(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】電気加熱式触媒装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20230912BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230912BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20230912BHJP
H05B 3/02 20060101ALI20230912BHJP
H05B 3/03 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F01N3/24 L
B01J35/02 G
F01N3/20 K
H05B3/02 A
H05B3/03
(21)【出願番号】P 2020094719
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 連太郎
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-031053(JP,A)
【文献】特開2015-107452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/04-3/38
B01J 35/02
H05B 3/02
H05B 3/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒が担持された円柱状の担体と、
前記担体の軸方向に間隔を開けて配列され、かつ、前記担体の周方向に沿って延在する複数の配線部と、前記複数の配線部の一端を連結する連結部と、前記連結部に対して前記複数の配線部側とは反対側に向かって延在した帯状の延在部と、を備えた一対の櫛状電極と、
前記担体の外周面に形成され、前記櫛状電極と前記担体との間に介在する下地層と、
前記各配線部の一部を覆うように前記下地層と接合されることにより、前記各配線部を、前記下地層に固定する固定層と、を備えた電気加熱式触媒装置であって、
前記軸方向と直交する方向において、前記延在部の幅は、前記連結部の幅よりも狭く、
前記延在部と前記連結部との間には、前記延在部から前記連結部に進むに従って、前記延在部の幅から前記連結部の幅に近づくように、台形状に幅が広がった拡幅部が形成されて
おり、
前記拡幅部の幅方向の中央には、前記延在部から前記連結部に向かって延びた長孔が形成されていることを特徴とする電気加熱式触媒装置。
【請求項2】
前記連結部の幅と、前記連結部側の前記拡幅部の幅とが一致しており、
前記延在部の幅と、前記延在部側の前記拡幅部の幅とが一致していることを特徴とする請求項1に記載の電気加熱式触媒装置。
【請求項3】
前記連結部の幅をB1とし、前記連結部の幅方向と直交する方向の前記拡幅部の長さをH1とするときに、H1/B1が、0.28~1.12の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の電気加熱式触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒が担持された担体と、これに取付けられた電極と、を少なくとも備えた電気加熱式触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、排気ガスの浄化を図るために通電加熱される電気加熱式触媒装置が知られている。たとえば、電気加熱式触媒装置は、金属触媒が担持された担体と、担体に通電するために担体に対して固定される櫛状電極と、を備えている。ここで、櫛状電極は、バッテリなどの外部電源からの電流を担体に通電し、担体は、櫛状電極を介して通電されることにより加熱されて、担体に担持された金属触媒が活性化する。電気加熱式触媒装置によれば、通電により担体を強制的に加熱することで、排気ガスを効果的に浄化することが可能である。
【0003】
このような電気加熱式触媒装置として、例えば、特許文献1には、担体の周方向に沿って延在する複数の配線部を備えた櫛状電極を、固定層を介して担体(に形成された下地層)に固定した電気加熱式触媒装置が開示されている。ここで、複数の配線部は、その一端側で連結部に連結されており、連結部に対して複数の配線部側とは反対側に向かって、帯状の延在部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、櫛状電極を固定する際、櫛状電極の配線が担体の周面の下地層に倣うように、延在部を介して配線に張力を付与した状態で、各配線を下地層に固定するが、この際、各配線の張力が不均一になることがあり、下地層から浮き上がる配線も存在する。この結果、浮き上がった配線を下地層に固定層を介して固定すると、下地層と配線との間に隙間が発生してしまう。これにより、電気加熱式触媒装置の櫛状電極に繰り返し電流を通電した場合、その繰り返しに伴う熱応力により、固定層の内部において局所的にクラックが発生することがある。これにより、クラックが発生した部分では、配線部から固定層を通して担体に通電できないことがあり、担体を均一に加熱することができない場合がある。
【0006】
また、櫛状電極が固定された担体を排気管等に取付ける際に、たとえば、延在部を引張ってしまうと、延在部の張力が各配線に分散されるが、分散された配線の張力が不均一に作用する。この結果、相対的に高い張力が作用する配線および固定層が損傷し、担体を均一に加熱することができないおそれがある。
【0007】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、櫛状電極を介して担体を均一に加熱することができる電気加熱式触媒装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を鑑みて本発明に係る電気加熱式触媒装置は、金属触媒が担持された円柱状の担体と、前記担体の軸方向に間隔を開けて配列され、かつ、前記担体の周方向に沿って延在する複数の配線部と、前記複数の配線部の一端を連結する連結部と、前記連結部に対して前記複数の配線部側とは反対側に向かって延在した帯状の延在部と、を備えた一対の櫛状電極と、前記担体の外周面に形成され、前記櫛状電極と前記担体との間に介在する下地層と、前記各配線部の一部を覆うように前記下地層と接合されることにより、前記各配線部を、前記下地層に固定する固定層と、を備えた電気加熱式触媒装置であって、前記軸方向と直交する方向において、前記延在部の幅は、前記連結部の幅よりも狭く、前記延在部と前記連結部との間には、前記延在部から前記連結部に進むに従って、前記延在部の幅から前記連結部の幅に近づくように、台形状に幅が広がった拡幅部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、櫛状電極の延在部と連結部との間には、延在部から連結部に進むに従って、延在部の幅から連結部の幅に近づくように、台形状に幅が広がった拡幅部が形成されている。これにより、たとえば、電気加熱式触媒装置を取付ける際に、櫛状電極の延在部に張力が作用したとしても、その張力は、拡幅部で幅方向に分散されるため、各配線に均一に分散させることができる。この結果、張力に起因した配線の損傷を抑えることにより、櫛状電極を介して担体を均一に加熱することができる。
【0010】
さらに好ましい態様としては、前記連結部の幅と、前記連結部側の前記拡幅部の幅とが一致しており、前記延在部の幅と、前記延在部側の前記拡幅部の幅とが一致している。この態様によれば、これらの幅の関係を満たすことにより、櫛状電極の延在部に作用した張力を、各配線により均一に分散させることができる。
【0011】
さらに好まし態様としては、前記連結部の幅をB1とし、前記連結部の幅方向と直交する方向の前記拡幅部の長さをH1とするときに、H1/B1が、0.28~1.12の範囲にある。この態様によれば、H1/B1が、0.28~1.12の範囲を満たすことにより、配線に作用する張力をより均一に分散することができる。ここで、H1/B1が、0.28未満の場合には、拡幅部による張力の分散作用が十分でないことがあり、一方、H1/B1が、1.12を超えた場合には、張力の分散作用をそれ以上期待することができないばかりでなく、拡幅部の大きさが大きくなるため、スペース状の制約を受けることがある。
【0012】
さらに好ましい態様としては、前記拡幅部の幅方向の中央には、前記延在部から前記連結部に向かって延びた長孔が形成されている。この態様によれば、拡幅部の幅方向の中央には、延在部からの張力が他の部位に比べて大きく作用しやすいが、この部分に長孔を設けることにより、拡幅部の幅方向の中央に作用する張力を分散することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、櫛状電極を介して担体を均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る電気加熱式触媒装置の模式的斜視図である。
【
図2】
図1に示す電気加熱式触媒装置を排気管に取付けた状態の断面図である。
【
図3】
図1に示す電気加熱式触媒装置の櫛状電極を折り曲げる前の状態を示した図である。
【
図4A】
図1に示す電気加熱式触媒装置の製造方法のうち下地層の成形状態を示した模式的概念図である。
【
図4B】
図1に示す電気加熱式触媒装置の製造方法のうち電極の配置状態を示した模式的概念図である。
【
図4C】
図1に示す電気加熱式触媒装置の製造方法のうち固定層の成形前の状態を示した模式的概念図である。
【
図4D】
図1に示す電気加熱式触媒装置の製造方法のうち固定層の成形後の状態を示した模式的概念図である。
【
図4E】
図1に示す電気加熱式触媒装置の製造方法のうち櫛状電極に成形後の状態を示した模式的概念図である。
【
図6】実施例1~5および比較例1に係る櫛状電極の応用分布のグラフである。
【
図7】実施例3に相当する電極シートの平面図である。
【
図8】実施例6および比較例2に係る櫛状電極の配線の位置と、配線と下地層の隙間の大きさとの関係を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、
図1~
図3を参照して、本発明の実施形態に係る電気加熱式触媒装置を説明し、次に、
図4A~
図4Eを参照して、
図1に示す電気加熱式触媒装置の製造方法を簡単に、説明する。
【0016】
1.電気加熱式触媒装置1について
電気加熱式触媒装置1は、例えば自動車等の排気経路上に設けられ、エンジンから排出される排気ガスを浄化する装置である。
図1に示すように、電気加熱式触媒装置1は、担体10、下地層4、櫛状電極5、および固定層6を備えている。
図2に示すように、電気加熱式触媒装置1は、排気管71内に挿入されており、セラミックス等からなる保持マット72を介して、排気管71内に保持されている。
【0017】
1-1.担体10について
図1に示すように、担体10は、外径が円柱状のセラミックスからなる多孔質部材であり、その内部はハニカム構造10aを有しており、担体10の中心軸CLに沿って延在した複数の空孔により、担体10の内部を排気ガスが通過することができる。
【0018】
担体10を構成するセラミックスは、例えばSiC(炭化珪素)粒子とSi(珪素)粒子とで構成される複合材などを挙げることができ、導電性を有するセラミックスであれば得に限定されるものではない。さらに、担体10のハニカム構造10aを形成する壁面には、白金、パラジウム、ロジウム等の金属触媒が担持されている。
【0019】
担体10の外周面10bには、後述する櫛状電極5を担体10に固定するための下地層4が形成されている。下地層4は、櫛状電極5と担体10との間に介在し、後述する固定層6を介して、一対の櫛状電極5が固定される。
【0020】
本実施形態では、下地層4は、各櫛状電極5を固定するための下地層であり、中心軸CLを挟んで、担体10の外周面10bの反対側となる位置(担体10を中心軸CL周りに略180°回転させた位置)に2つ形成されている。担体10の外周面10bに形成された第1下地層4aと、第1下地層4aの上に形成された第2下地層4bと、を備えている。第1下地層4aは、導電性を有したセラミックス材料からなり、本実施形態では、SiC(炭化珪素)粒子とSi(珪素)粒子とで構成される複合材の層である。
【0021】
ここで、担体10に含有するSiC粒子の割合は、第1下地層4aを構成するSiC粒子の割合よりも多いことがより好ましい。これにより、担体10の抵抗値を、第1下地層4aのものに比べて高くし、担体10の発熱性を高めることができる。
【0022】
このような関係を前提として、担体10を構成するSiC(炭化珪素)粒子とSi(珪素)粒子の合計量を100%としたときに、SiC(炭化珪素)は、65体積%~75体積%であることが好ましい。これに対して、第1下地層4aを構成するSiC(炭化珪素)粒子とSi(珪素)粒子の合計量を100体積%としたときに、SiC(炭化珪素)は、55体積%~65体積%であることが好ましい。
【0023】
1-2.下地層4について
第2下地層4bは、酸化鉱物からなる酸化鉱物粒子が分散しており、この酸化鉱物粒子を金属マトリクスで連結した層である。具体的には、金属マトリクスは、NiCr合金またはMCrAlY合金(但し、MはFe、Co、Niのうち少なくとも一種)などを挙げることができる。酸化鉱物は、SiO2やAl2O3などの酸化物を主な成分とするものであり、例えば、ベントナイトやマイカあるいはそれらの混合物などからなることが好ましい。本実施形態では、第2下地層4bは、第1下地層4aの表面に金属マトリクスとなるNiCr合金粒子と酸化鉱物粒子となるベントナイト粒子とを混合した混合粉末を溶射した層である。
【0024】
なお、本実施形態では、第2下地層4bの抵抗値、第1下地層4aの抵抗値、および担体10の抵抗値の順に、これらの抵抗値が高くなっている。したがって、これらの中で、担体10が最も抵抗値が高いため、通電時に担体10が加熱され易い。また、第2下地層4bの抵抗値を、第1下地層4aの抵抗値よりも低くすることにより、第2下地層4bで櫛状電極5からの電流を担体10の周方向D2に流れ易くすることができる。なお、第1下地層4aは、第2下地層4bにより、担体10の周方向D2(
図4A等参照)に流れた電流が、担体10に流れるように、中間の抵抗値として調整される層となっている。
【0025】
1-3.櫛状電極5について
本実施形態では、電気加熱式触媒装置1は、
図1に示すように、Fe-Cr合金(例えばステンレス鋼)などの導電性を有した金属からなる一対の櫛状電極5、5を備えている。一対の櫛状電極5、5は、中心軸CLを挟んで、担体10の外周面10bの反対側となる位置(担体10を中心軸CL周りに180°回転させた位置)に配置されている。
【0026】
各櫛状電極5は、複数の配線部51と、連結部52と、拡幅部53と、延在部54と、を備えている。なお、櫛状電極5の特徴点となる拡幅部53は、後述する。
【0027】
複数の配線部51は、担体10の軸方向D1に間隔を開けて配列(並設)されており、各配線部51は、担体10の周方向D2に沿って延在している。連結部52は、軸方向Dの両端に位置する配線部51の間にわたって形成されており、複数の配線部51の一端を連結している。本実施形態では、連結部52は矩形状であり、軸方向D1に沿った連結部52の幅B1は、同じである。なお、本実施形態では、連結部52は、矩形状であるが、延在部54側の角部に丸みを帯びていてもよい。
【0028】
図3に示すように、櫛状電極5を折り曲げる前の状態で、延在部54は、連結部52に対して複数の配線部51側とは反対側に向かって延在している。本実施形態では、延在部54は帯状であり、軸方向D1と直交する方向において、延在部54の幅C1は、連結部52の幅B1よりも狭い。延在部54は、電気的に電源(図示せず)の端子に接続される接続用の貫通孔55aが形成されている。
【0029】
1-4.固定層6について
図1~
図3に示すように、固定層6は、各配線部51の両側において、その一部を覆うように下地層4と接合されることにより、各配線部51を、下地層4に固定している。すなわち、本実施形態では、固定層6を介して、配線部51が下地層4(第2下地層4b)に固定されている。
図1および
図3に示すように、各櫛状電極5を固定する複数の固定層6は、周方向D2に沿って千鳥状に配置されている。なお、固定層6は、直線状に並列に配置されていてもよい。固定層6は、第2下地層4bで例示した材料からなり、本実施形態では、第2下地層4bと同じ材料からなってもよい。
【0030】
ここで、第2下地層4bおよび固定層6に含まれるベントナイトなどの酸化鉱物(粒子)と、NiCr合金などの金属(マトリクス)との割合は、これらの合計量に対して、酸化鉱物(粒子)が、55~70体積%であることが好ましい。ここで、固定層6の金属(マトリクス)の含有割合は、第2下地層4bに比べて少ないことが好ましい。これにより、固定層6の熱膨張率を、配線部51の熱膨張率に近づけることができ、配線部51の熱収縮により固定層6に作用する熱応力を低減することができる。
【0031】
さらに、長手方向D1に沿った担体10の中心軸CLに対して直交する方向から、担体10の外周面10bを視たときに、固定層6は、矩形状である。本実施形態では、固定層6は、正方形状であるが、長方形状であってもよい。
【0032】
1-5.櫛状電極5の拡幅部53について
櫛状電極5の拡幅部53は、延在部54と連結部52との間に形成されている。拡幅部53は、延在部54から連結部52に進むに従って、延在部54の幅から連結部52の幅B1に近づくように、台形状に幅が広がった形状を有している。これにより、電気加熱式触媒装置1を取付ける際に、櫛状電極5の延在部54に張力が作用したとしても、その張力は、拡幅部53で、櫛状電極5の幅方向に分散されるため、各配線部51に均一に分散させることができる。この結果、張力に起因した配線部51の損傷を抑えることにより、櫛状電極5を介して担体10を均一に加熱することができる。
【0033】
さらに本実施形態では、連結部52の幅B1と、連結部52側の拡幅部53の幅とが一致しており、延在部54の幅C1と、延在部54側の拡幅部53の幅とが一致している。これらの幅の関係を満たすことにより、連結部52の側辺と拡幅部53の台形状の斜辺とが、段差なく連続して形成され、延在部54の側辺と拡幅部53の台形状の斜辺とが、段差なく連続して形成される。このようにして、櫛状電極5の延在部54に作用した張力を、各配線部51により均一に分散させることができる。さらに、台形状の拡幅部53の底辺と、斜辺との成す角度は、45°以上であることが好ましい。これにより、すべての配線部51に対して、延在部54からの力を分散して作用させることができる。
【0034】
さらに、本実施形態では、連結部52の幅をB1とし、連結部52の幅方向と直交する方向の拡幅部53の長さをH1とするときに、H1/B1が、0.28~1.12の範囲にある。後述する解析結果からも明らかなように、H1/B1が、0.28~1.12の範囲を満たすことにより、配線部51に作用する張力をより均一に分散することができる。ここで、H1/B1が、0.28未満の場合には、拡幅部53による張力の分散作用が十分でないことがあり、一方、H1/B1が、1.12を超えた場合には、張力の分散作用をそれ以上期待することができないばかりでなく、拡幅部53の大きさが大きくなるため、スペース状の制約を受けることがある。
【0035】
さらに、本実施形態では、拡幅部53の幅方向の中央には、延在部54から連結部52に向かって延びた長孔53aが形成されている。長孔53aは、拡幅部53のみに形成されていてもよく、例えば、連結部52および延在部54のいずれか一方または双方に延びていてもよい。拡幅部53の幅方向の中央には、延在部54からの張力が他の部位に比べて大きく作用しやすいが、この部分に長孔53aを設けることにより、拡幅部53の幅方向の中央に作用する張力を分散することができる。
【0036】
図3に示すように、下地層4に固定された櫛状電極5は、幅方向(軸方向D1)に沿って、連結部52で折り曲げられ、拡幅部53と延在部54との境界線でさらに折り曲げられている。延在部54の先端側の部分は、電源ボックス73に挿入され、電源側の端子(図示せず)と接続される。
【0037】
2.電気加熱式触媒装置1の製造方法について
以下に
図1に示す電気加熱式触媒装置1の製造方法を、
図4A~
図4Eを参照して説明する。
【0038】
2-1.下地層4を形成する工程について
まず、
図4Aに示すように、セラミックスからなる担体10の外周面10bに、下地層4を成形する。なお、下地層4を成形する工程では、一対の下地層4,4を成形する。具体的には、まず、上述した金属触媒が担持された担体10を準備し、この担体10の外周面10bに、SiC(炭化珪素)粒子とSi(珪素)粒子を分散媒で分散させたペースト材を塗布し、これを焼成することにより、第1下地層4a、4aを成形する。ここで、ペースト材の塗布は、スクリーン印刷により行ってもよい。この後、金属触媒を担持する。
【0039】
次に、第1下地層4a、4aの上に、第2下地層4b、4bの形状に応じた開口を有した金属製のマスキング材(図示せず)を配置する。次に、この開口に向かって、NiCr合金粒子とベントナイト粒子とを混合した粉末を、たとえば、ガスフレーム溶射、またはプラズマ溶射等の溶射により吹き付けて、NiCr合金を溶融し、第2下地層4b、4bを成形する。
【0040】
2-2.電極シート50を下地層4に配置する工程について
次に、
図4Bに示すように、担体10の周方向D2に沿って複数の配線部51が延在するように、複数の配線部51が形成された櫛状電極5を含む電極シート50を下地層4の表面に配置する。
【0041】
ここで、電極シート50を説明する。電極シート50は、Fe-Cr合金(例えばステンレス鋼)などの導電性を有し、可撓性を有した金属シートである。電極シート50は、以下に示す構造を有しており、打ち向き成形等により成形される。電極シート50は、間隔を開けて配列された複数の配線部51と、複数の配線部51の一端を連結する第1連結部52Aと、複数の配線部51の他端を連結する第2連結部52Bと、を備えている。電極シート50は、第1連結部52Aに対して複数の配線部51側とは反対側に延在した帯状の第1延在部54Aと、第1連結部52Aに対して複数の配線部51側とは反対側に延在した帯状の第2延在部54Bと、を備えている。
【0042】
第1延在部54Aの幅は、第1連結部52Aの幅よりも狭く、第2延在部54Bの幅は、第2連結部52Bの幅よりも狭い。第1延在部54Aと第1連結部52Aとの間には、第1延在部54Aから第1連結部52Aに進むに従って、第1延在部54Aの幅から第1連結部52Aの幅に近づくように、台形状に幅が広がった第1拡幅部53Aが形成されている。さらに、第2延在部54Bと第2連結部52Bとの間には、第2延在部54Bから第2連結部52Bに進むに従って、第2延在部54Bの幅から第2連結部52Bの幅に近づくように、台形状に幅が広がった第2拡幅部53Bが形成されている。
【0043】
このような構造の電極シート50を下地層4の表面に配置する際に、複数の配線部51に張力が付与されるように電極シート50を引張りながら、複数の配線部51を、担体10の周方向D2に沿って下地層4の表面に倣わせる。具体的には、第1延在部54Aと第2延在部54Bとを離間する方向に引張りながら、複数の配線部51が、下地層4の表面に倣うように、これを湾曲させる。
【0044】
ここで、電極シート50に含まれる櫛状電極5は、配線部51、第1連結部52A、第1拡幅部53A、および第1延在部54Aである。第1連結部52Aが、櫛状電極5の連結部52に相当し、第1拡幅部53Aが、櫛状電極5の拡幅部53に相当し、第1延在部54Aが、延在部54に相当する。なお、
図7には、以下の実施例で使用した電極シート50の平面図を示している。
【0045】
図示の如く、電極シート50には、第1および第2拡幅部53A、53Bが形成されているので、複数の配線部51に張力が付与されるように電極シート50を両側から引張りながら、複数の配線部51を、担体10の周方向に沿って下地層4の表面に倣わせると、複数の配線部51に均一に張力が分散される。この結果、各配線部51が下地層4から浮き上がることを抑制し、複数の配線部51を下地層4の表面に倣わせた状態で、下地層4に固定層6を接合することができる。このような結果、下地層4と配線部51との間に隙間が発生することを抑制し、櫛状電極5に繰り返し電流を通電した場合であっても、その繰り返しに伴う熱応力により、固定層6の内部において局所的にクラックが発生することを抑えることができる。
【0046】
本実施形態では、第1連結部52Aの幅B1と、第1連結部52A側の第1拡幅部53Aの幅とが一致しており、第1延在部54Aの幅C1と、第1延在部54A側の第1拡幅部53Aの幅とが一致している。第2連結部52Bの幅と、第2連結部52B側の第2拡幅部53Bの幅とが一致しており、第2延在部54Bの幅と、第2延在部54B側の第2拡幅部53Bの幅とが一致している。
【0047】
これらの幅の関係を満たすことにより、第1連結部52Aの側辺と第1拡幅部53Aの台形状の斜辺とが、段差なく連続して形成され、第1延在部54Aの側辺と第1拡幅部53Aの台形状の斜辺とが、段差なく連続して形成される。第2連結部52Bの側辺と第2拡幅部53Bの台形状の斜辺とが、段差なく連続して形成され、第2延在部54Bの側辺と第2拡幅部53Bの台形状の斜辺とが、段差なく連続して形成される。このように、電極シート50の第1延在部54Aと第2延在部54Bの両側から、配線部51に張力を付与した際に、張力を各配線部51により均一に分散させることができる。
【0048】
さらに、本実施形態では、第1連結部52Aの幅をB1とし、第1連結部52Aの幅と直交する方向の第1拡幅部53Aの長さをH1とするときに、H1/B1が、0.28~1.12の範囲にある。第2連結部52Bの幅をB2とし、第2連結部52Bの幅と直交する方向の第2拡幅部53Bの長さをH2とするときに、H2/B2が、0.28~1.12の範囲にある。
【0049】
これらの幅の関係を満たすことにより、H1/B1およびH2/B2が、0.28~1.12の範囲を満たすことにより、配線部51に作用する張力をより均一に分散することができる。ここで、H1/B1およびH2/B2が、0.28未満の場合には、第1および第2拡幅部53A、53Bによる張力の分散作用が十分でないことがあり、一方、H1/B1およびH2/B2が、1.12を超えた場合には、張力の分散作用をそれ以上期待することができない。特に、H2/B2が、1.12を超えた場合には、櫛状電極5の第1拡幅部53Aの大きさが大きくなるため、スペース状の制約を受けることがある
【0050】
さらに、第1拡幅部53Aの幅方向の中央には、第1延在部54Aから第1連結部52Aに向かって延びた第1長孔53aが形成されており、第2拡幅部53Bの幅方向の中央には、第2延在部54Bから第2連結部52Bに向かって延びた第2長孔53bが形成されている。第1および第2拡幅部53A、53Bの幅方向の中央には、第1および第2延在部54A、54Bからの張力が他の部位に比べて大きく作用しやすいが、これらの部分に第1および第2長孔53a、53bを設けることにより、第1および第2拡幅部53A、53Bの幅方向の中央に作用する張力を分散することができる。
【0051】
2-3.配線部51を下地層4に固定する工程について
次に、下地層4に固定する工程において、複数の配線部51を下地層4の表面に倣わせた状態で、各配線部51の一部を覆うように下地層4に固定層6を接合し、各配線部51を、下地層4に固定する。
【0052】
この工程では、まず、
図4Cに示すように、電極シート50が配置された担体10の外周面10bに、マスキング材8を配置する。マスキング材8には、各固定層6の形状およびこれらの配置状態に応じた矩形状の開口81が形成されており、各開口81に、電極シート50の配線部51が露出するように、外周面10bにマスキング材8を配置する。
【0053】
次に、
図4Cに示す状態から、第2下地層4bと同じ方法で、各開口81に向かって、NiCr合金粒子とベントナイト粒子とを混合した粉末を、たとえばガスフレーム溶射、またはプラズマ溶射等の溶射により吹き付けて、NiCr合金を溶融し、固定層6を成形する。これにより、
図4Dに示すように、マスキング材8を取り除いた状態で、固定層6が、各配線部51の一部を覆いかつ下地層4に接合するよう成形され、これによって、固定層6を介して下地層4に各配線部51が固定される。
【0054】
2-4.電極シート50の一部を切り離す工程について
電極シート50から、櫛状電極5が下地層4に残るように、電極シート50の一部を切り離す。具体的には、櫛状電極5が下地層4に残るように、櫛状電極5以外の部分を電極シート50から切断する。
【0055】
このようにして得られた電気加熱式触媒装置1に対して、櫛状電極5は、幅方向(軸方向D1)に沿って、連結部52で折り曲げ、拡幅部53と延在部54との境界線でさらに折り曲げ、排気管71内に挿入する。その後、延在部54の先端側の部分を、電源ボックス73に挿入し、電源側の端子(図示せず)と接続する。
【実施例】
【0056】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0057】
図5A~
図5Fに示す形状の櫛状電極に対する応力解析を行った。なお、
図5A~
図5Fに示す櫛状電極5A~5Fは、それぞれ実施例1~5および比較例1に対応する。
【0058】
比較例1の櫛状電極5Fとは異なり、実施例1~5の櫛状電極5A~5Eが、共通する点は、延在部54と連結部52との間に、延在部54から連結部52に進むに従って、延在部54の幅から連結部52の幅に近づくように、台形状に幅が広がった拡幅部53が形成されている点である。実施例1~5の櫛状電極5A~5Eは、拡幅部53の形状が異なる。
【0059】
実施例5の櫛状電極5Eと異なり、実施例1~4の櫛状電極5A~5Dが共通する点は、連結部52の幅と、連結部52側の拡幅部53の幅と、が一致している点である。各櫛状電極5A~5Eの連結部52の幅をB1とし、連結部52の幅方向と直交する方向の拡幅部53の長さをH1とするときの、H1/B1の値を表1に示す。なお、比較例1の櫛状電極5Fは、拡幅部53が無いため、H1=0として、H1/B1を算出している。
【0060】
【0061】
図6は、実施例1~5および比較例1に係る櫛状電極5A~5Fの各配線部51の先端を固定した状態で、延在部54を引張ったときの応力分布である。配線部51に作用する応力(最大)の値を示したグラフであり「端」は、櫛状電極5A~5Fの端の配線部51であり、「中央」は、櫛状電極5A~5Fの中央の配線部51である。
【0062】
図6に示すように、比較例の櫛状電極の配線部の応力は、端側に進むに従って、減少した。また、実施例1~4の順に、櫛状電極の配線部の応力は、端側に進んでも、減少し難い結果となり、中央から端までの配線部の応力は均一になった。これは、延在部54と連結部52との間に、延在部54から連結部52に進むに従って、延在部54の幅から連結部52の幅に近づくように、台形状に幅が広がった拡幅部53を設けたことにより、各配線部51に応力が均一に分散したからであると考えられる。特に、実施例2~4に示すように、H1/B1が、0.28以上であれば、より均一になる。なお、ここでは示していないが、H1/B1が、1.12を超えると、張力の分散作用をそれ以上期待することができないばかりでなく、拡幅部53の大きさが大きくなるため、スペース状の制約を受けることがある。
【0063】
実施例3の櫛状電極5CのH1/B1と、実施例5の櫛状電極5DのH1/B1は同じであるが、実施例3の櫛状電極5Cの方が、各配線部51に応力が均一に分散している。これは、連結部52の幅と、連結部52側の拡幅部53の幅とが一致していることにより、両側の配線部51まで均一に応力が作用したことによると考えられる。
【0064】
(実施例6)
図4A~
図4Eに示す手順に従って、実施例3に相当する
図7に示す電極シートを用いて、
図1に示すような電気加熱式触媒装置を作製した。まず、直径80mm、長さ65mmのSiC粒子とSi粒子を主材とした担体を準備し、この担体に金属触媒を担持させた。なお、単体のSiC粒子とSi粒子との合計量に対して、SiC粒子は、70体積%であり、Si粒子は、30体積%である。この担体の周面に、SiC粒子およびSi粒子を混合したペースト材を塗布し、これを焼成して第1下地層を成形した。なお、固定層のSiC粒子とSi粒子との合計量に対して、SiC粒子は、60体積%であり、Si粒子は、40体積%である。第1下地層は、第1下地層全体に対して、気孔率40体積%となり、厚さ0.23mmの多孔質層であった。次に、第1下地層の上に、Ni-50CrからなるNiCr粒子(32体積%)とベントナイト粒子(68体積%)を混合した溶射粉末を、プラズマ溶射により溶射し、多孔質の第2下地層を成形した(
図4A参照)。第2下地層は、第2下地層全体に対して、気孔率が10体積%となり、厚さ0.1mmの多孔質層であった。
【0065】
次に、幅1mmの配線部を15本有したステンレス鋼(Fe-20Cr-5Al)製の電極を準備し、これを
図4Bに示すように第2下地層に配置した後、
図4Cに示すように、3mm×3mmの矩形状に開口を有したマスキング材で覆った。次に、第2下地層と同じ方法で、固定層を成形した。固定層を成形後、マスキング材を取り除き、余剰となる部分を切除し、一方の櫛状電極を、固定層を介して下地層に固定した。さらに、担体10を中心軸CLまわりに180°回転させて、同上の工程により、他方の櫛状電極を固定し、電気加熱式触媒装置を得た。
【0066】
(比較例2)
実施例6と同じようにして、電気加熱式触媒装置を作製した。実施例6との相違点は、
図5Fの比較例1に係る櫛状電極5Fに相当する電極シートから電気加熱式触媒装置を作製した点である。
【0067】
実施例6および比較例2に係る櫛状電極の位置と、配線部と下地層の隙間の大きさとの関係を測定した。この結果を
図8に示す。この結果から、比較例2の隙間は、実施例6のものよりも、バラツキが大きいことがわかった。この結果から、比較例2に比べて、実施例6のものは、各配線部に比較的安定した張力を作用させながら、固定層により固定できたと考えられる。
【0068】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0069】
1:電気加熱式触媒装置、4:下地層、5~5F:櫛状電極、6:固定層、10:担体、50:電極シート、51:配線部、52:連結部、52A:第1連結部、52B:第2連結部、53:拡幅部、53A:第1拡幅部、53B:第2拡幅部、54:延在部、54A:第1延在部、54B:第2延在部。