(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】トノカバーの係止構造
(51)【国際特許分類】
B60R 5/04 20060101AFI20230912BHJP
【FI】
B60R5/04 T
(21)【出願番号】P 2020029171
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安部 龍平
(72)【発明者】
【氏名】三好 智朗
(72)【発明者】
【氏名】坂上 功
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-069928(JP,A)
【文献】特表2016-507420(JP,A)
【文献】特開2003-127777(JP,A)
【文献】特開2003-237471(JP,A)
【文献】特開2013-011310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両荷室の側壁をなす一対のデッキサイドトリムと、
前記デッキサイドトリムの間にそれぞれ架設されて、可撓性を有するトノカバーを張設状態で支持する支持部材と、
を備えて構成されるトノカバーの係止構造であって、
前記デッキサイドトリムはそれぞれ、
前記支持部材の端部を車両前後方向に沿って案内するガイド溝と、
前記支持部材の前記端部を係止する係止溝であって、前記ガイド溝に車両後方側で連通し車両後方に向かうにつれて下方に傾斜する傾斜部と、前記傾斜部の下端から車両前方に向かって略水平方向に延びる水平部と、を含む係止溝と、
を備え、
前記水平部は、その前方部分において、前記トノカバーを介して前記支持部材に加わる前記車両前方に向かう引張り力に抗して前記支持部材を係止可能な構成を備え
、
前記ガイド溝と前記係止溝とは、底面が面一の溝状に構成されており、
前記底面は、前記デッキサイドトリムを車両の被取付部材に固定するためのクリップ部材を取り付けるための取付部を備え、
前記取付部は、前記傾斜部と前記水平部との間に形成される扇形の折曲領域の前方であって、前記ガイド溝の後方に設けられているトノカバーの係止構造。
【請求項2】
前記支持部材は棒状をなし、その両端部に前記係止溝に固定される係止部を備え、
前記係止溝は、
係止溝底面と、
前記係止溝底面から立ち上がり、下方を向く上方壁面と、
前記係止溝底面の車両前方の端部から立ち上がり、車両後方を向く前方壁面と、
前記係止溝底面から立ち上がり、上方を向く下方壁面と、
を備え、
前記上方壁面、前記前方壁面、および前記下方壁面はコ字状壁を構成しており、
前記コ字状壁における前記下方壁面と前記上方壁面との間の内寸である幅寸法は、車両後方側において前記支持部材の前記係止部の上下方向の寸法よりも大きく、車両前方の端部側に向かうにつれて狭くなっており、車両前方の端部において前記支持部材の前記係止部の上下方向の寸法よりも小さいものとされており、
少なくとも前記上方壁面、前記前方壁面、および前記下方壁面のいずれかは、前記支持部材に当接して前記支持部材を係止可能に構成されている、請求項1に記載のトノカバーの係止構造。
【請求項3】
前記係止溝は係止溝底面を備えるとともに、前記傾斜部において前記係止溝底面から立ち上がり車両前方を向く後方壁面を備え、
前記後方壁面は、前記デッキサイドトリムの車両後方の縁部に沿うように傾斜されている請求項1または請求項2に記載のトノカバーの係止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トノカバーの係止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の荷室を覆う巻取り式のトノカバーを備える車両荷室構造が知られている。例えば下記の特許文献1には、
図2~
図4に示される通り、可撓性を有する布状のトノカバー(14)と、上記トノカバー(14)を支持する支持部材(トノカバーの後方端部)と、車両荷室の側壁をなす一対のデッキサイドトリムにそれぞれ設けられ、上記支持部材の両端を係止する係止部(23A,23B)等からなる係止構造が開示されている。このうち係止部(23B)は、
図3および
図4に示される通り、車両前後方向に延びるガイド溝と、ガイド溝に車両後方側で連通し、ガイド溝よりも上方において車両前方側に屈曲することで上記支持部材を係止する係止溝とにより構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の係止構造は、トノカバー(14)を引き出したときに係止部(23B)がトノカバー(14)に隠れるため、見栄えが良くなるという利点がある。しかしながら、本発明者らの検討によると、トノカバー(14)を展設する際には支持部材(トノカバーの後方端部)を係止溝よりも下方のガイド溝に導入する必要があり、大きな荷物を収容している場合や荷物が多い場合等にトノカバーをガイド溝に導入し難いという点において改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、荷物が多い場合等であってもトノカバーをスムーズに係止可能なトノカバーの係止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のトノカバーの係止構造は、車両荷室の側壁をなす一対のデッキサイドトリムと、前記デッキサイドトリムの間にそれぞれ架設されて、可撓性を有するトノカバーを張設状態で支持する支持部材と、を備えて構成される。前記デッキサイドトリムはそれぞれ、前記支持部材の端部を車両前後方向に沿って案内するガイド溝と、前記支持部材の前記端部を係止する係止溝であって、前記ガイド溝に車両後方側で連通し車両後方に向かうにつれて下方に傾斜する傾斜部と、前記傾斜部の下端から車両前方に向かって略水平方向に延びる水平部と、を含む係止溝と、を備えている。そして前記水平部は、その前方部分において、前記トノカバーを介して前記支持部材に加わる前記車両前方に向かう引張り力に抗して前記支持部材を係止可能な構成を備えることに特徴を有する。
【0007】
このような構成によると、デッキサイドトリムには、支持部材の係止位置(水平部)よりも上方において支持部材を案内するためのガイド溝が配置されている。そのため、トノカバーをデッキサイドトリムに係止する際には、支持部材を係止位置よりも上方で移動させてガイド溝に導入することができ、支持部材を係止位置よりも下方に移動させる必要がない。その結果、荷室に係止位置よりも上方にまで及ぶ大きな荷物や多量の荷物を収容している場合であっても、トノカバーで荷室を上方から覆うように支持部材を移動させながら、スムーズに支持部材を係止溝に係止することができる。また、係止溝は、ガイド溝よりも車両後方側において下方に傾斜する傾斜部をなし、水平部に接続されている。そのため、使用者は、概ね車両後方に向かう一連の支持部材の移動のみによって支持部材を水平部の前方の係止位置にまで移動できる。
【0008】
また、支持部材を水平部で車両前方に移動させることで、傾斜部と水平部とにより構成される折返し形状によって、支持部材を水平部の前方部分にある係止位置に係止することができる。換言すれば、使用者は、支持部材を概ね車両後方に移動させる操作と、支持部材を水平部で前方に移動させる操作と、の2ステップでトノカバーを係止位置に容易に係止することができる。
【0009】
また、上記係止構造の好適な一態様において、前記支持部材は棒状をなし、その両端部に前記係止溝に係止される係止部を備え、前記係止溝は、係止溝底面と、前記係止溝底面から立ち上がり、下方を向く上方壁面と、前記係止溝底面の車両前方の端部から立ち上がり、車両後方を向く前方壁面と、前記係止溝底面から立ち上がり、上方を向く下方壁面と、を備えている。そして、前記上方壁面、前記前方壁面、および前記下方壁面はコ字状壁を構成しており、少なくとも前記上方壁面、前記前方壁面、および前記下方壁面のいずれかは、前記支持部材に当接して前記支持部材を係止可能に構成されている。
【0010】
このような係止構造において、水平部は前方に凹んだコ字状壁を構成し、係止溝は車両前方に向けて閉じられている。これにより、トノカバーを介して支持部材に加わる車両前方に向かう引張り力に抗して、係止溝の水平部に支持部材を確実に係止することができる。
【0011】
上記係止構造の好適な一態様において、前記係止溝は係止溝底面を備えるとともに、前記傾斜部において前記係止溝底面から立ち上がり車両前方を向く後方壁面を備え、前記後方壁面は、前記デッキサイドトリムの車両後方の縁部に沿うように傾斜されている。
【0012】
このトノカバーの係止構造においては、デッキサイドトリムに備えられる係止溝の傾斜部の外形がデッキサイドトリムの車両後方の縁部の形状に沿うようにデザインされている。これにより、傾斜部の外形とデッキサイドトリムの車両後方の縁部の形状とに統一感がもたらされ、デッキサイドトリムの意匠性が高められる。また、使用者がトノカバーを係止するとき、傾斜部の外形がデッキサイドトリムの車両後方の縁部の形状に調和することで、車両後方に移動させた支持部材を視覚的効果によって車両後方の縁部に沿って下方に移動させる動作が自然に促される。このことにより、使用者は、意図することなくトノカバーを傾斜部の下端にまで自然に移動することができ、トノカバーをより一層スムーズに係止することができる。
【0013】
上記係止構造の好適な一態様において、前記ガイド溝と前記係止溝とは、底面が面一の溝状に構成されており、前記底面は、前記デッキサイドトリムを車両の被取付部材に固定するためのクリップ部材を取り付けるための取付部を備え、前記取付部は、前記傾斜部と前記水平部との間に形成される扇形の折曲領域の近傍に設けられている。このような係止構造によると、クリップ部材の取付部が設けられる底面には、取付部の近傍に扇形の折曲領域が形成されるため、クリップ部材の取付けに際しこの折曲領域を作業空間として利用することができる。これにより、組付け作業者は、被取付部材へのデッキサイドトリムの取付作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大きな荷物を収容している場合や荷物が多い場合等であっても、スムーズに係止できるトノカバーの係止構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例であるトノカバーの係止構造を採用した車両の荷室の一例を示す斜視図であり、トノカバーを巻き取った状態を示す図
【
図2】
図1におけるトノカバーを引き出した状態を示す図
【
図3】デッキサイドトリムに設けられたガイド溝および係止溝の底面の形状を例示する断面図(
図2におけるIII-III断面)
【
図4】一実施形態に係るデッキサイドトリムに設けられたガイド溝および係止溝を車両内側から視た図
【
図5】ガイド溝と係止溝の水平部との形状を例示する断面図(
図4におけるV-V断面)
【
図6】係止溝の傾斜部の形状を例示する断面図(
図4におけるVI-VI断面)
【
図8】参考例のトノカバーの係止構造(ガイド溝および係止溝)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係るトノカバーの係止構造について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。以下の説明では、車両の直進方向を車両前方、車両の後退方向(車両の荷室がある側)を車両後方とする。車両の前後方向と車幅方向とは直交している。また、図面中の符号F,Rr,U,D,IN,OUTは、それぞれ車両前後方向の前,後,鉛直方向(上下方向)の上,下,車幅方向における車両内側,車両外側を表している。
【0017】
<実施形態>
本発明の実施形態を
図1ないし
図5によって説明する。
図1および
図2は、一実施形態に係るトノカバーの係止構造を採用した車両10の荷室11内の一例を示している。車両10は、後部に荷室11(車両荷室)が設けられている。車両10の最後部には図示しないバックドアが備えられ、荷室11は、バックドアに対応する後部開口12からアクセス可能とされている。また、荷室11の車両前方には、シートバックの裏面13Aが略鉛直方向に沿って立ち上がる形で後部座席13が配設されている。荷室11の上方には、
図2に示すように、水平方向に沿って延在する形でトノカバー装置14が配設されている。なお、トノカバー装置14は、巻き取られた状態では、
図1に示すようにトノカバー前方係止部23に係脱可能に係止されている。荷室11は、そのレイアウトに応じて、トノカバー装置14を取り外して用いることができる。
【0018】
荷室11は、
図1および
図2に示すように、側壁をなす一対のデッキサイドトリム20,20と、床面15Aをなすデッキボード15とを備えている。なお、
図1および
図2においては、手前側(車両10の進行方向左側)のデッキサイドトリム20を省略して示すとともに、デッキサイドトリム20の形状を簡略化して示している。デッキボード15は、水平方向に沿って延在する板状をなし、その上面(床面)15Aに荷物を載置可能とされている。デッキボード15の下方には、いわゆるラゲージアンダースペースと呼ばれる収納空間が形成されている。なお、本実施形態では、デッキボード15が一の板状部材で構成されるものを例示したが、デッキボードは複数の板状部材に分割して構成されていてもよい。
【0019】
デッキサイドトリム20は、
図1および
図2に示すように、おおよそ鉛直方向及び車両前後方向に沿って延在する板状をなし、その車幅方向内側を向く面が荷室11内に臨む内面20Aとされている。なお、このようなデッキサイドトリム20は、トランクサイドトリム又はラゲージサイドトリムと呼ばれることもある。一対のデッキサイドトリム20,20は、荷室11の左右の側壁で左右対称に構成されている。以下の説明においては、
図1の奥側(車両10の進行方向右側)に位置するデッキサイドトリム20について説明するとともに、手前側(車両10の進行方向左側)に位置するデッキサイドトリムについての説明を適宜省略する場合がある。
【0020】
デッキサイドトリム20には、その車両前方かつ下方に、ホイールハウスに倣う形で荷室11内に膨出するホイールハウス部21が設けられている。また、デッキサイドトリム20は、その後端部22が後部開口12の開口縁に倣う形とされている。デッキサイドトリム20は、
図3に示すように、ホイールハウス部21と、後端部22以外の部分を占める一般部25が平行状をなして配設されている。また、荷室11は後部開口12に向けて後端部22においてやや狭くなるように構成されている。そのため、一対のデッキサイドトリム20,20の間の車幅方向における寸法(離間距離)は、
図3に示すように、一般部25,25よりも後端部22,22において相対的に小さく(狭く)なっている。
【0021】
そして、一対のデッキサイドトリム20,20は、その間において、トノカバー装置14を架設可能に構成されている。具体的には、デッキサイドトリム20には、ホイールハウス部21の上方の一般部25に、トノカバー前方係止部23が設けられている。また、デッキサイドトリム20には、後端部22の上部にトノカバー後方係止部24が設けられている。そのため、一対のデッキサイドトリム20,20の車幅方向における離間距離(間隔)は、トノカバー前方係止部23,23の位置よりも、トノカバー後方係止部24,24の位置において相対的に小さい(狭い)。デッキサイドトリム20においてトノカバー装置14を架設するための具体的な構成、すなわちトノカバー前方係止部23およびトノカバー後方係止部24(ガイド溝30および係止溝40)の構成については、後に説明する。
【0022】
トノカバー装置14は、大まかな構成として、ハウジング14aと、面状部材(トノカバー)14bと、支持部材50と、図示しない巻取手段と、を備えている。面状部材14bは、可撓性を有する素材によって構成され、荷室11を上方で覆うことで荷室11に収容された荷物等を車外からの視線や紫外線等から遮る役割を果たす。面状部材14bは、略方形の布状であって、一端(一辺)が支持部材50によって支持されており、他端(上記一辺に対向する他の一辺)が巻取手段に固定されている。面状部材14bの支持部材50に支持されている側の端部は、
図3に示すように荷室11の後端部22の形状に対応しており、車幅方向の寸法が巻取手段に固定されている側の他端と比較して相対的に小さい。巻取手段は、面状部材14bの他端に接続された状態でハウジング14a内に収容されている。本実施形態の巻取手段は、面状部材14bを自動的に撓みなく巻取ることで、面状部材14bをハウジング14a内に収容できるように構成されている。ハウジング14aは、巻取手段を収容するとともに、巻取手段によって長尺ロール状に巻取られた面状部材14bを収容する長尺の収容ケースである。本実施形態のハウジング14aは、断面形状が略正方形の角筒状に構成されている。ハウジング14aには、面状部材14bの引き出しや巻き取りの際に面状部材14bが出入りするための開口部14dが長手方向に沿って設けられている。ハウジング14aの長手方向の端部には、トノカバー前方係止部23に係止される係止部14cが備えられている。
【0023】
支持部材50は棒状をなしている。支持部材50は、面状部材14bの一端に設けられて面状部材14bを張設状態で支持するための部材である。支持部材50には、巻取手段によるハウジング14aに向かう引張り力が面状部材14bを介して作用している。支持部材50の長手方向の両方の端部には、トノカバー後方係止部24,24に係り合う係止部52,52が備えられている。支持部材50の長手方向の寸法は、ハウジング14aの開口部14dの長手方向の寸法より長い。支持部材50の短手方向(面状部材14bを平面にしたとき、その平面に直交する方向)の寸法は、ハウジング14aの開口部14dの短手方向の寸法より大きい。そのため、面状部材14bが巻取手段によってハウジング14a内に巻き取られた場合でも、支持部材50は開口部14dを通過できずにハウジング14aの外に留まる。したがって、巻き取られた状態のトノカバーを使用する際には、ハウジング14aから支持部材50を引き離すことで面状部材14bを引き出すことができる。また、面状部材14bが引き出されているときには、巻取手段が面状部材14bを巻き取ろうとすることにより、支持部材50にはハウジング14aの方向に向かう引っ張り力が作用する。支持部材50は、その長手方向を車幅方向に一致させた姿勢で荷室11に配される。本実施形態における支持部材50の係止部52は、
図4に示すように、長手方向に直交する断面形状が四角形を呈している。具体的には、係止部52の断面形状は、面状部材14bが水平となるように配置したとき、面状部材14bに近い側である巻取側の端部52aの寸法よりも面状部材14bから離れる側である末端側の端部52bの寸法の方が大きくなるように構成されている。言い換えれば、係止部52を水平面に配置したとき、係止部52の上面は末端側の端部52bから巻取側の端部52aに向けて徐々に下方に傾斜されている。ただし、係止部52の形状はこれに限定されない。
【0024】
トノカバー装置14は、
図2に示すように、一対のデッキサイドトリム20,20にそれぞれ架設されて、可撓性を有する面状部材14bを張設する構成とされている。具体的には、トノカバー装置14のハウジング14aと支持部材50とは、デッキサイドトリム20に設けられたトノカバー前方係止部23とトノカバー後方係止部24とにそれぞれ架設される。このとき、一対のハウジング14aと支持部材50とは、デッキサイドトリム20,20の間で互いに平行状をなし、面状部材14bを撓みなく張設することができる。
【0025】
トノカバー前方係止部23は、
図3に示すように、デッキサイドトリム20の一般部25の内面20Aから車幅方向の外側に凹む凹部として構成されている。この凹部は、ハウジング14aの長手方向に直行する断面に対応した形状の底部23aを備えている。ハウジング14aの両端に設けられた係止部14cは、長手方向(車幅方向)外側に伸びる方向に付勢された状態で伸縮可能に構成されている。ハウジング14aは、係止部14cが伸長した状態における長手方向の寸法が、対向する凹部の底部23aの間の距離よりも長くなり得る。また、ハウジング14aは、係止部14cが縮短した状態における長手方向の寸法が、対向する凹部周縁(一般部25の内面20A)の間の距離よりも短くなり得る。
【0026】
このような構成のトノカバー装置14は、以下の手順でデッキサイドトリム20,20間に架設することができる。すなわち、まず、ハウジング14aの一方の係止部14cを一方のトノカバー前方係止部23の凹部に挿入し、その底部23aに押し当てる。これにより当該一方の係止部14cを縮短状態とする。次いで、ハウジング14aの他方の係止部14cを長手方向における内側(中心側)に向けて押さえ、当該他方の係止部14cを縮短状態にする。この状態で、当該係止部14cを他方のトノカバー前方係止部23の凹部に移動させ、両方の係止部14cの縮短状態を開放する。すると、両方の係止部14cは凹部内で外側に伸長し、両方の係止部14cが対向する凹部内でそれぞれ伸長状態となる。これにより、トノカバー装置14は、荷室11の前方で荷室11の上方に係脱可能に係止される。
【0027】
トノカバー後方係止部24は、
図3ないし
図6に示すように、ガイド溝30と係止溝40とを備える。本発明におけるガイド溝30と係止溝40とによって、トノカバー後方係止部24が構成されている。以下、ガイド溝30と係止溝40とについて詳しく説明する。
【0028】
ガイド溝30は、支持部材50の係止部52を車両前後方向に沿って係止溝40に案内する。ガイド溝30は、
図3ないし
図5に示すように、車幅方向外側に凹むとともに、車両前後方向に沿って延びる溝状に設けられている。具体的には、ガイド溝30は、後端部22の内面20Aより奥方(車幅方向外側)に後退するガイド溝底面31と、ガイド溝底面31の上端から内面20Aに向けて立ち上がる上側壁面32と、ガイド溝底面31の下端から立ち上がる下側壁面33と、を有して構成されている。言い換えれば、ガイド溝30は、内面20Aと上側壁面32とガイド溝底面31とが段差状に構成されるとともに、内面20Aと下側壁面33とガイド溝底面31とが段差状に構成されている。なお、
図4におけるP1は、上側壁面32に沿って係止部52を移動させたときの係止部52の配置を例示したものであり、H1は位置P1における係止部52の高さ(上下方向の位置)を示す。
【0029】
ここで、ガイド溝底面31は一般部25の内面20Aより滑らかに連続している。一対のデッキサイドトリム20,20に設けられるガイド溝底面31,31の間の寸法(車幅方向の距離)は、支持部材50が車幅方向においてクリアランスを有して配置できる程度の大きさとされている。また、上側壁面32および下側壁面33は、一般部25に対して前方(車幅方向内側)に突出する後端部22の内面20Aとガイド溝底面31とを繋ぐ壁面として構成されている。したがって、上側壁面32および下側壁面33の突出高さ、言い換えれば、後端部22の内面20Aとガイド溝底面31とのギャップ(すなわち、ガイド溝30の深さ)は、ガイド溝30の最も車両前方となる位置においてゼロであり、車両後方に向かうにつれて徐々に大きくなっている。そしてガイド溝30の幅寸法(上側壁面32と下側壁面33との間の内寸)は、車両前方側において大きく、車両後方に向かうにつれて徐々に小さくなるように構成されている。ガイド溝30の幅寸法は、支持部材50の係止部52が十分なゆとりをもって移動できる程度の大きさとされている。このような構成により、ガイド溝30は、車両前方の広い範囲から支持部材50を係止溝40へとスムーズに案内することができる。
【0030】
係止溝40は、支持部材50の係止部(端部)52を固定する。係止溝40は、
図3ないし
図5に示すように、後端部22の内面20Aから車幅方向外側に凹むとともに、ガイド溝30に車両後方側で連通する溝状に設けられている。具体的には、係止溝40は、ガイド溝底面31と滑らかに連続する係止溝底面41を有している。本実施形態において、係止溝底面41とガイド溝底面31とは面一である。したがって、一対のデッキサイドトリム20,20に設けられる係止溝底面41,41の間の寸法(車幅方向の距離)も、支持部材50が車幅方向においてクリアランスを有して配置できる程度の大きさとされている。
【0031】
また、係止溝40は、係止溝底面41から内面20Aに向けて立ち上がり前方を向く後方壁面42と、係止溝底面41の下端から立ち上がり上方を向く下方壁面43と、係止溝底面41の前方の端部から立ち上がり後方を向く前方壁面44と、係止溝底面41の上端から立ち上がり下方を向く上方壁面45と、係止溝底面41から立ち上がり下側壁面33と上方壁面45とを連絡する折返し壁面46と、を有して構成されている。言い換えれば、係止溝40は、内面20Aとこれらの壁面42,43,44,45,46と係止溝底面41とがそれぞれ段差状に構成されている。ガイド溝30の上側壁面32と、係止溝40の後方壁面42、下方壁面43、前方壁面44、上方壁面45、および折返し壁面46と、ガイド溝30の下側壁面33とは、この順に、互いの接続部において滑らかに連続する連続壁面を形成している。
【0032】
ここで、係止溝40は、車両後方に向かうにつれて下方に傾斜する傾斜部40Aと、傾斜部40Aの下端から車両前方に向かって略水平方向に延びる水平部40Bとを含む。つまり、後方壁面42と係止溝底面41と折返し壁面46とにより傾斜部40Aが構成されている。本実施形態において、後方壁面42は、デッキサイドトリム20の車両後方の縁部に沿うように傾斜されている。本実施形態のデッキサイドトリム20の縁部、すなわち後方壁面42は、水平方向に対して約30°~60°(例えば45°)の角度をなすように傾斜されている。なお、
図4におけるP2は、後方壁面42に沿ってその下端まで係止部52を移動させたときの係止部52の位置を示したものであり、H2は位置P2における係止部52の高さを示す。
【0033】
また、水平部40Bは、係止溝底面41と下方壁面43と前方壁面44と上方壁面45とにより構成されている。下方壁面43と前方壁面44と上方壁面45とは連続し、前方に向けて凹むコ字状壁を構成している。言い換えれば、係止溝40は前方壁面44において終端され、車両前方側で閉じられている。本実施形態の下方壁面43は、略水平面を含むように配設されている。
図4におけるP3は、コ字状壁に係止部52の前方を挿入したときの係止部52の位置を示したものであり、位置P3における係止部52の高さは位置P2における高さと等しい。H2は、下方壁面43に沿って係止部52を移動したり、コ字状壁に係止部52を挿入したりするときの係止部52の高さでもある。高さH2は、上記の高さH1よりも低い。H3は、上方壁面45のうちで最も高い位置を示す。高さH3は、上記の高さH1よりも低く、高さH2よりも高い。
【0034】
この水平部40Bにおいて、前方のコ字状壁の幅寸法(下方壁面43と上方壁面45との間の内寸)は、車両後方側(例えば、上方壁面45のうちで最も高い位置)において支持部材50の係止部52の巻取側の端部52aの短手方向(ここでは上下方向)の寸法よりも大きく、車両前方の端部(すなわち、前方壁面44の位置)に向かうにつれて狭くなっている。したがって、水平部40Bは、傾斜部40Aより支持部材50の係止部52を導入できるように構成されている。例えば、下方壁面43に沿って係止部52を前方に移動させることで、係止部52の前方をコ字状壁に挿入することができる。
【0035】
また、本実施形態の水平部40Bのコ字状壁の幅寸法は、
図4に示すように、車両前方の端部において当該係止部52の巻取側の端部52aの短手方向の寸法よりも小さい。したがって、水平部40Bに係止部52が導入されると、少なくとも上方壁面45および下方壁面43が係止部52の上方および下方にそれぞれ当接し、係止部52が車両前方に向かって移動することを規制する。このことにより、水平部40Bは支持部材50を確実に係止可能な構成とされている。
【0036】
また、係止溝40は傾斜部40Aと水平部40Bとを有していることから、係止溝底面41には傾斜部40Aの後方壁面42と水平部40Bの下方壁面43との間に扇形の折曲領域Sが形成されている。そして本実施形態の係止溝40は、
図3および
図4に示すように、デッキサイドトリム20を車両10のインナパネル(被取付部材)60に固定するためのクリップ部材62が取り付け可能に構成されている。このクリップ部材62は、
図6に示すように、大まかな構成として、頭部62aと脚部62bとからなり、円板状の頭部62aの背面側の中心に脚部62bが同軸に設けられている。そして係止溝底面41には、このクリップ部材62の頭部62aを収容するための車幅方向外側に凹んだクリップ凹部47aと、脚部62bを挿通するための貫通孔47bとが備えられている。クリップ凹部47aは、頭部62aよりも一回り大きい円形の凹部として形成されている。貫通孔47bは、クリップ凹部47aと同心円状であって、脚部62bの径より一回り大きくなるように形成されている。これらクリップ凹部47aと貫通孔47bとによってクリップ部材62の取付部47が構成されている。このように、係止溝底面41に備えられた円形の取付部47の車両後方側には扇形の折曲領域Sが存在する。
【0037】
以上のトノカバーの係止構造を備える車両10において、トノカバーを使用(展設)するには、例えば、トノカバー前方係止部23に架設されているトノカバー装置14から支持部材50を引き出し、トノカバー後方係止部24に係止する。ここで、トノカバー後方係止部24における係止構造は、支持部材50の端部(係止部52)を車両前後方向に沿って案内するガイド溝30と、支持部材50の端部を係止する係止溝40とを備えており、係止溝40は、ガイド溝30に車両後方側で連通し車両後方に向かうにつれて下方に傾斜する傾斜部40Aと、傾斜部40Aの下端から車両前方に向かって略水平方向に延びる水平部40Bとを備えた構成とされている。そして水平部40Bは、その前方部分において、トノカバー(面状部材14b)を介して支持部材50に加わる車両前方に向かう引張り力に抗して支持部材50を係止可能な構成を備えている。
【0038】
上記構成によると、使用者は、支持部材50を位置P3より上方で移動させながらガイド溝30に導入することができ、支持部材50を係止位置である位置P3よりも下方に移動させる必要がない。その結果、荷室11に係止位置よりも上方にまで及ぶ大きな荷物や多量の荷物を収容している場合であっても、面状部材14bで荷室11を上方から覆うように支持部材50を移動させながらスムーズに支持部材50を係止溝40に係止することができる。また、係止溝40は、ガイド溝30よりも車両後方側においては傾斜部40Aによって下方に傾斜し、その下端(位置P2)において水平部40Bに接続されている。そのため、使用者は、ガイド溝30から傾斜部40Aに沿って概ね車両後方に向かう一連の支持部材50の移動によって支持部材50をスムーズに水平部40B(位置P2からP3)まで移動させることができる。
【0039】
また、上記構成によると、使用者は、支持部材50を水平部40Bで車両前方に移動させることで、傾斜部40Aと水平部40Bとにより構成される折返し形状によって、支持部材50を水平部40Bの前方部分にある係止位置に係止することができる。換言すれば、使用者は、支持部材を概ね車両後方に移動させる操作と、支持部材を水平部で前方に移動させる操作と、の2ステップでトノカバーを水平部40Bの前方部分に位置する係止位置に容易に係止することができる。また、例えば、トノカバーが自動巻取り式であるとき等には、支持部材50を傾斜部40Aの下端に移動させることで支持部材50は面状部材14bを介して自動的に車両前方に移動され、係止部52がコ字状壁に係止される。これにより、1ステップでトノカバーを係止位置に容易に係止することができる。
【0040】
上記構成によると、水平部40Bは、コ字状壁によって車両前方側で閉じられている。また、コ字状壁の幅寸法は、車両後方側で係止部52の巻取側の端部52aの上下方向の寸法よりも大きく、車両前方側で係止部52の巻取側の端部52aよりも狭くなっている。これにより、コ字状壁は前方に向けて引っ張られる係止部52を上方壁面45と下方壁面43とによって挟持することができる。このような構成により、車両が走行中に大きく振動した場合等でも、係止部52をコ字状壁によって強固に固定することができる。また、コ字状壁の幅寸法は後方に向かうにつれ広くなるように形成されており、支持部材50の係止部52をコ字状壁に引き込み易いだけでなく、また、コ字状壁から係止部52を引き抜き易いものとされている。
【0041】
また、上記実施形態において、支持部材50は棒状をなし、その両端部に係止溝40に係止される係止部52,52を備えている。係止溝40は、係止溝底面41と、係止溝底面41から立ち上がり下方を向く上方壁面45と、係止溝底面41の車両前方の端部から立ち上がり車両後方を向く前方壁面44と、係止溝底面41から立ち上がり、上方を向く下方壁面43と、を備え、上方壁面45、前方壁面44、および下方壁面43はコ字状壁を構成している。そして、少なくとも上方壁面45および下方壁面43は、支持部材50の係止部52の上方および下方にそれぞれ当接して支持部材50を係止可能に構成されている。このような構成によると、水平部40B支持部材の係止部の外形に対応するコ字状壁を備えており、トノカバーを介して支持部材に加わる車両前方に向かう引張り力に抗して、係止溝の水平部に支持部材を確実に係止することができる。
【0042】
さらに、上記実施形態において、係止溝40は係止溝底面41を備えるとともに、傾斜部40Aにおいて係止溝底面41から立ち上がり車両前方を向く後方壁面42を備え、後方壁面42は、デッキサイドトリム20の車両後方の縁部に沿うように傾斜されている。このような構成において、デッキサイドトリム20に備えられる係止溝40の傾斜部40Aの外形は、デッキサイドトリム20の車両後方の縁部の形状に沿うようにデザインされている。これにより、傾斜部40Aの外形とデッキサイドトリム20の車両後方の縁部の形状とに統一感がもたらされ、デッキサイドトリムの意匠性が高められる。また、傾斜部40Aの外形がデッキサイドトリム20の車両後方の縁部の形状に調和していることで、使用者がトノカバーを係止するとき、視覚的効果によって無意識のうちに、車両後方に移動させた支持部材50を車両後方の縁部に沿って位置P2よりも下方にまで移動させる動作が促される。このことにより、使用者は、意図することなくトノカバーを傾斜部40Aの下端(位置P2)にまで移動させることができ、より一層スムーズに係止することができる。
【0043】
また、上記実施形態において、ガイド溝30と係止溝40とは、底面(ガイド溝底面31および係止溝底面41)が面一の溝状に構成されており、底面は、デッキサイドトリム20を車両10のインナパネル(被取付部材)60に固定するためのクリップ部材62を取り付けるための取付部47を備え、取付部47は、傾斜部40Aと水平部40Bとの間に形成される扇形の折曲領域Sの近傍に設けられている。このような構成によると、底面には、取付部47よりも前方にガイド溝30によるスペースが存在し、取付部47よりも後方に折曲領域Sが存在する。そのため、クリップ部材62の取付けに際し、この折曲領域Sを作業空間として利用することができる。具体的には、クリップ部材62の頭部62aを把持した指をガイド溝30によるスペースと折曲領域Sとに入れることができる。これにより、組付け作業者は、インナパネル(被取付部材)60へのデッキサイドトリム20の組付け作業を容易に行うことができる。
【0044】
さらに、上記実施形態では、トノカバー後方係止部24(ガイド溝30および係止溝40)の底面においてデッキサイドトリム20がインナパネル(被取付部材)60に固定されており、ガイド溝30および係止溝40は被取付部材に高い強度で組付けられている。その結果、使用者がトノカバーをガイド溝30および係止溝40に頻繁に係止したり、トノカバー装置14から係止溝40に負荷が加わったりしても、ガイド溝30および係止溝40の変形や破損が抑制される。これにより、耐久性に優れたトノカバーの係止構造が提供される。
【0045】
なお、参考のために、
図7に、従来のトノカバーの係止構造に係るトノカバー前方係止部123とトノカバー後方係止部124とを例示した。従来のトノカバーの係止構造において、トノカバー装置(図示せず)およびトノカバー前方係止部123の構成は上記実施形態と共通であるが、トノカバー後方係止部124の構成が上記実施形態とは異なる。従来のトノカバー後方係止部124においては、支持部材の係止部を後方係止部124に導入するときの高さX1が、係止部を係止する係止位置の高さX2よりも低い。そのため、
図7中に矢印で示すように、使用者は、支持部材を係止位置(高さX2)よりも下方の係止位置(高さX1)より、さらに下方で移動させてトノカバー後方係止部124に導入する必要がある。そのため、荷室11に導入高さX1よりも上方にまで及ぶ大きな荷物や多量の荷物を収容している場合には、支持部材を後方係止部124に係止し難くなっていた。とりわけ、後方係止部124の近傍で荷物の高さが導入高さX1近くに達する場合はその傾向が顕著となる。これに対し、本実施形態の係止構造は、このような不都合が生じない点において有利である。
【0046】
また、
図8に、参考例としてのトノカバーの係止構造に係るトノカバー後方係止部224を例示した。参考例のトノカバーの係止構造においては、係止溝240が傾斜部40Aに代えて湾曲部240Aを備える点において上記実施形態と相違し、その他(トノカバー装置、トノカバー前方係止部223、ガイド溝230、水平部240Bなど)の構成については共通している。湾曲部240Aは、係止溝底面241と、係止溝底面241から内面220Aに向けて立ち上がり前方を向く後方壁面242と、係止溝底面241から立ち上がり後方を向く折返し壁面246とにより構成されている。後方壁面242は垂直方向に直径を有する半円弧状をなしている。また水平部240Bは、係止溝底面241と、係止溝底面241から内面220Aに向けて立ち上がり上方を向く下方壁面243と、係止溝底面241から立ち上がり後方を向く前方壁面244と、係止溝底面241から立ち上がり下方を向く上方壁面245とにより構成されている。下方壁面243と前方壁面244と上方壁面245とは連続し、前方に向けて凹むコ字状壁を構成している。このような係止構造において、後方壁面242に沿って支持部材を移動させたとき、最も車両後方となる位置P11の高さはY1であり、後方壁面242の下端における高さであって係止位置P12と等しい高さはY2であり、係止溝240における最後方位置よりも下端の方が、高さが低い。そして、上方壁面245のうちで最も高い位置(言い換えれば、コ字状壁の上端)の高さY3は、高さY1よりも低く、高さY2よりも高い。
【0047】
このような参考例の係止構造によると、使用者がトノカバーを使用(展設)するとき、支持部材をガイド溝230から車両後方に向けて移動させるだけでは、後方壁面242の最後方の位置P11(高さY1)までしか支持部材を移動させることができない。したがって、使用者は、位置P11から後方壁面242の下端まで、支持部材を下方に向けて移動させる必要がある。ここで、後方壁面242は、最後方の位置P11から下端に向かうにつれて前後方向の位置が前方に変化する。後方壁面242の前後方向の位置は、下端に向かうにつれてより大きく前方に変化する。したがって、使用者は、支持部材を後方壁面242の位置P11から下端に移動させるために、支持部材を下方(一方向)に向けて移動させるだけでなく、後方壁面242の形状に合わせて支持部材を前方にも移動させる(前方への移動を許容する)必要がある。そして位置P11よりも下方において、使用者が意識して支持部材を下方および前方に移動させない場合、支持部材は後方壁面242に沿って下端に到達できない。その結果、使用者が支持部材から手を離すと、支持部材がコ字状壁によって係止されず、巻取り装置によって巻き取られてしまうという事態が生じ得る。このような事態は、使用者が支持部材を位置P11から、コ字状壁の上端の高さY3よりも十分に下方まで移動させなかった場合に生じ得る。これに対し、本実施形態の係止構造によると、概ね車両後方に向かう移動のみで支持部材50を係止溝40の下端にまでスムーズに移動させることができ、参考例におけるような不都合が生じない点において有利である。
【0048】
また、参考例の係止構造によると、デッキサイドトリム220をインナパネルに固定するためのクリップ部材262の取付部247を係止溝240に備えると、係止溝底面241は取付部47によって概ね占有されてしまう。したがって、デッキサイドトリム220をクリップ部材262によってインナパネルに固定するための取付作業が行いにくいという不都合が生じる。これに対し、本実施形態の係止構造によると、係止溝40の下端まで傾斜部40Aが伸びていることから、傾斜部40Aと水平部40Bとの間に折曲領域Sが形成される。したがって、この折曲領域Sをデッキサイドトリム20の取付作業に利用することで、デッキサイドトリム20の組み立てが容易になる点においても有利である。
【0049】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0050】
(1)上記実施形態以外にも、トノカバーが配設される内装材は適宜変更可能である。上記実施形態では、トノカバーは、サイドトリムの上部に固定されるものとしたが、これに限られない。例えば、トノカバーは、エンドトリムやDピラートリムに配設されるものであってもよい。
【0051】
(2)上記実施形態において、トノカバー装置14は巻取手段を備える自動巻取り式であったが、トノカバー装置14の構成はこれに限定されず、巻取手段を備えないものであってもよい。また、面状部材14bは略方形の布状であった。しかしながら、面状部材14bの構成はこれに限定されず、例えば、網目状(ネット状)のものや、蛇腹状のもの、弾性変形するもの等を採用することもできる。
【0052】
(3)上記実施形態において、水平部40Bにおけるコ字状壁の幅寸法は、車両後方側で係止部52の巻取側の端部52aの上下方向の寸法よりも大きく、車両前方側で係止部52の巻取側の端部52aよりも狭くなっていた。しかしながら、コ字状壁は前方に向けて閉じられていることにより支持部材50の係止部52を係止可能であるため、例えば、コ字状壁の幅寸法は車両前方側でも係止部52の巻取側の端部52aより広くてもよい。
【0053】
(4)上記実施形態で例示したトノカバーの係止構造は、車両用に提供されるもの限られず、種々の乗物において提供されるものであってもよい。例えば、地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの乗物についても上記トノカバーの係止構造を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10…車両、11…荷室、14…トノカバー装置、20…デッキサイドトリム、トノカバー前方係止部…23、トノカバー後方係止部…24、ガイド溝…30、係止溝…40、傾斜部…40A、水平部…40B、支持部材…50