(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230912BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
G01N27/62 Y
H01J49/00 360
(21)【出願番号】P 2022546882
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011197
(87)【国際公開番号】W WO2022049811
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020147329
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 達樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 守
(72)【発明者】
【氏名】大橋 夕子
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-118838(JP,A)
【文献】特開2016-180599(JP,A)
【文献】特開2017-224283(JP,A)
【文献】特開2019-074441(JP,A)
【文献】国際公開第2019/050966(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の目的サンプルと複数の品質管理用サンプルについて所定の順序でそれぞれ質量分析を実行する測定部と、
前記複数の目的サンプルと複数の品質管理用サンプルについての一連の測定における、目的サンプルと品質管理用サンプルとの識別が可能である識別情報を記憶しておくサンプル情報記憶部と、
前記サンプル情報記憶部に記憶されている前記識別情報を用い、目的サンプルに対する測定結果及び/又は該測定結果から導出される解析結果と、品質管理用サンプルに対する測定結果及び/又は該測定結果から導出される解析結果と、を分離してそれぞれ所定形式の表示情報を作成し、その二つの表示情報を表示部の画面上に表示する表示処理部と、
を備える質量分析装置。
【請求項2】
前記測定部は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析を行うものである、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記表示情報は、品質管理用サンプルと該サンプルを用いて測定結果又は解析結果の品質が評価される対象である目的サンプルとの関係を示す情報を含む、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項4】
品質管理用サンプルに対する測定結果が得られる毎に、該測定結果又は該測定結果から導出される解析結果により測定状態の良否を判定する判定部と、
該判定部において測定状態が不良であると判定されたときに前記測定部による測定を中止するよう該測定部を制御する制御部と、
をさらに備える、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記表示処理部は、前記判定部による測定状態の良否の判定結果を解析結果と共に表示し、前記制御部は、ユーザーの指示を受けて前記測定部による測定を中止するよう該測定部を制御する、請求項4に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記表示処理部は、一つの目的サンプルに対する測定結果及び/又は解析結果を抽出して所定形式の表示情報を作成し、その表示情報を表示部の画面上に表示する個別結果作成部を含む、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記測定部による測定で得られたマススペクトルから複数のアミロイドβ関連ピークを検出し、その検出されたピークの信号強度に基く所定の演算によって前記解析結果としての指標値を算出する解析部、をさらに備える請求項1に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、多数のサンプルを自動的に順次分析し、それにより得られたデータに基く解析結果を表示する質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization:MALDI)法によるイオン源を搭載した質量分析装置で分析を行う際には、一般に、分析対象である物質にイオン化補助剤としてのマトリックスを添加し、その混合液を専用のサンプルプレートのウェルに少量滴下し風乾することによって分析用のサンプルが形成される。MALDI質量分析装置では、こうして形成されたサンプルプレート上のサンプルに対しレーザー光が照射されることで該サンプル中の化合物がイオン化され、生成されたイオンに対して質量分析が実行される。
【0003】
近年、質量分析技術の急速な進歩に伴って、質量分析を様々な疾病や疾患の臨床検査や診断に応用する動きが進んでいる。臨床検査・診断への応用では、病院や研究機関等において被検者から採取された多数の検体を、できるだけ効率的に且つ迅速に測定することが求められる。MALDI質量分析装置では、1枚のサンプルプレート上に予め形成された多数のサンプルについて順番に効率良く測定を行うことができる。そのため、MALDI質量分析法は上記のような応用に好適な手法であるということができる。
【0004】
特に上述したような分野における測定では、測定品質を担保することが非常に重要である。そのため、例えば、検査対象である検体に由来するサンプル(以下「実検体サンプル」という)を所定数測定する毎に、或いは、複数の実検体サンプルの測定開始前及び測定終了後などに、品質評価用のQC(Quality Control)サンプルを測定し、そのQCサンプルの解析結果に基いて、実検体サンプルについて得られたデータの信頼性を確認する、という作業が一般的に実施されている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-169377号公報
【文献】特許第6410810号公報
【文献】特開2019-53063号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】金子(N. Kaneko)、ほか12名、「ノベル・プラズマ・バイオマーカー・サロゲーティング・セレブラル・アミロイド・デポジション(Novel plasma biomarker surrogating cerebral amyloid deposition)」、プロシーディングス・オブ・ザ・ジャパン・アカデミー・シリーズ・B・フィジカル・アンド・バイオロジカル・サイエンシズ(Proceedings of the Japan Academy Series B Physical and Biological Sciences)、2014年、Vol. 90(9)、pp.353-364
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MALDI質量分析装置による測定の際には、QCサンプルは実検体サンプルと同じようにサンプルプレートのウェル上に形成され、実検体サンプルと同じ条件及び同じ手順で以て測定される。サンプルプレート上の多数のウェルのうちのどのウェルにあるサンプルがQCサンプルであるのかは予め決められており又は設定されており、解析結果のテーブルでは、サンプルの種類が実検体サンプルであるかQCサンプルであるのかが示されるようになっている。
【0008】
そこで、オペレーターは、表示部の画面上に表示された又は紙に印刷された解析結果のテーブルの中でQCサンプルの解析結果を確認しながら、実検体サンプルの測定が適切であったか否かを判断する。しかしながら、こうした場合、オペレーターは、実検体サンプルの解析結果とQCサンプルの解析結果とを混同し易く、また、どのQCサンプルの解析結果がどの実検体サンプルの解析結果の評価に利用できるのかを把握しにくい、という問題があった。
【0009】
本発明はこうした課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、オペレーター(ユーザー)が解析結果を確認する際に、実検体サンプルとQCサンプルとの区別が容易であり、且つ実検体サンプルの解析結果とQCサンプルの解析結果との対応関係を容易に且つ誤りなく把握することができる質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る質量分析装置の一態様は、
複数の目的サンプルと複数の品質管理用サンプルについて所定の順序でそれぞれ質量分析を実行する測定部と、
前記複数の目的サンプルと複数の品質管理用サンプルについての一連の測定における、目的サンプルと品質管理用サンプルとの識別が可能である識別情報を記憶しておくサンプル情報記憶部と、
前記サンプル情報記憶部に記憶されている前記識別情報を用い、目的サンプルに対する測定結果及び/又は該測定結果から導出される解析結果と、品質管理用サンプルに対する測定結果及び/又は該測定結果から導出される解析結果と、を分離してそれぞれ所定形式の表示情報を作成し、その二つの表示情報を表示部の画面上に表示する表示処理部と、
を備えるものである。
【0011】
ここで、「測定結果」とは、測定部による質量分析によって得られる例えばマススペクトルデータなどの情報であり、「測定結果から導出される解析結果」とは、マススペクトルデータ等に対して所定の演算処理や解析処理を行うことで得られる例えば定量値や指標値などの情報である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る上記態様の質量分析装置では、例えば、所定数の目的サンプル(上記実検体サンプル)に対する測定部での質量分析が行われる毎に、品質管理用サンプルに対する測定部での質量分析が実施される。時系列でみると、測定部での質量分析は、測定対象が目的サンプルであっても品質管理用サンプルであっても区別なく連続的に行われるが、表示部の画面上には、目的サンプルに対する測定結果や解析結果と品質管理用サンプルに対する測定結果や解析結果とが別々に表示される。具体的には例えば、目的サンプルに対する測定結果及び解析結果と品質管理用サンプルに対する測定結果及び解析結果とが、別々のテーブルにリストアップされる。
【0013】
本発明に係る上記態様の質量分析装置によれば、品質管理用サンプルの測定結果や解析結果と実検体サンプルの測定結果や解析結果との混同が生じにくいので、オペレーターは、品質管理用サンプルの測定結果や解析結果を用いて、実検体サンプルの測定結果や解析結果の信頼性を適切に且つ効率的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態によるMALDI質量分析装置の概略構成図。
【
図2】本実施形態のMALDI質量分析装置によるサンプル測定順序を示す模式図。
【
図3】本実施形態のMALDI質量分析装置においてサンプルプレート上の各ウェルに形成されたサンプルとその測定順序との関係を示す模式図。
【
図4】本実施形態のMALDI質量分析装置における、解析結果の表示例を示す図。
【
図5】本実施形態のMALDI質量分析装置における、解析結果の他の表示例を示す図。
【
図6】本実施形態のMALDI質量分析装置における、サンプル毎の解析結果の表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るMALDI質量分析装置の一実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本実施形態のMALDI質量分析装置の概略構成図である。
このMALDI質量分析装置は、測定部1と、制御・処理部2と、入力部3と、表示部4と、を含む。測定部1は、MALDIイオン源10と飛行時間型質量分析部(TOF MS)とから成る。MALDIイオン源10は、サンプルプレート101を保持するステージ100と、サンプルプレート101上のサンプル102にイオン化用のレーザー光を照射するレーザー照射部103と、を含む。ステージ100は、図示しないステージ駆動機構によって、互いに直交するX軸、Y軸の二軸方向に移動可能である。
【0017】
制御・処理部2は機能ブロックとして、サンプル情報記憶部20、分析制御部21、マススペクトルデータ収集部22、データ解析部23、良否判定部24、及び、解析結果リスト作成部251と個別解析結果レポート作成部252とを含む表示処理部25、を有する。
この制御・処理部2は主としてパーソナルコンピューター又はそれよりも高性能なコンピューターで構成され、該コンピューターに予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウェアを該コンピューター上で動作させることによって、後述するような各機能ブロックの機能を実現させるようにすることができる。
【0018】
ここでは、被検者から採取された血液等の生体由来試料を検体とし、検体中のアミロイドβ(Amyloid β)を調べることでアルツハイマー病(Alzheimer's disease)の進行度合いの検査を行う場合を例に挙げて、本実施形態のMALDI質量分析装置の動作について説明する。この検査方法は、特許文献2-3、非特許文献1等に開示されている既知の検査手法であり、生体由来試料に対して質量分析を行うことで得られたマススペクトルにおいて観測される、アミロイドβに関連するペプチドに由来する特定の質量電荷比(m/z)を有する複数のピークの強度比に基いて、脳内におけるアミロイドβの蓄積の有無を判定する手法である。
【0019】
まず、サンプル調製工程として、被検者から採取された血液などから調製された(つまり、各種の前処理がなされた)検体にMALDI用の所定のマトリックスが添加され、その混合液がサンプルプレート101上のウェルに滴下される。また、品質管理用物質にも同じマトリックスが添加され、その混合液がサンプルプレート101上の別のウェルに滴下される。サンプルプレート101の各ウェルに滴下された液体が風乾されることで、サンプル102が形成される。検体由来のサンプルが実検体サンプル、品質管理用物質に由来するサンプルがQCサンプルである。
【0020】
一般的に、この種のMALDI質量分析法では、所定個数(n個)の実検体サンプルに対する測定を一連で実行する前と後にそれぞれQCサンプルの測定が実行され、そのnの数は予め決まっている。したがって、サンプルプレート101上においてQCサンプルを形成するウェルの位置を予め決めておくのが一般的であり、オペレーターはその決まりに従って実検体サンプル及びQCサンプルを形成する。ここでは一例として、n=3であるとする。
【0021】
図2はサンプル測定順序の一例を示す模式図である。また、
図3は、サンプルプレート101上の各ウェルに形成されたサンプルとその測定順序との関係を示す模式図である。
【0022】
図3はサンプルプレート101の上面視平面図であり、この例では、ウェルは4行8列に配置されている。各行は英子文字a、b、…で識別され、各列は数字1、2、…で識別され、各ウェルには英子文字と数字とを組み合わせた識別子、例えば1a、2a、…が割り当てられる。MALDI質量分析装置での測定順序は
図3中に太線矢印で示すように決まっており、その測定順序をウェルの識別子で示すと、1a→2a→…→8a→8b→7b→…である。したがって、
図3の右方に示すように、ウェル#1a、#5a、#8b、…にQCサンプル(サンプルIDは「QC1」、「QC2」、「QC3」、…)を形成し、ウェル#2aにサンプルIDが「A」である実検体サンプル、ウェル#3aにサンプルIDが「B」である実検体サンプル、ウェル#4aにサンプルIDが「C」である実検体サンプル、…を形成すると、
図2に示したような順序で各サンプルの測定を実施することができる。
【0023】
上述したようにnが予め決まっており、
図3に示したようにサンプルプレート101上のサンプルに対する測定順序も予め決まっていれば、サンプルプレート101上のどのウェルにQCサンプルが存在するのかの情報、即ち、QCサンプルが存在するウェルの識別子が定まる。サンプル情報記憶部20には、このようなサンプルプレート101上の各サンプルの種類を識別する情報が予め格納される。
【0024】
また、サンプルプレート101上においてQCサンプルを形成するウェルの位置を、オペレーターが適宜に決めることもできる。その場合には、そのサンプルプレート101に対する一連の測定の実行に先立って、オペレーターはQCサンプルが存在するウェルの位置(識別子)を入力部3から入力する。その入力を受けて制御・処理部2は、その入力された識別情報をサンプル情報記憶部20に格納する。
【0025】
オペレーターは、上記のように実検体サンプル及びQCサンプルが形成されたサンプルプレート101をステージ100にセットし、入力部3から測定開始を指示する。この指示を受けた分析制御部21は、サンプルプレート101上の各サンプル102に対する測定を所定の順序で実行するように測定部1を制御する。
【0026】
分析制御部21の制御の下で、測定部1では、サンプルプレート101上の所定のサンプルが順番にレーザー光の照射位置(つまりは質量分析位置)に来るようにステージ100が移動される。ここでは、
図3に示すように、サンプルIDが「QC1」→「A」→「B」→「C」→「QC2」→「D」→「E」→「F」→「QC3」→…であるサンプル102が順番に質量分析位置に来るようにステージ100が移動される。
【0027】
レーザー照射部103は、質量分析位置に来るサンプル102が入れ替わる毎に、レーザー光をパルス的に該サンプル102に照射し、サンプル102に含まれる化合物由来のイオンを発生させる。生成されたイオンは飛行時間型質量分析部11に導入され、各イオンはそれぞれの質量電荷比に応じて分離されて検出される。その検出信号は制御・処理部2に送られる。マススペクトルデータ収集部22は、検出信号をデジタル化し、マススペクトルデータに変換したうえで保存する。通常、一つのサンプル102に対して複数回の測定が繰り返し実施され、その複数回の測定のそれぞれにおいて得られた所定の質量電荷比範囲に亘るデータが積算されることで、その一つのサンプルに対するマススペクトルデータが取得される。QCサンプルと実検体サンプルのいずれについても、測定のやり方自体は全く同じである。
【0028】
データ解析部23は、一つのサンプルに対するマススペクトルデータが得られる毎に、そのマススペクトルにおいてアミロイドβに関連する複数の特定の質量電荷比のピーク強度を求める。そして、その複数のピーク強度の比に基づく所定の演算を行うことで指標値を算出する。ここでは、異なる質量電荷比におけるピーク強度の組み合わせにより、互いに異なる二つの指標値を算出する。測定されたサンプルが実検体サンプル、QCサンプルのいずれでも、データ解析部23は同様の手順でアミロイドβ判定のための指標値を算出する。
【0029】
また、サンプル情報記憶部20に格納されている識別情報に基いて、測定されたサンプルがQCサンプルであることが確認されると、良否判定部24は、データ解析部23で得られた指標値を予め決められた基準値と比較し、その指標値が基準値以上であれば合格(Pass)、基準値未満であれば不合格(Reject)であると判定する。
【0030】
表示処理部25において解析結果リスト作成部251は、データ解析部23により指標値が算出され、また良否判定部24により指標値に基く良否判定結果が得られると、実検体サンプルとQCサンプルとについて別々の解析結果テーブルにそれぞれの解析結果を追加してゆく。そして、解析結果リスト作成部251は、その二つの解析結果テーブルを同一ウインドウ内に配置した解析結果表示画面50を作成し、それを表示部4に表示する。
図4は、解析結果表示画面50の一例を示す図である。
【0031】
図4に示す解析結果表示画面50には、実検体サンプル解析結果テーブル51とQCサンプル解析結果テーブル52とが上下に並べて配置されている。
【0032】
実検体サンプル解析結果テーブル51の各行はそれぞれ1個の実検体サンプルに対する解析結果に対応しており、一つの行には、二つの指標値#1、#2の算出結果と、対応するQCサンプルの情報とが含まれる。図中の「QC1-QC2」は、サンプルIDが「QC1」であるQCサンプルとサンプルIDが「QC2」であるQCサンプルとの二つが、その行の実検体サンプルの解析結果の信頼性を評価するためのQCサンプルであることを意味している。
【0033】
QCサンプル解析結果テーブル52の各行はそれぞれ1個のQCサンプルに対する解析結果に対応しており、一つの行には、二つの指標値#1、#2の算出結果と、その各指標値#1、#2についての良否の判定結果とが含まれる。また、QCサンプル解析結果テーブル52の最下行には、二つの指標値#1、#2を良否判定する際の基準となる判定閾値が示されている。
【0034】
従来の装置では、一般的に、実検体サンプルの解析結果とQCサンプルの解析結果とは同じテーブルにリストアップされていた。それに対し、本実施形態の質量分析装置では、サンプル情報記憶部20に格納されている識別情報に基いて、実検体サンプルの解析結果とQCサンプルの解析結果とが別々のテーブル51、52に振り分けられてリストアップされる。各テーブル51、52の情報は、測定が進行して新たなサンプルに対する解析結果が得られる毎に、順次追加されてゆく。
【0035】
上述したように、QCサンプル解析結果テーブル52には、指標値の良否判定結果が示される。
図4に示した例では、サンプルIDが「A」、「B」、及び「C]である3個の実検体サンプルの解析結果は、サンプルIDが「QC1」及び「QC2」である2個のQCサンプルの解析結果が合格であるときに信頼性を有する。逆に、サンプルIDが「QC1」及び「QC2」である2個のQCサンプルのいずれかの解析結果が不合格である場合には、サンプルIDが「A」、「B」、及び「C]である3個の実検体サンプルの解析結果は信頼性を欠く。この例では、サンプルIDが「QC1」であるQCサンプルについて算出された一つの指標値が不合格であり、サンプルIDが「A」、「B」、及び「C]である3個の実検体サンプルの解析結果は信頼性を欠く。このような結果が出る場合には、測定部1自体に何らかの不具合がある、或いはサンプル調製や測定条件の設定などに何らかの問題がある可能性がある。
【0036】
そこで、解析結果表示画面50上でQCサンプルについての解析結果が不合格であることを確認したオペレーターは、例えば、解析結果表示画面50の右下に配置されている「分析中止」ボタン53を入力部3でクリック操作する。すると、この指示を受けた分析制御部21は、その時点で測定を中止するように測定部1を制御する。これにより、それ以降の無駄になり得る測定の実行を回避することができる。なお、オペレーターによる操作を経ることなく、QCサンプルについての解析結果が不合格である場合には自動的に測定を中止するようにしてもよい。
【0037】
以上のように、本実施形態のMALDI質量分析装置によれば、実検体サンプルの解析結果とQCサンプルの解析結果とが明確に分けて表示され、且つ、実検体サンプルとその解析結果を評価するためのQCサンプルとの関係も明確に示されている。そのため、オペレーターは、実検体サンプルの解析結果の信頼性を簡便に、的確に、且つ効率良く確認することができる。また、QCサンプルの解析結果から装置の不具合等が疑われる場合には、速やかに測定を中止し、時間や労力の無駄を避けることができる。
【0038】
また、オペレーターが入力部3で所定の指示を行うと、これを受けて個別解析結果レポート作成部252は、指示された特定の実検体サンプルの解析結果のみを抽出し、その結果を含む測定結果レポートを作成して表示部4に表示する。複数の実検体サンプルについての解析結果を表示するように指示することも可能であるが、その場合でも、測定結果レポートは実検体サンプル毎に個別に作成及び表示される。
【0039】
図6は、サンプルIDが「A」である実検体サンプルについての測定結果レポートの表示例である。例えば、検査担当者や医師などが被検者に検査結果を見せる必要があるような場合に、
図4に示したような表示であると、他の被検者の検査結果も同時に見せてしまうことになる。これに対し、
図6に示したような表示を行うことで、対象の被検者のみの検査結果を提示することが可能となり、適切に個人情報を保護することが可能である。また、医師等が或る被検者の検査結果を確認したい場合に、他の被検者の検査結果と見間違えるのを防止するのにも有効である。
【0040】
上記実施形態の質量分析装置では、QCサンプルの解析結果である指標値を基準値と比較することで良否を判定していたが、良否の基準を変更してもよい。例えば、或るQCサンプルの解析結果が、一つのサンプルプレート全体に設けられている複数のQCサンプルの解析結果の平均値から極端に乖離している場合に、そのQCサンプルの解析結果が不合格であると判断してもよい。
【0041】
図5は、その場合における解析結果表示画面50Aの一例である。この例では、QCサンプル解析結果テーブル52Aにおいてバッチ平均値は一つのサンプルプレート全体に設けられている複数のQCサンプルの解析結果の平均値であり、偏差はその平均値に対する差分である。この偏差について基準値を設け、偏差が基準値を超えている場合に解析結果が不合格であると判断する。この場合には、一つのサンプルプレート全体に設けられている複数のQCサンプルに対する測定が終了し、その解析結果が出るまでは良否の判定が行えない。そのため、上記実施形態の装置のように測定の途中でその測定を中止することはできないものの、解析結果の良否の判定を、その解析結果のばらつきを反映して緻密に行うことができるという利点がある。
【0042】
また、上記実施形態の質量分析装置は、MALDIイオン源を搭載した質量分析装置であるが、他のイオン化法によるイオン源を搭載した質量分析装置にも本発明を適用することができる。但し、多数のサンプルに対して測定を順次実施し、且つQCサンプルの数も比較的多い場合に、本発明は特に効果的である。そうしたことから、予め用意された多数のサンプルに対し次々に測定を実施し、短時間で解析結果を得ることが可能である質量分析装置に特に好適である。
【0043】
また、上述した実施形態や変形例はあくまでも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0044】
<種々の態様>
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0045】
(第1項)本発明に係る質量分析装置の一態様は、
複数の目的サンプルと複数の品質管理用サンプルとについて所定の順序でそれぞれ質量分析を実行する測定部と、
前記複数の目的サンプルと複数の品質管理用サンプルについての一連の測定における、目的サンプルと品質管理用サンプルとの識別が可能である識別情報を記憶しておくサンプル情報記憶部と、
前記サンプル情報記憶部に記憶されている前記識別情報を用い、目的サンプルに対する測定結果及び/又は該測定結果から導出される解析結果と、品質管理用サンプルに対する測定結果及び/又は該測定結果から導出される解析結果と、を分離してそれぞれ所定形式の表示情報を作成し、その二つの表示情報を表示部の画面上に表示する表示処理部と、
を備えるものである。
【0046】
上述の「分離」された「それぞれ所定形式の表示情報」とは、具体的には例えば、測定結果や解析結果がリストアップされた別々のテーブルなどとすることができる。
【0047】
第1項に記載の質量分析装置によれば、品質管理用サンプルの測定結果や解析結果をオペレーターが確認し易くなり、目的サンプルの測定結果や解析結果との誤認もなくなる。それにより、例えば、検査対象である検体由来の目的サンプルの測定結果や解析結果の妥当性の評価を、正確に且つ効率的に行うことができる。
【0048】
(第2項)第1項に記載の質量分析装置において、前記測定部は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析を行うものとすることができる。
【0049】
MALDI質量分析装置では、一般に、予め用意された多数のサンプルに対する測定を比較的短時間で順番に実施する。第2項に記載の質量分析装置によれば、測定対象である目的サンプルの数が多い場合でも、目的サンプルの測定結果や解析結果と品質管理用サンプルの測定結果や解析結果との混同が生じにくく、多数の目的サンプルの測定結果や解析結果の妥当性の評価を正確に且つ効率的に行うことができる。
【0050】
(第3項)第1項又は第2項に記載の質量分析装置において、前記表示情報は、品質管理用サンプルと該サンプルを用いて測定結果又は解析結果の品質が評価される対象である目的サンプルとの関係を示す情報を含むものとすることができる。
【0051】
第3項に記載の質量分析装置によれば、或る目的サンプルと該目的サンプルの測定結果や解析結果の信頼性を評価するために用いられる品質管理用サンプルとの対応関係が明確であるので、目的サンプルの測定結果や解析結果の妥当性の評価をより正確に且つ効率的に行うことができる。
【0052】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の質量分析装置は、
品質管理用サンプルに対する測定結果が得られる毎に、該測定結果又は該測定結果から導出される解析結果により測定状態の良否を判定する判定部と、
該判定部において測定状態が不良であると判定されたときに前記測定部による測定を中止するよう該測定部を制御する制御部と、
をさらに備えるものとすることができる。
【0053】
(第5項)また第4項に記載の質量分析装置において、前記表示処理部は、前記判定部による測定状態の良否の判定結果を解析結果と共に表示し、前記制御部は、ユーザーの指示を受けて前記測定部による測定を中止するよう該測定部を制御するものとすることができる。
【0054】
第4項及び第5項に記載の質量分析装置によれば、装置の不具合、サンプルの調製や測定条件の設定の不手際などによって測定が適切に行われていない可能性がある場合に、速やかにその測定を中止し、無駄な測定の実行を回避することができる。それによって、無駄な測定に時間や労力を費やすことを防止することができる。また、オペレーターは、測定が適切に行われない原因の調査に迅速に着手することができる。
【0055】
(第6項)第1項~第5項のいずれか1項に記載の質量分析装置において、前記表示処理部は、一つの目的サンプルに対する測定結果及び/又は解析結果を抽出して所定形式の表示情報を作成し、その表示情報を表示部の画面上に表示する個別結果作成部を含むものとすることができる。
【0056】
第6項に記載の質量分析装置によれば、目的サンプル毎に個別に測定結果や解析結果を表示することができる。それにより、例えば解析結果を被検者に開示する必要がある場合に、その被検者の解析結果のみを開示することができる。また、オペレーター等が特定の被検者の解析結果を確認したい際に、他の被検者の解析結果との混同を防止することができる。
【0057】
(第7項)第1項~第6項のいずれか1項に記載の質量分析装置は、前記測定部による測定で得られたマススペクトルから複数のアミロイドβ関連ピークを検出し、その検出されたピークの信号強度に基く所定の演算によって前記解析結果としての指標値を算出する解析部、をさらに備えるものとすることができる。
【0058】
マススペクトルから検出するアミロイドβ関連ピークは、特許文献2-3、非特許文献1等に開示されている既知の検査手法で用いられている特定の質量電荷比を有するアミロイドβ派生型ペプチド、例えばAβ1-39、Aβ1-40、Aβ1-42、APP669-711などである。
【0059】
第7項に記載の質量分析装置によれば、アミロイドβの脳内蓄積の状態を調べるスクリーニング検査の精度向上及び効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0060】
1…測定部
10…MALDIイオン源
100…ステージ
101…サンプルプレート
102…サンプル
103…レーザー照射部
11…飛行時間型質量分析部
2…制御・処理部
20…サンプル情報記憶部
21…分析制御部
22…マススペクトルデータ収集部
23…データ解析部
24…良否判定部
25…表示処理部
251…解析結果リスト作成部
252…個別解析結果レポート作成部
3…入力部
4…表示部