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特許7347382無線通信装置、無線通信システムおよび無線通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】無線通信装置、無線通信システムおよび無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 48/16 20090101AFI20230912BHJP
   H04W 4/44 20180101ALI20230912BHJP
   H04W 88/06 20090101ALI20230912BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20230912BHJP
【FI】
H04W48/16 131
H04W4/44
H04W88/06
H04W84/12
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020154151
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022048033
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】大西 亮吉
【審査官】横田 有光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0257320(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0159763(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データの送信に用いられる識別子と優先度の対応関係を示す情報を記憶している記憶部と、
送信対象のデータを取得する取得部と、
前記取得部で取得された送信対象のデータの識別子と、前記記憶部に記憶された情報にもとづいて、前記送信対象のデータの優先度を特定する特定部と、
前記特定部で特定された優先度にもとづいて、それぞれ通信コストと送信のリアルタイム性が異なる複数の無線通信サービスの中から、前記送信対象のデータの送信に用いる無線通信サービスを決定し、決定した無線通信サービスを用いて前記送信対象のデータを送信する送信制御部と、
を備え
前記複数の無線通信サービスは、第1無線通信サービス、第2無線通信サービス、および、第3無線通信サービスを含み、
通信コストは、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、
通信のリアルタイム性は、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、
前記特定部は、前記送信対象のデータの優先度が高いまたは低いことを特定し、
前記送信制御部は、
(1)優先度が高い場合、前記第1無線通信サービスに決定し、
(2)優先度が低い場合、前記第3無線通信サービスが利用可能であれば、前記第3無線通信サービスに決定し、前記第3無線通信サービスが利用不可能であれば、前記第2無線通信サービスを優先して前記第2無線通信サービスまたは前記第1無線通信サービスに決定し、
前記送信制御部は、優先度が高いデータを第1送信キューに格納し、格納した前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信し、優先度が低いデータを第2送信キューに格納し、格納した前記第2送信キューのデータを前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービスまたは前記第3無線通信サービスを用いて送信し、
前記送信制御部は、優先度が低い場合、(1)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第1条件が満たされれば、前記第2無線通信サービスに決定し、(2)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第2条件が満たされれば、前記第1無線通信サービスに決定し、
前記第1条件は、前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第1時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第1しきい値を超えたことを含み、
前記第2条件は、前記第2無線通信サービスと前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第2時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第2しきい値を超えたこと、および、前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信していないことである、
ことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記送信制御部は、前記送信対象のデータの優先度が高い場合、優先度が低いデータを前記第1無線通信サービスで送信中であれば、優先度が高いデータの送信が終了するまで優先度が低いデータの送信を中断する、
ことを特徴とする請求項に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記特定部は、前記送信対象のデータの優先度が高い、低い、または、ないことを特定し、
前記送信制御部は、優先度がない場合、前記第3無線通信サービスに決定する、
ことを特徴とする請求項またはに記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記送信制御部は、前記送信対象のデータの優先度が低く、かつ、前記第3無線通信サービスに決定した場合、優先度がないデータを前記第3無線通信サービスで送信中であれば、優先度が低いデータの送信が終了するまで優先度がないデータの送信を中断する、
ことを特徴とする請求項に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記第1時間は、前記第2時間より短く、
前記第1しきい値は、前記第2しきい値より小さい、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記送信制御部は、優先度がないデータを第3送信キューに格納し、格納した前記第3送信キューのデータを前記第3無線通信サービスを用いて送信し、
前記送信制御部は、前記第3送信キューの容量が満たされた場合、前記第3送信キューのデータの一部を破棄する、
ことを特徴とする請求項またはに記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記第1無線通信サービスと前記第2無線通信サービスは、モバイル網を介する通信サービスであり、
前記第2無線通信サービスは、前記第1無線通信サービスと比較して利用可能エリアと利用可能時間帯が制限されており、
前記第3無線通信サービスは、無線LANである、
ことを特徴とする請求項からのいずれかに記載の無線通信装置。
【請求項8】
無線通信装置と、
前記無線通信装置と通信を行うサーバと、
を備え、
前記無線通信装置は、
データの送信に用いられる識別子と優先度の対応関係を示す情報を記憶している記憶部と、
送信対象のデータを取得する取得部と、
前記取得部で取得された送信対象のデータの識別子と、前記記憶部に記憶された情報にもとづいて、前記送信対象のデータの優先度を特定する特定部と、
前記特定部で特定された優先度にもとづいて、それぞれ通信コストと送信のリアルタイム性が異なる複数の無線通信サービスの中から、前記送信対象のデータの送信に用いる無線通信サービスを決定し、決定した無線通信サービスを用いて前記送信対象のデータを前記サーバに送信する送信制御部と、
を有し、
前記複数の無線通信サービスは、第1無線通信サービス、第2無線通信サービス、および、第3無線通信サービスを含み、
通信コストは、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、
通信のリアルタイム性は、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、
前記特定部は、前記送信対象のデータの優先度が高いまたは低いことを特定し、
前記送信制御部は、
(1)優先度が高い場合、前記第1無線通信サービスに決定し、
(2)優先度が低い場合、前記第3無線通信サービスが利用可能であれば、前記第3無線通信サービスに決定し、前記第3無線通信サービスが利用不可能であれば、前記第2無線通信サービスを優先して前記第2無線通信サービスまたは前記第1無線通信サービスに決定し、
前記送信制御部は、優先度が高いデータを第1送信キューに格納し、格納した前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信し、優先度が低いデータを第2送信キューに格納し、格納した前記第2送信キューのデータを前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービスまたは前記第3無線通信サービスを用いて送信し、
前記送信制御部は、優先度が低い場合、(1)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第1条件が満たされれば、前記第2無線通信サービスに決定し、(2)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第2条件が満たされれば、前記第1無線通信サービスに決定し、
前記第1条件は、前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第1時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第1しきい値を超えたことを含み、
前記第2条件は、前記第2無線通信サービスと前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第2時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第2しきい値を超えたこと、および、前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信していないことである、
ことを特徴とする無線通信システム。
【請求項9】
前記サーバは、識別子と優先度の対応関係を示す情報を前記無線通信装置に送信し、
前記記憶部は、前記無線通信装置で受信された識別子と優先度の対応関係を示す情報を記憶する、
ことを特徴とする請求項に記載の無線通信システム。
【請求項10】
前記複数の無線通信サービスは、モバイル網を介する無線通信サービスを含み、
識別子と優先度の対応関係を示す情報は、識別子とAPN(Access Point Name)の対応関係を示す情報を含み、
前記特定部は、識別子とAPNの対応関係を示す情報にもとづいて、送信対象のデータのAPNを設定し、
前記モバイル網は、前記モバイル網と前記無線通信装置との間の通信のデータ量をAPN毎に取得するデータ量取得装置を有する、
ことを特徴とする請求項またはに記載の無線通信システム。
【請求項11】
データの送信に用いられる識別子と優先度の対応関係を示す情報を記憶している記憶部を備える無線通信装置における無線通信方法であって、
送信対象のデータを取得する第1ステップと、
取得された送信対象のデータの識別子と、前記記憶部に記憶された情報にもとづいて、前記送信対象のデータの優先度を特定する第2ステップと、
特定された優先度にもとづいて、それぞれ通信コストと通信のリアルタイム性が異なる複数の無線通信サービスの中から、前記送信対象のデータの送信に用いる無線通信サービスを決定し、決定した無線通信サービスを用いて、前記送信対象のデータを送信する第3ステップと、
を備え
前記複数の無線通信サービスは、第1無線通信サービス、第2無線通信サービス、および、第3無線通信サービスを含み、
通信コストは、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、
通信のリアルタイム性は、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、
前記第2ステップにおいて、前記送信対象のデータの優先度が高いまたは低いことを特定し、
前記第3ステップにおいて、
(1)優先度が高い場合、前記第1無線通信サービスに決定し、
(2)優先度が低い場合、前記第3無線通信サービスが利用可能であれば、前記第3無線通信サービスに決定し、前記第3無線通信サービスが利用不可能であれば、前記第2無線通信サービスを優先して前記第2無線通信サービスまたは前記第1無線通信サービスに決定し、
前記第3ステップにおいて、優先度が高いデータを第1送信キューに格納し、格納した前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信し、優先度が低いデータを第2送信キューに格納し、格納した前記第2送信キューのデータを前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービスまたは前記第3無線通信サービスを用いて送信し、
前記第3ステップにおいて、優先度が低い場合、(1)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第1条件が満たされれば、前記第2無線通信サービスに決定し、(2)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第2条件が満たされれば、前記第1無線通信サービスに決定し、
前記第1条件は、前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第1時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第1しきい値を超えたことを含み、
前記第2条件は、前記第2無線通信サービスと前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第2時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第2しきい値を超えたこと、および、前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信していないことである、
ことを特徴とする無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線通信サービスに対応した無線通信装置、無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両とセンタで通信することにより、様々なサービスを提供するシステムが知られている。特許文献1は、異常発生時の自車両の走行状況をセンタに通知するサービスを提供する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-120443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ユーザに提供されるサービスの多様化に伴い、それぞれのサービスの質の低下を抑制しつつ、通信コストを削減する必要性が高まっている。
【0005】
本発明の目的は、サービスの質の低下を抑制しつつ、通信コストを削減できる無線通信装置、無線通信システムおよび無線通信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の無線通信装置は、データの送信に用いられる識別子と優先度の対応関係を示す情報を記憶している記憶部と、送信対象のデータを取得する取得部と、前記取得部で取得された送信対象のデータの識別子と、前記記憶部に記憶された情報にもとづいて、前記送信対象のデータの優先度を特定する特定部と、前記特定部で特定された優先度にもとづいて、それぞれ通信コストと送信のリアルタイム性が異なる複数の無線通信サービスの中から、前記送信対象のデータの送信に用いる無線通信サービスを決定し、決定した無線通信サービスを用いて前記送信対象のデータを送信する送信制御部と、を備える。前記複数の無線通信サービスは、第1無線通信サービス、第2無線通信サービス、および、第3無線通信サービスを含み、通信コストは、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、通信のリアルタイム性は、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなる。前記特定部は、前記送信対象のデータの優先度が高いまたは低いことを特定する。前記送信制御部は、(1)優先度が高い場合、前記第1無線通信サービスに決定し、(2)優先度が低い場合、前記第3無線通信サービスが利用可能であれば、前記第3無線通信サービスに決定し、前記第3無線通信サービスが利用不可能であれば、前記第2無線通信サービスを優先して前記第2無線通信サービスまたは前記第1無線通信サービスに決定する。前記送信制御部は、優先度が高いデータを第1送信キューに格納し、格納した前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信し、優先度が低いデータを第2送信キューに格納し、格納した前記第2送信キューのデータを前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービスまたは前記第3無線通信サービスを用いて送信する。前記送信制御部は、優先度が低い場合、(1)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第1条件が満たされれば、前記第2無線通信サービスに決定し、(2)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第2条件が満たされれば、前記第1無線通信サービスに決定する。前記第1条件は、前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第1時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第1しきい値を超えたことを含む。前記第2条件は、前記第2無線通信サービスと前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第2時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第2しきい値を超えたこと、および、前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信していないことである。
【0007】
本発明の別の態様は、無線通信システムである。この無線通信システムは、無線通信装置と、前記無線通信装置と通信を行うサーバと、を備える。前記無線通信装置は、データの送信に用いられる識別子と優先度の対応関係を示す情報を記憶している記憶部と、送信対象のデータを取得する取得部と、前記取得部で取得された送信対象のデータの識別子と、前記記憶部に記憶された情報にもとづいて、前記送信対象のデータの優先度を特定する特定部と、前記特定部で特定された優先度にもとづいて、それぞれ通信コストと送信のリアルタイム性が異なる複数の無線通信サービスの中から、前記送信対象のデータの送信に用いる無線通信サービスを決定し、決定した無線通信サービスを用いて前記送信対象のデータを前記サーバに送信する送信制御部と、を有する。前記複数の無線通信サービスは、第1無線通信サービス、第2無線通信サービス、および、第3無線通信サービスを含み、通信コストは、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、通信のリアルタイム性は、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなる。前記特定部は、前記送信対象のデータの優先度が高いまたは低いことを特定する。前記送信制御部は、(1)優先度が高い場合、前記第1無線通信サービスに決定し、(2)優先度が低い場合、前記第3無線通信サービスが利用可能であれば、前記第3無線通信サービスに決定し、前記第3無線通信サービスが利用不可能であれば、前記第2無線通信サービスを優先して前記第2無線通信サービスまたは前記第1無線通信サービスに決定する。前記送信制御部は、優先度が高いデータを第1送信キューに格納し、格納した前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信し、優先度が低いデータを第2送信キューに格納し、格納した前記第2送信キューのデータを前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービスまたは前記第3無線通信サービスを用いて送信する。前記送信制御部は、優先度が低い場合、(1)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第1条件が満たされれば、前記第2無線通信サービスに決定し、(2)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第2条件が満たされれば、前記第1無線通信サービスに決定する。前記第1条件は、前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第1時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第1しきい値を超えたことを含む。前記第2条件は、前記第2無線通信サービスと前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第2時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第2しきい値を超えたこと、および、前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信していないことである。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、無線通信方法である。この方法は、データの送信に用いられる識別子と優先度の対応関係を示す情報を記憶している記憶部を備える無線通信装置における無線通信方法であって、送信対象のデータを取得する第1ステップと、取得された送信対象のデータの識別子と、前記記憶部に記憶された情報にもとづいて、前記送信対象のデータの優先度を特定する第2ステップと、特定された優先度にもとづいて、それぞれ通信コストと通信のリアルタイム性が異なる複数の無線通信サービスの中から、前記送信対象のデータの送信に用いる無線通信サービスを決定し、決定した無線通信サービスを用いて、前記送信対象のデータを送信する第3ステップと、を備える。前記複数の無線通信サービスは、第1無線通信サービス、第2無線通信サービス、および、第3無線通信サービスを含み、通信コストは、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなり、通信のリアルタイム性は、前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービス、前記第3無線通信サービスの順に低くなる。前記第2ステップにおいて、前記送信対象のデータの優先度が高いまたは低いことを特定する。前記第3ステップにおいて、(1)優先度が高い場合、前記第1無線通信サービスに決定し、(2)優先度が低い場合、前記第3無線通信サービスが利用可能であれば、前記第3無線通信サービスに決定し、前記第3無線通信サービスが利用不可能であれば、前記第2無線通信サービスを優先して前記第2無線通信サービスまたは前記第1無線通信サービスに決定する。前記第3ステップにおいて、優先度が高いデータを第1送信キューに格納し、格納した前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信し、優先度が低いデータを第2送信キューに格納し、格納した前記第2送信キューのデータを前記第1無線通信サービス、前記第2無線通信サービスまたは前記第3無線通信サービスを用いて送信する。前記第3ステップにおいて、優先度が低い場合、(1)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第1条件が満たされれば、前記第2無線通信サービスに決定し、(2)前記第3無線通信サービスが利用不可能であり、かつ、所定の第2条件が満たされれば、前記第1無線通信サービスに決定する。前記第1条件は、前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第1時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第1しきい値を超えたことを含む。前記第2条件は、前記第2無線通信サービスと前記第3無線通信サービスが利用不可能な時間が所定の第2時間を超えたか、または、前記第2送信キューのデータ量が所定の第2しきい値を超えたこと、および、前記第1送信キューのデータを前記第1無線通信サービスを用いて送信していないことである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サービスの質の低下を抑制しつつ、通信コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態の無線通信システムの機能構成を示す図である。
図2図1の記憶部に記憶されるコネクションとAPNの対応情報の一例を示す図である。
図3図1の記憶部に記憶されるAPNの設定情報の一例を示す図である。
図4図1の無線通信装置で実行されるルーティング制御を説明するための図である。
図5】セルラーBDTの利用可否を取得するための第1の方式を説明するための図である。
図6】セルラーBDTの利用可否を取得するための第2の方式を説明するための図である。
図7】セルラーBDTの利用可否を取得するための第3の方式を説明するための図である。
図8図1の無線通信装置のルーティング制御処理を示すフローチャートである。
図9図1の無線通信装置の第1送信キューのデータ送信処理を示すフローチャートである。
図10図1の無線通信装置の第2送信キューのデータ送信処理を示すフローチャートである。
図11図1の無線通信装置の第3送信キューのデータ送信処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施の形態の無線通信システム1の機能構成を示す。無線通信システム1は、車載装置10およびサーバ20を備える。
【0012】
車載装置10は、自動車である車両90に搭載される。複数の車両90のそれぞれに車載装置10が搭載され、無線通信システム1は複数の車載装置10を備えるが、図1では複数の車載装置10のうち1台の車載装置10を示す。
【0013】
車載装置10は、無線通信装置12および複数のECU(Electronic Control Unit)14を有する。無線通信装置12は、DCM(Data Communication Module)とも呼ばれ、複数の無線通信サービスに対応した無線通信機能を有する車載通信装置である。無線通信装置12は、例えば4G(第4世代移動通信システム)または5G(第5世代移動通信システム)などのセルラー通信により、無線基地局(図示せず)を介してモバイル網22に接続可能である。以下、セルラー通信の一例として、5GのセルラーMBB(Mobile Broadband:モバイルブロードバンド)とセルラーBDT(Background Data Transfer:バックグラウンドデータ転送)を想定する。セルラーMBBは、第1無線通信サービスに相当し、セルラーBDTは、第2無線通信サービスに相当する。セルラーMBBは、5Gの一般のデータ通信方式である。セルラーBDTは、3GPP(Third Generation Partnership Project)で標準化されている5GのIoT(Internet of Things)機器向けのデータ通信方式である。
【0014】
モバイル網22は、ゲートウェイ28aによりサーバ20に接続され、ゲートウェイ28bによりネットワーク24に接続されている。ネットワーク24は、例えばインターネットである。
【0015】
また、無線通信装置12は、Wi-Fi(登録商標)等の無線LAN(Local Area Network)通信により、無線アクセスポイント(図示せず)を介してネットワーク24に接続可能である。無線LANは、第3無線通信サービスに相当する。ネットワーク24は、サーバ20に接続されている。
【0016】
複数の無線通信サービスは、それぞれ通信コストと送信のリアルタイム性とが異なる。通信コストは、セルラーMBB、セルラーBDT、無線LANの順に低くなる。送信のリアルタイム性は、セルラーMBB、セルラーBDT、無線LANの順に低くなる。送信のリアルタイム性とは、データの送信要求からどれだけ早いタイミングでデータを送信可能であるかの度合いを示す。
【0017】
セルラーBDTの利用可能エリアと利用可能時間帯は、回線の利用状況などに応じてモバイル網22により決定される。セルラーBDTの利用可能エリアはセルラーMBBより狭く、かつ、セルラーBDTの利用可能時間帯は制限される。従って、セルラーBDTのリアルタイム性はセルラーMBBより低い。
【0018】
無線通信装置12が接続可能な無線LANの無線アクセスポイントは、例えば、運転者の自宅の車庫、所定の公共の駐車場、自動車販売店、車両の充電ステーションなどに設置されていることが想定される。無線LANの利用可能エリアはセルラーBDTより狭く、そのためリアルタイム性もセルラーBDTより低い。
【0019】
無線通信装置12は、セルラー通信によりモバイル網22経由で、または、無線LAN通信によりネットワーク24経由でサーバ20と通信を行う。無線通信装置12は、送信対象のデータの優先度に応じて、セルラーMBB、セルラーBDT、無線LANのいずれかを用いてデータを送信する。よって、送信対象のデータに合わせたリアルタイム性と通信コストで送信できる。
【0020】
サーバ20は、たとえばセンタに設置され、クラウドサーバとも呼べる。サーバ20は、無線通信装置12から送信された各種情報を収集および処理するとともに、各種の提供用情報を無線通信装置12に送信することで、各種サービスを車両90のユーザに提供する。
【0021】
複数のECU14は、たとえばカーナビゲーション用のECU、電源制御用のECU、自動運転用のECUなどの各種ECUを含む。それぞれのECU14は、サーバ20などに送信すべきデータを無線通信装置12に出力する。また、それぞれのECU14は、サーバ20などから無線通信装置12が受信したデータを無線通信装置12から受け取る。
【0022】
無線通信装置12は、記憶部40、通信部42、取得部44、ルーティング制御部46、および、通信状況監視部48を備える。
【0023】
無線通信装置12の構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0024】
通信部42は、モバイル網22の無線基地局とセルラー通信を行い、無線アクセスポイントと無線LAN通信を行う。
【0025】
記憶部40は、通信ポリシーを記憶しており、通信ポリシー管理部ともよべる。サーバ20は、モバイル網22を介して予め通信ポリシーを複数の車両90の無線通信装置12に送信し、記憶部40は、通信部42で受信された通信ポリシーを記憶する。また、通信ポリシーを変更する必要がある場合、サーバ20が通信ポリシーを変更し、変更した通信ポリシーを複数の無線通信装置12に送信することにより、複数の無線通信装置12の通信ポリシーを一括で変更できる。
【0026】
通信ポリシーは、コネクションとAPN(Access Point Name:アクセスポイント名)の対応情報と、APNの設定情報とを含む。
【0027】
図2は、図1の記憶部40に記憶されるコネクションとAPNの対応情報の一例を示す。図2に示すように、コネクションとAPNの対応情報は、コネクションの5タプル(5-tuple)情報とAPNとの対応関係を示す。
【0028】
5タプル情報は、ECU14から出力されたデータのパケットのヘッダに含まれており、送信元IPアドレス、送信元ポート番号、送信先IPアドレス、送信先ポート番号、および、TCPまたはUDPであるプロトコルの種類を含む。5タプル情報は、データの送信に用いられる識別子ともよべる。送信元IPアドレスは、データ送信元のECU14のIPアドレスに対応する。送信元ポート番号は、データ送信元のアプリの種類に対応する。送信先IPアドレスは、データ送信先のサーバのIPアドレスに対応する。送信先ポート番号は、データ送信先のアプリの種類に対応する。
【0029】
図2の記号「*」は、ワイルドカードを表す。コネクションとAPNの対応情報において、5タプル情報の特定の項目の一部または全部にワイルドカードを使用できる。
【0030】
図2の例では、送信先IPアドレスが「IP-A」であるコネクションには、5タプル情報の他の項目によらず、APN「1」が対応する。送信元IPアドレスが「IP-B」であるコネクションには、5タプル情報の他の項目によらず、APN「2」が対応する。送信元IPアドレスが「IP-D」であるコネクションには、5タプル情報の他の項目によらず、APN「なし」が対応する。
【0031】
図3は、図1の記憶部40に記憶されるAPNの設定情報の一例を示す。図3に示すように、APNの設定情報は、APN毎に、用途、優先度、データ量カウンタの情報、および、送信先GW(Gate Way:ゲートウェイ)を含む。APNの数は「8」に限定されず、より少なくてもよいし、より多くてもよい。
【0032】
データ量カウンタの情報は、APN毎に異なり、後述するモバイル網22のデータ量取得装置26がAPN毎に通信のデータ量をカウントするために利用される。
【0033】
送信先GWは、モバイル網22のゲートウェイを指定するための情報である。APN毎に送信先GWを指定できる。
【0034】
たとえば、APN「1」に関して、用途は「音声・オペレータサービス」、優先度は「高」、データ量カウンタの情報は「a」、送信先GWは「センタ」である。
【0035】
「音声・オペレータサービス」は、緊急時、故障時または必要な時に車両90の乗員とオペレータが音声通話できるサービスである。
【0036】
「センタ」は、センタのサーバ20に最も近いゲートウェイ28aを表す。ゲートウェイ28aとサーバ20は、インターネットであるネットワーク24を経由せず専用線で直接接続されている。これにより、専用線の長さを短くでき、無線通信システム1を低コスト化できる。また、混雑しているインターネットのゲートウェイ28bを避けることもできる。
【0037】
APN「2」に関して、用途は「SIM書き換え」、優先度は「高」、データ量カウンタの情報は「b」、送信先GWは「Subscription Manager」である。
【0038】
「SIM書き換え」は、無線通信装置12に搭載された通信用のSIM(Subscriber Identity Module)カード(図示せず)に登録された情報を書き換えるサービスである。「Subscription Manager」は、SIMカードの書き換えを実行するサーバ(図示せず)に最も近いゲートウェイ(図示せず)を表す。
【0039】
APN「3」に関して、用途は「車内インターネットサービス」、優先度は「高」、データ量カウンタの情報は「c」、送信先GWは「センタ(インターネット)」である。
【0040】
「センタ(インターネット)」は、「センタ」に替えて「インターネット」を指定してもよいことを表す。「インターネット」は、インターネットのゲートウェイ28bを表す。
【0041】
APN「4」に関して、用途は「通常のテレマティクス」、優先度は「高」、データ量カウンタの情報は「d」、送信先GWは「センタ」である。
【0042】
「通常のテレマティクス」は、オペレータとの音声通話以外のテレマティクスサービスであり、例えば、車両90のエコドライブの記録をサーバ20に送信し、サーバ20がその記録を集計し、集計結果を運転者に提供するサービスを含む。
【0043】
APN「5」に関して、用途は「バルクデータアップロード」、優先度は「低」、データ量カウンタの情報は「e」、送信先GWは「センタ」である。
【0044】
「バルクデータアップロード」は、車両90の各種センサで取得された速度、位置、車内装置の状態などの情報をサーバ20に送信し、サーバ20がそれらの情報を処理し、処理結果にもとづいた各種情報を運転者に提供するサービスを含む。
【0045】
APN「6」に関して、用途は「地域法規制対応」、優先度は「高」、データ量カウンタの情報は「f」、送信先GWは「規定GW」である。
【0046】
「地域法規制対応」は、例えば、所定の国や地域において、事故発生時などに位置情報などを所定のサーバ(図示せず)に送信するサービスを含む。「規定GW」は、所定のサーバに最も近い所定のゲートウェイ(図示せず)である。
【0047】
APN「7」に関して、用途は「クラウド知能による運転支援」、優先度は「高」、データ量カウンタの情報は「g」、送信先GWは「至近エッジ」である。
【0048】
「クラウド知能による運転支援」は、車両90の各種センサで取得された情報を、車両90の走行位置に近いエッジサーバ(図示せず)に送信し、エッジサーバがそれらの情報にもとづいて運転支援情報を導出し、その運転支援情報を運転者に提供するサービスを含む。
【0049】
「至近エッジ」は、特定のサーバ付近のゲートウェイではなく、エッジサーバ付近のゲートウェイ(図示せず)を表す。
【0050】
APN「8」に関して、用途は「バルクデータアップロード+ネットワークエッジ処理」、優先度は「高」、データ量カウンタの情報は「h」、送信先GWは「至近エッジ」である。
【0051】
「バルクデータアップロード+ネットワークエッジ処理」は、車両90の各種センサで取得された情報をエッジサーバに送信し、エッジサーバがそれらの情報を処理し、処理結果にもとづいた各種情報を運転者に提供するサービスを含む。
【0052】
APNの設定情報と、コネクションとAPNの対応情報は、識別子と優先度の対応関係を示す情報に相当する。
【0053】
モバイル網22もサーバ20から送信されたAPNの設定情報を保持している。モバイル網22は、無線通信装置12で設定されたコネクションのAPNと、保持しているAPNの設定情報にもとづいて、コネクションのゲートウェイを設定する。
【0054】
図1に戻る。通信状況監視部48は、モバイル網の空き状況、即ちセルラーBDTの利用可否と、無線LANの接続状況とを通信部42を介して監視し、これらの情報をルーティング制御部46に出力する。セルラーBDTの利用可否を監視する方法は後述する。無線LANの接続状況の監視には、公知の技術を利用できる。
【0055】
取得部44は、ECU14から出力された送信対象のデータのパケットを取得し、取得したパケットをルーティング制御部46に出力する。
【0056】
ルーティング制御部46は、取得部44から供給された送信対象のデータの5タプル情報と、記憶部40に保持された通信ポリシーと、通信状況監視部48から供給された情報とにもとづいて、無線通信のルーティング制御を実行する。ルーティング制御部46は、特定部50および送信制御部52を有する。
【0057】
特定部50は、記憶部40から通信ポリシーを取得し、通信ポリシーに含まれるコネクションとAPNの対応情報と、取得部44から供給された送信対象のデータの5タプル情報とにもとづいて、送信対象のデータのAPNを設定する。特定部50は、コネクションとAPNの対応情報において、送信対象のデータの5タプル情報に対応するAPNを設定する。
【0058】
図2の例では、特定部50は、送信先IPアドレスが「IP-A」であるデータには、APNが「1」であることを設定し、送信元IPアドレスが「IP-B」であるデータと「IP-C」であるデータには、APNが「2」であることを設定する。特定部50は、送信元IPアドレスが「IP-D」であるデータには、APNが「なし」であることを設定する。APN「なし」とは、APNが設定されないことを表す。APN「なし」のデータは、セルラー通信を利用せず無線LANのみを利用して送信したいデータである。
【0059】
無線LANのみを利用して送信したいデータの例は、他車からも集められ、かつ、送信を急がないデータであり、地図作成用のデータなどである。地図作成用のデータとは、例えば、車両90に搭載したレーザスキャナ(図示せず)を用いて測定した3次元の点群データなどである。サーバ20は、このようなデータを複数の車両90から集めて地図データを生成する。
【0060】
特定部50は、送信対象のデータに設定したAPNと、通信ポリシーに含まれるAPNの設定情報とにもとづいて、送信対象のデータの優先度を特定する。特定部50は、APNの設定情報において、送信対象のデータに設定したAPNに対応する優先度を特定する。図3の例では、設定したAPNが「1」から「4」、「6」、「7」であれば優先度が「高」であることを特定し、設定したAPNが「5」、「8」であれば優先度が「低」であることを特定する。特定部50は、設定したAPNが「なし」の場合、取得されたデータの優先度がないことを特定する。
【0061】
これらの処理は、特定部50が、取得部44で取得された送信対象のデータの識別子と、記憶部40に記憶された情報にもとづいて、当該送信対象のデータの優先度を特定することに相当する。
【0062】
送信制御部52は、通信部42によるデータの送信を制御する。送信制御部52は、特定部50で特定された優先度にもとづいて、複数の無線通信サービス、すなわちセルラーMBB、セルラーBDT、無線LANの中から、送信対象のデータの送信に用いる無線通信サービスを決定する。送信制御部52は、決定した無線通信サービスを用いて、送信対象のデータを通信部42を介して送信する。
【0063】
図4は、図1の無線通信装置12で実行されるルーティング制御を説明するための図である。図4は、取得部44で取得された送信対象のデータの流れを示す。
【0064】
送信制御部52は、APNが設定されたデータをその優先度に応じて第1送信キュー、第2送信キュー、第3送信キューのいずれかに格納する。これらの送信キューは、送信制御部52に含まれてよい。
【0065】
第1送信キューは、送信のリアルタイム性が必要なデータ用の送信キューである。送信制御部52は、優先度が高いデータを第1送信キューに格納し、セルラーMBBが利用可能であれば、格納した第1送信キューのデータをセルラーMBBを用いて通信部42を介して送信する。つまり、送信制御部52は、優先度が高いデータの送信に用いる無線通信サービスをセルラーMBBに決定する。
【0066】
このとき、送信制御部52は、第2送信キューのデータをセルラーMBBを用いて送信している場合、第1送信キューのデータの送信が終了するまで、第2送信キューのデータの送信を中断する。つまり、第1送信キューのデータの送信は、第2送信キューのデータの送信より優先され、高いリアルタイム性で行われる。既述のように、優先度が高いデータは、例えば「音声・オペレータサービス」、「SIM書き換え」などのデータであり、リアルタイム性が高いセルラーMBBで送信することで、サービスの質の低下を抑制できる。
【0067】
送信制御部52は、第1送信キューのデータの送信にセルラーBDTと無線LANを用いない。セルラーBDTと無線LANは、既述のようにインフラ側でリアルタイム性が保証されないためである。
【0068】
第2送信キューは、優先度が高いデータより送信のリアルタイム性が低く、かつ、可能な限り低コストで送信したいデータ用の送信キューである。
【0069】
送信制御部52は、優先度が低いデータを第2送信キューに格納し、格納した第2送信キューのデータを無線LANが利用可能であれば無線LANを用いて通信部42を介して送信する。つまり、この場合、送信制御部52は、優先度が低いデータの送信に用いる無線通信サービスを無線LANに決定する。このとき、送信制御部52は、第3送信キューのデータを無線LANを用いて送信している場合、第2送信キューのデータの送信が終了するまで、第3送信キューのデータの送信を中断する。つまり、第2送信キューのデータの送信は、第3送信キューのデータの送信より優先される。
【0070】
既述のように、優先度が低いデータは例えば「バルクデータアップロード」のデータであり、送信を多少待てるため、無線LANで送信することで、サービスの質の低下を抑制しつつ通信コストを削減できる。
【0071】
送信制御部52は、無線LANが利用不可能であり、かつ、所定の第1条件が満たされた場合、セルラーBDTが利用可能であればセルラーBDTを用いて第2送信キューのデータを通信部42を介して送信する。つまり、この場合、送信制御部52は無線通信サービスをセルラーBDTに決定する。
【0072】
第1条件は、無線LANが利用不可能な時間が所定の第1時間を超えたか、または、第2送信キューのデータ量が所定の第1しきい値を超えたこと、および、第1送信キューのデータをセルラーMBBを用いて送信していないことである。ここではセルラーMBBとセルラーBDTを同時に利用できない例について説明しているが、同時に利用できてもよい。セルラーMBBとセルラーBDTを同時に利用できる場合、第1条件は、第1送信キューのデータをセルラーMBBを用いて送信していないことを含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0073】
このように、送信が遅れているときにセルラーBDTで送信することで、サービスの質の低下を抑制できる。
【0074】
送信制御部52は、無線LANが利用不可能であり、かつ、所定の第2条件が満たされた場合、セルラーMBBが利用可能であればセルラーMBBを用いて第2送信キューのデータを通信部42を介して送信する。つまり、この場合、送信制御部52は無線通信サービスをセルラーMBBに決定する。
【0075】
第2条件は、無線LANとセルラーBDTが利用不可能な時間が所定の第2時間を超えたか、または、第2送信キューのデータ量が所定の第2しきい値を超えたこと、および、第1送信キューのデータをセルラーMBBを用いて送信していないことである。
【0076】
第1時間、第2時間、第1しきい値、第2しきい値は、実験やシミュレーションにより適宜決定できる。第1時間は、第2時間より短い。第1しきい値は、第2しきい値より小さい。これにより、無線LANを利用できない場合の優先度が低いデータの送信に、セルラーMBBより通信コストが低いセルラーBDTを優先して利用でき、通信コストの増加を抑制できる。また、送信がさらに遅れているときにセルラーMBBで送信することで、サービスの質の低下を抑制できる。
【0077】
なお、セルラーBDTでは、例えば付近でコンサートなどがあり回線が混雑している場合などに、通信中にモバイル網22によって突然パケットが落とされる可能性も想定する。パケット落ちのリカバリは、アプリの責任として、リカバリできる設計をアプリに要求してよい。
【0078】
第3送信キューは、無線LANのみを利用して送信したいデータ用の送信キューである。送信制御部52は、APNが設定されていないデータ、すなわち優先度がないデータを第3送信キューに格納し、第2送信キューのデータを無線LANを用いて送信しておらず、かつ、無線LANが利用可能であれば、格納した第3送信キューのデータを無線LANを用いて通信部42を介して送信する。つまり、送信制御部52は、APNが設定されていないデータの送信に用いる無線通信サービスを無線LANに決定する。これにより、通信コストを削減できる。
【0079】
既述のように無線LANの利用可能エリアは限られるため、車両90の利用状況によっては第3送信キューのデータが送信できない状態が続き、第3送信キューの容量が満たされる可能性がある。送信制御部52は、第3送信キューの容量が満たされた場合、第3送信キューのデータの一部を破棄する。破棄するデータは、例えば最も古いパケットのデータであってよいが、特に限定されない。第3送信キューのデータは、他車両からも送信されうるデータであるため、破棄してよい。このようにして、第3送信キューの容量が満たされた状況に対処できる。
【0080】
通信状況監視部48は、次の3つの方式のいずれかを用いてセルラーBDTの利用可否を取得する。
【0081】
(第1の方式)
図5は、セルラーBDTの利用可否を取得するための第1の方式を説明するための図である。第1の方式では、無線通信装置12が定期的に試験する。通信状況監視部48は、定期的に、セルラーBDTを用いてセンタ間通信のラウンドトリップタイムを計測し、計測結果からセルラーBDTを利用可能であるか判定する。通信状況監視部48は、セルラーBDTを用いて所定のパケットをセンタのサーバ20に送信し、当該パケットに応答してサーバ20から戻ってきたパケットをもとに導出されるラウンドトリップタイムが所定時間以下であれば、セルラーBDTを利用可能であると判定する。セルラーBDTを利用不可能な場合、サーバ20からパケットが戻ってこない。
【0082】
図5の例では、1回目と2回目のパケットの送信ではサーバ20までパケットが届かないためパケットが戻っておらず、3回目のパケットの送信でサーバ20までパケットが届いてラウンドトリップ時間が所定時間以下になり、セルラーBDTを利用可能であると判定する。
【0083】
第1の方式は、規格化が不要であり、モバイル網22やセンタのサーバ20に実装する必要がないという利点がある。
【0084】
(第2の方式)
図6は、セルラーBDTの利用可否を取得するための第2の方式を説明するための図である。第2の方式では、サーバ20が、セルラーBDTを利用可能なエリアと時間帯の情報をモバイル網22から取得し、取得した情報を無線通信装置12に通知する。モバイル網22は、4Gの場合、SCEF(Service Capability Exposure Function)を用い、5Gの場合、NEF(Network Exposure Function)を用いて、利用可能なエリアと時間帯の情報をサーバ20に通知する。
【0085】
第2の方式は、3GPP(Third Generation Partnership Project)で規格化が完了しているという利点がある。また、第1の方式より通信の無駄を少なくできる。
【0086】
(第3の方式)
図7は、セルラーBDTの利用可否を取得するための第3の方式を説明するための図である。第3の方式では、モバイル網22がセルラーBDTを利用可能なタイミングを無線通信装置12に直接通知する。モバイル網22は、例えばUE Policyを用いて通知する。第3の方式は、第1および第2の方式より通信の無駄を少なくできる。
【0087】
モバイル網22は、無線通信装置12の通信のデータ量をAPN毎に取得するデータ量取得装置26を有する。データ量取得装置26は、モバイル網22が保持しているAPNの設定情報を参照し、無線通信装置12から送信されたデータのAPNに対応するデータ量カウンタの情報を取得し、その情報で指定されるデータ量カウンタで当該APNに関するデータ量をカウントする。データ量取得装置26は、例えばモバイル網22を管理する通信事業者のサーバ(図示せず)に設けられてもよい。これにより、通信課金のベースとなる通信データ量をAPN毎に保持できる。APN毎の通信データ量を保持できるため、APN毎に通信料金の課金先を指定できる。課金先は、例えば車両メーカー、ユーザが指定する通信事業者などであってよい。
【0088】
次に、以上の構成による無線通信装置12の全体的な動作を説明する。図8は、図1の無線通信装置12のルーティング制御処理を示すフローチャートである。図8の処理は繰り返し実行される。
【0089】
取得部44は、送信対象のデータを取得し(S10)、特定部50は、送信対象のデータのAPNを設定し(S12)、そのデータの優先度を特定する(S14)。送信制御部52は、優先度が「高」であれば(S16)、データを第1送信キューに格納し(S18)、優先度が「低」であれば(S16)、データを第2送信キューに格納し(S20)、優先度が「なし」であれば(S16)、データを第3送信キューに格納する(S22)。
【0090】
図9は、図1の無線通信装置12の第1送信キューのデータ送信処理を示すフローチャートである。図9の処理は、第1送信キューにデータが格納されると実行される。
【0091】
セルラーMBBが利用可能であり(S30のY)、第2送信キューのデータをセルラーMBBで送信中でなければ(S32のN)、送信制御部52は、第1送信キューのデータをセルラーMBBで送信し(S34)、処理を終了する。
【0092】
第2送信キューのデータをセルラーMBBで送信している場合(S32のY)、送信制御部52は、第2送信キューのデータ送信を中断し(S36)、第1送信キューのデータをセルラーMBBで送信し(S38)、その送信の終了後、第2送信キューのデータ送信を再開し(S40)、処理を終了する。S30でセルラーMBBが利用可能でない場合(S30のN)、処理を終了する。なお、セルラーMBBが利用可能でない場合(S30のN)、S30に戻ってもよい。
【0093】
図10は、図1の無線通信装置12の第2送信キューのデータ送信処理を示すフローチャートである。図10の処理は、第2送信キューにデータが格納されると実行される。
【0094】
無線LANが利用可能であり(S50のY)、第3送信キューのデータを無線LANで送信中でなければ(S52のN)、送信制御部52は、第2送信キューのデータを無線LANで送信し(S54)、処理を終了する。
【0095】
第3送信キューのデータを無線LANで送信している場合(S52のY)、送信制御部52は、第3送信キューのデータ送信を中断し(S56)、第2送信キューのデータを無線LANで送信し(S58)、その送信の終了後、第3送信キューのデータ送信を再開し(S60)、処理を終了する。
【0096】
S50で無線LANが利用可能でない場合(S50のN)、第1条件が満たされ(S62のY)、セルラーBDTが利用可能であれば(S64のY)、送信制御部52は、第2送信キューのデータをセルラーBDTで送信し(S66)、処理を終了する。第1条件が満たされない場合(S62のN)、S50に戻る。
【0097】
セルラーBDTが利用可能でない場合(S64のN)、第2条件が満たされ(S68のY)、セルラーMBBが利用可能であれば(S70のY)、送信制御部52は、第2送信キューのデータをセルラーMBBで送信し(S72)、処理を終了する。第2条件が満たされない場合(S68のN)、S50に戻る。セルラーMBBが利用可能でない場合(S70のN)、処理を終了する。なお、セルラーMBBが利用可能でない場合(S70のN)、S50またはS70に戻ってもよい。
【0098】
図11は、図1の無線通信装置12の第3送信キューのデータ送信処理を示すフローチャートである。図11の処理は、第3送信キューにデータが格納されると実行される。
【0099】
無線LANが利用可能であり(S80のY)、第2送信キューのデータを無線LANで送信していない場合(S82のN)、送信制御部52は、第3送信キューのデータを無線LANで送信し(S84)、処理を終了する。無線LANが利用可能でない場合(S80のN)、または、第2送信キューのデータを無線LANで送信している場合(S82のY)、S80に戻る。
【0100】
本実施の形態によれば、送信対象のデータの優先度を特定し、その優先度にもとづいてデータの送信に用いる無線通信サービスを決定するので、送信対象のデータに合った通信コストとリアルタイム性を有する無線通信サービスを決定できる。よって、サービスの質の低下を抑制しつつ、通信コストを削減できる。
【0101】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。実施の形態はあくまでも例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0102】
たとえば、サーバ20は、所定期間が経過しても第3送信キューで送信されるべきデータのうち特定のデータが集まらない場合、このデータを第2送信キューで送信するよう複数の無線通信装置12に指示してもよい。無線LANを利用可能な車両90は限られるため、集まらないデータが生じる可能性があるが、この変形例によれば、データを集めやすくできる。
【0103】
第1条件における第1時間は、無線通信装置12毎、即ち車両90毎に設定してもよい。例えば、車庫で無線LANが利用可能な状況で、1日に1回は車庫に駐車される第1車両、3日に1回車庫に駐車される第2車両が存在する場合、第1時間が2日であれば第2車両は無線LANで送信できない。そこで、第2車両では第1時間を3日より長くして、無線LANで送信できるようにしてもよい。この変形例によれば、車両90の利用状況に合わせて、優先度が低いデータをより低コストで送信しやすくなる。
【0104】
実施の形態では無線通信装置12は車両90に搭載されるが、これに限らず、無線通信装置12はスマートフォン、タブレット端末または携帯電話機等に搭載されてもよいし、ドローン等の車両以外の移動体に搭載されてもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…無線通信システム、10…車載装置、12…無線通信装置、14…ECU、20…サーバ、22…モバイル網、24…ネットワーク、26…データ量取得装置、28a,28b…ゲートウェイ、40…記憶部、42…通信部、44…取得部、46…ルーティング制御部、48…通信状況監視部、50…特定部、52…送信制御部、90…車両。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11