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特許7347420海洋生物資源生産方法及び海洋生物資源生産装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】海洋生物資源生産方法及び海洋生物資源生産装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/00 20170101AFI20230912BHJP
   A01K 61/20 20170101ALI20230912BHJP
   A01K 61/10 20170101ALI20230912BHJP
   A01K 61/60 20170101ALI20230912BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
A01K61/00 302
A01K61/20
A01K61/10
A01K61/60 321
C12N1/12 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020527401
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2019023704
(87)【国際公開番号】W WO2020004078
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2018122104
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】中西 弘文
(72)【発明者】
【氏名】吉武 哲
(72)【発明者】
【氏名】池田 宏
(72)【発明者】
【氏名】小相澤 久
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-292659(JP,A)
【文献】特開平03-056122(JP,A)
【文献】特開昭64-023889(JP,A)
【文献】特開昭63-222631(JP,A)
【文献】特開平09-019235(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107996464(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00-61/95
C12M 3/00
C12N 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物プランクトンを食物連鎖の基礎生産者として海洋生物資源を生産する海洋生物資源生産方法であって、
海洋の深層領域に存在する深層水を湧昇パイプで表層領域に汲み上げる深層水汲み上げ工程と、
前記湧昇パイプ内で植物プランクトンを培養させる植物プランクトン培養工程と、を有し、
前記植物プランクトン培養工程では、
前記湧昇パイプの少なくとも一部を透光性の透光パイプで形成し、前記透光パイプの上端面に太陽光線が照射されると、照射された太陽光線が、前記透光パイプの下端面に向けて導光される、ことを特徴とする海洋生物資源生産方法。
【請求項2】
前記植物プランクトン培養工程では、前記透光パイプを介して前記湧昇パイプ内に太陽光線を導光するとともに、前記湧昇パイプ内の深層水に太陽光線を照射する、ことを特徴とする請求項1に記載の海洋生物資源生産方法。
【請求項3】
前記植物プランクトン培養工程では、前記湧昇パイプ内の深層水の上昇流量及び/又はその深層水に対する太陽光線の照射量を調整することにより植物プランクトンの発生量を制御する、ことを特徴とする請求項2に記載の海洋生物資源生産方法。
【請求項4】
前記深層水汲み上げ工程では、前記湧昇パイプ内の温度差及び塩分濃度差を利用するか、又は、ポンプによって深層水を汲み上げる、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の海洋生物資源生産方法。
【請求項5】
植物プランクトンを食物連鎖の基礎生産者として海洋生物資源を生産する海洋生物資源生産装置であって、
海洋の深層領域に存在する深層水を湧昇パイプで表層領域に汲み上げる深層水汲み上げ手段と、
前記湧昇パイプ内で植物プランクトンを培養させる植物プランクトン培養手段と、を有し、
前記植物プランクトン培養手段では、
前記湧昇パイプの少なくとも一部を透光性の透光パイプで形成し、前記透光パイプの上端面に太陽光線が照射されると、照射された太陽光線が、前記透光パイプの下端面に向けて導光される、ことを特徴とする海洋生物資源生産装置。
【請求項6】
前記植物プランクトン培養手段は、前記透光パイプを介して前記湧昇パイプ内に太陽光線を導光するとともに、前記湧昇パイプ内の深層水に太陽光線を照射する照射手段を有する、ことを特徴とする請求項5に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項7】
前記透光パイプは、その内部に混入され、太陽光線を散乱させる散乱材、及び/又は、その外周面に配置され、太陽光線を反射する反射材を有する、ことを特徴とする請求項5または6に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項8】
前記深層水汲み上げ手段は、前記湧昇パイプ内の温度差及び塩分濃度差を利用するか、又は、深層水を汲み上げるポンプを有する、ことを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項9】
前記湧昇パイプは、円筒状膜、又は、伸縮可能な蛇腹式パイプからなり、
前記湧昇パイプの形状を円筒状に保つ補強部材を有する、ことを特徴とする請求項5~8のいずれか一項に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項10】
前記補強部材は、前記湧昇パイプ内に、互いに隔離して複数設けられている、ことを特徴とする請求項9に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項11】
前記湧昇パイプに設けられる上部開口部の周囲には、その上部開口部から流出してくる植物プランクトンを含んだ深層水を受け入れて動物プランクトンを培養する動物プランクトン培養槽が設けられている、ことを特徴とする請求項5~10のいずれか一項に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項12】
前記動物プランクトン培養槽の周囲には、魚を育成するネットが張られている、ことを特徴とする請求項11に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項13】
前記植物プランクトン培養手段は、
前記湧昇パイプ内の植物プランクトンの培養状態を計測するクロロフィルセンサ、前記湧昇パイプ内の照度を計測する照度センサ、前記湧昇パイプ内の深層水の流量を計測する流量センサ、のうち少なくも一つのセンサを有し、当該センサの計測結果に基づいて植物プランクトンの培養条件を調節する、ことを特徴とする請求項5~12のいずれか一項に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項14】
前記湧昇パイプは、非透光性の部材で形成され、
前記湧昇パイプは、
前記湧昇パイプの上部に備えられ上方に行くにしたがって面積の広がる逆三角錐形に形成された第1部分と、
前記第1部分の下部に接続され前記表層領域から前記深層領域まで延在する第2部分と
を備える、ことを特徴とする請求項5に記載の海洋生物資源生産装置。
【請求項15】
植物プランクトンを食物連鎖の基礎生産者として海洋生物資源を生産する海洋生物資源生産装置であって、
海洋の深層領域に存在する深層水を湧昇パイプで表層領域に汲み上げる深層水汲み上げ手段と、
前記湧昇パイプ内で植物プランクトンを培養させる植物プランクトン培養手段と、を有し、
前記植物プランクトン培養手段は、前記湧昇パイプ内に太陽光線を導光するとともに、前記湧昇パイプ内の深層水に太陽光線を照射する照射手段を有し、
前記照射手段は、
太陽光線を集光する集光手段と、
前記湧昇パイプ内で、かつ、その軸心方向に配置され、前記集光手段で集光した太陽光線を前記湧昇パイプ内に照射する透光ロッドと、を有し、
さらに、
外気を吸気する吸気ブロアーと、
前記透光ロッドの下に備えられ多孔体からなる散気器と、
を備え、
前記透光ロッドは、前記吸気ブロアーから吸気された空気を前記透光ロッドの下端まで送るエアー通路をその軸心に備え、
前記吸気ブロアーから吸気された空気は前記エアー通路を介して前記散気器から前記湧昇パイプ内に供給される、ことを特徴とする海洋生物資源生産装置。
【請求項16】
前記照射手段は、前記吸気ブロアーから吸気された空気が供給される空気室を備え、前記透光ロッドが挿入される孔部を備える底面を有する筐体を備え、
前記透光ロッドは、前記透光ロッドが前記孔部に挿入されたときに、前記エアー通路と前記空気室とを連通させ前記空気室の空気を前記エアー通路に吸気させる吸気穴を備え、
前記筐体は、前記透光ロッドが前記孔部に挿入されたときに、前記透光ロッドの外周面と前記孔部の内周面との間のギャップを気密に塞ぐ可撓性部材を備える、
請求項15に記載の海洋生物資源生産装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋の深層領域に存在する深層水を利用した海洋生物資源生産方法、及びその深層水を利用した海洋生物資源生産装置に関するものである。
本願は、2018年6月27日に、日本に出願された特願2018-122104号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、海洋の深層領域に存在する深層水は、リン酸塩や硝酸塩などの栄養塩に富んでいるので、これを汲み上げて利用することが提案されている。例えば、特許文献1に示される海洋深層水の汲上・拡散装置は、水深300~600m以深の海底に沈められたシンカーに係留される湧昇パイプと、その湧昇パイプの上端に接続される、水深100m以浅の有光層の水面下に浮かべられる水中浮体とを含んで構成されている。そして、その水中浮体内では、上記湧昇パイプを通して深層水を汲み上げるとともに、吸込口から表層水を吸い込んで両者を混合し、その混合水を吐出口から有光層に密度流として吐出するようにしている。したがって、有光層内では、汲み上げられた深層水の栄養塩により、食物連鎖の基礎生産者としての植物プランクトンを増殖させることができる。
【0003】
また、特許文献2に示される養殖装置は、浮体構造物の略中央に上方に解放した開口部を設け、この開口部周縁に深層水領域まで垂下したスカートを設け、さらに、上記浮体構造物上部に開口部内の深層水の表層水を排出するポンプを設けて構成されている。そして、そのポンプにより上記開口部内の表層の水を排出することで、深層水を徐々に上昇させるようにしている。したがって、開口部内では、上昇してきた深層水の栄養塩により植物プランクトンを増殖させることができ、さらに動物プランクトンを増殖させることができ、これを餌に魚を養殖することができる。
【0004】
さらに、特許文献3に示される海水加熱装置は、水上で太陽光を採光する採光部と、その採光部で採光された太陽光を深海に導く光ファイバーケーブルからなる導光部と、その導光部により導光された太陽光を集光して熱に変換する、管路の下部に設けられた加熱部とを備えて構成されている。この海水加熱装置では、加熱部で管路の下部海水が加熱されると、管路内に深層水の湧昇が生成させる。湧昇した深層水が管路を介して表層水に供給されると、表層水には、無機栄養塩が供給されて魚場を創生することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-27748号公報
【文献】特開2001-292659号公報
【文献】特開2004-344015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の海洋の深層領域に存在する深層水を利用した海洋生物資源生産装置においては、深層水の汲み上げに大きな動力を必要としたり、汲み上げられた深層水が広範の表層水に供給されたとき、深層水が薄められて植物プランクトン生成に必要な栄養塩濃度が確保できず、植物プランクトンの増殖に支障したりする等の欠点があった。例えば、上記特許文献1では、深層水と表層水の温度差エネルギーで駆動される蒸気タービンを動力源とるインペラで深層水を汲み上げるようにし、また、上記特許文献2では、複数基のポンプで開口部内の表層水を排出して深層水を汲み上げるようにしているので、共に装置が大型化、高コストになる欠点があった。さらに、上記特許文献1、3では、汲み上げられた深層水が広範の表層水に供給されるので、表層水に植物プランクトン生成に必要な栄養塩濃度が確保できず、植物プランクトンの培養が期待どおりに進まないおそれがあった。
【0007】
また、従来の海洋の深層領域に存在する深層水を利用した海洋生物資源生産装置においては、上記特許文献1~3のいずれにおいても、表層水領域で植物プランクトンの培養が行われるために広い面積を必要とする欠点があり、さらに、植物プランクトンの培養制御が行われないために、植物プランクトンの安定生産や季節変動に対処できない等の欠点があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、簡単な構成で、かつ、低コストに、しかも、小さい面積で植物プランクトンを培養することのできる、海洋生物資源生産方法及び海洋生物資源生産装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一態様に係る海洋生物資源生産方法は、植物プランクトンを食物連鎖の基礎生産者として海洋生物資源を生産する海洋生物資源生産方法であって、海洋の深層領域に存在する深層水を湧昇パイプで表層領域に汲み上げる深層水汲み上げ工程と、前記湧昇パイプ内で植物プランクトンを培養させる植物プランクトン培養工程と、を有する。
(2)上記(1)に記載された海洋生物資源生産方法であって、前記植物プランクトン培養工程では、前記湧昇パイプ内に太陽光線を導光するとともに、前記湧昇パイプ内の深層水に太陽光線を照射してもよい。
(3)上記(2)に記載された海洋生物資源生産方法であって、前記植物プランクトン培養工程では、前記湧昇パイプ内の深層水の上昇流量及び/又はその深層水に対する太陽光線の照射量を調整することにより植物プランクトンの発生量を制御してもよい。
(4)上記(1)~(3)に記載された海洋生物資源生産方法であって、前記湧昇パイプ内の深層水への太陽光線の照射は、前記湧昇パイプの少なくとも一部を透光性の透光パイプで形成し、その透光パイプに集光した太陽光線を導光して行う、又は、前記湧昇パイプ内で、かつ、その軸心方向に透光性を有する透光ロッドを配置するとともに、その透光ロッドに集光した太陽光線を導光して行ってもよい。
(5)上記(1)~(4)に記載された海洋生物資源生産方法であって、前記深層水汲み上げ工程では、前記湧昇パイプ内の温度差及び塩分濃度差を利用するか、又は、ポンプによって深層水を汲み上げてもよい。
【0010】
(6)本発明の一態様に係る海洋生物資源生産装置は、植物プランクトンを食物連鎖の基礎生産者として海洋生物資源を生産する海洋生物資源生産装置であって、海洋の深層領域に存在する深層水を湧昇パイプで表層領域に汲み上げる深層水汲み上げ手段と、前記湧昇パイプ内で植物プランクトンを培養させる植物プランクトン培養手段と、を有する。
(7)上記(6)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記植物プランクトン培養手段は、前記湧昇パイプ内に太陽光線を導光するとともに、前記湧昇パイプ内の深層水に太陽光線を照射する照射手段を有してもよい。
(8)上記(7)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記照射手段は、太陽光線を集光する集光手段と、前記湧昇パイプの少なくとも一部を形成し、前記集光手段で集光した太陽光線を前記湧昇パイプ内に照射する透光パイプ、又は、前記湧昇パイプ内で、かつ、その軸心方向に配置され、前記集光手段で集光した太陽光線を前記湧昇パイプ内に照射する透光ロッドと、を有してもよい。
(9)上記(8)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記透光パイプは、その内部に混入され、太陽光線を散乱させる散乱材、及び/又は、その外周面に配置され、太陽光線を反射する反射材を有してもよい。
(10)上記(8)または(9)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記透光ロッドは、その上端部に設けられた逆三角錐形の受光部、又は、その上端部に設けられ、凸レンズを収容した逆三角錐形の受光部を有してもよい。
(11)上記(6)~(10)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記深層水汲み上げ手段は、前記湧昇パイプ内の温度差及び塩分濃度差を利用するか、又は、深層水を汲み上げるポンプを有してもよい。
(12)上記(6)~(11)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記湧昇パイプは、円筒状膜、又は、伸縮可能な蛇腹式パイプからなり、前記湧昇パイプの形状を円筒状に保つ補強部材を有してもよい。
(13)上記(12)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記補強部材は、前記湧昇パイプ内に、互いに隔離して複数設けられていてもよい。
(14)上記(8)または(10)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記湧昇パイプは、円筒状膜、又は、伸縮可能な蛇腹式パイプからなり、前記湧昇パイプの形状を円筒状に保つ一又は複数の補強部材を有し、前記補強部材は、前記湧昇パイプの内周に沿って設けられた大径リング部材と、前記大径リング部材より径方向内側に設けられた小径リング部材と、前記大径リング部材及び前記小径リング部材を接続するスポーク部材と、を有し、前記透光ロッドは、少なくとも1つの前記小径リング部材に挿通されていてもよい。
(15)上記(6)~(14)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記湧昇パイプに設けられる上部開口部の周囲には、その上部開口部から流出してくる植物プランクトンを含んだ深層水を受け入れて動物プランクトンを培養する動物プランクトン培養槽が設けられていてもよい。
(16)上記(15)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記動物プランクトン培養槽の周囲には、魚を育成するネットが張られていてもよい。
(17)上記(6)~(16)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記植物プランクトン培養手段は、前記湧昇パイプ内の植物プランクトンの培養状態を計測するクロロフィルセンサ、前記湧昇パイプ内の照度を計測する照度センサ、前記湧昇パイプ内の深層水の流量を計測する流量センサ、のうち少なくも一つのセンサを有し、当該センサの計測結果に基づいて植物プランクトンの培養条件を調節してもよい。
(18)上記(8)~(10)および(14)に記載された海洋生物資源生産装置であって、外気を吸気する吸気ブロアーと、前記透光ロッドの下に備えられ多孔体からなる散気器と、を備え、前記透光ロッドは、前記吸気ブロアーから吸気された空気を前記透光ロッドの下端まで送るエアー通路をその軸心に備え、前記吸気ブロアーから吸気された空気は前記エアー通路を介して前記散気器から前記湧昇パイプ内に供給されてもよい。
(19)上記(18)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記照射手段は、前記吸気ブロアーから吸気された空気が供給される空気室を備え、前記透光ロッドが挿入される孔部を備える底面を有する筐体を備え、前記透光ロッドは、前記透光ロッドが前記孔部に挿入されたときに、前記エアー通路と前記空気室とを連通させ前記空気室の空気を前記エアー通路に吸気させる吸気穴を備え、前記筐体は、前記透光ロッドが前記孔部に挿入されたときに、前記透光ロッドの外周面と前記孔部の内周面との間のギャップを気密に塞ぐ可撓性部材を備えていてもよい。
(20)上記(6)に記載された海洋生物資源生産装置であって、前記湧昇パイプは、非透光性の部材で形成され、前記湧昇パイプは、前記湧昇パイプの上部に備えられ上方に行くにしたがって面積の広がる逆三角錐形に形成された第1部分と、前記第1部分の下部に接続され前記表層領域から前記深層領域まで延在する第2部分とを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記本発明の態様によれば、海洋の深層領域に存在する深層水中に下部開口部を有するとともに、その海洋の表層領域に上部開口部を有する湧昇パイプ内で、すなわち、外洋と隔離された状態で植物プランクトンを培養するようにしているので、栄養塩が豊富で、かつ清浄な深層水の中で植物プランクトンを効率よく培養させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る海洋生物資源生産装置の断面図である。
図2図1に示される透光パイプと異なる形態の透光パイプの一部を断面で示した斜視図である。
図3図2に示される透光パイプを改良した透光パイプの一部を断面で示した斜視図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る海洋生物資源生産装置の平面図である。
図5図4のX-X線断面図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る海洋生物資源生産装置の断面図である。
図7】円筒状膜の斜視図である。
図8】透光ロッドの斜視図である。
図9】凸レンズを有する透光ロッドの斜視図である。
図10】円筒状膜内に透光ロッドを設けたときの斜視図である。
図11】円筒状膜内に凸レンズを有する透光ロッドを設けたときの斜視図である。
図12】補強部材の正面図である。
図13】補強部材で補強された円筒状膜内に透光ロッドが配置されたときの斜視図である。
図14】補強部材で補強された円筒状膜内に凸レンズを有する透光ロッドが配置されたときの斜視図である。
図15】湧昇パイプを蛇腹状非透光パイプとしたときの斜視図である。
図16】本発明の第4実施形態に係る海洋生物資源生産装置の断面図である。
図17図16のイ部の拡大図である。
図18】本発明の第5実施形態に係る海洋生物資源生産装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る海洋生物資源生産方法を実現するための海洋生物資源生産装置について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、第1実施形態に係る海洋生物資源生産装置Aの概略構成図であり、ここでは生物資源生産領域Bに適用した例が示されている。
この海洋生物資源生産装置Aは、湧昇パイプ1(深層水汲み上げ手段)と、照射手段4(植物プランクトン培養手段)と、動物プランクトン培養槽7とを含んで構成されている。
【0015】
湧昇パイプ1は、例えば、長尺の合成樹脂製のパイプ材から構成されている。この湧昇パイプ1は、海洋生物資源生産装置Aが設置される海洋の海底付近まで延びている。具体的には、湧昇パイプ1は、その下端位置が海洋生物資源生産装置Aの設置される海洋の深層領域に存在する深層水中に位置し、その上端位置がその海洋の表層領域の表層水表面に位置している。
【0016】
湧昇パイプ1の下端には、その軸心方向に開口する下部開口1aが形成され、さらに、この湧昇パイプ1の上端付近には、その径方向に開口する上部開口1bが形成されている。通常、この湧昇パイプ1の長さは、数百メートルに及んでいる。また、この湧昇パイプ1の内径は1メートル程度とされる。そして、湧昇パイプ1の長さLとその内径Dの比(L/D)が十分に大きくなるようにして、湧昇パイプ1内に湧昇流を作り出すようにしている。
【0017】
この湧昇パイプ1は、その軸心方向において、透光性を有する透光パイプ2と、非透光性の非透光パイプ3と、に区分することができる。透光パイプ2は、湧昇パイプ1の上側、すなわち海洋の表層領域に位置し、非透光パイプ3は、この透光パイプ2の下端側に接合される形で設けられている。なお、湧昇パイプ1の全体が、透光性を有する透光パイプ2によって形成されていてもよい。
【0018】
透光パイプ2は、透明性に優れた材料から作られていて、一定の肉厚と剛性を有するように構成され、導光性に優れた性質を有している。このため、透光パイプ2の上端面に太陽光線が照射されたとき、その照射された太陽光線は、透光パイプ2の下端面に向けて導光され、また、その途中に、透光パイプ2の周方向に導光されるようになっている。この透光パイプ2の長さは、後述する植物プランクトンの培養と増殖の状態によって決められているが、通常、数十メートルの長さを有している。
【0019】
非透光パイプ3は、透光パイプ2と比較して可視光を透過しない合成樹脂材で形成されている。なお、金属製等の可視光を透過しない材料で形成することも可能である。そして、この非透光パイプ3は、その上端面が透光パイプ2の下端面に接合されているとともに、その下端位置がその海洋の深層領域に存在する深層水中に位置するように構成されている。
この非透光パイプ3は、図示では省略しているが、湧昇パイプ1の大部分を占めており、数百メートルの長さからなる湧昇パイプ1のうち、透光パイプ2の数十メートルの長さを除いた長さを有する。
【0020】
非透光パイプ3の下端部には、海洋生物資源生産装置Aが設置されたとき、海流により移動しないように、図示しないシンカー(錘)が結合されるとよい。
なお、この非透光パイプ3は、図示の例では、透光パイプ2の肉厚と同じパイプに構成されているが、運搬性や施工性を容易にするため、さらに製造コストを低減するために、後述する図7に示される円筒状膜3aで構成してもよい。後述する図5に示される非透光パイプ3も同様である。
【0021】
照射手段4は、集光手段として、導光体5と、レンズ6と、を有する。導光体5は、例えば、合成樹脂製で、かつ、透光パイプ2と同様の透明性に優れた材料から作られている。そして、この導光体5は、中心部に透光パイプ2の孔径に等しい孔が設けられた逆三角錐形に形成されていて、透光パイプ2の上端面に接合して設けられている。
【0022】
レンズ6は、凸レンズからなり、導光体5の上面全体を覆うように設けられている。このレンズ6は、海洋生物資源生産装置Aが設置されたとき、常に水面(海面)上に位置するように設けられている。したがって、レンズ6に太陽光線が照射されたときは、その太陽光線が集光され、その集光された光線は、導光体5を介して透光パイプ2に導光される。
【0023】
上記構成からなる湧昇パイプ1には、3種類のセンサが設けられている。これらセンサのうち、クロロフィルセンサSは、湧昇パイプ1の透光パイプ2の上部側に設けられていて、透光パイプ2内における植物プランクトンの培養状態を検知できるように構成されている。また、照度センサSは、透光パイプ2に設けられていて、透光パイプ2内の照度を検知できるように構成されている。さらに、流量センサSは、湧昇パイプ1を流れる深層水の流量を検知できるように構成されている。
【0024】
動物プランクトン培養槽7は、海洋生物資源生産装置Aの湧昇パイプ1の周囲に所定の容積を有する有底筒状の筐体8によって形成されている。この筐体8は、透光パイプ2の上端付近に設けられている上部開口1bを取り囲むように設けられている。そして、その筐体8の上面位置は、水面(海水面)位置より少し低くなるように決められている。この動物プランクトン培養槽7の容積は、動物プランクトンが所定通りに培養できるように決められている。
【0025】
次に、上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aが設けられている生物資源生産領域Bについて説明する。この生物資源生産領域Bは、ブイbと、ネットbと、底板bとを含んで構成されている。
【0026】
ブイbは、海洋生物資源生産装置Aを中心にした海面上に複数個浮かべられている。そして、それらブイbには、その海洋生物資源生産装置Aを囲み、かつ垂下して設けられているネットbの上辺が結合されている。このネットbの目開きは、ネットb内で育成されている魚が逃げ出さないように決められている。
なお、ブイbには、図示しないアンカー(錨)が結合されて、生物資源生産領域Bが海流で流されないように工夫されている。
【0027】
底板bは、ネットbの下辺に結合され、このネットbに囲まれる下端面を覆うように構成されている。海洋生物資源生産装置Aの湧昇パイプ1(透光パイプ2)は、底板bを貫通して設けられる。また、動物プランクトン培養槽7は、底板bに載置して設けられている。
【0028】
以下、上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aにおいて、深層水を利用した植物プランクトンの培養と動物プランクトンの培養について説明する。なお、本発明における「培養」には、植物プランクトンや動物プランクトンの培養だけでなく、培養されたプランクトンの成長と増殖も含まれている。
【0029】
先ず、図1における実線の矢印は、湧昇パイプ1内における深層水の湧昇状態、つまり湧昇パイプ1内で深層水が上昇する流れを示している。後述の図5図6図16及び図18においても同様である。このような深層水の上昇流は、下端側が海洋の深層領域に存在する深層水中に位置し、上端側がその海洋の表層領域の表層水に位置している湧昇パイプ1内の温度差及び塩分濃度差によってもたらされている。
【0030】
海洋における深層水の上昇現象については、海洋物理学者ヘンリー・メルソン・ストンメル(Henry Melson Stommel)らによって提唱され、また、この上昇現象に基づいた深層水汲み上げ技術も特開2001-336479号公報で提案されている。ここでは、直径1m、長さ700mのパイプで11m/dayの上昇流が得られることが報告されている。
なお、湧昇パイプ1内における深層水の汲み上げは、ポンプを用いて行ってもよい。
【0031】
海洋生物資源生産装置Aにおいて、湧昇パイプ1の非透光パイプ3に設けられた下部開口1aから吸い込まれた深層水は、透光パイプ2に達する。この透光パイプ2内においては、レンズ6で集光された太陽光線は導光体5を介して透光パイプ2に導かれ、その導かれた光線は透光パイプ2内の深層水に照射される(図1中の鎖線で示される矢印参照。
以下の各図における鎖線で示される矢印も同様である。)。この照射される光線は、太陽光であるから、光合成に必要な可視光線の他に水の加温に寄与する赤外線も含まれている。
【0032】
透光パイプ2内の深層水中では、照射される光線により植物プランクトンの培養が行われ、動物プランクトン培養槽7内では、透光パイプ2内で生成された植物プランクトンを餌に動物プランクトンが培養される。この海洋生物資源生産装置Aにおいては、第1領域Zと、第2領域Zとに分けて各プランクトンの培養を制御するようにしている。この培養に当たっては、上述した各センサS1,2,の値が参考とされる。
なお、これら各領域Z,Zは、後述する海洋生物資源生産装置A~Aにも存在しているが、そこでの説明は重複するので省略する。
以下、各領域Z,Z及び生物資源生産領域Bに分けて説明する。
【0033】
(第1領域Z
第1領域Zは、透光パイプ2の全長を範囲としている。この第1領域Zには、非透光パイプ3から清浄で、かつ、栄養塩に富んだ深層水が導入されるとともに、その導入された深層水に透光パイプ2から光線が照射される。この第1領域Zでは、深層水は透光パイプ2により外界と隔てられていて清浄な性質が保たれている。したがって、この第1領域Zでは、適度な照度及び温度の下、光合成に適した環境が生成され、植物プランクトンの培養を効果的に開始させることができる。
【0034】
この第1領域Zの照度は、上部よりも下部が弱く、また、温度も上部よりも下部が低く設定されている。これは、第1領域Zの下部は、照射手段4からの距離が遠くなるからである。いずれにしても、第1領域Z内の深層水に対する光線の照射は、植物プランクトンの培養を十分に行えるように調整される。また、この培養時間を十分に確保できるように、透光パイプ2の第1領域Zの長さが決められている。
なお、透光パイプ2から深層水への光線の照射量の調整、すなわち、透光パイプ2から光線が漏れる漏光の調整については、後述する図2及び図3で詳述する。
【0035】
第1領域Zの上部には、太陽光線が自然に届く。この第1領域Zの上部には、第1領域Zの下部で培養された植物プランクトンが連続的に導入される。この第1領域Zの上部では、透光パイプ2の上部部分が開口しているので表層水からの汚染のおそれがあるが、深層水が上向流を保っているので汚染を効果的に防止することができる。
【0036】
第1領域Zの上部では、太陽光線が自然に届くと共に、第1領域Zの下部から導入された植物プランクトンが透光パイプ2から光線が照射されて効果的に培養される。すなわち、この第1領域Zの上部は、植物プランクトンを成長させ、増殖させるゾーンである。したがって、この第1領域Zの上部では、透光パイプ2から照射される光線量は、植物プランクトンが効果的に培養できるように調整される。
以上のように、第1領域Zは、太陽光線の照射量の調整が容易に行える透光パイプ2内に形成され、さらに、透光パイプ2内は、表層水よりも汚染度が低く、水質が管理され、しかも天候等の環境の変動を受けにくい領域であるから、植物プランクトンの発生量を制御しやすい特長を有することができる。したがって、この第1領域Zでは、食物連鎖の基礎生産者としての植物プランクトンを効果的に培養することができる。
【0037】
(第2領域Z
第2領域Zは、動物プランクトン培養槽7内を範囲としている。この動物プランクトン培養槽7内には、第1領域Zで生成された植物プランクトンを含む深層水が湧昇パイプ1の上部開口1bから流入してくる。この動物プランクトン培養槽7内では、流入してきた植物プランクトンがさらに成長するとともに、その成長した植物プランクトンが動物プランクトンの餌となって、動物プランクトンが効果的に培養される。
【0038】
この動物プランクトン培養槽7は、上面が大きく開口しているので汚染されやすいが、動物プランクトン培養槽7内は深層水で満たされているので、表層水よりも汚染度が低く、ある程度、水質の管理されている領域で、植物プランクトン及び動物プランクトンの培養に適した環境に保たれている。また、この動物プランクトン培養槽7の容積、すなわちは第2領域Zの容積は、動物プランクトンが植物プランクトンを餌にして十分に培養することができる時間を確保できるように決められている。
【0039】
(生物資源生産領域B)
生物資源生産領域Bには、動物プランクトン培養槽7から動物プランクトンを豊富に含む深層水が溢流してくる。生物資源生産領域B内に流出した動物プランクトンは、魚の餌となり魚の成長に役立つことができる。また、生物資源生産領域B内に流出した深層水には、まだ栄養塩が含まれているので、海藻や海草の成長を促すことができる。
【0040】
上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aは、海洋の深層領域に存在する深層水中に下部開口1aを有するとともに、その海洋の表層領域に上部開口1bを有する湧昇パイプ1の透光パイプ2内で、すなわち、外洋と隔離された状態で植物プランクトンを培養させることができる。しかも、その湧昇パイプ1内を上昇する深層水は、栄養塩が豊富で、かつ清浄であるから植物プランクトンを効率よく増殖させることができる。さらに、湧昇パイプ1は、ポンプ等の人為的な動力を必要としないで深層水を汲み上げることができるとともに、極めて簡単な構造で設置面積も小さく、低コストに実現することができる。また、透光パイプ2内の状態をクロロフィルセンサS、照度センサS、流量センサSを有しているので、これらセンサS~Sの検知により、植物プランクトンの培養に適した流速や温度、あるいは照度等を制御できるから、植物プランクトンを効率よく培養させることができる。
さらにまた、上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aは、透光パイプ2内で培養された植物プランクトンを動物プランクトン培養槽7に受け入れるようにしているので、魚等の餌となる動物プランクトンを効率よく培養させることができる。
また、上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aは、動物プランクトン培養槽7の周囲に生物資源生産領域Bを設けるようにしているので、動物プランクトン培養槽7から動物プランクトンを含む深層水を生物資源生産領域B内に供給することができるから、生物資源生産領域B内で魚介類や海草類等の海洋生物資源を効率よく生産することができる。
【0041】
図2は、図1に示される透光パイプ2と異なる透光パイプ2aが示されている。この透光パイプ2aは、この透光パイプ2aを製造する際、材料中に受けた光を反射させる散乱体2aが混入される。この散乱体2aとしては、光を反射させることのできる無機物や気泡などがあげられる。この透光パイプ2aにおいては、散乱体2aの分散状態や密度差を調整することにより、透光パイプ2a内の深層水に対する漏光を調整することができる。したがって、照射手段4から近い場所の漏光を少なくしたり、あるいは、照射手段4から離れた場所の漏光を多くしたりすることができる。
【0042】
図3は、図2に示される透光パイプ2aを改良した透光パイプ2bが示されている。この透光パイプ2bは、透光パイプ2aの外周が光線を反射する反射材2bで覆われている。このように、反射材2bで外周が覆われた透光パイプ2bは、透光パイプ2bの外側への漏光を防止でき、透光パイプ2a内の深層水に対して効率よく漏光できる特長を有することができる。
なお、図示しないが、透光パイプの漏光調整としては、図2及び図3に示される以外に、透光パイプの表面に凹凸をつけて光線の屈曲率を変えるようにしてもよい。
【0043】
図4及び図5は、本発明の第2実施形態に係る海洋生物資源生産装置Aを示していて、図4はその平面図、図5図4のX-X線断面図である。なお、上述した海洋生物資源生産装置Aと同一構成要素には同一符号が用いられ、これらについての説明は、重複するため省略する。後述の海洋生物資源生産装置A~Aについても同様である。
この海洋生物資源生産装置Aが上述した海洋生物資源生産装置Aと異なる点は、海洋生物資源生産装置Aの照射手段4に相当する照射手段10を複数個(図示の例では4個)設けたことである。すなわち、この海洋生物資源生産装置Aは、動物プランクトン培養槽7の周囲に4個の照射手段10が配置されている。
【0044】
この照射手段10は、集光手段として、導光体11a,11b、筐体12及びレンズ13を有する。導光体11a,11bは、透光性材で形成されていて、筐体12内に水密的に所定の空間を保って設けられている。これら導光体11a,11bのうち、導光体11aは、動物プランクトン培養槽7の外周近くに位置し、その上面には、凸レンズからなるレンズ13が接合されるように構成されている。そして、導光体11bは、水平方向に延びると共に、その一端側が導光体11aに接合し、その他端側が透光パイプ2の肉厚部2´に接合している。
【0045】
この海洋生物資源生産装置Aにおいては、動物プランクトン培養槽7の筐体8の外周に浮体9(図4では省略されている。)が設けられている。この浮体9は、図示しないアンカーが結合されていて、海洋生物資源生産装置Aが海流で流されないように工夫されている。このような浮体は、後述の海洋生物資源生産装置Aにも設けられるが、省略されている。
【0046】
上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aは、複数の照射手段10を有しているので、太陽光線をより多く利用でき、海洋生物資源の生産性をより高めることができる。
なお、この海洋生物資源生産装置Aは、上述の海洋生物資源生産装置Aのように生物資源生産領域Bに設けることもできるが、単独で設けることも可能である。この場合は、動物プランクトン培養槽7の外周近くに、動物プランクトンを餌とする小魚が集まり、さらにその小魚を餌とする大型の魚が集まるので、海洋生物資源生産装置Aの周囲には豊かな魚場が形成される。このような効果は、後述の海洋生物資源生産装置A3、においても同様である。
【0047】
図6は、本発明の第3実施形態係る海洋生物資源生産装置Aの断面図である。この海洋生物資源生産装置Aが上述した海洋生物資源生産装置A、Aと異なる点は、湧昇パイプ1の全部が非透光パイプ3で構成されている点と、海洋生物資源生産装置A、Aにおける透光パイプ2の光線の照射機能を、非透光パイプ3の軸心位置に透光ロッド20を有する照射手段21で行うようにした点にある。この海洋生物資源生産装置Aは、湧昇パイプ1の全部が非透光パイプ3で構成されているので、上部開口1bは、その非透光パイプ3の上端側に設けられる。
【0048】
この海洋生物資源生産装置Aで使用される非透光パイプ3は、図7に示されるような、肉厚の薄い非透光性の円筒状膜3aで構成することもできる。非透光パイプ3を円筒状膜3aで構成したときは、運搬性や施工性が容易となり、さらに製造コストを低減することができる。
【0049】
この海洋生物資源生産装置Aに組み込まれる光線の照射は、透光ロッド20を有する照射手段21で実現されている。この照射手段21は、上面にフレネルレンズからなるレンズ21aを備えた内部空間が水密に形成された筐体21bを有していて、この筐体21bの底面の外側が、非透光パイプ3の上端面に接合して取り付けられている。このフレネルレンズからなるレンズ21aは、表面の雨水や海水を速やかに排出できるように所定の傾斜をつけて筐体21bに取り付けられるとよい。
【0050】
透光ロッド20は、例えば、導光性に優れた合成樹脂製の直線状の棒材からなり、図8の斜視図でも示されているように、上端部に逆三角錐形の導光性に優れた合成樹脂製からなる受光部20aが接合されている。この透光ロッド20の径は、非透光パイプ3内を流れる深層水の抵抗にならず、かつ、その深層水に必要な光線を照射できるように決められている。また、この透光ロッド20の長さは、上述した海洋生物資源生産装置A、Aの透光パイプ2の長さにほぼ等しくなるように決められている。
【0051】
受光部20aは、レンズ21aで集光された太陽光線を、透光ロッド20に導くものである。この受光部20aを接合している透光ロッド20は、受光部20aの部分が筐体21b内に位置するように取り付けられるとともに、透光ロッド20の軸心位置と非透光パイプ3の軸心位置とが一致するように取り付けられている。
【0052】
上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aは、非透光パイプ3の軸心位置に設けられている透光ロッド20から非透光パイプ3内を流れる深層水に照射できるので、無駄なく太陽光を利用することができ、植物プランクトンの培養を効率よく行うことができる。
また、透光ロッド20の上端部に設けられている受光部20aの上面には、図9に示されるような凸状のレンズ20b(凸レンズ)を設けることができる。この場合は、レンズ20bで集光された太陽光を効果的に受光部20aに集めることができる。さらに、透光ロッド20には、上述した図2に示されるような散乱体2aを混入したり、あるいは表面に凹凸を形成したりして、深層水に対する漏光を調整することもできる。
【0053】
図10には、上述した図7に示される円筒状膜3a内に透光ロッド20を設けたときの斜視図が示され、また、図11には、その円筒状膜3a内に凸状のレンズ20bを設けた透光ロッド20を設けたときの斜視図が示されている。このように、透光ロッド20の周囲に肉厚が薄く、かつ可撓性に富んだ円筒状膜3aが配置されたときは、運搬性や施工性が容易となり、さらに製造コストを低減することができる。
【0054】
図12には、円筒状膜3aの補強部材3aが示されている。この補強部材3aは、円筒状膜3aの円筒形態を保つために用いられる。この補強部材3aは、円筒状膜3aの内径に等しい形状の剛性の大径リング部材3aと、大径リング部材3aより径方向内側の中心部に設けられ、透光ロッド20が挿入できる大きさの剛性の小径リング部材3aと、これらリング部材3a,3a間を接続するスポーク部材3aとで構成されている。
【0055】
上記構成からなる補強部材3aは、円筒状膜3aの長手方向の内部に互いに所定の間隔を持って隔離して複数配置される。したがって、補強部材3aは、円筒状膜3aの内周に沿って設けられた大径リング部材3aによって、円筒状膜3aの筒状形態を確保することができるとともに、少なくとも1つの小径リング3aによって、その円筒状膜3a内に配置される透光ロッド20の位置を確保することができる。
図13には、補強部材3aで補強された円筒状膜3a内に透光ロッド20が小径リング3aの中に挿通されている状態の斜視図が示され、また、図14には、補強部材3aで補強された円筒状膜3a内に、凸状のレンズ20bを設けた透光ロッド20が小径リング3aの中に挿通されている状態の斜視図が示されている。
【0056】
図15には、上述した湧昇パイプ1を非透光性の蛇腹式パイプ3cとしたときの斜視図が示されている。蛇腹式パイプ3cは、合成樹脂の成形品として製造することができる。
この蛇腹式パイプ3cにおいても、補強部材3aで円筒形態を保つようにしてもよい。
湧昇パイプ1を蛇腹式パイプ3cとしたときは、通常、数百メートルにも及ぶ湧昇パイプの運搬性や施工性が容易となり、さらに製造コストを低減することができる。
【0057】
図16は、本発明の第4実施形態に係る海洋生物資源生産装置Aの断面図である。この海洋生物資源生産装置Aの特徴は、上述した海洋生物資源生産装置Aの透光ロッド20に散気手段30を設けたことである。
【0058】
この散気手段30は、ソーラーパネル31で蓄電した電力で駆動される吸気ブロアー32と、エアー通路33と、散気器34とで構成されている。
【0059】
ソーラーパネル31及び吸気ブロアー32は、動物プランクトン培養槽7の筐体8に取り付けられた浮体9上に設けられている。そして、この吸気ブロアー32で生成された圧縮空気は、エアー通路33を経由して透光ロッド20の下端部に設けられている多孔体からなる散気器34に供給されるように構成されている。また、吸気ブロアー32には、図示しないが、空気を清浄するフィルターが設けられていて、散気器34から散気される空気により植物プランクトンの培養に悪影響を与えないように配慮されている。
【0060】
エアー通路33は、水上側ではエアーホースとエアーパイプとで構成され、透光ロッド20側では、その透光ロッド20の軸心に沿って設けられた通路で構成されている。そして、透光ロッド20の軸心に設けられた通路と、水上側の通路との連絡は、図17に拡大して示されるように、筐体21bに設けられているOリング35で気密に保たれる空気室21baを介して行われるように構成されている。
【0061】
図17の構成をより詳しく説明すると、筐体21bの底面には、吸気ブロアー32から吸気された空気が供給される空気室21baが設けられている。また、筐体21bの底面には、透光ロッド20が挿入される孔部21bbが備えられている。透光ロッド20は、透光ロッド20が孔部21bbに挿入されたときに、透光ロッド20のエアー通路33と空気室21baとを連通させ、空気室21baの空気を透光ロッド20のエアー通路33に吸気させる吸気穴20cを備える。筐体21bは、透光ロッド20が孔部21bbに挿入されたときに、透光ロッド20の外周面20dと孔部21bbの内周面21bbaとの間のギャップを気密に塞ぐ可撓性部材であるOリング35を備える。
【0062】
上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aは、散気器34から散気(バブリング)が行われることにより、(1)大気中のCOガスの導入、(2)バブリングによる湧昇流の形成(図16の上向きの白抜き矢印参照)、(3)供給する大気の量を深層水に供給、(5)バブリングの気泡により透光ロッド20の表面、湧昇パイプ1の内面の付着物のクリーニング、(6)バブリングによる、照射する照射光(可視光)や輻射熱の湧昇パイプ1の断面方向の均一化、(7)バブリングによる深層水の撹拌、を図ることができる。なお、この海洋生物資源生産装置Aは、吸気ブロアー32が動力を必要とするが、その動力は、ソーラーパネル31を介して得られるので、ランニングコストを低く抑えることができる。
【0063】
図18は、本発明の第5実施形態に係る海洋生物資源生産装置Aの断面図である。この海洋生物資源生産装置Aの特徴は、上述した海洋生物資源生産装置A~Aのような透光パイプ2や透光ロッド20の導光手段を一切用いずに、湧昇パイプの上部を、上方に行くにしたがって面積の広がる逆三角錐形に形成されたラッパ部1cを備えたラッパ状の湧昇パイプ1´としたことにある。湧昇パイプ1´のラッパ部1cは、「第1部分」の一例である。湧昇パイプ1´においてラッパ部1c以外の部分は、「第2部分」の一例である。
【0064】
このラッパ状の湧昇パイプ1´は、非透光性の合成樹脂製で構成されているが、金属製で構成することもできる。そして、この湧昇パイプ1´は、動物プランクトン培養槽7の筐体8内に、ラッパ部1cが位置するように取り付けられる。
【0065】
上記構成からなる海洋生物資源生産装置Aは、湧昇パイプ1´内を深層水が上昇してくると、ラッパ部1c部分で上昇速度が徐々に低下し、そのラッパ部1cにおける滞留時間が長くなるとともに、そのラッパ部1cにおける広い表面積で太陽光線を直接受けることとなる。また、このラッパ部1cは、表層水面に位置しているので汚染を受けやすいが、ラッパ部1c内は、深層水で満たされているので、周囲の表層水よりも汚染度が低く、ある程度、水質の管理されている領域で、植物プランクトンの培養に適した環境に保たれている。すなわち、このラッパ部1cは、外洋と隔離された状態で植物プランクトンを培養させることができる。しかも、この海洋生物資源生産装置Aは、上述した海洋生物資源生産装置A~Aのような透光パイプ2や透光ロッド20導光手段を一切用いずに、安価に植物プランクトンの培養を行うことができる。
【0066】
以上、本発明に係る海洋生物資源生装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 湧昇パイプ(深層水汲み上げ手段)
1a 下部開口
1b 上部開口
1c ラッパ部
2 透光パイプ
2´ 肉厚部
2a 透光パイプ
2a 散乱体
2b 透光パイプ
2b 反射材
3 非透光パイプ
3a 円筒状膜
3a 補強部材
3a 大径リング部材
3a 小径リング部材
3a スポーク部材
3c 蛇腹式パイプ
4 照射手段(植物プランクトン培養手段)
5 導光体
6 レンズ
7 動物プランクトン培養槽
8 筐体
9 浮体
10 照射手段
11a 導光体
11b 導光体
12 筐体
13 レンズ
20 透光ロッド
20a 受光部
20b レンズ
20c 吸気穴
20d 外周面
21 照射手段
21a レンズ
21b 筐体
21ba 空気室
21bb 孔部
21bba 内周面
30 散気手段
31 ソーラーパネル
32 吸気ブロアー
33 エアー通路
34 散気器
35 Oリング
~A 海洋生物資源生産装置
B 生物資源生産領域
ブイ
ネット
底板
クロロフィルセンサ
照度センサ
流量センサ
第1領域
第2領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18