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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/73 20060101AFI20230912BHJP
   H01M 4/82 20060101ALI20230912BHJP
   H01M 10/14 20060101ALI20230912BHJP
   H01M 10/16 20060101ALI20230912BHJP
   H01M 4/56 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
H01M4/73 A
H01M4/82 Z
H01M10/14 S
H01M10/16 S
H01M4/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020553245
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040716
(87)【国際公開番号】W WO2020080420
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2018194799
(32)【優先日】2018-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】上松 理紗
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/056417(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/132477(WO,A1)
【文献】特開2001-043863(JP,A)
【文献】特開平10-334940(JP,A)
【文献】特開2014-127434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液と、を具備する鉛蓄電池であって、
前記正極板および前記負極板は、それぞれ、集電体と、前記集電体に保持された電極材料と、を備え、
前記集電体は、矩形状の枠骨と、前記枠骨に設けられた耳と、前記枠骨の内側の内骨と、を有し、
前記枠骨は、前記耳と連続する上部要素と、前記上部要素と対向する下部要素と、前記上部要素と前記下部要素とを連結する一対の側部要素と、を具備し、
前記内骨は、前記上部要素から前記下部要素に向かう第1方向に延びる縦骨と、一方の前記側部要素から他方の前記側部要素に向かう第2方向に延びる横骨と、を具備し、
前記縦骨の前記第1方向に垂直な断面において、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、
前記断面の外周領域は、前記繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、前記第1部分以外の第2部分と、で構成され、
前記断面の輪郭の全長に占める前記第2部分に対応する輪郭の長さの割合は、50%未満であり、
前記耳の厚さtaに対する前記内骨の厚さtbの割合tb/taが60%以上97%以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記正極板と前記負極板とがセパレータを介して交互に積層されて電極群を構成しており、
前記電極群が積層方向に加圧されている、請求項1に記載の鉛蓄電池
【請求項3】
前記電極群の引き抜き荷重が、前記電極群の自重の1.6倍以上である、
請求項1または2に記載の鉛蓄電池
【請求項4】
前記正極電極材料はSbを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池を製造する方法であって、
集電体を準備する工程と、
前記集電体を含む前記正極板または前記負極板を得る工程と、を有し、
前記集電体を準備する工程が、
圧延板を準備する工程と、
前記圧延板に対して打ち抜き加工を行うことにより、格子状に形成された複数の中間骨を有する中間格子体を形成する工程と、
前記中間格子体に対して前記中間格子体の厚さ方向からプレス加工を行って前記内骨の少なくとも一部を形成する工程と、を含み、
前記プレス加工は、前記複数の中間骨の少なくとも一部において、前記中間骨の延びる方向と交差する骨幅方向における中央部よりも前記骨幅方向における少なくとも一方の端部が薄くなり、かつ前記耳の厚さt a に対する前記中央部の厚さt b の割合t b /t a が60%以上97%以下となるように変形させることを含む、鉛蓄電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層された電極群を具備する。電極板は、集電体と、集電体に保持された電極材料とで構成されている。
【0003】
特許文献1は、鉛合金の圧延板をプレス打ち抜きしてなる鉛格子板において、内部の縦および横の桟の厚さを外枠の厚さよりも薄くし、かつ外枠の厚さが0.8~1.5mm、内部の桟の厚さが0.6~0.8mmの範囲にあることを特徴とする鉛蓄電池用鉛格子板を提案している。また、厚さ1.2~1.5mmの鉛合金の圧延板をプレス打ち抜きして得られる鉛格子板の内部枠に対して、厚さ方向に変形を加えて内部の縦及び横の桟の厚さを0.6~0.8mmの範囲に設定したことを特徴とする鉛蓄電池用鉛格子板を提案している。
【0004】
上記鉛格子板においては、外枠の厚さに対して内枠の厚さを薄くして活物質の保持面を外枠に対して段状に凹設した形状であるため、単位鉛格子板当たりの活物質の保持量は均一厚さの鉛格子板に比べて著しく増大せしめることができ、しかも鉛格子板表面の粗面加工を行わずとも活物質の保持力も大巾に向上し得るものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭51-60936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内部の縦および横の桟の厚さを外枠の厚さよりも薄くする場合、鉛格子板表面の粗面加工を行わなくても活物質の保持力を向上させるとともに、更に活物質の保持量を増大させることができるとされている。
【0007】
しかしながら、活物質の保持力を向上させたとしても、集電体の腐食を抑制しない限り、集電体の伸びを抑制することは困難であり、電極材料の脱落が生じ得る。電極材料の脱落が生じた場合には、必然的に電池容量の低下が起こる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、電解液と、を具備する鉛蓄電池であって、正極板および負極板が、それぞれ、集電体と、集電体に保持された電極材料とを備え、枠骨に設けられた耳と、枠骨の内側の内骨とを有し、枠骨が、耳と連続する上部要素と、上部要素と対向する下部要素と、上部要素と下部要素とを連結する一対の側部要素とを具備し、内骨が、上部要素から下部要素に向かう第1方向に延びる縦骨と、一方の側部要素から他方の側部要素に向かう第2方向に延びる横骨とを具備し、縦骨の第1方向に垂直な断面において、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、前記断面の外周領域は、前記繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、前記第1部分以外の第2部分とで構成され、前記断面の輪郭の全長に占める前記第2部分に対応する輪郭の長さの割合は、50%未満であり、前記耳の厚さtに対する前記内骨の厚さtの割合t/tが60%以上97%以下である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉛蓄電池の5時間率放電容量試験における電池容量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用集電体の外観を示す平面図である。
図1B】本発明の別の実施形態に係る鉛蓄電池用集電体の外観を示す平面図である。
図2A】縦骨の第1方向に垂直な断面写真である。
図2B】断面Cの概念図である。
図3】繊維状組織の断面が見られる内骨の断面写真である。
図4】内骨の腐食の進行状態を示す断面概念図である。
図5】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観を示す斜視図である。
図6】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池のt/tと、5時間率放電容量との関係について、第2部分率による違いを示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池のt/tと、過充電状態における正極集電体の縦伸びが初期比で7%となるまでの期間との関係を示すグラフである。
図8】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の電極群に圧迫をかけない場合の5時間率放電容量に対する圧迫をかける場合の5時間率放電容量の比率を示すグラフである。
図9】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の電極群の引き抜き荷重と、5時間率放電容量の比率との関係を示すグラフである。
図10】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の正極電極材料にSb添加しない場合の5時間率放電容量に対するSb添加する場合の5時間率放電容量の比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液とを具備する。正極板および負極板は、それぞれ、集電体と、集電体に保持された電極材料とを備える。集電体は、枠骨と、枠骨に設けられた耳と、枠骨の内側の内骨とを有する。内骨は網目状であってもよい。枠骨は、耳と連続する上部要素と、上部要素と対向する下部要素と、上部要素と下部要素とを連結する一対の側部要素とを具備する。内骨は、上部要素から下部要素に向かう第1方向に延びる縦骨と、一方の側部要素から他方の側部要素に向かう第2方向に延びる横骨とを具備する。第1方向とは、側部要素に平行な方向であり、第2方向とは、上部要素および下部要素に平行な方向である。なお、集電体は、格子体とも称する。ただし、集電体もしくは格子体の骨格は、格子状もしくは網目状に限定されるものではない。
【0012】
縦骨の第1方向に垂直な断面、すなわち上部要素に平行かつ厚さ方向に平行な断面(以下、断面Cとも称する。)には、金属の繊維状組織の縞模様が見られる。断面Cの外周領域は、繊維状組織(縞の方向)が断面Cの輪郭(以下、輪郭Cとも称する。)に沿って延びる第1部分と、第1部分以外の第2部分とで構成されている。
【0013】
ここで、輪郭Cの全長に占める第2部分に対応する輪郭(以下、第2輪郭部とも称する。)の割合(以下、第2部分率とも称する。)は50%未満に制御され、かつ、耳の厚さtに対する内骨の厚さtの割合t/tが60%以上97%以下に制御される。第2部分率を50%未満にすると、集電体の腐食による伸びが顕著に抑制される。t/tを60%以上97%以下にすると、集電体の表面が腐食しやすい状態となる。これらの効果が相乗的に奏されることで、良好な5時間率放電容量試験における電池容量を向上させることができる。t/tは、65%以上、95%以下が好ましく、70%以上、90%以下がより好ましく、75%以上、85%以下がよりさらに好ましい。
【0014】
耳の厚さtとは、耳の厚み方向における長さの平均値である。tは、例えば1.0mm~1.5mmであればよい。耳の厚み方向における長さの平均値は、耳の周縁から2mm以上内側の任意の3点における厚さの平均値であればよい。
【0015】
内骨の厚さtとは、格子体もしくは電極板の内骨の厚み方向における長さの平均値である。内骨の厚み方向における長さの平均値は、測定対象の内骨の骨幅方向における中央部の厚さの平均値であればよい。測定対象の内骨は縦骨である。測定位置は、耳および足を除く集電体の第1方向における寸法の上端から1/3の位置と2/3の位置である。それらの位置が縦骨と横骨との交差部に該当する場合、測定位置を少し移動させる。具体的には、上端から1/3の縦骨の測定位置の6割以上および上端から2/3の縦骨の測定位置の6割以上の測定値の平均値を算出すればよい。
【0016】
は、例えば0.65mm~0.98mmであればよい。tが0.65mm以上であれば、腐食を抑制する効果が大きくなり、0.98mm以下であれば、集電体による電極材料の保持力が高まり、電極材料の脱落を抑制しやすくなる。なお、tが1.5mm以上の比較的厚い打ち抜き集電体の場合、一般的には、輪郭Cに占める第2輪郭部の割合が大きくなる傾向がある。このように第2輪郭部の割合が大きい場合でも、プレス加工等により、第2部分率を50%未満、更には40%以下にまで低減させることは困難ではない。
【0017】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池では、好ましくは、集電体が、例えば、プレス機等による圧力を付与することにより加工される。t/tは、60%未満の場合、過充電後の集電体の伸び量が大きくなり適切でない。
【0018】
すなわち、上記鉛蓄電池の製造方法は、集電体を準備する工程と、準備された集電体を含む正極板または負極板を得る工程とを有する。ここで、集電体を準備する工程は、圧延板を準備する工程と、圧延板に対して打ち抜き加工を行うことにより、格子状に形成された複数の中間骨を有する中間格子体を形成する工程と、中間格子体に対して中間格子体の厚さ方向からプレス加工を行って内骨の少なくとも一部を形成する工程とを含む。更に、プレス加工は、複数の中間骨の少なくとも一部において、中間骨の延びる方向と交差する骨幅方向における中央部よりも骨幅方向における少なくとも一方の端部が薄くなり、かつ耳の厚さtに対する中央部の厚さtの割合t/tが60%以上97%以下となるように変形させることを含む。
【0019】
以下、集電体の各要素について更に説明する。
縦骨は、側部要素と平行に延びていてもよく、側部要素に対して斜め方向に延びていてもよい。また、縦骨は、直線状でもよく、曲線状でもよく、多少の折れ曲がりを有してもよい。すなわち、縦骨は、第1方向に向かうベクトルが第2方向に向かうベクトルよりも大きくなるように延びていればよい。
【0020】
横骨は、上部要素または下部要素と平行に延びていてもよく、上部要素または下部要素に対して斜め方向に延びていてもよい。また、横骨は、直線状でもよく、曲線状でもよく、多少の折れ曲がりを有してもよい。すなわち、横骨は、第2方向に向かうベクトルが第1方向に向かうベクトルよりも大きくなるように延びていればよい。枠骨は矩形状であってもよい。
【0021】
断面Cの輪郭とは、縦骨の外表面に対応する線を意味する。断面Cの外周領域とは、断面Cの輪郭に沿う周縁領域であり、外表面に対応する線から少なくとも55μm以上の深さを有し、好ましくは100μm以上の深さを有する周縁領域である。
【0022】
第2部分においては縞模様が観測されなくてもよく、外周領域の深さ方向に延びる縞模様が観測されてもよい。すなわち、第2部分の外表面には、繊維状組織の繊維長に垂直な断面が露出しやすい。第2部分率をより小さくする場合、断面Cの外周領域の外表面に、繊維状組織の繊維長に垂直な断面が露出しにくくなる。
【0023】
繊維状組織の繊維長に垂直な断面は、多くの粒界を有する。よって、第2部分では、縦骨の腐食が深くまで楔状に進行しやすい。深い腐食が進行すると、集電体の伸びが大きくなる傾向がある。一方、第1部分では、縦骨の腐食が浅く進行しやすい。浅い腐食による集電体の伸びは小さい。すなわち、同じ腐食量でも、第2部分率が小さいほど、集電体の深い領域まで腐食が進行しにくくなり、集電体の伸びが抑制され、電極材料の脱落が抑制される。第2部分率を40%以下とすることで、集電体の伸びはより顕著に抑制される。
【0024】
一方、横骨の第2方向に垂直な断面、すなわち側部要素に平行かつ厚さ方向に平行な断面(以下、断面Gとも称する。)には、金属の繊維状組織の縞模様がほとんど見られず、一般的には繊維状組織の繊維長に垂直な断面が見られる。断面Gの外周領域は、通常、ほぼ全周が断面Cにおける第2部分に相当する。つまり断面Gの外周領域はほぼ全周が第2方向に延びる繊維状組織で構成されている。よって、断面Gの外周領域では、腐食量が同じでも集電体の伸びは抑制される。
【0025】
第2部分率が50%未満(好ましくは40%以下)になると、腐食の進行の程度は、内骨の全体で均一となる傾向がある。このような腐食の均一化により、腐食部分の偏在が抑制され、集電体の一方向への伸びが抑制されるものと考えられる。
【0026】
ここで、第1部分率および第2部分率は、意図的に制御可能である。元々、第2部分率が大きい縦骨であっても、第2部分をつぶすように縦骨を変形させることも可能である。例えばプレス加工で縦骨を変形させる場合、プレスのスピード、プレス圧力、金型形状などにより、第1部分率を任意に制御可能である。すなわち、プレス加工で縦骨を変形させることが、第1部分率を大きくするための十分条件ではなく、プレス加工の条件を適宜制御することが必要である。第1部分率が大きくなると、集電体の伸びが抑制され、電極材料の脱落が抑制される。
【0027】
第1部分において、繊維状組織(縞の方向)が断面Cの外周領域の輪郭に沿って延びているとは、以下の状態をいうものとする。まず、集電体の枠骨の内側を、枠骨の上部要素側の上部領域と、枠骨の下部要素側の下部領域と、上部領域と下部領域との間の中部領域とに三等分されるように切断する。その際、複数の縦骨において、第1方向に垂直(上部要素に平行かつ厚さ方向に平行)な断面Cの列が4つ形成される。すなわち、上部領域および下部領域にそれぞれ1つの断面Cの列が形成され、中部領域には2つの断面Cの列が形成される。三等分の分割ラインが縦骨と横骨との交差部(ノード)に該当する場合には、できるだけ交差部間の縦骨部分に断面Cが形成されるように、分割ラインを全体的にまたは部分的に少し移動させて集電体を三分割してもよい。なお、集電体の枠骨の内側を三分割する際、耳もしくは足の寸法は考慮しない。
【0028】
次に、4つの列のうち、任意の2つの列から観察対象の断面Cを複数(2つの列に含まれる断面Cの6割以上)選択する。選択された断面Cの外周領域のうち、繊維状組織の縞が断面Cの輪郭と45°未満の角度を有する部分は第1部分である。具体的には、各断面Cの輪郭C上の任意の点Pにおいて、点Pの接線S1を描き、更に接線S1の垂線Lを、点Pを通るように描く。次に、垂線L上の点Pから55μmの深さに存在し、かつ垂線Lと交差する縞の接線S2を当該交差点で描く。接線S2と接線S1との角度θが45°未満である場合、点Pは、第1部分に対応する第1輪郭部を構成している。このような観察を輪郭Cで適宜行い、第1輪郭部の長さを特定し、輪郭Cの全長に占める第1輪郭部の割合を第1部分率として求める。角度θが45°以上である場合、点Pは第2部分を構成する。繊維状組織が観測できないなどの理由で、点Pが第1輪郭部を構成するか否かを判別できないときも当該点Pは第2部分を構成する。全ての選択された断面Cにおいて第1部分率を求め、平均値を計算する。
【0029】
切断された箇所が縦骨と横骨との交差部(ノード)である場合には、当該断面を除いて平均を出せばよく、縦骨の切断位置をノードが外れるようにずらしてもよい。
【0030】
断面Cを形成する際には、電極材料を充填する前の集電体を用いてもよい。もしくは、満充電状態の鉛蓄電池を解体して電極板を取り出し、水洗して電解液を除去し、乾燥する。次いで、電極板から電極材料を除去し、マンニットで集電体の表面に付着している電極材料を除去する。準備した集電体の全体が覆われるように熱硬化性樹脂に埋め込んで樹脂を硬化させた後、硬化樹脂とともに集電体を切断すればよい。断面Cにおける金属組織の状態は、集電体の断面をエッチング処理してからマイクロスコープで撮影し、観測すればよい。
【0031】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃±2℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(Ah)の0.2倍の電流(A)で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに定格容量として記載の数値(Ah)の0.2倍の電流(A)で2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量として記載の数値(Ah)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量として記載の数値(Ah)の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。
なお、定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0032】
第1部分の厚みは、55μm以上であればよい。また、一見すると第1部分に見える外周領域であっても、繊維状組織の縞模様が観測される領域の厚みが55μm未満の場合には、第1部分ではなく、第2部分と見なす。厚さ55μm以上の第1部分は、腐食の内側への入り込みを抑制する十分な作用を有する。この場合、腐食の内側への入り込みが内骨の全体で高度に均一化されやすい。よって、集電体の伸びが顕著に抑制され、電極材料の脱落も顕著に抑制される。縦骨の耐食性腐食の内側への入り込みの抑制を更に向上させる観点から、第1部分の厚みは、100μm以上が好ましい。
【0033】
なお、満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい。例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい。 使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0034】
断面Cにおける第1部分の厚みは、以下のように測定すればよい。まず、第1輪郭部上の任意の点P1において接線S1を描き、接線S1の垂線Lを、点P1を通るように描く。次に、垂線L上を点P1からXμmの深さまで移動する点Pxにおいて、垂線Lと交差する縞の接線S2を連続的に描く。このとき、接線S1と接線S2との角度が連続的に45°以下である場合には、点P1の直下の第1部分の厚みは、Xμm以上であるといえる。
【0035】
内骨の幅は、例えば0.7mm~3mmであればよい。内骨の幅とは、集電体もしくは電極板の面方向における内骨の長さ方向に垂直な幅である。内骨の幅が0.7mm以上であれば、腐食を抑制する効果が大きくなり、過充電時においても、内骨の断線を回避しやすくなる。また、内骨の幅が3mm以下であれば、集電体への電極材料の充填性が高まり、電極板の生産性が向上する。
【0036】
腐食を十分に抑制するためには、第2部分率は40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、17.5%以下がよりさらに好ましい。なお、第2部分率が50%未満よりさらに小さくなった場合でも、縦骨の腐食を完全に抑制できるものではない。ただし、腐食を均一化すれば、腐食部分の偏在が抑制され、集電体の一方向への伸びが抑制されるものと考えられる。
【0037】
断面Cの形状は、特に限定されないが、八角形であることが好ましい。断面Cが八角形であると、頂点の内角が小さくなり過ぎず、頂点付近の腐食を抑制する効果が高められる。断面Cが八角形の縦骨を形成するには、例えば、断面Cが矩形である縦骨を変形させればよい。縦骨を変形させる方法は、特に限定されないが、例えば、内骨をプレス加工すればよい。その際、第2部分率が50%未満、好ましくは40%以下となるように内骨のプレス条件を適宜選択すればよい。なお、断面Cの形状を八角形とすることで、輪郭Cの全長に占める第1輪郭部の長さの割合を大きくすることが容易となる。ここで、八角形は、数学的な意味における厳密な八角形でなくてもよく、頂点が多少丸みを帯びていたり、各辺が多少屈曲していたりしてもよい。
【0038】
集電体が、鉛または鉛合金の延伸シートの打ち抜き格子体である場合、横骨の内法の合計長さLWと、縦骨の内法の合計長さWLHとは、WLH/WLW≧0.8を満たしてもよく、WLH/WLW≧1.3を満たしてもよい。この場合、集電体の腐食の内側への入り込みが進行しやすい傾向があるため、第2部分率を50%未満、更には40%以下に制御することによる、集電体の伸びの抑制がより顕著になる。ここで、各内骨の内法長さとは、格子の升目の内法における長さ、すなわち、升目を画定する矩形の空間の辺の長さ(桟長)を意味する。なお、通常、長さWLWの方向(横骨の伸びる方向)は、延伸シートの延伸方向(MD方向)に相当する。
【0039】
本発明に係る集電体は、正極板および負極板のどちらに適用してもよい。すなわち、本発明に係る電極板は、正極板でも負極板でもあり得る。ただし、集電体の腐食による伸びの抑制の観点から、本発明に係る集電体は、特に正極板の集電体として適している。
【0040】
本発明に係る集電体は、打ち抜き集電体であればよく、例えば、鉛または鉛合金の延伸シートから形成すればよい。
【0041】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池においては、正極板と負極板とがセパレータを介して交互に積層されて電極群を構成しており、電極群が積層方向に加圧されていることが好ましい。電極群が積層方向に加圧されているとは、具体的には、電池を解体して電極群を取り出した場合には、電槽の電極群を収容するセル室の中央部の厚み方向の長さL1(対向する内壁面間の最小距離)と、電極群の中央部の厚み方向の長さL2において、L2がL1に等しい状態またはL2がL1よりも長い状態(L2≧L1)をいう。また、電極群が電槽内にある場合には、圧力の付加により、L2=L1となるように、電極群が厚み方向に圧縮されている状態をいう。圧力は、電槽の内壁面から付加されてもよく、プレス機等により外部から付加してもよい。これにより、集電体と電極材料との間の結着性を向上させることができる。
【0042】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池は、電極群の引き抜き荷重が、該電極群の自重の1.6倍以上であってもよく、2.0倍以上がより好ましく、2.3倍以上が更に好ましい。引き抜き荷重とは、鉛蓄電池の電極群を電槽から引き抜くときに、電極群を電槽から引き抜く方向に働く力のことである。具体的には、電極群の自重に対する当該荷重の割合が所定の値を超えるときに、集電体と電極材料との間の結着性が良好になると考えられる。層状組織の露出部分の面積が大きい集電体は、電極材料との結着性が低くなる傾向がある。正極板と負極板を含む電極群の引き抜き荷重を、電極群の自重の少なくとも1.6倍以上にすることにより、電極群の緊縛状態(圧迫状態)をさらに高めることができると考えられる。これにより、集電体と電極材料との間の結着性を向上させることが可能となる。
【0043】
引き抜き荷重を測定するときの電極群および自重を測定する電極群は、いずれも正極板、負極板、セパレータおよびストラップを含む。なお、引き抜き荷重測定時は、電解液を含んだ状態を想定し、具体的には、例えば電槽を裏返し、5分間以上置いて抜液する。
【0044】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池は、正極電極材料にSb(アンチモン)を含有することが好ましい。Sbにより、正極集電体と正極電極材料との密着性を高め、正極電極材料と集電体との間に導電性パスを確保することができる。電極群が積層方向に加圧される場合、導電性パスがより多く確保され、Sbによる導電性の向上効果が顕著に発揮される。正極電極材料と集電体との間の導電パスがより多く確保されることで、硫酸鉛の蓄積が抑制されやすくなるとともに、正極電極材料の軟化が抑制される。よって、正極電極材料の脱落も抑制されやすくなる。
【0045】
正極電極材料におけるSbの含有量とは、化成後の正極電極材料に占める、Sb元素としてのSb含有量である。Sbが化合物(例えば、酸化物または硫酸化合物)で存在していることも考えられるが、その場合も、化合物中のSbの質量のみを考慮して、Sb含有量を算出する。正極電極材料におけるアンチモン含有量は、0.01質量%以上、0.3質量%以下が好ましい。Sb含有量をこの範囲に制御することで、ガス発生が抑制され、減液を最小限にすることができる。
【0046】
正極電極材料中のSb含有量は、化成済みの満充電状態の鉛蓄電池を分解し、取り出した極板を水洗、乾燥後に電極材料を採取し、粉砕した試料を濃硝酸中に溶解させ、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析を行うことにより求められる。
【0047】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1Aおよび図1Bは、それぞれ本発明の一実施形態および別の実施形態に係る集電体100Aおよび100Bの外観を示す平面図である。集電体100Aおよび100Bは、いずれも枠骨110と、枠骨110の内側の網目状の内骨120とを有する。枠骨110は、耳130と連続する上部要素111と、上部要素111と対向する下部要素112と、上部要素111と下部要素112とを連結する一対の側部要素113、114とを具備する。破線は、内骨を、上部領域、中部領域、下部領域に三等分する境界を示している。図1Aの集電体100Aは、下部要素112と連続する下部突起(足部とも称する。)132を有する。図1Bの集電体100Bでは、横骨が上部要素または下部要素に対して斜め方向に延びている。LHは縦骨の格子当たりの内法長さを示し、LWは横骨の格子当たりの内法長さを示す。
【0048】
集電体100Aおよび100Bは、例えば、鉛または鉛合金の延伸シートの打ち抜き格子体であり、延伸方向は、図1中の矢印MDで示される方向である。縦骨120Aの断面Cは、図1中のIIa-IIa線における断面であり、横骨120Bの断面Gは、IIb-IIb線における断面である。延伸シートの金属組織は、延伸方向に延びた層状もしくは繊維状の組織を形成しやすい。よって、断面Cには縞模様が生じる。一方、断面Gには、層状もしくは繊維状の組織の裁断による模様が生じ得る。
【0049】
図2Aは、縦骨120Aの断面Cの写真の一例であり、当該断面は八角形の形状を有し、かつ金属組織の縞模様が見られる。図2Bは、図2Aを模した八角形の断面Cの一例の概念図である。一方、図3は、横骨120Bの断面Gの写真の一例であり、当該断面には金属の繊維状組織の繊維長に垂直な断面による模様が見られる。図2Bにおいて、八角形の断面Cの左右両側の大部分が、第2部分220であり、それ以外の外周領域は第1部分210である。第1部分210では、繊維状組織の縞(接線S2)が断面Cの輪郭(線S1)と45°未満の角度θ1を有する。一方、第2部分220では、繊維状組織の縞が確認できないか、もしくは縞(接線S2)が断面Cの輪郭(線S1)と45°を超える角度θ2を有する。なお、図2Aには、第2部分220の最表層には厚み約55μm未満の繊維状組織の縞模様が観測される領域が存在するが、このような薄い部分は、第1部分210を構成しない。
【0050】
図4は、内骨の腐食の進行状態を示す断面Cの概念図である。浅い腐食層が形成されている部分は、繊維状組織が断面Cの輪郭に沿って延びる第1部分であり、腐食が進行しても腐食層が深くまで形成されにくい。一方、集電体と電極材料との界面付近で剥離が生じやすくなる傾向がある。よって、集電体が変形しようとする応力が緩和されやすいと考えられる。一方、くさび状の深い腐食層が形成されている部分は第2部分である。深い腐食層が形成されると、集電体の不均一な変形が生じやすく、集電体が伸び、電極材料の脱落が生じやすくなる。
【0051】
次に、鉛蓄電池の電極板について説明する。本発明に係る鉛蓄電池用電極板は、上記集電体と、集電体に保持された電極材料とを備える。電極材料とは、集電体以外の部分であるが、電極板に不織布を主体とするマットが貼り付けられている場合、マットは電極材料に含まれない。ただし、電極板の厚みは、マットを含む厚みとする。マットは電極板と一体として使用されるためである。ただし、セパレータにマットが貼り付けられている場合は、マットの厚みはセパレータの厚みに含まれる。上記集電体は、正極板に適用するのに適しているが、負極板に適用してもよい。
【0052】
電極材料の密度は、例えば3.6g/cm以上であればよい。また、十分な初期容量を確保する観点からは、電極材料密度は4.8g/cm以下が好ましい。ただし、第1部分率が60%未満では、電極材料密度が4.4g/cm以上に高くなると、電極板に亀裂が生じやすくなる。よって、例えば5時間率電流で充放電を繰り返す場合に劣化が進行したり、過充電後の充電受入性が低下したりすることがある。一方、第1部分率が60%以上では、電極材料密度が4.4g/cm以上に高くても、電極板に亀裂が生じにくく、放電を繰り返す場合の劣化や、過充電後の充電受入性の低下が抑制される。
【0053】
正極電極材料の密度は、既化成の満充電状態の正極電極材料のかさ密度の値を意味し、以下のようにして測定する。化成後もしくは使用後間もない電池を満充電してから解体し、入手した正極板に水洗と乾燥とを施すことにより、正極板中の電解液を除く。(水洗は、水洗した極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した正極板は、60℃±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により極板から貼付部材が除去される。)
次いで正極板から正極電極材料を分離して、未粉砕の測定試料を入手する。測定容器に試料を投入し、真空排気した後、0.5psia以上0.55psia以下(≒3.45kPa以上3.79kPa以下)の圧力で水銀を満たして、正極電極材料のかさ容積を測定し、測定試料の質量をかさ容積で除すことにより、正極電極材料のかさ密度を求める。なお、測定容器の容積から、水銀の注入容積を差し引いた容積をかさ容積とする。
【0054】
正極電極材料の密度は、(株)島津製作所製の自動ポロシメータ(オートポアIV9505)を用いて測定され得る。
【0055】
5時間率電流で充放電サイクルを繰り返すと、電極材料の膨張と収縮とが繰り返されるため、集電体と電極材料との界面が物理的に剥離しやすくなる。電極材料量が一定であると仮定すると、電極材料密度を高くするほどその体積が減り、オーバーペースト量は減少する。オーバーペーストとは、集電体の厚さ方向における最外面を覆う電極材料部分をいう。一般にオーバーペースト量が少ない場合、電極板はより劣化しやすくなり、サイクルの繰り返しによる放電容量の低下が大きくなると考えられる。このように、充放電サイクルの繰り返しにより集電体と電極材料との界面が物理的に剥離しやすい場合ほど、第2部分率を50%未満にするとともに、t/tを60%以上97%以下に制御することによる効果が顕著になると考えられる。電極群を積層方向に加圧することによる効果およびSbによる導電性パスの確保も顕著になる。
【0056】
次に、電極材料の最大厚みTと、集電体の厚みtとは、T-t≦1mmを満たすことが好ましい。(T-t)/2はオーバーペーストの厚さに相当する。上記集電体は、耐腐食性に優れ、腐食による集電体の伸びも生じにくいため、腐食を抑制する(もしくは電解液との接触を抑制する)観点から厚い電極材料で集電体を覆う必要がない。よって、例えば、電極材料から集電体が露出し、集電体が電解液と直接的に接触する間際のような状況でも、腐食による集電体の劣化が進行しにくい。よって、T-t≦1mmを満たすような電極板であっても、長期間の使用に供することができ、T-t<0mmであってもよい。
【0057】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。大型の鉛蓄電池用の負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成される場合もある。
【0058】
集電体に用いる鉛もしくは鉛合金としては、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金、スリーナイン以上の純度の鉛などが好ましく用いられる。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなど含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる複数の鉛合金層を有してもよい。
【0059】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を必須成分として含み、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどの添加剤を含み得る。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0060】
有機防縮剤には、リグニン類および/または合成有機防縮剤からなる群より選択される少なくとも一種を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)などが挙げられる。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0061】
有機防縮剤の具体例としては、硫黄含有基を有するとともに芳香環を有する化合物のアルデヒド化合物(アルデヒドまたはその縮合物、例えば、ホルムアルデヒドなど)による縮合物が好ましい。芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香環を有する化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなどが挙げられる。芳香環を有する化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基および/またはアミノ基とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基やアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基やアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。芳香環を有する化合物としては、ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物などが好ましい。芳香環を有する化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0062】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。
【0063】
また、例えば、上記の芳香環を有する化合物と、単環式の芳香族化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸またはその置換体など)との、アルデヒド化合物による縮合物を、有機防縮剤として用いてもよい。
【0064】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。一方、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。ここで、負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量とは、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から、後述の方法で採取した負極電極材料における含有量である。
【0065】
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0066】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上が好ましく、0.2質量%以上が更に好ましい。一方、4.0質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0067】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.3質量%以上が更に好ましい。一方、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0068】
以下、負極電極材料に含まれる有機防縮剤、炭素質材料および硫酸バリウムの定量方法について記載する。定量分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板に水洗と乾燥とを施して負極板中の電解液を除く。(水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60℃±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により負極板から貼付部材が除去される。)次に、負極板から負極電極材料を分離して未粉砕の試料Sを入手する。
【0069】
[有機防縮剤]
未粉砕の試料Sを粉砕し、粉砕された試料Sを1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除く。得られた濾液(以下、分析対象濾液とも称する。)を脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、分析対象粉末とも称する。)が得られる。脱塩は、濾液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸して行えばよい。
【0070】
分析対象粉末の赤外分光スペクトル、分析対象粉末を蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、分析対象粉末を重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、有機防縮剤を特定する。
【0071】
上記分析対象濾液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
【0072】
[炭素質材料と硫酸バリウム]
未粉砕の試料Sを粉砕し、粉砕された試料S10gに対し、20質量%濃度の硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0073】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルターを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料とメンブレンフィルターとの合計質量からメンブレンフィルターの質量を差し引いて、混合試料の質量(A)を測定する。その後、乾燥後の混合試料をメンブレンフィルターとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(B)を求める。質量Aから質量Bを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0074】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0075】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む電極群を浸漬させた状態で、電極群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または電極群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0076】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、大型の鉛蓄電池用の正極集電体は、鉛または鉛合金の鋳造により形成される場合がある。
【0077】
正極集電体に用いる鉛もしくは鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金またはPb-Ca-Sn系合金が好ましく、スリーナイン以上の純度の純鉛(99.9%)を用いてもよい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。
【0078】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。
【0079】
未化成の正極板は、正極集電体に正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸などを練合することで調製される。
【0080】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。既化成で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.20~1.35であり、1.25~1.32であることが好ましい。
【0081】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維、パルプ繊維などを用いることができる。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末、オイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0082】
図5に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観の斜視図を示す。鉛蓄電池1は、電極群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、電極群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0083】
電極群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2の耳2aを並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3の耳3aを並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の電極群11同士を直列に接続している。
【0084】
図5には、液式電池(ベント型電池)の例を示したが、鉛蓄電池は、制御弁式電池(VRLA型)でもよい。
【0085】
次に、鉛蓄電池の性能評価について説明する。
[試験電池の評価]
(a)5時間率放電容量試験
試験電池を用い、25℃±2℃水槽内で、以下の要領で実施する。定電流(5時間率定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A))で1.75V/セルまで放電し、その後、定電流(5時間率定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A))で放電量の135%まで充電する。同様のサイクルを5回繰り返し、5サイクル目の5時間率放電容量を求める。
なお、定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0086】
(b)単板過充電試験
試験電池を用いる。75℃±2℃水槽内で定電流(5時間率定格容量(Ah)として記載の数値をセル当たりの正極板の枚数で除した値の0.2倍の電流(A)による過充電試験を5日間行い、その後、2日間休止させる操作(1週間)を5週間繰り返す。なお、定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
例えば、正極板6枚と負極板7枚とで構成された5時間率定格容量30Ah、12Vの電池の場合、単板セル(正極板1枚、負極板2枚)の定格容量は、30÷6=5Ahと計算され、単板過充電試験における電流値は、5×0.2=1Aとなる。単板過充電試験における正極集電体の縦伸びが初期比で7%となるまでの期間を求める。その期間が3.5週以下となった場合、伸び短絡の可能性が高いと判断する。縦伸びは、正極集電体の枠骨の第1方向(高さ方向)へ最も膨らんでいる部分の寸法を測定し、初期寸法と比較して求める。
【0087】
(c)電極群圧迫試験
化成後もしくは使用後間もない電池を満充電してから解体した後、電極群を荷重測定器(三光精衡所社製ばね式手秤)により電槽から引き抜き、このときの引き抜き荷重を測定する。なお、引き抜き荷重測定時は、電解液を含んだ状態を想定し、具体的には、例えば電槽を裏返し、5分間以上置いて抜液してから測定する。
【0088】
本発明に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)正極板と、負極板と、電解液と、を具備する鉛蓄電池であって、前記正極板および前記負極板は、それぞれ、集電体と、前記集電体に保持された電極材料と、を備え、前記集電体は、枠骨と、前記枠骨に設けられた耳と、前記枠骨の内側の内骨と、を有し、前記枠骨は、前記耳と連続する上部要素と、前記上部要素と対向する下部要素と、前記上部要素と前記下部要素とを連結する一対の側部要素と、を具備し、前記内骨は、前記上部要素から前記下部要素に向かう第1方向に延びる縦骨と、一方の前記側部要素から他方の前記側部要素に向かう第2方向に延びる横骨と、を具備し、前記縦骨の前記第1方向に垂直な断面において、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、前記断面の外周領域は、前記繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、前記第1部分以外の第2部分と、で構成され、前記断面の輪郭の全長に占める前記第2部分に対応する輪郭の長さの割合は、50%未満であり、前記耳の厚さtに対する前記内骨の厚さtの割合t/tが60%以上97%以下である、鉛蓄電池。
【0089】
(2)上記(1)において、前記断面の輪郭の全長に占める前記第2部分に対応する輪郭の長さの割合は、40%以下である、鉛蓄電池。
【0090】
(3)上記(1)において、前記断面の輪郭の全長に占める前記第2部分に対応する輪郭の長さの割合は、30%以下である、鉛蓄電池。
【0091】
(4)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、前記正極板と前記負極板とがセパレータを介して交互に積層されて電極群を構成しており、前記電極群が積層方向に加圧されている、鉛蓄電池。
【0092】
(5)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、前記正極板と前記負極板を含む電極群の引き抜き荷重が、該電極群の自重の1.6倍以上である、鉛蓄電池。
【0093】
(6)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、前記正極板と前記負極板を含む電極群の引き抜き荷重が、該電極群の自重の2.0倍以上である、鉛蓄電池。
【0094】
(7)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、前記正極板と前記負極板を含む電極群の引き抜き荷重が、該電極群の自重の2.3倍以上である、鉛蓄電池。
【0095】
(8)上記(1)~(7)のいずれかにおいて、前記集電体または正極電極材料はSbを含有する、鉛蓄電池。
【0096】
(9)上記(1)~(8)のいずれかの鉛蓄電池を製造する方法であって、前記集電体を準備する工程と、前記集電体を含む正極板または前記負極板を得る工程と、を有し、前記集電体を準備する工程が、圧延板を準備する工程と、前記圧延板に対して打ち抜き加工を行うことにより、格子状に形成された複数の中間骨を有する中間格子体を形成する工程と、前記中間格子体に対して前記中間格子体の厚さ方向からプレス加工を行って前記内骨の少なくとも一部を形成する工程と、を含み、前記プレス加工は、前記複数の中間骨の少なくとも一部において、前記中間骨の延びる方向と交差する骨幅方向における中央部よりも前記骨幅方向における少なくとも一方の端部が薄くなり、かつ前記耳の厚さtに対する前記中央部の厚さtの割合t/tが60%以上97%以下となるように変形させることを含む、鉛蓄電池の製造方法。
【0097】
以下、本発明の実施形態について実施例および比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
(1)集電体の作製
Pb-Ca-Sn系合金の圧延シートを打ち抜き、内骨にプレス加工を施して、断面Cの第2部分率が40%、かつ、耳の厚さtに対する内骨の厚さtの割合t/tが80%である集電体A1を得る。
【0099】
集電体A1の緒元は下記のとおりである。
内骨の厚み:0.95mm
枠骨の高さH:115mm
枠骨の幅W:137mm
断面Cの第2部分率:40%(第1部分率:60%)
耳の厚さに対する内骨の厚さの割合(t/t):80%
【0100】
(2)正極板の作製
鉛粉を含む正極ペーストを調製し、集電体に正極ペーストを充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を作製した。正極電極材料の化成後の密度は3.6g/cm3となるように調整する。
【0101】
(3)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、硫酸バリウム、カーボンブラック、および有機防縮剤としてリグニンを0.2質量%混合して、負極ペーストを調製する。格子体A1に負極ペーストを充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0102】
(4)試験電池の作製
以下の各試験電池において、電解液には硫酸水溶液を用いる。試験電池Xで用いる電解液の20℃における比重は1.28とする。試験電池Yでは、化成後、満充電状態の各試験電池において、電解液の20℃における比重を1.28に調整する。
【0103】
(a)試験電池Xの作製
正極電極材料を担持した正極集電体を用いて試験電池Xを組み立てる。試験電池は、2Vセルである。試験電池Xは、正極集電体1枚とこれを挟持する負極板2枚で構成する。負極板は袋状セパレータに収容する。
【0104】
(b)試験電池Yの作製
正極電極材料を正極集電体に担持させた正極板を用いて試験電池Yを組み立てる。未化成の負極板を袋状セパレータに収容し、未化成の正極板6枚と未化成の負極板7枚とで電極群を形成する。電極群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、電槽内で化成を施し、試験電池Y(12V、5時間率定格容量30Ah)を作製する。
【0105】
<5時間率放電容量試験>
上記正極板と、負極板とを用い、試験電池Y1を作製する。
【0106】
/t比と断面Cの第2部分率を表1に示すように変更すること以外、上記と同様に各種試験電池を作製する。なお、t/t比が100%の場合、圧力による集電体の加工は施さない。
【0107】
電池Y1~Y8、YR1~YR16について、5時間率放電容量試験の結果を表1に示す。なお、5時間率放電容量の比率は、集電体の加工なし(t/t=100%)の電池の5時間率放電容量を100としたときの比率で示す。
【0108】
【表1】
【0109】
図6に、t/tと、5時間率放電容量との関係を示す。図6より、耳の厚さtに対する内骨の厚さtの割合t/tが小さいほど、5時間率放電容量が増大することがわかる。これは、集電体と電極材料との間の結着性が改善されていることに起因すると考えられる。第2部分率が小さいほど5時間率放電容量の増大が顕著である。
【0110】
<単板過充電試験>
電池Y4、Y5、YR4およびYR13と同様の正極集電体を用いて作製される電池X4、X5、XR4およびXR13の単板過充電試験の結果を表2に示す。なお、単板過充電試験における過充電期間は、正極集電体の縦伸びが初期比で7%に到達するまでの期間を示す。
【0111】
【表2】
【0112】
図7に、t/tと、単板過充電試験における過充電期間との関係を示す。図7より、集電体の耳の厚さに対する内骨の厚さの割合が60%以上であれば、正極集電体の縦伸びが初期比で7%となるまでの期間が3.5週を超えることがわかる。
【0113】
<電極群圧迫試験>
電極群を積層方向に加圧すること以外、電池Y4、YR3、YR13およびYR14と同様に電池PY4、PYR3、PYR13およびPYR14を作製し、電極群に対する圧迫の有無が5時間率放電容量に与える影響を調べる。結果を表3に示す。表3の5時間率放電容量の比率は、電極群に圧迫をかけない場合の5時間率放電容量に対する圧迫をかける場合の5時間率放電容量の比率である。なお、電極群の引き抜き荷重は、電極群自重の2.3倍である。
【0114】
【表3】
【0115】
図8に、電極群に圧迫をかけない場合の5時間率放電容量に対する圧迫をかける場合の5時間率放電容量の比率を棒グラフで示す。図8より、第2部分の外周の割合が17%、かつ、集電体の耳の厚さに対する内骨の厚さの割合が80%の場合、圧迫による集電体と正極電極材料間との結着性の向上効果が顕著になることがわかる。
【0116】
次に、引き抜き荷重が電極群自重の1.2倍、1.6倍、2倍および2.3倍になるように電極群を積層方向に加圧すること以外、電池Y4と同様に、電池P12Y4、P16Y4、P20Y4およびP23Y4を作製し、引き抜き荷重の相違が5時間率放電容量に与える影響を調べる。結果を表4に示す。表4の5時間率放電容量の比率は、引き抜き荷重が電極群自重の1.1倍(電池Y4)の場合の5時間率放電容量に対する、引き抜き荷重が1.2倍、1.6倍、2倍および2.3倍の場合の5時間率放電容量の比率である。なお、電極群に対する圧迫がない場合、引き抜き荷重は電極群自重の1.1倍である。
【0117】
【表4】
【0118】
図9に、電極群の引き抜き荷重による5時間率放電容量の比率を棒グラフで示す。図9より、電極群の引き抜き荷重を該電極群の自重の1.6倍以上にすることで、5時間率放電容量が顕著に向上することがわかる。
【0119】
<アンチモンの影響>
次に、化成後の正極電極材料に占める、Sb元素としてのSb含有量が0.15質量%となるように添加する以外、電池Y4、YR3、YR13、YR14と同様に、電池SY4、SYR3、SYR13およびSYR14を作製し、正極電極材料に対するSb添加の有無が5時間率放電容量に与える影響を調べる。結果を表5に示す。表5の5時間率放電容量の比率は、正極電極材料にSb添加しない場合の5時間率放電容量に対するSb添加する場合の5時間率放電容量の比率である。
【0120】
【表5】
【0121】
図10に、正極電極材料にSb添加しない場合の5時間率放電容量に対するSb添加する場合の5時間率放電容量の比率を棒グラフで示す。図10より、第2部分の外周の割合が17%、かつ、集電体の耳の厚さに対する内骨の厚さの割合が80%の場合、Sb添加による集電体と正極電極材料間との結着性の向上効果が顕著になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明に係る鉛蓄電池用集電体は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、自動車、バイクなどの始動用電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0123】
1:鉛蓄電池、2:負極板、3:正極板、4:セパレータ、5:正極棚部、6:負極棚部、7:正極柱、8:貫通接続体、9:負極柱、11:電極群、12:電槽、13:隔壁、14:セル室、15:蓋、16:負極端子、17:正極端子、18:液口栓、100:集電体、110:枠骨、111:上部要素、112:下部要素、113,114 側部要素、120:内骨、120A:縦骨、120B:横骨、130:耳、132:下部突起、210:第1部分、220:第2部分
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10