IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-成形用積層体 図1
  • 特許-成形用積層体 図2
  • 特許-成形用積層体 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】成形用積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20230912BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230912BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230912BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20230912BHJP
【FI】
B32B27/00 B
B32B27/32 E
B32B27/30 A
B32B7/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020535762
(86)(22)【出願日】2019-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2019030746
(87)【国際公開番号】W WO2020031968
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018149542
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】福永 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】掛谷 文彰
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104883(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038101(WO,A1)
【文献】特開2004-299384(JP,A)
【文献】特開2010-052334(JP,A)
【文献】特開2011-131410(JP,A)
【文献】特開2012-210755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
C09J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート層と、前記ハードコート層の表面に貼合わせられたマスキングフィルムとを含み、
前記マスキングフィルムにおける前記ハードコート層側の表面である粘着面が、貼合わせ前において、水の平均接触角とジヨードメタンの平均接触角の値からOWRK法に基づき算出される30.0(mN/m)以上の値の表面自由エネルギーを有し、
前記ハードコート層が硬化性であり、
前記マスキングフィルムの粘着面における表面粗さSaの値が0.1μm以下である、
成形用積層体。
【請求項2】
前記マスキングフィルムが、ポリエチレンを含む、請求項1に記載の成形用積層体。
【請求項3】
前記マスキングフィルムの粘着面における表面粗さSaの値が0.09μm以下である、請求項1又は2に記載の成形用積層体。
【請求項4】
前記ハードコート層が、無機酸化物ナノ粒子を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の成形用積層体。
【請求項5】
前記無機酸化物ナノ粒子が、共重合性基を表面に有するシリカを含む、請求項4に記載の成形用積層体。
【請求項6】
前記シリカの平均粒径が、5~500nmである、請求項5に記載の成形用積層体。
【請求項7】
前記ハードコート層が、(メタ)アクリロイルポリマーを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の成形用積層体。
【請求項8】
前記ハードコート層が、20~80重量%の前記(メタ)アクリロイルポリマーと、80~20重量%の無機酸化物ナノ粒子とを含む、請求項7に記載の成形用積層体。
【請求項9】
前記ハードコート層において前記(メタ)アクリロイルポリマー及び無機酸化物ナノ粒 子が60質量%以上含まれている、請求項7に記載の成形用積層体。
【請求項10】
前記ハードコート層がレベリング剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の成形用積層体。
【請求項11】
前記レベリング剤が、フッ素系添加剤またはシリコーン系添加剤をさらに含む、請求項10に記載の成形用積層体。
【請求項12】
前記ハードコート層がエネルギー線硬化性である、請求項1~11のいずれか一項に記載の成形用積層体。
【請求項13】
前記ハードコート層が光重合開始剤をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の成形用積層体。
【請求項14】
前記ハードコート層における、前記マスキングフィルムの前記粘着面と粘着するマスキングフィルム側粘着面とは反対側の表面に積層された基材層をさらに有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の成形用積層体。
【請求項15】
マスキングフィルムに表面が貼合わせられて請求項1~14のいずれか一項に記載の成形用積層体を形成するためのハードコート層であって、
(メタ)アクリロイルポリマーと無機酸化物ナノ粒子とを含むハードコート組成物により成形された、硬化性のハードコート層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用積層体に関し、特に、硬化可能なハードコート層と、マスキングフィルムとを積層させた成形用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードコート層を有する樹脂フィルム積層体が様々な分野で使用されている(特許文献1参照)。例えば、このような樹脂フィルムの積層体は、モバイル機器の前面板、背面板、及び、自動車内装部材等において用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2017-508828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂フィルムの積層体の表面を保護するハードコート層には、ある程度以上の硬さと高い耐擦傷性が必要とされる一方、所望の形状を有する樹脂フィルム積層体を製造するためには、良好な成形性が求められる。また、未硬化の状態のハードコート層の表面は柔らかいため、表面を平滑で良好な状態に維持することも必要とされる。そして、これらの異なる性能をハードコート層においていずれも満足させることは困難であった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、ハードコート層の硬化後の性状と、成形性に優れているとともに、未硬化の状態においてハードコート層の表面を良好な状態に維持できる成形用積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、硬化性のハードコート層と、ハードコート層の表面に貼合わせられた所定のマスキングフィルムとを含む成形用積層体が、上述の課題を解決できる優れた特徴を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)ハードコート層と、前記ハードコート層の表面に貼合わせられたマスキングフィルムとを含み、
前記マスキングフィルムにおける前記ハードコート層側の表面である粘着面が、貼合わせ前において、水の平均接触角とジヨードメタンの平均接触角の値からOWRK法に基づき算出される30.0(mN/m)以上の値の表面自由エネルギーを有し、
前記ハードコート層が硬化性である、成形用積層体。
(2)前記マスキングフィルムが、ポリエチレンを含む、上記(1)に記載の成形用積層体。
(3)前記マスキングフィルムの粘着面における表面粗さSaの値が0.1μm以下である、上記(1)又は(2)に記載の成形用積層体。
(4)前記ハードコート層が、無機酸化物ナノ粒子を含む、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の成形用積層体。
(5)前記無機酸化物ナノ粒子が、共重合性基を表面に有するシリカを含む、上記(4)に記載の成形用積層体。
(6)前記シリカの平均粒径が、5~500nmである、上記(5)に記載の成形用積層体。
(7)前記ハードコート層が、(メタ)アクリロイルポリマーを含む、上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の成形用積層体。
(8)前記ハードコート層がレベリング剤を含む、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載成形用積層体。
(9)前記レベリング剤が、フッ素系添加剤またはシリコーン系添加剤をさらに含む、上記(8)に記載の成形用積層体。
(10)前記ハードコート層がエネルギー線硬化性である、上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の成形用積層体。
(11)前記ハードコート層が光重合開始剤をさらに含む、上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の成形用積層体。
(12)前記ハードコート層における、前記マスキングフィルムの前記粘着面と粘着するマスキングフィルム側粘着面とは反対側の表面に積層された基材層をさらに有する、上記(1)~(11)のいずれか一項に記載の成形用積層体。
(13)マスキングフィルムに表面が貼合わせられて成形用積層体を形成するためのハードコート層であって、
(メタ)アクリロイルポリマーと無機酸化物ナノ粒子とを含む、硬化性のハードコート層。
【発明の効果】
【0008】
本発明の成形用積層体は、上述のように、所定のハードコート層と、ハードコート層の表面に貼合わせられたマスキングフィルムとを含有している。成形用積層体は、ハードコート層の硬化後の性状と、成形性に優れているとともに、未硬化の状態においては、ハードコート層の表面が良好な状態に維持されるという特徴を有する。
【0009】
このように優れた特徴を有するため、本発明のハードコート組成物は、例えば、モバイル機器、自動車内装部材等の用途に用いられる樹脂フィルム積層体の材料として、特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マスキングフィルムとハードコート層を含む成形用積層体の具体例を示す断面図である。
図2】ハードコート層に貼付されてから1日間、経過後の実施例1と比較例2のマスキングフィルムの表面形状を処理データに基づき示す図である。
図3】実施例1と比較例1のマスキングフィルムをそれぞれハードコート面に貼付した状態における、ハードコート層とマスキングフィルム粘着層との界面(ハードコート層側の表面)の画像データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の効果を有する範囲において任意に変更して実施することができる。
【0012】
[成形用積層体]
本発明の成形用積層体は、硬化性であるハードコート層と、ハードコート層の表面に貼合わせられたマスキングフィルムとを含む。マスキングフィルムにおいては、詳細を後述するように、ハードコート層に貼合わせられる粘着面における表面自由エネルギーが高く、濡れ性に優れている。このようなマスキングフィルムをハードコート層に積層させた成形用積層体においては、その後、マスキングフィルムを剥離させて除外したときにも、ハードコート層のマスキングフィルム側の粘着面の表面に微細な凹凸を生じさせず、平滑なままで維持することが可能である。
【0013】
[マスキングフィルム]
マスキングフィルムにおいては、ハードコート層に接する表面が、適度な粘着力を有する粘着面であり、ハードコート層の表面に貼合せられる。マスキングフィルムは、粘着層のみの単層でも良いが、基材と粘着層との2層構造を有することが好ましい。2層構造のマスキングフィルムにおいては、粘着層の粘着面がハードコート層に接するようにハードコート層に積層される。マスキングフィルムは、上述の基材と粘着層以外の層をさらに含む多層構造であっても良い。また、マスキングフィルムは、単層構造であっても良く、単層構造のマスキングフィルムにおいても、ハードコート層側の表面である粘着面が適度な粘着力を有している。
【0014】
マスキングフィルムの基材は、熱可塑性樹脂により成形されることが好ましく、ポリオレフィン樹脂を含むことがさらに好ましい。マスキングフィルムに含まれるポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることができ、単独重合体であっても共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂の中でもポリエチレンが好ましい。
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等を用いることができるが、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0015】
また、ポリオレフィン共重合体としては、エチレン又はプロピレンと、これらと共重合可能な単量体との共重合体を用いることができる。エチレン又はプロピレンと共重合することができる単量体として、例えば、α-オレフィン、スチレン類、ジエン類、環状化合物、酸素原子含有化合物等が挙げられる。
【0016】
上記α-オレフィンとしては、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。上記スチレン類としては、スチレン、4-メチルスチレン、4-ジメチルアミノスチレン等が挙げられる。上記ジエン類としては、1,3-ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等が挙げられる。上記環状化合物としては、ノルボルネン、シクロペンテン等が挙げられる。酸素原子含有化合物としては、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル等が挙げられる。これら共重合することができる単量体は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、エチレンとプロピレンとの共重合体であってもよい。
共重合体は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであってもよい。
【0017】
マスキングフィルムの基材に含まれるポリオレフィン樹脂には、少量のアクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有単量体によって変性された変性ポリオレフィン樹脂が含まれていてもよい。変性は、通常、共重合又はグラフト変性により可能である。
【0018】
マスキングフィルムの基材は、 基材の全重量を基準として、80重量%以上のポリオレフィン樹脂を含むことが好ましく、より好ましくは、基材は、90重量%以上のポリオレフィン樹脂を含み、さらに好ましくは、95重量%以上のポリオレフィン樹脂を含む。
【0019】
マスキングフィルムの粘着層は、エラストマー、又は、熱可塑性樹脂により成形されることが好ましい。粘着層に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、変性ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。マスキングフィルムに含まれるポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることができ、単独重合体であっても共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂の中でもポリエチレンが好ましい。
【0020】
マスキングフィルムの粘着層は、 粘着層の全重量を基準として、80重量%以上のエラストマー又は熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、より好ましくは、90重量%以上のエラストマー又は熱可塑性樹脂を含み、さらに好ましくは、95重量%以上のエラストマー又は熱可塑性樹脂を含む。
【0021】
マスキングフィルムにおける粘着面、すなわち、ハードコート層の表面に接する粘着面は、ハードコート層に貼り合せられる前の状態で、30.0(mN/m)以上の値の表面自由エネルギーを有する。表面自由エネルギーの値は、上記粘着面上に静置した1μlの水の平均接触角と、1μlのジヨードメタン(CH)の平均接触角を、θ/2法に基づいて測定し、これらの平均接触角の値からOWRK法(Owens-Wendt-Rabel-Kaelble法)に沿って算出される。上記粘着面の表面自由エネルギーの値は、好ましくは31.0(mN/m)以上である。
【0022】
マスキングフィルムにおいてハードコート層の表面に接する粘着面においては、上述の1μlのジヨードメタンを静置したときの平均接触角の値が、64°以下であることが好ましく、より好ましくは60°以下、さらに好ましくは58°以下である。
上述のように表面自由エネルギーが高い、又は、静置したジヨードメタンの液滴の接触角度の小さい粘着面を有するマスキングフィルムは、濡れ性が高いといえる。濡れ性の高いマスキングフィルムによって、詳細を後述するハードコート層の表面が覆われると、ハードコート層の表面に微細な凹凸を生じさせず、平滑に維持することが容易に可能となる。
また、このようなマスキングフィルムによって、未硬化の柔らかい状態にあるハードコート層であっても、その表面が確実に保護されるため、ハードコート層の成形性を向上させることも容易である。
【0023】
マスキングフィルムにおいては、ハードコート層に貼付される前(未貼付)の状態において、ハードコート層に接することとなる粘着面における表面粗さSaの値(ISO 25178)が、0.100μm以下であることが好ましい。マスキングフィルムの粘着面における未貼付の状態の表面粗さSaの値は、より好ましくは0.090μm以下であり、さらに好ましくは0.080μm以下であり、特に好ましくは0.070μm以下である。
【0024】
マスキングフィルムの粘着面における粘着力の値は、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂層)の表面に対し、5(mN/25mm)以上かつ5000(mN/25mm)以下であることが好ましく、より好ましくは9(mN/25mm)以上かつ3000(mN/25mm)以下である。
【0025】
成形用積層体において、マスキングフィルムの厚さは10μm~100μmであることが好ましく、より好ましくは、20μm~80μmである。
【0026】
[ハードコート層]
成形用積層体に含まれるハードコート層は、ハードコート組成物を層状に成形したものであり、エネルギー線の照射等によって硬化する硬化性を有している。ハードコート層(ハードコート組成物)は、(メタ)アクリロイルポリマーと無機酸化物ナノ粒子を含むことが好ましい。ハードコート組成物は、硬化前には成形性、及び、タックフリー性に優れており、また、成形用積層体からマスキングフィルムを剥離させ、取り除いて硬化させると、硬化後の積層体の最外層を構成するハードコート層において、高い硬度と優れた耐擦傷性とを実現できる。
【0027】
ハードコート組成物は、ハードコート組成物の全重量を基準として、20~80重量%の(メタ)アクリロイルポリマーと、80~20重量%の無機酸化物ナノ粒子を含むことが好ましい。より好ましくは、ハードコート組成物は、30~70重量%の(メタ)アクリロイルポリマーと、70~30重量%の無機酸化物ナノ粒子を含み、さらに好ましくは、40~60重量%の(メタ)アクリロイルポリマーと、60~40重量%の無機酸化物ナノ粒子を含む。
【0028】
ハードコート層の厚さは1.0μm~10μmであることが好ましい。ハードコート層の厚さは、例えば、2.0μm~8.0μm、あるいは3.0μm~7.0μmである。
【0029】
また、マスキングフィルムを、後述する(メタ)アクリロイルポリマーによって形成されたハードコート層に貼付後、温度23±2℃、及び、相対湿度50±5%の条件下においてマスキングフィルムの上から30kg/mの圧力をかけ、24時間経過した後にマスキングフィルムを剥離した後のハードコート層表面のSa値は、好ましくは0.0300μm以下であり、より好ましくは0.0200μm以下であり、さらに好ましくは0.0150μm以下である。
なお、マスキングフィルムをハードコート層の表面から剥離させるときの条件としては、剥離角、すなわち剥離中の状態におけるマスキングフィルムとハードコート層の表面との角度が90度であり、剥離速度は、600mm/分である。
【0030】
<(メタ)アクリロイルポリマー>
(メタ)アクリロイルポリマーは、200~500g/eqの(メタ)アクリル当量を有する。(メタ)アクリロイルポリマーの(メタ)アクリル当量は、好ましくは220~450g/eqであり、より好ましくは、250~400g/eqである。
また、(メタ)アクリロイルポリマーは、5,000~200,000の重量平均分子量を有する。(メタ)アクリロイルポリマーの重量平均分子量は、好ましくは10,000~150,000であり、より好ましくは15,000~100,000であり、さらに好ましくは20,000~50,000である。
重量平均分子量の値は、特開2007-179018号公報の段落0061~0064の記載に基づいて測定できる。測定法の詳細を以下に示す。
【表1】
すなわち、まず、ポリスチレンを標準ポリマーとしたユニバーサルキャリブレーション法により、溶出時間と、ポリカーボネートの分子量との関係を示す検量線を作成した。そして、ポリカーボネートの溶出曲線(クロマトグラム)を、上述の検量線の場合と同一の条件で測定した。さらに、ポリカーボネートの溶出時間(分子量)、及び、その溶出時間のピーク面積(分子数)から、重量平均分子量(Mw)を算出した。重量平均分子量は、以下の式(A)で表され、式(A)において、Niは分子量Miを有する分子数を意味する。
Mw=Σ(NiMi)/Σ(NiMi)・・・・(A)
なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルのいずれをも含む。
【0031】
上述のように、所定の範囲の(メタ)アクリル当量と重量平均分子量を有する(メタ)アクリロイルポリマーを含むハードコート組成物については、硬化前のタックフリー性、及び、硬化後の耐擦傷性が良好であるとともに、硬化・重合反応を容易に進行させることも可能である。
【0032】
ハードコート組成物に含まれる(メタ)アクリロイルポリマーは、以下の式(I)で示される繰り返し単位を有することが好ましい。
【化1】
ただし、式(I)において、mは、炭素数1~4のアルキレン基、又は、単結合であり、nは、炭素数1~4のアルキル基、又は、水素であり、pは、単結合、又は、炭素数1又は2のアルキレン基であり、qは、エポキシ基、水酸基、アクリロイル基、及び、メタクリロイル基の少なくともいずれかの置換基を含んでも良い全炭素数が1~12のアルキル基、又は、水素である。
【0033】
(メタ)アクリロイルポリマーは、より好ましくは、以下の繰り返し単位、すなわち、上記式(I)において、mが、炭素数1又は2のアルキレン基であり、nが、炭素数1又は2のアルキル基あり、pが、単結合、又は、メチレン基であり、qが、グリシジル基、水酸基、及び、アクリロイル基の少なくともいずれかの置換基を含んでも良い全炭素数が1~6のアルキル基、又は、水素である繰り返し単位を含む。
例えば、上記式(I)において、mはメチレン基であり、nはメチル基であり、pは単結合であり、qは、メチル基、グリシジル基(エポキシ基)を含む炭素数5以下のアルキル基、水酸基とアクリロイル基とを含む炭素数8以下のアルキル基等である。
【0034】
(メタ)アクリロイルポリマーに含まれる繰り返し単位の具体例として、以下の式(II-a),式(II-b),及び、式(II-c)で示されるものが挙げられる。
【化2】
(メタ)アクリロイルポリマーにおいて、上記式(II-a)の繰り返し単位は、上記式(II-a)の繰り返し単位、上記式(II-b)の繰り返し単位、及び、上記式(II-c)の繰り返し単位の合計モル数を基準として30~85モル%であることが好ましく、40~80モル%であることがより好ましい。上記式(II-b)の繰り返し単位は、上記合計モル数を基準として、5~30モル%であることが好ましく、10~25モル%であることがより好ましい。また、上記式(II-c)の繰り返し単位は、上記合計モル数を基準として、10~40モル%であることが好ましく、10~35モル%であることがより好ましい。
また、上記式(II-a)の繰り返し単位と、上記式(II-b)の繰り返し単位と、上記式(II-c)の繰り返し単位とのモル比は、好ましくは、4.5~5.5:1.5~2.5:2.5~3.5であり、例えば、5:2:3である。
【0035】
(メタ)アクリロイルポリマーには、ペンタエリスリトール系の多官能性アクリレート化合物を添加しても良い。複数のアクリレート基、好ましくは3つ以上のアクリレート基を有する多官能性アクリレート化合物として、例えば、以下の式(III-a),及び、式(III-b)でそれぞれ示される、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及び、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの他、ペンタエリスリトールトリアクリレート等が用いられる。
【化3】
【0036】
多官能性アクリレート化合物は、(メタ)アクリロイルポリマーとの合計重量を基準として、好ましくは70重量%以下、より好ましくは50重量%以下含まれる。このように、多官能性アクリレート化合物をハードコート組成物に加え、(メタ)アクリロイルポリマーの側鎖に含まれるアクリロイル基、グリシジル基(エポキシ基)、及び、水酸基と反応させるにより、より高い耐擦傷性を有するハードコート膜を形成することができる。
【0037】
<無機酸化物ナノ粒子>
ハードコート組成物に含まれる無機酸化物ナノ粒子として、シリカ粒子及びアルミナ粒子等が使用可能であり、これらの中でも、無機酸化物ナノ粒子はシリカ粒子を含むことが好ましい。そして、ハードコートに含まれる無機酸化物ナノ粒子は、好ましくは、表面処理剤で処理される。表面処理により、無機酸化物ナノ粒子をハードコート組成物中、特に、(メタ)アクリロイルポリマー成分中において安定した状態で分散させることができる。
【0038】
無機酸化物ナノ粒子に対する表面処理剤としては、無機酸化物ナノ粒子の表面に結合可能な置換基と、無機酸化物ナノ粒子を分散させるハードコート組成物の成分、特に、(メタ)アクリロイルポリマーとの相溶性の高い置換基とを有する化合物が好適に用いられる。例えば、表面処理剤として、シラン化合物、アルコール、アミン、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸等が用いられる。
【0039】
無機酸化物ナノ粒子は、好ましくは、表面に共重合性基を有する。共重合性基は、無機酸化物ナノ粒子の表面処理によって導入可能であり、共重合性基の具体例として、ビニル基、メタ(アクリル)基、フリーラジカル重合性基等が挙げられる。
無機酸化物ナノ粒子の平均粒子径は、5~500nmであることが好ましく、より好ましくは10~300nmであり、さらに好ましくは20~100nmである。なお、無機酸化物ナノ粒子の平均粒子径は、例えばマルバーンパナリティカル社のゼータサイザーナノZSを用いて、動的光散乱法による粒径測定方法に沿って測定される。
【0040】
<ハードコート組成物中のその他の成分>
ハードコート組成物は、上述の(メタ)アクリロイルポリマーと無機酸化物ナノ粒子に加え、レベリング剤をさらに含むことが好ましい。レベリング剤としては、例えば、フッ素系添加剤、シリコーン系添加剤等が用いられる。
フッ素系添加剤としては、DIC製メガファックRS-56、RS-75、RS-76-E、RS-76-NS、RS-78、RS-90、ネオス製フタージェント710FL、220P、208G、601AD、602A、650A、228P、フタージェント240GFTX-218(いずれもフッ素基含有UV反応性基含有オリゴマー)等が用いられ、これらの中でもフタージェント601AD等がフッ素系添加剤として好ましい。
また、シリコーン系添加剤としては、ビックケミー社製BYK-UV3500、BYK-UV3505(いずれも、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)等が用いられ、これらの中でもBYK-UV3500等がシリコーン系添加剤として好ましい。
【0041】
ハードコート組成物において、ハードコート組成物の全重量を基準として0.1重量%以上10重量%以下のレベリング剤が含まれることが好ましく、ハードコート組成物におけるレベリング剤の含有量は、より好ましくは0.5重量%以上7重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以上5重量%以下である。
【0042】
また、硬化性のハードコート組成物は、エネルギー線硬化性、又は、熱硬化性であっても良いが、好ましくはエネルギー線硬化性、より好ましくは、紫外線硬化性を有する。よってハードコート組成物は、光重合開始剤をさらに含むことが好ましい。光重合開始剤としては、IRGACURE 184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン)、IRGACURE 1173(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1- オン)、IRGACURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル -フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、EsacureONE(オリゴ(2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン)等が用いられ、これらの中でも耐熱性の観点から、IRGACURE TPO等が光重合開始剤として好ましい。
ハードコート組成物においては、例えば、ハードコート組成物の全重量を基準として1重量%以上6重量%以下の光重合開始剤が含まれる。光重合開始剤のハードコート組成物における含有量は、より好ましくは2重量%以上5重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以上4重量%以下である。
【0043】
ハードコート組成物は、その他の添加剤、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤、及び着色剤から成る群から選択された少なくとも1種類の添加剤を含んでいても良い。所望の諸物性を著しく損なわない限り、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等をハードコート組成物に添加してもよい。
ハードコート組成物において、(メタ)アクリロイルポリマー、及び、無機酸化物ナノ粒子は、60質量%以上含まれていることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、含まれている。よって、ハードコート組成物における、上記主要な二成分以外の成分の含有量は、40質量%未満であることが好ましく、より好ましくは20質量%未満であり、特に好ましくは10質量%未満である。
【0044】
<ハードコート層の製造>
ハードコート層は、上述の(メタ)アクリロイルポリマー、無機酸化物ナノ粒子等の材料物質をブレンドすることにより製造される。例えば、タンブラーを用いて(メタ)アクリロイルポリマー等の各成分を混合し、さらに押出機により溶融混練して、(メタ)アクリロイルポリマーを製造する。ここで、ハードコート組成物の形態はペレット状には限定されず、フレーク状、粉末状、又はバルク状等であっても良い。
【0045】
そして、ハードコート層は、ハードコート組成物を従来の手法で層状(シート状)に加工することにより製造される。例えば、押出成形、キャスト成形による方法である。押出成形の例としては、ハードコート組成物のペレット、フレークあるいは粉末を押出機で溶融、混練後、Tダイ等から押出し、得られる半溶融状のシートをロールで挟圧しながら、冷却、固化してシートを形成する方法が挙げられる。
【0046】
<ハードコート層の性状>
(i)タックフリー性
本発明のハードコート層は、タックフリー性に優れている。さらに、このようなハードコート層をマスキングフィルムで被覆した成形用積層体においては、未硬化の状態のハードコート層が、例えば作業者の手などの他の物質と接触しても、所定の形状を維持することができ、かつ接触した物質の表面にハードコート層の一部が付着することは抑制される。このように優れた特徴を有する成形用積層体は、様々な用途に適した形状に成形した後で、硬化させる加工を容易に実施することができる。また、硬化前の状態の成形用積層体を所定の形状のまま保管、あるいは流通させることも容易である。
【0047】
これに対し、タックフリー性に劣る樹脂組成物、例えば、分子量の低いオリゴマー等が主成分であるハードコート層を含む積層体においては、様々な用途に適した形状に成形する前に硬化させる工程が必要となるため、成形性に劣る傾向が認められる。
【0048】
(ii)マスキング剥離後の光沢性(外観)
ハードコート層においては、未硬化の状態でフィルム状に加工し、マスキングフィルムを積層させて剥離させたときに、フィルム表面における凹凸の発生を抑制でき、光沢を良好に維持することができる。詳細を後述するように、ハードコート層は、このような評価試験において、マスキングフィルム剥離後の表面を平滑に保ち、良好な光沢を維持できることが確認された。
【0049】
(iii)成形性(圧空成形性)
本発明の成形用積層体のハードコート層は、未硬化の状態における成形性にも優れている。ハードコート組成物の成形性は、例えば、以下のように評価される。すなわち、基材層の表面上にハードコート組成物を塗布して乾燥させた後、得られた積層体を、凸部を有する金型上に配置した状態で加熱して圧空成形性を実施したときに、シート状のハードコート組成物が、凸部に追従しつつ適度に延伸されるか否か、及び、クラックが発生するか否か、等によって評価され得る。
詳細は省略するものの、ハードコート層は、このような評価試験において、圧空成形性時にクラックを生じさせずに凸部に追従しつつ、延伸可能であることが確認された。
【0050】
(iv)耐擦傷性
マスキングフィルムを除いた状態でハードコート層を硬化させると、高い耐擦傷性が実現される。詳細を後述するように、ハードコート層を有する成形用積層体を硬化させると、ハードコート層の表面における耐擦傷性は、硬化したPMMA樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂)やレンズ用樹脂よりも優れていることが確認された。
【0051】
(v)硬度
マスキングフィルムを除いた状態で硬化させたハードコート層は、高い硬度を有する。具体的には、JIS K 5600-5-4:1999の評価方法における鉛筆硬度B以上を実現できる。硬化させたハードコート層の表面において、より好ましくはF以上、特に好ましくは2H以上の鉛筆硬度が実現される。
【0052】
(vi)密着性
硬化させたハードコート組成物は、また、密着性にも優れている。具体的には、JIS K 5600-5-6の評価方法によって定められる評価結果が0であるハードコート組成物が得られる。
【0053】
<基材層>
本発明の成形用積層体は、ハードコート層の表面のうちマスキングフィルムとは反対側の表面に接する基材層をさらに有することが好ましい。基材層は、ハードコート層における、マスキングフィルムの粘着面と粘着するマスキングフィルム側粘着面とは反対側の表面に積層される。
【0054】
成形用積層体の基材層は、好ましくは樹脂、より好ましくは熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂の種類について特に限定されないが、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、含ノルボルネン樹脂、ポリエーテルスルホン、セロファン、芳香族ポリアミド等の各種樹脂が用いられる。基材層の熱可塑性樹脂は、これらの選択肢のうち、少なくともポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。
【0055】
基材層に含まれるポリカーボネート樹脂の種類としては、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されないが、ビスフェノール骨格を有するポリカーボネート等が好ましく、ビスフェノールA骨格、又はビスフェノールC骨格を有するポリカーボネートが特に好ましい。ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAとビスフェノールCの混合物、又は、共重合体を用いても良い。ビスフェノールC系のポリカーボネート樹脂、例えば、ビスフェノールCのみのポリカーボネート樹脂、ビスフェノールCとビスフェノールAの混合物あるいは共重合体のポリカーボネート樹脂を用いることにより、基材層の硬度を向上できる。
また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、15,000~40,000であることが好ましく、より好ましくは20,000~35,000であり、さらに好ましくは22,500~25,000である。
【0056】
また、基材層に含まれるアクリル樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート(MMA)に代表される各種(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体、またはPMMAやMMAと他の1種以上の単量体との共重合体であり、さらにそれらの樹脂の複数種が混合されたものが挙げられる。これらのなかでも、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性に優れた環状アルキル構造を含む(メタ)アクリレートが好ましい。以上のような(メタ)アクリル樹脂の例として、アクリペット(三菱レイヨン製)、デルペット(旭化成ケミカルズ製)、パラペット(クラレ製)があるが、これらに限定されない。
なお、ポリカーボネート樹脂の表層に上述のアクリル樹脂を積層した積層体を基材として用いると、基材層の表層の硬度を向上させることができる点で好ましい。
【0057】
また、基材層は、熱可塑性樹脂以外の成分として添加剤を含んでいても良い。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤及び着色剤から成る群から選択された少なくとも1種類の添加剤などである。また、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を基材層に添加してもよい。
【0058】
基材層においては、熱可塑性樹脂が80質量%以上、含まれていることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上の熱可塑性樹脂が含まれている。また、基材層の熱可塑性樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂が80質量%以上、含まれていることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上のポリカーボネート樹脂が含まれている。
【0059】
基材層の厚さは、特に制限されないが、0.1mm~1.0mmであることが好ましい。基材層の厚さは、例えば、0.2mm~0.8mm、あるいは0.3mm~0.7mmである。
【0060】
積層体フィルムの構造は、例えば、図1に示す通りである。図1にて例示される成形用積層体10においては、最外層のマスキングフィルム12が、ハードコート層16に積層されている。このため、ハードコート層16のマスキングフィルム12側の表面は、マスキングフィルムによって保護される。ハードコート層16は、ポリメチルメタクリレート層(PMMA樹脂層)20とポリカーボネート層(PC樹脂層)22とを有する基材層のPMMA層側の表面上に積層されている。
【0061】
<成形用積層体の製造>
基材層を含む成形用積層体は、以下のように製造される。まず、樹脂組成物等の材料を従来の手法で層状(シート状)に加工し、基材層を製造する。例えば、押出成形、キャスト成形による方法である。押出成形の例としては、樹脂組成物のペレット、フレークあるいは粉末を押出機で溶融、混練後、Tダイ等から押出し、得られる半溶融状のシートをロールで挟圧しながら、冷却、固化してシートを形成する方法が挙げられる。
【0062】
そして単一層、もしくは複数の層を有する基材層の外側表面に、上述のように製造したコーティング組成物を塗布してハードコート層を形成する。
こうして得られた基材層とハードコート層の積層体のハードコート層側の表面に、あるいは、単層のハードコート層の表面に、上述のマスキングフィルムを貼合せて成形用積層体が製造される。
【0063】
上述の成形用積層体から、マスキングフィルムを除去して硬化させると、硬化フィルムを得ることができる。このように成形用積層体は、硬化性のハードコート層を有するものであり、成形用積層体のハードコート層を硬化させると硬化フィルムを得ることができる。
【0064】
上述のハードコート組成物の硬化後の性状からも明らかであるように、硬化フィルムのハードコート層側の表面は、優れた性状を有する。すなわち、硬化フィルムのハードコート層側の表面においては、高い鉛筆硬度、好ましくはJISK 5600-5-4:1999に基づくB以上の鉛筆硬度、高い耐擦傷性、及び、優れた密着性、例えば、JISK 5600-5-6における評価結果が0レベルである密着性、がいずれも実現される。
【実施例
【0065】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0066】
[積層体の製造]
まず、紫外線硬化型アクリロイルポリマー(根上工業製 アートキュアRA-3602MI)に、ナノシリカ粒子(日産化学工業製のオルガノシリカゾルMEK-AC-2140Z:平均粒子径10~15nm)を混合させ、アクリロイルポリマー:ナノシリカ粒子の重量比が60:40となるように調整した。さらに、光重合開始剤IRGACURE TPO(固形分に対し3重量%)、ビックケミー社製レベリング剤BYK-UV3500(固形分に対し1重量%)を添加して、混合液を得た。
得られた混合液に希釈溶剤としてMEKを加え、固形分30重量%に調製したコーティング組成物を、基材層としてのPC/PMMAフィルムのPMMA側にコーティングした。
コーティング工程は、#16巻線ロッドを用いて行い、塗布したコーティング溶液を120℃で5分間、乾燥させた。乾燥させたコーティング溶液によって、約7マイクロメートルの厚さのハードコート層が形成された。
【0067】
さらに、下記表2に示す基材と粘着層とを有するマスキングフィルムとして、以下のものを用意した。すなわち、
PE(ポリエチレン)の基材と変性PO(ポリオレフィン)の粘着層との積層体(実施例1:株式会社サンエー化研 製のPAC-3-50THK、厚み50μm)、
PET(ポリエチレンテレフタレート)の基材とPU(ポリウレタン)の粘着層との積層体(実施例2:株式会社サンエー化研 製のPU4050、厚み50μm)、
PP(ポリプロピレン)の基材とPPの粘着層との積層体(実施例3:日本マタイ株式会社 製のMX-107-N、厚み30μm)、
PPの基材とエラストマーの粘着層との積層体(比較例1:フタムラ化学株式会社 製のFSA-050M、厚み30μm)、及び、
PP(ポリプロピレン)の基材とPEの粘着層との積層体(比較例2:東レフィルム加工 株式会社製のR033KS、厚み45μm)である。
【0068】
これらのマスキングフィルム、ハードコート層、及び、基材層の表面に対して、1μlの水と、1μlのジヨードメタン(CH)の液滴の平均接触角を、それぞれフィッティング法(Height Width Automatic法(θ/2法)に基づいて、KRUSS(クルス)社の測定器MSAを用いて測定した。さらに、これらの平均接触角の値からOWRK法(Owens-Wendt-Rabel-Kaelble法)に沿って表面自由エネルギーの値を算出した。これらの結果を下記表2に示す。
【0069】
さらに、各実施例、及び、比較例のマスキングフィルムを、ハードコート層の基材とは反対側の表面上に貼り合せ、温度23±2℃及び相対湿度50±5%においてマスキングフィルムの上から30kg/mの圧力をかけ24時間、及び、1週間経過した後にハードコート層の表面を観察した。表面観察には、白色干渉顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製のVS-1530)、及び、光学顕微鏡(ニコン社製のECLIPSE LV100ND)を用いた。表面粗さSaの値(ISO 25178に準拠)は、株式会社日立ハイテクロノジーズ製走査型白色干渉顕微鏡VS1530により測定した。積層時の各実施例のマスキングフィルムとハードコート層との間には空気の混入が認められない、あるいは空気の混入量が少なかったのに対し、各比較例では、明らかな空気の混入が認められた。このため、マスキングフィルム剥離後のハードコート層の表面形状(外観)に差が生じたものと考えられる。
すなわち、下記表2、及び、図2に示されるように、実施例のマスキングフィルムの剥離後のハードコート層の表面は概ね凹凸がなく平滑であって、光沢に優れていたのに対し、比較例のマスキングフィルムの剥離後のハードコート層の表面においては、微細な凹凸が観察され、光沢に劣っていた。また、図3に示されるように、実施例では、マスキングフィルムをハードコート面に貼付したときにハードコート層とマスキングフィルム粘着層との界面が密着していて、高い密着性が実現されているのに対し、比較例では、これらの層間に隙間が認められた。
【表2】
【符号の説明】
【0070】
10 成形用積層体
12 マスキングフィルム
16 ハードコート層
20 ポリメチルメタクリレート層(PMMA樹脂層)
22 ポリカーボネート層(PC樹脂層)

図1
図2
図3