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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】補強層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20230912BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F17C1/06
B29C70/32
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020131375
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028157
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片野 剛司
【審査官】田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048912(JP,A)
【文献】特開2018-091773(JP,A)
【文献】実開昭48-080908(JP,U)
【文献】特開2012-202479(JP,A)
【文献】特開2017-094491(JP,A)
【文献】特開2014-133304(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017209808(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
B29C 70/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タンクを構成する補強層の製造方法であって、
繊維強化樹脂製の軸方向に延びる筒状のパイプ部であって、前記軸方向における一端を含む第1端部と、前記軸方向における他端を含む第2端部と、を有するパイプ部を形成する第1形成工程であって、前記第1端部に、前記一端から前記軸方向へ予め定めた第1距離離れた位置で外方に突出する第1段差部を形成する、第1形成工程と、
繊維強化樹脂製の半球面形状の第1ドーム部であって、第1頂部と、第1開口部を形成する、内径が前記一端の外径よりも大きい第1底端部と、を有する第1ドーム部を形成する第2形成工程と、
繊維強化樹脂製の半球面形状の第2ドーム部であって、第2頂部と、第2開口部を形成する、内径が前記他端の外径よりも大きい第2底端部と、を有する第2ドーム部を形成する第3形成工程と、
前記第1底端部と前記第1段差部とが当接するまで前記第1ドーム部と前記パイプ部との少なくともいずれか一方を前記軸方向に移動させて、前記一端を前記第1ドーム部の内側に配置する第1配置工程と、
前記第2ドーム部と前記パイプ部との少なくともいずれか一方を前記軸方向に移動させて、前記他端を前記第2ドーム部の内側に配置する第2配置工程と、
前記第1配置工程の後に、前記パイプ部と前記第1ドーム部とを接合する第1接合工程と、
前記第2配置工程の後に、前記パイプ部と前記第2ドーム部とを接合する第2接合工程と、を備え、
前記第1形成工程は、繊維をフープ巻きでマンドレルに巻き付ける巻付工程を有し、
前記第1段差部は、前記第1端部において、前記一端側の巻き数よりも前記他端側の巻き数を多くすることで形成される、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記第1形成工程は、
前記第2端部に、前記他端から前記軸方向へ予め定めた第2距離離れた位置で外方に突出する第2段差部を形成する工程を有し、
前記第2配置工程は、
前記第2底端部と前記第2段差部とが当接するまで前記第2ドーム部と前記パイプ部との少なくともいずれか一方を前記軸方向に移動させる工程を有する、製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法であって、さらに、
前記第1接合工程および前記第2接合工程の後に、前記第1ドーム部と前記第2ドーム部とに繊維を掛け渡すことによりヘリカル層を形成する第4形成工程を有する、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、補強層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ライナにフィラメントワインディング法で繊維束を巻き付けて繊維強化樹脂層(以下、補強層ともいう。)を形成して高圧タンクを製造する方法がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-044937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の発明者らは、従来の方法に代わり、別個に形成されたパイプ部とドーム部とを接合した接合体の外表面に、ヘリカル層を形成して補強層を形成する方法を新たに考案した。この新たな製造方法においては、別個に形成されたパイプ部とドーム部とを接合するため、補強層の全長バラツキが大きくなる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、高圧タンクを構成する補強層の製造方法が提供される。この製造方法は、繊維強化樹脂製の軸方向に延びる筒状のパイプ部であって、前記軸方向における一端を含む第1端部と、前記軸方向における他端を含む第2端部と、を有するパイプ部を形成する第1形成工程であって、前記第1端部に、前記一端から前記軸方向へ予め定めた第1距離離れた位置で外方に突出する第1段差部を形成する、第1形成工程と、繊維強化樹脂製の半球面形状の第1ドーム部であって、第1頂部と、第1開口部を形成する、内径が前記一端の外径よりも大きい第1底端部と、を有する第1ドーム部を形成する第2形成工程と、繊維強化樹脂製の半球面形状の第2ドーム部であって、第2頂部と、第2開口部を形成する、内径が前記他端の外径よりも大きい第2底端部と、を有する第2ドーム部を形成する第3形成工程と、前記第1底端部と前記第1段差部とが当接するまで前記第1ドーム部と前記パイプ部との少なくともいずれか一方を前記軸方向に移動させて、前記一端を前記第1ドーム部の内側に配置する第1配置工程と、前記第2ドーム部と前記パイプ部との少なくともいずれか一方を前記軸方向に移動させて、前記他端を前記第2ドーム部の内側に配置する第2配置工程と、前記第1配置工程の後に、前記パイプ部と前記第1ドーム部とを接合する第1接合工程と、前記第2配置工程の後に、前記パイプ部と前記第2ドーム部とを接合する第2接合工程と、を備え、前記第1形成工程は、繊維をフープ巻きでマンドレルに巻き付ける巻付工程を有し、前記第1段差部は、前記第1端部において、前記一端側の巻き数よりも前記他端側の巻き数を多くすることで形成される。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、高圧タンクを構成する補強層の製造方法が提供される。この補強層の製造方法は、繊維強化樹脂製の軸方向に延びる筒状のパイプ部であって、前記軸方向における一端を含む第1端部と、前記軸方向における他端を含む第2端部と、を有するパイプ部を形成する第1形成工程であって、前記第1端部に、前記一端から前記軸方向へ予め定めた第1距離離れた位置で外方に突出する第1段差部を形成する、第1形成工程と、繊維強化樹脂製の半球面形状の第1ドーム部であって、第1頂部と、第1開口部を形成する、内径が前記一端の外径よりも大きい第1底端部とを有する第1ドーム部を形成する第2形成工程と、繊維強化樹脂製の半球面形状の第2ドーム部であって、第2頂部と、第2開口部を形成する、内径が前記他端の外径よりも大きい第2底端部とを有する第2ドーム部を形成する第3形成工程と、前記第1底端部と前記第1段差部とが当接するまで前記第1ドーム部と前記パイプ部との少なくともいずれか一方を前記軸方向に移動させて、前記一端を前記第1ドーム部の内側に配置する第1配置工程と、前記第2ドーム部と前記パイプ部との少なくともいずれか一方を前記軸方向に移動させて、前記他端を前記第2ドーム部の内側に配置する第2配置工程と、前記第1配置工程の後に、前記パイプ部と前記第1ドーム部とを接合する第1接合工程と、前記第2配置工程の後に、前記パイプ部と前記第2ドーム部とを接合する第2接合工程と、を備える。この形態によれば、予め形成された第1段差部を用いて、パイプ部に対する第1ドーム部の位置決めを行うことができるため、補強層の軸方向の長さの精度を向上することができる。
(2)上記形態の製造方法において、さらに、前記第1形成工程は、繊維をフープ巻きでマンドレルに巻き付ける巻付工程を有し、前記第1段差部は、前記第1端部において、前記一端側の巻き数よりも前記他端側の巻き数を多くすることで形成されてもよい。この形態によれば、フープ巻きの巻き数を増加させることにより、第1段差部を形成することができる。
(3)上記形態の製造方法において、さらに、前記第1形成工程は、前記第2端部に、前記他端から前記軸方向へ予め定めた第2距離離れた位置で外方に突出する第2段差部を形成する工程を有し、前記第2配置工程は、前記第2底端部と前記第2段差部とが当接するまで前記第2ドーム部と前記パイプ部との少なくともいずれか一方を前記軸方向に移動させる工程を有してもよい。この形態によれば、予め形成された第2段差部を用いて、パイプ部に対する第2ドーム部の位置決めを行うことができるため、補強層の軸方向の長さの精度を向上することができる。
(4)上記形態の製造方法において、さらに、前記第1接合工程および前記第2接合工程の後に、前記第1ドーム部と前記第2ドーム部とに繊維を掛け渡すことによりヘリカル層を形成する第4形成工程を有してもよい。この形態によれば、ヘリカル層により、補強層の強度を向上することができる。また、第1段差部により、ヘリカル層と、パイプ部の外表面との間の隙間は低減されるため、ヘリカル層が形成されない空洞の発生を低減することができ、補強層の強度低下を抑制することができる。
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、上記形態の他に、高圧タンクの補強層、補強層を備える高圧タンク等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】高圧タンクの概略構成を示す断面図である。
図2】高圧タンクの製造工程を説明する図である。
図3】パイプ部の層構造を示す模式図である。
図4】パイプ部に第1ドーム部が配置される工程を説明する図である。
図5】ヘリカル層が形成される工程を説明する図である。
図6】第2実施形態に係るパイプ部に第2ドーム部に配置される工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、高圧タンク100の概略構成を示す断面図である。高圧タンク100は、例えば、燃料電池車両に搭載され、燃料電池に供給される燃料ガスを貯留するために用いられる。以下の説明において、高圧タンク100の中心軸AX方向を軸方向と称する。
【0009】
高圧タンク100は、口金10と、ライナ20と、補強層30とを備える。口金10、ライナ20、および補強層30の中心軸は、高圧タンク100の中心軸AXと同じである。高圧タンク100は、円筒部100aと、第1タンク端部100bと、第2タンク端部100cとを有する。円筒部100aは、略円筒状の形状を有する。第1タンク端部100bおよび第2タンク端部100cは、円筒部100aの両端部の各々に設けられており、軸方向端部に向かって縮径された形状を有する。第1タンク端部100bは開口されており、開口には口金10が取付けられている。
【0010】
ライナ20は、ガスバリア性を有する、例えばポリアミドなどの樹脂で形成された中空容器である。ライナ20の材料は、ポリアミドに限られず、他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレン、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリエスエル等でもよく、エポキシ等の熱硬化性樹脂でもよい。口金10は、例えばアルミニウムなどの金属製である。口金10は、ライナ20の内部空間を外部と連通させるために、略円筒の形状を有する。例えば、燃料電池車両に搭載される場合には、口金10に、図示しないバルブが取り付けられる。
【0011】
補強層30は、ライナ20の外周に形成されている。補強層30は、接合体40と、ヘリカル層50とを有する。接合体40およびヘリカル層50は、例えば、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)などの繊維強化樹脂製である。
【0012】
接合体40は、パイプ部41と、第1ドーム部42と、第2ドーム部43とを有する。パイプ部41は、軸方向に延びる略円筒状の形状を有し、円筒部100aに配置されている。パイプ部41は、軸方向における一端41aを含む第1端部41bと、軸方向における他端41cを含む第2端部41dとを有する。第1端部41bは、一端41aから軸方向へ離れた位置に外方へ突出する突出部41eを有する。突出部41eを有することにより、第1端部41bには、一端41aから軸方向へ予め定めた第1距離離れた位置で外方に突出する第1段差部41fが形成されている。同様に、第2端部41dは、他端41cから軸方向へ離れた位置に外方へ突出する突出部41gを有する。突出部41gを有することにより、他端41cから軸方向へ予め定めた第2距離離れた位置で外方に突出する第2段差部41hが形成されている。本実施形態では、第1距離と第2距離とは同じであるが、異なっていてもよい。
【0013】
第1ドーム部42および第2ドーム部43は、軸方向端部に向かって縮径された半球面形状を有し、それぞれ、第1タンク端部100bおよび第2タンク端部100cに配置されている。第1ドーム部42および第2ドーム部43は、高圧タンク100の軸方向における中央に向かって開口している。第1ドーム部42は、第1頂部42aと、第1開口部42bを形成する第1底端部42cとを有する。第1底端部42cは、半球面形状の第1ドーム部42の底部を形成する。第1頂部42aと第1開口部42bとは軸方向に互いに対向する。第1底端部42cの内径は、一端41aの外径よりも大きい。第2ドーム部43は、第2頂部43aと、第2開口部43bを形成する第2底端部43cとを有する。第2底端部43cは、半球面形状の第2ドーム部43の底部を形成する。第2頂部43aと第2開口部43bとは軸方向に互いに対向する。第2底端部43cの内径は、他端41cの外径よりも大きい。パイプ部41と、第1ドーム部42および第2ドーム部43とは、それぞれ別個に形成された後に、接合される。第1ドーム部42の内側にパイプ部41の一端41aが配置されており、第2ドーム部43の内側にパイプ部41の他端41cが配置されている。第1ドーム部42の内側に配置されるパイプ部41の第1端部41bは、第1ドーム部42の曲面に合わせ、一端41aに向かうほど薄肉とされている。同様に、第2ドーム部43の内側に配置されるパイプ部41の第2端部41dは、第2ドーム部43の曲面に合わせ、他端41cに向かうほど薄肉とされている。以下に記載において、第1ドーム部42と、第2ドーム部43とを総称して、ドーム部44と記載する場合がある。ヘリカル層50は、接合体40を覆って形成されている。
【0014】
図2図5参照して、高圧タンク100の製造方法について説明する。図2は、高圧タンク100の製造工程を説明する図である。図3は、第1形成工程P10が有する巻付工程により形成される、パイプ部41の層構造を示す模式図である。図4は、パイプ部41に第1ドーム部42が配置される工程を説明する図である。図5は、ヘリカル層50が形成される工程を説明する図である。図2に示す第1形成工程P10において、パイプ部41が形成される。第1形成工程P10は、フィラメントワインディング法(以下、FW法という。)を用いて、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維300を円筒状の形状を有するマンドレル201(図3)に巻き付ける巻付工程を有する。以下の説明において、「熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維300」を単に「繊維300」と呼ぶ場合がある。なお、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂に限らず、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などでもよい。また、パイプ部41の繊維材料は、炭素繊維に限らず、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などでもよい。
【0015】
図3に示すように、マンドレル201が、図示しない給糸口から送出される繊維300を巻き取りつつ、中心軸回りに回転することにより、マンドレル201に繊維300が巻回される。給糸口が、一端方向または他端方向へ移動することにより、マンドレル201における、繊維300が巻回される位置が調整される。繊維300は、マンドレル201の中心軸に対する角度がほぼ90度となるフープ巻きで巻回される。第1段差部41fは、第1端部41bにおいて、一端41a側の巻き数よりも他端41c側の巻き数を多くすることで形成される。同様に、第2段差部41hは、第2端部41dにおいて、他端41c側の巻き数よりも一端41a側の巻き数を多くすることで形成される。
【0016】
繊維300は、例えば、パイプ部41の一端41aから巻き始められ、他端41cまで、他端方向へ向かって巻回される。これにより、1層目が形成される。他端41cまで巻き終えると、給糸口の移動方向が折り返され、2層目は、一端方向へ向かって巻回される。2層目以降においても、1層目と同様に、給糸口の軸方向への移動と、移動方向の折り返しが繰り返されることにより、複数層の繊維層が形成される。ここで、上層の折り返し位置が、下層の折り返し位置よりも軸方向における中央側にずらされることにより、パイプ部41の厚さが、軸方向端部へ向かうほど薄くされたテーパー形状とされる。n+1層目以降の層は、突出部41eおよび突出部41gを形成するための層である。n+1層目は、第1段差部41fの形成位置で折り返され、突出部41eの幅だけ巻回される。その後、繊維300は、繊維300のマンドレル201の中心軸に対する角度である配向角度が小さくされた状態で、突出部41gの第2段差部41hでない方の端部まで巻回される。その後、突出部41gの幅だけ、他端方向へ向かって第2段差部41hの位置までフープ巻きで巻回され、折り返され、突出部41gの幅だけ巻回されて、巻付工程は終了する。
【0017】
本実施形態では、突出部41eは2層の繊維300で形成されるため、第1段差部41fの高さhは、繊維300の厚さの2倍程度となる。1層の厚さは、例えば、0.2mm以上0.5mm以下程度であり、高さhは、例えば、0.4mm以上1mm以下程度である。後述するように、第1段差部41fの高さhは、第1ドーム部42が、パイプ部41に配置された状態での、第1ドーム部42の内周面と、第1端部41bの外周面との距離などに応じて調整される。突出部41eを構成する繊維300の層数は、第1段差部41fの高さhに応じて調整される。第2段差部41hについても同様である。
【0018】
巻付工程が終わると、繊維300に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させる。一般に、熱硬化性樹脂の粘度は、加熱されると、一時的に下がり、その後、次第に高くなり、最大粘度に達すると、加熱し続けてもほぼ変化しなくなる。発明者らは、最大粘度に達してからも、加熱し続けることにより、例えば、ヤング率などの熱硬化性樹脂の物性が安定することを見出している。ここで、熱硬化性樹脂の物性が安定するまで熱硬化性樹脂を加熱することにより、熱硬化性樹脂を硬化させることを「本硬化」と称し、「本硬化」よりも短い時間で加熱することにより熱硬化性樹脂を硬化させることを「予備硬化」と称する。硬化させる工程は、予備硬化でもよく、本硬化でもよい。硬化後、パイプ部41はマンドレル201から外される。これにより、パイプ部41が形成される。
【0019】
第2形成工程および第3形成工程としての工程P20(図2)において、FW法により、パイプ部41の形成に用いられた繊維300と同様の繊維が用いられ、第1ドーム部42および第2ドーム部43が形成される。第1ドーム部42および第2ドーム部43の形成に用いられる繊維および含浸される樹脂の材料は、パイプ部41の形成に用いられる材料と同じでもよく、異なっていてもよい。形成において、まず、概ね第1ドーム部42と第2ドーム部43とを軸方向に合体させた形状を有するマンドレルに口金10を取り付け、軸方向に回転するマンドレルに繊維を巻き付けて、概ね第1ドーム部42および第2ドーム部43を軸方向に合体させた形状の成形体を形成する。次に、成形体を加熱して、繊維に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させる。この硬化工程は、予備硬化でもよく、本硬化でもよい。次に、成形体を周方向に切断し、第1ドーム部42と第2ドーム部43と形成する。マンドレルの軸方向に対する繊維の配向角度は、例えば40度である。切断前に硬化させる工程を挿入することにより、成形体を容易に切断することができる。
【0020】
第1配置工程P30において、パイプ部41に、第1ドーム部42が配置される。具体的には、図4に示すように、第1ドーム部42は、第1ドーム部42の第1底端部42cとパイプ部41の第1段差部41fとが当接するまで、パイプ部41に対して軸方向に移動される。これにより、パイプ部41の一端41aは、第1開口部42bを介して、第1ドーム部42の内側に配置される。なお、固定されたパイプ部41に対して第1ドーム部42が移動される工程に限られず、固定された第1ドーム部42に対してパイプ部41が移動されてもよく、第1ドーム部42およびパイプ部41のいずれもが互いに近づくように移動されてもよい。接合体40は、別個に形成されたパイプ部41と、第1ドーム部42と、第2ドーム部43とを組み合させて形成される。このため、パイプ部41に対する第1ドーム部42の位置精度、およびパイプ部41に対する第2ドーム部43の位置精度が悪いと、高圧タンク100の軸方向の長さである全長の精度が悪くなってしまう。本実施形態では、パイプ部41の第1端部41bには、一端41aから予め定めた第1距離離れた位置に第1段差部41fが形成されている。ここで、予め定めた第1距離とは、完成品である高圧タンク100の全長が目標長さとなるように予め設定された距離である。よって、第1底端部42cとパイプ部41の第1段差部41fとが当接して、パイプ部41に対して第1ドーム部42が配置されることにより、パイプ部41に対する第1ドーム部42の位置精度を向上させることができる。これにより、高圧タンク100の全長の精度を向上させることができる。なお、第1段差部41fは、パイプ部41の周方向に切れ目なく連続して形成されている。このため、パイプ部41に第1ドーム部42を配置する際に、第1段差部41fの全域と第1底端部42cの全域とを当接させることにより、互いの中心軸がほぼ同一直線上に位置するように配置することができ、周方向において均一に配置することができる。
【0021】
第1段差部41fの高さhは、第1ドーム部42をパイプ部41に対して移動させた場合に、第1ドーム部42の第1底端部42cが突出部41eに引っ掛かる程度の高さであることが好ましい。本実施形態では、第1ドーム部42がパイプ部41に配置された状態での、第1ドーム部42の内周面と、第1端部41bの外周面との距離は、最大0.4mm程度であり、第1段差部41fの高さhは、1mm程度とされている。
【0022】
さらに、第1段差部41fの高さhを、後述する第4形成工程P60において、第1ドーム部42の軸方向における中央側への移動を制限できる程度の高さとしてもよい。第4形成工程P60では、第1ドーム部42および第2ドーム部43に掛け渡される繊維300が引き締められるのに伴い、第1ドーム部42および第2ドーム部43の各々には、互いに近づく方向に外力が加えられる。このため、第1ドーム部42は、第1開口部42bが外方へ広がるように変形する。そこで、第1開口部42bが外方へ広がるように変形した場合にも、第1段差部41fの高さhがドーム部44の軸方向における中央側への移動を制限できる程度に高ければ、高圧タンク100が軸方向に縮んでしまうのを抑制することができる。第1開口部42bが外方へ広がるように変形する場合の変形量は、ドーム部44の剛性、繊維300の張力などに依存する。そこで、第1段差部41fの高さhを、第4形成工程P60における、第1ドーム部42の軸方向における中央側への移動を制限できる程度の高さにする場合には、第1ドーム部42の変形量と、ドーム部44の厚さなどに応じて、高さhを決定するとよい。
【0023】
第2配置工程P40(図2)において、パイプ部41に、第2ドーム部43が配置される。具体的には、第1配置工程P30と同様に、第2ドーム部43の第2底端部43cとパイプ部41の第2段差部41hとが当接するまで、第2ドーム部43はパイプ部41に対して軸方向に移動される。これにより、パイプ部41の他端41cは、第2開口部43bを介して、第2ドーム部43の内側に配置される。なお、固定されたパイプ部41に対して第2ドーム部43が移動される工程に限られず、固定された第2ドーム部43に対してパイプ部41が移動されてもよく、第2ドーム部43およびパイプ部41のいずれもが互いに近づくように移動されてもよい。パイプ部41の第2端部41dには、他端41cから、完成品である高圧タンク100の全長が目標長さとなるように予め定めた第2距離離れた位置に第2段差部41hが形成されている。よって、第2ドーム部43の第2底端部43cとパイプ部41の第2段差部41hとが当接するまで移動されることにより、パイプ部41に対する第2ドーム部43の位置精度を向上させることができる。これにより、高圧タンク100の全長の精度を向上させることができる。なお、第2段差部41hは、パイプ部41の周方向に切れ目なく連続して形成されている。このため、パイプ部41に第2ドーム部43を配置する際に、第2段差部41hの全域と第2底端部43cの全域とを当接させることにより、互いの中心軸がほぼ同一直線上に位置するように配置することができ、周方向において均一に配置することができる。
【0024】
第1接合工程および第2接合工程としての工程P50において、パイプ部41と第1ドーム部42とが接合され、パイプ部41と第2ドーム部43とが接合される。具体的には、パイプ部41の外周面と、第1ドーム部42および第2ドーム部43の各々の内周面との間に、例えば、エポキシ樹脂などの接着剤が塗布され、接着される。これにより、接合体40が形成される。なお、接着剤として、第1ドーム部42および第2ドーム部43に用いられている樹脂が用いられるとよいが、異なる材料を有する接着剤でもよい。
【0025】
なお、パイプ部41と第1ドーム部42および第2ドーム部43の各々とが接合される工程は、工程P50に限られない。例えば、第1配置工程P30の後に、パイプ部41と第1ドーム部42とを接合する工程を設け、第2配置工程P40の後に、パイプ部41と第2ドーム部43とを接合する工程を設けてもよい。
【0026】
第4形成工程P60において、パイプ部41の形成に用いられた繊維300と同様の繊維が用いられ、接合体40の外周面にヘリカル層50が形成される。ヘリカル層50の形成に用いられる繊維および含浸される樹脂の材料は、パイプ部41の形成に用いられる材料と同じでもよく、異なっていてもよい。図5の左図に示されるように、接合体40は、例えば軸方向が鉛直方向となるように設置される。接合体40の上方端部付近に、複数の巻出部205が、周方向に等間隔で接合体40の周囲を取り囲んで配置される。巻出部205は、繊維300を下方へ向かって送り出す。繊維300の端部には、保持部材206が取り付けられている。複数の巻出部205により、保持部材206が接合体40よりも下方に位置するまで繊維300が送り出される。次に、図5の右図に示されるように、複数の巻出部205と、複数の保持部材206とは中心軸AX回りに、それぞれ回転される。ここで、複数の巻出部205の回転方向と、複数の保持部材206の回転方向とは、互いに逆向きとされる。例えば、上方から視て、複数の巻出部205が時計回りに回転される場合には、複数の保持部材206は反時計回りに回転される。これにより、繊維300は、ねじられる。回転が進むほど、繊維300は、接合体40の外周に近づき、接合体40の外周沿って隙間なく配置される。中心軸AXに対する繊維300の角度である配向角度は、0度より大きく、45度以下の範囲であり、例えば、20度以下である。繊維300は、樹脂の粘着力により動きが拘束される。その後、接合体40を覆っていない繊維300の余分な部分が切断され、ヘリカル層50の1層目が形成される。
【0027】
1層目の上に2層目が、同様の方法にて形成される。ただし、複数の巻出部205の2層目における回転方向は、1層目における回転方向とは逆向きとされる。同様に、複数の保持部材206の2層目における回転方向は、1層目における回転方向とは逆向きとされる。これにより、2層目の繊維300は、1層目の繊維300の配向方向と交差する方向に配向される。なお、ヘリカル層50の層の数は、2層に限られず、4層以上の偶数の層でもよい。ヘリカル層50の形成が終了すると、ヘリカル層50が形成された接合体40は本硬化され、補強層30が完成する。ヘリカル層50が形成されることにより、高圧タンク100に高圧ガスが充填された場合における、第1ドーム部42と、第2ドーム部43とが、互いに離れる方向に加えられる内圧に対する補強層30の強度を向上させることができる。
【0028】
第4形成工程P60において、繊維300は、小さい配向角度で、第1ドーム部42および第2ドーム部43に掛け渡される。このため、図1に示すように、ヘリカル層50は、概ね接合体40の外表面に沿って形成される。しかし、ドーム部44は、パイプ部41の外側に重ねられて配置されるため、接合体40の外表面がドーム部44からパイプ部41へ切り替わる境界部分で段差が生じ、ヘリカル層50とパイプ部41の外表面との間に隙間ができる。ここで、突出部41eおよび突出部41gは、それぞれ、第1底端部42cおよび第2底端部43cに当接するように設けられている。このため、ヘリカル層50とパイプ部41の外表面との間の隙間は、突出部41eおよび突出部41gによって少なくなっている。このように、突出部41eおよび突出部41gが設けられていることにより、ヘリカル層50が形成されない空洞の発生を低減することができ、補強層30の強度低下を抑制することができる。
【0029】
工程P70(図2)において、補強層30の内面にライナ20が形成される。詳しくは、口金10の開口から、ライナ20を形成するための樹脂材料が補強層30の内部に注入され、補強層30が回転される。回転されることにより、樹脂材料は、補強層30の内面を覆うように付着し、樹脂材料が固化されることにより、ライナ20が形成され、高圧タンク100は完成する。ライナ20が熱可塑性樹脂製の場合には、冷却により固化され、ライナ20が熱硬化性樹脂製の場合には、加熱により固化される。樹脂材料は、例えば、加熱により低粘度にされた樹脂である。また、樹脂材料を、反応により樹脂を生成する2種類以上の樹脂材料としてもよい。この場合には、反応射出成形(Reaction Injection Molding)の様に、次の方法により形成してもよい。例えば、ライナ20がポリアミド製の場合、まず、反応によりポリアミドを生成する2種類以上の低分子量であり低粘度である液体の樹脂材料を、混合させつつ、補強層30の内部に注入する。混合された樹脂材料は、回転されている補強層30の内面に付着し、反応して高分子のポリアミドを形成する。その後、補強層30の内部空間が冷却されることにより、ポリアミドは固化される。
【0030】
以上説明した製造工程にて製造される高圧タンク100は、ライナに繊維をFW法にて巻回することにより補強層が形成された高圧タンクと比較して、ライナ20を薄くすることができる。ライナ20に繊維300を巻回する工程がないため、ライナの強度を低く抑えることができるからである。また、上記のライナに繊維を巻回して製造される高圧タンクよりも、補強層に使用される繊維強化樹脂の使用量を削減することができる。ライナに繊維を巻回する製造方法では、主に、パイプ部の強度はフープ巻きで巻回された繊維層により確保され、ドーム部の強度はドーム部に掛け渡されるヘリカル巻きで巻回された繊維層により確保される。ここで、ヘリカル巻きで形成される繊維層は、パイプ部41にも形成されてしまうため、パイプ部の強度の確保に必要な繊維強化樹脂の使用量よりも、多くの繊維強化樹脂が使用されてしまう。対して、本実施形態では、ドーム部44と、パイプ部41とは、別個に形成されるため、パイプ部の形成において、目標強度を確保するために必要な使用量よりも多くの繊維強化樹脂を使用する必要は生じない。よって、本実施形態に係る製造方法によれば、ライナに繊維を巻回して製造される高圧タンクよりも、補強層に使用される繊維強化樹脂の使用量を削減することができる。
【0031】
以上説明した第1実施形態によれば、第1形成工程P10において、パイプ部41は、一端41aから軸方向へ予め定めた第1距離離れた位置で外方に突出する第1段差部41fを有して形成される。また、第1配置工程P30において、第1ドーム部42は、第1ドーム部42の第1底端部42cとパイプ部41の第1段差部41fとが当接するまで、パイプ部41に対して軸方向に移動される。その後、工程P50において、パイプ部41と第1ドーム部42とが接合される。予め形成された第1段差部41fを用いて、パイプ部41に対する第1ドーム部42の位置決めを行うことができるため、補強層30の全長の精度を向上することができる。
【0032】
また、第1形成工程P10の巻付工程において、パイプ部41は、繊維300をマンドレル201にフープ巻きで巻き付けることにより形成され、第1段差部41fは、第1端部41bにおいて、一端41a側の巻き数よりも他端41c側の巻き数を多くすることで形成される。これにより、フープ巻きの巻き数を増加させることにより、第1段差部41fを形成することができる。
【0033】
また、第1形成工程P10において、パイプ部41は、他端41cから軸方向へ予め定めた第2距離離れた位置で外方に突出する第2段差部41hを有して形成される。また、第2配置工程P40において、第2ドーム部43は、第2ドーム部43の第2底端部43cとパイプ部41の第2段差部41hとが当接するまで、パイプ部41に対して軸方向に移動される。その後、工程P50において、パイプ部41と第2ドーム部43とが接合される。予め形成された第2段差部41hを用いて、パイプ部41に対する第2ドーム部43の位置決めを行うことができるため、補強層30の全長の精度を向上することができる。
【0034】
また、第4形成工程P60において、接合体40の外周面にヘリカル層50が形成される。ヘリカル層50を形成することにより、補強層30の強度を向上することができる。ここで、第1段差部41fが設けられていることにより、ヘリカル層50と、パイプ部41の外表面との間の隙間は低減されるため、ヘリカル層50が形成されない空洞の発生を低減することができ、補強層30の強度低下を抑制することができる。
【0035】
B.第2実施形態:
第2実施形態に係る高圧タンクについて、図6を用いて説明する。第2実施形態に係る高圧タンクが備えるパイプ部141は、他端方向側に段差部が形成されていない点が、第1実施形態に係るパイプ部41とは異なる。パイプ部141は、軸方向における一端141aを含む第1端部141bと、軸方向における他端141cを含む第2端部141dとを有する。第1端部141bは、突出部141eを有し、一端141aから軸方向へ予め定めた第1距離離れた位置で外方に突出する第1段差部141fが形成されている。パイプ部141以外の構成部分は、第1実施形態と同様であるため、同様の構成部分については、第1実施形態と同じ符号を用いて説明する。
【0036】
第2実施形態に係る高圧タンクは、工程の内容は異なるが、第1実施形態と同様の順序で製造されるため、図2を用いて製造方法について説明する。第1形成工程P10において、パイプ部141が形成される。詳しくは、第1実施形態にて説明した巻付工程において、第1実施形態における突出部41gを形成するための巻き付けが省かれることにより、突出部141eが形成されたパイプ部141が形成される。工程P20において、第1実施形態と同様に、第1ドーム部42および第2ドーム部43が形成される。第1配置工程P30において、第1実施形態と同様に、パイプ部141に第1ドーム部42が配置される。第2配置工程P40において、パイプ部141に第2ドーム部43が配置される。本実施形態では、図6に示すように、口金10の端部から第2ドーム部43の端部までの長さである全長が、予め定められた長さとなるように、例えば治具などを用いて、パイプ部141に対する第2ドーム部43の位置決めがなされる。これにより、既に接合されている口金10、第1ドーム部42、およびパイプ部141における、口金10の端部からパイプ部141の端部までの軸方向の長さが目標長さに対して差がある場合にも、第2ドーム部43のパイプ部141に対する位置を調整することにより、高圧タンクの全長を目標全長に合わせることができる。
【0037】
工程P50、第4形成工程P60、および工程P70については、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。なお、第1実施形態と同様に、突出部141eが設けられていることにより、ヘリカル層50が形成されない空洞の発生を低減することができ、補強層30の強度低下を抑制することができる。対して、パイプ部141の他端141c側には、突出部は形成されないため、ヘリカル層50が形成されない空洞により、補強層30の強度は、突出部が形成される場合よりも低下してしまう場合がある。本実施形態では、空洞の発生を低減することができる突出部141eは、口金10を取り付けるための開口により、第2ドーム部43よりも強度の劣る第1ドーム部42が配置される一端141a側に形成されている。これにより、補強層30の強度が、第2ドーム部43の配置側に対して第1ドーム部42の配置側が過度に劣る状態を回避することができる。
【0038】
以上、説明した第2実施形態によれば、第2配置工程P40において、口金10の端部から第2ドーム部43の端部までの長さである全長が、予め定められた長さとなるように、パイプ部141に対する第2ドーム部43の位置決めがなされるため、高圧タンクの全長の精度を向上させることができる。
【0039】
C.他の実施形態:
(C1)上記第1実施形態では、突出部41eおよび突出部41gが形成されることにより、第1段差部41fおよび第2段差部41hが形成される。これに対して、第1段差部41fから第2段差部41hへ至るまでのパイプ部41の厚さをほぼ均一とし、かつ、第1段差部41fより一端41a側の厚さおよび第2段差部41hより他端41c側の厚さよりも厚くすることにより、第1段差部41fおよび第2段差部41hが形成されてもよい。このように形成された第1段差部41fおよび第2段差部41hにおいても、第1段差部41fおよび第2段差部41hを用いて、パイプ部41に対する第1ドーム部42および第2ドーム部43各々の位置決めを行うことができるため、補強層30の全長の精度を向上することができる。また、接合体40の外表面がドーム部44からパイプ部41へ切り替わる境界部分での段差が生じにくくなるため、ヘリカル層50が形成されない空洞の発生を低減することができ、補強層30の強度低下を抑制することができる。
【0040】
(C2)上記実施形態では、第1形成工程P10において、FW法を用いてパイプ部41が形成される。これに対して、パイプ部41は、CW(Centrifugal Winding)法を用いて形成された円筒状の成形体に、別個に形成された突出部41eおよび突出部41gのそれぞれに相当する2つの円環状の成形体を取り付けて、両者を接合ことにより形成されてもよい。CW法は、円筒状の型の内側に繊維シートを配置し、型の回転により生じる遠心力により、繊維シートを型の内側に張り付け、繊維シートを円筒状の形状に成形する方法である。繊維シートは、例えば、単一方向に揃えられた複数の繊維束が拘束糸で編み込まれたシートなどを用いることができる。また、成形する前に予め樹脂が含浸された繊維シートを用いてもよく、樹脂が含浸された繊維シートを円筒状に成形した後に、樹脂を含浸させてもよい。突出部41eおよび突出部41gのそれぞれに相当する2つの円環状の成形体は、例えばFW法を用いて形成することができる。
【0041】
(C3)上記第1実施形態では、第1形成工程P10において、繊維300の巻回が終了後、マンドレル201から外される前に樹脂が硬化される。パイプ部41を構成する樹脂が硬化される工程は、この時期に限られない。例えば、(a)マンドレル201から外された後であって、ドーム部44と接合される前でもよく、(b)ドーム部44と接合された後であって、接着剤が塗布される前でもよく、(c)接合体が形成された後であって、ヘリカル層50を形成する前でもよく、(d)ヘリカル層50が形成された後であって、ライナ20が形成される前でもよい。
【0042】
(C4)上記第1実施形態では、工程P20において、第1ドーム部42は、予め口金10が取り付けられたマンドレルに繊維を巻回することにより形成される。これに対して、口金10が取り付けられていないマンドレルに繊維を巻回して成形体を形成し、その後、口金10を取り付けて第1ドーム部42を形成してもよい。
【0043】
(C5)上記第1実施形態では、工程P20において、繊維300の巻回が終了後、切断前に樹脂が硬化される。ドーム部44を構成する樹脂が硬化される工程は、この時期に限られない。例えば、(a)切断後であって、マンドレルから外される前でもよく、(b)マンドレルから外された後、パイプ部41と接合される前でもよく、(c)パイプ部41と接合された後であって、接着剤が塗布される前でもよく、(d)接合体が形成された後であって、ヘリカル層50を形成する前でもよく、(e)ヘリカル層50が形成された後であって、ライナ20が形成される前でもよい。
【0044】
(C6)上記第1実施形態では、第4形成工程P60において、ヘリカル層50は、軸方向に配列された繊維300が捩じられることにより形成される。これに対して、ヘリカル層50は、FW法を用いて形成されてもよい。
【0045】
(C7)上記第1実施形態では、工程P70において、ライナ20の樹脂材料が補強層30の内部に注入され、補強層30の内面を覆って固化されることにより、ライナ20が形成される。ライナ20の形成方法はこれに限られない。例えば、パイプ部41、第1ドーム部42、および第2ドーム部43とは別個にライナ20を形成し、パイプ部41、第1ドーム部42、および第2ドーム部43とライナ20とを組み合わせてもよい。具体的には、パイプ部41にライナ20を挿入し、その後、第1ドーム部42および第2ドーム部43をパイプ部41に取り付ければよい。この方法において、ライナ20は、ブロー成型あるいは、射出成形により形成することができる。
【0046】
(C8)上記第1実施形態および第2実施形態に係る高圧タンク100は、軸方向の一端にのみ口金10が取り付けられている。これに対して、高圧タンクは、軸方向の両端に口金が取り付けられている形態でもよい。この形態では、両端に取り付けられる2つの口金は、互いに異なる形状でもよく、例えば、一方の口金は、高圧タンクの内部空間と外部とを連通しない形状でもよい。また、軸方向の両端に口金が取り付けられている高圧タンクにおいては、第2ドーム部43に取り付けられた口金のパイプ部141に対する相対位置が固定された状態で、第2実施形態に係る第4形成工程P60が実施されるとよい。上記のように、第4形成工程P60においては、ヘリカル層50を構成する繊維300により、第1ドーム部42と第2ドーム部43とは互いに近づく方向に外力が加えられる。パイプ部141の他端141c側には、段差部が形成されていないため、特に、第2ドーム部43は、外力により、移動し易い。そこで、第2ドーム部43に取り付けられた口金を固定することにより、パイプ部141に対する第2ドーム部43の位置ずれを抑制することができる。
【0047】
(C9)上記第2実施形態では、第1段差部141fが形成されている一端141a側に、口金10が取り付けられる第1ドーム部42が配置される。これに限られず、第1段差部141fが形成されている一端141a側に、口金10が取り付けられていない第2ドーム部43が配置され、他端141c側に口金10が取り付けられている第1ドーム部42が配置される形態としてもよい。この場合、口金10が取り付けられない第2ドーム部43は、課題を解決するための手段に記載の「第1ドーム部」に相当し、口金10が取り付けられている第1ドーム部42は、課題を解決するための手段に記載の「第2ドーム部」に相当する。
【0048】
(C10)上記第1実施形態では、第1形成工程P10の後に、工程P20が行われる。また、第1配置工程P30の後に、第2配置工程P40が行われる。工程の順序はこれに限られず、工程P20の後に、第1形成工程P10が行われてもよく、工程P20と、第1形成工程P10とが、同時期に行われてもよい。また、第2配置工程P40の後に、第1配置工程P30が行われてもよく、第1配置工程P30と、第2配置工程P40とが、同時期に行われてもよい。
【0049】
(C11)上記第1実施形態では、第1形成工程P10にて、パイプ部41は、FW法を用いて、フープ巻きで形成される。巻き方は、フープ巻きに限られず、配向角度の小さいヘリカル巻きでもよく、フープ巻きとヘリカル巻きとが併用されてもよい。
【0050】
(C12)上記第1実施形態では、工程P20において、ドーム部44は、FW法を用いて形成される。これに対して、ドーム部44がテーププレースメント法を用いて形成されてもよい。
【0051】
(C13)上記第1実施形態では、第1形成工程P10において、繊維300は、一端41aから巻き始められる。巻き始めの位置は、一端41aに限られず、例えば、パイプ部41の軸方向における中央でもよい。
【0052】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
10…口金、20…ライナ、30…補強層、40…接合体、41,141…パイプ部、41a,141a…一端、41b,141b…第1端部、41c,141c…他端、41d,141d…第2端部、41e,41g,141e…突出部、41f,141f…第1段差部、41h…第2段差部、42…第1ドーム部、42a…第1頂部、42b…第1開口部、42c…第1底端部、43…第2ドーム部、43a…第2頂部、43b…第2開口部、43c…第2底端部、44…ドーム部、50…ヘリカル層、100…高圧タンク、100a…円筒部、100b…第1タンク端部、100c…第2タンク端部、201…マンドレル、205…巻出部、206…保持部材、300…炭素繊維、AX…中心軸、P10…第1形成工程、P20,P50,P70…工程、P30…第1配置工程、P40…第2配置工程、P60…第4形成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6