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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】経口フィルム製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/485 20060101AFI20230912BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230912BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230912BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230912BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230912BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230912BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
A61K31/485
A61K9/70
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/02
A61P25/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021099572
(22)【出願日】2021-06-15
(62)【分割の表示】P 2017511021の分割
【原出願日】2016-04-06
(65)【公開番号】P2021138762
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2015078297
(32)【優先日】2015-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 尚久
(72)【発明者】
【氏名】新開 規弘
(72)【発明者】
【氏名】白石 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】津田 曜
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103479639(CN,A)
【文献】特開2012-031164(JP,A)
【文献】特開平11-116469(JP,A)
【文献】特開2004-043450(JP,A)
【文献】特表2005-517722(JP,A)
【文献】国際公開第2014/144241(WO,A1)
【文献】実用医薬品添加物,株式会社化学工業社,1974年,第216-221頁
【文献】医薬品添加物事典,第1版,株式会社薬事日報社,1994年,第335-337頁,用途別索引 安定(化)剤
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒプロメロースの混合物、および抗酸化剤を溶媒に溶解する工程1、
ナルフラフィン塩酸塩を溶媒に溶解する工程2、
工程1で得られた溶液と工程2で得られた溶液を練合する工程3、
工程3で得られた溶液を展延する工程4、ならびに
展延された溶液を乾燥する工程5
を含む経口フィルム製剤の製造方法であって、
経口フィルム製剤1枚あたりのナルフラフィン塩酸塩の含有量が0.1~80μgであり、
抗酸化剤が亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、およびピロ亜硫酸塩から選択される製造方法。
【請求項2】
経口フィルム製剤中の、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒプロメロースの混合物の含有量が30質量%以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程1において溶媒にグリセリン、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、トリアセチン、およびクエン酸トリエチルからなる群より選択される少なくとも1つの可塑剤をさらに溶解する請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
経口フィルム製剤が、口腔内崩壊フィルムである請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用経口フィルム製剤に関し、とりわけ詳細には、ナルフラフィン塩酸塩を有効成分として含む含量均一性に優れた口腔内崩壊フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高力価薬物、例えば、ナルフラフィン塩酸塩などは、その固形製剤としては、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤などが知られている。しかしながら、これらの剤形では、高力価薬物の一回の投与量が微量であるため、単位製剤あたりの含有量は非常に低いものとなり、含量均一性に優れた製剤を製造することは困難であった。
【0003】
特許文献1には、微量で生理活性作用を有する物質の、製造工程における粉塵の発生や、それによる作業員への悪影響や環境汚染の問題を解決することを目的に、薬学的に許容し得るシート状担体に微量で生理活性作用を有する物質を含有する溶液または懸濁液を印刷、塗布、噴霧または注入してなることを特徴とするシート状固形薬剤組成物が開示されている。
【0004】
一方、医薬分野における剤形の1つとして、経口フィルム剤、特に口腔崩壊型フィルム剤は、水なしで服用が可能であり、携帯性に優れるといった利点から、近年開発がなされている。しかし、経口フィルム剤形の製造には、その脆弱性、粘着性、吸湿性といった性質や、剤形内部の均一性の欠如といった問題が認識されており(特許文献2)、高力価薬物への適用や、含量均一性の評価については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-124954号公報
【文献】特表2013-527164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、含量均一性についての問題点は指摘されておらず、また、担体への印刷による塗布などでは、満足できる含量均一性を確保することは難しく、改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、高力価薬物を含み、含量均一性に優れた経口フィルム製剤、該フィルム製剤の簡便な製造方法、および該経口フィルム製剤を含有する安定性に優れた包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、高力価薬物をフィルム形成ポリマーと溶液状態としたうえで展延し、乾燥することにより、得られる経口フィルム製剤中に低含量の高力価薬物を均一に含有させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]高力価薬物およびフィルム形成ポリマーを含む溶液を展延し、乾燥させることにより得られる経口フィルム製剤、
[2]高力価薬物が、ナルフラフィン塩酸塩、ベラプロストナトリウム、イミダフェナシン、リマプロストアルファデクス、ルビプロストンおよびビタミンD誘導体からなる群より選択される1つである上記[1]記載の経口フィルム製剤、
[3]フィルム形成ポリマーが、セルロース、セルロース誘導体、ポリアルキレングリコール、アクリル酸ポリマー、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸ポリマー、メタクリル酸コポリマー、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デンプン、キサンタンガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、グァーガム、アカシアガム、アラビアガム、カラギーナン、デキストリン、デキストラン、アミロース、アルギン酸、アルギン酸塩、カルボキシビニルポリマー、プルラン、キトサン、カルボキシメチルスターチナトリウム、プランタゴ種皮、ガラクトマンナン、オイドラギット、カゼイン、アルギン酸アルキルエステル、ゼラチン、シクロデキストリン、水溶性プルランエーテル(プルランメチルエーテル、プルランエチルエーテル、プルランプロピルエーテルなど)、水溶性プルランエステル(プルランアセテート、プルランブチレートなど)、寒天、デラカント、キチン、タラガム、および、タマリンドガムからなる群より選択される少なくとも1つである上記[1]または[2]記載の経口フィルム製剤、
[4]グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、グリセロール、トリアセチン、脱アセチル化モノグリセリド、およびクエン酸トリエチルからなる群より選択される少なくとも1つの可塑剤をさらに含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の経口フィルム製剤、
[5]抗酸化剤をさらに含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の経口フィルム製剤、
[6]経口フィルム製剤が、口腔内崩壊フィルムである上記[1]~[5]のいずれかに記載の経口フィルム製剤、
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の経口フィルム製剤を含む包装体であって、
(a)包材に入れて窒素置換して封入する、および/または
(b)脱酸素剤と共に包材に封入する
ことにより得られる包装体、
[8]上記[1]~[6]のいずれかに記載の経口フィルム製剤を、脱酸素機能を有する包材により包装して得られる包装体、
[9]脱湿剤をさらに封入する上記[7]または[8]記載の包装体、および
[10]高力価薬物およびフィルム形成ポリマーを含む溶液を展延し、乾燥する、高力価薬物を含有する経口フィルム製剤の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高力価薬物およびフィルム形成ポリマーを含む溶液を展延し、乾燥させることにより、高力価薬物の含量均一性に優れた経口フィルム製剤を提供することができる。また、経口フィルム製剤は、水なしで容易に服用可能となる点で、服薬コンプライアンスを改善することができる。透析患者など、摂水制限のある患者にとっても水なしで服薬できることは、大きな利点である。さらに、本発明によれば、該経口フィルム製剤を(a)包材に入れて窒素置換して封入する、および/または(b)脱酸素剤と共に包材に封入することにより得られる包装体とすること、または酸素機能を有する包材により包装して得られる包装体とすることにより、高力価薬物の安定性を向上させることができる。またさらに本発明によれば、高力価薬物およびフィルム形成ポリマーを含む溶液を展延し、乾燥することにより、非常に簡便な方法で高力価薬物の含量均一性に優れた経口フィルム製剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】保存温度80℃でのナルフラフィン塩酸塩の安定性を示すグラフである。
図2】保存温度60℃でのナルフラフィン塩酸塩の安定性を示すグラフである。
図3】保存温度60℃でのナルフラフィン塩酸塩の安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、高力価薬物を有効成分として含む経口フィルム製剤であって、高力価薬物、フィルム形成ポリマーおよび可塑剤を含む薬液をフィルム形状に延展した後乾燥させることにより得られることを特徴とする。
【0013】
本発明において、高力価薬物とは、フィルム1枚あたりに0.1mg以下含有される薬物を意味し、特に限定されるものではないが、具体的には、ナルフラフィン塩酸塩、ベラプロストナトリウム、イミダフェナシン、リマプロストアルファデクス、ルビプロストン、ビタミンD誘導体などが挙げられる。
【0014】
ナルフラフィン塩酸塩は、化学名:(2E)-N-[(5R,6R)-17-(シクロプロピルメチル)-4,5-エポキシ-3,14-ジヒドロキシモルフィナン-6-イル]-3-(フラン-3-イル)-N-メチルプロプ-2-エナミド塩酸塩を有するモルヒナン化合物である。ナルフラフィン塩酸塩は、選択的オピオイドκ受容体作動薬であり、血液透析患者のそう痒症の改善に効果を示す。現在は、レミッチ(登録商標)カプセル2.5μgとして上市されており、これは軟カプセル剤形の経口製剤である。したがって、摂水制限のある血液透析患者にナルフラフィン塩酸塩を水なしで容易に服用可能とすることは、非常に有益であり、本発明の効果を発揮できることから、本発明においては、高力価薬物としてナルフラフィン塩酸塩を用いることが好ましい。
【0015】
高力価薬物の含有量は、用いる活性薬物の種類や物理的性質などにより、当業者により容易に設定可能なものであり、例えば、ナルフラフィン塩酸塩を用いる場合、本フィルム製剤1枚当たり(1回用量)、通常0.1~80μg含有させることが好ましく、0.5~40μg含有させることがより好ましい。ナルフラフィン塩酸塩のフィルム製剤1枚当たりの含有量が80μgを超えると重篤な副作用が発現する傾向があり、0.1μg未満であると十分な薬効を示さない傾向がある。
【0016】
経口フィルム製剤には、有効成分である高力価薬物の他、フィルム形成ポリマー(基材)を含有させる必要がある。また、その他、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、当該技術分野において通常使用される各種添加剤、すなわちその他の可塑剤、界面活性剤、安定化剤、増粘剤、防腐剤、抗酸化剤、pH調整剤、色素、顔料、香料、糖類、崩壊剤、賦形剤、嬌味剤、精油、結合剤、防湿剤等を含有させることができる。
【0017】
フィルム形成ポリマーとしては、フィルム製剤の分野において一般的に使用されているものを使用することができる。具体的には、特に限定されるものではないが、水可溶性のフィルム形成ポリマー、例えば、セルロース、セルロース誘導体、ポリアルキレングリコール、アクリル酸ポリマー、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸ポリマー、メタクリル酸コポリマー、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デンプン、キサンタンガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、グァーガム、アカシアガム、アラビアガム、カラギーナン、デキストリン、デキストラン、アミロース、アルギン酸、アルギン酸塩、カルボキシビニルポリマー、プルラン、キトサン、カルボキシメチルスターチナトリウム、プランタゴ種皮、ガラクトマンナン、オイドラギット、カゼイン、アルギン酸アルキルエステル、ゼラチン、シクロデキストリン、水溶性プルランエーテル(プルランメチルエーテル、プルランエチルエーテル、プルランプロピルエーテルなど)、水溶性プルランエステル(プルランアセテート、プルランブチレートなど)、寒天、デラカント、キチン、タラガム、タマリンドガムおよびこれらの混合物などが挙げられる。
【0018】
セルロース誘導体としては、メチルセルロース、エチルセルロースなどのアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)およびカルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)などの置換アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどの置換アルキルセルロースの塩、酢酸フタル酸セルロース(セルロースアセテートフタレート:CAP)など、ならびにこれらの混合物が挙げられる。
【0019】
フィルム形成ポリマーの含有量は、特に限定されるものではないが、経口フィルム製剤中に、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。フィルム形成ポリマーの含有量が30質量部未満であると、フィルムが脆くなり品質に問題が生じる傾向がある。
【0020】
可塑剤としては、特に限定されるものではないが、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、グリセロール、トリアセチン、脱アセチル化モノグリセリド、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチルなどが挙げられる。これらの可塑剤は、単独で用いてもよく。2種以上を併用してもよい。
【0021】
可塑剤を含有させる場合の経口フィルム製剤中の含有量は、特に限定されるものではないが、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。可塑剤の含有量が40質量%を超えると、十分な強度を保てず、フィルムを形成できなくなる傾向がある。また、経口フィルム製剤中の可塑剤の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。可塑剤の含有量が0.1質量%未満であると、製剤のしなやかさが得られなくなり品質に悪影響が出る可能性がある。
【0022】
抗酸化剤としては、アスコルビン酸、亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、天然ビタミンE、トコフェロール、d-δ-トコフェロール、トコフェロール酢酸エステル、濃縮混合トコフェロール、チオ硫酸塩、没食子酸プロピル、ピロ亜硫酸塩、亜硝酸塩、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、アルファチオグリセリン、エデト酸塩、エリソルビン酸、塩酸システイン、クエン酸塩、ジクロルイソシアヌール酸塩、大豆レシチン、チオグリコール酸塩、チオリンゴ酸塩、パルミチン酸アスコルビン酸、ブチルヒドロキシアニソール、1,3-ブチレングリコール、ベンゾトリアゾール、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2-メルカプトベンズイミダゾールなどが挙げられる。
【0023】
抗酸化剤を含有させる場合の経口フィルム製剤中の含有量は、特に限定されるものではないが、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。抗酸化剤の含有量が70質量%を超えると、抗酸化剤特有の味・臭いにより、風味が損なわれ、品質に問題が生じる場合がある。また、経口フィルム製剤中の抗酸化剤の含有量は、0.0001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましい。抗酸化剤の含有量が0.0001質量%未満であると、十分な抗酸化効果が得られず品質に悪影響が出る可能性がある。
【0024】
本発明に係る経口フィルム製剤は、特に含量均一性の点から、フィルム形成ポリマー、可塑剤および有効成分を含有する均一な溶液を所定の厚さに塗布し、乾燥することにより製造することができる。より詳細には、(1)フィルム形成ポリマーと、可塑剤などの添加剤とを水およびアルコールの混合溶媒に溶解し、溶液を得る。(2)有効成分の薬物を水に溶解する。(3)(1)および(2)の溶液を練合して薬液を得る。(4)得られた薬液を、一定の厚みに展延し、乾燥することにより、例えば5~400μmの範囲内、好ましくは10~300μmの範囲内の膜厚で経口フィルム製剤を得ることができる。
【0025】
本発明においては、水なしで容易に服用可能となるため、嚥下障害患者に対する誤嚥防止による服薬コンプライアンスの改善が期待できる点、透析患者など、摂水制限のある患者に対して、水分管理が容易になることが期待できる点などから、経口フィルム製剤が口腔内崩壊フィルムであることが好ましい。口腔内崩壊フィルムは、上述のフィルム形成ポリマーや可塑剤を適宜組み合わせることにより、製造することができる。好適なフィルム形成ポリマーとしてヒドロキシプロピルセルロースおよびヒプロメロースを、可塑剤としてポリエチレングリコールを用いるものが挙げられる。
【0026】
本発明においては、酸化により影響を受ける薬物、特にナルフラフィン塩酸塩を有効成分として用いる場合に、脱酸素手段を講じることにより、有効成分の分解を低減でき、安定な製剤が得られることを確認した。
【0027】
このような脱酸素手段の具体例としては、上述した経口フィルム製剤中に抗酸化剤を含有させる方法、包装時に窒素置換を行う方法、包装体内に脱酸素剤を封入する方法、包材自体に脱酸素機能を有する包材、例えば包装フィルムを使用する方法などがあるが、包材からの製剤の取り出しの簡便さ、原材料費の低減、製造工程の簡便化などの点から、包材自体に脱酸素機能を有する包材を使用する方法が好ましい。
【0028】
包装体中に共存させる脱酸素剤としては、鉄および酸化セリウムなどの無機系の脱酸素剤、有機系の脱酸素剤などが挙げられるが、本発明の経口フィルム製剤と同様にシート状またはスティック状などの扁平な形態としたものが好ましい。そのような脱酸素剤としては、特に限定されるものではなく、医薬用途に使用できる市販の脱酸素剤、例えば、三菱瓦斯化学(株)製の「ファーマキープ」、三菱瓦斯化学(株)製の「エージレス」などが挙げられる。
【0029】
脱酸素機能を有する包材としては、特に限定されるものではないが、脱酸素剤を含有する包装フィルムが好ましい。このような包装フィルムは、具体的には、鉄、および酸化セリウムなどの無機系の脱酸素剤を含有するもの、あるいは有機系の脱酸素剤含有フィルムに分類することができる。これらのフィルムとしては、特に限定されるものではなく、医薬用途に使用できる市販のフィルム、例えば、酸化セリウムを包含する包材として、共同印刷(株)製の「オキシキャッチ(登録商標)」、スタープラスチック工業(株)製の「ハイスターO2」など、また鉄を包含する包材として、三菱瓦斯化学(株)製の「エージレスオーマック(登録商標)」、東洋製罐(株)製の「オキシガード」などを用いることができる。
【0030】
さらに、本発明の経口フィルム製剤は、脱酸素手段のみでは、フィルム中の薬物を十分安定に保つことができない場合でも、脱湿剤を併用することで、フィルム中の薬物を安定に保つことができる場合がある。このような場合には、脱湿剤を併用することが好ましい。もちろん、脱湿機能のみを有する脱湿剤を包装体中に共存させ、脱酸素機能を有する包材にて包装した包装体とすることも可能であり、そのような脱湿剤は医薬品の分野において一般的なものを使用することができる。
【0031】
また別の実施形態においては、本発明は、高力価薬物を含有する経口フィルム製剤の製造方法に関する。本発明の高力価薬物を含有する経口フィルム製剤の製造方法は、高力価薬物が溶解したフィルム形成ポリマーを含む溶液を用いることを特徴とし、この溶液を展延し、乾燥することにより行われる。例えば、本発明の製造方法は、本発明の経口フィルム製剤について説明したように、具体的には、フィルム形成ポリマーおよび必要に応じてその他の添加剤を水などの溶媒に溶解する工程1、高力価薬物を水などの溶媒に溶解する工程2、工程1で得られた溶液および工程2で得られた溶液を練合して高力価薬物およびフィルム形成ポリマーを含む溶液を得る工程3、工程3で得られた溶液を必要に応じてライナーなどの上に一定の厚さに展延する工程4、展延された溶液を、乾燥する工程5、乾燥したフィルムを適切な大きさに切断する工程6などにより行うことができる。
【0032】
上述の「経口フィルム製剤」についてした説明は、特に矛盾のない限り、「高力価薬物を含有する経口フィルム製剤の製造方法」についても、同様に適用されるものとし、また「高力価薬物を含有する経口フィルム製剤の製造方法」についてした説明も、上述の「経口フィルム製剤」にも同様に適用されるものとする。
【0033】
以下、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0034】
実施例および比較例において使用した各成分は、日本薬局方または医薬品添加物規格に記載のものを用いた。
【0035】
実施例1~4
表1の組成にしたがい、(a)水およびエタノールの混液にヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロースおよびポリエチレングリコールを加え、室温で30分間攪拌して溶解した(溶液A)。(b)適量の水(表1の外)にナルフラフィン塩酸塩を加えて室温で5分間攪拌することにより溶解した(溶液B)。(c)(a)の溶液Aと、(b)の溶液Bとを混合し、スリーワンモーターを用いて室温で30分間練合し、薬液Cを得た。
【0036】
得られた薬液Cをライナー上に乾燥後の厚みが40μmになるように均一に塗布し、実施例1は70℃で10分間、実施例2は80℃で10分間、実施例3は80℃で15分間、実施例4は80℃で30分間乾燥した。得られたフィルムを1.5×2.0cm(3.0cm2)の大きさに打ち抜き、フィルム製剤を得た。理論値として、得られたフィルム製剤の1枚当たりの質量は12mg、薬物含量は2.5μgである。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例5
表2の組成にしたがい、(a)水およびエタノールの混液にヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリエチレングリコールおよび抗酸化剤(亜硫酸ナトリウム)を加え、室温で30分間攪拌して溶解した(溶液A)。(b)適量の水(表2の外)にナルフラフィン塩酸塩を加えて室温で5分間攪拌することにより溶解した(溶液B)。(c)(a)の溶液Aと、(b)の溶液Bとを混合し、スリーワンモーターを用いて室温で30分間練合し、薬液Cを得た。
【0039】
得られた薬液Cをライナー上に乾燥後の厚みが40μmになるように均一に塗布し、80℃で15分間乾燥した。得られたフィルムを1.5×2.0cm(3.0cm2)の大きさに打ち抜き、フィルム製剤を得た。理論値として、得られたフィルム製剤の1枚当たりの質量は12mg、薬物含量は2.5μgである。
【0040】
【表2】
【0041】
試験例1:(含量均一性試験)
実施例1~4(各実施例でn=3)で得られたフィルム製剤について、各ロット当たり3枚のフィルム製剤の薬物濃度を測定し、平均値および標準偏差を算出した。算出された平均値および標準偏差値より、含量均一性の指標として相対標準偏差を算出し、その結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
表3より、いずれも相対標準偏差が2.2未満と含量均一性に優れていることが分かる。
【0044】
試験例2:(安定性試験)
実施例3と同様にして作製されたフィルム製剤を、イージーピール(凸版印刷(株)製)に、そのまま、あるいは脱酸素・脱湿剤(三菱瓦斯化学(株)製のファーマキープ(KD-20))と共に封入し、または脱湿機能を有する包材(東洋製罐(株)製のモイスチャーガード(MG))に封入し、80℃の恒温器に入れて保存した。保存開始時、および保存中(3日後、7日後)の製剤について、薬物(ナルフラフィン塩酸塩)含量を測定した。結果を図1に、保存開始時を100とする薬物含量(%)として示す。
【0045】
試験例3:(安定性試験)
保存温度を60℃とし、保存中の測定時期を0.5ヵ月後と1ヵ月後とした以外は試験例2と同様にして、薬物(ナルフラフィン塩酸塩)含量を測定した。結果を図2に、保存開始時を100とする薬物含量(%)として示す。
【0046】
試験例4:(安定性試験)
フィルム製剤を表4に示す包装に封入し、60℃の恒温器に入れて保存した。試料1~4には実施例3と同様にして作製されたフィルム製剤を用い、試料5には実施例5で得られたフィルム製剤を用いた。保存開始時、および保存中(0.5ヵ月後、1ヵ月後)の製剤について、薬物(ナルフラフィン塩酸塩)含量を測定した。結果を図3に、保存開始時を100とする薬物含量(%)として示す。
【0047】
【表4】
【0048】
図1~3より、本発明の経口フィルム製剤は、脱酸素手段を講じることにより、長期保存しても薬物の安定性が保たれることが分かる。
図1
図2
図3