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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】スラント型ファイバグレーティング
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20230912BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G02B6/02 416
G02B6/036
G02B6/02 411
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020553751
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2019040531
(87)【国際公開番号】W WO2020090450
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018202609
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】長能 重博
(72)【発明者】
【氏名】塩▲崎▼ 学
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 淳
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 健美
【審査官】岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-081032(JP,A)
【文献】特開2003-075647(JP,A)
【文献】特開平08-286061(JP,A)
【文献】国際公開第03/093887(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/073670(WO,A1)
【文献】特開2003-202434(JP,A)
【文献】特開2003-004957(JP,A)
【文献】特表2001-524689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0034368(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02、6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバ軸方向に沿って延びたコアと、
前記ファイバ軸方向と垂直な断面において前記コアを取り囲む第1クラッドであって、少なくとも一部が特定波長の光の照射により前記一部の屈折率を上昇させる感光性材料を含み、かつ、前記コアの屈折率より低い屈折率を有する第1クラッドと、
前記断面において前記第1クラッドを取り囲む第2クラッドであって、前記コアの屈折率より低くかつ前記第1クラッドの屈折率より高い屈折率を有する第2クラッドと、
を備えたシリカ系ガラスからなる光ファイバを含み、
前記光ファイバのうち前記ファイバ軸方向に沿って並んだ異なる2点の間に位置する特定区間が、
波長1.55μmにおいて第1のモードフィールド径を有し、かつ、前記断面に対して傾斜した等屈折率面を有する傾斜ブラッググレーティングであって前記第1クラッドに相当する領域内に設けられた傾斜ブラッググレーティングを含む第1領域と、
前記第1領域を挟むように前記ファイバ軸方向に沿って配置された一対の第2領域と、
前記第1領域および前記一対の第2領域の双方を挟むように前記ファイバ軸方向に沿って配置された一対の第3領域であって、前記波長1.55μmにおいて前記第1のモードフィールド径より小さい第2のモードフィールド径を有する一対の第3領域と、
により構成され、
前記第1クラッドのうち前記第1領域に対応する区間全体の屈折率が、前記第1クラッドのうち前記一対の第3領域に対応する区間全体の屈折率よりも高い、
スラント型ファイバグレーティング。
【請求項2】
前記第1クラッドは、前記感光性材料としてGeOを含む、
請求項1に記載のスラント型ファイバグレーティング。
【請求項3】
前記第1クラッドは、前記感光性材料としてBを更に含む、
請求項1または請求項2に記載のスラント型ファイバグレーティング。
【請求項4】
前記第1クラッドおよび前記第2クラッドの双方は、Fを含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスラント型ファイバグレーティング。
【請求項5】
前記一対の第3領域それぞれにおける前記第2のモードフィールド径は、11.5μm以下である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスラント型ファイバグレーティング。
【請求項6】
前記第1領域における前記第1のモードフィールド径は、12.0μm以上である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスラント型ファイバグレーティング。
【請求項7】
前記一対の第2領域の一方における前記波長1.55μmでのモードフィールド径は、前記第1領域の一方の端部から前記一対の第3領域の一方に向かう方向に沿って徐々に小さくなっており、
前記一対の第2領域の他方における前記波長1.55μmでのモードフィールド径は、前記第1領域の他方の端部から前記一対の第3領域の他方に向かう方向に沿って徐々に小さくなっている、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のスラント型ファイバグレーティング。
【請求項8】
前記ファイバ軸方向に沿って定義される前記第1領域の長さは、10mm以上100mm以下である、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のスラント型ファイバグレーティング。
【請求項9】
前記第1領域は、前記ファイバ軸方向に沿って前記傾斜ブラッググレーティングとは別の位置に配置されるMFD調整用ブラッググレーティングであって、前記ファイバ軸方向に垂直な等屈折率面を有し、かつ、前記傾斜ブラッググレーティングの損失波長帯域とは異なる波長帯域の光をブラッグ反射させるMFD調整用ブラッググレーティングを有する、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のスラント型ファイバグレーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラント型ファイバグレーティングに関するものである。
本願は、2018年10月29日に出願された日本特許出願第2018-202609号による優先権を主張するものであり、その内容に依拠すると共に、その全体を参照して本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
CバンドまたはLバンドの信号光を用いた長距離光ファイバ通信システムでは、該信号光を増幅する光増幅器として、エルビウム(Er)等の稀土類元素が添加された増幅用光ファイバを含む光ファイバ増幅器が使用されている。エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA:Erbium-Doped optical Fiber Amplifier)の利得スペクトルは、波長依存性を有しており、波長1.53μm付近にピークを有する。この利得スペクトルの波長依存性の非平坦性に起因してビット誤り率の増加が生じ、その結果、伝送システム系の性能が劣化する。このような課題を解決する部品として、EDFAの利得を等化する利得等化器であるスラント型ファイバグレーティング(SFG:Slanted Fiber Grating)が開発されている。
【0003】
利得等化器の製造例は、例えば特許文献1および特許文献2に記載されている。この製造例では、まず、コアおよびクラッドの双方またはいずれか一方に感光性材料(photosensitive material、例えば、GeO、B)が含まれるシリカ系ガラス(silica-based glass)からなる光ファイバが用意される。この光ファイバに対し、屈折率を上昇させ得る特定波長の紫外光(例えば、アルゴンイオンレーザ光の2倍波(波長244nm)等)が照射されると、感光性材料を含むシリカ系ガラスの屈折率が大きくなる。所定周期の屈折率変調グレーティングを光ファイバ内に書き込む方法には、チャープ型グレーティング位相マスクを用いた±1次回折光による露光、UVレーザ光直接露光、2光束干渉露光がある。その中でも、位相マスクを用いた方法は、同一特性のグレーティングを再現性よく作製すること、および、他の手法に比べアライメントが比較的容易であることが、利点として挙げられる。
【0004】
SFGによるロスは、LP01モードから後方伝搬の高次モードへの結合により生じる。或るビーム幅の特定波長の光で書き込まれたグレーティングにより得られるSFGのロススペクトルは、図1に示されたように、或る波長においてロスピークを有するとともに或る半値全幅(FWHM)αを有する。また、SFGのロススペクトルは、ロスピーク波長から短波長側にロスが裾をひいた基本スペクトルとなる。利得等化器の所望のロススペクトルは、図2に示されたように、透過率軸方向および波長軸方向に複数の基本スペクトルを重ね合わせることで実現される。このように複数のSFGの基本スペクトルを重ね合わされた利得等化器により、EDFAの利得が等化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-004926号公報
【文献】特開2004-170476号公報
【文献】特開2003-075647号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示のSFG(スラント型ファイバグレーティング)は、一例として、コアと、第1クラッドと、第2クラッドと、を備えたシリカ系ガラスからなる光ファイバを含む。コアは、ファイバ軸方向に沿って延びる。ファイバ軸方向と垂直な断面(当該光ファイバの断面)において、第1クラッドはコアを取り囲む領域であり、第2クラッドは、第1クラッドを取り囲む領域である。第1クラッドは、少なくとも一部が特定波長の光の照射により該一部の屈折率を上昇させる感光性材料を含み、かつ、コアの屈折率より低い屈折率を有する。第2クラッドは、コアの屈折率より低くかつ第1クラッドの屈折率より高い屈折率を有する。特に、ファイバ軸方向に沿って定義される、光ファイバのうちファイバ軸に沿って両端が定義される特定区間は、第1領域と、第1領域を挟むようにファイバ軸方向に沿って配置された一対の第2領域と、第1領域および一対の第2領域の双方を挟むようにファイバ軸方向に沿って配置された一対の第3領域と、により構成されている。第1領域は、波長1.55μmにおいて第1のモードフィールド径(Mode Field Diameter)を有し、かつ、上記断面に対して傾斜した等屈折率面(Iso-refractive Index Surface:屈折率の等しい点を三次元的に結んだ面)を有する傾斜ブラッググレーティングを含む。傾斜ブラッググレーティングは、第1領域のうち、第1クラッドに相当する領域内に設けられている。第3領域は、波長1.55μmにおいて第1のモードフィールド径より小さい第2のモードフィールド径を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、SFGのロススペクトル(基本スペクトル)である。
図2図2は、複数のSFGの基本スペクトルの重ね合わせを説明するための図である。
図3図3は、スラント角θを説明するための図である。
図4A図4Aは、SFGの基本スペクトルの半値全幅αとスラント角θとの関係を示すグラフである。
図4B図4Bは、SFGの反射減衰量とスラント角θとの関係を示す図である。
図5図5は、光ファイバの直径方向に沿った屈折率プロファイルである。
図6図6は、本実施形態に係るSFG1の構成を示す図である。
図7図7は、傾斜ブラッググレーティングの形成方法を説明するための図である。
図8図8は、本実施形態に係るSFG1の他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[発明が解決しようとする課題]
発明者らは、上述の従来技術について検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、近年、IoTやビックデータの利用の発展に伴い、伝送容量の大容量化とともにビット誤り率の更なる低下(SFGによる利得等化器の高性能化)が求められている。しかしながら、基本スペクトルが有する半値全幅αの制約により、複数の基本スペクトルを重ね合わせても、所望のロススペクトルを精度よく実現することは困難である。
【0009】
[発明の効果]
本開示は、高性能の利得等化器を容易に実現し得るSFGを提供することを可能にする。
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
【0011】
(1) 本開示のSFG(スラント型ファイバグレーティング)は、その一態様として、コアと、第1クラッドと、第2クラッドと、を備えたシリカ系ガラスからなる光ファイバを含む。コアは、ファイバ軸方向に沿って延びる。ファイバ軸方向と垂直な断面(当該光ファイバの断面)において、第1クラッドはコアを取り囲む領域であり、第2クラッドは、第1クラッドを取り囲む領域である。第1クラッドは、少なくとも一部が特定波長の光の照射により該一部の屈折率を上昇させる感光性材料を含み、かつ、コアの屈折率より低い屈折率を有する。第2クラッドは、コアの屈折率より低くかつ第1クラッドの屈折率より高い屈折率を有する。特に、上述の光ファイバのうち、ファイバ軸方向に沿って並んだ異なる2点の間に位置する特定区間は、第1領域と、第1領域を挟むようにファイバ軸方向に沿って配置された一対の第2領域と、第1領域および一対の第2領域の双方を挟むようにファイバ軸方向に沿って配置された一対の第3領域と、により構成されている。第1領域は、波長1.55μmにおいて第1のモードフィールド径を有し、かつ、上記断面に対して傾斜した等屈折率面を有する傾斜ブラッググレーティングであって第1クラッドに相当する領域内に形成された傾斜ブラッググレーティングを含む。傾斜ブラッググレーティングは、第1領域のうち、第1クラッドに相当する領域内に設けられている。第3領域は、波長1.55μmにおいて第1のモードフィールド径より小さい第2のモードフィールド径を有する。
【0012】
なお、上述の第1領域、第2領域および第3領域は、いずれも、コア、第1クラッド、および第2クラッドにより構成されている(それぞれの領域は、当該光ファイバの断面構造と同じ断面構造を有する)。更に、第1領域、第2領域および第3領域それぞれの外径に関して、ファイバ軸に沿った実質的な変動はない(各領域の外径がファイバ軸に沿って意図的に変更されることはない)。換言すれば、紫外光照射前の光ファイバの構造および組成は、これら第1領域、第2領域および第3領域に亘って一様である。また、傾斜ブラッググレーティングは、感光性材料を含む領域に形成されるため、コアには形成されることなく第1クラッド内に形成される。したがって、傾斜ブラッググレーティングは、コアと第1クラッドとの境界(内側境界)と、第1クラッドと第2クラッドとの境界(外側境界)と、で挟まれた領域内に位置する。なお、第1領域の傾斜ブラッググレーティングは、スラント角θ(戻り光が最も抑制されるグレーティングの角度を基準として設定される角度)を有する。
【0013】
(2) 本開示の一態様として、第1クラッドは、感光性材料としてGeOを含むのが好ましい。また、本開示の一態様として、第1クラッドは、感光性材料としてBを更に含むのが好ましい。更に、本開示の一態様として、第1クラッドおよび第2クラッドの双方は、F(フッ素元素)を含んでもよい。
【0014】
(3) 本開示の一態様として、一対の第3領域それぞれにおける第2のモードフィールド径は、11.5μm以下であるのが好ましい。また、本開示の一態様として、第1領域における第1のモードフィールド径は、12.0μm以上であるのが好ましい。一方、本開示の一態様として、一対の第2領域の一方における波長1.55μmでのモードフィールド径は、第1領域の一方の端部から一対の第3領域の一方に向かう方向に沿って徐々に小さくなっている。また、一対の第2領域の他方における波長1.55μmでのモードフィールド径は、第1領域の他方の端部から一対の第3領域の他方に向かう方向に沿って徐々に小さくなっているのが好ましい。なお、上述の第1領域、第2領域および第3領域が連続する領域である場合、第1領域と第2領域の境界において、該第2領域のモードフィールド径(波長1.55μmにおけるモードフィールド径)は第1のモードフィールド径に一致している。また、第3領域と第2領域の境界において、該第2領域のモードフィールド径は第2のモードフィールド径に一致している。
【0015】
(4) 本開示の一態様として、ファイバ軸方向に沿って定義される第1領域の長さは、10mm以上100mm以下であるのが好ましい。更に、本開示の一態様として、第1領域は、ファイバ軸方向に沿って傾斜ブラッググレーティングとは別の位置に配置されたMFD調整用ブラッググレーティングを含んでもよい。この場合、MFD調整用ブラッググレーティングは、ファイバ軸方向に垂直な等屈折率面を有し、かつ、傾斜ブラッググレーティングの損失波長帯域とは異なる波長帯域の光をブラッグ反射させるよう機能する。
【0016】
以上、この[本開示の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
【0017】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係るSFG(スラント型ファイバグレーティング)の具体的な構造を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0018】
利得等化器の高性能化のためには、グレーティングの最大損失量を大きくし、かつ、目標スペクトルに合わせ込める能力(書込み能力)を維持しつつ当該SFGの基本スペクトルの半値全幅αを小さくすること(基本スペクトルの狭帯域化)が望まれる。
【0019】
SFGの基本スペクトルの狭帯域化のためには、光伝搬方向(ファイバ軸方向)に直交する面(ファイバ断面)に対するグレーティングの角度を小さくする必要がある。ここで、グレーティングの角度とは、LP01モードの光が伝搬する波面に対して、グレーティングの等屈折率面がなす角度である。すなわち、グレーティングの角度が零である場合は、LP01モードの光伝搬波面とグレーティングの等屈折率面とが互いに一致していることを表し、このときのFWHMは最も小さい値となる。ただし、グレーティングで反射された戻り光は、信号光の伝搬方向とは逆方向のLP01モードに結合して伝搬することになる。その結果、EDFAを構成しているEDFに戻り光が戻り、増幅効率/雑音特性の劣化や伝送品質の劣化等に繋がる。したがって、半値全幅αを小さくできるからと言って、単純にグレーティングの角度を零には出来ない。
【0020】
このグレーティングの等屈折率面を、該グレーティングの角度を大きくする方向へと傾斜させていくと、戻り光は抑制されていく。あるグレーティングの角度でその戻り光が最も抑制され、その角度を原点としてスラント角θを定義する(図3図4Aおよび図4B)。すなわち、θ=0となるスラント角は、戻り光が最も抑制されるグレーティングの角度を意味し、光が伝搬する波面を0度とした場合のグレーティングの角度1°~3°程度に相当する。更に、グレーティングの角度を大きくしていくと、再び戻り光は増大していく。図3では、一定間隔の複数の線でグレーティングが示されている。図4Aでは、スラント角θ(deg)と半値全幅α(FWHM(nm))の関係が示されている。また、図4Bに示されたように、スラント角θが小さくなると、反射減衰量(dB)は増大する。反射減衰量の増大により戻り光が増大すると、EDFAを構成しているEDFに光が戻る。したがって、例えば、スラント角θ=0に対してグレーティングの角度を0.1度程度小さくするのが限度である。
【0021】
以上のことから、SFGの基本スペクトルの半値全幅αを小さくするためには、スラント角θ=0を実現するグレーティングの角度を小さくする必要がある。なお、光ファイバのモードフィールド径を増大させることで、スラント角θ=0を実現するグレーティングの角度を小さくできることが知られている(特許文献3)。上記特許文献3によれば、SFG領域のモードフィールド径MFD1は15μm以上であり、それ以外の取り回し領域のモードフィールド径MFD3は耐曲げ損失に強い12μm以下であることが必要とされている。MFDが異なる二つの光ファイバを損失無く互いに接続するために、モードフィールド径をMFD3からMFD1へと徐々に変換させる必要がある。
【0022】
上記特許文献3では、コアにGeOが含まれる光ファイバが用意され、コアに含まれるGeOを熱拡散させることにより、モードフィールド径をMFD3からMFD1へと徐々に増大させたMFD変換部を形成する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、MFD1領域での感光性材料であるGeO濃度は低減することになる。紫外光照射によるグレーティング書込みに必要なGeO濃度の閾値は当該濃度のGeOによる屈折率の増加量の純SiOガラスの屈折率に対する比率でΔ0.35%以上である。このことから、MFD1領域への周期的な屈折率変調の書込みが困難となり、結果的に、所望の光損失を形成させられない。そこで、MFD3を満たした取り回し領域を有する光ファイバとは別に、書込み深さが保証された光ファイバを用意して、これら二つの光ファイバを融着接続し、その融着接続点を含む一定範囲において熱拡散等によってMFD変換する。
【0023】
しかしながら、特許文献3に開示された方法では、製造工程が増大することによる単価増に加え、融着損失が生じる問題があった。以下に説明する実施形態では、高性能の利得等化器を容易に実現し得るスラント型ファイバグレーティング(SFG)を提供することができる。
【0024】
図5は、傾斜ブラッググレーティングが形成される光ファイバの直径方向に沿った屈折率プロファイルであり、本実施形態のSFGの傾斜ブラッググレーティングは、図5に示された屈折率プロファイルを有する光ファイバに形成される。光ファイバ10は、シリカ系ガラスからなる光ファイバであって、コア11と、コア11を取り囲む第1クラッド(光学クラッド)12と、第1クラッド12を取り囲む第2クラッド(ジャケット)13と、を備える。第1クラッド12は、コア11の屈折率より低い屈折率を有する。第2クラッドは、コア11の屈折率より低く、かつ、第1クラッド12の屈折率より高い屈折率を有する。
【0025】
コア11と第1クラッド12との境界は、屈折率の勾配が最大になる位置で定義される。第1クラッド12と第2クラッド13との境界は、第1クラッド12と第2クラッド13との間の屈折率の勾配が最大となる位置で定義される。コア11は、コア中心において比屈折率差Δncoreを有する。第1クラッド12は、Δncoreより小さい比屈折率差Δnclad1を有する。第2クラッド13は、Δncoreより小さくΔnclad1より大きい比屈折率差Δnclad2を有する。Δnclad1は、第1クラッド12内の屈折率プロファイルの近似直線がコア11と第1クラッド12との境界においてとる値である。ここで、第1クラッド12内の屈折率プロファイルの近似直線は、コア11と第1クラッド12との境界から直径方向に沿って外側に1μm離れた位置での屈折率と、第2クラッド13と第1クラッド12との境界からコア中心に向かって1μm離れた位置での屈折率とを、互いに結んだ直線とする。なお、各部の比屈折率差は、純SiOガラスの屈折率を基準とした値である。
【0026】
第1クラッド12の少なくとも一部は、特定波長の光の照射により屈折率が上昇する感光性材料を含む。第1クラッド12は、感光性材料としてGeOを含み、感光性材料としてBを更に含んでいてもよい。コア11および第2クラッド13は実質的に感光性材料を含まない。第1クラッド12および第2クラッド13はFを含む。
【0027】
図6は、本実施形態のSFG1の構成を示す図である。SFG1の傾斜ブラッググレーティング21は、一つの光ファイバ10に形成される。SFG1は、ファイバ軸方向に沿って第1領域、第2領域および第3領域に区分される特定区間を有する。この特定区間は、光ファイバ10のうちファイバ軸に沿って両端が定義される区間である。第1領域は真直である。第1領域の両側に一対の第2領域が設けられ、更に一対の第2領域を挟むように一対の第3領域が設けられている。紫外光照射前の光ファイバ10の構造および組成は、これらの三つの領域に亘って一様である。
【0028】
第1領域に、スラント角θを有する傾斜ブラッググレーティング21が形成されている。第1領域のモードフィールド径MFD1は、波長1.55μmにおいて第3領域のモードフィールド径MFD3より大きい。第3領域のモードフィールド径MFD3は、波長1.55μmにおいて11.5μm以下であるのが好ましい。第1領域のモードフィールド径MFD1は、波長1.55μmにおいて12.0μm以上であるのが好ましい。以下の説明において、MFD1およびMFD3は、すべて波長1.55μmにおける値である。一対の第2領域それぞれにおけるモードフィールド径は、第1領域の両端から一対の第3領域それぞれに向けて次第に小さくなっているのが好ましい。ファイバ軸方向に沿って定義される第1領域の長さは、10mm以上100mm以下、好ましくは20mm以上80mm以下である。
【0029】
紫外光照射前の光ファイバ10のモードフィールド径はMFD3である。第1領域および第2領域それぞれにおいて紫外光を照射することで、第1領域のモードフィールド径を所望のMFD1とすることができ、また、第2領域のモードフィールド径を第1領域の側から第3領域の側に向けて次第に小さくすることができる。
【0030】
感光性材料を含む領域(第1クラッド12の少なくとも一部)の屈折率は、紫外光照射により増大する。コア11および第2クラッド13が非感光性であるのに対して、第1クラッド12が感光性であるので、紫外光照射により第1クラッド12の屈折率が増大する。これにより、第1クラッド12に対するコア11の比屈折率差は小さくなり、モードフィールド径は大きくなる。コア11の比屈折率差は、コア中心位置についてのものである。
【0031】
第2領域に対する紫外線照射では、第2領域に対して位相マスクを介さずに紫外光が照射される。その際、紫外線を照射しながら紫外光照射量をファイバ軸方向に沿って変化させることで、第2領域のモードフィールド径をファイバ軸方向に沿ってMFD1からMFD3へと次第に変化させることができる。
【0032】
第1領域におけるモードフィールド径MFD1の設定および傾斜ブラッググレーティングの形成の方法は次のとおりである。第1領域に対して位相マスクを介さずに紫外光が照射される。このとき、モードフィールド径MFD1を実現するのに必要な紫外光照射量で、ファイバ軸方向に沿って一様に紫外光が照射される。これにより、第1領域のモードフィールド径を所望のMFD1とすることができる。その後、第1領域に対して位相マスクを介して紫外光(UVgrating)を照射することで、所定の損失スペクトルを形成するための周期的な屈折率変調である傾斜ブラッググレーティング21が形成される。
【0033】
図7は、傾斜ブラッググレーティングの形成方法を説明するための図である。光源31から出力された光は、ミラー32により反射された後、シリンドリカルレンズ33および位相マスク34を順に経て第1領域に照射される。光源31から出力された光は、感光性材料を含む領域の屈折率を増大させることができる波長を有する。ミラー32への光入射方向はファイバ軸方向に平行である。ミラー32からの光出射方向はファイバ軸方向に垂直である。シリンドリカルレンズ33は、ミラー32から到達した光をファイバ軸方向について収斂させる。位相マスク34は、第1領域に対向する主面に周期構造の溝が形成された略平板状の透明板である。位相マスク34から出力される+1次回折光と-1次回折光とが干渉し、その干渉縞に基づいて傾斜ブラッググレーティングが形成される。また、ミラー32およびシリンドリカルレンズ33が一体となってファイバ軸方向に沿って移動することで、第1領域の所定範囲に亘って傾斜ブラッググレーティングが形成される。
【0034】
第1領域のモードフィールド径とスラント角ゼロを実現するグレーティングの角度との間には相関がある。したがって、第1領域のモードフィールド径は、所望のグレーティングの角度θ1に対応したMFD1θ1であることが必要である。紫外光照射量とMFD増加量との間の関係が分かれば、原理的には、第1領域のモードフィールド径MFD1θ1を得るのに必要な紫外光照射量UVMFD-θ1を求めることができる。しかしながら、ファイバ軸方向について光ファイバにおける感光性材料の含有量は厳密には一様でなく、モードフィールド径MFD1θ1を得るのに必要な紫外光照射量UVMFD-θ1が異なる。そのため、モードフィールド径MFD1θ1を高精度に制御することは困難である。そこで、図8に示されたようなSFG1の構成(本実施形態に係るSFG1の他の構成)が好ましい。
【0035】
図8に示されたSFG1は、図6に示された構成において第1領域に更にMFD調整用ブラッググレーティング22が形成されている。MFD調整用ブラッググレーティング22は、SFG1の所定のMFD1の製造の途中において第1領域のモードフィールド径をモニタするために用意される。MFD調整用ブラッググレーティング22は、ファイバ軸方向において傾斜ブラッググレーティング21とは別の位置に形成されている。MFD調整用ブラッググレーティング22は、傾斜ブラッググレーティング21に対して何れの側に形成されていてもよい。
【0036】
MFD調整用ブラッググレーティング22は、ファイバ軸に垂直な等屈折率面を有する。MFD調整用ブラッググレーティング22の等屈折率面は導波光の波面と平行である。MFD調整用ブラッググレーティング22は、傾斜ブラッググレーティング21の損失波長帯域とは異なる波長帯域の光をブラッグ反射する。MFD調整用ブラッググレーティング22の等屈折率面の周期Λ1は、ブラッグ反射させる光の波長帯域の中心波長λ1に対応している。傾斜ブラッググレーティング21の損失波長帯域がCバンドおよびLバンドである場合、この波長帯域との干渉を避けるため、λ1は、1.00μm以上1.50μm以下の波長帯域または1.65μm以上1.70μm以下の波長帯域が好ましい。
【0037】
紫外光照射量を増大させていくと、第1クラッド12の屈折率は、照射前のnclad1 からnclad1+UVへと増大していく。これに伴い、モードフィールド径は、照射前のMFD3からMFD1へと増大していく。光ファイバ10において第1クラッド12のみが感光性材料を含んでいるので、傾斜ブラッググレーティング21と同様に、MFD調整用ブラッググレーティング22は第1クラッド12に書き込まれる。MFDの増大は、MFD調整用ブラッググレーティング22が書き込まれている第1クラッド12へ光が染み出していくことに相当する。すなわち、モードフィールド径が増大すると、ブラック波長λ1の進行方向とは逆の方向の戻り光の光量が増大していくことになる。この波長λ1の戻り光の光量をモニタリングすることで、所定のMFD1θ1を精度よく形成することができる。
【0038】
第2領域の、ファイバ軸方向に沿ったモードフィールド径分布は、該ファイバ軸方向に沿って紫外線照射量を変化させることにより実現される。具体的には、第1領域と第2領域の境界ではMFD1θ1を実現するのに必要な紫外光照射量が調整され、第3領域と第2領域の境界では紫外光照射量が0に調整される。ミラー32およびシリンドリカルレンズ33を一体的にファイバ軸方向に移動させながら紫外線照射量を調整することで、上述のような所望のモードフィールド径分布が得られる。
【0039】
以上の説明では、第1領域におけるモードフィールド径MFD1の設定と傾斜ブラッググレーティングの形成とは、別工程で行われた。これに対して、第1領域におけるモードフィールド径MFD1の設定と傾斜ブラッググレーティングの形成とを同時に行うこともできる。これについて以下に説明する。
【0040】
図7において、位相マスク34から出力される±1次回折光による干渉縞における光強度分布は、光ファイバ10と位相マスク34との間の距離に応じた大きさのバイアスおよび変調度を有する。この距離が長いほど、バイアスが大きくなり、変調度が小さくなる。この距離を更に長くすると、変調度が0となり、一般的に遠視野像で観察される回折光が観測されてバイアス成分のみとなる。この距離を調整することで、バイアスの大きさと変調度の大きさとの比を調整することができる。すなわち、光ファイバ10と位相マスク34との間の距離を調整することで、干渉縞のバイアスの大きさに応じてモードフィールド径を増大させることができ、かつ、干渉縞の変調度の大きさに応じて傾斜ブラッググレーティング21を形成することができる。
【0041】
第1領域のモードフィールド径MFD1が大きいほど、傾斜ブラッググレーティング21のスラント角θ=0を実現するグレーティングの角度(LP01モードの光伝搬波面とグレーティングの等屈折率面のなす角度)は小さくなり、基本スペクトルの半値全幅αは小さくなる。MFD1の条件下で、スラント角θ=0となるグレーティングの角度は、5度以下であり、好ましくは3度以下であり、最適は1.5度以下である。また、基本スペクトルの半値全幅αは、2.5nm以下であり、好ましくは2.0nm以下であり、最適は1.5nm以下である。
【0042】
次に、基本スペクトルの半値全幅αの縮小と上述の高いグレーティング書込み能力とを両立することができる光ファイバ構造について説明する。第1クラッド12のみが感光性材料を含む光ファイバ10において、グレーティング書込み能力の支配因子は、第1クラッド12の少なくとも一部が含む感光性材料の種類および含有量、ならびに、第1クラッド12への導波光の染み出し量の割合である。なお、図3には、第1クラッド12全体感光性材料が含まれる例が示されている。
【0043】
光ファイバ10において、感光性材料は、GeOであるのが好ましく、GeOおよびBの共添加であるのも好ましい。また、第1クラッド12および第2クラッド13は、Fを含むのも好ましい。
【0044】
第3領域のモードフィールド径MFD3は、8μm以上11.5μm以下であるのが好ましい。また、第1領域のモードフィールド径MFD1は12μm以上22μm以下であるのが好ましい。
【0045】
上述のように、第1領域のモードフィールド径をMFD1とするための紫外光(UVMFD1-θ1)、および、グレーティング形成用の紫外光(UVgrating)が必要である。モードフィールド径をMFD1とするための紫外光(UVMFD1-θ1)の照射により増大した比屈折率差をΔnclad1+uvとし、グレーティング形成用の紫外光(UVgrating)の照射により増大した比屈折率差をΔngratingとすると、形成されるグレーティングの屈折率の増加量はΔnclad1+uv + Δngratingとなる。よって、Δnclad1+uv + Δngratingの形成に必要な感光性材料の適正含有量が存在する。
【0046】
例えば、第1クラッド12のGeO含有量が当該濃度のGeOによる屈折率の増加量Δnの純SiOガラスの屈折率に対する比率で0.35%未満になると、Δnclad1+uv + Δngratingの形成は困難になる。そのため、第1クラッド12のGeO含有量は、0.35%以上である必要があり、好ましくは0.40%以上、更に好ましくは0.45%以上である。BとGeOとの共添加も有効であり、Bの添加量は、当該濃度のGeOによる屈折率の増加量Δnの純SiOガラスの屈折率に対する比率で-0.20%以下、好ましくは-0.30%以下、更に好ましくは-0.40%以下である。共添加のGeOの添加量は、上述のように屈折率の増加量Δnの純SiOガラスの屈折率に対する比率で0.35%以上、好ましくは0.40%以上、更に好ましくは0.45%以上である。
【0047】
第3領域の光ファイバ構造では、1.55μm波長帯における導波光の第1クラッド12への染み出し量の割合は、10%以上40%未満、好ましくは15%以上35%未満、更に好ましくは20%以上30%未満である。グレーティング構造を形成する第1領域では、1.55μm波長帯における染み出し量の割合は、30%以上80%以下、好ましくは35%以上75%以下、更に好ましくは40%以上70%以下である。
【0048】
代表的なコア11の直径は、7.5μmφ以上9.5μmφ以下である。コア11の比屈折率差Δnは、0.25以上0.40%以下である。第1クラッド12の屈折率プロファイルの傾斜の大分類は、コア中心から第2クラッドの方向に向かって上昇するケース、下降するケース、平坦の3タイプである。上昇および下降のケースは、線形および非線形のいずれでもよく、あるいは、階段状であってもよい。重要なことは、上述の第1クラッド12への導波光の染み出し量の割合を遵守した光ファイバ構造が設計されればよい。
【0049】
コア11の半径rcoreと第1クラッド12の半径rcladとの比(rclad/rcore)は、3.0以上4.0以下であるのが好ましい。
【符号の説明】
【0050】
1…SFG(スラント型ファイバグレーティング)、10…光ファイバ、11…コア、12…第1クラッド(光学クラッド)、13…第2クラッド(ジャケット)、21…傾斜ブラッググレーティング、22…MFD調整用ブラッググレーティング、31…光源、32…ミラー、33…シリンドリカルレンズ、34…位相マスク。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8