(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】監視装置、監視システム、監視方法及び監視プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/83 20060101AFI20230912BHJP
G01R 33/10 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01N27/83
G01R33/10
(21)【出願番号】P 2020063687
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100188307
【氏名又は名称】太田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 文兵
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 和紀
(72)【発明者】
【氏名】三戸 慎也
(72)【発明者】
【氏名】武田 翔馬
(72)【発明者】
【氏名】潮崎 正一
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-093211(JP,A)
【文献】特開2018-081070(JP,A)
【文献】特開2017-194404(JP,A)
【文献】特開2017-003574(JP,A)
【文献】特表2019-518976(JP,A)
【文献】特開平06-094643(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027043(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0245780(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01R 33/00-33/26
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象の発生する磁界に関するデータに基づいて前記監視対象の状態を判定する監視装置であって、
制御部と、出力部とを備え、
前記制御部は、
監視対象の状態が正常状態であると判明している場合における、前記監視対象の複数の部分の測定データを参照データとして取得し、
前記監視対象の状態が不明である場合における前記測定データを判定対象データとして取得し、
前記参照データと前記判定対象データとの差分に基づく判定指標を算出し、
前記判定指標の度数分布に基づいて、前記判定対象データが取得されたときの前記監視対象の状態が正常状態であるか異常状態であるか判定し、
前記出力部は、前記制御部が前記監視対象の状態が異常状態であると判定した場合に、前記監視対象の状態が異常状態であることを表す情報を出力する、監視装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記判定指標の度数分布を近似する単峰性分布の情報量規準と多峰性分布の情報量規準とを算出し、前記単峰性分布の情報量規準の値と前記多峰性分布の情報量規準の値とに基づいて前記監視対象の状態を判定する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記単峰性分布の情報量規準の値と前記多峰性分布の情報量規準の値との差がAIC閾値未満である場合、前記監視対象の状態が正常状態であると判定し、
前記単峰性分布の情報量規準の値と前記多峰性分布の情報量規準の値との差が前記AIC閾値以上である場合、前記監視対象の状態が異常状態であると判定する、請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記判定指標の度数分布において、前記判定指標として階級閾値を含む階級よりも大きい階級の度数が度数閾値以上である場合に前記監視対象の状態が異常状態であると判定する、請求項1に記載の監視装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記監視対象の状態が正常状態であると判定した場合に、前記判定対象データによって前記参照データを置き換える、請求項1から4までのいずれか一項に記載の監視装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の監視装置と、
前記監視対象から前記測定データを測定する測定装置と
を備える監視システム。
【請求項7】
監視対象の発生する磁界に関するデータに基づいて前記監視対象の状態を判定する監視装置が実行する監視方法であって、
監視対象の状態が正常状態であると判明している場合における、前記監視対象の複数の部分の測定データを参照データとして取得するステップと、
前記監視対象の状態が不明である場合における前記測定データを判定対象データとして取得するステップと、
前記参照データと前記判定対象データとの差分に基づく判定指標を算出するステップと、
前記判定指標の度数分布に基づいて、前記判定対象データが取得されたときの前記監視対象の状態が正常状態であるか異常状態であるか判定するステップと、
前記監視対象の状態が異常状態であると判定された場合に、前記監視対象の状態が異常状態であることを表す情報を出力するステップと
を含む、監視方法。
【請求項8】
監視対象の発生する磁界に関するデータに基づいて前記監視対象の状態を判定する監視装置のプロセッサに実行させるステップを含む監視プログラムであって、
監視対象の状態が正常状態であると判明している場合における、前記監視対象の複数の部分の測定データを参照データとして取得するステップと、
前記監視対象の状態が不明である場合における前記測定データを判定対象データとして取得するステップと、
前記参照データと前記判定対象データとの差分に基づく判定指標を算出するステップと、
前記判定指標の度数分布に基づいて、前記判定対象データが取得されたときの前記監視対象の状態が正常状態であるか異常状態であるか判定するステップと、
前記監視対象の状態が異常状態であると判定された場合に、前記監視対象の状態が異常状態であることを表す情報を出力するステップと
を前記プロセッサに実行させる、監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、監視装置、監視システム、監視方法及び監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品の磁場を解析して物品の欠陥を検出するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているシステムは、監視対象となる物品の磁場データから2次元マップのデータ点を生成し、あらかじめ定義されたパターンと照合することによって物品の状態の変化を物品の欠陥として検出している。パターンの照合よりも簡便に、監視対象の状態を判定することが求められる。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、監視対象の状態を簡便に判定できる監視装置、監視システム、監視方法及び監視プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る監視装置は、監視対象の発生する磁界に関するデータに基づいて前記監視対象の状態を判定する。前記監視装置は、制御部と、出力部とを備える。前記制御部は、監視対象の状態が正常状態であると判明している場合における、前記監視対象の複数の部分の測定データを参照データとして取得し、前記監視対象の状態が不明である場合における前記測定データを判定対象データとして取得し、前記参照データと前記判定対象データとの差分に基づく判定指標を算出し、前記判定指標の度数分布に基づいて、前記判定対象データが取得されたときの前記監視対象の状態が正常状態であるか異常状態であるか判定する。前記出力部は、前記制御部が前記監視対象の状態が異常状態であると判定した場合に、前記監視対象の状態が異常状態であることを表す情報を出力する。このようにすることで、監視装置は、パターンマッチングに基づいて判定する場合と比べて処理負荷を低減できる。また、監視対象の構成が変更された場合にパターンマッチングのためのデータを変更する処理が不要となる。その結果、監視対象の状態が簡便に判定される。
【0007】
一実施形態に係る監視装置において、前記制御部は、前記判定指標の度数分布を近似する単峰性分布の情報量規準と多峰性分布の情報量規準とを算出し、前記単峰性分布の情報量規準の値と前記多峰性分布の情報量規準の値とに基づいて前記監視対象の状態を判定してもよい。このようにすることで、センサが測定する測定データが全体としてドリフトした場合でも、監視対象の状態の判定精度が低下しにくくなる。その結果、監視対象の状態の判定精度が向上される。
【0008】
一実施形態に係る監視装置において、前記制御部は、前記単峰性分布の情報量規準の値と前記多峰性分布の情報量規準の値との差がAIC閾値未満である場合、前記監視対象の状態が正常状態であると判定し、前記単峰性分布の情報量規準の値と前記多峰性分布の情報量規準の値との差が前記AIC閾値以上である場合、前記監視対象の状態が異常状態であると判定してもよい。このようにすることで、監視装置は、判定指標の度数分布の近似が過剰に適合しないようにできる。その結果、監視装置は、監視対象の状態を誤って判定しにくくなり、判定精度を向上できる。
【0009】
一実施形態に係る監視装置において、前記制御部は、前記判定指標の度数分布において、前記判定指標として階級閾値を含む階級よりも大きい階級の度数が度数閾値以上である場合に前記監視対象の状態が異常状態であると判定してもよい。このようにすることで、監視装置10は、度数分布を解析するための処理負荷を低減できる。その結果、監視対象30の状態が簡便に判定される。
【0010】
一実施形態に係る監視装置において、前記制御部は、前記監視対象の状態が正常状態であると判定した場合に、前記判定対象データによって前記参照データを置き換えてもよい。このようにすることで、監視装置は、センサのドリフトの影響を低減して監視対象の状態を判定できる。その結果、監視対象の状態の判定精度が向上される。
【0011】
一実施形態に係る監視システムは、前記監視装置と、前記監視対象から前記測定データを測定する測定装置とを備える。このようにすることで、監視システムは、測定装置で取得した測定データをパターンマッチングして監視対象の状態を判定する場合と比べて処理負荷を低減できる。また、監視対象の構成が変更された場合に、パターンマッチングのためのデータを変更する処理が不要となる。また、監視対象の構成が変更された場合に、測定装置におけるセンサの配置が監視対象の構成の変更に対応して容易に変更される。その結果、監視対象の状態が簡便に判定される。
【0012】
一実施形態に係る監視方法は、監視対象の発生する磁界に関するデータに基づいて前記監視対象の状態を判定する監視装置によって実行される。前記監視方法は、監視対象の状態が正常状態であると判明している場合における、前記監視対象の複数の部分の測定データを参照データとして取得するステップと、前記監視対象の状態が不明である場合における前記測定データを判定対象データとして取得するステップと、前記参照データと前記判定対象データとの差分に基づく判定指標を算出するステップと、前記判定指標の度数分布に基づいて、前記判定対象データが取得されたときの前記監視対象の状態が正常状態であるか異常状態であるか判定するステップと、前記監視対象の状態が異常状態であると判定された場合に、前記監視対象の状態が異常状態であることを表す情報を出力するステップとを含む。このようにすることで、パターンマッチングに基づいて判定する場合と比べて処理負荷が低減される。また、監視対象の構成が変更された場合にパターンマッチングのためのデータを変更する処理が不要となる。その結果、監視対象の状態が簡便に判定される。
【0013】
一実施形態に係る監視プログラムは、監視対象の発生する磁界に関するデータに基づいて前記監視対象の状態を判定する監視装置のプロセッサに実行させるステップを含む。監視対象の状態が正常状態であると判明している場合における、前記監視対象の複数の部分の測定データを参照データとして取得するステップと、前記監視対象の状態が不明である場合における前記測定データを判定対象データとして取得するステップと、前記参照データと前記判定対象データとの差分に基づく判定指標を算出するステップと、前記判定指標の度数分布に基づいて、前記判定対象データが取得されたときの前記監視対象の状態が正常状態であるか異常状態であるか判定するステップと、前記監視対象の状態が異常状態であると判定された場合に、前記監視対象の状態が異常状態であることを表す情報を出力するステップとを前記プロセッサに実行させる。このようにすることで、パターンマッチングに基づいて判定する場合と比べて処理負荷が低減される。また、監視対象の構成が変更された場合にパターンマッチングのためのデータを変更する処理が不要となる。その結果、監視対象の状態が簡便に判定される。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、監視対象の状態を簡便に判定できる監視装置、監視システム、監視方法及び監視プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】比較例に係る監視システムの構成を示す平面図である。
【
図2】比較例に係る監視方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】本開示の一実施形態に係る監視システムの構成例を示すブロック図である。
【
図4】監視対象に対するセンサの配置例を示す図である。
【
図5】監視対象の測定データの一例を示す図である。
【
図6】減肉部が生じている配管が発生する磁界の差分データ、及び、差分データを変換した判定指標の例を示す図である。
【
図7】減肉部が生じていない配管が発生する磁界の差分データ、及び、差分データを変換した判定指標の例を示す図である。
【
図8】
図6に示される判定指標の度数分布を表すヒストグラムである。
【
図9】
図7に示される判定指標の度数分布を表すヒストグラムである。
【
図10】本開示の一実施形態に係る監視方法の手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1比較例)
図1に示されるように、第1比較例に係る監視システム9は、監視装置91と、測定装置92とを備える。測定装置92は、監視対象93の複数の部分それぞれの状態を測定する。測定装置92は、監視対象93の各部分の状態の測定値を含む測定データを出力する。監視装置91は、測定データを取得し、測定データに基づいて監視対象93の状態が正常状態であるか異常状態であるか判定する。
【0017】
第1比較例に係る監視システム9は、主に石油産業又は石油化学産業等で用いられる配管の腐食状態を監視するために用いられる。近年、石油産業又は石油化学産業において、老朽化した設備に発生した腐食(特に局部腐食)に起因する漏洩事故と、それに伴う生産効率の低下とが課題となっている。石油産業又は石油化学産業で使用される設備は、非常に巨大であり、かつ、広域に分散して設置されている。例えば、金属配管に発生する局部腐食を監視するために、プラント全体に張り巡らされた金属配管の中から局所的に発生した腐食を検出又は計測して管理する必要がある。また、蒸留塔又は反応装置等は、検査したい局部腐食に比べて、対象として巨大である。このため、設備に発生する局部腐食に対して広いエリアを効率的に監視する手段と、管理方法とが求められる。
【0018】
監視対象93は、強磁性体を含んで構成される配管である。測定装置92は、監視対象93が強磁性体として発生する磁界を測定する。監視装置91は、監視対象93が発生する磁界の測定値に基づいて、監視対象93の減肉を検出する。監視対象93の状態は、監視対象93の減肉が所定量より多くなっている場合に異常状態になっている。監視対象93の減肉が多くなった場合と、監視対象93が減肉していない場合とにおける監視対象93が発生する磁界の大きさの差は、減肉が多くなるほど大きくなる。
【0019】
測定装置92は、監視対象93としての強磁性体配管の表面に配置される磁気センサアレイを備える。磁気センサアレイは、強磁性体配管が発生する磁界を測定する。磁気センサアレイにおいて、配管の表面に沿って複数の磁気センサが位置する。各磁気センサが各位置において磁界を測定することによって、測定装置92は、強磁性体配管が発生する磁界の大きさを一次元又は二次元のマップとして取得できる。
【0020】
監視装置91は、測定装置92から監視対象93としての強磁性体配管が発生する磁界の大きさの測定データを取得し、測定データに基づいて、強磁性体配管において減肉が生じているか監視する。監視対象93を監視するために用いる測定データは、判定対象データとも称される。
【0021】
第1比較例に係る監視装置91は、
図2に示される監視方法を実行することによって、強磁性体配管において減肉が生じている場合に生じる磁界の大きさの変化を、配管の状態の変化として検出できる。
【0022】
監視装置91は、参照データ及び判定対象データを取得する(ステップS91)。監視装置91は、参照データとして、正常状態であることがわかっている強磁性体配管が発生する磁界の大きさの測定データを取得する。監視装置91は、判定対象データとして、状態が不明な強磁性体配管が発生する磁界の大きさの測定データを取得する。
【0023】
監視装置91は、参照データと判定対象データの差を差分データとして算出する(ステップS92)。
【0024】
監視装置91は、差分データのパターンが事前定義パターンに適合するか判定する(ステップS93)。事前定義パターンは、監視対象93としての強磁性体配管において腐食して減肉が発生している等によって配管の状態が異常状態になっている場合における測定データのパターンに対応する。監視装置91は、あらかじめ事前定義パターンを取得しておく。
【0025】
監視装置91は、差分データのパターンが事前定義パターンに適合する場合(ステップS93:YES)、監視対象93としての強磁性体配管の状態が異常状態であると判定する(ステップS94)。監視装置91は、ステップS94の手順の後、ステップS96の手順に進む。
【0026】
監視装置91は、差分データのパターンが事前定義パターンに適合しない場合(ステップS93:NO)、監視対象93としての強磁性体配管の状態が正常状態であると判定する(ステップS95)。監視装置91は、ステップS95の手順の後、ステップS96の手順に進む。
【0027】
監視装置91は、監視対象93としての強磁性体配管の状態の判定結果を出力する(ステップS96)。監視装置91は、ステップS96の手順の実行後、
図2のフローチャートの手順の実行を終了する。
【0028】
以上述べてきたように、第1比較例に係る監視装置91は、パターンマッチングによって監視対象93としての強磁性体配管の減肉を検出する。配管の減肉は、種々の態様で発生する。そうすると、監視装置91は、種々の態様の減肉に対応した事前定義パターンをあらかじめ取得する必要がある。実際に種々の態様で減肉が生じた配管を準備することは困難である。また、準備できる減肉の態様の種類は、有限である。また、種々の態様の減肉を想定したモデルを構築して事前定義パターンを計算によって生成するとしても、減肉の種々の態様を網羅した事前定義パターンを生成することは困難である。そうすると、配管の減肉が想定外の態様で発生した場合、強磁性体配管の減肉が生じているにもかかわらず差分データのパターンが事前定義パターンに適合しないことも起こり得る。つまり、差分データがあらかじめ取得された事前定義パターンに適合しないことによって、減肉が見逃される可能性がある。その結果、配管の減肉の見逃しが起こりやすくなる。
【0029】
配管の減肉を見逃しにくくするために、事前定義パターンを生成する減肉の態様を増やすことが考えられる。事前定義パターンの数を増やす場合、事前定義パターンを生成するための計算時間及び計算負荷が増大する。また、事前定義パターンを準備できたとしても、磁気センサの配置、又は、配管の形状が変更された場合に、変更された構成毎に、事前定義パターンが新たに生成される必要がある。配管の形状又はセンサの配置の種々の組み合わせに適した物理モデルを構築して、各組み合わせについて事前定義パターンを準備するとしても、そのモデルでシミュレーション等の数値計算をする必要がある。この場合、事前定義パターンの計算負荷が増大する。
【0030】
パターンマッチングによる判定は、演算に必要な時間及び負荷を増大させる。事前定義パターンの数を増やした場合、各事前定義パターンに対してパターンマッチングの処理を実行するために必要な時間及び負荷が更に増大する。また、精度を高めるために磁気センサの数が増やされることもある。磁気センサの数の増大は、演算に必要な時間及び負荷を更に増大させる。
【0031】
以上述べてきたように、第1比較例に係る監視装置91において、配管の減肉を見逃しにくくするために、処理に必要な時間及び負荷が増大する。配管の減肉を簡便に検出できることが求められる。
【0032】
そこで、本開示は、配管の減肉のような物品の状態の変化を簡便に検出できる監視装置、監視システム、監視方法及び監視プログラムを説明する。
【0033】
(監視システム1の構成例)
図3に示されるように、一実施形態に係る監視システム1は、監視装置10と、測定装置20とを備える。測定装置20は、監視対象30の状態を測定し、測定結果を出力する。監視装置10は、測定装置20の測定結果に基づいて、監視対象30の状態が正常状態であるか異常状態であるか検出する。
【0034】
監視装置10は、制御部12と、通信部14と、出力部16とを備える。
【0035】
制御部12は、監視装置10の各構成部から情報を取得したり、各構成部を制御したりする。制御部12は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。制御部12は、所定のプログラムを実行することによって、監視装置10の種々の機能を実現してよい。
【0036】
制御部12は、記憶部を備えてよい。記憶部は、制御部12の動作に用いられる各種情報、又は、制御部12の機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、制御部12のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、制御部12と別体で構成されてもよい。
【0037】
通信部14は、測定装置20と通信可能に接続される。通信部14は、例えば、LAN(Local Area Network)等の通信インタフェースを備えてよい。通信インタフェースは、有線又は無線によって測定装置20と通信可能に接続されてよい。通信部14は、測定装置20に限られず、他の種々の機器と通信可能に接続されてもよい。
【0038】
出力部16は、制御部12から取得した情報を出力する。出力部16は、直接又は外部装置等を介して、文字、図形、又は画像等の視覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してよい。出力部16は、表示デバイスを備えてもよいし、表示デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイ等の種々のディスプレイを含んでよい。出力部16は、直接又は外部装置等を介して、音声等の聴覚情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。出力部16は、スピーカ等の音声出力デバイスを備えてもよいし、音声出力デバイスと有線又は無線で接続されてもよい。出力部16は、視覚情報又は聴覚情報だけでなく、直接又は外部装置等を介して、ユーザが他の感覚で知覚できる情報を出力することによってユーザに情報を通知してもよい。
【0039】
測定装置20は、複数のセンサ26を含むセンサアレイ28を備える。センサ26は、例えば磁気センサであってよい。センサ26は、磁気センサである場合、監視対象30が発生する磁界の磁束密度を測定する。センサ26は、磁気センサに限られず、他の種々のセンサであってもよい。測定装置20は、各センサ26の測定値を含む測定データを監視装置10に出力する。測定データは、各センサ26とその測定値とを対応づけたデータを含む。
【0040】
測定装置20は、測定制御部22を更に備えてよい。測定制御部22は、センサ26から測定値を取得して監視装置10に出力する。測定制御部22は、監視装置10からセンサ26の測定値を要求する制御指示を受信した場合に、センサ26に測定を開始させたりセンサ26の測定値を監視装置10に出力したりしてよい。測定制御部22は、各センサ26の測定値を各センサ26に対応づけて測定データを生成し、監視装置10に出力してよい。測定装置20が測定制御部22を備えない場合、各センサ26が各センサ26自身の測定データを監視装置10に出力してもよい。
【0041】
測定装置20は、測定通信部24を更に備えてよい。測定通信部24は、監視装置10の通信部14と通信可能に接続され、各センサ26の測定値を含む測定データを監視装置10に出力する。測定装置20が測定通信部24を備えない場合、測定制御部22又は各センサ26が測定データを監視装置10に出力してもよい。
【0042】
(監視対象30の構成例)
本実施形態において、監視対象30は、強磁性体配管であるとする。センサ26は、磁界センサであるとする。センサアレイ28は、
図4に示されるように、監視対象30としての強磁性体配管の長手方向に沿って並んで配置されてよい。配管の長手方向は、X軸方向として表されている。配管の周方向は、Y軸方向として表されている。配管の径方向は、Z軸方向として表されている。
【0043】
センサ26は、強磁性体配管が発生する磁界を磁束密度の大きさとして測定する。磁束密度は、ベクトルで表される。センサ26は、磁束密度を表すベクトルの向きにかかわらず、磁束密度の大きさを測定してもよい。センサ26は、磁束密度の、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向それぞれの方向の成分を測定してもよい。磁束密度の大きさは、磁束密度の各方向の成分の二乗和の平方根として算出される。
【0044】
図5に、X軸に沿って延びる監視対象30としての配管の壁の構成例を示す断面図と、配管に沿って配置される複数のセンサ26と、各センサ26によって測定される磁束密度の測定値のグラフとが示される。グラフの横軸は、各センサ26が位置するX座標を表している。グラフの縦軸は、各センサ26が測定する磁束密度を表している。各センサ26が測定する磁束密度は、各センサ26の近傍の配管が発生する磁界に対応する。
【0045】
配管の壁は、内側に減肉部32を有するとする。減肉部32は、配管の壁が薄くなっている部分、つまり配管の壁の体積が小さくなっている部分に対応する。配管の壁に減肉部32が存在する場合、磁気抵抗差によって磁束の乱れが生じる。磁束の乱れによって、磁束の一部が配管外部へ漏洩する。その結果、
図5のグラフに示されるように、減肉部32が位置する部分の近傍において、各センサ26が測定する磁束密度が大きくなっている。磁束密度は、
図5のグラフに示されるようにX軸方向に変化するだけでなく、Y軸方向にも変化する。
【0046】
(監視装置10による監視対象30の異常状態検出)
配管の壁において減肉部32が生じている状態は、配管にとって異常な状態である。配管の内側の壁に生じた減肉部32は、配管の外側からの検査で発見されにくい。監視装置10は、配管を監視対象30として監視し、配管の内側又は外側の少なくとも一方の側で生じた異常な状態を検出する。以下、監視対象30である配管の壁において減肉部32が生じている状態は、監視対象30の異常状態とも称される。監視対象30である配管の壁に減肉部32が生じていない状態は、監視対象30の正常状態とも称される。減肉部32は、配管の壁の厚みが通常の厚みに比べて所定の割合以上に薄くなっている部分であるとする。つまり、配管の壁の厚みが通常の厚みに比べて所定の割合未満しか薄くなっていない場合、減肉部32が生じていないとする。なお、監視対象30の異常状態は、監視対象30において減肉部32が生じている状態に限られず、例えば、監視対象30においてクラックが生じている状態等の他の種々の状態を含んでよい。
【0047】
上述したように、配管の壁の厚みが変化した場合、配管が発生する磁界の大きさが変化する。よって、監視装置10は、センサ26の測定データに基づいて配管の壁の厚みの変化を監視できる。
【0048】
監視装置10の制御部12は、監視対象30である配管が発生する磁界の大きさの測定データを測定装置20から通信部14を介して取得する。制御部12は、監視対象30の状態が不明である場合の測定データを、監視対象30の状態が正常状態である場合の測定データと比較することによって、監視対象30の状態を判定できる。監視対象30の状態が正常状態である場合の測定データは、比較対象として参照されるデータであり、参照データとも称される。監視対象30の状態が不明な状態である場合の測定データは、監視対象30の状態を判定するためのデータであり、判定対象データとも称される。制御部12は、監視対象30の状態を判定するタイミングで判定対象データを取得してよい。制御部12は、参照データをあらかじめ取得しておいてよい。制御部12は、監視対象30の状態を判定するタイミングで外部装置から参照データを取得してもよい。
【0049】
センサアレイ28において複数のセンサ26が二次元配列で並ぶとする。この場合、測定装置20が取得する測定データは、各センサ26の測定値が各センサ26の位置に応じて並ぶ二次元配列のデータとして表され得る。
【0050】
制御部12は、参照データと判定対象データとの差分を計算することによって、二次元配列の差分データを生成する。
図6及び
図7に、磁束密度のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向それぞれの成分の測定データについて生成された、二次元配列の差分データがマップとして示されている。
図6に示される差分データは、減肉部32を有する配管で取得された判定対象データに基づく。
図7に示される差分データは、減肉部32が生じていない配管で取得された判定対象データに基づく。二次元配列の各要素の表示位置は、各要素に対応する測定値を測定したセンサ26のX座標及びY座標に対応づけられる。差分データの各要素の値は、グレースケールによって表されている。白又は白に近いグレーは、差分データの値が大きいことを表している。つまり、要素を表す色が白に近いほど、その要素に対応する差分データの値が大きい。黒又は黒に近いグレーは、差分データの値が小さいことを表している。つまり、要素を表す色が黒に近いほど、その要素に対応する差分データの値が大きい。
【0051】
制御部12は、磁束密度の各方向の成分の差分データの二乗和を、判定指標として算出する。つまり、制御部12は、差分データを表す形式を、磁束密度の各方向の成分を含むベクトルから、スカラー量の判定指標に変換する。
図6及び
図7には、磁束密度の各方向の成分の差分データからスカラー量の判定指標に変換された、二次元配列の差分データが更に示されている。スカラー量の判定指標に変換された差分データの各要素の値は、磁束密度の各方向の成分の値と同一又は類似にグレースケールによって表されている。要素を表す色が白に近いほど、その要素に対応する判定指標の値が大きい。また、要素を表す色が黒に近いほど、その要素に対応する判定指標の値が大きい。
【0052】
参考までに、磁束密度の各成分の測定値の二乗和に所定の係数を乗じた値として、磁気エネルギー密度が算出される。所定の係数は、例えば透磁率を含んで表されてよい。つまり、磁束密度の各成分の二乗和は、磁気エネルギー密度に比例する。差分データの二乗和として算出される判定指標は、磁気エネルギー密度そのものではないものの、磁気エネルギー密度に対応する値としての意味を有する。なお、判定指標は、判定対象データに基づいて算出した磁気エネルギー密度と参照データに基づいて算出した磁気エネルギー密度とを差分した値とは異なる値になり、磁気エネルギー密度の差分を表すものではないことに留意されたい。
【0053】
二次元配列で表される磁束密度の差分データ、及び、スカラー量の判定指標に変換された差分データは、センサ26のX座標及びY座標に対応する位置の情報を含んでいる。ここで、判定指標に対応づけられた位置の情報を無視すれば、判定指標は、単なる値の集合とみなされ、統計的に処理可能な標本として取り扱われる。判定指標の値の集合は、度数分布又は度数分布をグラフで表したヒストグラムとして表される。度数分布は、値を区分するための複数の階級と、値の集合のうち各階級に含まれる値の数をカウントして得られる度数とを対応づけて表される。度数分布における階級の数、及び、各階級の幅は、適宜定められる。ヒストグラムは、各階級の度数をグラフによって表したものに対応する。判定指標の値の集合を表す度数分布は、単に、判定指標の度数分布とも称される。
【0054】
図6及び
図7に例示される二次元配列の判定指標の値の集合は、それぞれ
図8及び
図9に例示されるヒストグラムで表される。
図8及び
図9の横軸は、判定指標の値又は階級を表す。縦軸は、各階級に含まれる値の度数を表す。
図8及び
図9それぞれのヒストグラムにおける横軸のスケールは同一である。
図8及び
図9それぞれのヒストグラムにおける縦軸のスケールは同一である。
【0055】
判定指標の度数分布は、例えば、正規分布又はカイ二乗分布等の種々の分布で近似される。本実施形態において、判定指標の度数分布は、正規分布で近似されるとする。正規分布は、平均値と標準偏差とをパラメータとして有する。言い換えれば、正規分布は、平均値と標準偏差とによって特定される。判定指標の度数分布は、1つの正規分布で近似されてもよいし、複数の正規分布の和として近似されてもよい。判定指標の度数分布を近似する1つの正規分布は、単峰性分布とも称される。判定指標の度数分布を近似する複数の正規分布は、多峰性分布とも称される。近似の対象となる判定指標の度数分布は、被近似分布とも称される。
【0056】
図8及び
図9に例示されるヒストグラムを近似する単峰性分布は、実線で示される。また、
図8及び
図9に例示されるヒストグラムを近似する多峰性分布は、破線で示される。多峰性分布は、2つの正規分布の和であるとするが、3つ以上の正規分布の和であってもよい。
【0057】
単峰性分布及び多峰性分布は、正規分布のパラメータによって特定される。被近似分布が単峰性分布又は多峰性分布で近似される場合、正規分布のパラメータの最尤推定量が算出される。最尤推定量は、被近似分布を近似する分布が被近似分布に対して最も尤もらしくなるように推定された場合の正規分布のパラメータである。
【0058】
<情報量規準によって表される近似の尤もらしさ>
被近似分布としての判定指標の度数分布を近似して得られた単峰性分布又は多峰性分布の妥当性は、尤度を指標として表され得る。尤度は、近似の尤もらしさを表す指標である。尤度は、近似して得られた分布毎に算出される。分布について算出された尤度が高いほど、その分布は、被近似分布の尤もらしい近似になっているといえる。
【0059】
尤度を評価するための基準の1つとして、情報量規準が用いられる。情報量規準は、例えば、赤池情報量規準(AIC:Akaike’s Information Criterion)又はベイズ情報量規準(BIC:Bayesian Information Criterion)等が用いられる。本実施形態において、情報量規準としてAICが用いられるとする。
【0060】
制御部12は、被近似分布である判定指標の度数分布を単峰性分布及び多峰性分布それぞれで近似し、単峰性分布及び多峰性分布それぞれの尤度としてAICの値を算出する。単峰性分布のAICの値は、被近似分布である判定指標の度数分布と、最尤推定量で特定される単峰性分布との関係に基づいて算出される。多峰性分布のAICの値は、被近似分布である判定指標の度数分布と、最尤推定量で特定される多峰性分布との関係に基づいて算出される。
【0061】
ここで、単峰性分布及び多峰性分布はそれぞれ、f及びgで表されるとする。単峰性分布及び多峰性分布それぞれのAICの値は、AIC
f及びAIC
gで表されるとする。具体的には、AIC
f及びAIC
gの値は、以下の式(1)及び式(2)に基づいて定義される。
【数1】
【数2】
【0062】
e(i)は、判定指標の集合に含まれる要素を表す。Nは、eに含まれる要素の数を表す。判定指標の集合は、e(1)からe(N)までのN個の要素を含む。単峰性分布及び多峰性分布は、それぞれ確率分布として、f(e|θf)及びg(e|θg)で表されるとする。θf及びθgはそれぞれ、単峰性分布及び多峰性分布に対応する確率分布のパラメータを表すとする。式(1)において、θfの上に「^」(ハット)が付された記号は、単峰性分布に対応する確率分布のパラメータの最尤推定量を表す。式(1)の右辺第1項は、単峰性分布に対応する確率分布の最大対数尤度を表す。式(2)において、θgの上に「^」(ハット)が付された記号は、多峰性分布に対応する確率分布のパラメータの最尤推定量を表す。式(2)の右辺第1項は、多峰性分布に対応する確率分布の最大対数尤度を表す。pf及びpgはそれぞれ、単峰性分布及び多峰性分布の自由パラメータ数である。単峰性分布が1つの正規分布で構成される場合、pfの値は1である。多峰性分布が2つの正規分布で構成される場合、pgの値は2である。
【0063】
AICの値は、尤度の高さに相関する。被近似分布である判定指標の度数分布を近似する分布の尤度が高いほど、その分布のAICは小さい値で算出される。制御部12は、単峰性分布及び多峰性分布それぞれについて算出されたAICの値に基づいて、単峰性分布及び多峰性分布のどちらで被近似分布を近似するのが尤もらしいか判定できる。
【0064】
制御部12は、単峰性分布で被近似分布を近似するのが尤もらしいと判定した場合、監視対象30である配管に減肉部32が生じていないと判定する。つまり、制御部12は、監視対象30の状態が正常状態であると判定する。制御部12は、多峰性分布で被近似分布を近似するのが尤もらしいと判定した場合、監視対象30である配管に減肉部32が生じていると判定する。つまり、制御部12は、監視対象30の状態が異常状態であると判定する。
【0065】
<<被近似分布を含む真の分布との関係>>
一般的に、ある分布を近似する多峰性分布のAICの値は、同じ分布を近似する単峰性分布のAICの値よりも小さくなる傾向にある。したがって、AICの値の大小関係だけに基づけば、単峰性分布による近似よりも多峰性分布による近似の方が尤もらしいと判定される傾向にある。また、ある分布を近似する多峰性分布を構成する正規分布の数が増えるほど、AICの値が小さくなる傾向にある。したがって、AICの値の大小関係だけに基づけば、多くの正規分布で構成される多峰性分布による近似の方が尤もらしいと判定される傾向にある。
【0066】
ここで、真の分布は、無数の値の集合に基づいて表されるとする。仮に、被近似分布である判定指標の度数分布が監視対象30の状態を表す無数の情報の全てに基づいて生成されているのであれば、被近似分布は真の分布を表しているといえる。しかし、被近似分布は、真の分布を表す無数の値のうちの一部の値の集合に基づいて表される。つまり、被近似分布である判定指標の度数分布は、監視対象30の状態を表す無数の情報のうち一部の情報をサンプリングしたデータに基づいて生成される。よって、判定指標の度数分布は、真の分布を完全に表す分布になっていない可能性がある。
【0067】
そうしてみると、被近似分布に対する尤もらしさを高めた近似は、必ずしも真の分布の近似として尤もらしい近似であるとはいえない。むしろ、被近似分布に対して尤もらしすぎる近似は、被近似分布に過剰に適合したものとなり、真の分布から乖離した近似になり得る。
【0068】
そこで、制御部12は、単峰性分布のAICの値と多峰性分布のAICの値との差が所定の閾値未満であれば、単峰性分布及び多峰性分布が両方とも被近似分布に対する尤もらしい近似になっていると判定する。所定の閾値は、AIC閾値とも称される。制御部12は、少なくとも単峰性分布が被近似分布に対する尤もらしい近似になっていることに基づいて、監視対象30の状態が正常状態であると判定する。このようにすることで、制御部12は、近似が被近似分布に過剰に適合することによって監視対象30の状態を誤って判定しにくくなる。
【0069】
具体的には、制御部12は、判定指標の度数分布を近似した単峰性分布(f)のAICの値(AICf)を算出する。また、制御部12は、判定指標の度数分布を近似した、2つの正規分布で構成される多峰性分布(g)のAICの値(AICg)を算出する。
【0070】
制御部12は、AICfとAICgとの差(AICf-AICg)がAIC閾値未満である場合、単峰性分布及び多峰性分布が両方とも判定指標の度数分布に対する尤もらしい近似になっていると判定する。制御部12は、少なくとも単峰性分布が被近似分布に対する尤もらしい近似になっていることに基づいて、監視対象30の状態が正常状態であると判定する。
【0071】
制御部12は、AICfとAICgとの差を判定するために用いるAIC閾値を適宜設定する。AIC閾値は、AICfとAICgとの差分に対して行われるt検定の有意水準で定められてよい。t検定は、減肉部32が生じている配管から取得した測定データにおけるAICfとAICgとの差(AICf-AICg)に対して行われてもよい。t検定は、減肉部32が生じていない配管から取得した測定データにおけるAICfとAICgとの差分に対して行われてもよい。
【0072】
<<監視対象30の状態の判定の具体例>>
以下、判定対象データに基づいて算出された判定指標の度数分布を近似した単峰性分布及び多峰性分布それぞれの尤もらしさに基づいて、監視対象30の状態として配管における減肉の有無を判定する方法の具体例が説明される。
【0073】
制御部12は、
図8及び
図9それぞれのヒストグラムで表される判定指標の度数分布を近似した、単峰性分布のAICの値(AIC
f)と多峰性分布のAICの値(AIC
g)とを算出する。制御部12は、AIC
fとAIC
gとの差をΔAICとして算出する。制御部12は、ΔAICとあらかじめ定められたAIC閾値との比較結果に基づいて、ヒストグラムの元となる判定対象データを取得した監視対象30としての配管に減肉部32が生じているか判定する。
【0074】
表1に、算出したAICの値、及び、判定結果の具体例が示される。
【表1】
【0075】
表1において、「測定部分の減肉」の列の内容が「有」となっている2行目は、
図8のヒストグラムで表される、減肉が生じている配管から取得した測定データに基づく判定指標の度数分布を近似する場合に対応する。「測定部分の減肉」の列の内容が「無」となっている3行目は、
図9のヒストグラムで表される、減肉が生じていない配管から取得した測定データに基づく判定指標の度数分布を近似する場合に対応する。AIC
fは、判定指標の度数分布を近似する単峰性分布のAICの値に対応する。AIC
gは、判定指標の度数分布を近似する多峰性分布のAICの値に対応する。ΔAICは、AIC
fとAIC
gとの差に対応する。閾値は、ΔAICの値と比較するために設定されるAIC閾値であり、AIC
fとAIC
gとの差(AIC
f-AIC
g)に対してt検定を行った結果として、29.4に設定されている。「減肉有無の判定」の列は、制御部12がΔAICとAIC閾値との比較結果に基づいて監視対象30である配管における減肉の有無を判定した結果を表す。
【0076】
図8のヒストグラムで表される度数分布を近似する単峰性分布のAICの値(2行目のAIC
f)は、867.2となっている。一方で、
図8のヒストグラムで表される度数分布を近似する多峰性分布のAICの値(2行目のAIC
g)は、606.3となっている。AICfとAICgとの差(AIC
f-AIC
g)であるΔAICの値は、260.9となっており、AIC閾値以上の値である。この場合、制御部12は、
図8のヒストグラムで表される度数分布を多峰性分布で近似する方が単峰性分布で近似するよりも尤もらしいと判定する。制御部12は、多峰性分布で近似されることが尤もらしいと判定された度数分布の元となる測定データを得た監視対象30の配管に減肉部32が生じていると判定する。
【0077】
図9のヒストグラムで表される度数分布を近似する単峰性分布のAICの値(3行目のAIC
f)は、-56.5となっている。一方で、
図9のヒストグラムで表される度数分布を近似する多峰性分布のAICの値(3行目のAIC
g)は、-65.7となっている。AIC
fとAIC
gとの差(AIC
f-AIC
g)であるΔAICの値は、10.8となっており、AIC閾値未満の値である。この場合、制御部12は、
図9のヒストグラムで表される度数分布を単峰性分布及び多峰性分布のどちらで近似しても尤もらしいと判定する。制御部12は、少なくとも単峰性分布で近似されることが尤もらしいと判定された度数分布の元となる測定データを得た監視対象30の配管に減肉部32が生じていないと判定する。
【0078】
以上述べてきたように、本実施形態に係る監視装置10は、監視対象30から得られる測定データから算出した判定指標の度数分布に基づいて監視対象30の状態を判定できる。監視装置10は、判定指標の度数分布に基づいて判定することによって、パターンマッチングによって判定する場合よりも、処理負荷を低減できる。また、監視対象の構成が変更された場合にパターンマッチングのためのデータを変更する処理が不要となる。その結果、監視対象30の状態が簡便に判定される。
【0079】
<度数分布における所定の階級の度数に基づく状態判定の例>
制御部12は、判定指標の度数分布の所定の階級の度数に基づいて、監視対象30である配管に減肉部32が生じているかを判定してもよい。以下、
図8及び
図9のヒストグラムで表される度数分布の所定の階級の度数に基づいて、監視対象30である配管に減肉部32が生じているかを判定する方法の具体例が説明される。
【0080】
図8のヒストグラムで表される度数分布において、判定指標の値としてXp1を含む階級の度数が、全階級の度数の中のピーク値になっている。
図9のヒストグラムで表される度数分布において、判定指標の値としてXp2を含む階級の度数が、全階級の度数の中のピーク値になっている。Xp1は、Xp2よりも大きい。このことは、配管に減肉部32が生じていない場合よりも配管に減肉部32が生じている場合において、差分データが大きくなることに起因する。
【0081】
また、
図8のヒストグラムで表される度数分布において、判定指標の値としてXtを含む階級よりも大きい階級のうち少なくとも1つの階級の度数が所定値以上になっている。一方で、
図9のヒストグラムで表される度数分布において、判定指標の値としてXtを含む階級よりも大きい全ての階級の度数が所定値未満になっており、具体的には、ゼロ又はほとんどゼロになっている。
【0082】
制御部12は、判定指標の度数分布において、判定指標の値としてXtを含む階級よりも大きい階級のうち少なくとも1つの階級の度数が所定値以上である場合、その度数分布の元となる測定データを得た監視対象30の状態が異常状態であると判定してよい。つまり、監視対象30である配管に減肉部32が生じていると判定してよい。
【0083】
制御部12は、判定指標の度数分布において、判定指標の値としてXtを含む階級よりも大きい全ての階級の度数が所定値未満である場合、その度数分布の元となる測定データを得た監視対象30の状態が正常状態であると判定してよい。つまり、監視対象30である配管に減肉部32が生じていないと判定してもよい。
【0084】
図8のヒストグラムで表される度数分布は、二極化しているともいえる。度数分布の二極化は、減肉部32が生じている配管から得られた測定データに基づく差分データが減肉部32の近傍において大きい値となり、減肉部32から離れた部分において小さい値となることに起因して生じる。
【0085】
制御部12は、上述の判定において用いるXtの値を適宜設定する。Xtの値は、減肉部32が生じている配管から得られた判定指標の度数分布と、減肉部32が生じていない配管から得られた判定指標の度数分布との差に対して行われるt検定の有意水準で定められてよい。Xtの値は、減肉部32が生じていない配管から得られた判定指標の度数分布を正規分布とみなした場合の平均値と標準偏差とに基づいて設定されてよい。Xtの値は、例えば、判定指標の度数分布の平均値と標準偏差の3倍の値(いわゆる3σ)との和に設定されてもよい。Xtの値は、階級閾値とも称される。
【0086】
制御部12は、上述の判定において、判定指標の値がXtである階級よりも大きい階級の度数を判定するために用いる所定値を適宜設定する。判定指標の値がXtである階級よりも大きい階級の度数を判定するために用いる所定値は、度数閾値とも称される。度数閾値は、監視対象30又はセンサアレイ28の構成に基づいて適宜設定される。度数閾値は、例えば、判定指標の度数分布のピーク値に所定の係数を乗じた値に設定されてよい。所定の係数は、監視対象30又はセンサアレイ28の構成に基づいて適宜設定される。所定の係数は、例えば3%等の種々の数値に設定されてよい。
【0087】
以上述べてきたように、本実施形態に係る監視システム1及び監視装置10は、判定指標の度数分布において、階級閾値より大きい階級の度数が度数閾値以上である場合に監視対象30の状態が異常状態であると判定できる。このようにすることで、監視装置10は、度数分布を解析するための処理負荷を低減できる。その結果、監視対象30の状態が簡便に判定される。
【0088】
<小括>
以上述べてきたように、本実施形態に係る監視装置10は、監視対象30から得た測定データに基づいて算出した判定指標の度数分布に基づいて、監視対象30の状態を判定できる。監視装置10は、判定指標の度数分布に基づいて監視対象30の状態を判定することによって、パターンマッチングに基づいて判定する場合と比べて処理負荷を低減できる。また、監視対象の構成が変更された場合にパターンマッチングのためのデータを変更する処理が不要となる。その結果、監視対象30の状態が簡便に判定される。
【0089】
本実施形態に係る監視システム1は、監視装置10と測定装置20とを備える。監視システムは、測定装置20で取得した測定データをパターンマッチングして監視対象30の状態を判定する場合と比べて処理負荷を低減できる。また、監視対象30の構成が変更された場合にパターンマッチングのためのデータを変更する処理が不要となる。また、監視対象30の構成が変更された場合に、測定装置20におけるセンサ26の配置が監視対象30の構成の変更に対応して容易に変更される。その結果、監視対象の状態が簡便に判定される。
【0090】
(監視方法の手順例を示すフローチャート)
監視装置10は、監視対象30の監視方法として、
図10のフローチャートに例示される手順を実行してよい。
図10のフローチャートに例示される手順は、監視装置10の制御部12を構成するプロセッサに実行させる監視プログラムとして実現されてもよい。
【0091】
監視装置10の制御部12は、参照データ及び判定対象データを取得する(ステップS1)。制御部12は、測定装置20から監視対象30の測定データを取得する。制御部12は、監視対象30の状態が正常状態であると判明している場合の測定データを、参照データとして取得する。制御部12は、監視対象30の状態を判定する場合、つまり監視対象30の状態が不明である場合の測定データを、判定対象データとして取得する。
【0092】
制御部12は、測定装置20に対して制御指示を出力して測定装置20に測定を実行させてもよい。監視装置10は、ユーザからの操作入力を受け付けて測定装置20に測定を実行させてもよい。
【0093】
測定装置20は、制御部12から制御指示を取得した場合に監視対象30を測定し、測定データを出力してもよい。測定装置20は、制御部12からの制御指示にかかわらず、監視対象30を測定し、測定データを出力してもよい。測定装置20は、測定装置20自身でユーザからの操作入力を受け付けて測定を開始してもよい。
【0094】
制御部12は、差分データを算出する(ステップS2)。制御部12は、ステップS1の手順で取得した判定対象データ及び参照データそれぞれの互いに対応するデータ同士の差分を算出する。差分データは、差分の算出結果の集合に対応する。
【0095】
制御部12は、差分データに基づいて判定指標を算出する(ステップS3)。差分データが磁束密度のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向それぞれの方向の成分である場合、各方向の成分の二乗和を判定指標として算出する。
【0096】
制御部12は、判定指標の度数分布を近似する(ステップS4)。制御部12は、ステップS3の手順で算出した判定指標の度数分布を生成する。制御部12は、判定指標の度数分布を単峰性分布及び多峰性分布それぞれの分布で近似する。
【0097】
制御部12は、判定指標の度数分布を近似する単峰性分布及び多峰性分布それぞれのAICの値を算出する(ステップS5)。
【0098】
制御部12は、ΔAICの値がAIC閾値以上か判定する(ステップS6)。ΔAICの値は、AICfとAICgとの差として算出される。制御部12は、ΔAICの値がAIC閾値以上である場合(ステップS6:YES)、監視対象30の状態が異常状態であると判定する(ステップS7)。制御部12は、ΔAICの値がAIC閾値以上でない場合(ステップS6:NO)、つまり、ΔAICの値がAIC閾値未満である場合、監視対象30の状態が正常状態であると判定する(ステップS8)。制御部12は、ステップS7又はS8の手順の後、ステップS9の手順に進む。
【0099】
制御部12は、ステップS7又はS8の手順における監視対象30の状態の判定結果を出力部16に出力させる(ステップS9)。制御部12は、監視対象30の状態が正常状態であると判定した場合、監視対象30の状態が正常状態であること、又は、監視対象30の配管に減肉部32が生じていないことを、出力部16に出力させる。制御部12は、監視対象30の状態が異常状態であると判定した場合、監視対象30の状態が異常状態であること、又は、監視対象30の配管に減肉部32が生じていることを、出力部16に出力させる。制御部12は、ステップS9の手順の実行後、
図10のフローチャートの実行を終了する。
【0100】
制御部12は、ステップS6の手順でΔAICがAIC閾値未満であると判定した場合、ステップS8の手順を実行せず、ステップS1の手順に戻ってもよい。この場合、監視装置10は、監視対象30の状態が異常状態であると判定した場合にのみ判定結果を出力する。
【0101】
以上述べてきたように、本実施形態に係る監視方法又は監視プログラムによれば、判定指標の度数分布に基づいて監視対象30の状態が判定される。このようにすることで、パターンマッチングに基づく判定と比べて処理負荷が低減される。また、監視対象の構成が変更された場合にパターンマッチングのためのデータを変更する処理が不要となる。その結果、監視対象30の状態が簡便に判定される。
【0102】
(第2比較例)
磁気センサアレイの測定データは、各磁気センサの測定値を含む。つまり、測定データは、複数の位置における磁界の測定値を含む。第2比較例に係る監視装置91(
図1参照)は、測定データに含まれる各位置の測定値を、位置に無関係の単なる磁界の大きさのデータとして取り扱い、磁界の大きさ毎の出現頻度の分布を生成する。監視装置91は、参照データに関して、磁界の大きさ毎の出現頻度の分布を、参照分布として生成する。監視装置91は、配管に減肉が生じた場合の測定データに関して、磁界の大きさ毎の出現頻度の分布を、減肉発生分布として生成する。磁界の大きさ毎の出現頻度の分布は、所定の磁界の大きさにおいてピーク値を有する。参照分布において出現頻度がピーク値となる場合の磁界の大きさは、参照ピーク値と称される。減肉発生分布において出現頻度がピーク値となる場合の磁界の大きさは、減肉発生ピーク値と称される。
【0103】
監視装置91は、測定データに関して、磁界の大きさ毎の出現頻度の分布を、監視対象分布として生成する。監視対象分布において出現頻度がピーク値となる場合の磁界の大きさは、監視対象ピーク値と称される。監視装置91は、参照ピーク値と減肉発生ピーク値との間に閾値を設定する。監視装置91は、監視対象ピーク値が閾値よりも参照ピーク値に近い場合に配管に減肉が生じていないと判定する。監視装置91は、監視対象ピーク値が閾値よりも減肉発生ピーク値に近い場合に配管に減肉が生じていると判定する。
【0104】
以上述べてきた第2比較例に係る監視装置91は、測定した磁界の大きさの分布においてピーク値となる磁界の大きさと閾値とを比較して配管に減肉が生じているか判定する。第2比較例において、外部環境からのバックグラウンド磁界の大きさが加わることで磁気センサの測定値が全体としてシフトすることがある。また、外部環境によって磁気センサのオフセットがドリフトすることがある。この場合、測定データに含まれる磁界の大きさの測定値は全体として大きくなる。そうすると、監視対象ピーク値が外部環境によってシフトする。したがって、第2比較例に係る監視装置91は、外部環境からのバックグラウンド磁界によって、配管に減肉が生じたかを誤って検出することがある。
【0105】
ここで、ここまで説明してきた監視装置10の一実施形態によれば、判定指標の度数分布が単峰性分布及び多峰性分布のどちらで近似するのが尤もらしいか判定されることによって、監視対象30の状態が判定される。近似の尤もらしさは、測定データ全体のドリフトにかかわらず判定され得る。したがって、一実施形態に係る監視装置10によれば、センサ26の測定データが全体としてドリフトした場合でも監視対象30の状態を判定する精度が低下しにくくなる。その結果、監視対象30の状態の判定精度が向上される。
【0106】
(他の実施形態)
<センサ26のドリフト>
監視対象30の状態に関する測定データを取得する各センサ26が出力する測定データは、各センサ26が設置される環境における温度若しくは湿度等の環境パラメータの変化、又は、各センサ26自体の劣化等の要因によってドリフトし得る。一部のセンサ26が出力する測定データがドリフトした場合、測定データから算出される判定指標の度数分布が変化する。センサ26間のドリフトの差が大きくなる場合、監視対象30の状態に変化がない場合であっても判定指標の度数分布が二極化し得る。この場合、監視装置10は、判定指標の度数分布を多峰性分布で近似するのが尤もらしいと判定しやすくなる。そうすると、監視装置10は、監視対象30の状態が異常状態であると誤って判定しやすくなる。
【0107】
例えば、監視対象30が配管である場合、配管の減肉部32の拡大に起因するセンサ26の測定データの変化量は、加速度的に又は指数関数的に増大し得る。減肉部32を拡大させる配管の腐食が加速度的に又は指数関数的に進行し得るためである。したがって、本実施形態において、監視装置10は、センサ26の測定データをセンサ26のドリフトよりも大きく変化させる程度の監視対象30の状態の変化を検出できればよいとする。この場合、センサ26のドリフトによる測定データの時間変化率は、監視装置10が検出しようとしている監視対象30の状態の変化による測定データの時間変化率よりも小さいといえる。
【0108】
監視装置10の制御部12は、監視対象30の状態が正常状態であると判定した場合に、その判定で用いた判定対象データの内容によって、次の判定で用いる参照データの内容を置き換えてよい。制御部12は、例えば、
図10のフローチャートのステップS8の手順において監視対象30の状態が正常状態であると判定するタイミングで、ステップS1の手順で取得した判定対象データの内容によって参照データの内容を置き換えてよい。制御部12は、次に
図10のフローチャートの手順を実行する場合に、ステップS1の手順において置き換えた参照データを取得し、ステップS2において当該置き換えた参照データを差分データの算出に用いてよい。
【0109】
参照データが置き換えられない場合、各センサ26のドリフトが累積して生じる誤差が判定指標に含まれる。判定指標が誤差を含むことによって、監視対象30である配管に減肉が生じていない場合でも、判定指標の度数分布が二極化し得る。制御部12は、監視対象30である配管に減肉が生じていない場合でも、二極化した度数分布を多峰性分布で近似するのが尤もらしいと判定して監視対象30の状態が異常状態であると誤って判定しやすくなる。
【0110】
一方で、本実施形態において、監視装置10は、参照データを新たな判定対象データで置き換えることによって更新できる。このようにすることで、監視装置10は、各センサ26のドリフトの影響を低減して監視対象30の状態を判定できる。例えば、石油プラント又は化学プラント等に設置されるセンサ26は、外部環境にさらされる。外部環境にさらされるセンサ26においてドリフトが進んだとしても、本実施形態に係る監視装置10は、そのドリフトの影響を低減できる。その結果、監視対象30の状態の判定精度が向上される。
【0111】
<他の物理量に基づく判定>
上述してきた監視システム1は、強磁性体配管が発生する磁界の大きさを測定することによって、配管を監視対象30として監視し、配管の状態を判定する。監視システム1は、磁界の大きさに限られず、他の種々の物理量をセンサ26で測定することによって監視対象30の状態を判定してもよい。
【0112】
監視システム1は、例えば、配管等の監視対象30の状態をX線等の放射線透過検査によって判定してもよい。この場合、センサ26は、放射線センサであってよい。測定装置20は、監視対象30に入射させる放射線を発生するための放射線発生装置を更に備えてもよい。センサ26が放射線センサである場合、監視装置10は、測定データとして放射線の線量又はエネルギー等を取得してよい。
【0113】
監視システム1は、例えば、配管等の監視対象30の状態を超音波厚さ測定又はガイド波検査等の超音波を用いた検査によって判定してもよい。この場合、センサ26は、超音波センサであってよい。測定装置20は、監視対象30に入射させる超音波を発生するための超音波発生装置を更に備えてもよい。センサ26が超音波センサである場合、監視装置10は、測定データとして超音波の遅れ時間若しくは位相、又は、エネルギー等を取得してよい。
【0114】
センサ26が測定する物理量にかかわらず、監視装置10は、取得した測定データを判定対象データとみなして参照データとの差分データを算出し、差分データに基づいて評価指標を算出し、評価指標の度数分布に基づいて監視対象30の状態を判定してよい。監視装置10は、監視対象30の厚みに基づいて監視対象30の状態を判定してもよい。監視装置10は、監視対象30にクラック等が生じているかに基づいて監視対象30の状態を判定してもよい。
【0115】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0116】
1 監視システム
10 監視装置(12:制御部、14:通信部、16:出力部)
20 測定装置(22:測定制御部、24:測定通信部、26:センサ、28:センサアレイ)
30 監視対象(32:減肉部)