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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】真空圧空成形用粘着シート及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20230912BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230912BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20230912BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20230912BHJP
   B29C 51/12 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J201/00
C09J133/04
B29C51/10
B29C51/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021526927
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024173
(87)【国際公開番号】W WO2020256118
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2019115239
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐介
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 伸幸
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-141625(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121868(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021460(WO,A1)
【文献】特開2017-154410(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203304(WO,A1)
【文献】特開2017-052146(JP,A)
【文献】特開2010-189579(JP,A)
【文献】特開2018-002891(JP,A)
【文献】特開2014-088549(JP,A)
【文献】特開2019-112574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/38
B29C 51/10
B29C 51/12
C09J 133/04
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、薄膜層とを有し、真空圧空成形時に前記薄膜層側が被着体に対して圧着される真空圧空成形用粘着シートであって、
記薄膜層は前記粘着剤層の表層部分を構成し、前記粘着剤層のX線光電子分光分析により得られる前記粘着剤層の表層部分の組成から計算されるTgが70℃以上である、真空圧空成形用粘着シート。
【請求項2】
粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、薄膜層とを有し、真空圧空成形時に前記薄膜層側が被着体に対して圧着される真空圧空成形用粘着シートであって、
前記薄膜層は前記粘着剤層の少なくとも片面に配置され、前記粘着剤層よりも厚みが薄く、当該薄膜層の融点、軟化点若しくはガラス転移温度(Tg)が70℃以上であり、
前記薄膜層がポリオレフィン系樹脂及びロジンエステル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、真空圧空成形用粘着シート。
【請求項3】
前記粘着剤組成物が、アクリル系粘着剤組成物であり、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含み、
前記ビニル重合体(A)は、Tgが30℃以上200℃以下であり、数平均分子量が500~10,000であり、前記アクリル系粘着性ポリマー(B)100質量部に対して0.5質量部以上60質量部以下含有されており、
前記粘着剤層は、当該粘着剤層全体のTgである第1のTgが-80℃以上20℃以下であり、
前記粘着剤層のX線光電子分光分析により得られる前記粘着剤層の表層部分の組成から計算されるTgである第2のTgが、前記第1のTgよりも30℃以上高い、請求項に記載の真空圧空成形用粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤層の少なくとも一方の表層部分において、前記ビニル重合体(A)をより高濃度で含有する、請求項3に記載の真空圧空成形用粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤組成物が、アクリル系粘着剤組成物である、請求項に記載の真空圧空成形用粘着シート。
【請求項6】
請求項2又は5に記載の真空圧空成形用粘着シートを製造する方法であって、
前記薄膜層を剥離フィルム上に形成する、真空圧空成形用粘着シートの製造方法。
【請求項7】
粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、薄膜層とを有し、真空圧空成形時に前記薄膜層側が被着体に対して圧着される真空圧空成形用粘着シートを製造する方法であって、
前記薄膜層を形成する工程と、
前記薄膜層の上に前記粘着剤組成物を塗布して前記粘着剤層を形成する工程と、を含み、
前記薄膜層は前記粘着剤層よりも厚みが薄く、当該薄膜層の融点、軟化点又はガラス転移温度(Tg)が70℃以上であり、
前記薄膜層がポリオレフィン系樹脂及びロジンエステル系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、真空圧空成形用粘着シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載の真空圧空成形用粘着シートを有する加飾フィルム。
【請求項9】
請求項8に記載の加飾フィルムを成形体に貼着してなる加飾成形体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年6月21日に出願された日本特許出願番号2019-115239号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、真空圧空成形用粘着シート及びその利用に関する。
【背景技術】
【0003】
粘着剤(感圧接着剤ともいう)は、例えば、テープ、ラベル等の形態に加工され、幅広い用途において利用されている。また、その被着対象物もプラスチック、紙類、金属、ガラス及び陶器等、様々な物質に対して適用される。
【0004】
さらに、粘着剤は、家電製品又は自動車内外装用品等の部材の保護並びに意匠性の付与等を目的とした加飾フィルムにも利用される。加飾フィルムによる成形方法としては、射出成形によるインモールド成形の他、真空成形、真空圧空成形等により成形品に貼合又は転写する方法等が用いられている。ここで、貼合(ラミネート)により成形する場合、加飾フィルムとしては、塩化ビニル樹脂又はポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂からなる基材層に加飾層及び粘着剤層等を積層した構成のものが用いられる。また、転写により成形する場合、保護層、加飾層及び粘着剤層を含む積層体が、成形体表面に転写される。このような粘着剤層を有する真空成形用加飾フィルムが開示されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-213891号公報
【文献】特開2012-213894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加飾フィルムの用途においては、曲面や凹凸部等の複雑な形状に追従することが求められる。このため、前記の成形方法の中でも、「真空圧空成形」が注目されている。これは、熱可塑性樹脂からなる加飾フィルムを加熱軟化させ、型又は基材と加飾フィルムの間を真空にし、圧縮空気圧力で加飾フィルムを型又は基材に密着させて成形する方法である。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2記載の真空成形用加飾フィルムを「真空圧空成形」に用いた場合、常温での接着性は良好ではあるものの、基材へ貼着後の加飾フィルムにライン状の凹凸が発生するという外観不良(いわゆる、「ショックライン」、「ショックマーク」)が生じることがある。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、基材へ貼着した後の加飾フィルムにショックラインが発生することを抑制できる真空圧空成形用粘着シート、同シートを用いた加飾フィルム、及び、同加飾フィルムを備える加飾成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の真空圧空成形用粘着シートを用いることで、前記のショックラインを抑制できることを見出した。本開示は以下の通りである。
【0010】
〔1〕粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、薄膜層とを有し、前記薄膜層は前記粘着剤層の少なくとも片面に配置され、前記粘着剤層よりも厚みが薄く、当該薄膜層の融点、軟化点若しくはガラス転移温度(Tg)が70℃以上であるか、又は、前記薄膜層は前記粘着剤層の表層部分であり、前記粘着剤層のX線光電子分光分析により得られるその表層部分の組成から計算されるTgが70℃以上である、真空圧空成形用粘着シート。
〔2〕前記粘着剤組成物が、アクリル系粘着剤組成物である、〔1〕に記載の真空圧空成形用粘着シート。
〔3〕前記アクリル系粘着剤組成物が、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含み、前記ビニル重合体(A)は、Tgが30℃以上200℃以下であり、数平均分子量が500~10,000であり、前記アクリル系粘着性ポリマー(B)100質量部に対して0.5質量部以上60質量部以下含有されており、前記粘着剤層は、当該粘着剤層全体のTgである第1のTgが-80℃以上20℃以下であり、前記粘着剤層のX線光電子分光分析により得られるその表層部分の組成から計算されるTgである第2のTgが、前記第1のTgよりも30℃以上高い、〔2〕に記載の真空圧空成形用粘着シート。
〔4〕前記粘着剤層の少なくとも一方の表層部分において、前記ビニル重合体(A)をより高濃度で含有する、〔3〕に記載の真空圧空成形用粘着シート。
〔5〕前記薄膜層が、ポリオレフィン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の真空圧空成形用粘着シート。
〔6〕〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の真空圧空成形用粘着シートを製造する方法であって、
前記薄膜層を剥離フィルム上に形成する、真空圧空成形用粘着シートの製造方法。
〔7〕真空圧空成形用粘着シートを製造する方法であって、薄膜層を形成する工程と、前記薄膜層の上に粘着剤組成物を塗布して粘着剤層を形成する工程と、を含み、前記薄膜層は前記粘着剤層よりも厚みが薄く、当該薄膜層の融点、軟化点又はガラス転移温度(Tg)が70℃以上である、真空圧空成形用粘着シートの製造方法。
〔8〕〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の真空圧空成形用粘着シートを有する加飾フィルム。
〔9〕〔8〕に記載の加飾フィルムを成形体に貼着してなる加飾成形体。
【発明の効果】
【0011】
本開示の真空圧空成形用粘着シートによれば、基材へ貼着した後に加飾フィルムにショックラインが発生することを抑制できる。また、このような加飾フィルムを備える加飾成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本明細書に開示される技術の各種実施形態を詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0013】
本開示の真空圧空成形用粘着シートは、粘着剤組成物から形成される粘着剤層と、薄膜層とを有する。本開示の真空圧空成形用粘着シートの薄膜層は、以下の[1]又は[2]である。
[1]前記薄膜層は前記粘着剤層の少なくとも片面に配置され、当該薄膜層は前記粘着剤層よりも厚みが薄く、当該薄膜層の融点、軟化点若しくはガラス転移温度(Tg)が70℃以上である。
[2]前記薄膜層は前記粘着剤層の表層部分であり、前記粘着剤層のX線光電子分光分析により得られるその表層部分の組成から計算されるTgが70℃以上である。
【0014】
本開示の真空圧空成形用粘着シートは、薄膜層の接着性が発現しない温度で予備賦形した後、薄膜層の接着性が発現する温度で真空圧空成形する場合に、特に有効である。本開示に係る粘着剤組成物(以下、「本粘着剤組成物」ともいう。)、本開示に係る薄膜層(以下、「本薄膜層」ともいう。)、本開示の真空圧空成形用粘着シート(以下、「本粘着シート」という。)の製造方法、加飾フィルム及び加飾成形体、並びに、本粘着剤組成物の好ましい態様の詳細について、順次説明する。
【0015】
1.本粘着剤組成物
本粘着剤組成物の種類としては、接着性、耐熱性、耐侯性、耐薬品性等の用途に応じた要求性能を満たすものであれば特に限定されず、アクリル系粘着剤組成物、ポリエステル系粘着剤組成物、ウレタン系粘着剤組成物、シリコーン系粘着剤組成物、ゴム系粘着剤組成物等が挙げられる。これらの中でも、耐久性とコストのバランスが優れる点で、アクリル系粘着剤組成物が好ましい。
【0016】
前記アクリル系粘着剤組成物は、アクリル系粘着性ポリマー(B)を含有することが好ましい。さらに、前記アクリル系粘着剤組成物は、特定のガラス転移温度と数平均分子量とを有するビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含有することが好ましい。前記アクリル系粘着剤組成物がビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含有する場合、ビニル重合体(A)を粘着剤層の表層へ偏析させることにより、粘着剤層の表層部分のガラス転移温度を制御することが好ましい。
【0017】
粘着剤層におけるビニル重合体(A)の偏析により、粘着剤層のX線光電子分光分析により得られるその表層部分の組成から計算されるTgを、粘着剤層全体のTgよりも30℃以上高くすることが好ましい。これにより、粘着剤層の接着特性を制御して良好な接着強度を得ることができる。すなわち、粘着剤の表層で構成される接着界面近傍において相対的に高いTgを備えるため、従来にはない良好な接着性を呈することができる。さらに、高温下であっても粘着剤層のずれや剥がれを抑制でき、良好な耐久性を呈することができる。なお、ビニル重合体(A)の粘着剤層表層への偏析挙動は、特定のビニル重合体(A)とアクリル系粘着性ポリマー(B)とが完全には相溶しない一方、完全に相分離しないことに基づいている。好ましくは、ビニル重合体(A)がアクリル系粘着性ポリマー(B)よりも低極性である。
【0018】
ビニル重合体(A)としては、アクリル系粘着性ポリマー(B)に対して完全には相溶しないビニル重合体を用いることが好ましい。その際、粘着剤組成物におけるビニル重合体(A)の使用量を適宜調整することにより、偏析の程度を調節することができる。ビニル重合体(A)の使用量が少なすぎると、粘着剤層表層への偏析が不十分となり、十分な効果が得られない場合がある。一方、ビニル重合体(A)の使用量が多すぎると、アクリル系粘着性ポリマー(B)と相分離する結果、粘着剤層の透明性や接着性能が低下する傾向がある。その他にも、ビニル重合体(A)のガラス転移温度や架橋剤量等が適宜調整され、それにより粘着剤層の表層部分のガラス転移温度を調節可能となっている。なお、ビニル重合体(A)、アクリル系粘着性ポリマー(B)及びその他の成分については、後述の「5.本粘着剤組成物の好ましい態様」において、詳細に説明する。
【0019】
本発明で使用される粘着剤組成物から形成される粘着剤層の厚さは、粘着剤組成物の種類や使用目的に応じて適宜選定されるものであり、特に限定されない。例えば、層全体の平均値として、2~200μmであり、また、例えば15~100μmであり、また、例えば20~70μmである。
【0020】
2.本薄膜層
本薄膜層は、真空圧空成形により本粘着シートを被着体に接着させる際の被着体との接着面を有する。本薄膜層は、前記の通り、粘着剤層の少なくとも一方の面に配置され、粘着剤層よりも厚みが薄い層であって、融点、軟化点若しくはTgが70℃以上の薄膜層(以下、「薄膜層1」ともいう。)であるか、又は、粘着剤層の表層部分を構成し、粘着剤層のX線光電子分光分析により得られるその表層部分の組成から計算されるTgが70℃以上の薄膜層(以下、「薄膜層2」ともいう。)である。薄膜層の厚さは、使用目的に応じて適宜選定されるものであり、特に限定されない。薄膜層の厚さは、薄膜層全体の平均値として、例えば、0.001~50μmであり、また、例えば0.005~20μmであり、また、例えば0.01~15μmであり、また、例えば0.01~10μmである。
【0021】
ここで、本薄膜層を有する真空圧空成形用粘着シートは、本薄膜層が室温等の低温条件下では無~微タック性であるため、取り扱いが容易である。また、本粘着シート、及び本粘着シートを有する加飾フィルムは、薄膜層の接着性が発現しない温度(以下、「第1の温度」ともいう。)で予備賦形した後、薄膜層の接着性が発現する温度(以下、「第2の温度」ともいう。)で加熱及び加圧して被着体に接着する場合に、特に有効であるという特徴を有している。前記の予備賦形を行う場合は、予備賦形から接着までを同一の真空圧空成形機内で行っても良いし、予備賦形を真空圧空成形機とは異なる装置で行った後、真空圧空成形機へ投入し、加熱及び加圧による接着を行っても良い。真空圧空成形機の例としては、浅野研究所製の熱板式減圧被覆成形機(TFHシリーズ)、布施真空製TOM成形機(NGFシリーズ)、ナビタス製のNATS空気転写機等が挙げられる。これらの中でも、高温スチームで成形体を均一に加熱圧空することができるNATS空気転写機が、ショックライン抑制と高い接着性発現とを奏するため好ましい。また、真空圧空成形機と類似の原理を有する真空成形機や圧空成形機を利用することも可能である。
【0022】
第1の温度は、例えば100℃未満であり、95℃以下であることが好ましい。第1の温度の下限は、例えば20℃以上であり、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。第2の温度は、第1の温度よりの高温側の温度であればよいが、例えば100℃以上であり、110℃以上であることが好ましい。第2の温度の上限は、例えば230℃以下であり、200℃以下であることが好ましい。
【0023】
2-1.薄膜層1
薄膜層1は、融点、軟化点又はTgが70℃以上である。薄膜層1としては、融点、軟化点又はTgが70℃以上の熱可塑性樹脂から形成される薄膜層が挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、テルペン系樹脂、スチレン系等の石油樹脂、エチレン・酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂等やこれらの樹脂を含む接着剤組成物等が挙げられる。これらの中でも、本開示の奏する効果が大きい点で、ポリオレフィン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、及びポリエステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、ポリオレフィン系樹脂が特に好ましい。
【0024】
薄膜層1の作製方法は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂を含む組成物を、グラビアコーター、ナイフコーター、スロットダイコーター等の塗工機や、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の印刷機を用いて基材に塗布する方法が好ましい。これらのうち、生産性の観点から、グラビアコーターを用いる方法がより好ましい。以下、ポリオレフィン系樹脂、ロジンエステル系樹脂及びポリエステル系樹脂について、説明する。
【0025】
<ポリオレフィン系樹脂>
ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、4-メチル-1-ヘキセン、1-オクテン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等の炭素数2~20のα-オレフィン類や、ブタジエン、1,5-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の炭素数2~20の共役又は非共役ジエン類の単独重合体又は共重合体を挙げることができる。また、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/イソプレン共重合体等であっても良い。共重合体を用いる場合は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体を適宜選択することができる。また、これらのポリオレフィンは、二種以上を併用しても良い。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂の好ましい例としては、ポリプロピレン、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/1-ブテン共重合体、プロピレン/エチレン/1-ブテン共重合体、プロピレン/エチレン/1-オクテン共重合体を挙げることができる。プロピレン共重合体を使用する場合のプロピレン含量は、プロピレン共重合体全体を100質量%とした場合、50質量%以上が好ましく、より好ましくは、60質量%以上、さらに好ましくは、75質量%以上である。
【0027】
ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン等の低極性材料に対する接着性が高い点で、変性ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。変性ポリオレフィン系樹脂の種類としては、酸変性ポリオレフィン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、カルボジイミド変性ポリオレフィン系樹脂、ウレア変性ポリオレフィン系樹脂、イミン変性ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。これらの変性は、二種以上の変性を順次施したものであっても良い。二種以上の変性を順次施した変性ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、酸変性塩素化ポリオレフィン系樹脂、アクリル変性塩素化ポリオレフィン系樹脂、ウレタン変性塩素化ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。これらの内では、酸変性ポリオレフィン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、及び酸変性塩素化ポリオレフィン系樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を好適に使用することができ、酸変性ポリオレフィン系樹脂が特に好ましい。
【0028】
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、上記のポリオレフィン系樹脂に対して、好ましくは不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフト共重合させることによりることができる。本変性反応には従来公知の方法を用いることができ、例えば、押出機を用いて溶融したポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその無水物を添加して共重合させる方法、溶媒に溶解したポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその無水物を添加して共重合させる方法、水懸濁液としたポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸又はその無水物を添加して共重合させる方法等を挙げることができる。なお、本変性反応によるポリオレフィン鎖の変性箇所は、分子鎖の片末端又は両末端であっても良く、分子鎖の途中であっても良く、複数個所であっても良い。
【0029】
上記変性反応で使用できる不飽和カルボン酸又はその無水物としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、桂皮酸等の不飽和モノカルボン酸類、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸、グルタコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類、これらの不飽和ジカルボン酸類のハーフエステル又はハーフアミド類、trans-アニコット酸等の不飽和トリカルボン酸類、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、クロロマレイン酸無水物、イタコン酸無水物、3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物等の酸無水物が挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸、マレイン酸及びマレイン酸無水物が好ましく、マレイン酸無水物が特に好ましい。
【0030】
酸変性ポリオレフィン系樹脂中の無水マレイン酸等のグラフト重量は、酸変性ポリオレフィン系樹脂全体を100質量%とした場合、好ましくは、0.1~20質量%、より好ましくは、0.5~10質量%である。グラフト重量がこの範囲内であれば、酸変性ポリオレフィン系樹脂を含む薄膜層1は、粘着剤組成物から形成された粘着剤層やポリプロピレン等の低極性材料の両方に対して高い接着性を発揮することができる。
【0031】
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、前記の不飽和カルボン酸又はその無水物による変性反応の際、その他の変性剤を併用して変性されたものであっても良い。その他の変性剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、官能基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル化合物、シクロヘキシルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が例示される。これらの化合物は、単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。本開示では、耐熱接着性が改良されることから、炭素数8~18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを更に含む変性剤を用いることが好ましく、特に、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル又は(メタ)アクリル酸ステアリルを含むことが好ましい。
【0033】
官能基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、イソシアネート含有(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。上記変性剤として、不飽和カルボン酸又はその無水物と、他の変性剤とを併用することで、変性剤によるグラフト率を向上させたり、接着性を更に向上させたりすることができる。
【0034】
その他の変性剤による変性ポリオレフィン系樹脂のグラフト重量は、酸変性ポリオレフィン系樹脂全体を100質量%とした場合、好ましくは、0.1~20質量%、より好ましくは、0.5~10質量%である。グラフト重量がこの範囲内であれば、マレイン酸無水物等の変性剤によるグラフト率を向上させたり、薄膜層1の高い接着性を発揮することができる。なお、グラフト重量は、フーリエ変換赤外分光法等の公知の方法で求めることができる。
【0035】
変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、3,000~500,000であることが好ましく、25,000~250,000であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂系樹脂の重量平均分子量が3,000以上であれば、耐熱性が良好となり、500,000以下であれば、溶剤への溶解性が向上し、取扱い性に優れる。
【0036】
変性ポリオレフィン系樹脂は、融点又は軟化点が70℃以上のものを用いることが、真空圧空成形の際に加飾フィルムのショックラインの発生を抑制できる観点、及び耐熱性の観点で好ましい。変性ポリオレフィン系樹脂の融点又は軟化点は、80℃以上のものがより好適であり、90℃以上のものがさらに好適である。一方、融点、軟化点が高すぎる場合は、被着体に対する濡れ性が劣ることから、融点又は軟化点は160℃以下のものが好適である。
【0037】
また、酸変性ポリオレフィン系樹脂の代わりに、ポリオレフィン系樹脂の基本骨格中カルボン酸及び/又は酸無水物構造が組み込まれた共重合体を用いても良く、例えば、エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸の三元共重合体等を用いても良い。
【0038】
変性ポリオレフィン系樹脂としては市販品を用いても良い。具体的には、プラスチック表面改質剤、自動車プラスチック基材用プライマー、エレクトロニクス基材用プライマー、建築材用プライマー等に用いられる市販の変性ポリオレフィン系樹脂を使用して薄膜層1を形成することができる。また、変性ポリオレフィン系樹脂を含む接着剤組成物を用いて薄膜層1を形成しても良い。
【0039】
具体的には、酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、三井化学(株)製のアドマーAT1000、HE810、東洋紡(株)製のトーヨータックPMA-L及びPMA-T等が例示される。塩素化ポリオレフィン系樹脂としては、日本製紙(株)製のスーパークロン814HS、390S、及び、東洋紡(株)製のハードレン13-LP、13-LLP等が例示される。酸変性塩素化ポリオレフィン系樹脂としては、日本製紙(株)製のスーパークロン3228S、2319S、東洋紡(株)製のハードレンHM-21P等が例示される。アクリル変性塩素化ポリオレフィン系樹脂としては、日本製紙(株)製のスーパークロン224H、240H等が例示される。エチレン/アクリル酸/無水マレイン酸の三元共重合体としては、アルケマ社製ボンダインシリーズ等が例示される。これらの変性ポリオレフィン系樹脂は、単独でも2種以上を併用しても良い。変性ポリオレフィン系樹脂を含む接着剤組成物としては、東亞合成(株)製のPPET-1303、PPET-1405SG、PPET-1505SG等が例示される。
【0040】
<ロジンエステル系樹脂>
ロジンエステル系樹脂としては、不均化ロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、重合ロジンエステル樹脂等が挙げられる。これらは市販品を用いても良く、不均化ロジンエステル樹脂としては、荒川化学工業(株)製のスーパーエステルA-100、A-115、及び、A-125等が例示される。水添ロジンエステル樹脂としては、荒川化学工業(株)製のパインクリスタルKE-604、KE-140及びKE-311等が例示される。また、重合ロジンエステル樹脂としては、荒川化学工業(株)製のペンセルA、ペンセルC、ペンセルD-125、ペンセルD-135及びペンセルD-160等が例示される。
【0041】
<ポリエステル系樹脂>
ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸単位およびジオール単位を構成単位とする縮合型の重合体または共重合体が挙げられる。
【0042】
ジカルボン酸単位を形成するために使用される原料の例としては、芳香族ジカルボン酸またはそのジアルキルエステルもしくはジアリールエステルが挙げられる。芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン1,4-ジカルボン酸、ナフタレン2,6-ジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸および4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸またはそのジアルキルエステルもしくはジアリールエステルを併用することもできる。脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸およびコハク酸等が挙げられる。
ジオール単位を形成するために使用される原料の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0043】
前記ポリエステル樹脂のうち、ジカルボン酸単位としてテレフタル酸単位および/またはイソフタル酸単位を含み、ジオール単位としてエチレングリコール単位を含む結晶性ホモポリエチレンテレフタレート樹脂および結晶性コポリエステル樹脂が好ましい。また、ジカルボン酸単位としてテレフタル酸単位を含み、ジオール単位としてエチレングリコール単位および1,4-シクロヘキサンジメタノール単位を含む非結晶性コポリエステル樹脂が好ましい。また、その他のポリエステル樹脂として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートおよび生分解性ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらのポリエステル樹脂は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
前記ポリエステル樹脂の製造法としては、ジカルボン酸とジオールを直接反応させる、いわゆる直接重合法、ジカルボン酸のジメチルエステルとジオールとをエステル交換反応させる、いわゆるエステル交換反応法など、任意の方法を採用することができる。
ポリエステル系樹脂としては、市販品を用いても良く、また、ポリエステル系樹脂を含む接着剤組成物を用いてもよい。具体的には、互応化学工業(株)製プラスコートZ-730、東洋紡(株)製のバイロン237、290、296等が例示される。また、ポリエステル樹脂を含む接着剤組成物としては、東亞合成(株)製のアロンメルトPES-320SK、PES-360HVXM30、PES-310S30、等が例示される。
【0045】
薄膜層1を形成する熱可塑性樹脂の融点、軟化点又はTgは70℃以上であることが好ましい。当該熱可塑性樹脂の融点、軟化点又はTgが70℃以上であることにより、真空圧空成形の際に加飾フィルムのショックラインの発生を抑制できる点、及び耐熱性を良好にできる点で好ましい。薄膜層1を形成する熱可塑性樹脂の融点、軟化点又はTgは、80℃以上であることがより好適であり、90℃以上であることがさらに好適である。一方、融点、軟化点又はTgが高すぎる場合は、被着体に対する濡れ性が劣ることがある。このため、当該熱可塑性樹脂の融点、軟化点又はTgは、160℃以下であることが好適である。なお、薄膜層1を形成する熱可塑性樹脂の融点及びTgは、JISK7121に準拠し、DSCにより昇温速度10℃/minで測定した値を採用する。軟化点は、JISK6863に準拠した環球法の値を採用する。ただし、ロジンエステル系樹脂の軟化点は、JISK5902に準拠した環球法の値とする。
【0046】
薄膜層1を形成する熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、3,000~500,000であることが好ましく、25,000~250,000であることがより好ましい。薄膜層1を形成する熱可塑性樹脂の重量平均分子量が3,000以上であれば、耐熱性が良好となり、500,000以下であれば、溶剤への溶解性が向上し、取扱い性に優れる。
薄膜層1の厚さは、粘着剤層よりも薄い層である限り特に限定されない。薄膜層1の厚さは、薄膜層1全体の平均値として、例えば0.01~50μmであり、好ましくは0.1~20μmであり、より好ましくは0.3~15μmである。
【0047】
2-2.薄膜層2
薄膜層2としては、本開示の効果を奏する点で、特定のガラス転移温度と数平均分子量とを有するビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含有するアクリル系粘着剤組成物において、ビニル重合体(A)を粘着剤層の表層へ偏析させることにより得られる、粘着剤層の表層部分であることが特に好ましい。
【0048】
3.本粘着シートの製造方法
本粘着シートは、粘着剤組成物から形成された粘着剤層の少なくとも片面に薄膜層1を有するか、又は、粘着剤組成物からなる粘着剤層の表層部分を構成する薄膜層2を有する。すなわち、粘着剤組成物からなる粘着剤層の片面又は両面の、全面又は一部の面に、上記薄膜層1を有するか、又は、粘着剤組成物からなる粘着剤層の少なくとも一方の表層部分に、薄膜層2を有する。
【0049】
薄膜層1を有する本粘着シートの製造方法としては、例えば、剥離フィルム(以下、「セパレーター」ともいう。)上に成膜した薄膜層1を、粘着剤組成物から形成された粘着剤層の表面に転写することで、前記粘着剤組成物から形成された粘着剤層の表面に、薄膜層1を形成することができる(転写方式)。また、例えば、セパレーター上に成膜した薄膜層1の上に、粘着剤組成物を重ね塗りすることで前記粘着剤組成物から形成された粘着剤層の表面に、薄膜層1を形成することができる(重ね塗り方式)。これらの製造方法の中では、被着体に対する高い剥離強度が得られる傾向があること、及び、剥離フィルムの使用枚数を削減できることから、重ね塗り方式がより好ましい。なお、薄膜層1を有する本粘着シートの製造方法としては、薄膜層2を有する本粘着シートを作成した後、薄膜層2の上に、薄膜層1を形成しても良い。
【0050】
一方、薄膜層2を有する本粘着シートの製造方法としては、セパレーター上に、特定のガラス転移温度と数平均分子量とを有するビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含有するアクリル系粘着剤組成物を塗布、成膜することで、ビニル重合体(A)を粘着剤層の表層部分へ偏析させることにより得られる。この場合、前記表層部分が本開示の薄膜層として機能する。
【0051】
上記のように製造した本粘着シートの薄膜層側を、被着体に対して加熱圧着することで、積層体を形成することができる。本粘着シートが、粘着剤組成物から形成された粘着剤層の片面に薄膜層を有する場合、又は、粘着剤層の片側の表層部分が薄膜層により構成されている場合、粘着剤層側には、加飾フィルム等を積層することもできる。また、本粘着シートが、粘着剤組成物から形成された粘着剤層の両面に薄膜層を有する場合、又は、粘着剤層の両側の表層部分が薄膜層により構成されている場合、被着体で当該本粘着シートを挟むように積層することもできる。セパレーター上に薄膜層を形成することにより、セパレーター上に薄膜層が隣接して配置されたセパレーター付き粘着シートを得ることができる。
【0052】
4.加飾フィルム及び加飾成形体
4-1.加飾フィルム
本粘着シートは、加飾フィルムの粘着剤層を構成することができる。本粘着シートを備える加飾フィルム(以後、「本加飾フィルム」ともいう。)は、高温条件下において高い接着性を示すとともに、基材へ貼着後の加飾フィルムのショックラインを抑制できる。
【0053】
本加飾フィルムは、上述した粘着剤層に加え、加飾層、基材層を備えることができる。係る構成を有する加飾フィルムは、成形体に貼合して加飾成形体を得る場合(ラミネート方式)に好適に用いることができる。
【0054】
基材層は、加飾フィルムが成形体へと加飾された後は、後述する加飾成形体の最外層に位置し、加飾成形体の保護層としての機能を果たすものである。基材層を構成する材料は、柔軟性を有する材料であればよく、プラスチックが好ましい。より好ましくは、熱可塑性プラスチックである。熱可塑性プラスチックとしては、特に制限されるものではないが、塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂及びポリエチレン樹脂等が挙げられる。これらのうち、基材層に用いる材料としては、PVC樹脂、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びABS樹脂が好ましい。
【0055】
基材層の厚さは、好ましくは25μm~500μm、より好ましくは50μm~400μm、さらに好ましくは100~300μmである。基材層の厚さが上記範囲内であれば、加飾成形体を真空圧空成形法により製造する際に、加工成形性、形状追従性及び取扱い性が良好となる。
【0056】
加飾層は、加飾フィルムの意匠性を付与するために設けられる層であり、テキスト、図形、模様及び商標等の図柄を印刷等により形成したものである。加飾層に形成される図柄は、印刷インクによるグラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写シートからの転写印刷、昇華転写印刷、及びインクジェット印刷等公知の印刷法により形成することができる。
【0057】
加飾層の厚さは、好ましくは1~40μm、より好ましくは1~30μmである。加飾層の厚さが、上記範囲内であると、グラデーション等の複雑な意匠を表現するために十分な厚さを確保できる。本加飾フィルムの意匠性を向上させる目的で、加飾フィルム表面に凹凸模様を付与してもよい。凹凸模様は、凹凸模様が施されたエンボスローラーを通すことで転写することができる。
【0058】
本加飾フィルムの耐候性、耐薬品性、耐汚染性、摩耗性、電気絶縁性等を向上させる目的で、加飾フィルムは最表面に保護層を備えることもできる。保護層は、前記性能を有する高分子材料等をコーティングしてもよいし、前記性能を有するフィルムを積層してもよい。保護層は前記基材層であってもよい。
【0059】
本加飾フィルムは、剥離層をさらに備えることもできる。剥離層は、意図しない接着を防止するものであり、加飾フィルムを成形体に接着する際には剥離される。剥離層を構成する材料は特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルム;グラシン紙、クラフト紙、クレーコート紙などの紙といった材料を用いることができる。これらの厚みは、10~400μm程度とすることができる。
【0060】
上記の他、本加飾フィルムは、離型層を備えた剥離フィルムの当該離型層上に、ハードコート層(保護層)、加飾層及び粘着剤層を備えた構成とすることもできる。係る構成を有する加飾フィルムは、転写フィルムとして好適に用いることができ、ハードコート層から粘着剤層までを成形体に転写すること(転写方式)により加飾成形体を得ることができる。上記ラミネート方式の場合、加飾成形後、余ったフィルムをトリミングにより除去する必要があるが、転写方式ではトリミング処理が不要であるため、生産効率の点で有利である。
【0061】
上記ハードコート層は、転写される前の状態ではタックフリーの状態であり、成形体に転写した後には、活性エネルギー線を照射すること等により硬化及び/又は架橋反応を行うことができる材料から構成されることが好ましい。ハードコート層を構成する材料としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有するポリマー若しくはオリゴマー、活性エネルギー線硬化性組成物に活性エネルギー線を適量照射して半硬化状態としたもの、又は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物にイソシアネート化合物及びポリオール樹脂等を配合して適度に架橋したもの等が挙げられる。ハードコート層の厚みは特に制限されるものではないが、1~50μm程度とすることができ、好ましくは2~40μm程度である。
【0062】
4-2.加飾成形体
本開示によれば、本加飾フィルムを備える加飾成形体(以下、「本加飾成形体」ともいう。)が提供される。本加飾成形体は、本開示の真空圧空成形用粘着シートを有する加飾フィルムを備えるため、高温条件下において高い接着性を示すとともに、基材へ貼着後の加飾フィルムのショックラインを抑制できる。
【0063】
加飾フィルムが接着される成形体は、特に限定されるものではなく、加飾フィルムを接着することが可能な物品等であればよく、例えば、樹脂製品、金属製品、セラミックス製品、ガラス製品等が挙げられる。具体的には、例えば、生活家電、キッチン家電、健康家電、季節家電等の各種家電製品;トイレ、浴室、扉、壁等の住宅設備;バンパー、ダッシュボード、ドア、ルーフ、ボンネット等の自動車内装品及び自動車外装品;生活雑貨、日用雑貨等の各種雑貨品;電子部品、介護・医療用品、船舶の内外装品、航空機の内外装品等が挙げられる。
【0064】
上記の通り、本加飾成形体の製造には、真空圧空成形法を用いることができる。真空圧空成形法では、減圧下で加熱して軟化させた加飾フィルムを減圧下で被着体と接触させ、続いて被着体と反対側の空間を加圧することにより、本加飾フィルムを成形体の表面形状に沿って成形しつつ接着する。
【0065】
5.本粘着剤組成物の好ましい態様
前記した通り、本粘着剤組成物は、アクリル系粘着性ポリマー(B)を含有することが好ましく、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含有することがより好ましい。以下、ビニル重合体(A)、アクリル系粘着性ポリマー(B)及び本粘着剤層の好ましい態様等について説明する。
【0066】
5-1.ビニル重合体(A)
本明細書に開示するビニル重合体(A)は、30℃以上200℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する重合体であることが好ましい。Tgの下限は、40℃以上であってもよく、50℃以上であってもよく、60℃以上であってもよく、70℃以上であってもよい。Tgの上限は、180℃以下であってもよく、150℃以下であってもよく、120℃以下であってもよく、110℃以下であってもよい。また、Tgの範囲は、これらの上限及び下限を適宜組み合わせることができるが、例えば40℃以上180℃以下であり、60℃以上150℃以下であることが好ましい。本明細書において、ビニル重合体(A)のTgは、示差走査熱量測定(DSC)により昇温速度10℃/minで測定した値をTgとして採用する。Tgが30℃未満であると、粘着剤層の表層部分のTgが十分に高くなりにくく、各種被着体への接着強度が十分でなく耐久性に劣る場合がある。また、原料単量体の制約等から、一般にTgは200℃以下である。
【0067】
ビニル重合体(A)を構成する単量体としては、ラジカル重合性を有する種々のビニル系不飽和化合物を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸系化合物、芳香族ビニル化合物、不飽和カルボン酸、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、アルコキシル基含有不飽和化合物、シアノ基含有不飽和化合物、ニトリル基含有不飽和化合物、マレイミド系化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
これらの中でも、アクリル系粘着性ポリマーに対して適切な相溶性を得られることから、(メタ)アクリル酸系化合物を主体とすることが好ましい。ビニル重合体(A)の全単量体組成物における、(メタ)アクリル酸系化合物の具体的な使用量は、例えば10質量%以上100質量%以下の範囲であり、30質量%以上95質量%以下の範囲であってもよく、50質量%以上90質量%以下の範囲であってもよい。使用量の下限は、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよい。また、使用量の上限は、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。
【0069】
(メタ)アクリル酸系化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸n-オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の脂肪族環系ビニル単量体;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香族環系ビニル重合体が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
これらの中でも、比較的Tgを高く設定することができ、本粘着シートの浮きや剥がれを抑制する効果が高く、オレフィン系重合体の被着体への接着性が良好となる点から、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル及び(メタ)アクリル酸アダマンチル等の脂肪族環系ビニル単量体を用いることが好ましい。脂肪族環系ビニル単量体の具体的な使用量は、ビニル重合体(A)の全構成単量体に対して1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。脂肪族環系ビニル単量体の使用量の上限は、ビニル重合体(A)の全構成単量体に対して90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。脂肪族環系ビニル単量体の使用量の範囲は、ビニル重合体(A)の全構成単量体に対して1質量%以上90質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以上80質量%以下がより好ましく、10質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。
【0071】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ビニル重合体(A)を構成する単量体として芳香族ビニル化合物を使用する場合、芳香族ビニル化合物の具体的な使用量は、ビニル重合体(A)の全構成単量体に対して1質量%以上40質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以上30質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0072】
不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、桂皮酸、さらには、不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル(マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のモノアルキルエステル)等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
不飽和酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリル酸エステルや、p-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシスチレン、p-イソプロペニルフェノール、m-イソプロペニルフェノール、o-イソプロペニルフェノール等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
アミノ基含有不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3-ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3-(ジ-n-プロピルアミノ)プロピル等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
アミド基含有不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
アルコキシル基含有不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-(n-プロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(n-ブトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-(n-プロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(n-ブトキシ)プロピル等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
シアノ基含有不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸1-シアノエチル、(メタ)アクリル酸2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸2-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸4-シアノブチル、(メタ)アクリル酸6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸8-シアノオクチル等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
ニトリル基含有不飽和化合物としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-フルオロアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
マレイミド系化合物としては、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-メチルフェニル)マレイミド、N-(2、6-ジメチルフェニル)マレイミド、N-(2、6-ジエチルフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-ナフチルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
上記化合物以外に、不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステル、ビニルエステル化合物、ビニルエーテル化合物等を用いることもできる。不飽和ジカルボン酸のジアルキルエステルとしては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のジアルキルエステルが挙げられる。ビニルエステル化合物としては、例えば、メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、ギ酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。上記ビニルエーテル化合物としては、例えば、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル-n-ブチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0081】
ビニル重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、500以上10,000以下とすることができる。ビニル重合体(A)のMnは、500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、2,000以上であることがさらに好ましい。ビニル重合体(A)のMnの上限は、10,000以下であることが好ましく、8,000以下であることがより好ましく、7,000以下であることがさらに好ましい。Mnは、500以上7,000以下であってもよく、1,000以上5,000以下であってもよい。Mnが10,000を超えると、アクリル系粘着性ポリマー(B)との相溶性が悪くなる場合がある。一方、Mnが500未満の重合体を製造するには、重合開始剤や連鎖移動剤を多量に用いる必要性や、生産性の低下等が生じる場合がある。
【0082】
また、重量平均分子量(Mw)と上記(Mn)との比(Mw/Mn)は、良好な接着強度が得られやすいという観点から、3.0以下が好ましい。より好ましくは2.5以下であり、さらに好ましくは2.0以下であり、一層好ましくは1.8以下である。なお、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られた標準ポリスチレン換算値である。
【0083】
ビニル重合体(A)は、その製造方法について特段の制約はないが、例えば、溶液重合法等の公知のラジカル重合方法を採用して上記単量体を重合することにより容易に得ることができる。溶液重合法による場合、有機溶剤及びビニル単量体原料を反応器に仕込み、有機過酸化物、アゾ系化合物等の熱重合開始剤を添加して、50~300℃に加熱して共重合することにより目的とするビニル重合体を得ることができる。当該ビニル重合体は、有機溶剤に溶解された溶液として用いてもよいし、加熱減圧処理等により溶剤を留去して用いてもよい。
【0084】
単量体を含む各原料の仕込み方法は、すべての原料を一括して仕込むバッチ式の初期一括仕込みでもよく、少なくとも一つの原料を連続的に反応器中に供給するセミ連続仕込みでもよく、全原料を連続供給し、同時に反応器から連続的に生成樹脂を抜き出す連続重合方式でもよい。
【0085】
溶液重合法に使用する有機溶剤としては、有機炭化水素系化合物が適当であり、テトラヒドロフラン及びジオキサン等の環状エーテル類、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素化合物、酢酸エチル及び酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン類等、オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類が例示され、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの有機溶剤の中では、ビニル系重合体をよく溶解し、精製しやすいように沸点が比較的低い、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトンが好ましい。
【0086】
本明細書で使用する開始剤は、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物等を用いることができるが、特に限定されるものではない。公知の酸化剤及び還元剤からなるレドックス型重合開始剤を用いてもよい。また、公知の連鎖移動剤を併用することもできる。
【0087】
アゾ系化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、アゾクメン、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビスジメチルバレロニトリル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2-(tert-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0088】
有機過酸化物としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、1,3-ビス[(tert-ブチルパーオキシ)-m-イソプロピル]ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ビス(tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
無機過酸化物としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0089】
レドックス型重合開始剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、アスコルビン酸、硫酸第一鉄等を還元剤とし、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、tert-ブチルハイドロパーオキサイド等を酸化剤としたものを用いることができる。
【0090】
ビニル重合体(A)の分子量を調整するため、必要に応じて公知の連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、エタンチオール、ブタンチオール、ドデカンチオール、ベンゼンチオール、トルエンチオール、α-トルエンチオール、フェネチルメルカプタン、メルカプトエタノール、3-メルカプトプロパノール、チオグリセリン、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、α-メルカプトイソ酪酸、メルカプトプロピオン酸メチル、メルカプトプロピオン酸エチル、チオ酢酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、tert-テトラデシルメルカプタン等が挙げられる。
【0091】
また、ビニル重合体(A)は、撹拌槽型反応器を使用し、180~350℃の温度範囲において連続重合することにより得ることもできる。この重合方法では、重合開始剤や連鎖移動剤を実質的に使用することなく比較的低分子量のビニル重合体を得ることができるため純度の高い重合体が得られ、後述する着色や臭気の点でも有利であるため好ましい。重合温度が180℃未満の場合には、重合反応に重合開始剤や多量の連鎖移動剤が必要となり、得られた共重合体は着色しやすく、また好ましくない臭気を発生する。一方、重合温度が350℃を超える場合には、重合反応中に分解反応が起こりやすく、得られる共重合体が着色するため、これを含む粘着剤組成物から得られる粘着剤層の透明性の低下が懸念される。さらに、このような重合方法によれば、分子量の分布範囲の小さいビニル重合体が得られる。なお、重合開始剤は随意に使用してもよいが、全単量体に対して約1質量%以下で使用するのが好ましい。
【0092】
5-2.アクリル系粘着性ポリマー(B)
本明細書に開示するアクリル系粘着性ポリマー(B)は、(メタ)アクリル酸エステル類を主要構成単位として含有する重合体である。アクリル系粘着性ポリマー(B)としては、アクリル系ランダム共重合体及びアクリル系ブロック共重合体が挙げられる。
【0093】
<アクリル系ランダム共重合体について>
アクリル系粘着性ポリマー(B)がランダム共重合体である場合、アクリル系粘着性ポリマー(B)は、ガラス転移温度(Tg)が、例えば-80℃以上10℃以下の範囲にある粘着性を有する重合体である。Tgの下限は、-70℃以上であってもよく、-60℃以上であってもよく、-50℃以上であってもよく、-40℃以上であってもよい。Tgの上限は、0℃以下であってもよく、-10℃以下であってもよく、-20℃以下であってもよく、-30℃以下であってもよい。また、Tgの範囲は、これらの上限及び下限を適宜組み合わせることができるが、例えば、-70℃以上0℃以下の範囲であることが好ましく、また例えば-60℃以上-10℃以下であり、また例えば-50℃以上-20℃以下である。なお、Tgが-80℃以上であれば、十分な凝集力と良好な接着性を有する粘着剤が得られる。また、Tgが10℃以下であれば、良好な段差追随性を備えることができる。アクリル系粘着性ポリマー(B)のTgは、DSCにより昇温速度10℃/minで測定した値である。
【0094】
さらに、アクリル系粘着性ポリマー(B)の重量平均分子量(Mw)は、十分な凝集力と良好な接着性とを発揮する観点から、好ましくは100,000以上である。Mwの下限値は、300,000以上であってもよく、400,000以上であってもよく、500,000以上であってもよい。また、Mwが400,000以上であると耐熱性がより向上する点で好ましい。一方、Mwが大きすぎると、段差追随性が低下する傾向があり、製造上の扱いも困難となる場合がある。したがって、Mwの上限値は、5,000,000以下であることが好ましい。Mwの上限値は3,000,000以下であってもよく、2,000,000以下であってもよく、1,000,000以下であってもよい。
【0095】
アクリル系粘着性ポリマー(B)の数平均分子量(Mn)は、十分な凝集力と良好な接着性とを発揮する観点から、好ましくは30,000以上である。Mnの下限値は、40,000以上であってもよく、50,000以上であってもよく、60,000以上であってもよい。Mnの上限値は、良好な段差追随性を確保するために、3,000,000以下であることが好ましい。Mnの上限値は、1,000,000以下であってもよく、800,000以下であってもよい。
【0096】
また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、良好な接着強度が得られやすいという観点から、例えば6.0以下である。Mw/Mnは5.0以下であってもよく、4.7以下であってもよく、4.5以下であってもよく、4.0以下であってもよく、3.8以下であってもよく、3.6以下であってもよい。なお、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得られた標準ポリスチレン換算値である。
【0097】
アクリル系粘着性ポリマー(B)を構成する単量体としては、良好な粘着性を有するアクリル系共重合体が得られる点で、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び炭素数2~12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等を挙げることができる。アクリル系粘着性ポリマー(B)を構成する単量体としては、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。
【0098】
炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられ、好ましい単量体としては(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル等が挙げられる。
【0099】
炭素数2~12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸ブトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸ブトキシブチル等が挙げられる。
【0100】
炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/又は炭素数2~12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルの使用量は、特に限定するものではないが、良好な粘着性能が得られる傾向がある点で、その下限は、アクリル系共重合体の全構成単量体を基準にして、10質量%以上とすることができ、20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよい。また、その上限は、100質量%以下であり、99質量%であってもよく、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、80%質量%以下であってもよい。使用量の範囲は、これらの上限及び下限を適宜組み合わせることで設定できるが、例えば10質量%以上100質量%以下であり、10質量%以上99質量%以下、20質量%以上95質量%以下、また例えば30質量%以上90質量%以下などとすることができる。10質量%以上であれば、良好な粘着力、初期接着力(タック)及び低温粘着性等を備える粘着剤組成物が得られる点で好ましい。
【0101】
上記の内でも、炭素数1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることができる。こうした(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いることで、アクリル系粘着性ポリマー(B)のTg及び後述する粘着剤層の弾性率を向上させることができ、粘着剤層の耐熱性向上に有利である。好適には、炭素数1~2のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、より好適には、(メタ)アクリル酸メチルである。
【0102】
アクリル系粘着性ポリマー(B)は、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル以外にも、粘着性を損なわない範囲で、これらと共重合可能な他の単量体を使用することができる。
【0103】
その他のビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系ビニル単量体;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の脂肪族環系ビニル単量体;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル等の不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート及びポリエチレン-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル単量体;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、N-メトキシブチルアクリルアミド等のエチレン系不飽和カルボン酸アミド及びN-置換化合物;アリルアルコール等の不飽和アルコール;(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、ダイアセトンアクリルアミド等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を使用することができる。
【0104】
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いた場合、得られる粘着剤組成物は、例えばガラス、金属、ABS板等の被着体に対する接着強度が高くなる観点から好ましい。α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体を用いる場合、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体の使用量は、アクリル系共重合体の全構成単量体を基準にして、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上10質量%以下である。使用量が1質量%以上であれば被着体に対する接着力向上の効果が得られ、20質量%以下であれば、良好な接着性が保持される。α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体は1種又は2種以上を使用してよい。重合性の観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸である。
【0105】
その他にも、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基等の重合性官能基を分子内に2つ以上有する多官能重合性単量体を用いてもよい。多官能重合性単量体は、いわゆる架橋剤としても作用し、これを使用することにより本粘着性ポリマーに架橋構造を形成することができる。
【0106】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性体のトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのトリ(メタ)アクリレート、テトラ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0107】
多官能アルケニル化合物としては、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース等の多官能アリルエーテル化合物;ジアリルフタレート等の多官能アリル化合物;メチレンビスアクリルアミド、ヒドロキシエチレンビスアクリルアミド等のビスアミド類;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物等を挙げることができる。
【0108】
(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等を挙げることができる。
【0109】
アクリル系粘着性ポリマー(B)もまた、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知のラジカル重合法により得ることができる。また、アクリル系粘着性ポリマー(B)としては、市販品を用いても良い。当該市販品としては、綜研化学社製のSKダイン2950、2953、及び、2943H、あるいは、日本合成化学社製のコーポニール8711、N-2411TF等を例示することができる。
【0110】
この他、アクリル系粘着性ポリマー(B)は、アクリル系粘着性ポリマーシロップからも得ることができる。この場合、アクリル系粘着性ポリマーシロップは、アクリル系粘着性ポリマー(B)の一部であるポリマー成分と、アクリル系粘着性ポリマー(B)の残余を構成する(メタ)アクリル系モノマーとを含有することができる。アクリル系粘着性ポリマーシロップに熱又は活性エネルギー線等のエネルギーを加え、当該シロップに含まれるモノマー成分を重合することにより、アクリル系粘着性ポリマー(B)が得られる。
【0111】
<アクリル系ブロック共重合体について>
アクリル系粘着性ポリマー(B)がアクリル系ブロック共重合体(以下、「本ブロック共重合体」という)である場合、本ブロック共重合体は、重合体ブロック(a)及び(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)を各々1つ以上有していることが好ましい。本ブロック共重合体は、例えば、重合体ブロック(a)及び(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)からなる(ab)ジブロック体、重合体ブロック(a)/(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)/重合体ブロック(a)からなる(aba)トリブロック体、又は(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)/重合体ブロック(a)/(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)からなる(bab)トリブロック体等が挙げられる。また、重合体ブロック(a)及び(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)以外の重合体ブロック(c)を含む、(abc)又は(abca)等の構造を有するものであってもよい。中でも、本ブロック共重合体は、a-(ba)n(nは1以上の整数)構造を有することが好ましい。かかる構造であると、重合体ブロック(a)が擬似架橋構造を形成し、粘着物性の観点から好適である。尚、上記a-(ba)n構造は共重合体の全部又は一部に存在すればよく、例えば(babab)構造からなる共重合体などであってもよい。
ここで、本ブロック共重合体のガラス転移点については、示差走査熱量測定を行うことにより、各重合体ブロックに対応する変曲点が得られ、これらから各重合体ブロックのTgを求めることができる。本開示において、本ブロック共重合体のTgは、主成分である重合体ブロック(より具体的には、アクリル系重合体ブロック(b))のTgを意味する。
【0112】
(重合体ブロック(a))
本ブロック共重合体の重合体ブロック(a)は、マレイミド化合物及びアミド基含有ビニル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の単量体に由来する構成単位を有するブロックとすることができる。
【0113】
マレイミド化合物には、マレイミド及びN-置換マレイミド化合物が含まれる。N-置換マレイミド化合物としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-イソブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-ペンチルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-ヘプチルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-ステアリルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物;N-シクロペンチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキル置換マレイミド化合物;N-フェニルマレイミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)マレイミド、N-(4-アセチルフェニル)マレイミド、N-(4-メトキシフェニル)マレイミド、N-(4-エトキシフェニル)マレイミド、N-(4-クロロフェニル)マレイミド、N-(4-ブロモフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド等のN-アリール又はN-アラルキル置換マレイミド化合物等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。マレイミド化合物を含む単量体を重合することにより、重合体ブロック(a)にマレイミド化合物に由来する構成単位を導入することができる。重合体ブロック(a)においては、上記の内でも、得られるブロック共重合体の耐熱性及び接着性がより優れるものとなる点で、以下の一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
(式中、Rは水素、炭素数1~3のアルキル基又はPhRを表す。ただし、Phはフェニル基を表し、Rは水素、ヒドロキシ基、炭素数1~2のアルコキシ基、アセチル基又はハロゲンを表す。)
【0114】
アミド基含有ビニル化合物としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルイソブチルアミド等のN-ビニルアミド系単量体などが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。アミド基含有ビニル化合物を含む単量体を重合することにより、重合体ブロック(a)にアミド基含有ビニル化合物に由来する構成単位を導入することができる。
【0115】
重合体ブロック(a)において、マレイミド化合物及びアミド基含有ビニル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構成単位は、重合体ブロック(a)の全構成単位に対して、10質量%以上100質量%以下とすることができる。かかる構成単位は、例えば15質量%以上であり、また例えば20質量%以上であり、また例えば30質量%以上であり、また例えば40質量%以上であり、また例えば50質量%以上であり、また例えば60質量%以上である。マレイミド化合物及びアミド基含有ビニル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構成単位は、例えば99質量%以下であり、また例えば90質量%以下であり、また例えば80質量%以下であり、また例えば75質量%以下であり、また例えば70質量%以下である。マレイミド化合物及びアミド基含有ビニル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種に由来する構造単位が10質量%未満の場合、得られるブロック共重合体の耐熱性、耐久性及び耐剥がれ性が十分でないときがある。
【0116】
重合体ブロック(a)は、さらに芳香族系ビニル単量体に由来する構成単位を有するブロックとすることができる。芳香族系ビニル単量体には、スチレン及びその誘導体が含まれる。具体的な化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-イソブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。芳香族系ビニル単量体を含む単量体を重合することにより、重合体ブロック(a)に芳香族系ビニル単量体に由来する構造単位を導入することができる。
【0117】
上記の内でも、重合性の観点から、重合体ブロック(a)を構成する芳香族系ビニル単量体は、スチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレンが好ましい。また、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルナフタレンは、重合体ブロック(a)のガラス転移点(Tg)を高めることができ、耐熱性に優れるブロックを得ることができる点において好ましい。
【0118】
重合体ブロック(a)において、芳香族系ビニル単量体に由来する構成単位は、重合体ブロック(a)の全構成単位に対して、1質量%以上70質量%以下とすることができる。かかる構成単位は、例えば5質量%以上であり、また例えば10質量%以上であり、また例えば20質量%以上である。芳香族系ビニル単量体に由来する構造単位は、例えば60質量%以下であり、また例えば50質量%以下であり、また例えば40質量%以下である。芳香族系ビニル単量体に由来する構造単位が1質量%以上であれば、特にマレイミド化合物の重合性を向上することができる。一方、70質量%以下であれば、マレイミド化合物及び/又はアミド基含有ビニル化合物由来の構成単位の必要量を確保することが可能となるため、耐熱性、耐久性及び耐剥がれ性に優れるブロック共重合体を得ることができる。
【0119】
また、重合体ブロック(a)は、架橋性官能基を有するビニル系単量体に由来する構成単位(以下、「架橋性構成単位」ともいう)を含むブロックであってもよい。架橋性構成単位は、例えば、ヒドロキシ基等の官能基を有するマレイミド化合物及び/又はアミド基含有ビニル化合物を用いて導入してもよいし、架橋性官能基を有するビニル化合物を共重合することによって導入してもよい。
【0120】
架橋性官能基を有するビニル系単量体は、特に限定しないで、公知の各種単量体化合物を用いることができる。架橋性官能基を有するビニル系単量体としては、例えば、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体、不飽和酸無水物単量体、水酸基含有ビニル単量体、エポキシ基含有ビニル単量体、1級又は2級アミノ基含有ビニル単量体、及び反応性ケイ素基含有ビニル単量体等が挙げられる。重合体ブロック(a)の製造において、架橋性官能基を有するビニル系単量体としては、公知の化合物から1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0121】
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。不飽和酸無水物単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。水酸基含有ビニル単量体としては、アクリル系粘着性ポリマー(B)のその他の単量体として例示した水酸基含有ビニル単量体が挙げられる。
【0122】
エポキシ基含有ビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0123】
1級又は2級アミノ基含有ビニル単量体としては、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、N-メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-エチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル;アミノエチル(メタ)アクリルアミド、アミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0124】
反応性ケイ素基含有ビニル単量体としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランン等のビニルシラン類;(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルメトキシシリルプロピル等のシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル等のシリル基含有ビニルエーテル類;トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等のシリル基含有ビニルエステル類等を挙げることができる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2以上の架橋性官能基数を容易に導入できることから、反応性ケイ素基含有ビニル単量体は好適である。また、かかるビニル単量体は、反応性ケイ素基同士が脱水縮合(重合)することができる。このため、ブロック共重合体を製造する重合反応及びその後の上記架橋反応を効率的に行うことができる点において好適である。
【0125】
上記の外にも、オキサゾリン基含有ビニル単量体及び/又はイソシアネート基含有ビニル単量体を共重合することにより、架橋性官能基としてオキサゾリン基及び/又はイソシアネート基を重合体ブロック(a)に導入することができる。
【0126】
さらに、分子内に2個以上の重合性不飽和基を有する多官能重合性単量体を共重合することにより、重合体ブロック(a)に架橋性官能基として重合性不飽和基を導入し得る。上記多官能重合性単量体としては、(メタ)アクリロイル基、アルケニル基等の重合性官能基を分子内に2つ以上有する化合物であり、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物等が挙げられる。例えば、ヘキサンジオールジアクリレートなどのアルキレンジオールジアクリレートの他、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等の分子内に(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0127】
重合体ブロック(a)が架橋性構成単位を有する場合、例えば、重合体ブロック(a)の全構成単位に対して架橋性構成単位を0.01質量%以上備えることができる。また、架橋性構成単位の含有量は、例えば0.1質量%以上であり、また例えば1.0質量%以上であり、また例えば2.0質量%以上である。架橋性構成単位を0.01質量%以上備えることで、良好な架橋構造を得られ易くなり、高い耐熱性及び耐久性を備えるブロック共重合体を得易くなる。なお、架橋性構成単位の含有量の上限は特に限定するものではないが、架橋反応の制御性の観点から、例えば60質量%以下であり、また例えば40質量%以下であり、また例えば20質量%以下であり、また例えば10質量%以下である。架橋性構成単位の含有量の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができるが、例えば、1質量%以上60質量%以下、また例えば5質量%以上50質量%以下、10質量%以上40質量%以下などとすることができる。
【0128】
重合体ブロック(a)は、本ブロック共重合体の作用を損なわない範囲で、これらの単量体と共重合可能な他の単量体に由来する構成単位を備えることもできる。当該他の単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸の脂肪族環系ビニル単量体などを含むことができる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル及び脂肪族環系ビニル単量体の具体例としては、アクリル系粘着性ポリマー(B)の製造で用いることができる(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、脂肪族環系ビニル単量体を挙げることができる。
【0129】
上記以外の他の単量体としては、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
重合体ブロック(a)において、上記の他の単量体に由来する構成単位が占める割合は、例えば、重合体ブロック(a)の全構成単位に対して0質量%以上50質量%以下の範囲とすることができる。また、上記の他の単量体に由来する構成単位が占める割合は、例えば5質量%以上であり、また例えば10質量%以上である。また、上記の他の単量体に由来する構成単位が占める割合は、例えば45質量%以下であり、また例えば40質量%以下である。
【0130】
(ガラス転移温度)
重合体ブロック(a)のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上であることが好ましい。重合体ブロック(a)のTgは、本ブロック共重合体の耐熱性に寄与することができる。したがって、Tgが100℃以上であると、良好な耐熱性を本ブロック共重合体に付与することができる点で好ましい。また、重合体ブロック(a)のTgは、例えば120℃以上であり、また例えば140℃以上であり、また例えば160℃以上であり、また例えば180℃以上であり、また例えば190℃以上であり、また例えば200℃以上である。また、Tgは、使用可能な構成単量体単位の制限から350℃以下であることが好ましい。また、Tgは、例えば280℃以下であり、また例えば270℃以下であり、また例えば260℃以下である。
【0131】
なお、本明細書において、重合体ブロック(a)及び(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)のほかブロック共重合体のガラス転移点は、後述する実施例において記載するとおり、示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。また、DSCが不可能であるときには、重合体ブロックを構成する単量体単位から計算により求めることができる。
【0132】
(相分離性)
重合体ブロック(a)は、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)と相分離する性質を有することが好ましい。かかる性質を有することで、ミクロ相分離構造を形成することができる。本願出願時の技術常識に基づいて当業者であれば容易に、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)と相分離するブロックを設計することができる。例えば、公知の溶解パラメータの算出方法、例えば、以下に示すFedors法により計算した重合体ブロック(a)のSP値が、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)のSP値と比較したときの差分が0.01(絶対値)以上などとすることができる。また、当該差分は、例えば0.05以上、また例えば0.1以上、また例えば0.2以上であってもよい。さらに例えば0.5以上であってもよい。また例えば、意図する重合体ブロック(a)と(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)のポリマーブレンドを調製して、これらを混合して得られる構造を電子顕微鏡、原子間力顕微鏡又は小角X線散乱等で観察することにより、ブロック間の相分離性を容易に推測することができる。
【0133】
SP値は、R.F.Fedorsにより著された「Polymer Engineering and Science」14(2),147(1974)に記載の計算方法によって、算出することができる。具体的には、式(2)に示す計算方法による。
【数1】
(ただし、数式(2)中、δ、ΔEvap及びVは以下のとおりである。
δ :SP値((cal/cm1/2
ΔEvap :各原子団のモル蒸発熱(cal/mol)
V :各原子団のモル体積(cm/mol))
【0134】
((メタ)アクリル系重合体ブロック(b))
本ブロック共重合体の(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)は、(メタ)アクリル系単量体に由来する構成単位を有する重合体ブロックであり、下記の一般式(3)で表される化合物から選択される少なくとも一種を構成単位とするブロックとすることができる。一般式(3)で表される化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル及びポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
CH=CR-C(=O)O-(RO)-R (3)
(式(3)中、Rは水素又はメチル基を表し、Rは炭素数2~6の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、Rは水素、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を表す。nは0又は1~100の整数を表す。)
【0135】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、アクリル系粘着性ポリマー(B)の製造に用いることができる(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルを挙げることができる。
【0136】
ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、上記一般式(3)における(RO)は1種類のみであってもよいし、2種類以上の構造単位を含んでもよい。(RO)を2種類以上有する場合、nは各構造単位の繰返し単位数の総和を表す。nは1~100であってもよく、1~50であってもよく、1~30であってもよい。具体的な化合物としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリテトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。上記の化合物は市販品としても入手可能であり、例えばメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートとしては、「ブレンマーPMEシリーズ」(n=2、4、9、23、90等、ブレンマーは登録商標)が挙げられる。その他にも、アミド基、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物を用いることもできる。
【0137】
(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)は、上記のうちでも、柔軟性に優れたブロック共重合体が得られる点で、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構成単位を有することが好ましい。また、粘着性能の観点を加味した場合、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)は、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数2~3のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構成単位を含むものであることがより好ましい。
【0138】
(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)においては、一般式(3)で表される化合物に由来する構成単位を、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)の全構成単位に対して、20質量%以上100質量%以下とすることができる。かかる構成単位は、例えば50質量%以上100質量%以下であり、また例えば80質量%以上100質量%以下であり、また例えば90質量%以上100質量%以下である。上記構成単位が上記範囲にある場合は、粘着物性の点で良好なブロック共重合体が得られる傾向にある。また、上記構成単位が50質量%以上の場合、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)は、一般式(3)で表される化合物から選択される少なくとも一種を主な構成単量体とするブロックとなる。
【0139】
また、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)は、架橋性構成単位を含むブロックとすることができる。架橋性構成単位は、例えば、架橋性官能基を有するビニル化合物を共重合することによって導入することができる。
【0140】
(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)が架橋性構成単位を有する場合、例えば、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)の全構成単位に対して架橋性構成単位を0.01質量%以上備えるものとすることができる。また、架橋性構成単位の含有量は、例えば0.1質量%以上であり、また例えば0.5質量%以上である。架橋性構成単位の導入量を0.01質量%以上とすることで、耐熱性に優れるブロック共重合体を得易くなる。なお、架橋性構成単位の含有量の上限は特に限定するものではないが、柔軟性の観点から、例えば20質量%以下であり、また例えば10質量%以下であり、また例えば8質量%以下である。架橋性構成単位の範囲は、既述の下限及び上限を適宜組み合わせることができるが、例えば、0.01質量%以上20質量%以下、また例えば0.1質量%以上10質量%以下、0.5質量%以上8質量%以下などとすることができる。
【0141】
本開示により奏される効果を妨げない限りにおいて、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)は、上記(メタ)アクリル系単量体以外の単量体を構成単量体単位として使用することができる。(メタ)アクリル系単量体以外の単量体としては、(メタ)アクリロイル基以外の不飽和基を有する単量体を用いることができる。その具体例としては、アルキルビニルエステル、アルキルビニルエーテル及びスチレン類等の脂肪族又は芳香族ビニル化合物などが挙げられる。
【0142】
(ガラス転移温度)
(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度(Tg)は、10℃以下であることが好ましい。(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)のTgは、本ブロック共重合体の粘着性に寄与することができる。したがって、Tgが10℃以下であると、より良好な粘着性を本ブロック共重合体に付与することができる。また、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)のTgは、例えば0℃以下であり、また例えば-5℃以下であり、また例えば-10℃以下であり、また例えば-20℃以下であり、また例えば-25℃以下であり、また例えば-30℃以下である。(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)のTgの下限は、例えば-80℃以上である。
【0143】
(相分離性)
既述のとおり、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)は、重合体ブロック(a)と相分離する性質を有することが好ましく、重合体ブロック(a)のSP値との所定の差分を有することが好適である。
【0144】
本ブロック共重合体は、重合体ブロック(a)及び(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)を有するブロック共重合体を得る限りにおいて特段の制限を受けるものではなく、公知の製造方法を採用することができる。例えば、リビングラジカル重合及びリビングアニオン重合等の各種制御重合法を利用する方法や、官能基を有する重合体同士をカップリングする方法等を挙げることができる。これらの中でも、操作が簡便であり、広い範囲の単量体に対して適用することができる観点から、リビングラジカル重合法が好ましい。
【0145】
リビングラジカル重合法の種類についても特段の制限はなく、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(RAFT法)、ニトロキシラジカル法(NMP法)、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、有機テルル化合物を用いる重合法(TERP法)、有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP法)、有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP法)及びヨウ素移動重合法等の各種重合方法を採用することができる。これらの内でも、重合の制御性と実施の簡便さの観点から、RAFT法、NMP法及びATRP法が好ましい。
【0146】
RAFT法では、特定の重合制御剤(RAFT剤)及び一般的なフリーラジカル重合開始剤の存在下、可逆的な連鎖移動反応を介して制御された重合が進行する。RAFT剤としては、ジチオエステル化合物、ザンテート化合物、トリチオカーボネート化合物及びジチオカーバメート化合物等、公知の各種RAFT剤を使用することができる。RAFT剤は活性点を1箇所のみ有する一官能のものを用いてもよいし、二官能以上のものを用いてもよい。上記a-(ba)n型構造のブロック共重合体を効率的に得やすい点では、二官能型のRAFT剤を用いることが好ましい。また、RAFT剤の使用量は、用いる単量体及びRAFT剤の種類等により適宜調整される。
【0147】
RAFT法による重合の際に用いる重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物及び過硫酸塩等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができるが、取り扱い易く、ラジカル重合時の副反応が起こりにくい点からアゾ系化合物が好ましい。アゾ系化合物の具体例としては、前記したものが挙げられる。上記ラジカル重合開始剤は1種類のみ使用しても又は2種以上を併用してもよい。
【0148】
ラジカル重合開始剤の使用割合は特に制限されないが、分子量分布がより小さい重合体を得る点から、RAFT剤1質量部に対するラジカル重合開始剤の使用量を0.5質量部以下とすることが好ましく、0.3質量部以下とすることがより好ましい。また、重合反応を安定的に行う観点から、RAFT剤1質量部に対するラジカル重合開始剤の使用量の下限は、0.01質量部以上とすることが好ましい。したがって、RAFT剤1質量部に対するラジカル重合開始剤の使用量は、0.01~0.5質量部の範囲が好ましく、0.05~0.3質量部の範囲がより好ましい。
【0149】
RAFT法による重合反応の際の反応温度は、好ましくは40℃以上100℃以下であり、より好ましくは45℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上80℃以下である。反応温度が40℃以上であれば、重合反応を円滑に進めることができる。一方、反応温度が100℃以下であれば、副反応が抑制できるとともに、使用できる開始剤や溶剤に関する制限が緩和される。
【0150】
NMP法では、ニトロキシドを有する特定のアルコキシアミン化合物等をリビングラジカル重合開始剤として用い、これに由来するニトロキシドラジカルを介して重合が進行する。本発明で使用されるブロック共重合体の製造においては、用いるニトロキシドラジカルの種類に特に制限はなく、商業的に入手可能のニトロキシド系重合開始剤を用いることができる。また、アクリレートを含む単量体を重合する際の重合制御性の観点から、ニトロキシド化合物として一般式(4)で表される化合物を用いることが好ましい。
【化2】
(式(4)中、Rは炭素数1~2のアルキル基又は水素原子であり、Rは炭素数1~2のアルキル基又はニトリル基であり、Rは-(CH)m-、mは0~2であり、R、R10は炭素数1~4のアルキル基である。)
【0151】
上記一般式(4)で表されるニトロキシド化合物は、70~80℃程度の加熱により一次解離し、ビニル系単量体と付加反応を起こす。この際、2以上のビニル基を有するビニル系単量体にニトロキシド化合物を付加することにより多官能性の重合前駆体を得ることが可能である。次いで、上記重合前駆体を加熱下で二次解離することにより、ビニル系単量体をリビング重合することができる。この場合、重合前駆体は分子内に2以上の活性点を有するため、より分子量分布の狭い重合体を得ることができる。上記a-(ba)n型構造のブロック共重合体を効率的に得やすい観点から、分子内に活性点を2つ有する二官能型の重合前駆体を用いることが好ましい。また、ニトロキシド化合物の使用量は、用いる単量体及びニトロキシド化合物の種類等により適宜調整される。
【0152】
本ブロック共重合体をNMP法により製造する場合、上記一般式(4)で表されるニトロキシド化合物1molに対し、下記一般式(5)で表されるニトロキシドラジカルを0.001~0.2molの範囲で添加して重合を行ってもよい。
【化3】
(式(5)中、R11、R12は炭素数1~4のアルキル基である。)
【0153】
上記一般式(5)で表されるニトロキシドラジカルを0.001mol以上添加することにより、ニトロキシドラジカルの濃度が定常状態に達する時間が短縮される。これにより、重合をより高度に制御することが可能となり、より分子量分布の狭い重合体を得ることができる。一方、上記ニトロキシドラジカルの添加量が多すぎると重合が進行しない場合がある。上記ニトロキシド化合物1molに対する上記ニトロキシドラジカルのより好ましい添加量は0.01~0.5molの範囲であり、さらに好ましい添加量は0.05~0.2molの範囲である。
【0154】
NMP法における反応温度は、好ましくは50℃以上140℃以下であり、より好ましくは60℃以上130℃以下であり、さらに好ましくは70℃以上120℃以下であり、特に好ましくは80℃以上120℃以下である。反応温度が50℃以上であれば、重合反応を円滑に進めることができる。一方、反応温度が140℃以下であれば、ラジカル連鎖移動等の副反応が抑制される傾向がある。
【0155】
ATRP法では、一般に有機ハロゲン化物を開始剤とし、触媒に遷移金属錯体を用いて重合反応が行われる。開始剤である有機ハロゲン化物は、一官能性のものを用いてもよいし、二官能以上のものを用いてもよい。上記a-(ba)n型構造のブロック共重合体を効率的に得やすい点では、二官能性の化合物を用いることが好ましい。また、ハロゲンの種類としては臭化物及び塩化物が好ましい。ATRP法における反応温度は、好ましくは20℃以上200℃以下であり、より好ましくは50℃以上150℃以下である。反応温度20℃以上であれば、重合反応を円滑に進めることができる。
【0156】
リビングラジカル重合法により、重合体ブロック(a)-(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)-重合体ブロック(a)からなる、(aba)トリブロック共重合体等のa-(ba)n型構造体を得る場合、例えば、各ブロックを順次重合することにより目的とするブロック共重合体を得てもよい。この場合、まず、第一重合工程として、重合体ブロック(a)の構成単量体を用いて重合体ブロック(a)を得る。次いで、第二重合工程として、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)の構成単量体を用いて(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)を得る。さらに、第三重合工程として、重合体ブロック(a)の構成単量体を用いて重合することにより(aba)トリブロック共重合体を得ることができる。この場合、重合開始剤は、上記した一官能性の重合開始剤又は重合前駆体を用いることが好ましい。上記の第二重合工程及び第三重合工程を繰り返すことにより、ペンタブロック共重合体等のより高次のブロック共重合体を得ることができる。
【0157】
また、以下に示す二段階の重合工程を含む方法により製造した場合は、より効率的に目的物が得られることから好ましい。すなわち、第一重合工程として、(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)の構成単量体を用いて(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)を得た後、第二重合工程として、重合体ブロック(a)の構成単量体を重合して重合体ブロック(a)を得る。これにより、重合体ブロック(a)-(メタ)アクリル系重合体ブロック(b)-重合体ブロック(a)からなる、(aba)トリブロック共重合体を得ることができる。この場合、重合開始剤は、二官能性の重合開始剤又は重合前駆体を用いることが好ましい。この方法によれば、各ブロックを順次重合して製造する場合に比較して工程を簡略化することができる。また、上記の第一重合工程及び第二重合工程を繰り返すことにより、テトラブロック共重合体等のより高次のブロック共重合体を得ることができる。
【0158】
本発明で使用するブロック共重合体の重合は、その重合方法によらず、必要に応じて連鎖移動剤の存在下で実施しても良い。連鎖移動剤は公知のものを使用することができ、具体的には、エタンチオール、1-プロパンチオール、2-プロパンチオール、1-ブタンチオール、2-ブタンチオール、1-ヘキサンチオール、2-ヘキサンチオール、2-メチルヘプタン-2-チオール、2-ブチルブタン-1-チオール、1,1-ジメチル-1-ペンタンチオール、1-オクタンチオール、2-オクタンチオール、1-デカンチオール、3-デカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-ドデカンチオール、2-ドデカンチオール、1-トリデカンチオール、1-テトラデカンチオール、3-メチル-3-ウンデカンチオール、5-エチル-5-デカンチオール、tert-テトラデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、1-ヘプタデカンチオール及び1-オクタデカンチオール等の炭素数2~20のアルキル基を有するアルキルチオール化合物の他、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトエタノール等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を用いることができる。
【0159】
本開示で使用するブロック共重合体の製造においては、リビングラジカル重合において公知の重合溶媒を用いることができる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アルコール、水等が挙げられる。また、重合溶媒を使用せず、塊状重合等の態様で行ってもよい。
【0160】
5-3.本粘着剤層の好ましい態様
本粘着シートの薄膜層が薄膜層1である場合、本粘着剤組成物は、アクリル系粘着性ポリマー(B)を含有しているとよく、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含有していることがより好ましい。本粘着シートの薄膜層が薄膜層2である場合、本粘着剤組成物は、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含有しているとよい。本粘着剤組成物がビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含有する場合、ビニル重合体(A)は、アクリル系粘着性ポリマー(B)に対して適度な相溶性を有することが好ましい。この場合、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含む粘着剤組成物から得られる粘着剤層は、良好な透明性を示すと共に、粘着剤層中においてビニル重合体(A)が一部偏析し、その表層におけるビニル重合体(A)の濃度が他の部分よりも高くなる場合がある。
【0161】
このように、粘着剤層の表層におけるビニル重合体(A)の濃度が他より高くなる構成を取った場合、接着界面近傍の粘着剤層は比較的高いTgを有するため、高温条件下でも良好な接着性を発揮することができる。さらに、粘着剤層全体としてはTgが低く十分に柔軟であるため、加飾フィルムに適用した場合には、例えばフィルム基材が熱膨張収縮した場合であってもこれに追従し、応力を好適に緩和することができる。これにより、真空圧空成形により本加飾フィルムを被着体に接着した場合に、加飾フィルムのショックラインの発生の抑制効果を高くできる。本粘着剤組成物におけるビニル重合体(A)のこうした偏析挙動のほか、後述する粘着剤層の表層と粘着剤層全体のTgの差は、アクリル系粘着性ポリマー(B)に対するビニル重合体(A)の配合比、ビニル重合体(A)の単量体組成(極性)や分子量のほか、Tg、Mw/Mn等を適宜設定することにより調整することができる。
【0162】
本粘着剤組成物がビニル重合体(A)を含有する場合、本粘着剤組成物は、ビニル重合体(A)を、固形分換算で、アクリル系粘着性ポリマー(B)100質量部に対して0.5質量部以上60質量部以下含有することが好ましい。好ましい含有量の下限は1質量部以上であり、より好ましくは3質量部以上であり、さらに好ましくは4質量部以上である。また、好ましい含有量の上限は50質量部以下であり、より好ましくは40質量部以下であり、さらに好ましくは30質量部以下である。また、好ましい含有量の範囲は1質量部以上40質量部以下であり、より好ましくは3質量部以上30質量部以下である。ビニル重合体(A)の使用量が0.5質量部未満の場合、粘着剤層におけるビニル重合体(A)の偏析が不十分であり、特に高温接着性において満足する結果が得られないことがある。一方、60質量部を超えると、ビニル重合体(A)が過度に偏析する結果、段差追随性、及びタックを含む接着性が不十分となる場合がある。また、アクリル系粘着性ポリマー(B)と相分離し、粘着剤層の透明性が低下する場合がある。
【0163】
〔本粘着剤組成物より形成される粘着剤層全体のTg(第1のTg)〕
本粘着剤組成物より形成される粘着剤層(以下、「本粘着剤層」ともいう。)全体のガラス転移温度(Tg)、すなわち、第1のTgは、-80℃以上20℃以下の範囲とすることができる。Tgの下限は、-70℃以上であってもよく、-60℃以上であってもよく、-50℃以上であってもよく、-40℃以上であってもよい。また、第1のTgの上限は、15℃以下であってもよく、10℃以下であってもよく、0℃以下であってもよく、-10℃以下であってもよく、-20℃以下であってもよい。また、第1のTgの範囲は、これらの上限及び下限を適宜組み合わせることができるが、例えば、-70℃以上30℃以下の範囲であり、また例えば-60℃以上20℃以下であり、また例えば-50℃以上-10℃以下である。第1のTgが-80℃未満の場合は、得られる粘着剤層の凝集力が不十分となり、曲面接着性等が悪化する傾向がある。第1のTgが20℃を超える場合は、段差追随性及び低温条件下での粘着力等が十分でない場合がある。なお、本粘着剤層全体のTgは、DSCにて、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気を測定雰囲気として得ることができる。
【0164】
〔粘着剤層の表層部分の組成から計算されるTg(第2のTg)〕
本粘着シートの薄膜層が薄膜層2である場合、第2のTg、すなわち、本粘着剤組成物をセパレーターに塗工後、乾燥又は活性エネルギー線の照射により粘着剤層を得た際に、当該粘着剤層のX線光電子分光分析により得られるその表層部分の組成から計算されるTgは、70℃以上である。具体的には、第2のTgは、X線光電子分光測定(XPS)から得られるビニル重合体(A)とアクリル系粘着性ポリマー(B)との組成比率から、計算によって求められ、粘着剤層の表面から該20nm程度の深さまでの表層を形成する組成物のTgとして捉えることができる。すなわち、XPSでは、粘着剤層の表面にX線を照射することにより発生する光電子を検出し、その運動エネルギーから組成情報を得ることができ、検出深さは一般に数nmである。したがって、XPSにより粘着剤層の表面から数nm程度の表層部分に関する組成情報を得ることができ、これを薄膜層2のTgとして捉えることができる。測定方法の詳細は、後述する実施例に記載の操作に従うことができる。
【0165】
本粘着シートの薄膜層が薄膜層2である場合、第2のTgが70℃以上であることで、常温では粘着性を発現せず、予備賦形する際に取り扱い性を良好にすることができるとともに、真空圧空成形に適用した場合にショックラインの発生を抑制することができる。また、第2のTgが70℃以上であることで、第1のTgと第2のTgとの差を十分に大きくし易くなり、この結果、曲面接着性とともに被着体の高温接着性及び耐久性を確保できる。第2のTgは、より好ましくは75℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上であり、なお好ましくは85℃以上である。なお、第2のTgは、ビニル重合体(A)のTgや配合比等によって適宜調節することができる。第2のTgの上限は、特に制限されないが、例えば180℃以下である。
【0166】
本粘着シートの薄膜層が薄膜層1である場合、第2のTgは、特に限定されないが、0℃以上であることが好ましい。第2のTgは、より好ましくは10℃以上であり、さらに好ましくは30℃以上であり、なお好ましくは40℃以上であり、一層好ましくは50℃以上であり、より一層好ましくは60℃以上である。
【0167】
〔粘着剤層全体のTg(第1のTg)と粘着剤層の表層部分の組成から計算されるTg(第2のTg)の差〕
本粘着剤組成物は、第2のTg(粘着剤層の表層部分の組成から計算されるTg)が、第1のTg(粘着剤層全体のTg)よりも30℃以上高いものとなることが好ましい。こうしたTg組成を有する粘着剤層によれば、従来の一般的な粘着剤による粘着剤層が高温になればなるほど接着性が低下するのに対し、高温での高い接着性(被着体に対する剥離強度)や高い曲面接着性を発揮することができる。さらに、第2のTgが第1のTgよりも30℃以上高いものである場合、本粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備えた加飾フィルムは、曲面や凹凸部等の複雑な形状に追従し、良好な接着性を示す。また、例えば、高温条件下におけるフィルム基材の収縮が生じた場合等であっても、これに伴うずれ、剥がれ又は浮き等の外観不良を抑制し、優れた耐久性が発揮される。
【0168】
第2のTgは、第1のTgよりも、好ましくは40℃以上高く、より好ましくは50℃以上高く、さらに好ましくは60℃以上高く、なお好ましくは65℃以上高く、70℃以上高いことが一層好ましい。第1のTgに対する第2のTgの高さの上限は特に制限されるものではないが、第1のTg及び第2のTgが取り得る値から280℃が限度であり、一般的に200℃以下である。
【0169】
〔粘着剤層の表層部分におけるビニル重合体(A)とアクリル系粘着性ポリマー(B)の総質量に対するビニル重合体(A)の質量分率(A/A+B)〕
第2のTgの測定に際しては、本粘着剤層の表層のX線光電子分光分析よる組成分析を行うが、その際に、表層におけるビニル重合体(A)の質量分率を求めることができる。この質量分率を、本粘着剤層の表層部分におけるビニル重合体(A)の偏析状態の指標とすることができる。
【0170】
例えば、粘着剤層の表層部分におけるビニル重合体(A)の質量分率は、55%以上95%以下であることが好ましい。この範囲であると、ビニル重合体(A)の表層部分への偏析が生じており、高温高湿下においても曲面接着性と耐久性を得ることができる。ビニル重合体(A)の質量分率は、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上であり、なお好ましくは70%以上であり、一層好ましくは75%以上であり、より一層好ましくは80%以上である。また、質量分率は、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。
【0171】
〔透明性(ヘイズ値)〕
本粘着剤組成物から得られる粘着剤層の透明性を評価する指標として、ヘイズ値を用いることができる。本粘着剤組成物から得られる粘着剤層は良好な透明性を示す。また、粘着剤組成物がビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)を含む態様において、ビニル重合体(A)がアクリル系粘着性ポリマー(B)に対して適度な相溶性を有する場合、これらを含む粘着剤層は、良好な透明性を示す。
【0172】
ヘイズ値は、例えば、以下の方法で評価することができる。すなわち、本粘着シートに貼り付けられた一方のセパレーターを剥がし、本粘着シートをガラスプレートに転写し、他方のセパレーターを剥がした後、23℃、50%RH条件下で1日静置し、ヘイズメーターを使用してヘイズ値を測定する。このヘイズ値が低いほど透明性が良好であると評価することができる。好ましいヘイズ値は2.0以下である。ヘイズ値が2.0以下であると、一定の好ましい透明性があるといえる。より好ましいヘイズ値は1.6以下であり、さらに好ましくは1.4以下であり、一層好ましくは1.0以下である。
【0173】
5-4.その他の成分
本粘着剤組成物の好ましい態様は、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)以外にも、必要に応じて、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、難燃剤、防かび剤、シランカップリング剤、充填剤、着色剤等の添加剤を含有した組成物とすることもできる。
【0174】
〔架橋剤〕
本粘着剤組成物は、架橋剤を含有することができる。架橋剤は、必ずしも必要ではないが、意図する接着特性のほか、本粘着剤組成物の形態、例えば、エマルジョン形態であるか溶液形態であるか等にも応じて、その添加が検討される。架橋剤を含有することで、本粘着剤組成物から得られる粘着剤層の凝集力や接着力を調整し、さらに、高温高湿下での接着性や曲面への接着性を付与したりすることができる。架橋剤としては、エポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物、イソシアネート基を2つ以上有するイソシアネート化合物、アジリジニル基を2つ以上有するアジリジン化合物、オキサゾリン基を有するオキサゾリン化合物、金属キレート化合物、ブチル化メラミン化合物等が挙げられる。これらのうち、アジリジン化合物、エポキシ化合物及びイソシアネート化合物を用いることが好ましい。
【0175】
アジリジン化合物としては、例えば、1,6-ビス(1-アジリジニルカルボニルアミノ)ヘキサン、1,1’-(メチレン-ジ-p-フェニレン)ビス-3,3-アジリジル尿素、1,1’-(ヘキサメチレン)ビス-3,3-アジリジル尿素、エチレンビス-(2-アジリジニルプロピオネート)、トリス(1-アジリジニル)ホスフィンオキサイド、2,4,6-トリアジリジニル-1,3,5-トリアジン、トリメチロールプロパン-トリス-(2-アジリジニルプロピオネート)等が挙げられる。
【0176】
エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAエピクロルヒドリン型のエポキシ系樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、テトラグリシジルキシレンジアミン、N,N ,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等の多官能グリシジル化合物が挙げられる。
【0177】
イソシアネート化合物としては、好ましくは、イソシアネート基を2つ以上有する化合物が用いられる。上記イソシアネート化合物としては、芳香族系、脂肪族系、脂環族系の各種イソシアネート化合物、さらには、これらのイソシアネート化合物の変性物(プレポリマー等)を用いることができる。
【0178】
芳香族イソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、粗製ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、p-フェニレンジイソシアネート(PPDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)等が挙げられる。脂肪族イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リシンジイソシアネート(LDI)、リシントリイソシアネート(LTI)等が挙げられる。脂環族イソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)、水添化XDI(H6XDI)、水添化MDI(H12MDI)等が挙げられる。また、変性イソシアネートとしては、上記イソシアネート化合物のウレタン変性体、2量体、3量体、カルボジイミド変性体、アロファネート変性体、ビューレット変性体、ウレア変性体、イソシアヌレート変性体、オキサゾリドン変性体、イソシアネート基末端プレポリマー等が挙げられる。
【0179】
架橋剤の含有量は、アクリル系粘着性ポリマー(B)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下とすることができる。より好ましい下限は0.03質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上である。また、より好ましい上限は5質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。また、より好ましい範囲は0.03質量部以上5量部以下、さらに好ましい範囲は0.05質量部以上2質量部以下である。
【0180】
〔粘着付与剤〕
粘着付与剤としては、ロジンエステル、ガムロジン、トール油ロジン、水添ロジンエステル、マレイン化ロジン、不均化ロジンエステル等のロジン誘導体;テルペンフェノール樹脂、α-ピネン、β-ピネン、リモネン等を主体とするテルペン系樹脂;(水添)石油樹脂;クマロン-インデン系樹脂;水素化芳香族コポリマー;スチレン系樹脂;フェノール系樹脂;キシレン系樹脂;(メタ)アクリル系重合体等が挙げられる。
【0181】
〔可塑剤〕
可塑剤としては、ジn-ブチルフタレート、ジn-オクチルフタレート、ビス(2-エチルヘキシル)フタレート、ジn-デシルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類;ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジn-オクチルアジペート等のアジピン酸エステル類;ビス(2-エチルヘキシル)セバケート、ジn-ブチルセバケート等のセバシン酸エステル類;ビス(2-エチルヘキシル)アゼレート等のアゼライン酸エステル類;塩素化パラフィン等のパラフィン類;ポリプロピレングリコール等のグリコール類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ変性植物油類;トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル類;トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル類;アジピン酸と1,3-ブチレングリコールとのエステル化物等のエステルオリゴマー類;低分子量ポリブテン、低分子量ポリイソブチレン、低分子量ポリイソプレン等の低分子量重合体;プロセスオイル、ナフテン系オイル等のオイル類等が挙げられる。
【0182】
〔酸化防止剤〕
酸化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-S-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、トコフェロール類等のフェノール系酸化防止剤;ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ステアリル3,3’-チオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジトリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールジフォスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0183】
〔紫外線吸収剤〕
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルフェニルサリシレート、p-オクチルフェニルサリシレート等のサリチル酸系紫外線吸収剤;2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、ビス(2-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ベンゾイルフェニル)メタン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2,2-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、[2,2’-チオビス(4-tert-オクチルフェノラート)]-n-ブチルアミンニッケル、ニッケルコンプレックス-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル-リン酸モノエチレート、ニッケル-ジブチルジチオカルバメート等のニッケル系紫外線安定剤等が挙げられる。
【0184】
〔老化防止剤〕
老化防止剤としては、ポリ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン、1-(N-フェニルアミノ)-ナフタレン、スチレン化ジフェニルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、モノ(α-メチルベンジル)フェノール、ジ(α-メチルベンジル)フェノール、トリ(α-メチルベンジル)フェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-tert-アミルハイドロキノン、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジステアリル等が挙げられる。
【0185】
〔難燃剤〕
難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ヘキサブロモベンゼン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、デカブロモジフェニルオキサイド、含ハロゲンポリフォスフェート等のハロゲン系難燃剤;リン酸アンモニウム、トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリス(β-クロロエチル)ホスフェート、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、酸性リン酸エステル、含窒素リン化合物等のリン系難燃剤;赤燐、酸化スズ、三酸化アンチモン、水酸化ジルコニウム、メタホウ酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤;ポリ(ジメトキシシロキサン)、ポリ(ジエトキシシロキサン)、ポリ(ジフェノキシシロキサン)、ポリ(メトキシフェノキシシロキサン)、メチルシリケート、エチルシリケート、フェニルシリケートのようなシロキサン系難燃剤等が挙げられる。
【0186】
〔防かび剤〕
防かび剤としては、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、トリハロアリル、トリアゾール、有機窒素硫黄化合物等が挙げられる。
〔シランカップリング剤〕
シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
〔充填剤〕
充填剤としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、マイカ、タルク等の無機粉末充填剤;ガラス繊維、有機補強用繊維等の繊維状充填剤等が挙げられる。
【0187】
5-5.本粘着剤組成物の形態
本粘着剤組成物は、その形態に特段の制約はない。例えば、酢酸エチル等の有機溶剤に溶解した溶剤型粘着剤組成物の形態として用いてもよいし、水媒体中にアクリル系粘着性ポリマー及び粘着付与剤が分散したエマルション型粘着剤組成物の形態として用いてもよい。溶液型粘着剤組成物及びエマルション型粘着剤組成物の場合、用いられる有機溶剤又は水等の媒体は、粘着剤組成物の総量100質量部の内、通常20~95質量部である。
【0188】
エマルション型粘着剤として用いる場合には、安定剤が配合されてなるものとすることができる。この安定剤としては、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ジブチルスズジラウリン酸鉛、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト等の塩化ビニル用安定剤;ジ-n-オクチルスズビス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)塩、ジ-n-オクチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジ-n-オクチルスズジラウリン酸塩、ジ-n-オクチルスズマレイン酸エステル塩、ジ-n-ブチルスズビスマレイン酸エステル塩、ジ-n-ブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジ-n-ブチルスズビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジ-n-ブチルスズβ-メルカプトプロピオン酸塩ポリマー、ジ-n-ブチルスズジラウレート、ジ-n-メチルスズビス(イソオクチルメルカプトアセテート)塩、ポリ(チオビス-n-ブチルスズサルファイド)、モノオクチルスズトリス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)、ジブチルスズマレエート、ジ-n-ブチルスズマレートエステル・カルボキシレート、及びジ-n-ブチルスズマレートエステル・メルカプチド等の有機スズ系安定剤;三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、ケイ酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ステアリン酸鉛等の鉛系安定剤;カドミウム系石けん、亜鉛系石けん、バリウム系石けん、鉛系石けん、複合型金属石けん、ステアリン酸カルシウム等の金属石けん系安定剤等が挙げられる。
【0189】
その他にも、本粘着剤組成物は、上記ビニル重合体(A)及び上記アクリル系粘着性ポリマー(B)以外に、単官能及び/又は多官能の(メタ)アクリル酸系単量体、並びに光重合開始剤等を含む組成物とすることにより、紫外線等の活性エネルギー線により硬化するいわゆるシロップ型の光硬化型粘着剤組成物の形態として用いてもよい。
【0190】
光硬化型粘着剤組成物の場合、当該組成物中は有機溶剤等を含んでも良いが、一般的には溶剤類を含まない無溶剤型として用いられる。
【0191】
単官能(メタ)アクリル酸系単量体としては、炭素数1~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の環状構造を有する(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類;(メタ)アクリル酸等が挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0192】
多官能(メタ)アクリル酸系単量体としては、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート類;トリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びそのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド変性物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。この他にも、ポリウレタン(メタ)アクリレート及びポリイソプレン系(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基を有する重合体(マクロモノマー)を使用することもできる。ポリイソプレン系(メタ)アクリレートの具体的な化合物としては、例えば、イソプレン重合物の無水マレイン酸付加物と2-ヒドロキシエチルメタクリレートとのエステル化物等が該当する。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0193】
光重合開始剤としては、ベンゾインとそのアルキルエーテル類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、キサントン類、アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類等が挙げられる。また、活性エネルギー線による感度を向上させるため、光増感剤を併用することもできる。光増感剤としては、安息香酸系及びアミン系光増感剤等が挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。光開始剤及び光増感剤の使用量は、単官能及び/又は多官能の(メタ)アクリル酸系単量体100質量部に対して0.01~10質量部が好ましい。
【0194】
さらに、本粘着剤組成物は、上記にて説明した光硬化型粘着剤組成物以外にも上記ビニル重合体(A)、単官能及び/又は多官能の(メタ)アクリル酸系単量体、並びに光重合開始剤を含む組成物による光硬化型接着剤組成物としても使用することができる。当該光硬化型接着剤組成物には、必要に応じて上記アクリル系粘着性ポリマー(B)を混合することができる。
【実施例
【0195】
以下、本明細書の開示を具現化した具体例を示す。但し、本明細書の開示は、以下の具体例に限定されるものではない。なお、以下の記載において「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
【0196】
本明細書における各種分析は、以下に記載の方法により実施した。
<固形分>
測定サンプル約1gを秤量(a)し、次いで、通風乾燥機155℃、30分間乾燥後の残分を測定(b)し、以下の式より算出した。測定には秤量ビンを使用した。その他の操作については、JIS K 0067-1992(化学製品の減量及び残分試験方法)に準拠した。
固形分(%)=(b/a)×100
【0197】
<分子量測定>
分子量はGPCにて下記の条件で測定した。
GPC:東ソー(HLC-8120)
カラム:東ソー(TSKgel-Super MP-M×4本)
試料濃度:0.1%
流量:0.6ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計(RI)
標準物質:ポリスチレン
【0198】
<ガラス転移温度(Tg)及び融点>
ポリオレフィン系樹脂、ビニル重合体(A)、アクリル系粘着性ポリマー(B)、及び粘着剤組成物から形成された粘着剤層全体のTg及び融点は、JISK7121に準拠し、DSCにて以下の条件で測定した。
DSC:TA Instrument製(Q-100)
昇温温度:10℃/分
測定雰囲気:窒素
<軟化点>
ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂の軟化点は、JISK6863に準拠して、環球法にて測定した。薄膜層がロジンエステル系樹脂の場合は、JIS5902に準拠して、環球法にて測定した。
【0199】
<ポリマー組成>
ポリマー組成はモノマー仕込量とガスクロマトグラフィー(GC)測定によるモノマー消費量から算出した。
GC:Agilent Technolosies製(7820A GC System)
検出器:FID
カラム:100%ジメチルシロキサン(CP-Sil 5CB) 長さ30m、内径0.32mm
算出方法:内部標準法
【0200】
1.ビニル重合体(A)の合成
〔合成例1:重合体A-1の合成〕
内容積1リットルの4つ口フラスコに、酢酸ブチル(200質量部)とジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(和光純薬工業(株)製、商品名「V-601」)(0.9質量部)とからなる混合液を仕込み、この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を90℃に上昇した。別途、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」という)(165質量部)、メタクリル酸イソボルニル(以下、「IBXMA」という)(44質量部)、V-601(17質量部)、酢酸ブチル(90質量部)からなる混合液を滴下ロートからフラスコ内に5時間かけて滴下することにより重合を行った。滴下終了後、重合溶液をメタノール(4800質量部)、蒸留水(1200質量部)からなる混合溶液に滴下することにより、重合溶液中のビニル重合体を単離して、重合体A-1を得た。得られた重合体A-1のポリマー組成は、仕込量とGC測定によるモノマー消費量から計算した結果、MMA80質量%及びIBXMA20質量%であった。重合体A-1のMwは6,700、Mnは4,370、Mw/Mnは1.53、Tgは108℃であった。
【0201】
2.アクリル系粘着性ポリマー(B)の合成
〔合成例2:重合体B-1の合成〕
内容積3リットルの4つ口フラスコに、アクリル酸メトキシエチル(以下、「MEA」という)(413質量部)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(以下、「HEA」という)(27質量部)、アクリル酸n-ブチル(以下、「BA」という)(90質量部)、酢酸エチル(980質量部)を仕込み、この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇し、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、商品名「V-65」)(0.25質量部)を仕込み、5時間重合した。酢酸エチルを固形分濃度が30%となるように追加して、重合体B-1の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体B-1のポリマー組成は、MEA78質量%、HEA5質量%、BA17質量部%であった。重合体B-1のMwは572,000、Mnは160,000、Mw/Mnは3.58、Tgは-35℃であった。
【0202】
〔合成例3:重合体B-2の合成〕
内容積3リットルの4つ口フラスコに、アクリル酸(以下、「AA」という)(30質量部)、BA(210質量部)、アクリル酸メチル(以下、「MA」という)(360質量部)、酢酸エチル(1000質量部)を仕込み、この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を75℃に上昇し、V-65(0.30質量部)を仕込み、5時間重合した。酢酸エチルを固形分濃度が30%となるように追加して、重合体B-2の酢酸エチル溶液を得た。得られた重合体B-2のポリマー組成は、AA5質量%、BA35質量%及びMA60質量部%であった。重合体B-2のMwは529,000、Mnは142,000、Mw/Mnは3.73、Tgは6℃であった。
【0203】
〔合成例4:重合体B-3の合成〕
内容積1Lの4つ口フラスコに、RAFT剤としてジベンジルトリチオカーボネート(3.18質量部)、単量体としてスチレン(75質量部、以下「St」という)、及び、N-フェニルマレイミド(125質量部、以下「PhMI」という)、溶媒としてアセトニトリル(466質量部)を仕込み、窒素バブリングにより十分脱気し、混合液の内温を70℃に上昇した。次いで、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(0.51質量部、以下「ABN-E」という)を仕込み、重合を開始した。3時間後、室温まで冷却して反応を停止した。上記重合溶液を、メタノールから再沈殿精製、真空乾燥することで重合体ブロック(a)を得た。得られた重合体ブロック(a)は、Mn10,900であった。Tgは206℃であった。
内容積1Lの4つ口フラスコに、得られた重合体ブロック(a)(21.1質量部)、単量体としてMEA(234質量部)、BA(51質量部)、及びHEA(15質量部)、溶媒としてアセトニトリル(107質量部)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、混合液の内温を70℃に上昇した。次いで、重合開始剤としてABN-E(0.08質量部)を仕込み、重合を開始した。6時間後、室温まで冷却し、アセトニトリルを追加することで固形分濃度が30%になるように調整し、粘着剤溶液を得た。得られた(a)-(b)-(a)ブロック共重合体(これを「重合体B-3」とする)は、PhMI3質量%、St2質量%、MEA74質量%、BA16質量%、HEA5質量%からなり、Mwは358,000、Mnは16,0000、Mw/Mnは2.24、Tgは-35℃であった。重合体B-3の組成及び分析結果を表1に示す。
【0204】
【表1】
【0205】
3.粘着シートの製造及び評価
実施例1
(1)薄膜層1の塗工
酸変性ポリオレフィン系樹脂C-1(東洋紡(株)製トーヨータックPMA-T)をトルエンに溶解し、固形分濃度5質量%の溶液を調製した。この溶液を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)製セパレーター上に、乾燥後の厚みが数μmとなるようにドクターブレードを用いて塗布した。塗膜の乾燥は80℃、1分間で行った。
【0206】
(2)粘着剤組成物の調製及び塗工
上記合成例2で得られた重合体B-1を含む溶液(固形分濃度30%)に、架橋剤としてタケネートD-110N(三井化学(株)製イソシアネート系架橋剤、固形分濃度75質量%)(0.16質量部)を混合し、粘着剤組成物1を得た。
【0207】
(3)粘着シートの製造
前記(1)で作製した薄膜付きPET製セパレーター上に、粘着剤組成物1を、乾燥後の粘着剤層の厚みが50μmとなるようにドクターブレードを用いて塗布した。塗膜の乾燥は80℃、4分間で行った。その後、前記セパレーターとは剥離力の異なる厚さ38μmのPET製セパレーターを貼りあわせて、40℃で5日間静置して熟成(エージング)することにより、両面セパレーター付き粘着シートを得た。なお、実施例10、11及び比較例5、6では、厚さ50μmのPET製セパレーター上に粘着剤組成物を直接塗布した。
【0208】
(4)粘着シートの各種測定及び評価
前記(3)で得られた粘着シートについて、次に示す方法により各種測定及び評価を行った。なお、「粘着剤層の表層部分のTg」の測定については、実施例9~11、比較例4で行った。得られた結果を表2、3に示す。
【0209】
<アクリル系粘着性ポリマー(B)に対するゲル分率>
粘着シートから粘着剤を0.2g採取し、粘着剤の初期重量を秤量した。その粘着剤を50gの酢酸エチルに浸漬し、室温で16時間静置した。その後、200メッシュ金網でろ過し、メッシュに残った残分を80℃で3時間乾燥し、秤量した。初期の質量と残分の質量から、下記式によりアクリル系粘着性ポリマー(B)に対するゲル分率を算出した。
ゲル分率(%)={(残分の質量)/[(初期の質量)×(アクリル系粘着性ポリマー(B)の固形分)/(粘着剤組成物全体の固形分)]}×100
【0210】
<透明性(ヘイズ値)>
粘着シートから剥離フィルムを剥がし、ガラスプレート(1mm厚)に転写し、もう一方の剥離フィルムを剥がした。23℃、50%RH条件下で1日静置した後、日本電色(株)製ヘイズメーター「ヘイズメーターNDH2000」(型式名)を使用してヘイズ値(%)を測定することにより、その配合組成における透明性を評価した。
【0211】
<粘着剤層の表層部分のTg>
粘着シートのX線光電子分光装置(XPS)測定によるO1sとC1sのピーク面積比から、粘着剤層の表層部分を形成する組成物のTgとして捉えることができる。粘着剤層の表層部分におけるビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)の総量に対する、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)の各質量分率(w及びw)を算出し、FOXの式に基づき表層部分のTgを算出した。
なお、XPS測定は以下の条件で測定した。
装置: アルバック・ファイ社製 PHI5000 VersaProbe
X線: Al-Kα (1486.6eV)
試料へのX線入射角: 0° (試料測定面の法線に対する角度)
光電子検出角: 45° (試料測定面の法線に対する角度)
【0212】
上記質量分率の具体的な算出方法について以下に記載する。
XPS測定によるO1sとC1sのピーク面積比から算出される酸素原子数と炭素原子数の比は、下記式(1)の通り、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)からなる粘着剤組成物から形成された粘着剤層表層部の単位重量当りに存在する酸素原子数と炭素原子数の比で表される。
【数2】
ここで、
(O/C)A+B:粘着剤組成物を乾燥して得られた粘着剤層のXPS測定から求められるO1sとC1sのピーク面積比から算出される酸素原子数と炭素原子数の比
:ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)の総量に対するビニル重合体(A)の質量分率
w-A:ビニル重合体(A)の全構成単量体単位の加重平均分子量
w-B:アクリル系粘着剤組成物(B)の全構成単量体単位の加重平均分子量
O-A:ビニル重合体(A)を構成する全構成単量体の平均単量体構造式中に含まれる酸素原子数
O-B:アクリル系粘着性ポリマー(B)を構成する全構成単量体の平均単量体構造式中に含まれる酸素原子数
C-A:ビニル重合体(A)を構成する全構成単量体の平均単量体構造式中に含まれる炭素原子数
C-B:アクリル系粘着性ポリマー(B)を構成する全構成単量体の平均単量体構造式中に含まれる炭素原子数
【0213】
また、ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)の各単体を乾燥して得られたフィルムのXPS測定により求められるO1sとC1sのピーク面積比から算出される炭素原子数と酸素原子数の比は、各々下記式(2)及び(3)で表される。
【数3】
ここで、
(O/C):ビニル重合体(A)を乾燥して得られたフィルムのXPS測定から求められるO1sとC1sのピーク面積比から算出される酸素原子数と炭素原子数の比
【数4】
ここで、
(O/C):アクリル系粘着性ポリマー(B)を乾燥して得られたフィルムのXPS測定から求められるO1sとC1sのピーク面積比から算出される酸素原子数と炭素原子数の比
【0214】
上記の式(1)~(3)より下記式(4)が導かれ、これよりビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)の総量に対するビニル重合体(A)の質量分率(W)が算出される。
【数5】
さらに、上記で求めたWの値と下記式(5)から、アクリル系粘着性ポリマー(B)の質量分率(W)が算出される。
【数6】
ここで、
:ビニル重合体(A)及びアクリル系粘着性ポリマー(B)の総量に対するアクリル系粘着性ポリマー(B)の質量分率
【0215】
実施例9について、上記式(4)における各要素を以下に示す。
(O/C)A+B:0.316(実測値)
(O/C):0.290(実測値)
(O/C):0.465(実測値)
C-A:MMA1分子中の炭素原子数(5)、IBXMA1分子中の炭素原子数(14)及び組成比より、5×89.9(mol%)+14×10.1(mol%)=5.91
C-B:MEA1分子中の炭素原子数(6)、HEA1分子中の炭素原子数(5)、BA1分子中の炭素原子数(7)及び組成比より、6×84.4(mol%)+5×5.6(mol%)+7×10.1(mol%)+4×20.9(mol%)=6.05
w-A:MMAの分子量(100)、IBXMAの分子量(222)及び組成比より、100×89.9(mol%)+222×10.1(mol%)=112.3
w-B:MEAの分子量(130)、HEAの分子量(116)、BAの分子量(128)及び組成比より、130×84.4(mol%)+116×5.6(mol%)+128×10.1(mol%)=119.6
これらの値を式(4)に代入することによりW=0.836が得られ、(5)式よりW=0.164が得られた。
【0216】
次いで、測定に得られた表面組成から下記式(6)で表されるFOXの式に従って、表層部分のTgを計算し、73.8℃という値を得た。
1/〔表層部分のTg〕(K)=WA/Tg+W/Tg (6)
ここで、
Tg:ビニル重合体(A)のTg(108℃)
Tg:アクリル系粘着性ポリマー(B)のTg(-35℃)
【0217】
<加飾フィルムの真空圧空成形試験>
粘着シートを貼り合わせた塩化ビニル製加飾フィルム(日本ウェーブロック(株)製、200μm厚)を、真空圧空成形機(ナビタス(株)製、NATS-0612B型)を用いて、アルミニウム製カーシェイプ模型(TP技研(株)製、200mm×100mm×40mm)に成形した。成形条件は、フィルム加熱温度80℃又は90℃で予備賦形させておき、次いで、130℃、15秒のスチーム圧空を行うことで加飾フィルムをカーシェイプ模型に接着させる二段成形とした。その後、真空圧空成形された加飾フィルムの外観を目視で確認し、以下の基準に沿って評価した。
○:ショックラインなし
△:ショックライン1本又は2本
×:ショックライン3本以上あり
【0218】
実施例2~13及び比較例1~6
表2及び表3に示したように、粘着剤組成物の組成、薄膜層の種類及び膜厚を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、真空圧空成形を行った(但し、比較例5及び6では薄膜層を形成していない)。結果を表2及び表3に示す。
【0219】
尚、表2及び表3における粘着剤組成物の各成分の数字は、固形分の質量部を意味する。又、表2及び表3における略号は、下記を意味する。
◆架橋剤
・D-110N:三井化学製タケネートD-110N、メタキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、固形分濃度75.0%、NCO含量11.5%
・CO-L:東ソー(株)製コロネートL、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、固形分濃度75.0%、NCO含量13.2%
◆ポリオレフィン系樹脂
・C-1:酸変性ポリオレフィン系樹脂、東洋紡(株)製トーヨータックPMA-T、無水マレイン酸変性プロピレン/ブテン共重合体、変性度1.5質量%、重量平均分子量55,000、融点95℃
・C-4:酸変性ポリオレフィン系樹脂、東亞合成(株)製アロンメルトPPET-1303S、軟化点100℃
・C-6:酸変性ポリオレフィン系樹脂、東洋紡(株)製トーヨータックPMA-L、無水マレイン酸変性プロピレン/ブテン共重合体、変性度1.5質量%、重量平均分子量75,000、融点70℃
・C-7:酸変性ポリオレフィン系樹脂、日本製紙(株)製アウローレン200S、無水マレイン酸変性エチレン酢酸ビニル、重量平均分子量65,000、融点60~70℃
・C-8:塩素化ポリオレフィン系樹脂:日本製紙(株)製スーパークロン814HS、塩素化プロピレン、塩素化変性度41質量%、重量平均分子量20,000、融点65℃
◆ロジンエステル系樹脂
・C-2:荒川化学工業(株)製パインクリスタルKE-311、軟化点90~100℃
◆ポリエステル系樹脂
・C-3:東亞合成(株)製アロンメルトPES-320SK、軟化点110℃
・C-5:互応化学工業(株)製プラスコートZ-730、重量平均分子量3,000、軟化点80~85℃
【0220】
【表2】
【0221】
【表3】
【0222】
実施例1~13の結果から明らかなように、本開示の粘着シートを加飾フィルムの真空圧空成形に適用した場合、ショックラインの抑制効果に優れるものであった(表2)。これらの中でも、薄膜層の融点、軟化点又はTgが85℃超である実施例1~5、8、9、12、13、及び、薄膜層のX線光電子分光分析により得られる組成から計算されるTgが85℃超である実施例11はショックラインの抑制効果が大きかった。
一方、本開示で規定する薄膜層を有しない粘着シートを用いた比較例1~6では、ショックラインが発生し、真空圧空成形には適さないものであった(表3)。
【産業上の利用可能性】
【0223】
本開示の粘着シートは、加飾フィルムの真空圧空成形において、曲面や凹凸部等の複雑な形状に追従し、ショックラインの発生を抑制することができる。このため、本開示の粘着シートは、樹脂製品、金属製品、セラミックス製品、ガラス製品等の各種成形体を加飾するための材料として好適である。具体的には、家電製品;トイレ、浴室、扉、壁等の住宅設備;バンパー、ダッシュボード、ドア、ルーフ、ボンネット等の自動車内外装用部材;電子部品、介護・医療用品、船舶の内外装部材、航空機の内外装部材の製造等に好適に使用できる。