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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20230912BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230912BHJP
   C08L 71/10 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08G73/10
C08L71/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020519581
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2019018369
(87)【国際公開番号】W WO2019220969
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2018095749
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇希
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敦史
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147996(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/118704(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147997(WO,A1)
【文献】特開2006-008986(JP,A)
【文献】特開平07-133429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08G 73/10
C08L 71/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%であり、重量平均分子量Mwが45,00070,000のポリイミド樹脂(A)、及びポリエーテルケトン系樹脂(B)を含有し、ミクロ相分離構造を有する樹脂成形体であって、前記ポリイミド樹脂(A)と前記ポリエーテルケトン系樹脂(B)との質量比(A/B)が1/99~50/50の範囲である、樹脂成形体。
【化1】

(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。Rは炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【請求項2】
前記ポリイミド樹脂(A)において、前記式(1)の繰り返し構成単位と前記式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する前記式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20モル%以上、40モル%未満である、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記ポリエーテルケトン系樹脂(B)がポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルエーテルケトン樹脂、及びポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記ミクロ相分離構造が海島構造である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
80mm×10mm×厚さ4mmの樹脂成形体において、JIS K7191-1,2:2015に準拠し、荷重0.45MPa、昇温速度120℃/時間の条件にて測定される熱変形温度(HDT)が200℃以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
前記ポリイミド樹脂(A)及び前記ポリエーテルケトン系樹脂(B)を含有する樹脂組成物を射出成形する、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂成形体に関する。詳細には、熱可塑性のポリイミド樹脂とポリエーテルケトン系樹脂とを含有する樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は分子鎖の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合によって、高熱安定性、高強度、高耐溶媒性を有する有用なエンジニアリングプラスチックであり、幅広い分野で応用されている。また結晶性を有しているポリイミド樹脂はその耐熱性、強度、耐薬品性をさらに向上させることができることから、金属代替等としての利用が期待されている。しかしながらポリイミド樹脂は高耐熱性である反面、熱可塑性を示さず、成形加工性が低いという問題がある。
【0003】
ポリイミド成形材料としては高耐熱樹脂ベスペル(登録商標)等が知られているが(特許文献1)、高温下でも流動性が極めて低いため成形加工が困難であり、高温、高圧条件下で長時間成形を行う必要があることからコスト的にも不利である。これに対し、結晶性樹脂のように融点を有し、高温での流動性がある樹脂であれば容易にかつ安価で成形加工が可能である。
【0004】
そこで近年、熱可塑性を有するポリイミド樹脂が報告されている。熱可塑性ポリイミド樹脂はポリイミド樹脂が本来有している耐熱性に加え、成形加工性にも優れる。そのため熱可塑性ポリイミド樹脂は、汎用の熱可塑性樹脂であるナイロンやポリエステルは適用できなかった過酷な環境下で使用される成形体への適用も可能である。
例えば特許文献2には、少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/またはその誘導体、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミン、及び鎖状脂肪族ジアミンを反応させて得られる、所定の繰り返し構成単位を含む熱可塑性ポリイミド樹脂が開示されている。
【0005】
エンジニアリングプラスチック分野において、物性の改良、用途に応じた機能付与等を目的として、2種以上の熱可塑性樹脂をコンパウンドしてアロイ化する技術も知られている。特許文献3には、所定の繰り返し単位を含む熱可塑性ポリイミド樹脂が開示され、該ポリイミド樹脂と他の樹脂とを併用してポリマーアロイとして用いることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-28524号公報
【文献】国際公開第2013/118704号
【文献】国際公開第2016/147996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジニアリングプラスチックに求められる物性は、用途、製品の使用環境によっても大きく異なる。例えば、高耐熱性を有することの指標として熱変形温度(HDT)が高いことが挙げられるが、HDTは測定荷重にも依存することがある。摺動部材のように高荷重環境下で使用される製品であれば高荷重時のHDTが高いことが求められ、低荷重環境下で使用される製品に対しては、低荷重時のHDTが高いことが要求される。
本発明の課題は、ポリイミド樹脂を含有し、特に低荷重環境下での熱変形温度が高く耐熱性に優れる樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の異なるポリイミド構成単位を特定の比率で組み合わせ、かつ特定範囲の重量平均分子量を有するポリイミド樹脂と、ポリエーテルケトン系樹脂とを含有する樹脂成形体が上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%であり、重量平均分子量が40,000~150,000のポリイミド樹脂(A)、及びポリエーテルケトン系樹脂(B)を含有し、ミクロ相分離構造を有する樹脂成形体を提供する。
【化1】

(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。Rは炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂成形体は、特に低荷重環境下での熱変形温度が高く耐熱性に優れるため、例えばスピーカー振動板、保護カバー、搬送用カセット、テストソケット、UDテープ、CFRP部材等の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の樹脂成形体を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察した際の顕微鏡写真である。
図2】実施例2の樹脂成形体をSTEMにより観察した際の顕微鏡写真である。
図3】実施例3の樹脂成形体をSTEMにより観察した際の顕微鏡写真である。
図4】実施例4の樹脂成形体をSTEMにより観察した際の顕微鏡写真である。
図5】比較例1の樹脂成形体をSTEMにより観察した際の顕微鏡写真である。
図6】比較例2の樹脂成形体をSTEMにより観察した際の顕微鏡写真である。
図7】(A1)ポリイミド樹脂1と(B1)ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)とからなる樹脂成形体において、(A1)及び(B1)の合計含有量に対する(A1)の含有量と、HDTとの相関をプロットしたグラフである。
図8】(A1)ポリイミド樹脂1と(b1)ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)とからなる樹脂成形体において、(A1)及び(b1)の合計含有量に対する(A1)の含有量と、HDTとの相関をプロットしたグラフである。
図9】(A1)ポリイミド樹脂1と(b2)ポリエーテルイミド樹脂(ULTEM)とからなる樹脂成形体において、(A1)及び(b2)の合計含有量に対する(A1)の含有量と、HDTとの相関をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%であり、重量平均分子量Mwが40,000~150,000のポリイミド樹脂(A)、及びポリエーテルケトン系樹脂(B)を含有し、ミクロ相分離構造を有する樹脂成形体である。
【化2】

(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。Rは炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
本発明の樹脂成形体は、特定の異なるポリイミド構成単位を上記の特定の比率で組み合わせてなり、かつ重量平均分子量Mwが40,000~150,000のポリイミド樹脂(A)と、ポリエーテルケトン系樹脂(B)とを含有し、かつミクロ相分離構造を有する。これにより、特に低荷重環境下における熱変形温度(HDT)が(A)又は(B)単独での熱変形温度よりも顕著に向上する。この理由については定かではないが、特定構造のポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwが40,000以上であると、ポリイミド樹脂(A)とポリエーテルケトン系樹脂(B)とがミクロ相分離構造を形成しやすくなると考えられる。その結果、本発明の樹脂成形体は、ポリイミド樹脂(A)のみからなる樹脂成形体及びポリエーテルケトン系樹脂(B)のみからなる樹脂成形体とは異なる物性を有する樹脂成形体が得られていると考えられる。
熱可塑性樹脂のHDTは、一般には低荷重環境下と高荷重環境下とで同様の挙動を示す。しかしながら本発明の樹脂成形体のHDTは、低荷重環境下と高荷重環境下とで挙動が異なり、特に低荷重環境下でのHDTが特異的に向上する。したがって例えばポリエーテルケトン系樹脂(B)に代えて他の熱可塑性樹脂をポリイミド樹脂(A)とコンパウンドして樹脂成形体を製造しても、本発明と同様の効果が得られるとは限らない。
【0012】
なお本明細書において「低荷重環境下におけるHDT」とは、荷重0.45MPaの条件で測定したHDTを指し、「高荷重環境下におけるHDT」とは、荷重1.80MPaの条件で測定したHDTを指す。HDTは、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0013】
<ポリイミド樹脂(A)>
本発明に用いるポリイミド樹脂(A)は、下記式(1)で示される繰り返し構成単位及び下記式(2)で示される繰り返し構成単位を含み、該式(1)の繰り返し構成単位と該式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する該式(1)の繰り返し構成単位の含有比が20~70モル%である。
【化3】

(Rは少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。Rは炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基である。X及びXは、それぞれ独立に、少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【0014】
本発明に用いるポリイミド樹脂(A)は熱可塑性樹脂であり、その形態としては粉末又はペレットであることが好ましい。熱可塑性ポリイミド樹脂は、例えばポリアミド酸等のポリイミド前駆体の状態で成形した後にイミド環を閉環して形成される、ガラス転移温度(Tg)を持たないポリイミド樹脂、あるいはガラス転移温度よりも低い温度で分解してしまうポリイミド樹脂とは区別される。
【0015】
式(1)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含む炭素数6~22の2価の基である。ここで、脂環式炭化水素構造とは、脂環式炭化水素化合物から誘導される環を意味し、該脂環式炭化水素化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、単環であっても多環であってもよい。
脂環式炭化水素構造としては、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環、シクロヘキセン等のシクロアルケン環、ノルボルナン環等のビシクロアルカン環、及びノルボルネン等のビシクロアルケン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはシクロアルカン環、より好ましくは炭素数4~7のシクロアルカン環、さらに好ましくはシクロヘキサン環である。
の炭素数は6~22であり、好ましくは8~17である。
は脂環式炭化水素構造を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0016】
は、好ましくは下記式(R1-1)又は(R1-2)で表される2価の基である。
【化4】

(m11及びm12は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。m13~m15は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。)
【0017】
は、特に好ましくは下記式(R1-3)で表される2価の基である。
【化5】

なお、上記の式(R1-3)で表される2価の基において、2つのメチレン基のシクロヘキサン環に対する位置関係はシスであってもトランスであってもよく、またシスとトランスの比は如何なる値でもよい。
【0018】
は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
の炭素数は6~22であり、好ましくは6~18である。
は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
【0019】
は、好ましくは下記式(X-1)~(X-4)のいずれかで表される4価の基である。
【化6】

(R11~R18は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基である。p11~p13は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0である。p14、p15、p16及びp18は、それぞれ独立に、0~3の整数であり、好ましくは0である。p17は0~4の整数であり、好ましくは0である。L11~L13は、それぞれ独立に、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。)
なお、Xは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基であるので、式(X-2)におけるR12、R13、p12及びp13は、式(X-2)で表される4価の基の炭素数が10~22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(X-3)におけるL11、R14、R15、p14及びp15は、式(X-3)で表される4価の基の炭素数が12~22の範囲に入るように選択され、式(X-4)におけるL12、L13、R16、R17、R18、p16、p17及びp18は、式(X-4)で表される4価の基の炭素数が18~22の範囲に入るように選択される。
【0020】
は、特に好ましくは下記式(X-5)又は(X-6)で表される4価の基である。
【化7】
【0021】
次に、式(2)の繰り返し構成単位について、以下に詳述する。
は炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基であり、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10である。ここで、鎖状脂肪族基とは、鎖状脂肪族化合物から誘導される基を意味し、該鎖状脂肪族化合物は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
は、好ましくは炭素数5~16のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数6~14、更に好ましくは炭素数7~12のアルキレン基であり、なかでも好ましくは炭素数8~10のアルキレン基である。前記アルキレン基は、直鎖アルキレン基であっても分岐アルキレン基であってもよいが、好ましくは直鎖アルキレン基である。
は、好ましくはオクタメチレン基及びデカメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、特に好ましくはオクタメチレン基である。
【0022】
また、Rの別の好適な様態として、エーテル基を含む炭素数5~16の2価の鎖状脂肪族基が挙げられる。該炭素数は、好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10である。その中でも好ましくは下記式(R2-1)又は(R2-2)で表される2価の基である。
【化8】

(m21及びm22は、それぞれ独立に、1~15の整数であり、好ましくは1~13、より好ましくは1~11、更に好ましくは1~9である。m23~m25は、それぞれ独立に、1~14の整数であり、好ましくは1~12、より好ましくは1~10、更に好ましくは1~8である。)
なお、Rは炭素数5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の2価の鎖状脂肪族基であるので、式(R2-1)におけるm21及びm22は、式(R2-1)で表される2価の基の炭素数が5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m21+m22は5~16(好ましくは6~14、より好ましくは7~12、更に好ましくは8~10)である。
同様に、式(R2-2)におけるm23~m25は、式(R2-2)で表される2価の基の炭素数が5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)の範囲に入るように選択される。すなわち、m23+m24+m25は5~16(好ましくは炭素数6~14、より好ましくは炭素数7~12、更に好ましくは炭素数8~10)である。
【0023】
は、式(1)におけるXと同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0024】
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20~70モル%である。式(1)の繰り返し構成単位の含有比が上記範囲である場合、一般的な射出成型サイクルにおいても、ポリイミド樹脂を十分に結晶化させ得ることが可能となる。該含有量比が20モル%未満であると成形加工性が低下し、70モル%を超えると結晶性が低下するため、耐熱性が低下する。
式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(1)の繰り返し構成単位の含有比は、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは65モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下である。
中でも、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する式(1)の繰り返し構成単位の含有比は20モル%以上、40モル%未満であることが好ましい。この範囲であるとポリイミド樹脂(A)の結晶性が高くなり、より耐熱性に優れる樹脂成形体を得ることができる。
上記含有比は、成形加工性の観点からは、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、より更に好ましくは35モル%以下である。
【0025】
ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位に対する、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計の含有比は、好ましくは50~100モル%、より好ましくは75~100モル%、更に好ましくは80~100モル%、より更に好ましくは85~100モル%である。
【0026】
ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(3)の繰り返し構成単位を含有してもよい。その場合、式(1)の繰り返し構成単位と式(2)の繰り返し構成単位の合計に対する、式(3)の繰り返し構成単位の含有比は、好ましくは25モル%以下である。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記含有比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
【化9】

(Rは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。Xは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
【0027】
は少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基である。前記芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、及びテトラセン環が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環及びナフタレン環であり、より好ましくはベンゼン環である。
の炭素数は6~22であり、好ましくは6~18である。
は芳香環を少なくとも1つ含み、好ましくは1~3個含む。
また、前記芳香環には1価もしくは2価の電子求引性基が結合していてもよい。1価の電子求引性基としてはニトロ基、シアノ基、p-トルエンスルホニル基、ハロゲン、ハロゲン化アルキル基、フェニル基、アシル基などが挙げられる。2価の電子求引性基としては、フッ化アルキレン基(例えば-C(CF-、-(CF-(ここで、pは1~10の整数である))のようなハロゲン化アルキレン基のほかに、-CO-、-SO-、-SO-、-CONH-、-COO-などが挙げられる。
【0028】
は、好ましくは下記式(R3-1)又は(R3-2)で表される2価の基である。
【化10】

(m31及びm32は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。m33及びm34は、それぞれ独立に、0~2の整数であり、好ましくは0又は1である。R21、R22、及びR23は、それぞれ独立に、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、又は炭素数2~4のアルキニル基である。p21、p22及びp23は0~4の整数であり、好ましくは0である。L21は、単結合、エーテル基、カルボニル基又は炭素数1~4のアルキレン基である。)
なお、Rは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の2価の基であるので、式(R3-1)におけるm31、m32、R21及びp21は、式(R3-1)で表される2価の基の炭素数が6~22の範囲に入るように選択される。
同様に、式(R3-2)におけるL21、m33、m34、R22、R23、p22及びp23は、式(R3-2)で表される2価の基の炭素数が12~22の範囲に入るように選択される。
【0029】
は、式(1)におけるXと同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0030】
ポリイミド樹脂(A)は、さらに、下記式(4)で示される繰り返し構成単位を含有してもよい。
【化11】

(Rは-SO-又は-Si(R)(R)O-を含む2価の基であり、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1~3の鎖状脂肪族基又はフェニル基を表す。Xは少なくとも1つの芳香環を含む炭素数6~22の4価の基である。)
は、式(1)におけるXと同様に定義され、好ましい様態も同様である。
【0031】
ポリイミド樹脂(A)の末端構造には特に制限はないが、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を末端に有することが好ましい。
該鎖状脂肪族基は、飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよい。ポリイミド樹脂(A)が上記特定の基を末端に有すると、耐熱老化性に優れる樹脂成形体を得ることができる。
炭素数5~14の飽和鎖状脂肪族基としては、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、ラウリル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルペンチル基、2-メチルヘキシル基、2-エチルペンチル基、3-エチルペンチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、イソノニル基、2-エチルオクチル基、イソデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基等が挙げられる。
炭素数5~14の不飽和鎖状脂肪族基としては、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、1-へキセニル基、2-へキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、1-オクテニル基、2-オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基等が挙げられる。
中でも、上記鎖状脂肪族基は飽和鎖状脂肪族基であることが好ましく、飽和直鎖状脂肪族基であることがより好ましい。また耐熱老化性を得る観点から、上記鎖状脂肪族基は好ましくは炭素数6以上、より好ましくは炭素数7以上、更に好ましくは炭素数8以上であり、好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数10以下、更に好ましくは炭素数9以下である。上記鎖状脂肪族基は1種のみでもよく、2種以上でもよい。
上記鎖状脂肪族基は、特に好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デシル基、及びイソデシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、及びイソノニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn-オクチル基、イソオクチル基、及び2-エチルヘキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
またポリイミド樹脂(A)は、耐熱老化性の観点から、末端アミノ基及び末端カルボキシ基以外に、炭素数5~14の鎖状脂肪族基のみを末端に有することが好ましい。上記以外の基を末端に有する場合、その含有量は、好ましくは炭素数5~14の鎖状脂肪族基に対し10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0032】
ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、優れた耐熱老化性を発現する観点から、ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、更に好ましくは0.2モル%以上である。また、十分な分子量を確保し良好な機械的物性を得るためには、ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A)を構成する全繰り返し構成単位の合計100モル%に対し、好ましくは10モル%以下、より好ましくは6モル%以下、更に好ましくは3.5モル%以下、より更に好ましくは2.0モル%以下、より更に好ましくは1.2モル%以下である。
ポリイミド樹脂(A)中の上記炭素数5~14の鎖状脂肪族基の含有量は、ポリイミド樹脂(A)を解重合することにより求めることができる。
【0033】
ポリイミド樹脂(A)は、360℃以下の融点を有し、かつ150℃以上のガラス転移温度を有することが好ましい。ポリイミド樹脂(A)の融点は、耐熱性の観点から、より好ましくは280℃以上、更に好ましくは290℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは345℃以下、より好ましくは340℃以下、更に好ましくは335℃以下である。また、ポリイミド樹脂(A)のガラス転移温度は、耐熱性の観点から、より好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上であり、高い成形加工性を発現する観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
ポリイミド樹脂の融点、ガラス転移温度は、いずれも示差走査型熱量計により測定することができる。
またポリイミド樹脂(A)は、結晶性、耐熱性、機械的強度、耐薬品性を向上させる観点から、示差走査型熱量計測定により、該ポリイミド樹脂を溶融後、降温速度20℃/分で冷却した際に観測される結晶化発熱ピークの熱量(以下、単に「結晶化発熱量」ともいう)が、5.0mJ/mg以上であることが好ましく、10.0mJ/mg以上であることがより好ましく、17.0mJ/mg以上であることが更に好ましい。結晶化発熱量の上限値は特に限定されないが、通常、45.0mJ/mg以下である。
ポリイミド樹脂の融点、ガラス転移温度、結晶化発熱量は、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0034】
ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、40,000~150,000であり、好ましくは40,000~100,000、より好ましくは42,000~80,000、更に好ましくは45,000~70,000、より更に好ましくは45,000~65,000の範囲である。ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwが40,000以上であれば樹脂成形体においてミクロ相分離構造が形成されやすくなり、低荷重環境下でのHDTが向上し、機械的強度も良好になる。またMwが150,000以下であれば、成形加工性が良好である。
ポリイミド樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を標準試料としてゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
【0035】
ポリイミド樹脂(A)の5質量%濃硫酸溶液の30℃における対数粘度は、好ましくは0.8~2.0dL/g、より好ましくは0.9~1.8dL/gの範囲である。対数粘度が0.8dL/g以上であれば、得られる樹脂成形体においてミクロ相分離構造を形成しやすくなり、また十分な機械的強度が得られる。対数粘度が2.0dL/g以下であると、成形加工性及び取り扱い性が良好になる。対数粘度μは、キャノンフェンスケ粘度計を使用して、30℃において濃硫酸及び上記ポリイミド樹脂溶液の流れる時間をそれぞれ測定し、下記式から求められる。
μ=ln(ts/t)/C
:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5(g/dL)
【0036】
(ポリイミド樹脂(A)の製造方法)
ポリイミド樹脂(A)は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させることにより製造することができる。該テトラカルボン酸成分は少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体を含有し、該ジアミン成分は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミン及び鎖状脂肪族ジアミンを含有する。
【0037】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸は4つのカルボキシ基が直接芳香環に結合した化合物であることが好ましく、構造中にアルキル基を含んでいてもよい。また前記テトラカルボン酸は、炭素数6~26であるものが好ましい。前記テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸等が好ましい。これらの中でもピロメリット酸がより好ましい。
【0038】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の誘導体としては、少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の無水物又はアルキルエステル体が挙げられる。前記テトラカルボン酸誘導体は、炭素数6~38であるものが好ましい。テトラカルボン酸の無水物としては、ピロメリット酸一無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸のアルキルエステル体としては、ピロメリット酸ジメチル、ピロメリット酸ジエチル、ピロメリット酸ジプロピル、ピロメリット酸ジイソプロピル、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジメチル等が挙げられる。上記テトラカルボン酸のアルキルエステル体において、アルキル基の炭素数は1~3が好ましい。
【0039】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸及び/又はその誘導体は、上記から選ばれる少なくとも1つの化合物を単独で用いてもよく、2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの炭素数は6~22が好ましく、例えば、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、カルボンジアミン、リモネンジアミン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン等が好ましい。これらの化合物を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好適に使用できる。なお、脂環式炭化水素構造を含むジアミンは一般的には構造異性体を持つが、シス体/トランス体の比率は限定されない。
【0041】
鎖状脂肪族ジアミンは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数は5~16が好ましく、6~14がより好ましく、7~12が更に好ましい。また、鎖部分の炭素数が5~16であれば、その間にエーテル結合を含んでいてもよい。鎖状脂肪族ジアミンとして例えば1,5-ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタン-1,5-ジアミン、3-メチルペンタン-1,5-ジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、1,13-トリデカメチレンジアミン、1,14-テトラデカメチレンジアミン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチレンアミン)等が好ましい。
鎖状脂肪族ジアミンは1種類あるいは複数を混合して使用してもよい。これらのうち、炭素数が8~10の鎖状脂肪族ジアミンが好適に使用でき、特に1,8-オクタメチレンジアミン及び1,10-デカメチレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用できる。
【0042】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの仕込み量のモル比は20~70モル%であることが好ましい。該モル量は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%未満、更に好ましくは35モル%以下である。
【0043】
また、上記ジアミン成分中に、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンを含有してもよい。少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの炭素数は6~22が好ましく、例えば、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2-ジエチニルベンゼンジアミン、1,3-ジエチニルベンゼンジアミン、1,4-ジエチニルベンゼンジアミン、1,2-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0044】
上記において、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの仕込み量のモル比は、25モル%以下であることが好ましい。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記モル比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
また、前記モル比は、ポリイミド樹脂の着色を少なくする観点からは、好ましくは12モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは0モル%である。
【0045】
ポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0046】
またポリイミド樹脂(A)を製造する際、前記テトラカルボン酸成分、前記ジアミン成分の他に、末端封止剤を混合してもよい。末端封止剤としては、モノアミン類及びジカルボン酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。末端封止剤の使用量は、ポリイミド樹脂(A)中に所望量の末端基を導入できる量であればよく、前記テトラカルボン酸及び/又はその誘導体1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、0.001~0.06モルがより好ましく、0.002~0.035モルが更に好ましく、0.002~0.020モルがより更に好ましく、0.002~0.012モルがより更に好ましい。
モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、ラウリルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、イソペンチルアミン、ネオペンチルアミン、2-メチルペンチルアミン、2-メチルヘキシルアミン、2-エチルペンチルアミン、3-エチルペンチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エチルヘキシルアミン、イソノニルアミン、2-エチルオクチルアミン、イソデシルアミン、イソドデシルアミン、イソトリデシルアミン、イソテトラデシルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、3-エチルベンジルアミン、アニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン等が挙げられる。
ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部が閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロへキセン-1,2-ジカルボン酸等が挙げられる。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好ましい。
これらの末端封止剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
中でも、モノアミン類末端封止剤が好ましく、ポリイミド樹脂(A)の末端に前述した炭素数5~14の鎖状脂肪族基を導入して耐熱老化性を向上させる観点から、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を有するモノアミンがより好ましく、炭素数5~14の飽和直鎖状脂肪族基を有するモノアミンが更に好ましい。上記鎖状脂肪族基は、好ましくは炭素数6以上、より好ましくは炭素数7以上、更に好ましくは炭素数8以上であり、好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数10以下、更に好ましくは炭素数9以下である。モノアミンが有する鎖状脂肪族基の炭素数が5以上であれば、ポリイミド樹脂(A)の製造時に当該モノアミンが揮発し難いため好ましい。
末端封止剤は、特に好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、イソノニルアミン、n-デシルアミン、及びイソデシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、及びイソノニルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、及び2-エチルヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0047】
ポリイミド樹脂(A)を製造するための重合方法としては、公知の重合方法が適用でき、特に限定されないが、例えば溶液重合、溶融重合、固相重合、懸濁重合法等が挙げられる。この中で特に有機溶媒を用いた高温条件下における懸濁重合が好ましい。高温条件下における懸濁重合を行う際は、150℃以上で重合を行うのが好ましく、180~250℃で行うのがより好ましい。重合時間は使用するモノマーにより適宜変更するが、0.1~6時間程度行うのが好ましい。
【0048】
ポリイミド樹脂(A)の製造方法としては、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分とを、下記式(I)で表されるアルキレングリコール系溶媒を含む溶媒の存在下で反応させる工程を含むことが好ましい。これにより、取り扱い性に優れる粉末状のポリイミド樹脂を得ることができる。
【化12】

(Raは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、Raは炭素数2~6の直鎖のアルキレン基であり、nは1~3の整数である。)
均一な粉末状のポリイミド樹脂を得るには、ワンポットの反応において(1)ポリアミド酸を均一に溶解させる、あるいはナイロン塩を均一に分散させる、(2)ポリイミド樹脂を全く溶解、膨潤させない、の二つの特性が溶媒に備わっていることが望ましいと考えられる。上記式(I)で表されるアルキレングリコール系溶媒を含む溶媒はこの2つの特性を概ね満たしている。
前記アルキレングリコール系溶媒は、常圧において高温条件で重合反応を可能にする観点から、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上の沸点を有する。
【0049】
式(I)中のRaは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。
式(I)中のRaは炭素数2~6の直鎖のアルキレン基であり、好ましくは炭素数2~3の直鎖のアルキレン基であり、より好ましくはエチレン基である。
式(I)中のnは1~3の整数であり、好ましくは2又は3である。
前記アルキレングリコール系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(別名:2-(2-メトキシエトキシ)エタノール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(別名:2-(2-エトキシエトキシ)エタノール)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール等が挙げられる。これら溶媒を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。これら溶媒のうち、好ましくは2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール及び1,3-プロパンジオールであり、より好ましくは2-(2-メトキシエトキシ)エタノール及び2-(2-エトキシエトキシ)エタノールである。
【0050】
溶媒中における前記アルキレングリコール系溶媒の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。溶媒は、前記アルキレングリコール系溶媒のみからなっていてもよい。
溶媒が、前記アルキレングリコール系溶媒とそれ以外の溶媒を含む場合、当該「それ以外の溶媒」の具体例としては水、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、フェノール、p-クロルフェノール、2-クロル-4-ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ-ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、ジブロモメタン、トリブロモメタン、1,2-ジブロモエタン、1,1,2-トリブロモエタン等が挙げられる。これら溶媒を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
ポリイミド樹脂(A)の好適な製造方法としては、例えば、上記アルキレングリコール系溶媒を含む溶媒中にテトラカルボン酸成分を含ませてなる溶液(a)と、前記アルキレングリコール系溶媒を含む溶媒中にジアミン成分を含ませてなる溶液(b)を別々に調製した後、溶液(a)に対し溶液(b)を添加して又は溶液(b)に対し溶液(a)を添加して、ポリアミド酸を含有する溶液(c)を調製し、次いで、前記溶液(c)を加熱することにより、前記ポリアミド酸をイミド化するとともに該溶液(c)中でポリイミド樹脂粉末を析出させて、ポリイミド樹脂(A)を合成する方法が挙げられる。
テトラカルボン酸成分とジアミン成分との反応は、常圧下又は加圧下のいずれで行うこともできるが、常圧下であれば耐圧性容器を必要としない点で、常圧下で行われることが好ましい。
末端封止剤を使用する場合には、溶液(a)と溶液(b)を混合し、この混合液中に末端封止剤を混合して、ポリアミド酸を含有する溶液(c)を調製し、次いで、前記溶液(c)を加熱することが好ましく、溶液(a)に溶液(b)を添加し終わった後に末端封止剤を添加して、ポリアミド酸を含有する溶液(c)を調製し、次いで、前記溶液(c)を加熱することがより好ましい。
【0052】
また、ポリイミド樹脂(A)中の副生成物の量を低減する観点からは、ポリイミド樹脂(A)の製造方法は、テトラカルボン酸成分がテトラカルボン酸二無水物を含み;前記のテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応させる工程が、前記テトラカルボン酸成分と前記アルキレングリコール系溶媒とを含む溶液(a)に、前記ジアミン成分と前記アルキレングリコール系溶媒とを含む溶液(b)を添加することで、ポリアミド酸を含有する溶液(c)を調製する工程(i)、及び前記溶液(c)を加熱して前記ポリアミド酸をイミド化するとともに該溶液(c)中でポリイミド樹脂粉末を析出させて、ポリイミド樹脂粉末を得る工程(ii)を含み;前記工程(i)において、前記テトラカルボン酸成分1molに対する単位時間当たりの前記ジアミン成分の添加量が0.1mol/min以下となるように、前記溶液(a)に前記溶液(b)を添加する、ことが好ましい。
【0053】
<ポリエーテルケトン系樹脂(B)>
本発明の樹脂成形体は、前記ポリイミド樹脂(A)と、ポリエーテルケトン系樹脂(B)とを含有する。所定範囲の重量平均分子量を有するポリイミド樹脂(A)と、熱可塑性樹脂であるポリエーテルケトン系樹脂(B)とをコンパウンドすることにより、得られる樹脂成形体において容易にミクロ相分離構造が形成され、特に低荷重環境下でのHDTを向上させることができる。また、ポリエーテルケトン系樹脂(B)由来の優れた耐熱性も付与される。
【0054】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリエーテルケトンケトン樹脂(PEKK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン樹脂(PEEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン樹脂(PEKEKK)、ポリエーテルケトンケトンケトン樹脂(PEKKK)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の中でも、樹脂成形体の低荷重環境下でのHDTを向上させる観点から、ポリエーテルケトン系樹脂(B)はポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルエーテルケトン樹脂、及びポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリエーテルエーテルケトン樹脂がより好ましい。
【0055】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂の中でも、下記式(i)で示される繰り返し構成単位を有する芳香族ポリエーテルエーテルケトン樹脂が、耐熱性、及び低荷重環境下でのHDTを向上させる観点から好ましい。
-{Ar-C(=O)-Ar-O-Ar’-O}- (i)
(式中、Ar及びAr’はアリーレン基を示す。Ar及びAr’は互いに同一でも異なっていてもよい。)
式(i)中、Ar及びAr’は、好ましくは炭素数6~12のアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基及びビフェニレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種、更に好ましくはフェニレン基である。
【0056】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)の重量平均分子量Mwは、ポリイミド樹脂(A)とミクロ相分離構造を形成し得る範囲であれば特に制限はなく、通常、1,000~2,000,000、好ましくは2,000~1,000,000、より好ましくは3,000~500,000の範囲である。ポリエーテルケトン系樹脂(B)の重量平均分子量Mwは、移動相溶媒として1-クロロナフタレンを用いて、GPC法により測定することができる。
【0057】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば前記式(i)で示される繰り返し構成単位を有する芳香族ポリエーテルエーテルケトン樹脂は、例えば、下記式(ii)で示される4,4’-ジハロベンゾフェノン類と、下記式(iii)で示されるヒドロキノン類との重縮合反応を、スルホラン、ジフェニルスルホン等の溶媒中、塩基の存在下で行うことができる。
Z-Ar-C(=O)-Ar-Z (ii)
RO-Ar’-OR (iii)
(式中、Ar及びAr’は前記と同じである。Zはハロゲン原子を表す。Rは水素原子、R’-、R’C(O)-、R’OC(O)-、R’Si-、又はR’NC(O)-を示す。R’は炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~12のアラルキル基を示す。)
【0058】
前記式(ii)で示される4,4’-ジハロベンゾフェノン類としては、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン等が挙げられ、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンが好ましい。前記式(iii)で示されるヒドロキノン類としては、Arがp-フェニレン基、Rが水素原子であるp-ヒドロキノンが好ましい。
4,4’-ジハロベンゾフェノン類と、ヒドロキノン類とのモル比を調整することによって、末端に導入される基の種類や、分子量を調整することができる。例えば、4,4’-ジハロベンゾフェノン類のモル数がより多い場合には、ハロゲン原子が末端に導入され、ヒドロキノン類のモル数がより多い場合には、-OR基が末端に導入される。また、4,4’-ジハロベンゾフェノン類と、ヒドロキノン類とのモル比か1:1に近いほど、重合体の分子量が大きくなる。
【0059】
4,4’-ジハロベンゾフェノン類とヒドロキノン類との重合反応は、塩基による求核置換反応に基づいた重縮合により行われる。
当該塩基としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、アルキル化リチウム、リチウムアルミニウムハライド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムハイドライド、ナトリウムアルコキサイド、カリウムアルコキサイド、フォスファゼン塩基、Verkade塩基等が挙げられる。塩基は上記のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
塩基の使用量は、ヒドロキノン類に対して30モル%以下の範囲で多いことが好ましく、10モル%以下の範囲で多いことがより好ましく、1~5%の範囲で多いことが更に好ましい。
【0060】
前記重縮合反応は溶媒中で行うことが好ましい。当該溶媒としては、例えば、スルホラン及びジフェニルスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。溶媒の使用量は、通常、反応系の固形分が90質量%以下となる量であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは15~30質量%である。
【0061】
重縮合反応時の温度は、還流温度以下であればよい。例えば前記溶媒としてスルホランを使用する場合は、重縮合反応時の温度は通常300℃未満、好ましくは200~280℃、より好ましくは230~260℃の範囲である。前記溶媒としてジフェニルスルホンを用いる場合には、通常300℃以上、好ましくは320~340℃の範囲である。これらの温度を維持することにより反応が効率よく進行する。
反応時間は特に限定されず、所望の粘度又は分子量を考慮して適宜設定すればよいが、通常、24時間以下、好ましくは12時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0062】
ポリエーテルケトン系樹脂(B)として、市販品を用いることもできる。市販のポリエーテルケトン系樹脂としては、例えばVICTREX社製の「PEEK 90G、90P、150G、151G、150P、381G、450G、450P」;ダイセルエボニック社製の「ベスタキープ」;Solvay社製の「キータスパイア」;アルケマ社製の「Kepstan」;東レプラスチック精工(株)製の「TPS PEEK」、Jilin Zhongyan High Performance Plastic Co.,Ltd.製「ZYPEEK」等が挙げられる。
【0063】
樹脂成形体中のポリイミド樹脂(A)とポリエーテルケトン系樹脂(B)との質量比(A/B)は、好ましくは1/99~99/1、より好ましくは5/95~95/5、更に好ましくは10/90~90/10、より更に好ましくは15/85~85/15の範囲である。上記範囲であると、ポリイミド樹脂(A)とポリエーテルケトン系樹脂(B)とがミクロ相分離構造を形成しやすい。
また、低荷重環境下でのHDT向上効果が特に優れる範囲は、樹脂成形体中のポリイミド樹脂(A)とポリエーテルケトン系樹脂(B)との質量比(A/B)が1/99~50/50、好ましくは5/95~40/60、より好ましくは10/90~35/65の範囲である。
【0064】
また樹脂成形体中、ポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルケトン系樹脂(B)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0065】
<添加剤>
本発明の樹脂成形体は、充填材、艶消剤、核剤、可塑剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、難燃剤、着色剤、摺動性改良剤、酸化防止剤、導電剤、樹脂改質剤等の添加剤を、必要に応じて含有していてもよい。
上記添加剤の含有量には特に制限はないが、ポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルケトン系樹脂(B)由来の物性を維持しつつ添加剤の効果を発現させる観点から、樹脂成形体中、通常、50質量%以下であり、好ましくは0.0001~30質量%、より好ましくは0.0001~15質量%、更に好ましくは0.001~10質量%、より更に好ましくは0.01~8質量%である。
【0066】
<ミクロ相分離構造>
本発明の樹脂成形体はミクロ相分離構造を有する。ミクロ相分離構造は主としてポリイミド樹脂(A)とポリエーテルケトン系樹脂(B)との相分離により形成され、海島構造でも共連続構造でもよいが、海島構造であることが好ましい。
海島構造においては、樹脂成形体中のポリイミド樹脂(A)とポリエーテルケトン系樹脂(B)との質量比によっていずれの成分が「海」を形成していてもよいが、ポリエーテルケトン系樹脂(B)が「海」を形成している場合に、低荷重環境下でのHDT向上効果がより優れる。
ミクロ相分離構造の形成は、ポリイミド樹脂(A)の構造及び重量平均分子量、ポリエーテルケトン系樹脂(B)の種類及び重量平均分子量、ポリイミド樹脂(A)とポリエーテルケトン系樹脂(B)との質量比、並びにこれらの組み合わせの選択により調整することができる。樹脂成形体がミクロ相分離構造を有しているか否かについては、例えば樹脂成形体の表面又は断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察することにより判別できる。
【0067】
<熱変形温度(HDT)>
本発明の樹脂成形体は、特に低荷重環境下でのHDTが高いため、低荷重環境下で使用される製品でかつ耐熱性を要求される用途に好適である。
上記観点から、80mm×10mm×厚さ4mmの樹脂成形体において、JIS K7191-1,2:2015に準拠して、荷重0.45MPa、昇温速度120℃/時間の条件にて測定されるHDTは、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、更に好ましくは240℃以上である。当該HDTの上限は特に制限はないが、通常、融点以下の温度であり、例えば350℃以下、好ましくは300℃以下である。樹脂成形体のHDTは、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0068】
[樹脂成形体の製造方法]
本発明の樹脂成形体に含有されるポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルケトン系樹脂(B)は熱可塑性を有するため、ポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルケトン系樹脂(B)を含有する樹脂組成物を熱成形することにより容易に樹脂成形体を製造できる。
熱成形方法としては射出成形、押出成形、ブロー成形、熱プレス成形、真空成形、圧空成形、レーザー成形、超音波加熱成形、溶接、溶着等が挙げられ、熱溶融工程を経る成形方法であればいずれの方法でも成形が可能である。熱成形は、成形温度を例えば400℃を超える高温に設定することなく成形可能であるため好ましい。中でも射出成形を行う場合には、成形温度及び成形時の金型温度を高温に設定することなく成形可能であるため好ましい。例えば射出成形においては、成形温度を好ましくは400℃以下、より好ましくは360℃以下とし、金型温度を好ましくは260℃以下、より好ましくは220℃以下として成形が可能である。
【0069】
本発明の樹脂成形体を製造する方法としては、ポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルケトン系樹脂(B)を含有する樹脂組成物を290~350℃で熱成形する工程を有することが好ましい。具体的な手順としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、ポリイミド樹脂(A)、ポリエーテルケトン系樹脂(B)、及び、必要に応じて各種任意成分を添加してドライブレンドした後、これを押出機内に導入して、好ましくは290~350℃で溶融して押出機内で溶融混練及び押出し、ペレットを作製する。あるいは、ポリイミド樹脂(A)を押出機内に導入して、好ましくは290~350℃で溶融し、ここにポリエーテルケトン系樹脂(B)及び必要に応じて各種任意成分を導入して押出機内でポリイミド樹脂(A)と溶融混練し、押出すことで前述のペレットを作製してもよい。
上記ペレットを乾燥させた後、各種成形機に導入して好ましくは290~350℃で熱成形し、所望の形状を有する樹脂成形体を製造することができる。熱成形時の温度は、好ましくは310~350℃である。
【0070】
<用途>
本発明の樹脂成形体は、特に低荷重環境下での熱変形温度が高く耐熱性に優れるため、例えばスピーカー振動板、保護カバー、搬送用カセット、テストソケット、UDテープ、CFRP部材等の用途に適用できる。
【実施例
【0071】
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各製造例、実施例及び参考例における各種測定及び評価は以下のように行った。
【0072】
<赤外線分光分析(IR測定)>
ポリイミド樹脂のIR測定は日本電子(株)製「JIR-WINSPEC50」を用いて行った。
【0073】
<対数粘度μ>
ポリイミド樹脂を190~200℃で2時間乾燥した後、該ポリイミド樹脂0.100gを濃硫酸(96%、関東化学(株)製)20mLに溶解したポリイミド樹脂溶液を測定試料とし、キャノンフェンスケ粘度計を使用して30℃において測定を行った。対数粘度μは下記式により求めた。
μ=ln(ts/t)/C
:濃硫酸の流れる時間
ts:ポリイミド樹脂溶液の流れる時間
C:0.5g/dL
【0074】
<融点、ガラス転移温度、結晶化温度、結晶化発熱量>
ポリイミド樹脂又は各例で製造した樹脂成形体の融点Tm、ガラス転移温度Tg、結晶化温度Tc、及び結晶化発熱量ΔHmは、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC-6220」)を用いて測定した。
窒素雰囲気下、ポリイミド樹脂又は樹脂成形体に下記条件の熱履歴を課した。熱履歴の条件は、昇温1度目(昇温速度10℃/分)、その後冷却(降温速度20℃/分)、その後昇温2度目(昇温速度10℃/分)である。
融点Tmは昇温2度目で観測された吸熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。ガラス転移温度Tgは昇温2度目で観測された値を読み取り決定した。結晶化温度Tcは冷却時に観測された発熱ピークのピークトップ値を読み取り決定した。なおTm、Tg及びTcに関して、ピークが複数観測されたものについては各ピークのピークトップ値を読み取った。
また結晶化発熱量ΔHm(mJ/mg)は冷却時に観測された発熱ピークの面積から算出した。
【0075】
<半結晶化時間>
ポリイミド樹脂の半結晶化時間は、示差走査熱量計装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「DSC-6220」)を用いて測定した。
半結晶化時間が20秒以下のポリイミド樹脂の測定条件は窒素雰囲気下、420℃で10分保持し、ポリイミド樹脂を完全に溶融させたのち、冷却速度70℃/分の急冷操作を行った際に、観測される結晶化ピークの出現時からピークトップに達するまでにかかった時間を計算し、決定した。
【0076】
<重量平均分子量>
ポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)は、昭和電工(株)製のゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)測定装置「Shodex GPC-101」を用いて下記条件にて測定した。
カラム:Shodex HFIP-806M
移動相溶媒:トリフルオロ酢酸ナトリウム2mM含有HFIP
カラム温度:40℃
移動相流速:1.0mL/min
試料濃度:約0.1質量%
検出器:IR検出器
注入量:100μm
検量線:標準PMMA
【0077】
<熱変形温度(HDT)>
ポリイミド樹脂を用いて測定に使用した。又は各例で得たポリイミド樹脂組成物を用いて80mm×10mm×厚さ4mmの樹脂成形体を製造し、測定に使用した。
測定はJIS K7191-1,2:2015に準拠して、フラットワイズでの試験を実施した。具体的には、HDT試験装置「Auto-HDT3D-2」((株)東洋精機製作所製)を用いて、支点間距離64mm、荷重1.80MPa(高荷重)及び0.45MPa(低荷重)、昇温速度120℃/時間の条件にて熱変形温度を測定した。
【0078】
<ミクロ相分離構造の有無>
各例で製造した樹脂成形体をミクロトーム(REICHERT-JUNG LIMITED製「ULTRACUT E」)を用いて切断し、平滑にした後、ルテニウム系染色剤により染色を行った。この切断面を走査型透過電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製「SU8020」)を用いて、加速電圧30.0kV、観察倍率30,000倍で観察し、ミクロ相分離構造の有無を評価した。なお後述するように、本実施例において製造した樹脂成形体のミクロ相分離構造はいずれも海島構造であった。
【0079】
<曲げ強度及び曲げ弾性率>
参考例7~13で得られたポリイミド樹脂組成物を用いてISO316で規定される80mm×10mm×厚さ4mmの成形体を作製し、測定に使用した。ベンドグラフ((株)東洋精機製作所製)を用い、ISO178に準拠して、温度23℃、試験速度2mm/分で曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。
【0080】
[製造例1]ポリイミド樹脂1の製造
ディーンスターク装置、リービッヒ冷却管、熱電対、4枚パドル翼を設置した2Lセパラブルフラスコ中に2-(2-メトキシエトキシ)エタノール(日本乳化剤(株)製)500gとピロメリット酸二無水物(三菱ガス化学(株)製)218.12g(1.00mol)を導入し、窒素フローした後、均一な懸濁溶液になるように150rpmで撹拌した。一方で、500mLビーカーを用いて、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学(株)製、シス/トランス比=7/3)49.79g(0.35mol)、1,8-オクタメチレンジアミン(関東化学(株)製)93.77g(0.65mol)を2-(2-メトキシエトキシ)エタノール250gに溶解させ、混合ジアミン溶液を調製した。この混合ジアミン溶液を、プランジャーポンプを使用して徐々に加えた。滴下により発熱が起こるが、内温は40~80℃に収まるよう調整した。混合ジアミン溶液の滴下中はすべて窒素フロー状態とし、撹拌翼回転数は250rpmとした。滴下が終わったのちに、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール130gと、末端封止剤であるn-オクチルアミン(関東化学(株)製)1.284g(0.0100mol)を加えさらに撹拌した。この段階で、淡黄色のポリアミド酸溶液が得られた。次に、撹拌速度を200rpmとした後に、2Lセパラブルフラスコ中のポリアミド酸溶液を190℃まで昇温した。昇温を行っていく過程において、液温度が120~140℃の間にポリイミド樹脂粉末の析出と、イミド化に伴う脱水が確認された。190℃で30分保持した後、室温まで放冷を行い、濾過を行った。得られたポリイミド樹脂粉末は2-(2-メトキシエトキシ)エタノール300gとメタノール300gにより洗浄、濾過を行った後、乾燥機で180℃、10時間乾燥を行い、317gのポリイミド樹脂1の粉末を得た。
ポリイミド樹脂1のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1768、1697(cm-1)にイミド環の特性吸収が認められた。対数粘度は1.30dL/g、Tmは323℃、Tgは184℃、Tcは266℃、結晶化発熱量は21.0mJ/mg、半結晶化時間は20秒以下、Mwは55,000であった。
【0081】
製造例1におけるポリイミド樹脂の組成及び評価結果を表1に示す。なお、表1中のテトラカルボン酸成分及びジアミン成分のモル%は、ポリイミド樹脂製造時の各成分の仕込み量から算出した値である。
【0082】
【表1】
【0083】
表1中の略号は下記の通りである。
・PMDA;ピロメリット酸二無水物
・1,3-BAC;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
・OMDA;1,8-オクタメチレンジアミン
【0084】
実施例1(樹脂成形体の製造及び評価)
製造例1で得られたポリイミド樹脂1と、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(VICTREX社製「PEEK 90G」)とを、表2に示す割合でドライブレンドした後、2軸混練押出機((株)パーカーコーポレーション製「HK-25D」)を用いて、バレル温度350℃、スクリュー回転数150rpmの条件で溶融混練して樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を、射出成形機(ファナック(株)製「ロボショットα-S30iA」)により、バレル温度350℃、金型温度195℃にて射出成形し、ポリイミド樹脂-PEEK樹脂からなる樹脂成形体を製造した。製造した樹脂成形体を用いて、前記方法により各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
実施例2~4、比較例1~2
樹脂成形体を構成する樹脂組成を表2に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂成形体を製造し、製造した樹脂成形体を用いて、前記方法により各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0086】
なお、図1~4は、それぞれ実施例1~4の樹脂成形体を前述の方法で走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察した際の顕微鏡写真であり、いずれも海島構造が観察されている。図1(実施例1)の樹脂成形体では、海島構造の海部分がポリイミド樹脂、島部分がPEEK樹脂であり、図2~4(実施例2~4)の樹脂成形体では、海島構造の海部分がPEEK樹脂、島部分がポリイミド樹脂であった。
図5,6は比較例1,2の樹脂成形体を前述の方法でSTEMにより観察した際の顕微鏡写真であり、いずれもミクロ相分離構造は観察されなかった。
【0087】
参考例1~6
樹脂成形体を構成する樹脂組成を表2に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂成形体を製造し、製造した樹脂成形体を用いて、前記方法により各種評価を行った。結果を表2に示す。表2の参考例において海島構造「有」と記載した樹脂成形体については、図1~4の写真と同様に海島構造が観察された。
【0088】
参考例7~13
樹脂成形体を構成する樹脂組成を表3に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で樹脂成形体を製造し、製造した樹脂成形体を用いて、各種評価を行った。結果を表3に示す。表3の参考例において海島構造「有」と記載した樹脂成形体については、図1~4の写真と同様に海島構造が観察された。
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
表2、3に示した各成分の詳細は下記の通りである。
<ポリイミド樹脂(A)>
(A1)製造例1で得られたポリイミド樹脂1、Mw:55,000
<ポリエーテルケトン系樹脂(B)>
(B1)PEEK:ポリエーテルエーテルケトン樹脂、VICTREX社製「PEEK 90G」
<(B)以外の熱可塑性樹脂>
(b1)PPS:ポリフェニレンサルファイド樹脂、東レ(株)製「トレリナA900」
(b2)ULTEM:ポリエーテルイミド樹脂、SABICイノベーティブプラスチック社製「ULTEM 1000」
【0092】
また表2の結果に基づき、図7において、(A1)ポリイミド樹脂1と(B1)PEEKとからなる樹脂成形体において、(A1)及び(B1)の合計含有量に対する(A1)の含有量(質量%)と、樹脂成形体のHDT(高荷重:1.80MPa及び低荷重:0.45MPa)との相関をプロットした。さらに図8において、(B1)PEEKに代えて(b1)PPSを使用した樹脂成形体において、(A1)及び(b1)の合計含有量に対する(A1)の含有量(質量%)と、樹脂成形体のHDT(高荷重:1.80MPa及び低荷重:0.45MPa)との相関をプロットした。さらに図9において、(B1)PEEKに代えて(b2)ULTEMを使用した樹脂成形体において、(A1)及び(b2)の合計含有量に対する(A1)の含有量(質量%)と、樹脂成形体のHDT(高荷重:1.80MPa)との相関をプロットした。
【0093】
表2、3、及び図7~9より、以下のことが判る。
表2に示すように、所定のポリイミド樹脂(A)及びポリエーテルケトン系樹脂(B)であるPEEKを共に含有しかつミクロ相分離(海島)構造を有する実施例1~4の樹脂成形体は、低荷重(0.45MPa)時のHDTが、ポリイミド樹脂(A)のみからなる比較例1の樹脂成形体、又はPEEKのみからなる比較例2の樹脂成形体よりも向上する。また図7に示すように、上記低荷重時のHDTは高荷重時(1.80MPa)のHDTとは挙動が異なっており、この点からも特異的な効果を奏していることが確認できる。また、ポリイミド樹脂(A)が「海」を形成している図1(実施例1)の樹脂成形体よりも、ポリエーテルケトン系樹脂(B)が「海」を形成している図2~4(実施例2~4)の樹脂成形体の方が、低荷重(0.45MPa)時のHDT向上効果がより優れることも確認できる。
さらに、表2及び図8に示すように、ポリエーテルケトン系樹脂(B)であるPEEKに代えてポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)を用いた参考例1~6の樹脂成形体では、単にポリイミド樹脂(A)の含有量が増えるに従って低荷重(0.45MPa)時のHDTも高荷重時(1.80MPa)のHDTも高くなる傾向を示すのみであり、ポリイミド樹脂(A)とPPSとを共に含有することによる相乗効果は確認できなかった。
さらに、表3及び図9に示すように、ポリエーテルケトン系樹脂(B)であるPEEKに代えてポリエーテルイミド樹脂(ULTEM)を用いた参考例7~13の樹脂成形体では、単にポリイミド樹脂(A)の含有量が増えるに従って高荷重時(1.80MPa)のHDTが低くなる傾向を示すのみであり、ポリイミド樹脂(A)とULTEMとを共に含有することによる相乗効果は確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の樹脂成形体は、特に低荷重環境下での熱変形温度が高く耐熱性に優れるため、例えばスピーカー振動板、保護カバー、搬送用カセット、テストソケット、UDテープ、CFRP部材等の用途に適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9