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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】タンク及びタンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/32 20060101AFI20230912BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20230912BHJP
   F17C 1/12 20060101ALI20230912BHJP
   F17C 13/12 20060101ALI20230912BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
B29C70/32
F17C1/06
F17C1/12
F17C13/12 301Z
F17C13/00 301Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020130159
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026604
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片野 剛司
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-149545(JP,A)
【文献】特開2017-187153(JP,A)
【文献】特開2019-120263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/32
F17C 1/06
F17C 1/12
F17C 13/12
F17C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクの製造方法であって、
ライナと、前記ライナの外周に配置される繊維強化樹脂層と、を備える構造体であって、円筒部と前記円筒部の軸方向の両端に設けられたドーム部とを有し、前記ドーム部の一方に、口金及び前記口金に取り付けられた溶栓弁を備える構造体を形成する工程と、
前記構造体を形成する工程の後に、前記ドーム部に対応して設けられたドーム形成部に切り欠きを有する断熱シートを前記繊維強化樹脂層に巻き付ける工程と、
前記断熱シートの前記ドーム形成部により前記ドーム部を覆う工程と、
を備え
前記断熱シートを前記繊維強化樹脂層に巻き付ける工程において用いられる前記断熱シートの前記ドーム形成部のうち、前記溶栓弁が取り付けられた口金を備える側の前記ドーム部を覆う部分の断熱性能は、前記溶栓弁が取り付けられていない側の前記ドーム部を覆う部分の断熱性能よりも低い、
タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のタンクの製造方法であって、
前記断熱シートは、
前記ドーム形成部において、両面に粘着層または接着剤を備え、
前記ドーム形成部の間の領域において、一方の面に粘着層または接着剤を備えており、
前記断熱シートの巻き付け後、前記ドーム部に対応する前記ドーム形成部の前記粘着層または前記接着剤を露出させ、
前記ドーム形成部にタンクプロテクタを貼り付ける、タンクの製造方法。
【請求項3】
タンクであって、
ライナと、ライナの外周に形成された繊維強化樹脂層とを備える構造体であって、円筒部と前記円筒部の軸方向の両端に設けられたドーム部とを有する構造体と、
前記構造体の外側に配置される断熱層であって、断熱シートにより形成される断熱層と、
を備え、
前記断熱シートは、
前記ドーム部を覆うドーム形成部であって、切り欠きを有するドーム形成部と、
前記ドーム形成部の間の領域であって、前記構造体の前記円筒部を周方向に巻き取り可能な中間部と、を有し、
前記ドーム部の一方に、口金及び前記口金に取り付けられた溶栓弁を備え、
前記断熱シートは、前記溶栓弁が取り付けられた口金を備える側の前記ドーム部を覆う部分の断熱性能が、前記溶栓弁が取り付けられていない側の前記ドーム部を覆う部分の断熱性能よりも低い、
タンク。
【請求項4】
請求項3に記載のタンクであって、
前記ドーム部の外側にタンクプロテクタを備える、タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンク及びタンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ライナの上のCFRPで形成された補強層が形成されている。ライナのドーム部における補強層の厚さは、円筒部における補強層の厚さよりも薄くなっている。この補強層の薄くなったドーム部に2層構造のタンクプロテクタが配置され、2層のうちの少なくとも1層に加熱されることで膨張し、耐火・断熱性を発揮する有する膨張黒鉛を添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-120263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今後、タンクの軽量化を進めるにあたり、タンク外周において、こうした膨張黒鉛層を設ける範囲を広くしたい場合がありえる。こうした場合の適切な製造方法や構造が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、タンクの製造方法が提供される。このタンクの製造方法は、ライナと、前記のライナの外周に配置される繊維強化樹脂層と、を備える構造体であって、円筒部と前記円筒部の軸方向の両端に設けられたドーム部とを有する構造体を形成する工程と、前記構造体を形成する工程の後に、前記ドーム部に対応して設けられたドーム形成部に切り欠きを有する断熱シートを前記繊維強化樹脂層に巻き付ける工程と、前記ドーム形成部により前記ドーム部を覆う工程と、を備える。この形態によれば、断熱層を構造体の円筒部とドーム部の両方に配置できる。
(2)上記形態のタンクの製造方法において、前記断熱シートは、前記ドーム形成部において、両面に粘着層または接着剤を備え、前記ドーム形成部の間の領域において、一方の面に粘着層または接着剤を備えており、前記断熱シートの巻き付け後、前記ドーム部に対応する前記ドーム形成部の前記粘着層または前記接着剤を露出させ、前記ドーム形成部にタンクプロテクタを貼り付けてもよい。この形態によれば、断熱シートのドーム形成部の両面に粘着層または接着剤を備えているので、断熱シートを貼り付けた後にドーム部形成部に接着剤等を塗工する工程が不要となる。
(3)上記形態のタンクの製造方法において、前記構造体は、前記ドーム部の一方に、口金及び前記口金に取り付けられた溶栓弁を有しており、前記一方の前記ドーム部を覆う部分における前記断熱シートの断熱性能は、他方の前記ドーム部を覆う部分における前記断熱シートの断熱性能よりも低くてもよい。この形態によれば、口金側の断熱シートの断熱性能が口金と反対側の断熱シートの断熱性能よりも低いので、例えば、何らかの要因でタンクが加熱されたとき、口金に接続された溶栓弁を加熱させることで、溶栓弁を動作させて、タンクの圧力を逃すことができる。
(4)本開示の一形態によれば、タンクが提供される。このタンクは、ライナと、ライナの外周に形成された繊維強化樹脂層とを備える構造体であって、円筒部と前記円筒部の軸方向の両端に設けられたドーム部とを有する構造体と、前記構造体の外側に配置される断熱層であって、断熱シートにより形成される断熱層と、を備え、前記断熱シートは、前記ドーム部を覆うドーム形成部であって、切り欠きを有するドーム形成部と、前記ドーム形成部の間の領域であって、前記構造体の前記円筒部を周方向に巻き取り可能な中間部と、を有するを有する。この形態によれば、円筒部に断熱層を形成すると共に、切り欠きにより、ドーム部の断熱層を容易に形成できる。
(5)上記形態のタンクにおいて、前記ドーム形状部の外側にタンクプロテクタを備えてもよい。この形態によれば、タンクプロテクタにより、タンクを保護できる。
(6)上記形態のタンクにおいて、前記ドーム部の一方に、口金及び前記口金に取り付けられた溶栓弁を備え、前記一方の前記ドーム部を覆う部分における前記断熱シートの断熱性能は、他方の前記ドーム部を覆う部分における前記断熱シートの断熱性能よりも低くてもよい。この形態によれば、口金側の断熱層の断熱性能が口金と反対側の断熱層の断熱性能よりも低いので、例えば、何らかの要因でタンクが加熱されたとき、口金に接続された溶栓弁を加熱させることで、溶栓弁を動作させて、タンクの圧力を逃すことができる。
本開示は、タンクの製造方法、タンク以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、タンクの断熱方法、タンクの断熱構造等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態のタンクを示す説明図である。
図2】タンクの製造工程を示す説明図である。
図3】ライナの製造工程を示す説明図である。
図4】CFRP層のうちドーム形補強層内層を形成する工程を示す説明図である。
図5】CFRP層のうち円筒形補強層内層を形成する工程を示す説明図である。
図6】ライナに円筒形補強層内層及びドーム形補強層内層を組み付ける工程を示す説明図である。
図7】補強層外層を形成する工程を示す説明図である。
図8】補強層外層を形成する工程を示す説明図である。
図9】断熱層を形成する断熱シートを形成する工程を示す説明図である。
図10】CFRP層が形成されたタンクに断熱層を形成する工程を示す説明図である。
図11】断熱層形成後のタンクを示す説明図である。
図12】断熱層にタンクプロテクタを接着する工程を示す説明図である。
図13】第2実施形態のタンクを示す説明図である。
図14】ドーム形状部の断熱性能を、ドーム形状部の断熱性能よりも低くする構成の一例を示す説明図である。
図15】ドーム形状部cの断熱性能を、ドーム形状部の断熱性能よりも低くする構成の他の例を示す説明図である。
図16】第3実施形態のタンクを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
・第1実施形態:
図1は、第1実施形態のタンク100を示す説明図である。タンク100は、ライナ110と、繊維強化樹脂層120と、断熱層130と、口金140と、タンクプロテクタ150と、を備える。
【0009】
ライナ110は、略円筒形をした円筒部111と、円筒部の両側に略半球面のドーム形状をしたドーム部112、113を有する樹脂製の部材であり、内部に水素やLPガスなどの燃料ガスを貯蔵する。ライナ110を形成する樹脂については、後述する。
【0010】
繊維強化樹脂層120は、ライナ110を補強する補強層として機能する。繊維強化樹脂層120については、後述する。
【0011】
断熱層130は、円筒形状部131及びドーム形状部132、133を有し、黒鉛粒子及びウレタン樹脂を含んだ層である。断熱層130は、熱にさらされると、内部の黒鉛粒子が、膨張し、互いに絡まりあうことによって大容量の空隙を有する断熱層を形成する。また、黒鉛粒子は、難燃性であるため、断熱層130は、断熱性に加え耐火性も有する。例えば、タンク100を搭載する車両が何らかの事情で火炎にさらされても、断熱層130の黒鉛粒子は、燃えることなく火炎の熱を受けて膨張し、タンク100へ熱が伝わるの抑制する。
【0012】
ドーム形状部132は、切り込み134を有し、ドーム形状部133は、切り込み135を有する。切り込み134は、ドーム形状部132を形成するドーム形成片の境界であり、切り込み135は、ドーム形状部133を形成するドーム形成片の境界である。切り込み134、135は、それぞれ、タンク100の軸Oと垂直な平面と交差し、ドーム形状部132、133の頂部を通る大円の一部である。なお、切り込み134、135は、ドーム形状部132、133の大円の一部でなくてもよい。
【0013】
口金140は、一方のドーム部112の頂部に設けられており、他方のドーム部113には、設けられていない。口金140には、後述するように、主止弁が取り付けられ、主止弁には、溶栓弁が取り付けられる。
【0014】
タンクプロテクタ150は、ドーム形状部132、133の外側に貼り付けられている。タンクプロテクタ150は、タンク100の軸O方向において、断熱層130よりも外側にはみ出ており、軸Oと垂直な方向においても、断熱層130よりも外側にはみ出ている。タンク100の輸送中等において、タンク100が落下しても、地面等には、タンク100が当たらず、タンクプロテクタ150が当たるので、落下によるタンクの破損を抑制できる。
【0015】
図2は、タンク100の製造工程を示す説明図である。ステップS100では、ライナ110を形成する。ステップS110では、ライナ110の外側に繊維樹脂強化層であるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)層120を形成する。ステップS120では、CFRP層120の外側に、断熱シートを巻き付けて、断熱層130を形成する。その後、ステップS130では、ドーム形状部132、133にタンクプロテクタ150が貼り付けられる。
【0016】
図3は、ライナ110の製造工程を示す説明図である。円筒部111と、口金140を有するドーム部112と、口金を有さないドーム部113を、樹脂の射出成形により形成する。射出成形に用いる樹脂としては、例えば、ポリアミドが用いられる。なお、ポリアミド以外に、例えば、ポリエチレン、及びエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリエステル等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂が用いられてもよい。
【0017】
円筒部111の軸方向の端部111eは、端部111e以外の場所と比較して、外径が少し小さくなっている。ドーム部112の頂部と反対側の端部112eは、内径が大きくなっており、ドーム部113の頂部と反対側の端部113eも、内径が大きくなっている。そのため、円筒部111の両端に、ドーム部112、113を外周側から嵌め込むことができる。図3の円筒部111とドーム部112、113が熱可塑性樹脂で形成されている場合には、円筒部111とドーム部112、113とを、接着剤で接着し、あるいは、レーザー等で接合部を加熱して熱可塑性樹脂を溶融させ、接着する。円筒部111とドーム部112、113が熱硬化性樹脂で形成されている場合には、円筒部111とドーム部112、113とを、接着剤で接着する。接着剤としては、例えば、エポキシ系樹脂の接着剤が用いられる。なお、円筒部111の軸方向の端部111eの内径を大きくし、ドーム部112の端部112eとドーム部113の端部113eの外径を小さくしても良い。円筒部111の両端に、ドーム部112、113を内周側から嵌め込むことができる。
【0018】
図4は、CFRP層120のうちドーム形補強層内層122i、123iを形成する工程を示す説明図である。両側にドーム形状を有するマンドレル200を準備する。マンドレル200の表面の形状は、2つのドーム形状202、203を短い円筒201でつないだ形状である。図4の破線は、便宜上、ドーム形状202、203と円筒201の境界を示した線である。フィラメントワインディング法(FW法)により、マンドレル200の外面に樹脂が含浸された繊維束124を巻き付ける。このとき繊維束124を、シャフト210の軸方向に対して、40°で交差する角度で巻き付けることが好ましい。なお、繊維束124を巻き付ける角度について、下限は、例えば30°以上あればよく、上限は、60°以下であればよい。本実施形態では、繊維束124の繊維として、炭素繊維が用いられる。軽量性や機械的強度等の観点から好ましいからである。なお、炭素繊維の代わりに、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維を用いても良い。本実施形態では、繊維に含浸される樹脂としては、エポキシ樹脂を用いている。機械的強度等の観点好ましいからである。なお、繊維に含浸される樹脂として、エポキシ樹脂の他、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂を用いても良い。また、熱硬化性樹脂の他、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルファイド、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド等の熱可塑性樹脂を用いても良い。
【0019】
繊維束124に含浸される樹脂を硬化させた後、マンドレル200の外面に巻回された巻回体の円筒部201に対応する部分を、円筒の外周に沿って、例えばカッターを用いて2分割し、ドーム形補強層内層122i、123iを形成する。その後、ドーム形補強層内層122i、123iの形状を整える。例えば、カッターを用いて切った切断部分、すなわち、頂部と反対側の端部の内側を少し薄くする。後述する円筒形補強層内層と嵌合しやすくするためである。なお、マンドレル200の円筒部201のほぼ中央の径を少し大きくしておいても良い。
【0020】
図5は、CFRP層120のうち円筒形補強層内層121iを形成する工程を示す説明図である。円筒形のマンドレル220を準備する。マンドレル220の外径は、ライナ110の外径と同じ径である。フィラメントワインディング法(FW法)により、マンドレル220の円筒面に樹脂が含浸された繊維束124を巻き付ける。なお、マンドレル220の円筒面に、樹脂が含浸された繊維シートを巻き付けても良い。繊維に含浸される樹脂を硬化させた後、マンドレル220を取り除き、円筒形補強層内層121iを形成する。その後、円筒形補強層内層121iの形状を整える。例えば、円筒形補強層内層121iの軸方向の両端の外側を削り、薄くする。ドーム形補強層内層122i、123iの端部と嵌合しやすくするためである。従って、ドーム形補強層内層122i、123iの端部の外側を削って薄くし、円筒形補強層内層121iの軸方向の両端の内側を削り、薄くしてもよい。
【0021】
図6は、ライナ110に円筒形補強層内層121i及びドーム形補強層内層122i、123iを組み付ける工程を示す説明図である。円筒形補強層内層121iの内側にライナ110の円筒部111を挿入する。その後、ライナ110のドーム部112、113にそれぞれドーム形補強層内層122i、123iを被せ、補強層内層120iを形成する。ここで、円筒形補強層内層121iとドーム形補強層内層122i、123iとは、例えば、接着剤で接着する。なお、ライナ110の円筒部111と円筒形補強層内層121i、ドーム部112とドーム形補強層内層122i、ドーム部113とドーム形補強層内層123iをそれぞれ接着剤で接着しても良い。
【0022】
図7図8は、補強層外層120oを形成する工程を示す説明図である。補強層内層120iが形成されたタンク100の口金140に支持機構(図示せず)を取り付けて、保持する。なお、図7および図8では、タンク100を水平に配置した状態を示しているが、タンク100が重力によって下方に撓むのを防止するためにタンク100を鉛直に配置してもよい。
【0023】
次に、樹脂が含浸された複数の繊維束125を、タンク100の軸方向Xに延在させるとともに、タンク100の周方向に所定の角度間隔で、かつ、タンク100の補強層内層120iの外面から所定の距離を隔てて配置する。このとき、繊維束125の各々は、巻出装置の巻出部400を介して巻き出され、繊維束125の先端は保持部材410によって保持されている。
【0024】
本実施形態では、繊維束125に含浸される樹脂として、エポキシ樹脂を用いている。機械的強度等の観点から好ましい。なお、繊維束125に含浸される樹脂として、エポキシ樹脂の他、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いても良い。また、本実施形態では、繊維束125を構成する繊維として、炭素繊維を用いている。軽量性や機械的強度等の観点から好ましい。なお、繊維束125を構成する繊維として、炭素繊維の他、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維を用いても良い。
【0025】
その後、図7に示した状態から、複数の巻出部400と複数の保持部材410とをタンク100の周方向に互いに逆方向に回転させることにより、複数の繊維束125の第1端側(巻出部400側)の部分と第2端側(保持部材410側)の部分とがタンク100の周方向に相対的に回転する。ここでは、複数の繊維束125の第1端側の部分を第1方向に回転させ、第2端側の部分を第1方向とは逆方向である第2方向に回転させる。これにより、図8に示すように、複数の繊維束125がタンク100の軸方向Xに対して傾斜した状態になるとともに、繊維束125同士の隙間がなくなり繊維束125同士が一部重なり合う。そして、複数の繊維束125は、補強層内層120iの外面に徐々に近づきながら補強層内層120iの外面に隙間なく配置される。このとき、複数の繊維束125は、軸方向Xに対して傾斜した状態で補強層内層120iの外面に密着し、補強層内層120iの外面に密着した部分は樹脂の粘着力によって動きが拘束される。その後、複数の繊維束125の第1端側の部分および第2端側の部分はタンク100の端部の外側において巻出部400および保持部材410によって捩じられドーム形補強層内層122iおよびドーム形補強層内層123i(図示せず)の外面に巻き付けられる。このようにして、補強層外層120oが補強層内層120iの外面を覆うように形成される。その後、繊維束125の不要部分を切断することによって、繊維束125による1層目が形成される。
【0026】
繊維束125は、ガス圧によってドーム形補強層内層122i、123iが円筒形補強層内層121iから軸方向Xの外側に外れるのを防止するものであるため、タンク100の軸方向Xに沿って設けられている。繊維束125の傾斜角度(タンク100の軸方向Xに対する角度)は、特に限定されるものではないが、繊維束125は、タンク100の軸方向Xに対して0°よりも大きい角度で傾斜するように配向されることが好ましい。10°よりも大きい傾斜角であればより好ましい。また、傾斜角度の上限は、45°以下であることが好ましく、20°以下であることがより好ましい。
【0027】
次に、繊維束125による補強層外層120oの2層目を、1層目と同様の方法によって形成する。ただし、2層目を形成する際には、複数の繊維束125の第1端側(巻出部400側)の部分を第2方向に回転させ、第2端側(保持部材410側)の部分を第1方向に回転させる。なお、3層目以降を形成する場合、奇数層目については、1層目と同様に形成し、偶数層目については、2層目と同様にして形成する。ここで、繊維束125の傾斜角度が第1層と同じ向きの層を「第1傾斜層120o1」と呼び、繊維束125の傾斜角度が第2層と同じ向きの層を「第2傾斜層120o2」と呼ぶ。
【0028】
補強層外層120oの層数は、補強層外層120oの強度が確保されるのであれば、特に限定されるものではないが、例えば2~12層にすることが好ましく、2層にすることがより好ましい。なお、補強層外層120oの層数は、補強層外層120oの強度が確保されるのであれば、できるだけ少ない方が好ましい。また、補強層外層120oの層数は、偶数が好ましい。この理由は以下の通りである。奇数層目の第1傾斜層120o1は、複数の繊維束125が所定の張力を有して軸方向Xに対して傾斜した状態で配置され、後で傾斜した状態のまま硬化されるため、ガス圧によりタンクのライナ110に膨張する力が作用すると、第1傾斜層120o1には、軸方向Xに対する傾斜を解消する方向に力が生じ、CFRP層120にひずみが生じる。同様に、偶数層目の第2傾斜層120o2は、複数の繊維束125が所定の張力を有して第1傾斜層120o1とは反対方向に傾斜した状態で配置され、後で傾斜した状態のまま硬化されるため、ガス圧によりライナ110に膨張する力が作用すると、第2傾斜層120o2には、第1傾斜層120o1とは反対方向の傾斜を解消する方向に力が生じ、CFRP層120にひずみが生じる。しかし、第1傾斜層120o1と第2傾斜層120o2とが、互いに反対方向に傾斜しているため、ガス圧により補強層外層120oに膨張する力が作用した場合に、第1傾斜層120o1の傾斜を解消する方向の力と第2傾斜層120o2の傾斜を解消する方向の力とが互いに打ち消し合うように作用する。ここで、補強層外層120oの層数が偶数であれば、
すなわち、第1傾斜層120o1と第2傾斜層120o2とを同じ層数だけ形成するので、第1傾斜層120o1の傾斜を解消する方向の力と第2傾斜層120o2の傾斜を解消する方向の力とを、効果的に互いに打ち消し合うように作用させることができる。これにより、複数の繊維束125の傾斜に起因してCFRP層120にひずみが生じるのを効果的に抑制することができるので、タンク100にひずみが生じることを抑制できる。そして、タンク100の強度が低下するのを抑制することができる。なお、第1傾斜層120o1と第2傾斜層120o2とを異なる層数形成してもよいし、また、第1傾斜層120o1あるいは、第2傾斜層120o2のみを形成してもよい。
【0029】
補強層外層120oを所定の層数形成した後、例えば100~170度の温度で10~120分加熱して、繊維束125の樹脂を硬化させて、ライナ110とCFRP層120を備える構造体を形成する。
【0030】
上述したように、2つのドーム形補強層内層122i、123iに亘って繊維が配置された補強層外層120oを形成することによって、ドーム形補強層内層122i、123iが円筒形補強層内層121iから離間することが補強層外層120oの繊維によって防止されるので、ドーム形補強層内層122i、123iがガス圧により円筒形補強層内層121iの両端から外れるのを抑制することができる。この補強層外層120oは、ドーム形補強層内層122i、123iが円筒形補強層内層121iから外れるのを防止することが可能な繊維量を有すればよいので、従来のタンクの円筒部に形成されていたヘリカル層に比べて、繊維強化樹脂の使用量を少なくすることができる。
【0031】
図9は、断熱層130を形成する断熱シート130sを形成する工程を示す説明図である。先ず、断熱シート130sを準備する。断熱シート130sは、黒鉛粒子とウレタンとを含む長方形形状を有するシートである。断熱シート130sの両端部をそれぞれ、切り込み134、135を用いて、カットし、切り欠き138、139を取り除く。その結果、長方形形状の中間部131sと、ドーム形成部132s、133sが形成される。ドーム形成部132sは、地球儀の表面を形成するときに用いられる舟形多円錐形状を赤道線で切った形状を有し、複数のドーム形成片132spに分割できる。ドーム形成部133sも、舟形多円錐形状をいわゆる赤道線で切った形状を有し、複数のドーム形成片133spに分割できる。なお、ドーム形成片132spは、ドーム形成片133spの頂点がカットされ凹ませた形状となっている。このカットした部分は、ドーム形成片132spをドーム形状に変形した場合に、ちょうどドームの頂部に当たる部分であり、ドームの頂部に断熱シート130sが設けられない開口を形成する。この開口に、口金140が通る。
【0032】
図10は、CFRP層120が形成されたタンク100に断熱層130を形成する工程を示す説明図である。断熱シート130sのタンク100側の面には、全面に接着剤151を塗り、タンク100と反対側の面には、ドーム形成部132s、133sのみに接着剤152を塗る。接着剤151、152の代わりに粘着層を用いてもよい。CFRP層120が形成されたタンク100を回転させながらCFRP層120の上に断熱シート130sを貼り付ける。ドーム形成片132sp、133spを折り曲げて、それぞれ、CFRP層120のドーム部に貼り付けることで、断熱層130を形成する。
【0033】
図11は、断熱層130形成後のタンク100を示す説明図である。断熱層130のうち、円筒形状部131の表面には、接着剤が露出していないが、ドーム形状部132、133の表面には、接着剤152が露出している。
【0034】
図12は、断熱層130にタンクプロテクタ150を接着する工程を示す説明図である。タンクプロテクタ150は、例えば、円錐面から頂部を切り取ったような形状を有しており、例えばポリウレタンで形成されている。タンクプロテクタ150は、膨張黒鉛層を含んでいても良い。タンクプロテクタ150は、タンク100が落下したときに、タンク100が直接地面等に当たらないように保護するとともに、タンクプロテクタ150が地面に当たったときには、衝撃を緩和する。タンクプロテクタ150は、膨張黒鉛層を含んでいても良い。衝撃緩和に加え、タンク100の耐火、耐熱性を向上できる。図12に示すように、断熱層130のドーム形状部132、133の表面には、接着剤152が露出している。この露出した接着剤152にタンクプロテクタ150を接着する。
【0035】
以上、本実施形態によれば、円筒部111と、円筒部111の軸方向の両端に設けられたドーム部112、113と、を有するライナ110の外周に繊維強化樹脂層であるCFRP層120を形成する工程の後に、ドーム部112、113に対応する両端にドーム部の形状に合わせた切り欠き138、139を有する断熱シート130sをCFRP層に巻き付ける工程を備えるので、断熱シート130sを円筒部とドーム部の両方に巻き付け、容易に断熱層130を形成できる。
【0036】
ドーム形状部132を複数のドーム形成片132spで形成し、ドーム形状部133を複数のドーム形成片で形成するので、ドームの形状に合った断熱層130を形成できる。図9に示す例では、8枚のドーム形成片132sp、ドーム形成片133spを形成しているが、ドーム形成片132sp、ドーム形成片133spの周方向の幅を狭めて、ドーム形成片132sp、ドーム形成片133spの数を増やしても良い。よりドーム形状に追従させやすくできる。
【0037】
断熱シート130sは、円筒部に対応する中間部131sにおいて、一方の面に接着剤151を備え、ドーム部に対応する端部であるドーム形成部132s、133sにおいて、両面に接着剤152を備えているので、断熱シート130sをCFRP層120に貼り付けた後、ドーム形成部132s、133sの接着剤が露出している。その結果、その露出した接着剤152を用いて、タンクプロテクタ150を接着できる。すなわち、タンクプロテクタ150を接着するために、新たな接着剤を塗工する必要が無い。なお、接着剤151、152の代わりに、粘着層を用いても良い。
【0038】
・第2実施形態:
図13は、第2実施形態のタンク100を示す説明図である。図13では、タンクプロテクタの図示を省略している。第2実施形態のタンク100は、口金140に主止弁141と、溶栓弁142を備える。主止弁141は、タンク100内のガスの排出をオン、オフする弁である。溶栓弁142は、主止弁141に取り付けられている。溶栓弁142は、タンク100の内部と外部とを連通する穴を有しており、該穴は、融点の低い金属で閉塞されている。タンク100が高温になると、熱により金属が溶けて、タンク100の内部と外部とを連通する穴が開通する。溶栓弁142は、連通した穴からタンク100内の圧力を逃す。第2実施形態では、この溶栓弁142に熱が伝わりやすいように、口金140がある側の断熱層130のドーム形状部132bの断熱性能を、口金140がない側のドーム形状部133bの断熱性能よりも低くしている。
【0039】
図14は、ドーム形状部132bの断熱性能を、ドーム形状部133bの断熱性能よりも低くする断熱シート130sbの構成の一例を示す説明図である。断熱シート130sbは、第1実施形態の断熱シート130sと比較すると、中間部131sbとドーム形成部133sbがドーム形成部132sbよりも巻き取り方向(図14では上下方向)に長くなっている点及び、ドーム形成片132spbの数が、ドーム形成片133spbの数の半分である点が異なっている。この構成により、断熱シート130sbをタンク100に巻き付けたとき、円筒形状部131b、ドーム形状部133bは、断熱シート130sbが2層になるが、ドーム形状部132bでは、断熱シート130sbは、1層である。したがって、ドーム形状部132bの断熱性能を、ドーム形状部133bの断熱性能よりも低くできる。
【0040】
図15は、ドーム形状部132cの断熱性能を、ドーム形状部133cの断熱性能よりも低くする構成の他の例を示す説明図である。断熱シート130scは、第1実施形態の断熱シート130sと比較すると、タンク100の軸方向に長くなっており、折り曲げられている。そのため、ドーム形成部132sc、ドーム形成片132spcは、1層であるが、中間部131scと、ドーム形成部133sc、ドーム形成片133spcは、2層になっている。そのため、断熱シート130scをCFRP層120に巻き付けると、ドーム形状部132cの断熱性能を、ドーム形状部133cの断熱性能よりも低くできる。
【0041】
以上、第2実施形態によれば、口金140がある側のドーム形状部132b、132cの断熱性能を、口金140がない他方のドーム形状部133b、133cの断熱性能よりも低くしているので、タンク100b、100cが加熱されたときに、口金140を介して溶栓弁142に熱を伝えて溶栓弁142を開弁させることができる。その結果、タンク100b、100cの内部の圧力を低下させることができる。
【0042】
第2実施形態では、ドーム形状部132b、132cにおける断熱シート130sb、130scの層数を、他の部分における層数よりも少なくしたが、断熱シート130sb、130scのドーム形状部132b、132c側の厚さを他の部分における厚さよりも薄くしても良い。
【0043】
・第3実施形態:
図16は、第3実施形態のタンク100dを示す説明図である。第1実施形態、第2実施形態では、断熱層130、130b、130cは、タンク100、100b、100cを円周方向に沿って取り囲んでいるが、第2実施形態のタンク100dでは、鉛直上方(+z方向)において、断熱層130dが設けられていない。一般に、火炎が生じたとき、火炎は、タンク100dの下方から炙る。そのため、断熱層130dは、タンク100dの下方を保護するように設ければよい。なお、車両におけるタンク100の配置位置によっては、火炎が下方以外から炙る場合が想定されるが、この場合には、火炎が炙る方向と反対側に断熱層130dが設けられていない領域を形成すれば良い。
【0044】
上記各実施形態において、断熱シート130sは、舟形多円錐形状を残す切り欠き138、139を備えているが、他の形状であっても良い。また、単なる切り込みを備える構成であってもよい。また、ドーム形成時にドーム形成片132spは重なってもよく、また、隣接するドーム形成片132spの間に隙間があってもよい。ドーム形成片133spについても同様である。
【0045】
上記各実施形態では、ライナ110の外側に、別途製造したCFRP層120を配置しているが、CFRP層120をフィラメントワインディング方により形成しても良い。また、先にCFRP層120を形成し、その後、CFRP層120の内側に樹脂を注入してライナ110を形成しても良い。
【0046】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
100…タンク、100b…タンク、100c…タンク、100d…タンク、110…ライナ、111…円筒部、111e…端部、112…ドーム部、112e…端部、113…ドーム部、113e…端部、120…繊維強化樹脂層(CFRP層)、120i…補強層内層、120o…補強層外層、121i…円筒形補強層内層、122i…ドーム形補強層内層、123i…ドーム形補強層内層、124…繊維束、125…繊維束、130…断熱層、130d…断熱層、130s…断熱シート、130sb…断熱シート、130sc…断熱シート、131…円筒形状部、131b…円筒形状部、131s…中間部、131sc…中間部、132…ドーム形状部、132b…ドーム形状部、132c…ドーム形状部、132s…ドーム形成部、132sb…ドーム形成部、132sc…ドーム形成部、132sp…ドーム形成片、132spb…ドーム形成片、132spc…ドーム形成片、133…ドーム形状部、133b…ドーム形状部、133c…ドーム形状部、133s…ドーム形成部、133sc…ドーム形成部、133sp…ドーム形成片、133spb…ドーム形成片、133spc…ドーム形成片、134…切り込み、135…切り込み、138…切り欠き、139…切り欠き、140…口金、141…主止弁、142…溶栓弁、150…タンクプロテクタ、151…接着剤、152…接着剤、200…マンドレル、211…円筒部、212…ドーム部、213…ドーム部、210…シャフト、220…マンドレル、400…巻出部、410…保持部材
図1
図2
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