(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法、および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/03 20060101AFI20230912BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230912BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230912BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20230912BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C08L67/03
C08K7/02
C08L63/00 A
C08J3/20 Z CFD
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2022573669
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2022042832
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2021212186
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022098610
(32)【優先日】2022-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓平
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-132861(JP,A)
【文献】特開2008-106217(JP,A)
【文献】特開2016-216530(JP,A)
【文献】特開2003-026908(JP,A)
【文献】特開2001-279070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
C08K 3/00-13/08
C08L 67/00-67/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂を10重量部以上80重量部以下配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、示差走査熱量計を用いて昇降温速度20℃/minの条件で測定した融点が222℃以上230℃以下であり、同条件で測定した降温結晶化温度が170℃以上200℃以下である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
透過型電子顕微鏡にて観察される(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の球晶の平均直径が200nm以上800nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
o-クレゾール/クロロホルム溶媒(混合体積比=2/1)に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムにより滴定することで求めたカルボキシル基量が30eq/t以下である請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、さらに平均粒子径が10μm以下の(C)核剤0.01~0.8重量部を配合してなる請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、さらに二つ以上のエポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、および酸無水物基からなる群から選択されるいずれかの基を有する(D)鎖連結剤0.1~5重量部を配合してなる請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、さらに(E)繊維状強化材1~100重量部を配合してなる請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記(D)鎖連結剤がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、またはジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂である請求項
5に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂が、炭素数が10以上50以下の一価の脂肪族アルコールが、テレフタル酸由来の構造単位100モル%に対して、0.1~2.0モル%化合されたポリブチレンテレフタレート樹脂である請求項1~7のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂、および、(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂、ならびに、必要に応じてこれらに添加する成分を準備する工程、これらの樹脂および添加物を吐出部の溶融樹脂温度を315℃以下に制御して溶融混練する工程を含む、請求項1~8のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法、および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂、特にポリブチレンテレフタレート系樹脂は、その優れた射出成形性、機械特性、耐熱性、電気特性、耐薬品性等を利用して、機械部品、電気・通信部品、自動車部品等の分野で射出成形品として広範囲に利用されている。しかし、射出成形品の成形効率は良いが、その流動特性や金型構造の点から成形可能な製品形状に制限があり、あまり複雑なものは成形が困難である。
【0003】
従来から、製品形状の複雑化に伴う各パーツの接合においては、接着剤による接合、ボルト等による機械的接合等が行われてきた。しかしながら、接着剤による接合では強度が十分ではなく、また、ボルト等による機械的接合では、費用、締結の手間、製品の重量増が問題となっている。一方、レーザー溶着、熱板溶着等の外部加熱溶着、振動溶着、超音波溶着等の摩擦熱溶着に関しては短時間で接合が可能であり、また、接着剤や金属部品を使用しないので、それにかかるコストや製品の重量増、環境汚染等の問題が発生しないことから、これらの方法による接合が増えてきている。
【0004】
外部加熱溶着のひとつであるレーザー溶着は、重ね合わせた樹脂成形体にレーザー光を照射し、一方を透過させてもう一方で吸収させることで樹脂を溶融、融着させる工法であり、三次元接合が可能であること、非接触加工が可能であること、バリ発生が無い等の利点を利用して、幅広い分野に広がりつつある工法である。
【0005】
高い寸法安定性や低吸水性を有するために、各種用途に数多く使用されているポリブチレンテレフタレート系樹脂は、ポリアミド樹脂に比べてレーザー透過性が非常に低い。そのため、ポリブチレンテレフタレート系樹脂をレーザー光線透過側の成形品として用い、レーザー溶着工法を適用する際には、成形品の厚み制限が非常に厳しく、レーザー透過性の向上のために成形品の薄肉化が必要となり、製品設計の自由度が小さかった。
【0006】
また、熱可塑性ポリエステル樹脂は、加水分解により劣化するが、機械部品、電気・通信部品および自動車部品等の工業用材料として使用するためには、機械特性やレーザー透過性に加えて、長期における耐加水分解性を有することも求められている。
【0007】
上記の課題に対して、レーザー透過性を改善するため、特許文献1では、ポリエステル樹脂に対して脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩を添加する方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2では、ポリエステル樹脂に対して、テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基とが結合した繰返し単位が25モル%以上を占めるポリエステル樹脂を配合してなる樹脂組成物を得る方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2014-512420号公報
【文献】特開2008-106217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では、レーザー透過率のばらつきは小さく、レーザー透過率は良好であるものの、アルカリ金属塩を添加するため熱可塑性成形材料の製造過程でポリエステル樹脂が熱分解してカルボキシル基末端が増加するため、強度および耐加水分解性が低下するという課題があった。
【0011】
また、特許文献2は、レーザー透過率は高いものの係るポリエステル樹脂を非晶性樹脂として配合するため成形時に結晶化が不十分な部位があり、レーザー透過率のばらつきが大きく、レーザー溶着工法を適用しようとした時に成形品の部位によってレーザー出力の調整が必要であった。また、溶着時に成形品の寸法が変化してしまう、つまり寸法安定性の低さからも溶着工法へ適用することが困難となる課題があった。また成形品の耐熱性および耐加水分解性も不十分であった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、レーザー透過率のばらつきを抑えつつ、レーザー透過率に優れ、機械強度、耐熱性、耐加水分解性、寸法安定性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明は次の構成からなる。
[1](A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂を10重量部以上80重量部以下配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であって、示差走査熱量計を用いて昇降温速度20℃/minの条件で測定した融点が222℃以上230℃以下であり、同条件で測定した降温結晶化温度が170℃以上200℃以下である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[2]透過型電子顕微鏡にて観察される(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の球晶の平均直径が200nm以上800nm以下であることを特徴とする[1]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[3]o-クレゾール/クロロホルム溶媒(混合体積比=2/1)に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムにより滴定することで求めたカルボキシル基量が30eq/t以下である[1]または[2]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[4](A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、さらに平均粒子径が10μm以下の(C)核剤0.01~0.8重量部を配合してなる[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[5](A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、さらに二つ以上のエポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、酸無水物基からなる群から選択されるいずれかの基を有する(D)鎖連結剤0.1~5重量部を配合してなる[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[6](A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、さらに(E)繊維状強化材1~100重量部を配合してなる[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[7]前記(D)鎖連結剤がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、またはジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂である[5]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[8]前記(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂が、炭素数が10以上50以下の一価の脂肪族アルコールが、テレフタル酸由来の構造単位100モル%に対して、0.1~2.0モル%化合されたポリブチレンテレフタレート樹脂であることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[9](A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂、および、(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂、ならびに、必要に応じてこれらに添加する成分を準備する工程、これらの樹脂および添加物を吐出部の溶融樹脂温度を315℃以下に制御し溶融混練する工程を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
[10][1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を用いることで、レーザー透過率のばらつきを抑えつつ、高いレーザー透過率を有しており、機械強度、耐加水分解性、寸法安定性に優れた成形品を得ることができる。そのため、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、各種用途の樹脂成形体をレーザー溶着する場合の、特にレーザー透過側の成形体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】レーザー透過率を評価するための試験片とレーザー透過率のばらつきを評価するための測定部位を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、「(A)成分」ということがある)100重量部に対し、(B) テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂(以下、「(B)成分」ということがある)を10重量部以上80重量部以下配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。さらに後述する方法により示差走査熱量計を用いて昇降温速度20℃/minの条件で測定した融点が222℃以上230℃以下、かつ同条件で測定した降温結晶化温度が170℃以上200℃以下とすることで、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の結晶を均一に微細化することができ、成形品内でのレーザー透過率のばらつきを低減しつつ、優れたレーザー透過率、機械物性、耐熱性、耐加水分解性、および寸法安定性を発現し、本発明の効果を達成することができる。なお、本発明において、テレフタル酸残基とは、テレフタロイル構造(-CO-Ph-CO-。ここで、Phはパラフェニレン基)をいい、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基とは、オキシメチレン-1,4-シクロヘキシレンメチレンオキシ構造をいう。
【0017】
ここで、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分および(B)成分が反応した反応物を含むが、当該反応物は(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の主鎖と(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂とのエステル交換反応等、複雑な反応により生成されたものであり、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分により発明を特定するものである。
【0018】
本発明において、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂とは、ポリブチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート共重合体のいずれか、またはこれらを併用してもよい。
【0019】
ポリブチレンテレフタレートは、テレフタル酸(あるいはジメチルテレフタレート等のそのエステル形成性誘導体)と1,4-ブタンジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)とを重縮合反応して得られる重合体である。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート共重合体は、テレフタル酸(あるいはジメチルテレフタレート等のそのエステル形成性誘導体)と1,4-ブタンジオール(あるいはそのエステル形成性誘導体)およびこれらと共重合可能なその他のジカルボン酸(あるいはそのエステル形成性誘導体)あるいはその他のグリコール(あるいはそのエステル形成性誘導体)の共存下、重合することによって得ることができる重合体である。
【0021】
共重合可能なジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、またはそれらのエステル形成性誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、共重合が可能であればいかなるものでも使用可能である。また複数種以上同時に使用することもできる。共重合可能なジカルボン酸の割合は、全ジカルボン酸成分中、3~30モル%の範囲であることが成形性の点から好ましく、3~20モル%の範囲であることがより好ましい。
【0022】
一方、共重合可能なグリコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチルシクロブタンジオール、イソソルビド、ダイマージオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ハイドロキノン、レゾルシノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく共重合が可能であればいかなるものでも使用可能である。また複数種以上同時に使用することもできる。1,4-ブタンジオール以外の共重合可能なグリコールの割合は、全グリコール成分中、3~30モル%の範囲であることが成形性の点から好ましく、3~20モル%の範囲であることがより好ましい。
【0023】
その他の共重合可能な成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、p-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0024】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、炭素数が10以上50以下の一価の脂肪族アルコールが、テレフタル酸由来の構造単位100モル%に対して、0.1~2.0モル%化合されたポリブチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。このようなポリブチレンテレフタレート系樹脂を適用することで、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のレーザー透過率、成形品の寸法安定性が向上するため好ましい。脂肪族アルコールが化合される量は、レーザー透過性、寸法安定性が向上する観点から、テレフタル酸由来の構造単位100モル%に対して、0.5モル%以上が好ましく、0.7モル%以上がより好ましい。また、1.8モル%以下が好ましく、1.6モル%以下がより好ましい。
【0025】
上記の炭素数が10以上50以下の脂肪族アルコールは、炭素原子および水素原子からなる炭化水素を主骨格とし、水酸基を一つ有する単官能のアルコール化合物であり、炭素原子が鎖状につながった構造において直鎖もしくは分岐、環状構造を有していてよい。その例として、デシル基(C10)、ウンデシル基(C11)、ドデシル基(C12)、トリデシル基(C13)、テトラデシル基(C14)、ペンタデシル基(C15)、ヘキサデシル基(C16)、ヘプタデシル基(C17)、オクタデシル基(C18)、ノナデシル基(C19)、イコシル基(C20)、ヘンイコシル基(C21)、ドコシル基(C22)、トリコシル基(C23)、テトラコシル基(C24)、ペンタコシル基(C25)、ヘキサコシル基(C26)、ヘプタコシル基(C27)、オクタコシル基(C28)、トリアコンチル基(C30)、テトラコンチル基(C40)などの直鎖の飽和脂肪族基を有するアルコール化合物、ブチルヘキシル基(C10)、ブチルオクチル基(C12)、ヘキシルオクチル基(C14)、ヘキシルデシル基(C16)、オクチルデシル基(C18)、ヘキシルドデシル基(C18)、トリメチルブチルトリメチルオクチル基(C18)、ブチルテトラデシル基(C18)、ヘキシルテトラデシル基(C20)、オクチルテトラデシル基(C22)、オクチルヘキサデシル基(C24)、デシルテトラデシル基(C24)、ドデシルテトラデシル基(C26)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、ドデシルヘキサデシル基(C28)、テトラデシルオクタデシル基(C32)、ヘキサデシルイコサシル基(C36)などの分岐を有する飽和脂肪族基を有するアルコール化合物、パルミトレイル基(C16)、オレイル基(C18)、リノレイル基(C18)、エルシル基(C22)などの不飽和脂肪族基を有するアルコール化合物が挙げられる。なお、上記説明において、「C」の後に記載した数字はその基の炭素の数を表す。これらの中で、色調の点から直鎖や分岐を有する飽和脂肪族基が好ましく、レーザー透過性、寸法安定性の向上の観点から、分岐を有する飽和脂肪族基であることが好ましい。脂肪族基の炭素数は10以上50以下であれば流動性向上効果が得られ、さらに流動性を向上できる点で、炭素数の下限は16以上であることが好ましく、20以上であることがさらに好ましい。炭素数の上限は36以下であることが好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)は、前記のなかでも炭素数が16以上36以下の分岐を有する飽和脂肪族基を分子末端に有している末端変性ポリブチレンテレフタレート系樹脂であることが好ましく、その官能基濃度が0.005mmol/g以上0.20mmol/g未満であることが好ましい。飽和脂肪族基の官能基濃度が0.005mmol/g以上であれば流動性を向上できるため好ましい。より好ましくは0.010mmol/g以上、さらに好ましくは0.020mmol/g以上である。一方、飽和脂肪族基の官能基濃度が0.20mmol/g未満であれば、機械物性や耐熱性を向上することができるため好ましい。より好ましくは0.18mmol/g未満であり、さらに好ましくは0.15mmol/g未満である。
【0027】
本発明において、分子末端に存在する脂肪族基の官能基濃度は、重ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として1H-NMRによって測定した末端基由来のピークの積分比により求めた値である。
【0028】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂のカルボキシル基濃度は、(B)成分とのエステル交換反応による融点および降温結晶化温度の低下を抑制し、レーザー透過率のばらつきを抑制する観点から、35eq/t以下であることが好ましい。より好ましくは30eq/t以下であり、さらに好ましくは20eq/t以下である。カルボキシル基濃度の下限値は、0eq/tである。ここで、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂のカルボキシル基濃度は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒(混合体積比=2/1)に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0029】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、機械特性をより向上させる点で、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上できるため、好ましい。より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。本発明において、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0030】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の固有粘度は、機械特性をより向上させる点で、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.50dl/g以上である。また、流動性を向上させることができる点から1.60dl/g以下であることが好ましく、1.50dl/g以下がより好ましい。
【0031】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、公知の重縮合法や開環重合法等により製造することができる。製造方法は、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、生産性の観点から、連続重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0032】
本発明で用いられる(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂が、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを主成分とする縮合反応により得られる重合体または共重合体である場合には、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応することにより製造することができる。
【0033】
エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステル等の有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等のアルキルスタンノン酸等のスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド等のジルコニア化合物、三酸化アンチモンおよび酢酸アンチモン等のアンチモン化合物等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0034】
これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルがさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上0.2重量部以下の範囲が好ましい。
【0035】
本発明に用いられる、(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂とは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはそのエステル形成性誘導体の残基の含有率が50~90モル%となるように、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体、1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはそのエステル形成性誘導体、およびこれらと共重合可能なモノマーを共重合した共重合体である。前記テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造の含有率が50モル%未満や90モル%を超える場合、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂との相溶性が低下し、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の結晶を微細化することができず、レーザー透過率が不十分となる。さらにテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の残基と1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはそのエステル形成性誘導体の残基の合計は、耐加水分解性の向上する点で、60モル%以上が好ましく、さらに好ましくは65モル%以上が好ましい。一方、レーザー透過率を向上する点で、85モル%以下が好ましく、さらに好ましくは80モル%以下である。なおここで、上記のとおり、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸のみを用いた場合は、ジオール成分における1,4-シクロヘキサンジメタノールのモル分率が、テレフタル酸とジオールとが結合した構造単位の全体に占めるテレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造のモル分率となる。本発明においては、(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂として、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分を用いることを排除するものでないことはもちろんである。また、本発明の主旨に沿えば、(B)成分は、総ジカルボン酸残基に対するテレフタル酸残基のモル比(テレフタル酸残基のモル数/総ジカルボン酸残基のモル数)と、総ジオール残基に対する1,4-シクロヘキサンジメタノール残基のモル比(1,4-シクロヘキサンジメタノール残基のモル数/総ジオール残基のモル数)の積として、0.5~0.9、好ましくは0.6~0.8、であるということもできる。
【0036】
(B)成分に共重合可能なモノマーは、前記(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の説明において例示した成分と同様であり、中でも耐熱性やレーザー透過率を向上する点で、エチレングリコール、テトラメチルシクロブタンジオール、イソソルビドのいずれかとの共重合体であることが好ましく、さらに中でもエチレングリコールとの共重合体であることがより好ましい。
【0037】
(B)成分は、前記(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と同様にエステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応することにより製造することができる。
【0038】
本発明において(B)成分の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対して10重量部~80重量部である。10重量部未満だとレーザー透過率が不十分であり、80重量部を超えると耐熱性が不十分となる。さらに(B)成分の配合量の下限は、好ましくは20重量部以上であり、さらに好ましくは30重量部以上である。一方、(B)成分の配合量の上限は、好ましくは70重量以下であり、さらに好ましくは60重量部以下である。
【0039】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物においては、レーザー透過率のばらつきを低減できる点で、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対して、さらに平均粒子径が10μm以下の(C)核剤0.01~0.8重量部を配合してなることが好ましい。(C)の配合量の下限は、レーザー透過率のばらつきをより低減し、耐熱性を向上できる点で、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対して0.05重量部以上がより好ましく、0.08重量部以上がさらに好ましい。一方で、(C)の配合量の上限は、耐加水分解性を向上できる点から、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対して0.5重量部以下がより好ましく、0.3重量部以下がさらに好ましい。
【0040】
(C)核剤としては、マイカやタルク、カオリン、金属酸化物などの無機粒子や、融点が280℃以上の有機物粒子が好ましく、中でもタルクがより好ましい。
【0041】
(C)核剤の平均粒子径は、レーザー透過率を向上する点で、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、4μm以下がさらに好ましい。下限値については特に限定しないが、耐加水分解性の向上の点から0.1μm以上が好ましい。なお、平均粒子径は(株)島津製作所製レーザー粒度分布計SALD-2000による粒子径測定により求めた体積基準の累積分布における50%累積時の粒径値である。
【0042】
また、前記特許文献1などで核剤として用いられるアルカリ金属塩は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)成分とのエステル交換反応を過剰に促進してしまい、レーザー透過率のばらつきを増加し、耐熱性を低下してしまうため、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対するアルカリ金属塩の配合量は、0.03重量部未満とすることが好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物においては、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)成分の末端基同士を反応により連結することで、相溶性を高め、過度のエステル交換反応を抑制し、レーザー透過率のばらつきを低減しつつ、レーザー透過率を向上できる。その点で、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対して、さらに二つ以上の、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、および酸無水物基からなる群から選択されるいずれかの基を有する(D)鎖連結剤0.1~5重量部を配合してなることが好ましい。(D)鎖連結剤の配合量の下限はより好ましくは、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上であり、さらに好ましくは1重量部以上である。一方、(D)鎖連結剤の配合量の上限は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対して、4重量部以下がより好ましく、3重量部以下がより好ましい。
【0044】
(D)鎖連結剤として、二官能以上のエポキシ化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、酸無水物基含有化合物を例示できる。これらを2種以上用いてもよい。
【0045】
エポキシ化合物としては、たとえばグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、グリシジル基含有ビニル系重合体等などが挙げられる。
【0046】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、エピクロロヒドリンとビスフェノールAから製造されるエポキシ樹脂、エピクロロヒドリンとビスフェノールFから製造されるエポキシ樹脂、ノボラック樹脂にエピクロロヒドリンを反応させたフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型樹脂、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂等が例示される。
【0047】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、エピクロロヒドリンと、フタル酸、テトラヒドロフタル酸、p-オキシ安息香酸およびダイマー酸から選択されるいずれか、から製造されるエポキシ樹脂、トリメシン酸トリグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステル等が例示される。
【0048】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、エピクロロヒドリンと、アニリン、ジアミノジフェニルメタン、p-アミノフェノール、メタキシリレンジアミンおよび1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから選択されるいずれか、から製造されるエポキシ樹脂、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-パラアミノフェノール、トリグリシジル-メタアミノフェノール、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、トリグリシジルシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、ナフタレン等が例示される。
【0049】
脂環式エポキシ樹脂としては、シクロヘキセンオキサイド基、トリシクロデセンオキサイド基、シクロペンテンオキサイド基を有する化合物等が例示される。
【0050】
複素環式エポキシ樹脂としては、エピクロロヒドリンと、ヒダントインまたはイソシアヌル酸から製造されるエポキシ樹脂等が例示される。
【0051】
グリシジル基含有ビニル系重合体としては、グリシジル基含有ビニル系単位を形成する原料モノマーをラジカル重合したものが挙げられる。グリシジル基含有ビニル系単位を形成する原料モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、p-スチリルカルボン酸グリシジル等の不飽和モノカルボン酸のグリシジルエステル、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和ポリカルボン酸のモノグリシジルエステルまたはポリグリシジルエステル、アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン-4-グリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル等が挙げられる。
【0052】
中でも、(D)鎖連結剤として使用される化合物中のエポキシ基同士の反応を抑制し、効率的に(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)成分の末端基を反応することができる点で、グリシジルエーテル系化合物が好ましく、中でもクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂がより好ましく、さらに耐加水分解性を向上できる点でジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂がさらに好ましい。
【0053】
カルボジイミド化合物としては、N,N’-ジイソプロピカルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのジカルボジイミド、ポリ(1,6-ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフタレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,5-ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミドが挙げられる。
【0054】
オキサゾリン化合物として、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド等のオキサゾリン基を有する化合物や、オキサゾリン基含有ポリマー等が挙げられる。
【0055】
イソシアネート化合物として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート(TPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)等が挙げられる。
【0056】
酸無水物基含有化合物として、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、4,4-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、2,2’,6,6’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンジカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンジカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンジカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビスシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[6.4.0.0(2,7)]ドデカン-1,8:2,7-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等、無水マレイン酸とエチレンやプロピレンなどの不飽和炭化水素やスチレンなどのビニル化合物との共重合ポリマー等が挙げられる。
【0057】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(E)繊維状強化材が配合されていることが好ましい。(E)繊維状強化材が配合されることで、レーザー透過性を向上させつつ、成形品の機械強度を向上させることができる。(E)繊維状強化材としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、セルロース繊維などが挙げられるが、中でもガラス繊維を好ましく用いることができる。
【0058】
(E)繊維状強化材は、断面が円形状でも、扁平形状でもいずれでもよいが、変形の抑制や反りの低減、安定したレーザー透過性等の点で、その断面形状が扁平であることが好ましい。一般に、(E)繊維状強化材が配合された組成物は成形時流動方向に繊維が配向するので、成形収縮率(樹脂成形品と金型との寸法差の百分率)の異方性が大きくなり、変形や反りが大きくなる。ところが、断面形状が扁平の場合、成形収縮率の異方性が小さくなり、変形、反りが改善されやすい。
【0059】
本発明において用いる(E)繊維状強化材は、長さ方向に垂直に切断した断面において、長径(断面の最長の直線距離)と短径(長径と直角方向の最長の直線距離)の比で表される扁平率が1より大きく10以下であることが好ましい。扁平率の下限値は、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。また、上限値は、5以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2以下が最も好ましい。具体的な形状は、まゆ形、長円形、楕円形、半円、円弧形、矩形またはこれらの類似形状のいずれでもよいが、流動性、低反り性の点で、特に長円形が好ましい。
【0060】
上記扁平率が1より大きいことで、成形時における変形や反りを抑制し、また10以下とするのは現実的にそのような(E)繊維状強化材の製造自体が困難である。また、(E)繊維状強化材は、比重を小さくする等の目的の為に中空繊維を使用することも可能である。(E)繊維状強化材の断面積は、大きくなるに伴い、十分な補強効果が得られなくなる。一方、あまりに過小になるとそれ自体の製造が困難になり、取り扱いにくくなる課題もある。本発明における(E)繊維状強化材の断面積は、2×10-5~8×10-3mm2が好ましく、8×10-5~8×10-3mm2がより好ましく、8×10-5~8×10-4mm2がさらに好ましい。
【0061】
(E)繊維状強化材の繊維長は特に限定されないが、成形品の機械特性と変形抑制との兼ね合いにより、成形品の変形量を小さくするために短い方が好ましいが、機械特性の点で繊維長が30μm以上であることが好ましく、要求される性能に応じて、50~1000μmが好ましい。
【0062】
本発明で用いる(E)繊維状強化材において、必要に応じて、集束剤または表面処理剤を使用することが好ましい。集束剤または表面処理剤としては、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物である。これらの化合物はあらかじめ表面処理または集束処理を施して用いるか、又は材料調製の際に同時添加してもよい。
【0063】
本発明において用いられる(E)繊維状強化材の配合量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、1重量部以上100重量部以下であることが好ましい。(E)繊維状強化材の配合量が1重量部以上であれば、成形品の機械強度を向上させることができる。10重量部以上がより好ましく、20重量部以上がさらに好ましい。また、(E)繊維状強化材の配合量が100重量部以下であれば、レーザー透過性の低下を抑制することができる。80重量部以下がより好ましく、50重量部以下がさらに好ましい。
【0064】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、示差走査熱量計を用いて昇降温速度20℃/minの条件で測定した融点が222℃以上230℃以下、かつ同条件で測定した降温結晶化温度が170℃以上200℃以下である。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の融点が222℃未満であると、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)成分とのエステル交換反応が過剰であり、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の結晶性が著しく低下することから、その結果レーザー透過率のばらつきが増加し、耐熱性も不十分である。一方、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の融点が230℃を超えると(B)成分の結晶が粗大であり、レーザー透過率が不十分となる。レーザー透過率のばらつきを低減し、耐熱性をさらに向上できる点で、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の融点は223℃以上が好ましい。一方で、レーザー透過率を向上できる点で、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の融点は229℃以下が好ましく、228℃以下がより好ましい。
【0065】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、降温結晶化温度が170℃未満であると、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の結晶化速度が遅くなりすぎており、溶融加工時に結晶化度のばらつきが大きく、結果レーザー透過率のばらつきが増加する。一方、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の降温結晶化温度が200℃を超えると(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の結晶化速度が速くなりすぎており、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の結晶が粗大となることから、その結果レーザー透過率が不十分となる。上記説明した降温結晶化温度は、レーザー透過率のばらつきを低減できる点で、172℃以上とすることが好ましく、180℃以上とすることがより好ましく、一方で、レーザー透過率を向上できる点で、197℃以下とすることが好ましく、195℃以下とすることがより好ましい。
【0066】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の融点を222℃以上とする手段として、以下に示す方法に限られることはないが、たとえばエステル交換反応を抑制する観点から(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂のカルボキシル基量を35eq/t以下とすることや、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル基量を30eq/t以下とすることや、前記(D)鎖連結剤を併用することや、溶融混練時の吐出部温度を315℃以下とする製造方法にて製造すること、などが挙げられる。
【0067】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の融点を230℃以下とする手段としては、たとえば(B)成分の結晶化を抑制する観点から、(B)成分のテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはそのエステル形成性誘導体の残基の含有率を50~90モル%とすることが挙げられる。
【0068】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の降温結晶化温度を170℃以上とする手段として、以下に示す方法に限られることはないが、たとえば結晶化速度を制御する観点で、前記(C)核剤を配合することや、エステル交換反応を抑制する観点で、溶融混練時の吐出部温度を315℃以下とする製造方法にて製造することなどが挙げられる。
【0069】
前記降温結晶化温度を200℃以下とする手段として、たとえば(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)成分との相溶性を高める観点から、(B)成分のテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と1,4-シクロヘキサンジメタノールまたはそのエステル形成性誘導体の残基の含有率を50~90モル%とすることが挙げられる。
【0070】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、透過型電子顕微鏡にて観察される(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の球晶の平均直径が200nm以上800nm以下であることが好ましい。(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の球晶の平均直径が200nm以上であることで、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の結晶成分に起因して熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性が優れるため好ましく、該平均直径は300nm以上とすることがより好ましい。一方、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の球晶の平均直径が800nm以下であることで、ポリブチレンテレフタレート系樹脂の過度な結晶化が抑制されレーザー透過性にさらに優れたものとなるため好ましく、該平均直径は700nm以下とすることがより好ましい。ポリブチレンテレフタレート系樹脂の球晶の平均直径の定量方法は、熱可塑性ポリエステルの成形品から超薄切片を切り出し、適宜染色をした試料を、透過型電子顕微鏡で観察を行い、球晶の写真を撮影した後、画像解析装置などで球晶の直径の数平均を算出することで得られる。その詳細は、実施例の項で説明するとおりである。
【0071】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、カルボキシル基濃度が0eq/t以上30eq/t以下であることが好ましい。30eq/t以下であれば、溶融加工時の(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂と(B)成分とのエステル交換反応が抑制され、融点が低下せず、レーザー透過率のばらつきが低減できる。カルボキシル基濃度は25eq/t以下がより好ましく、20eq/t以下がさらに好ましい。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル基濃度の定量方法としては、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物をクロロホルム/o-クレゾール(混合体積比=1/2)調整液に溶解し、ブロモチモールブルー/エタノール溶液を適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより算出できる。
【0072】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、(A)成分および(B)成分以外の他の熱可塑性樹脂を配合してもよく、成形性、寸法精度、成形収縮および靭性等を向上させることができる。(A)成分および(B)成分以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族または脂肪族ポリケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性澱粉樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。
【0073】
さらに、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物においては、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分、例えば加工安定剤、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾフェノン系等)、滑剤(モンタン酸及びそのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ポリエチレンワックス等)、顔料、染料、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、着色防止剤、他の重合体等を含有することができる。
【0074】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、例えば、前記(A)成分および(B)成分、ならびに必要に応じてその他の成分を溶融混練することにより得ることができる。
【0075】
溶融混練の方法としては、例えば、(A)成分、(B)成分、および各種添加剤等を予備混合して、押出機等に供給して十分溶融混練する方法、あるいは、重量フィーダー等の定量フィーダーを用いて各成分を所定量押出機等に供給して十分溶融混練する方法等が挙げられる。
【0076】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法等が挙げられる。また、(E)繊維状強化材は、二軸押出機等の多軸押出機の元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機等の多軸押出機の元込め部とベント部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部等から定量ポンプで供給する方法等を用いてもよい。
【0077】
また、溶融混練時の吐出部の樹脂温度が高すぎると、(A)成分と(B)成分とのエステル交換反応が過剰に促進されるため、吐出部の溶融樹脂温度は315℃以下とすることが好ましい。より好ましくは310℃以下であり、さらに好ましくは305℃以下である。吐出部の溶融樹脂温度は、熱電対温度計を用いて、熱電対を押出ダイ先端吐出部の溶融樹脂に30秒押し当て、指示された温度を指す。
【0078】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ペレット化してから成形加工することが好ましい。ペレット化の方法として、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を構成する各成分を、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機等を用いて、ストランド状に吐出し、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0079】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形等が挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0080】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形等が知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0081】
本発明の成形品は、機械物性および耐加水分解性に優れる特徴を活かした機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品等各種用途に利用することができる。さらに、高いレーザー透過性によりレーザー溶着が可能であることから、レーザー溶着をする自動車用部品、電気・電子部品として好適である。
【0082】
機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品の具体的な例としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器等のハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品等の音声部品、照明部品、電信機器関連部品、電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビ等の家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品等が挙げられる。
【実施例】
【0083】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。ここで下記の樹脂名中の「/」は共重合を意味し、EGはエチレングリコール,CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノールの略語を意味する。
【0084】
実施例で使用する主要原料の略号およびその内容を以下にまとめて示す。
【0085】
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂
A-1:ポリブチレンテレフタレート(カルボキシル基濃度(CV)18eq/t、o-クロロフェノール溶液を溶媒として25℃で測定した固有粘度が0.80dL/g)。
A-2:ポリブチレンテレフタレート(カルボキシル基濃度(CV)25eq/t、o-クロロフェノール溶液を溶媒として25℃で測定した固有粘度が0.80dL/g)。
A-3:ポリブチレンテレフタレート(カルボキシル基濃度(CV)38eq/t、o-クロロフェノール溶液を溶媒として25℃で測定した固有粘度0.80dL/g)。
A-4:以下の製造例により得られた一価の脂肪族アルコールが化合するポリブチレンテレフタレート(カルボキシル基濃度(CV)35eq/t、o-クロロフェノール溶液を溶媒として25℃で測定した固有粘度0.80dL/g)。
【0086】
[製造例]
エステル化反応におけるジオール成分とジカルボン酸成分のモル比(ジオール成分/ジカルボン酸成分)を1.5とし、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸:2000g、ジオール成分として1,4-ブタンジオール:1627g、分岐を有する飽和脂肪族アルコールとして2-ヘキシル-1-ドデカノール:49g(テレフタル酸100モル%に対して1.5モル%)、エステル化反応触媒としてテトラ-n-ブトキシチタン(TBT):生成するポリブチレンテレフタレート100gに対して7.5×10-5モル(生成するポリブチレンテレフタレート100重量部に対して0.025重量部)を、精留塔の付いた反応器に仕込み、温度160℃、窒素気流下にてエステル化反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度225℃の条件下でエステル化反応を行った。留出液の状態などによりエステル化反応の終了を確認し、エステル化反応の反応時間を220分間とした。得られた反応物に、重縮合反応触媒としてTBT:生成するポリブチレンテレフタレート100gに対して7.5×10-5モル(熱可塑性樹脂100重量部に対して0.025重量部)を添加し、温度260℃、圧力100Paの条件で重縮合反応を行った。反応物の粘度などにより重縮合反応の終了を確認し、ポリブチレンテレフタレートを得るための重縮合反応の反応時間を140分間とし、合計360分間反応を実施し、ポリブチレンテレフタレート(A-4)を得た。
【0087】
(B) テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂(表中、(B)PCTG系樹脂)
B-1:Eastman Chemical(株)製、“EASTAR” DN011(EG/CHDM=29/71モル%)
(B’)(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂に該当しない樹脂
B’-1:Eastman Chemical(株)製、“EASTAR” GN002M(EG/CHDM=68/32モル%)
B’-2:ポリカーボネート樹脂(出光興産(株)製、“タフロン” A1900)
(C)核剤
C-1:タルク、竹原化学工業(株)製、Pタルク(平均粒子径9μm)
C-2:タルク、竹原化学工業(株)製、ハイトロン(平均粒子径6μm)
C-3:タルク、竹原化学工業(株)製、ハイトロンA(平均粒子径3μm)
C-4:タルク、福岡タルク工業所製、FT-96(平均粒子径12μm)
(D)鎖連結剤
D-1:ビスフェノールAとエピクロロヒドリンから製造されるエポキシ化合物(三菱化学(株)製、jER828)
D-2:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EOCN104S)
D-3:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC(株)製、HP7200H)
D-4:ポリカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル(株)製、カルボジライトLA-1)。
【0088】
(E)繊維状強化材
E-1:丸形断面チョップドストランドタイプガラス繊維(繊維径13μm)。
【0089】
(F)その他化合物
F-1:リン系安定剤((株)ADEKA製、“アデカスタブ”AX―71)
また、実施例および比較例に用いた評価方法を以下にまとめて示す。
【0090】
(1)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル基濃度
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物約2gをクロロホルム/o-クレゾール(1/2vol)調整液50mLに溶解した。この溶液にブロモチモールブルー/エタノール溶液を適量添加の後、0.02規定のKOHエタノール溶液にて滴定することにより算出した(単位:eq/t)。
【0091】
(2)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の融点および降温結晶化温度
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を約10mg採取し、窒素雰囲気下、株式会社パーキンエルマー製示差走査熱量計DSC7を用いて測定した。熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を20℃/分の昇温速度で250℃まで昇温して溶融状態とした後、20℃/分の降温速度で30℃まで降温したときに観測される発熱ピークの頂点の温度を降温結晶化温度とし、その後20℃/分の昇温速度で昇温したときに観測される吸熱ピークの頂点の温度を融点として求めた。
【0092】
(3)(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の球晶の平均直径
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機と0.8mmtフィルムゲートおよび幅80mm×長さ80mm×厚さ1mmtキャビティからなる金型を用いて、成形温度を280℃、金型温度80℃の温度条件、50mm/sの射出速度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で、幅80mm×長さ80mm×厚さ1mmtの角板成形品を成形した。角板成形品の中央部からウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、四酸化ルテニウムを用いて染色して観察試料を用意した。これを(株)日立製作所社製H-7100型透過型電子顕微鏡を用いて1,000~5,000倍に拡大し観察を行った。得られた写真から球晶の像を任意に10点選択し、算術平均値で求めた。なお、個々の球晶の直径は、ScionCorporation社製画像解析ソフト「Scion Image」を使用して、電子顕微鏡写真中に存在する球晶の長径および短径の平均値を算出することで求めた。
【0093】
(4)レーザー透過率のばらつき/大きさ
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、(3)項の角板成形品と同一の成形条件で、幅80mm×長さ80mm×厚さ1mmtのレーザー光線透過性評価試験片を成形した。(株)島津製作所製の紫外近赤外分光光度計(UV-3150)を用い、
図1に示すとおり試験片1のゲート部2に接する辺のゲート側中央部をA点として、ゲート部とは反対方向に13mm移動した点をB点、67mm移動した点をC点とした。B点およびC点において、近赤外線である波長940nmのレーザー透過率をそれぞれ測定した。レーザー透過率のばらつきの大きさはB点とC点の透過率の差の絶対値で示し、レーザー透過率の大きさはB点とC点の透過率の平均値で評価した。透過率は透過光量と入射光量の比を百分率で表した。レーザー透過率のばらつきの大きさは30%を超えると劣ると判断し、レーザー透過率のばらつきの大きさは小さいほど優れていると判断し、特に25%以下が優れていると判断し、20%以下がさらに優れていると判断した。また、レーザー透過率の大きさは20%未満で劣ると判断し、レーザー透過率は大きいほど優れていると判断し、30%以上がより優れていると判断し、40%以上がさらに優れていると判断した。
【0094】
(5)引張強度
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、成形温度を250℃、金型温度80℃の温度条件で、50mm/sの射出速度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で、試験片厚み4mmtのISO-1Aダンベルの引張物性評価用試験片を得た。また、得られた引張物性評価用試験片について、ISO527-1,2(2012年)に従い、(株)島津製作所製の引張試験機(オートグラフAG-50kNXPlus)を用い、引張最大点強度(引張強度)を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。引張強度の値が大きい材料を機械特性に優れると判断した。
【0095】
(6)耐熱性
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、(5)項の引張物性と同一の射出成形条件で、試験片長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの熱変形温度評価用試験片を得た。得られた熱変形温度評価用試験片を用い、ISO75(2013年)に従い、(E)繊維状強化材を配合していない場合は測定荷重0.45MPaの条件で熱変形温度を測定した。(E)繊維状強化材を配合している場合は測定荷重1.8MPaの条件で熱変形温度を測定した。どちらの場合も値は3本の測定値の平均値とした。(E)繊維状強化材を配合していない材料では80℃未満だと劣ると判断し、(E)繊維状強化材を配合している材料では特に150℃未満だと劣ると判断した。熱変形温度が高い材料ほど耐熱性に優れると判断し、(E)繊維状強化材を配合していない材料では100℃以上だとより優れていると判断し、(E)繊維状強化材を配合している材料では170℃以上だとより優れていると判断した。
【0096】
(7)耐加水分解性
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、(5)項の引張物性と同一の射出成形条件で、試験片厚み4mmtのISO-1Aダンベルの引張物性評価用試験片を得た。得られたISOダンベルダンベルを121℃×100%RHの温度と湿度に設定されたエスペック(株)社製高度加速寿命試験装置EHS-411に50時間投入し湿熱処理を行った。湿熱処理後の成形品を(5)項の引張試験と同一の条件で引張最大点強度を測定し、3本の測定値を平均値とした。湿熱処理未処理の引張最大点強度に対する湿熱処理後の引張最大点強度の値を百分率で表した値を、引張強度保持率とした((湿熱処理後の引張最大点強度/湿熱処理未処理の引張最大点強度)×100=引張強度保持率(%))。
【0097】
引張強度保持率が50%未満の材料は耐加水分解性に劣ると判断し、引張強度保持率の値が大きい材料が優れていると判断した。特に引張強度保持率が60%以上でより優れていると判断し、70%以上でさらに優れていると判断した。
【0098】
(8)寸法安定性
日精樹脂工業(株)製NEX1000射出成形機を用いて、(3)項で得た幅80mm×長さ80mm×厚さ1mmtの角板成形品をエスペック(株)製熱風乾燥機PVH222で150℃の温度条件で3時間熱処理した後に、角板のいずれか一点の角を定盤上で押さえた際の、対角の浮き上がり量をそり量として評価した。熱処理後のそり量が12.0mmを超えると寸法安定性に劣ると判断し、小さいほど寸法安定性に優れるとした。熱処理後のそり量が10.0mm以下だとより寸法安定性に優れると判断し、8.0mm以下だとさらに優れると判断した。
【0099】
[実施例1~4、比較例1~4]
スクリュー径57mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機を用いて、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂、(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂、およびその他の原料を表1および表3に示した組成で混合し、二軸押出機の元込め部から添加した。混練温度250℃、スクリュー回転200rpmの押出条件で溶融混練を行い、樹脂組成物の吐出量を500kg/hrに設定し、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。吐出部の溶融樹脂温度については、(株)エー・アンド・デイ製デジタル熱電対温度計(Kタイプ)を用い、熱電対を押出ダイ先端吐出部の溶融樹脂に30秒押し当て、指示された温度を吐出部の溶融樹脂温度とした。
【0100】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表1および表3にその結果を示した。
【0101】
[実施例5~22、比較例5~10]
スクリュー径57mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機を用いて、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂、(B)テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂、およびその他の原料を表1~表3に示した組成で混合し、二軸押出機の元込め部から添加した。なお、(E)繊維状強化材は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。混練温度250℃、スクリュー回転200rpmの押出条件で溶融混練を行い、樹脂組成物の吐出量を300kg/hrに設定し、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。吐出部の溶融樹脂温度については、(株)エー・アンド・デイ製デジタル熱電対温度計(Kタイプ)を用い、熱電対を押出ダイ先端吐出部の溶融樹脂に30秒押し当て、指示された温度を吐出部の溶融樹脂温度とした。
【0102】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表1~表3にその結果を示した。
【0103】
[実施例23]
比較例5の溶融混練条件において、せん断発熱による樹脂温上昇を抑えるためスクリュー回転150rpmとし、樹脂組成物の吐出量を200kg/hrに設定した以外に同様の方法で溶融混練し、評価した結果を、表2にその結果を示した。
【0104】
[実施例24]
実施例7の溶融混練条件において、せん断発熱による樹脂温上昇を抑えるためスクリュー回転150rpmとし、樹脂組成物の吐出量を200kg/hrに設定した以外に同様の方法で溶融混練し、評価した結果を、表2にその結果を示した。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
実施例1~4と比較例1~4との比較、および実施例5~8と比較例5、6、9、10との比較により、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、(B) テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂を10重量部以上80重量部以下配合してなり、示差走査熱量計を用いて昇降温速度20℃/minの条件で測定した融点が222℃以上230℃以下、および同条件で測定した降温結晶化温度が170℃以上200℃以下とすることで、成形品内でのレーザー透過率のばらつきが少なくかつ、高いレーザー透過性を有しており、さらに機械強度、耐熱性、耐加水分解性、寸法安定性に優れた熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0109】
実施例16と実施例20、および実施例7と21の比較により、透過型電子顕微鏡にて観察される(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の球晶の平均直径が200nm以上800nm以下であると、レーザー透過性と、レーザー透過率のばらつき抑制のバランスがいっそう優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0110】
実施例1~4と比較例1~4の比較、および実施例13と実施例21、実施例22との比較により、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル基量が30eq/t以下であると、高いレーザー透過性を維持しつつ、レーザー透過率のばらつきを抑制でき、耐熱性、寸法安定性に優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0111】
実施例4と実施例1との比較、実施例9と実施例7との比較、および実施例13、15~18、20との比較により、さらに平均粒子径が10μm以下の(C)核剤0.01~0.8重量部を配合することにより、高いレーザー透過性を維持しつつ、よりレーザー透過率のばらつきを抑制でき、耐熱性に優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0112】
実施例3と比較例4との比較、および実施例10と実施例7との比較、実施例11~14と実施例9との比較により、さらに二つ以上の、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、および酸無水物基からなる群から選択されるいずれかの基を有する(D)鎖連結剤0.1~5重量部を配合することにより、高いレーザー透過性を維持しつつ、よりレーザー透過率のばらつきを抑制でき、耐熱性、耐加水分解性、寸法安定性に優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0113】
実施例5~8と実施例1との比較により、さらに(E)繊維状強化材1~100重量部を配合することにより、強度および耐熱性により優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0114】
実施例12、13と実施例11、14との比較により、前記(D)鎖連結剤がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂またはジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂であることで、レーザー透過性に優れつつ、レーザー透過率のばらつきを抑えることができ、耐加水分解性、耐加水分解性、寸法安定性により優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0115】
実施例19と実施例13との比較により、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)が特定の脂肪族アルコールが化合されていることで、レーザー透過率のばらつきの点で優れ、耐熱性、耐加水分解性を維持しており、レーザー透過性、寸法安定性により優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【0116】
実施例23と比較例5との比較、および実施例24と実施例7との比較により、吐出部の溶融樹脂温度を315℃以下に制御し溶融混練する工程を含む熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法により、レーザー透過性に優れつつ、レーザー透過率のばらつきを抑えることができ、耐加水分解性、耐加水分解性、寸法安定性により優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることができた。
【符号の説明】
【0117】
1 レーザー光線透過性評価用の試験片
2 ゲート部
【要約】
本発明は、成形品内でのレーザー透過率のばらつきが少なく、かつ高いレーザー透過性を有しており、さらに機械強度、耐熱性、耐加水分解性、寸法安定性に優れた成形品を得ることのできる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることを課題とし、
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂100重量部に対し、(B) テレフタル酸残基と1,4-シクロヘキサンジメタノール残基が結合した構造を50~90モル%含有するポリエステル樹脂を10重量部以上80重量部以下配合してなり、示差走査熱量計を用いて昇降温速度20℃/minの条件で測定した融点が222℃以上230℃以下であり、同条件で測定した降温結晶化温度が170℃以上200℃以下である熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であることを本旨とする。