(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-11
(45)【発行日】2023-09-20
(54)【発明の名称】軸受装置の状態の検出方法、検出装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20230912BHJP
【FI】
G01M13/04
(21)【出願番号】P 2023538109
(86)(22)【出願日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2023008684
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2022039416
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022039417
(32)【優先日】2022-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 泰右
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-193968(JP,A)
【文献】特開2020-159754(JP,A)
【文献】特開2019-211317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M13/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
すべり軸受を含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出方法であって、
前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出し、
前記油膜厚さおよび前記金属接触割合は、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出されることを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記線接触により構成される電気回路は、前記線接触により生じる抵抗、前記線接触から所定の範囲に位置する潤滑剤により構成される第1のコンデンサ、および、前記所定の範囲外に位置する潤滑剤により構成される第2のコンデンサを含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記第1のコンデンサの静電容量C
1は、
【数1】
ε:潤滑剤の誘電率
α:油膜の破断率(金属接触割合)(0≦α<1)
a:回転軸の短手方向における接触幅
L:回転軸の長さ
h
1:Hertzian接触域における油膜厚さ
にて示され、
前記第2のコンデンサの静電容量C2は、
【数2】
r:ローラ片の半径
にて示されることを特徴とする請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記油膜厚さh
1および前記金属接触割合αを導出するための前記算出式は、
【数3】
【数4】
【数5】
|Z|:動的接触状態におけるインピーダンス
|Z
0|:静的接触状態におけるインピーダンス
θ:動的接触状態における位相角
θ
0:静的接触状態における位相角
ε:潤滑剤の誘電率
α:油膜の破断率(金属接触割合)(0≦α<1)
a:回転軸の短手方向における接触幅
L:回転軸の長さ
h
1:Hertzian接触域における油膜厚さ
r:ローラ片の半径
ω:交流電圧の角周波数
であることを特徴とする請求項
2に記載の検出方法。
【請求項5】
更に、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を用いて前記軸受装置を診断することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項6】
すべり軸受を含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出装置であって、
前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段と、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段と、
を有し、
前記導出手段は、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出することを特徴とする検出装置。
【請求項7】
コンピュータを、
すべり軸受を含む軸受装置に対し、前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段、
として機能させ、
前記導出手段は、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出することを特徴とするプログラム。
【請求項8】
外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出方法であって、
前記軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出
し、
前記所定のラジアル荷重により特定される前記軸受装置内の負荷圏と非負荷圏それぞれにおいて構成される電気回路に対応する算出式を用いて前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を導出することを特徴とする検出方法。
【請求項9】
前記油膜厚さhおよび前記金属接触割合αを導出するための前記算出式は、
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
n:軸受内の全転動体の数
n
1:負荷圏に位置する転動体の数
b ̄:転動体の平均接触幅
L:転動体の長さ
R
tx:転動体の有効半径
S
t1 ̄:平均接触域
S
i1(m):転動体mと内輪の間の接触域
S
o1(m):転動体mと外輪の間の接触域
ω:交流電圧の角周波数
ε:潤滑剤の誘電率
k:軸受の数
Ψ:無次元定数
h
gap:ラジアル隙間
m:非負荷圏に位置する転動体を示す自然数(1≦m≦(n-n1))
|Z
0|:静的接触状態におけるインピーダンス
θ
0:静的接触状態における位相
|Z|:動的接触状態におけるインピーダンス
θ:動的接触状態における位相
であることを特徴とする請求項
8に記載の検出方法。
【請求項10】
更に、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を用いて前記軸受装置を診断することを特徴とする請求項8
または9に記載の検出方法。
【請求項11】
外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出装置であって、
前記軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段と、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段と
、
を有
し、
前記導出手段は、前記所定のラジアル荷重により特定される前記軸受装置内の負荷圏と非負荷圏それぞれにおいて構成される電気回路に対応する算出式を用いて前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を導出することを特徴とする検出装置。
【請求項12】
コンピュータを、
外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段、
として機能させ
、
前記導出手段は、前記所定のラジアル荷重により特定される前記軸受装置内の負荷圏と非負荷圏それぞれにおいて構成される電気回路に対応する算出式を用いて前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を導出する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、軸受装置の状態の検出方法、検出装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受装置では、潤滑剤(例えば、潤滑油やグリース)を用いて、その回転を潤滑する構成が広く普及している。一方、軸受装置などの回転部品に対しては、定期的に状態診断を行うことで、損傷や摩耗を早期に検知して回転部品の故障などの発生を抑制することが行われている。
【0003】
潤滑剤を用いた軸受装置では、その動作状態を診断するために、潤滑剤に関する状態を適切に検知することが求められる。例えば、特許文献1では、直流の低電圧を軸受に印加し、測定した電圧から軸受における油膜状態を診断する手法が開示されている。また、特許文献2では、油膜をコンデンサとしてモデル化し、交流電圧を軸受の回転輪に対して非接触な状態で印加し、測定した静電容量に基づいて軸受装置の油膜状態を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国実公平05-003685号公報
【文献】日本国特許第4942496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、軸受装置における更なる低トルク化が求められている。この低トルク化に対応して、軸受装置にて用いられる潤滑剤の低粘度化や低油量化が進んでいる。一方、例えば、風車などの大型装置に用いられる軸受装置では、より大きな荷重が負荷される。このような状況では、軸受装置内部における油膜が破断する可能性や、部品間の接触割合が高まることとなる。そのため、油膜厚さに加え、軸受装置内部での部品間の接触状態を適切に検知することが求められる。また、軸受装置には様々な種類が存在し、例えば、すべり軸受がある。このような軸受装置の内部では、その動作に伴って、回転軸とその周辺の部品間で線接触が発生し得る。例えば、引用文献2の手法では、油膜厚さのみの測定を行い、金属接触割合について把握することが困難である。また、接触領域外の静電容量については考慮していなかったため、測定精度が高いものではなかった。更には、線接触を想定して測定することは行われていなかった。
【0006】
上記課題を鑑み、本願発明は、軸受装置内部にて発生する線接触を想定して、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の金属接触割合の検出を高精度に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち、すべり軸受を含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出方法であって、
前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出し、
前記油膜厚さおよび前記金属接触割合は、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出されることを特徴とする検出方法。
【0008】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、すべり軸受を含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出装置であって、
前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段と、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段と、
を有し、
前記導出手段は、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出することを特徴とする検出装置。
【0009】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、コンピュータを、
すべり軸受を含む軸受装置に対し、前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段、
として機能させ、
前記導出手段は、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出することを特徴とするプログラム。
【0010】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち、外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出方法であって、
前記軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出することを特徴とする検出方法。
【0011】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出装置であって、
前記軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段と、 前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段とを有することを特徴とする検出装置。
【0012】
また、本願発明の別の形態は以下の構成を有する。すなわち、コンピュータを、
外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0013】
本願発明により、軸受装置内部にて発生する線接触を想定して、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の接触割合の検出を高精度に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本願発明の第1の実施形態に係る診断時の装置構成の例を示す概略図。
【
図2】本願発明の第1の実施形態に係る軸受装置の物理モデルを示すグラフ図。
【
図3】本願発明の第1の実施形態に係る軸受装置の等価回路を説明するための回路図。
【
図4】軸受装置の転動体(玉)を説明するための図。
【
図7】本願発明の第1の実施形態に係る検証結果を説明するための図。
【
図8】本願発明の第1の実施形態に係る測定時の処理のフローチャート。
【
図9】本願発明の第2の実施形態に係る診断時の装置構成の例を示す概略図。
【
図10】本願発明の第2の実施形態に係る軸受装置の等価回路を説明するための回路図。
【
図11】本願発明の第2の実施形態に係る負荷圏および非負荷圏を説明するための図。
【
図12A】本願発明の第2の実施形態に係る負荷圏の静電容量を説明するための図。
【
図12B】本願発明の第2の実施形態に係る負荷圏の静電容量を説明するための図。
【
図13】本願発明の第2の実施形態に係る等価回路を説明するための回路図。
【
図14A】本願発明の第2の実施形態に係る測定結果を示すグラフ図。
【
図14B】本願発明の第2の実施形態に係る測定結果を示すグラフ図。
【
図14C】本願発明の第2の実施形態に係る測定結果を示すグラフ図。
【
図15A】本願発明の第2の実施形態に係る測定結果を示すグラフ図。
【
図15B】本願発明の第2の実施形態に係る測定結果を示すグラフ図。
【
図15C】本願発明の第2の実施形態に係る測定結果を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0016】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。なお、以下の装置構成の説明においては、すべり軸受を例に挙げて説明するが、これに限定するものではなく本願発明は他の構成の装置にも適用可能である。例えば、後述するすべり挙動が生じる部品を有する転動装置に適用可能である。
【0017】
[装置構成]
図1は、本実施形態に係る診断装置1にて診断を行う際の全体構成の一例を示す概略構成図である。
図1には、本実施形態に係る診断方法が適用される軸受装置2と、診断を行う診断装置1が設けられる。なお、
図1に示す構成は一例であり、軸受装置2の構成などに応じて、異なる構成が用いられてよい。また、
図1においては、軸受装置2は、1のすべり軸受3を含む構成を示したが、これに限定するものではなく、複数のすべり軸受が備えられてもよい。
【0018】
軸受装置2は、すべり軸受3を含んで構成される。軸受装置2において、すべり軸受3は、回転軸7の周囲に設けられ、回転軸7と線接触を生じさせつつ回転可能に構成される。すべり軸受3内部において、所定の潤滑方式により、回転軸7とすべり軸受3の間の摩擦が軽減される。潤滑方式は特に限定するものではないが、例えば、グリース潤滑や油潤滑などが用いられ、すべり軸受3内部に供給されている。潤滑剤の種類についても特に限定するものではない。
【0019】
モータ10は、駆動用のモータであり、回転軸7に対して回転による動力を供給する。回転軸7は、回転コネクタ9を介してLCRメータ8に接続される。回転コネクタ9は、例えば、カーボンブラシを用いて構成されてよく、これに限定するものではない。また、軸受装置2のすべり軸受3もLCRメータ8に電気的に接続され、このとき、LCRメータ8は、軸受装置2に対する交流電源としても機能する。
【0020】
診断装置1は、本実施形態に係る検出方法を実行可能な検出装置として動作する。診断装置1は、診断の際に、LCRメータ8に対して交流電源の角周波数ω、および交流電圧Vを入力として指示し、それに対する出力としてLCRメータ8から軸受装置2のインピーダンス|Z|(|Z|は、Zの絶対値を示す)、および位相角θを取得する。そして、診断装置1はこれらの値を用いて軸受装置2における油膜厚さや金属接触割合の検出を行う。検出方法の詳細については、後述する。
【0021】
診断装置1は、例えば、不図示の制御装置、記憶装置、および出力装置を含んで構成される情報処理装置にて実現されてよい。制御装置は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Single Processor)、または専用回路などから構成されてよい。記憶装置は、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性および不揮発性の記憶媒体により構成され、制御装置からの指示により各種情報の入出力が可能である。出力装置は、スピーカやライト、或いは液晶ディスプレイ等の表示デバイス等から構成され、制御装置からの指示により、作業者への報知を行う。出力装置による報知方法は特に限定するものではないが、例えば、音声による聴覚的な報知であってもよいし、画面出力による視覚的な報知であってもよい。また、出力装置は、通信機能を備えたネットワークインターフェースであってもよく、ネットワーク(不図示)を介した外部装置(不図示)へのデータ送信により報知動作を行ってもよい。ここでの報知内容は、例えば、検出結果に基づいて、異常診断を行った場合、異常が検出された際の報知に限定するものではなく、軸受装置2が正常である旨の報知を含んでもよい。
【0022】
[物理モデル]
図2を用いて軸受装置2のすべり軸受3と回転軸7の接触状態について説明する。
図2は、ローラ片とレース片とが接触(ここでは、線接触)した際の物理モデルを示すグラフである。ローラ片が回転軸7に対応し、レース片がすべり軸受3に対応する。h軸は、油膜厚さ方向を示し、y軸は油膜厚さ方向と直交する方向を示す。また、
図2に示す各変数はそれぞれ以下の通りである。なお、以降の説明において用いる各式の変数は同じものは同じ記号を付して対応付けている。
【0023】
S:Hertzian接触域
a:ローラ片(回転軸)の短手方向(ここでは、x軸方向)における接触幅
α:油膜の破断率(金属接触割合)(0≦α<1)
r:ローラ片の半径
αS:実接触領域(油膜の破断領域)
h:油膜厚さ
h1:Hertzian接触域における油膜厚さ
O:ローラ片の回転中心
【0024】
Hertzian接触域において、金属が接触している面積と接触していない面積の割合はα:(1-α)となる。また、ローラ片とレース片とが接触していない理想状態ではα=0であり、x=0の場合にh>0となる。
【0025】
図2に示す油膜厚さhは以下の式(1)にて表される。なお、ここで示すSの値は、
図1のx軸方向の範囲に対応する。
h=f(x)=h
1+√(r
2-a
2)-√(r
2-x
2) (-r≦x<-a、または、a<x≦r) …(1)
【0026】
また、Hertzian接触域内には、馬蹄形と呼ばれる油膜の薄い領域が存在し得るが、本実施形態では、Hertzian接触域内の平均的な油膜厚さである平均油膜厚さhaを用いる。したがって、Hertzian接触域内において油膜の破断が生じている場合、haは以下の式(2)により求められる。
ha=(1-α)h1 …(2)
【0027】
図2において、Oは、x=0であり、
図2におけるOの座標は、O(0,h
1+√(r
2-a
2))にて示される。
【0028】
なお、実際のすべり軸受3が動作する際に回転軸7は弾性変形が生じ得るため、厳密にはその断面が正円形状とはならない場合があるが、本実施形態では、正円形状であるものとして上記の式(1)を用いている。したがって、油膜厚さを求める際に用いられる式は式(1)に限定するものではなく、他の算出式を用いてもよい(例えば、歯車の場合,インボリュート曲線)。
【0029】
[等価電気回路]
図3は、
図2に示した物理モデルを電気的に等価な電気回路(等価回路)にて示した図である。等価回路E1は、抵抗R
1、コンデンサC
1、およびコンデンサC
2から構成される。抵抗R
1は、破断領域(=αS)における抵抗に相当する。コンデンサC
1は、Hertzian接触域における油膜により形成されるコンデンサに相当し、静電容量C
1とする。コンデンサC
2は、Hertzian接触域の周辺(
図2の-r≦x<-a、および、a<x≦r)における油膜により形成されるコンデンサに相当し、静電容量C
2とする。Hertzian接触域(=S)が、
図3の等価回路E1における抵抗R
1とコンデンサC
1の並列回路を形成する。更に、この抵抗R
1とコンデンサC
1から構成される電気回路に対して、コンデンサC
2が並列に接続される。このとき、Hertzian接触域の周辺(
図2の-r≦x<-a、および、a<y≦r)では、潤滑剤が充填されているものとする。
【0030】
等価回路E1のインピーダンスをZにて示す。ここで、等価回路E1に印加される交流電圧V、等価回路E1を流れる電流I、および、等価回路E1全体の複素インピーダンスZは以下の式(3)~(5)にて示される。
V=|V|exp(jωt) …(3)
I=|I|exp(j(ωt-θ)) …(4)
Z=V/I=|V/I|exp(jθ)=|Z|exp(jθ) …(5)
j:虚数
ω:交流電圧の角周波数
t:時間
θ:位相角(電圧と電流の位相のずれ)
【0031】
式(5)に示すように、複素インピーダンスZは、Zの絶対値|Z|と位相角θの2つの独立した変数にて示される。これは、複素インピーダンスZを測定することで、互いに独立した2つのパラメータ(本実施形態では、以下に示すh
aおよびα)を測定可能であることを意味する。
図3に示す等価回路全体の複素インピーダンスZは、以下の式(6)のように表される。
Z
-1=R
1
-1+jω(C
1+C
2) …(6)
R
1:抵抗R
1の抵抗値
C
1:コンデンサC
1の静電容量
C
2:コンデンサC
2の静電容量
|Z|:動的接触状態におけるインピーダンス
【0032】
さらに、式(6)により、以下の式(7)、式(8)を導出できる。
R1=|Z|/cosθ …(7)
ω(C1+C2)=-sinθ/|Z| …(8)
【0033】
ここで、式(7)におけるR1は、接触面積と反比例の関係にあるため、以下の式(9)のように表すことができる。
R1=R10/α …(9)
R10:静止時(すなわち、α=1)における抵抗値
【0034】
R10は、以下の式(10)のように表すことができる。
R10=|Z0|/cosθ0 …(10)
|Z0|:静的接触状態におけるインピーダンス
θ0:静的接触状態における位相角
【0035】
よって、破断率αは、式(7)、式(9)、式(10)から以下の式(11)のように表すことができる。なお、上記のようにθ0を静的接触状態における位相角とした場合、θは動的接触状態における位相角とみなすことができる。
【0036】
【0037】
一方、式(6)、式(8)におけるC1は、以下の式(12)のように表すことができる。なお、線接触を想定した場合、Hertzian接触域Sの接触面積は、回転軸7の長さ(ここでは、長手方向の接触幅)をLとした場合、S=2aLとなる。
【0038】
【0039】
ε:潤滑剤の誘電率
【0040】
また、式(6)、式(8)におけるC2は、以下の式(13)のように表すことができる。
【0041】
【0042】
[接触状態に応じた静電容量]
ここで、点接触におけるC
2について説明する。
図4は、転動体が玉である場合(例えば、玉軸受)を説明するための図である。ここでは、説明を容易にするためにh
1の値を大きく示しているが、実際には、
図2に示したように、接触(この場合は点接触)が生じる程度に小さいものとなる。この場合、転動体と軌道盤との間にて、点接触が生じ得る。
図2と同様に、転動体の半径をrとし、油膜厚さをh
1とした場合、
図3に示した等価回路におけるコンデンサC
2の静電容量は以下の式(14)にて算出できる。
【0043】
【0044】
π:円周率
r:玉の半径
ε:潤滑剤の誘電率
ln:対数関数
【0045】
次に本実施形態にて扱う線接触が生じる場合について説明する。
図5は、回転軸7とすべり軸受3の場合を説明するための図である。ここでは、
図4と同様、説明を容易にするためにh
1の値を大きく示しているが、実際には、
図2に示したように、接触(この場合は線接触)が生じる程度に小さいものとなる。この場合、回転軸7とすべり軸受3との間にて、線接触が生じ得る。
図6に示すように、回転軸7の半径をr1とし、すべり軸受3の内径の半径をr2とした場合、rは、r1とr2とを用いて等価曲率半径として算出できる。このとき、すべり軸受3は、回転軸7との線接触が生じる面が負の曲面を有する。
また、回転軸7とすべり軸受3の線接触が生じる位置の油膜厚さをh
1とする。この場合、
図3に示した等価回路におけるコンデンサC
2の静電容量は、上記の式(13)にて示した式にて算出できる。
【0046】
なお、
図5に示すように、回転軸7は、端部を面取りして形成される場合がある。この場合、線接触が生じ得る直線部分をLとして扱ってよい。また、面取りによる長手方向の長さΔLが、Lに対して極めて小さい場合には、面取り部分を含めた長さL’(=L+2ΔL)を用いてコンデンサC2を算出してもよい。
【0047】
このとき、
図2および
図5に示す記号を用いると、線接触による接触面積(すなわち、Hertzian接触域Sの接触面積)は、2aLにて表すことができる。
【0048】
また、面取りがされている部分については線接触ではなく、点接触が生じ得る。そのため、この部分については更に点接触によるおけるC2の算出式(例えば、上記の式(14))を用いてコンデンサC2を算出式(13)に加算してもよい。
【0049】
上記の式(13)にて定義した理論式を用いて、コンデンサC2の算出結果の検証を行った例を示す。ここでは、公知の電磁場解析の一手法である有限要素法を用いたシミュレーション解析の結果との比較を示す。また、公知の算出式であるJacksonによる以下の式(15)を比較対象として示す。なお、Jacksonによる式は、rに比べてh1が極めて大きい場合を想定したものである。
【0050】
【0051】
図7は、検証結果を示すグラフ図であり、横軸は油膜厚さh
1[m]を示し、縦軸は静電容量C
2[F]を示す。線701は、本実施形態に係る算出式である式(13)を用いて、静電容量C
2を算出した結果を示す。線702は、Jacksonによる算出式である式(15)を用いて静電容量C
2を算出した結果を示す。また、シンボル703(〇)は、有限要素法によるシミュレーションにより得られた結果を示す。
【0052】
図7の線701とシンボル703に示すように、式(13)を用いて算出した静電容量C2の値は、1.0
-2≧hの範囲にてシミュレーション結果とほぼ同じ値を導くことができる。この範囲は、本願発明にて想定しているすべり軸受3のサイズ等(rに比べてh
1が極めて小さい)に対応したものであり、Jacksonの式(15)による線702と比較しても高い精度を得ることができる。
【0053】
[油膜厚さおよび油膜の破断率の導出]
本実施形態では、上述したような潤滑剤の油膜厚さh1および油膜の破断率αを用いて潤滑状態を検出する。上述した式(8)、式(11)~式(13)により、以下の式(16)が導出される。
【0054】
【0055】
このとき、ψは以下の式(17)のように定義される。
【0056】
【0057】
L:回転軸の長さ
【0058】
そして、式(2)、式(16)から、平均油膜厚さhaは、以下の式(18)のように導出される。
【0059】
【0060】
つまり、式(11)、式(18)により、静止時と油膜形成時における複素インピーダンス、および位相角を測定することで、haおよびαを同時にモニタリングすることが可能となる。
【0061】
なお、上記の式(18)は、接触域が1つの場合における理論式となる。
【0062】
[処理フロー]
図8は、本実施形態に係る診断処理のフローチャートである。本処理は、診断装置1により実行され、例えば、診断装置1が備える制御装置(不図示)が本実施形態に係る処理を実現するためのプログラムを記憶装置(不図示)から読み出して実行することにより実現されてよい。
【0063】
S801にて、診断装置1は、軸受装置2に対して、所定の方向に荷重が与えられるように制御する。
図1の構成の場合、回転軸7に対して、荷重が与えられる。なお、荷重を与える制御は、診断装置1とは別の装置により行われてもよい。この時、静的接触状態における位相角とインピーダンスを測定する。
【0064】
S802にて、診断装置1は、モータ10により回転軸7の回転を開始させる。これにより回転軸7とすべり軸受3との線接触が生じつつ、回転軸7の回転が行われる。なお、モータ10の制御は、診断装置1とは別の装置により行われてもよい。
【0065】
S803にて、診断装置1は、LCRメータ8に対し、LCRメータ8が備える交流電源(不図示)を用いて角周波数ωの交流電圧を軸受装置2に与えるように制御する。これにより、軸受装置2には、角周波数ωの交流電圧が印加されることとなる。
【0066】
S804にて、診断装置1は、S803の入力に対する出力として、LCRメータ8からインピーダンス|Z|および位相角θを取得する。つまり、LCRメータ8は、入力である交流電圧Vおよび交流電圧の角周波数ωに対する軸受装置2の検出結果として、インピーダンス|Z|および位相角θを診断装置1に出力する。
【0067】
S805にて、診断装置1は、S804にて取得したインピーダンス|Z|および位相角θ、S803にて用いた交流電圧の角周波数ωを、式(11)、式(18)に適用することで油膜厚さh(本実施形態ではha)および破断率αを導出する。
【0068】
S806にて、診断装置1は、S805にて導出した油膜厚さhおよび破断率αを用いて軸受装置2の潤滑状態を診断する。なお、ここでの診断方法は、例えば、油膜厚さhや破断率αに対して閾値を設け、その閾値との比較により潤滑状態を判断してよい。そして、本処理フローを終了する。
【0069】
以上、本実施形態により、転がり軸受内部にて発生する線接触を想定して、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の接触割合の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0070】
<第2の実施形態>
以下、本願発明の第2の実施形態について説明を行う。なお、以下の説明においては、転がり軸受として、その内部にて線接触が発生し得る円筒ころ軸受を例に挙げて説明するが、これに限定するものではなく、本願発明は他の構成の転がり軸受にも適用可能である。例えば、その内部にて線接触が発生する転がり軸受、およびこのような転がり軸受が利用される装置であれば、本願発明の手法は適用可能である。更には、軸受に限られず、本願発明は、潤滑剤にて潤滑する部品間において、後述するような線接触が生じるような構成を備える装置にも適用可能である。なお、第1の実施形態と重複する構成については説明を省略し、差分に着目して説明を行う。
【0071】
[装置構成]
図9は、本実施形態に係る診断装置1にて診断を行う際の全体構成の一例を示す概略構成図である。
図9には、本実施形態に係る診断方法が適用される軸受装置12と、診断を行う診断装置1が設けられる。なお、
図9に示す構成は一例であり、軸受装置2の構成などに応じて、異なる構成が用いられてよい。また、
図9においては、軸受装置2は、1の転がり軸受を備える構成を示したが、これに限定するものではなく、1の軸受装置2に複数の転がり軸受が備えられてもよい。ここでは、軸受装置12以外の構成は、第1の実施形態にて示した構成と同様であるものとする。
【0072】
軸受装置12において、ラジアル型の円筒ころ軸受である転がり軸受は、回転軸7を回転自在に支持する。回転軸7は、回転部品である転がり軸受を介して、回転軸7の外側を覆うハウジング(不図示)に支持される。転がり軸受は、ハウジングに内嵌される固定輪である外輪(外方部材)13、回転軸7に外嵌される回転輪である内輪(内方部材)14、内輪14及び外輪13との間に配置された複数の転動体15である複数のころ、および転動体15を転動自在に保持する保持器(不図示)を備える。ここでは、外輪13を固定する構成としたが、内輪14が固定され、外輪13が回転するような構成であってもよい。また、転動体15周辺へのごみの侵入や潤滑油の漏れを防止するための周辺部材であるシール16が設けられる。転がり軸受内部において、所定の潤滑方式により、内輪14と転動体15の間、および、外輪13と転動体15の間の摩擦が軽減される。潤滑方式は特に限定するものではないが、例えば、グリース潤滑や油潤滑などが用いられ、転がり軸受内部に供給されている。潤滑剤の種類についても特に限定するものではない。
【0073】
[物理モデル]
第1の実施形態にて示した
図2を用いて、軸受装置12における転動体15と外輪13(または、内輪14)の接触状態について説明する。本実施形態では、
図2は、ローラ片とリング片とが接触した際の物理モデルとして読み替えることができる。ローラ片が転動体15であるころに対応し、リング片が外輪13(または、内輪14)に対応する。h軸は、油膜厚さ方向を示し、y軸は油膜厚さ方向と直交する方向を示す。また、
図2に示す各変数はそれぞれ以下の通りである。なお、以降の説明において用いる各式の変数は同じものは同じ記号を付して対応付けている。
S:Hertzian接触域
a:ローラ片(ころ)の短手方向(ここでは、x軸方向)における接触幅
α:油膜の破断率(金属接触割合)(0≦α<1)
r:ローラ片の半径
αS:実接触領域(油膜の破断領域)
h:油膜厚さ
h
1:Hertzian接触域における油膜厚さ
O:ローラ片の回転中心
【0074】
Hertzian接触域において、金属が接触している面積と接触していない面積の割合はα:(1-α)となる。また、ローラ片とリング片とが接触していない理想状態ではα=0であり、x=0の場合にh>0となる。
【0075】
次に本実施形態にて扱う線接触が生じる場合について、第1の実施形態にて示した
図5を用いて説明する。本実施形態では、転動体がころである場合(例えば、円筒ころ軸受)を説明する。ここでは、第1の実施形態にて示した
図4と同様、説明を容易にするためにh
1の値を大きく示しているが、実際には、第1の実施形態の
図2に示したように、接触(この場合は線接触)が生じる程度に小さいものとなる。この場合、転動体と軌道盤との間にて、線接触が生じ得る。
図2と同様に、転動体の半径をrとし、油膜厚さをh
1とした場合、
図3に示した等価回路におけるコンデンサC
2の静電容量は、上記の式(13)にて示した式にて算出できる。
【0076】
図10は、第1の実施形態の
図3にて示した等価回路E1に基づいて、
図9の転動体15周りにおける電気的に等価な電気回路を示した図である。複数の転動体15のうちの1つの転動体15に着目すると、外輪13と転動体15の間、および、内輪14と転動体15の間において等価回路E2が形成される。ここでは、上側を外輪13と転動体15にて形成される電気回路とし、下側を内輪14と転動体15にて形成される電気回路として説明するが、逆であってもよい。1つの転動体15の周りにおいて、これらの電気回路、すなわち、
図3の等価回路E1が直列に接続されて等価回路E2が形成されることとなる。
【0077】
[ラジアル荷重による静電容量]
図11は、転がり軸受に対してラジアル荷重が加えられた場合の負荷圏および非負荷圏を説明するための図である。ここでは、転がり軸受において、ラジアル荷重F
rが回転軸7を介して加えられているものとする。この場合、複数の転動体15において、
図2に示すようなHertzian接触域が生じる範囲を負荷圏と称し、それ以外の範囲を非負荷圏と称する。なお、負荷圏の範囲は、ラジアル荷重の大きさや転がり軸受の構成等に応じて変動し得る。
【0078】
まず、負荷圏におけるコンデンサC
1の静電容量ついて説明する。
図12Aおよび
図12Bは、負荷圏に位置する転動体15により形成されるコンデンサC
1の概念を説明するための図である。ここでは、負荷圏に5つの転動体が含まれ、各転動体により、コンデンサC
1(1)~C
1(5)が形成された例を用いて説明する。負荷圏では、転動体の位置に応じて、Hertzian接触域の大きさが異なる。この場合、
図12Aに示すように、負荷圏では中央から離れるほど静電容量は小さくなるとも想定される。
【0079】
しかしながら、
図2にて示すように、Hertzian接触域における油膜厚さh
1はラジアル荷重の影響を受けにくいものとし、本実施形態では、負荷圏内の油膜厚さは一定であるものと仮定する。これを踏まえ、
図12Bに示すように、Hertzian接触域Sを平均化し、負荷圏内の複数の転動体15それぞれにより形成されるコンデンサC
1の静電容量を均一として扱う。したがって、負荷圏に位置する複数の転動体15により形成されるコンデンサC
1の静電容量は以下の式(19)にて導出することができる。
【0080】
【0081】
m:負荷圏に位置する転動体を示す自然数(1≦m≦n1)
n1:負荷圏に位置する転動体数
C1(m):転動体mのHertzian接触域における静電容量
C1 ̄:C1(m)の平均値
【0082】
次に非負荷圏におけるコンデンサC
3の静電容量ついて説明する。非負荷圏において、転動体15と外輪13と隙間、および、転動体15と内輪14の隙間が生じる。
図11に示すように、非負荷圏に位置する転動体15のうち、中央に位置する転動体15aと外輪13および転動体15aと内輪14との隙間をラジアル隙間h
gapとした場合、非負荷圏に位置する複数の転動体15それぞれと外輪13との隙間は以下の式(20)から導出することができる。なお、転動体15aと外輪13との隙間、および、転動体15aと内輪14との隙間は同じ(h
gap/2)であるとして説明する。なお、ラジアル隙間h
gapは、ラジアル荷重F
rと、転がり軸受の仕様などから導出することができる。
【0083】
【0084】
m:非負荷圏に位置する転動体を示す自然数(1≦m≦(n-n1))
n:全転動体数
n1:負荷圏に位置する転動体数
【0085】
そして、式(20)に基づき、非負荷圏全体の静電容量C3は、以下の式(21)から導出することができる。
【0086】
【0087】
m:非負荷圏に位置する転動体を示す自然数(1≦m≦(n-n1))
n:全転動体数
n1:負荷圏に位置する転動体数
ε:潤滑剤の誘電率
C3(m):転動体mのHertzian接触域における静電容量
π:円周率
L:転動体(ころ)の長さ
Rtx:転動体(ころ)の有効半径
hgap:ラジアル隙間
【0088】
図13は、上述した負荷圏および非負荷圏にて形成されるコンデンサを考慮した、軸受装置12全体における電気的に等価な等価回路を示す図である。負荷圏に位置するn個の転動体15に対応して、n個の等価回路E2が並列に接続される。このとき、
図12Aおよび
図12Bを用いて説明したように、Hertzian接触域における静電容量は、C
1 ̄が用いられる。
【0089】
また、非負荷圏に位置する(n-n
1)個の転動体15に対応して、(n-n
1)個の等価回路E3が並列に接続される。なお、負荷圏と同様に外輪13と転動体15の間、および、内輪14と転動体15の間それぞれにおいてコンデンサが形成されるため、等価回路E
3は、2つのコンデンサC
3が直列に接続された構成となる。ここでは、上側を外輪13と転動体15にて形成される電気回路とし、下側を内輪14と転動体15にて形成される電気回路とするが、逆であってもよい。そして、
図13に示す軸受装置12全体により構成される等価回路E4に対して、診断時にはLCRメータ8による交流電源が供給される。
【0090】
[油膜厚さおよび油膜の破断率の導出]
本実施形態では、ラジアル荷重下における潤滑剤の油膜厚さhおよび油膜の破断率αを用いて潤滑状態を検出する。本実施形態では、ラジアル荷重下における潤滑剤の油膜厚さhおよび油膜の破断率αを導出するために、上記の式(21)および以下の式(22)~(25)を用いる。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
n:軸受内の全転動体(ころ)の数
n1:負荷圏に位置する転動体(ころ)の数
b ̄:転動体(ころ)の平均接触幅
L:転動体(ころ)の長さ
Rtx:転動体(ころ)の有効半径
St1 ̄:平均接触域
Si1(m):転動体(ころ)mと内輪の間の接触域
So1(m):転動体(ころ)mと外輪の間の接触域
ω:交流電圧の角周波数
ε:潤滑剤の誘電率
k:軸受の数
Ψ:無次元定数
hgap:ラジアル隙間
m:非負荷圏に位置する転動体を示す自然数(1≦m≦(n-n1))
|Z0|:静的接触状態におけるインピーダンス
θ0:静的接触状態における位相
|Z|:動的接触状態におけるインピーダンス
θ:動的接触状態における位相
【0096】
図2を用いた説明ではローラ片の接触幅を2aにて示したが、転動体15が複数あるため、上記の式(25)では、これらの平均である2b ̄を用いる。
【0097】
処理の流れは、第1の実施形態と同様である。しかし、本実施形態では、
図8のS801にて、診断装置1は、軸受装置12に対して、所定の荷重方向にラジアル荷重F
rが与えられるように制御する。ここでは、内輪14に対して、ラジアル荷重F
rが与えられる。なお、ラジアル荷重F
rを与える制御は、診断装置1とは別の装置により行われてもよい。この時、静的接触状態における位相とインピーダンスを測定する。
【0098】
[試験1]
上述した診断方法に基づいて行った試験の結果について説明する。試験時の構成は、
図9に示した構成をベースとし、試験条件は以下の通りとする。なお、本試験1では、風車発電機における軸受を用いている。
【0099】
(試験条件)
試験軸受:円筒ころ軸受(NU330EM)
転動体数(n):14(φ45×45)
サポート軸受:玉軸受(NU2315EM(銘番:6315);試験軸受の試験結果に影響が出ないよう樹脂スリーブで絶縁)
回転速度:200~1800[min-1]
アキシアル荷重:0[N]
ラジアル荷重(Fr):P/C=0.1
潤滑剤:風車GB用ギア油VB320
比誘電率:2.3
交流電圧:1.1[V]
交流電源の周波数:10[kHz]
外部抵抗:51[Ω]
【0100】
図14A~
図14Cは、上記の試験条件下において試験を行った結果から得られる回転速度Nと、油膜厚さh、破断率α、および温度Tとの関係を示す図である。
図14Aにおいて、横軸は回転速度N[min
-1]を示し、縦軸は油膜厚さh[m]を示す。
図14Bにおいて、横軸は回転速度N[min
-1]を示し、縦軸は破断率αを示す。縦軸は油膜厚さh[m]を示す。
図14Cにおいて、横軸は回転速度N[min
-1]を示し、縦軸は温度Tを示す。各図において横軸に示す回転速度N[min
-1]は対応している。上記の試験条件に示すように、回転速度は200~1800[min
-1]の範囲内で得られた結果をプロットしている。
【0101】
図14Aにおいて破線1101は、理論値として導出される油膜厚さを示す。実線の×で示すプロット1102は、コンデンサC
1、C
2、C
3を考慮した上記の式(22)を用いて油膜厚さhを導出した結果を示している。破線の×で示すプロット1103は、コンデンサC
1、C
2のみを考慮した式を用いて油膜厚さhを導出した結果を示している。つまり、プロット1102は、ラジアル荷重下における非負荷圏にて構成されるコンデンサC
3を考慮した導出結果である。
図14Aに示すように、プロット1102にて示した結果は、プロット1103にて示す結果よりも理論値に近いものとなり、より精度よく油膜厚さhを導出することが可能となっている。また、
図14Bのプロット1111に示すように、いずれの回転速度においても、油膜厚さhと併せて、破断率αを導出できる。また、潤滑剤の粘度に影響を与えると想定される軸受の温度変化が生じた場合でも、本手法では従来の方法よりも影響を抑制して、精度良く油膜厚さhや破断率αを算出することができている。
【0102】
[試験2]
上述した診断方法に基づいて行った別の試験の結果について説明する。試験時の構成は、
図1に示した構成をベースとし、試験条件は以下の通りとする。なお、本試験2では、外輪13(または内輪14、もしくはその両方)において、転動体15が転動するための軌道面周辺に設けられるつばの影響を考慮している。したがって、以下では、つばの有無による試験結果を示す。
【0103】
(試験条件)
試験軸受:円筒ころ軸受(NU330EM;つば有り)、円筒ころ軸受(N330EM;つば無し(樹脂による座間有り))
転動体数(n):14(φ45×45)
サポート軸受:玉軸受(NU2315EM(銘番:6315);試験軸受の試験結果に影響が出ないよう樹脂スリーブで絶縁)
回転速度:200~1800[min-1]
アキシアル荷重:0[N]
ラジアル荷重(Fr):P/C=0.1
潤滑剤:風車GB用ギア油VB320
比誘電率:2.3
交流電圧:1.1[V]
交流電源の周波数:10[kHz]
外部抵抗:51[Ω]
【0104】
図15A~
図15Cは、上記の試験条件下において試験を行った結果から得られる回転速度Nと、油膜厚さh、破断率α、および温度Tとの関係を示す図である。
図15Aにおいて、横軸は回転速度N[min
-1]を示し、縦軸は油膜厚さh[m]を示す。
図15Bにおいて、横軸は回転速度N[min
-1]を示し、縦軸は破断率αを示す。縦軸は油膜厚さh[m]を示す。
図15Cにおいて、横軸は回転速度N[min
-1]を示し、縦軸は温度Tを示す。各図において横軸に示す回転速度N[min
-1]は対応している。上記の試験条件に示すように、回転速度は200~1800[min
-1]の範囲内で得られた結果をプロットしている。
【0105】
図15Aにおいて破線1201は、理論値として導出される油膜厚さを示す。×で示すプロット1202は、コンデンサC
1、C
2、C
3を考慮した上記の式(22)を用いてつば無しの軸受に対する油膜厚さhを導出した結果を示している。〇で示すプロット1203は、コンデンサC
1、C
2、C
3を考慮した上記の式(22)を用いてつば有りの軸受に対する油膜厚さhを導出した結果を示している。いずれも、ラジアル荷重下における非負荷圏にて構成されるコンデンサC
3を考慮した導出結果である。
図15Aに示すように、軸受におけるつばの有無にかかわらず、理論値に近いものとなり、より精度よく油膜厚さhを導出することが可能となっている。また、
図15Bのプロット1211、1212に示すように、いずれの回転速度においても、油膜厚さhと併せて、破断率αを導出できる。また、潤滑剤の粘度に影響を与えると想定される軸受の温度変化が生じた場合でも、本手法ではつばの有無にかかわらず、精度良く油膜厚さhや破断率αを算出することができている。
【0106】
以上、本実施形態により、ラジアル荷重におけるころ軸受装置内部の油膜厚さおよびしゅう動部の接触割合の検出を同時に精度良く行うことが可能となる。
【0107】
<その他の実施形態>
上記の第2の実施形態では、特にラジアル荷重に着目し、これが発生するラジアル形の軸受を用いて説明を行った。しかし、上記の各式は、各変数のパラメータを調整することで、アキシアル荷重が生じるスラスト形の軸受にも適用可能である。例えば、式(22)や式(24)におけるΨは、対象となる軸受の諸元に基づいてパラメータを調整することで、上記式を他の構成の線接触が生じる軸受などにも適用可能である。
【0108】
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0109】
また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array))によって実現してもよい。
【0110】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0111】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) すべり軸受を含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出方法であって、
前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出し、
前記油膜厚さおよび前記金属接触割合は、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出されることを特徴とする検出方法。
上記構成によれば、軸受装置内部にて発生する線接触を想定して、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の接触割合の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0112】
(2) 前記線接触により構成される電気回路は、前記線接触により生じる抵抗、前記線接触から所定の範囲に位置する潤滑剤により構成される第1のコンデンサ、および、前記所定の範囲外に位置する潤滑剤により構成される第2のコンデンサを含んで構成されることを特徴とする(1)に記載の検出方法。
上記構成によれば、軸受装置の構成に対応した等価回路に基づいて、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の接触割合の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0113】
(3) 前記第1のコンデンサの静電容量C1は、
【0114】
【0115】
にて示され、
前記第2のコンデンサの静電容量C2は、
【0116】
【0117】
にて示されることを特徴とする(2)に記載の検出方法。
上記構成によれば、軸受装置の構成に対応した等価回路におけるコンデンサの静電容量を精度良く導出することが可能となる。
【0118】
(4) 前記油膜厚さh1および前記金属接触割合αを導出するための前記算出式は、
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
であることを特徴とする(2)または(3)に記載の検出方法。
上記構成によれば、軸受装置内部にて発生する線接触を想定して、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の接触割合の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0123】
(5) 更に、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を用いて前記軸受装置を診断することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の検出方法。
上記構成によれば、軸受装置内部にて発生する線接触を想定して、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の接触割合の検出を行い、その結果に基づき、軸受装置の状態診断を高精度に行うことが可能となる。
【0124】
(6) すべり軸受を含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出装置であって、
前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段と、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段と、
を有し、
前記導出手段は、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出することを特徴とする検出装置。
上記構成によれば、軸受装置内部にて発生する線接触を想定して、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の接触割合の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0125】
(7) コンピュータを、
すべり軸受を含む軸受装置に対し、前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段、
として機能させ、
前記導出手段は、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を、前記軸受装置内にて発生する前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出することを特徴とするプログラム。
上記構成によれば、軸受装置内部にて発生する線接触を想定して、軸受装置内部の油膜厚さおよび部品間の接触割合の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0126】
以上の通り、本明細書には更に次の事項が開示されている。
(8) 外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出方法であって、
前記軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加し、
前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出する、ことを特徴とする検出方法。
この構成によれば、ラジアル荷重におけるころ軸受装置内部の油膜厚さおよびしゅう動部の金属接触割合の検出を同時に精度良く行うことが可能となる。特に、ころ軸受装置内部で発生する線接触を考慮して、精度良く検出を行うことが可能となる。
【0127】
(9) 前記所定のラジアル荷重により特定される前記軸受装置内の負荷圏と非負荷圏それぞれにおいて構成される電気回路に対応する算出式を用いて前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を導出することを特徴とする(8)に記載の検出方法。
この構成によれば、ラジアル荷重による負荷圏と非負荷圏を考慮して、ころ軸受装置内部の油膜厚さおよびしゅう動部接触割合の検出を同時に精度良く行うことが可能となる。
【0128】
(10) 前記油膜厚さhおよび前記金属接触割合αを導出するための前記算出式は、
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【数25】
であることを特徴とする(9)に記載の検出方法。
この構成によれば、ラジアル荷重におけるころ軸受装置内部の油膜厚さおよびしゅう動部の金属接触割合の検出を同時に精度良く行うことが可能となる。特に、線接触が生じる転がり軸受の負荷圏および非負荷圏に応じた静電容量を考慮した軸受装置内部の油膜厚さおよびしゅう動部の金属接触割合の検出が可能となる。
【0134】
(11) 更に、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合を用いて前記軸受装置を診断することを特徴とする(8)から(10)のいずれかに記載の検出方法。
この構成によれば、ラジアル荷重に応じて特定される油膜厚さおよび金属接触割合に基づいて、転がり軸受の潤滑剤に関する状態を診断することができる。
【0135】
(12) 外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出装置であって、
前記軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段と、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段とを有することを特徴とする検出装置。
この構成によれば、ラジアル荷重におけるころ軸受装置内部の油膜厚さおよびしゅう動部の接触割合の検出を同時に精度良く行うことが可能となる。特に、ころ軸受装置内部で発生する線接触を考慮して、精度良く検出を行うことが可能となる。
【0136】
(13) コンピュータを、
外方部材、内方部材、および複数のころを含んで構成される軸受装置に所定のラジアル荷重を付与した状態で、前記外方部材、前記内方部材、および前記複数のころから構成される電気回路に交流電圧を印加させた際に得られる前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を取得する取得手段、
前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記内方部材と前記複数のころの間、または、前記内方部材と前記複数のころの間の少なくとも一つにおける油膜厚さおよび金属接触割合を導出する導出手段、
として機能させるためのプログラム。
この構成によれば、ラジアル荷重におけるころ軸受装置内部の油膜厚さおよびしゅう動部の接触割合の検出を同時に精度良く行うことが可能となる。特に、ころ軸受装置内部で発生する線接触を考慮して、精度良く検出を行うことが可能となる。
【0137】
以上、各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0138】
なお、本出願は、2022年3月14日出願の日本特許出願(特願2022-039416、特願2022-039417)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0139】
1…診断装置
2…軸受装置
3…すべり軸受
7…回転軸
8…LCRメータ
9…回転コネクタ
10…モータ
【要約】
すべり軸受を含んで構成される軸受装置の状態を検出する検出方法は、前記すべり軸受および回転軸から構成される電気回路に交流電圧を印加し、前記交流電圧の印加時の前記電気回路のインピーダンスおよび位相角を測定し、前記インピーダンスおよび前記位相角に基づき、前記すべり軸受と前記回転軸との間における油膜厚さおよび金属接触割合を導出し、前記油膜厚さおよび前記金属接触割合は、前記すべり軸受と前記回転軸との間に生じる線接触により構成される電気回路に対応する算出式を用いて導出される。