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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20230912BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20230912BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20230912BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230912BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04537
H01M8/0432
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020092106
(22)【出願日】2020-05-27
(65)【公開番号】P2021190214
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 宗平
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 剛
(72)【発明者】
【氏名】浜野井 修
(72)【発明者】
【氏名】常川 洋之
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-91921(JP,A)
【文献】特開2011-113647(JP,A)
【文献】特開2008-71637(JP,A)
【文献】特開2003-223909(JP,A)
【文献】特開2015-216084(JP,A)
【文献】特開2003-217619(JP,A)
【文献】特開2007-66621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0129067(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルが積層された燃料電池と、
前記燃料電池の電流を検出する電流センサと、
前記複数のセルのうちで1または2以上の前記セルを単位として電圧を検出する複数のセル電圧センサと、
前記燃料電池の内部に形成されている内部流路と、前記内部流路に接続され、前記燃料電池の外部に形成されている外部流路と、を有する冷却媒体の循環流路と、
前記外部流路に配置された、前記冷却媒体の流量を調整する循環用ポンプと、
前記外部流路のうちで前記内部流路への入口における前記冷却媒体の温度が予め定めた閾値未満である第1の場合に、前記燃料電池の通常運転時において推定発熱量が同じである場合に比べて前記冷却媒体の流量が少なくなるように推定発熱量をもとに前記冷却媒体の流量を決定し、前記循環用ポンプの動作を制御して、前記循環流路の前記冷却媒体の流量を決定した流量に調整する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第1の場合に、
前記複数のセル電圧センサによって検出した各検出セル電圧値と、前記電流センサによって検出した検出電流値とを用いて、前記燃料電池の発熱量を推定し、
推定した前記発熱量をもとに、前記冷却媒体の流量を決定して前記循環用ポンプの動作を制御し、
さらに、前記燃料電池の総電圧を検出する電圧センサを備え、
前記制御部は、
前記検出セル電圧値を用いて、セル電圧が予め定められた基準電圧以下の前記セルである特定セルの総枚数を算出し、
前記検出電流値と前記電圧センサによって検出した検出電圧値とを用いて導出される基準発熱量を、前記特定セルの総枚数が多いほど小さく補正して、前記発熱量を推定する、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、
前記基準発熱量に、前記セルの総枚数に対する前記セルの総枚数から前記特定セルの総枚数を減じた枚数の割合を乗じることで前記基準発熱量を補正して、前記発熱量を推定する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項に記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、
前記基準発熱量毎に、前記特定セルの総枚数に対して前記発熱量が対応付けられているマップであって、前記特定セルの総枚数が多いほど前記発熱量が小さいマップを用いることで前記基準発熱量を補正して、前記発熱量を推定する、燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池内を循環する冷却水によってセルが再凍結するのを抑制するために、氷点下始動時に、通常運転時において燃料電池の発熱量が同じ場合における流量より少なくなるように、入口温度に応じて冷却水の流量を調整する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-091921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術において、燃料電池の発熱量は、例えば、燃料電池の総電圧値と電流値とを用いて決定される。しかしながら、燃料電池の総電圧値と電流値とを用いて発熱量が決定された場合、決定された発熱量と、実際の燃料電池の発熱量とは大きく異なる場合があった。この場合、実際の発熱量を精度良く反映した冷却水の流量調整が行えない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。この燃料電池システムは、複数のセルが積層された燃料電池と、前記燃料電池の電流を検出する電流センサと、前記複数のセルのうちで1または2以上の前記セルを単位として電圧を検出する複数のセル電圧センサと、前記燃料電池の内部に形成されている内部流路と、前記内部流路に接続され、前記燃料電池の外部に形成されている外部流路と、を有する冷却媒体の循環流路と、前記外部流路に配置された、前記冷却媒体の流量を調整する循環用ポンプと、前記外部流路のうちで前記内部流路への入口における前記冷却媒体の温度が予め定めた閾値未満である第1の場合に、前記燃料電池の通常運転時において推定発熱量が同じである場合に比べて前記冷却媒体の流量が少なくなるように推定発熱量をもとに前記冷却媒体の流量を決定し、前記循環用ポンプの動作を制御して、前記循環流路の前記冷却媒体の流量を決定した流量に調整する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1の場合に、前記複数のセル電圧センサによって検出した各検出セル電圧値と、前記電流センサによって検出した検出電流値とを用いて、前記燃料電池の発熱量を推定し、推定した前記発熱量をもとに、前記冷却媒体の流量を決定して前記循環用ポンプの動作を制御し、さらに、前記燃料電池の総電圧を検出する電圧センサを備え、前記制御部は、前記検出セル電圧値を用いて、セル電圧が予め定められた基準電圧以下の前記セルである特定セルの総枚数を算出し、前記検出電流値と前記電圧センサによって検出した検出電圧値とを用いて導出される基準発熱量を、前記特定セルの総枚数が多いほど小さく補正して、前記発熱量を推定する。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。この燃料電池システムは、複数のセルが積層された燃料電池と、前記燃料電池の電流を検出する電流センサと、前記複数のセルのうちで1または2以上の前記セルを単位として電圧を検出する複数のセル電圧センサと、前記燃料電池の内部に形成されている内部流路と、前記内部流路に接続され、前記燃料電池の外部に形成されている外部流路と、を有する冷却媒体の循環流路と、前記外部流路に配置された、前記冷却媒体の流量を調整する循環用ポンプと、前記外部流路のうちで前記内部流路への入口における前記冷却媒体の温度が予め定めた閾値未満である第1の場合に、前記燃料電池の通常運転時において推定発熱量が同じである場合に比べて前記冷却媒体の流量が少なくなるように推定発熱量をもとに前記冷却媒体の流量を決定し、前記循環用ポンプの動作を制御して、前記循環流路の前記冷却媒体の流量を決定した流量に調整する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1の場合に、前記複数のセル電圧センサによって検出した各検出セル電圧値と、前記電流センサによって検出した検出電流値とを用いて、前記燃料電池の発熱量を推定し、推定した前記発熱量をもとに、前記冷却媒体の流量を決定して前記循環用ポンプの動作を制御する。この形態によれば、セル電圧センサの検出セル電圧を用いて、発熱量を推定することにより、1または複数のセル毎において発電反応が起きているか否かを発熱量の推定に反映することができる。これにより、推定された発熱量が実際の燃料電池の発熱量と大きく異なることを抑制できるので、実際の発熱量を精度良く反映した冷却媒体の流量調整を行うことができる。
(2)上記形態の燃料電池システムにおいて、さらに、前記燃料電池の総電圧を検出する電圧センサを備え、前記制御部は、前記検出セル電圧値を用いて、セル電圧が予め定められた基準電圧以下の前記セルである特定セルの総枚数を算出し、前記検出電流値と前記電圧センサによって検出した検出電圧値とを用いて導出される基準発熱量を、前記特定セルの総枚数が多いほど小さく補正して、前記発熱量を推定してもよい。基準電圧以下であるセルは、発電反応が起きておらず、発熱していないと推定できる。そこで、この形態によれば、特定セルの総枚数が多いほど、発熱量を小さく補正することで、推定された発熱量が実際の燃料電池の発熱量と大きく異なることを抑制できるので、実際の発熱量を精度良く反映した冷却媒体の流量調整を行うことができる。
(3)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記基準発熱量に、前記セルの総枚数に対する前記セルの総枚数から前記特定セルの総枚数を減じた枚数の割合を乗じることで前記基準発熱量を補正して、前記発熱量を推定してもよい。この形態によれば、セルの総枚数と特定セルの総枚数とにより、特定セルの総枚数が多いほど基準発熱量を小さく補正することができる。発熱していないと推定される特定セルの総枚数を用いることにより、実際の発熱量を精度良く反映した冷却媒体の流量調整を行うことができる。
(4)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記基準発熱量毎に、前記特定セルの総枚数に対して前記発熱量が対応付けられているマップであって、前記特定セルの総枚数が多いほど前記発熱量が小さいマップを用いることで前記基準発熱量を補正して、前記発熱量を推定してもよい。この形態によれば、特定セルの総枚数に対して発熱量が対応付けられているマップを用いて、特定セルの総枚数が多いほど基準発熱量を小さく補正することができる。発熱していないと推定される特定セルの総枚数を用いることにより、実際の発熱量を精度良く反映した冷却媒体の流量調整を行うことができる。
本開示は、燃料電池システムの種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池システムの制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】車両に搭載される燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
図2】第1実施形態に係る流量制御処理のフローチャートである。
図3】第1実施形態に係る冷却水流量マップである。
図4】第2実施形態に係る流量制御処理のフローチャートである。
図5】第2実施形態に係る発熱量マップである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、車両に搭載される燃料電池システム100の概略構成を示す図である。燃料電池システム100は、燃料電池10と、酸化ガス系回路20と、燃料ガス系回路40と、冷却系回路60と、負荷71と、DC/DCコンバータ72と、制御部80と、電流センサ11と、電圧センサ12と、複数のセル電圧センサ13と、温度センサ16,17と、マフラー52と、を備える。燃料電池10は、燃料ガスおよび酸化ガスを用い、発電反応によって発電する。燃料電池10は、固体高分子形燃料電池であり、複数のセル90が積層されたスタック構造を有する。セル90は、図示しないMEGA(Membrane Electrode and Gas Diffusion Layer Assembly)が図示しないセパレータにより挟持された構造を有する。MEGAは、MEA(Membrane Electrode Assembly)と、MEAの両面に配置されたガス拡散層とを備える。MEAは、電解質膜と、電解質膜の一方の面に形成されたアノードとして機能する電極触媒層と、電解質膜の他方の面に形成されたカソードとして機能する電極触媒層とを備える。本実施形態では、燃料ガスとして水素が用いられ、酸化ガスとして空気中の酸素が用いられる。燃料電池10により発電された電力は、DC/DCコンバータ72により昇圧された後に負荷71に供給されることで消費される。負荷71は、例えば車両駆動用モータである。
【0009】
電流センサ11は、燃料電池10と負荷71との間に設けられており、燃料電池10の出力電流を検出する。電圧センサ12は、燃料電池10の両電極間に設けられており、燃料電池10の総電圧を検出する。複数のセル電圧センサ13は、それぞれ、1枚のセル90を単位としてセル90の電圧を検出する。
【0010】
制御部80は、図示しないCPU(central processing unit)および記憶装置81を備え、酸化ガス系回路20と、燃料ガス系回路40と、冷却系回路60と、を制御する。記憶装置81には、後述する流量制御処理のプログラム、流量制御処理にて使用される暖機終了温度および基準電圧などの各値が予め記憶されている。電流センサ11と、電圧センサ12と、各セル電圧センサ13と、温度センサ16,17とは、それぞれ制御部80と接続されている。電流センサ11と、電圧センサ12と、各セル電圧センサ13と、温度センサ16,17が検出した検出値は、制御部80へ送信される。セル電圧センサ13の各々には、燃料電池10の両端部のいずれか一方のセル90に設けられているセル電圧センサ13を1番とする番号が付されている。各検出電圧値には、対応するセル電圧センサ13の番号が付与されて制御部80に送信される。これにより、制御部80は、何番目のセル電圧センサ13から送信された検出電圧値であるかを特定できる。
【0011】
酸化ガス系回路20は、燃料電池10のカソードに対して空気を供給するための回路である。酸化ガス系回路20は、酸化ガス供給管21と、エアクリーナ22と、エアコンプレッサ23と、バイパス管24と、酸化オフガス排出管25と、酸化ガス供給バルブ26と、バイパスバルブ27と、カソードオフガス排気バルブ28と、を有する。酸化ガス供給管21は、エアクリーナ22と、燃料電池10のカソード、詳細には酸化ガス導入口(図示せず)と、を接続する。酸化オフガス排出管25は燃料電池10の酸化オフガス排出口(図示せず)と、大気とを連通する。酸化オフガス排出管25にはマフラー52が配置されている。エアコンプレッサ23は、エアクリーナ22により塵埃が除去された空気を圧縮し、酸化ガス供給管21を介して圧縮した空気を燃料電池10に供給する。酸化ガス供給バルブ26は酸化ガス供給管21に配置されており、酸化ガス供給管21の流路を開閉することにより燃料電池10への空気の供給を遮断または許容する。カソードオフガス排気バルブ28は酸化オフガス排出管25に配置されており、燃料電池10の酸化オフガス排出口から排出されたカソードオフガスの排出量を制御し、燃料電池10の背圧を調整する。バイパス管24は、酸化ガス供給管21と酸化オフガス排出管25とを接続する。バイパスバルブ27は、バイパス管24に配置されており、エアコンプレッサ23およびカソードオフガス排気バルブ28と協働して、燃料電池10を流れる空気の流量を調整する。
【0012】
燃料ガス系回路40は、燃料電池10のアノードに対して燃料ガスを供給するための回路である。燃料ガス系回路40は、燃料ガス供給管41と、燃料ガス源である燃料ガスタンク42と、主止弁43と、調圧弁44と、インジェクタ45と、燃料排ガス管46と、気液分離器47と、排気排水弁48と、還流管49と、還流ポンプ50と、を備える。燃料ガス供給管41は、燃料ガスタンク42と、燃料電池10のアノード、詳細には燃料ガス導入口(図示せず)と、を接続する。燃料ガスタンク42は高圧水素ガスを貯留する。燃料ガス供給管41には、燃料ガスタンク42から燃料電池10に向かって、主止弁43、調圧弁44、インジェクタ45が順に配置されている。主止弁43は、燃料ガス供給管41の流路を開閉することにより燃料ガスタンク42からの水素ガスの供給を遮断または許容する。調圧弁44は、高圧水素ガスの圧力を予め定められた水素圧力まで低下させる。インジェクタ45は、燃料電池10に対する水素ガスの供給量を調整するために備えられている。燃料排ガス管46は、燃料電池10の燃料オフガス排出口(図示せず)と、酸化オフガス排出管25と、を接続する。燃料排ガス管46には、燃料電池10からマフラー52に向かって、順に気液分離器47と、排気排水弁48とが、配置されている。還流管49は、気液分離器47と、インジェクタ45下流側の燃料ガス供給管41と、を接続する。燃料電池10の燃料オフガス排出口から排出される燃料オフガスは、気液分離器47により気体成分と液体成分とに分離される。排気排水弁48は、燃料排ガス管46を連通・非連通に切り替える。気液分離器47により分離された燃料排ガスの気体成分は、還流ポンプ50により燃料ガス供給管41へ還流される。これにより、燃料オフガスに含まれる未反応の水素が再利用される。燃料オフガス中の水素ガス以外のガス成分の濃度が高くなると、排気排水弁48が開弁されて、液体成分と燃料オフガスとが排出される。燃料排ガス管46を流れる燃料オフガスと、酸化オフガス排出管25を流れるカソードオフガスとは、混合され、マフラー52を介して排気される。
【0013】
冷却系回路60は冷却媒体としての冷却水を循環させることにより、燃料電池10の温度を調整するための回路である。冷却系回路60は、ラジエータ64と、循環用ポンプ65と、冷却水供給路161と、冷却水排出路162と、バイパス流路163と、三方弁164と、を備える。燃料電池10の内部には、冷却水を流通させるための内部流路としての冷却水マニホールド91が形成されている。図1では、冷却水マニホールド91を破線により模式的に表している。本実施形態において、冷却水マニホールド91は、セル90の積層方向に沿って形成された供給用の冷却水マニホールド91と排出用の冷却水マニホールド91とがセル90内の冷却水流路を介して接続されている構造を有する。冷却水供給路161は、ラジエータ64の導出口と、供給用の冷却水マニホールド91とを接続する。ここで、冷却水供給路161における、供給用の冷却水マニホールド91との接続点を入口p1と称する。冷却水供給路161には、循環用ポンプ65が配置されている。冷却水排出路162は、排出用の冷却水マニホールド91と、ラジエータ64の導入口とを接続する。ここで、冷却水排出路162における、排出用の冷却水マニホールド91との接続点を出口p2と称する。冷却水排出路162には、三方弁164が配置されている。バイパス流路163は、一端が三方弁164を介して冷却水排出路162に接続され、他端が冷却水供給路161に接続されている。ラジエータ64は、導入口を介して冷却水排出路162から流入する冷却水を、図示しない電動ファンからの送風等により冷却し、導出口を介して冷却水供給路161へと排出する。
【0014】
三方弁164は、冷却水排出路162とバイパス流路163との接続箇所に配置されている。三方弁164の開度により、ラジエータ64に流れる冷却水の流量が調整される。ここで、冷却水マニホールド91と、出口p2から三方弁164までの冷却水排出路162と、バイパス流路163と、バイパス流路163との接続点から入口p1までの冷却水供給路161とにより形成される流路を循環流路R1と称する。また、出口p2から三方弁164までの冷却水排出路162と、バイパス流路163と、バイパス流路163との接続点から入口p1までの冷却水供給路161とにより形成される流路を外部流路167と称する。外部流路167は、内部流路である冷却水マニホールド91に接続され、燃料電池10の外部に形成されている。三方弁164が全閉されると、燃料電池10の冷却水マニホールド91から冷却水排出路162に流入した冷却水は、ラジエータ64に向かわずにバイパス流路163に向かう。このため、三方弁164が全閉された場合、冷却水は、循環流路R1のみを循環する。循環用ポンプ65は、バイパス流路163との接続点と入口p1との間に配置されており、循環用ポンプ65により冷却水の循環流路R1を流れる流量が調整される。冷却水としては、例えば、エチレングリコールを含有する水等の不凍液が用いられる。温度センサ16は、冷却水排出路162の出口p2付近に設けられている。温度センサ17は、ラジエータ64と、冷却水供給路161とバイパス流路163との接続点と、の間に設けられている。
【0015】
燃料電池10における通常運転および暖機運転について説明する。通常運転においては、目標の出力電力を発電するのに必要な理論空気量以上の空気が供給されて発電が行われる。一方、暖機運転においては、運転効率を低下させるために、通常運転にて供給される空気量未満の空気量にて発電が行われる。暖機運転においては、エアストイキ比は、例えば1.0程度とされる。エアストイキ比とは、目標の出力電力を発電するのに必要な理論空気量に対する、実際に供給される空気量の比である。暖機運転では、低効率動作点において燃料電池10を稼働させることにより、濃度過電圧が増大し、自己発熱により燃料電池10が暖機される。
【0016】
暖機運転は、主に外気温が氷点下である場合に行われる。氷点下では、燃料電池10に残存する前回の走行時に生成された水分などが凍結し、燃料電池10における燃料ガスの流路が部分的に閉塞される場合がある。このため、燃料ガスの圧力損失が増大し、目標の燃料ガス供給量に対して、実際の燃料ガス供給量が少なくなり、発電反応が行われないセル90が発生する。発電反応が行われていないセル90では、目標のセル電圧に対して、実際のセル電圧は低下し、典型的には負電圧となる。そこで、後述する流量制御処理においては、セル電圧が予め定められた基準電圧以下であるセル90は、発電反応が行われていないと推定される。以下の説明において、セル電圧が基準電圧以下であるセル90を「特定セル」と称する場合がある。ここで、発明者らは、発電反応が行われていないセル90では、自己発熱も生じないことに着目した。後述する流量制御処理は、特定セルの総枚数に応じて推定発熱量が決定され、決定された推定発熱量に応じて循環流路R1を流れる冷却水の流量が調整される。これにより、実際の発熱量を精度良く反映した冷却水の流量調整を行うことができる。
【0017】
制御部80は、起動後、例えば酸化ガス供給管21(図1)に設けられた外気温を検出する温度センサ(図示しない)の検出値などに基づき、暖機運転が必要か否かを判断する。制御部80は、例えば、検出された外気温が氷点下の場合に、暖機運転が必要であると判断し、検出された外気温が氷点以上の場合に、暖機運転が必要でないと判断する。制御部80は、暖機運転が必要でないと判断すると、通常運転を開始する。制御部80は、暖機運転が必要であると判断すると、暖機運転フラグをオンに切り替え、暖機運転を開始する。暖機運転開始時において、三方弁164は全閉される。これにより、燃料電池10で発生した熱の系外への排出が抑制される。また、制御部80は、暖機運転を終了する場合は、暖機運転フラグをオフに切り替え、通常運転に移行する。
【0018】
制御部80が実行する流量制御処理について図2を参照して説明する。制御部80は、起動後、流量制御処理を実行する。制御部80は、燃料電池10が暖機運転中であるか否かを判断する(ステップS10)。燃料電池10は、暖機運転フラグを参照し、暖機運転フラグがオフの場合には、燃料電池10は暖機運転中でないと判断し(ステップS10:NO)、本処理ルーチンを終了する。制御部80は、暖機運転フラグがオンの場合には、燃料電池10は暖機運転中であると判断し(ステップS10:YES)、温度センサ16の検出温度を取得し、取得した検出温度を出口温度として、記憶装置81に記憶する(ステップS20)。制御部80は、外部流路のうちで内部流路への入口p1における温度である入口温度を推定し、推定した入口温度が暖機終了温度以上であるか否かを判断する(ステップS30)。詳しくは、制御部80は、温度センサ17の検出温度と、循環流路R1の冷却水流量と、から入口温度を推定する。制御部80は、温度センサ17の検出温度および冷却水流量と、入口温度との相関関係を規定したマップを参照し、取得した温度センサ17と、循環用ポンプ65の駆動指令値に応じた冷却水流量と、に対応する入口温度を取得する。温度センサ17の検出温度および冷却水流量と入口温度との相関関係は、実験等により予め求められ、記憶装置81に記憶されている。なお、温度センサ17は、外部流路167の近傍に配置されており、温度センサ17の検出温度は外部流路167の温度と近いため、入口温度の推定に用いることができる。ここで、暖機終了温度とは、予め定められた温度であり、セル90の発電が高効率となる温度、例えば、72℃以上80℃以下の温度である。
【0019】
制御部80は、入口温度が暖機終了温度以上でない、すなわち暖機終了温度未満であると判断すると(ステップS30:NO)、全てのセル90に同じ値の電流が流れているとみなして、次の式(1)を用いて、基準発熱量Qstを導出する(ステップS40)。
Qst=(理論起電力×セル総枚数N-総電圧)×電流・・・式(1)
式(1)において、理論起電力[V]は、セル90の構成により定まる値であり、例えば1.4Vである。セル総枚数Nとは、セル90の総枚数である。総電圧[V]および電流[A]は、燃料電池10の電圧および電流である。本実施形態では、総電圧には、電圧センサ12の検出電圧値が用いられ、電流には、電流センサ11の検出電流値が用いられる。制御部80は、記憶装置81に記憶されている式(1)に、記憶装置81に予め記憶されている理論起電力およびセル総枚数Nと、取得した電圧センサ12の検出電圧値および電流センサ11の検出電流値とを代入し、基準発熱量Qstを算出する。
【0020】
制御部80は、特定セルの総枚数である特定セル総枚数Nlvを算出する(ステップS50)。詳しくは、制御部80は、複数あるセル電圧センサ13の内、検出セル電圧値が基準電圧以下であると判断したセル90の個数を計数する。制御部80は、計数した、基準電圧以下であると判断したセル90の個数を特定セル総枚数Nlvとして決定する。基準電圧とは、セル90においては発電反応が行われていないと推定できる電圧であればよく、例えば0Vである。上記のように、基準電圧以下であると判断されたセル90では、発電反応が行われておらず、発熱していないと推定される。
【0021】
制御部80は、次の式(2)を用いて、推定される燃料電池10の発熱量としての推定発熱量Qhを決定する(ステップS60)。
Qh=Qst×(N-Nlv)/N・・・式(2)
式(2)におけるパラメータの定義は、次に示す通りである。
Qst:基準発熱量
N:セル総枚数
Nlv:特定セル総枚数
詳しくは、制御部80は、記憶装置81に予め記憶されている式(2)に、記憶装置81に予め記憶されているセル90のセル総枚数Nと、ステップS40で算出した基準発熱量Qstと、ステップS50で決定した特定セル総枚数Nlvとを代入し、推定発熱量Qhを算出する。これにより、基準発熱量Qstを、特定セル総枚数Nlvが多いほど小さく補正した推定発熱量Qhを算出することができる。特定セルでは、発電反応は起こっておらず、発熱していない、すなわち、発熱量はゼロであると推定されるため、式(2)を用いることにより、実際の発熱量が反映された推定発熱量Qhを算出することができる。なお、特定セルがある場合、燃料電池10の検出電圧値も小さくなるため、基準発熱量Qstは、特定セルがない場合とは異なる値となる。ここで、発電反応が行われているセル90と、発電反応が行われていないセル90とでは、セル電圧が僅かな差であっても、発熱量は大きく異なる。総電圧から燃料電池10の発熱量を推定する場合には、全てのセル90が同じセル電圧であるとみなして発熱量は推定されるため、発電していないセル90が含まれる場合が考慮された値とはならない。目標のセル電圧のセル90だけが含まれる場合に対して、目標のセル電圧よりも高いセル電圧であるセル90と、負電圧であるセル90とが混在する場合とでは、総電圧が同じであっても、負電圧であるセル90は発熱量がゼロであるため、混在する場合の推定発熱量は、実際の発熱量とは異なる値となってしまう。つまり、燃料電池10の検出電圧値および検出電流値から算出される基準発熱量Qstは、実際の発熱量が十分に反映されていない場合が多い。そこで、特定セル総枚数Nlvを用いて、基準発熱量Qstを補正することにより、実際の発熱量を反映した推定発熱量Qhを算出することができる。
【0022】
制御部80は、ステップS60の次に、図3に示す冷却水流量マップを用いて、目標冷却水流量Qfを決定する(ステップS70)。図3の横軸は燃料電池10の推定発熱量を示し、縦軸は単位時間当たりの移動体積で示される冷却水流量を示す。冷却水流量マップでは、燃料電池10の推定発熱量と冷却水流量とが対応付けられている。特性線Lsは、通常運転時に用いられる特性線である。特性線L1~L7は、暖機運転時に用いられる特性線である。このうち、特性線L1~L6は、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満である場合に適用される特性線である。また、特性線L7は、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上である場合に適用される特性線である。生成水が凍結しない温度範囲の下限温度とは、例えば0℃である。特性線L1~L6は、異なる出口温度に対応しており、L1,L2,L3,L4,L5,L6の順に対応する出口温度は高い。特性線L1~L6,特性線Lsは、推定発熱量の増加に応じて冷却水流量が増加する直線で示される。特性線L7は、推定発熱量にかかわらず、一定の流量Faとされている。
【0023】
燃料電池10の入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度よりも低い場合には、低温の冷却水によりセル90が冷却されてしまうため、冷却水流量が多いとセル90の冷却が促進され、生成水の再凍結が起こり得る。そこで、特性線L1~L6が用いられる。特性線L1~L6が用いられることにより、同じ推定発熱量であれば、燃料電池10の温度が低いほど、循環流路R1を流れる冷却水流量は少なく設定されるため、生成水の再凍結を抑制することができる。また、特性線L1~L6は、推定発熱量が増加するほど、冷却水流量が増加する特性とされている。特性線L1~L6を用いることにより、推定発熱量が大きい場合ほど、循環流路R1を流れる冷却水流量は多く設定されるため、セル90間における熱のやりとりは促進される。これにより、燃料電池10における熱の不均一を低減することができる。とはいえ、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度よりも低い場合には、再凍結が起こり得るため、通常運転時よりも特性線L1~L6の冷却水流量は低く抑えられている。
【0024】
上記のように、特性線L7は、暖機運転時であって、燃料電池10の入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上である場合に用いられる特性線である。燃料電池10の入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上である場合には、冷却水流量が多くても再凍結は起こらない。そこで、燃料電池10における熱の不均一を低減するために、特性線L7は、通常運転時に用いられる特性線Lsよりも多い冷却水流量とされている。特性線L7が用いられることにより、冷却水流量は多くなるため、熱の不均一が低減され、暖機運転の運転時間を短縮することができる。
【0025】
ステップS70において、制御部80は、入口温度および出口温度に応じて、特性線L1~L7のいずれかの特性線を選択し、選択した特性線において、推定発熱量Qhに対応する冷却水流量を目標冷却水流量Qfに決定する。上記のように、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満である第1の場合に特性線L1~L6のいずれかが選択される。一方、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上である第2の場合には、特性線L7が選択される。入口温度は、出口温度よりも低いため、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上となり、再凍結のおそれが十分に低い場合には特性線L7が選択される。ここで、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度は、冷却水の流量性制御を行う場合の閾値として機能する。
【0026】
ステップS70にて、特性線L1~L6のいずれかの特性線が選択される場合とは、冷却水流量が多いとセル90の冷却が促進され、生成水の再凍結が起こり得る場合である。ここで、ステップS60において、推定発熱量Qhは、基準発熱量Qstに対して、特定セル総枚数Nlvが多いほど小さく補正されている。従って、特定セルがある場合、目標冷却水流量Qfは、補正前の基準発熱量Qstを用いて決定される冷却水流量よりも小さい値となる。目標冷却水流量Qfは、実際の発熱量が反映された値となるため、特定セルがある場合であっても、実際の発熱量に対して冷却水流量が多く設定されてしまうことによる生成水の再凍結を抑制することができる。冷却水の流量過多を抑制することができる。
【0027】
制御部80は、ステップS70で決定した目標冷却水流量Qfに応じた駆動指令値を生成して循環用ポンプ65に送信することで、循環流路R1の冷却水の流量が目標冷却水流量Qfとなるように循環用ポンプ65の動作を制御する(ステップS80)。これにより、実際の発熱量が反映された目標冷却水流量Qfでの制御が行われる。
【0028】
制御部80は、ステップS80を実行後、ステップS20へ戻り、入口温度が暖機終了温度以上であると判断するまで、ステップS40~S80を繰り返し実行する。制御部80は、入口温度が暖機終了温度以上であると判断すると(ステップS30:YES)、入口温度が暖機終了温度以上であると判断してからの経過時間を計測し、冷却水が循環流路R1を一周したか否かを判断する(ステップS35)。詳しくは、制御部80は、記憶装置81に予め記憶されている循環流路R1の体積と、目標冷却水流量Qfとを用いて、決定した目標冷却水流量Qfにて循環流路R1を一周するのに要する循環時間を算出し、経過時間が循環時間以上であるか否かを判断する。制御部80は、冷却水が循環流路R1を一周していないと判断すると(ステップS35:NO)、ステップS40へ移行する。制御部80は、冷却水が循環流路R1を一周したと判断すると(ステップS35:YES)、本処理ルーチンを終了する。なお、通常運転においては、上記のように、特性線Lsを用いて、目標冷却水流量Qfが決定される。目標冷却水流量Qfの決定に用いられる推定発熱量は、電圧センサ12の検出電圧値および電流センサ11の検出電流値が用いられて算出される基準発熱量Qstが用いられる。
【0029】
以上説明した第1実施形態によれば、制御部80は、検出セル電圧値と、検出電流値とを用いて、推定される燃料電池10の発熱量としての推定発熱量Qhを決定し(ステップS60)、推定発熱量Qhをもとに、目標冷却水流量Qfを決定して(ステップS70)、循環用ポンプ65の動作を制御する(ステップS80)。このため、セル90毎の発電反応が起きているか否かを推定発熱量Qhの決定に反映することができる。これにより、決定された推定発熱量Qhが実際の燃料電池10の発熱量と大きく異なることを抑制できるので、実際の発熱量を精度良く反映した冷却水の流量調整を行うことができる。
【0030】
また、制御部80は、検出セル電圧値を用いて、特定セル総枚数Nlvを算出し(ステップS50)、基準発熱量Qstを、特定セル総枚数Nlvが多いほど小さく補正して(ステップS60)、推定発熱量Qhを決定する。これにより、特定セル総枚数Nlvが多いほど、発熱量を小さく補正されるため、実際の発熱量を精度良く反映した冷却水の流量調整を行うことができる。
【0031】
また、制御部80は、ステップS60において、基準発熱量Qstに、セル総枚数Nに対するセル総枚数Nから特定セル総枚数Nlvを減じた枚数の割合を乗じて、推定発熱量Qhを決定する。これにより、特定セル総枚数Nlvが多いほど基準発熱量Qstを小さく補正することができる。特定セル総枚数Nlvを用いることにより、実際の発熱量を精度良く反映した冷却水の流量調整を行うことができる。
【0032】
B.第2実施形態:
第2実施形態に係る流量制御処理について、図4を参照して説明する。第1実施形態に係る流量制御処理とは、推定発熱量Qhの決定方法が異なる。第1実施形態に係る流量制御処理と同じ処理ステップには同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0033】
制御部80は、第1実施形態と同様に、ステップS10~S50を実行する。制御部80は、推定発熱量Qhを図5に示す発熱量マップを用いて決定する(ステップS160)。図5の横軸は特定セル総枚数Nlvを示し、縦軸は推定発熱量Qhを示す。発熱量マップでは、特定セル総枚数Nlvと推定発熱量Qhとが対応付けられている。特性線L11~L15は、異なる基準発熱量Qstに対応しており、L11,L12,L13,L14,L15の順に対応する基準発熱量Qstは大きい。特性線L11~L15は、特定セル総枚数Nlvの増加に応じて推定発熱量Qhが減少する特性とされており、特定セル総枚数Nlvがセル総枚数Nの場合、推定発熱量Qhはゼロとされている。制御部80は、ステップS40にて導出した基準発熱量Qstに対応する特性線L11~L15のいずれかにおいて、ステップS50にて算出した特定セル総枚数Nlvに対応する発熱量を推定発熱量Qhに決定する。発熱量マップが用いられることにより、第1実施形態と同様に、推定発熱量Qhは、基準発熱量Qstに対して、特定セル総枚数Nlvが多いほど小さく補正される。なお、発熱量マップは、実験などにより求められ、予め記憶装置81に記憶されている。制御部80は、第1実施形態と同様に、ステップS70,S80を実行する。
【0034】
以上説明した第2実施形態によれば、制御部80は、ステップS160において、特定セル総枚数Nlvが多いほど発熱量が小さく規定された発熱量マップを用いて、推定発熱量Qhを決定する。このため、特定セル総枚数Nlvが多いほど基準発熱量Qstを小さく補正することができる。これにより、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。すなわち、特定セル総枚数Nlvに基づいて補正された推定発熱量Qhをもとに、目標冷却水流量Qfが決定されるため、セル90毎の発電反応が起きているか否かを推定発熱量Qhの決定に反映することができる。これにより、実際の発熱量を精度良く反映した冷却水の流量調整を行うことができる。
【0035】
C.他の実施形態:
(C1)上記第1実施形態および第2実施形態では、検出電圧値および検出電流値を用いて基準発熱量Qstが算出され、基準発熱量Qstが特定セル総枚数Nlvを用いて補正され、推定発熱量Qhが決定される。推定発熱量Qhの決定方法は、これに限定されず、例えば、セル90毎に発熱量を求め、求めたセル90毎の発熱量の総計に基づき、燃料電池10の発熱量を求める構成としてもよい。この場合、検出セル電圧が基準電圧以下のセル90については、発熱量はゼロとみなし、検出セル電圧が基準電圧より大きいセル90については、理論起電力から検出セル電圧を減算した値に検出電流値を乗じて、セル90の発熱量を求めてもよい。また、例えばマップなどの、検出セル電圧が基準電圧以下のセル90については、発熱量はゼロとされた、セル電圧に対してセル90の発熱量が対応付けられた予め定められた相関関係に基づき、検出セル電圧に対応する発熱量をセル90の発熱量としてもよい。
【0036】
(C2)上記第1実施形態および第2実施形態に係る燃料電池システム100では、1枚のセル90を単位として、セル電圧センサ13が設けられている。燃料電池システム100において複数のセル90のうち一部を構成する2枚以上のセル90を単位として電圧を検出するセル電圧センサ13が設けられている場合には、次のように、特定セル総枚数Nlvを算出すればよい。例えば、2枚のセル90を単位としてセル電圧センサ13が設けられている場合には、2枚のセル90のいずれもが基準電圧以下であるセル電圧センサ13を特定するための第1閾値電圧と、2枚のセル90のいずれか一方が基準電圧以下であるセル電圧センサ13を特定するための第2閾値電圧と、を用いる。ここで、第2閾値電圧は、第1閾値電圧よりも大きい値であり、第1閾値電圧と目標セル電圧との平均電圧に応じた値である。検出セル電圧が第1閾値以下である場合には、特定セルは2枚であると計数する。検出セル電圧が第1閾値より大きく、かつ第2閾値以下である場合には、特定セルは1枚であると計数する。検出セル電圧が第2閾値より大きい場合には、特定セルは0枚であると計数する。3枚以上のセル90を単位としてセル電圧センサ13が設けられている場合においも、特定セルを計数するための閾値電圧を増やし、同様の方法にて特定セル総枚数Nlvを計数することができる。また、燃料電池システム100に、1枚のセル90を単位とするセル電圧センサ13と、複数枚のセル90を単位とするセル電圧センサ13とが混在する場合にも、セル電圧センサ13の番号と、検出するセル90の枚数とを予め関連付けた情報を記憶装置81に記憶することで、特定セル総枚数Nlvを算出することができる。
【0037】
(C3)上記第1実施形態においては、式(2)を用い、セル総枚数Nに対するセル総枚数Nから特定セル総枚数Nlvを減じた枚数の割合を用いて、推定発熱量Qhを決定する(ステップS60)。燃料電池システム100に複数のセル90を単位として電圧を検出するセル電圧センサ13が含まれている場合には、上記(C2)のように、セル電圧が基準電圧以下である特定セルの枚数を計数し、この計数値を式(2)における特定セル総枚数Nlvとするとよい。あるいは、セル電圧センサ13が検出する複数のセル90のすべてが基準電圧以下であるセル90のみを計数し、この計数値を式(2)における特定セル総枚数Nlvとしてもよい(計数方法a)。あるいは、セル電圧センサ13が検出する複数のセル90のいずれもが基準電圧以下でないセル90のみを計数し、セル総枚数Nからこの計数値を減じた値を式(2)における特定セル総枚数Nlvとしてもよい(計数方法b)。計数方法aおよび計数方法bが用いられる場合には、例えば、上記(C2)における第1閾値電圧もしくは、第2閾値電圧を用いた判定処理のいずれか一方を削減することができるため、処理を簡略化することができる。また、計数方法aおよび計数方法bが用いられる場合であっても、大まかに、基準電圧以下であるセル90の枚数を推定発熱量Qhに反映することができる。
【0038】
(C4)上記第1実施形態に係る燃料電池システム100では、入口p1に温度センサは設けられておらず、入口温度は、温度センサ17の検出温度などから推定される。これに対して、入口p1付近に温度センサを設け、入口p1付近に設けられた温度センサを入口温度としてもよい。
【0039】
(C5)燃料電池システム100では、冷却系回路60にバイパス流路163が設けられている。これに対して、冷却系回路60にバイパス流路163が設けられていない構成としてもよい。この構成においては、暖機運転時にラジエータ64のファンを停止させておくことが好ましい。また、このバイパス流路163が設けられていない構成においては、冷却水マニホールド91と、冷却水排出路162と、ラジエータ64と、冷却水供給路161とにより形成される流路が循環流路R1である。また、冷却水排出路162と、ラジエータ64と、冷却水供給路161とにより形成される流路が外部流路である。また、冷却水流量は、冷却水マップを参照して決定されていたが、マップではなく、燃料電池10の発熱量と、出口温度と、冷却水流量との関係を示す関係式を用いて演算することにより決定されてもよい。また、流量制御処理におけるステップS40とステップS50とが実行される順番は、上記に限定されず、ステップS50の後にステップS40が実行されてもよく、同時期に実行されてもよい。
【0040】
(C6)上記第1実施形態および第2実施形態では、暖機運転の実行中において、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満であるか否かにかかわらず、特定セル総枚数Nlvを用いて決定された推定発熱量Qhと、出口温度とを用いて、目標冷却水流量Qfが決定される。これに対して、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上である場合には、発熱量にかかわらず冷却水流量が一定である特性線L7が適用されるため、推定発熱量Qhを決定するための処理ステップをスキップする構成としてもよい。具体的には、ステップS30の後に、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上であるか否かを判断する処理ステップを設け、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上である場合には、ステップS40~S60をスキップし、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満である場合には、ステップS40~S60を実行する処理内容とするとよい。この構成によれば、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度以上である場合に、ステップS40~S60を削減することができる。
【0041】
(C7)上記第1実施形態および第2実施形態では、通常運転においては、マップに含まれる特性線Lsを用いて、目標冷却水流量Qfが決定される。通常運転における目標冷却水流量Qfの決定方法は、これに限定されず、推定発熱量を用いて決定されれば、どのような方法でもよい。例えば、次の方法でもよい。出口温度は、燃料電池10の発熱量に応じて、入口温度に対して上昇するため、温度センサ16により検出された出口温度と、算出された基準発熱量Qstとから、入口温度を推定することができる。推定された入口温度に応じて、例えばマップなどの、入口温度と、目標冷却水流量Qfとの予め規定された相関関係を用いて、目標冷却水流量Qfを決定する。入口温度と、目標冷却水流量Qfとの予め規定された相関関係における冷却水流量は、第1の場合の同じ推定発熱量における冷却水流量よりも多く設定されている。制御部80は、目標冷却水流量Qfとなるように、循環用ポンプ65および三方弁164の開度を調整する。この方法によれは、基準発熱量Qstだけでなく、検出される出口水温を用いて、冷却水流量を調整することができる。
【0042】
(C8)上記第1実施形態および第2実施形態では、制御部80は、ステップS70において、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満である第1の場合に特性線L1~L6のいずれかを選択する。入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満であるか否かの判断は、出口温度を用いて行われてもよい。この場合、出口温度が0℃以上であり、かつ、出口温度が0℃以上であると判断してから、冷却水が循環流路R1を一周した場合に、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満でないと判断する。そして、これ以外の場合に、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満である第1の場合であると判断する処理内容とするとよい。これにより、出口温度を用いて、入口温度が、生成水が凍結しない温度範囲の下限温度未満であるか否かの判断を行うことができる。
【0043】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10…燃料電池、11…電流センサ、12…電圧センサ、13…セル電圧センサ、16,17…温度センサ、20…酸化ガス系回路、21…酸化ガス供給管、22…エアクリーナ、23…エアコンプレッサ、24…バイパス管、25…酸化オフガス排出管、26…酸化ガス供給バルブ、27…バイパスバルブ、28…カソードオフガス排気バルブ、40…燃料ガス系回路、41…燃料ガス供給管、42…燃料ガスタンク、43…主止弁、44…調圧弁、45…インジェクタ、46…燃料排ガス管、47…気液分離器、48…排気排水弁、49…還流管、50…還流ポンプ、52…マフラー、60…冷却系回路、64…ラジエータ、65…循環用ポンプ、71…負荷、72…DC/DCコンバータ、80…制御部、81…記憶装置、90…セル、91…冷却水マニホールド、100…燃料電池システム、161…冷却水供給路、162…冷却水排出路、163…バイパス流路、164…三方弁、167…外部流路、Fa…流量、L1~L7,Ls,L11~L15…特性線、N…セル総枚数、Nlv…特定セル総枚数、Qf…目標冷却水流量、Qh…推定発熱量、Qst…基準発熱量、R1…循環流路、p1…入口、p2…出口
図1
図2
図3
図4
図5