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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B30B 11/00 20060101AFI20230912BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230912BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20230912BHJP
   B22F 3/035 20060101ALI20230912BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B30B11/00 H
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F3/035 C
B22F3/035 Z
H01F41/02 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020122709
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022019112
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】永木 寛人
(72)【発明者】
【氏名】中谷 和通
(72)【発明者】
【氏名】石井 洪平
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-317679(JP,A)
【文献】特開2015-070028(JP,A)
【文献】特開2014-045107(JP,A)
【文献】特開2008-270368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 11/00
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 1/14
B22F 3/035
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下パンチとダイスとに囲まれた空間内に、表面に絶縁性を有するリン酸系化成被膜又はケイ酸系化成被膜が形成されると共に、粒径が30μmより大きく250μm以下の軟磁性の純鉄粉末を投入し、純鉄粉末層を形成するステップと、
前記純鉄粉末層を前記ダイス内において前記下パンチと上パンチとによって圧縮し、圧粉体を成形するステップと、
前記圧粉体と前記ダイスとを相対的にスライドさせて、前記ダイス内から前記圧粉体を抜き出すステップと、を備えた圧粉磁心の製造方法であって、
前記純鉄粉末層を形成するステップにおいて、
前記空間内に前記純鉄粉末を投入する前後に、粒径が1μm以上200μm以下の純銅粉末を投入し、前記純鉄粉末層の上下に、前記純鉄粉末層よりもスプリングバック率が0.6~1.1%高い純銅粉末層を形成する、
圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記空間内に前記純銅粉末を投入して前記純銅粉末層を形成した後、前記純鉄粉末を投入する前に、前記純銅粉末層を前記ダイス内において前記下パンチと上パンチとによって予備圧縮し、
前記空間内に前記純鉄粉末を投入して前記純銅粉末層上に前記純鉄粉末層を形成した後、前記純銅粉末を再投入する前に、前記純鉄粉末層を前記ダイス内において前記下パンチと上パンチとによって予備圧縮する、
請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末をダイス内において下パンチと上パンチとによって圧縮し、圧粉体を成形する磁心の製造方法が開示されている。ここで、絶縁被膜は鉄損を低減するために形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-027896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、例えば特許文献1に開示された圧粉磁心の製造方法に関し、以下の問題点を見出した。
特許文献1に開示されているように、圧粉体とダイスとを相対的にスライドさせて、ダイス内から圧粉体を抜き出す。その際、スプリングバックしようとする(膨張しようとする)圧粉体とダイスとが擦れ、軟磁性粉末に塑性流動が発生する。そのため、軟磁性粉末の表面に形成された絶縁被膜が破壊され、圧粉磁心の鉄損が上昇してしまう問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、鉄損を低減可能であると共に成形性に優れた圧粉磁心の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る圧粉磁心の製造方法は、
下パンチとダイスとに囲まれた空間内に、表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を投入し、軟磁性粉末層を形成するステップと、
前記軟磁性粉末層を前記ダイス内において前記下パンチと上パンチとによって圧縮し、圧粉体を成形するステップと、
前記圧粉体と前記ダイスとを相対的にスライドさせて、前記ダイス内から前記圧粉体を抜き出すステップと、を備えた圧粉磁心の製造方法であって、
前記軟磁性粉末層を形成するステップにおいて、
前記空間内に前記軟磁性粉末を投入する前後に、前記軟磁性粉末とは異なる異種粉末を投入し、前記軟磁性粉末層の上下に、前記軟磁性粉末層よりもスプリングバック率が0.6~1.1%高い異種粉末層を形成するものである。
【0007】
本発明の一態様に係る圧粉磁心の製造方法では、軟磁性粉末層を形成するステップにおいて、空間内に軟磁性粉末を投入する前後に、軟磁性粉末とは異なる異種粉末を投入し、軟磁性粉末層の上下に、軟磁性粉末層よりもスプリングバック率が0.6~1.1%高い異種粉末層を形成する。異種粉末層のスプリングバック率が軟磁性粉末層よりも0.6%以上高いため、圧粉体を成形した後、ダイス内から圧粉体を抜き出す際、軟磁性粉末層とダイスとの擦れを抑制できる。その結果、軟磁性粉末の絶縁被膜の破壊が抑制され、圧粉体の鉄損を低減できる。
また、軟磁性粉末層と異種粉末層とのスプリングバック率の差が1.1%以下であるため、ダイス内から圧粉体を抜き出す際、軟磁性粉末層に発生する割れも抑制できる。
すなわち、鉄損を低減可能であると共に成形性に優れた圧粉磁心の製造方法を提供できる。
【0008】
前記軟磁性粉末が、純鉄粉末であり、前記絶縁被膜が、リン酸系化成被膜又はケイ酸系化成被膜でもよい。このような構成が好適である。
【0009】
前記異種粉末が、セラミック粉末でもよい。このような構成により、軟磁性粉末層と異種粉末層とのスプリングバック率の差を容易に大きくできる。
【0010】
前記空間内に前記異種粉末を投入して前記異種粉末層を形成した後、前記軟磁性粉末を投入する前に、前記異種粉末層を前記ダイス内において前記下パンチと上パンチとによって予備圧縮し、前記空間内に前記軟磁性粉末を投入して前記異種粉末層上に前記軟磁性粉末層を形成した後、前記異種粉末を再投入する前に、前記軟磁性粉末層を前記ダイス内において前記下パンチと上パンチとによって予備圧縮してもよい。このような構成により、軟磁性粉末と異種粉末との混合を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、鉄損を低減可能であると共に成形性に優れた圧粉磁心の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法を示すフローチャートである。
図2】ステップST1の詳細を示すフローチャートである。
図3】ステップST1の詳細を示す模式的な断面図である。
図4】ステップST2、ST3を示す模式的な断面図である。
図5】軟磁性粉末層31及び異種粉末層32のスプリングバック率を説明するための模式的な断面図である。
図6】スプリングバック率の差(横軸)と、比較例1とのインピーダンスの実部Rの比(縦軸)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0014】
(第1の実施形態)
<第1の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法>
まず、図1図4を参照して、第1の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法について説明する。図1は、第1の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法を示すフローチャートである。図2は、ステップST1の詳細を示すフローチャートである。図3は、ステップST1の詳細を示す模式的な断面図である。図4は、ステップST2、ST3を示す模式的な断面図である。
製造される圧粉磁心の用途は、特に限定されないが、製造される圧粉磁心は、例えばリアクトル用コアとして用いられる。
【0015】
まず、図1に示すように、下パンチとダイスとに囲まれた空間内に、表面に絶縁被膜が形成された軟磁性粉末を投入し、軟磁性粉末層を形成する(ステップST1)。
ここで、軟磁性粉末の表面に形成された絶縁被膜は、例えばリン酸系化成被膜又はケイ酸系化成被膜である。絶縁被膜の厚さは、例えば10nm~1000nm、好ましくは100~500nmである。
【0016】
また、軟磁性粉末は、特に限定されないが、例えば純鉄やFe基合金等からなる。鉄損を低減するには、純鉄が好ましい。
また、軟磁性粉末は、例えば、球状粒子からなるアトマイズ粉である。アトマイズ粉は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中へ溶解させた原料を噴霧して得られるガスアトマイズ粉でも、溶解させた原料の噴霧後に水冷して得られるガス水アトマイズ粉でもよい。
【0017】
軟磁性粉末の粒径は、特に限定されないが、例えば1~500μm程度、好ましくは10~250μm程度である。粒径が大き過ぎると、比抵抗の低下又は渦電流損失の増加を招き、粒径が小さ過ぎると、ヒステリシス損失の増加等を招くため、好ましくない。なお、この粒径は、所定のメッシュサイズの篩いを用いて分級する篩い分法で定まる粒度である。
【0018】
ここで、図2図3を参照して、ステップST1の詳細について説明する。図2図3に示すように、ステップST1は、サブステップST11~ST13を含む。
まず、図2図3に示すように、下パンチ21とダイス10とに囲まれた空間内に、軟磁性粉末と異なる異種粉末を投入し、後から形成される軟磁性粉末層31よりもスプリングバック率が0.6~1.1%高い異種粉末層32を形成する(サブステップST11)。
【0019】
なお、スプリングバックとは、後述する圧粉体30を圧縮成形した後(図4参照)、ダイス10から取り出した際に圧粉体30が膨張する現象である。スプリングバック率の定義及び測定方法の詳細については後述する。
【0020】
異種粉末は、軟磁性粉末と異なる粉末である。異種粉末層32のスプリングバック率が軟磁性粉末層31よりも0.6~1.1%高くなれば、異種粉末は、特に限定されない。異種粉末は、例えば、銅などからなる金属粉末や、アルミナなどからなるセラミック粉末である。異種粉末の粒径は、特に限定されないが、例えば1~200μm程度である。
【0021】
異種粉末層32と軟磁性粉末層31とのスプリングバック率の差が0.6%以上であると、後述するステップST3において圧粉体30をダイス10から抜き出す際(図4参照)、軟磁性粉末層31とダイス10との擦れを抑制できる。そのため、軟磁性粉末の絶縁被膜の破壊が抑制され、鉄損を低減できる。この効果については、異種粉末層32と軟磁性粉末層31とのスプリングバック率の差を、0.7%以上とすることが好ましく、0.8%以上とすることがさらに好ましい。
【0022】
他方、異種粉末層32と軟磁性粉末層31とのスプリングバック率の差が大き過ぎると、圧粉体30をダイス10から抜き出す際(図4参照)、軟磁性粉末層31に割れが発生する。異種粉末層32と軟磁性粉末層31とのスプリングバック率の差を1.1%以下とすることによって、このような軟磁性粉末層31の割れを抑制できる。
【0023】
なお、図示されていないが、異種粉末層32を形成する際、異種粉末を投入した後、図4に示した上パンチ22を用いて、異種粉末層32の予備圧縮を実施してもよい。後から投入する軟磁性粉末と、異種粉末との混合を抑制できる。異種粉末層32の予備圧縮の圧力は、例えばホールドダウン面圧程度の低い圧力でよい。具体的には、例えば10MPa以下の圧力である。
【0024】
次に、図2図3に示すように、下パンチ21とダイス10とに囲まれた空間内に、軟磁性粉末を投入し、軟磁性粉末層31を異種粉末層32上に形成する(サブステップST12)。
なお、図示されていないが、軟磁性粉末層31を形成する際にも、軟磁性粉末を投入した後、図4に示した上パンチ22を用いて軟磁性粉末層31の予備圧縮を実施してもよい。後から投入する異種粉末と、軟磁性粉末との混合を抑制できる。軟磁性粉末層31の予備圧縮の圧力も、異種粉末層32の場合と同様である。
【0025】
次に、図2図3に示すように、下パンチ21とダイス10とに囲まれた空間内に、異種粉末を再投入し、異種粉末層32を軟磁性粉末層31上に再形成する(サブステップST13)。
【0026】
このように、ステップST1において、下パンチ21とダイス10とに囲まれた空間内に軟磁性粉末を投入する前後に、軟磁性粉末よりもスプリングバック率が0.6~1.1%高い異種粉末を投入する。すなわち、軟磁性粉末層31の上下に、異種粉末層32を形成する。
【0027】
図1に戻って、説明を続ける。以下に説明するステップST2、ST3については、図1と共に図4も参照して説明する。
ステップST1の後、図1図4に示すように、軟磁性粉末層31をダイス10内において下パンチ21と上パンチ22とによって圧縮し、圧粉体30を成形する(ステップST2)。
【0028】
具体的には、図4に示すように、上パンチ22を降下させて、異種粉末層32によって挟まれた軟磁性粉末層31を圧縮する。これにより、軟磁性粉末層31と、異種粉末層32とを備えた圧粉体30が成形される。成形面圧は、例えば1000MPa程度である。
なお、軟磁性粉末層31を圧縮する際、上パンチ22を降下させる代わりに下パンチ21を上昇させてもよいし、上パンチ22の降下と下パンチ21の上昇とを両方行ってもよい。
【0029】
最後に、図1図4に示すように、圧粉体30とダイス10とを相対的にスライドさせて、ダイス10内から圧粉体30を抜き出す(ステップST3)。
具体的には、図4に示すように、上パンチ22によって圧粉体30を押さえつつ、ダイス10を降下させ、ダイス10内から圧粉体30を抜き出す。この際、上パンチ22によって圧粉体30に加える面圧は、ホールドダウン面圧と呼ばれる。ホールドダウン面圧は、例えば10MPa以下の圧力である。
【0030】
なお、圧粉体30の形状は、例えば円柱状(円板状を含む)である。但し、圧粉体30の形状は、ダイス10内から抜き出し可能であれば、特に限定されない。例えば、圧粉体30の形状は、多角柱状や円筒状等でもよい。
【0031】
ここで、図4に示すように、圧粉体30において、軟磁性粉末層31の上下に、スプリングバック率が軟磁性粉末層31よりも0.6%以上高い異種粉末層32が形成されている。そのため、ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際、軟磁性粉末層31とダイス10との擦れを抑制できる。その結果、軟磁性粉末の絶縁被膜の破壊が抑制され、圧粉体30の鉄損を低減できる。
【0032】
また、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差が1.1%以下であるため、ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際、軟磁性粉末層31に発生する割れも抑制できる。
すなわち、鉄損を低減可能であると共に成形性に優れた圧粉磁心の製造方法を提供できる。
【0033】
ステップST3において成形された圧粉体30全体を製品として用いてもよい。あるいは、異種粉末層32を圧粉体30から除去して、軟磁性粉末層31のみを製品として用いてもよい。異種粉末層32は、例えば剥離や切断によって除去できる。
【0034】
なお、サブステップST12、ST13を複数回繰り返し、軟磁性粉末層31を複数備える圧粉体30を成形してもよい。この場合、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とが交互に形成されるため、各軟磁性粉末層31の上下に異種粉末層32が形成される。そのため、ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際、軟磁性粉末層31とダイス10との擦れを抑制できる。その結果、軟磁性粉末の絶縁被膜の破壊が抑制され、圧粉体30の鉄損を低減できる。
【0035】
図示されていないが、ステップST3の後、圧粉体30全体あるいは異種粉末層32が除去された軟磁性粉末層31のみからなる圧粉体30を、不活性雰囲気下において焼鈍してもよい。焼鈍温度は、例えば600~800℃である。600℃以上で焼鈍することによって、圧縮成形時に蓄積された歪が除去され、磁気性能が向上する。また、800℃以下で焼鈍することによって、絶縁被膜の破壊を抑制できる。
【0036】
以上に説明した通り、本実施形態に係る圧粉磁心の製造方法では、圧粉体30を成形する前に、軟磁性粉末層31の上下に、スプリングバック率が軟磁性粉末層31よりも0.6%以上高い異種粉末層32を形成しておく。そのため、圧粉体30を成形した後、ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際、軟磁性粉末層31とダイス10との擦れを抑制できる。その結果、軟磁性粉末の絶縁被膜の破壊が抑制され、圧粉体30の鉄損を低減できる。
【0037】
また、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差が1.1%以下であるため、ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際、軟磁性粉末層31に発生する割れも抑制できる。
すなわち、鉄損を低減可能であると共に成形性に優れた圧粉磁心の製造方法を提供できる。
【0038】
<スプリングバック率について>
次に、図5を参照して、軟磁性粉末層31及び異種粉末層32のスプリングバック率の定義及び測定方法について説明する。図5は、軟磁性粉末層31及び異種粉末層32のスプリングバック率を説明するための模式的な断面図である。
【0039】
図5は、ダイス10の内径D1と、ダイス10から抜き出した軟磁性粉末層31のみからなる円柱状の圧粉体の直径D2との関係を示している。すなわち、ダイス10内から圧粉体(軟磁性粉末層31)を抜き出した際のスプリングバックによって、圧粉体(軟磁性粉末層31)の直径がD1からD2に増加する。
【0040】
圧粉体(軟磁性粉末層31)のスプリングバック率は次式で定義される。
スプリングバック率(%)=(D2-D1)/D1×100
ここで、圧粉体(軟磁性粉末層31)の直径D2はばらつくため、例えば圧粉体(軟磁性粉末層31)の上部、中央部、下部の3箇所における直径をそれぞれ3回ずつマクロメータによって測定し、その平均値を圧粉体(軟磁性粉末層31)の直径D2とする。
【0041】
なお、図5に示すように、軟磁性粉末層31及び異種粉末層32のスプリングバック率は、軟磁性粉末層31又は異種粉末層32のみからなる圧粉体を用いて、それぞれ別々に測定される。図5の例は、軟磁性粉末層31のスプリングバック率の定義及び測定方法を示しているが、異種粉末層32についても同様である。
スプリングバック率は、成形面圧やホールドダウン面圧等の製造条件によっても変化するため、製造条件毎にスプリングバック率を測定する。
【実施例
【0042】
以下、第1の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法を実施例、比較例を挙げて詳細に説明する。しかしながら、第1の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
[比較例1]
図1図4を参照して、比較例1に係る圧粉磁心の製造方法について説明する。
表面に厚さ300nmのリン酸系化成被膜が絶縁被膜として形成された粒径150μmの純鉄(Fe)粉末を軟磁性粉末として用いた。
【0044】
まず、図1に示すように、この純鉄粉末40gを下パンチ21とダイス10とに囲まれた空間内に投入した(ステップST1)。ダイス10の内径D1は29.76mmである。比較例1では、異種粉末は投入しなかった。すなわち、図2図3に示したサブステップST11~ST13は行わなかった。
【0045】
次に、図1図4に示すように、上パンチ22を降下させて、900MPaの成形面圧で、軟磁性粉末層31のみからなる円柱状の圧粉体30を成形した(ステップST2)。
【0046】
その後、図1図4に示すように、上パンチ22によって3.7MPaのホールドダウン面圧で圧粉体30を押さえつつ、ダイス10を降下させ、ダイス10内から圧粉体30を抜き出した(ステップST3)。
圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0047】
圧粉体30を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した後、LCRメータを用いて、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。この際、周波数を20kHz、電圧を1Vとして測定した。得られた比較例1のインピーダンスの実部Rの値を用いて、比較例2、3及び実施例1~7のインピーダンスの実部Rの値との比を求めた。すなわち、比較例1のインピーダンスの実部Rの値を基準値とした。
【0048】
[比較例2]
粒径5μmの純銅(Cu)粉末を異種粉末として用いた。
まず、図2図3に示すように、この純銅粉末30gを下パンチ21とダイス10とに囲まれた空間内に投入した(サブステップST11)。その後、上パンチ22を用いて、3.7MPaの面圧で異種粉末層32の予備圧縮を実施した。
【0049】
次に、図2図3に示すように、比較例1と同じ純鉄粉末40gを下パンチ21とダイス10とに囲まれた空間内に投入し、軟磁性粉末層31を異種粉末層32上に形成した(サブステップST12)。その後、上パンチ22を用いて、3.7MPaの面圧で軟磁性粉末層31の予備圧縮を実施した。
【0050】
そして、図2図3に示すように、下パンチ21とダイス10とに囲まれた空間内に、純銅粉末30gを再投入し、異種粉末層32を軟磁性粉末層31上に再形成した(サブステップST13)。
【0051】
次に、図1図4に示すように、上パンチ22を降下させて、900MPaの成形面圧で、異種粉末層32によって挟まれた軟磁性粉末層31を備えた円柱状の圧粉体30を成形した(ステップST2)。
【0052】
その後、図1図4に示すように、上パンチ22によって2.8MPaのホールドダウン面圧で圧粉体30を押さえつつ、ダイス10を降下させ、ダイス10内から圧粉体30を抜き出した(ステップST3)。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0053】
軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、0.50%であった。
スプリングバック率の定義及び測定方法は、上述の通りである。具体的には、圧粉体30を製造するために用いた純鉄粉末40gのみからなる圧粉体を上記と同一の成形面圧(900MPa)及びホールドダウン面圧(2.8MPa)で成形し、抜き出した。この軟磁性粉末層31のみからなる圧粉体を用いて、軟磁性粉末層31のスプリングバック率を測定した。
【0054】
同様に、圧粉体30を製造するために用いた純銅粉末30gのみからなる圧粉体を上記と同一の成形面圧(900MPa)及びホールドダウン面圧(2.8MPa)で成形し、抜き出した。この異種粉末層32のみからなる圧粉体を用いて、異種粉末層32のスプリングバック率を測定した。
【0055】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、1.05であり、鉄損は増大した。
【0056】
[実施例1]
ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際のホールドダウン面圧を3.7MPaに変更した以外は比較例2と同様に圧粉体30を製造した。軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、0.60%であった。
【0057】
ここで、比較例2と実施例1とでは、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とは共通の材料からなるが、実施例1においてホールドダウン面圧を2.8MPaから3.7MPaに上昇させた。そのため、スプリングバック率の差も0.50%から0.60%に上昇したものと考えられる。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0058】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、0.95であり、鉄損は比較例1から低減できた。
【0059】
[実施例2]
ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際のホールドダウン面圧を7.4MPaに変更した以外は実施例1と同様に圧粉体30を製造した。軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、0.70%であった。
【0060】
ここで、実施例1と実施例2とでは、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とは共通の材料からなるが、実施例2においてホールドダウン面圧を3.7MPaから7.4MPaに上昇させた。そのため、スプリングバック率の差も0.60%から0.70%に上昇したものと考えられる。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0061】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、0.94であり、鉄損は比較例1から低減できた。
【0062】
[実施例3]
成形面圧を1000MPaに変更した以外は実施例2と同様に圧粉体30を製造した。軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、0.75%であった。
【0063】
ここで、実施例2と実施例3とでは、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とは共通の材料からなるが、実施例3において成形面圧を900MPaから1000MPaに上昇させた。そのため、スプリングバック率の差も0.70%から0.75%に上昇したものと考えられる。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0064】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、0.80であり、鉄損は比較例1から低減できた。
【0065】
[実施例4]
粒径50μmのアルミナ(Al)粉末30gを異種粉末として用いた以外は、比較例2と同様に圧粉体30を製造した。軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、0.83%であった。
【0066】
ここで、比較例2と実施例4とを比較すると、異種粉末を純銅粉末からアルミナ粉末に変更したため、スプリングバック率の差が0.50%から0.83%に上昇したものと考えられる。このように、異種粉末にセラミック粉末を用いると、軟磁性粉末層と異種粉末層とのスプリングバック率の差を容易に大きくできる。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0067】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、0.25であり、鉄損は比較例1から大幅に低減できた。
【0068】
[実施例5]
ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際のホールドダウン面圧を3.7MPaに変更した以外は実施例4と同様に圧粉体30を製造した。軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、0.95%であった。
【0069】
ここで、実施例4と実施例5とでは、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とは共通の材料からなるが、実施例5においてホールドダウン面圧を2.8MPaから3.7MPaに上昇させた。そのため、スプリングバック率の差も0.83%から0.95%に上昇したものと考えられる。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0070】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、0.20であり、実施例4と同様に、鉄損は比較例1から大幅に低減できた。
【0071】
[実施例6]
ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際のホールドダウン面圧を5.6MPaに変更した以外は実施例5と同様に圧粉体30を製造した。軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、1.0%であった。
【0072】
ここで、実施例5と実施例6とでは、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とは共通の材料からなるが、実施例6においてホールドダウン面圧を3.7MPaから5.6MPaに上昇させた。そのため、スプリングバック率の差も0.95%から1.0%に上昇したものと考えられる。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0073】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、0.18であり、実施例5と同様に、鉄損は比較例1から大幅に低減できた。
【0074】
[実施例7]
ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際のホールドダウン面圧を7.4MPaに変更した以外は実施例6と同様に圧粉体30を製造した。軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、1.1%であった。
【0075】
ここで、実施例6と実施例7とでは、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とは共通の材料からなるが、実施例7においてホールドダウン面圧を5.6MPaから7.4MPaに上昇させた。そのため、スプリングバック率の差も1.0%から1.1%に上昇したものと考えられる。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れは発生しなかった。
【0076】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、0.21であり、実施例6と同様に、鉄損は比較例1から大幅に低減できた。
【0077】
[比較例3]
成形面圧を1000MPaに変更した以外は実施例7と同様に圧粉体30を製造した。軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差は、1.2%であった。
【0078】
ここで、実施例7と比較例3とでは、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とは共通の材料からなるが、比較例3において成形面圧を900MPaから1000MPaに上昇させた。そのため、スプリングバック率の差も1.1%から1.2%に上昇したものと考えられる。
圧粉体30をダイス10内から抜き出した際、軟磁性粉末層31に割れが発生した。スプリングバック率の差が大き過ぎることが原因であると考えられる。
【0079】
次に、圧粉体30から異種粉末層32を剥離した後、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)を窒素雰囲気下において750℃で30分間焼鈍した。その後、LCRメータを用いて、比較例1と同一条件で、圧粉体30(すなわち軟磁性粉末層31)のインピーダンスの実部Rを測定した。比較例1とのインピーダンスの実部Rの比は、0.17であり、実施例7と同様に、鉄損は比較例1から大幅に低減できた。
【0080】
表1に比較例1~3及び実施例1~7の実験条件及び結果をまとめて示す。
【表1】
【0081】
表1には、軟磁性粉末、異種粉末、成形面圧[MPa]、ホールドダウン(HD)面圧[MPa]、スプリングバック(SB)率の差[%]、比較例1とのインピーダンスの実部Rの比、割れの有無について示されている。
【0082】
また、図6は、スプリングバック率の差(横軸)と、比較例1とのインピーダンスの実部Rの比(縦軸)との関係を示すグラフである。
図6において、比較例1~3のデータ点は、それぞれC1~C3と表示した。実施例1~7のデータ点は、それぞれE1~E7と表示した。
【0083】
表1及び図6に示すように、スプリングバック率の差を0.6%以上にすることによって、比較例1とのインピーダンスの実部Rの比が1を下回り、鉄損を低減できた。特に、スプリングバック率の差を0.8%以上にすることによって、比較例1とのインピーダンスの実部Rの比が0.3を下回り、鉄損を劇的に低減できた。
【0084】
他方、表1に示すように、比較例3では、スプリングバック率の差が1.2%で大き過ぎ、ダイス10内から圧粉体30を抜き出す際、軟磁性粉末層31に割れが発生した。換言すると、スプリングバック率の差を1.1%以下にすることによって、軟磁性粉末層31に発生する割れを抑制できた。
【0085】
すなわち、図6に示すように、軟磁性粉末層31と異種粉末層32とのスプリングバック率の差を0.6~1.1%とすることによって、鉄損を低減可能であると共に成形性に優れた圧粉磁心の製造方法を提供できることが分かった。
【0086】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0087】
10 ダイス
21 下パンチ
22 上パンチ
30 圧粉体
31 軟磁性粉末層
32 異種粉末層
図1
図2
図3
図4
図5
図6