(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】内燃機関の失火判定装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20230912BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D29/02 K
(21)【出願番号】P 2020172955
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉本 仁己
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-070255(JP,A)
【文献】特開2016-210241(JP,A)
【文献】特開2014-234737(JP,A)
【文献】特開2014-062496(JP,A)
【文献】特開2009-299662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のクランク角の範囲が失火判定期間として設定されており、その失火判定期間内における内燃機関の出力軸トルクの平均値を算出する算出処理と、
算出した前記平均値が規定の閾値未満である場合に失火が生じたと判定する失火判定処理と、
前記失火判定期間の全期間を、失火が生じていない正常燃焼時に前記出力軸トルクが0以上のトルクとなるクランク角の範囲である正トルク範囲内の期間に設定する処理と、を実行
し、
機関負荷が小さいときほど前記正トルク範囲の終点を早い時期に設定する処理を実行する
内燃機関の失火判定装置。
【請求項2】
所定のクランク角の範囲が失火判定期間として設定されており、その失火判定期間内における内燃機関の出力軸トルクの平均値を算出する算出処理と、
算出した前記平均値が規定の閾値未満である場合に失火が生じたと判定する失火判定処理と、
前記失火判定期間の全期間を、失火が生じていない正常燃焼時に前記出力軸トルクが0以上のトルクとなるクランク角の範囲である正トルク範囲内の期間に設定する処理と、を実行
し、
前記内燃機関の点火時期が早いときほど前記正トルク範囲の終点を早い時期に設定する処理を実行する
内燃機関の失火判定装置。
【請求項3】
前記正トルク範囲の起点は、圧縮上死点から規定の範囲内におけるクランク角であって前記出力軸トルクが負のトルクから0以上のトルクに変わるタイミングのクランク角である
請求項1又は2に記載
の内燃機関の失火判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の失火判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の失火判定装置は、所定のクランク角の範囲が失火判定期間として設定されており、その失火判定期間内における内燃機関の出力軸トルクの平均値を算出する。そして、算出した出力軸トルクの平均値が規定の閾値未満である場合に失火が生じたと判定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、出力軸トルクが小さい運転状態では、正常燃焼時における出力軸トルクの平均値と失火判定用の閾値との差が小さくなるため、正常に燃焼しているにもかかわらず失火が発生したと誤判定してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する内燃機関の失火判定装置は、所定のクランク角の範囲が失火判定期間として設定されており、その失火判定期間内における内燃機関の出力軸トルクの平均値を算出する算出処理と、算出した前記平均値が規定の閾値未満である場合に失火が生じたと判定する失火判定処理と、前記失火判定期間の全期間を、失火が生じていない正常燃焼時に前記出力軸トルクが0以上のトルクとなるクランク角の範囲である正トルク範囲内の期間に設定する処理と、を実行する。
【0006】
上記出力軸トルクは、膨張行程の気筒で生じる正のトルクである燃焼トルクと圧縮行程の気筒で生じる負のトルクである圧縮トルクとの合成トルクである。
ここで、膨張行程の後半では、燃焼トルクは小さくなる一方、圧縮トルクは大きくなるため、上記出力軸トルクは負になる。この出力軸トルクが負になるクランク角の範囲が失火判定期間に含まれていると、算出される上記平均値の値が小さくなる。特に、出力軸トルクが小さい運転状態では、出力軸トルクが大きい運転状態と比べて上記平均値の値が小さくなるため、当該平均値が失火判定用の閾値未満になる可能性が高い。
【0007】
この点、同構成では、失火が生じていない正常燃焼時に前記出力軸トルクが0以上のトルクとなるクランク角の範囲内に失火判定期間の全期間が設定される。つまり、正常燃焼時において出力軸トルクが負となるクランク角の範囲が失火判定期間からは除かれるため、出力軸トルクが小さい運転状態において上記平均値が小さくなることが抑えられる。従って、正常に燃焼しているにもかかわらず失火が発生したと誤判定されることを抑えることができる。
【0008】
また、上記失火判定装置において、機関負荷が小さいときほど前記正トルク範囲の終点を早い時期に設定する処理を実行してもよい。
機関負荷が小さくなると、膨張行程の気筒で生じる正のトルクである燃焼トルクが小さくなるため、この燃焼トルクが、圧縮行程の気筒で生じる負のトルクである圧縮トルクを下回るタイミングが早くなる。この点、同構成では、そうしたタイミングの変化に合わせて正トルク範囲の終点が設定されるため、そうした正トルク範囲内の期間として設定される失火判定期間も適切に設定することができる。
【0009】
また、上記失火判定装置において、前記内燃機関の点火時期が早いときほど前記正トルク範囲の終点を早い時期に設定する処理を実行してもよい。
内燃機関の点火時期が早くなると、膨張行程の気筒で生じる正のトルクである燃焼トルクが、圧縮行程の気筒で生じる負のトルクである圧縮トルクを下回るタイミングが早くなる。この点、同構成では、そうしたタイミングの変化に合わせて正トルク範囲の終点が設定されるため、そうした正トルク範囲内の期間として設定される失火判定期間も適切に設定することができる。
【0010】
また、上記正トルク範囲の起点としては、圧縮上死点から規定の範囲内におけるクランク角であって前記出力軸のトルクが負のトルクから0以上のトルクに変わるタイミングのクランク角としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態にかかる内燃機関の駆動系及び制御装置の構成を示す図。
【
図2】1燃焼サイクルにおける出力軸のトルク変化を示すグラフ。
【
図3】機関負荷率及び点火時期と終点との関係を示すグラフ。
【
図4】同実施形態にかかる制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、車両500に搭載された内燃機関10は、4つの気筒#1~#4を備える。内燃機関10の吸気通路12には、スロットルバルブ14が設けられている。吸気通路12の下流部分である吸気ポート12aには、吸気ポート12aに燃料を噴射するポート噴射弁16が設けられている。吸気通路12に吸入された空気やポート噴射弁16から噴射された燃料は、吸気バルブ18の開弁に伴って、燃焼室20に流入する。燃焼室20には、筒内噴射弁22から燃料が噴射される。また、燃焼室20内の空気と燃料との混合気は、点火プラグ24の火花放電に伴って燃焼に供される。そのときに生成される燃焼エネルギは、出力軸26の回転エネルギに変換される。
【0013】
燃焼室20において燃焼に供された混合気は、排気バルブ28の開弁に伴って、排気として排気通路30に排出される。排気通路30には、酸素吸蔵能力を有した三元触媒32と、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF34)とが設けられている。なお、本実施形態では、GPF34として、PMを捕集するフィルタに三元触媒が担持されたものを想定している。
【0014】
出力軸26は、動力分割装置を構成する遊星歯車機構50のキャリアCに機械的に連結されている。遊星歯車機構50のサンギアSには、第1モータジェネレータ52の回転軸52aが機械的に連結されている。また、遊星歯車機構50のリングギアRには、第2モータジェネレータ54の回転軸54aと駆動輪60とが機械的に連結されている。第1モータジェネレータ52の端子には、インバータ56によって交流電圧が印加される。また、第2モータジェネレータ54の端子には、インバータ58によって交流電圧が印加される。こうした構成を備える車両500では、内燃機関10及び第1モータジェネレータ52からのトルクが出力軸26に作用する。
【0015】
制御装置70は、内燃機関10を制御対象とし、その制御量としてのトルクや排気成分比率等を制御するために、スロットルバルブ14、ポート噴射弁16、筒内噴射弁22、および点火プラグ24等の内燃機関10の操作部を操作する。また、制御装置70は、第1モータジェネレータ52を制御対象とし、その制御量である回転速度を制御すべく、インバータ56を操作する。また、制御装置70は、第2モータジェネレータ54を制御対象とし、その制御量であるトルクを制御すべくインバータ58を操作する。
図1には、スロットルバルブ14、ポート噴射弁16、筒内噴射弁22、点火プラグ24、およびインバータ56,58のそれぞれの操作信号MS1~MS6を記載している。
【0016】
制御装置70は、内燃機関10の制御量を制御するために、エアフローメータ80によって検出される吸入空気量Ga、クランク角センサ82の出力信号Scr、水温センサ86によって検出される水温THW、および排気圧センサ88によって検出されるGPF34に流入する排気の圧力Pexを参照する。また、制御装置70は、第1モータジェネレータ52や第2モータジェネレータ54の制御量を制御するために、第1モータジェネレータ52の回転角を検知する第1回転角センサ90の出力信号Sm1、および第2モータジェネレータ54の回転角を検知する第2回転角センサ92の出力信号Sm2を参照する。また、制御装置70は、内燃機関10、第1モータジェネレータ52および第2モータジェネレータ54の制御量を制御するために、アクセルセンサ94によって検出されるアクセルペダルの踏み込み量であるアクセル操作量ACCPや、車速センサ95によって検出される車両500の車速である車速SPを参照する。
【0017】
制御装置70は、クランク角センサ82の出力信号Scrに基づいて出力軸26の角速度ωEや、機関回転速度NEを算出する。また、制御装置70は、第1回転角センサ90の出力信号Sm1に基づいて第1モータジェネレータ52が有するロータの角速度ωGを算出する。また、制御装置70は、機関回転速度NE及び吸入空気量Gaに基づいて、機関負荷率KLを算出する。ここで、機関負荷率KLとは、現状の機関回転速度NEにおいてスロットルバルブ14を全開とした状態で内燃機関10を定常運転したときの気筒流入空気量に対する、現在の気筒流入空気量の比率を表している。なお、気筒流入空気量は、吸気行程において各気筒に流入する吸気の量である。
【0018】
制御装置70は、CPU72、ROM74、記憶装置75、および周辺回路76を備えており、それらが通信線78によって通信可能とされている。ここで、周辺回路76は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路や、電源回路、リセット回路等を含む。制御装置70は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72が実行することにより制御量を制御する。
【0019】
例えば、制御装置70は、アクセル操作量ACCP及び車速SPに基づいて、車両500の要求トルクを算出する。また、制御装置70は、車両500が要求トルクを満たすように内燃機関10、第1モータジェネレータ52、及び第2モータジェネレータ54の出力トルクを制御する。
【0020】
また、制御装置70は、機関回転速度NE及び機関負荷率KL等に基づいて内燃機関10の点火時期AFINを設定し、その設定された点火時期AFINにおいて放電が起きるように点火プラグ24の放電制御を実施する。
【0021】
また、制御装置70は、内燃機関10の失火を判定する処理を実行する。こうした失火判定の処理を実行する制御装置70は、失火判定装置を構成している。
以下、失火判定について説明する。
【0022】
図2に示すように、本実施形態では、各気筒の膨張行程において失火を判定する期間である失火判定期間HPが設定されている。そして、制御装置70は、その失火判定期間HP内における出力軸26のトルクTEを逐次算出して、その算出したトルクTEの平均値であるトルク平均値TEAを算出する。そして、そのトルク平均値TEAが閾値TEAref未満である場合には、当該トルク平均値TEAが算出された膨張行程の気筒において失火が発生したと判定する。
【0023】
ここで、出力軸26のトルクは、膨張行程の気筒で生じる正のトルクである燃焼トルクと圧縮行程の気筒で生じる負のトルクである圧縮トルクとの合成トルクであるが、膨張行程の後半では、燃焼トルクは小さくなる一方、圧縮トルクは大きくなるため、出力軸26のトルクTEは負になる。このトルクTEが負になるクランク角の範囲が失火判定期間HPに含まれていると、算出されるトルク平均値TEAの値が小さくなる。特に、アイドル運転などのように、出力軸26のトルクが小さい運転状態では、出力軸26のトルクが大きい運転状態と比べてトルク平均値TEAの値が小さくなるため、当該トルク平均値TEAが失火判定用の閾値TEAref未満になる可能性が高い。つまり、正常に燃焼しているにもかかわらず失火が発生したと誤判定されるおそれがある。
【0024】
そこで、
図2に示すように、本実施形態では、失火が生じていない正常燃焼時に出力軸26のトルクが0以上のトルクとなるクランク角の範囲である正トルク範囲Rが予め求められており、そうした正トルク範囲R内に失火判定期間HPの全期間が含まれるように当該失火判定期間HPを設定している。
【0025】
一例として、本実施形態では、正トルク範囲Rと失火判定期間HPとが一致するように、つまり正トルク範囲Rの起点Rsを失火判定期間HPの開始時期HPsとし、正トルク範囲Rの終点Reを失火判定期間HPの終了時期HPeとして設定するようにしている。
【0026】
正トルク範囲Rの起点は、圧縮上死点TDCから規定の範囲内におけるクランク角であって出力軸26のトルクが負のトルクから0以上のトルクに変わるタイミングのクランク角である。例えば、各気筒の圧縮上死点TDCでは、2つの気筒が上死点、他の2つの気筒が下死点となり、いずれの気筒においてもピストン速度はほぼ「0」になるため、出力軸26のトルクは「0」になる。従って、正トルク範囲Rの起点Rsとして、本実施形態では、圧縮上死点TDCを設定している。なお、トルクが「0」になる時期のずれなどを考慮した場合、正トルク範囲Rの起点Rsとして、圧縮上死点TDCに所定のクランク角(例えば0~30°CA程度)を加算したクランク角を設定してもよい。また、こうした正トルク範囲Rの起点設定は、気筒数によらず同じにしてよい。
【0027】
一方、正トルク範囲Rの終点Reは、機関負荷率KLや点火時期AFINにより変化する。
すなわち、機関負荷率KLが小さいときには、膨張行程の気筒で生じる燃焼トルクが小さくなるため、この燃焼トルクが圧縮トルクを下回るタイミングが早くなる。つまり、機関負荷率KLが小さいときほど正トルク範囲Rの終点Reは早い時期になる。
【0028】
そこで、
図3に示すように、機関負荷率KLが小さいときほど、上記終点Reに一致する上記終了時期HPeは早い時期となるように、当該終了時期HPeは可変設定される。
また、点火時期AFINについても同様に、同点火時期AFINが早くなって進角側の時期になるほど、燃焼トルクが圧縮トルクを下回るタイミングは早くなる。つまり、点火時期AFINが早いときほど正トルク範囲Rの終点Reは早い時期になる。
【0029】
そこで、
図3に示すように、点火時期AFINが早いときほど、上記終点Reに一致する上記終了時期HPeは早い時期となるように、当該終了時期HPeは可変設定される。
図4に、上述した失火判定を実施するために制御装置70が実行する処理の手順を示す。
図4に示す処理は、ROM74に記憶されたプログラムをCPU72が実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0030】
図4に示す一連の処理において、CPU72は、機関負荷率KL及び点火時期AFINを取得し、その取得した各値に基づいて失火判定期間HPを設定する(S100)。このS100においてCPU72は、失火判定期間HPの全期間を正トルク範囲R内の期間に設定する処理を実行する。より詳細には、失火判定期間HPの開始時期HPsとして上記起点Rsを設定すると共に、失火判定期間HPの終了時期HPeとして上記終点Reを設定する。なお、このときに終了時期HPeとして設定される終点Reは、
図3に示したように、取得した機関負荷率KLや点火時期AFINに基づいて可変設定される。
【0031】
次に、CPU72は、失火判定期間HP内のトルク平均値TEAを算出する(S110)。このS110において、CPU72は、失火判定期間HP内における出力軸26のトルクTEを次式(1)に基づいて逐次算出する。例えば、CPU72は、失火判定期間HP内における出力軸26のトルクTEを1°CA毎に算出する。そして、その算出した複数のトルクTEの平均値であるトルク平均値TEAを算出する。
【0032】
TE=IE*dωE+(1+ρ)/ρ*(IG*dωG-TG)・・・(1)
ここで、IEは内燃機関10の慣性モーメント、dωEは出力軸26の角速度ωEを微分した角加速度、ρは遊星歯車機構50のギア比、IGは第1モータジェネレータ52の慣性モーメント、dωGは第1モータジェネレータ52のロータの角速度ωGを微分した角加速度、TGは第1モータジェネレータ52のトルク反力である。
【0033】
上記(1)の式において、内燃機関10の慣性モーメントIE、第1モータジェネレータ52の慣性モーメントIG、及び遊星歯車機構50の比ρは、それぞれ予めROM74に入力されている物理量であり、定数である。また、第1モータジェネレータ52のトルク反力TGは、制御パラメータとしてCPU72が管理する値であり、常にCPU72に入力されている。
【0034】
次に、CPU72は、算出したトルク平均値TEAが上記閾値TEAref未満であるか否かを判定する(S120)。閾値TEArefは、失火が生じることなく正常に燃焼が行われているときに出力軸26に生じるトルクの下限値であり、機関負荷率KLや点火時期AFINに応じて適切な値が可変設定される。
【0035】
そして、トルク平均値TEAが閾値TEAref以上であると判定する場合には(S120:NO)、CPU72は、今回の本処理を終了する。
一方、トルク平均値TEAが閾値TEAref未満であると判定する場合には(S120:YES)、CPU72は、失火が発生したと判定して(S130)、今回の本処理を終了する。
【0036】
次に、本実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)失火が生じていない正常燃焼時に出力軸26のトルクが0以上のトルクとなるクランク角の範囲内に失火判定期間HPの全期間が設定される。つまり、正常燃焼時において出力軸26のトルクが負となるクランク角の範囲が失火判定期間HPからは除かれるため、出力軸26のトルクが小さい運転状態においてトルク平均値TEAが小さくなることが抑えられる。従って、正常に燃焼しているにもかかわらず失火が発生したと誤判定されることを抑えることができる。
【0037】
(2)上述したように機関負荷が小さくなると、膨張行程の気筒で生じる正のトルクである燃焼トルクが小さくなるため、この燃焼トルクが、圧縮行程の気筒で生じる負のトルクである圧縮トルクを下回るタイミングが早くなる。そこで、本実施形態では、上記S100の処理を通じて、機関負荷率KLが小さいときほど正トルク範囲Rの終点Reを早い時期に設定してこれを失火判定期間HPの終了時期HPeに設定するようにしている。従って、そうしたタイミングの変化に合わせて正トルク範囲Rの終点Reが設定されるため、正トルク範囲内の期間として設定される失火判定期間HPも適切に設定することができる。
【0038】
(3)また、上述したように、内燃機関の点火時期が早くなると、膨張行程の気筒で生じる正のトルクである燃焼トルクが、圧縮行程の気筒で生じる負のトルクである圧縮トルクを下回るタイミングが早くなる。そこで、本実施形態では、上記S100の処理を通じて、点火時期AFINが早いときほど正トルク範囲Rの終点Reを早い時期に設定してこれを失火判定期間HPの終了時期HPeに設定するようにしている。従って、そうしたタイミングの変化に合わせて正トルク範囲Rの終点Reが設定されるため、これによっても正トルク範囲内の期間として設定される失火判定期間HPを適切に設定することができる。
【0039】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0040】
・終点Reを機関負荷率KL及び点火時期AFINの双方に基づいて可変設定するようにしたが、機関負荷率KL及び点火時期AFINのうちのいずれか一方に基づいてを終点Reを可変設定してもよい。
【0041】
・終点Reを固定値としてもよい。なお、この場合には、機関運転状態に応じて変化する終点Reについて最も早い時期を当該終点Reに設定することが好ましい。
・正トルク範囲Rの起点Rsを失火判定期間HPの開始時期HPsとし、正トルク範囲Rの終点Reを失火判定期間HPの終了時期HPeとして設定することにより、正トルク範囲Rと失火判定期間HPとを一致させるようにした。この他、開始時期HPsを起点Rsよりも遅い時期にしたり、終了時期HPeを終点Reよりも早い時期にしたりすることにより、正トルク範囲R内の一部の期間を失火判定期間HPの全期間として設定するようにしてもよい。
【0042】
・上記実施形態では、出力軸26に内燃機関10及び第1モータジェネレータ52からのトルクが作用するものとして説明したが、出力軸26に第2モータジェネレータ54からトルクが作用することもある。この場合、出力軸26のトルクTEを算出するにあたって、第2モータジェネレータ54からのトルク分も考慮すればよい。
【0043】
・上記実施形態において、車両500の構成は上記実施形態の例に限定されない。例えば、第1モータジェネレータ52や第2モータジェネレータ54が搭載されておらず、内燃機関10のみを原動機として搭載する車両であってもよい。なお、こうした内燃機関10のみを搭載する車両の場合、上記(1)の式において(1+ρ)/ρ*(IG*dωG-TG)の項を省略して、出力軸26のトルクを算出してもよい。また、この場合、トルクの作用により出力軸26にかかる反力等を考慮した項を上記(1)の式に追加してもよい。
【0044】
・上記実施形態では、トルクTEの算出に上記(1)の式を利用したが、別の式や方法で算出してもよい。例えば、上記(1)の式におけるトルク反力TGを省略してもよい。
・制御装置70としては、CPU72とROM74とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0045】
・内燃機関の気筒数は4つに限らず、たとえば、6個でもよく、またたとえば8個でもよい。
・内燃機関がポート噴射弁16および筒内噴射弁22を備えることは必須ではない。
【0046】
・内燃機関としては、ガソリン機関のような火花点火式内燃機関に限らず、たとえば燃料を軽油とする圧縮着火式内燃機関等であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
10…内燃機関
26…出力軸
70…制御装置