(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】摩擦係合要素の熱負荷推定装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20230912BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20230912BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20230912BHJP
F16H 61/684 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H61/02
F16H59/68
F16H61/684
(21)【出願番号】P 2020133951
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤井 広太
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】今村 健
(72)【発明者】
【氏名】樗澤 英明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓太
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/115424(WO,A1)
【文献】特開2002-168333(JP,A)
【文献】特開2018-155297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12
F16H 61/16-61/24
F16H 61/66-61/70
F16H 63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧にて動作する摩擦係合要素を有した変速機を備える車両に適用されて、前記変速機の変速時における前記摩擦係合要素の温度及び発熱量及び焼き付きの有無の少なくとも1つを熱負荷としたときに当該熱負荷を推定する装置であって、
実行装置と、記憶装置とを備えており、
前記記憶装置には、写像を規定する写像データが記憶されており、
前記写像は、入力変数として、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素において互いに相対回転する部材の相対回転速度を示す変数である速度変数と、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素に供給される油圧を示す変数である油圧変数とを含んで且つ、出力変数として前記熱負荷を含み、
前記実行装置は、
前記入力変数の値を取得して前記写像に入力することにより前記出力変数の値を算出する算出処理と、
前記変速機の変速中における前記算出処理の実行態様を変更する変更処理と、を実行
し、
前記変速機にてトルク相が開始されてから変速が完了するまでの間の期間が予め定めた複数の期間に区分けされており、
前記記憶装置には、前記期間に応じた各別の前記写像を規定する複数の写像データが記憶されており、
前記実行装置は、前記変更処理として、前記算出処理の実行に際して前記期間に応じた前記写像データを選択する処理を実行する
摩擦係合要素の熱負荷推定装置。
【請求項2】
前記変速機においてトルク相が開始されてから前記摩擦係合要素のパッククリアランスが詰まるまでの期間を第1期間とし、
前記摩擦係合要素の前記パッククリアランスが詰まってから前記変速機においてイナーシャ相が開始されるまでの期間を第2期間とし、
前記イナーシャ相が開始されてから前記変速機の入力軸の回転速度の微分値が規定値以下になるまでの期間を第3期間とし、
前記入力軸の回転速度の微分値が前記規定値以下になってから前記入力軸の回転速度が変速完了後の同期回転速度になるまでの期間を第4期間としたときに、
複数の前記期間は、前記第1期間及び前記第2期間及び前記第3期間及び前記第4期間のうちの少なくとも1つを含む
請求項1に記載の摩擦係合要素の熱負荷推定装置。
【請求項3】
油圧にて動作する摩擦係合要素を有した変速機を備える車両に適用されて、前記変速機の変速時における前記摩擦係合要素の温度及び発熱量及び焼き付きの有無の少なくとも1つを熱負荷としたときに当該熱負荷を推定する装置であって、
実行装置と、記憶装置とを備えており、
前記記憶装置には、写像を規定する写像データが記憶されており、
前記写像は、入力変数として、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素において互いに相対回転する部材の相対回転速度を示す変数である速度変数と、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素に供給される油圧を示す変数である油圧変数とを含んで且つ、出力変数として前記熱負荷を含み、
前記実行装置は、
前記入力変数の値を取得して前記写像に入力することにより前記出力変数の値を算出する算出処理と、
前記変速機の変速中における前記算出処理の実行態様を変更する変更処理と、を実行
し、
前記実行装置は、前記変更処理として、前記摩擦係合要素への油圧供給が開始されてから前記変速機においてトルク相が始まるまでは前記写像への前記入力変数の入力を禁止するとともに前記トルク相が開始されてから前記写像への前記入力変数の入力を行う処理を実行する
摩擦係合要素の熱負荷推定装置。
【請求項4】
油圧にて動作する摩擦係合要素を有した変速機を備える車両に適用されて、前記変速機の変速時における前記摩擦係合要素の温度及び発熱量及び焼き付きの有無の少なくとも1つを熱負荷としたときに当該熱負荷を推定する装置であって、
実行装置と、記憶装置とを備えており、
前記記憶装置には、写像を規定する写像データが記憶されており、
前記写像は、入力変数として、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素において互いに相対回転する部材の相対回転速度を示す変数である速度変数と、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素に供給される油圧を示す変数である油圧変数とを含んで且つ、出力変数として前記熱負荷を含み、
前記実行装置は、
前記入力変数の値を取得して前記写像に入力することにより前記出力変数の値を算出する算出処理と、
前記変速機の変速中における前記算出処理の実行態様を変更する変更処理と、を実行
し、
前記摩擦係合要素に供給される油圧は、前記車両の原動機の出力トルクが大きいときほど高い圧力となるように変更されるとともに、
前記入力変数には、前記出力トルクを示す変数であるトルク変数が含まれる
摩擦係合要素の熱負荷推定装置。
【請求項5】
油圧にて動作する摩擦係合要素を有した変速機を備える車両に適用されて、前記変速機の変速時における前記摩擦係合要素の温度及び発熱量及び焼き付きの有無の少なくとも1つを熱負荷としたときに当該熱負荷を推定する装置であって、
実行装置と、記憶装置とを備えており、
前記記憶装置には、写像を規定する写像データが記憶されており、
前記写像は、入力変数として、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素において互いに相対回転する部材の相対回転速度を示す変数である速度変数と、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素に供給される油圧を示す変数である油圧変数とを含んで且つ、出力変数として前記熱負荷を含み、
前記実行装置は、
前記入力変数の値を取得して前記写像に入力することにより前記出力変数の値を算出する算出処理と、
前記変速機の変速中における前記算出処理の実行態様を変更する変更処理と、を実行
し、
前記変速機は前記摩擦係合要素を複数有しており、
前記入力変数には、変速に際して係合される前記摩擦係合要素を示す変速変数が含まれる
摩擦係合要素の熱負荷推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係合要素の熱負荷推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、摩擦係合要素において互いに相対回転する部材の相対回転速度と、摩擦係合要素の入力トルクと、機関回転速度とに基づいて当該摩擦係合要素の温度を推定する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、摩擦係合要素においては、その温度や発熱量あるいは焼き付きの有無といった熱負荷を精度よく推定することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する摩擦係合要素の熱負荷推定装置は、油圧にて動作する摩擦係合要素を有した変速機を備える車両に適用されて、前記変速機の変速時における前記摩擦係合要素の温度及び発熱量及び焼き付きの有無の少なくとも1つを熱負荷としたときに当該熱負荷を推定する装置である。この装置は、実行装置と、記憶装置とを備えている。前記記憶装置には、写像を規定する写像データが記憶されている。前記写像は、入力変数として、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素において互いに相対回転する部材の相対回転速度を示す変数である速度変数と、前記変速機の変速中に前記摩擦係合要素に供給される油圧を示す変数である油圧変数とを含んで且つ、出力変数として前記熱負荷を含んでいる。前記実行装置は、前記入力変数の値を取得して前記写像に入力することにより前記出力変数の値を算出する算出処理と、前記変速機の変速中における前記算出処理の実行態様を変更する変更処理と、を実行する。
【0006】
摩擦係合要素において互いに相対回転する部材の相対回転速度が高いほど、摩擦係合要素の発熱量は多くなる。また、変速中において摩擦係合要素に供給される油圧が高いほど、摩擦係合要素の発熱量は多くなる。そこで、同構成では、変速中に摩擦係合要素で生じる熱量と関与する上記相対回転速度を示す速度変数や、上記油圧を示す油圧変数を入力変数として、それらの入力変数を、写像データによって規定される写像に入力することにより上記熱負荷を算出するようにしている。ここで、変速中には、摩擦係合要素の状態が解放状態から係合状態へと変化していくため、変速中において摩擦係合要素の発熱状態は種々変化する。そこで、同構成では、熱負荷を算出する算出処理の実行態様を変速中に変更するようにしている。そのため、摩擦係合要素の熱負荷を精度よく推定することができる。
【0007】
また、上記熱負荷推定装置において、前記変速機にてトルク相が開始されてから変速が完了するまでの間の期間が予め定めた複数の期間に区分けされており、前記記憶装置には、前記期間に応じた各別の前記写像を規定する複数の写像データが記憶されている。そして、前記実行装置は、前記変更処理として、前記算出処理の実行に際して前記期間に応じた前記写像データを選択する処理を実行してもよい。
【0008】
同構成によれば、上記写像データを、予め定めた上記期間に特化したものとすることができるため、摩擦係合要素の熱負荷を精度よく推定することができる。
また、上記熱負荷推定装置において、前記変速機にてトルク相が開始されてから前記摩擦係合要素のパッククリアランスが詰まるまでの期間を第1期間とする。また、前記摩擦係合要素の前記パッククリアランスが詰まってから前記変速機においてイナーシャ相が開始されるまでの期間を第2期間とする。また、前記イナーシャ相が開始されてから前記変速機の入力軸の回転速度の微分値が規定値以下になるまでの期間を第3期間とする。また、前記入力軸の回転速度の微分値が前記規定値以下になってから前記入力軸の回転速度が変速完了後の同期回転速度になるまでの期間を第4期間とする。そして、複数の前記期間は、前記第1期間及び前記第2期間及び前記第3期間及び前記第4期間のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0009】
変速中における摩擦係合要素の発熱状態は、上記第1期間、上記第2期間、上記第3期間、及び上記第4期間のそれぞれで異なることを本発明者は確認している。そこで、上述した複数の期間として、それら第1期間~第4期間のうちの少なくとも1つを含むことにより、当該期間における熱負荷を精度よく推定することができる。
【0010】
また、上記熱負荷推定装置において、前記実行装置は、前記変更処理として、前記摩擦係合要素への油圧供給が開始されてから前記変速機においてトルク相が始まるまでは前記写像への前記入力変数の入力を禁止するとともに前記トルク相が開始されてから前記写像への前記入力変数の入力を行う処理を実行してもよい。
【0011】
変速が開始されると摩擦係合要素への油圧供給が開始されるのであるが、その後、変速機においてトルク相が始まるまでの間は、摩擦係合要素において互いに相対回転する部材の間で摺動が起きないため、摩擦係合要素の発熱が起きにくい。そこで、同構成では、摩擦係合要素において発熱が起きにくい期間、つまりトルク相が開始されるまでは写像への入力変数の入力を禁止する一方、摩擦係合要素において発熱が起きるトルク相以降では写像への入力変数の入力を行うようにしている。従って、熱負荷の算出に際して、摩擦係合要素の発熱が起きにくい期間は除外されるようになるため、これにより摩擦係合要素の熱負荷を精度よく推定することができる。
【0012】
また、上記熱負荷推定装置において、前記入力変数には、前記摩擦係合要素に供給される作動油の温度を示す変数である油温変数が含まれてもよい。
作動油の温度が変化すると摩擦係合要素の雰囲気温度が変化するため、摩擦係合要素の発熱量は変化する。この点、同構成では、入力変数に上記油温変数が含まれるため、作動油の温度が上記発熱量に与える影響を考慮して熱負荷が算出される。従って、入力変数に上記油温変数を含まない場合と比較して、熱負荷をより高精度に算出することができる。
【0013】
また、上記熱負荷推定装置において、前記摩擦係合要素に供給される油圧は、前記車両の原動機の出力トルクが大きいときほど高い圧力となるように変更されるとともに、前記入力変数には、前記出力トルクを示す変数であるトルク変数が含まれてもよい。
【0014】
同構成によれば、原動機の出力トルクが大きいとき、例えば急加速が要求されているような状況では油圧が高められるため、摩擦係合要素が解放状態から係合状態に変わるまでの時間は短くなり、これにより変速に要する時間が短縮されて素早い変速が可能になる。ここで、そうした出力トルクに応じた油圧の可変設定を行う場合には、出力トルクの大きさが摩擦係合要素の発熱量に関与する。この点、同構成では、入力変数に上記トルク変数が含まれるため、出力トルクが上記発熱量に与える影響を考慮して熱負荷が算出される。従って、入力変数に上記トルク変数を含まない場合と比較して、熱負荷をより高精度に算出することができる。
【0015】
また、上記熱負荷推定装置において、前記変速機は前記摩擦係合要素を複数有しており、前記入力変数には、変速に際して係合される摩擦係合要素を示す変速変数が含まれてもよい。
【0016】
同構成によれば、入力変数に上記変速変数が含まれることから、変速の際に係合動作した摩擦係合要素の熱負荷を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態にかかる摩擦係合要素の熱負荷推定装置の構成を示す図。
【
図2】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理を示すブロック図。
【
図3】(A)は同実施形態の変速時における変速比指令値の変化、(B)は変速時の入力軸回転速度の変化、(C)は変速時のアウトプットトルクの変化、(D)は変速時の油圧指令値の変化、(E)は変速時の単位発熱量の変化、(F)は変速時の総発熱量の変化をそれぞれ示すタイムチャート。
【
図4】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【
図5】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、摩擦係合要素の熱負荷推定装置にかかる実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。
図1に示すように、車両VCが備える内燃機関10のクランク軸12には、動力分割装置20が機械的に連結されている。動力分割装置20は、内燃機関10、第1モータジェネレータ22、および第2モータジェネレータ24の動力を分割する。動力分割装置20は、遊星歯車機構を備えており、遊星歯車機構のキャリアCにはクランク軸12が機械的に連結されており、サンギアSには第1モータジェネレータ22の回転軸22aが機械的に連結されており、リングギアRには第2モータジェネレータ24の回転軸24aと自動変速機26の入力軸27inとが機械的に連結されている。なお、第1モータジェネレータ22の端子には、第1インバータ23の出力電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ24の端子には、第2インバータ25の出力電圧が印加される。
【0019】
自動変速機26は、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2といった油圧で動作する複数の摩擦係合要素と、複数の遊星ギヤ機構と、ワンウェイクラッチF1とを備える多段式の変速機である。自動変速機26では、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、及び第2ブレーキB2における係合状態及び解放状態の組み合わせと、ワンウェイクラッチF1による回転規制状態及び回転許容状態の組み合わせとによって変速段が切り替えられる。なお、本実施形態の自動変速機26は、前進4段後進1段の変速機となっているが、そうした変速段数は適宜変更可能である。
【0020】
上記摩擦係合要素の基本構造はほぼ同一であり、周知の構造である。すなわち、摩擦係合要素には、互いに相対回転する第1プレート及び第2プレートが交互に配置されており、一方のプレートには摩擦材が貼り付けられている。そして、摩擦係合要素に油圧が供給されていない場合には、第1プレート及び第2プレートが離れており、それら第1プレート及び第2プレートの間でのトルク伝達が遮断される。
【0021】
一方、摩擦係合要素に油圧が供給されると、第1プレートと第2プレートとの間のクリアランスであるパッククリアランスPCtcが詰まり、摩擦係合要素は係合開始直前状態の状態、すなわちパック詰めされた状態になる。このパック詰めが完了した後、さらに油圧が供給されると、第1プレート及び第2プレートは係合を開始することにより、第1プレート及び第2プレートの相対回転速度は徐々に小さくなっていき、摩擦係合要素のトルク容量が増大していく。そして最終的には、第1プレートと第2プレートとの間の相対回転速度が「0」になることで摩擦係合要素は完全に係合した状態になる。
【0022】
自動変速機26の出力軸27outには、駆動輪30が機械的に連結されている。
また、キャリアCには、オイルポンプ32の従動軸32aが機械的に連結されている。オイルポンプ32は、オイルパン34内のオイルを潤滑油として動力分割装置20に循環させたり、同オイルを作動油として自動変速機26に供給したりするポンプである。なお、オイルポンプ32から吐出された作動油は、自動変速機26内の油圧制御回路28によってその圧力が調整されて、例えば上記摩擦係合要素に油圧を供給するための作動油などとして利用される。油圧制御回路28は、複数のソレノイドバルブ28aを備えており、それら各ソレノイドバルブ28aの通電によって、作動油の流動状態や作動油の油圧を制御する回路である。
【0023】
制御装置40は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量であるトルクや排気成分比率等を制御すべく、内燃機関10の各種操作部を操作する。また、制御装置40は、第1モータジェネレータ22を制御対象とし、その制御量であるトルクや回転速度等を制御すべく、第1インバータ23を操作する。また、制御装置40は、第2モータジェネレータ24を制御対象とし、その制御量であるトルクや回転速度等を制御すべく、第2インバータ25を操作する。
【0024】
制御装置40は、上記制御量を制御する際、クランク角センサ50の出力信号Scrや、第1モータジェネレータ22の回転軸22aの回転角を検知する第1回転角センサ52の出力信号Sm1、第2モータジェネレータ24の回転軸24aの回転角を検知する第2回転角センサ54の出力信号Sm2を参照する。また、制御装置40は、油温センサ56によって検出される上記作動油の温度である油温Toilや、車速センサ58によって検出される車速SPD、アクセルセンサ62によって検出されるアクセルペダル60の踏み込み量であるアクセル操作量ACCPを参照する。
【0025】
制御装置40は、CPU42、ROM44、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置46、および周辺回路48を備えており、それらがローカルネットワーク49を介して通信可能とされている。ここで、周辺回路48は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。制御装置40は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42が実行することにより制御量を制御する。CPU42およびROM44は実行装置を構成している。
【0026】
図2に、制御装置40が実行する処理を示す。
図2に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。
【0027】
駆動トルク設定処理M6は、アクセル操作量ACCPを入力とし、アクセル操作量ACCPが大きい場合に小さい場合よりも、駆動輪30に付与すべきトルクの指令値である駆動トルク指令値Trq*を大きい値に算出する処理である。
【0028】
駆動力分配処理M8は、駆動トルク指令値Trq*に基づき、内燃機関10に対するトルク指令値Trqe*、第1モータジェネレータ22に対するトルク指令値Trqm1*、および第2モータジェネレータ24に対するトルク指令値Trqm2*を設定する処理である。これらトルク指令値Trqe*,Trqm1*,Trqm2*に相当するトルクが、内燃機関10、第1モータジェネレータ22および第2モータジェネレータ24によってそれぞれ生成されることにより、駆動輪30に付与されるトルクは、駆動トルク指令値Trq*に相当する値になる。
【0029】
変速比指令値設定処理M10は、駆動トルク指令値Trq*および車速SPDに基づき、自動変速機26の変速比の指令値である変速比指令値Vsft*と、変速比の切り替えがアップシフトであるかダウンシフトであるかを示す切替変数ΔVsftとを設定する。したがって、例えば変速比指令値Vsft*が3速を示して且つ切替変数ΔVsftがアップシフトである場合、変速の種類は3速から4速への切り替えであることを示す。この変速比指令値Vsft*及び切替変数ΔVsftは、変速に際して係合される摩擦係合要素を示す変速変数となる。
【0030】
油圧指令値設定処理M12は、変速比の切り替え時において、駆動トルク指令値Trq*と、油温Toilと、変速比指令値Vsft*および切替変数ΔVsftとに基づき、切替に用いられるソレノイドバルブによって調整される油圧の指令値のベース値である油圧指令値P0*を算出する。この油圧指令値設定処理M12は、駆動トルク指令値Trq*と、変速比指令値Vsft*と、切替変数ΔVsftと、油温Toilとを入力変数とし、油圧指令値P0*を出力変数とするマップデータがROM44に予め記憶された状態でCPU42により油圧指令値P0*をマップ演算することにより実現される。なお、駆動トルク指令値Trq*が大きいとき、例えば急加速が要求されているような状況では、油圧を高めることで摩擦係合要素が解放状態から係合状態に変わるまでの時間は短くなり、これにより変速に要する時間が短縮されて素早い変速が可能になる。そこで、駆動トルク指令値Trq*が大きい場合には、同駆動トルク指令値Trq*が小さい場合と比べて、算出される油圧指令値P0*の値は高い圧力にされる。更に、油圧指令値設定処理M12は、油圧指令値P0*を各種の値で補正することにより最終的な油圧指令値P*を算出する。
【0031】
電流変換処理M18は、油圧指令値P*を、ソレノイドバルブ28aに流れる電流の指令値である電流指令値I*に変換する処理である。
制御装置40は、変速比指令値Vsft*の値が変化する場合、変速比指令値Vsft*及び切替変数ΔVsftに応じて係合を開始する摩擦係合要素に対応するソレノイドバルブ28aの電流指令値I*を変化させることにより、摩擦係合要素を解放状態から係合状態に切り替える。
【0032】
図3に、変速時の各種値の変化を示す。なお、
図3(A)は変速比指令値Vsft*の変化、
図3(B)は入力軸回転速度Niの変化、
図3(C)はアウトプットトルクTrqoutの変化、
図3(D)は油圧指令値P*の変化、
図3(E)は単位時間当たりの発熱量である単位発熱量ΔQの変化、
図3(F)は単位発熱量ΔQを積算した値である総発熱量Qsの変化をそれぞれ示す。
【0033】
この
図3に示すように、時刻t1において変速比指令値Vsft*の値が変化すると、時刻t2において、今回の変速で係合させる摩擦係合要素に供給する油圧の指示値である油圧指令値P*が出力される。
【0034】
この油圧指令値P*として、まず初めにクイックアプライ制御を実施するためのアプライ圧Paが設定されることにより、同油圧指令値P*は一旦増大されて摩擦係合要素に油圧供給が開始される(時刻t2)。このクイックアプライ制御は周知の制御であり、解放状態の摩擦係合要素を係合状態に移行させる際、摩擦係合要素に作動油を速やかに供給するために油圧を一次的に増大させるためのものである。そして、油圧指令値P*を規定時間だけアプライ圧Paに設定した後、油圧指令値P*は規定の待機圧Pwにまで低下される(時刻t3)。この待機圧Pwは、上述したパック詰めを行うために必要な油圧である。
【0035】
そして、時刻t2において油圧供給を開始してから規定の時間が経過しており、パック詰めが完了したと判断できる程度の時間が経過すると(時刻t5)、油圧指令値P*を待機圧Pwから徐々に増大させるスイープ制御が行われる。このスイープ制御の実行中に、イナーシャ相が始まることにより入力軸回転速度Niは、変速後の同期回転速度に向かって変化し始める(時刻t6)。
【0036】
そして、時刻t8において、入力軸回転速度Niが変速後の同期回転速度になると、油圧指令値P*は、摩擦係合要素の滑りを抑えるために必要な圧力である係合圧Pkにまで急激に増大されて変速が完了する。
【0037】
なお、時刻t2において油圧供給を開始してから、時刻t5においてパック詰めが完了するまでの間の時期である時刻t4においてトルク相が開始されることにより、自動変速機26の出力軸27outに伝えられるアウトプットトルクTrqoutは低下し始める。そして、時刻t6においてイナーシャ相が開始されると、アウトプットトルクTrqoutは増加し始める。
【0038】
ところで、変速中には摩擦係合要素の状態が解放状態から係合状態へと変化していくため、変速中の摩擦係合要素の発熱状態は種々変化する。
より具体的には、
図3に示すように、摩擦係合要素への油圧供給が開始されてから自動変速機26においてトルク相が始まるまでの期間(時刻t2~時刻t4の期間)を初期期間Z0とする。この初期期間Z0では、変速が開始されて摩擦係合要素への油圧供給が開始されるのであるが、自動変速機26においてトルク相が始まるまでの間は、摩擦係合要素において互いに相対回転する第1プレート及び第2プレートの間で摺動が起きないため、摩擦係合要素の発熱が起きにくい期間となっている。
【0039】
ちなみに、時刻t2において油圧供給を開始してから時刻t4においてトルク相が開始されるまでの時間は、摩擦係合要素のパッククリアランスPCtcなどに相関する。そこで、自動変速機26の出荷時にパッククリアランスPCtcを計測しておき、その計測値を記憶装置46に記憶しておく。また、パッククリアランスPCtcは摩擦係合要素の係合回数の増加に応じて大きくなっていくため、そうした経時変化を考慮してパッククリアランスPCtcの値を更新していく。こうして更新されるパッククリアランスPCtcの値などに基づき、油圧指令値P*を出力してからトルク相が開始されるまでの時間TZ0を算出する。そして、油圧指令値P*を出力してからの経過時間が時間TZ0内であれば、現在、初期期間Z0であると判定できる。
【0040】
また、自動変速機26においてトルク相が開始されてから摩擦係合要素のパッククリアランスが詰まるまでの期間(時刻t4~時刻t5の期間)を第1期間Z1とする。ちなみに、時刻t2において油圧供給を開始してから時刻t5においてパッククリアランスが詰まるまでの時間、つまりパック詰めが完了するまでの時間も上記パッククリアランスPCtcなどに相関する。そこで、更新される上記パッククリアランスPCtcの値などに基づき、油圧指令値P*を出力してからパッククリアランスが詰まるまでの時間TZ1を算出する。そして、油圧指令値P*を出力してからの経過時間が上記時間TZ0から上記時間TZ1までの間の時間であれば、現在、第1期間Z1であると判定できる。
【0041】
また、摩擦係合要素のパッククリアランスが詰まってから自動変速機26においてイナーシャ相が開始されるまでの期間(時刻t5~時刻t6の期間)を第2期間Z2とする。ちなみに、イナーシャ相が始まると、入力軸回転速度Ninが大きく変化する。そこで、油圧指令値P*を出力してからの経過時間が上記時間TZ1を超えており、かつ入力軸回転速度Ninが大きく変化するまでは、現在、第2期間Z2であると判定できる。なお、本実施形態では、入力軸27inの回転速度は第2モータジェネレータ24の回転速度と同じになるように構成されている。そのため、CPU42は、出力信号Sm2に基づいて入力軸回転速度Ninを算出する。
【0042】
また、イナーシャ相が開始されてから自動変速機26の入力軸回転速度Ninの微分値が規定値α以下になるまでの期間(時刻t6~時刻t7の期間)、つまりイナーシャ相が開始されてから自動変速機26の入力軸回転速度Ninの変化が安定するまでの期間を第3期間Z3とする。ちなみに、上記第2期間Z2の通過後であり、且つ入力軸回転速度Ninの微分値が上記規定値α以上になるまでは、現在、第3期間Z3であると判定できる。
【0043】
また、入力軸回転速度Ninの微分値が上記規定値α以下になってから入力軸回転速度Ninが変速完了後の同期回転速度になるまでの期間(時刻t7~時刻t8の期間)を第4期間Z4とする。ちなみに、入力軸回転速度Ninの微分値が上記規定値α以上であると判定されてから入力軸回転速度Ninが変速完了後の同期回転速度になるまでは、現在、第4期間Z4であると判定できる。
【0044】
そして、本発明者は、各期間Z1、Z2、Z3、及びZ4毎に摩擦係合要素の発熱状態が異なることを確認している。
そこで、本実施形態の制御装置40は、変速時における摩擦係合要素の温度及び発熱量及び焼き付きの有無といった熱負荷を推定するようにしているが、当該熱負荷を算出する算出処理の実行態様を変速中に変更する。以下、そうした処理について説明する。なお、以下の処理を実行する制御装置40は、摩擦係合要素の熱負荷推定装置を構成している。
【0045】
図4に、本実施形態にかかる制御装置40が実行する処理の手順を示す。
図4に示す処理は、ROM44に記憶されたプログラムをCPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0046】
図4に示す一連の処理において、CPU42は、まず、変速中であるか否かを判定する(S10)。そして、変速中ではないと判定する場合、CPU42は本処理を一旦終了する。
【0047】
一方、変速中であると判定する場合、CPU42は、現在、上記初期期間Z0であるか否かを判定する(S20)。そして、初期期間Z0であると判定する場合(S20:YES)、CPU42は本処理を一旦終了する。
【0048】
一方、初期期間Z0ではないと判定する場合(S20:NO)、CPU42は、各種の値を取得する取得処理を実行する(S30)。具体的には、相対回転速度Nr、油圧指令値P*、油温Toil、アクセル操作量ACCP、変速比指令値Vsft*、及び切替変数ΔVsftを取得する。
【0049】
相対回転速度Nrは、自動変速機26の変速中に摩擦係合要素において互いに相対回転する第1プレート及び第2プレートの相対回転速度であり、入力軸回転速度Ninと「出力軸回転速度Nout×変速後のギヤ比」との差である。なお、CPU42は、車速SPDに基づいて出力軸回転速度Noutを算出する。また、「変速後のギヤ比」として変速比指令値Vsft*を代入する。
【0050】
次に、CPU42は、記憶装置46に記憶された4種類の写像データDMのうちの1つを選択する選択処理を実行する(S40)。
図5に、上記選択処理の手順を示す。
【0051】
この選択処理を開始すると、CPU42は、現在、上記第1期間Z1であるか否かを判定する(S41)。そして、第1期間Z1であると判定する場合(S41:YES)、CPU42は、第1写像データを選択して(S44)、本処理を一旦終了する。第1写像データは、第1期間Z1における摩擦係合要素の発熱量及び焼き付きの有無を推定するための写像データであり、第1期間Z1におけるデータを訓練データとして学習された学習済みモデルである。
【0052】
S41の処理にて、第1期間Z1ではないと判定する場合(S41:NO)、CPU42は、現在、上記第2期間Z2であるか否かを判定する(S42)。そして、第2期間Z2であると判定する場合(S42:YES)、CPU42は、第2写像データを選択して(S45)、本処理を一旦終了する。第2写像データは、第2期間Z2における摩擦係合要素の発熱量及び焼き付きの有無を推定するための写像データであり、第2期間Z2におけるデータを訓練データとして学習された学習済みモデルである。
【0053】
S42の処理にて、第2期間Z2ではないと判定する場合(S42:NO)、CPU42は、現在、上記第3期間Z3であるか否かを判定する(S43)。そして、第3期間Z3であると判定する場合(S43:YES)、CPU42は、第3写像データを選択して(S46)、本処理を一旦終了する。第3写像データは、第3期間Z3における摩擦係合要素の発熱量及び焼き付きの有無を推定するための写像データであり、第3期間Z3におけるデータを訓練データとして学習された学習済みモデルである。
【0054】
S42の処理にて、第3期間Z3ではないと判定する場合(S43:NO)、CPU42は、第4写像データを選択して(S47)、本処理を一旦終了する。第4写像データは、上記第4期間Z4における摩擦係合要素の発熱量及び焼き付きの有無を推定するための写像データであり、第4期間Z4におけるデータを訓練データとして学習された学習済みモデルである。
【0055】
こうして写像データDMを選択すると、次に、CPU42は、選択した写像データDMによって規定される写像への入力変数に、S30の処理にて取得した各値を代入する(S50)。
【0056】
すなわち、CPU42は、入力変数x(1)に相対回転速度Nrを代入し、入力変数x(2)に油圧指令値P*を代入し、入力変数x(3)に油温Toilを代入し、入力変数x(4)にアクセル操作量ACCPを代入し、入力変数x(5)に変速比指令値Vsft*を代入し、x(6)に切替変数ΔVsftを代入する。
【0057】
本実施形態において、入力変数x(1)は、上記相対回転速度Nrを示す速度変数である。入力変数x(2)は、自動変速機26の変速中に摩擦係合要素に供給される油圧を示す油圧変数である。入力変数x(3)は、摩擦係合要素に供給される作動油の温度を示す油温変数である。入力変数x(4)は、車載原動機の出力トルクを示すトルク変数である。なお、アクセル操作量ACCPは車載原動機の出力トルクに関与する値であるため、本実施形態では、アクセル操作量ACCPをトルク変数として採用しているが、このトルク変数として上記駆動トルク指令値Trq*を採用してもよい。入力変数x(5)及び入力変数x(6)は、変速に際して係合される摩擦係合要素を示す変速変数である。
【0058】
次に、CPU42は、上記写像に入力変数x(1)、x(2)、x(3)、x(4)、x(5)、x(6)を代入することによって、出力変数y(i)の値を算出する算出処理を実行する(S50)。
【0059】
本実施形態では、写像として関数近似器を例示し、詳しくは、中間層が1層の全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示する。具体的には、S50の処理により値が代入された入力変数x(1)~x(6)とバイアスパラメータであるx(0)とが、係数wFjk(j=1~m,k=0~6)によって規定される線形写像にて変換された「m」個の値のそれぞれが活性化関数fに代入されることによって、中間層のノードの値が定まる。また、係数wSij(i=1、2)によって規定される線形写像によって中間層のノードの値のそれぞれが変換された値が活性化関数gに代入されることによって、出力変数y(1)及びy(2)の値が定まる。なお、本実施形態では、活性化関数fとして、ハイパボリックタンジェントを例示する。また、活性化関数gのうち、出力変数y(1)に対応する部分についてはReLU関数を例示し、出力変数y(2)に対応する部分についてはソフトマックス関数を例示する。
【0060】
出力変数y(1)及び出力変数y(2)は、摩擦係合要素の熱負荷を示す変数であり、出力変数y(1)は、上記単位発熱量ΔQを示す。また、出力変数y(2)は、摩擦係合要素の焼き付きの有無を判定するための判定値を示す。
【0061】
次に、CPU42は、現在算出されている総発熱量Qsに対して出力変数y(1)に示される単位発熱量ΔQを加算することにより、総発熱量Qsを更新する(S70)。
次に、CPU42は、S70にて更新された総発熱量Qsに対して、今回の算出対象となっている摩擦係合要素の熱容量Cを乗算することにより摩擦係合要素の上昇温度を算出するとともに、この算出した上昇温度を、現在算出されている当該摩擦係合要素の温度Tkを加算することにより、摩擦係合要素の温度Tkを更新する。なお、熱容量Cは予め求めた規定値である。また、摩擦係合要素の温度Tkの初期値は、例えば油温Toilとしてもよい。
【0062】
次に、CPU42は、出力変数y(2)に示される判定値が規定の閾値Yref以上であるか否かを判定する(S90)。この閾値Yrefとしては、出力変数y(2)の値が当該閾値Yref以上であることに基づき、摩擦係合要素に焼き付きが生じていることを適切に判定することのできる値が予め設定されている。
【0063】
そして、出力変数y(2)に示される判定値が閾値Yref未満であると判定される場合(S90:NO)、CPU42は、本処理を一旦終了する。
一方、出力変数y(2)に示される判定値が閾値Yref以上であると判定される場合(S90:YES)、CPU42は、今回の変速で係合状態になった摩擦係合要素に焼き付きが発生したと判定して(S100)、本処理を一旦終了する。
【0064】
本実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)摩擦係合要素において互いに相対回転する第1プレートと第2プレートとの相対回転速度Nrが高いほど、摩擦係合要素の発熱量は多くなる。また、変速中において摩擦係合要素に供給される油圧が高いほど、摩擦係合要素の発熱量は多くなる。そこで、本実施形態では、変速中に摩擦係合要素で生じる熱量に関与する上記相対回転速度Nrを示す速度変数や、油圧指令値P*で示される油圧変数を入力変数として、それらの入力変数を、写像データによって規定される写像に入力することにより摩擦係合要素の発熱量や温度、あるいは焼き付きの有無といった熱負荷を算出するようにしている。ここで、変速中には、摩擦係合要素の状態が解放状態から係合状態へと変化していくため、変速中において摩擦係合要素の発熱状態は種々変化する。そこで、本実施形態では、熱負荷を算出する算出処理の実行態様を変速中に変更する変更処理を実行するようにしている。
【0065】
より具体的には、変速中における摩擦係合要素の発熱状態は、上記第1期間Z1、上記第2期間Z2、上記第3期間Z3、及び上記第4期間Z4のそれぞれで異なることを本発明者は確認している。
【0066】
そこで、自動変速機26においてトルク相が開始されてから変速が完了するまでの間の期間(
図3に示した時刻t4~時刻t8までの期間)が予め定めた複数の期間、つまり上記第1期間Z1、第2期間Z2、第3期間Z3、及び第4期間Z4に区分けされている。そして、記憶装置46には、各期間に応じた各別の写像を規定する複数の写像データ、つまり第1写像データ、第2写像データ、第3写像データ、及び第4写像データが記憶されている。そして、CPU42は、上記変更処理として、上記算出処理の実行に際して上記の各期間に応じた写像データを選択する処理を実行する。従って、各写像データを、予め定めた各期間に特化したものとすることができるため、摩擦係合要素の熱負荷を精度よく推定することができる。
【0067】
また、上述したように変速中において摩擦係合要素の発熱状態は種々変化するため、変速中の期間全体を通じて単一の写像で熱負荷を算出する場合には、写像の構造が複雑化しやすい。一方、本実施形態では、写像データを予め定めた上記期間に特化したものとすることができるため、写像の構造を簡素化しやすい。
【0068】
(2)また、変速が開始されると摩擦係合要素への油圧供給が開始されるのであるが、その後、自動変速機26においてトルク相が始まるまでの間は、摩擦係合要素において互いに相対回転する第1プレートと第2プレートとの間で摺動が起きないため、摩擦係合要素の発熱が起きにくい。
【0069】
そこで、CPU42は、上記変更処理とは別の変更処理として、以下の処理を実行する。すなわち、摩擦係合要素への油圧供給が開始されてから自動変速機26においてトルク相が始まるまでの期間である上記初期期間Z0では、
図3に示すS20において肯定判定されることにより、
図3に示すS30以降の処理を実行しない。つまり写像への入力変数の入力を禁止する。一方、変速中であって(
図3のS10:YES)、かつ初期期間Z0ではないと判定される場合(
図3のS20:NO)には、
図3に示すS30以降の処理を実行することにより、写像への入力変数の入力を行う処理を実行する。つまり、トルク相が開始されてから写像への入力変数の入力を行う処理を実行する。こうして本実施形態では、摩擦係合要素において発熱が起きにくい期間、つまりトルク相が開始されるまでは写像への入力変数の入力を禁止する一方、摩擦係合要素において発熱が起きるトルク相以降では写像への入力変数の入力が行われる。従って、熱負荷の算出に際して、摩擦係合要素の発熱が起きにくい期間は除外されるようになるため、これにより摩擦係合要素の熱負荷を精度よく推定することができる。
【0070】
(3)作動油の温度が変化すると摩擦係合要素の雰囲気温度が変化するため、摩擦係合要素の発熱量は変化する。この点、本実施形態では、上記入力変数に、作動油の温度を示す油温変数としての油温Toilが含まれるため、作動油の温度が上記発熱量に与える影響を考慮して熱負荷が算出される。従って、入力変数に上記油温変数を含まない場合と比較して、熱負荷をより高精度に算出することができる。
【0071】
(4)本実施形態では、車載原動機の出力トルクに応じた油圧指令値P*の可変設定を行うようにしているが、こうした出力トルクに応じた油圧の可変設定を行う場合には、出力トルクの大きさが摩擦係合要素の発熱量に関与する。この点、本実施形態では、上記入力変数に、車載原動機の出力トルクを示すトルク変数としてのアクセル操作量ACCPが含まれるため、出力トルクが発熱量に与える影響を考慮して熱負荷が算出される。従って、入力変数に上記トルク変数を含まない場合と比較して、熱負荷をより高精度に算出することができる。
【0072】
(5)上記入力変数には、変速に際して係合される摩擦係合要素を示す変速変数としての変速比指令値Vsft*及び切替変数ΔVsftが含まれることから、変速の際に係合動作した摩擦係合要素の熱負荷を精度よく算出することができる。
【0073】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0074】
・
図3において斜線で示すように、第1期間Z1での総発熱量Qs1や、第2期間Z2での総発熱量Qs2や、第3期間Z3での総発熱量Qs3や、第4期間Z4での総発熱量Qs4を出力変数として算出してもよい。なお、この場合の入力変数x(1)、x(2)、x(3)、及びx(4)の値としては、各期間における平均値や最大値、あるいは区間開始直後の値と区間終了直後の値の組とした値などを採用すればよい。
【0075】
・
図3(F)に示される総発熱量Qsの曲線CRを模した値を出力変数にしてもよい。
・上記第1期間Z1、上記第2期間Z2、上記第3期間Z3、及び第4期間Z4のうちの少なくとも1つを設定して、その設定した期間に対応した写像データを用意してもよい。この場合でも、その設定した期間における摩擦係合要素の熱負荷を精度よく推定することができる。
【0076】
・出力変数y(1)及び出力変数y(2)のいずれか一方を省略したり、温度Tkの算出を省略したりしてもよい。
・車両VCに通信機を備える。そして、通信機及び外部ネットワークを介して車両VCは外部のデータ解析センタと相互通信可能にする。データ解析センタは、CPU、ROM、記憶装置および通信機を備えている。そして、上記選択処理や上記算出処理をデータ解析センタのCPUに行わせてもよい。この場合には、車両VCのCPU42で上記選択処理や上記算出処理を実行する場合と比較して、当該CPU42の演算負荷を軽減することができる。
【0077】
・入力変数のうちで、油温変数、トルク変数、及び変速変数の少なくとも1つを省略してもよい。また、熱負荷に関与する他の変数を入力変数に加えてもよい。
・上記写像の活性化関数は例示であり、他の関数を採用してもよい。
【0078】
・ニューラルネットワークとして、中間層の数が1層のニューラルネットワークを例示したが、中間層の数が2層以上であってもよい。
・ニューラルネットワークとして、全結合順伝搬型のニューラルネットワークを例示したが、これに限らない。例えば、ニューラルネットワークとしては、回帰結合型ニューラルネットワークを採用してもよい。
【0079】
・上記写像としての関数近似器は、回帰式であってもよい。これは上記ニューラルネットワークにおいて中間層を備えないものに相当する。
・実行装置としては、CPU42とROM44とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0080】
・車両VCとしては、シリーズ・パラレルハイブリッド車に限らない。たとえばシリーズハイブリッド車や、パラレルハイブリッド車であってもよい。なお、車載原動機として、内燃機関とモータジェネレータとを備えるものにも限らない。たとえば内燃機関を備えるもののモータジェネレータを備えない車両であってもよく、また、たとえばモータジェネレータを備えるものの内燃機関を備えない車両であってもよい。
【符号の説明】
【0081】
10…内燃機関
12…クランク軸
20…動力分割装置
22…第1モータジェネレータ
24…第2モータジェネレータ
26…自動変速機
C1…第1クラッチ
C2…第2クラッチ
B1…第1ブレーキ
B2…第2ブレーキ
40…制御装置