(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】自動運転装置、自動運転方法、及びプログラムセット
(51)【国際特許分類】
G08G 1/09 20060101AFI20230912BHJP
B60W 50/00 20060101ALI20230912BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G08G1/09 V
B60W50/00
G08G1/16 A
(21)【出願番号】P 2021044990
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 博充
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 翔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆史
(72)【発明者】
【氏名】高島 亨
(72)【発明者】
【氏名】鄭 好政
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏充
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 悟
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 康佑
【審査官】山田 由希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-126534(JP,A)
【文献】国際公開第2018/087828(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/202380(WO,A1)
【文献】特開2018-077649(JP,A)
【文献】特開2000-311299(JP,A)
【文献】国際公開第2016/038931(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259820(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
B60W 10/00-60/00
B60R 21/00-21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される自動運転装置であって、
前記車両を自動運転する第1ECUと、
外部からの遠隔操作に従って前記車両を動作させる第2ECUと、
前記遠隔操作から自動運転への切り替えの際、及び、前記自動運転から前記遠隔操作への切り替えの際に、前記第1ECUから出力される制御情報と前記第2ECUから出力される制御情報とを調停する第3ECUと、を備え、
前記第1ECUは、前記第2ECUが前記車両を動作させている間は起動状態を保ち、
前記第2ECUは、前記第1ECUが前記車両を自動運転している間は省電力状態を保つ
ことを特徴とする自動運転装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動運転装置において、
前記第2ECUは、前記第1ECUからの起動指示を受けて前記省電力状態から起動状態へ移行し、前記第1ECUからの省電力指示を受けて前記起動状態から前記省電力状態へ移行する
ことを特徴とする自動運転装置。
【請求項3】
少なくとも2つのECUによって車両を自動運転する自動運転方法であって、
第1ECUによって前記車両を自動運転し、
第2ECUによって外部からの遠隔操作に従って前記車両を動作させ、
前記遠隔操作から自動運転への切り替えの際、及び、前記自動運転から前記遠隔操作への切り替えの際に、第3ECUによって前記第1ECUから出力される制御情報と前記第2ECUから出力される制御情報とを調停し、
前記第2ECUが前記車両を動作させている間は前記第1ECUを起動状態に保ち、
前記第1ECUが前記車両を自動運転している間は前記第2ECUを省電力状態に保つ
ことを特徴とする自動運転方法。
【請求項4】
請求項3に記載の自動運転方法において、
前記第1ECUからの起動指示によって前記第2ECUを前記省電力状態から起動状態へ移行させ、前記第1ECUからの省電力指示によって前記第2ECUを前記起動状態から前記省電力状態へ移行させる
ことを特徴とする自動運転方法。
【請求項5】
車両に搭載された少なくとも2つのECUによって実行可能なプログラムセットであって、
第1ECUによって実行可能な第1プログラムと、
第2ECUによって実行可能な第2プログラムと、
第3ECUによって実行可能な第3プログラムと、を含み、
前記第1プログラムは、前記第1ECUに、
前記車両を自動運転する処理と、
前記第2ECUが前記車両を動作させている間は前記第1ECUを起動状態に保つ処理と、を実行させ、
前記第2プログラムは、前記第2ECUに、
外部からの遠隔操作に従って前記車両を動作させる処理と、
前記第1ECUが前記車両を自動運転している間は前記第2ECUを省電力状態に保つ処理と、を実行させ
、
前記第3プログラムは、前記第3ECUに、前記遠隔操作から自動運転への切り替えの際、及び、前記自動運転から前記遠隔操作への切り替えの際に、前記第1ECUから出力される制御情報と前記第2ECUから出力される制御情報とを調停する処理を実行させる
ことを特徴とするプログラムセット。
【請求項6】
請求項5に記載のプログラムセットにおいて、
前記第1プログラムは、前記第1ECUに、
前記第2ECUに対して起動指示を出力する処理と、
前記第2ECUに対して省電力指示を出力する処理と、を実行させ、
前記第2プログラムは、前記第2ECUに、
前記第1ECUからの前記起動指示を受けて前記省電力状態から起動状態へ移行する処理と、
前記第1ECUからの前記省電力指示を受けて前記起動状態から前記省電力状態へ移行する処理と、を実行させる
ことを特徴とするプログラムセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転装置、自動運転方法、及びプログラムセットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動運転車両の遠隔操作に関する技術が開示されている。この従来技術によれば、自動運転が困難になった場合、車両と遠隔操作管理設備との間で通信が行われ、遠隔操作者により車両が遠隔運転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
1つの車両において自動運転と遠隔操作とを実現する方法として、自動運転用のECU(Electronic Control Unit)と遠隔操作用のECUとをそれぞれ別々に搭載することが考えられる。もちろん、1つのECU上において自動運転用のアプリケーションと遠隔操作用のアプリケーションとを動作させるという方法もある。しかし、後者の方法の場合、各アプリケーションが計算資源を多量に消費するため、ECUには高い負荷がかかる。このため高性能なECUを必要とし、コストアップを招いてしまう。また、後者の場合、そのECUがダウンした場合には、自動運転も遠隔操作も行えなくなってしまう。つまり、コストの観点からもフェールセーフの観点からも、前者の方法が現実的である。
【0005】
一方、EVやPHVを含む自動運転車両では、バッテリの消費を減らして航続距離を延ばすため、より一層の省電力化が求められている。ECUも電力を消費することから、搭載するECUの数を増やせば、その分、全体としての消費電力は大きくなる。ゆえに、自動運転用のECUと遠隔操作用のECUとをそれぞれ別々に搭載するのであれば、電力消費を抑えるための何らかの工夫が必要とされる。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、自動運転と遠隔操作とが可能な車両において、ECUによる電力消費を抑えることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記目的を達成するための自動運転装置を提供する。本開示に係る自動運転装置は、車両を自動運転する第1ECUと、外部からの遠隔操作に従って車両を動作させる第2ECUとを備える。第1ECUは、第2ECUが車両を動作させている間は起動状態を保ち、第2ECUは、第1ECUが車両を自動運転している間は省電力状態を保つ。
【0008】
本自動運転装置において、第2ECUは、第1ECUからの起動指示を受けて省電力状態から起動状態へ移行し、第1ECUからの省電力指示を受けて起動状態から省電力状態へ移行してもよい。また、本自動運転装置は、遠隔操作から自動運転への切り替えの際、及び、自動運転から遠隔操作への切り替えの際に、第1ECUから出力される制御情報と第2ECUから出力される制御情報とを調停する第3ECUをさらに備えてもよい。
【0009】
また、本開示は、上記目的を達成するための自動運転方法を提供する。本開示に係る自動運転方法は、少なくとも2つのECUによって車両を自動運転する方法であって、第1ECUによって車両を自動運転し、第2ECUによって外部からの遠隔操作に従って車両を動作させる。本自動運転方法は、第2ECUが車両を動作させている間は第1ECUを起動状態に保ち、第1ECUが車両を自動運転している間は第2ECUを省電力状態に保つ。
【0010】
また、本開示は、上記目的を達成するための自動運転プログラムセットを提供する。本開示に係るプログラムセットは、車両に搭載された少なくとも2つのECUによって実行可能なプログラムセットであって、第1ECUによって実行可能な第1プログラムと、第2ECUによって実行可能な第2プログラムとを含む。第1プログラムは、第1ECUに、車両を自動運転する処理と、第2ECUが車両を動作させている間は第1ECUを起動状態に保つ処理とを実行させる。第2プログラムは、第2ECUに、外部からの遠隔操作に従って車両を動作させる処理と、第1ECUが車両を自動運転している間は第2ECUを省電力状態に保つ処理とを実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る技術によれば、第1ECUが車両を自動運転している間は第2ECUを省電力状態に保つことで、ECUによる電力消費を抑えることができる。一方、第2ECUが車両を動作させている間は第1ECUを起動状態に保つことで、自動運転が可能な状況或いは遠隔操作が困難な状況になったときに遠隔操作から自動運転へ速やかに切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態に係る自動運転車両を用いた遠隔操作システムの構成を概略的に示す図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る自動運転装置の動作の概要を説明する図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る自動運転装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る自動運転方法を示すフローチャートである。
【
図5】自動運転から遠隔操作への移行時の自動運転ECUと遠隔操作ECUの各動作を示すシーケンス図である。
【
図6】遠隔操作から自動運転への移行時の自動運転ECUと遠隔操作ECUの各動作を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術思想に必ずしも必須のものではない。
【0014】
1.遠隔操作システムの概略構成
図1は、本実施形態に共通する遠隔操作システムの構成を概略的に示す図である。遠隔操作システム100は、遠隔操作センタ30から自動運転車両20を遠隔操作するシステムである。自動運転車両20の自動運転レベルとしては、例えば、レベル4又はレベル5が想定される。以下、自動運転車両20を単に車両20と呼ぶ。車両20には、自動運転装置21が搭載されている。自動運転装置21は、車両を自動運転する第1ECU(Electronic Control Unit)211と、外部からの遠隔操作に従って車両20を動作させる第2ECU212とを備える。以下、自動運転用のECUである第1ECU211を自動運転ECU211と称し、遠隔操作用のECUである第2ECU212を遠隔操作ECU212と称する。
【0015】
本開示における遠隔操作は、遠隔支援と遠隔運転とを含む。遠隔支援及び遠隔運転は、車両20が自動運転を継続することが困難になった場合或いは困難になることが予測される場合に、車両20からの依頼に基づいて遠隔操作者36によって行われる。
【0016】
遠隔支援では、車両20による自動運転のための判断の一部を遠隔操作者36が行う。運転に必要な認知、判断、及び操作に関する基本的な計算は車両20において行われる。遠隔操作者36は、車両20から送信される情報に基づき、車両20が取るべき行動を判断し、車両20に指示する。遠隔操作者36から車両20に対して送られる遠隔支援の指示には、車両20の進行の指示及び車両20の停止の指示が含まれる。また、遠隔支援の指示には、前方の障害物に対するオフセット回避の指示、先行車の追い越しの指示、緊急退避の指示等が含まれていてもよい。
【0017】
遠隔運転では、車両20の運転、詳しくは、操舵操作又は加減速操作の少なくとも一部を遠隔操作者36が行う。遠隔運転では、運転に必要な認知、判断、及び操作は遠隔操作者36によって担われる。遠隔操作者36は、遠隔の場所から車両20の運転席で行うのと同じように車両20を運転する。ただし、遠隔運転では、必ずしも認知、判断、及び操作の全てを遠隔操作者36が行う必要はない。認知、判断、及び操作のうち少なくとも一部が車両20の機能によって補助されてもよい。
【0018】
遠隔操作センタ30には、サーバ32及び遠隔操作端末34が設置されている。車両20は、4Gや5Gを含む通信ネットワーク10を介してサーバ32に接続されている。サーバ32と通信可能な車両20の台数は1台以上好ましくは複数台である。車両20から発せられる遠隔操作の依頼はサーバ32が受信する。サーバ32は、遠隔操作の依頼の内容(例えば、遠隔支援の依頼か遠隔運転の依頼か)に基づき、依頼に応対させる遠隔操作者36を選定する。
【0019】
遠隔操作端末34は、遠隔操作者36によって操作される遠隔操作のためのインタフェース(HMI)である。遠隔操作端末34は、遠隔操作者36に対して車両20の遠隔操作に必要な情報を出力する情報出力部と、遠隔操作者36の遠隔操作のための操作を入力する操作入力部とを備える。情報出力部は、例えば、車両20のカメラにより撮像された画像を出力するディスプレイと、車両20のマイクにより集音された音を出力するスピーカとを含む。操作入力部は、遠隔支援用であれば、ボタン、レバー、及びタッチパネルを例示することができる。遠隔運転用の操作入力部には、例えば、ステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、方向指示器の操作レバー、及びワイパーの操作レバーが含まれる。遠隔運転のための遠隔操作端末34と遠隔支援のための遠隔操作端末34とは別端末であってもよいし、共通端末でもよい。遠隔操作端末34は少なくとも1台以上好ましくは複数台設けられている。遠隔操作センタ30には、遠隔操作端末34の台数に応じた人数の遠隔操作者36が待機している。
【0020】
遠隔操作端末34は、LANやインターネットを含む通信ネットワークを介してサーバ32に接続されている。なお、遠隔操作センタ30は、必ずしも実在する施設である必要はない。ここでは、遠隔操作端末34がサーバ32と通信ネットワークで接続されてなるシステムを遠隔操作センタ30と称する。ゆえに、クラウド上にサーバ32が設置され、各地のサテライトオフィスや遠隔操作者36の自宅に遠隔操作端末34が設置されていてもよい。
【0021】
2.自動運転装置の動作の概要
図2は、自動運転装置21の動作の概要を説明する図である。
図2には、自動運転装置21による車両20の制御状態が矢印線の線種で示されている。実線の矢印線で示される車両20の走行経路は、車両20が自動運転されていることを表している。点線の矢印線で示される車両20の走行経路は、車両20が遠隔操作されていることを表している。
【0022】
車両20の自動運転は、自動運転ECU211によって行われる。当然のことながら、自動運転が行われている間は、自動運転ECU211は起動状態を保たれている。この間、遠隔操作ECU212の遠隔操作機能は利用されないので、遠隔操作ECU212は省電力状態に保持することができる。なお、省電力状態には、遠隔操作ECU212の電源をオフにすることと、スリープ状態にすることとが含まれる。また、省電力が実現できるのであれば、省電力状態には、CPUやGPUなどの計算を実行しない内部計算モジュールのオフが含まれてもよい。
【0023】
一方、車両20の遠隔操作は、遠隔操作者36からの指示に従い遠隔操作ECU212によって行われる。詳しくは、遠隔操作者36と遠隔操作ECU212との間で通信が行われ、遠隔操作ECU212は、遠隔操作者36から受信した指示に従って車両20を動作させる。この間、自動運転ECU211の自動運転機能は利用されないので、電力消費を抑える1つの案として、自動運転ECU211を省電力状態にすることが考えられる。しかし、遠隔操作の実行中に自動運転ECU211を省電力状態にしてしまうと、自動運転の実施可否の判断を行えないために遠隔操作から自動運転への移行ができなくなる。この課題について以下に詳しく説明する。
【0024】
まず、自動運転の実施可否の判断要素は、例えば、以下の通りである。
【0025】
要素A:車両外の走行環境条件
地図が整備されていないために自動運転ができないこと、工事が行われたために地形・交通規則の変更が行われた可能性があり自動運転ができないことなどがこの判断要素の具体例として挙げられる。
【0026】
要素B:センサなどのハードウェア状態
汚れにより自動運転に必要なセンサが動作しないこと、照度が適切ではないために自動運転に必要なカメラが利用できないこと、雨・霧のために自動運転に必要なLidarが利用できないことなどがこの判断要素の具体例として挙げられる。また、GPSが衛星信号を受信できないため自己位置推定ができないこともこの判断要素の具体例として挙げられる。
【0027】
要素C:その他ハードウェア状態及びソフトウェア状態
自動運転に必要なハードウェアの破損・熱暴走・ハングによって自動運転が実行できないこと、ソフトウェアの異常によって自動運転が実行できないことなどがこの判断要素の具体例として挙げられる。
【0028】
要素D:その場の状況への自動運転の適応性
レベル5の完全自動運転が可能な車両であればすべての状況に対応できる可能性があるかもしれない。しかし、レベル4以下の自動運転車両では、また、レベル5の自動運転車両であっても、その場で実際に計算を行わなければ自動運転の実施可否の判断を下せない場合がある。
【0029】
以上のように自動運転の実施可否の判断要素には、要素Aのような外部要因によって一意に決められるものだけではなく、要素Dのような実際に自動運転ECU211を動作させなければ判断を下せないものも含まれている。
【0030】
自動運転ECU211と遠隔操作ECU212とが搭載された車両20は、遠隔操作に必要な人件費を考慮すると、可能な限り自動運転ECU211が継続して車両制御を担うことが望ましい。もし自動運転を継続できないと判定されたときには、たとえ遠隔操作ECU212が省電力状態であったとしても自動運転ECU211が遠隔操作ECU212を呼び出せばよい。ゆえに、自動運転の実行時に遠隔操作ECU212を省電力状態にしたとしても、自動運転から遠隔操作への移行は可能である。
【0031】
他方、上述のとおり、自動運転の実施可否の判断要素には、要素Aのような外部要因によって一意に決められるものだけではなく、要素Dのような実際に自動運転ECU211を動作させなければ判断を下せないものも含まれている。このため、遠隔操作の実行時に自動運転ECU211が省電力状態になっていると、自動運転の実施可否の判断を行うことができない。遠隔操作者36が遠隔操作から自動運転への切り替えを行うことも考えられるが、どのタイミングで自動運転ECU211が動作可能なのか遠隔操作者36にとっては知る術がない。そのため自動運転への移行ができずに遠隔操作の実行時間が長くなってしまう。
【0032】
そこで、
図2に示す自動運転ECU211及び遠隔操作ECU212の各動作状態の通り、自動運転装置21は、自動運転の実行時には遠隔操作ECU212を省電力状態にする一方、遠隔操作の実行時には自動運転ECU211を並行して起動させておく。つまり、自動運転ECU211は継続的に動作させ、一方で遠隔操作ECU212は自動運転ECU211が呼び出した時だけ動作させる。これによりECUの電力消費の低減による省電力化と人件費の低減を実現することが可能になる。
【0033】
3.自動運転装置の構成
以下、
図2に示す自動運転ECU211及び遠隔操作ECU212の各動作状態を実現可能な自動運転装置21について
図3を用いて説明する。
図3は、自動運転装置21の構成の一例を示すブロック図である。
【0034】
自動運転装置21には、センサ群22がCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを用いて接続されている。センサ群22は、車両20の周囲の状況を認識するための認識センサとしてのLiDAR22a、カメラ22b、及びミリ波センサ22cを含む。カメラ22bは、自動運転用と遠隔操作用とで共用されてもよいし、自動運転用のカメラと遠隔操作用のカメラとが別々に設けられてもよい。また、センサ群22は、車両20の位置及び方位を検出する位置センサとしてのGPS(Global Positioning System)受信機22dを含む。さらに、センサ群22は、内部センサ22eを含む。内部センサ22eは、車両20の運動に関する情報を取得する状態センサを含む。状態センサとしては、例えば、車輪速センサ、加速度センサ、角速度センサ、及び舵角センサが例示される。
【0035】
自動運転装置21には、アクチュエータ23がCAN等の車載ネットワークを用いて接続されている。アクチュエータ23は、車両20を操舵する操舵装置、車両20を駆動する駆動装置、及び車両20を制動する制動装置を含んでいる。操舵装置には、例えば、パワーステアリングシステム、ステアバイワイヤ操舵システム、及び後輪操舵システムが含まれる。駆動装置には、例えば、エンジン、EVシステム、及びハイブリッドシステムが含まれる。制動装置には、例えば、油圧ブレーキ、及び電力回生ブレーキが含まれる。また、方向指示器やワイパー等、車両20を安全に走行させる上で動作させることが必要な装置はアクチュエータ23に含まれる。アクチュエータ23は、自動運転装置21から送信される制御信号によって動作する。
【0036】
自動運転装置21は、自動運転ECU211、遠隔操作ECU212、及び第3のECUとしての車両制御ECU213を備える。これらのECU211,212,213はCAN等の車載ネットワークを用いて接続されている。各ECU211,212,213は、プロセッサとプロセッサに結合されたメモリとを備えている。メモリには、プロセッサで実行可能な1つ又は複数のプログラムとそれに関連する種々の情報とが記憶されている。プロセッサがプログラムを実行することにより、プロセッサによる各種処理が実現される。また、メモリは主記憶装置と補助記憶装置とを含む。補助記憶装置には地図データベースを含む各種データベースが備えられている。
【0037】
自動運転ECU211は、自動運転システム部211aと遠隔操作機能制御部211bとを備える。これらは、自動運転ECU211のメモリに記憶されたプログラムがプロセッサで実行されたときに、自動運転ECU211の機能として実現される。
【0038】
自動運転システム部211aは、センサ群22からの各種検出情報、また必要であれば記憶装置内の各種データベースから取得した情報に基づいて自動運転の実施可否の判断を行う。その判断における判断要素は前述の通りである。そして、自動運転を実施可能であれば、自動運転システム部211aは、自動運転のための制御情報(以下、自動運転制御情報という)を生成する。また、自動運転システム部211aは、自動運転の実施可否の判断結果に応じた信号を遠隔操作機能制御部211bに信号する。
【0039】
自動運転制御情報の生成には、既知の手法を用いることができる。以下、その一例について説明する。まず、GPS22dで受信した車両20の位置情報と、内部センサ22eで検出された車両20の運動に関する情報と、地図データベースから得られる地図情報とに基づいて、地図上における車両20の位置が認識される。また、LiDAR22a、カメラ22b、及びミリ波センサ22cによる検出情報が取得される。そして、パターンマッチングやディープラーニングなどの手法を用いて車両20の周囲の物体が認識され、その存在位置及び種別の特定が行われる。位置及び種別が特定された物体は物標として出力される。次に、地図データベースに記録された経路と物標情報に基づいて、車両20の走行計画が作成される。走行計画は、経路上において車両20が安全、法令順守、走行効率等の基準に照らして好適に走行するように作成される。
【0040】
自動運転システム部211aは、このように作成された走行計画に基づいて目標軌跡を生成する。目標軌跡は、車両20に固定された座標系での車両20の目標位置の集合と、各目標点での目標速度とを含む。自動運転システム部211aは、生成した目標軌跡を自動運転制御情報として出力する。別の態様として、自動運転システム部211aは、目標軌跡に車両20を追従させるためのアクチュエータ制御量(例えば、操舵角やペダル踏み込み量など)を算出し、アクチュエータ制御量を自動運転制御情報として出力してもよい。さらに別の態様として、車両20が走行しても良い空間を走行計画に基づき作成し、その空間を自動運転制御情報として出力してもよい。また、走行計画に車線変更や交差点での右左折が含まれている場合には、方向指示器のオン・オフ操作が自動運転制御情報に含まれてもよい。
【0041】
遠隔操作機能制御部211bは、自動運転システム部211aからの信号に基づき、遠隔操作ECU212に対して起動信号或いは停止信号を送信する。詳しくは、自動運転が可能であれば、遠隔操作機能制御部211bは、遠隔操作ECU212に対して停止信号を送信し、遠隔操作ECU212を省電力状態にする。逆に自動運転が不可能であれば、遠隔操作機能制御部211bは、遠隔操作ECU212に対して起動信号を送信し、遠隔操作ECU212を起動する。
【0042】
遠隔操作ECU212は、遠隔操作システム部212aを備える。遠隔操作システム部212aは、遠隔操作ECU212のメモリに記憶されたプログラムがプロセッサで実行されたときに、遠隔操作ECU212の機能として実現される。なお、遠隔操作ECU212のメモリに記憶されたプログラムは、自動運転ECU211のメモリに記憶されたプログラムとともに、自動運転装置21を機能させるプログラムセットを構成する。
【0043】
遠隔操作システム部212aは、サーバ32と通信し、遠隔操作に必要な情報をサーバ32に送信する。サーバ32に送信される情報には、カメラ22bで取得した画像を含むセンサ群22からの各種検出情報、また必要であれば記憶装置内の各種データベースから取得した情報が含まれる。また、遠隔操作に有用であるならば、道路交通情報システムから取得した道路交通情報などの遠隔操作システム100の外部から取得した情報が送信情報に含まれていてもよい。遠隔操作システム部212aからサーバ32に送信された情報は、サーバ32で処理されて遠隔操作端末34に送信される。
【0044】
また、遠隔操作システム部212aは、サーバ32と通信し、遠隔操作のための遠隔操作信号をサーバ32から受信する。遠隔操作信号は、遠隔操作者36が遠隔操作端末34に入力した信号である。遠隔運転が行われる場合、遠隔操作信号は、例えば、操舵操作やペダル操作によって生成される遠隔運転信号である。遠隔支援が行われる場合、遠隔操作信号は、例えば、ボタンやレバーの操作によって生成される遠隔支援信号である。
【0045】
遠隔操作システム部212aは、サーバ32から受信した遠隔操作信号から遠隔操作のための制御情報(以下、遠隔操作制御情報という)を生成する。遠隔操作制御情報は、車両20の制御が可能であればどのような情報でもよい。例えば、アクチュエータ制御量を遠隔操作制御情報として生成してもよい。この場合、例えば通信途絶・遅延の問題がないのであれば、毎時制御量を遠隔操作制御情報として生成してもよい。或いは、通信途絶・遅延に頑健性を持たせるために、現在の制御量から予想される将来の制御量を毎時制御量に付加してもよい。例えば、前述の車両20が走行しても良い空間のような情報を付け加えてもよい。なお、通信途絶・遅延の頑健性を担保する機能は、後述する車両制御ECU213に担わせてもよい。
【0046】
車両制御ECU213は、制御情報調停部213aとアクチュエータ制御部213bとを備える。これらは、車両制御ECU213のメモリに記憶されたプログラムがプロセッサで実行されたときに、車両制御ECU213の機能として実現される。
【0047】
制御情報調停部213aは、自動運転システム部211aから送信される自動運転制御情報と、遠隔操作システム部212aから送信される遠隔操作制御情報とを調停する。制御情報調停部213aによる調停の役割と方法としては以下の例が挙げられる。
【0048】
調停方法1:どちらか一方の制御情報のみを採用する方法
自動運転の可否によって遠隔操作ECU212が起動/停止されるため、本来的にはどちらか一方からしか制御情報の入力はない。しかし、時間同期が保証されていないシステムにおいては、2つの制御情報が入力される可能性がある。そこで、自動運転が可能であれば、自動運転制御情報のみを採用し、遠隔操作制御情報は却下する。これにより、制御情報調停部213aによって時間同期が保証される。
【0049】
調停方法2:どちらか一方の制御情報のみを採用し、移行時には滑らかに制御情報をつなぐ方法
自動運転から遠隔操作への移行時、或いは、遠隔操作から自動運転への移行時に制御情報をすばやく切り替えると、その切り替え時に車両20の挙動が不安定になって乗客に不快感を与える恐れがある。例えば、自動運転がアクセルペダルを踏みこむ指示を与え、遠隔操作がアクセルペダルを放す指示を与える場合、自動運転から遠隔操作への移行時には急減速が生じ、遠隔操作から自動運転への移行時には急加速が生じてしまう。そこで、これらの移行時には、制御情報を滑らかにつなぐ計算を行う。
【0050】
制御情報調停部213aで調停された制御情報は、後段のアクチュエータ制御部213bに送信される。アクチュエータ制御部213bは、制御情報調停部213aから送信される制御情報に従って各アクチュエータ23のアクチュエータ制御量を計算する。そして、アクチュエータ制御部213bは、アクチュエータ制御量によって各アクチュエータ23を制御する。なお、上記の調停方法2における制御情報を滑らかにつなぐとは、アクチュエータ制御量が滑らかに変化するような制御情報を生成することを意味する。
【0051】
4.自動運転装置による自動運転方法
以上のように構成される自動運転装置21による自動運転方法について
図4を用いて説明する。
図4は、自動運転装置21による自動運転方法を示すフローチャートである。フローチャートには、各ステップの処理の内容とともに処理の主体が表示されている。なお、フローチャートは、一例として、自動運転ECU211によって自動運転が行われている状態からスタートしている。
【0052】
まず、ステップS1では、自動運転ECU211による制御、すなわち自動運転が行われている。この処理の主体は自動運転システム部211aである。ステップS2では、自動運転システム部211aによって自動運転ECU211は継続して動作可能かどうか判定される。この判定では、前述の判断要素A-Dが考慮される。継続して動作可能と判断された場合、ステップS1に戻り、自動運転ECU211による制御が継続される。
【0053】
ステップS2で継続不可と判断された場合、遠隔操作機能制御部211bによってステップS3の処理が行われる。ステップS3では、遠隔操作機能制御部211bによって遠隔操作ECU212が起動される。
【0054】
ステップS4では、遠隔操作ECU212による制御、すなわち遠隔操作が行われる。この処理の主体は遠隔操作システム部212aである。ステップS5では、自動運転システム部211aによって自動運転ECU211は動作可能かどうか判定される。この判定では、前述の判断要素A-Dが考慮される。動作不可と判断された場合、ステップS4に戻り、遠隔操作ECU212による制御が継続される。
【0055】
ステップS5で動作可能と判断された場合、自動運転システム部211aによってステップS6の処理が行われる。ステップS6では、自動運転システム部211aによって自動運転ECU211による制御が開始される。そして、ステップS7では、遠隔操作機能制御部211bによって遠隔操作ECU212が省電力モードにされる。
【0056】
以上の自動運転方法をシーケンス図によって表したものが
図5及び
図6である。
図5は、自動運転から遠隔操作への移行時の自動運転ECU211と遠隔操作ECU212の各動作を示すシーケンス図である。
図5に示すように、自動運転から遠隔操作への移行時には、自動運転ECU211から遠隔操作ECU212へ省電力の解除指示、すなわち、起動指示が送信される。遠隔操作ECU212は、自動運転ECU211からの省電力の解除指示を受けて省電力状態から起動状態へ移行する。起動状態への移行が完了したら、遠隔操作ECU212は自動運転ECU211へ起動したことを通知する。
【0057】
図6は、遠隔操作から自動運転への移行時の自動運転ECU211と遠隔操作ECU212の各動作を示すシーケンス図である。
図6に示すように、遠隔操作から自動運転への移行時には、自動運転ECU211から遠隔操作ECU212へ省電力指示、すなわち、停止指示が送信される。遠隔操作ECU212は、自動運転ECU211からの省電力指示を受けて起動状態から省電力状態へ移行する。省電力状態へ移行した際には、遠隔操作ECU212から自動運転ECU211へ応答信号が送信される。
【0058】
5.その他実施形態
上述の実施形態では、判断要素A-Dによって自動運転の実施可否が判断されている。これらは、自動運転の計算の可否を判定する要素であるが、自動運転から遠隔操作への移行条件に何らかの制約が課されている場合がある。例えば、移行時の制約としては以下のような例を挙げることができる。自動運転システム部211aにおける自動運転の実施可否の判断では、判断要素A-Dに加えて、これらの制約1-3のような情報を用いてもよい。
制約1:移行時には速度はゼロでなければならない。
制約2:移行時には操舵角を中立に戻さなければならない。
制約3:遠隔操作から自動運転への移行時には、例えばバス停のような所定の地点に車両20を停車させなければならない。
【0059】
上述の実施形態では、自動運転システム部211aにおいて、自動運転の実施可否の判断と、自動運転の実施が可能な場合の自動運転制御情報の生成とが行われている。これら2つの機能は別々に設けられてもよい。すなわち、自動運転ECU211の機能として、自動運転実施可否判断部と、自動運転制御情報生成部と、前述の遠隔操作機能制御部とを設けてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態における遠隔操作ECU212は、遠隔支援用の遠隔支援ECUと遠隔運転用の遠隔運転ECUとの集合として構成されてもよい。この場合、遠隔支援が実行される場合には、遠隔運転ECUは省電力状態のまま遠隔支援ECUのみが起動され、遠隔運転が実行される場合には、遠隔支援ECUは省電力状態のまま遠隔運転ECUが起動されるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 通信ネットワーク
20 自動運転車両
21 自動運転装置
22 センサ群
23 アクチュエータ
30 遠隔操作センタ
32 サーバ
34 遠隔操作端末
36 遠隔操作者
100 遠隔操作システム
211 自動運転ECU
212 遠隔操作ECU
213 車両制御ECU