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特許7347432金属部材の溶接構造、及び金属部材の溶接構造の製造方法
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  • 特許-金属部材の溶接構造、及び金属部材の溶接構造の製造方法 図1
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  • 特許-金属部材の溶接構造、及び金属部材の溶接構造の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】金属部材の溶接構造、及び金属部材の溶接構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/323 20140101AFI20230912BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20230912BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20230912BHJP
   B23K 26/324 20140101ALI20230912BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20230912BHJP
   C22C 9/01 20060101ALN20230912BHJP
   C22C 9/02 20060101ALN20230912BHJP
   C22C 9/04 20060101ALN20230912BHJP
   C22C 9/06 20060101ALN20230912BHJP
   C22C 9/10 20060101ALN20230912BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20230912BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20230912BHJP
   C22C 21/06 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
B23K26/323
B23K26/21 G
B23K26/322
B23K26/324
C22C9/00
C22C9/01
C22C9/02
C22C9/04
C22C9/06
C22C9/10
C22C21/02
C22C21/00 M
C22C21/00 L
C22C21/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020541053
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2019029062
(87)【国際公開番号】W WO2020049885
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018164851
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】杉村 幸暉
(72)【発明者】
【氏名】桑原 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和宏
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹児
(72)【発明者】
【氏名】小野 純一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓次
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢次
(72)【発明者】
【氏名】中山 治
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和明
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 和紘
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/159503(WO,A1)
【文献】特開2006-231343(JP,A)
【文献】特開2018-12125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu部材と、
Al部材と、
前記Cu部材と前記Al部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記Cu部材は、Cuを主成分とするCu基材を有し、
前記Al部材は、Alを主成分とするAl基材と、前記Al基材における前記Cu部材の表面側を覆うめっき層とを有し、
前記溶接部は、前記Cu部材の表面の近傍に海島構造を備え、
前記海島構造は、
純Alを含む複数の島部と、
前記島部同士の間に介在される海部とを有し、
前記海部は、CuとAlとの金属間化合物の相と純Alの相との共晶組織を有する、
金属部材の溶接構造。
【請求項2】
前記海島構造は、疎密構造を備え、
前記疎密構造は、
前記島部の大きさが小さくて数が多い密な領域と、
前記島部の大きさが大きくて数が少ない疎な領域とを有し、
前記密な領域は、前記Cu部材の表面側に設けられ、
前記疎な領域は、前記Cu部材の表面側とは反対側に設けられる請求項1に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項3】
前記海部の厚さが5μm以下である請求項1又は請求項2に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項4】
前記島部同士の間隔が10μm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項5】
前記島部の大きさが1μm以上20μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項6】
前記海島構造の厚さが3μm以上である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項7】
前記Al基材は、添加元素として、Siを1質量%以上17質量%以下、Feを0.05質量%以上2.5質量%以下、Mnを0.05質量%以上2.5質量%以下、及びMgを0.1質量%以上1.0質量%以下の中から選択される1つ以上を含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項8】
前記めっき層は、Niめっき層の単層構造である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項9】
前記めっき層は、前記Al基材側から順にNiめっき層、Snめっき層が積層された積層構造である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項10】
前記Cu部材は、前記Cu基材の表面を覆うめっき層を有する請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項11】
前記溶接部は、前記Cu部材を貫通している請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造。
【請求項12】
Cu部材と、Al部材とを準備する工程と、
前記Cu部材と前記Al部材とを溶接する工程とを備え、
前記準備する工程において、
前記Cu部材は、Cuを主成分とするCu基材を有し、
前記Al部材は、Alを主成分とするAl基材と前記Al基材を覆うめっき層とを有し、
前記溶接する工程では、前記Cu部材と前記Al部材の前記めっき層とを対向配置させ、前記Al部材側からレーザーを照射し、
前記レーザーの照射条件は、
出力が550W以上、
走査速度が10mm/sec以上90mm/sec以下を満たす、
金属部材の溶接構造の製造方法。
【請求項13】
前記レーザーは、ファイバーレーザーである請求項12に記載の金属部材の溶接構造の製造方法。
【請求項14】
前記レーザーは、前記Cu部材を貫通するように照射する請求項12又は請求項13に記載の金属部材の溶接構造の製造方法。
【請求項15】
前記Cu部材は、前記Cu基材の表面を覆うめっき層を有し、
前記溶接する工程では、前記Cu部材の前記めっき層と前記Al部材の前記めっき層とを対向配置させて溶接する請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の金属部材の溶接構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属部材の溶接構造、及び金属部材の溶接構造の製造方法に関する。
本出願は、2018年9月3日付の日本国出願の特願2018-164851に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
Cu部材とAl部材とを溶接してなる金属部材の溶接構造として、例えば、特許文献1の異種金属同士の接続構造が知られている。この異種金属同士の接続構造は、銅からなる第1金属部とアルミニウムからなる第2金属部とを重ね、加熱しながら加圧して接合することで製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-97526号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る金属部材の溶接構造は、
Cu部材と、
Al部材と、
前記Cu部材と前記Al部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記Cu部材は、Cuを主成分とするCu基材を有し、
前記Al部材は、Alを主成分とするAl基材と、前記Al基材における前記Cu部材の表面側を覆うめっき層とを有し、
前記溶接部は、前記Cu部材の表面の近傍に海島構造を備え、
前記海島構造は、
純Alを含む複数の島部と、
前記島部同士の間に介在される海部とを有し、
前記海部は、CuとAlとの金属間化合物の相と純Alの相との共晶組織を有する。
【0005】
本開示に係る金属部材の溶接構造の製造方法は、
Cu部材と、Al部材とを準備する工程と、
前記Cu部材と前記Al部材とを溶接する工程とを備え、
前記準備する工程において、
前記Cu部材は、Cuを主成分とするCu基材を有し、
前記Al部材は、Alを主成分とするAl基材と前記Al基材を覆うめっき層とを有し、
前記溶接する工程では、前記Cu部材と前記Al部材の前記めっき層とを対向配置させ、前記Al部材側からレーザーを照射し、
前記レーザーの照射条件は、
出力が550W以上、
走査速度が10mm/sec以上を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態1に係る金属部材の溶接構造の概略を示す断面図である。
図2図2は、実施形態1に係る金属部材の溶接構造におけるCu部材とAl部材との界面近傍の一例を示す断面図である。
図3図3は、実施形態1に係る金属部材の溶接構造におけるCu部材とAl部材との界面近傍の他の例を示す断面図である。
図4図4は、実施形態1に係る金属部材の溶接構造におけるCu部材とAl部材との界面近傍の別の例を示す断面図である。
図5図5は、実施形態1に係る金属部材の溶接構造における溶接部のCu部材の表面近傍を拡大して示す顕微鏡写真である。
図6図6は、試料No.1-101の金属部材の溶接構造における溶接部のCu部材の表面近傍を拡大して示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
金属部材の溶接構造におけるCu部材とAl部材との接合強度の更なる向上が望まれている。
【0008】
そこで、本開示は、Cu部材とAl部材との接合強度に優れる金属部材の溶接構造を提供することを目的の一つとする。
【0009】
また、本開示は、Cu部材とAl部材との接合強度に優れる金属部材の溶接構造を製造できる金属部材の溶接構造の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示に係る金属部材の溶接構造は、Cu部材とAl部材との接合強度に優れる。
【0011】
本開示に係る金属部材の溶接構造の製造方法は、Cu部材とAl部材との接合強度に優れる金属部材の溶接構造を製造できる。
【0012】
《本開示の実施形態の説明》
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
(1)本開示の一態様に係る金属部材の溶接構造は、
Cu部材と、
Al部材と、
前記Cu部材と前記Al部材の各構成材料が溶融凝固された溶接部とを備え、
前記Cu部材は、Cuを主成分とするCu基材を有し、
前記Al部材は、Alを主成分とするAl基材と、前記Al基材における前記Cu部材の表面側を覆うめっき層とを有し、
前記溶接部は、前記Cu部材の表面の近傍に海島構造を備え、
前記海島構造は、
純Alを含む複数の島部と、
前記島部同士の間に介在される海部とを有し、
前記海部は、CuとAlとの金属間化合物の相と純Alの相との共晶組織を有する。
【0014】
上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材とAl部材との接合強度に優れる。溶接部におけるCu部材の表面の近傍に複数の島部が存在する。その島部は純Alを含むことで延性が相対的に高い。そのため、Cu部材の表面近傍の延性が高くなり易いからである。また、複数の島部が溶接部におけるCu部材の表面の近傍に分散されることで、当該表面の近傍に作用する応力が分散し易いからである。更に、複数の島部が溶接部におけるCu部材の表面の近傍に存在することで、亀裂が直線的に伝播し難くなるからである。
【0015】
(2)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記海島構造は、疎密構造を備え、
前記疎密構造は、
前記島部の大きさが小さくて数が多い密な領域と、
前記島部の大きさが大きくて数が少ない疎な領域とを有し、
前記密な領域は、前記Cu部材の表面側に設けられ、
前記疎な領域は、前記Cu部材の表面側とは反対側に設けられることが挙げられる。
【0016】
上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材とAl部材との接合強度により一層優れる。海島構造におけるCu部材の表面側に微細な島部の密な領域を有することで、溶接部におけるCu部材の表面近傍の延性が高くなり易いからである。その上、溶接部におけるCu部材の表面の近傍に作用する応力が分散し易いからである。また、島部の密な領域を有することで、亀裂が直線的に伝播し難くなるからである。上記の金属部材の溶接構造は、海島構造が島部の疎な領域を有することで、導電率の過度な低下を抑制し易い。
【0017】
(3)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記海部の厚さが5μm以下であることが挙げられる。
【0018】
上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材とAl部材との接合強度により一層優れる。上記の構成は、海部の厚さが小さくて脆性な金属間化合物の相のサイズが小さい。そのため、上記の構成は、Cu部材の表面と溶接部との界面の接合強度の低下を抑制できる。
【0019】
(4)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記島部同士の間隔が10μm以下であることが挙げられる。
【0020】
上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材とAl部材との接合強度により一層優れる。島部同士の間隔が過度に広すぎず、亀裂が直線的に伝播し難くなるからである。
【0021】
(5)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記島部の大きさが1μm以上20μm以下であることが挙げられる。
【0022】
島部の大きさが1μm以上であれば、溶接部におけるCu部材の表面近傍の延性が高くなり易い。島部の大きさが20μm以下であれば過度に大きすぎず、島部同士の間隔が広くなり難い。
【0023】
(6)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記海島構造の厚さが3μm以上であることが挙げられる。
【0024】
海島構造の厚さが3μm以上であれば、Cu部材とAl部材との接合強度がより一層優れる。溶接部におけるCu部材の表面の近傍に作用する応力が分散し易いからである。
【0025】
(7)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記Al基材は、添加元素として、Siを1質量%以上17質量%以下、Feを0.05質量%以上2.5質量%以下、Mnを0.05質量%以上2.5質量%以下、及びMgを0.1質量%以上1.0質量%以下の中から選択される1つ以上を含むことが挙げられる。
【0026】
上記添加元素の含有量がそれぞれの下限値以上であれば、純Alに比較してCu部材とAl部材との接合強度が高くなり易い。上記添加元素の含有量がそれぞれの上限値以下であれば、導電率が過度に低下することを抑制できる。
【0027】
(8)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記めっき層は、Niめっき層の単層構造であることが挙げられる。
【0028】
上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材とAl部材との接合強度を高め易い。めっき層が融点の高いNiめっき層であることで、上述の海島構造が形成され易いからである。そのため、溶接部におけるCu部材の表面の近傍に、厚さの厚い層状の金属間化合物や大きさの大きな島状の金属間化合物が形成されることを抑制できる。また、単層構造であれば、後述の積層構造に比較してめっき層の形成が容易である。
【0029】
(9)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記めっき層は、前記Al基材側から順にNiめっき層、Snめっき層が積層された積層構造であることが挙げられる。
【0030】
上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材とAl部材との接合強度を高め易い。めっき層が融点の高いNiめっき層を有することで、上述の海島構造が形成され易いからである。その上、めっき層がNiめっき層の表面に融点の低いSnめっき層を有することで、Snめっき層が接合材として機能し易いからである。
【0031】
(10)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記Cu部材は、前記Cu基材の表面を覆うめっき層を有することが挙げられる。
【0032】
上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材がめっき層を有していても、Cu部材とAl部材との接合強度に優れる。
【0033】
(11)上記金属部材の溶接構造の一形態として、
前記溶接部は、前記Cu部材を貫通していることが挙げられる。
【0034】
上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材とAl部材とが溶接されていることが容易に判別できる。Cu部材のAl部材とは反対側に溶接痕が形成されるからである。また、上記の金属部材の溶接構造は、Cu部材の一部を溶融する場合と同程度に接合強度に優れる。
【0035】
(12)本開示の一態様に係る金属部材の溶接構造の製造方法は、
Cu部材と、Al部材とを準備する工程と、
前記Cu部材と前記Al部材とを溶接する工程とを備え、
前記準備する工程において、
前記Cu部材は、Cuを主成分とするCu基材を有し、
前記Al部材は、Alを主成分とするAl基材と前記Al基材を覆うめっき層とを有し、
前記溶接する工程では、前記Cu部材と前記Al部材の前記めっき層とを対向配置させ、前記Al部材側からレーザーを照射し、
前記レーザーの照射条件は、
出力が550W以上、
走査速度が10mm/sec以上を満たす。
【0036】
上記の金属部材の溶接構造の製造方法は、Cu部材とAl部材との接合強度に優れる金属部材の溶接構造を製造できる。Al部材がめっき層を有し、レーザーの出力及び走査速度がそれぞれの範囲を満たすことで、溶接部におけるCu部材の表面の近傍に、延性を高め易く応力を緩和し易い上述の海島構造を形成できるからである。この海島構造の形成により、溶接部におけるCu部材の表面の近傍に、厚さの厚い層状の金属間化合物や大きさの大きな島状の金属間化合物が形成されることを抑制できるからである。この金属間化合物は脆性なAlCuである。その金属間化合物のサイズが大きいと、Cu部材とAl部材との接合強度が低下する。しかし、サイズの大きな金属間化合物の形成を抑制できることで、Cu部材とAl部材との接合強度が低下することを抑制できる。
【0037】
上記の金属部材の溶接構造の製造方法は、レーザーの出力を550W以上とすることで、Cu部材の表面を溶融させられてCu部材とAl部材とを溶接できる。
【0038】
上記の金属部材の溶接構造の製造方法は、レーザーの走査速度を10mm/sec以上とすることで、生産性を向上できる。走査速度が過度に遅すぎず、Cu部材とAl部材との溶接時間が長くなりすぎないからである。
【0039】
(13)上記金属部材の溶接構造の製造方法の一形態として、
前記レーザーは、ファイバーレーザーであることが挙げられる。
【0040】
上記の金属部材の溶接構造の製造方法は、Cu部材とAl部材とを溶接し易い。
【0041】
(14)上記金属部材の溶接構造の製造方法の一形態として、
前記レーザーは、前記Cu部材を貫通するように照射することが挙げられる。
【0042】
上記の金属部材の溶接構造の製造方法は、Cu部材とAl部材とが溶接されていることが容易に判別できる金属部材の溶接構造を製造できる。Cu部材のAl部材とは反対側に溶接痕が形成されるからである。Cu部材を貫通するほどCuを溶融させると、脆性な金属間化合物が形成されるため接合強度が低下すると考えられていた。しかし、めっき層を有するAl部材を準備して特定の照射条件のレーザーを照射すれば、脆性な金属間化合物のサイズが小さくなり易い。そのため、接合強度が低下することを抑制できる。よって、上記の金属部材の溶接構造の製造方法は、Cu部材の一部を溶融する場合と同程度の接合強度を有する金属部材の溶接構造を製造できる。
【0043】
(15)上記金属部材の溶接構造の製造方法の一形態として、
前記Cu部材は、前記Cu基材の表面を覆うめっき層を有し、
前記溶接する工程では、前記Cu部材の前記めっき層と前記Al部材の前記めっき層とを対向配置させて溶接することが挙げられる。
【0044】
上記の金属部材の溶接構造の製造方法は、Cu部材がめっき層を有していても、Cu部材とAl部材との接合強度に優れる金属部材の溶接構造を製造できる。
【0045】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。実施形態での説明は、金属部材の溶接構造、金属部材の溶接構造の製造方法、の順に行う。
【0046】
〔実施形態1〕
[金属部材の溶接構造]
図1図5を参照して実施形態1に係る金属部材の溶接構造1Aを説明する。金属部材の溶接構造1Aは、Cu部材2と、Al部材3と、Cu部材2とAl部材3とを接合する溶接部4とを備える(図1)。金属部材の溶接構造1Aの特徴の一つは、溶接部4が特定の組織の海島構造5を備える点にある(図5)。以下、各構成を詳細に説明する。以下の説明は、Cu部材2のAl部材3側を表(図1の紙面上側)、その反対側を裏(図1の紙面下側)として行う。また、以下の説明は、Al部材3のCu部材2側を裏(図1の紙面下側)とし、その反対側を表(図1の紙面上側)として行う。そして、以下の説明は、この表裏方向を厚さ方向として行う。図2図4は、図1の太点線の四角内を拡大して示している。即ち、図2図4は、Cu部材2とAl部材3との界面の近傍を拡大して示す。図5は、図1の太破線の四角内を拡大して示している。即ち、図5は、溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍を拡大した顕微鏡写真である。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0047】
(Cu部材)
Cu部材2は、Cu基材21を有する(図1図5)。Cu部材2は、ここではCu基材21のみで構成している(図1図3図5)。なお、Cu部材2は、Cu基材21と後述のめっき層22(図4)とを有する被覆部材で構成していてもよい。
【0048】
〈Cu基材〉
Cu基材21は、Cuを主成分とする。Cuを主成分とするとは、純CuやCu基合金をいう。Cu基材21は、不可避的不純物を含むことを許容する。Cu基合金の添加元素は、例えば、Si(ケイ素),Fe(鉄),Mn(マンガン),Ti(チタン),Mg(マグネシウム),Sn(スズ),Ag(銀),In(インジウム),Sr(ストロンチウム),Zn(亜鉛),Ni(ニッケル),Al(アルミニウム),及びP(リン)から選択される1種以上の元素が挙げられる。これらの添加元素の含有量は、導電率の過度な低下が生じない範囲で適宜選択できる。添加元素の合計含有量は、例えば0.001質量%以上0.1質量%以下が好ましく、更に0.005質量%以上0.07質量%以下が好ましく、特に0.01質量%以上0.05質量%以下が好ましい。ここでは、Cu基材21は、純Cuとしている。
【0049】
Cu基材21の形状は、適宜選択できる。Cu基材21の形状は、代表的には板状が挙げられる。Cu基材21の厚さは、適宜選択できる。Cu基材21の厚さは、例えば0.15mm以上0.6mm以下が挙げられ、更に0.25mm以上0.5mm以下が挙げられ、特に0.35mm以上0.4mm以下が挙げられる。Cu基材21の厚さは、Cu基材21における溶接部4以外の箇所の厚さとする。この点は、後述のめっき層22(図4)の厚さや、Al部材3のAl基材31及びめっき層32の厚さでも同様である。
【0050】
〈めっき層〉
めっき層22は、Cu基材21の表面を覆う(図4)。即ち、めっき層22は、Cu基材21におけるAl部材3側の面を覆う。めっき層22は、代表的には、Niめっき層が挙げられる。めっき層22の厚さは、適宜選択できる。めっき層22の厚さは、例えば、1μm以上10μm以下が挙げられ、更に1.5μm以上8μm以下が挙げられ、特に2μm以上6μm以下が挙げられる。
【0051】
(Al部材)
Al部材3は、Al基材31とめっき層32とを有する被覆部材である。めっき層32は、Al基材31の裏面を覆う。即ち、めっき層32は、Al基材31におけるCu部材2の側の面を覆う。
【0052】
〈Al基材〉
Al基材31は、Alを主成分とする。Alを主成分とするとは、純AlやAl基合金をいう。Al基材31は、不可避的不純物を含むことを許容する。Al基合金の添加元素は、Si、Fe、Mn、及びMgの中から選択される1種以上の元素が挙げられる。
【0053】
Siの含有量は、例えば、1質量%以上17質量%以下が挙げられ、更に2.5質量%以上15質量%以下が挙げられ、特に4質量%以上13質量%以下が挙げられる。Feの含有量は、例えば、0.05質量%以上2.5質量%以下が挙げられ、更に0.25質量%以上2質量%以下が挙げられ、特に0.5質量%以上1.5質量%以下が挙げられる。Mnの含有量は、例えば、0.05質量%以上2.5質量%以下が挙げられ、更に0.25質量%以上2質量%以下が挙げられ、特に0.5質量%以上1.5質量%以下が挙げられる。Mgの含有量は、例えば、0.1質量%以上1.0質量%以下が挙げられ、更に0.2質量%以上0.9質量%以下が挙げられ、特に0.3質量%以上0.8質量%以下が挙げられる。これらの添加元素の含有量がそれぞれの下限値以上であることで、純Alに比較してCu部材2とAl部材3との接合強度が高くなり易い。これらの添加元素の含有量がそれぞれの上限値以下であることで、導電率が過度に低下することを抑制できる。ここでは、Al基材31は、純Alで構成している。Al基材31をAl基合金で構成する形態は、後述する実施形態2で説明する。
【0054】
Al基材31の形状は、適宜選択できる。Al基材31の形状は、Cu部材2と同様、代表的には板状が挙げられる。Al基材31の厚さは、適宜選択できる。Al基材31の厚さは、例えば0.2mm以上1.2mm以下が挙げられ、更に0.25mm以上0.9mm以下が挙げられ、特に0.3mm以上0.6mm以下が挙げられる。
【0055】
〈めっき層〉
めっき層32は、例えば、単層構造としてもよいし、積層構造としてもよい。単層構造としては、Niめっき層321で構成することが挙げられる(図2)。積層構造としては、Al基材31側から順にNiめっき層321とSnめっき層322とが積層された構造が挙げられる(図3図5)。めっき層32の厚さは、適宜選択できる。例えば、めっき層32が単層構造の場合、Niめっき層321の厚さは、1μm以上10μm以下が挙げられ、更に1.5μm以上8μm以下が挙げられ、特に2μm以上6μm以下が挙げられる。めっき層32が積層構造の場合、Niめっき層321及びSnめっき層322の厚さはそれぞれ、1μm以上10μm以下が挙げられ、更に1.5μm以上8μm以下が挙げられ、特に2μm以上6μm以下が挙げられる。Niめっき層321は、後述するNiめっき層321の形成方法によっては添加元素を含むことがある。その添加元素は、例えば、リン(P)などが挙げられる。その添加元素の含有量は、少量である。
【0056】
(溶接部)
溶接部4は、Cu部材2とAl部材3とを接合する部分であり、各構成材料が溶融凝固されて構成されている。即ち、溶接部4の主たる構成元素は、Al,及びCuである。金属部材の溶接構造1Aの厚さ方向に沿った溶接部4の形成領域は、Al部材3の表面からCu部材2の少なくとも一部にわたった領域とすることが挙げられる。即ち、溶接部4は、Al部材3をその表裏に貫通している。この溶接部4の形成領域は、Cu部材2の裏面にわたる領域とすることが好ましい。即ち、溶接部4は、Cu部材2をその表裏に貫通していることが好ましい。溶接部4がCu部材2を貫通していれば、Cu部材2とAl部材3とが溶接されていることを容易に判別できる。Cu部材2の裏面に溶接痕が形成されるからである。
【0057】
溶接部4は、Cu部材2の表面の近傍に、後述する図6に示すような厚さの厚い層状の金属間化合物600や大きさの大きな島状の金属間化合物600が実質的に存在していない(図5)。この金属間化合物600は、脆性なAlCuであり、サイズが大きいとCu部材2とAl部材3との接合強度が低下する。即ち、サイズの大きな金属間化合物600が溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍に実質的に存在していないことで、Cu部材2とAl部材3との接合強度を高められる。この溶接部4は、Cu部材2の表面の近傍に海島構造5を備える。
【0058】
〈海島構造〉
海島構造5は、図5に示すように、分散する複数の小さな島部51と、島部51同士の間に介在される海部52とを備える。この海島構造5は、溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍に作用する応力を分散させ易い。溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍において、上記金属間化合物600(図6)に比較して島部51の表面積が大きくなり易いからである。そのため、金属部材の溶接構造1Aは、Cu部材2とAl部材3との接合強度に優れる。
【0059】
海島構造5の厚さは、例えば、3μm以上が好ましい。海島構造5の厚さが3μm以上であれば、溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍に作用する応力が分散し易い。そのため、Cu部材2とAl部材3との接合強度が高くなり易い。海島構造5の厚さは、更に5μm以上が好ましく、特に7μm以上が好ましい。この海島構造5の厚さの上限は、例えば30μm以下が好ましい。海島構造5の厚さが30μm以下であれば、亀裂が直線的に伝播することを抑制できる。海島構造5が過度に厚すぎず、島部51同士の間隔が広くなり過ぎないからである。
【0060】
海島構造5の厚さは、次のようにして求める。まず、溶接部4の断面をとる。この断面は、金属部材の溶接構造1Aの厚さ方向と溶接部4の長手方向(図1の紙面垂直方向)との両方に直交する方向(図1の紙面左右方向)に沿った断面(横断面)とする。この断面におけるCu部材2の表面の近傍に1つ以上の観察視野をとる。各視野の倍率及び各視野サイズは、Cu部材2の表面と、Cu部材2の表面に対して直交する方向に沿ってCu部材2の表面から最も遠い島部51とが同一視野内に含まれるサイズとする。各視野につきCu部材2の表面に対して直交する仮想線を3本以上引く。各仮想線上において、Cu部材2の表面と、Cu部材2の表面から最も遠い島部51のCu部材2とは反対側の交点との間の長さを測定する。全ての長さの平均を海島構造5の厚さとする。
【0061】
海島構造5は、密な領域511と疎な領域512とを有する疎密構造510を備える。密な領域511は、島部51の密度の高い領域である。密な領域511は、Cu部材2の表面側に設けられる。疎な領域512は、島部51の密度の低い領域である。疎な領域512は、Cu部材2の表面側とは反対側に設けられる。相対的に、密な領域511の島部51の大きさは小さく、島部51の数は多い。また、相対的に、疎な領域512の島部51の大きさは大きく、島部51の数は少ない。この疎密構造510は、溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍に作用する応力を分散させ易い。そのため、Cu部材2とAl部材3との接合強度が高くなり易い。密な領域511から疎な領域512に向かって段々、島部51の大きさが大きく、島部51の数が少なくなる傾向にある。
【0062】
・島部
島部51は、純Alを含む。島部51が純Alを含むため、島部51の延性は相対的に高い。この島部51はCu部材2の表面側に多く存在する。そのため、Cu部材2とAl部材3との接合強度が高くなり易い。Al基材31がAl基合金の場合、島部51は、純Alに加えてAl基合金の添加元素を含むことがある。この添加元素は、純Al中に固溶していることが好ましい。島部51の組成は、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により分析できる。
【0063】
島部51の大きさは、例えば、1μm以上20μm以下が好ましい。島部51の大きさが1μm以上であれば、Cu部材2とAl部材3との接合強度が高くなり易い。それは、溶接部4の延性を高め易いからである。島部51の大きさが20μm以下であれば、島部51が過度に大きすぎず、島部51同士の間隔が広くなり難い。島部51の大きさは、更に2μm以上15μm以下が好ましく、特に3μm以上10μm以下が好ましい。
【0064】
島部51の大きさは、溶接部4の断面における2つ以上の視野内に存在する全ての島部51の面積の平均とする。島部51の面積は、市販の画像解析ソフトにより求められる。断面の採り方は、上述の通りである。各視野の倍率は、10000倍とし、視野サイズは、Cu部材2の表面からその表面に対して直交する方向に15μmまでの範囲内で10μm×10μmとする。
【0065】
島部51同士の間隔は、例えば、10μm以下が好ましい。島部51同士の間隔が過度に広すぎず、亀裂が直線的に伝播することを抑制できるからである。島部51同士の間隔は、更に7μm以下が好ましく、特に5μm以下が好ましい。島部51同士の間隔の下限は、例えば、0.5μm以上が挙げられる。島部51同士の間隔が0.5μm以上であれば、島部51同士の間隔が過度に狭すぎず、溶接部4に作用する応力が分散し易い。特に、溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍に作用する応力が分散し易い。
【0066】
島部51同士の間隔は、次のようにして求める。溶接部4の断面において、2つ以上の観察視野をとる。各視野につきCu部材2の表面に直交する仮想線を5本以上引く。各仮想線上における隣り合う島部51同士の中心間の長さを測定する。全ての中心間長さの平均を島部51同士の間隔とする。断面の採り方及び視野については、島部51の大きさの場合と同様である。
【0067】
・海部
海部52は、島部51同士の間に三次元網目状に形成されている。海部52は、金属間化合物の相と純Alの相との共晶組織を有する。金属間化合物は、CuとAlとを含む。金属間化合物は、代表的にはAlCuが挙げられる。Al基材31がAl基合金の場合、金属間化合物の相と純Alの相の少なくとも一方の相は、Al基合金の添加元素を含むことがある。この添加元素は、含まれる相に固溶していることが好ましい。この共晶組織は、金属間化合物の相と純Alの相とが交互に積層されるラメラ状である。金属間化合物の相と純Alの相の積層方向が一方向に揃っているよりも、積層方向が種々の方向を向くように金属間化合物の相と純Alの相とがランダムに配置されていることが好ましい。溶接部4に作用する応力がより一層分散し易いからである。
【0068】
海部52の厚さは、例えば、5μm以下が好ましい。海部52の厚さが5μm以下であれば、海部52の厚さが薄くて脆性な金属間化合物の相のサイズが小さい。そのため、Cu部材2とAl部材3との接合強度が低下することを抑制し易い。海部52の厚さは、更に3μm以下が好ましく、特に2μm以下が好ましい。
【0069】
海部52の厚さは、島部51同士の間隔と同様の求め方で求める。溶接部4の断面において、2つ以上の観察視野をとる。各視野につきCu部材2の表面に直交する仮想線を5本以上引く。各仮想線上における隣り合う島部51同士の間の長さを測定する。全ての長さの平均を海部52の厚さとする。断面の採り方及び視野については、島部51の大きさの場合と同様である。
【0070】
[用途]
実施形態1に係る金属部材の溶接構造1Aは、各種のバスバーや、車載電池モジュールに好適に利用できる。
【0071】
〔作用効果〕
実施形態1に係る金属部材の溶接構造1Aは、Cu部材2とAl部材3との接合強度に優れる。
【0072】
[金属部材の溶接構造の製造方法]
適宜図1を参照して、実施形態1に係る金属部材の溶接構造の製造方法を説明する。実施形態1に係る金属部材の溶接構造の製造方法は、Cu部材2とAl部材3とを準備する工程(以下、準備工程ということがある)と、レーザーを照射してAl部材3とCu部材2とを溶接する工程(以下、溶接工程ということがある)とを備える。この金属部材の溶接構造の製造方法の特徴の一つは、準備工程でめっき層32を有するAl部材3を準備する点と、溶接工程で特定の照射条件のレーザーを照射する点とにある。この金属部材の溶接構造の製造方法は、上述した金属部材の溶接構造1Aを製造できる。以下、各工程の詳細を説明する。
【0073】
[準備工程]
準備工程では、Cu部材2とAl部材3とを準備する。
【0074】
(Cu部材)
Cu部材2は、Cuを主成分とするCu基材21で構成している。なお、Cu部材2は、上述のようにCu基材21とめっき層22とを有する被覆部材で構成してもよい。Cu基材21の組成、形状、及び厚さは、上述した通りである。ここでは、Cu基材21の組成は、純Cuとしている。Cu基材21の形状は、板状としている。めっき層22の種類や厚さは上述した通りである。めっき層22の形成は、電気めっきや無電解めっきなどで行える。
【0075】
(Al部材)
Al部材3は、Alを主成分とするAl基材31とめっき層32とを有する。Al基材31の組成、形状、及び厚さは、上述した通りである。ここでは、Al基材31の組成は純Alとしている。Al基材31の形状は、板状としている。めっき層32は、Al基材31側から順にNiめっき層321、Snめっき層322が積層された積層構造としている(図3)。勿論、めっき層32は、Niめっき層321の単層構造としてもよい(図2)。Al部材3がめっき層32を備えることで、後述の溶接工程でレーザー溶接すると、溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍に、応力を緩和し易い海島構造5を形成できる。この海島構造5の形成により、溶接部4におけるCu部材2の表面の近傍に、後述する図6に示すような厚さの厚い層状の金属間化合物600や大きさの大きな島状の金属間化合物600が形成されることを抑制できる。そのため、Cu部材2とAl部材3との接合強度に優れる金属部材の溶接構造1Aを製造できる。めっき層32の形成は、Cu部材2のめっき層22と同様、電気めっきや無電解めっきなどで行える。
【0076】
[溶接工程]
溶接工程では、Cu部材2とAl部材3とを溶接する。この溶接は、Cu部材2とAl部材3のめっき層32とを対向配置させ、Al部材3側からレーザーを照射することで行う。レーザーの照射により、Al部材3とCu部材2の各構成材料が溶融凝固された溶接部4が形成される。この溶接部4によって、Al部材3とCu部材2とが接合された金属部材の溶接構造1Aが製造される。なお、Cu部材2がめっき層22を有する場合には、Cu部材2のめっき層22とAl部材3のめっき層32とを互いに対向配置させて溶接する。
【0077】
レーザーの照射により、Al部材3は、そのレーザーの照射箇所の表裏にわたって溶融される。また、Cu部材2は、Al部材3の溶融箇所に対向する箇所の少なくとも一部が溶融される。レーザーの照射条件によっては、Cu部材2は、Al部材3と同様、その表裏にわたって溶融される。その場合、溶融凝固した溶接部4は、Cu部材2を貫通する。溶接部4がCu部材2を貫通すれば、Al部材3とCu部材2とが溶接されていることが容易に判別できる。Cu部材2の裏面に溶接痕(図示略)が形成されるからである。Cu部材2を貫通するほどCuを溶融させると、脆性な金属間化合物(AlCu)が形成されるため接合強度が低下すると考えられていた。しかし、めっき層32を有するAl部材3を準備して特定の照射除件のレーザーを照射すれば、脆性な金属間化合物のサイズが小さくなり易い。そのため、接合強度が低下することを抑制できる。よって、Cu部材2を貫通するほどCuを溶融させる場合であっても、Cu部材2の一部を溶融する場合と同程度の接合強度を有する金属部材の溶接構造1Aを製造できる。
【0078】
レーザーの種類は、Al部材3とCu部材2とを溶融して溶接可能なレーザーであればよい。レーザーの種類は、レーザーの媒体が固体である固体レーザーが挙げられる。レーザーの種類は、例えばファイバーレーザー、YAGレーザー、YVOレーザーの中から選択される1種のレーザーであることが好ましい。これらのレーザーは、Al部材3とCu部材2とを溶接し易い。これらレーザーの各々には、各レーザーの媒体に種々の材料がドープされた公知のレーザーも含む。即ち、上記ファイバーレーザーは、その媒体であるファイバーのコアに希土類元素などがドープされていることが挙げられる。希土類元素としては、例えば、Ybなどが挙げられる。上記YAGレーザーは、その媒体にNd、Erなどがドープされていてもよい。上記YVOレーザーは、その媒体にNdなどがドープされていてもよい。
【0079】
レーザーの照射条件は、Al部材3やCu部材2の厚さや、溶接部4の厚さ、レーザーの種類などに応じて適宜選択できる。レーザーの照射条件は、Cu部材2を貫通する程度の条件であることが好ましい。
【0080】
レーザーの出力は、550W以上が挙げられる。レーザーの出力を550W以上とすることで、Cu部材2の表面を溶融させられる。そのため、Al部材3とCu部材2とを溶接できる。レーザーの出力は、570W以上が好ましく、更に600W以上が好ましい。レーザーの出力は、850W以下が好ましい。レーザーの出力を850W以下とすることで、過度に出力が高くなり過ぎない。レーザーの出力は、更に830W以下が好ましく、特に800W以下が好ましい。
【0081】
レーザーの走査速度は、10mm/sec以上が挙げられる。レーザーの走査速度を10mm/sec以上とすることで、生産性を向上できる。走査速度が過度に遅すぎず、Al部材3とCu部材2との溶接時間が長くなりすぎないからである。レーザーの走査速度は、15mm/sec以上が好ましく、更に20mm/sec以上が好ましい。レーザーの走査速度は、90mm/sec以下が好ましい。レーザーの走査速度を90mm/sec以下とすることで、走査速度が過度に早すぎず、Cu部材2の表面を溶融させられる。レーザーの走査速度は、更に60mm/sec以下が好ましく、特に30mm/sec以下が好ましい。レーザーの走査方向は、適宜選択できる。レーザーの走査方向は、ここでは図1の紙面垂直方向としている。
【0082】
レーザー照射時のアシストガスは、窒素ガスが好ましい。アシストガスの噴射方向はレーザーの照射方向に対して直交する方向とすることが好ましい。
【0083】
〔作用効果〕
実施形態1に係る金属部材の溶接構造の製造方法は、接合強度に優れる金属部材の溶接構造1Aを製造できる。
【0084】
〔実施形態2〕
実施形態2に係る金属部材の溶接構造は、Cu部材2とAl部材3と溶接部4とを備える点は実施形態1に係る金属部材の溶接構造1Aと同様である。実施形態2に係る金属部材の溶接構造は、Al部材3におけるAl基材31がAl基合金で構成されている点が実施形態1に係る金属部材の溶接構造1Aと相違する。具体的には、Al基合金は、添加元素としてMnを含むAl-Mn合金である。Mnの含有量は、上述した通りである。この金属部材の溶接構造における溶接部は、Cu部材2の表面の近傍に海島構造を有する。この海島構造は、図5を参照して説明した実施形態1に係る金属部材の溶接構造1Aにおける溶接部4の海島構造5と同様である。即ち、海島構造は、分散する複数の小さな島部と、島部同士の間に介在される海部とを備える。この島部は、純Alに加えてAl基合金の添加元素を含む。海部は、金属間化合物の相と純Alの相との共晶組織を有する。金属間化合物は、CuとAlとを含む。金属間化合物の相と純Alの相の少なくとも一方の相は、Al基合金の添加元素を含む。
【0085】
《試験例1》
試験例1では、金属部材の溶接構造を作製して、その接合強度を評価した。
【0086】
〔試料No.1-1~No.1-6、No.1-101〕
各試料の金属部材の溶接構造は、上述の金属部材の溶接構造の製造方法と同様にして、準備工程と溶接工程とを経て作製した。
【0087】
[準備工程]
準備工程では、Cu部材とAl部材とを準備した。各試料におけるCu部材とAl部材の組み合わせは表1の通りである。
【0088】
(試料No.1-1)
試料No.1-1のCu部材には、純Cuの板材からなるCu基材を用意した。Cu基材の厚さは、0.3mmとした。Al部材には、純Alの板材からなるAl基材と、Al基材の表面を覆うめっき層とを備える被覆部材を用意した。Al基材の厚さは、0.6mmとした。めっき層は、Niめっき層の単層構造とした。めっき層の厚さは、2μmとした。
【0089】
(試料No.1-2)
試料No.1-2は、Al基材の材質を異ならせた点を除き、試料No.1-1と同じとした。Al基材は、Mnを1質量%含むAl-Mn合金の板材で構成した。
【0090】
(試料No.1-3)
試料No.1-3は、Al部材に備わるめっき層を積層構造で構成した点を除き、試料No.1-1と同じとした。めっき層は、Al基材側から順に、Niめっき層とSnめっき層とを積層したものである。Niめっき層の厚さとSnめっき層の厚さは、いずれも2μmとした。
【0091】
(試料No.1-4)
試料No.1-4は、以下の2つの点を除き、試料No.1-1と同じとした。
(1)Cu部材を、Cu基材とCu基材の表面を覆うめっき層とを備える被覆部材とした点
(2)Al部材に備わるめっき層を積層構造で構成した点
Cu基材は、試料No.1-1と同じとした。Cu部材のめっき層は、Niめっき層の単層構造とした。このNiめっき層の厚さは、2μmとした。Al部材のめっき層は、Al基材側から順に、Niめっき層とSnめっき層とを積層したものである。このNiめっき層の厚さとSnめっき層の厚さは、いずれも2μmとした。
【0092】
(試料No.1-5)
試料No.1-5は、以下の2つの点を除き、試料No.1-1と同じとした。
(1)Al基材の材質を異ならせた点
(2)Al部材に備わるめっき層を積層構造で構成した点
Al基材は、Mnを1質量%含むAl-Mn合金の板材で構成した。Al部材のめっき層は、Al基材側から順に、Niめっき層とSnめっき層とを積層したものである。このNiめっき層の厚さとSnめっき層の厚さは、いずれも2μmとした。
【0093】
(試料No.1-6)
試料No.1-6は、以下の2つの点を除き、試料No.1-1と同じとした。
(1)Cu部材を、Cu基材と、Cu基材の表面を覆うめっき層とを備える被覆部材とした点
(2)Al基材の材質を異ならせた点
Cu基材は、試料No.1-1と同じとした。Cu部材のめっき層は、Niめっき層の単層構造とした。めっき層の厚さは、2μmとした。Al基材は、Mnを1質量%含むAl-Mn合金の板材で構成した。
【0094】
(試料No.1-101)
試料No.1-101は、Al部材をAl基材のみで構成した点を除き、試料No.1-1と同じとした。即ち、試料No.1-1のAl部材は、めっき層を有していない。
【0095】
[溶接工程]
溶接工程では、Cu部材とAl部材のめっき層とを対向配置させ、Al部材側からレーザーを照射した。このレーザーの照射により、Cu部材とAl部材とを溶接した。Cu部材がめっき層を有する場合には、めっき層同士を対向配置させて溶接した。レーザーの照射条件は、表1に示す出力(W)及び走査速度(mm/sec)とした。
【0096】
〔組織分析〕
各試料の金属部材の溶接構造における溶接部の組織を分析した。図5図6に、代表的に試料No.1-3の溶接部4と試料No.1-101の溶接部400の顕微鏡写真を示す。
【0097】
試料No.1-3の溶接部4は、上述したように、Cu部材2の表面の近傍に海島構造5を備えることが分かった。試料No.1-3の溶接部4における海島構造5は、上述したように、密な領域511と疎な領域512とを有する疎密構造510を備えることが分かった。密な領域511は、島部51の密度の高い領域である。密な領域511は、Cu部材2の表面側に設けられている。疎な領域512は、島部51の密度の低い領域である。疎な領域512は、Cu部材2の表面側とは反対側に設けられている。試料No.1-1、No.1-2、No.1-4~No.1-6の溶接部は、図示は省略しているが、試料No.1-3の溶接部と同様の海島構造を有していた。各試料の溶接部における海島構造の厚さ(μm)、島部の大きさ(μm)、島部同士の間隔(μm)、海部の厚さ(μm)を上述した測定方法により測定した。その結果を、表2に示す。試料No.1-1~No.1-6の海島構造の厚さはいずれも、3μm以上であり、更に5μm以上であり、特に7μm以上であることが分かった。また、試料No.1-1~No.1-6の島部の大きさはいずれも、1μm以上20μm以下であり、更に15μm以下であり、特に10μm以下であることが分かった。試料No.1-1~No.1-6の島部同士の間隔はいずれも、10μm以下であり、更に7μm以下であり、特に5μm以下であることが分かった。試料No.1-1~No.1-6の海部の厚さはいずれも、5μm以下であり、更に3μm以下であることが分かった。
【0098】
一方、試料No.1-101の溶接部400は、試料No.1-3のような海島構造が形成されていなかった(図6)。この試料No.1-101の溶接部400は、Cu部材200の表面との界面に、厚さの非常に厚い層状のAlCuからなる金属間化合物600や、大きさの非常に大きな島状のAlCuからなる金属間化合物600が形成されていた。
【0099】
〔接合強度の評価〕
各試料の接合強度は、Cu部材2とAl部材3とを互いの対向面に対して垂直方向にかつ互いに離れる方向に引張ったときの最大引張力(N)を測定することで評価した。ここでは、レーザーの走査方向(溶接部の長手方向)に沿って溶接部が剥がれるように、両部材を引っ張った。溶接部の剥がれる速度は50mm/minとなるようにした。各試料の最大引張力の結果は、試料No.1-1,No.1-2,No.1-101では評価数n=3の最大引張力の平均とし、試料No.1-2~No.1-6では評価数n=5の最大引張力の平均とした。その結果を表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示すように、試料No.1-1~No.1-6の最大引張力はいずれも、試料No.1-101に比較して、1.24倍以上高いことが分かる。特に、試料No.1-5の最大引張力は、試料No.1-101の2倍以上高い。
【0103】
このように、Al基材とめっき層とを有するAl部材を用意し、特定の照射条件でレーザーを照射して溶接した金属部材の溶接構造は、めっき層を有さず純Alの基材のみを用意してレーザーを照射した金属部材の溶接構造に比較して、接合強度に優れることが分かる。
【0104】
試料No.1-1と試料No.1-2との比較と、試料No.1-3と試料No.1-5との比較と、試料No.1-4と試料No.1-6との比較とから、次のことが分かる。Al基材をAl基合金で構成した試料No.1-2、試料No.1-5、試料No.1-6はそれぞれ、Al基材を純Alで構成した試料No.1-1、試料No.1-3、試料No.1-4に比較して、接合強度に優れる。
【0105】
試料No.1-3と試料No.1-4との比較と、試料No.1-5と試料No.1-6との比較とから、次のことが分かる。Cu部材をCu基材のみで構成した試料No.1-3、試料No.1-5はそれぞれ、Cu部材をCu基材とめっき層とを有する被覆部材で構成した試料No.1-4、1-6に比較して、接合強度に優れる。
【0106】
試料No.1-1と試料No.1-3との比較から、Al基材を純Alとした場合、めっき層をNiめっき層の単層構造とした試料No.1-1は、Niめっき層とSnめっき層との積層構造とした試料No.1-3に比較して、接合強度に優れることが分かる。これに対して、試料No.1-2と試料No.1-5との比較から、Al基材をAl基合金とした場合、めっき層をNiめっき層とSnめっき層との積層構造とした試料No.1-5は、Niめっき層の単層構造とした試料No.1-2に比較して、接合強度に優れることが分かる。
【0107】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0108】
1A 金属部材の溶接構造
2 Cu部材
21 Cu基材
22 めっき層
3 Al部材
31 Al基材
32 めっき層
321 Niめっき層
322 Snめっき層
4 溶接部
5 海島構造
51 島部
510 疎密構造
511 密な領域
512 疎な領域
52 海部
200 Cu部材
400 溶接部
600 金属間化合物
図1
図2
図3
図4
図5
図6