Nth以上となるものがあるか否かを判定する(S22)。本実施形態では、S22の処理が分類処理である。そしてCPU72は、所定回数Nth以上となるものが存在すると判定する場合(S22:YES)、特定の気筒#q(qは、1~4のうちの1つ)で許容範囲を超える頻度の失火が生じているとして、フェールフラグFに「1」を代入する(S24)。なお、この際、CPU72は、失火が生じた気筒#qの情報を記憶装置76に記憶するなどして少なくとも当該気筒#qで失火が解消するまで保持することとする。
【0034】
これに対し、CPU72は、最大値P(m)が閾値Pth未満であると判定する場合(S18:NO)、S24の処理または後述するS28の処理がなされてから所定期間が経過したか否かを判定する(S26)。ここで所定期間は、1燃焼サイクルの期間よりも長く、望ましくは、1燃焼サイクルの10倍以上の長さを有することが望ましい。
【0035】
CPU72は、所定期間が経過したと判定する場合(S26:YES)、回数N(1)~N(4)を初期化するとともに、フェールフラグFを初期化する(S28)。
なお、CPU72は、S24,S28の処理が完了する場合や、S22,S26の処理において否定判定する場合には、
図2に示す一連の処理を一旦終了する。
【0036】
図3に、失火が生じた場合にこれに対処する操作処理の手順を示す。
図3に示す処理は、フェールフラグFが「0」から「1」に切り替わることをトリガとして
図1に示すROM74に記憶された対処プログラム74bをCPU72が実行することにより実現される。
【0037】
図3に示す一連の処理において、CPU72は、まず吸気バルブ16の開弁タイミングDINを進角側とすべく、吸気側バルブタイミング可変装置40に操作信号MS6を出力して吸気側バルブタイミング可変装置40を操作する(S32)。具体的には、たとえばフェールフラグFが「0」である通常時において開弁タイミングDINを内燃機関10の動作点に応じて可変設定し、S32の処理においては、通常時における開弁タイミングDINに対して実際の開弁タイミングDINを進角させる。S32の処理は、圧縮比を高めることによって燃焼を安定させることを狙ったものである。
【0038】
次にCPU72は、S32の処理を上記所定期間以上の時間継続した後、フェールフラグFが「1」であるか否かを判定する(S34)。この処理は、S32の処理によって失火が生じる事態が解消されたか否かを判定するものである。CPU72は、フェールフラグFが「1」であると判定する場合(S34:YES)、失火が生じている気筒#qについて、点火装置22に操作信号MS3を出力して点火装置22を操作し、点火時期aigを所定量Δだけ進角させる(S36)。この処理は、失火が生じる事態を解消することを狙ったものである。
【0039】
次にCPU72は、S36の処理を上記所定期間以上の時間継続した後、フェールフラグFが「1」であるか否かを判定する(S38)。この処理は、S36の処理によって失火が生じる事態が解消されたか否かを判定するものである。CPU72は、フェールフラグFが「1」であると判定する場合(S38:YES)、失火が生じている気筒#qについて、燃料噴射弁20に操作信号MS2を出力して燃料噴射弁20を操作し、燃料噴射弁20により1燃焼サイクルにおいて要求される燃料量である要求噴射量Qdを所定量だけ増量する(S40)。この処理は、失火が生じる事態を解消することを狙ったものである。
【0040】
次にCPU72は、S40の処理を上記所定期間以上の時間継続した後、フェールフラグFが「1」であるか否かを判定する(S42)。この処理は、S40の処理によって失火が生じる事態が解消されたか否かを判定するものである。CPU72は、フェールフラグFが「1」であると判定する場合(S42:YES)、失火が生じている気筒#qについて、燃料噴射を停止し、スロットルバルブ14の開口度θを小さい側に制限しつつスロットルバルブ14を操作すべく、スロットルバルブ14に出力する操作信号MS1を調整する(S44)。そしてCPU72は、
図1に示す警告灯90を操作することによって、失火が生じた旨、報知する報知処理を実行する(S46)。
【0041】
なお、CPU72は、S34,S38,S42の処理において否定判定する場合、すなわち失火が生じる事態が解消する場合や、S46の処理が完了する場合には、
図3に示す一連の処理を一旦終了する。なお、S44の処理において肯定判定される場合、S44の処理は、フェールセーフ処理として継続される。
【0042】
次に、写像の学習方法、すなわち写像に含まれる写像データ76aの学習方法について説明する。
図4に、写像データ76aによって規定される写像を学習するシステムを示す。
【0043】
図4に示すように、本実施形態では、内燃機関10のクランク軸24に、トルクコンバータ60および変速装置64を介してダイナモメータ100を機械的に連結する。そして内燃機関10を稼働させた際の様々な状態変数がセンサ群102によって検出され、検出結果が、写像データ76aを生成する訓練用コンピュータである適合装置104に入力される。なお、センサ群102には、写像への入力を生成するための値を検出するセンサであるクランク角センサ80やエアフローメータ82が含まれる。また、ここでは、失火が生じているか否かを確実に把握するために、たとえば筒内圧センサ等をセンサ群102に含める。
【0044】
図5に、写像の学習方法の工程を示す。
図5に示す各工程の処理は、適合装置104によって実行される。なお、
図5に示す各工程の処理は、たとえば、適合装置104にCPUおよびROMを備え、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することにより実現すればよい。
【0045】
図5に示す一連の工程において、適合装置104は、まず、センサ群102の検出結果に基づき定まる訓練データとして、微小回転時間T30(1)~T30(24)、回転速度NE、充填効率η、および失火の真の確率Pt(i)の組を複数取得する(S50)。ここで、真の確率Pt(i)は、失火が生じた場合に「1」となり、生じていない場合に「0」となるものであり、センサ群102のうちの、入力変数x(1)~x(26)を定めるパラメータ以外のパラメータを検出値とする筒内圧センサの検出値等に基づき、算出されるものである。もっとも、訓練データを生成するにあたっては、たとえば所定の気筒において意図的に燃料噴射を停止し、失火が生じたときと類似した現象を生成してもよい。その場合であっても、燃料噴射している気筒において失火が生じているか否かを検知するうえで、筒内圧センサ等が用いられる。すなわち、S50の工程は予備入力工程であり、適合装置104に、訓練データを入力している。
【0046】
次に適合装置104は、S14の処理の要領で、失火の確率を算出するための写像の入力変数x(1)~x(26)に、訓練データのうちの真の確率Pt(i)以外のデータを代入する(S52)。次に適合装置104は、S16の処理の要領で、気筒#1~#4のそれぞれにおいて失火が生じた確率P(1)~P(4)を算出する(S54)。そして適合装置104は、センサ群102によって検出された全ての訓練データについて、S50~S54の工程を実行したか否かを判定する(S56)。そして適合装置104は、未だS50~S54の工程の対象となっていない訓練データがあると判定する場合(S56:NO)、S50の工程に移行することにより、対象となっていない訓練データを対象として、S50~S54の工程を実行する。
【0047】
これに対し適合装置104は、センサ群102によって検出された全ての訓練データについて、S50~S54の工程を実行したと判定する場合(S56:YES)、S54の工程によって算出された確率P(i)と真の確率Pt(i)との公差エントロピーを最小とするように、入力側係数wFjkおよび出力側係数wSijを更新する(S58)。本実施形態において、S58の工程は予備更新工程である。そして、適合装置104は、更新した入力側係数wFjkおよび出力側係数wSij等を学習済みの写像データとして記憶する(S60)。
【0048】
図5に示すように、適合装置104は、次に、S50において取得した訓練データとは別の訓練データを複数取得する(S62)。S62の工程において取得する訓練データは、S50において取得した訓練データと比べて、S60の工程において記憶された写像データが規定する写像が算出する確率P(i)が閾値Pthに近くなるような訓練データを含むものである。本実施形態において、S62の工程は、入力工程である。
【0049】
次に適合装置104は、S52の工程と同様に、S14の処理の要領で、失火の確率を算出するための写像の入力変数x(1)~x(26)に、訓練データのうちの真の確率Pt(i)以外のデータを代入する(S64)。次に適合装置104は、S54の工程と同様に、S16の処理の要領で、気筒#1~#4のそれぞれにおいて失火が生じた確率P(1)~P(4)を算出する(S66)。そして、適合装置104はS62によって入力した全ての訓練データについて、S64およびS66の工程を実行する。次に、適合装置104は、S58の工程と同様に、S66の工程によって算出された確率P(i)と真の確率Pt(i)との交差エントロピーを最小とするように、入力側係数wFjkおよび出力側係数wSijを更新する(S68)。本実施形態において、S68の工程は、更新工程である。そして、適合装置104は、更新した入力側係数wFjkおよび出力側係数wSij等を学習済の写像データとして記憶する(S70)。
【0050】
なお、S70の工程が完了すると、S70の工程によって記憶された入力側係数wFjkおよび出力側係数wSij等によって規定される写像を用いて算出される確率P(i)の精度が検証される。そして、精度が許容範囲から外れる場合、訓練データを新たに取得し、S62~S70の工程を繰り返す。そして、精度が許容範囲に入ることで、入力側係数wFjkおよび出力側係数wSij等を、制御装置70に実装する写像データ76aとする。
【0051】
次に、S50およびS62で取得する訓練データについて説明する。
図6に示すように、S50の予備入力工程で、訓練データとして入力された各内燃機関状態変数は、失火が生じる確率P(i)の大小によって、失火が生じる場合と失火が生じない場合とに分類できる。そして、失火が生じる確率P(i)と単位時間あたりの回転速度NEの変化量である回転変動量ΔNEとの間には、強い相関がある。具体的には、回転変動量ΔNEが大きくなれば失火が生じる確率P(i)は大きくなり、反対に、回転変動量ΔNEが小さくなれば失火が生じる確率P(i)は小さくなる。
【0052】
ここで、たとえば、予備入力工程で入力された各訓練データにおいて、失火が生じる場合の回転変動量ΔNEの最小値と、と失火が生じない場合の回転変動量ΔNEの最大値との平均の回転変動量ΔNEは、内燃機関10において失火が生じるか否かの境界に近いと考えられる。そこで、本実施形態では、回転変動量ΔNEと訓練データの真の確率Pt(i)以外の変数である回転速度NEとの二次元マップ上で、失火が生じる場合と失火が生じない場合との領域の分類境界CBを、上記平均の回転変動量ΔNEを通る二次元の関数として暫定的に定めている。
【0053】
そして、本実施形態においては、予備入力工程の後、内燃機関10を、予め定められた回転速度NEの範囲以上、たとえば「0」から通常の使用が想定される数千rpmの範囲で駆動させて、訓練データを取得する。そして、新たに取得した訓練データを、訓練データを取得したときの回転変動量ΔNEおよび回転速度NEに基づいて、上記二次元マップに当てはめる。これら複数の訓練データのうち、上記二次元マップ上において分類境界CBに近い訓練データを優先的に、S62の入力工程での訓練データとして採用する。その結果、
図7に示すように、S62の入力工程で入力された訓練データの分布密度は、その回転変動量ΔNEが分類境界CBに近いほど大きい。
【0054】
また、S62の入力工程で入力された訓練データは、分類境界CBに近いものが優先して採用されているものの、回転速度NEの大小によっては優先付けてはいない。したがって、S62の入力工程によって入力される訓練データは、上記二次元マップ上において、回転速度NEが「0」から数千rpmの間で広範に分布している。
【0055】
ここで、上記実施形態における作用および効果について説明する。
(1)内燃機関10の失火の有無を分類するための写像を更新するにあたっては、訓練データの数のみならず、失火が生じているか否かの境界近傍の訓練データの存在が、分類結果の精度に大きく影響することが新たに判明した。上記実施形態によれば、S62の工程で入力される訓練データの分布密度は、分類境界CBに回転変動量ΔNEが近いほど大きくなっている。分類境界CB付近において、訓練データの分布密度が比較的に大きいことで、正解の分類結果を出力できるように、写像データが更新される。よって、回転変動量ΔNEの全ての領域を網羅するような大量の訓練データを用意しなくても、分類結果に対する影響の大きい訓練データを入力するので、写像の出力によって得られる分類結果が高精度になり得る。
【0056】
(2)上記実施形態では、分類境界CBは、確率P(i)および回転速度NEの二次元マップ上に関数として定められている。この場合、確率P(i)が同じであっても、回転速度NEが変化すると、写像が出力する分類結果に誤りが生じる可能性が捨てきれない。上記実施形態によれば、各訓練データの回転速度NEが一定の範囲以上に分布している。そのため、広い回転速度NEの範囲に亘って、写像の正確性を担保できる。
【0057】
(3)上記実施形態によれば、S62の工程によって入力する訓練データは、S50の工程において用意した訓練データに比べて、回転変動量ΔNEが分類境界CBに近いほど、分布密度が大きくなっている。そのため、分類結果に対する影響のより大きい訓練データを入力するので、制御装置70が算出する分類結果が高精度になりやすい。
【0058】
(4)上記実施形態によれば、入力工程の前に、予備入力工程および予備更新工程を行っている。そのため、
図6に示すように、予備入力工程において入力された訓練データに基づいて、分類境界CBが推定できる。そのため、入力工程において取得する訓練データを選択する際に、分類結果を高精度にするための訓練データの範囲を選択できる。
【0059】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号ごとに、対応関係を示している。[1]写像と演算部とを含むコンピュータは、制御装置70に対応する。演算部は、CPU72に対応する。訓練データを入力され更新工程を行う訓練用コンピュータは、適合装置104に対応する。内燃機関状態変数は、微小回転時間T30(1)~T30(24)、回転速度NEおよび充填効率ηに対応する。正解の分類結果は、真の確率Pt(i)に対応する。入力工程は、S64の処理に対応する。更新工程は、S68の処理に対応する。境界は、分類境界CBに対応する。分類する内燃機関の状態は、内燃機関の失火の有無に対応する。[2]少なくとも1つの内燃機関状態変数は、回転速度NEに対応する。[3、4]入力工程は、S62の工程に、更新工程は、S68の工程に対応する。予備入力工程は、S50の処理に、予備更新工程は、S58の処理に対応する。[5]第1の間隔は、720°CAに対応し、第2の間隔は、30°CAに対応し、瞬時速度パラメータは、微小回転時間T30に対応する。取得処理は、S10の処理に対応する。
【0060】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0061】
・「分類境界CBについて」
上記実施形態では、分類境界CBは、回転変動量ΔNEに対する回転速度NEの二次元上の境界線として示したが、これに限られない。たとえば、回転変動量ΔNE、回転速度NEおよび充填効率ηの三次元での境界面として示されてもよいし、さらに高次元の境界面として示されてもよい。このような場合、たとえば、分類境界CBは、内燃機関10が失火しているデータの分布する空間を定義する境界面となる。
【0062】
・「回転変動量ΔNEについて」
上記実施形態では、失火が生じているか否かの確率に相関するパラメータとして回転変動量ΔNEを例示したが、失火のしやすさと相関のあるパラメータであれば構わない。
【0063】
・「予備入力工程および予備更新工程について」
入力工程において入力する訓練データの分布密度と予備入力工程において入力する訓練データの分布密度との関係は、上記実施形態の例に限られない。例えば、入力工程と予備入力工程とで、訓練データの分布密度に大きな差がなくてもよい。この場合でも、全体として訓練データの数は増えるので、写像の出力結果の精度の向上は期待できる。
【0064】
また、上記実施形態では、入力工程の前に、予備入力工程および予備更新工程を行ったが、これらの工程は省いてもよい。たとえば、技術者の知見等によって、分類境界CBが予備更新工程をしなくても予測できる場合には、複数の訓練データの中から、入力工程において入力するべき訓練データを選択してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、入力工程で適合装置104に入力される訓練データのうちの一部を、当該適合装置104で選別して写像の更新に関する訓練データから除外してもよい。たとえば、入力工程で入力された訓練データを取得したときの回転変動量ΔNEと、予備入力工程の後に求めることのできる分類境界CBとの差が所定値以上である場合に、その訓練データを更新工程における訓練データから除外してもよい。このように、適合装置104で、更新工程における訓練データの選別を行えば、技術者が自ら訓練データの選別を手間は省ける。
【0066】
・「第1の間隔および第2の間隔について」
上記実施形態では、1燃焼サイクルである720°CAの回転角度間隔内における連続する複数の第2の間隔のそれぞれにおける瞬時速度パラメータとしての微小回転時間T30を失火の有無の判定のための写像の入力パラメータとした。すなわち、第1の間隔が720°CAであり、第2の間隔が30°CAである例を示したが、これに限らない。たとえば、第1の間隔が720°CAよりも長い回転角度間隔であってもよい。もっとも、第1の間隔が720°CA以上であることも必須ではない。たとえば「複数種類の写像データについて」の欄に記載したように、特定の気筒において失火が生じた確率や発生トルクに関するデータを出力する写像などの入力については、上記第1の間隔を480°CAとするなど、720°CA以下の間隔としてもよい。この際、圧縮上死点の出現間隔よりも長い回転角度間隔とすることが望ましい。なお、上記第1の間隔には、失火が生じた確率が求められる対象となる気筒の圧縮上死点が含まれることとする。
【0067】
第2の間隔としては、30°CAに限らない。たとえば10°CA等、30°CAよりも小さい角度間隔であってもよい。もっとも30°CA以下の角度間隔に限らず、たとえば45°CA等であってもよい。
【0068】
・「瞬時速度パラメータについて」
瞬時速度パラメータとしては、第2の間隔の回転に要する時間である微小回転時間に限らない。たとえば、第2の間隔を微小回転時間で割った値であってもよい。なお、瞬時速度パラメータとしては、極大値と極小値との差を固定値とする正規化処理がなされたものであることは必須ではない。また、写像の入力とするための前処理としてのフィルタ処理としては、上述したものに限らず、たとえば変速装置64の入力軸66の微小回転時間に基づき、入力軸66によってクランク軸24が回されている影響分を除く処理がなされたものとしてもよい。もっとも、写像の入力としての瞬時速度パラメータにフィルタ処理が施されていることは必須ではない。
【0069】
・「内燃機関の動作点を規定するパラメータについて」
上記実施形態では、回転速度NEおよび充填効率ηによって動作点を規定したが、これに限らない。たとえば、回転速度NEおよび吸入空気量Gaであってもよい。またたとえば、負荷として、充填効率ηに代えて、噴射量や内燃機関に対する要求トルクを用いてもよい。負荷として噴射量や要求トルクを用いることは、下記「内燃機関について」の欄に記載した圧縮着火式内燃機関において特に有効である。
【0070】
・「写像の入力について」
瞬時速度パラメータに加えて入力する写像の入力としては、上記実施形態や上記変更例において例示したものに限らない。たとえば、内燃機関10の置かれた環境に関するパラメータを用いてもよい。具体的には、たとえば吸入空気中の酸素の割合に影響を与えるパラメータである大気圧を用いてもよい。またたとえば、燃焼室18内における混合気の燃焼速度に影響を与えるパラメータである吸気温を用いてもよい。またたとえば、燃焼室18内における混合気の燃焼速度に影響を与えるパラメータである湿度を用いてもよい。なお、湿度の把握には、湿度センサを用いてもよいが、ワイパーの状態や、雨滴を検知するセンサの検出値を利用してもよい。また、クランク軸24に機械的に連結される補機の状態に関するデータであってもよい。
【0071】
写像の入力に内燃機関10の動作点を含めることは必須ではない。たとえば下記「内燃機関について」の欄に記載したように内燃機関がシリーズハイブリッド車に搭載され、その動作点が狭い範囲に制限された制御が前提とされる場合等にあっては、動作点を含めなくてもよい。
【0072】
また、動作点を規定する回転速度NEおよび負荷、または回転速度NEおよび吸入空気量の2つのパラメータのうちのいずれか1つのパラメータのみを瞬時速度パラメータに加えて入力する写像の入力としてもよい。
【0073】
・「分類する内燃機関の状態について」
上記実施形態では、内燃機関の失火の有無について分類したが、分類する状態は、失火の有無に限られない。例えば、内燃機関の異常の有無であってもよいし、内燃機関の特定の部品の故障の有無であってもよい。少なくとも、分類問題を写像の出力によって算出する際には、上記写像の学習方法を適用できる。
【0074】
また、上記実施形態のように、内燃機関の失火の有無は、確率P(i)に相関のある回転変動量ΔNEにおける分類境界CBを、技術者の知見によって予測できる場合がある。このような場合には、予測できる付近の訓練データの分布密度を高くしやすいため、内燃機関の失火の有無を分類する際には、上記写像の学習方法を適用しやすい。
【0075】
・「写像について」
失火の確率を出力とする写像を構成するニューラルネットワークとしては、中間層が1層のニューラルネットワークに限らない。たとえば、中間層が2層以上のニューラルネットワークであってもよい。
【0076】
活性化関数h(x)としては、ハイパボリックタンジェントを用いるものに限らない。たとえばロジスティックジグモイド関数であってもよい。
図2の処理における活性化関数f(x)としては、ハイパボリックタンジェントを用いるものに限らない。たとえばロジスティックジグモイド関数であってもよい。この場合、ソフトマックス関数を用いることなく、活性化関数f(x)の出力を確率Pとしてもよい。この場合、気筒#1~#4のそれぞれで失火が生じた確率P(1)~P(4)が、互いに独立に「0」~「1」の値をとることとなる。
【0077】
発生トルクや失火の確率を出力する写像としては、ニューラルネットワークを用いるものに限らない。たとえば、微小回転時間T30等、写像の入力とするために取得したデータの次元を主成分分析によって低減させたパラメータを規定する係数を、上記入力側係数wFijに代えてもよい。これを具体化する手法の一例を上記第1の実施形態の変更例について説明すると、主成分は、たとえば次のニューラルネットワークを利用して求めればよい。すなわち、24個の微小回転時間T30、回転速度NE、および充填効率ηからなる26次元のパラメータを入力としn(<26)次元のパラメータを出力する線形写像である圧縮写像と、その線形写像の出力を入力とし26次元のパラメータを出力する線形写像である出力写像とからなる自己連想写像である。このニューラルネットワークの出力と入力との誤差を最小とするように圧縮写像の成分を学習する場合、この圧縮写像は、入力パラメータを主成分分析の最初のn個の主成分によって張られるn次元空間へ移す。そのため、圧縮写像の係数を、上記入力側係数wFjk(ただし、k≧1)に代えて用いることで、上記第1の実施形態における入力パラメータの線形結合に代用することができる。この場合、n個の主成分のそれぞれを活性化関数h(x)の入力とし、それらの出力を出力側係数wSijによって線形結合したものを入力とする活性化関数f(x)の出力を発生トルクや確率原型y(i)とする回帰式を利用した失火の有無の判定を行うことができる。
【0078】
もっとも、その場合、バイアスパラメータを構成する入力側係数wFj0が含まれないが、バイアスパラメータを加えてもよい。その場合、バイパスパラメータを構成する入力側係数wFj0については、上記第1の実施形態と同様の手法にて学習することが望ましい。
【0079】
またたとえば、ニューラルネットワークの入力として上記各物理量を用いる代わりに、それら物理量による主成分のいくつかを入力としてもよい。その場合、主成分は、微小回転時間T30(1)~T30(24)の線形結合を含むことから、微小回転時間T30(1)~T30(24)を入力とする線形写像の出力がニューラルネットワークに入力されるものとみなせる。
【0080】
さらに、写像としては、S10,S12等の処理によって取得された変数の線形結合を入力とするものに限らない。これはたとえばサポートベクトルマシンによって実現できる。すなわちたとえば、独立変数が多次元となる適宜の基底関数φi(i=1,2,3,…)とサポートベクトルに基づき定まる係数w1,w2,…とを用いた「w1・φ1(T30(1),T30(2),…)+w2・φ2(T30(1),T30(2),…)+…」であってもよい。すなわち、係数w1,w2,…を、失火が生じたか生じていないかによって上記の式の出力の符号が逆となるように学習すればよい。ここで、上記の基底関数φ1,φ2,…の中に入力パラメータの線形結合を入力とする関数とならないものを用いるなら、これは、入力パラメータの線形結合を入力としない例となる。なお、上記の式は、たとえば出力値の符号が正の場合に、失火が生じた確率が「0」、出力値の符号がゼロ以下の場合に失火が生じた確率が「1」となるように規定することができ、これにより確率を出力する写像となる。
【0081】
・「写像の出力について」
たとえば、ニューラルネットワークを含んで構成される写像において、確率Pが連続的な値をとりうることは必須ではない。すなわち、たとえば実際に失火が生じたことのもっともらしさの大小に応じた3値の値を出力するものであるなど、3値以上の値を離散的または連続的に出力するものであればよい。もっともこれにも限らず、2値の値を出力するものであってもよい。
【0082】
・「分類処理について」
分類処理としては、失火が生じた確率を出力する写像の出力を直接用いるものに限らない。たとえば、
図2の処理における写像の入力から回転速度NEを削除し、代わりに、出力としての失火の確率を回転速度NEによって補正してもよい。具体的には、たとえば、特定の回転速度NEにおける訓練データを用いて写像データを生成し、実際の回転速度NEが特定の回転速度NEからずれる場合に、写像が出力する失火の確率を上昇させるなどすればよい。これは、訓練データが前提とした回転速度NEからずれることにより確率の精度が低くなることに鑑みたマージンを設定する一手法である。
【0083】
なお、こうした手法は、回転速度NEを用いた補正に限らない。たとえば「写像の入力としての混合気の燃焼速度を調整する調整変数について」の欄に記載した調整変数を瞬時速度パラメータに加えて入力する写像の入力とする代わりに、写像が出力する確率を補正する補正量を算出するパラメータとしてもよい。またたとえば「写像の入力としての駆動系装置の状態変数について」の欄に記載した駆動系装置の状態変数を瞬時速度パラメータに加えて入力する写像の入力とする代わりに、写像が出力する確率を補正する補正量を算出するパラメータとしてもよい。またたとえば「写像の入力としての路面の状態変数について」の欄に記載した路面の状態変数を瞬時速度パラメータに加えて入力する写像の入力とする代わりに、写像が出力する確率を補正する補正量を算出するパラメータとしてもよい。またたとえば「写像の入力について」の欄や「内燃機関の動作点を規定するパラメータについて」の欄に例示したパラメータを瞬時速度パラメータに加えて入力する写像の入力とする代わりに、写像が出力する確率を補正する補正量を算出するパラメータとしてもよい。
【0084】
・「報知処理について」
上記実施形態では、フェールフラグFが「1」となってからS32,S36,S40の処理を行っても失火が解消しない場合に、報知処理として警告灯90を操作する処理を実行したがこれに限らない。たとえば、フェールフラグFが「1」となる場合に直ちに報知処理を実行してもよい。
【0085】
上記実施形態では、警告灯90を操作することによって、視覚情報を通じて失火が生じた旨を報知したが、これに限らない。たとえば、スピーカを操作することによって、聴覚情報を通じて失火が生じた旨を報知してもよい。
【0086】
・「操作処理について」
上記実施形態では、フェールフラグFが「1」となってからS32の処理を実行しても失火が解消しない場合にS36の処理を実行し,S36の処理を実行しても失火が解消しない場合にS40の処理を実行したが、このようにS32,S36,S40の処理の順に順次失火を解消するための処理を実行するものに限らない。たとえば、S36,S40,S32の処理の順に実行してもよく、またたとえば、S40,S36,S32の処理の順に実行してもよく、またたとえば、S40,S32,S36の順に実行してもよい。
【0087】
フェールフラグFが「1」となる場合に実行されるフェールセーフ処理としては、S32,S36,S40,S44の処理を実行するものに限らない。たとえば、S32,S36,S40,S44の処理の4つの処理については、それらのうちの3つのみを実行してもよく、2つのみを実行してもよく、1つのみを実行してもよい。
【0088】
またたとえば下記「内燃機関について」の欄に記載したように内燃機関として圧縮着火式内燃機関を用いる場合、点火時期を進角させる処理(S36の処理)に代えて、噴射時期を進角させる処理を実行してもよい。
【0089】
・「訓練データの生成について」
上記実施形態では、クランク軸24にトルクコンバータ60および変速装置64を介してダイナモメータ100が接続された状態で内燃機関10を稼働した時のデータを訓練データとして用いたが、これに限らない。たとえば車両VCに搭載された状態で内燃機関10が駆動されたときにおけるデータを訓練データとして用いてもよい。
【0090】
また、入力工程で入力される訓練データは、予備入力工程で入力された訓練データから推定されるデータであってもよい。たとえば、予備入力工程で想定し得る失火のしやすい状況での訓練データを取得した場合には、入力工程では、さらに回転変動量ΔNEが大きい訓練データを取得することは難しい場合があり得る。この場合、予備入力工程で取得した訓練データから所定量だけ回転変動量ΔNEが大きい訓練データを生成してもよい。
【0091】
・「コンピュータについて」
コンピュータとしては、CPU72(122)とROM74(124)とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、コンピュータは、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、訓練用コンピュータである適合装置104は、コンピュータである制御装置70とは別の装置としたが、適合装置104が制御装置70の一部であってもよい。すなわち、適合装置104が車両VCに搭載されていてもよい。
【0093】
・「記憶装置について」
上記実施形態では、写像データ76aが記憶される記憶装置を、失火検出プログラム74aが記憶されるROM74とを別の記憶装置としたが、これに限らない。
【0094】
・「内燃機関について」
上記実施形態では、燃料噴射弁として、燃焼室18内に燃料を噴射する筒内噴射弁を例示したがこれに限らない。たとえば吸気通路12に燃料を噴射するポート噴射弁であってもよい。またたとえば、ポート噴射弁と筒内噴射弁との双方を備えてもよい。
【0095】
内燃機関としては、火花点火式内燃機関に限らず、たとえば燃料として軽油などを用いる圧縮着火式内燃機関等であってもよい。
内燃機関が駆動系を構成すること自体必須ではない。たとえば、車載発電機にクランク軸が機械的に連結され、駆動輪69とは動力伝達が遮断されたいわゆるシリーズハイブリッド車に搭載されるものであってもよい。
【0096】
・「車両について」
車両としては、車両の推進力を生成する装置が内燃機関のみとなる車両に限らず、たとえば「内燃機関について」の欄に記載したシリーズハイブリッド車以外にも、パラレルハイブリッド車や、シリーズ・パラレルハイブリッド車であってもよい。
【0097】
・「そのほか」
クランク軸と駆動輪との間に介在する駆動系装置としては、有段の変速装置に限らず、たとえば無段変速装置であってもよい。
【符号の説明】
【0098】
10…内燃機関
60…駆動輪
64…変速装置
70…制御装置
72…CPU
74…ROM
76…記憶装置
76a…写像データ
100…ダイナモメータ
102…センサ群
104…適合装置
CB…分類境界