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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20230912BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20230912BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20230912BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20230912BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20230912BHJP
   H01L 29/417 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
H01L29/78 652C
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652E
H01L29/78 652J
H01L29/78 652M
H01L29/78 658E
H01L29/78 658G
H01L29/78 652P
H01L29/06 301V
H01L29/06 301G
H01L21/28 301B
H01L29/50 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020095133
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021190579
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-222787(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098295(WO,A1)
【文献】特開2018-186246(JP,A)
【文献】特開2012-084739(JP,A)
【文献】特開2016-006891(JP,A)
【文献】特開2017-059600(JP,A)
【文献】特開2019-087690(JP,A)
【文献】特開2017-152488(JP,A)
【文献】特開2017-152490(JP,A)
【文献】特開2019-062160(JP,A)
【文献】特開2009-117820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/06
H01L 21/28
H01L 29/417
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のドリフト層、ボディ層、第1導電型のソースコンタクト層が順に積層された半導体層と、を有し、トレンチゲート構造を有するトランジスタである半導体装置において、
前記ボディ層は、第2導電型の第1層と、前記第1層上に設けられた第1導電型の第2層と、前記第2層上に設けられた第2導電型の第3層と、を有し、
前記第1層の第2導電型のシート不純物濃度が、前記ドリフト層の第1導電型のシート不純物濃度と前記第2層の第1伝導型のシート不純物濃度との和よりも大きい、
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
第1導電型のドリフト層、ボディ層、第1導電型のソースコンタクト層が順に積層された半導体層と、を有し、トレンチゲート構造を有するトランジスタである半導体装置において、
前記ボディ層は、第2導電型の第1層と、前記第1層上に設けられた第1導電型の第2層と、前記第2層上に設けられた第2導電型の第3層と、を有し、
前記ボディ層全体の厚さに対する前記第2層の厚さの割合は、40~90%である、
ことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記第1層の第2導電型のシート不純物濃度が、前記ドリフト層の第1導電型のシート不純物濃度と前記第2層の第1伝導型のシート不純物濃度との和よりも大きい、ことを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体層は、III 族窒化物半導体または酸化ガリウム系半導体からなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1層と前記第3層のうち少なくとも一方の第2導電型の不純物濃度は、6×1018/cm以上である、ことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第2層の第1導電型の不純物濃度は、1×1015/cm以上である、ことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第3層の第2導電型の不純物濃度は、前記第1層の第2導電型の不純物濃度以上である、ことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第3層の厚さは、0.05μm以上0.2μm以下である、ことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記ソースコンタクト層表面から前記ボディ層まで達する溝であるリセスと、
前記リセス底面に露出する前記ボディ層上に接して設けられたボディ電極と、をさらに有し、
前記リセスの深さは、前記第1層と前記第3層のうち第2導電型の不純物濃度が高い方の層に達する深さに設定されていることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第1層よりも前記第3層の方が第2導電型の不純物濃度が高く、
前記リセスの深さは、前記第3層に達する深さに設定されている、ことを特徴とする請求項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記リセスの深さは、そのリセスが形成された領域における前記第3層の厚さが0.05μm以上となるように設定されている、ことを特徴とする請求項10に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレンチゲート構造を有するトランジスタである半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界効果トランジスタ(FET)においては、ボディ層を貫通してドリフト層に達する溝であるトレンチを設け、トレンチの底面、側面を覆うようにしてゲート絶縁膜を設け、そのゲート絶縁膜を介してトレンチの底面、側面にゲート電極を設けたトレンチゲート構造が知られている(特許文献1参照)。GaNでは、イオン注入によるp型領域の形成方法が十分には確立されておらず困難である。そのため、GaN系のFETでは、一般的にp型領域をエピタキシャル成長による層構造にて形成しており、トレンチをドライエッチングにより形成してトレンチゲート構造としている。Ga2 3 についてもイオン注入によるp型領域の形成が困難であり、同様の構造をとる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-117820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ドライエッチングでトレンチを形成すると、エッチングで露出したトレンチの側面にエッチングダメージが入ってしまう。エッチングダメージは露出した側面のアクセプタ濃度を低下させる。そのため、トレンチの側面に形成されるゲートチャネルのしきい値電圧が低下してしまう問題があった。
【0005】
ボディ層のアクセプタ濃度を高くすることでしきい値電圧を高めることは可能であるが、ボディ層のアクセプタ濃度を高くするとチャネルの移動度が低下し、チャネル抵抗が大きくなる、すなわちオン抵抗が大きくなるという問題があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、しきい値電圧を高めつつ、オン抵抗を低減可能な半導体装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1導電型のドリフト層、ボディ層、第1導電型のソースコンタクト層が順に積層された半導体層と、を有し、トレンチゲート構造を有したトランジスタである半導体装置において、ボディ層は、第2導電型の第1層と、第1層上に設けられた第1導電型の第2層と、第2層上に設けられた第2導電型の第3層と、を有し、第1層の第2導電型のシート不純物濃度が、ドリフト層の第1導電型のシート不純物濃度と第2層の第1伝導型のシート不純物濃度との和よりも大きい、ことを特徴とする半導体装置である。
また本発明は、第1導電型のドリフト層、ボディ層、第1導電型のソースコンタクト層が順に積層された半導体層と、を有し、トレンチゲート構造を有したトランジスタである半導体装置において、ボディ層は、第2導電型の第1層と、第1層上に設けられた第1導電型の第2層と、第2層上に設けられた第2導電型の第3層と、を有し、ボディ層全体の厚さに対する第2層の厚さの割合は、40~90%である、ことを特徴とする半導体装置である。
【0008】
半導体層は、III 族窒化物半導体または酸化ガリウム系半導体からなることが好ましい。
【0009】
第1層の第2導電型のシート不純物濃度が、ドリフト層の第1導電型のシート不純物濃度と第2層の第1伝導型のシート不純物濃度との和よりも大きいことが好ましい。
【0010】
第1層と第3層のうち少なくとも一方の第2導電型の不純物濃度は、6×1018/cm3 以上であることが好ましい。
【0011】
第2層の第1導電型の不純物濃度は、1×1015/cm3 以上であることが好ましい。
【0012】
第3層の第2導電型の不純物濃度は、第1層の第2導電型の不純物濃度以上であることが好ましい。
【0013】
第3層の厚さは、0.05μm以上0.2μm以下であることが好ましい。
【0014】
ソースコンタクト層表面からボディ層まで達する溝であるリセスと、リセス底面に露出するボディ層上に接して設けられたボディ電極と、をさらに有し、リセスの深さは第1層と第3層のうち第2導電型の不純物濃度が高い方の層に達する深さに設定されていることが好ましい。また、第1層よりも第3層の方が第2導電型の不純物濃度が高く、リセスの深さは、第3層に達する深さに設定されていることが好ましい。またこの場合、リセスの深さは、そのリセスが形成された領域における第3層の厚さが0.05μm以上となるように設定されていることが好ましい。
【0015】
ボディ層全体の厚さに対する第2層の厚さの割合は、40~90%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の半導体装置では、ボディ層の構成を第2導電型の第1層、第1導電型の第2層、第2導電型の第3層が順に積層された構造としている。そのため、本発明の半導体装置はしきい値電圧を高めつつ、チャネル抵抗を低減できる、すなわちオン抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の半導体装置の構成を示した図。
図2】変形例の半導体装置の構成を示した図。
図3】実施例1の半導体装置の製造工程を示した図。
図4】しきい値電圧とドレイン電流Idについてまとめた表。
図5】しきい値電圧とドレイン電流Idについてまとめた表。
図6】しきい値電圧とドレイン電流Idについてまとめた表。
図7】しきい値電圧とドレイン電流Idについてまとめた表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1の半導体装置の構成を示した図である。図1のように、実施例1の半導体装置は、トレンチゲート構造の縦型MISFETであり、基板110と、ドリフト層120と、ボディ層130と、ソースコンタクト層140と、トレンチT1と、リセスR1と、ゲート絶縁膜F1と、ゲート電極G1と、ソース電極S1と、ボディ電極B1と、ドレイン電極D1と、を有している。
【0020】
基板110は、c面を主面とするSiドープのn-GaNからなる平板状の基板である。基板110の厚さは、たとえば300μm、Si濃度は、たとえば1×1018/cm3 である。n-GaN以外にも、導電性を有しIII 族窒化物半導体の成長基板となる任意の材料の基板を用いることができる。たとえば、ZnO、Siなどを用いることも可能である。ただし、格子整合性の点から、本実施例のようにGaN基板を用いることが望ましい。また、実施例1ではn型不純物としてSiを用いているが、Si以外を用いてもよい。たとえばGe、Oなどを用いることができる。
【0021】
ドリフト層120は、基板110上に積層されたSiドープのn-GaN層である。ドリフト層120の厚さは、たとえば10μm、Si濃度は、たとえば8×1015/cm3 である。
【0022】
ボディ層130は、ドリフト層120上に積層された層である。ボディ層130は、第1層131、第2層132、第3層133が順に積層された3層の構造である。
【0023】
第1層131は、ドリフト層120上に積層された層であり、p型不純物となるアクセプタとしてMgがドープされたp-GaNからなる。第1層131の厚さは、たとえば0.1μm、Mg濃度は、たとえば2×1018/cm3 である。なお、実施例1ではp型不純物としてMgを用いているが、Mg以外を用いてもよい。たとえばBe、Znなどを用いることができる。
【0024】
第2層132は、第1層131上に積層された層であり、n-GaNからなる。第2層132の厚さは、たとえば0.45μm、Si濃度は、たとえば1×1015/cm3 である。
【0025】
第3層133は、第2層132上に積層された層であり、p-GaNからなる。第3層133の厚さは、たとえば0.15μm、Mg濃度は、たとえば2×1018/cm3 である。
【0026】
ボディ層130を第1層131、第2層132、第3層133の3層構成とする理由の詳細は次の通りである。
【0027】
FETでは、しきい値電圧はボディ層130のMg濃度によって決まる。実施例1の半導体装置のように、半導体層をGaNとする縦型FETでは、イオン注入によるp型領域の形成、すなわちボディ層130の形成は難しい。そのため、実施例1の半導体装置では、ボディ層130を含む層構造を結晶成長により積層形成した後、ドライエッチングによってトレンチT1を形成してトレンチゲート構造を形成している。
【0028】
しかし、トレンチT1をドライエッチングにより形成すると、トレンチT1の底面および側面にはエッチングダメージが生じ、そのエッチングダメージによってアクセプタ濃度が低下する。その結果、しきい値電圧が低下してしまう。トレンチゲート構造の縦型FETでは、しきい値電圧はボディ層130のMg濃度によって決まるので、Mg濃度を高くすればしきい値電圧を高くすることはできるが、チャネル抵抗が増加、すなわちオン抵抗が大きくなってしまう。
【0029】
そこで実施例1では、p層であるボディ層130のうち、積層方向における中間領域をn層(第2層132)に置換している。これにより、チャネルを走行する電子を増加させることができ、オン抵抗を低減させることができる。また、しきい値電圧はボディ層130のMg濃度でほぼ決まり、第2層132を設けたとしてもしきい値電圧にはあまり影響を与えない。よって実施例1のボディ層130の構造によれば、しきい値電圧を維持しつつ、チャネル抵抗を低減、すなわちオン抵抗を低減することができる。
【0030】
第1層131のMgのシート不純物濃度は、第2層132のSiのシート不純物濃度とドリフト層120のSiのシート不純物濃度との和よりも大きいことが好ましい。シート不純物濃度とは、不純物濃度と膜厚の積のことである。このように各シート不純物濃度を設定すれば、第1層131への空乏層の広がりを抑制することができ、耐圧が低下してしまうのを抑制することができる。
【0031】
第1層131の厚さは、0.05μm以上0.2μm以下とすることが好ましい。この範囲とすることで、しきい値電圧を維持しつつ、オン抵抗をより低減することができる。
【0032】
第2層132のSi濃度は、1×1015/cm3 以上とすることが好ましい。1×1015/cm3 以上であれば、オン抵抗をより低減することができる。より好ましくは2×1015cm3 以上2×1016/cm3 以下、さらに好ましくは5×1015/cm3 以上1×1016/cm3 以下である。
【0033】
ボディ層130の厚さに対する第2層132の厚さの割合は、40~90%とすることが好ましい。この範囲とすることで、しきい値電圧の維持とオン抵抗低減の両立をより容易とすることができる。より好ましくは50~80%、さらに好ましくは60~70%である。
【0034】
また、第2層132の厚さは、0.1μm以上1μm以下とすることが好ましい。この範囲であれば、しきい値電圧を維持しつつ、よりオン抵抗を低減することができる。より好ましくは0.2μm以上0.8μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以上0.5μm以下である。
【0035】
第1層131と第3層133のうち少なくとも一方のMg濃度は、6×1018/cm3 以上とすることが好ましい。しきい値電圧を十分に高めることができ、ノーマリオフ動作を実現することができる。ただし、1×1020/cm3 以下とすることが好ましい。ボディ層130上に形成されるソースコンタクト層140の結晶品質の劣化や電子濃度の低下を抑制することができる。より好ましくは8×1018/cm3 以上8×1019/cm3 以下、さらに好ましくは1×1019/cm3 以上5×1019/cm3 以下である。
【0036】
また、第3層133のMg濃度は、第1層131のMg濃度以上とすることが好ましい。これにより、ボディ電極B1とボディ層130との接触抵抗を低減しつつ、しきい値電圧を第3層133で規定することができる。
【0037】
また、第3層133のMg濃度は、6×1018/cm3 以上とすることが好ましい。ボディ電極B1とボディ層130との接触抵抗をより低減することができ、オン抵抗をより低減することができる。ただし、第3層133のMg濃度は1×1020/cm3 以下とすることが好ましい。ボディ層130上に形成されるソースコンタクト層140の結晶品質の劣化や電子濃度の低下を抑制することができる。より好ましくは8×1018/cm3 以上8×1019/cm3 以下、さらに好ましくは1×1019/cm3 以上5×1019/cm3 以下である。
【0038】
第3層133の厚さは、0.05μm以上0.2μm以下とすることが好ましい。0.05μm以上とすることにより、十分なしきい値電圧とすることができる。また、0.2μm以下とすることにより、オン抵抗の増加を極力抑制することができる。より好ましくは0.08μm以上0.18μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.15μm以下である。
【0039】
ソースコンタクト層140は、ボディ層130上に積層されたSiドープのn-GaN層である。ソースコンタクト層140の厚さは、たとえば0.2μm、Si濃度は、たとえば3×1018/cm3 である。
【0040】
トレンチT1は、ソースコンタクト層140表面の所定位置に形成された溝であり、ソースコンタクト層140およびボディ層130を貫通してドリフト層120に達する深さである。トレンチT1の底面にはドリフト層120が露出し、トレンチT1の側面にはドリフト層120、ボディ層130、ソースコンタクト層140が露出する。このトレンチT1の側面に露出するボディ層130の側面が、実施例1のFETのチャネルとして動作する領域である。トレンチT1はドライエッチングによって形成されているため、その側面および底面にはエッチングダメージが生じている。
【0041】
ゲート絶縁膜F1は、トレンチT1の底面、側面、ソースコンタクト層140表面(ソース電極S1の形成領域は除く)にわたって連続して膜状に設けられている。ゲート絶縁膜F1は、SiO2 からなる。ゲート絶縁膜F1の厚さは、たとえば80nmである。
【0042】
なお、ゲート絶縁膜F1はSiO2 に限らず、Al2 3 、HfO2 、ZrO2 、ZrON、などを用いることもできる。また単層である必要もなく、複数の層で構成されていてもよい。たとえば、SiO2 /Al2 3 、SiO2 /Al2 3 /ZrON、などを用いることができる。ここで「/」は積層を意味し、A/BはA、Bの順に積層された構造であることを意味する。以下材料の説明において同様である。
【0043】
ゲート電極G1は、ゲート絶縁膜F1を介して、トレンチT1の底面、側面、トレンチの上面に連続して膜状に設けられている。ゲート電極G1は、TiNからなる。
【0044】
リセスR1は、ソースコンタクト層140表面の所定位置に設けられた溝であり、ソースコンタクト層140を貫通して第3層133に達する深さである。リセスR1の底面には第3層133が露出し、側面には第3層133、ソースコンタクト層140が露出する。リセスR1はドライエッチングにより形成されているため、リセスR1底面にはエッチングダメージが生じている。
【0045】
リセスR1の深さは、その底面に第3層133が露出し、第2層132が露出しない深さであれば任意であるが、リセスR1底面から第3層133と第2層132との界面までの厚さH(すなわちリセスR1により第3層133が露出する領域における第3層133の厚さ)が0.05μm以上となるようにリセスR1の深さを設定することが好ましい。このようにリセスR1の深さを設定することにより、ボディ電極B1とボディ層130との接触抵抗を十分に低減することができる。
【0046】
ボディ電極B1は、リセスR1の底面に設けられていて、リセスR1底面に露出する第3層133に接している。ボディ電極B1は、Niからなる。リセスR1底面にはエッチングダメージが存在し、アクセプタ濃度が低下している。そこで、エッチングダメージを受ける第3層133のMg濃度を高くすれば、ボディ電極B1とボディ層130の接触抵抗を低減することができる。
【0047】
なお、リセスR1の深さを第1層131に達する深さとし、ボディ電極B1をリセスR1の底面に露出する第1層131に接して設けてもよい(図2参照)。この場合も実施例1と同様にしきい値電圧を高めつつ、オン抵抗を低減することができる。ただし、ボディ電極B1とボディ層130との接触抵抗を低減し、アバランシェ耐量の向上を図る点からは第1層131と第3層133のうちMg濃度が高い方にボディ電極B1が接するようにすることが好ましい。
【0048】
ソース電極S1は、ボディ電極B1上、ソースコンタクト層140上にわたって連続的に設けられている。ソース電極S1は、Ti/Alからなる。
【0049】
ドレイン電極D1は、基板110の裏面に設けられている。ドレイン電極D1は、ソース電極S1と同一材料であり、Ti/Alからなる。
【0050】
以上、実施例1の半導体装置では、ボディ層130を第1層131、第2層132、第3層133の3層構成としており、p層のうち中間の領域をn層に置き換えた構造である。第2層132を設けることで、チャネル内を走行する電子を増加させることができ、オン抵抗を低減することができる。また、しきい値電圧は第1層131、第3層133で決まるので、ボディ層130にn層を設けたとしてもしきい値電圧を維持することができる。このように、実施例1のボディ層130の構造によれば、しきい値電圧を維持しつつ、チャネル抵抗を低減し、オン抵抗を低減することができる。
【0051】
次に、実施例1の半導体装置の製造方法について、図3を参照に説明する。
【0052】
まず、基板110上に、MOCVD法によって、ドリフト層120、第1層131、第2層132、第3層133、ソースコンタクト層140を順に積層することで形成する(図3(a)参照)。MOCVD法において、窒素源は、アンモニア、Ga源は、トリメチルガリウム(Ga(CH3 3 :TMG)、n型ドーパントガスは、シラン(SiH4 )、p型ドーパントガスは、シクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5 5 2 :CP2 Mg)である。キャリアガスは水素である。MOCVD法以外の結晶成長方法を用いてもよく、たとえばMBE、CBEなどの方法を用いることができる。
【0053】
次に、ソースコンタクト層140表面の所定位置をドライエッチングすることで、トレンチT1およびリセスR1を形成する(図3(b)参照)。トレンチT1の形成後にリセスR1を形成してもよいし、リセスR1の形成後にトレンチT1を形成してもよい。ドライエッチングには、塩素系ガスを用いる。たとえば、Cl2 、SiCl4 、BCl3 である。また、ドライエッチングは、ICPエッチングなど任意の方式を用いることができる。このドライエッチングにより、トレンチT1、リセスR1の側面および底面にはエッチングダメージが生じる。実施例1の半導体装置のように、半導体層をGaNとする縦型FETでは、イオン注入によるp型領域の形成、すなわちボディ層130の形成は難しい。そのため、ボディ層130を含む層構造を結晶成長により積層形成した後、ドライエッチングによってトレンチT1を形成してトレンチゲート構造を形成する。
【0054】
トレンチT1、リセスR1の形成後、側面をウェットエッチングしてドライエッチングによるダメージ層を除去してもよい。ウェットエッチング溶液には、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、H3 PO4 (リン酸)などを用いることができる。なお、トレンチT1、リセスR1の底面はGaNのc面であるためほとんどエッチングされず、ダメージ層は十分に除去されず、エッチングダメージが残存する。そのため、ウェットエッチングした場合であってもしきい値電圧は十分に回復しない。
【0055】
次に、窒素雰囲気で加熱することにより、第1層131および第3層133のp型化を行う。リセスR1の底面やトレンチT1の側面から効率的に水素が抜け出すため、第1層131および第3層133中のMgの活性化を効率的に行うことができる。
【0056】
次に、トレンチT1の底面、側面、およびソースコンタクト層140表面に連続して、ALD法によってSiO2 からなるゲート絶縁膜F1を形成する(図3(c)参照)。ALD法を用いることで、トレンチT1による段差があっても均一な厚さに形成することができる。なお、実施例1では段差被覆性の高さからALD法を用いてゲート絶縁膜F1を形成しているが、スパッタやCVD法などによって形成してもよい。
【0057】
次に、リフトオフ法を用いてリセスR1底面にボディ電極B1を形成する(図3(d)参照)。ここで、リセスR1をドライエッチングにより形成しているので、リセスR1底面にエッチングダメージが生じ、リセスR1底面のアクセプタ濃度は低下する。そこで、エッチングダメージを受ける第3層133のMg濃度を高くすることでボディ電極B1とボディ層130の接触抵抗を低減することができる。
【0058】
次に、リフトオフ法を用いて、ソース電極S1、ゲート電極G1を形成し、さらに基板110裏面全面にドレイン電極D1を形成する。以上によって、図1に示す実施例1の半導体装置が製造される。
【0059】
次に、実施例1の半導体装置に関する各種実験結果について説明する。
【0060】
(実験1)
実施例1の半導体装置において、第1層131および第3層133のMg濃度を2×1018/cm3 とし、第2層132のSi濃度は0.1×1015/cm3 、1×1015/cm3 、5×1015/cm3 、10×1015/cm3 、の4通りとした半導体装置(以下実施例1-1)を用意し、しきい値電圧とドレイン電流Idを測定した。また、比較例1の半導体装置として、ボディ層を1層とし、そのMg濃度を2×1018/cm3 、厚さを0.7μmとし、それ以外の構成は実施例1と同様とした半導体装置についてもしきい値電圧とドレイン電流Idを測定した。しきい値電圧はドレイン電流が1nA/mmのときのゲート電圧Vgの値である。また、ドレイン電流IdはVgが25Vのときのドレイン電流Idである。
【0061】
図4は、測定したしきい値電圧とドレイン電流Idについてまとめた表である。ここで、ドレイン電流Idは、比較例1のドレイン電流Idを1として相対値で示している。図4のように、実施例1-1の半導体装置は、比較例1の半導体装置と比較するとドレイン電流Idが増加していた。つまり、オン抵抗が低下していることがわかった。特に、第2層132のSi濃度を1×1015/cm3 以上とすることで、十分にオン抵抗を低減できることがわかった。また、実施例1-1の半導体装置のしきい値電圧は、比較例1に比べてそれほど低下しておらず、しきい値電圧の低下が抑制されていることがわかった。この結果、ボディ層130の中間領域をn層に置換することで、しきい値電圧を維持しつつオン抵抗を低減できることがわかった。
【0062】
(実験2)
実施例1の半導体装置において、第1層131のMg濃度を6×1018/cm3 、第3層133のMg濃度を2×1018/cm3 とし、それ以外は実施例1-1と同様の構造とした半導体装置(以下実施例1-2)を用意し、しきい値電圧とドレイン電流Idを測定した。また、ボディ層を1層とし、そのMg濃度を6×1018/cm3 、厚さを0.7μmとし、それ以外の構成は実施例1と同様とした比較例2の半導体装置についてもしきい値電圧とドレイン電流Idを測定した。
【0063】
図5は、測定したしきい値電圧とドレイン電流Idについてまとめた表である。ここで、ドレイン電流Idは、比較例2のドレイン電流Idを1として相対値で示している。図5のように、比較例2と比較すると、実施例1-2の半導体装置ではしきい値電圧の低下を抑制しつつ、オン抵抗を低減できることがわかった。また、実施例1-1の半導体装置と比較して、実施例1-2の半導体装置はしきい値電圧が高いことから、第1層131のMg濃度を高くすることでしきい値電圧を高くすることができ、十分なしきい値電圧が得られることがわかった。
【0064】
(実験3)
実施例1の半導体装置において、第1層131のMg濃度を2×1018/cm3 、第3層133のMg濃度を1×1019/cm3 、それ以外は実施例1-1と同様の構造とした半導体装置(以下実施例1-3)を用意し、しきい値電圧とドレイン電流Idを測定した。また、ボディ層を1層とし、そのMg濃度を1×1019/cm3 、厚さを0.7μmとし、それ以外の構成は実施例1と同様とした比較例3の半導体装置についてもしきい値電圧とドレイン電流Idを測定した。
【0065】
図6は、測定したしきい値電圧とドレイン電流Idについてまとめた表である。ここで、ドレイン電流Idは、比較例3のドレイン電流Idを1として相対値で示している。図6のように、比較例3と比較すると、実施例1-3の半導体装置ではしきい値電圧の低下を抑制しつつ、オン抵抗を低減できることがわかった。また、実施例1-1の半導体装置と比較して、実施例1-3の半導体装置はしきい値電圧が高いことから、第3層133のMg濃度を高くすることでしきい値電圧を高くすることができ、十分なしきい値電圧が得られることがわかった。また、実施例1-1の半導体装置と比較して、実施例1-3の半導体装置はボディ電極B1が接する第3層133のMg濃度が高いので、ボディ電極B1とボディ層130との接触抵抗を低減することができ、アバランシェ耐量を向上できることがわかった。
【0066】
(実験4)
実施例1の半導体装置において、第1層131のMg濃度を6×1018/cm3 、第3層133のMg濃度を1×1019/cm3 、それ以外は実施例1-1と同様の構造とした半導体装置(以下実施例1-4)を用意し、しきい値電圧とドレイン電流Idを測定した。
【0067】
図7は、測定したしきい値電圧とドレイン電流Idについてまとめた表である。ここで、ドレイン電流Idは、比較例3のドレイン電流Idを1として相対値で示している。図7のように、比較例3と比較すると、実施例1-4の半導体装置では実施例1-3と同様に、しきい値電圧の低下を抑制しつつ、オン抵抗を低減できることがわかった。また、実施例1-4の半導体装置は、第1層131のMg濃度を実施例1-3よりも高くしているので、第1層131への空乏層の広がりを小さくすることができ、ゲート絶縁膜F1の劣化を抑制することができる。
【0068】
(変形例)
実施例1では、ボディ層130を第1層131、第2層132、第3層133の3層の積層構造としているが、4層以上としてもよい。たとえば、第1層131と第2層132の間や、第2層132と第3層133の間に、さらにn層、p層を有していてもよい。
【0069】
実施例1~3はGaNからなる半導体装置であるが、本発明はGaNに限らず、任意の半導体材料に適用可能である。特に、III 族窒化物半導体からなる半導体装置や酸化ガリウム系半導体からなる半導体装置への適用が好適である。酸化ガリウム系半導体は、酸化ガリウム(Ga2 3 )、あるいは酸化ガリウムのGaサイトの一部をAl、In、などに置き換えた酸化物半導体である。III 族酸化物半導体や酸化ガリウム系半導体は、GaN同様、イオン注入によるp型領域(ボディ層130)の形成が困難であるため、本発明が好適である。
【0070】
本発明は、実施例1~3の半導体装置においてp型とn型とを反転させた構造の半導体装置であってもよい。
【0071】
本実施例では電界効果トランジスタ(FET)で説明したが、本発明はIGBTなどトレンチ型の絶縁ゲート構造を有するトランジスタでも同様に実施できる。
【0072】
実施例1~3において、素子動作領域はイオン注入によるp型領域は存在しないが、終端領域にはイオン注入によるp型領域が存在していてもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の半導体装置は、パワーデバイスとして利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
110:基板
120:ドリフト層
130:ボディ層
131:第1層
132:第2層
133:第3層
140:ソースコンタクト層
F1:ゲート絶縁膜
G1:ゲート電極
S1:ソース電極
B1:ボディ電極
D1:ドレイン電極
T1:トレンチ
R1:リセス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7