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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20230912BHJP
   H02K 7/14 20060101ALI20230912BHJP
   H02K 3/40 20060101ALI20230912BHJP
   H02K 5/20 20060101ALI20230912BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F04B39/00 106E
H02K7/14 B
H02K3/40
H02K5/20
H02K9/19 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020061979
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161889
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 健介
(72)【発明者】
【氏名】安谷屋 拓
(72)【発明者】
【氏名】滝本 修二
(72)【発明者】
【氏名】杉本 亘
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-011197(JP,A)
【文献】特開2012-193638(JP,A)
【文献】国際公開第2018/078843(WO,A1)
【文献】特開2018-053828(JP,A)
【文献】特開2016-019435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/00
H02K 7/14
H02K 3/40
H02K 5/20
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
駆動軸と、
前記駆動軸を回転させるモータ機構と、
前記駆動軸によって駆動されて冷媒の圧縮を行う圧縮機構と、
3相交流を構成して前記モータ機構と電気的に接続される第1相としての第1インバータ側端子、第2相としての第2インバータ側端子及び第3相としての第3インバータ側端子を有し、前記モータ機構の駆動制御を行うインバータとを備えた電動圧縮機であって、
前記ハウジングは、前記モータ機構を収容するとともに内部を冷媒が通過するモータ室を有し、
前記モータ機構は、前記ハウジングに固定されて前記モータ室内に配置されるステータと、前記駆動軸が固定されて前記ステータ内に配置され、前記駆動軸とともに回転可能なロータとを有し、
前記ステータは、前記駆動軸の駆動軸心方向に延びる筒状をなすステータコアと、前記第1インバータ側端子に接続される第1コネクタと、前記第2インバータ側端子に接続される第2コネクタと、前記第3インバータ側端子に接続される第3コネクタとを有し、
前記ステータコアには、前記ステータコアの内周面側から前記ステータコアの外周面側に向かって凹設されてなる複数のスロットが設けられ、
前記ステータは、前記第1インバータ側端子と電気的に接続される第1導線を前記各スロットに集中巻きすることで形成された複数の第1コイルと、
前記第2インバータ側端子と電気的に接続される第2導線を前記各スロットに集中巻きすることで形成された複数の第2コイルと、
前記第3インバータ側端子と電気的に接続される第3導線を前記各スロットに集中巻きすることで形成された複数の第3コイルとをさらに有し、
前記各第1コイルは互いに直列に接続され、
前記各第2コイルは互いに直列に接続され、
前記各第3コイルは互いに直列に接続され、
直列に接続された前記各第1コイルにおいて、前記第1インバータ側端子に電気的に最も近い前記第1コイルを第1特定コイルとし、
直列に接続された前記各第2コイルにおいて、前記第2インバータ側端子に電気的に最も近い前記第2コイルを第2特定コイルとし、
直列に接続された前記各第3コイルにおいて、前記第3インバータ側端子に電気的に最も近い前記第3コイルを第3特定コイルとし、
前記第1特定コイルは第1リード線を介して前記第1コネクタと接続され、
前記第2特定コイルは第2リード線を介して前記第2コネクタと接続され、
前記第3特定コイルは第3リード線を介して前記第3コネクタと接続され、
前記ハウジングには、前記駆動軸心を通って前記モータ室内を水平の平面状に延びる仮想の基準面が規定され、
前記第1特定コイル、前記第2特定コイル及び前記第3特定コイルは、前記駆動軸心及び前記基準面よりも重力方向の上側に配置され
前記第1コネクタの一部、前記第2コネクタの一部及び前記第3コネクタの一部は、前記駆動軸心及び前記基準面よりも重力方向の下側に配置され、前記第1コネクタの残りの部分、前記第2コネクタの残りの部分及び前記第3コネクタの残りの部分は、前記駆動軸心及び前記基準面よりも重力方向の上側に配置されていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記ハウジングには、前記駆動軸心よりも上側に位置して外部と前記モータ室とを連通する吸入口が形成され、
前記第1特定コイル、前記第2特定コイル及び前記第3特定コイルは、前記吸入口よりも上側に配置されている請求項1記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記電動圧縮機は車両に搭載され、
前記ハウジングには、前記車両に固定されることにより、前記電動圧縮機が前記車両に搭載された際における前記モータ室の上下方向を規定する取付部が設けられている請求項1又は2記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の電動圧縮機が開示されている。この電動圧縮機は、ハウジングと、駆動軸と、モータ機構と、圧縮機構とを備えている。ハウジングは、径方向に延びる底壁と、駆動軸心方向に延びる周壁とを有している。そして、これらの底壁及び周壁によって、ハウジング内にはモータ室が形成されている。また、ハウジングには、吸入口が形成されている。吸入口には配管が接続されており、この吸入口を通じて電動圧縮機の外部からハウジング内に冷媒が吸入される。
【0003】
駆動軸はモータ室を含むハウジング内に設けられており、駆動軸心周りで回転可能になっている。モータ機構は、モータ室内に設けられている。モータ機構は駆動軸を駆動軸心周りに回転させる。ここで、同文献では開示がされていないものの、モータ機構は、ハウジング内に設けられたインバータと接続することにより、インバータによって駆動制御される。圧縮機構はハウジング内に設けられている。これにより、ハウジング内において、モータ室と吸入口とは圧縮機構によって区画されている。圧縮機構は、駆動軸によって駆動されることにより、冷媒の圧縮を行う。
【0004】
より具体的には、インバータは、第1相、第2相及び第3相を有しており、これらの第1相、第2相及び第3相によって、モータ機構と接続されている。また、モータ機構は、ステータとロータとを有している。ステータはモータ室内に固定されている。ロータには駆動軸が固定されている。ロータはステータ内に配置されており、駆動軸とともに駆動軸心周りに回転可能となっている。
【0005】
ステータは、ステータコアと、複数の第1~第3コイルとを有している。ステータコアは、駆動軸心方向に延びる筒状に形成されている。また、ステータコアには、複数のスロットが設けられている。各第1~第3コイルは、スロットに導線が巻回されることで形成されている。各第1コイルは、第1相と電気的に接続されている。各第2コイルは、第2相と電気的に接続されている。各第3コイルは、第3相と電気的に接続されている。また、各第1~第3コイルは、第1~第3相とは反対側で互いに結線されている。
【0006】
この電動圧縮機では、インバータから各第1~第3コイルに通電されることで、各第1~第3コイルが順に磁界を発生させる。これにより、ステータ内でロータが駆動軸とともに駆動軸心周りに回転する。こうして、圧縮機構は、吸入口から吸入された冷媒の圧縮を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-280249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ステータに各第1~第3コイルを形成するに当たっては、隣り合う各スロットに導線を巻回させる集中巻きを行う場合と、複数のスロットを跨いで導線を巻回させる分布巻きを行う場合とが存在する。
【0009】
また、近年では、600ボルト以上の高電圧に対応する電動圧縮機が求められる。しかし、発明者の検証によれば、分布巻きによって形成された各第1~第3コイルは、コイルエンドで互いに近接しているため、これらの各第1~第3コイルに対して上記のような高電圧が印加された場合、電子の移動による部分放電が生じ易く、これによって導線の被膜が損傷し易くなる。このため、ステータ、ひいては電動圧縮機の耐久性の低下が懸念される。そこで、これに対する対策として、集中巻きかつ直列巻きで形成されたコイルを有するモータ機構を電動圧縮機に設けることが考えられる。
【0010】
ここで、電動圧縮機によっては、モータ室内に冷媒を通過させることで、冷媒によるモータ機構の冷却が行われる。この冷媒には潤滑油が含まれている。また、冷媒の一部はモータ室内で液化して液冷媒となり得る。これにより、冷媒に含まれた潤滑油は、液冷媒とともにモータ室内に貯留され得る。このため、モータ室内にステータが配置されることにより、各第1~第3コイルの一部は、潤滑油及び液冷媒に浸漬する状態となり得る。
【0011】
また、潤滑油及び冷媒には、配管を流通する際に、外部の水分が配管を透過して不可避的に混入してしまう。これにより、水分が混入した潤滑油及び液冷媒は体積抵抗率が低下してしまう。このため、このような潤滑油及び液冷媒に浸漬した状態にある各第1~第3コイルは、導線からハウジング等に漏電し易くなるおそれがある。このため、この点においても電動圧縮機の耐久性の低下が懸念される。
【0012】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高電圧化に対応しつつ、耐久性に優れた電動圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電動圧縮機は、ハウジングと、
駆動軸と、
前記駆動軸を回転させるモータ機構と、
前記駆動軸によって駆動されて冷媒の圧縮を行う圧縮機構と、
3相交流を構成して前記モータ機構と電気的に接続される第1相としての第1インバータ側端子、第2相としての第2インバータ側端子及び第3相としての第3インバータ側端子を有し、前記モータ機構の駆動制御を行うインバータとを備えた電動圧縮機であって、
前記ハウジングは、前記モータ機構を収容するとともに内部を冷媒が通過するモータ室を有し、
前記モータ機構は、前記ハウジングに固定されて前記モータ室内に配置されるステータと、前記駆動軸が固定されて前記ステータ内に配置され、前記駆動軸とともに回転可能なロータとを有し、
前記ステータは、前記駆動軸の駆動軸心方向に延びる筒状をなすステータコアと、前記第1インバータ側端子に接続される第1コネクタと、前記第2インバータ側端子に接続される第2コネクタと、前記第3インバータ側端子に接続される第3コネクタとを有し、
前記ステータコアには、前記ステータコアの内周面側から前記ステータコアの外周面側に向かって凹設されてなる複数のスロットが設けられ、
前記ステータは、前記第1インバータ側端子と電気的に接続される第1導線を前記各スロットに集中巻きすることで形成された複数の第1コイルと、
前記第2インバータ側端子と電気的に接続される第2導線を前記各スロットに集中巻きすることで形成された複数の第2コイルと、
前記第3インバータ側端子と電気的に接続される第3導線を前記各スロットに集中巻きすることで形成された複数の第3コイルとをさらに有し、
前記各第1コイルは互いに直列に接続され、
前記各第2コイルは互いに直列に接続され、
前記各第3コイルは互いに直列に接続され、
直列に接続された前記各第1コイルにおいて、前記第1インバータ側端子に電気的に最も近い前記第1コイルを第1特定コイルとし、
直列に接続された前記各第2コイルにおいて、前記第2インバータ側端子に電気的に最も近い前記第2コイルを第2特定コイルとし、
直列に接続された前記各第3コイルにおいて、前記第3インバータ側端子に電気的に最も近い前記第3コイルを第3特定コイルとし、
前記第1特定コイルは第1リード線を介して前記第1コネクタと接続され、
前記第2特定コイルは第2リード線を介して前記第2コネクタと接続され、
前記第3特定コイルは第3リード線を介して前記第3コネクタと接続され、
前記ハウジングには、前記駆動軸心を通って前記モータ室内を水平の平面状に延びる仮想の基準面が規定され、
前記第1特定コイル、前記第2特定コイル及び前記第3特定コイルは、前記駆動軸心及び前記基準面よりも重力方向の上側に配置され
前記第1コネクタの一部、前記第2コネクタの一部及び前記第3コネクタの一部は、前記駆動軸心及び前記基準面よりも重力方向の下側に配置され、前記第1コネクタの残りの部分、前記第2コネクタの残りの部分及び前記第3コネクタの残りの部分は、前記駆動軸心及び前記基準面よりも重力方向の上側に配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の電動圧縮機では、モータ室内を冷媒が通過するため、この冷媒によってモータ機構の冷却を行うことが可能となる。この一方で、モータ室内には、冷媒に含まれた潤滑油と、液冷媒とが貯留され得ることになる。ここで、これらの潤滑油及び液冷媒は、重力によってモータ室における重力方向の下方側に貯留されることになる。なお、これらの潤滑油及び液冷媒には水分が不可避的に混入しているため、水分が混入していない場合に比べて、体積抵抗率が低下している。
【0015】
さらに、この電動圧縮機では、各第1コイルは、それぞれ直列に接続されている。同様に、各第2コイル及び各第3コイルについても、それぞれ直列に接続されている。そして、各第1コイルは第1相と電気的に接続されており、各第2コイルは第2相と電気的に接続されており、各第3コイルは第3相と電気的に接続されている。
【0016】
ここで、各第1コイルを並列に接続し、第1相からこれらの各第1コイルに通電を行った場合、各第1コイルにおける電圧は等しくなる。このため、第1相からこれらの各第1コイルに高電圧を印加した場合には、全ての第1コイルに等しく高電圧が印加されることになる。これに対し、各第1コイルを直列に接続し、第1相からこれらの各第1コイルに通電を行った場合には、各第1コイルにおいて、第1相に電気的に最も近い第1コイル、つまり、第1相から各第1コイルへの給電方向において、最も上流側に位置する第1特定コイルにおける電圧は、第1特定コイル以外の第1コイルの電圧よりも大きくなる。換言すれば、第1特定コイル以外の第1コイルに印加される電圧は、第1特定コイルよりも小さくなる。発明者の検証によれば、第1相から各第1コイルに印加される全電圧の70%~80%程度が第1特定コイルに印加され、残りの20%~30%程度の電圧が第1特定コイル以外の第1コイルに印加される。さらに、第1特定コイルから離れるにつれて、第1コイルに印加される電圧も次第に小さくなる。各第2コイル及び各第3コイルについても同様である。
【0017】
そして、この電動圧縮機では、モータ室内にステータが設けられた状態で、これらの第1特定コイル、第2特定コイル及び第3特定コイルが駆動軸心よりも上側に配置されている。つまり、第1~3特定コイルは、モータ室内において、駆動軸心よりも重力方向の上側に位置する。このため、この電動圧縮機では、第1~第3特定コイルがモータ室内に貯留された潤滑油及び液冷媒に浸漬し難い。これにより、第1特定コイルでの電圧が高くても、第1導線からの漏電を抑制することができる。第2、3特定コイルについても同様であり、第2、3導線からの漏電を抑制することができる。ここで、第1~3導線からの漏電、すなわち第1~第3特定コイルからの漏電は、貯留された潤滑油及び液冷媒から析出する水分を介して発生し易いものの、このような水分は、元々、電動圧縮機の外部に存在しており、それが潤滑油及び液冷媒に混入している。このため、潤滑油及び液冷媒に対し、析出量がモータ室内において駆動軸心を超えるような大量の水分が混入することは一般的に考えられない。このため、駆動軸心より上側に第1~第3特定コイルが位置していれば、上記のような漏電の発生を充分に抑制することができる。
【0018】
一方、この電動圧縮機では、第1~第3特定コイル以外の第1~第3コイルは、潤滑油及び液冷媒に浸漬する場合があり得る。しかし、上記のように、第1~第3特定コイル以外の第1~第3コイルに印加される電圧は、第1~第3特定コイルよりも小さい。このため、潤滑油及び液冷媒に浸漬した状態にある第1~第3コイルについても、第1~3導線からの漏電を抑制することができる。
【0019】
したがって、本発明の電動圧縮機は、高電圧化に対応しつつ、優れた耐久性を発揮する。
【0020】
ハウジングには、駆動軸心よりも上側に位置して外部とモータ室とを連通する吸入口が形成され得る。そして、第1特定コイル、第2特定コイル及び第3特定コイルは、吸入口よりも上側に配置されていることが好ましい。
【0021】
この場合、モータ室内には吸入口を通じて冷媒が吸入される。ここで、モータ室内において吸入口の位置を超えて潤滑油及び液冷媒が貯留されようとすると、潤滑油及び液冷媒は、吸入口を通じてハウジングの外部に排出されることになる。このため、モータ室内に貯留される潤滑油及び液冷媒の液面は、吸入口の位置を超え難い。これにより、第1~第3特定コイルが吸入口より上側に位置することにより、第1~第3特定コイルは潤滑油及び液冷媒に浸漬し難くなる。このため、この電動圧縮機では、第1~3導線からの漏電を好適に防止することができるため、耐久性をより高くすることができる。
【0022】
本発明の電動圧縮機は車両に搭載され得る。そして、ハウジングには、車両に固定されることにより、電動圧縮機が車両に搭載された際におけるモータ室の上下方向を規定する取付部が設けられていることが好ましい。この場合には、取付部によって、ハウジング、ひいては電動圧縮機を車両に好適に固定することができる。また、第1~第3特定コイルが駆動軸心よりもモータ室の上側に位置することにより、第1~第3特定コイルが潤滑油及び液冷媒に浸漬し難くなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電動圧縮機は、高電圧化に対応しつつ、優れた耐久性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、実施例の電動圧縮機を示す模式図である。
図2図2は、実施例の電動圧縮機に係り、図1のX1部分を示す要部拡大断面図である。
図3図3は、実施例の電動圧縮機に係り、図2のA-A断面を示す断面図である。
図4図4は、実施例の電動圧縮機に係り、ステータとインバータとの接続を示す模式図である。
図5図5は、実施例の電動圧縮機に係り、第1コイル群、第2コイル群及び第3コイル群等を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。実施例の電動圧縮機は、具体的には、スクロール型電動圧縮機である。
【0026】
図1に示すように、実施例の電動圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸3と、モータ機構5と、圧縮機構7と、インバータ9とを備えている。ハウジング1は、ハウジング本体11と、リヤカバー13と、インバータカバー15とを有している。この電動圧縮機は、図示しない車両に搭載されており、車両の冷凍回路を構成している。
【0027】
本実施例では、図1及び図2に示す実線矢印によって、電動圧縮機の前後方向及び上下方向を規定している。また、図3では、図1に対応して、電動圧縮機の上下方向を規定しているとともに、電動圧縮機の左右方向、すなわち幅方向を規定している。ここで、電動圧縮機の前後方向、上下方向及び左右方向は、それぞれ車両の前後方向、上下方向及び左右方向に対応している。つまり、この電動圧縮機は、自己の前方側が車両の前方側となり、自己の後方側が車両の後方側となる姿勢で車両に搭載されている。また、この電動圧縮機は、自己の上方側を含め、後述するモータ室111の上方側が車両の上方側となり、自己の下方側を含め、モータ室111の下方側が車両の下方側となる姿勢で車両に搭載されている。なお、搭載される車両に対応して、電動圧縮機は、自己の前方側が車両の後方側となる姿勢となっていても良い。また、搭載される車両に対応して、電動圧縮機は、自己の前方側が車両の左側又は右側に向いた姿勢となっても良い。
【0028】
図2に示すように、ハウジング本体11は、前壁11aと周壁11bとを有している。前壁11aは、ハウジング本体11の前端に位置しており、ハウジング本体11の径方向に延びている。周壁11bは、前壁11aと接続しており、前壁11aから駆動軸3の駆動軸心O方向で後方に向かって延びている。これらの前壁11aと周壁11bとにより、ハウジング本体11は、駆動軸心O方向に延びる有底の略円筒状に形成されている。ここで、駆動軸心O方向は、電動圧縮機の前後方向と平行である。
【0029】
また、図2及び図3に示すように、これらの前壁11aと周壁11bとによって、ハウジング本体11の内部には、モータ室111が形成されている。モータ室111は、前壁11a及び周壁11bによって、ハウジング本体11、ひいては電動圧縮機の外部から区画されている。
【0030】
さらに、ハウジング本体11には、仮想の基準面Sが規定されている。図3に示すように、基準面Sは、前記駆動軸心Oを通ってモータ室111内を平面状に延びている。より具体的には、基準面Sは、駆動軸心Oと重なりつつ、モータ室111内を水平に延びる平面形状をなしている。
【0031】
また、図1図3に示すように、周壁11bには、吸入口11cと、第1取付足11dと、第2取付足11eと、複数のボルト孔11fとが形成されている。第1取付足11d及び第2取付足11eは、本発明における「取付部」の一例である。なお、図1では、複数のボルト孔11fのうちの一つを図示している。
【0032】
吸入口11cは、周壁11bにおいて、モータ室111の上方側、ひいては車両の上方側となる位置に配置されている。より具体的には、吸入口11cは、周壁11bにおいて、基準面S及び駆動軸心Oよりもモータ室111の上方側となる位置に配置されている。図3に示すように、吸入口11cは、ハウジング本体11の径方向で電動圧縮機の左側に延びており、ハウジング本体11の外部と、モータ室111とを連通している。また、吸入口11cは、配管(図示略)によって蒸発器(図示略)と接続されている。これにより、モータ室111内には、蒸発器を経た低温かつ低圧の冷媒ガスが吸入される。つまり、モータ室111は吸入室としても機能する。ここで、吸入口11cは、周壁11bにおいて基準面S及び駆動軸心Oよりも車両の上方側に配置されているため、蒸発器を経た冷媒ガスは、基準面S及び駆動軸心Oよりも車両の上方側からモータ室111内に吸入される。
【0033】
一方、モータ室111内において、基準面Sよりも車両の下方側となる個所には、貯留域12が設けられている。貯留域12には、潤滑油及び液冷媒が貯留されるようになっている。このように、このモータ室111内では、吸入口11cと貯留域12とが基準面Sを挟んで上下方向に離間している。ここで、モータ室111内に占める貯留域12の割合は、潤滑油及び液冷媒の貯留量によって変化するものの、この電動圧縮機では、貯留域12が基準面Sや吸入口11cよりも車両の上方側まで形成されることがないように、すなわち、貯留域12に貯留された際の潤滑油及び液冷媒の液面が駆動軸心Oや吸入口11cを超えることがないように、潤滑油の量やモータ室111の大きさ等が設計されている。
【0034】
第1取付足11dは、吸入口11cと同様、周壁11bにおいて基準面S及び駆動軸心Oよりも車両の上方側となる位置に配置されている。換言すれば、吸入口11cは、周壁11bにおいて基準面S及び駆動軸心Oよりも第1取付足11d側に位置している。また、第1取付足11dは、周壁11bにおいて、吸入口11cよりも車両の上方側となる位置に配置されている。一方、第2取付足11eは、周壁11bにおいて、基準面S及び駆動軸心Oよりも車両の下方側となる位置に配置されている。つまり、第1取付足11dと第2取付足11eとは、周壁11bにおいて、基準面S及び駆動軸心Oを挟んで上下に配置されている。そして、吸入口11cは、周壁11bにおいて、第1取付足11dと第2取付足11eとの間であって、基準面S及び駆動軸心Oよりもモータ室111の上方側、すなわち車両の上方側に位置している。
【0035】
図3に示すように、第1取付足11dは、周壁11bからハウジング本体11の径方向で上方に向かって突出しているとともに、ハウジング本体11の左右方向に延びている。第2取付足11eは、周壁11bからハウジング本体11の径方向で下方に向かって突出しているとともに、また、第1取付足11d及び第2取付足11eは、ハウジング本体11の左右方向に延びている。第1取付足11d及び第2取付足11eには、それぞれ第1取付孔112a及び第2取付孔112bが形成されている。第1取付孔112aは第1取付足11dを左右方向に貫通しており、第2取付孔112bは第2取付足11eを左右方向に貫通している。なお、第1取付足11d及び第2取付足11eの形状や個数は適宜設計可能である。
【0036】
第1取付足11d及び第2取付足11eは、それぞれ第1取付孔112a及び第2取付孔112bに挿通された取付ボルト(図示略)を通じて、車両のエンジンやフレーム等(いずれも図示略)に締結される。これにより、第1取付足11d及び第2取付足11eは、ハウジング本体11、ひいては電動圧縮機を車両のエンジンやフレーム等に取り付ける。この際、電動圧縮機は、前後方向に水平な状態で車両に取り付けられる。ここで、第2取付足11eは、周壁11bにおいて、基準面Sよりも車両の下方側となる位置に配置されているため、第2取付足11eは、第1取付足11dよりも下方側で車両に取り付けられることになる。
【0037】
このように、第1取付足11d及び第2取付足11eによって、電動圧縮機が車両のエンジンやフレーム等に取り付けられることにより、電動圧縮機では、モータ室111の上方側が車両の上方側となっており、貯留域12を含め、モータ室111の下方側が車両の下方側となっている。つまり、第1取付足11d及び第2取付足11eによって、モータ室111の上下方向、ひいては、車両に取り付けられた際の電動圧縮機の上下方向が規定されている。そして、吸入口11cが基準面S及び駆動軸心Oよりも車両の上方側に位置し、貯留域12が吸入口11cの他、基準面S及び駆動軸心Oよりも車両の下方側に位置するようになっている。また、この電動圧縮機は、車両に取り付けられた状態において、車両とは独立して姿勢を変更できなくなっている。このため、貯留域12に貯留された潤滑油や液冷媒が吸入口11c側に向かって流通したり、潤滑油や液冷媒が吸入口11cから外部に流出したりすることが防止されている。
【0038】
図1に示すように、各ボルト孔11fは、駆動軸心O方向に延びており、ハウジング本体11の後端に開口している。
【0039】
リヤカバー13は、駆動軸心O方向でハウジング本体11の後方側に位置している。リヤカバー13は、各ボルト孔11fに挿通された複数のボルト13aによって、ハウジング本体11の後端に固定されている。なお、図1では、複数のボルト13aのうちの一つを図示している。リヤカバー13は有底の筒状に形成されており、内部に吐出室(図示略)が形成されている。吐出室は、配管(図示略)によって凝縮器(図示略)と接続されている。
【0040】
インバータカバー15は、駆動軸心O方向でハウジング本体11の前方側に位置している。インバータカバー15は図示しない複数のボルトによって、ハウジング本体11の前壁11aに固定されている。インバータカバー15は有底の筒状に形成されており、内部にインバータ9が収容されている。
【0041】
図4及び図5に示すように、インバータ9は、第1相としての第1インバータ側端子9aと、第2相としての第2インバータ側端子9bと、第3相としての第3インバータ側端子9cとを有している。そして、インバータ9は、これらの第1~第3インバータ側接続端子9a~9cによって、モータ機構5、より詳細には、後述するステータ5aと電気的に接続されている。つまり、インバータ9とモータ機構5とは、3相交流によって通電可能に接続されている。また、インバータ9は、電源コネクタ(図示略)を通じて、車両に搭載されたバッテリ(図示略)と電気的に接続されている。
【0042】
図1及び図2に示すように、駆動軸3は、モータ室111内を含め、ハウジング本体11の内部に設けられている。図2に示すように、駆動軸3は、駆動軸心O方向に延びる円柱状をなしており、小径部3aと、大径部3bと、テーパ部3cとを有している。小径部3aは、駆動軸3の前端側に位置している。大径部3bは、小径部3aよりも後方側に位置している。大径部3bは、小径部3aよりも大径に形成されている。テーパ部3cは、小径部3aと大径部3bとの間に位置している。テーパ部3cは前端で小径部3aと接続している。そして、テーパ部3cは、後方に向かうにつれて拡径しつつ、後端で大径部3bに接続している。
【0043】
駆動軸3は、小径部3aがラジアル軸受19を介して、ハウジング本体11の前壁11aに回転可能に支承されている。これにより、駆動軸3は、モータ室111内で駆動軸心O周りに回転可能となっている。
【0044】
モータ機構5は、モータ室111内に設けられている。モータ機構5は、ステータ5aとロータ5bとを有している。ステータ5aは、モータ室111内において、周壁11bの内周面に固定されている。
【0045】
図2及び図3に示すように、ステータ5aは、ステータコア50と、第1コネクタ51と、第2コネクタ52と、第3コネクタ53と、5つの第1コイル54と、5つの第2コイル55と、5つの第3コイル56とを有している。なお、図2では説明を容易にするため、各第1~第3コイル54~56の一部を省略して図示している他、第1~第3コネクタ51~53の図示を省略している。
【0046】
図2に示すように、ステータコア50は、駆動軸心O方向で前後に延びる円筒状に形成されており、外周面50aと内周面50bとを有している。また、ステータコア50には複数のスロット50cが設けられている。各スロット50cは、それぞれ内周面50b側から外周面50a側に向かって凹設されている。また、図3に示すように、各スロット50cは、ステータコア50の周方向に等間隔で配置されているとともに、図2に示すように、駆動軸心O方向でステータコア50の前端から後端まで延びている。
【0047】
図3に示すように、第1コネクタ51は、第1コネクタハウジング51aと、第1リード線51bとを有している。第1コネクタハウジング51a内には、図示しない第1コネクタ側端子が収容されている。また、第1コネクタハウジング51aには、第1接続口510が形成されている。第1リード線51bは、一端側が第1コネクタハウジング51a内において第1コネクタ側端子と接続されており、他端側が第1コネクタハウジング51aの外部に延びている。詳細な図示を省略するものの、第1リード線51bは、樹脂製のチューブ内に挿通されている。ここで、第1コネクタ側端子の他、第1リード線51bと第1コネクタ側端子との接続部分は、第1コネクタハウジング51aによって密閉されている。
【0048】
第2コネクタ52及び第3コネクタ53は、それぞれ第1コネクタ51と同様の構成である。つまり、第2コネクタ52は第2コネクタハウジング52a及び第2リード線52bを有しており、第3コネクタ53は第3コネクタハウジング53a及び第3リード線53bを有している。また、第2コネクタハウジング52a及び第3コネクタハウジング53aには、第2接続口520及び第3接続口530がそれぞれ形成されている。そして、第2、3リード線52b、53bについても、それぞれ樹脂製のチューブ内に挿通されている。
【0049】
各第1~3コイル54~56は、各スロット50cに第1~3導線57a~57cが巻回されることでそれぞれ形成されている。より具体的には、各第1コイル54は、隣り合うスロット50c同士の間に複数回にわたって第1導線57aを巻回させる集中巻きによって形成されている。同様に、各第2コイル55は、隣り合うスロット50c同士の間に複数回にわたって第2導線57bを巻回させる集中巻きによって形成されており、各第3コイル56は、隣り合うスロット50c同士の間に複数回にわたって第3導線57cを巻回させる集中巻きによって形成されている。これにより、このステータ5aでは、各第1~第3コイル54~56がそれぞれ独立して存在している。また、各第1コイル54を形成する第1導線57aと、各第2コイル55を形成する第2導線57bと、各第3コイル56を形成する第3導線57cとは、いずれも同一の構成であり、絶縁被膜(図示略)によって被覆されている。なお、図2に示すように、各第1~第3コイル54~56において、ステータコア50よりも駆動軸心O方向に突出している部分は、コイルエンドとされている。
【0050】
ここで、各スロット50cがステータコア50の周方向に等間隔で配置されているため、図3に示すように、各第1~第3コイル54~56についても、ステータコア50の周方向に等間隔で配置されている。この際、各第1~第3コイル54~56は、ステータコア50の周方向において、第1コイル54、第2コイル55、第3コイル56、第1コイル54、第2コイル55、第3コイル56…の順で1つずつ順番に配置されている。なお、各第1~第3コイル54~56の個数や大きさは適宜設計可能である。
【0051】
図5に示すように、各第1コイル54同士は互いに直列に接続されている。これにより、このステータ5aでは、直列に接続された5つの第1コイル54によって、1つの第1コイル群540が形成されている。同様に、各第2コイル55同士は互いに直列に接続されており、1つの第2コイル群550を形成している。また、各第3コイル56同士は互いに直列に接続されており、1つの第3コイル群560を形成している。
【0052】
第1コイル群540では、一方側で第1導線57aが第1コネクタ51の第1リード線51bと接続されている。第2コイル群550では、一方側で第2導線57bが第2コネクタ52の第1リード線52bと接続されている。第3コイル群560では、一方側で第3導線57cが第3コネクタ53の第3リード線53bと接続されている。そして、第1コイル群540、第2コイル群550及び第3コイル群560は、他方側、つまり、第1~第3コネクタ51~53とは反対側で第1~3導線57a~57cが互いに結線されることにより、中性点10を構成している。
【0053】
ここで、第1コイル群540において、第1コネクタ51の第1リード線51bと接続される第1コイル54、つまり、第1コイル群540を構成する5つの第1コイル54のうち、第1リード線51bに直接接続される第1コイル54は、第1特定コイル54aとされている。同様に、第2コイル群550において、第2コネクタ52の第2リード線52bに接続される第2コイル55は、第2特定コイル55aとされている。そして、第3コイル群560において、第3コネクタ53の第3リード線53bに接続される第3コイル56は、第3特定コイル56aとされている。
【0054】
つまり、第1コイル群540において、第1特定コイル54aは第1リード線51bと接続することで第1コネクタ51と直接接続しており、他の第1コイル54は、第1特定コイル54aを介して第1コネクタ51と間接的に接続している。同様に、第2コイル群550において、第2特定コイル55aは第2リード線52bと接続することで第2コネクタ52と直接接続しており、他の第2コイル55は、第2特定コイル55aを介して第2コネクタ52と間接的に接続している。そして、第3コイル群560において、第3特定コイル56aは第3リード線53bと接続することで第3コネクタ53と直接接続しており、他の第3コイル56は、第3特定コイル56aを介して第3コネクタ53と間接的に接続している。
【0055】
図3に示すように、ステータ5aは、ステータコア50の外周面50aを周壁11bの内周面に固定させることにより、モータ室111内に固定されている。この際、ステータ5aは、各第1~第3コイル54~56のうち、第1~第3特定コイル54a~56aを吸入口11c及び駆動軸心Oよりもモータ室111の上方側、つまり、吸入口11c及び基準面Sよりも車両の上方側に配置させた状態でモータ室111内に固定されている。これにより、モータ室111内において、第1~第3特定コイル54a~56aは、吸入口11cや駆動軸心Oよりも貯留域12から遠い位置に配置されている。
【0056】
一方、第1~第3特定コイル54a~56a以外の第1~第3コイル54~56のうちの一部は、ステータ5aがモータ室111内に固定されることにより、貯留域12内に配置されて潤滑油及び液冷媒に浸漬した状態となっている。
【0057】
また、ステータ5aがモータ室111内に固定された状態で、第1~第3コネクタ51~53は、前壁11aに形成された接続開口(図示略)を通じてインバータ9の第1~第3インバータ側接続端子9a~9cに接続されている。具体的には、図4及び図5に示すように、第1コネクタ51は第1インバータ側端子9aに接続されており、第2コネクタ52は第2インバータ側端子9bに接続されており、第3コネクタ53は第3インバータ側端子9cに接続されている。この際、第1コネクタ51を第1インバータ側端子9aに接続するに当たっては、第1接続口510によって、第1コネクタハウジング51a内の第1コネクタ側端子を第1インバータ側端子9aに接続させている。第2、第3コネクタ52、53を第2、第3インバータ側接続端子9b、9cに接続するに当たっても同様である。こうして、第1インバータ側端子9aと第1コイル群540とが通電可能に接続されており、第2インバータ側端子9bと第2コイル群550とが通電可能に接続されている。そして、第3インバータ側端子9cと第3コイル群560とが通電可能に接続されている。
【0058】
また、第1導線57aは、第1コネクタ51を通じて第1インバータ側端子9aに電気的に接続された状態となっており、第2導線57bは、第2コネクタ52を通じて第2インバータ側端子9bに電気的に接続された状態となっており、第3導線57cは、第3コネクタ53を通じて第3インバータ側端子9cに電気的に接続された状態となっている。これにより、第1コイル群540において、第1特定コイル54aは、第1インバータ側端子9aに電気的に最も近い側に位置している。同様に、第2コイル群550において、第2特定コイル55aは、第2インバータ側端子9bに電気的に最も近い側に位置している。そして、第3コイル群560において、第3特定コイル54cは、第3インバータ側端子9cに電気的に最も近い側に位置している。
【0059】
図2及び図3に示すように、ロータ5bは、ステータ5a内に配置されている。ロータ5bは、複数枚の鋼板を駆動軸心O方向に積層することによって形成されており、円筒状をなしている。また、ロータ5bには永久磁石(図示略)が設けられている。ロータ5bには、駆動軸3の大径部3bが焼き嵌めによって固定されている。これにより、ロータ5bは駆動軸3と一体化されており、駆動軸3と一体で駆動軸心O周りに回転可能となっている。
【0060】
図1に示す圧縮機構7としては、公知のスクロール型圧縮機構が採用されている。圧縮機構7は、ハウジング本体11内において、モータ室111よりも後方側で周壁11bの内周面に固定された固定スクロールと、固定スクロールに対向して配置され、駆動軸3によって回転可能な可動スクロールとを有している。固定スクロールと可動スクロールとは噛合して両者間に圧縮室を形成している。なお、固定スクロール、可動スクロール及び圧縮室については、いずれも図示を省略する。
【0061】
以上のように構成されたこの電動圧縮機では、図2及び図3の破線矢印で示すように、蒸発器を経た低温低圧の冷媒ガスが吸入口11cからモータ室111内に吸入される。この際、冷媒ガスは、基準面S及び駆動軸心Oよりもモータ室111、ひいては車両の上方側となる位置からモータ室111内に吸入される。そして、冷媒ガスに含まれる潤滑油は、モータ室111内で冷媒ガスから分離される。こうして、潤滑油が分離された冷媒ガスは、ステータ5aとロータ5bとの間や各第1~第3コイル54~56の間を流通しつつ、圧縮機構7側に向かってモータ室111内を通過する。この際、モータ機構5等は冷媒ガスによって冷却される。一方、冷媒ガスから分離された潤滑油は、重力によって、モータ室111内における重力方向の下方側、つまり、モータ室111内における車両の下方側に向かって流通し、貯留域12に貯留される。こうして、貯留域12に貯留された潤滑油によって、駆動軸3や圧縮機構7等が潤滑されるようになっている。さらに、モータ室111内に吸入された冷媒ガスの一部は液化して液冷媒となることで、潤滑油とともに貯留域12に貯留される。
【0062】
また、この電動圧縮機では、インバータ9がステータ5aに対して給電を行いつつ、モータ機構5の駆動制御を行う。具体的には、第1~第3コイル群540~560には、それぞれ第1~第3インバータ側接続端子9a~9c及び第1~第3コネクタ51~53を通じて、交流電流が供給される。つまり、第1特定コイル54aを含め各第1コイル54は、第1インバータ側接続端子9aから交流電流が給電され、第2特定コイル55aを含め各第2コイル55は、第2インバータ側接続端子9bから交流電流が給電される。そして、第3特定コイル56aを含め各第3コイル56は、第3インバータ側接続端子9cから交流電流が給電される。この際、第1~第3インバータ側接続端子9a~9cから給電される交流電流の位相は互いに異なっている。
【0063】
こうして、ステータ5aでは、第1~第3コイル群540~560が順に磁界を生じさせる。このため、ステータコア50内でロータ5bが駆動軸3とともに駆動軸心O周りに回転する。こうして、モータ機構5が駆動軸3を駆動軸心O周りに回転させることで、圧縮機構7が作動する。このため、モータ室111内を圧縮機構7側に向かって流通する冷媒ガスが圧縮機構7に導入されて圧縮室で圧縮される。そして、圧縮された冷媒ガスが吐出室から吐出口を経て凝縮器に吐出される。
【0064】
ここで、この電動圧縮機では、インバータ9からステータ5aに対して給電が行われることにより、ステータ5aには、800ボルト程度の高電圧が印加される。この点、この電動圧縮機では、ステータ5aにおいて、各第1~第3コイル54~56がそれぞれ集中巻きによって形成されており、互いに独立して存在している。これにより、この電動圧縮機では、分布巻きによって各第1~第3コイル54~56が形成されている場合とは異なり、各第1~第3コイル54~56同士がコイルエンドで互いに接近することがない。このため、上記のような高電圧が印加された場合であっても、各第1~第3コイル54~56において、電子の移動による部分放電が生じ難くなっている。このため、この電動圧縮機では、高電圧が印加されても、各第1~第3コイル54~56において導線57の絶縁被膜が損傷し難くなっている。
【0065】
さらに、この電動圧縮機では、各第1コイル54は、それぞれ直列に接続されることにより第1コイル群540を形成している。同様に、各第2コイル55及び各第3コイル56についても、それぞれ直列に接続されることにより第2コイル群550及び第3コイル群560を形成している。そして、第1~第3コイル群540~560において、第1~第3コネクタ51~53に直接接続される第1~第3コイル54~56は、それぞれ第1~第3特定コイル54a~56aとされている。
【0066】
このように、第1~第3コイル群540~560において、各第1~第3コイル54~56が直列に接続されることにより、この電動圧縮機では、ステータ5a、ひいては第1~第3コイル群540~560に通電を行った際、第1コイル群540では、第1コネクタ51側、ひいてはインバータ9側から、第2、3コイル群550、560との結線側、すなわち中性点10側に向かうにつれて、電位が次第に小さくなる。このため、第1コイル群540において、第1特定コイル54aに印加される電圧は、他の第1コイル54に印加される電圧よりも大きくなるものの、その分、第1特定コイル54a以外の第1コイル54に印加される電圧は小さくなる。また、第1コイル群540では、第1特定コイル54aから離れるにつれて、第1コイル54に印加される電圧も次第に小さくなるため、中性点10に最も近い第1コイル54に印加される電圧は最も小さくなる。第2コイル群550及び第3コイル群560についても同様である。
【0067】
ところで、潤滑油及び冷媒ガスには、配管や蒸発器等を流通する際に、電動圧縮機の外部の水分が不可避的に混入してしまう。このため、冷媒ガスとともに吸入口11cからモータ室111内に吸入される潤滑油、ひいては貯留域12に貯留される潤滑油及び液冷媒には水分が含まれている。
【0068】
この点、この電動圧縮機では、モータ室111内にステータ5aが設けられた状態で、これらの第1特定コイル54a、第2特定コイル55a及び第3特定コイル56aが吸入口11c及び駆動軸心Oよりもモータ室111の上方側に位置している。つまり、モータ室111内において、第1~第3特定コイル54a~56aは、吸入口11cや駆動軸心Oよりも貯留域12から離れて配置されている。
【0069】
このため、この電動圧縮機では、第1~第3特定コイル54a~56aは貯留域12の潤滑油及び液冷媒に浸漬し難くなっている他、貯留域12の潤滑油や液冷媒が付着し難くなっている。これにより、この電動圧縮機では、電圧が高くなる第1~第3特定コイル54a~56aについて、水分が混入し体積抵抗率が低下した潤滑油及び液冷媒に浸漬することを回避できる他、体積抵抗率が低下した潤滑油及び液冷媒の影響を受け難くすることが可能となっている。こうして、この電動圧縮機では、第1~第3特定コイル54a~56aでの電圧が高くても、第1~3導線57a~57cからの漏電を抑制することが可能となっている。
【0070】
一方、この電動圧縮機では、第1~第3コイル群540~560において、第1~第3特定コイル54a~56a以外の第1~第3コイル54~56は、第1~第3特定コイル54a~56aよりも貯留域12に近い位置に配置される。このため、第1~第3特定コイル54a~56a以外の第1~第3コイル54~56の一部は、貯留域12の潤滑油及び液冷媒、すなわち水分が混入した潤滑油及び液冷媒に浸漬する。しかし、上記のように、第1~第3特定コイル54a~56a以外の第1~第3コイル54~56に印加される電圧は、第1~第3特定コイル54a~56aよりも小さい。このため、たとえ第1~第3特定コイル54a~56a以外の第1~第3コイル54~56が潤滑油及び液冷媒に浸漬した状態にあっても、これらにおいて、第1~3導線57a~57cからの漏電を抑制することが可能となっている。
【0071】
さらに、この電動圧縮機では、第1~第3コネクタ51~53が貯留域12の潤滑油及び液冷媒に浸漬する場合があるものの、第1~第3コネクタ51~53では、第1~第3コネクタハウジング51a~53aによって、第1~第3コネクタ側接続端子及び第1~第3コネクタ側接続端子と第1~第3リード線51b~53bと接続部分が密閉されている。このため、たとえ第1~第3コネクタ51~53が貯留域12の潤滑油及び液冷媒に浸漬した状態となった場合であっても、第1~第3コネクタ51~53からの漏電を抑制することできる。
【0072】
したがって、実施例の電動圧縮機は、高電圧化に対応しつつ、優れた耐久性を発揮する。
【0073】
特に、この電動圧縮機では、第1~第3コネクタハウジング51a~53aによって、第1~第3コネクタ側接続端子及び第1~第3コネクタ側接続端子と、第1~第3リード線51b~53bとを接続する部分を密閉していることにより、第1~第3コネクタ51~53での潤滑油及び液冷媒に起因する漏電の発生を防止している。このため、この電動圧縮機では、第1~第3特定コイル54a~56aを含め、第1~第3コイル54~56に別途にコーティング処理等を施して、第1~第3コイル54~56での潤滑油及び液冷媒に起因する漏電の発生を防止する場合に比べて、ステータ5aの製造を容易化することが可能となっている。これにより、この電動圧縮機では、製造コストの低廉化も可能となっている。
【0074】
ここで、この電動圧縮機では、貯留域12に貯留された際の潤滑油及び液冷媒の液面が吸入口11cや駆動軸心Oを超えることがないように、潤滑油の量やモータ室111の大きさ等が設計されている。さらに、この電動圧縮機では、第1、2取付足11d、11eによって車両に取り付けられた状態において、車両とは独立して姿勢を変更できなくなっている。これらのため、この電動圧縮機では、貯留域12に貯留された潤滑油及び液冷媒の液面が吸入口11cよりも重力方向の上側、つまり、モータ室111の上方側に位置するような事態がほぼ生じることがない。
【0075】
そして、この電動圧縮機では、モータ室111内において、第1特定コイル54a、第2特定コイル55a及び第3特定コイル56aが吸入口11cよりもモータ室111の上方側、ひいては車両の上方側に位置している。こうして、この電動圧縮機では、第1~第3特定コイル54a~56aが潤滑油及び液冷媒に浸漬することが好適に回避されており、結果として、第1~3導線57a~57cからの漏電を好適に防止することが可能となっている。
【0076】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0077】
例えば、第1~第3コネクタ51~53は、吸入口11c及び駆動軸心Oよりもモータ室111の上方側となる位置でインバータ9の第1~第3インバータ側接続端子9a~9cに接続される構成としても良い。この場合には、第1~第3特定コイル54a~56aに加えて、第1~第3コネクタ51~53も貯留域12から離れて配置されるため、第1~第3コネクタ51~53について、潤滑油及び液冷媒に起因する漏電の発生をより好適に防止することができる。
【0078】
また、圧縮機構7として、ベーン式圧縮機構や斜板式圧縮機構等を採用しても良い。
【0079】
さらに、吸入口11cは、第1~第3特定コイル54a~56aよりもモータ室111の上方側に形成されていても良い。また、吸入口11cは、基準面S及び駆動軸心Oよりもモータ室111の下方側に形成されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は車両等の空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…ハウジング
3…駆動軸
5…モータ機構
5a…ステータ
5b…ロータ
7…圧縮機構
9…インバータ
9a…第1インバータ側接続端子(第1相)
9b…第2インバータ側接続端子(第2相)
9c…第3インバータ側接続端子(第3相)
11c…吸入口
11d…第1取付足(取付部)
11e…第2取付足(取付部)
12…貯留域
50…ステータコア
54…第1コイル
54a…第1特定コイル
55…第2コイル
55a…第2特定コイル
56…第3コイル
56a…第3特定コイル
57a…第1導線
57b…第2導線
57c…第3導線
111…モータ室
O…駆動軸心
図1
図2
図3
図4
図5