IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特許7347682ポリアリーレンスルフィドの品質向上方法およびポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドの品質向上方法およびポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20230912BHJP
   B29B 17/02 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C08J11/08
B29B17/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022543663
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2022027197
(87)【国際公開番号】W WO2023002877
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2021118379
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠司
(72)【発明者】
【氏名】鎗水 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】不破 拓人
(72)【発明者】
【氏名】東原 武志
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊輔
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-507223(JP,A)
【文献】特開平02-212529(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109485913(CN,A)
【文献】特開平11-140221(JP,A)
【文献】特開2004-131602(JP,A)
【文献】特開2009-227972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/08
B29B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程1~4を行ってポリアリーレンスルフィド(以下、PAS)のオリゴマー成分を分離するPASの品質向上方法であって、工程1の溶解前におけるPAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPASの重量平均分子量(以下、Mw)が1万以上、6万以下であり、工程1から工程3にかけて同一の有機極性溶媒中で行い、該有機極性溶媒がNMPである、PASの品質向上方法。
工程1:有機極性溶媒中で前記PAS樹脂組成物またはその成形品を200℃以上400℃未満に加熱してPASを溶解させてPAS溶液(A)を得る工程、
工程2:PAS溶液(A)を固液分離して、固体とPAS溶液(B)に分離する工程、
工程3:工程2で得たPAS溶液(B)を100℃以上150℃以下に冷却してPASを析出させる工程、
工程4:工程3で得た混合物を固液分離してPASを分離する工程
【請求項2】
前記工程1のPAS樹脂組成物またはその成形品が、無機充填材、および有機充填材から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1記載のPASの品質向上方法。
【請求項3】
前記工程1のPAS樹脂組成物の成形品が、製品として使用後に回収された成形品である請求項1記載のPASの品質向上方法。
【請求項4】
前記工程1~4の一部または全てを連続方式で行う請求項1記載のPASの品質向上方法。
【請求項5】
前記工程1の溶解前におけるPAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPASのMwを、工程1において1万以上、6万以下まで低下させる請求項1記載のPASの品質向上方法。
【請求項6】
前記工程1において、溶液に硫黄化合物を添加する請求項5記載のPASの品質向上方法。
【請求項7】
前記硫黄化合物が、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物および硫化水素から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項6記載のPASの品質向上方法。
【請求項8】
前記工程4の後に、分離したPASを洗浄して回収する請求項1記載のPASの品質向上方法。
【請求項9】
請求項8の品質向上方法により得られたPASを原料に用いる、PAS樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物またはその成形品からポリアリーレンスルフィドを分離する方法およびポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気特性を有するエンジニアリングプラスチックであり、ガラス繊維や炭素繊維等の充填材やエラストマー等の添加剤を含む樹脂組成物として、自動車部品、水廻り部品、電気電子部品を中心に使用されている。
【0003】
近年、サーキュラーエコノミーの実現に向けて、市場にて使用された後に回収された熱可塑性樹脂のリサイクルが加速している。PPSは優れた耐久性により、マテリアルリサイクルに向いているものの、その多くがガラス繊維強化PPS樹脂組成物として市場に流通しており、汎用性の高いリサイクル原資として活用できない課題があった。
【0004】
また、市場にて使用された後に回収された成形品は、埃や油状の汚れ成分が付着しているため、機械特性が低下しやすく更には成形時および成形品使用時に、汚れ成分に由来する臭気や金型の汚染が発生し、再生使用が制限される問題があった。
【0005】
そこで、低資源消費、低エネルギー消費によりライフサイクルアセスメント(以下、LCA)の観点からも優れた技術によって、汚れを含むPPS樹脂組成物からPPSを分離回収することが求められている。
【0006】
樹脂組成物から樹脂や繊維を回収して再利用する方法として、超臨界水または亜臨界水を用いて繊維強化プラスチックを加水分解し、樹脂と繊維を分離して回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1)。また、ポリアリーレンチオエーテルに、アルカリ金属硫化物を作用させて解重合した後、樹脂と繊維を分離して回収する方法が開示されている(例えば、特許文献2)。また、PASとガラス繊維を含むポリマーブレンドを溶剤に溶解後、液体媒質中に再沈殿させてPASを回収する方法が開示されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-87872号公報(請求項、実施例)
【文献】特開平04―007334号公報(請求項、実施例)
【文献】特開平11―140221号公報(請求項、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、300~500℃という超高温状態で加水分解を行っており、エネルギー負荷が大きく、LCAの観点で劣る課題がある。また、プラスチックの種類に関する開示がなく、非加水分解性の結合基で構成されたPPSには適用できない。特許文献2の方法では、PASを有機極性溶媒中で、オリゴマー程度の分子量まで解重合しており、PASを再利用するためには、再重合により新たな資源消費やエネルギー負荷が発生し、LCAの観点で劣る課題がある。またPASオリゴマーは有機極性溶媒への溶解性に優れるため、かえって低分子量の汚れ物質等との分離が困難となる課題があった。特許文献3の方法では、再沈殿によりPASを回収するため、多量の溶媒が必要となり、LCAの観点で劣る課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は以下の構成を有する。すなわち、
下記の工程1~4を行ってポリアリーレンスルフィド(以下、PAS)のオリゴマー成分を分離するPASの品質向上方法であって、工程1の溶解前におけるPAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPASの重量平均分子量(以下、Mw)が1万以上、6万以下であり、工程1から工程3にかけて同一の有機極性溶媒中で行い、該有機極性溶媒がNMPである、PASの品質向上方法。
工程1:有機極性溶媒中で前記PAS樹脂組成物またはその成形品を200℃以上400℃未満に加熱してPASを溶解させてPAS溶液(A)を得る工程、
工程2:PAS溶液(A)を固液分離して、固体とPAS溶液(B)に分離する工程、
工程3:工程2で得たPAS溶液(B)を100℃以上150℃以下に冷却してPASを析出させる工程、
工程4:工程3で得た混合物を固液分離してPASを分離する工程
【0010】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記工程1のPAS樹脂組成物またはその成形品が、無機充填材および有機充填材から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0011】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記工程1のPAS樹脂組成物の成形品が、製品として使用後に回収された成形品であることが好ましい。
【0012】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記工程1の有機極性溶媒がNMPであ
【0013】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記工程3の析出を、100℃以上150℃以下で行
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記工程1の溶解前におけるPAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPASの重量平均分子量(以下、Mw)が1万以上、6万以下である。
【0015】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記工程1~4の一部または全てを連続方式で行うことが好ましい。
【0016】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記工程1の溶解前におけるPAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPASのMwを、工程1において1万以上、6万以下まで低下させることが好ましい。
【0017】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記工程1において、溶液に硫黄化合物を添加することが好ましい。
【0018】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記前記硫黄化合物が、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素から選ばれる少なくとも一種の化合物であることが好ましい。
【0019】
本発明のポリアリーレンスルフィドの品質向上方法は、前記記工程4の後に、分離したPASを洗浄して回収することが好ましい。
【0020】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は以下の構成を有する。すなわち、
上記の、前記工程4の後に、分離したPASを洗浄して回収する品質向上方法により得られたPASを原料に用いる、PAS樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PAS樹脂組成物またはその成形品から、LCAの観点で合理的にPASを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明で用いるPAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPASとは、式-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマーまたはコポリマーである。ここで、「主要構成単位とする」とは、PASを構成する全構成単位のうち、当該繰り返し単位を80モル%以上含有することを意味する。前記Arとしては下記の式(A)~式(K)などで表されるいずれかの単位が例示されるが、なかでも式(A)で表される単位が特に好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
R1、R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。
【0025】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(L)~式(N)で表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、-(Ar-S)-の単位1モルに対して0~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0026】
【化2】
【0027】
PASの繰り返し単位として、式(A)のp-アリーレンスルフィド単位が、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上含有されることが好ましい。p-アリーレンスルフィド単位が90モル%未満、つまりo-アリーレンスルフィド単位やm-アリーレンスルフィド単位が多くなると、PAS本来が有する高い融点が低下するとともに機械物性も低下する傾向にある。
【0028】
これらPASの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、ポリフェニレンスルフィドケトンこれらのランダム共重合体、ブロック共重合体およびそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位として次に示すp-フェニレンスルフィド単位を90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド(以下、PPS)が挙げられる。
【0029】
【化3】
【0030】
PASを製造する方法は、有機極性溶媒中でジハロゲン化芳香族化合物とスルフィド化剤で脱塩重縮合する方法や、ジヨードベンゼンと硫黄を用いて溶融条件下で合成する方法など、公知の方法で得られるPASを用いることができる。PAS樹脂組成物を成形品として用いる場合は、優れた耐熱性や耐薬品が求められることから、PAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPASの融点は230℃以上320℃未満であることが好ましく、アリーレン単位がフェニレン単位であるPPSにおける一般的な融点の下限は250℃以上であり、上限は300℃未満である。PASの重量平均分子量は、強度や靭性の観点から10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましい。特に有機極性溶媒への溶解性を低下させて、汚れ等の低分子量成分との分離性を高める観点で、20,000以上がさらに好ましい。一方、本発明のPAS樹脂組成物またはその成形品を有機極性溶媒に溶解させる工程1において、PASの分子量が高すぎると有機極性溶媒に溶解しづらく回収効率が低下するため、PAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPASの重量平均分子量は200,000未満が好ましく、100,000未満がより好ましい。特に有機極性溶媒への溶解性を高めることで、加熱温度を低下させてエネルギー負荷を低下させる観点で、80,000未満がさらに好ましく、60,000未満が特に好ましい。
【0031】
以下、PAS樹脂組成物、成形品、有機極性溶媒、工程1、工程2、工程3、工程4および回収物について順に説明する。
【0032】
[PAS樹脂組成物]
PAS樹脂組成物は、PASに充填材などの添加剤を配合し、PASの融点以上に加熱、溶融混練して得られるものであるが、優れた特性を発現させるために充填材として無機充填材や有機充填材を用いることが一般的である。
【0033】
無機充填材としては、ガラス繊維、ガラスミルド繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、石コウ繊維、金属繊維、バサルト繊維などの繊維状無機充填材;タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、雲母、フェライト、パイロフィライト、ベントナイト、アルミナシリケート、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、窒化珪素、炭化珪素、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、黒鉛などの非繊維状無機充填材が挙げられる。
【0034】
有機充填材としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、フッ素樹脂繊維、熱硬化性樹脂繊維、エポキシ樹脂繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリフッ化ビニリデン系繊維、セルロース繊維などの繊維状有機充填材;エボナイト粉末、コルク粉末、木粉などの非繊維状有機充填材が挙げられる。
【0035】
これら充填材は、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。また、サイジング剤を使用してもよい。
【0036】
PAS樹脂組成物は、靭性改良などを目的としてオレフィン系共重合体樹脂を用いることも一般的であり、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基およびメルカプト基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有するオレフィン系共重合体樹脂や、上記官能基を有さないオレフィン系共重合体が挙げられる。
【0037】
PAS樹脂組成物では、その他特性の改質を目的に、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、フッ素系樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどのオレフィン系共重合体以外の樹脂や、エポキシ系化合物、アミン系化合物、イソシアネート系化合物、無水物系化合物などのカップリング剤や、フェノール系やリン系の酸化防止剤や、次亜リン酸塩などの着色防止剤や、タルク、カオリン、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤や、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤や、リン系、臭素系、シリコーン系などの難燃剤や、カーボンなどの黒色化剤などを添加剤として用いてもよい。
【0038】
[PAS樹脂組成物の成形品]
自動車、電気電子、住設などの各種部材では、PAS樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形などで所望の形状に成形して用いられる。これら成形品を成形する際、樹脂単独での成形、樹脂と金属類を複合化するインサート成形、他樹脂と複合化する二色成形など様々な成形方法が採用されており、本発明で用いる成形品もこれら成形方法に特に制限はない。また、レーザー溶着、熱板溶着、IR溶着、振動溶着などの溶着接合や、接着剤での接合など、各種接合方法が採用された成形品を用いることも可能である。また、上記成形によって得られた成形品だけでなく、PASで構成される繊維やフィルムやそれらの複合体を用いることも可能である。
【0039】
本発明に用いる成形品は、成形時に発生する不良成形品、規格外の成形品、スプルー・ランナーなどの端材成形品でもよく、原料切替時のパージ時に発生するポリオレフィンやPET等の他ポリマーが混入していてもよい。更にサーキュラーエコノミー実現の観点で、製品として市場で使用された後回収された成形品であることが好ましい。市場から回収された成形品は、適宜分別や洗浄などを行うことも好ましい態様である。市場から回収した成形品は、油汚れ等の付着が散見されるが、本発明によりLCAの観点で合理的に汚れ物質等との分離が可能である。
【0040】
これら成形品は、分別や洗浄の効率を高めるためや、工程1で有機極性溶媒への溶解性を高めるために小片化することが好ましい。小片化方法としては、圧縮粉砕、衝撃粉砕、剪断粉砕、カッター粉砕、ミル粉砕、切削などの方法が挙げられ、本発明の目的が達成されるものであれば特に制限はない。小片のサイズとしては50mm以下であることが好ましく、20mm以下であることが溶解性の観点からより好ましい。また小片化した成形品を公知の方法を用いて、押出機等で溶融混練してリペレットすることも可能である。
【0041】
[有機極性溶媒]
PAS樹脂組成物またはその成形品を溶解させる有機極性溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類;N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒;およびこれらの混合物が好ましく使用される。なかでも、PASの重量平均分子量によって溶解性が制御しやすい観点と、水との混和性の観点で、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)が好ましく用いられる。
【0042】
[工程1]
工程1では、有機極性溶媒中でPAS樹脂組成物またはその成形品を200℃以上400℃未満に加熱してPASを溶解させてPAS溶液(A)を得る。PASを十分溶解させてPASの回収率を高める観点で220℃以上が好ましく、240℃以上がより好ましい。また、省エネルギーの観点で300℃未満が好ましく、PASの融点以下である270℃未満がより好ましい。
【0043】
工程1におけるPAS樹脂組成物またはその成形品と有機極性溶媒の重量比は、有機極性溶媒の種類や、PASの重量平均分子量に依るため一概には言えないが、有機極性溶媒1kgあたりPAS樹脂組成物またはその成形品に含まれるPPSの重量は20g以上が好ましく、50g以上がより好ましく、生産量の効率化の観点で100g以上がさらに好ましい。その上限は、500g以下が好ましく、300g以下がより好ましく、PASを十分溶解させる観点で200g以下がさらに好ましく、150g以下が特に好ましい。
【0044】
工程1におけるPAS樹脂組成物またはその成形品を溶解させる加熱時間は、PAS樹脂組成物またはその成形品が溶解すれば特に制限はなく、5分以上5時間以下が例示できる。生産性やLCAの観点でその上限は、3時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましく、1時間以下がさらに好ましい。
【0045】
工程1のプロセスはバッチ式および連続方式など公知の各種反応方式を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型・横型反応器などが挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、フローリアクター(例えば、国際公開第2019/031435号などに記載のフローリアクター)、管型反応器、ラインミキサー、縦型・横型反応器、塔などが挙げられる。バッチ式の場合、前記の加熱時間に加えて、昇温時間が必要なため、生産性やLCAの観点で連続方式を採用することが好ましい。
【0046】
このような好ましい温度、重量比、加熱時間で、PAS樹脂組成物またはその成形品を溶解せしめると共に、工程2から4の分離を効率化して、PASの回収率と分離性の両立を図るために、PASの重量平均分子量が適正な範囲にあることが必要で、その下限は10,000以上、20,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましい。その上限は60,000以下である
【0047】
回収PPSの収率と分離性の両立を図るために、適宜、工程1において有機極性溶媒中にPAS樹脂組成物またはその成形品を溶解させる際に、PASの重量平均分子量を上記好ましい範囲に低下させることも好ましい態様である。
【0048】
上記PASを低分子量化する方法として、PAS樹脂組成物またはその成形品が溶解した溶液に硫黄化合物を添加することが好ましい。硫黄化合物としてはアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、硫化水素から選ばれる少なくとも一種の化合物を用いることが好ましい。
【0049】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化リチウムおよび/または硫化ナトリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。なお、水性混合物とは水溶液、または水溶液と固体成分の混合物、または水と固体成分の混合物のことをさす。一般的に入手できる安価なアルカリ金属硫化物は水和物または水性混合物であるので、このような形態のアルカリ金属硫化物を用いることが好ましい。
【0050】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化リチウムおよび/または水硫化ナトリウムが好ましく、水硫化ナトリウムがより好ましく用いられる。
【0051】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系中で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。これらのアルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物は水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができ、水和物または水性混合物が入手のし易さ、コストの観点から好ましい。
【0052】
さらに、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系中で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、あらかじめ水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素を接触させて調製したアルカリ金属硫化物を用いることもできる。
【0053】
硫黄化合物の使用量は、PAS1.0モルあたり、硫黄成分0.01モル%以上が好ましく、0.1モル%以上がより好ましく、1.0モル%以上がさらに好ましい。その上限は、50モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。このように硫黄化合物を低濃度で反応せしめることで、工程1の溶解条件において、PASの重量平均分子量が低下しすぎることがなく、好ましい範囲に調整が可能となる。0.01モル%以上では希薄しすぎることがなく、効率的にPASの分子量を調整できる。硫黄化合物の使用量を50モル%以下とすることで解重合が過度に進行してしまうことを抑制できる。なお、PAS樹脂組成物やその成形品に含まれているPASの含有量は、PAS樹脂組成物やその成形品から、充填材やエラストマーなどの配合剤の配合量を差し引いたものである。
【0054】
また、硫黄化合物がアルカリ金属水硫化物の場合に用いるアルカリ金属水酸化物の使用量としては、アルカリ金属水硫化物の硫黄成分1モル当たり、アルカリ金属水酸化物の水酸化物イオンが0.95モル以上2.5モル以下の範囲となるようにすることが好ましく、この好ましい範囲であれば熱的に不安定な低分子量PASが生じにくく、一方、不純物の多い低分子量PASが生じにくい。そのため、下限としては、アルカリ金属水硫化物の硫黄成分1モル当たり、アルカリ金属水酸化物の水酸化物イオンは1.0モル以上が好ましく、1.1モル以上がより好ましい。上限としては、2.0モル以下が好ましく、1.8モル以下がより好ましい。
【0055】
工程1におけるPAS樹脂組成物またはその成形品の結晶化度は、有機極性溶媒への溶解性を向上させ、生産性を高める観点で、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。このような結晶化度のPAS樹脂組成物を得るためには、工程1の前に、PAS樹脂組成物またはその成形品を押出機等で溶融混練して得たストランドの急冷やアニール処理を行うことが具体例としてあげられる。なお、ここでの結晶化度は、示差走査熱量計を用いて20℃/分の速度で0℃から340℃まで昇温した際に検出されるPASの融解熱量(J/g)から冷結晶化熱量(J/g)を引いた値を、PASの完全結晶化熱量(PPSの場合、146.2(J/g))で除して百分率(%)とした値である。
【0056】
[工程2]
本発明の工程2では、工程1で得たPAS溶液(A)を不溶成分である固体とPAS溶液(B)へ固液分離を行う。固液分離を行う方法は特に制限されず公知の方法を採用可能であり、フィルターを用いるろ過である加圧ろ過や減圧濾過、固形分と溶液の比重差による分離である沈降分離や、遠心分離、さらにこれらを組み合わせた方法などを採用可能である。ろ過操作の前に沈殿分離を行うデカンタ分離方式も好ましい方法である。
【0057】
工程2で分離される固体は、例えば、無機充填材、有機充填材、オレフィン系共重合体樹脂やPAS等が酸化架橋等によって不溶化した成分や、金属、塵、埃、錆び等が挙げられる。
【0058】
工程2の固液分離温度は、工程1と同様に200℃以上400℃未満が好ましく、生産性の観点から、工程1の加熱温度と同温度以上であることが好ましく、PASを十分溶解せしめてPASの回収率を高める観点で220℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。また、省エネルギーの観点で300℃未満がより好ましく、PASの融点以下である270℃未満がさらに好ましい。一方、過冷却状態を用いて、PAS溶液(A)からPASが析出することを抑制しながら、工程1の加熱温度以下で固液分離処理することも可能であり、この場合の固液分離処理温度は、100℃以上が好ましく、溶解性とのバランスから150℃以上がより好ましい。
【0059】
工程2の固液分離は、PASの酸化架橋や変性を抑制する観点から非酸化性雰囲気下で行うことが好ましく、非酸化性雰囲気として、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが好ましい雰囲気として挙げられる。特に、工程1において、硫黄化合物を用いてPASの重量平均分子量を調整した場合、PASの末端は酸化の影響を受けやすいチオレート構造となるため、回収PASの品質を高い状態で維持するには、非酸化性雰囲気下での固液分離が有効である。
【0060】
工程2のプロセスをバッチ式で行う場合は、バッチ溶解槽からの吐出下部に濾過器が連結具備された装置や、バッチ溶解槽から溶解液を吐出して回収し、別工程で濾過機を用いて濾過するプロセスなどが挙げられる。また連続方式で行う場合は、フローリアクター等の連続溶解装置の途中で濾過器を配置するプロセスや、連続溶解装置の後にデカンタ型連続式遠心分離機を備えて沈降分離や濾過分離を行うプロセスが挙げられる。これら濾過器に堆積した充填物などの残渣物は、バッチ式や連続方式で回収することが可能である。
【0061】
また、工程2で分離した充填材を回収することも、素材の有効利用の観点から好ましく、充填材として、無機充填材、有機充填材から選ばれる少なくとも一種を回収することが好ましい。工程2で固液分離して回収した無機充填材、有機充填材には、PASと有機溶剤を含む溶液が充填材表面に付着しているため、PASや有機極性溶媒が付着した充填材を500℃程度の高温に加熱し、有機物を揮散・燃焼して充填材を回収する方法や、工程1で使用した有機極性溶媒と相溶する溶媒で洗浄して充填材を回収する方法が例示できる。洗浄条件に特に制限はなく、無機充填材や有機充填材からPASや有機極性溶媒が除去できる洗浄量、洗浄回数、洗浄温度を適宜設定すればよい。また、有機極性溶媒で洗浄した後に水などで適宜置換してもよい。
【0062】
[工程3]
本発明の工程3では、工程2で得たPAS溶液(B)を20℃以上200℃以下に冷却してPASを析出させる。工程1から工程3にかけて同一の有機極性溶媒中で、温度を段階的に変化させて固液分離を行うことで、LCAの観点で合理的に汚れ等を含むPPS樹脂組成物またはその成形品からPASの回収が可能となる。
【0063】
工程3の析出温度は、PAS溶液(B)に含まれるPAS以外の成分によって調整することが好ましい。析出温度が高温であるほど、有機極性溶媒に溶解する成分が増加するため、PASの分離性が向上する一方、低分子量のPASが回収できなくなるため回収率が低下する。析出温度は、汚れ成分やオレフィン系共重合体樹脂由来等の低分子量成分等を分離する観点から50℃以上が好ましく、PAS由来のオリゴマーを分離する観点から100℃以上がより好ましい。低分子量成分の分離性を高めることで、回収されたPASの溶融加工時の発生ガスが抑制され、例えばフィルムや繊維等の品質が向上できたり、成形時の金型汚れを抑制できる。また、析出温度の上限は、PASの回収率を高める観点で150℃以下がより好ましい。
【0064】
工程3は前記温度範囲であれば、PASの回収率と分離性の両立を図り、冷却を一定の温度で行う方法や、段階的に温度を低下させる方法や、連続的に温度を低下させる方法のいずれの形式を採用してもよく、冷却速度を制御して得られるPAS粒子の粒径を調整してもよい。
【0065】
工程3は前記温度範囲であれば、PASの回収率と分離性の両立を図り、PASの析出を効率化させる物質を加えてもよく、LCAやコストの観点から水が好ましい。
【0066】
工程3における析出時間は、PAS溶液(B)からPASを析出すれば特に制限はなく、5分以上24時間以下が例示できる。生産性やLCAの観点でその上限は、12時間以下が好ましく、6時間以下がより好ましい。
【0067】
工程3のプロセスはバッチ式および連続方式など公知の各種反応方式を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型・横型反応器、槽などが挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、フローリアクター、管型反応器、ラインミキサー、縦型・横型反応器、塔などが挙げられる。
【0068】
[工程4]
本発明の工程4では、工程3で得た析出したPASを含む混合物をPASと、汚れ等を含む有機極性溶媒へ固液分離を行う。固液分離を行う方法は特に制限されず公知の方法を採用可能であり、フィルターを用いるろ過である加圧ろ過や減圧濾過、固形分と溶液の比重差による分離である沈降分離や、遠心分離さらにこれらを組み合わせた方法などを採用可能である。ろ過操作の前に沈殿分離を行うデカンタ分離方式も好ましい方法である。
【0069】
工程4の固液分離温度は、工程3と同様に20℃以上200℃以下が好ましく、生産性の観点から、工程3の析出温度と同温度であることが好ましい。一方、過冷却状態を用いて、工程3で得られた混合物からPAS以外の成分が析出することを抑制しながら、工程3の析出温度以下で固液分離することも可能である。
【0070】
工程4では混合物の取り扱い性を高めると共に、PASの洗浄を行うために適宜洗浄溶媒を加えることが好ましい。洗浄溶媒は特に制限はないものの、有機溶剤で洗浄すると、PASに含まれるオリゴマー成分が除去されるため回収PASの収率が低下する課題があり、効率よくPASを回収する観点では水での洗浄が好ましい。水での洗浄条件に特に制限はなく、PASから有機極性溶媒が除去できる水量、洗浄回数、洗浄温度を適宜設定すればよい。特に工程1で硫黄化合物を展開してPASの重量平均分子量を調整した場合は、塩等の反応生成物を洗浄する観点で水による洗浄を行うことが好ましい。洗浄溶媒を加えるタイミングは工程3で得られた混合物を固液分離する前でもよく、後でもよい。
【0071】
[回収物]
本発明で回収したPASは、再重合等で新たに資源を投入したり、多大なエネルギーを消費することなく、再度利用することができ、PASをフィルム、繊維、樹脂に加工したり、PASと配合材を溶融混練することでPAS樹脂組成物やその成形品として再生可能であり、自動車、電気電子、住設など各種用途でのエコマテリアルとしての利用が期待できる。またこれら用途で十分な物性を発現させるため、回収したPASの重量平均分子量は10,000以上、60,000以下が好ましく、20,000以上がより好ましい。
【0072】
本発明で回収したPASは、LCAの観点で問題がない限りにおいて、回収した低分子量PASと共にジハロゲン化芳香族化合物やスルフィド化合物を原料とし、再度重合させて高分子量化PASとして回収することも可能である。
【0073】
更に、本発明の工程2で分離し回収した無機充填材、有機充填材も、各種樹脂組成物の充填材として再利用することが可能である。
【実施例
【0074】
以下、本発明の方法を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、各種測定法は以下の通りである。
【0075】
(1)重量平均分子量の分析
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:SSC-7100((株)センシュー科学)
カラム名:GPC3506((株)センシュー科学)
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度、検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
サンプル濃度:0.2重量%(溶媒:1-クロロナフタレン)
(2)発生ガス量
各実施例および比較例により得られた回収PPSをアルミカップに10g秤量し、320℃に加熱したエスペック(株)製熱風乾燥機PHH202中にて2hr処理し、室温で放冷した。次いで、重量を測定し、乾燥処理前の重量に対する乾燥処理前後における重量変化の比である重量減少率(%)を求め、発生ガス量とした。
(3)機械特性
ISO(1A)ダンベル試験片について、23℃条件下、オートグラフ試験機AG-Xplus20kNを用い、ISO527-1(2012),ISO527-2(2012)に従い、支点間距離114mm、引張速度5mm/minの条件で引張特性を評価した。
【0076】
次いで、ISO178(2010)に従い、支点間距離64mm、速度2mm/minの条件で曲げ特性を評価した。
【0077】
次いで、ISO(1A)ダンベルを切削して得た試験片で、ISO179(2010)に従い、シャルピー衝撃強度(ノッチあり)を評価した。
【0078】
[参考例1]PPS-1の調製
撹拌機および底栓弁付きの70Lオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.3kg(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2.9kg(69.8モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.5kg(115.5モル)、酢酸ナトリウム1.9kg(23.1モル)、及びイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.8kgおよびNMP0.3kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0079】
その後p-ジクロロベンゼン10.5kg(71.1モル)、NMP9.4kg(94.5モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を撹拌機付き容器にフラッシュし、250℃で大半のNMPを除去した。
【0080】
得られた固形物およびイオン交換水76Lを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76Lのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0081】
得られたケークおよびイオン交換水90Lを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した後に195℃まで昇温し、30分保持した。その後ガラスフィルターで濾過し、回収したケークを窒素気流下120℃で乾燥することにより、重量平均分子量42,000の乾燥PPS(PPS-1)を得た。
【0082】
[参考例2]PPS樹脂組成物の成形品(PPS-2)
(株)日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=30)の元込め部にPPS-1を60重量部投入し、更に、該二軸押出機のサイドフィーダーからガラス繊維(日本電気硝子(株)製T-747H、平均繊維径10.5μm)を40重量部投入し、320℃、200rpmの条件で溶融混練を行った。ストランドカッターで10mm長以下にペレット化した後、120℃で乾燥してPPS樹脂組成物を得た。得られたPPS樹脂組成物を住友重機械工業(株)製射出成形機SE75DUZ-C250を用いて樹脂温度310℃、金型温度130℃で射出成形を行い、ISO(1A)ダンベルの成形品(PPS-2)を作製した。
【0083】
比較例1]
底栓弁を備えた1Lオートクレーブおよび底栓弁の下方に窒素加圧可能な高温濾過器(ポアサイズ1μmのPTFEフィルター使用)を直結した装置を用意した。PPS-2を10g、NMP300g(有機極性溶媒1kgあたりのPPS重量は20g)をオートクレーブに仕込み、窒素置換した後に60分かけて250℃まで昇温した後、60分保持してPPS溶液(A)を得た(工程1)。その後、オートクレーブの底栓弁を開放して250℃の高温濾過器に移送すると共に高温濾過器を窒素で0.2MPaに加圧し、250℃の非酸化性雰囲気化で加圧濾過してPPS溶液(B)とガラス繊維を分離した(工程2)。得られたPAS溶液(B)を75℃まで冷却してPPSを析出させた(工程3)。その後、5Lのイオン交換水中に投入して、目開き10~16μmの濾過器で濾過した。得られたケークは75℃で同様の水洗と濾過を3回繰り返し、120℃で乾燥して回収PPSを得た。得られた回収PPSの重量と、仕込んだPPS-2中のPPS重量から回収率を求めた。また、前記方法で回収PPSの重量平均分子量と、発生ガス量を求めた。
【0084】
[実施例4、比較例2~5
有機極性溶媒1kgあたりのPPS重量と、工程3の析出温度を変更した以外は、比較例1と同様の操作により回収PPSを得た。
【0085】
[比較例](特許文献3に記載の方法)
有機極性溶媒に替えて1-クロロナフタレン(1-CN)300gを溶媒としてオートクレーブに仕込み、比較例1と同様に工程1および工程2を行った。得られた250℃のPPS溶液(B)を5Lのアセトン中に投入してPPSを析出させ、目開き10~16μmの濾過器で濾過した。得られたケークは30℃のアセトンで洗浄と濾過を3回繰り返し、120℃で乾燥して回収PPSを得た。
【0086】
[比較例](特許文献3に記載の方法)
溶媒1kgあたりのPPS重量を変更した以外は比較例と同様の操作により回収PPSを得た。
【0087】
実施例、比較例での条件および回収PPSの特性を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
上記表1の実施例と比較例の比較により以下のことが明らかである。
【0090】
比較例1では、PPS樹脂組成物を有機極性溶媒のNMPに溶解させ、高温状態で濾過することで溶解前と同等のMwのPASを回収できることがわかる。また、有機極性溶媒は水に可溶であるため、PASを簡便に回収できると共に回収時のロスも少ないため、高い回収率でPASが得られる。一方、比較例からわかるように、有機極性溶媒ではない1-クロロナフタレンのような水不溶な溶媒でPASを溶解させると、PASを回収する際にアセトンのごとき有機溶媒で1-クロロナフタレンを除去する必要があり、PASの一部が溶解して除去されることでPASの回収率が低下することがわかる。また、比較例1に比べて有機溶媒の使用量も多く、LCAの観点で不利なことは明白である。
【0091】
また、実施例3、4および比較例2~5では、工程3の析出温度を変化させることで、PPSの回収率は低下するものの、溶融加工時のガスや金型汚れの原因となるPASのオリゴマー成分を有機極性溶媒に溶解して除去できるため、比較例と同様に回収PPSの重量減少率を低くすることができる。得られた回収PASの回収率と品質が実施例と比較例で同等であるならば、LCAの観点で優れる実施例が有効な分離方法である。
【0092】
[参考例3]PPS-3の調製
撹拌機および底栓弁付きの70Lオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム2.24kg(27.3モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0093】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.32kg(70.20モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.8℃/分の速度で200℃から235℃まで昇温し、235℃で40分反応した。その後0.8℃/分の速度で270℃まで昇温し、270℃で70分反応した後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0094】
内容物を約35LのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35Lで洗浄濾別した。得られた固形物を70Lのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70Lのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70Lのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、重量平均分子量73,000の乾燥PPS(PPS-3)を得た。
[参考例4]PPS樹脂組成物の成形品(PPS-4)
PPS-1の代わりにPPS-3を用いたこと以外はPPS-2と同様にASTM1号ダンベルの成形品(PPS-4)を作製した。
[比較例
底栓弁を備えた1Lオートクレーブおよび底栓弁の下方に窒素加圧可能な高温濾過器(ポアサイズ1μmのPTFEフィルター使用)を直結した装置を用意した。PPS-4を50g、NMP300g(有機極性溶媒1kgあたりのPPS重量は100g)をオートクレーブに仕込み、窒素置換した後に250℃まで昇温して1時間保持してPPS溶液(A)を得た(工程1)。その後、オートクレーブの底栓弁を開放して250℃の高温濾過器に移送すると共に高温濾過器を窒素で0.2MPaに加圧し、250℃の非酸化性雰囲気化で加圧濾過してPPS溶液(B)とガラス繊維を分離した(工程2)。得られたPAS溶液(B)を150℃まで冷却してPPSを析出させた(工程3)。その後、5Lのイオン交換水中に投入して、目開き10~16μmの濾過器で濾過した。得られたケークは75℃で同様の水洗と濾過を3回繰り返し、120℃で乾燥して回収PPSを得た。得られた回収PPSの重量と、仕込んだPPS-2中のPPS重量から回収率を求めた。また、前記方法で回収PPSの重量平均分子量と、重量減少率を求めた。また、工程1後のPPSの重量平均分子量を分析するために、高温濾過器にPTFEフィルターを使用しないことで、工程2で固液分離を行わずに移液したPAS溶液(A)の重量平均分子量を測定した。
[比較例
工程1の加熱温度を280℃に変更した以外比較例と同様の操作により回収PPSを得た。
[比較例10
工程1の前にPPS-4を(株)日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=30)に投入し、320℃、200rpmの条件で溶融混練を行って得たストランドを水冷バスで急冷した後、ストランドカッターで10mm長以下にペレット化したこと以外は、比較例と同様の操作により回収PPSを得た。
[比較例11
工程1に投入する原料に、PPS-4とNMPに加えて、48重量%水硫化ナトリウム(NaSH)を114.0g、NaOH39.8gとNMP163.6gを120℃以上に加熱・反応させて事前作製した化合物を0.73g仕込んだこと以外は、比較例と同様の操作により回収PPSを得た。
【0095】
実施例、比較例での条件および回収PPSの特性を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
上記表2の実施例、比較例の比較により以下のことが明らかである。
【0098】
実施例と比較例の比較により、PPS樹脂組成物または成形品のPPSの重量平均分子量が大きくなることで、回収PPSの回収率が低下しており、工程1の溶解条件で有機極性溶媒に溶解せず、工程2で固体として分離された高分子量のPPSが存在することが分かる。回収率を向上させるために、比較例に示す通り工程1の加熱温度を上げることや、比較例10に示す通りPPSの結晶化度を低下させることや、比較例11に示す通り硫黄化合物を添加して、工程1中でPPSの分子量を低下させることが有効であることが分かる。
[実施例
ポンプを具備した循環ライン(I)と撹拌機を具備した300L耐圧容器(I)にPPS-2を33.5kg、NMP200kg(有機極性溶媒1kgあたりのPPS重量は100g)を仕込み、窒素置換した。ポンプを具備した循環ライン(II)と撹拌ラインを具備した70L耐圧容器(II)にNMP20kgを仕込み、窒素置換した。
【0099】
ここで循環ライン(I)にはバルブを介して分岐ライン(I)が接続されており分岐の先には耐圧容器(I)と耐圧容器(II)が接続されている。また循環ライン(II)にはバルブを介して分岐ライン(II)が接続されており分岐の先には耐圧容器(II)と高温濾過器(ポアサイズ1μmのPTFEフィルター使用)が接続されている。高温濾過器の入り口部には分岐ライン(III)が設置され、濾過機への供給と別容器への抜き出しが可能となっている。また濾過機の出口には容器(III)が接続されている。
【0100】
耐圧容器(I)を50℃に調温、耐圧容器(II)を250℃に調温した。次いで耐圧容器(I)の内容物を40kg/時間で耐圧容器(II)に連続的に供給した。また同時に耐圧容器(II)から内容物を40kg/時間で連続的に抜き出した。本操作により耐圧容器(II)内にPAS溶液(A)を得た(工程1)。本操作中、耐圧容器(II)の圧力は約0.2MPaで一定であった。なお、耐圧容器(II)への供給量と抜き出し量が一定であったことから、本操作の間、耐圧容器(II)の内容物量は一定であったといえ、耐圧容器(II)における内容物の滞留時間、すなわちPAS溶液(A)の加熱保持時間は30分であった。
【0101】
本操作の開始から4時間後、PAS溶液(A)が十分した置換して定常運転となった後に、分岐ライン(III)から高温濾過機への供給を行い、PPS溶液(B)とガラス繊維を分離し(工程2)、PAS溶液(B)を得た。得られたPAS溶液(B)を150℃まで冷却してPPSを析出させた(工程3)。その後、イオン交換水中に投入して、目開き10~16μmの濾過器で濾過した。得られたケークは75℃で同様の水洗と濾過を3回繰り返し、120℃で乾燥して回収PPSを得た。得られた回収PPSの重量と、仕込んだPPS-2中のPPS重量から回収率を求めた。また、前記方法で回収PPSの重量平均分子量と、発生ガス量を求めた。
【0102】
実施例での条件および回収PPSの特性を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
連続方式を採用した実施例はバッチ式の実施例と比べて回収率や発生ガス量が同等であった。また、定常運転となれば、工程1の昇温時間や加熱時間の短縮が可能となり、LCAの観点からも生産性の観点からも優れている。
[参考例5]
市場での使用後に回収された自動車用金属インサート部品からPPS樹脂組成物で構成された樹脂部を取り外した後、長軸寸法が100mm以下になるよう破砕機で粗く破砕し、水で洗浄して、長軸寸法が10mm以下になるように粉砕して油汚れが付着したPPS樹脂組成物の成形品(PPS-5)を得た。
【0105】
分析の結果、PPS-5は、PPS60重量%、GF40重量%で構成され、PPSの重量平均分子量は45,000であった。
[参考例6]
市場での使用後に回収された住設水廻り部品からPPS樹脂組成物で構成された樹脂部を取り外した後、長軸寸法が10mm以下になるように粉砕して水で洗浄して、錆びが付着したPPS樹脂組成物の成形品(PPS-6)を得た。
【0106】
分析の結果、PPS-6は、PPS65重量%、GF30重量%、オレフィン系共重合体樹脂5重量%で構成され、PPSの重量平均分子量は50,000であった。
[参考例7]
市場での使用後に回収されたバグフィルターからPPSで構成された繊維を回収し、水で洗浄した。煤や油汚れが付着したPPS繊維(PPS-7)を得た。
【0107】
PPS-7は、PPS約100%で構成され、PPSの重量平均分子量は55,000であった。
[実施例11、比較例12~14
PPS樹脂組成物または成形品の種類と、工程3の析出温度を表4に示す通りにした以外は、実施例と同様の操作により回収PPSを得た。
【0108】
実施例での条件および回収PPSの特性を表4に示す。
【0109】
【表4】
【0110】
上記表4より、市場での使用後に回収された樹脂組成物または成形品は油や錆び等に由来する汚れが混入していたが、高い回収率でPPSを回収できた。更に工程3の析出温度を増加させるにつれて、分離性が向上し、高品質なPPSが得られた。
[実施例12
PPS-1の代わりに、実施例により回収されたPPS(PPS-8)を用いたこと以外は、参考例2と同様の操作により、ISO(1A)ダンベルの成形品を作製し、PPS-2の機械特性と比較した。
【0111】
【表5】
【0112】
本発明によって得られた回収PPSを用いて得られたPPS樹脂組成物は、十分な重量平均分子量を有するため、再重合等の処理を行わずとも未使用のPPSを用いて得られたPPS樹脂組成物と同様の特性を発現することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の分離方法で回収したPASは、LCAの観点で問題がない限りにおいて、回収した低分子量PASと共にジハロゲン化芳香族化合物やスルフィド化合物を原料とし、再度重合させて高分子量化PASとして回収することも可能である。
【0114】
更に、本発明の工程2で分離し回収した無機充填材、有機充填材も、各種樹脂組成物の充填材として再利用することが可能である。
【0115】
このように、本発明によれば、PAS樹脂組成物またはその成形品から、LCAの観点で合理的にPASおよび配合材を回収することができる。