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特許7347356予測装置、学習装置、予測プログラム、及び学習プログラム
<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】予測装置、学習装置、予測プログラム、及び学習プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/04 20060101AFI20230912BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20230912BHJP
   G06N 3/08 20230101ALI20230912BHJP
   G06N 5/04 20230101ALI20230912BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01M17/04
G06N20/00 130
G06N3/08
G06N5/04
G01M7/02 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020125712
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021856
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中津川 英治
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠二
(72)【発明者】
【氏名】堂上 靖史
(72)【発明者】
【氏名】森田 英憲
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-249610(JP,A)
【文献】特開2015-104966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/04
G01M 7/02
G06N 20/00
G06N 3/08
G06N 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表す学習用の変位データ及び前記防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表す学習用の速度データと、学習用の前記速度データ及び学習用の前記変位データが与えられた際の前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データとの組み合わせを表す教師データを取得する教師データ取得部と、
前記教師データ取得部により取得された前記教師データに基づいて、前記防振部材の非線形特性を表す回帰型モデルを機械学習させることにより、前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データを推定するための回帰型学習済みモデルを生成する学習部と、
を備え、
前記教師データ取得部は、
前記防振部材の要求性能を表す貯蔵ばね定数から、前記防振部材の線形特性に対応するばね定数K を減算することにより、前記防振部材の非線形特性に対応するばね定数K ’を生成し、
前記防振部材の要求性能を表す減衰係数から、前記防振部材の線形特性に対応する減衰係数C を減算することにより、前記防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を生成し、
前記防振部材の非線形特性に対応するばね定数K ’と前記防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を変換することにより、前記防振部材の要求性能に対応する絶対ばね定数Kと前記防振部材の要求性能に対応する位相θとを計算し、
前記防振部材に対して入力される振動の振幅aと前記振動の角周波数ωとに基づいて、以下の式(1)に従って、前記教師データのうちの入力側データである、各時刻tの前記変位データx(t)及び各時刻tの前記速度データv(t)を計算し、
前記防振部材に対して入力される振動の振幅aと前記振動の角周波数ωと前記絶対ばね定数Kと前記位相θとに基づいて、以下の式(2)に従って、前記教師データのうちの出力側データである各時刻tの前記荷重データf(t)を計算し、
前記変位データx(t)及び前記速度データv(t)と前記荷重データf(t)との組み合わせを前記教師データとして取得する、
学習装置。
【数1】






(1)




(2)
【請求項2】
防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表す変位データと、前記防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表す速度データとを取得する取得部と、
前記防振部材の線形特性を表すモデルであって、かつ前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材から出力される荷重を表す荷重データを推定するためのモデルに対して、前記取得部により取得された前記変位データ及び前記速度データを入力することにより、前記防振部材の第1荷重データを生成する第1荷重データ生成部と、
請求項1に記載の学習装置によって予め機械学習された回帰型学習済みモデルに対して、前記取得部により取得された前記変位データ及び前記速度データを入力することにより、前記防振部材の第2荷重データを生成する第2荷重データ生成部と、
前記第1荷重データ生成部により生成された前記第1荷重データと、前記第2荷重データ生成部により生成された前記第2荷重データとを足し合わせることにより、前記防振部材にかかる荷重データを推定する推定部と、
を備える予測装置。
【請求項3】
前記防振部材の線形特性を表すモデルは、力学系モデルであり、
前記防振部材の非線形特性を表す回帰型学習済みモデルは、学習済みの回帰型ニューラルネットワークである、
請求項に記載の予測装置。
【請求項4】
防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表す学習用の変位データ及び前記防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表す学習用の速度データと、学習用の前記速度データ及び学習用の前記変位データが与えられた際の前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データとの組み合わせを表す教師データを取得し、
取得された前記教師データに基づいて、前記防振部材の非線形特性を表す回帰型モデルを機械学習させることにより、前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データを推定するための回帰型学習済みモデルを生成する、
処理をコンピュータに実行させるための学習プログラムであって、
前記教師データを取得する際には、
前記防振部材の要求性能を表す貯蔵ばね定数から、前記防振部材の線形特性に対応するばね定数K を減算することにより、前記防振部材の非線形特性に対応するばね定数K ’を生成し、
前記防振部材の要求性能を表す減衰係数から、前記防振部材の線形特性に対応する減衰係数C を減算することにより、前記防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を生成し、
前記防振部材の非線形特性に対応するばね定数K ’と前記防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を変換することにより、前記防振部材の要求性能に対応する絶対ばね定数Kと前記防振部材の要求性能に対応する位相θとを計算し、
前記防振部材に対して入力される振動の振幅aと前記振動の角周波数ωとに基づいて、以下の式(1)に従って、前記教師データのうちの入力側データである、各時刻tの前記変位データx(t)及び各時刻tの前記速度データv(t)を計算し、
前記防振部材に対して入力される振動の振幅aと前記振動の角周波数ωと前記絶対ばね定数Kと前記位相θとに基づいて、以下の式(2)に従って、前記教師データのうちの出力側データである各時刻tの前記荷重データf(t)を計算し、
前記変位データx(t)及び前記速度データv(t)と前記荷重データf(t)との組み合わせを前記教師データとして取得する、
学習プログラム
【数2】






(1)




(2)
【請求項5】
防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表す変位データと、前記防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表す速度データとを取得し、
前記防振部材の線形特性を表すモデルであって、かつ前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データを推定するためのモデルに対して、取得された前記変位データ及び前記速度データを入力することにより、前記防振部材の第1荷重データを生成し、
請求項4に記載の学習プログラムによって予め機械学習された回帰型学習済みモデルに対して、取得された前記変位データ及び前記速度データを入力することにより、前記防振部材の第2荷重データを生成し、
前記第1荷重データと前記第2荷重データとを足し合わせることにより、前記防振部材にかかる荷重データを推定する、
処理をコンピュータに実行させるための予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測装置、学習装置、予測プログラム、及び学習プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時系列データにおける未来の値を高精度に予測する時系列データ予測装置が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1に開示されている時系列データ予測装置は、受信した時系列データの一部のデータを選択し、選択したデータをデータ記憶情報に格納し、データ記憶情報の空き領域に応じて、データ記憶情報に記憶されている複数のデータを圧縮して圧縮データとし、データ記憶情報の空き領域を増やす。そして、時系列データ予測装置は、データ記憶情報におけるデータと圧縮データに基づいて、時系列データの未来の値の予測モデルを生成する。予測部は、時系列データにおいて予測対象となる部分時系列と、予測モデルとに基づいて、時系列データの未来の値を予測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-101490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、何らかの対象の挙動を予測する場合、その対象が非線形特性を有する場合がある。この場合、対象の挙動を予測する際には、例えば、機械学習モデルの一例であるニューラルネットワーク等が用いられる。機械学習モデルの一例である回帰型ニューラルネットワークは、非線形特性を有する対象の時系列データを用いて、その対象の挙動を予測することができるため有用である。
【0005】
例えば、車両に搭載される防振部材は非線形特性を有する。このため、回帰型ニューラルネットワーク等の回帰型学習モデルを用いて、車両の防振部材の挙動を予測することが可能である。防振部材の挙動を予測する際に用いられるデータは、例えば、防振部材に入力される振動のデータ等であり、その振動のデータは時間軸上において大きな変動を有する。
【0006】
回帰型ニューラルネットワーク等の回帰型学習モデルは、現時刻のデータと前時刻までのデータとを用いて対象の挙動を予測する。ここで、振動データ等の時間軸上において大きな変動を有するデータを回帰型学習モデルへ入力し、防振部材の挙動を予測する場合を考える。この場合には、回帰型学習モデルは変動の大きい前時刻までのデータを適切に考慮することができず、その予測精度が悪化するという課題がある。
【0007】
上記特許文献1に開示の技術は、圧縮データに基づいて時系列データの未来の値を予測するモデルを生成するものの、その精度に関しては考慮されておらず、また防振部材に関するものでもない。このため、上記特許文献1に開示の技術は、非線形特性を有する防振部材の挙動を精度良く予測することができない、という課題がある。
【0008】
本発明は、上記事実を考慮し、防振部材の挙動を精度良く予測することができる予測装置、学習装置、予測プログラム、及び学習プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様の予測装置は、防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表す変位データと、前記防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表す速度データとを取得する取得部と、前記防振部材の線形特性を表すモデルであって、かつ前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材から出力される荷重を表す荷重データを推定するためのモデルに対して、前記取得部により取得された前記変位データ及び前記速度データを入力することにより、前記防振部材の第1荷重データを生成する第1荷重データ生成部と、前記防振部材の非線形特性を表す回帰型学習済みモデルであって、かつ前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データを推定するための予め機械学習された回帰型学習済みモデルに対して、前記取得部により取得された前記変位データ及び前記速度データを入力することにより、前記防振部材の第2荷重データを生成する第2荷重データ生成部と、前記第1荷重データ生成部により生成された前記第1荷重データと、前記第2荷重データ生成部により生成された前記第2荷重データとを足し合わせることにより、前記防振部材にかかる荷重データを推定する推定部と、を備える予測装置である。
【0010】
第2態様の予測装置の前記防振部材の線形特性を表すモデルは、力学系モデルであり、前記防振部材の非線形特性を表す回帰型学習済みモデルは、学習済みの回帰型ニューラルネットワークである。
【0011】
第3態様の学習装置は、防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表す学習用の変位データ及び前記防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表す学習用の速度データと、学習用の前記速度データ及び学習用の前記変位データが与えられた際の前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データとの組み合わせを表す教師データを取得する教師データ取得部と、前記教師データ取得部により取得された前記教師データに基づいて、前記防振部材の非線形特性を表す回帰型モデルを機械学習させることにより、前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データを推定するための回帰型学習済みモデルを生成する学習部と、を備える学習装置である。
【0012】
第4態様の学習装置の前記教師データ取得部は、前記防振部材の要求性能を表す貯蔵ばね定数から、前記防振部材の線形特性に対応するばね定数Kを減算することにより、前記防振部材の非線形特性に対応するばね定数K’を生成し、前記防振部材の要求性能を表す減衰係数から、前記防振部材の線形特性に対応する減衰係数Cを減算することにより、前記防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を生成し、前記防振部材の非線形特性に対応するばね定数K’と前記防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を変換することにより、前記防振部材の要求性能に対応する絶対ばね定数Kと前記防振部材の要求性能に対応する位相θとを計算し、前記防振部材に対して入力される振動の振幅aと前記振動の角周波数ωとに基づいて、以下の式(1)に従って、前記教師データのうちの入力側データである、各時刻tの前記変位データx(t)及び各時刻tの前記速度データv(t)を計算し、前記防振部材に対して入力される振動の振幅aと前記振動の角周波数ωと前記絶対ばね定数Kと前記位相θとに基づいて、以下の式(2)に従って、前記教師データのうちの出力側データである各時刻tの前記荷重データf(t)を計算し、前記変位データx(t)及び前記速度データv(t)と前記荷重データf(t)との組み合わせを前記教師データとして取得する。
【0013】
【数1】


(1)

(2)
【0014】
第5形態の予測プログラムは、防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表す変位データと、前記防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表す速度データとを取得し、前記防振部材の線形特性を表すモデルであって、かつ前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データを推定するためのモデルに対して、取得された前記変位データ及び前記速度データを入力することにより、前記防振部材の第1荷重データを生成し、前記防振部材の非線形特性を表す回帰型学習済みモデルであって、かつ前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データを推定するための予め機械学習された回帰型学習済みモデルに対して、取得された前記変位データ及び前記速度データを入力することにより、前記防振部材の第2荷重データを生成し、前記第1荷重データと前記第2荷重データとを足し合わせることにより、前記防振部材にかかる荷重データを推定する、処理をコンピュータに実行させるための予測プログラムである。
【0015】
第6形態の学習プログラムは、防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表す学習用の変位データ及び前記防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表す学習用の速度データと、学習用の前記速度データ及び学習用の前記変位データが与えられた際の前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データとの組み合わせを表す教師データを取得し、取得された前記教師データに基づいて、前記防振部材の非線形特性を表す回帰型モデルを機械学習させることにより、前記変位データ及び前記速度データから前記防振部材に発生する荷重を表す荷重データを推定するための回帰型学習済みモデルを生成する、処理をコンピュータに実行させるための学習プログラムである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、防振部材の挙動を精度良く予測することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】自立切替式液封マウントを説明するための図である。
図2】回帰型ニューラルネットワークを用いて自立切替式液封マウントに発生する荷重を予測した際の結果の一例である。
図3】回帰型ニューラルネットワークを用いて自立切替式液封マウントに発生する荷重を予測した際の結果の一例である。
図4】実施形態に係る予測装置のハードウェア構成例を示す図である。
図5】実施形態に係る予測装置の機能ブロック図である。
図6】実施形態の防振部材モデルを説明するための図である。
図7A】線形特性と非線形特性との分離を説明するための図である。
図7B】線形特性と非線形特性との分離を説明するための図である。
図7C】線形特性と非線形特性との分離を説明するための図である。
図8】絶対ばね定数と位相とを説明するための図である。
図9】教師データの格納方法を説明するための図である。
図10】実施形態の教師データ生成処理ルーチンの一例を示す図である。
図11】実施形態の学習処理ルーチンの一例を示す図である。
図12】実施形態のシミュレーション処理ルーチンの一例を示す図である。
図13】実施例の結果を示す図である。
図14】実施例の結果を示す図である。
図15】実施例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態>
【0019】
図1に示されるような、車両Vに搭載される自立切替式液封マウントMの挙動を予測する際には、既知の1D-CAE(Computer Aided Engineering)によるシミュレーションが実施される場合がある。この場合には、自立切替式液封マウントの挙動の非線形特性を考慮する必要がある。自立切替式液封マウントは、車両の防振部材の一例である。
【0020】
対象の挙動を予測する際には、例えば、機械学習モデルの一例であるニューラルネットワーク等が用いられる。ニューラルネットワークのうちの回帰型ニューラルネットワークは、時系列データを用いて非線形特性を有する対象の挙動を精度良く予測することができるため有用である。
【0021】
回帰型ニューラルネットワークは、前時刻までのデータを考慮して処理を実行する。回帰型ニューラルネットワークは、現時刻t1のデータと前時刻のデータt2とを考慮して処理を実行するため、回帰型ニューラルネットワークから出力されるデータは現時刻t1と前時刻t2との間の時間間隔Δt(以下、単に「サンプリング時間刻みΔt」と称する。)に依存する。そのため、回帰型ニューラルネットワークの出力データはサンプリング時間刻みΔtの固定ステップ出力となる。
【0022】
この点、振動データ等の時間軸上において大きな変動を有するデータが回帰型学習モデルへ入力され、防振部材の挙動を予測する際には、回帰型学習モデルは大きな変動を有する前時刻までのデータを適切に考慮することができず、その予測精度が悪化するという課題がある。
【0023】
図2に、回帰型ニューラルネットワークによる自立切替式液封マウントの挙動の予測結果の一例を示す。図2は、自立切替式液封マウントの加振評価の結果を示す図である。図2に示される結果は、自立切替式液封マウントに入力される振動の変位及び速度から自立切替式液封マウントに発生する荷重を予測する問題を回帰型ニューラルネットワークによりモデル化し、自立切替式液封マウントに入力される振動の変位及び速度から荷重を予測したものである。
【0024】
図2に示されるように、入力される振動の周波数が小さい場合(図2の「1Hz近傍」)には時刻歴データの変動も小さいため、回帰型ニューラルネットワークによる自立切替式液封マウントの荷重の予測値と理論値とは良く一致している。これに対し、振動の周波数が大きい場合(図2の「8Hz近傍」「30Hz近傍」)には、回帰型ニューラルネットワークによる防自立切替式液封マウントにて発生する荷重の予測値と理論値とが乖離していることがわかる。
【0025】
また、図3は、自立切替式液封マウントのつりあい評価の結果を示す図である。図3に示されるように、自立切替式液封マウントの荷重の理論値は0であるにもかかわらず、回帰型ニューラルネットワークによる自立切替式液封マウントの荷重の予測値は上下に大きく振れており、予測値と理論値とが大きく乖離していることがわかる。
【0026】
このため、単に回帰型ニューラルネットワークを用いて防振部材の挙動を予測したとしても精度良く予測することはできない、という課題がある。
【0027】
そこで、本実施形態では、防振部材の挙動をモデル化する際に防振部材の線形特性と非線形特性とを分離してモデル化する。具体的には、本実施形態では、防振部材の線形特性を既存の力学系モデルによってモデル化し、防振部材の線形特性を回帰型ニューラルネットワークによってモデル化する。これにより、防振部材の挙動を精度良く予測することができる。
【0028】
以下、図面を用いて実施形態の予測装置について説明する。
【0029】
図4は、実施形態に係る予測装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図4に示すように、予測装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16、及び通信インタフェース(I/F)17を備えている。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0030】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、教師データ生成プログラム、学習プログラム、及び予測プログラムが格納されている。
【0031】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0032】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、自装置に対して各種の入力を行うために使用される。
【0033】
表示部16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能しても良い。
【0034】
通信インタフェース17は、自装置が他の外部機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI(Fiber Distributed Data Interface)、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0035】
次に、図5を参照して、予測装置10の機能構成について説明する。
【0036】
図5は、実施形態に係る予測装置10の機能構成の一例を示すブロック図である。図5に示されるように、予測装置10は、教師データ取得部101と、教師データ記憶部102と、学習部103と、学習済みモデル記憶部104と、力学系モデル記憶部105と、取得部106と、第1荷重データ生成部107と、第2荷重データ生成部108と、推定部109とを備えている。
【0037】
教師データ取得部101は、後述する回帰型学習モデルの一例である回帰型ニューラルネットワークを機械学習させるための教師データを生成する。教師データは、防振部材の挙動を予測する回帰型ニューラルネットワークを学習させるためのデータである。
【0038】
図6に、本実施形態の防振部材モデルBMを説明するための図を示す。図6に示されるように、本実施形態では、防振部材のうちの線形特性を表す部分を既存の力学系モデルRMによりモデル化し、防振部材のうちの非線形特性を表す部分を回帰型ニューラルネットワークKMによりモデル化する。なお、回帰型ニューラルネットワークそれ自体は既知のものを用いる。
【0039】
具体的には、図6に示されるように、変位データと速度データとの組み合わせが防振部材モデルへ入力される。変位データは、防振部材に入力される各時刻の変位の系列を表すデータである。速度データは、防振部材に入力される各時刻の速度の系列を表すデータである。そして、防振部材モデルBMからは、変位データと速度データとの組み合わせが防振部材へ入力されたときの荷重を表す荷重データが出力される。荷重データは、防振部材に発生する各時刻の荷重を表すデータである。
【0040】
なお、変位データ及び速度データは、防振部材モデルBMのうちの力学系モデルRM及び回帰型ニューラルネットワークKMの両方へ入力される。防振部材モデルBMから出力される荷重データは、力学系モデルRMから出力される第1荷重データと、回帰型ニューラルネットワークKMから出力される第2荷重データとの和に相当する。
【0041】
具体的には、教師データ取得部101は、回帰型ニューラルネットワークを学習させるために、防振部材の要求性能を表すデータから教師データを生成する。
【0042】
教師データ取得部101は、防振部材の要求性能を表す貯蔵ばね定数Kから、当該防振部材の線形特性に対応するばね定数Kを減算することにより、防振部材の非線形特性に対応するばね定数K’を生成する。また、教師データ取得部101は、防振部材の要求性能を表す減衰係数Cから、防振部材の線形特性に対応する減衰係数Cを減算することにより、防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を生成する。
【0043】
図7A図7B、及び図7Cに、線形特性と非線形特性との分離を説明するための図を示す。
【0044】
図7Aは、線形特性と非線形特性とが分離される前の貯蔵ばね定数Kと減衰係数Cとを表す図である。図7Aの上側のグラフは、防振部材の要求性能を表す貯蔵ばね定数Kを表すグラフである。また、図7Aの下側のグラフは、防振部材の要求性能を表す減衰係数Cを表すグラフである。なお、図中のa1,a2,a3,a4は、防振部材に対して入力される振動の振幅aの大きさを表す。振幅a1,a2,a3,a4の関係は、a1<a2<a3<a4である。
【0045】
図7Bは、線形特性と非線形特性との分離の前後を説明するための図である。図7Bの上側のグラフに示されるように、貯蔵ばね定数Kから防振部材の線形特性に対応するばね定数Kが減算されることにより、ばね定数K’が生成される。なお、図7Bの上側のグラフにおいて「org」が付与されている線が貯蔵ばね定数Kを表し、「sep」が付与されている線がばね定数K’(K’=K-K)を表す。また、図7Bの下側のグラフに示されるように、減衰係数Cから防振部材の線形特性に対応する減衰係数Cが減算されることにより、減衰係数C’が生成される。なお、図7Bの下側のグラフにおいて「org」が付与されている線が減衰係数Cを表し、「sep」が付与されている線が減衰係数C’(C’=C-C)を表す。
【0046】
図7Cは、線形特性と非線形特性とが分離された後の、ばね定数K’と減衰係数C’とを表す図である。
【0047】
図7A図7B、及び図7Cに示されるように、予測装置10は、貯蔵ばね定数Kから線形特性に対応するばね定数Kを減算し、かつ減衰係数Cから線形特性に対応する減衰係数Cを減算することにより、これらの定数から防振部材の線形特性を取り除く。これにより、非線形特性に対応する、ばね定数K’及び減衰係数C’が生成され、それらを用いて後述する教師データが生成される。それらの教師データを用いて回帰型ニューラルネットワークが学習されることにより、防振部材の非線形特性に対応する学習済みの回帰型ニューラルネットワークが生成される。
【0048】
教師データ取得部101は、防振部材の非線形特性に対応するばね定数K’と防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を既知の手法を用いて変換することにより、防振部材の要求性能に対応する絶対ばね定数Kと、防振部材の要求性能に対応する位相θとを計算する。
【0049】
具体的には、教師データ取得部101は、防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’に基づいて、以下の式(2)に従って、各周波数fに対応するKを計算する。そして、教師データ取得部101は、防振部材の非線形特性に対応するばね定数K’と、式(2)により算出されたKとに基づいて、以下の式(1)に従って、絶対ばね定数Kを計算する。また、教師データ取得部101は、防振部材の非線形特性に対応するばね定数K’と、式(2)により算出されたKとに基づいて、以下の式(3)に従って、位相θを計算する。
【0050】
【数2】
【0051】
図8に、絶対ばね定数Kと位相θとの一例を示す。図8に示されるように、各周波数fに対して、絶対ばね定数Kと位相θとが算出される。
【0052】
そして、教師データ取得部101は、防振部材に対して入力される振動の振幅aと振動の角周波数ωとに基づいて、以下の式(4)及び式(5)に従って、教師データのうちの入力側データである、各時刻tの変位データx(t)及び各時刻tの速度データv(t)を計算する。
【0053】
【数3】
【0054】
また、教師データ取得部101は、防振部材に対して入力される振動の振幅aと振動の角周波数ωと絶対ばね定数Kと位相θとに基づいて、以下の式(6)に従って、教師データのうちの出力側データである各時刻tの荷重データf(t)を計算する。
【0055】
【数4】
【0056】
そして、教師データ取得部101は、変位データx(t)及び速度データv(t)と荷重データf(t)との組み合わせを教師データとして取得する。
【0057】
教師データ記憶部102には、教師データ取得部101により生成された教師データが格納される。本実施形態の教師データは、防振部材の各時刻の変位の系列を表す学習用の変位データ及び防振部材の各時刻の速度の系列を表す学習用の速度データと、学習用の速度データ及び学習用の変位データが与えられた際の防振部材に発生する荷重を表す荷重データとの組み合わせを表すデータである。
【0058】
図9に、教師データ記憶部102に格納される教師データの一例を示す。図9に示されるように、変位データ及び速度データと荷重データとの組み合わせが一つの教師データとして教師データ記憶部102に格納される
【0059】
学習部103は、教師データ記憶部102に格納された教師データに基づいて、防振部材の非線形特性を表す回帰型ニューラルネットワークを機械学習させることにより、学習済みの回帰型ニューラルネットワークを生成する。そして、学習部103は、生成した学習済みの回帰型ニューラルネットワークを学習済みモデル記憶部104へ格納する。
【0060】
学習済みモデル記憶部104には、学習部103により生成された学習済みの回帰型ニューラルネットワークが格納される。
【0061】
力学系モデル記憶部105には、防振部材の線形特性を表す力学系モデルに相当する計算式が格納される。具体的には、力学系モデルに相当する計算式は、以下の式(7)により表される。なお、線形特性に対応するばね定数K及び線形特性に対応する減衰係数Cは定数である。
【0062】
【数5】
【0063】
取得部106は、防振部材の各時刻の変位の系列を表す変位データと、防振部材の各時刻の速度の系列を表す速度データとを取得する。取得部106が取得するデータは、荷重データを推定する対象の変位データ及び速度データである。
【0064】
第1荷重データ生成部107は、力学系モデル記憶部105に格納された力学系モデルに相当する計算式を読み出す。そして、第1荷重データ生成部107は、読み出した力学系モデルに対して、取得部106により取得された変位データ及び速度データを入力することにより、防振部材の第1荷重データを生成する。具体的には、第1荷重データ生成部107は、上記式(7)に対して、変位データx(t)及び速度データv(t)を入力して、第1荷重データfs(t)を計算する。
【0065】
第2荷重データ生成部108は、学習済みモデル記憶部104に格納された学習済みの回帰型ニューラルネットワークを読み出す。そして、第2荷重データ生成部108は、読み出した学習済みの回帰型ニューラルネットワークに対して、取得部106により取得された変位データx(t)及び速度データv(t)を入力することにより、防振部材の第2荷重データfd(t)を生成する。
【0066】
推定部109は、第1荷重データ生成部107により生成された第1荷重データfs(t)と、第2荷重データ生成部108により生成された第2荷重データfd(t)とを足し合わせることにより、防振部材に発生する荷重データを推定する。
【0067】
そして、推定部109は、推定した防振部材の荷重データを表示部16へ表示させる。なお、荷重データは時系列データであるため、各時刻において防振部材に発生する荷重が表示部16へ表示される。
【0068】
次に、実施形態の予測装置10の作用について説明する。
【0069】
防振部材の要求性能を表すデータが予測装置10へ入力されると、予測装置10は、図10に示す教師データ生成処理ルーチンを実行する。
【0070】
<教師データ生成処理ルーチン>
【0071】
ステップS100において、教師データ取得部101は、防振部材の要求性能を表す貯蔵ばね定数Kから、当該防振部材の線形特性に対応するばね定数Kを減算することにより、防振部材の非線形特性に対応するばね定数K’を生成する。
【0072】
ステップS102において、教師データ取得部101は、防振部材の要求性能を表す減衰係数Cから、防振部材の線形特性に対応する減衰係数Cを減算することにより、防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を生成する。
【0073】
ステップS104において、防振部材の非線形特性に対応するばね定数K’と防振部材の非線形特性に対応する減衰係数C’を既知の手法を用いて変換することにより、防振部材の要求性能に対応する絶対ばね定数Kと防振部材の要求性能に対応する位相θとを計算する。
【0074】
ステップS106において、教師データ取得部101は、防振部材に対して入力される振動の振幅aと振動の角周波数ωとに基づいて、上記式(4)、(5)に従って、教師データのうちの入力側データである、各時刻tの変位データx(t)及び各時刻tの速度データv(t)を計算する。
【0075】
ステップS108において、教師データ取得部101は、防振部材に対して入力される振動の振幅aと振動の角周波数ωと絶対ばね定数Kと位相θとに基づいて、上記式(6)に従って、教師データのうちの出力側データである各時刻tの荷重データf(t)を計算する。
【0076】
ステップS110において、教師データ取得部101は、変位データx(t)及び速度データv(t)と荷重データf(t)との組み合わせを教師データとして教師データ記憶部102へ格納する。
【0077】
上記の教師データ生成処理ルーチンによって教師データが生成され、その教師データが教師データ記憶部102へ格納されると、予測装置10は図11に示す学習処理ルーチンを実行する。
【0078】
<学習処理ルーチン>
【0079】
ステップS200において、学習部103は、教師データ記憶部102に格納された教師データを読み出す。
【0080】
ステップS202において、学習部103は、教師データ記憶部102に格納された教師データに基づいて、防振部材の非線形特性を表す回帰型ニューラルネットワークを機械学習させることにより、学習済みの回帰型ニューラルネットワークを生成する。
【0081】
ステップS204において、学習部103は、生成した学習済みの回帰型ニューラルネットワークを学習済みモデル記憶部104へ格納する。
【0082】
上記の学習処理ルーチンによって学習済みの回帰型ニューラルネットワークが生成され、学習済みモデル記憶部104へ格納されると、予測装置10は図12に示すシミュレーション処理ルーチンを実行する。
【0083】
<シミュレーション処理ルーチン>
【0084】
ステップS300において、取得部106は、荷重データを推定する対象の変位データx(t)及び速度データv(t)を取得する。
【0085】
ステップS302において、第1荷重データ生成部107は、力学系モデル記憶部105に格納された力学系モデルに相当する計算式を読み出す。そして、第1荷重データ生成部107は、読み出した力学系モデルに対して、上記ステップS300で取得された変位データx(t)及び速度データv(t)を入力することにより、防振部材の第1荷重データfs(t)を生成する。
【0086】
ステップS304において、第2荷重データ生成部108は、学習済みモデル記憶部104に格納された学習済みの回帰型ニューラルネットワークを読み出す。そして、第2荷重データ生成部108は、読み出した学習済みの回帰型ニューラルネットワークに対して、上記ステップS300で取得された変位データx(t)及び速度データv(t)を入力することにより、防振部材の第2荷重データfd(t)を生成する。
【0087】
ステップS306において、推定部109は、上記ステップS302で生成された第1荷重データfs(t)と、上記ステップS300で生成された第2荷重データfd(t)とを足し合わせることにより、防振部材にかかる荷重データを推定する。
【0088】
ステップS308において、推定部109は、推定した防振部材の荷重データを結果として出力する。
【0089】
以上説明したように、実施形態に係る予測装置10は、防振部材の各時刻の変位の系列を表す変位データと、防振部材の各時刻の速度の系列を表す速度データとを取得する。そして、予測装置10は、防振部材の線形特性を表すモデルであって、かつ変位データ及び速度データから防振部材にかかる荷重を表す荷重データを推定するためのモデルに対して、取得された変位データ及び速度データを入力することにより、防振部材の第1荷重データを生成する。予測装置10は、防振部材の非線形特性を表す回帰型学習済みモデルであって、かつ変位データ及び速度データから防振部材にかかる荷重を表す荷重データを推定するための予め機械学習された回帰型学習済みモデルに対して、取得された変位データ及び速度データを入力することにより、防振部材の第2荷重データを生成する。予測装置10は、第1荷重データと第2荷重データとを足し合わせることにより、防振部材にかかる荷重データを推定する。これにより、防振部材の挙動を精度良く予測することができる。また、防振部材の挙動を安定的に予測することができる。
【0090】
なお、上記の実施形態における各装置で行われる処理は、プログラムを実行することにより行われるソフトウエア処理として説明したが、ハードウェアで行う処理としてもよい。或いは、ソフトウエア及びハードウェアの双方を組み合わせた処理としてもよい。また、ROMに記憶されるプログラムは、各種記憶媒体に記憶して流通させるようにしてもよい。
【0091】
さらに、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0092】
例えば、上記実施形態では、式(6)によって教師データの出力側データf(t)が生成される場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、以下の式により教師データの出力側データf(t)が生成されてもよい。
【0093】
【数6】
【実施例
【0094】
次に、本実施形態の実施例について説明する。
【0095】
図13は、自立切替式液封マウントのつりあい評価の結果を表す図である。図13のR1-1は、ばね定数及び減衰係数の両方について非線形特性と線形特性とを分離し、非線形特性に対応する第1荷重データを力学系モデルにより生成し、線形特性に対応する第2荷重データを回帰型ニューラルネットワモデルにより生成し、第1荷重データと第2荷重データとの和を自立切替式液封マウントに発生する荷重データとして推定した結果である。R1-2は、ばね定数のみについて非線形特性と線形特性とを分離した結果である。R1-3は、非線形特性と線形特性とを分離せずに回帰型ニューラルネットワークを用いて自立切替式液封マウントに発生する荷重データを推定した結果である。
【0096】
図13に示されるように、R1-3の結果は上下に大きく振れており、荷重データは適切に推定されていない。これに対し、R1-2の結果は上下に振れているものの、R1-3に比べればその変動は抑制されている。R1-3の結果は、上下の振れは殆ど無く、荷重データが適切に推定されていることがわかる。
【0097】
図14は、自立切替式液封マウントの加振評価の結果を表す図である。図14のR2-1は、ばね定数及び減衰係数の両方について非線形特性と線形特性とを分離し、非線形特性に対応する第1荷重データを力学系モデルにより生成し、線形特性に対応する第2荷重データを回帰型ニューラルネットワモデルにより生成し、第1荷重データと第2荷重データとの和を自立切替式液封マウントに発生する荷重データとして推定した結果である。R2-2は、ばね定数のみについて非線形特性と線形特性とを分離した結果である。R2-3は、非線形特性と線形特性とを分離せずに回帰型ニューラルネットワークを用いて自立切替式液封マウントに発生する荷重データを推定した結果である。
【0098】
図14に示されるように、R2-3の結果は非連続な結果となっており、荷重データは適切に推定されていない。これに対し、R1-2及びR1-3の結果は、多少上下に振れているものの、R1-3に比べればその変動は抑制されており、荷重データが適切に推定されていることがわかる。
【0099】
次に、計算安定性を確認するために、切替なしの液封マウントを題材として、回帰型ニューラルネットワーク単体による予測結果と、非線形特性と線形特性とを分離した本実施形態のモデルによる予測結果とを比較する。
【0100】
検証に用いる1D-CAEモデルは、1自由度ばね-マス系のばね部分を液封マウントモデルに置換えたモデルである。この検証では、その1D-CAEモデルのマスを加振させたときの変位応答を評価する。質量諸元のマスを100/60/30/20kgに変化させることで、1自由度系の共振周波数を徐々に高くし、計算安定性に影響がないかを定性的に確認した。
【0101】
図15の表に示されるように、非線形特性と線形特性とを分離した本実施形態のモデルは、その全てについて計算安定性を有している(表における「Stable」)ことが確認できる。一方、回帰型ニューラルネットワーク単体については、質量20kgの条件において、計算結果が発散(表における「Unstable」)してしまっている。これに対し、非線形特性と線形特性とを分離した本実施形態のモデルは、質量20kgの条件においても計算が収束し安定している。このため、非線形特性と線形特性とを分離した本実施形態のモデルは、計算安定性も向上していることが確認された。
【符号の説明】
【0102】
10 予測装置
101 教師データ取得部
102 教師データ記憶部
103 学習部
104 学習済みモデル記憶部
105 力学系モデル記憶部
106 取得部
107 第1荷重データ生成部
108 第2荷重データ生成部
109 推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15